(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081385
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/012 20060101AFI20240611BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240611BHJP
H01G 9/042 20060101ALI20240611BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240611BHJP
H01G 9/028 20060101ALI20240611BHJP
H01G 9/07 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
H01G9/012 303
H01G9/15
H01G9/042
H01G9/00 290D
H01G9/028 E
H01G9/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022194973
(22)【出願日】2022-12-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業、次世代高電力密度パワエレ機器に向けた高性能コンデンサの研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】幅▲ざき▼ 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】松矢 陽哲
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳視
(72)【発明者】
【氏名】筒井 源文
(72)【発明者】
【氏名】中山 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(57)【要約】
【課題】高耐電圧を有する固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】固体電解コンデンサは、陽極体、陰極体及び固体電解質層を備える。陽極体は、弁作用金属の基材層と、基材層上の陽極酸化皮膜と、陽極酸化皮膜上の水和酸化物皮膜と、水和酸化物皮膜上の酸化物皮膜とを有する。針状構造物で成り立つ水和酸化皮膜の空間部が、酸化皮膜によって狭窄又は閉蓋される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体、陰極体及び固体電解質層を備え、
前記陽極体は、
弁作用金属の基材層と、
前記基材層上の陽極酸化皮膜と、
前記陽極酸化皮膜上の水和酸化物皮膜と、
前記水和酸化物皮膜上の酸化物皮膜と、
を有すること、
を特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記酸化物皮膜は、Al2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、Ta2O5又はNb2O5又はNiOを含むこと、
を特徴とする請求項1記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記酸化物皮膜は、100nm以下の厚みを有すること、
を特徴とする請求項2記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記酸化物皮膜は、気相成長皮膜又は液相成長皮膜であること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
陽極体、陰極体及び固体電解質層を備える固体電解コンデンサの製造方法であって、
前記陽極体には、弁作用金属の基材層に対して、前記基材層上の陽極酸化皮膜と当該前記陽極酸化皮膜上の水和酸化物皮膜した後、前記水和酸化物皮膜上に原子体積法によって酸化物皮膜を形成すること、
を特徴とする固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及び当該固体電解コンデンサを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは各種用途で用いられる。例えばパワーエレクトロニクスの分野において、交流電源の電力をコンバータ回路で直流電力に変換し、この直流電力をインバータ回路にて所望の交流電力に変換する電源回路には、コンバータ回路から出力される直流の脈動を抑制して平滑化してからインバータ回路に入力するために、平滑コンデンサが設けられている。また、窒化ガリウム等の半導体スイッチング素子の安定動作やノイズ除去のために、デカップリングコンデンサが当該半導体スイッチング素子の近傍に設けられる。
【0003】
近年の大電力化に伴い、コンデンサに対する高容量化の要求が強くなっている。電解コンデンサは、フィルムコンデンサよりも高容量化が容易であり、この高容量化の要求に応えやすい。電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に陽極酸化等の処理によって誘電体皮膜を有する。陽極箔と陰極箔との間には電解質が介在する。
【0004】
電解コンデンサは、陽極箔の拡面化により比表面積を大きくすることができ、そのため大きな静電容量を有し、高容量化の要求に答えることができるものである。また、電解コンデンサは、電解液の形態で電解質を備えている。電解液は、陽極箔の誘電体皮膜との接触面積が増える。そのため、電解コンデンサの静電容量は更に大きくでき、近年の大電力化に伴う高容量の要求に適しているものである。しかしながら、電解液は時間経過と共に外部へ蒸発揮散し、電解コンデンサには経時的に静電容量の低下や静電正接の増大が起こり、ドライアップを迎えてしまう。
【0005】
そこで、電解コンデンサのなかでも、固体電解質を用いた固体電解コンデンサが注目されている。固体電解コンデンサは、電解液のドライアップの影響が無いか又は抑制される。また、固体電解コンデンサは、等価直列抵抗(ESR)が低くなる利点を有する。
【0006】
固体電解質としては、二酸化マンガンや7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(TCNQ)錯体が知られている。近年は、反応速度が緩やかで、また誘電体皮膜との密着性に優れたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の、π共役二重結合を有するモノマーから誘導された導電性高分子が固体電解質として急速に普及している。導電性高分子は、ポリアニオン等の酸化合物がドーパントとして用いられ、またモノマー分子内にドーパントとして作用する部分構造を有し、高い導電性が発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-160647号公報
【特許文献2】特開2008-258224号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】山本真義著、“特別企画 EVがけん引する!先進パワエレの世界”、トランジスタ技術、CQ出版、2022年8月号、p.36-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方で、パワーエレクトロニクス等の分野によっては、高耐電圧のコンデンサが期待されている。例えば、電気自動車に搭載されるモータ駆動用のインバータには、470Vの耐電圧を有する平滑用途のキャパシタが用いられている。更に、700Vによる急速充電を達成するために、700Vの耐電圧を有する平滑用途のキャパシタも期待されている。電解液を用いた電解コンデンサは、電解液による誘電体皮膜の欠陥修復作用により大きな耐電圧を備えるが、このような電解コンデンサであっても高い耐電圧の要求を満たすことは容易ではない。
【0010】
況してや、固体電解コンデンサは、陽極箔との密着性の観点や誘電体皮膜の欠陥修復作用の観点から、電解液を用いた電解コンデンサと比べて高い耐電圧を満たし難い。一般的に、コンデンサの耐電圧を高めるためには誘電体皮膜を厚くすることが考えられる。しかしながら、固体電解コンデンサにおいては、誘電体皮膜を厚くしても、400Vを超える耐電圧は難しく、それどころか、固体電解コンデンサのメリットである静電容量さえも大きく低下してしまう。
【0011】
図8は、固体電解コンデンサにおいて、誘電体皮膜を形成する化成電圧と耐電圧との関係を示すグラフである。
図8に示すように、300Vの耐電圧までは、耐電圧と化成電圧との関係は良好に比例している。しかしながら、350V以上の耐電圧を固体電解コンデンサに与える場合には、耐電圧を大きく超える化成電圧を必要とする。470Vの耐電圧を固体電解コンデンサに与えるためには、1000Vを超えるような大きな化成電圧が必要となる。化成電圧を上げることで、500Vの耐電圧を達成することは困難にみえる。
【0012】
即ち、近年の大電力化に対応し得る高耐電圧を固体電解コンデンサにおいて実現することは容易ではなかった。従って、現状の固体電解コンデンサは、精々100V程度の耐電圧が主流であり、例えば400Vを超えるような耐電圧を目指す分野においては、たとえ長寿命及び低等価直列抵抗であっても、生産に必要とする電力が大き過ぎる等の理由で、固体電解コンデンサは選択肢となり難かった。
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、高耐電圧を有する固体電解コンデンサ及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサは、陽極体、陰極体及び固体電解質層を備え、前記陽極体は、弁作用金属の基材層と、前記基材層上の陽極酸化皮膜と、前記陽極酸化皮膜上の水和酸化物皮膜と、前記水和酸化物皮膜上の酸化物皮膜と、を有する。
【0015】
前記酸化物層は、Al2O3、SiO2、TiO2、ZrO2、Ta2O5又はNiOを含むようにしてもよい。
【0016】
前記酸化物皮膜は、100nm以下の厚みを有するようにしてもよい。
【0017】
前記酸化物皮膜は、気相成長皮膜又は液相成長皮膜であるようにしてもよい。
【0018】
また上記課題を解決すべく、本実施形態の固体電解コンデンサの製造方法は、陽極体、陰極体及び固体電解質層を備える固体電解コンデンサの製造方法であって、前記陽極体には、弁作用金属の基材層に対して、前記基材層上の陽極酸化皮膜と当該前記陽極酸化皮膜上の水和酸化物皮膜した後、前記水和酸化物皮膜上に原子体積法によって酸化物皮膜を形成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、固体電解コンデンサの耐電圧を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】酸化皮膜で覆われた水和酸化皮膜の写真である。
【
図4】比較例1及び実施例1の陽極体の表面を50キロ倍で観察したSEM像であり、(a)は比較例1であり、(b)は実施例1である。
【
図5】比較例1、実施例1及び実施例2の陽極体の表面を30キロ倍で観察したSEM像であり、(a)は比較例1を示し、(b)は実施例2を示す。
【
図6】実施例3の陽極体の水和酸化皮膜の表面を観察したSEM像であり、(a)は5キロ倍で観察したSEM像であり、(b)は22キロ倍で観察したSEM像である。
【
図7】実施例3の陽極体の酸化皮膜の表面を観察したSEM像であり、(a)は5キロ倍で観察したSEM像であり、(b)は22キロ倍で観察したSEM像である。
【
図8】固体電解コンデンサにおける化成電圧と耐電圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(固体電解コンデンサ)
固体電解コンデンサは、陽極体、陰極体及び導電性高分子を備えている。陽極体と陰極体は対向配置される。導電性高分子は、陽極体と密着して真の陰極として機能する。この固体電解コンデンサは、形状に応じて、例えば積層型、巻回型及び平型に区分される。積層型では、陽極体と陰極体がセパレータを挟んで交互に積層される。巻回形では、陽極体と陰極体は、セパレータを挟んで巻回される。また、平型では、陽極体上に導電性高分子及び陰極体が積層される。
【0022】
このような固体電解コンデンサは、一般的にはセパレータを備えている。セパレータは、陽極体と陰極体とを隔絶してショートを阻止し、また導電性高分子を保持する。導電性高分子が自力で形状保持され、固体電解高分子によって陽極体と陰極体とを隔離できる場合、セパレータを省くことができる。
【0023】
陽極体には陽極リードが接続され、陰極体には陰極リードが接続されている。固体電解コンデンサは、これら陽極リードと陰極リードを介して実装回路に電気的に接続される。実装回路と導通することで、固体電解コンデンサは、誘電体皮膜の誘電分極作用により静電容量を得て電荷の蓄電及び放電を行う受動素子となる。
【0024】
(陽極体)
図1は、陽極体の模式図である。
図1に示すように、陽極体は、基材部1、誘電体皮膜2、水和酸化皮膜3及び酸化皮膜4を備えている。陽極体の芯部に基材部1が位置し、外表に向けて誘電体皮膜2、水和酸化皮膜3及び酸化皮膜4が、この順で積層されている。陽極体は、酸化皮膜4を障壁として最外表面に位置させ、導電性高分子5を含む固体電解質層と誘電体皮膜2とを隔絶させている。
【0025】
基材部1は、アルミニウムを延伸した薄板である。巻回型では長尺の帯形状の箔が多用され、平板型では平板が多用される。基材部1の純度は、陽極箔に関して99.9%以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていてもよい。
【0026】
基材部1の片面又は両面には、拡面層が形成されている。拡面層は、多数のトンネル状のエッチングピットを有するエッチング層である。トンネル状のエッチングピットは、箔厚み方向に掘り込まれた孔であり、高耐電圧用途に適している。尚、トンネル状のピットは箔を貫通してもよいし、最深部が箔内に留まる長さであってもよい。トンネル状のエッチングピットは、典型的には、塩酸等のハロゲンイオンが存在する酸性水溶液中で直流電流を流すことで形成される。トンネル状のエッチングピットは、更に、硝酸等の酸性水溶液中で直流電流を流すことで拡径される。
【0027】
誘電体皮膜2は、固体電解コンデンサの誘電体層に該当し、拡面化した基材部1を化成することで、拡面層の凹凸表層に形成されている。誘電体皮膜2は、結晶性酸化物であるγ-アルミナを含む酸化アルミニウムの層である。水和酸化皮膜3は、誘電体皮膜2上に存在し、AlOOH・xH
2Oであるアルミニウムの水和酸化物を含む。
図2は、水和酸化皮膜3のSEM写真である。水和酸化皮膜3は、針状構造物31で形成された多孔質層である。即ち、この水和酸化皮膜3は、針状構造物31の合間に、固体電解質層から誘電体皮膜2へ通じる空間部32を有する。空間部32の一部は、固体電解質層に含有する導電性高分子の粒径以上に拡がっている。
【0028】
これら誘電体皮膜2及び水和酸化皮膜3は、基材部1を拡面化した後、化成工程を経て形成される。化成工程は、化成前処理工程と化成本処理工程とに分けられる。化成前工程では、基材部1の表層、即ち拡面層の凹凸表層を水和酸化皮膜3に化成する。化成本工程では、基材部1と水和酸化皮膜3の境界面から水和酸化皮膜3の外面に向けて、水和酸化皮膜3を誘電体皮膜2に変質させていく。
【0029】
化成前処理工程では、拡面化した基材部1を80℃以上又は沸騰した純水に浸漬する。浸漬時間は、誘電体皮膜2と水和酸化皮膜3の目的の厚みに応じ、耐電圧と静電容量とのバランスにより決すればよい。化成本処理工程では、ハロゲンイオン不在の化成液中で、陽極箔に対し、所望の耐電圧を目指して電圧を印加する。化成液としては、リン酸二水素アンモニウム等のリン酸系の化成液、ホウ酸アンモニウム等のホウ酸系の化成液、アジピン酸アンモニウム等のアジピン酸系の化成液を用いることができる。
【0030】
酸化皮膜4は、陽極体の最外面に位置して水和酸化皮膜3を覆っている。この酸化皮膜4は酸化物を含む絶縁層である。この酸化皮膜4としては、Al
2O
3、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、Ta
2O
5又はNb
2O
5が好ましく、HfO
2、Bi
2O
3、WO
3、MgO又はNiO等であってもよい。
図3は、酸化皮膜4で覆われた水和酸化皮膜3のSEM写真である。
図3に示すように、酸化物41が針状構造物31に付着し、酸化物41が水和酸化皮膜3上に堆積することで、酸化皮膜4は水和酸化皮膜3上に形成される。そして、酸化皮膜4は、水和酸化皮膜3の空間部32の一部を閉塞させ、また空間部32の一部を狭窄させている。そのため、水和酸化皮膜3の空間部32の一部は、酸化皮膜4によって導電性高分子5が通り抜け難くなっており、酸化皮膜4は、水和酸化皮膜3を通じて誘電体皮膜2に到達する導電性高分子5の量を抑制している。
【0031】
この酸化皮膜4は、5nm以上30nm以下の厚みがあれば、誘電体皮膜2に到達する導電性高分子5の量を十分に抑制し、固体電解コンデンサの耐電圧を向上させる。酸化皮膜4の厚みは、好ましくは100nm以下である。酸化皮膜4の厚みが100nm以下であれば、固体電解コンデンサの耐電圧を向上させた上で、陽極体が薄肉となる。陽極体が薄肉となれば、固体電解コンデンサの体積容量当たりの静電容量も十分に維持される。
【0032】
酸化皮膜4は、特に限定無く公知の方法を用いて形成することができる。例えば、酸化皮膜4は、PVDとも呼ばれる物理気相成長法、ALDとも呼ばれる原子堆積法若しくはCVDとも呼ばれる化学気相成長法等の気相成長法、又はゾルゲル法若しくは金属塩溶液を用いた方法等の液相成長によって形成することができる。
【0033】
原子堆積法では、前駆体と呼ばれる有機金属化合物を水和酸化皮膜3の表面に吸着させる。有機金属化合物は、窒素ガスやヘリウムガス等のキャリアガスによって水和酸化皮膜3上に搬送され、水和酸化皮膜3上に吸着可能なサイトが無くなると成長が止まる自己抑制機構によって、1原子層分の厚みで堆積する。酸化皮膜4がAl2O3である場合、有機金属化合物は、例えばトリメチルアルミニウムガスである。次に、原子堆積法では、酸化剤によって有機金属化合物を酸化させ、目的の酸化皮膜4を1原子層ずつ成長させていく。酸化皮膜4がAl2O3の場合、酸化剤は、例えば水蒸気である。有機金属化合物と酸化剤をパルス供給する合間には、パージ時間が設定され、余剰の有機金属化合物、反応生成物、余剰な水分子等をチャンバー外部に排出する。
【0034】
酸化皮膜4を酸化チタン(TiO2)で形成する際には、液相成長法を用いることができる。液相成長法では、水和酸化皮膜3を形成した陽極体を、シュウ酸チタンカリウム二水和水溶液等のチタン水溶液に浸漬させる。これにより、水和酸化皮膜3の針状構造物31の表面にチタン水溶液を付着させる。そして、高温環境下に晒してチタン水溶液から溶媒を揮発させてから、焼成する。
【0035】
(陰極体)
陰極体は、弁作用金属を材料として延伸された陰極箔である。純度は、陰極箔に関して99%以上が望ましい。陰極箔は、陽極体と同じく拡面層が形成される。拡面層のないプレーン箔を陰極箔として用いてもよい。陰極箔は、自然酸化皮膜、又は化成本処理により形成された薄い酸化皮膜(1~10V程度)を有していてもよい。自然酸化皮膜は、陰極箔が空気中の酸素と反応することにより形成される。
【0036】
陰極箔には、最外表面に導電層を付加してもよい。導電層は、例えば蒸着法で形成され、金属窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物を含む層であり、又はスラリーキャスト法、ドクターブレード法又はスプレー噴霧法等によって塗布されるカーボン層である。カーボン層は炭素材を含み、カーボン層は、繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合である。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等である。炭素粉末は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素等である。
【0037】
または、陰極体は、金属層とカーボン層の積層体であり、カーボン層を陽極体に向けて配置される。カーボン層は、ペースト状にして、陽極体上に固体電解質層を形成された後に固体電解質層上に塗工し、加熱より硬化させることで形成される。金属層は例えば銀層であり、金属層は、ペースト状にして、カーボン層の上から塗工し、加熱により硬化させることで形成される。
【0038】
(固体電解質層)
固体電解質層には、導電性高分子5が含まれる。導電性高分子5は、分子内のドーパント分子によりドーピングされた自己ドープ型又は外部ドーパント分子によりドーピングされた共役系高分子である。共役系高分子は、π共役二重結合を有するモノマー又はその誘導体を化学酸化重合または電解酸化重合することによって得られる。ドーピングされた共役系高分子は、高い導電性を発現する。即ち、共役系高分子に電子を受け入れやすいアクセプター、もしくは電子を与えやすいドナーといったドーパントを少量添加することで導電性を発現する。
【0039】
共役系高分子としては、公知のものを特に限定なく使用することができる。例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレンなどが挙げられる。これら共役系高分子は、単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせても良く、更に2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0040】
上記の共役系高分子の中でも、チオフェン又はその誘導体が重合されて成る共役系高分子が好ましく、3,4-エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン)、3-アルキルチオフェン、3-アルコキシチオフェン、3-アルキル-4-アルコキシチオフェン、3,4-アルキルチオフェン、3,4-アルコキシチオフェン又はこれらの誘導体が重合された共役系高分子が好ましい。チオフェン誘導体としては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択された化合物が好ましく、チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。アルキル基やアルコキシ基の炭素数は1~16が適している。
【0041】
特に、EDOTと呼称される3,4-エチレンジオキシチオフェンの重合体、即ち、PEDOTと呼称されるポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。また、3,4-エチレンジオキシチオフェンに置換基が付加されていてもよい。例えば、置換基として炭素数が1~5のアルキル基が付加されたアルキル化エチレンジオキシチオフェンが用いられてもよい。アルキル化エチレンジオキシチオフェンとしては、例えば、メチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-メチル-2,3-ジヒドロチエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、エチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-エチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、ブチル化エチレンジオキシチオフェン(すなわち、2-ブチル-2,3-ジヒドロ-チエノ〔3,4-b〕〔1,4〕ジオキシン)、2-アルキル-3,4-エチレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。
【0042】
ドーパントは、公知のものを特に限定なく使用することができる。ドーパントは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、高分子又は単量体を用いてもよい。例えば、ドーパントとしては、ポリアニオン、ホウ酸、硝酸、リン酸などの無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸、p-トルエンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ボロジサリチル酸、ビスオキサレートボレート酸、スルホニルイミド酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸などの有機酸が挙げられる。
【0043】
ポリアニオンは、例えば、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステルであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。具体的には、ポリアニオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸などが挙げられる。
【0044】
尚、この固体電解質層には、導電性高分子5の他、例えばエチレングリコール及びグリセリン等の多価アルコールといった添加剤が含まれていてもよい。多価アルコールは、沸点が高く、固体電解質層に残留し易い。そして、多価アルコールは、導電性高分子5の高次構造の変化及びポリマー鎖の結晶構造が再配向を引き起こし、固体電解コンデンサのESR低減や耐電圧向上効果が得られる。また、固体電解質層に、ソルビトール等の糖アルコールを含有させてもよく、誘電体皮膜の化成性を向上させ、耐電圧を高める。
【0045】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【実施例0046】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1及び2)
次のようにして、実施例1及び2及び比較例1の固体電解コンデンサを作製した。各固体電解コンデンサは次の点で共通である。各固体電解コンデンサにおいて、陽極体の基材部1は、厚さ120μm及び純度99.99%のアルミニウム箔とした。この基材部1を拡面化し、基材部1の両表面にトンネル状のエッチングピットにより成る拡面層を形成した。拡面化に際し、基材部1は、塩酸濃度が1mol/L及び硫酸濃度が3mol/Lの酸性水溶液中に浸漬され、直流電流が通電された。酸性水溶液の液温は70℃であり、初期電流密度は4000mA/cm2であり、最終電流密度は100mA/cm2であり、エッチング時間は20秒であった。
【0048】
拡面化された基材部1は、化成前処理にて95℃の蒸留水に30分間浸漬され、これにより、基材部1の表層には水和酸化皮膜3が生成された。更に、化成本処理により、水和酸化皮膜3の表層を残し、水和酸化皮膜3を、脱水され結晶性の高い酸化アルミニウムである誘電体皮膜2に変換した。化成本処理では、水和酸化皮膜3を生成した後、液温が95℃で40g/Lの濃度のホウ酸水溶液に浸漬し、50mA/cm2の定電流を流しながら電圧を印加した。尚、比較例1については、500Vの耐電圧を目標に、化成電圧が650Vに達するまで電圧を印加した。
【0049】
実施例1及び2の固体電解コンデンサでは、誘電体皮膜2及び水和酸化皮膜3を生成した後、陽極体に酸化皮膜4を更に積層した。酸化皮膜4はAl2O3である。Al2O3は、原子層堆積法(ALD:Atomoic Layer Deposition)により堆積させた。酸化皮膜4の形成の際、有機金属化合物の気体ソースとしてトリメチルアルミニウムを用い、酸化剤として水蒸気のH2Oを用いた。ALD装置(Piscosun社製、型番:R-200 Advanced)気体ソースの導入時間は0.1秒とし、酸化剤の導入時間は0.1秒とし、気体ソース及び酸化剤の各パージ時間は、双方とも4秒とした。成膜温度は150℃とした。
【0050】
気体ソースの導入、気体ソースのパージ、酸化剤の導入及び酸化剤のパージを1サイクルとし、サイクル数を変化させた。その結果、下表1に示すように、実施例1には30nm厚の酸化皮膜4を形成し、実施例2には20nm厚の酸化皮膜4を形成した。比較例1は、酸化皮膜4を堆積させておらず、酸化皮膜4の厚みはゼロである。
【0051】
【0052】
この陽極体に対し、酸化皮膜4の表面に導電性高分子液を滴下した。導電性高分子液は、導電性高分子を水に分散させた分散液である。導電性高分子は、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)である。導電性高分子は、導電性高分子液中、1.0wt%の割合で分散させた。導電性高分子液は、アンモニア水によってpH4に調整され、また導電性高分子に対して85wt%の割合でソルビトールを含んでいる。導電性高分子液は、超音波を用いて分散処理されている。
【0053】
陽極体には、投影面積0.785cm2、換言すると直径10mm当たり、63μLの量の導電性高分子液が滴下された。導電性高分子液が滴下された後、陽極体は60℃の温度環境下で10分静置され、更に110℃の温度環境下で30分静置された。これにより陽極体を乾燥させ、陽極体の酸化皮膜4上に導電性高分子の固体電解質層を形成した。
【0054】
固体電解質層を形成した後、固体電解質層の上にカーボンペーストを塗工し、110℃の温度環境下に30分間放置することで硬化させた。更に、カーボン層の上から銀ペーストを塗工すると同時に、引出端子として銅箔を接着した。銀ペーストは、硬化前の銀ペースト部に銅箔を接着した状態で110℃の温度環境下に30分間放置すること硬化させた。以上のカーボン層、銀層及び銅箔層は、固体電解コンデンサの陰極体に相当する。
【0055】
(構造観察)
図4は、比較例1及び実施例2の陽極体の表面を走査電子顕微鏡で50キロ倍で撮影したSEM像であり、(a)は比較例1を示し、(b)は実施例1を示す。また、
図5は、比較例1、実施例1及び実施例2の陽極体の表面を走査電子顕微鏡で30キロ倍で撮影したSEM像であり、(a)は比較例1を示し、(b)は実施例1を示し、(c)は実施例2を示す。
【0056】
図4の(a)に示すように、比較例1の陽極体の表面は、針状構造物31で成り立った水和酸化皮膜3であり、SEM像から観察できる空間部32は80nm以上に開いていることが確認できる。一方、
図4の(b)に示すように、酸化皮膜4によって水和酸化皮膜3の空間部32は狭窄していることが確認できる。特に、
図4の(b)のSEM像から観察できる多くの空間部32は潰れ、一部の空間部32の最大径は80nm以下になっている。
【0057】
図5の(a)乃至(c)に示すように、実施例1及び実施例2では、針状構造物31の周面に酸化物41が付着することで、針状構造物31が太くなっていることがわかる。そのため、水和酸化皮膜3の表層では空間部32が狭窄し、空間部32が狭窄した水和酸化皮膜3上に酸化皮膜4が積もって、水和酸化皮膜3が酸化皮膜4に覆われたことがわかる。
【0058】
このように、実施例1及び実施例2では、水和酸化皮膜3上に酸化皮膜4が形成されることにより、酸化皮膜4によって水和酸化皮膜3の空間部32狭窄され、また水和酸化皮膜3が閉蓋され、多くの導電性高分子5が水和酸化皮膜3及び誘電体皮膜2へ移動することができない状態であることが確認された。
【0059】
(耐電圧)
実施例1及び2並びに比較例1の固体電解コンデンサの耐電圧を測定した。耐電圧の測定方法は次の通りである。即ち、105℃において固体電解コンデンサに電圧を印加した。開始電圧は200Vであり、印加電圧を10秒ごとに1Vずつ昇圧していった。そして、固体電解コンデンサに流れた電流が1mAに到達したときの電圧を耐電圧とした。固体電解コンデンサは4個作製し、4個の耐電圧の平均値を算出した。
【0060】
実施例1及び2並びに比較例1の耐電圧の測定結果は、下表2の通りである。下表2の結果は、耐電圧の平均値である。
(表2)
【0061】
表2に示すように、比較例1の固体電解コンデンサは、650Vの化成電圧を印加することで漸く470Vの耐電圧を得た。これに対し、実施例1の固体電解コンデンサは、30nmの厚みの酸化皮膜4を水和酸化皮膜3上に形成し、導電性高分子5の浸入を阻むだけで、535Vの耐電圧を獲得した。20nmの厚みの酸化皮膜4を水和酸化皮膜3上に形成した実施例2の固体電解コンデンサについても、酸化皮膜4によって導電性高分子5の浸入が阻まれ、500Vの耐電圧を獲得した。
【0062】
このように、水和酸化皮膜3上に酸化皮膜4をすることにより、酸化皮膜4によって水和酸化皮膜3の空間部32狭窄され、また水和酸化皮膜3が閉蓋され、多くの導電性高分子5が水和酸化皮膜3及び誘電体皮膜2へ移動することができなくなる。これにより、固体電解コンデンサであっても、化成電圧を過大に上げる必要なく、容易に400Vを超える高耐電圧特性を獲得できることが確認された。
【0063】
(実施例3)
次に、実施例3の固体電解コンデンサを作製した。実施例3は、酸化皮膜4の種類を除き、実施例1と同一の構成を有する。実施例3では、酸化チタン(TiO2)の酸化皮膜4を水和酸化皮膜3上に形成した。
【0064】
実施例3の酸化皮膜4は、次の通り作製した。即ち、水和酸化皮膜3を形成した後、陽極体を1wt%のシュウ酸チタンカリウム二水和物水溶液に浸漬した。陽極体を水溶液から引き上げた後、100℃の温度環境下に15分間放置し、乾燥により溶媒を揮発させた。乾燥の後、陽極体を500℃の温度環境下に15負分間晒すことで焼成した。
【0065】
図6は、酸化皮膜4を形成する前に、実施例3の陽極体の水和酸化皮膜3の表面を観察したSEM像であり、(a)は倍率5キロ倍であり、(b)は倍率22キロ倍である。
図6に示すように、実施例3の水和酸化皮膜3も針状構造物31を有していることが確認できる。そして、この針状構造物31の周りに空間部32が拡がっている。
【0066】
図7は、実施例3の陽極体の酸化皮膜4の表面を観察したSEM像であり、(a)は倍率5キロ倍であり、(b)は倍率22キロ倍である。
図7に示すように、酸化皮膜4の形成処理によって、針状構造物31の周囲に酸化物41が付着しており、針状構造物31の径が太くなっており、空間部32が狭窄していることが確認できる。
【0067】
従って、ALD以外の方法によっても酸化皮膜4を水和酸化皮膜3上に形成でき、空間部32を狭窄させ、または空間部32を閉蓋できることが確認できる。