IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 山陽特殊製鋼株式会社の特許一覧

特開2024-81259鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置
<>
  • 特開-鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置 図1
  • 特開-鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置 図2
  • 特開-鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置 図3
  • 特開-鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置 図4
  • 特開-鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置 図5
  • 特開-鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081259
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】鋳型、鋳型の温度等の推定方法、鋳型の温度等の推定装置
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/00 20060101AFI20240611BHJP
   G01K 1/14 20210101ALI20240611BHJP
   B22D 7/06 20060101ALI20240611BHJP
   B22D 9/00 20060101ALI20240611BHJP
   B22D 27/04 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
B22C9/00 E
G01K1/14 L
B22D7/06 Z
B22D9/00 Z
B22D27/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194744
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】島村 祐太
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056CL13
(57)【要約】
【課題】空気層に起因する温度変化の検出タイミングのタイムラグを少なくするとともに、測温位置とベクトルとのずれを小さくすることによって、鋳型の内周面(言い換えると、異相界面)における温度及び熱流速の推定精度を向上させる。
【解決手段】インゴット鋳造に用いられる鋳型11であって、鋳型11には複数の埋設孔11Eが形成されており、各埋設孔11Eには温度検出部12Aを有する温度センサ12が埋設されており、温度検出部12Aと埋設孔11Eとの間には、熱伝導率が5W/m・K以上の熱伝導層13が配設されており、鋳型中心Oと鋳型内周面の所定の位置Cとを結んで所定方向に延びる直線を基準配置線Lと定義したとき、各温度検出部12Aと基準配置線Lとのずれ量の算術平均値が0mm以上5mm以下に設定されていることを特徴とする鋳型。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴット鋳造に用いられる鋳型であって、
該鋳型には複数の埋設孔が形成されており、各埋設孔には温度検出部を有する温度センサが埋設されており、
温度検出部と埋設孔との間には、熱伝導率が5W/m・K以上の熱伝導層が配設されており、
鋳型中心と鋳型内周面の所定の位置とを結んで所定方向に延びる直線を基準配置線と定義したとき、各温度検出部と前記基準配置線とのずれ量の算術平均値が0mm以上5mm以下に設定されていることを特徴とする鋳型。
【請求項2】
前記熱伝導層は、ペースト材によって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の鋳型。
【請求項3】
前記ペースト材は、前記埋設孔における前記温度センサの全長に亘って、前記温度センサの周囲に配設されており、
前記埋設孔の入口は、閉塞材によって閉塞されていることを特徴とする請求項2に記載の鋳型。
【請求項4】
前記温度センサは、熱電対であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の鋳型。
【請求項5】
請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の鋳型における前記所定の位置の温度及び熱流束を推定する方法であって、
前記鋳型を用いて鋳造処理を行う際に、各温度検出部により検出された温度の温度推移に基づき逆問題解析を行うことにより、前記所定の位置における温度及び熱流束を推定することを特徴とする鋳型の温度及び熱流束の推定方法。
【請求項6】
前記逆問題解析において、温度伝導率αを含む以下の非定常熱伝導方程式を用いることを特徴とする請求項5に記載の鋳型の温度及び熱流束の推定方法。
【数1】
【請求項7】
請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の鋳型における前記所定の位置の温度及び熱流束を推定する、鋳型の温度及び熱流束の推定装置であって、
前記鋳型を用いて鋳造処理を行う際に、各温度検出部により検出された温度を取得する情報取得部と、
この情報取得部が取得した温度の温度推移に基づき逆問題解析を行うことにより、前記所定の位置における温度及び熱流束を推定する推定部と、
を有することを特徴とする鋳型の温度及び熱流束の推定装置。
【請求項8】
前記逆問題解析において、温度伝導率αを含む以下の非定常熱伝導方程式を用いることを特徴とする請求項7に記載の鋳型の温度及び熱流束の推定装置。
【数2】










【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の温度及び熱流速を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、溶解された溶鋼は、インゴット鋳型に鋳込まれて所定形状の鋼塊とされた後、熱間圧延工程などに送られる。ここで、溶湯中に含まれる溶質の分布が凝固進行にともなって変化する現象を偏析といい、この偏析にはマクロ偏析が含まれる。マクロ偏析や鋳造欠陥は、鋳片の品質を左右する重要な因子である。上述の通り、マクロ偏析は鋳片が凝固する際に生じる現象であることから、マクロ偏析の発生メカニズムを理解することや、その理解を踏まえてマクロ偏析の改善方策を検討する際に、鋳片の凝固挙動を正確に把握することが必要である。
【0003】
CAE(CAE:Computer Aided Engineering)解析等を用いて凝固挙動を評価する場合、近年の測定機器や測定手法の発達により、解析条件として鋳型や溶鋼の熱的な物性値は既知である場合が多い。その一方で、凝固挙動を評価する際に障壁となる要因が、異相界面の熱伝達係数であり、この値が不明であることが多い。
【0004】
インゴット鋳造において、鋳型内に溶鋼が充填された初期段階では、鋳型内表面と溶鋼が接触していることから、これらが接触する界面の熱伝達係数は高くなる。しかしながら、鋳造時間が経過すると、鋳型は温度上昇により膨張し、一方で鋳型内の溶鋼は温度低下により凝固することから、体積収縮する。かかる現象により、鋳造中に鋳型内表面及び鋳片の界面にエアーギャップが発生し、上記した界面の熱伝達係数が大きく低下することが知られている(非特許文献1)。
【0005】
すなわち、インゴット鋳造では鋳型を介した抜熱挙動が鋳造中に大きく変化するため、この熱伝達係数の変化を正確に捉えることが、鋳型内の溶鋼の抜熱挙動を把握するうえで重要となる。
【0006】
このような異相界面の熱伝達係数を推定する方法として、異相界面の熱流束を、異相界面における温度差(インゴット鋳造では鋳片外表面温度と鋳型内表面温度の差)で除する方法が知られている。すなわち、異相界面における熱流束と温度が得られれば、熱伝達係数の推定が可能となる。
【0007】
温度や熱流束を推定する手法として、特許文献1~3には、温度測定データに基づく逆問題解析により、異相界面における温度や熱流束を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-126834号公報
【特許文献2】特開2004-292880号公報
【特許文献3】特開2007-75789号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】大浦賢一、Cristian Teodosiu、牧野内昭武、鋳造工学、第79巻(2007)、第11号、p656
【非特許文献2】仁井谷洋、芹澤良洋、光武雄一、鉄と鋼、第107号(2021)、第3号、p219
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、いずれの方法も、温度測定方法や測定位置は規定されておらず、温度測定自体の精度が熱伝達係数の推定結果に与える影響が考慮されていなかった。測定対象物と熱電対等の温度センサとの間に空気層が存在する場合、反応容器炉内の温度変化が一旦空気を介して温度センサに伝わるため、反応容器の温度変化と温度センサが検知する温度変化のタイミングにタイムラグが発生し、このタイムラグにより温度や熱流束の推定精度が低くなることが考えられる。
【0011】
インゴット鋳造では鋳造中に鋳型が熱膨張するため、測定対象物と温度センサとの間に空気層が生成し易くなり、温度や熱流束、ひいては熱伝達係数の推定精度が十分でなかった。
【0012】
例えば、円筒形の鋳型の場合、熱は内面から外面に向かって放射状に移動することから、温度測定においては、温度や熱流束を求めたい位置と溶鋼中心部とを含むベクトル上の温度分布を測定することが望ましい。しかしながら、温度センサは基本的に鋳型の外周部で固定せざるを得ないため、温度測定位置が鋳型の熱膨張によって上記したベクトルからずれてしまい、逆問題解析による温度や熱流束、ひいては熱伝達係数の推定精度が低くなるという課題があった。
【0013】
本発明は、空気層に起因する温度変化の検出タイミングのタイムラグを少なくするとともに、測温位置とベクトルとのずれを小さくすることによって、鋳型の内周面(言い換えると、異相界面)における温度及び熱流速の推定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る鋳型は、(1)インゴット鋳造に用いられる鋳型であって、該鋳型には複数の埋設孔が形成されており、各埋設孔には温度検出部を有する温度センサが埋設されており、温度検出部と埋設孔との間には、熱伝導率が5W/m・K以上の熱伝導層が配設されており、鋳型中心と鋳型内周面の所定の位置とを結んで所定方向に延びる直線を基準配置線と定義したとき、各温度検出部と前記基準配置線とのずれ量の算術平均値が0mm以上5mm以下に設定されていることを特徴とする。
【0015】
(2)前記熱伝導層は、ペースト材によって構成されていることを特徴とする上記(1)に記載の鋳型。
【0016】
(3)前記ペースト材は、前記埋設孔における前記温度センサの全長に亘って、前記温度センサの周囲に配設されており、前記埋設孔の入口は、閉塞材によって閉塞されていることを特徴とする上記(2)に記載の鋳型。
【0017】
(4)前記温度センサは、熱電対であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の鋳型。
【0018】
(5)上記(1)乃至(4)のうちいずれか一つに記載の鋳型における前記所定の位置の温度及び熱流束を推定する方法であって、前記鋳型を用いて鋳造処理を行う際に、各温度検出部により検出された温度の温度推移に基づき逆問題解析を行うことにより、前記所定の位置における温度及び熱流束を推定することを特徴とする鋳型の温度及び熱流束の推定方法。
【0019】
(6)前記逆問題解析において、温度伝導率αを含む以下の非定常熱伝導方程式を用いることを特徴とする上記(5)に記載の鋳型の温度及び熱流束の推定方法。
【数1】
【0020】
(7)上記(1)乃至(4)のうちいずれか一つに記載の鋳型における前記所定の位置の温度及び熱流束を推定する、鋳型の温度及び熱流束の推定装置であって、前記鋳型を用いて鋳造処理を行う際に、各温度検出部により検出された温度を取得する情報取得部と、この情報取得部が取得した温度の温度推移に基づき逆問題解析を行うことにより、前記所定の位置における温度及び熱流束を推定する推定部と、を有することを特徴とする鋳型の温度及び熱流束の推定装置。
【0021】
(8)前記逆問題解析において、温度伝導率αを含む以下の非定常熱伝導方程式を用いることを特徴とする上記(7)に記載の鋳型の温度及び熱流束の推定装置。
【数2】
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鋳型の内周面における温度及び熱流束の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】鋳型をXZ面で切断した断面図である。
図2】鋳型をXY面で切断した断面図である。
図3図2の鋳型の一部におけるB-B断面図である。
図4】温度センサの配置図である。
図5】推定装置の機能ブロック図である。
図6図2に対応する、実施例の鋳型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の一実施形態であるインゴット鋳造鋳型(以下、「鋳型」ともいう)をXZ面で切断した断面図である。ただし、鋳型11に埋設された温度センサは、省略して図示する。X軸、Y軸及びZ軸は互いに直交する三軸であり、三軸の定義は他の図面においても同様である。
【0025】
鋳型11は、鋳型内周面11Aを有する金型である。鋳型11の上端には、上端が下端よりも縮径した鋳型開口部11Bが形成されており、鋳型開口部11Bの外壁には、金枠11Cが設けられている。鋳型11の下端には、溶鋼MSを鋳型11の内部に注入するための注入口11Dが形成されている。注入口11Dから鋳型11の内部に充填された溶鋼MSは自然放冷されることにより、鋳型内周面11Aに沿った形状に成型される。鋳型11には、例えば鋳鉄を用いることができる。鋳鉄には、例えば球状黒鉛鋳鉄を用いることができる。
【0026】
図2は、鋳型11をXY面で切断した断面図である。図3は、図2の鋳型の一部におけるB-B断面図である。点O(以下、鋳型中心Oという)は鋳型11のXY平面における中心点であり、点Cは温度及び熱流束の推定を行う推定位置(以下、推定位置Cという)を示している。推定位置Cは、鋳型内周面11Aにおける任意の位置に設定することができる。波線L(以下、基準配置線Lという)は、鋳型中心Oと推定位置Cとを結んで鋳型径方向に延びる直線である。なお、「推定位置C」が特許請求の範囲の記載における「所定の位置」に相当する。
【0027】
鋳型11には、二つの温度センサ12が埋設されており、各温度センサ12の先端には、温度検出部12Aが設けられている。本実施形態では、温度センサ12の数を二つとしたが、本発明はこれに限るものではなく、二つ超の複数であってもよい。なお、温度センサ12が一つでは、推定位置Cの温度及び熱流束を推定できないため、温度センサ12は複数とする必要がある。
【0028】
ここで、説明の便宜上、二つの温度センサ12のうち鋳型中心側に位置する温度センサ12を内側温度センサ12、鋳型外周面側に位置する温度センサ12を外側温度センサ12と定義する。ただし、これらを特に区別する必要がない場合には、温度センサ12と表記する。
【0029】
内側温度センサ12及び外側温度センサ12の温度検出部12Aは、基準配置線L上に位置する。温度センサ12が三つ以上埋設されている場合には、それぞれの温度検出部12Aが基準配置線L上に配設される。温度センサ12には、例えば熱電対を用いることができる。熱電対は、二種類の異なる金属導体の両端を接続して閉回路を作り、両端に温度差が生じると、金属固有の熱起電力が発生し、回路中に電流が流れ(ゼーベック効果)、この原理を利用して、温度を計測する温度センサである。ただし、本発明の温度センサ12は、熱電対に限るものではなく、他の温度センサ(例えば、白金測温抵抗体、サーミスタ測温体、バイメタル式温度計、液体充満式温度計、水銀温度計)を用いることもできる。
【0030】
ただし、複数の温度センサ12のうち少なくとも一つの温度検出部12Aが、基準配置線Lからずれた位置に配設されていてもよい。図4は、その一例を示した配置図であり、二つの温度センサ12はいずれも基準配置線Lからずれた位置に配設されている。
【0031】
ここで、内側温度センサ12の温度検出部12Aと基準配置線Lとのずれ量をE1、外側温度センサ12の温度検出部12Aと基準配置線Lとのずれ量をE2と定義したとき、ずれ量E1及びE2の算術平均値は5mm以下である。
つまり、複数の温度センサ12が鋳型11に埋設されており、かつ、少なくとも一つの温度検出部12Aの配設位置が基準配置線Lからずれている場合には、ずれ量の算術平均値が5mm以下となるように、各温度センサ12が配置される。
なお、上述した温度検出部12Aが全て基準配置線L上に位置する状態は、ずれ量の算術平均値が0mmの場合に相当する。
【0032】
温度センサ12は、鋳型11の埋設孔11E(図3参照)に埋設されている。埋設孔11Eと温度センサ12との間には、熱伝導層13が形成されている。熱伝導層13は、少なくとも温度検出部12Aの周囲に配されていればよく、必ずしも埋設孔11Eの全長に亘って配されている必要はない。つまり、熱伝導層13は、埋設孔11Eの全長に亘って配されていてもよいし、温度検出部12Aの周囲を含む一部の領域に配されていてもよい。熱伝導層13の熱伝導率は、5W/m・K以上である。熱伝導層13には、導電性の接着剤やペースト材を用いることが望ましい。導電性の接着剤やペースト材であれば、熱伝導層13の配設が容易だからである。ペースト材には、例えばAgを用いることができる。
【0033】
温度センサ12を埋設孔11Eに配設した後、埋設孔11Eの入口からペースト材を注入し、ペースト材の注入後に埋設孔11Eの入口をモルタルなどで閉塞することによって、温度センサ12と埋設孔11Eとの間に熱伝導層13を配設することができる。
埋設孔11Eを閉塞することによって、ペースト材が埋設孔11Eから流出することを防止することができる。
【0034】
次に、鋳型11の推定位置Cにおける温度及び熱流束の推定方法について説明する。図5は、当該推定方法を有効に実施するための推定装置の機能ブロック図である。同図を参照して、推定装置100は、情報取得部101、記憶部102及び推定部103を有する。記憶部102には、例えば、読み書き可能なメモリ(例えば、RAM:Random Access Memory)、サーバなどを用いることができる。推定部103には、例えば、CPU(Central Processing Unit)を用いることができる。
【0035】
情報取得部101は、各温度センサ12の温度取得部12Aから温度情報を取得し、取得した温度情報を記憶部102に記憶する処理を行う。また、記憶部102には、温度情報の他、後述する逆問題解析を行うために必要な情報やプログラムが記憶されている。
【0036】
推定部103は、記憶部102に記憶された温度情報を読み出し、温度推移を把握する。ここで、予め定めた時間毎の温度から温度推移を把握することができる。例えば、鍛造を開始してからS1秒後、S2秒後、S3秒後・・・における内側温度センサ12の温度を記憶部102から取得することにより、内側温度センサ12の温度推移を把握することができる。同様に、鍛造開始してからS1秒後、S2秒後、S3秒後・・・における外側温度センサ12の温度を記憶部102から取得することにより、外側温度センサ12の温度推移を把握することができる。
【0037】
そして、推定部103は、把握した温度推移に基づき、記憶部102から逆問題解析のプログラムを読み出して、実行することにより、推定位置Cにおける温度及び熱流速を推定することができる。ここで、逆問題解析については、周知技術であるため、詳細を省略するが、例えば、温度伝導率αを含む以下の非定常熱伝導方程式を用いることにより、推定位置Cにおける温度及び熱流束を推定することができる。
【数3】
なお、かかる逆問題解析を実施する際に、鋳型の密度、比熱、熱伝導率などの情報が必要となるため、これらの情報を予め把握しておき、記憶部102に記憶させておくことが望ましい。
【0038】
本実施形態によれば、鋳型11と温度センサ12との間に熱伝導層13を配することにより、空気層が介在している場合と比較して、鋳型11のその時々の温度を正確に把握することができる。これにより、温度検出のタイムラグが減るため、推定位置Cにおける温度及び熱流束の推定精度を向上させることができる。
【0039】
また、温度検出部12Aの基準配置線Lからのずれ量の算術平均値が0mm以上5mm以下に設定されているため、鍛造時に鋳型が熱膨張して、温度センサ12の位置がずれた場合であっても、逆問題解析による温度及び熱流束の推定精度が低くなることを防止できる。
【0040】
(実施例)
以下、実施例を示して、本発明について具体的に説明する。円筒形の鋳型を用いて、SKD61(ダイス鋼)を1853Kで鋳造した。鋳型の温度推移を測定するため、事前に鋳型に熱電対を二つ埋設した。図4が本実施例の熱電対12の配置図である。内側熱電対12は鋳型11の外表面から67mmの位置に配設し、外側熱電対12は鋳型11の外表面から37mmの位置に配設した。これらの熱電対12は、温度検出部12Aが基準配置線L上に設けられるように配設した。熱電対12の埋設孔にAgからなるペースト材を注入し、熱電対12の周囲に熱伝導層を形成した。また、熱電対12を鋳型11の外周部に固定するとともに、埋設孔の入口をモルタルで閉塞することにより、ペースト材の流出を防止した。
【0041】
鋳造時の温度推移を測定し、表1の結果を得た。なお、内側熱電対12の測定温度をT1、外側熱電対12の測定温度をT2とした。
【表1】
この測定結果に基づき、逆問題解析を行い、推定位置Cの温度および熱流束を推定した。逆問題解析では、鋳型の密度,比熱及び熱伝導率をそれぞれ6900kg/m、430J/kg・K及び25W/m・Kにするとともに、上述の実施形態に記載の非定常熱伝導方程式を用い、具体的な温度や熱流束の推定手法は、非特許文献2に記載の手法にしたがった。
【0042】
表2は、推定位置Cにおける温度及び熱流束の推定結果である。
【表2】
なお、上記表1及び表2の結果が得られた鋳型をベース鋳型と称する。
【0043】
次に、表3に示す鋳型A~Pについて、上述の方法により、推定位置Cにおける温度及び熱流速を推定した。
鋳型A~Dは、ベース鋳型に対して熱伝導層を形成する熱伝導材の種類を変更した。いずれの熱伝導材も熱伝導率は5.0W/m・K以上とした。
鋳型E~Hは、ベース鋳型に対して熱伝導層を形成するペーストの種類を変更するとともに、温度検出部12Aの位置を基準配置線Lからずらした。いずれの熱伝導材も熱伝導率は5.0W/m・K以上とした。ずれ量は、内側熱電対12及び外側熱電対12の基準配置線Lに対するそれぞれのずれ量の算術平均値とした。
鋳型I~Lは、ベース鋳型に対して熱伝導層を形成する熱伝導材の種類を変更、若しくは無しとした。いずれの熱伝導材も熱伝導率は5.0W/m・K未満とした。
鋳型M~Pは、ベース鋳型に対して熱伝導層を形成する熱伝導材の種類を変更するとともに、温度検出部12Aの位置を基準配置線Lからずらした。いずれの熱伝導材も熱伝導率は5.0W/m・K以上とした。
【表3】
評価Aは、熱伝導材(熱伝導層)の有無に対応しており、熱伝導材有の鋳型を「good」で評価し、熱伝導材無の鋳型を「poor」で評価した。
評価Bは、推定した温度及び熱流束のベース鋳型に対する誤差であり、誤差が5%以下である場合には推定精度が非常に高いとして「very good」で評価し、誤差が5%超10%以下である場合には推定精度が高いとして「good」で評価し、誤差が10%超の場合には推定精度が低いとして「poor」で評価した。
【符号の説明】
【0044】
11 鋳型
11A 鋳型内周面
11B 鋳型開口部
11C 金枠
11D 注入口
11E 埋設孔
12 温度センサ(熱電対)
12A 温度検出部
13 熱伝導層
MS 溶鋼


図1
図2
図3
図4
図5
図6