(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081376
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】単結晶の製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C30B 15/30 20060101AFI20240611BHJP
【FI】
C30B15/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194957
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利行
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EH04
4G077HA12
(57)【要約】
【課題】FZ法の直胴部育成工程において溶融帯のゾーン長を一定に制御して単結晶の有転位化を防止する。
【解決手段】本発明による単結晶の製造方法は、結晶直径D
Sが一定になるように単結晶3を成長させる直胴部育成工程を含む。直胴部育成工程は、原料ロッド1と単結晶3との間に存在する溶融帯4のゾーン長L
Zの測定値と目標値との差が閾値以上となる場合に、誘導加熱コイル15に高周波電流を供給する発振器16の発振電圧Eを補正する工程を含む。発振電圧Eを補正する工程は、ゾーン長L
Zの測定値が目標値よりも小さく且つ結晶直径D
Sの時間変化の割合が負の値のときに発振電圧Eを上げる補正を行い、ゾーン長L
Zの測定値が目標値よりも大きく且つ結晶直径D
Sの時間変化の割合が正の値のときに発振電圧Eを下げる補正を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ロッドを誘導加熱コイルで加熱して溶融帯を発生させ、前記溶融帯から単結晶を成長させるFZ法による単結晶の製造方法であって、
結晶直径が一定になるように前記単結晶を成長させる直胴部育成工程を含み、
前記直胴部育成工程は、
前記原料ロッドと前記単結晶との間に存在する前記溶融帯のゾーン長の測定値と目標値との差が閾値以上となる場合に、前記誘導加熱コイルに高周波電流を供給する発振器の発振電圧を補正する工程を含み、
前記発振電圧を補正する工程は、
前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも小さく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が負の値のときに前記発振電圧を上げる補正を行い、
前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも大きく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が正の値のときに前記発振電圧を下げる補正を行うことを特徴とする単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記結晶直径の時間変化の割合に対する回帰直線の傾きが負の値のときに前記発振電圧の補正を行う、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記結晶直径の時間変化の割合は、前記結晶直径の直近の測定値とそれよりも一定期間前に測定された前記結晶直径の過去の測定値との差である、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記結晶直径の直近の測定値は、直近から一定時間内の第1サンプリング期間内に測定された前記結晶直径の複数のサンプル値(瞬時値)の移動平均値であり、
前記結晶直径の過去の測定値は、前記第1サンプリング期間よりも前の第2サンプリング期間内に測定された前記結晶直径の複数のサンプル値(瞬時値)の移動平均値である、請求項3に記載の単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記第2サンプリング期間の開始時期は、前記第1サンプリング期間の開始時期よりも80~100秒前であり、
前記第1及び第2サンプリング期間は、ともに10~20秒間である、請求項4に記載の単結晶の製造方法。
【請求項6】
前回の補正から所定の休止期間が経過した後に、前記発振電圧の補正を行う、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記休止期間は、5~25分である、請求項6に記載の単結晶の製造方法。
【請求項8】
前記閾値は、0.05~0.1mmである、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記ゾーン長及び前記結晶直径のサンプリング周期は1秒以下である、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項10】
前記発振電圧の補正量は、前記発振器の最大出力の0.1~0.2%である、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記直胴部育成工程は、前記単結晶を一方向に回転させながら成長させる一方向回転制御から前記単結晶の回転方向を交互に反転させる交互回転制御に切り換える工程と含み、
前記発振電圧を補正する工程は、前記交互回転制御を開始してから前記単結晶が少なくとも100mm成長した後に開始される、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記原料ロッドとの境界部及び前記単結晶との境界部を含む前記溶融帯の画像をカメラで撮影し、
前記カメラの撮影画像から前記ゾーン長及び前記結晶直径を算出する、請求項1に記載の単結晶の製造方法。
【請求項13】
原料ロッドを降下させる原料送り機構と、
前記原料ロッドの下端部を加熱して溶融帯を発生させる誘導加熱コイルと、
前記原料ロッドと同軸上に配置され、前記溶融帯の下端に晶出する単結晶を降下させる結晶送り機構と、
前記原料ロッドと前記単結晶との間に存在する前記溶融帯を撮影するカメラと、
前記カメラが撮影した画像データを処理する画像処理部と、
前記誘導加熱コイルに高周波電流を供給する発振器と、
前記画像データに基づいて、前記原料送り機構、前記結晶送り機構及び前記発振器を制御する制御部とを備え、
前記画像処理部は、前記カメラの撮影画像から、前記溶融帯のゾーン長及び結晶凝固位置における結晶直径を算出し、
前記制御部は、
前記単結晶の直胴部育成工程中に前記ゾーン長の測定値と目標値との差が閾値以上となる場合に、前記発振器の発振電圧を補正する発振電圧補正部を含み、
前記発振電圧補正部は、
前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも小さく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が負の値のときに前記発振電圧を上げる補正を行い、
前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも大きく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が正の値のときに前記発振電圧を下げる補正を行うことを特徴とする単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FZ(Floating Zone)法による単結晶の製造方法及び装置に関し、特に、溶融帯のゾーン長を制御する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造方法としてFZ法が知られている。FZ法は、多結晶シリコンからなる原料ロッドの一部を加熱して溶融帯を生成し、溶融帯の上方及び下方にそれぞれ位置する原料ロッド及び種結晶を徐々に降下させることにより、種結晶の上方に大きな単結晶を成長させる。FZ法は融液を支持するルツボを使用しないので、シリコン単結晶の品質がルツボの影響を受けることがなく、CZ(Czochralski)法よりも酸素濃度が低く高純度な単結晶を育成することが可能である。
【0003】
FZ法では単結晶育成工程中に溶融帯をカメラで撮影し、撮影画像に基づいて結晶成長条件を制御することが行われている。例えば、特許文献1には、溶出側材料棒の一部分を誘導加熱コイルで溶融して溶融帯をつくり、溶出側材料棒および晶出側半導体棒を前記誘導加熱コイルに対し相対的に移動させて溶融帯を軸方向に移動させ、溶融帯の幾何学量を4台のテレビカメラで検出し、該検出量に応じて誘導加熱コイルに供給する電力または溶出側材料棒の相対移動速度を調節することにより、絞り工程の自動化を可能にすると共に、溶融帯のゾーン長の制御性を良好にすることが記載されている。ここで、4台のテレビカメラは、誘導加熱コイルの斜め上に設置された第1テレビカメラと、誘導加熱コイルの斜め下に設置された第2テレビカメラと、誘導加熱コイルの下部に位置する溶融帯域の真横に水平設置され、ゾーン長に略該当する範囲で垂直移動するようにした第3テレビカメラと、誘導加熱コイルの真横に水平に設置された第4テレビカメラで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FZ法によるシリコン単結晶の直胴部育成工程において、溶融帯のゾーン長が変化すると、単結晶の有転位化の確率が高くなることが分かっている。誘導加熱コイルに印加する発振電圧を一定に維持する発振電圧一定制御を実施すると、シリコン単結晶の成長と共にゾーン長が徐々に変化する傾向があるため、ゾーン長の変化に合わせて発振電圧を補正することが望ましい。溶融帯のゾーン長をできるだけ一定に維持することによりシリコン単結晶の有転位化を防止することができる。
【0006】
しかし、発振電圧の補正に必要なパラメータの算出や補正の要否の判断を人が随時行うと、計算間違いや判断間違いにつながるという問題がある。そのため発振電圧を適切なタイミングで補正して溶融帯のゾーン長を自動制御する方法が望まれている。
【0007】
したがって、本発明の目的は、直胴部育成工程において溶融帯のゾーン長を自動制御することが可能な単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による単結晶の製造方法は、原料ロッドを誘導加熱コイルで加熱して溶融帯を発生させ、前記溶融帯から単結晶を成長させるFZ法による単結晶の製造方法であって、結晶直径が一定になるように前記単結晶を成長させる直胴部育成工程を含み、前記直胴部育成工程は、前記原料ロッドと前記単結晶との間に存在する前記溶融帯のゾーン長の測定値と目標値との差が閾値以上となる場合に、前記誘導加熱コイルに高周波電流を供給する発振器の発振電圧を補正する工程を含み、前記発振電圧を補正する工程は、前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも小さく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が負の値(結晶直径が減少傾向)のときに前記発振電圧を上げる補正を行い、前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも大きく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が正の値(結晶直径が増加傾向)のときに前記発振電圧を下げる補正を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、直胴部育成工程において発振電圧を適切なタイミングで補正して溶融帯のゾーン長を一定に維持することができ、ゾーン長の自動制御を実現することができる。
【0010】
本発明において、前記発振電圧の補正は、前記結晶直径の時間変化の割合に対する回帰直線の傾きが負の値のときに行われることが好ましい。これにより、発振電圧の補正の効果をゾーン長の制御に効果的に反映させることができ、結晶直径の変動を抑えながらゾーン長を一定に制御することができる。
【0011】
本発明において、前記結晶直径の時間変化の割合は、前記結晶直径の直近の測定値とそれよりも一定期間前に測定された前記結晶直径の過去の測定値との差であることが好ましい。この場合において、前記結晶直径の直近の測定値は、直近から一定時間内の第1サンプリング期間内に測定された前記結晶直径の複数のサンプル値(瞬時値)の移動平均値であり、前記結晶直径の過去の測定値は、前記第1サンプリング期間よりも前の第2サンプリング期間内に測定された前記結晶直径の複数のサンプル値(瞬時値)の移動平均値であることが好ましい。さらに、前記第2サンプリング期間の開始時期は、前記第1サンプリング期間の開始時期よりも80~100秒前であり、前記第1及び第2サンプリング期間は、ともに10~20秒間であることが好ましい。これにより、発振電圧の補正の効果をゾーン長の制御に効果的に反映させることができ、結晶直径の変動を抑えながらゾーン長を一定に制御することができる。
【0012】
本発明において、前記発振電圧の補正は、前回の補正から所定の休止期間が経過した後に行われることが好ましい。この場合、前記休止期間は、5~25分であることが好ましい。これにより、ゾーン長の過剰な制御を防止することができる。
【0013】
前記閾値は、0.05~0.1mmであることが好ましく、0.05mmが特に好ましい。これにより、ゾーン長を正確に制御して単結晶の有転位化を防止することができる。
【0014】
前記ゾーン長及び前記結晶直径のサンプリング周期は1秒以下であることが好ましい。これにより、ゾーン長及び結晶直径を精密に制御することができる。
【0015】
前記発振電圧の補正量は、前記発振器の最大出力の0.1~0.2%であることが好ましい。これにより、発振電圧の過度な変動を防止してゾーン長を安定的に制御することができる。
【0016】
前記直胴部育成工程は、前記単結晶を一方向に回転させながら成長させる一方向回転制御から前記単結晶の回転方向を交互に反転させる交互回転制御に切り換える工程と含み、前記発振電圧を補正する工程は、前記交互回転制御を開始してから前記単結晶が少なくとも100mm成長した後に開始されることが好ましい。これにより、ゾーン長が不安定な状態での制御を回避することができ、ゾーン長を安定的に制御することができる。
【0017】
本発明による単結晶の製造方法は、前記原料ロッドとの境界部及び前記単結晶との境界部を含む前記溶融帯の画像をカメラで撮影し、前記カメラの撮影画像から前記ゾーン長及び前記結晶直径を算出することが好ましい。これにより、溶融帯のゾーン長及び結晶直径を簡単な構成により測定することができる。
【0018】
また、本発明による単結晶製造装置は、原料ロッドを降下させる原料送り機構と、前記原料ロッドの下端部を加熱して溶融帯を発生させる誘導加熱コイルと、前記原料ロッドと同軸上に配置され、前記溶融帯の下端に晶出する単結晶を降下させる結晶送り機構と、前記原料ロッドと前記単結晶との間に存在する前記溶融帯を撮影するカメラと、前記カメラが撮影した画像データを処理する画像処理部と、前記誘導加熱コイルに高周波電流を供給する発振器と、前記画像データに基づいて、前記原料送り機構、前記結晶送り機構及び前記発振器を制御する制御部とを備え、前記画像処理部は、前記カメラの撮影画像から、前記溶融帯のゾーン長及び結晶凝固位置における結晶直径を算出し、前記制御部は、前記単結晶の直胴部育成工程中に前記ゾーン長の測定値と目標値との差が閾値以上となる場合に、前記発振器の発振電圧を補正する発振電圧補正部を含み、前記発振電圧補正部は、前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも小さく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が負の値(結晶直径が減少傾向)のときに前記発振電圧を上げる補正を行い、前記ゾーン長の前記測定値が前記目標値よりも大きく且つ前記結晶直径の時間変化の割合が正の値(結晶直径が増加傾向)のときに前記発振電圧を下げる補正を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、直胴部育成工程において発振電圧を適切なタイミングで補正して溶融帯のゾーン長を一定に維持することができ、ゾーン長の自動制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、直胴部育成工程において溶融帯のゾーン長を自動制御することが可能な単結晶の製造方法及び装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、FZ法によるシリコン単結晶の製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2と共に単結晶の製造工程を説明するための模式図である。
【
図4】
図4は、単結晶製造装置により製造されるシリコン単結晶インゴットの形状を示す略側面図である。
【
図5】
図5は、発振電圧の補正方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、比較例によるゾーン長の手動制御結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例によるゾーン長の自動制御結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を模式的に示す断面図である。
【0024】
図1に示すように、単結晶製造装置10は、シリコン単結晶をFZ法により育成するための装置であって、原料ロッド1を回転可能及び昇降可能に支持する上軸11と、種結晶2及び単結晶3を回転可能及び昇降可能に支持する下軸12と、上軸11を回転及び昇降駆動する原料送り機構13と、下軸12を回転及び昇降駆動する結晶送り機構14と、原料ロッド1を加熱するための誘導加熱コイル15と、誘導加熱コイル15に接続された発振器16と、原料ロッド1と単結晶3との間に発生する溶融帯4を撮影するカメラ17と、カメラ17が撮影した画像データを処理する画像処理部18と、画像データに基づいて原料送り機構13、結晶送り機構14及び発振器16を制御する制御部19とを有している。
【0025】
原料ロッド1はモノシラン等のシリコン原料を精製して得られた高純度多結晶シリコンからなり、原料ロッド1の上端は上軸11に取り付けられている。原料ロッド1の下端部は誘導加熱コイル15により加熱されて融解し、これにより溶融帯4が生成される。その後、下軸12に取り付けられた種結晶2を溶融帯4に接触させ、下方に引き下げつつ、所望の直径になるように増径させながら結晶化させる。このとき、同時に原料ロッド1を下方へ移動させることで、原料ロッド1の下端部分を連続的に融解させ、結晶化に必要な量の融液を供給する。
【0026】
原料送り機構13は、原料ロッド1の降下速度(原料送り速度VP)と回転速度(原料回転速度RP)をそれぞれ制御し、結晶送り機構14は、単結晶3の降下速度(結晶送り速度VS)と回転速度(結晶回転速度RS)をそれぞれ制御する。誘導加熱コイル15は原料ロッド1の周囲を取り囲むループ導体であり、発振器16は誘導加熱コイル15に高周波電流を供給する。誘導加熱コイル15のパワーは発振器16の発振電圧Eによって制御される。
【0027】
カメラ17は、原料ロッド1との境界部及び単結晶3との境界部を含む溶融帯4の全体を撮影する。本実施形態においてカメラ17の種類は特に限定されない。またカメラ17は複数台設けられていてもよい。複数台のカメラを設けたシステム(マルチカメラシステム)を採用した場合には、原料融解位置、原料融解位置における原料ロッド1の直径(原料直径DP)、溶融帯4のゾーン長LZ、結晶凝固位置、結晶凝固位置における単結晶3の直径(結晶直径DS)をより正確に測定することが可能となる。
【0028】
制御部19は、原料送り速度VP、結晶送り速度VSおよび発振電圧Eを主な操作変数として、以下に示す3つの制御変数をPID制御する。第1の制御変数は原料側の固液界面位置である「原料融解位置」であり、これは主に原料送り速度VPおよび発振電圧Eによって制御される。第2の制御変数は結晶側の固液界面位置である「結晶凝固位置」であり、これは主に結晶送り速度VSおよび発振電圧Eによって制御される。第3の制御変数は結晶凝固位置における単結晶3の直径である「結晶直径DS」であり、これは主に発振電圧E、結晶送り速度VSおよび原料送り速度VPによって制御される。
【0029】
制御部19は、結晶直径が一定になるように単結晶3を成長させる直胴部育成工程において溶融帯4のゾーン長LZを一定に制御するための発振電圧補正部19aを含む。発振電圧補正部19aは、目標値に対するゾーン長の変動幅に基づいて、発振器16の発振電圧を補正する。具体的には、ゾーン長が目標値を下回るときには発振電圧を上げて融液供給量を増やし、ゾーン長が目標値を上回るときには発振電圧を下げて融液供給量を減らす制御を行う。
【0030】
図2は、FZ法によるシリコン単結晶の製造工程を概略的に示すフローチャートである。また、
図3は、
図2と共にシリコン単結晶の製造工程を説明するための模式図である。
【0031】
図2及び
図3に示すように、FZ法によるシリコン単結晶の育成では、原料ロッド1の先端部を溶融して種結晶2に融着させる融着工程S1(
図3(a))、単結晶3を細く絞って無転位化する絞り工程S2(
図3(b))、結晶直径を目標の直径まで徐々に拡大させたコーン部3bを育成するコーン部育成工程S3(
図3(c))、結晶直径が一定に維持された直胴部3cを育成する直胴部育成工程S4(
図3(d))、結晶直径を徐々に縮小させたボトム部3dを育成するボトム部育成工程S5(
図3(e))、および単結晶3の育成を終了して冷却する冷却工程S6(
図3(f))が順に実施される。
【0032】
図4は、単結晶製造装置10により製造されるシリコン単結晶インゴットの形状を示す略側面図である。
【0033】
図4に示すように、シリコン単結晶インゴット3Iは、無転位化のため直径が細く絞られた絞り部3aと、絞り部3aの上端から直径が徐々に拡大したコーン部3bと、一定の直径を有する直胴部3cと、直径が徐々に縮小したボトム部3dとを有している。FZ法では、シリコン単結晶インゴット3Iが絞り部3a、コーン部3b、直胴部3c、ボトム部3dの順に育成され、直胴部3cが実際に製品として提供される部分である。なお、
図1の単結晶3は直胴部3cの途中まで育成された状態である。シリコン単結晶インゴット3Iの長さは原料ロッド1の量に依存する。
【0034】
直胴部育成工程S4を開始してから一定期間は、誘導加熱コイル15に印加する発振電圧Eを変化させず一定に維持する発振電圧一定制御が行われるが、直胴部3cの成長がある程度進んだ時点で発振電圧を変化させる発振電圧可変制御に切り換える。具体的には、単結晶3の回転方向を交互に反転させる交互回転制御を開始してから結晶長が100mm増加した後に発振電圧可変制御を開始する。これは、交互回転によって溶融帯4内の熱分布が大きく変化し、溶融帯4のゾーン長も変化するためである。
【0035】
直胴部育成工程S4の開始時には、単結晶3を一方向に回転させながら成長させる一方向回転制御が行われるが、途中から単結晶3の回転方向を交互に反転させる交互回転制御に切り換えられる。単結晶3の交互回転制御を実施する理由は、ドーパントガスを吹き付けることによって溶融帯中に取り込まれたドーパントの拡散効果を高めるためである。
【0036】
図5は、発振電圧の補正方法を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図5に示すように、直胴部育成工程S4中は溶融帯4をカメラ17で周期的(連続的)に撮影し、撮影画像から溶融帯4のゾーン長L
Z及び結晶直径D
Sを求める(ステップS11)。上記のように、溶融帯4のゾーン長L
Zは、溶融帯4の鉛直方向の幅であって、「原料融解位置」から「結晶凝固位置」までの距離である。また結晶直径D
Sは、結晶凝固位置における単結晶3の直径である。ゾーン長L
Z及び結晶直径D
Sのサンプリング周期は1秒以下であることが好ましい。
【0038】
次に、ゾーン長の測定値LZi(=LZ)と目標値LZTとの差ΔLZ=|LZi-LZT|が目標値に対するゾーン長の変動幅として求められ、差ΔLZが閾値ΔLTH以上となるかどうかの判断が行われる(ステップS12)。そして、差ΔLZが閾値ΔLTHよりも大きい(ΔLZ>ΔLTH)の場合(ステップS12Y)には、発振電圧の補正を行うべきものとして次の条件判断に進む。一方、ゾーン長の測定値LZiと目標値LZTとの差ΔLZが閾値ΔLTH以下の場合には、ゾーン長が適正範囲内に収まっており、発振電圧の補正を行う必要がないと判断して、溶融帯4の観察を継続する(ステップS12N)。
【0039】
ゾーン長の測定値LZiと目標値LZTとを比較する際に用いる閾値ΔLTHは0.05mm以上0.1mm以下であることが好ましい。ゾーン長の測定値LZiと目標値LZTとの差ΔLZが0.1mmよりも大きくなると、単結晶の有転位化の確率が高くなるからである。
【0040】
次に、発振電圧の補正の時期が適切かどうかを判断するため、前回の発振電圧の補正の実施から所定の休止期間が経過しているかが判断される(ステップS13)。ここにいう「休止期間」は、例えば5~25分である。そして、前回の発振電圧の補正から所定の休止期間が経過していない場合には、たとえゾーン長の測定値と目標値との差が閾値以上であったとしても、発振電圧の補正は行われない(ステップS13N)。これは、発振電圧の補正の効果が現れるためにはある程度の時間が必要だからであり、発振電圧の補正を頻繁に行うことによるゾーン長の制御性の悪化を防止するためである。
【0041】
次に、前回の発振電圧の補正の実施から所定の休止期間が経過している場合(ステップS13Y)には、発振電圧の補正を実施するより適切なタイミングを検出するため、結晶直径の時間変化の割合及び当該時間変化の割合に対する回帰直線の傾きが求められる(ステップS14、S15)。ここで、「結晶直径の時間変化の割合」とは、結晶直径の直近の測定値Dnewとそれよりも少し前に測定した結晶直径の過去の測定値Doldとの差であり、結晶直径の時間一階微分の値に相当する。
【0042】
より信頼性の高い値を得るためには、結晶直径の直近及び過去の測定値は、単一のサンプル値(瞬時値)ではなく、所定のサンプリング期間内に得られた複数のサンプル値の平均値であることが望ましい。したがって、例えば、結晶直径の直近の測定値Dnewは、直近から一定時間内の第1サンプリング期間内に測定された結晶直径の複数のサンプル値の移動平均値であり、結晶直径の過去の測定値Doldは、第1サンプリング期間よりも前の第2サンプリング期間内に測定された結晶直径の複数のサンプル値の移動平均値である。より具体的には、結晶直径の時間変化の割合は、直近20秒間の結晶直径の移動平均値と、直近から80~100秒前の20秒間の結晶直径の移動平均値との差として求められる。
【0043】
また、結晶直径の時間変化の割合に対する回帰直線の傾きは、結晶直径の時間二階微分の値に相当し、例えば直近10秒間に求められた結晶直径の複数のサンプル値から求められる(ステップS15)。そして「結晶直径の時間変化の割合」及びこれに対応する「回帰直線の傾き」の両方が負の値となったとき、発振電圧の補正を行うべき適切な時期と判断する(ステップS14Y、S15Y)。これは、単結晶3が細っており、且つ、細り方が鈍化している(細りが緩やかになりつつある)状態であることを意味する。単結晶3がこのような状態ときに発振電圧の補正を行うことにより、原料の過剰供給による溶融帯からの液漏れや単結晶の太り過ぎを防止することができる。結晶直径の時間変化の割合及び回帰直線の傾きのどちらか一方が前記条件を満たさない場合、発振電圧の補正は行われない(ステップS14N、ステップS15N)。
【0044】
発振電圧の補正では、ゾーン長の測定値LZが目標値LZTよりも小さい場合(LZ<LZT)に発振電圧Eを大きくし、ゾーン長の測定値LZが目標値LZTよりも大きい場合(LZ>LZT)に発振電圧Eを小さくする(ステップS16)。発振電圧Eの補正量ΔEは、発振器16の最大出力の0.1~0.2%であることが望ましい。発振電圧Eの一回当たりの補正量ΔEが大き過ぎるとゾーン長の変化が過大となり、ゾーン長を安定化させることができなくなるからである。
【0045】
上記のように、ゾーン長の変化により発振電圧の補正が必要と判断した場合でも、前回の発振電圧の補正時からある程度の時間が経過した後でなければ、発振電圧の補正は行われない。これは、ゾーン長や結晶直径の変化に合わせて発振電圧の補正を行ったとしても、その効果は直ちに現れないことが多く、この状況を考慮せずに補正を連続的に実施すると、補正量が過剰となり、目標とするゾーン長が得られず、結晶形状の悪化を招くからである。補正の効果が効き始めるまでのタイムラグを考慮して次の補正のタイミングを規定することにより、結晶形状の悪化を防止することができる。
【0046】
発振電圧を補正せず常に一定に保つ場合、単結晶の成長と共にゾーン長が短くなる傾向があり、これにより単結晶の有転位化の確率が高くなる。しかし、本実施形態のようにゾーン長及び結晶直径の変化に合わせて発振電圧を適切なタイミングで変化させた場合には、ゾーン長を一定に維持して単結晶の有転位化を防止することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態による単結晶の製造方法は、直胴部育成工程中に溶融帯のゾーン長を観察し、ゾーン長の測定値と目標値との差が閾値以上となり、さらに前回の補正から所定の休止期間が経過したとき、結晶直径の時間変化の割合及び当該時間変化の割合に対する回帰直線の傾きの両方が負の値となり、発振電圧を補正するので、ゾーン長の制御性を高めて単結晶の有転位化を防止することができる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0049】
例えば、上記実施形態においては、前回の発振電圧の補正を実施してから所定の休止期間が経過した後でなければ次の発振電圧の補正ができないとしているが、この条件は必ずしも必須ではなく、前回の補正から次の補正可能な最短のタイミングで直ちに補正を実施することも可能である。一回当たりの補正量が少ない場合には、過剰な補正の影響は少なく、ゾーン長の一定制御は可能である。
【0050】
また上記実施形態においては、発振電圧の補正を実施するタイミングを決定するため、「結晶直径の時間変化の割合」及びこれに対応する「回帰直線の傾き」の両方を参照しているが、本発明はこのような方法に限定されず、少なくとも「結晶直径の時間変化の割合」を参照すればよい。これにより結晶直径の変化をさらに加速させる方向に原料供給量が変化することを防止することができ、結晶直径の過度な変動による溶融帯からの液漏れや単結晶の有転位化を防止することができる。
【0051】
また上記実施形態においては、シリコン単結晶の製造を例に挙げたが、本発明はシリコン単結晶に限定されず、ゲルマニウム等のFZ法で育成可能な種々の単結晶を対象とすることができる。
【実施例0052】
(比較例)
FZシリコン単結晶の直胴部育成工程において、作業者が発振電圧の補正を手動で行う従来のゾーン長の制御を行った。
【0053】
図6は、比較例による直胴部育成工程の制御結果を示すグラフであり、各グラフは上から順に、ゾーン長L
Z(測定値と目標値の差分)(mm)、発振電圧Eの補正量(%)、結晶直径D
S(測定値と目標値の差分)(mm)、結晶直径の時間変化の割合D
S'(=dD
S/dt)をそれぞれ示している。各グラフの横軸はシリコン単結晶の直胴長(相対値)を示している。
【0054】
図6から分かるように、直胴部育成工程の開始からしばらくは発振電圧が一定であったが、ゾーン長が徐々に短くなり、目標値との乖離が大きくなってきたため、作業者が手動で発振電圧を徐々に増加させた。このときの発振電圧の補正は、結晶直径の変化の状態を特に考慮することなく、任意のタイミングで頻繁に行った。しかし、発振電圧の補正の効果が十分に表れず、ゾーン長が目標値を下回る状況が続いた。途中、作業者が発振電圧を増加させる補正を行わなかったため、ゾーン長が大幅に短くなった。この結果を受けて、作業者は発振電圧を増加させる補正を再開したが、ゾーン長が目標値に戻ることはなく、増減を繰り返すだけの不安定な状態となった。図中の破線は、正しいタイミングで発振電圧の補正が行われている箇所を示している。また図中の二点鎖線は、間違ったタイミングで発振電圧の補正が行われている箇所を示している。
【0055】
(実施例)
FZシリコン単結晶の直胴部育成工程において、本発明によるゾーン長の自動制御を行った。ゾーン長の自動制御では、ゾーン長が破線で示す目標値よりもさらに0.05mm小さくなり、且つ、結晶直径の時間変化の割合が負の値となり、さらに結晶直径の時間変化の割合に対する回帰直線の傾きが負の値となったときに、発振電圧を上げる補正を行った。ゾーン長の測定値と目標値との差が0.1mmよりも大きくなると単結晶が有転位化しやすくなることを考慮して、閾値を0.05mmに設定した。また、前回の補正時から25分を超える場合に、次の補正を行うようにした。その結果を
図7に示す。
【0056】
図7は、実施例による直胴部育成工程の制御結果を示すグラフであり、各グラフは上から順に、ゾーン長L
Z(測定値と目標値の差分)(mm)、発振電圧Eの補正量(%)、結晶直径D
S(測定値と目標値の差分)(mm)、結晶直径の時間変化の割合D
S'(=dD
S/dt)をそれぞれ示している。各グラフの横軸はシリコン単結晶の直胴長(相対値)を示している。
【0057】
図7から分かるように、直胴部育成工程の開始からしばらくしてゾーン長の低下が見られたが、発振電圧を補正することですぐに目標値に近づき、ゾーン長の変動が抑えられた。本実施例のように、結晶直径の変化を考慮して適切なタイミングで発振電圧の補正を行えば、たとえ少ない補正回数であっても、ゾーン長を一定に維持できることが分かった。図中の破線は、正しいタイミングで発振電圧の補正が行われている箇所を示している。