(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081103
(43)【公開日】2024-06-17
(54)【発明の名称】アンモニア合成システム
(51)【国際特許分類】
C01C 1/04 20060101AFI20240610BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20240610BHJP
【FI】
C01C1/04 J
B01J23/46 301M
C01C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023072031
(22)【出願日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2022194303
(32)【優先日】2022-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100195659
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】後藤 能宏
(72)【発明者】
【氏名】菊川 将嗣
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】青木 正和
(72)【発明者】
【氏名】馬場 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 英行
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】眞中 雄一
(72)【発明者】
【氏名】西 政康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
(72)【発明者】
【氏名】松本 秀行
(72)【発明者】
【氏名】大川原 真一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA20
4G169BC70
4G169CB82
4G169FA08
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】アンモニアを効率的に合成することができる技術を提供する。
【解決手段】アンモニアを合成するアンモニア合成システムは、水素と窒素とを含む反応ガスからアンモニアを合成する合成反応を促進する触媒を収容する反応器と、反応器に導入される反応ガス中の窒素に対する水素の割合であるH
2/N
2比を制御する制御部と、を備え、制御部は、触媒が活性化したとみなされる活性化温度まで触媒の温度を昇温させる活性化前運転時のH
2/N
2比を、触媒の温度が活性化温度に到達した後の活性化後運転時のH
2/N
2比とは異なる値に制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを合成するアンモニア合成システムであって、
水素と窒素とを含む反応ガスからアンモニアを合成する合成反応を促進する触媒を収容する反応器と、
前記反応器に導入される前記反応ガス中の窒素に対する水素の割合であるH2/N2比を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記触媒が活性化したとみなされる活性化温度まで前記触媒の温度を昇温させる活性化前運転時のH2/N2比を、前記触媒の温度が前記活性化温度に到達した後の活性化後運転時のH2/N2比とは異なる値に制御する、アンモニア合成システム。
【請求項2】
請求項1に記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記活性化前運転時のH2/N2比を、前記活性化後運転時のH2/N2比よりも小さくなるよう制御する、アンモニア合成システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記活性化前運転時に、
前記触媒よりも下流側にて検出される下流側アンモニア濃度が、前記触媒の温度から算出される平衡状態でのアンモニア濃度に所定割合を乗じた比較対象濃度よりも高い場合に、H2/N2比を増加させる増加制御を実行し、
H2/N2比を増加させてから設定時間を経過した後の前記下流側アンモニア濃度が、最後の前記増加制御を行う契機となった前記下流側アンモニア濃度よりも高く、且つ、前記比較対象濃度よりも高くなるたびに、前記増加制御を追加で実行し、
H2/N2比を増加させてから前記設定時間を経過した後の前記下流側アンモニア濃度が、最後の前記増加制御を行う契機となった前記下流側アンモニア濃度よりも低い場合、H2/N2比を最後の前記増加制御を行う前のH2/N2比に戻す減少制御を実行する、アンモニア合成システム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記反応器に導入される前記反応ガスの流量を制御し、
前記制御部は、前記活性化前運転時における前記反応ガスの流量を、前記活性化後運転時における前記流量よりも小さくなるよう制御する、アンモニア合成システム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のアンモニア合成システムであって、さらに、
前記反応器から排出される反応後ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器を経ることなく前記反応後ガスを前記反応器の上流側に循環させる第1流路と、前記反応後ガスを前記冷却器に送る第2流路と、のいずれかに前記反応後ガスが流れる流路を切り替える流路切替部と、を備え、
前記制御部は、前記活性化前運転時に、
前記触媒の温度が前記活性化温度よりも低い温度の範囲内で設定された第1設定温度よりも低い場合、前記流路が前記第1流路になるよう前記流路切替部を制御し、
前記触媒の温度が前記第1設定温度以上である場合、前記流路が前記第2流路になるよう前記流路切替部を制御する、アンモニア合成システム。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記活性化後運転時に、前記触媒の温度が前記活性化温度よりも高い温度の範囲内で設定された第2設定温度よりも高い場合、前記触媒の温度を低下させる温度低下制御を実行する、アンモニア合成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア合成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、触媒を収容した反応器に対して、窒素(N2)と水素(H2)とを含む反応ガスを導入することによりアンモニアを合成するアンモニア合成システムが知られている。そのようなアンモニア合成システムとして、例えば、特許文献1には、パージガスや冷却器を用いて中間生成ガスを冷却するアンモニア合成システムが開示されている。また、特許文献2には、アンモニア合成に用いる循環ガス中のアンモニアガスの濃度を3体積%以上にして、アンモニア合成を実行するアンモニア合成システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-203603号公報
【特許文献2】特開2020-66573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触媒に導入される反応ガス中の窒素に対する水素の割合(H2/N2比)は、アンモニア合成速度を決定するパラメータの1つである。アンモニア合成速度を促進するために適切なH2/N2比は、例えば、触媒の温度や反応器内が平衡状態であるか否に応じて変動する。しかし、特許文献1,2におけるアンモニア合成システムでは、H2/N2比の制御について何ら考慮しておらず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、アンモニアを効率的に合成することができるアンモニア合成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、アンモニア合成システムが提供される。このアンモニア合成システムは、水素と窒素とを含む反応ガスからアンモニアを合成する合成反応を促進する触媒を収容する反応器と、前記反応器に導入される前記反応ガス中の窒素に対する水素の割合であるH2/N2比を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記触媒が活性化したとみなされる活性化温度まで前記触媒の温度を昇温させる活性化前運転時のH2/N2比を、前記触媒の温度が前記活性化温度に到達した後の活性化後運転時のH2/N2比とは異なる値に制御する。
【0008】
この構成によれば、触媒の活性化前に導入する反応ガス中のH2/N2比と、触媒の活性化後に導入する反応ガス中のH2/N2比と、を異なる値に制御することができる。このため、活性化前後の各々の時期に応じて、触媒に導入される反応ガス中のH2/N2比を適切な値に調整することができる。したがって、活性化前後のいずれの時期においても触媒に導入される反応ガス中のH2/N2比が一定である形態と比べて、アンモニアを効率的に合成することができる。
【0009】
(2)上記形態のアンモニア合成システムにおいて、前記制御部は、前記活性化前運転時のH2/N2比を、前記活性化後運転時のH2/N2比よりも小さくなるよう制御してもよい。
触媒活性化前のアンモニア合成に適切なH2/N2比が、触媒活性化後のアンモニア合成に適切なH2/N2比よりも小さい触媒をアンモニア合成システムが備える場合に、この構成によれば、活性化前後のいずれの時期においても、適切なH2/N2比の反応ガスが触媒に導入できることから、アンモニアを効率的に合成することができる。
【0010】
(3)上記形態のアンモニア合成システムにおいて、前記制御部は、前記活性化前運転時に、前記触媒よりも下流側にて検出される下流側アンモニア濃度が、前記触媒の温度から算出される平衡状態でのアンモニア濃度に所定割合を乗じた比較対象濃度よりも高い場合に、H2/N2比を増加させる増加制御を実行し、H2/N2比を増加させてから設定時間を経過した後の前記下流側アンモニア濃度が、最後の前記増加制御を行う契機となった前記下流側アンモニア濃度よりも高く、且つ、前記比較対象濃度よりも高くなるたびに、前記増加制御を追加で実行し、H2/N2比を増加させてから前記設定時間を経過した後の前記下流側アンモニア濃度が、最後の前記増加制御を行う契機となった前記下流側アンモニア濃度よりも低い場合、H2/N2比を最後の前記増加制御を行う前のH2/N2比に戻す減少制御を実行してもよい。
この構成によれば、活性化前運転時において、H2/N2比を増加させてから設定時間を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも高くなったのち比較対象濃度よりも高くなるたびに、追加で増加制御が実行されることから、活性化前運転時の反応ガス中のH2/N2比を段階的に増加させて最適な値に近付けることができる。したがって、活性化前運転時において、アンモニアをより効率的に合成することができる。一方、活性化前運転時において、H2/N2比を増加させてから設定時間を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも低い場合には減少制御が実行されることから、活性化前運転時の反応ガス中のH2/N2比が最適な値を超えて増加し続けるのを防止することができる。
【0011】
(4)上記形態のアンモニア合成システムにおいて、前記制御部は、前記反応器に導入される前記反応ガスの流量を制御し、前記制御部は、前記活性化前運転時における前記反応ガスの流量を、前記活性化後運転時における前記流量よりも小さくなるよう制御してもよい。
この構成によれば、活性化後運転時と比べて活性化前運転時における反応ガスの流量が少なくなるよう制御されるため、反応器に導入されたのちアンモニアの合成反応によって昇温された反応ガスが反応器中に保持される時間を長くすることができる。その結果、昇温された反応ガスと触媒との接触時間が長くなることにより、触媒の昇温を促進することができる。
【0012】
(5)上記形態のアンモニア合成システムにおいて、さらに、前記反応器から排出される反応後ガスを冷却する冷却器と、前記冷却器を経ることなく前記反応後ガスを前記反応器の上流側に循環させる第1流路と、前記反応後ガスを前記冷却器に送る第2流路と、のいずれかに前記反応後ガスが流れる流路を切り替える流路切替部と、を備え、前記制御部は、前記活性化前運転時に、前記触媒の温度が前記活性化温度よりも低い温度の範囲内で設定された第1設定温度よりも低い場合、前記流路が前記第1流路になるよう前記流路切替部を制御し、前記触媒の温度が前記第1設定温度以上である場合、前記流路が前記第2流路になるよう前記流路切替部を制御してもよい。
この構成によれば、触媒の温度が第1設定温度よりも低い間は、反応後ガスが冷却器で冷却されることなく再び反応器の上流側に循環されることから、反応後ガスの持つ熱エネルギーを触媒の加熱に再利用することができる。また、触媒の温度が第1設定温度よりも低い間においては反応後ガス中に未反応の水素および未反応の窒素が比較的多く残存しているため、循環させた反応後ガスの量に応じて新規に反応器に導入する反応ガスの量を減らすことができる。すなわち、この構成によれば、反応後ガスを循環させることによって、反応ガスを生成するために要するエネルギー(特に水素の生成に要するエネルギー)およびその反応ガスを加熱するために要する熱エネルギーを低減することができる。
【0013】
(6)上記形態のアンモニア合成システムにおいて、前記制御部は、前記活性化後運転時に、前記触媒の温度が前記活性化温度よりも高い温度の範囲内で設定された第2設定温度よりも高い場合、前記触媒の温度を低下させる温度低下制御を実行してもよい。
触媒が活性化した際には、触媒の温度は急激に上昇する。この急激な上昇によって触媒の温度が高温のまま維持されると、触媒の熱劣化を引き起こす可能性がある。この構成によれば、触媒の温度が第2設定温度よりも高い場合に温度低下制御が実行されることから、触媒が熱劣化する可能性を低減することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、アンモニア合成システム、アンモニア製造プラント、アンモニア製造装置、これらを備える装置およびシステム、アンモニアの製造方法、アンモニアの合成方法、これら装置や方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、およびコンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態のアンモニア合成システムの構成を例示した説明図である。
【
図2】反応器の内部における反応ガスの流れを示した説明図である。
【
図3】一般的なRu触媒を用いて合成されるアンモニア濃度を示す説明図である。
【
図4】第1触媒の温度の経時的変化を測定した結果を示す説明図である。
【
図5】反応ガスの温度の経時的変化を測定した結果を示す説明図である。
【
図6】触媒活性化時および反応安定化時の反応ガスの温度を示す説明図である。
【
図7】触媒活性化時および反応安定化時の第1触媒の温度を示す説明図である。
【
図8】第1触媒が活性化するまでの経過時間を示す説明図である。
【
図9】反応安定化時の合成アンモニア濃度を示す説明図である。
【
図10】H
2/N
2比の制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】H
2/N
2比の変動処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第3実施形態のアンモニア合成システムの構成を例示した説明図である。
【
図13】第1触媒の温度変化が安定化するまでの推移を示した説明図である。
【
図14】流路切替処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図15】温度調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一実施形態としてのアンモニア合成システム1の構成を例示した説明図である。アンモニア合成システム1は、触媒を用いて、水素と窒素とを含む反応ガスからアンモニアを合成するシステムである。アンモニア合成システム1は、第1混合器10と、第1圧縮器20と、第2混合器30と、反応器40と、制御部50と、気液分離器60と、タンク70と、第2圧縮器80と、を備えている。
【0017】
第1混合器10は、図示されていない水素タンクから供給される水素と、図示されていない窒素タンクから供給される窒素と、を混合して、水素と窒素とを含む反応ガスを生成する。第1圧縮器20は、第1混合器10から送られてくる生成ガスを圧縮したのち、その生成ガスを第2混合器30に送る。第2混合器30は、第1混合器10から送られてくる生成ガスを更に混合したのち、その生成ガスを反応器40に送る。
【0018】
反応器40の内部では、第2混合器30から導入される反応ガスを用いて、アンモニアが合成される。反応器40は、第1触媒41および第2触媒42を内部に収容する。第1触媒41および第2触媒42は、反応器40の内部において上流側から、第1触媒41、第2触媒42の順に配列されている。第1触媒41および第2触媒42は、反応ガスからアンモニアを合成する合成反応を促進する。制御部50は、第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整することによって、反応器40に導入される反応ガス中の窒素に対する水素の割合であるH2/N2比を制御する。制御部50による制御の詳細は後述する。
【0019】
気液分離器60は、第1触媒41および第2触媒42を通過したのち反応器40から排出される反応後ガスを冷却することにより、反応後ガスから液体のアンモニアを分離する。分離された液体のアンモニアは、タンク70に貯蔵される。一方、液体のアンモニアが分離された反応後ガスは、第2圧縮器80にて圧縮されたのち、再び第2混合器30に送られる。
【0020】
図2は、反応器40の内部に導入されてから排出されるまでの反応ガスの流れを示した説明図である。反応器40は、内側配管43と外側配管44とを有する。内側配管43は、円筒形状を成し、内部に第1触媒41および第2触媒42を収容する。外側配管44は、円筒形状を成し、内側配管43を覆っている。また、アンモニア合成システム1は、
図1で説明した構成に加えて、上流側加熱器45と、下流側加熱器46と、を備える。上流側加熱器45は、第2混合器30と反応器40とを接続する配管(不図示)に設けられている。下流側加熱器46は、外側配管44の下流側端部と内側配管43の上流側端部とを接続する配管(不図示)に設けられている。位置Pは、反応器40内を流れる反応ガスの流れ方向において、第1触媒41の上流側の位置であり、後述する
図5の説明の際に言及する。
【0021】
第2混合器30から反応器40に向けて送られた反応ガスは、上流側加熱器45にて加熱されてから外側配管44の内部(且つ内側配管43の外部)に導入されたのち、下流側加熱器46に到る。そして、反応ガスは、下流側加熱器46にて再度加熱されてから第1触媒41および第2触媒42を通過したのち、反応器40から排出される。
【0022】
次に、アンモニア合成速度を促進するために適切なH2/N2比は、例えば、触媒(第1触媒41、第2触媒42)の温度や反応器40内が平衡状態であるか否かに応じて変動することを説明する。
【0023】
図3は、一般的なRu触媒を収容した反応器(不図示)に対して反応ガスを導入した場合に合成されるアンモニア濃度を示した説明図である。
図3において、横軸はRu触媒の温度を示し、縦軸は反応器から排出される反応後ガス中の合成アンモニア濃度(%)を示す。実線の線分La1は、アンモニア平衡濃度に達する前の状態において、反応ガス(H
2/N
2比が0.5)を反応器に導入した場合の各温度におけるアンモニア合成濃度を示している。ここで、アンモニア平衡濃度とは、反応器内の温度条件下および圧力条件下においてアンモニアの合成反応とその逆反応が平衡状態であるときの、反応器内のアンモニア濃度のことをいう。破線の線分La2は、アンモニア平衡濃度に達している状態において、反応ガス(H
2/N
2比が0.5)を反応器に導入した場合の各温度におけるアンモニア合成濃度を示している。線分La2のうち400℃以上の部分は、線分La1と重なっている。一方、実線の線分Lb1は、アンモニア平衡濃度に達する前の状態において、反応ガス(H
2/N
2比が1.5)を反応器に導入した場合の各温度におけるアンモニア合成濃度を示している。破線の線分Lb2は、アンモニア平衡濃度に達している状態において、反応ガス(H
2/N
2比が1.5)を反応器に導入した場合の各温度におけるアンモニア合成濃度を示している。
【0024】
線分La1,Lb1に示すように、アンモニア平衡濃度に達する前の状態においては、370℃以上の温度条件下では、反応ガス(H2/N2比が0.5)よりも反応ガス(H2/N2比が1.5)を導入した方がアンモニア合成は促進されるが、370℃より低い温度条件下では、反応ガス(H2/N2比が1.5)よりも反応ガス(H2/N2比が0.5)を導入した方がアンモニア合成は促進される。また、線分La2,Lb2に示すように、アンモニア平衡濃度に達している状態においては、反応ガス(H2/N2比が0.5)および反応ガス(H2/N2比が1.5)のいずれにおいても、低温であるほどアンモニア合成は促進されるとともに、反応ガス(H2/N2比が0.5)よりも反応ガス(H2/N2比が1.5)を導入した方がアンモニア合成は促進される。すなわち、アンモニア合成速度を促進するために適切なH2/N2比は、触媒の温度や反応器内が平衡状態であるか否かに応じて変動する。
【0025】
第1実施形態のアンモニア合成システム1の説明に戻る。
図4には、反応器40への反応ガスの導入が開始されてからの第1触媒41の温度の経時的変化を測定した結果を示す。
図4において、横軸は経過時間(h)を示し、縦軸は第1触媒41の温度(℃)を示す。
図4に示す線分L1~L6の各々は、大気圧下の600℃、還元雰囲気下での前処理を行った第1触媒41に対して、ゲージ圧8MPaG、上流側加熱器45および下流側加熱器46を通過する反応ガスの温度をそれぞれ350℃、400℃とする条件下で、様々なH
2/N
2比の反応ガスを反応器40に導入した場合の、第1触媒41の温度の経時的変化を示している。詳細には、線分L1,L2,L3,L4,L5,L6は、それぞれH
2/N
2比が0.5,1.0,1.25,1.5,2.0,3.0の反応ガスを反応器40に導入した場合の、第1触媒41の温度の経時的変化を示している。
【0026】
図4に示すように、反応器40への反応ガスの導入が開始されると、発熱反応であるアンモニアの合成反応によって、第1触媒41は昇温され始める。その後、昇温が継続されたことにより、ある一定温度(白抜きの菱形で示す温度)を超えると、第1触媒41の温度は急激に上昇し始める。この急激な上昇は、継続的な昇温により第1触媒41が活性化されて更にアンモニアの合成反応が促進されたことに起因する。ここでの、ある一定温度は、第1触媒41が活性化したとみなされる活性化温度にあたる。線分L1~L6上に示された白抜きの菱形は、実験結果等から予め設定された活性化温度を示している。アンモニア合成システム1において、反応器40への反応ガスの導入が開始されてから活性化温度まで第1触媒41の温度を昇温させるまでの間の運転を活性化前運転とし、第1触媒41の温度が活性化温度に到達した後の運転を活性化後運転とする。本実施形態では、制御部50は、活性化前運転時に反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比を、活性化後運転時に反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比とは異なる値に制御する。このような制御を行うのは、上述した
図4および後述する
図5~9の各々が示す結果から、第1触媒41の活性化前後で反応器40に導入する反応ガス中のH
2/N
2比を異なる値に制御する方が、アンモニア合成を効率的に行う観点から好ましいことを確認しているためである。
【0027】
図5には、反応器40への反応ガスの導入が開始されてからの反応ガスの温度の経時的変化を測定した結果を示す。
図5には、位置P(
図2参照)を通過する反応ガスの温度の経時的変化が示されている。
図5において、横軸は経過時間(h)を示し、縦軸は反応ガスの温度(℃)を示す。
図5に示した線分L1g~L6gの各々は、それぞれH
2/N
2比が0.5,1.0,1.25,1.5,2.0,3.0の反応ガスを反応器40に導入した場合の、反応ガスの温度の経時的変化を示している。なお、
図5および後述する
図6~
図9の各々が示す結果は、
図4の測定結果と同様に、ゲージ圧8MPaG、上流側加熱器45および下流側加熱器46を通過する反応ガスの温度をそれぞれ350℃、400℃とする条件下で実施された測定の結果である。
図5に示すように、反応器40への反応ガスの導入が開始されてから、いずれのH
2/N
2比の反応ガスにおいても、その温度は時間の経過とともに上昇している。この温度上昇は、加熱された反応ガスの導入に伴って、反応器40が時間の経過とともに加熱されたことに起因する。
【0028】
図6には、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、触媒活性化時および反応安定化時の位置P(
図1参照)における反応ガスの温度と、の対応関係を示す。ここで、触媒活性化時とは、第1触媒41の温度が活性化温度になったタイミングのことである。反応安定化時とは、触媒活性化時以降に第1触媒41の温度変化が初めて1℃/5min以下になったタイミングのことである。反応安定化時以降、反応器40内は、平衡状態となっている。
図4で言えば、線分L1~L6のうち活性化温度を超えたのちに第1触媒41の温度上昇が緩やかになり始めるタイミングにあたる。
図6において、横軸は反応ガス中のH
2/N
2比を示し、縦軸は反応ガスの温度(℃)を示す。
図6に示す線分L7は、触媒活性化時の位置Pにおける反応ガスの温度と、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、の対応関係を示している。一方、
図6に示す線分L8は、反応安定化時の位置Pにおける反応ガスの温度と、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、の対応関係を示している。線分L7に示された結果から、反応ガス中のH
2/N
2比が0.5~3.0の範囲内においては、H
2/N
2比が小さいほど、触媒活性化時の位置Pにおける反応ガスの温度は低かった。
【0029】
図7には、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、触媒活性化時および反応安定化時の第1触媒41の温度と、の対応関係を示す。
図7において、横軸は反応ガス中のH
2/N
2比を示し、縦軸は第1触媒41の温度(℃)を示す。
図7に示す線分L9は、触媒活性化時の第1触媒41の温度と、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、の対応関係を示している。一方、
図7に示す線分L10は、反応安定化時の第1触媒41の温度と、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、の対応関係を示している。線分L9に示された結果から、反応ガス中のH
2/N
2比が0.5~3.0の範囲内においては、H
2/N
2比が小さいほど、第1触媒41を低温で活性化できることが分かった。すなわち、反応ガス中のH
2/N
2比が0.5~3.0の範囲内においては、反応ガス中のH
2/N
2比を0.5とした場合に、第1触媒41を活性化するための投入エネルギーを最も小さくすることができる。
【0030】
図8には、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、反応器40への反応ガスの導入が開始されてから第1触媒41が活性化するまでの経過時間と、の対応関係を表した線分L11が示されている。
図8において、横軸は反応ガス中のH
2/N
2比を示し、縦軸は反応器40への反応ガスの導入が開始されてから第1触媒41が活性化するまでの経過時間(h)を示す。線分L11に示された結果から、反応ガス中のH
2/N
2比が0.5~3.0の範囲内においては、H
2/N
2比が小さいほど、反応器40への反応ガスの導入が開始されてから第1触媒41が活性化するまでの経過時間を短くできることが分かった。
【0031】
図9には、反応器40へ導入した各H
2/N
2比の反応ガスと、反応安定化時の合成アンモニア濃度と、の対応関係を表した線分L12が示されている。
図9において、横軸は反応ガス中のH
2/N
2比を示し、縦軸は反応安定化時に反応器40から排出される反応後ガス中の合成アンモニア濃度(%)を示す。線分L12に示された結果から、反応ガス中のH
2/N
2比が1.25の場合に、反応安定化時の合成アンモニア濃度が最大になることが分かった。また、線分L12において、反応ガス中のH
2/N
2比が1.25より低くなるほど反応安定化時の合成アンモニア濃度が小さくなっている点については、反応ガス中のH
2/N
2比が低いほど反応安定化時の時点でアンモニア平衡濃度に達しやすくなることや、
図7の線分L10に示されるように、反応ガス中のH
2/N
2比が1.5より低くなるほど、反応安定化時での第1触媒41の温度が低くなっていることからも推定される。
【0032】
上述の
図4~9の各々が示す測定結果から、ゲージ圧8MPaG、上流側加熱器45および下流側加熱器46を通過する反応ガスの温度をそれぞれ350℃、400℃とする条件下において、アンモニア合成システム1では、活性化前運転時に反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比は0.5とし、活性化後運転時に反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比は1.25とするのが適切であることが分かった。したがって、アンモニア合成システム1では、制御部50は、活性化前運転時のH
2/N
2比を0.5になるよう制御するとともに、活性化後運転時のH
2/N
2比を1.25になるよう制御する。すなわち、制御部50は、活性化前運転時のH
2/N
2比を、活性化後運転時のH
2/N
2比よりも小さくなるよう制御する。
【0033】
また、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を制御することに加えて、反応器40に導入される反応ガスの流量を制御する。制御部50は、H2/N2比の制御と同様に、第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整することによって、反応器40に導入される反応ガスの流量を制御する。本実施形態では、制御部50は、活性化前運転時における反応ガスの流量を、活性化後運転時における流量よりも小さくなるよう制御する。このような制御により、活性化前運転時において、アンモニアの合成反応によって昇温された反応ガスが反応器40中に保持される時間が長くなるようにしている。
【0034】
図10は、H
2/N
2比の制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。H
2/N
2比の制御処理は、アンモニア合成システム1が稼働している間、定期的に実行される。H
2/N
2比の制御処理が開始されると、制御部50は、まず初めに、第1触媒41の温度が活性化温度以上であるか判定する(ステップS11)。第1触媒41の温度は、第1触媒41の温度を直接検出する温度センサによって取得されてもよいし、第1触媒41近傍(第1触媒41の上流側および下流側の少なくとも一方)を流れる反応ガスの温度を検出する温度センサによって取得された値を用いて算出されてもよい。第1触媒41が活性化したとみなされる活性化温度は、予め設定されているものとする。
【0035】
第1触媒41の温度が活性化温度未満である場合(ステップS11:NO)、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を、活性化前運転時のH2/N2比として予め設定されたH2/N2比になるよう制御する(ステップS13)。その後、制御部50は、再びステップS11の処理を実行する。一方、第1触媒41の温度が活性化温度以上である場合(ステップS11:YES)、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を、活性化後運転時のH2/N2比として予め設定されたH2/N2比になるよう制御する(ステップS15)。ステップS15の処理を実行したのち、制御部50は、H2/N2比の制御処理を終了する。なお、ステップS13およびステップS15のいずれにおいても、制御部50は、第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整することによって、H2/N2比を制御する。
【0036】
以上説明したように、第1実施形態のアンモニア合成システム1によれば、第1触媒41の活性化前に導入する反応ガス中のH2/N2比と、第1触媒41の活性化後に導入する反応ガス中のH2/N2比と、を異なる値に制御することができる。このため、活性化前後の各々の時期に応じて、第1触媒41に導入される反応ガス中のH2/N2比を適切な値に調整することができる。したがって、活性化前後のいずれの時期においても第1触媒41に導入される反応ガス中のH2/N2比が一定である形態と比べて、アンモニアを効率的に合成することができる。
【0037】
また、第1実施形態のアンモニア合成システム1では、活性化前運転時のH
2/N
2比が、活性化後運転時のH
2/N
2比よりも小さくなるよう制御される。したがって、触媒活性化前のアンモニア合成に適切なH
2/N
2比が、触媒活性化後のアンモニア合成に適切なH
2/N
2比よりも小さい第1触媒41をアンモニア合成システム1が備える場合に、活性化前後のいずれの時期においても、適切なH
2/N
2比の反応ガスが第1触媒41に導入できることから、アンモニアを効率的に合成することができる。特に、活性化前運転時について、詳細には、適切なH
2/N
2比の反応ガスを第1触媒41に導入することにより、第1触媒41を低温で活性化させることが可能となり(
図7参照)、第1触媒41が活性化するまでの時間を短くできることから(
図8参照)、活性化するまでにかかる時間と活性化のために投入されるエネルギーを低減することができる。
【0038】
また、第1実施形態のアンモニア合成システム1では、活性化前運転時において反応器40に導入される反応ガスの流量を、活性化後運転時において反応器40に導入される反応ガスの流量よりも小さくなるよう制御される。したがって、反応器40に導入されたのちアンモニアの合成反応によって昇温された反応ガスが反応器40中に保持される時間を長くすることができる。その結果、昇温された反応ガスと第1触媒41(および第2触媒42)との接触時間が長くなることにより、第1触媒41(および第2触媒42)の昇温を促進することができる。
【0039】
<第2実施形態>
第2実施形態のアンモニア合成システムは、第1実施形態のアンモニア合成システム1と比べて、活性化前運転時において、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を変動させる点を除いて、第1実施形態のアンモニア合成システム1と同じである。
【0040】
図11は、H
2/N
2比の変動処理の手順の一例を示すフローチャートである。H
2/N
2比の変動処理は、活性化前運転時の間に、定期的に実行される。本実施形態において、活性化前運転時において、H
2/N
2比は当初0.5になるよう制御されており、H
2/N
2比の変動処理中に実施される増加制御(後述)および減少制御(後述)に応じて、そのH
2/N
2比は変動する。
【0041】
H2/N2比の変動処理が開始されると、制御部50は、まず初めに、H2/N2比の変動処理が開始されてから設定時間Δt1を経過したか否か判定する(ステップS21)。設定時間Δt1を経過していない場合(ステップS21:NO)、制御部50は、設定時間Δt1を経過するまでステップS21を繰り返す。
【0042】
設定時間Δt1を経過した場合(ステップS21:YES)、制御部50は、第1触媒41の温度が活性化温度以上になったか判定する(ステップS22)。第1触媒41の温度が活性化温度より低い場合(ステップS22:NO)、制御部50は、第1触媒41よりも下流側にて検出される下流側アンモニア濃度が、比較対象濃度よりも高いか判定する(ステップS23)。下流側アンモニア濃度は、反応器40のうち第1触媒41と第2触媒42との間に設けられたガスセンサ(不図示)によって検出される。また、ここでいう比較対象濃度とは、第1触媒41の温度から算出される平衡状態でのアンモニア濃度(上述のアンモニア平衡濃度に相当)に所定割合Zを乗じた濃度のことである。比較対象濃度の算出に用いられる第1触媒41の温度は、比較対象である下流側アンモニア濃度が検出された時期と略同時期の第1触媒41の温度である。略同時期での温度取得が難しい場合であっても、第1触媒41の温度は、比較対象である下流側アンモニア濃度が検出された時期とできるだけ同時期に近い時期の第1触媒41の温度である方が好ましい。平衡状態でのアンモニア濃度は、第1触媒41の温度と、その温度における平衡状態でのアンモニア濃度と、が対応付けられたマップを用いて取得される。所定割合Zは、0.5~1の範囲の任意の値が設定され、本実施形態では、一定値として0.8が設定されている。すなわち、本実施形態では、ステップS23において、制御部50は、下流側アンモニア濃度が、アンモニア平衡濃度(下流側アンモニア濃度検出時とほぼ同時期における反応器40内の温度条件下において、平衡状態であった場合の反応器40内のアンモニア濃度)に0.8を乗じた比較対象濃度よりも高いか判定する。なお、所定割合Zは第1触媒41の温度や反応ガス中のH2/N2比に応じて都度変動させてもよい。下流側アンモニア濃度が、比較対象濃度よりも高くない場合(ステップS23:NO)、制御部50は、再びステップS21の処理を実行し、ステップS23の処理を終えてから設定時間Δt1を経過したか否か判定する(ステップS21)。
【0043】
一方、下流側アンモニア濃度が、比較対象濃度よりも高い場合(ステップS23:YES)、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比を増加させる増加制御を実行する(ステップS24)。
図11に示すH
2/N
2比の変動処理において、1回目の増加制御である場合、制御部50は、活性化前運転時の当初のH
2/N
2比であった0.5にΔXを加えた値(0.5+ΔX)にH
2/N
2比を更新し、その更新後のH
2/N
2比の反応ガスとなるよう、第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整する。ΔXは、0.01~0.1の範囲の任意の値が設定される。
【0044】
増加制御を実行後(ステップS24)、制御部50は、設定時間Δt2を経過したか否か判定する(ステップS25)。設定時間Δt2を経過していない場合(ステップS25:NO)、制御部50は、設定時間Δt2を経過するまでステップS25を繰り返す。なお、設定時間Δt2は、ステップS21における設定時間Δt1と同じ長さの時間であってもよいし、異なる長さの時間であってもよい。
【0045】
設定時間Δt2を経過した場合(ステップS25:YES)、制御部50は、H2/N2比を増加させてから設定時間Δt2を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも高いか判定する(ステップS26)。ここで、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度とは、最後に下流側アンモニア濃度が比較対象濃度よりも高くなったとき(ステップS23:YES)の下流側アンモニア濃度のことである。換言すれば、最後の増加制御を行う前のH2/N2比の反応ガスが反応器40に導入されている状態において、比較対象濃度以上となったときの下流側アンモニア濃度のことである。具体的には、例えば、増加制御が1回だけしか実行されていない場合には、増加制御が1回も行われていない当初のH2/N2比(本実施形態では0.5)の反応ガスが反応器40に導入されている状態において、比較対象濃度以上となったときの下流側アンモニア濃度のことであり、増加制御がN回(Nは2以上の整数)実行されている場合には、増加制御がN-1回実行されているH2/N2比の反応ガスが反応器40に導入されている状態において、比較対象濃度以上となったときの下流側アンモニア濃度のことである。すなわち、ステップS26において、制御部50は、最後に行った増加制御により、下流側アンモニア濃度が増大したか判定する。
【0046】
H2/N2比を増加させてから設定時間Δt2を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも高い場合(ステップS26:YES)、制御部50は、再びステップS22の処理を実行する。そして、第1触媒41の温度が活性化温度より低い場合(ステップS22;NO)であって、且つ、下流側アンモニア濃度が比較対象濃度よりも高い場合(ステップS23:YES)、制御部50は、さらに増加制御を実行する(ステップS24)。すなわち、制御部50は、H2/N2比を増加させてから設定時間Δt2を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも高く(ステップS26:YES)、且つ、比較対象濃度よりも高くなるたびに(ステップS23:YES)、増加制御を追加で行う。このときの増加制御においても、現状のH2/N2比にΔXを加えた値に、H2/N2比は更新される。
【0047】
一方、H2/N2比を増加させてから設定時間Δt2を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも低い場合(ステップS26:NO)、制御部50は、H2/N2比を最後の増加制御を行う前のH2/N2比に戻す減少制御を実行する(ステップS27)。減少制御においては、制御部50は、現状のH2/N2比からΔXを引いた値(現状のH2/N2比-ΔX)にH2/N2比を更新し、その更新後のH2/N2比の反応ガスとなるよう、第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整する。具体的には、例えば、増加制御が1回だけしか実行されていない場合には、増加制御が1回も行われていない当初のH2/N2比(本実施形態では0.5)に戻し、増加制御がN回(Nは2以上の整数)実行されている場合には、増加制御がN-1回実行されている時点でのH2/N2比に戻す。減少制御を実行後(ステップS27)、制御部50は、再びステップS21の処理を実行し、ステップS27の処理を終えてから設定時間Δt1を経過したか否か判定する(ステップS21)。
【0048】
このように、制御部50は、上述したステップS21~27の各々の処理を実行する。そして、制御部50は、第1触媒41の温度が活性化温度以上になった場合(ステップS22)、制御部50は、H2/N2比の変動処理を終了する。すなわち、第2実施形態のアンモニア合成システムの運転状態は、活性化前運転から活性化後運転に移行することから、制御部50は、活性化後運転時のH2/N2比(第1実施形態と同様の1.25)になるよう第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整する。
【0049】
以上説明したように、第2実施形態のアンモニア合成システムによれば、活性化前運転時において、H2/N2比を増加させてから設定時間Δt2を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも高く、且つ、比較対象濃度よりも高くなるたびに、追加で増加制御が実行されることから、活性化前運転時の反応ガス中のH2/N2比を段階的に増加させて最適な値に近付けることができる。したがって、活性化前運転時において、アンモニアをより効率的に合成することができる。一方、活性化前運転時において、H2/N2比を増加させてから設定時間Δt2を経過した後の下流側アンモニア濃度が、最後の増加制御を行う契機となった下流側アンモニア濃度よりも低い場合には減少制御が実行されることから、活性化前運転時の反応ガス中のH2/N2比が最適な値を超えて増加し続けるのを防止することができる。
【0050】
<第3実施形態>
第3実施形態のアンモニア合成システム1aは、第1実施形態のアンモニア合成システム1と比べて、主に、流路切替部91および流路切替部92を備える点と、
図14で説明する流路切替処理および
図15で説明する温度調整処理を実行する点と、を除いて、第1実施形態のアンモニア合成システム1と同じである。
【0051】
図12は、第3実施形態のアンモニア合成システム1aの構成を例示した説明図である。流路切替部91は、流路F0を介して反応器40と接続された三方弁である。流路切替部91は、流路切替部91と第2混合器30とを接続した流路F1と、流路切替部91と流路切替部92とを接続した流路F2aと、のいずれかに反応後ガスが流れる流路を切り替える。流路切替部92は、流路F2aを介して流路切替部91と接続された三方弁である。流路切替部92は、流路切替部92と気液分離器60とを接続した流路F2bと、反応後ガスをアンモニア合成システム1aの外部に排出する流路F3と、のいずれかに反応後ガスが流れる流路を切り替える。
【0052】
例えば、反応後ガスの流れる流路が流路F1に切り替わっている場合、反応後ガスを冷却する冷却器に相当する気液分離器60を経ることなく反応後ガスは反応器40の上流側(本実施形態では第2混合器30)に循環される。一方、反応後ガスの流れる流路が流路F2a且つ流路F2bに切り替わっている場合、反応後ガスは冷却器である気液分離器60に送られる。すなわち、流路切替部91および流路切替部92は、冷却器(本実施形態では気液分離器60)を経ることなく反応後ガスを反応器40の上流側に循環させる第1流路(本実施形態では流路F1)と、反応後ガスを冷却器に送る第2流路(本実施形態では流路F2a,流路F2b)と、のいずれかに反応後ガスが流れる流路を切り替えることが可能である。
【0053】
図13は、反応器40への反応ガスの導入が開始されてから第1触媒41の温度変化の推移の一例を示した説明図である。
図13において、横軸は経過時間(h)を示し、縦軸は第1触媒41の温度(℃)を示す。タイミングT0からタイミングT2までの間は活性化前運転BEに相当する。すなわち、タイミングT0から活性化前運転BEが開始されたのちタイミングT2にて第1触媒41の温度は活性化温度CAに至る。一方、タイミングT2以降は活性化後運転AFに相当する。活性化後運転AF時にタイミングT3以降で分岐している実線の線分Lc1および破線の線分Lc2の詳細は後述する。
【0054】
図13において、第1設定温度C1は、活性化温度CAよりも低い温度の範囲内で設定された温度である。第1設定温度C1は、反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比や第1触媒41の温度に応じたアンモニア合成反応の反応効率を考慮して設定され、例えば、活性化温度CAよりも100℃低い温度を下限とした範囲内で設定される。制御部50は、活性化前運転BE時に、第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い場合、反応後ガスが流れる流路が第1流路(本実施形態では流路F1)になるよう流路切替部91を制御する。一方、制御部50は、活性化前運転BE時に、第1触媒41の温度が第1設定温度C1以上である場合、反応後ガスが流れる流路が第2流路(本実施形態では流路F2a,流路F2b)になるよう流路切替部91,92を制御する。このように流路を切り替える流路切替処理が活性化前運転BE時に実行される。
図13においては、活性化前運転BE時において、タイミングT0からタイミングT1までの間は、反応後ガスは第1流路を流れ、タイミングT1からタイミングT2までの間は、反応後ガスは第2流路を流れる。
【0055】
反応後ガスは、上流側加熱器45および下流側加熱器46にて加熱されてから反応器40に導入された反応ガスが更に発熱反応であるアンモニアの合成反応を経て反応器40から排出されたガスであるため比較的高温である。このため、第3実施形態のアンモニア合成システム1aでは、第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い間は、反応後ガスが第1流路を流れることによって冷却器である気液分離器60で冷却されることなく再び反応器40の上流側に循環することによって、反応後ガスの持つ熱エネルギーが第1触媒41や第2触媒42の加熱に再利用される。また、第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い間は、反応後ガス中に未反応の水素および未反応の窒素が比較的多く残存しているため、循環させた反応後ガスの量に応じて新規に反応器40に導入する反応ガスの量を減らすことも可能である。例えば、流路切替部91が流路F1に流す反応後ガスの流量を調整可能である場合、流路F1に流す反応後ガスの流量が多くなるほど、新規に反応器40に導入する反応ガスの量を減らしてもよい。また、流路切替部91が流路F1に流す反応後ガスの流量を調整可能でなく、流路F1に流す反応後ガスの流量が略一定である場合にも、新規に反応器40に導入する反応ガスの量は、流路F1に反応後ガスが流れていない場合と比べて、流路F1に反応後ガスが流れている場合には減らしてもよい。
【0056】
活性化前運転BE時に流路切替処理を実行する一方で、制御部50は、活性化後運転AF時には第1触媒41の温度を調整する温度調整処理を実行する。
図13において、実線の線分Lc1は、本実施形態としての温度調整処理が行われる場合の第1触媒41の温度変化を示している。破線の線分Lc2は、比較例としての温度調整処理が行われない場合の第1触媒41の温度変化を示している。なお、破線の線分Lc2のうちタイミングT5より後で実線の線分Lc1と合流して以降の部分は、実線の線分Lc1と重なっているものとする。
【0057】
図13において、第2設定温度C2は、活性化温度CAよりも高い温度の範囲内で設定された温度である。第2設定温度C2は、反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比、活性化後の第1触媒41における温度上昇の推移や第1触媒41に劣化が生じ始めるとみなされる温度等を考慮して設定される。制御部50は、活性化後運転AF時に、第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高い場合、第1触媒41の温度を低下させる温度低下制御を実行する。制御部50は、温度低下制御として、反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比を小さくする。例えば、第1,2実施形態のように、活性化後運転時の反応ガス中のH
2/N
2比が1.25になるよう制御されていた場合には、制御部50は、反応ガス中のH
2/N
2比を1.25より小さくなるよう制御する。反応ガス中のH
2/N
2比が小さくなると、アンモニアの合成反応に用いられる水素の量および窒素の量が減少し、合成反応に伴う発熱量が減少する。その結果、第1触媒41の温度を低下させることが可能となる。このように第1触媒41の温度を調整する温度調整処理が活性化後運転AF時に実行される。
図13においては、活性化後運転AF時において、タイミングT3にて第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高くなったことを契機として温度低下制御が実行されたことにより、破線の線分Lc2と比べて、実線の線分Lc1では第1触媒41の急激な温度上昇が抑制されている。その後、タイミングT5にて第1触媒41の温度が第2設定温度C2以下となったことを契機として温度低下制御は停止される。なお、タイミングT5以降においても、活性化後運転AF時である限り、再び第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高くなった場合には、温度低下制御は再度実行される。また、
図13において、タイミングT4は、実線の線分Lc1が示す第1触媒41の温度変化における反応安定化時に相当する。
【0058】
触媒が活性化した際には、触媒の温度は急激に上昇する。この急激な上昇によって触媒の温度が高温のまま維持されると、触媒の熱劣化を引き起こす可能性がある。上述したように、第3実施形態のアンモニア合成システム1aでは、第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高い場合に温度低下制御を実行することで、第1触媒41が熱劣化する可能性を低減している。
【0059】
図14は、流路切替処理の手順の一例を示すフローチャートである。流路切替処理は、活性化前運転の開始とともに実行される。流路切替処理が開始された時点では、反応後ガスが流れる流路は第1流路であるとする。
【0060】
流路切替処理が開始されると、制御部50は、まず初めに、流路切替処理が開始されてから設定時間Δt3を経過したか否か判定する(ステップS31)。設定時間Δt3を経過していない場合(ステップS31:NO)、制御部50は、設定時間Δt3を経過するまでステップS31を繰り返す。
【0061】
一方、設定時間Δt3を経過した場合(ステップS31:YES)、制御部50は、第1触媒41の温度が第1設定温度C1以上であるか否か判定する(ステップS32)。第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い場合、(ステップS32:NO)、制御部50は、再びステップS31の処理を実行し、ステップS32の処理を終えてから設定時間Δt3を経過したか否か判定する(ステップS31)。このとき、反応後ガスが流れる流路は第1流路のままで維持されている。
【0062】
一方、第1触媒41の温度が第1設定温度C1以上である場合(ステップS32:YES)、制御部50は、反応後ガスが流れる流路が第2流路になるよう流路切替部91,92を制御する(ステップS33)。その後、制御部50は、流路切替処理を終了する。
【0063】
図15は、温度調整処理の手順の一例を示すフローチャートである。温度調整処理は、活性化後運転の間、繰り返し実行される。温度調整処理が開始されると、制御部50は、まず初めに、温度調整処理が開始されてから設定時間Δt4を経過したか否か判定する(ステップS41)。設定時間Δt4を経過していない場合(ステップS41:NO)、制御部50は、設定時間Δt4を経過するまでステップS41を繰り返す。
【0064】
一方、設定時間Δt4を経過した場合(ステップS41:YES)、制御部50は、第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高いか否か判定する(ステップS42)。第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高い場合(ステップS42:YES)、制御部50は、第1触媒41の温度を低下させる温度低下制御を実行する(ステップS43)。その後、制御部50は、再びステップS41の処理を実行し、ステップS43の処理を終えてから設定時間Δt4を経過したか否か判定する(ステップS41)。本実施形態では、制御部50は、温度低下制御を実行したのち後述のステップS44の処理が実行される前に再度ステップS42にて肯定判定がなされた場合(ステップS42:YES)には、追加で温度低下制御を実行する。追加の温度低下制御においては、最後に実行した温度低下制御によって小さくなっていた反応ガス中のH2/N2比を追加の温度低下制御によって更に小さくする。このように、温度調整処理では、第1触媒41の温度が第2設定温度C2以下になるまで温度低下制御を繰り返して反応ガス中のH2/N2比を段階的に小さくする。
【0065】
一方、第1触媒41の温度が第2設定温度C2以下である場合(ステップS42:NO)、制御部50は、温度低下制御を停止する(ステップS44)。このとき、反応ガス中のH2/N2比は、温度低下制御が実行される前(活性化後運転開始時)の値になるよう制御される。なお、ステップS44の処理が実行される時点で温度低下制御が実行されていなかった場合には、反応ガス中のH2/N2比は、活性化後運転開始時の値のまま維持される。ステップS44の処理後、制御部50は、温度調整処理を終了する。温度調整処理は一旦終了されても、上述したように活性化後運転の間である限りは繰り返し実行される。
【0066】
以上説明したように、第3実施形態のアンモニア合成システム1aによれば、第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い間は、反応後ガスが気液分離器60で冷却されることなく再び反応器40の上流側に循環されることから、反応後ガスの持つ熱エネルギーを第1触媒41や第2触媒42の加熱に再利用することができる。また、第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い間においては反応後ガス中に未反応の水素および未反応の窒素が比較的多く残存しているため、循環させた反応後ガスの量に応じて新規に反応器40に導入する反応ガスの量を減らすことができる。すなわち、第3実施形態のアンモニア合成システム1aによれば、反応後ガスを循環させることによって、反応ガスを生成するために要するエネルギー(特に水素の生成に要するエネルギー)およびその反応ガスを加熱するために要する熱エネルギーを低減することができる。
【0067】
比較例として、第1触媒41の温度が第1設定温度C1よりも低い間であっても反応後ガスが反応器40の上流側に循環されない場合、反応後ガスは、流路F2bを介して気液分離器60に送られるか、もしくは、流路F3を介してアンモニア合成システム1aの外部に排出されることになる。前者の場合には、反応後ガスの持つ熱エネルギーは気液分離器60での冷却により消失する。後者の場合には、反応後ガスの持つ熱エネルギーや反応後ガス中に比較的多く存在している未反応の水素および未反応の窒素が廃棄されることになる。この点、第3実施形態のアンモニア合成システム1aによれば、第1流路を介して反応器40の上流側に反応後ガスを循環させることによって、反応後ガスの持つ熱エネルギーや反応後ガス中に比較的多く存在している未反応の水素および未反応の窒素を再利用できることから、活性化前運転時においてアンモニア合成システム1の稼働時に消費されるエネルギーを省力化することができる。
【0068】
また、第3実施形態のアンモニア合成システム1aでは、第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高い場合に温度低下制御が実行されることから、第1触媒41が熱劣化する可能性を低減することができる。
【0069】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0070】
[変形例1]
上記実施形態は一例であって、アンモニア合成システムの構成および制御等については種々変形可能である。例えば、アンモニア合成システムは、気液分離器60およびタンク70を備えておらず、アンモニア合成システムに接続している別のシステムが気液分離器60およびタンク70を備えていてもよい。アンモニア合成システムは、第1混合器10および第2混合器30を備えてなくてもよく、反応器40に接続する配管内で各種ガスが混合されてもよい。また、上記実施形態では、反応器40内には、2つの触媒(第1触媒41および第2触媒42)が収容されていたが、反応器40内には、1つの触媒のみが収容されていてもよい。
【0071】
[変形例2]
上記実施形態では、制御部50は、活性化前運転時のH2/N2比を、活性化後運転時のH2/N2比よりも小さくなるよう制御していたが、これに限られない。制御部50は、活性化前運転時のH2/N2比を、活性化後運転時のH2/N2比よりも大きくなるよう制御してもよい。触媒活性化前のアンモニア合成に適切なH2/N2比が、触媒活性化後のアンモニア合成に適切なH2/N2比よりも大きい触媒をアンモニア合成システムが備える場合には、このような制御によって、アンモニアを効率的に合成することができる。
【0072】
[変形例3]
上記実施形態では、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を制御するとともに、反応器40に導入される反応ガスの流量を制御していたが、これに限られない。例えば、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を制御するが、反応器40に導入される反応ガスの流量を制御することはなく、制御部50とは別個の制御部が、反応器40に導入される反応ガスの流量を制御してもよい。
【0073】
[変形例4]
上記実施形態では、第1触媒41の温度が活性化温度以上である場合(ステップS11:YES)、制御部50は、反応器40に導入される反応ガス中のH2/N2比を、活性化後運転時のH2/N2比として予め設定されたH2/N2比(上記実施形態では1.25)になるよう制御していたが(ステップS15)、これに限られない。例えば、制御部50は、第1触媒41の温度が活性化温度以上となったのち(ステップS11:YES)、その後の温度上昇に伴ってH2/N2比が徐々に大きくなるよう制御してもよい。換言すれば、活性化温度以上となったのちすぐに、活性化後運転時のH2/N2比として予め設定されたH2/N2比になるよう制御するのではなく、活性化温度以上となったのちその後の温度上昇に伴ってH2/N2比を大きくしていってもよいということである。第1触媒41の温度が活性化温度以上となってから反応安定化時となるまでの期間が実験結果等から予め確認されている場合には、その期間の開始タイミングから終了タイミングまでの間に、活性化前運転時のH2/N2比から活性化後運転時のH2/N2比となるよう、制御部50は、第1混合器10に供給される水素の量と窒素の量とを調整してもよい。
【0074】
上記実施形態では、反応後ガスを反応器40の上流側に循環させる第1流路(流路F1)は、第2混合器30に接続されていたが、これに限られない。第1流路は、反応器40の上流側である限り、任意の位置に接続されていてもよい。
【0075】
上記実施形態では、温度低下制御の際には、反応器40に導入される反応ガス中のH
2/N
2比を小さくするのみであったが、これに限られない。例えば、温度低下制御の際には、反応ガス中のH
2/N
2比を小さくすることに加えて、上流側加熱器45および下流側加熱器46(
図2参照)による反応ガスの加熱量を低下させたり、反応器40に導入される反応ガスの流量を低下させたりしてもよい。また、例えば、温度調整処理(
図15)にて最初の温度低下制御では、反応ガス中のH
2/N
2比を小さくすることのみを実行し、再度ステップS42にて肯定判定がなされたことによる追加の温度低下制御では、反応ガス中のH
2/N
2比を小さくすることに加えて、反応ガスの加熱量を低下させたり、反応ガスの流量を低下させたりしてもよい。また、追加の温度低下制御が実行されるたびに、反応ガス中のH
2/N
2比を段階的に小さくすることに加えて、反応ガスの加熱量を段階的に低下させたり、反応ガスの流量を段階的に低下させたりしてもよい。
【0076】
上記実施形態では、温度低下制御を実行したのち再度ステップS42にて肯定判定がなされた場合には、追加で温度低下制御を実行していたが、これに限られない。温度低下制御を実行したのち再度ステップS42にて肯定判定がなされた場合に、追加で温度低下制御を実行しなくてもよい。このような場合、最後に実行した温度低下制御によって小さくなった反応ガス中のH2/N2比をそのまま維持する。
【0077】
上記実施形態では、流路切替処理において、反応後ガスが流れる流路を第1流路から第2流路に切り替える基準として、第1触媒41と第1設定温度C1との比較が用いられていたが、これに限られない。例えば、反応後ガスが流れる流路を第1流路から第2流路に切り替える基準として、第1触媒41と第1設定温度C1との比較に加えて、第2触媒42の温度と第2触媒42用に設定された設定温度との比較が用いられてもよい。このような形態においては、第1触媒41の温度が第1設定温度C1以上であって、且つ、第2触媒42の温度が第2触媒42用に設定された設定温度以上である場合に、反応後ガスが流れる流路を第1流路から第2流路に切り替える。また、温度調整処理においても同様に、第1触媒41と第2設定温度C2との比較に加えて、第2触媒42の温度と第2触媒42用に設定された設定温度との比較が用いられてもよい。このような形態においては、第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高く、且つ、第2触媒42の温度が第2触媒42用に設定された設定温度以上である場合に、温度低下制御を実行する。
【0078】
上記実施形態では、温度調整処理において、温度低下制御を実行する基準として、第1触媒41の温度と第2設定温度C2との比較が用いられていたが、これに限られない。例えば、温度低下制御を実行する基準として、第1触媒41の温度と第2設定温度C2との比較に加えて、単位時間あたりの第1触媒41の温度上昇値(
図13に示した第1触媒41の温度変化の傾きに相当)と設定温度上昇値との比較が用いられてもよい。このような形態においては、第1触媒41の温度が第2設定温度C2よりも高く、且つ、単位時間あたりの第1触媒41の温度上昇値が設定温度上昇値よりも大きい場合に、温度低下制御が実行される。ここでいう単位時間は、任意の長さの時間であってよいが、設定温度上昇値との比較を行う時点の直前の単位時間であるのが好ましい。設定温度上昇値は、第1触媒41が活性化してから急激に上昇する温度の単位時間あたりの上昇値を参照して設定される。詳細には、単位時間あたりの第1触媒41の温度上昇値が設定温度上昇値よりも大きい場合に、第1触媒41は活性化を経て急激に温度上昇している状態であるとみなすことができるよう、設定温度上昇値は設定される。
【0079】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0080】
本発明は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
アンモニアを合成するアンモニア合成システムであって、
水素と窒素とを含む反応ガスからアンモニアを合成する合成反応を促進する触媒を収容する反応器と、
前記反応器に導入される前記反応ガス中の窒素に対する水素の割合であるH2/N2比を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記触媒が活性化したとみなされる活性化温度まで前記触媒の温度を昇温させる活性化前運転時のH2/N2比を、前記触媒の温度が前記活性化温度に到達した後の活性化後運転時のH2/N2比とは異なる値に制御する、アンモニア合成システム。
[適用例2]
適用例1に記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記活性化前運転時のH2/N2比を、前記活性化後運転時のH2/N2比よりも小さくなるよう制御する、アンモニア合成システム。
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記活性化前運転時に、
前記触媒よりも下流側にて検出される下流側アンモニア濃度が、前記触媒の温度から算出される平衡状態でのアンモニア濃度に所定割合を乗じた比較対象濃度よりも高い場合に、H2/N2比を増加させる増加制御を実行し、
H2/N2比を増加させてから設定時間を経過した後の前記下流側アンモニア濃度が、最後の前記増加制御を行う契機となった前記下流側アンモニア濃度よりも高く、且つ、前記比較対象濃度よりも高くなるたびに、前記増加制御を追加で実行し、
H2/N2比を増加させてから前記設定時間を経過した後の前記下流側アンモニア濃度が、最後の前記増加制御を行う契機となった前記下流側アンモニア濃度よりも低い場合、H2/N2比を最後の前記増加制御を行う前のH2/N2比に戻す減少制御を実行する、アンモニア合成システム。
[適用例4]
適用例1から適用例3までのいずれかに記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記反応器に導入される前記反応ガスの流量を制御し、
前記制御部は、前記活性化前運転時における前記反応ガスの流量を、前記活性化後運転時における前記流量よりも小さくなるよう制御する、アンモニア合成システム。
[適用例5]
適用例1から適用例4までのいずれかに記載のアンモニア合成システムであって、さらに、
前記反応器から排出される反応後ガスを冷却する冷却器と、
前記冷却器を経ることなく前記反応後ガスを前記反応器の上流側に循環させる第1流路と、前記反応後ガスを前記冷却器に送る第2流路と、のいずれかに前記反応後ガスが流れる流路を切り替える流路切替部と、を備え、
前記制御部は、前記活性化前運転時に、
前記触媒の温度が前記活性化温度よりも低い温度の範囲内で設定された第1設定温度よりも低い場合、前記流路が前記第1流路になるよう前記流路切替部を制御し、
前記触媒の温度が前記第1設定温度以上である場合、前記流路が前記第2流路になるよう前記流路切替部を制御する、アンモニア合成システム。
[適用例6]
適用例1から適用例5までのいずれかに記載のアンモニア合成システムであって、
前記制御部は、前記活性化後運転時に、前記触媒の温度が前記活性化温度よりも高い温度の範囲内で設定された第2設定温度よりも高い場合、前記触媒の温度を低下させる温度低下制御を実行する、アンモニア合成システム。
【符号の説明】
【0081】
1,1a…アンモニア合成システム
10…第1混合器
20…第1圧縮器
30…第2混合器
40…反応器
41…第1触媒
42…第2触媒
43…内側配管
44…外側配管
45…上流側加熱器
46…下流側加熱器
50…制御部
60…気液分離器
70…タンク
80…第2圧縮器
91,92…流路切替部
F0,F1,F2a,F2b,F3…流路