(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008104
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20240112BHJP
A61K 35/744 20150101ALI20240112BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240112BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20240112BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240112BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240112BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240112BHJP
A23C 9/123 20060101ALI20240112BHJP
A23L 33/21 20160101ALI20240112BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20240112BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/744
A61K35/747
A61P3/02
A61P21/00
A61P25/20
A61P25/24
A23C9/123
A23L33/21
A23L29/269
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109673
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】510099970
【氏名又は名称】学校法人順天堂大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良雄
(72)【発明者】
【氏名】仲村 明
(72)【発明者】
【氏名】鯉川 なつえ
(72)【発明者】
【氏名】高梨 雄太
(72)【発明者】
【氏名】長門 俊介
(72)【発明者】
【氏名】澤木 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 景植
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和由
(72)【発明者】
【氏名】利光 孝之
(72)【発明者】
【氏名】北條 研一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
【テーマコード(参考)】
4B001
4B018
4B041
4C087
【Fターム(参考)】
4B001AC31
4B001BC14
4B001EC05
4B018LB07
4B018MD33
4B018MD86
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4B041LC10
4B041LD01
4B041LH16
4B041LK37
4B041LP15
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA12
4C087ZA18
4C087ZA94
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、筋損傷などの体調不良に陥るおそれを低減することができる新たな組成物を提供することである。
【解決手段】本発明に係る高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物は、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を有効成分とする。なお、ここで、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌であることが好ましく、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスOLL1073R-1(FERM BP-10741)であることが特に好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を有効成分とする、高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項2】
前記体調の不良化は、身体状態の不良化である
請求項1に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項3】
前記身体状態の不良化は、栄養状態の不良化である
請求項2に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項4】
前記栄養状態の不良化は、血中のタンパク質濃度の低下および血中のアミノ酸濃度の低下の少なくとも一方である
請求項3に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項5】
前記身体状態の不良化は、筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛および筋損傷の少なくとも一つである
請求項2に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項6】
前記体調の不良化は、心理状態の不良化である
請求項1に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項7】
前記心理状態の不良化は、不眠、集中力の低下およびうつ病の発症の少なくとも一つである
請求項6に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項8】
前記ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌である
請求項1から7のいずれか1項に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項9】
前記ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリクス 亜種 デルブルエッキーOLL1073R-1(FERM BP-10741)である
請求項8に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項10】
前記組成物は、発酵食品である
請求項1から7のいずれか1項に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項11】
前記発酵食品は、発酵乳である
請求項10に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項12】
前記発酵食品は、少なくともラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌により発酵されたものである
請求項10に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項13】
前記ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌である
請求項12に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項14】
前記ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌は、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスOLL1073R-1(FERM BP-10741)である
請求項13に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【請求項15】
前記有効成分は発酵乳である
請求項1から7のいずれか1項に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従前から高等学校や大学などの部活動において学生らは、比較的激しい運動を行っている。また、近年、ランニングや筋力トレーニングのブームにより、一般生活者が比較的激しい運動を行う機会が増えている。人間が激しい運動(過度な運動)を行うと、アミノ酸の代謝異常が生じたり、栄養状態が悪化したりして、筋損傷などの体調不良に陥るおそれがある。このおそれを低減することを目的として、過去に「ラクトバシラス・プランタラムTWK10を有効成分とする、運動後炎症を改善するためのプロバイオティクス組成物(特表2022-508125号公報参照)」や、「ラクトバチルスプランタルム亜種プランタルムPS128及びその担体を含む組成物(特表2022-518567号公報)」、「ラクトバチルス・ヘルベティカスを含む菌体により乳を発酵して得た発酵乳を有効成分として含む筋肉痛抑制剤(国際公開第2007/023896号)」などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2022-508125号公報
【特許文献2】特表2022-518567号公報
【特許文献3】国際公開第2007/023896号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、筋損傷などの体調不良に陥るおそれを低減することができる新たな組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは、乳酸菌およびその乳酸菌により生成される菌体外多糖(非医薬系物質)に着目し、その高負荷運動による体調の不良化の緩和効果、抑制効果、予防効果について詳細に検討した。そして、その結果として、乳酸菌および菌体外多糖の少なくとも一方を摂取することにより、上述の効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を有効成分とする、高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。なお、ここにいう「高負荷運動」とは、いわゆる比較的激しい運動や過度な運動であって、例えば、(強度が)最大酸素摂取量の60%以上となる運動や、テストステロンの分泌量が減少する運動、心拍数が((220-年齢)×0.6)(回/分)超となる運動、心拍数が((220-年齢-安静時心拍数)×(0.6)+安静時心拍数)(回/分)超となる運動などである。また、ここにいう「体調の不良化」には、身体状態の不良化のみならず心理状態の不良化も含まれている。また、同組成物は、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌やその菌体外多糖のみならずその他の成分を含んでいてもよい。また、ここにいう「組成物」には、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が含まれる。
【0007】
(2)体調の不良化は、身体状態の不良化である、(1)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0008】
(3)身体状態の不良化は、栄養状態の不良化である、(2)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0009】
(4)栄養状態の不良化は、血中のタンパク質濃度の低下および血中のアミノ酸濃度の低下の少なくとも一方である、(3)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0010】
(5)身体状態の不良化は、筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛および筋損傷の少なくとも一つである、(2)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0011】
(6)体調の不良化は、心理状態の不良化である、(1)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0012】
(7)心理状態の不良化は、不眠、集中力の低下およびうつ病の発症の少なくとも一つである、(6)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0013】
(8)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
(9)ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリクス 亜種 デルブルエッキーOLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(8)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0014】
(10)組成物は、発酵食品である、(1)から(9)のいずれか1つに記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0015】
(11)発酵食品は、発酵乳である、(10)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0016】
(12)発酵食品は、少なくともラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌により発酵されたものである、(9)または(10)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0017】
(13)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌である、(12)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0018】
(14)ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリクス 亜種 デルブルエッキーOLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(13)に記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0019】
(15)有効成分は発酵乳である、(1)から(7)のいずれか1つに記載の高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物。
【0020】
また、本発明には、以下の発明も包含される。
(16)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を含有する組成物を対象に摂取させる、高負荷運動による体調の不良化の緩和、抑制または予防の方法。
【0021】
(17)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を対象に投与することにより高負荷運動による体調の不良化を緩和、抑制または予防する方法。
【0022】
(18)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を高負荷運動による体調の不良化の緩和剤、抑制剤または予防剤として使用する方法。
【0023】
(19)高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物の製造のための、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方の使用。
【0024】
(20)高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物の製造における、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方の使用。
【0025】
(21)高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物の製造に使用するための、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方。
【0026】
(22)高負荷運動による体調の不良化の緩和剤、抑制剤または予防剤としての使用のための、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方。
【0027】
(23)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌に乳原料を供給して、高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物を製造する方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を有効成分とする、筋損傷などの体調不良に陥るおそれを低減することができる新たな組成物を提供する
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施の形態に係る高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物(以下「高負荷運動体調不良化緩和等用組成物」と称することがある。)は、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の少なくとも一方を有効成分とする。すなわち、同組成物は、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌のみを含んでいてもよいし、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌の菌体外多糖のみを含んでいてもよいし、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖の両方を含んでいてもよい。また、同組成物は、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌のみから成っていてもよいし、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌の菌体外多糖のみから成っていてもよいし、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびその菌体外多糖のみから成っていてもよい。
【0030】
なお、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス ブルガリカス デルブルエッキー種に属する乳酸菌であることが好ましく、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)により生成される菌体外多糖であることがより好ましく、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)であることが特に好ましい。
【0031】
また、上述の菌体外多糖は、目的の効果を有する限り、特に限定されないが、上述のラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌により乳を発酵して生成されるものが好ましい。本発明の実施の形態において用いられる菌体外多糖は、1種でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。この菌体外多糖にはリン酸化多糖が含まれる。また、この菌体外多糖には非リン酸化多糖が含まれてもよい。
【0032】
本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、文字通り、高負荷運動による体調の不良化を緩和したり、抑制したり、予防したりする。なお、ここにいう「高負荷運動」とは、いわゆる比較的激しい運動や過度な運動であって、例えば、(強度が)最大酸素摂取量の60%以上となる運動や、テストステロンの分泌量が減少する運動、心拍数が((220-年齢)×0.6)(回/分)超となる運動、心拍数が((220-年齢-安静時心拍数)×(0.6)+安静時心拍数)(回/分)超となる運動などである。なお、最大酸素摂取量が70%以上となる運動や、心拍数が(220-年齢)×0.7(回/分)超となる運動、心拍数が((220-年齢-安静時心拍数)×(0.7)+安静時心拍数(回/分))超となる運動は、その運動を行う者に対してさらに高い負荷をかけることになるが、本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、このようにさらに高い負荷がかかる運動に対しても有効に機能する。上述のような運動としては、例えば、マラソン(ランニング)、ジョギング、速い泳ぎ、サッカー(フットボール)、ラグビー、縄跳び、体操などが挙げられる。すなわち、本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物の対象者は、上述の運動をしている者であれば特に制限はなく、例えば、運動部に所属する選手や、アスリート、肉体労働者などが挙げられる。また、ここにいう「体調の不良化」としては、身体状態の不良化のみならず心理状態の不良化も含まれる。すなわち、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による身体状態の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による心理状態の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0033】
身体状態の不良化の一例として、栄養状態の不良化が挙げられる。なお、ここで、栄養状態の不良化としては、例えば、血中タンパク質濃度の低下や、血中アミノ酸濃度の低下などが挙げられる。すなわち、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中タンパク質濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中アミノ酸濃度の低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。また、血中アミノ酸濃度の低下は、高負荷運動による体内の代謝異常に起因することが知られている。すなわち、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による体内の代謝異常の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0034】
ここにいう「血中タンパク質」としては、例えば、アルブミンやグロブリンなどが挙げられる。
【0035】
また、ここにいう「血中アミノ酸」としては、例えば、必須アミノ酸であるイソロイシン,ロイシン,リジン,メチオニン,フェニルアラニン,トレオニン(スレオニン),トリプトファン,バリン,ヒスチジンや、非必須アミノ酸であるチロシン,システイン,アスパラギン酸,アスパラギン,セリン,グルタミン酸,グルタミン,プロリン,グリシン,アラニン,アルギニン、オルニチン、シトルリンが挙げられる。
【0036】
また、身体状態の不良化の別の一例として、筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛、筋損傷などが挙げられる。すなわち、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛および筋損傷の少なくとも一つの症状の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0037】
なお、本願発明者らの鋭意検討の結果、高負荷運動による上述の症状は、血中のアミノ酸(特に必須アミノ酸、そのなかでもバリンやイソロイシン等の分岐鎖アミノ酸)の濃度の低下に起因すると推察されている。これに対し、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による血中のバリンやイソロイシンの濃度の低下を緩和、抑制または予防することが確認されている。したがって、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中バリン濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中イソロイシン濃度の低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0038】
また、本願発明者らにより、高負荷運動により血中のチロシンや、リジン、フェニルアラニン,トレオニン、オルニチン、シトルリンの濃度も低下することが確認されている。これに対し、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による血中のチロシンや、リジン、フェニルアラニン,トレオニン、オルニチン、シトルリンの濃度の低下を緩和、抑制または予防することが確認されている。したがって、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中チロシン濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中リジン濃度の低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中フェニルアラニン濃度の低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中トレオニン濃度の低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中オルニチン濃度上昇の緩和用、抑制用または予防用組成物」、「高負荷運動による血中シトルリン濃度上昇の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0039】
また、筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛、筋損傷が生じると、クレアチンキナーゼが筋から漏出して、血中のクレアチンキナーゼ(CK)の濃度が高まることが知られている。すなわち、血中クレアチンキナーゼ濃度は、筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛、筋損傷の程度の指標となり得る。これに対し、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による血中のクレアチンキナーゼの濃度の上昇を緩和、抑制または予防することが確認されている。したがって、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中クレアチンキナーゼ濃度上昇の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0040】
心理状態の不良化としては、例えば、不眠、集中力の低下、うつ病の発症などが挙げられる。すなわち、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による不眠、集中力の低下、および、うつ病の少なくとも一つの症状の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。なお、不眠は、血中メチオニン濃度や血中オルニチン濃度の低下に起因することが示唆されている。これに対し、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による血中のメチオニンやオルニチンの濃度の低下を緩和、抑制または予防することが確認されている。したがって、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中メチオニン濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」や「高負荷運動による血中オルニチン濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。また、集中力の低下は、血中分岐鎖アミノ酸濃度の低下に起因することが示唆されている。これに対し、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による血中分岐鎖アミノ酸濃度の低下を緩和、抑制または予防することが確認されている。したがって、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中分岐鎖アミノ酸濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。なお、うつ病の発症は、血中必須アミノ酸濃度や血中リジン濃度の低下に起因することが示唆されている。これに対し、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による血中必須アミノ酸濃度や血中リジン濃度の低下を緩和、抑制または予防することが確認されている。したがって、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、「高負荷運動による血中必須アミノ酸濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」や「高負荷運動による血中リジン濃度低下の緩和用、抑制用または予防用組成物」と称することもできる。
【0041】
また、本実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物の具体的な形態としては、流動食、サプリメントおよび食品添加剤等の製剤、飲食品(動植物そのものを除く。)ならびに飲食品組成物(加工された飲食品を含む。)等の動物(ヒトを含む)が摂取し得る物が挙げられる。これらの中でも飲食品および飲食品組成物が好ましい。また、飲食品および飲食品組成物の中でも発酵食品が好ましく、発酵食品の中でも発酵乳が好ましい。
【0042】
ところで、この組成物を調製する方法としては、例えば、(a)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌を食品等に添加して同組成物とする方法や、(b)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌を乳培地で培養し、その乳培養物を同組成物とする方法や、(c)前出の乳培養物を乾燥したり濃縮したりしたものを食品等に添加して同組成物とする方法、(d)前出の乳培養物から菌体外多糖を取り出し、その菌体外多糖を同組成物とする方法、(e)ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌を用いて発酵乳を調製し、その発酵乳を同組成物とする方法、(f)前出の発酵乳を食品等に添加して同組成物とする方法などが挙げられる。
【0043】
同組成物が発酵乳として調製される場合、同組成物を飲食品等として手軽に摂取することができる。また、発酵乳は食経験が豊富で安全性が高く、副作用の心配がないため、摂取者は安心して同組成物を摂取することができる。発酵乳の調製方法としては、例えば、「原料乳を殺菌して冷却した後、その原料乳に、上述のラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌を含む乳酸菌スターターを添加して、その乳酸菌スターター入り原料乳を所定の乳酸酸度となるような発酵温度と発酵時間で発酵させる方法」が挙げられる。菌体外多糖は、発酵中にラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌により生成される。同方法において、乳酸酸度は、例えば、0.6~1.2である。なお、乳酸酸度は0.6~0.8であることが好ましい。また、発酵温度は、例えば、40~45℃である。また、発酵時間は、例えば2~12時間である。なお、発酵時間は3~8時間であることが好ましい。
【0044】
本発明における「ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌」とは、分類学的にラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌と認定されたものの全ての総称であり、菌種や菌株などで限定されるものではない。なお、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌はその由来により、植物由来および動物由来のいずれかに分類することもあるが、本発明では植物由来の乳酸菌、動物由来の乳酸菌のいずれも使用することができる。本発明のラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌の菌株は、十分な食経験がある発酵乳(例えば、ヨーグルト等)を調製することができるラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌に属する1種または2種以上の菌株であることが好ましい。なお、本発明の実施の形態に係るラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌は、ラクトバチルス デルブルエッキー、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)に属する乳酸菌であることが好ましく、「ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)」であることが特に好ましい。
【0045】
また、乳酸菌スターターとして、ストレプトコッカス属乳酸菌またはストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)をラクトバチルス属乳酸菌と併用することが、生産効率および嗜好性の観点から好ましい。さらに、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌がラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)である場合、サーモフィラス菌は特に限定されないが、Streptococcus thermophilus 1131や、Streptococcus thermophilus OLS3059であることがより好ましい。さらに、乳酸菌スターターとしてまたは機能性の付与などを目的として、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌およびストレプトコッカス属乳酸菌以外の乳酸菌や、ラクトコッカス菌、ビフィズス菌、酵母などの発酵微生物を添加してもよい。
【0046】
ここで、「ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1073R-1」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号 FERM BP-10741(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。また、「Streptococcus thermophilus OLS3059」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号 FERM BP-10740(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。Streptococcus thermophilus 1131は、株式会社明治製の明治ブルガリアヨーグルト「LB81」から入手することができる。
【0047】
本発明の実施の形態における「発酵乳」とは、乳を発酵させたものをいい、例えば、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」、「乳酸菌飲料」、「乳飲料」、「ナチユラルチーズ」等を包含するがこれらに限定されない。例えば、発酵乳は、乳等省令で定義される「発酵乳」、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これらを凍結したものをいうが、これに限定されない。本発明の実施の形態に係る発酵乳において、無脂乳固形分の濃度の範囲は、例えば、4.0質量%以上12.0質量%以下の範囲内であることが好ましく、6.0質量%以上10.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、7.0質量%以上9.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。また、乳脂肪分の濃度は、例えば、0.2質量%以上4.0%質量以下の範囲内であることが好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.4質量%以上2.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0048】
発酵乳の典型例としては、ヨーグルトが挙げられる。国際連合食糧農業機関(FAO)/世界保健機構(WHO)で定義されている国際規格にも、「ヨーグルトと称される製品は、Streptococcus thermophilus、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusの両方の菌の乳酸発酵作用により、乳及び脱脂粉乳などの乳製品から作られるもので、最終製品中には前述の2つの菌が多量に生存しているもの」と規定されている。本発明において、「ヨーグルト」とは、前記のFAO/WHOの定義するヨーグルトを包含するものである。このヨーグルトには、例えばプレーンヨーグルト、ハードヨーグルト(セットタイプヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルトなどが含まれる。本発明では、摂取しやすさの観点から、特にドリンクヨーグルトが好ましい。
【0049】
また、本発明の実施の形態において、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌の1日あたりの摂取量は、106cfu以上であることが好ましく、107cfu以上であることがより好ましく、108cfu以上であることがさらに好ましく、109cfu以上であることが特に好ましい。なお、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌の1日あたりの摂取量の上限は、特に限定されないが、例えば、1012cfuである。
【0050】
また、本発明の実施の形態において、菌体外多糖の1日あたりの摂取量は、100μg以上であることが好ましく、500μg以上であることがより好ましく、1.0mg以上であることがさらに好ましく、2.0mg以上であることが特に好ましい。なお、菌体外多糖の1日あたりの摂取量の上限は、特に限定されないが、例えば、200mgであることが好ましく、100mgであることがより好ましく、70mgであることがさらに好ましく、35mgであることがさらに好ましく、30mgであることがさらに好ましく、8.0mgであることが特に好ましい。
【0051】
本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物を1回の摂取に適切な量で1個包装の形態とすることにより、同組成物を適切かつ手軽に摂取することができることになり、使用性の面から好ましい。1回の摂取に適切な量は、高負荷運動の程度や体調の不良化の程度などによると共に個人差やばらつきがあるものの、同組成物が、例えば、無脂乳固形分が8.0質量%である発酵乳である場合には、1回あたりで10mL以上1000mL以下の範囲内であることが好ましく、30mL以上500mL以下の範囲内であることがより好ましく、50mL以上200mL以下の範囲内であることがさらに好ましく、80mL以上120mL以下であることが好ましい。あるいは、1回あたりで10g以上1000g以下の範囲内であることが好ましく、30g以上500g以下の範囲内であることが好ましく、50g以上200g以下の範囲内であることが好ましく、80g以上150g以下の範囲内であることがより好ましく、100g以上120g以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0052】
本発明の実施の形態では、「1個包装の形態」はあらゆる形態、例えば、蓋付きの容器、キャップ付きのボトル、個袋、パウチ、チューブなどの一般的な包装形態が包含される。本発明の実施の形態では、各個包装、または複数の個包装を含む包装に、本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物の用途、効能、摂取方法などの説明を記載すること、および/または、その説明を記載した物等を封入等すること、および/または、別途パンフレットなど、その説明を記載した物等を掲示することなどにより、その用途を明確にすることができる。
【0053】
本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、高負荷運動による体調の不良化緩和効果、抑制効果、予防効果を高める観点から、3日間以上継続して摂取することが好ましく、5日間以上継続して摂取することが好ましく、1週間以上継続して摂取することが好ましく、2週間以上継続して摂取することが好ましく、4週間以上継続して摂取することが好ましく、6週間以上継続して摂取することがより好ましく、8週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、10週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、12週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、24週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、36週間以上継続して摂取することが特に好ましい。なお、同組成物が発酵乳である場合、その組成物は十分な食経験があり安全に摂取することができるため、摂取期間の上限は特に制限されず、永久的に継続することが可能であるが、強いて上限を設けるならば、例えば60週間以下である。なお、この上限は、高負荷運動の程度や体調の不良化の程度などにより、例えば、120週間以下としてもよいし、100週間以下としてもよいし、80週間以下としてもよい。
【0054】
本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、経口摂取されるのが好ましい。
【0055】
ところで、本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、使用方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」には、需要者に対して上記効果の説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0056】
本発明の実施の形態に係る高負荷運動体調不良化緩和等用組成物を包装してなる製品には、例えば、「高負荷運動による体調の不良化を緩和する」、「高負荷運動による体調の不良化を抑制する」、「高負荷運動による体調の不良化を予防する」、「高負荷運動による体調の不良化の緩和用」、「高負荷運動による体調の不良化の抑制用」、「高負荷運動による体調の不良化の予防用」等との表示が付されることが好ましい。
【0057】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、上述の例に限定されず、そのような意味と同義である文言であってもかまわない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、「高負荷運動を行った後も体調(コンディション)を良好に保つ」、「高負荷運動を行った後の体調(コンディション)の回復を促進する」、「高負荷運動を行った後も、高負荷運動前の体調(コンディション)を維持する」、「過剰な(激しい)運動による筋肉量の減少、筋力の低下、筋肉分解、筋疲労、筋炎、筋肉痛および筋損傷を予防する」、「ハードな運動後のリカバーをサポートする」、「ハードな運動後の体調(コンディション)の回復をサポートする」、「激しい運動を継続したい方のカラダ全体のコンディショニングをサポート」、「アスリートのコンディショニングをサポート」、「酷使したカラダのリカバリーのために」、「酷使したカラダの体調(コンディション)の回復のために」等の種々の文言が許容され得る。
【0058】
なお、上述の高負荷運動体調不良化緩和等用組成物は、特別用途食品、総合栄養食品、栄養補助食品、特定保健用食品、機能性表示食品、加工食品等の形態にすることもできる。また、同組成物や、ラクトバチルス ブルガリカスに属する乳酸菌、菌体外多糖は、ドリンクヨーグルト以外の飲料や流動食等の組成物に配合することもできる。
【0059】
以下、実施例および比較例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【実施例0060】
-試験飲料-
a)株式会社明治製の明治プロビオヨーグルトR-1ドリンクタイプ(ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)で乳を発酵して得られたドリングヨーグルト、および、b)プラセボとしての酸性乳飲料を用いて以下の試験を実施した。以下、ドリンクヨーグルトおよび酸性乳飲料を併せて試験飲料と称する場合がある。
【0061】
なお、前者のドリンクヨーグルトは、生乳、脱脂粉乳、クリーム、液糖、ペクチン、砂糖、ステビア、乳酸、香料を所定の配合比率で配合したものを、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1とStreptococus thermophilus OLS3059で醗酵して調製した。なお、このドリンクヨーグルトは2009年の発売開始以降十分な販売実績を有しており、過去において本製品が原因と考えられる重篤な副作用が報告されたことはない。一方、後者の酸性乳飲料は、脱脂粉乳、乳タンパク、バター、液糖、ペクチン、砂糖、ステビア、乳酸、香料を所定の配合比率で配合して調製した。また、この酸性乳飲料は、ドリンクヨーグルトと同等の風味、物性、酸度とした。
【0062】
なお、ドリンクヨーグルトおよび酸性乳飲料は、食品衛生法「食品、添加物等の規格基準」、「乳等省令」に準じて定められた品質規格を満たすように調製された。以下にそれらの品質規格を示す。
【0063】
(ドリンクヨーグルトの品質規格)
・pH:4.20±0.20
・酸度:0.76~0.85
・総乳酸菌数:20×107cfu/mL以上
・OLL1073R-1株菌数:7×107cfu/mL以上
・大腸菌群:陰性
・性状(外観、風味など):良好
【0064】
(酸性乳飲料)
・pH:4.20±0.20
・酸度:0.76~0.85
・総乳酸菌数:-
・OLL1073R-1株菌数:-
・大腸菌群:陰性
・性状(外観、風味など):良好
【0065】
上述のドリンクヨーグルトおよび酸性乳飲料、ともに無地の容器に充填した。その内容量はともに112mLであった。いずれの試験飲料も製造後、被験者の下に届くまでの間4℃で冷蔵保存された。
【0066】
-試験-
上記ドリングヨーグルト摂取群とプラセボ摂取群によるランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験を実施した。なお、本試験は明治臨床試験審査委員会の審査承認を得た試験計画書に基づいて行った。試験実施においては、ヘルシンキ宣言の精神にのっとり、試験の目的、方法、予想される副作用等について全ての被験者に十分に事前説明を行った。
【0067】
以下、この試験条件について詳述する。
(1)被験者
X大学の陸上部に所属する男子長距離選手18名と男子投擲選手13名を被験者とした。被験者の選択基準および除外基準は、以下の通りであった。
<選択基準>
a)18歳以上25歳以下の健常者
b)X大学の陸上部に所属する大学生
c)事前に本試験の説明を受け、その内容を理解して趣旨に賛同でき、文書同意が得られる者(未成年者は親の文書同意が得られる者)
<除外基準>
a)他の臨床試験に参加中の者
b)重い心疾患・腎疾患・肝疾患・呼吸器疾患・循環器疾患、食物アレルギー疾患等を患っている者
c)乳糖不耐症の者
d)その他試験統括責任者および試験責任医師が不適当と判断した者
【0068】
(2)群割付
本試験に関与しない割付け責任者が、試験開始時における被験者の年齢、身長、体重、競技能力を層別因子として、競技毎に被験者を、ドリングヨーグルト摂取群(以下「DY群」と称する場合がある)とプラセボ摂取群(以下「PC群」と称する場合がある)の2群に割り付けた。各群の人数、年齢、体重および身長の平均値および標準偏差は以下の表1に示されている。また、被験者らの群割付後、両群で血中のクレアチンキナーゼ(CK)の濃度に有意な差がないことを確認した(血中のクレアチンキナーゼ(CK)の濃度の測定方法等は以下に示される通りである。)。なお、群割付表は割付責任者が封緘し、群割付表開封まで密封保管した。
【0069】
【0070】
(3)試験詳細
上述の通り、試験はランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較法で実施した。
試験飲料の摂取期間を2週間とした。また、そのうちの1週間を合宿期間とした。試験飲料の摂取期間中、1日2本、試験飲料を摂取することを義務付けた。なお、試験飲料の摂取タイミングは特に指定しなかった。試験飲料の摂取開始日、摂取開始1週後に当たる日(中間日)、摂取終了日に被験者全員に対して採血を行って、その血液の成分分析を行った。なお、試験期間中、食事制限は一切行わず、他のヨーグルトや乳製品を摂取した場合には日誌に記載するように指導した。また、抗生物質など医薬品、サプリメントを服用した際にも日誌に記載するように指導した。
【0071】
(4)血液検査
(4-1)検査方法の詳細
被験者らから採取された血液を株式会社エスアールエルに提供してその血液の血液生化学的検査および特殊検査を行ってもらった。なお、血液生化学的検査では総タンパク質およびクレアチンキナーゼの血中濃度が測定され、特殊検査では、アミノ酸の血中濃度が測定された。
【0072】
(4-2)統計処理
すべての測定値すなわち血中濃度は平均値±標準偏差で示した。DY群-PC群間の比較は、二元配置反復測定分散分析に基づいて行われた。なお、各測定点においてBonferroniの多重比較検定を行った。各試験飲料群における試験飲料摂取前の血中濃度に対する試験飲料摂取後の血中濃度の比較はBonferroniの多重比較検定を行った。なお、全ての検定は両側検定とされ、その有意水準は5%とした。各表において、群間交互作用および群間の検定結果は、各表の右側にそれぞれ数値で示した。開始地点(0週)と比較した測定値の検定結果(群内の有意差)には、それぞれP<0.05である場合は*の印を、P<0.01の場合は**の印を、各測定値(数字)の右上に示した。
【0073】
(4-3)検査結果
血中総タンパク質濃度および血中クレアチンキナーゼ濃度の測定結果を表2に示す。PC群では酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取2週後の血中総タンパク質濃度が有意に減少したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後で血中総タンパク質濃度はほとんど変動しなかった。また、PC群では酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取1週後に血中クレアチンキナーゼ濃度が有意に上昇したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後で血中クレアチンキナーゼ濃度はほとんど変動しなかった。また、摂取二週後、DY群の血中クレアチンキナーゼ濃度およびCY群の血中クレアチンキナーゼ濃度が同等になっているが、これは、自己修復機能より骨格筋が修復された結果であると推察される。
【0074】
【0075】
血中のアミノ酸濃度の測定結果を表3に示す。総アミノ酸、必須アミノ酸および分岐鎖アミノ酸の血中濃度は、PC群では酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取後に有意に減少したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後でほとんど変動しなかった。分岐鎖アミノ酸の中でバリンおよびイソロイシンの血中濃度は、PC群では酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取後に有意に減少したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後でほとんど変動しなかった。メチオニン、チロシン、リジンの血中濃度は、DY群においてドリンクヨーグルト摂取2週後でPC群に比べて有意に高値であった。また、メチオニン、フェニルアラニン、スレオニン、チロシン、オルニチンおよびシトルリンはPC群でのみ摂取前に比べて摂取2週後に有意に低値を示し、DY群では変動しなかった。オルニチン、シトルリン、フェニルアラニンおよびスレオニンの血中濃度は、PC群でのみ酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取2週後に有意に減少したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後でほとんど変動しなかった。
【0076】
【0077】
なお、本試験期間中に重篤な有害事象や試験食品摂取との因果関係が認められる有害事象は発生しなかった。また、自他覚症状において、問題となる所見は認められなかった。
【0078】
(5)考察
上述の通り、血中総タンパク質濃度はPC群では酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取2週後に有意に減少したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後でほとんど変動しなかった。また、血中クレアチンキナーゼ濃度はPC群では酸性乳飲料の摂取1週後に有意に上昇したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後でほとんど変動しなかった。一般的に、激しい運動に伴う食欲不振や身体コンディションの悪化により、血中総タンパク質濃度は低下し、血中クレアチンキナーゼ濃度は急激に上昇する。したがって、DY群ではドリンクヨーグルトの摂取により、激しい運動に伴う栄養状態の悪化や、筋損傷および肝機能の低下が抑制され、正常な状態が維持されたと考えられる。
【0079】
PC群では酸性乳飲料の摂取前に比べて摂取後に多くのアミノ酸の血中濃度が低下したが、DY群ではドリンクヨーグルト摂取前後で変動せず恒常性が維持された。
【0080】
また、上述の通り、多くのアミノ酸の中でも、スポーツコンディションの維持に重要である必須アミノ酸、そのなかでもバリンやイソロイシン等の分岐鎖アミノ酸の血中濃度の低下がDY群で抑制され、メチオニン、チロシンおよびリジンの血中濃度は試験飲料の摂取2週後にプラセボ群に比べてDY群で有意に高値を示した。PC群で見られた総アミノ酸、必須アミノ酸、分岐鎖アミノ酸の血中濃度の低下は、運動負荷による体内の代謝異常を示唆していると推測される。一方、DY群ではドリンクヨーグルトの摂取前後で血中アミノ酸濃度がほとんど変動しなかったことから、激しい運動に伴う体調の悪化を抑制したものと推察される。
【0081】
以上の結果から、激しい運動に伴いアミノ酸代謝が一時的に異常をきたしたが、ドリンクヨーグルトの摂取により激しい運動に伴う一時的な代謝機能や栄養状態の悪化が抑制され、筋合成の恒常性も維持されたと推察される。
【0082】
(6)結論
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)で乳を発酵して得られたドリンクヨーグルトの摂取により、激しい運動に伴うアミノ酸代謝異常を抑制し血中アミノ酸濃度を維持することで、筋合成の恒常性を保ち身体状態を正常に維持することが示唆された。
本発明に係る高負荷運動による体調の不良化の緩和用、抑制用または予防用組成物は、非医薬系の組成物であって、高負荷運動による体調の不良化を緩和したり、抑制したり、予防したりすることができる。