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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081348
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】スピンMOSFET
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/82 20060101AFI20240611BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H01L29/78 301G
H01L29/78 301S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194902
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100153224
【弁理士】
【氏名又は名称】中原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 圭介
(72)【発明者】
【氏名】浜屋 宏平
【テーマコード(参考)】
5F092
5F140
【Fターム(参考)】
5F092AA15
5F092AC24
5F092BD04
5F092BD20
5F092BD21
5F092CA03
5F140AA24
5F140AA29
5F140AA39
5F140AC31
5F140BA03
5F140BC12
5F140BD05
5F140BD18
5F140BE03
5F140BE10
5F140BF05
5F140BF10
5F140BH05
5F140BH47
5F140BJ06
5F140BJ11
5F140BJ15
5F140BJ20
5F140BJ25
5F140BK17
5F140BK29
5F140BK30
(57)【要約】
【課題】オン時及びオフ時の性能が向上されたスピンMOSFETを提供する。
【解決手段】スピンMOSFET1は、トップゲート型のスピンMOSFETであって、第1導電型を有する半導体層(例えば、p型半導体層10)と、半導体層上に設けられるゲート絶縁膜80と、半導体層上にゲート絶縁膜80を介して設けられるゲート電極70と、半導体層上に設けられ、それぞれが強磁性金属層を有するソース電極50及びドレイン電極60と、ソース電極50と半導体層との間に設けられ、第1導電型と異なる第2導電型を有する第1半導体層(例えば、n型半導体層20a)と、ドレイン電極60と半導体層との間に設けられ、第2導電型を有する第2半導体層(例えば、n型半導体層20b)とを備え、ゲート絶縁膜80は、ソース電極50及びドレイン電極60の間において、ゲート電極70と、第1半導体層及び第2半導体層より下方の位置との間に渡って設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップゲート型のスピンMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であって、
第1導電型を有する半導体層と、
前記半導体層上に設けられるゲート絶縁膜と、
前記半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介して設けられるゲート電極と、
前記半導体層上に設けられ、それぞれが強磁性金属層を有するソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第1導電型と異なる第2導電型を有する第1半導体層と、
前記ドレイン電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第2導電型を有する第2半導体層とを備え、
前記ゲート絶縁膜は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間において、前記ゲート電極と、前記第1半導体層及び前記第2半導体層より下方の位置との間に渡って設けられる
スピンMOSFET。
【請求項2】
前記第1半導体層及び前記第2半導体層の厚みは、10nm以上30nm以下である
請求項1に記載のスピンMOSFET。
【請求項3】
前記ゲート電極に印加される電圧が10V以下の範囲におけるキャリア移動度のピーク値は、200cm/Vs以上である
請求項1又は2に記載のスピンMOSFET。
【請求項4】
前記キャリア移動度のピーク値は、300cm/Vs以上である
請求項3に記載のスピンMOSFET。
【請求項5】
前記第1導電型は、p型であり、
前記第2導電型は、n型である
請求項1又は2に記載のスピンMOSFET。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピンMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ソース電極及びドレイン電極が磁性体を含んで構成されるスピンMOSFETの研究開発が行われている。スピンMOSFETは、電荷及びスピンの両方の自由度を利用したデバイスであり、メモリ及びトランジスタの機能を1つの素子で実現することができ、新たな付加価値を提供できるデバイスとして期待されている。例えば、特許文献1には、バックゲート型のスピンMOSFETが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/076298号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、スピンMOSFETにおいて、オン時及びオフ時の性能が向上されることが望まれる。しかしながら、特許文献1の技術では、オン時及びオフ時の性能の向上が困難である。
【0005】
そこで、本開示は、オン時及びオフ時の性能が向上されたスピンMOSFETを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るスピンMOSFETは、トップゲート型のスピンMOSFETであって、第1導電型を有する半導体層と、前記半導体層上に設けられるゲート絶縁膜と、前記半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介して設けられるゲート電極と、前記半導体層上に設けられ、それぞれが強磁性金属層を有するソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第1導電型と異なる第2導電型を有する第1半導体層と、前記ドレイン電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第2導電型を有する第2半導体層とを備え、前記ゲート絶縁膜は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間において、前記ゲート電極と、前記第1半導体層及び前記第2半導体層より下方の位置との間に渡って設けられる。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、オン時及びオフ時の性能が向上されたスピンMOSFETを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係るスピンMOSFETの構成を示す断面図である。
図2図2は、実施の形態に係るスピンMOSFETの構成を示す平面図である。
図3図3は、検証に用いたMOSFETの構成の第1例を示す断面図である。
図4図4は、検証に用いたMOSFETの構成の第2例を示す断面図である。
図5図5は、検証に用いたMOSFETのサンプル条件を示す図である。
図6図6は、MOSFETにおける掘り下げ深さと抵抗との関係を示す図である。
図7図7は、図6に示す掘り下げ深さと抵抗との関係を説明するための第1図である。
図8図8は、図6に示す掘り下げ深さと抵抗との関係を説明するための第2図である。
図9図9は、実施の形態に係るスピンMOSFETの出力特性を示す図である。
図10図10は、実施の形態に係るスピンMOSFETのキャリア移動度を示す図である。
図11図11は、実施の形態に係るスピンMOSFETの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示に至った経緯)
本開示の説明に先立ち、本開示に至った経緯について説明する。
【0010】
上記の「背景技術」で記載した特許文献1には、半導体層としてn型半導体層のみを備えるスピンMOSFETが開示されている。このようなスピンMOSFETでは、ソースドレイン間(強磁性体間)がn型半導体層で構成されるので、ゲート電極の印加電圧をしきい値電圧以下(例えば、0V又はマイナス)にするオフ時であっても、依然として存在する多数キャリア(電子)によりソースドレイン間に電流が流れてしまうので、ノーマリーオフを実現することが困難である。また、特許文献1のスピンMOSFETは、磁性体と半導体との間にトンネル絶縁膜を挿入している構造であるため、オン時の電流を増やすことが困難である。つまり、特許文献1のスピンMOSFETは、オン時及びオフ時の性能に改善の余地がある。
【0011】
そこで、本願発明者らは、オン時及びオフ時の性能が向上されたスピンMOSFETについて鋭意検討を行い、以下に示すスピンMOSFETを創案した。
【0012】
また、さらに、特許文献1のスピンMOSFETは、バックゲート構造であり、集積化して動作させることができず、かつ、オン時にゲート電極に大きな電圧を印加させる必要があるので、コンピュータ等に用いることが困難である。本開示では、これらの課題も解決可能なスピンMOSFETについて説明する。
【0013】
本開示の一態様に係るスピンMOSFETは、トップゲート型のスピンMOSFETであって、第1導電型を有する半導体層と、前記半導体層上に設けられるゲート絶縁膜と、前記半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介して設けられるゲート電極と、前記半導体層上に設けられ、それぞれが強磁性金属層を有するソース電極及びドレイン電極と、前記ソース電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第1導電型と異なる第2導電型を有する第1半導体層と、前記ドレイン電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第2導電型を有する第2半導体層とを備え、前記ゲート絶縁膜は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間において、前記ゲート電極と、前記第1半導体層及び前記第2半導体層より下方の位置との間に渡って設けられる。
【0014】
これにより、ゲート絶縁膜が第1半導体層及び第2半導体層より下方の位置まで設けられるので、反転層と第1半導体層及び第2半導体層とを面接触させることができ、反転層と第1半導体層及び第2半導体層との界面の抵抗を下げることができる。つまり、オン時に流れる電流量を増やすことができる。また、ソース電極及びドレイン電極と半導体層との間に当該半導体層と導電型が異なる半導体層が設けられるのでこの部分がPN接合として働き、オフ時に、ソース電極及びドレイン電極と半導体層との間に電流が流れることを抑制することができる。よって、本開示の一態様によれば、オン時及びオフ時の性能が向上されたスピンMOSFETを実現することができる。
【0015】
また、例えば、前記第1半導体層及び前記第2半導体層の厚みは、10nm以上30nm以下であってもよい。
【0016】
これにより、第1半導体層及び第2半導体層の厚みが10nm以上であるので、オフ時に電流が流れることを効果的に抑制することができる。また、第1半導体層及び第2半導体層の厚みが30nm以下であるので、スピンの伝導距離が長くなりメモリ機能が低下することを抑制することができる。
【0017】
また、例えば、前記ゲート電極に印加される電圧が10V以下の範囲におけるキャリア移動度のピーク値は、200cm/Vs以上であってもよい。
【0018】
これにより、キャリア移動度のピーク値が200cm/Vs以上であるので、オン時の性能がより向上されたスピンMOSFETを実現することができる。
【0019】
また、例えば、前記キャリア移動度のピーク値は、300cm/Vs以上であってもよい。
【0020】
これにより、キャリア移動度のピーク値が300cm/Vs以上であるので、オン時の性能がさらに向上されたスピンMOSFETを実現することができる。
【0021】
また、例えば、前記第1導電型は、p型であり、前記第2導電型は、n型であってもよい。
【0022】
これにより、p型半導体層及びn型半導体層を備えるスピンMOSFETにおいて、オン時及びオフ時の性能を向上することができる。
【0023】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0024】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ(工程)、ステップ(工程)の順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0025】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0026】
また、本明細書および図面において、X軸、Y軸及びZ軸は、右手系の三次元直交座標系の三軸を示している。実施の形態では、Z軸方向をスピンMOSFETの各層の積層方向(厚み方向)としている。また、本明細書において、「平面視」とは、スピンMOSFETの厚み方向に沿ってスピンMOSFETを見ることを意味する。
【0027】
また、本明細書において、平行、等しい等の要素間の関係性を示す用語、及び、六角形、矩形などの要素の形状を示す用語、並びに、数値、及び、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度(例えば、10%程度)の差異をも含むことを意味する表現である。
【0028】
また、本明細書において、「〇〇上(例えば、基板上)」、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「〇〇上(例えば、基板上)」、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに接する状態で配置される場合にも適用される。
【0029】
また、本明細書において、「第1」、「第2」などの序数詞は、特に断りの無い限り、構成要素の数又は順序を意味するものではなく、同種の構成要素の混同を避け、区別する目的で用いられている。
【0030】
(実施の形態)
以下、本実施の形態に係るスピンMOSFETについて、図1図11を参照しながら説明する。
【0031】
[1.スピンMOSFETの構成]
まず、本実施の形態に係るスピンMOSFETの構成について、図1及び図2を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係るスピンMOSFET1の構成を示す断面図である。図2は、本実施の形態に係るスピンMOSFET1の構成を示す平面図である。図2では、スピンMOSFET1が備える各構成要素のうち、p型半導体層10と強磁性金属層30a及び30bとを実線で示し、ゲート電極70を破線で示している。また、図2に示す矢印は、磁化の向きを示す。
【0032】
図1に示すように、スピンMOSFET1は、p型半導体層10と、n型半導体層20a及び20bと、ソース電極50と、ドレイン電極60と、ゲート電極70と、ゲート絶縁膜80とを有する。各層は、基板(図示しない)の同一面上に形成されており、スピンMOSFET1は、トップゲート型のスピンMOSFETである。スピンMOSFET1がトップゲート型であることで、スピンMOSFET1の高集積化が容易となる。
【0033】
スピンMOSFET1は、さらに、ゲート絶縁膜80がn型半導体層20a及び20bよりZ軸マイナス側の位置まで掘り下げられて設けられる掘り下げ部90を有する。スピンMOSFET1は、電流を伝導するチャネルがn型半導体層20a及び20bに対して、掘り下げられるように形成される。掘り下げ部90は、リセスチャネル構造、ゲートリセス構造等とも称される。
【0034】
p型半導体層10は、基板(例えば、シリコン基板)上に形成され、チャネルとしての反転層が形成される半導体層である。p型半導体層10は、p型不純物を含む半導体層である。本実施の形態では、p型半導体層10は、p型のゲルマニウム(Ge)である。ゲルマニウムは、強磁性金属層30a及び30bを構成する材料をエピタキシャル成長させやすく、かつ、抵抗が低いことから好適である。
【0035】
なお、p型半導体層10は、ゲルマニウム以外又はゲルマニウムとともに他の材料を含んでいてもよい。また、p型半導体層10は、強磁性金属層30a及び30bをエピタキシャル成長可能な材料を含んで構成されてもよい。なお、p型不純物の例としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等が挙げられる。また、p型不純物を添加せず、結晶欠陥に由来する性質を用いてp型半導体層を構成してもよい。p型は、第1導電型の一例である。
【0036】
p型半導体層10の上面(Z軸プラス側の面)は、掘り下げ部90(凹部)及び凸部11を交互に配置された凹凸構造を有する。一の凸部11上にn型半導体層20aと、ソース電極50とがこの順に積層されており、他の一の凸部11上にn型半導体層20bと、ドレイン電極60とがこの順に積層されている。また、隣り合う凸部11の間には、ゲート絶縁膜80が設けられる。
【0037】
なお、基板は、各半導体層等の基台となる絶縁性の板状部材であり、例えば、シリコン基板である。また、本実施の形態では、基板とp型半導体層10とにより、ゲルマニウムを含む半導体層が形成される。
【0038】
n型半導体層20a及び20bは、p型半導体層10の凸部11上に設けられる、n型不純物を含む半導体層である。本実施の形態では、n型半導体層20a及び20bは、n型のゲルマニウム(Ge)である。なお、n型不純物の例としては、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)等が挙げられる。n型は、第2導電型の一例である。第2導電型は、第1導電型と反対の導電型である。
【0039】
n型半導体層20aは、ソース電極50とp型半導体層10との間に設けられるn型を有する半導体層である。n型半導体層20bは、ドレイン電極60と、p型半導体層10との間に設けられるn型を有する半導体層である。n型半導体層20a及び20bは、p型半導体層10と直接接触して設けられる。つまり、n型半導体層20aとp型半導体層10との境界面、及び、n型半導体層20bとp型半導体層10との境界面のそれぞれは、pn接合面(界面)でpn接合されている。n型半導体層20aは、第1半導体層の一例であり、n型半導体層20bは、第2半導体層の一例である。
【0040】
例えば、n型半導体層20a及び20bを備えていないスピンMOSFETでは、強磁性金属層30a及び30bとp型半導体層10とが直接接触しており、スピンMOSFETがオフとなり、かつ、ドレイン電極にプラスの電圧が印加されていると、p型半導体層の多数キャリアである正孔が電流の運ぶ担い手となりソースドレイン間に電流が流れてしまう。つまり、スピンMOSFETのオフ時にソースドレイン間に電流の流れを遮断することができない。
【0041】
一方、本実施の形態に係るスピンMOSFET1では、強磁性金属層30a及び30bとp型半導体層10との間にn型半導体層20a及び20bが設けられ、n型半導体層20a及び20bとp型半導体層10とがpn接合されるので、スピンMOSFET1がオフとなり、かつ、ドレイン電極60にプラスの電圧が印加されている場合であっても、キャリア(正孔)により電流が流れることを抑制することができる。つまり、スピンMOSFET1は、スピンMOSFET1のオフ時にソースドレイン間に電流の流れを遮断することができるので、ノーマリーオフを実現できる。なお、オフ時とは、ゲート電極70に0V又はマイナスの電圧が印加されている状態を意味する。
【0042】
n型半導体層20aの厚みT1は、スピンMOSFET1のオフ時に電流が流れることを効果的に抑制する観点から、10nm以上であるとよい。また、厚みT1は、スピンがn型半導体層20aを伝導する長さを短くする観点から薄いとよく、例えば、30nm以下であるとよい。このことから、n型半導体層20aの厚みT1は、10nm以上30nm以下であるとよい。また、n型半導体層20bの厚みT1も同様である。
【0043】
ソース電極50は、基板上に設けられる、強磁性金属層30aを有する電極である。ソース電極50は、強磁性金属層30aと、保護金属層40aと、配線層50aとを有する。なお、ソース電極50は、少なくとも強磁性金属層30aを有していればよい。また、ソース電極50は、さらにn型半導体層20aを有していてもよい。
【0044】
強磁性金属層30aは、n型半導体層20aと保護金属層40aとの間に設けられる、強磁性体により形成される金属層である。強磁性金属層30aは、コバルト、マンガン及びシリコンの合金により形成され、さらに鉄を含んで形成されてもよい。強磁性金属層30aは、永久磁石である。
【0045】
図2に示すように、平面視において、強磁性金属層30aは六角形状であるが、強磁性金属層30aの形状はこれに限定されない。また、本実施の形態では、強磁性金属層30aの平面視における磁化の向きは、X軸プラス側からX軸マイナス側に向かう向きに固定される。なお、磁化の向きは、S極からN極に向かう向きである。
【0046】
なお、長さL1は、数十nm程度である。長さL1は、凸部11の高さ、n型半導体層20a(又はn型半導体層20b)の厚みT1、並びに、強磁性金属層30a(又は強磁性金属層30b)の厚みを合計した厚みである。
【0047】
保護金属層40aは、製造時及び使用時において、強磁性金属層30aを保護するための金属層であり、強磁性金属層30aの上方(Z軸プラス側)に設けられる。例えば、保護金属層40aは、酸化等の経年劣化から強磁性金属層30aを保護する。保護金属層40aは、平面視において、強磁性金属層30aを覆う。保護金属層40aの形状は、平面視において、強磁性金属層30aと同じであってもよい。
【0048】
保護金属層40aは、Ti(チタン)膜及びAu(金)膜からなる積層膜により形成されるが、これに限定されない。保護金属層40aは、Ti(チタン)膜又はAu(金)膜により形成されてもよいし、他の金属の積層膜で形成されてもよい。
【0049】
配線層50aは、保護金属層40aと接続される導電性を有する積層膜である。配線層50aは、金属材料を含んで構成されてもよく、例えば金を含んで構成されるが、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、チタン、タングステン、パラジウム等のいずれか又は2以上の金属材料により構成されてもよい。また、配線層50aは、非金属材料を含んで構成されてもよく、例えば酸化物導電材料又はカーボンナノチューブにより構成されてもよい。
【0050】
ドレイン電極60は、基板上に設けられる、強磁性金属層30bを有する電極である。ドレイン電極60は、強磁性金属層30bと保護金属層40bと配線層60aを有する。なお、ドレイン電極60は、少なくとも強磁性金属層30bを有していればよい。また、ドレイン電極60は、さらにn型半導体層20bを有していてもよい。
【0051】
強磁性金属層30bは、n型半導体層20bと保護金属層40bとの間に設けられる、強磁性体により形成される金属層である。強磁性金属層30bは、コバルト、マンガン及びシリコンの合金により形成され、さらに鉄を含んで形成されてもよい。強磁性金属層30bは、永久磁石である。
【0052】
図2に示すように、平面視において、強磁性金属層30bの形状は、強磁性金属層30aと異なる。本実施の形態では、平面視において、強磁性金属層30bは矩形状であるが、強磁性金属層30bの形状はこれに限定されない。また、本実施の形態では、強磁性金属層30bの平面視における磁化の向きは、外部からの電流により、X軸マイナス側からX軸プラス側に向かう向きと、X軸プラス側からX軸マイナス側に向かう向き(図2に示す向き)とに切り替え可能である。
【0053】
なお、磁化の向きを切り替える方法は特に限定されない。本実施の形態では、強磁性金属層30bの下方(Z軸マイナス側)にn型半導体層20bが設けられるので、例えば、スピン注入(スピン注入電流)により反転させる方法が例示される。
【0054】
保護金属層40bは、製造時及び使用時において、強磁性金属層30bを保護するための金属層であり、強磁性金属層30bの上方(Z軸プラス側)に設けられる。例えば、保護金属層40bは、酸化等の経年劣化から強磁性金属層30bを保護する。保護金属層40bは、平面視において、強磁性金属層30bを覆う。保護金属層40bの形状は、平面視において、強磁性金属層30bと同じであってもよい。
【0055】
配線層60aは、保護金属層40bと接続される導電性を有する積層膜である。配線層60aは、金属材料を含んで構成されてもよく、例えば金を含んで構成されるが、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、チタン、タングステン、パラジウム等のいずれか又は2以上の金属材料により構成されてもよい。また、配線層50bは、非金属材料を含んで構成されてもよく、例えば酸化物導電材料又はカーボンナノチューブにより構成されてもよい。
【0056】
ゲート電極70は、基板上にゲート絶縁膜80を介して設けられる電極である。ゲート電極70によりスピンMOSFET1のオン及びオフが切り替えられる。ゲート電極70は、導電性を有する材料により構成される。ゲート電極70は、金属材料を含んで構成されてもよく、例えば金を含んで構成されるが、アルミニウム、銅、銀、ニッケル、チタン、タングステン、パラジウム等のいずれか又は2以上の金属材料により構成されてもよいし、金属化合物により構成されてもよい。また、ゲート電極70は、非金属材料を含んで構成されてもよく、例えば多結晶シリコンにより構成されてもよい。
【0057】
ゲート電極70は、平面視において、n型半導体層20a及び20bのそれぞれと面状に重なるように設けられる。ゲート電極70は、平面視において、掘り下げ部90に設けられるゲート絶縁膜80と重なり、かつ、掘り下げ部90より平面視における面積が広い。
【0058】
ゲート絶縁膜80は、基板上であってゲート電極70の下方に設けられる絶縁膜である。ゲート絶縁膜80は、ゲート電極70と、n型半導体層20a及び20bより下方の位置(Z軸マイナス側の位置)との間に渡って設けられる。具体的には、ゲート絶縁膜80は、ゲート電極70と、n型半導体層20a及び20bの下面(Z軸マイナス側の面)より下方の位置との間に渡って設けられる。ゲート絶縁膜80は、保護金属層40a及び40b、強磁性金属層30a及び30b、n型半導体層20a及び20b、並びに、凸部11の側面(Y軸方向側の面)を覆うように設けられる。ゲート絶縁膜80は、例えば、酸化物層である。ゲート絶縁膜80としては、例えば、SiO膜(例えば、SiO膜)を用いることができる。
【0059】
上記のように構成されるスピンMOSFET1は、nチャネル型のスピンMOSFETであるが、pチャネル型のスピンMOSFETとして実現されてもよい。pチャネル型のスピンMOSFETである場合、スピンMOSFET1は、n型半導体層20a及び20bに替えてp型半導体層を備える。
【0060】
また、上記のように構成されるスピンMOSFET1の強磁性金属層30a及び30b中の電子は、アップスピン及びダウンスピンの占める割合が異なっており、強磁性金属層30aから電子を流すとスピンの向きが偏った電子(スピン偏極電子)がp型半導体層10に注入される。強磁性金属層30bのスピン偏極方向と、スピンの向きが一致する電子は流れやすく、スピンの向きが逆向きの電子は流れにくくなる。例えば、スピンMOSFET1のゲート電極70にプラスの電圧を印加してソース電極50とドレイン電極60との間が導通状態である場合、強磁性金属層30a及び30bの磁化の方向が平行であるときには(図2の場合)低抵抗状態となり、強磁性金属層30a及び30bの磁化の方向が反対である場合には高抵抗状態となる。スピンMOSFET1は、強磁性金属層30a及び30b間の抵抗の変化をトランジスタの部分で実現する構成を有する。なお、低抵抗状態と高抵抗状態とは、例えば、20%以上抵抗が異なる状態であればよい。
【0061】
この原理を利用すると、強磁性金属層30a及び30bの磁化の方向をビット情報として蓄えるメモリとして利用することができるとともに、MOSFETのゲート電圧によってソースドレイン間の電流量を制御するスイッチ(トランジスタ)としても機能させることができる。
【0062】
[2.掘り下げ深さの検証結果]
続いて、掘り下げ部90の掘り下げ深さの検証結果について、図3図8を参照しながら説明する。掘り下げ深さの検証は、作製が容易である通常のMOSFETを用いて行っているが、スピンMOSFET1においても、以下で説明することと同様のことが言える。
【0063】
図3は、検証に用いたMOSFET100aの構成の第1例を示す断面図である。図4は、検証に用いたMOSFET100bの構成の第2例を示す断面図である。MOSFET100a及び100bは、スピンMOSFETではなく、通常のMOSFETである。MOSFET100aは、従来例に係るMOSFETであり、掘り下げ部を有していない。MOSFET100bは、比較例に係るMOSFETであり、掘り下げ部190を有している。
【0064】
図3及び図4に示すように、MOSFET100a及び100bは、トップゲート型のMOSFETであり、p型半導体層110と、金属層130と、配線層150と、ゲート電極170と、ゲート絶縁膜180とを有する。MOSFET100a及び100bの相違点は、掘り下げ部190を有するか否か、つまり、ゲート絶縁膜180がゲート電極170と、金属層130より下方の位置との間に渡って設けられるか否かである。
【0065】
p型半導体層110は、図1のp型半導体層10に相当し、金属層130及び配線層150は、図1のソース電極50又はドレイン電極60に相当し、ゲート電極170は、図1のゲート電極70に相当し、ゲート絶縁膜180は、図1のゲート絶縁膜80に相当する。金属層130は、窒化チタン(TiN)により構成される。
【0066】
また、図3及び図4では、ゲート電極170にプラスの電圧が印加されている(MOSFET100a及び100bがオンである)状態を図示しており、図3では反転層190aが形成され、図4では反転層190bが形成される。
【0067】
反転層190aは、金属層130同士を一直線上につなぐように形成される。反転層190aの長さ(キャリアの伝導距離)は、金属層130の間の距離とほぼ等しい。反転層190aは、Y軸に平行に形成される。反転層190aは、金属層130と点接触するように形成される。
【0068】
反転層190bは、金属層130同士を掘り下げ部190を下方から覆うように形成される。反転層190bの長さ(キャリアの伝導距離)は、金属層130の間の距離より長い。反転層190bは、凹状に形成される。反転層190bは、金属層130と面接触するように形成される。反転層190bは、平面視において、金属層130と面状に重なる。
【0069】
上記のMOSFET100a及び100bの各層の厚みの条件について、図5を参照しながら説明する。図5は、検証に用いたMOSFET100a及び100bのサンプル条件を示す図である。図5に示す「Sample1」は、図3に示すMOSFET100aのサンプル条件を示しており、「Sample2~5」は、図4に示すMOSFET100bのサンプル条件を示している。MOSFET100bのサンプル条件は、主に掘り下げ深さDが異なる。
【0070】
図5に示すEOT(nm)は、ゲート絶縁膜180の厚みT2を示しており、TiN厚さ(nm)は、金属層130の厚みT3を示しており、掘り下げ深さ(nm)は、掘り下げ部190の掘り下げ深さDを示す。
【0071】
ゲート絶縁膜180の厚みT2は、Sample1~5において、およそ45nmであり、ほぼ一定である。
【0072】
金属層130の厚みT3は、Sample1及び2においては60.7nmであり、Sample3~5においては65.0nmである。
【0073】
掘り下げ部190の掘り下げ深さDは、Sample1が0nmであり、Sample2が9.3nmであり、Sample3が13.7nmであり、Sample4が14.8nmであり、Sample5が25.1nmである。
【0074】
図5に示すサンプルを用いた場合の抵抗(寄生抵抗)の測定結果について、図6を参照しながら説明する。図6は、MOSFET100a及び100bにおける掘り下げ深さDと抵抗との関係を示す図である。抵抗は、ソース電極として機能する金属層130からドレイン電極として機能する金属層130までの伝導経路上の抵抗を意味する。
【0075】
図6に示すように、掘り下げ部190を設けることで、抵抗が大幅に減少していることがわかる。抵抗は、掘り下げ深さDが9.3nm(およそ10nm付近)で最小となっており、10nmを超えると徐々に抵抗が増加する傾向がある。今回の検証で用いた掘り下げ深さDの最大値は25.1nmであるが、掘り下げ深さ25.1nmの場合でも、掘り下げ深さDが0nm(掘り下げなし)の場合に比べて、抵抗が大幅に減少している。このことから、掘り下げ深さDは、0nmより大きく25.1nm以下の範囲であれば、抵抗を減少させることができると考えられる。つまり、掘り下げ深さDが、0nmより大きく25.1nm以下の範囲であれば、ソースドレイン間に流れる電流量を増やすことができる。
【0076】
図7は、図6に示す掘り下げ深さDと抵抗との関係を説明するための第1図である。図8は、図6に示す掘り下げ深さDと抵抗との関係を説明するための第2図である。
【0077】
図7に示すように、金属層130と反転層190bとの間の接触抵抗を、Rcontactとし、反転層190bのうち積層方向(Z軸方向)に延在する部分の直列抵抗をRp、Resessとすると、反転層190bのうち積層方向に延在する部分の合計の抵抗R(寄生抵抗)は、以下の式1で表される。
【0078】
=Rcontact+Rp、Resess ・・・(式1)
【0079】
抵抗Rは、反転層190bのうち図4に示す掘り下げ深さDを構成する部分の抵抗に相当する。抵抗R、接触抵抗Rcontact及び直列抵抗Rp、Resessは、MOSFET100bがオン時の抵抗である。
【0080】
図8に示すように、接触抵抗Rcontactは、掘り下げ深さDが0nm(掘り下げなし)である場合に大きくなり、掘り下げ深さDが浅い場合及び深い場合には小さくなる。掘り下げ部190が形成されることで反転層190bと金属層130とが面接触するようになるので、接触抵抗Rcontactを大幅に減少させることができる。また、接触抵抗Rcontactは、掘り下げ深さDの影響を受けにくく、面接触の面積が同等であれば掘り下げ深さDに寄らずほぼ一定である。
【0081】
直列抵抗Rp、Resessは、掘り下げ深さDが0nmである場合にゼロ(なし)となり、掘り下げ深さDが深くなるにつれて増加する。直列抵抗Rp、Resessは、掘り下げることで直列抵抗Rp、Resessを構成する部分の長さ(掘り下げ深さD)が長くなるので、抵抗が徐々に増加する。
【0082】
このような関係が成り立つと推測されるので、図6において、掘り下げ深さDが10nm付近で急激に抵抗が減少し、その後、徐々に抵抗が上昇するようになると考えられる。例えば、抵抗Rを低い値に抑える観点から、堀り下げ深さDは、1nm以上9.3nm以下であってもよい。また、抵抗Rの製品バラつきを抑制する観点から、掘り下げ深さDは、9.3nm以上25.1nm以下であってもよい。製品バラつきとは、掘り下げ深さDが製造上のバラつきで所定の範囲の値を取り得る場合の抵抗Rのバラつきを意味する。
【0083】
[3.スピンMOSFETの性能]
続いて、上記のように構成されるスピンMOSFET1の性能について、図9及び図10を参照しながら説明する。図9及び図10では、n型半導体層20a及び20bの厚みが10nmである場合のスピンMOSFET1の性能を示す。
【0084】
図9は、本実施の形態に係るスピンMOSFET1の出力特性を示す図である。図9は、強磁性金属層30a及び30bの間の電流I(μA/μm)(縦軸)と、強磁性金属層30a及び30bの間の電圧V(V)(横軸)との関係について、ゲート電圧Vを0Vから10Vまで2Vステップで印加したときの測定結果を示す。
【0085】
図9に示すように、スピンMOSFET1は、掘り下げ部90を備えておりソースドレイン間の抵抗が低いので、少しの電圧Vを印加するだけで電流Iが流れている。
【0086】
一方、特許文献1のスピンMOSFETは、特許文献1の図6に示すように、ゲート電圧Vを上げても電圧Vが0V付近ではほとんど電流が流れていない。つまり、特許文献1のスピンMOSFETは、ソースドレイン間の抵抗が高い。
【0087】
このことから、本実施の形態に係るスピンMOSFET1は、特許文献1のスピンMOSFETに比べてオン時の性能が向上している。
【0088】
また、本実施の形態に係るスピンMOSFET1は、ゲート電圧Vが0Vである場合、電圧Vを上げても電流Iが低い状態を維持できている。
【0089】
一方、特許文献1のスピンMOSFETは、引用文献1の図6に示すように、ゲート電圧Vが0Vである場合であっても、電圧Vを上げると電流Iが流れていることがわかる。つまり、特許文献1のスピンMOSFETは、オフ時であっても電流を遮断することが困難である。
【0090】
このことから、本実施の形態に係るスピンMOSFET1は、特許文献1のスピンMOSFETに比べてオフ時の性能が向上している。
【0091】
図10は、本実施の形態に係るスピンMOSFET1のキャリア移動度μFEを示す図である。キャリア移動度μFEは、電流の流れ易さを示す指標である。また、本明細書におけるスピンMOSFET1のキャリア移動度μFEは、スピンMOSFET1のチャネルのキャリア移動度を示しており、具体的にはスピンMOSFET1のチャネルに電界を印加した際のキャリア移動度を示す。
【0092】
図10に示すように、本実施の形態に係るスピンMOSFET1は、ゲート電圧Vが10V以下の低電圧であっても、ピーク値のキャリア移動度μFEが350cm/Vs程度と高いキャリア移動度μFEを実現することができている。なお、ゲート電極70に印加されるゲート電圧Vが10V以下の範囲におけるキャリア移動度μFEのピーク値は、200cm/Vs以上であればよく、好ましくは250cm/Vs以上であり、より好ましくは300cm/Vs以上であればよい。
【0093】
強磁性金属層30a及び30bは、成膜後に250~300度を超える温度を加えない方がよい。一方、トランジスタの性能としては、250~300度を超える高い温度をかける方がよい。本実施の形態では、スピンMOSFET1は、強磁性金属層30a及び30bの耐久性を優先し、250~300度を超えないような低い温度で作製されている。それにも関わらず、スピンMOSFET1は、ピーク値のキャリア移動度μFEが350cm/Vs程度と高いキャリア移動度μFEを実現することができている。これは、主に、反転層と、n型半導体層20a及び20bとが面接触すること、及び、p型半導体層10がゲルマニウムを含むことによる効果であると考えられる。また、スピンMOSFET1は、強磁性金属層30a及び30bと、p型半導体層10との間にトンネル絶縁膜を備えておらず、トンネル絶縁膜を備えていないことも高いキャリア移動度μFEの実現に寄与しているものと考えられる。
【0094】
このようなスピンMOSFET1は、低電圧で高いキャリア移動度μFEを実現することができ、またトップゲート型であり高集積化が可能であるので、コンピュータ等の情報処理装置への利用が大いに期待される。
【0095】
[4.スピンMOSFETの製造方法]
続いて、上記のように構成されるスピンMOSFET1の製造方法について、図11を参照しながら説明する。図11は、本実施の形態に係るスピンMOSFET1の製造方法を示すフローチャートである。
【0096】
図11に示すように、まず絶縁性の基板(例えば、シリコン基板)を準備する(S10)。
【0097】
次に、基板上にp型半導体層、n型半導体層、強磁性金属層、保護金属層をこの順に、例えば、物理蒸着法の一つである分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitxy)法を用いて形成する(S20~S50)。例えば、ステップS10で準備した基板をMBEチャンバーに入れて、p型のゲルマニウムをエピタキシャル成長させることでp型半導体層を成膜し(S20)、p型半導体層上にn型のゲルマニウムをエピタキシャル成長させることでn型半導体層を成膜し(S30)、n型半導体層上にコバルト、マンガン及びシリコン等を順次エピタキシャル成長させることで強磁性金属層を成膜する(S40)。そして、さらに、強磁性金属層上に保護金属層をスパッタ法などにより成膜する(S50)。
【0098】
なお、この時点で、p型半導体層、n型半導体層、強磁性金属層及び保護金属層は、パターニングされておらず、実質的に基板上の全面に形成される。また、さらに、n型半導体層及び強磁性金属層の間に、高濃度のドーピング層を形成してもよい。材料の組み合わせによっては金属層と半導体層との接合は電流が流れにくい場合があるので、ドーピング層を設けることで、電流を流れやすくしてもよい。ドーピング層は、金属層と半導体層とをオーミック接合させるための高濃度のn型の半導体層である。
【0099】
次に、フォトリソグラフィでパターニングしてチャネル部分をドライエッチングで掘り下げる(S60)。フォトリソグラフィ法及びドライエッチングにより、p型半導体層、n型半導体層、強磁性金属層及び保護金属層を所定の形状にパターニングする。これにより、p型半導体層10、n型半導体層20a及び20b、強磁性金属層30a及び30b、並びに、保護金属層40a及び40bが形成される。
【0100】
ステップS60において、図1に示す掘り下げ部90が形成される。つまり、ステップS60において、p型半導体層10の一部がn型半導体層20a及び20bの下面より下方の位置まで削られる。ステップS60において、p型半導体層10の上面に凹凸構造が形成される。
【0101】
次に、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法等により、ゲート絶縁膜80を形成する(S70)。また、ゲート絶縁膜80は、配線層50a及び60aを形成するために、フォトリソグラフィ法及びドライエッチングにより所定の形状にパターニングされてもよい。
【0102】
次に、スパッタ法等により各電極層(ソース電極50、ドレイン電極60及びゲート電極70)を形成する(S80)。
【0103】
これにより、本実施の形態に係るスピンMOSFET1が作製される。
【0104】
(その他の実施の形態)
以上、一つまたは複数の態様に係るスピンMOSFETについて、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示に含まれてもよい。
【0105】
例えば、フローチャートにおける各ステップ(工程)が実行される順序は、本開示を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が他のステップと同時(並列)に実行されてもよいし、上記ステップの一部は実行されなくてもよい。
【0106】
また、上記実施の形態では、p型半導体層、n型半導体層、強磁性金属層及び保護金属層を分子線エピタキシー法を用いて形成する例について説明したが、製造方法はこれに限定されず、例えば、CVD法を用いて形成されてもよいし、他の方法で形成されてもよい。
【0107】
また、上記実施の形態で説明したスピンMOSFETの製造方法における各工程の順序は、入れ替えられてもよい。また、上記実施の形態で説明したスピンMOSFETの製造方法における各工程は、1つの工程で実施されてもよいし、別々の工程で実施されてもよい。なお、1つの工程で実施されるとは、各工程が1つの装置を用いて実施される、各工程が連続して実施される、又は、各工程が同じ場所で実施されることを含む意図である。また、別々の工程とは、各工程が別々の装置を用いて実施される、各工程が異なる時間(例えば、異なる日)に実施される、又は、各工程が異なる場所で実施されることを含む意図である。
【0108】
(付記)
以上の実施の形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0109】
(技術1)
トップゲート型のスピンMOSFETであって、
第1導電型を有する半導体層と、
前記半導体層上に設けられるゲート絶縁膜と、
前記半導体層上に前記ゲート絶縁膜を介して設けられるゲート電極と、
前記半導体層上に設けられ、それぞれが強磁性金属層を有するソース電極及びドレイン電極と、
前記ソース電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第1導電型と異なる第2導電型を有する第1半導体層と、
前記ドレイン電極と、前記半導体層との間に設けられ、前記第2導電型を有する第2半導体層とを備え、
前記ゲート絶縁膜は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極の間において、前記ゲート電極と、前記第1半導体層及び前記第2半導体層より下方の位置との間に渡って設けられる
スピンMOSFET。
【0110】
(技術2)
前記第1半導体層及び前記第2半導体層の厚みは、10nm以上30nm以下である
技術1に記載のスピンMOSFET。
【0111】
(技術3)
前記ゲート電極に印加される電圧が10V以下の範囲におけるキャリア移動度のピーク値は、200cm/Vs以上である
技術1又は2に記載のスピンMOSFET。
【0112】
(技術4)
前記キャリア移動度のピーク値は、300cm/Vs以上である
技術3に記載のスピンMOSFET。
【0113】
(技術5)
前記第1導電型は、p型であり、
前記第2導電型は、n型である
技術1~4のいずれかに記載のスピンMOSFET。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示は、トップゲート型のスピンMOSFETに有用である。
【符号の説明】
【0115】
1 スピンMOSFET
10、110 p型半導体層
11 凸部
20a n型半導体層(第1半導体層)
20b n型半導体層(第2半導体層)
30a、30b 強磁性金属層
40a、40b 保護金属層
50 ソース電極
50a、60a、150 配線層
60 ドレイン電極
70、170 ゲート電極
80、180 ゲート絶縁膜
90、190 掘り下げ部
100a、100b MOSFET
130 金属層
190a、190b 反転層
D 掘り下げ深さ
L1 長さ
電流
contact 接触抵抗
抵抗
p、Resess 直列抵抗
T1、T2、T3 厚み
電圧
ゲート電圧
μFE 移動度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11