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特開2024-81313粘着剤組成物、及び粘着ラベルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081313
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】粘着剤組成物、及び粘着ラベルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20240611BHJP
   G09F 3/10 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C09J133/04
G09F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194837
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥原 健太
(72)【発明者】
【氏名】嶋崎 伸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智一
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040DF021
4J040GA07
4J040HD30
4J040HD36
4J040JA03
4J040JB09
4J040KA11
4J040KA38
4J040NA06
(57)【要約】
【課題】塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避でき、かつ、被着体に対する粘着力、特にポリエチレンに対する粘着力に優れる粘着層が得られる粘着剤組成物、及びその関連技術を提供する。
【解決手段】エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)由来の構造単位(A1)と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a2)由来の構造単位(A2)と、反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)を含む重合体粒子(A)と、水性媒体とを含有し、前記重合体粒子(A)における、前記構造単位(A2)の含有率が0.1質量%以上3.0質量%以下であり、前記構造単位(A3)の含有率が0.1質量%以上4.5質量%以下であり、
前記反応性ノニオン性乳化剤(a3)が、(一般式1)X-R-O-(AO)-Hで示される、粘着剤組成物。
(一般式1)において、Xはエチレン性不飽和結合を含む基を表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキレン基または置換アルキレン基を表し、Aは炭素数2~4の、アルキレン基または置換アルキレン基を表し、nは1~100の整数を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)由来の構造単位(A1)と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a2)由来の構造単位(A2)と、反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)を含む重合体粒子(A)と、水性媒体とを含有し、
前記重合体粒子(A)における、前記構造単位(A2)の含有率が0.1質量%以上3.0質量%以下であり、前記構造単位(A3)の含有率が0.1質量%以上4.5質量%以下であり、
前記反応性ノニオン性乳化剤(a3)が、下記(一般式1)で示される、粘着剤組成物。
【化1】

(一般式1)において、Xはエチレン性不飽和結合を含む基を表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキレン基または置換アルキレン基を表し、Aは炭素数2~4の、アルキレン基または置換アルキレン基を表し、nは1~100の整数を表す。
【請求項2】
前記(一般式1)が、(一般式2)及び(一般式3)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【化2】

(一般式2)において、Rは水素原子、メチル基又はエチル基の何れかを表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、mは1~100の整数を表す。
【化3】

(一般式3)において、Yは末端二重結合を有するアルケニル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基の何れかを表し、p及びqはそれぞれ独立して1~100の整数を表す。
【請求項3】
前記重合体粒子(A)が、さらに反応性アニオン性乳化剤(a4)由来の構造単位(A4)を含む、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
さらに、非反応性乳化剤を含む、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記非反応性乳化剤が、非反応性ノニオン性乳化剤及び非反応性アニオン性乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
固形分濃度60質量%及び23℃における粘度が500mPa・s以下である、請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れか1項に記載の粘着剤組成物からなる塗布液を剥離性シートに塗工及び乾燥して粘着層を形成する工程と、
前記粘着層上に基材を配置する工程を含む、粘着ラベルの製造方法。
【請求項8】
前記塗工を、塗工速度300m/分以上で行う、請求項7に記載の粘着ラベルの製造方法。
【請求項9】
基材と、粘着層と、剥離性シートと、をこの順で備え、
前記粘着層は、請求項1~6のいずれか一項に記載の粘着剤組成物の不揮発分を含む、粘着ラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物、及び粘着ラベルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、各種分野で使用される合成樹脂において、溶剤系から水系への移行が進められている。水系の合成樹脂としては、水性エマルションが挙げられる。
粘着剤の分野でも、例えば、食品関係に使用される粘着ラベルや粘着シート(以下、粘着ラベル等という)の用途で、水性エマルション型粘着剤が好まれている。
【0003】
粘着ラベル等は、一般に、使用時に剥離される剥離性シートに粘着剤を塗工及び乾燥して粘着剤層(本明細書において粘着層と同義)を形成し、粘着剤層に基材を貼り合わせて製造される。ここで、剥離性シートは表面に剥離処理が施されているため、水性エマルション型粘着剤の場合、塗工時にハジキやチヂミが発生したり塗工面にスジが現れたりする等の欠陥を生じやすく、良好な塗工表面が得られにくい。
粘着ラベル等の生産性向上の観点からは、塗工速度の向上が求められるが、塗工速度の向上を目的として水性エマルション型粘着剤の粘度を下げた場合、塗工表面における前記の欠陥がより生じやすくなる。
【0004】
水性エマルション型粘着剤の塗工表面における前記欠陥の改善を目的として、アルキレンオキサイド含有化合物を用い、低せん断域の粘度を特定範囲に設定する技術(特許文献1)や、カーテン方式による粘着剤塗工において、高せん断速度下及び低せん断速度下における粘度を特定範囲に設定すると共に特定構造を有する非イオン系界面活性剤を後添加する技術(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献11】特開2004-143294号公報
【特許文献22】特開2009-167232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の水性エマルション型粘着剤や、特許文献2の粘着剤組成物によれば、塗工表面における前記の欠陥は改善されるが、粘着ラベル等の粘着層として使用した際の、被着体に対する粘着力、特にポリエチレンに対する粘着力に改善の余地がある。
【0007】
本発明は、粘着ラベル等の粘着層を形成する水性エマルション型粘着剤として好適な粘着剤組成物であって、塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避でき、かつ、被着体に対する粘着力、特にポリエチレンに対する粘着力に優れる粘着層が得られる粘着剤組成物、及びその関連技術の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討の結果、特定の組成の粘着剤組成物により上記課題を解決し得ることを見出した。本発明は、当該知見に基づくものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔9〕を提供するものである。
〔1〕
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)由来の構造単位(A1)と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a2)由来の構造単位(A2)と、反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)を含む重合体粒子(A)と、水性媒体とを含有し、
前記重合体粒子(A)における、前記構造単位(A2)の含有率が0.1質量%以上3.0質量%以下であり、前記構造単位(A3)の含有率が0.1質量%以上4.5質量%以下であり、
前記反応性ノニオン性乳化剤(a3)が、下記(一般式1)で示される、粘着剤組成物。
【化1】

(一般式1)において、Xはエチレン性不飽和結合を含む基を表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキレン基または置換アルキレン基を表し、Aは炭素数2~4の、アルキレン基または置換アルキレン基を表し、nは1~100の整数を表す。
〔2〕
前記(一般式1)が、(一般式2)及び(一般式3)からなる群より選択される少なくとも1種である、〔1〕に記載の粘着剤組成物。
【化2】

(一般式2)において、Rは水素原子、メチル基又はエチル基の何れかを表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、mは1~100の整数を表す。
【化3】

(一般式3)において、Yは末端二重結合を有するアルケニル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基の何れかを表し、p及びqはそれぞれ独立して1~100の整数を表す。
表す。
〔3〕
前記重合体粒子(A)が、さらに反応性アニオン性乳化剤(a4)由来の構造単位(A4)を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の粘着剤組成物。
〔4〕
さらに、非反応性乳化剤を含む、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の粘着剤組成物。
〔5〕
前記非反応性乳化剤が、非反応性ノニオン性乳化剤及び非反応性アニオン性乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔4〕に記載の粘着剤組成物。
〔6〕
固形分濃度60質量%及び23℃における粘度が500mPa・s以下である、〔1〕~〔5〕の何れかに記載の粘着剤組成物。
〔7〕
〔1〕~〔6〕の何れかに記載の粘着剤組成物からなる塗布液を剥離性シートに塗工及び乾燥して粘着層を形成する工程と、
前記粘着層上に基材を配置する工程を含む、粘着ラベルの製造方法。
〔8〕
前記塗工を、塗工速度300m/分以上で行う、〔7〕に記載の粘着ラベルの製造方法。
〔9〕
基材と、粘着層と、剥離性シートと、をこの順で備え、
前記粘着層は、〔1〕~〔6〕の何れかに記載の粘着剤組成物の不揮発分を含む、粘着ラベル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避でき、かつ、被着体に対する粘着力、特にポリエチレンに対する粘着力に優れる粘着層が得られる粘着剤組成物、及びその関連技術を提供することができる。
【0011】
本明細書において、粘着力とは、「粘着ラベルの粘着面と被着体との接触によって生じる力」と定義され、粘着ラベルを被着体から剥がす時に必要な力を意味する。
また、本明細書において、保持力とは、「粘着ラベルを被着体に貼り、長さ方向に静荷重を掛けた際に粘着剤がズレに耐える力」と定義され、粘着層の凝集力の強さを表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0013】
「エチレン性不飽和結合」とは、特に断りがない限り、ラジカル重合性を有するエチレン性不飽和結合を指す。
【0014】
エチレン性不飽和結合を有する単量体の重合体粒子において、あるエチレン性不飽和結合を有する単量体に由来する構造単位は、その単量体のエチレン性不飽和結合以外の部分の化学構造と、重合体粒子におけるその構造単位のエチレン性不飽和結合に対応する部分以外の部分の化学構造とが同じである、という対応関係を有する。例えば、アクリル酸に由来する構造単位は、重合体粒子において-CHCH(COOH)-で表される構造を有している。
【0015】
以下の説明において、ある構造単位の由来となる単量体は、その構造単位との間で上記関係にある化合物を言い、実際の製造工程で用いた単量体と一致する必要はない。
【0016】
なお、カルボキシ基のようなイオン性の官能基を有する構造単位については、特に断りがなければ、その官能基の一部が、イオン交換されていても、またはイオン交換されていなくても、同じイオン性化合物に由来する構造単位とする。例えば、-CHC(CH)(COONa)-で表される構造単位も、メタクリル酸に由来する構造単位とする。
【0017】
また、独立した複数のエチレン性不飽和結合を有する化合物については、重合体粒子の構造単位としてエチレン性不飽和結合が残っていてもよい。独立した複数のエチレン性不飽和結合とは、互いに共役ジエンを形成しない複数のエチレン性不飽和結合を言う。例えば、ジビニルベンゼンに由来する構造単位は、エチレン性不飽和結合を有さない構造(いずれのエチレン性不飽和結合に対応する部分も重合体粒子の鎖に取り込まれた形態)でもよく、1個のエチレン性不飽和結合を有する構造(一方のエチレン性不飽和結合に対応する部分のみ重合体の鎖に取り込まれた形態)でもよい。
【0018】
更に、重合後、重合体中のエチレン性不飽和結合に対応する鎖状構造以外の部分、例えばカルボキシ基等の官能基が、化学反応によりモノマーの化学構造と対応しなくなっている場合は、重合体の構造単位を、重合体中のエチレン性不飽和結合を有する化合物に由来する構造単位とする。例えば、酢酸ビニルを重合した後、けん化した場合においては、重合体の化学構造を基準に考えて、重合体の構造単位を、酢酸ビニル由来の構造単位ではなく、ビニルアルコール由来の構造単位とする。
【0019】
本明細書において、「粘着剤」とは、粘着剤組成物から水分を除いて得られた粘着剤(以後、単に「粘着剤」と表記することもある)を意味する。
前記粘着剤は、一実施形態において、前記粘着剤組成物を105℃で1分間乾燥して得られる。
【0020】
<粘着剤組成物>
本実施形態にかかる粘着剤組成物は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)由来の構造単位(A1)と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a2)由来の構造単位(A2)と、反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)を含む重合体粒子(A)と、水性媒体と、を含有してなる。
【0021】
〔重合体粒子(A)〕
重合体粒子(A)は、単量体(a1)由来の構造単位(A1)と、単量体(a2)由来の構造単位(A2)と、反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)を含む。重合体粒子(A)は、例えば、後述のように単量体(a1)、(a2)を含む単量体を、反応性ノニオン性乳化剤(a3)含む乳化剤を用いて乳化重合することで得ることができる。
構造単位(A1)、(A2)、(A3)の他に、反応性アニオン性乳化剤(a4)由来の構造単位(A4)を含んでもよい。更に、その他の単量体(a5)に由来する構造(A5)、その他の化合物(a6)に由来する構造(A6)を含んでもよい。その他の化合物(a6)としては、例えば、重合体粒子(A)の合成工程で用いる重合開始剤、シランカップリング剤、連鎖移動剤が挙げられる。
【0022】
[エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(a1)]
エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a1)の種類は特に限定されず、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
エチレン性不飽和カルボン酸エステル(a1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルからなることがより好ましい。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては特に限定されず、各種のものを用いることができ、エステルを構成するアルコール成分が炭素数1~4の直鎖状、分岐状または脂環式アルキル基の(メタ)アクリル酸エステル;エステルを構成するアルコール成分が炭素数5~7の直鎖状、分岐状または脂環式アルキル基の(メタ)アクリル酸エステル;エステルを構成するアルコール成分が炭素数8以上の直鎖状、分岐状または脂環式アルキル基の(メタ)アクリル酸エステル;などが挙げられる。
具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)クリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。なかでも、良好な粘着力、凝集力、耐熱性を発現、制御しやすいことから、メチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好適である。
【0024】
[エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a2)]
エチレン性不飽和カルボン酸(a2)は、エチレン性不飽和結合及びカルボキシ基を有する化合物である。
エチレン性不飽和カルボン酸(a2)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、シトラコン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、2-カルボキシエチルアクリレートオリゴマー、2-アクリロイルオキシエチルコハク酸等のα,β-不飽和モノまたはジカルボン酸;及びフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シュウ酸モノヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基含有ビニル化合物等が挙げられる。これらの中でも、共重合性及び耐熱性の観点からの観点から、α,β-不飽和モノカルボン酸が好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸であることがより好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸(a2)は、エチレン性不飽和結合を1つのみ有することが好ましい。
エチレン性不飽和カルボン酸(a2)のカルボキシ基は、一部または全てが塩を形成していてもよい。塩を形成している単量体(a2)としては、例えば、単量体(a2)の金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。金属塩の金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。塩の形成割合は数(mol数)基準で10%以下であることが好ましい。
【0025】
[反応性ノニオン性乳化剤(a3)]
反応性ノニオン性乳化剤(a3)は、エチレン性不飽和基を有する単量体である単量体(a1)、(a2)と共重合可能な重合性不飽和基並びに親水基及び疎水基を有するノニオンタイプの乳化剤であって、下記(一般式1)で示される。
【0026】
【化4】

(一般式1)において、Xはエチレン性不飽和結合を含む基を表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキレン基または置換アルキレン基を表し、Aは炭素数2~4の、アルキレン基または置換アルキレン基を表し、nは1~100の整数を表す。AOは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0027】
前記(一般式1)は、(一般式2)及び(一般式3)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
【化5】

(一般式2)において、Rは水素原子、メチル基又はエチル基の何れかを表し、Rは炭素数1~50の、直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、mは1~100の整数を表す。
【0029】
【化6】

(一般式3)において、Yは末端二重結合を有するアルケニル基を表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、メチル基又はエチル基の何れかを表し、p及びqはそれぞれ独立して1~100の整数を表す。
【0030】
(一般式2)に該当する化合物として、アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン、具体的にはアデカリアソープER-10、アデカリアソープER-20、アデカリアソープER-30、アデカリアソープER-40などが挙げられる。
(一般式3)に該当する化合物として、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、具体的にはラテムルPD-420、ラテムルPD-430、ラテムルPD-430S、ラテムルPD-450などが挙げられる。
【0031】
[反応性アニオン性乳化剤(a4)]
反応性アニオン性乳化剤は、エチレン性不飽和基を有する単量体である単量体(a1)、(a2)と共重合可能な重合性不飽和基並びに親水基及び疎水基を有するアニオンタイプの乳化剤である。本実施形態の重合体粒子は、ノニオン乳化剤の使用量を適正に保ち粘着力の低下を防ぐ観点から、反応性アニオン性乳化剤(a4)由来の構造単位(A4)を更に有することが好ましい。
反応性アニオン性乳化剤としては、アリル基付加ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩、メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステルナトリウム塩などが挙げられ、重合安定性の観点からアリル基付加ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩であるポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩が好ましい。具体的な商品名としてはアクアロンKH-10、アデカリアソープSR-10が挙げられる。
【0032】
[その他の単量体(a5)]
その他の単量体(a5)としては、(a1)~(a4)に該当しない、エチレン性不飽和単量体が挙げられる。例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
[その他の化合物(a6)]
その他の化合物(a6)としては、前記のとおり、例えば、重合体粒子(A)の合成工程で用いる重合開始剤、シランカップリング剤、連鎖移動剤が挙げられる。
連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ブチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、2-メルカプトエタノール、β-メルカプトプロピオン酸、メチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、ベンジルアルコール等が挙げられるがこれらに限られない。連鎖移動剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
重合体(A)におけるその他の化合物(a6)に由来する構造(A6)については、単量体(a1)~(a5)に由来する構造単位とは違い、重合開始剤、及びシランカップリング剤、連鎖移動剤等のその他の化合物の構造と、重合体粒子(A)中のその他の化合物(a6)に由来する構造との間で、上述した対応関係はなくてもよい。
【0033】
[非反応性乳化剤]
粘着剤組成物の調整には、必要に応じて非反応性乳化剤を用いてもよい。非反応性乳化剤は、重合性不飽和基を有さない。粘着剤組成物において非反応性乳化剤は、重合体粒子(A)に接触してもよいし、水性媒体中に溶解していてもよい。
非反応性乳化剤は、粘着力向上の観点から、非反応性ノニオン性乳化剤及び非反応性アニオン性乳化剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、非反応性アニオン性界面活性剤であることがより好ましい。
非反応性ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。一般的には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、エマルゲン 1135S-70(花王株式会社製)が挙げられる。
非反応性アニオン性乳化剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩等が挙げられる。より具体的には、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩としては、ハイテノール LA-16(第一工業製薬株式会社製)が挙げられる。
【0034】
[各構造単位の含有量]
重合体粒子(A)における各構造単位(A1~A6)の含有量は、上記(a1)~(a6)の配合量から、算出することができる。
各構造単位の含有量を下記数値範囲とすることで、塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避でき、かつ、被着体に対する粘着力、特にポリエチレンに対する粘着力に優れる粘着層を得ることができる。
【0035】
以下、重合体粒子(A)の構造単位の由来となる化合物の合計100質量%として換算したときの、各化合物の含有率(質量%)の値を用いて説明する。
重合体粒子(A)は、単量体(a1)と(a2)に由来する構造単位(A1+A2)を合計で90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことがより好ましく、97質量%以上含むことが更に好ましい。
単量体(a1)と(a2)に由来する構造単位(A1+A2)の含有量を90質量%以上とすることで、粘着層の凝集力を適度に保ち、高い粘着性を有する粘着層が得られる。
【0036】
単量体(a1)に由来する構造単位(A1)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
単量体(a1)に由来する構造単位(A1)の含有量を50質量%以上とすることで、粘着層のタック、濡れ性、密着力を向上させることができる。
【0037】
単量体(a1)に由来する構造単位(A1)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、99.8質量%以下であり、99.5質量%以下であることが好ましく、99.0質量%以下であることがより好ましい。
単量体(a1)に由来する構造単位(A1)の含有量を99.8質量%以下とすることで、重合中の粒子の安定性が向上するとともに、極性が適度に保たれ、高い凝集力を有する粘着層が得られる。
【0038】
単量体(a2)に由来する構造単位(A2)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、0.10質量%以上であり、0.15質量%以上であることが好ましく、0.20質量%以上であることがより好ましく、0.25質量%以上であることが更に好ましい。
単量体(a2)に由来する構造単位(A2)の含有量を0.10質量%以上とすることで、重合中の粒子の安定性が向上するとともに、極性が適度に保たれ、高い凝集力を有する粘着層が得られる。
【0039】
単量体(a2)に由来する構造単位(A2)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、3.0質量%以下であり、2.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることが更に好ましい。
単量体(a2)に由来する構造単位(A2)の含有量を3.0質量%以下とすることで、粘着剤組成物の高粘度化を防ぎ、粘着層の極性を低く保つことでポリエチレンへの粘着力を高めることができる。
【0040】
反応性ノニオン性乳化剤(a3)に由来する構造単位(A3)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、0.10質量%以上であり、0.20質量%以上であることが好ましく、0.30質量%以上であることがより好ましく、0.50質量%以上であることが更に好ましい。
反応性ノニオン性乳化剤(a3)に由来する構造単位(A3)の含有量を0.10質量%以上とすることで、塗工時の塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を防ぐことができる。
【0041】
反応性ノニオン性乳化剤(a3)に由来する構造単位(A3)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、4.5質量%以下であり、4.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましい。
反応性ノニオン性乳化剤(a3)に由来する構造単位(A3)の含有量を4.5質量%以下とすることで、粘着層の粘着力、凝集力を適度に保ち、高い粘着性を有する粘着層が得られる。
【0042】
反応性アニオン性乳化剤(a4)に由来する構造単位(A4)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。
反応性アニオン性乳化剤(a4)に由来する構造単位(A4)の含有量を0.1質量%以上とすることで、重合中の粒子の安定性を向上させることができる。
【0043】
反応性アニオン性乳化剤(a4)に由来する構造単位(A4)の、重合体粒子(A)に対する含有量は、4.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.5質量%以下であることが更に好ましい。
反応性アニオン性乳化剤(a4)に由来する構造単位(A4)の含有量を4.0質量%以下とすることで、粘着剤組成物の高粘度化を防ぐと共に粘着層の凝集力を高く保つことができる。
【0044】
粘着剤組成物における非反応性乳化剤の、重合体粒子(A)100質量部に対する含有量は、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることが更に好ましい。
非反応性乳化剤の含有量を0.1質量部以上とすることで、重合中の粒子の安定性を向上させることができ、その分の反応性乳化剤の使用量を少なくできるため粘着力を向上させることができる。
【0045】
粘着剤組成物における非反応性乳化剤の、重合体粒子(A)100質量部に対する含有量は、4.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましく、2.5質量部以下であることが更に好ましい。
非反応性乳化剤の含有量を4.0質量部以下とすることで、粘着剤組成物の高粘度化を防ぐと共に粘着層の凝集力を高く保つことができる。
【0046】
〔粘着剤組成物の製造方法〕
粘着剤組成物は、公知の方法で調整できるが、例えば、前記の各単量体を含む単量体混合物を水性媒体中で乳化重合して得ることができる。
【0047】
単量体混合物の乳化重合の条件は特に制限されるものではなく、例えば、水性媒体中に、前記反応性乳化剤及び重合開始剤の存在下で、好ましくは50~100℃程度の温度で1~30時間程度反応を行えばよい。なお、必要に応じて連鎖移動剤、キレート化剤、pH調整剤、溶媒等を添加してもよい。
【0048】
水性媒体は、水、親水性の溶媒、またはこれらの混合物である。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。重合安定性の観点から、水性媒体は水であることが好ましい。なお、重合安定性を損なわない限り、水性媒体として、水に親水性の溶媒を添加したものを用いてもよい。
【0049】
乳化重合で使用する乳化剤としては、前記の反応性乳化剤を用いるが、重合体粒子の粘着力をより一層向上させる観点から、上記非反応性乳化剤と組み合わせて使用することもできる。
【0050】
重合開始剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性重合開始剤、あるいはこれらの水溶性重合開始剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤を使用することができる。これらの中でも、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムが好ましい。還元剤としては、例えば、二亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、L-アスコルビン酸またはその塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、硫酸第一鉄、グルコース等が挙げられる。これらの中でも、二亜硫酸ナトリウムが好ましい。
【0051】
また、油溶性重合開始剤も単量体あるいは溶媒に溶解して使用することができる。この油溶性重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビスシクロヘキサン-1-カルボニトリル、2,2’-アゾビスイソバレロニトリル、2,2’-アゾビスイソカプロニトリル、2,2’-アゾビス(フェニルイソブチロニトリル)、ベンゾイルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、パラメンタンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノールパーオキシド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)等が挙げられる。これらの中でも、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキシド、パラメンタンハイドロパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノールパーオキシド、t-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)が好ましい。
【0052】
重合開始剤の使用量は、単量体混合物100質量部当たり、好ましくは0~2質量部程度である。
【0053】
連鎖移動剤としては、ハロゲン化炭化水素(例えば四塩化炭素、クロロホルム、ブロモホルム等)、メルカプタン類(例えばn-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン等)、キサントゲン類(例えばジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等)、テルペン類(例えばジペンテン、ターピノーレン等)、チウラムスルフィド類(例えばテトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチルチウラムジスルフィド等)が挙げられる。
【0054】
連鎖移動剤の使用量は、単量体混合物100質量部当たり、好ましくは0~0.5質量部程度である。
【0055】
粘着剤組成物の調整には、各種添加剤を用いることができる。pH調整剤としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられる。また、pH調整剤の使用量は、単量体混合物100質量部当たり、好ましくは0~3質量部程度である。
【0056】
水性媒体中で単量体混合物を乳化重合する際には、単量体混合物は種々の方法で添加することができる。添加方法としては、単量体混合物の全量を一括して添加する方法、単量体混合物の一部を仕込んで反応させた後、残りの単量体混合物を連続または分割して仕込む方法、反応させた粒子の一部を仕込んだ後、残りの単量体混合物を連続または分割して仕込む方法、単量体混合物の全量を連続または逐次分割して仕込む方法などがあるが、単量体混合物の一部を仕込んで反応させた後、残りの単量体混合物を連続または分割して仕込む方法もしくは、反応させた粒子の一部を仕込んだ後、残りの単量体混合物を連続または分割して仕込む方法が好ましい。
【0057】
<粘着剤組成物の諸物性>
上記の方法で得られた粘着剤組成物は、そのままの状態で、または適宜、固形分濃度、粘度を調節して使用することができる。
【0058】
固形分濃度は、例えば、20~75質量%、好ましくは30~70質量%、更に好ましくは40~65質量%に調整する。
固形分濃度を40~65質量%とすることで、塗工後の乾燥時間が短縮でき、生産性の向上に資する。
【0059】
固形分濃度60%及び23℃雰囲気下での粘度は、BL型粘度計を用いて23℃、60rpmにて測定したとき、好ましくは500mPa・s以下、より好ましくは400mPa・s以下であり、更に好ましくは350mPa・s以下である。また、300mPa・s以下であってもよく、250mPa・s以下であってもよい。
前記測定条件における粘度を500mPa・s以下とすることで、高速塗工が可能となり、かつ、塗工表面のハジキ等の欠陥を回避することができる。
前記測定条件における粘度は、塗工性の観点から、50mPa・s以上であることが好ましく、100mPa・s以上であることがより好ましい。
【0060】
本実施形態の粘着剤組成物は、粘着ラベルの作製用途に好適に用いることができる。より具体的には、基材と、基材上に形成された粘着層と、剥離性シートとを、この順で備える粘着ラベルにおける、粘着層の形成に用いることができる。
【0061】
<粘着ラベル>
〔粘着ラベルの構成〕
前記粘着剤組成物の代表的な用途として、粘着ラベルがある。本明細書における「粘着ラベル」の概念には、「粘着シート」と称されるものが包含され得る。本実施形態にかかる粘着ラベルは、基材と、前記基材上に形成された粘着層と、剥離性シートとを、この順で備える。
【0062】
剥離性シートは、従来から公知の材料を適宜選択することができる。例えば、グラシン紙、クレーコート紙、フィルムラミネート紙、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム等にシリコン化合物の剥離剤を塗布したもの等が挙げられる。
基材は、粘着ラベルの用途で従来から公知の材料を適宜選択することができる。例えば、和紙、感熱紙、キャストコート紙、上質紙等の紙などが挙げられる。
【0063】
粘着層は、前記粘着剤組成物から、水性媒体を除いて得られた不揮発分の膜である粘着剤を含む。粘着層はこの粘着剤の他に、添加剤等が含まれていてもよい。粘着剤組成物を塗布して作製された粘着ラベルでは、粘着層には粘着剤組成物の不揮発分が含まれる。
粘着層の厚さは10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、18μm以上であることが更に好ましい。粘着層を被着物の表面に追従させるために十分に変形させることができるからである。粘着層の厚さは、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。粘着層の凝集破壊を抑制するためである。粘着層は2つ以上の粘着層を含んでもよい。
また、本発明の粘着ラベルは、基材、粘着層以外にも、発明の効果を損なわない範囲で他の層(例えば、中間層、下塗り層など)を備えてもいてもよい。
粘着ラベルの被着体の素材としては、例えば鉄、アルミ、ステンレス等の金属、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS等の樹脂などが挙げられる。これらの被着体は表面処理されていてもよい。本実施形態の粘着ラベルは、被着体として、特にポリエチレン、ポリプロピレン等の極性が低い素材に対する粘着力に優れるため、これらの素材が用いられた物品に好適に用いることができる。
【0064】
〔粘着ラベルの製造方法〕
粘着ラベルの製造方法は、粘着剤組成物からなる塗布液を剥離性シートに塗工及び乾燥して粘着層を形成する工程と、前記粘着層上に基材を配置する工程を含む。
【0065】
前記粘着剤組成物は、剥離シート上への高速塗工(例えば100m/分以上の速度)が可能であり、塗工速度300m/分以上でも良好な塗工面を得ることができる。
高速塗工のための塗工装置としては、リバースロールコーター、エアーナイフコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースグラビアコーター、スロットダイコーター、リップコーター、カーテンダイコーター等が挙げられるが、粘着剤を加圧して押し出して基材に塗布する高速塗工に適したファウンテンコーターであるスロットダイコーター、リップコーター、カーテンダイコーター等も望ましい。
なお、本発明によれば、100m/分未満の通常速度ないし低速塗工の場合であっても粘着層に筋、ハジキ、チヂミ、液ダレ等が発生せず、かつ生産性に優れる粘着シートが得られることは勿論である。
【0066】
粘着剤組成物の塗布量は特に限定されないが、10~500g/mであることが好ましい。塗布された粘着剤組成物の乾燥温度は、特に限定されないが、20~160℃であることが好ましい。十分な粘着力と凝集力を有する粘着層が得られるためである。
【0067】
粘着層を形成する工程においては、例えば、塗布された粘着剤組成物を105℃で1分間乾燥し、水性媒体を除去することが好ましい。
【実施例0068】
以下、本発明の実施例及び比較例について説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0069】
表1における各成分の略称は、それぞれ以下の意味のとおり。
<エチレン性不飽和カルボン酸エステル>
BuA:ブチルアクリレート
2EHA:2-エチルヘキシルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
<エチレン性不飽和カルボン酸>
Aa:アクリル酸
MAa:メタクリル酸
<反応性ノニオン乳化剤>
アデカリアソープ ER-20(株式会社ADEKA製:アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン)、一般式(2)に該当
アデカリアソープ ER-10(株式会社ADEKA製:アリルオキシメチルアルコキシエチルヒドロキシポリオキシエチレン)、一般式(2)に該当
ラテムル PD-430S(花王株式会社製):ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、一般式(3)に該当
<反応性アニオン乳化剤>
アクアロンKH-10(第一工業製薬株式会社製:アリル基付加ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩)
<非反応性ノニオン乳化剤>
エマルゲン 1135S-70(花王株式会社製:ポリオキシエチレンアルキルエーテル)
<非反応性アニオン乳化剤>
ハイテノール LA-16(第一工業製薬株式会社製:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩)
【0070】
<粘着剤組成物の作製>
(実施例1)
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下ロートを有する反応容器中にイオン交換水を124質量部仕込み75℃まで昇温した。一方、イオン交換水を93質量部、ブチルアクリレートを575質量部、メチルメタクリレートを20質量部、アクリル酸を2質量部、アデカリアソープER-20を7質量部、アクアロンKH-10を5質量部同一容器に入れ、ホモミキサーを使用して乳化することで混合乳化液(A)を得た。
上記反応容器中に過硫酸アンモニウム0.10質量部、二亜硫酸ナトリウム0.12質量部を添加した後に混合乳化液(A)に、6質量%過硫酸アンモニウム水溶液25質量部、2質量%二亜硫酸ナトリウム水溶液25質量部をそれぞれ独立に、3時間かけて反応容器中に滴下することにより重合反応を行った。この間、反応容器内は75℃に保った。
滴下終了後、75℃にて1時間熟成した後に室温に冷却し、アンモニア水を2.3質量部、粘着付与剤ハリエスターSK-822Eを5質量部添加した。固形分が60質量%となるようにイオン交換水を添加し、水性エマルション、すなわち粘着剤組成物を調製した。
得られた粘着剤組成物を1.0gとり、105℃で1時間乾燥して次式により固形分を算出した結果を表1に示す。
固形分(質量%)=(乾燥重量(g)/1.0(g))×100
得られた粘着剤組成物につき、BL型粘度計を用いて、固形分濃度60質量%及び23℃雰囲気下での60rpmにおける粘度を測定した結果を表1に示す。
【0071】
(実施例2~10)
表1に記載の各配合を用いる以外は実施例1と同様にして、実施例2~8の粘着剤組成物を得た。固形分及び粘度の測定結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1~6)
表2に記載の各配合を用いる以外は実施例1と同様にして、粘着剤組成物を得た。固形分及び粘度の測定結果を表2に示す。
【0073】
<試験片の作製>
実施例1~10及び比較例1~6で得られた粘着剤組成物を用いて、55μm厚の剥離性シート(素材:グラシン紙)に、乾燥後の粘着層の膜厚が13μmとなるように塗布し、105℃で1分間乾燥して、感熱紙を貼り合せることで感熱紙上に粘着層を形成した試験片を作成した。乾燥後に得られた粘着層の膜厚は、13μmであった。
【0074】
<試験片の評価>
各試験片について、以下の評価をした。評価結果は表1、表2に示すとおりである。なお、以下の説明において、各実施例及び比較例における操作は特に断りがなければ共通する。
【0075】
<塗工性:ハジキ・チヂミ>
粘着剤組成物の塗工面のハジキ・チヂミを目視で確認した。
○⇒ハジキ・チヂミなし。
×⇒ハジキ・チヂミあり。
【0076】
<粘着物性:粘着力>
23℃×50%RH雰囲気下において、日本テストパネル製ポリエチレン板に1インチ幅の試験片を、2kgローラーを2往復させることで貼り合せた。1分間放置した後に300mm/分の速度で引き剥がし、その強度を粘着力(N/cm)とした。
測定結果を表1、2に示す。
【0077】
<粘着物性:保持力>
23℃×50%RH雰囲気下において、SUS304 BA板に1インチ幅の試験片の端部1インチを、2kgローラーを2往復させることで貼り合せた。1分間放置した後に試験片に1kgの荷重を掛け、落下するまでの時間(分)を測定した。
測定結果を表1、2に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】
【0080】
<評価結果>
表1、表2に示される通り、実施例1~10にかかる粘着剤組成物を用いることで、塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避でき、かつ、被着体に対する粘着力、特にポリエチレン板に対する粘着力に優れる粘着層が得られる。
【0081】
一方、表2に示される通り、反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)を含まない比較例1~3、5では、何れも、塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避できない。
【0082】
反応性ノニオン性乳化剤(a3)由来の構造単位(A3)の含有率が4.8質量%であって、「0.1質量%以上4.5質量%以下」の要件を満足しない比較例4では、十分な粘着力及び保持力が得られない。乳化剤の使用量の増加により、重合体粒子の粒子径が小さくなることに起因するものと推測される。
【0083】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体(a2)由来の構造単位(A2)の含有率が3.6質量%であって、「0.1質量%以上3.0質量%以下」の要件を満足しない比較例6でも、十分な粘着力及び保持力が得られない。エマルション粒子表面のTgが高くなること及び粘着層の極性が高くなることに起因するものと推測される。
【0084】
以上の通り、本発明によれば、塗工表面におけるハジキやチヂミ等の欠陥の発生を回避でき、かつ、被着体に対する粘着力、特にポリエチレンに対する粘着力に優れる粘着層が得られる粘着剤組成物を提供することができる。