(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000811
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】粒子、複合材料及び積層体
(51)【国際特許分類】
C01G 25/00 20060101AFI20231226BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20231226BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20231226BHJP
【FI】
C01G25/00
B32B27/20 Z
B32B7/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099732
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】西田 怜
(72)【発明者】
【氏名】丸山 拓
【テーマコード(参考)】
4F100
4G048
【Fターム(参考)】
4F100AA33A
4F100AB01B
4F100AK01A
4F100AK52A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CA23A
4F100EH46
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JD08
4F100JG01B
4F100JG05A
4F100YY00A
4G048AA05
4G048AB02
4G048AC02
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】ミリ波を含む高周波数帯で優れた電磁波吸収能を示す粒子を提供する。
【解決手段】以下の式[1]で表される結晶相を備える粒子。この粒子と高分子とを含む複合材料。シート形状の複合材料の少なくとも一つの面に導電層が積層されている積層体。
MZr
xTi
1-xO
3-yRE …[1]
(式[1]中、Mは1種以上のアルカリ土類金属元素を示し、
REは1種以上の希土類元素を示し、x,yは以下を満たす。
0.0≦x<1.0
0.00<y≦0.05 )
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式[1]で表される結晶相を備える粒子。
MZrxTi1-xO3-yRE …[1]
(式[1]中、Mは1種以上のアルカリ土類金属元素を示し、
REは1種以上の希土類元素を示し、x,yは以下を満たす。
0.0≦x<1.0
0.00<y≦0.05 )
【請求項2】
前記MがMg、Ca、Sr及びBaから成る群より選ばれる1種以上の元素を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記MがBaを含む、請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
前記REがLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群より選ばれる1種以上の元素を含む、請求項1に記載の粒子。
【請求項5】
請求項1に記載の粒子と高分子とを含む複合材料。
【請求項6】
前記粒子の前記複合材料に占める体積割合が5%以上80%以下である、請求項5に記載の複合材料。
【請求項7】
厚みが50μm以上1000μm以下のシート形状である、請求項5に記載の複合材料。
【請求項8】
請求項7に記載のシート形状の複合材料の少なくとも一つの面に導電層が積層されている積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類添加チタン酸(ジルコン酸)アルカリ土類金属を含む結晶相を備えた粒子に関する。本発明はまた、この粒子を含む複合材料とこの複合材料に導電層を積層した積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
5Gや6Gのような次世代通信では、従来利用されてきた電磁波よりも高周波数である、GHz帯の電磁波を通信に活用することで、高速かつ大容量の情報通信が可能になると期待されている。また、自動車の衝突防止システムに用いられるミリ波レーダーは76~79GHzの高周波数帯電磁波を利用しており、今後の自動運転技術の普及とともに、全方位測量等のためにミリ波レーダーの搭載数も飛躍的に増加することが予想される。このような高周波通信の普及及び電子機器の高密度化に伴い、デバイス内での不要電磁波の受信によるノイズの増大、混線、自家中毒などが懸念されており、この不要電磁波の対策として、GHz帯で使用可能な電磁波遮蔽材が求められている。
【0003】
微細化、高密度化する電子機器内やミリ波レーダーの不要電磁波の遮蔽等においては、入射電磁波を反射させる金属板のような反射型遮蔽材は、反射した電波による混線のリスクがある。このため、金属板のような反射型遮蔽材よりも、抵抗損失、誘電損失、または磁性損失によって入射電磁波のエネルギーを熱エネルギーに変換して減衰させる吸収型遮蔽材が適している。
【0004】
吸収型遮蔽材としては、従来のMHz帯までの応用分野においては、フェライトを中心とした磁性体を含有する樹脂との複合材料等が用いられてきた。しかし、これら従来のMHz帯用吸収型遮蔽材は、GHz帯では吸収能が低い。このため、十分な吸収性能を得るためには成形体の厚みを厚くしなければならず、デバイス内への実装が困難である。
したがって、GHz帯のような高周波領域においても薄膜化が可能な新たな電磁波吸収体の開発が求められている。
【0005】
GHz帯に対応した新たな電磁波吸収体として、誘電損失が大きい高誘電無機材料が検討されている。例えば、チタン酸バリウムを代表とする強誘電体材料は比誘電率が大きく、誘電損失として吸収される電磁波のエネルギーが大きい傾向にあるため、焼結体として評価した際に特定のGHz帯で-20dB以上の電波減衰量を示すことが確認されている(特許文献1)。
しかしながら、焼結体は後加工が難しく、微細な電子機器内での使用が困難であるため、チタン酸バリウム粒子を含む高分子誘電層に反射層および抵抗層を接着させたλ/4型電磁波吸収体としての利用も提案されている(特許文献2)。
【0006】
複雑な電子機器内の使用においては、可撓性の高い電磁波吸収体が望ましい。電磁波吸収体の可撓性を向上するためには、誘電体層内の無機材料の充填率を低減する必要があるが、チタン酸バリウムのみでは充填率低減時に吸収能を維持するのが困難であり、フィラーの改良が必要である。
フィラーの改良検討に関しては、例えば導電性粒子にチタン酸ジルコン酸バリウムなどの複合金属酸化物を被覆した粉末を使用することで、充填率を5~50体積%に低減する手法が提案されている(特許文献3)。しかし、このものはMHz帯での使用にとどまる。
【0007】
従って、GHz帯での低充填率維持には、よりGHz帯での電磁波吸収能の高い、すなわちGHz帯での誘電損失のより大きい誘電材料が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-306698号公報
【特許文献2】特開2019-4003号公報
【特許文献3】特開2006-344570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ミリ波を含む高周波数帯で優れた電磁波吸収能を示す粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の式で表される結晶相を備える粒子が、従来の材料に比べて少量でもミリ波を含む高周波数帯で優れた電磁波吸収能を発現することを見出し、本発明を達成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、少なくとも以下を含む。
【0012】
<1> 以下の式[1]で表される結晶相を備える粒子。
MZrxTi1-xO3-yRE …[1]
(式[1]中、Mは1種以上のアルカリ土類金属元素を示し、
REは1種以上の希土類元素を示し、x,yは以下を満たす。
0.0≦x<1.0
0.00<y≦0.05 )
<2> 前記MがMg、Ca、Sr及びBaから成る群より選ばれる1種以上の元素を含む、<1>に記載の粒子。
<3> 前記MがBaを含む、<2>に記載の粒子。
<4> 前記REがLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群より選ばれる1種以上の元素を含む、<1>~<3>のいずれかに記載の粒子。
<5> <1>~<4>のいずれかに記載の粒子と高分子とを含む複合材料。
<6> 前記粒子の前記複合材料に占める体積割合が5%以上80%以下である、<5>に記載の複合材料。
<7> 厚みが50μm以上1000μm以下のシート形状である<5>又は<6>に記載の複合材料。
<8> <7>に記載のシート形状の複合材料の少なくとも一つの面に導電層が積層されている積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、少量でもミリ波を含む高周波数帯で優れた電磁波吸収能を示す粒子を提供することができる。
本発明の粒子を用いることにより、高分子材料との複合化において、その充填率を低減した上で、必要な電磁波吸収能を有する、電磁波吸収能及び可撓性に優れた複合材料を提供することができる。
また、この複合材料に導電層を形成した本発明の積層体により、電磁波吸収能に優れた電磁波吸収シートが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で製造した粉末と比較例2で製造した粉末のX線回折パターンである。
【
図2】実施例1で製造した粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例1で形成した複合材料シートの断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例1、比較例1、及び比較例2で形成した複合材料シートの電磁波吸収率を示すグラフである。
【
図5】比較例1で形成した複合材料シートの断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
[粒子]
本発明は、1つの実施形態において、結晶相を備える粒子であって、前記結晶相は下記式[1]で示される組成を示す粒子である。
MZrxTi1-xO3-yRE …[1]
(式[1]中、Mは1種以上のアルカリ土類金属元素を示し、
REは1種以上の希土類元素を示し、x,yは以下を満たす。
0.0≦x<1.0
0.00<y≦0.05 )
なお、上記式[1]中、Zr、Ti及びOはそれぞれジルコニウム、チタン及び酸素を示す。
本発明の粒子は、チタン酸(ジルコン酸)アルカリ土類金属元素相を含むことで、従来のチタン酸バリウムに比べて体積占有率(充填率)が小さい場合でも同等かそれ以上の電磁波吸収能を発現する効果が得られる。
【0017】
前記式[1]におけるxの値は通常0.0以上で、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上、更に好ましくは0.10以上であり、通常1.0未満、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.50以下、更に好ましくは0.30以下である。前記xは用途及び目的とする結晶相により適宜調整してよく、前記xが上記範囲であることで、構造安定性に優れ、誘電率の高い粒子を提供することができる。
【0018】
前記式[1]におけるyの値は通常0.00より大きく、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.0003以上、更に好ましくは0.0005以上であり、通常0.05以下、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.01以下である。前記yは用途及び目的とする結晶相により適宜調整してよく、前記yが上記範囲であることで、構造安定性に優れ、誘電率の高い材料を提供することができる。
【0019】
なお、前記式[1]におけるx及びyの値は、エネルギー分散型X線分析(EDS)、蛍光X線分析法(XRF)、高周波誘導結合プラズマ(ICP)などの組成分析法により確認することができる。
【0020】
式[1]中、Mは1種以上のアルカリ土類金属元素を示し、好ましくは、Mg、Ca、Sr及びBaから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはBaを含む。
アルカリ土類金属元素Mは、高誘電率を発現する組成を合成する観点から、Mg、Ca、Sr及びBaから成る群より選ばれる1種以上の元素をMの総量に対して50~100モル%含むことが好ましく、BaをMの総量に対して70~100モル%含むことがより好ましい。Mは特にBaよりなることが好ましい。
【0021】
式[1]中、REは1種以上の希土類元素を示し、好ましくはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはYb、Sm、Nd、La、Eu及びDyから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、更に好ましくはYbを含む。
希土類元素REは、高誘電率を発現する組成を合成する観点から、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから成る群より選ばれる1種以上の元素をREの総量に対して50~100モル%含むことが好ましく、Yb、Sm、Nd、La、Eu及びDyから成る群より選ばれる1種以上の元素をREの総量に対して50~100モル%含むことがより好ましく、YbをREの総量に対して80~100モル%含むことが更に好ましい。
【0022】
本発明の粒子の粒子径は特に限定されないが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上で、通常500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。粒子径が上記下限以上であれば一次粒子凝集の抑制が容易になるため、粒子がより均一に分散したシートを得ることができる。一方、粒子径が上記上限以下であれば粒子内への電磁波の入射頻度が増加するため、電磁波吸収能のより高いシートを得ることができる。
ここで、本発明の粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡による観察において、観察される粒子の長径に該当する。
ここで、粒子の長径とは、当該粒子を2枚の平行な板で挟んだときに、この板間の距離が最も大きくなる箇所の長さに相当する。
【0023】
本発明の粒子の真球度は通常0.1以上であり、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.7以上である。真球度の上限は特に制限されず、高ければ高いほど良いが、通常1以下である。
真球度が上記下限以上であれば電磁波吸収能における面内均一性の高いシートの作製が容易になる。
【0024】
なお、本明細書において、真球度は参考文献(John R.Grace and Arian Ebneyamini, Particuology Volume 54, February 2021, Pages 1-4)を参考に、走査型電子顕微鏡観察において粒子の周囲長を測定し、該粒子と同面積を持つ円の円周を、前記粒子の周囲長で除した値により求める。
【0025】
本発明の粒子の比誘電率(εr)は通常3,000以上であり、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、更に好ましくは12,000以上である。
比誘電率(εr)は常法で測定することが出来るが、本明細書においては後述する実施例に記載の手法で測定した値を採用する。
【0026】
本発明の粒子の誘電正接(tanδ)は通常0.01以上であり、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.08以上である。
誘電正接(tanδ)は常法で測定することが出来るが、本明細書においては後述する実施例に記載の手法で測定した値を採用する。
【0027】
本発明の粒子の使用形態は、前記粒子を少なくとも1個以上含む材料であればよく、前記材料は粉末状粒子群であってもよく、分散材、添加物などと混合された混合材料であってもよく、溶剤を含む溶液又はスラリー等の流体状物質であってもよく、或いは後述するように樹脂などの連続相と混合された複合材料であってもよい。本発明の粒子を含む材料は、材料を用いて製造する製品の用途、加工段階、形状、態様、或いは材料を用いる方法の態様に応じて、常法の範囲でその使用態様を変更することができる。
【0028】
[粒子の製造方法]
本発明の粒子は、M源、Zr源、Ti源及びRE源を含む原料を混合する工程、及び熱処理工程を少なくとも含む粒子の製造方法により製造することができる。
本発明の粒子の製造方法は、好ましくは、前記工程に加え、乾燥工程及び粉砕工程の1つ以上を含む。これらの工程を含むことで、凝集粒子を適切に分散させることができる。
【0029】
<原料>
前記各元素の原料、すなわち、M源、Zr源、Ti源、RE源は特に制限されず、例えば各元素の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物の他、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩などの無機塩、酢酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩、アルコキシド等の有機錯体等を用いることができる。また、前記各元素の化合物は水和物等であってもよい。
酸素(O)の導入方法は特に制限されず、各元素の原料に酸素原子を含む化合物を用いること、熱処理を空気等酸素含有雰囲気中で行うこと、等で導入することができる。
【0030】
<原料を混合する工程>
前記原料を混合する工程においては、通常、粉末状の各原料を用い、混合する。原料の混合法は、特に限定されるものではなく、乳鉢、ボールミル、ジェットミル等通常の機器を用い、湿式又は乾式で混合することができるが、好ましくは湿式混合である。
なお、湿式混合で用いる媒体としては水、エタノール、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトンなどの有機溶媒の1種又は2種以上、好ましくは水が挙げられ、媒体の使用量は容器体積に対して30~60体積%、特に40~50体積%であることが好ましい。
【0031】
原料の混合において、用いる原料のTi元素とZr元素の和とM元素との割合は、目的とする粒子のM/(Ti+Zr)モル比をxとして、通常0.5x以上、好ましくは0.8x以上、より好ましくは1.0x以上であり、通常3.0x以下であり、好ましくは2.5x以下、より好ましくは2.0x以下である。
用いる原料のM/(Ti+Zr)モル比が上記範囲であることで、目的とする組成の結晶相を効率良く得ることができる。
【0032】
<熱処理工程>
原料を混合する工程の後、熱処理を行うことで、目的の化合物から成る結晶相を含む粒子を得ることができる。熱処理の雰囲気は特に制限されず、酸素欠乏を防止する観点からは、大気中など酸素含有雰囲気で行うことが好ましい。
熱処理の温度は、反応性を高める観点から、1000℃以上であることが好ましい。熱処理温度の上限は、目的とする化合物の融点、ガラス転移温度等の相転移温度以下であることが好ましく、通常1450℃以下である。
熱処理の加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、通常1時間以上、20時間以下である。
【0033】
<粉砕工程>
熱処理工程の後に、得られた粒子を粉砕してもよい。粉砕を行うことで、凝集を起こした粒子を分離することができる。
【0034】
<乾燥工程>
粉砕工程後粒子は、各種溶媒、或いは吸着水などを除去する目的で、乾燥させてもよい。また、原料を湿式混合した場合は、混合後、熱処理工程の前に乾燥を行うことが好ましい。
乾燥方法は特に制限されないが、乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機などにより乾燥することができる。
乾燥する際の温度雰囲気は50℃以上300℃未満であり、水を蒸発させるのに十分な温度であることが好ましい。
【0035】
[複合材料]
本発明は別の実施形態において、本発明の粒子と高分子とを含む複合材料である。
【0036】
本発明の複合材料に使用される高分子は特に制限されず、例えば、アクリル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、アクリルウレタン樹脂、アイオノマー、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、及びエポキシ樹脂等の合成樹脂、又は、ポリイソプレンゴム、ポリスチレン・ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、及びシリコーンゴム等の合成ゴムが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
【0037】
本発明の複合材料に占める本発明の粒子の体積割合は、5%以上、特に10%以上、とりわけ15%以上であることが好ましい。一方、本発明の複合材料に占める本発明の粒子の体積割合は、80%以下、特に60%以下、とりわけ50%以下であることが好ましい。本発明の粒子の体積割合が上記下限以上であれば本発明の粒子による電磁波吸収能を有効に得ることができる。本発明の粒子の体積割合が上記上限以下であれば、無機材料である粒子の充填率を下げて可撓性を高めることができる。特に本発明の粒子は電磁波吸収能に優れ、30体積%以下というような少ない充填率であっても優れた電磁波吸収能を得ることができる。
複合材料に占める粒子の体積割合は、後掲の実施例の項に記載の方法で求めることができる。
【0038】
本発明の複合材料は、前述の高分子と本発明の粒子とを混合することにより製造することができる。高分子と本発明の粒子の混合の方法は特に制限されず、例えば、手混合やミキサーを用いることができる。
【0039】
本発明の複合材料の形状は特に制限されず、用途に合わせて形状及び大きさを変更することができる。例えば粉末、顆粒、球形、矩形、シート状、その他の形状をとることができる。
複合材料のサイズは前記粒子より大きければ、特に制限されない。
また、本発明の複合材料は当該複合材料の形状、構成及び用途に応じて、押し出し成形、射出成形、プレス成形、スプレー、塗布、焼結と切削加工、その他常法により成形することができる。なお、成形時ないしは成形後は、用途に応じて用いた高分子の硬化方法に従って硬化させてもよい。
【0040】
本発明の複合材料がシート形状である場合、その厚みは通常1μm以上であり、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上で、通常1000μm以下、好ましくは800μm以下、より好ましくは600μm以下、さらに好ましくは400μm以下である。厚みが上記下限以上であれば高電磁波吸収能を発現する電磁波吸収シートを得ることができる。厚みが上記上限以下であれば貼付時に電子機器内の体積占有率が小さい電磁波吸収シートを作製することができる。
なお、後掲の実施例では、各種評価への適用のために500μmの複合材料シートを形成しているが、シート形状の複合材料の好適厚みの上限値は上記の通りである。
【0041】
[積層体]
本発明は更に別の実施形態において、シート形状の本発明の複合材料の少なくとも一つの面に導電層が積層された積層体である。ここで導電層は通常シート形状の本発明の複合材料の少なくとも一方のシート面に形成される。
【0042】
本発明の積層体に使用される導電層の原料は特に制限されず、例えば、金属蒸着シート(フィルムを含む)、金属板、金属フィルム、金属メッシュ、グラファイトシート、導電性ポリマー、導電膜付ガラス基板などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合せて用いることができる。
なお、上記の金属蒸着シート(フィルムを含む)、導電膜付ガラス基板は、導電層と基材としてもシート(フィルム)又はガラス基板とを含むものである。すなわち、本発明の積層体は、誘電体層としての本発明の複合材料シートと導電層と基材との積層体であってもよい。本発明の積層体にはさらに反射層等の他の層を積層することもできる。
【0043】
これらの導電層は、塗布、貼付、蒸着などにより形成することができる。また、導電層を構成する金属蒸着シート(フィルムを含む)の金属蒸着面に本発明の粒子と樹脂を含む複合材料形成用混合物を塗布して硬化させることで本発明の積層体とすることもできる。
【0044】
導電層の厚さは特に制限されないが、通常5nm以上、好ましくは8nm以上、より好ましくは10nm以上であり、通常100μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0045】
[用途]
本発明の複合材料又は本発明の積層体は、自動車の衝突防止システムに用いられるミリ波レーダー等における電磁波吸収体として用いることができる。
【実施例0046】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
<粒子の製造>
炭酸バリウム(富士フィルム和光純薬(株)製、特級、99.0+%)8.46g、酸化ジルコニウム(新日本電工(株)製「PC90」)0.79g、酸化チタン(石原産業(株)製「CR-93」)2.91g、酸化イッテルビウム(フルウチ化学(株)製「78211A」)0.008gを250mL容器のボールミルを用いて50mLの水で6時間湿式混合した後、混合原料粉末を120℃で乾燥させた。得られた混合原料粉末をアルミナ坩堝中にて1150℃の大気雰囲気下で2時間焼成した。
得られた粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相は、ジルコニウムによりチタン酸バリウム相がピークシフトした単相であった。X線回折チャートを
図1に示した。
また、走査型電子顕微鏡による観察より、粒子径が800nm~13μmの粒子であることが確認された。走査型電子顕微鏡写真を
図2に示した。
また、摂動方式空洞共振法にて粉末の1GHz付近での誘電率を測定したところ、比誘電率は1.2×10
4、誘電正接は0.094であった。
【0048】
<積層体の製造>
シリコーン樹脂(信越化学(株)製「KR-470」)と開始剤(サンアプロ(株)製「TA-100」)をそれぞれ98.5質量%と1.5質量%の割合で攪拌し、さらに攪拌後の樹脂と上記で製造された粉末をそれぞれ30質量%と70質量%の割合で攪拌することで、混合スラリーを得た。混合スラリーを500μm厚のフィルムアプリケーターでアルミ蒸着PETフィルム(基材厚み12μm、蒸着膜厚み約30nm)上に塗布し、80℃で3時間以上乾燥硬化させて複合材料シートを形成して厚み325μmの積層体を製造した。
この積層体の複合材料シートの断面の反射電子走査型電子顕微鏡像を
図3に示した。走査型電子顕微鏡像の二値化より、複合材料シート内に占めるチタン酸ジルコン酸バリウムの体積占有率は31.7%であった。また、
図3中のチタン酸ジルコン酸バリウムをランダムに10個選び、真球度を測定したところ、その平均値は0.758であった。
このようにして得られた積層体について、自由空間法にて複合材料シートの45~110GHzの電磁波吸収率、反射率及び透過率を測定した。透過率は0%であった。吸収率の測定結果を
図4に示した。
【0049】
[比較例1]
実施例1と同様の手法でチタン酸バリウム粉末(Sigma-Aldrich製、粒子径<100nm、純度≧99%)の1GHz付近での誘電率を測定したところ、比誘電率は1.2×10
3、誘電正接は0.059であった。
実施例1で製造した粒子の代りに、このチタン酸バリウム粉末を用いたこと以外は同様にしてアルミ蒸着PETフィルム上に複合材料シートを形成して厚み368μmの積層体を製造した。
この複合材料シートの断面の反射電子走査型電子顕微鏡像を
図5に示した。走査型電子顕微鏡像の二値化より、複合材料シート内に占めるチタン酸バリウム粉末の体積占有率は59.4%であった。
このようにして得られた積層体について、自由空間法にて複合材料シートの45~110GHzの電磁波吸収率、反射率及び透過率を測定した。透過率は0%であった。吸収率の測定結果を
図4に示した。
【0050】
[比較例2]
炭酸バリウム(富士フィルム和光純薬(株)製、特級、99.0+%)8.46g、酸化チタン(石原産業(株)製「CR-93」)3.42gを250mL容器のボールミルを用いて30~60mLの水で6時間湿式混合した後、混合原料粉末を120℃で乾燥させた。得られた混合原料粉末をアルミナ坩堝中にて1150℃の大気雰囲気下で2時間焼成した。得られた粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はチタン酸バリウムであった。X線回折チャートを
図1に示した。
【0051】
実施例1で製造した粒子の代りに、このチタン酸バリウム粉末を用いたこと以外は同様にしてアルミ蒸着PETフィルム上に複合材料シートを形成して積層体を製造した。
このようにして得られた積層体について、自由空間法にて複合材料シートの45~110GHzの電磁波吸収率、反射率及び透過率を測定した。透過率は0%であった。吸収率の測定結果を
図4に示した。
【0052】
図4より、本発明の粒子を用いた実施例1の積層体は、70~80GHzの電磁波吸収率が非常に大きいことが分かる。
これに対して、チタン酸バリウム粉末を用いた比較例2では、電磁波吸収率が小さい。
比較例1では、80~90GHzにおいて実施例1と同等の吸収率が得られているが、吸収帯域が若干シフトしている上に、比較例1は、複合材料シート中のチタン酸バリウム粉末の体積占有率が59.4%であるのに対して、実施例1では粒子の体積占有率は31.7%と、約半分の体積割合であることから、実施例1は、複合材料及び積層体の可撓性において優れることが分かる。