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特開2024-81463封止用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081463
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20240611BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20240611BHJP
   C08L 25/18 20060101ALI20240611BHJP
   C08K 5/5357 20060101ALI20240611BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240611BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/24
C08L25/18
C08K5/5357
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195108
(22)【出願日】2022-12-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】助川 雄太
(72)【発明者】
【氏名】田中 実佳
(72)【発明者】
【氏名】山浦 格
(72)【発明者】
【氏名】中山 亜裕美
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4J002BC101
4J002BC102
4J002BC122
4J002CD031
4J002DE186
4J002EW137
4J002FD016
4J002FD132
4J002FD137
4J002GQ00
4M109AA01
4M109BA01
4M109BA03
4M109BA05
4M109CA21
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB06
4M109EB07
4M109EB08
4M109EB12
4M109EC07
(57)【要約】
【課題】機械強度を維持しつつ、比誘電率を低く下げ過ぎず、誘電正接が低い硬化物が得られる封止用樹脂組成物、これを用いて封止される電子部品装置、及びこれを用いて封止する電子部品装置の製造方法の提供。
【解決手段】エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン元素を含むチタン系無機充填材と、ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物と、を含む、封止用樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン元素を含むチタン系無機充填材と、ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物と、を含む、封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物が、下記一般式(I)で表される化合物を含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【化1】

〔一般式(I)中、Xは水素原子及びメチル基の少なくとも一方を表し、nは2以上の整数を表す。〕
【請求項3】
前記ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部~50質量部である、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、活性エステル化合物、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、及びブロックイソシアネート硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
素子と、
前記素子を封止している請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物と、
を備える、電子部品装置。
【請求項6】
素子を支持部材上に配置する工程と、
前記素子を請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物で封止する工程と、
を含む、電子部品装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物、電子部品装置及び電子部品装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信技術の進化が目覚ましく、より複雑で微細な構造を有する電子回路が使用されている。回路を伝わる信号の遅延時間は誘電率の平方根に比例するため、半導体を構成する各部材にも低誘電率化が求められている。また、回路の誘電損失は誘電率の平方根と誘電正接に比例するため、エネルギー損失を少なくするために、各部材には低誘電率かつ低誘電正接という特性が求められている。
【0003】
例えば特許文献1~2には、エポキシ樹脂用硬化剤として活性エステル樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物が開示されており、硬化物の誘電正接を低く抑えることができるとされている。
【0004】
また、アンテナ機能を有するアンテナ・イン・パッケージ(AiP、Antenna in Package)の開発も進められている。AiPの小型化は、比誘電率を高くすることによって設計可能とされている。
【0005】
しかしながら、誘電率が高い材料は、一般に誘電正接も高いことが多い。そこで、封止用樹脂組成物の硬化物においては、比誘電率を低く下げ過ぎず、誘電正接を低下させることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-246367号公報
【特許文献2】特開2014-114352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、機械強度を維持しつつ、比誘電率を低く下げ過ぎず、誘電正接が低い硬化物が得られる封止用樹脂組成物、これを用いて封止される電子部品装置、及びこれを用いて封止する電子部品装置の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン元素を含むチタン系無機充填材と、ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物と、を含む、封止用樹脂組成物。
<2> 前記ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物が、下記一般式(I)で表される化合物を含む、<1>に記載の封止用樹脂組成物。
【化1】

〔一般式(I)中、Xは水素原子及びメチル基の少なくとも一方を表し、nは2以上の整数を表す。〕
<3> 前記ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物の含有量が、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部~50質量部である、<1>又は<2>に記載の封止用樹脂組成物。
<4> 前記硬化剤は、活性エステル化合物、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、及びブロックイソシアネート硬化剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物。
<5> 素子と、
前記素子を封止している<1>~<4>のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物の硬化物と、
を備える、電子部品装置。
<6> 素子を支持部材上に配置する工程と、
前記素子を<1>~<4>のいずれか一項に記載の封止用樹脂組成物で封止する工程と、
を含む、電子部品装置の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、機械強度を維持しつつ、比誘電率を低く下げ過ぎず、誘電正接が低い硬化物が得られる封止用樹脂組成物、これを用いて封止される電子部品装置、及びこれを用いて封止する電子部品装置の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
【0011】
<封止用樹脂組成物>
本開示の封止用樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、チタン元素を含むチタン系無機充填材と、ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物と、を含む。
【0012】
上記構成を有する封止用樹脂組成物は、機械強度を維持しつつ、比誘電率を低く下げ過ぎず、誘電正接が低い硬化物が得られる。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物は揮発性が低いため硬化性に悪影響を与えず、そして剛直性を有するため弾性率が維持される。結果、封止用樹脂組成物にポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物を添加しても機械強度の低下が抑えられる。また、ポリスチレン構造は極性が低いため、誘電正接が低下する。
また、チタン元素を含むチタン系無機充填材を含有することで、硬化物としたときに比誘電率を低く下げ過ぎないように調整可能となる。
【0013】
(エポキシ樹脂)
本開示の封止用樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の種類は特に制限されない。
エポキシ樹脂として具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものであるノボラック型エポキシ樹脂(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等);上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるトリフェニルメタン型エポキシ樹脂;上記フェノール化合物及びナフトール化合物と、アルデヒド化合物とを酸性触媒下で共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したものである共重合型エポキシ樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルであるジフェニルメタン型エポキシ樹脂;アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂;スチルベン系フェノール化合物のジグリシジルエーテルであるスチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールS等のジグリシジルエーテルである硫黄原子含有エポキシ樹脂;ブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルコール類のグリシジルエーテルであるエポキシ樹脂;フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸化合物のグリシジルエステルであるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;アニリン、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等の窒素原子に結合した活性水素をグリシジル基で置換したものであるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエンとフェノール化合物の共縮合樹脂をエポキシ化したものであるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;分子内のオレフィン結合をエポキシ化したものであるビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシ)シクロヘキシル-5,5-スピロ(3,4-エポキシ)シクロヘキサン-m-ジオキサン等の脂環型エポキシ樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるパラキシリレン変性エポキシ樹脂;メタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるメタキシリレン変性エポキシ樹脂;テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるテルペン変性エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるジシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるシクロペンタジエン変性エポキシ樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテルである多環芳香環変性エポキシ樹脂;ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテルであるナフタレン型エポキシ樹脂;ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂;ハイドロキノン型エポキシ樹脂;トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂;オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂;フェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂をエポキシ化したものであるアラルキル型エポキシ樹脂;などが挙げられる。さらにはアクリル樹脂のエポキシ化物等もエポキシ樹脂として挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
これらのエポキシ樹脂の中でも、流動性の観点からはビフェニル型エポキシ樹脂が好ましく、吸湿性の観点からはアラルキル型エポキシ樹脂が好ましく、吸湿性及び硬化性の観点からはビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂が好ましく、硬化性の観点からはノボラック型エポキシ樹脂及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂が好ましい。
【0015】
エポキシ樹脂のエポキシ当量(分子量/エポキシ基数)は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性及び電気的信頼等の各種特性バランスの観点からは、100g/eq~1000g/eqであることが好ましく、150g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0016】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2009に準じた方法で測定される値とする。
【0017】
エポキシ樹脂が固体である場合、その軟化点又は融点は特に制限されない。成形性と耐リフロー性の観点からは40℃~180℃であることが好ましく、封止用樹脂組成物の調製の際の取扱い性の観点からは50℃~130℃であることがより好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂の融点は示差走査熱量測定(DSC)で測定される値とし、エポキシ樹脂の軟化点はJIS K 7234:1986に準じた方法(環球法)で測定される値とする。
【0019】
封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有率は、強度、流動性、耐熱性、成形性等の観点から0.5質量%~50質量%であることが好ましく、2質量%~30質量%であることがより好ましい。
【0020】
(硬化剤)
本開示の封止用樹脂組成物に含まれる硬化剤の種類は特に制限されず、封止用樹脂組成物の所望の特性等に応じて選択できる。硬化剤としては、活性エステル化合物、フェノール硬化剤、アミン硬化剤、酸無水物硬化剤、ポリメルカプタン硬化剤、ポリアミノアミド硬化剤、イソシアネート硬化剤、ブロックイソシアネート硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
フェノール硬化剤として具体的には、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、置換又は非置換のビフェノール等の多価フェノール化合物;フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール化合物及びα-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種のフェノール性化合物と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジメトキシパラキシレン、ビス(メトキシメチル)ビフェニル等とから合成されるフェノールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂;ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂;パラキシリレン変性フェノール樹脂、メタキシリレン変性フェノール樹脂;メラミン変性フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ジシクロペンタジエンとから共重合により合成されるジシクロペンタジエン型フェノール樹脂及びジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂;シクロペンタジエン変性フェノール樹脂;多環芳香環変性フェノール樹脂;ビフェニル型フェノール樹脂;上記フェノール性化合物と、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるトリフェニルメタン型フェノール樹脂;これら2種以上を共重合して得たフェノール樹脂などが挙げられる。これらのフェノール硬化剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
硬化剤の官能基当量(フェノール硬化剤の場合は水酸基当量)は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、70g/eq~1000g/eqであることが好ましく、80g/eq~500g/eqであることがより好ましい。
【0023】
硬化剤の官能基当量(フェノール硬化剤の場合は水酸基当量)は、JIS K 0070:1992に準じた方法により測定される値とする。
【0024】
硬化剤が固体である場合、その軟化点又は融点は、特に制限されない。成形性と耐リフロー性の観点からは、40℃~180℃であることが好ましく、封止用樹脂組成物の製造時における取扱い性の観点からは、50℃~160℃であることがより好ましい。
【0025】
硬化剤の融点又は軟化点は、エポキシ樹脂の融点又は軟化点と同様にして測定される値とする。
【0026】
硬化剤は、活性エステル化合物を含んでもよい。本開示において「活性エステル化合物」とは、エポキシ基と反応しうるエステル基(活性エステル基)を1分子中に1個以上有し、エポキシ樹脂の硬化作用を有する化合物をいう。活性エステル化合物は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
活性エステル化合物を含むことにより、硬化物中に生成する極性の大きい2級水酸基の量が低減され、硬化物の誘電正接を低く抑えることができる。
また、硬化物中の極性基は硬化物の吸水性を高めるところ、硬化剤として活性エステル化合物を用いることによって硬化物の極性基濃度を抑えることができ、硬化物の吸水性を抑制することができる。そして、硬化物の吸水性を抑制すること、つまりは極性分子であるHOの含有量を抑制することにより、硬化物の誘電正接をさらに低く抑えることができる。
【0028】
誘電正接を低く抑える観点からは、硬化物の吸水率は、0%~0.35%が好ましく、0%~0.30%がより好ましく、0%~0.25%がさらに好ましい。ここで硬化物の吸水率は、プレッシャークッカー試験(121℃、2.1気圧、24時間)によって求める質量増加率である。
【0029】
活性エステル化合物は、エポキシ基と反応するエステル基を分子中に1個以上有する化合物であればその種類は特に制限されない。活性エステル化合物としては、フェノールエステル化合物、チオフェノールエステル化合物、N-ヒドロキシアミンエステル化合物、複素環ヒドロキシ化合物のエステル化物等が挙げられる。
【0030】
活性エステル化合物としては、例えば、脂肪族カルボン酸及び芳香族カルボン酸の少なくとも1種と脂肪族ヒドロキシ化合物及び芳香族ヒドロキシ化合物の少なくとも1種とから得られるエステル化合物が挙げられる。脂肪族化合物を重縮合の成分とするエステル化合物は、脂肪族鎖を有することによりエポキシ樹脂との相溶性に優れる傾向にある。芳香族化合物を重縮合の成分とするエステル化合物は、芳香環を有することにより耐熱性に優れる傾向にある。
【0031】
活性エステル化合物の具体例としては、芳香族カルボン酸と芳香族ヒドロキシ化合物のフェノール性水酸基との縮合反応にて得られる芳香族エステルが挙げられる。中でも、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ジフェニルプロパン、ジフェニルメタン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン酸等の芳香環の水素原子の2~4個をカルボキシ基で置換した芳香族カルボン酸成分と、前記した芳香環の水素原子の1個を水酸基で置換した1価フェノールと、前記した芳香環の水素原子の2~4個を水酸基で置換した多価フェノールとの混合物を原材料として、芳香族カルボン酸と芳香族ヒドロキシ化合物のフェノール性水酸基との縮合反応にて得られる芳香族エステルが好ましい。すなわち、上記芳香族カルボン酸成分由来の構造単位と上記1価フェノール由来の構造単位と上記多価フェノール由来の構造単位とを有する芳香族エステルが好ましい。
【0032】
活性エステル化合物の具体例としては、特開2012-246367号公報に記載されている、脂肪族環状炭化水素基を介してフェノール化合物が結節された分子構造を有するフェノール樹脂と、芳香族ジカルボン酸又はそのハライドと、芳香族モノヒドロキシ化合物とを反応させて得られる構造を有する活性エステル樹脂が挙げられる。当該活性エステル樹脂としては、下記の構造式(1)で表される化合物が好ましい。
【0033】
【化2】

【0034】
構造式(1)中、Rは炭素数1~4のアルキル基であり、Xはベンゼン環、ナフタレン環、炭素数1~4のアルキル基で置換されたベンゼン環若しくはナフタレン環、又はビフェニル基であり、Yはベンゼン環、ナフタレン環、又は炭素数1~4のアルキル基で置換されたベンゼン環若しくはナフタレン環であり、kは0又は1であり、nは繰り返し数の平均を表し、0.25~1.5である。
【0035】
構造式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記の例示化合物(1-1)~(1-10)が挙げられる。構造式中のt-Buは、tert-ブチル基である。
【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
活性エステル化合物の別の具体例としては、特開2014-114352号公報に記載されている、下記の構造式(2)で表される化合物及び下記の構造式(3)で表される化合物が挙げられる。
【0039】
【化5】
【0040】
構造式(2)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のアルコキシ基であり、Zはベンゾイル基、ナフトイル基、炭素数1~4のアルキル基で置換されたベンゾイル基又はナフトイル基、及び炭素数2~6のアシル基からなる群より選ばれるエステル形成構造部位(z1)、又は水素原子(z2)であり、Zのうち少なくとも1個はエステル形成構造部位(z1)である。
【0041】
【化6】
【0042】
構造式(3)中、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、又は炭素数1~4のアルコキシ基であり、Zはベンゾイル基、ナフトイル基、炭素数1~4のアルキル基で置換されたベンゾイル基又はナフトイル基、及び炭素数2~6のアシル基からなる群より選ばれるエステル形成構造部位(z1)、又は水素原子(z2)であり、Zのうち少なくとも1個はエステル形成構造部位(z1)である。
【0043】
構造式(2)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記の例示化合物(2-1)~(2-6)が挙げられる。
【0044】
【化7】

【0045】
構造式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、下記の例示化合物(3-1)~(3-6)が挙げられる。
【0046】
【化8】

【0047】
活性エステル化合物としては、市販品を用いてもよい。活性エステル化合物の市販品としては、ジシクロペンタジエン型ジフェノール構造を含む活性エステル化合物として「EXB9451」、「EXB9460」、「EXB9460S」、「HPC-8000-65T」(DIC株式会社製);芳香族構造を含む活性エステル化合物として「EXB9416-70BK」、「EXB-8」、「EXB-9425」(DIC株式会社製);フェノールノボラックのアセチル化物を含む活性エステル化合物として「DC808」(三菱ケミカル株式会社製);フェノールノボラックのベンゾイル化物を含む活性エステル化合物として「YLH1026」(三菱ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0048】
活性エステル化合物のエステル当量(分子量/活性エステル基数)は、特に制限されない。成形性、耐リフロー性、電気的信頼性等の各種特性バランスの観点からは、150g/eq~400g/eqが好ましく、170g/eq~300g/eqがより好ましく、200g/eq~250g/eqがさらに好ましい。
【0049】
活性エステル化合物のエステル当量は、JIS K 0070:1992に準じた方法により測定される値とする。
【0050】
硬化剤が活性エステル化合物を含む場合、硬化物の誘電正接を低く抑える観点からは、活性エステル化合物の含有率は硬化剤全体の50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0051】
(無機充填材)
本開示の封止用樹脂組成物は、チタン元素を含むチタン系無機充填材を含む。チタン系無機充填材は、10GHzでの比誘電率が、10以上であることが好ましく、10~100であることがより好ましく、30~100であることがさらに好ましい。
【0052】
本開示にて、チタン系無機充填材における10GHzでの比誘電率は、以下のようにして求められる値である。
まず、エポキシ樹脂(ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、エポキシ当量274g/eq)100質量部、フェノール硬化剤(フェノールアラルキル樹脂、水酸基当量205g/eq)74.8質量部及びトリフェニルホスフィンの1,4-ベンゾキノン付加物2質量部の樹脂組成物、チタン系無機充填材、並びにメチルエチルケトン(MEK)を混合し、チタン系無機充填材の合計75質量%であるワニスを作製する。このとき、チタン系無機充填材の含有率が溶剤(MEK)を除く固形分に対して10体積%、20体積%、30体積%であるワニスをそれぞれ準備する。
得られたワニスを基材上に塗布し、100℃、10分の条件で基材を乾燥させた後、基材から樹脂膜を剥離した。得られた樹脂膜を、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間600秒の条件で成形し、それぞれ測定用硬化物を得る。得られた各測定用硬化物における10GHzでの比誘電率を測定し、チタン系無機充填材の含有率を横軸、比誘電率の測定値を縦軸としてプロットしたグラフを作成する。得られたグラフから、最小二乗法により直線近似を行い、チタン系無機充填材の含有率が100体積%のときの比誘電率を外挿により求める。
【0053】
チタン系無機充填材としては、具体的には、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸亜鉛及び酸化チタンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム及びチタン酸ストロンチウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。中でも、球形度が高く、流動性が高い観点から、チタン酸バリウムを含むことが好ましい。
【0054】
チタン系無機充填材は、平均粒径が0.1μm~100μmであることが好ましく、0.5μm~30μmであることがより好ましく、2μm~20μmであることがさらに好ましい。
【0055】
本開示にて、チタン系無機充填材の平均粒径は、以下のようにして測定することができる。封止用樹脂組成物をるつぼに入れ、800℃で4時間放置し、灰化させる。灰化により得られた無機充填材について、ラマン分光器を備えた画像式粒度分布計(例えば、マルバーン・パナリティカル社のモフォロギ4-ID)を用いてチタン系無機充填材の粒度分布を求め、その粒度分布から平均粒径を求めればよい。
【0056】
チタン系無機充填材は、封止用樹脂組成物の流動性の観点から、粒度分布の平均粒径が異なる2種以上のチタン系無機充填材であってもよく、粒度分布の平均粒径が異なる2種のチタン系無機充填材であってもよい。
【0057】
チタン系無機充填材の形状としては、特に限定されず、球形、楕円形、不定形等が挙げられる。また、チタン系無機充填材は、破砕されたものであってもよい。
【0058】
本開示の封止用樹脂組成物は、チタン系無機充填材以外のその他の無機充填材を含んでもよい。
その他の無機充填材の種類は、チタン系無機充填材以外であれば特に制限されない。具体的には、溶融シリカ、結晶シリカ、ガラス、アルミナ、タルク、クレー、マイカ等の無機材料が挙げられる。その他の無機充填材として、難燃効果を有する無機充填材を用いてもよい。難燃効果を有する無機充填材としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムと亜鉛の複合水酸化物等の複合金属水酸化物、硼酸亜鉛などが挙げられる。その他の無機充填材は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
その他の無機充填材の中でも、線膨張係数低減の観点からは溶融シリカ等のシリカが好ましく、高熱伝導性の観点からはアルミナが好ましい。その他の無機充填材の形態としては粉末、粉末を球形化したビーズ、繊維等が挙げられる。
【0060】
その他の無機充填材の平均粒径は、特に制限されない。例えば、その他の無機充填材の平均粒径が0.2μm~100μmであることが好ましく、0.5μm~50μmであることがより好ましい。平均粒径が0.2μm以上であると、封止用樹脂組成物の粘度の上昇がより抑制される傾向がある。平均粒径が100μm以下であると、充填性がより向上する傾向にある。無機充填材の平均粒径は、レーザー散乱回折法粒度分布測定装置により、体積平均粒径(D50)として求める。
【0061】
チタン系無機充填材の含有率は、無機充填材の全量に対し、0質量%~100質量%であってもよく、10質量%~80質量%であってもよく、20質量%~60質量%であってもよい。チタン系無機充填材の含有率が10質量%以上であることにより、封止用樹脂組成物を硬化物とした際の比誘電率がより高まる傾向にある。チタン系無機充填材の含有率が50質量%以下であることにより、封止用樹脂組成物の流動性に優れる傾向にある。
【0062】
無機充填材の総含有率は、特に制限されず、流動性及び強度の観点からは、封止用樹脂組成物全体に対し、50質量%~95質量%であることが好ましく、60質量%~95質量%であることがより好ましく、70質量%~90質量%であることがさらに好ましい。無機充填材の総含有率が50質量%以上であると、硬化物の比誘電率、熱膨張係数、熱伝導率、弾性率等の特性がより向上する傾向にある。無機充填材の総含有率が95質量%以下であると、封止用樹脂組成物の粘度の上昇が抑制され、流動性がより向上して成形性がより良好になる傾向にある。
【0063】
(特定ホスファフェナントレン化合物)
本開示の封止用樹脂組成物は、ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物を含む。以下、「ポリスチレン構造を有するホスファフェナントレン化合物」を「特定ホスファフェナントレン化合物」ともいう。特定ホスファフェナントレン化合物は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
特定ホスファフェナントレン化合物は、下記一般式(I)で表される化合物を含むことが好ましい。
【化9】
【0064】
一般式(I)中、Xは水素原子及びメチル基の少なくとも一方を表す。Xは、水素原子又はメチル基の一方のみであってもよく、水素原子及びメチル基の両方を有してもよい。
nは2以上の整数を表し、6~11の整数であることが好ましく、10~11の整数であることがより好ましい。
【0065】
特定ホスファフェナントレン化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して、5質量部~50質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましく、10質量部~20質量部であることがさらに好ましい。
【0066】
(硬化促進剤)
封止用樹脂組成物は、硬化促進剤を含んでもよい。硬化促進剤の種類は特に制限されず、エポキシ樹脂又は硬化剤の種類、封止用樹脂組成物の所望の特性等に応じて選択できる。硬化促進剤は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0067】
硬化促進剤としては、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン-5(DBN)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等のジアザビシクロアルケン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルヒドロキシイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール等の環状アミジン化合物;前記環状アミジン化合物の誘導体;前記環状アミジン化合物又はその誘導体のフェノールノボラック塩;これらの化合物に無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタンなどの、π結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;DBUのテトラフェニルボレート塩、DBNのテトラフェニルボレート塩、2-エチル-4-メチルイミダゾールのテトラフェニルボレート塩、N-メチルモルホリンのテトラフェニルボレート塩等の環状アミジニウム化合物;ピリジン、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の三級アミン化合物;前記三級アミン化合物の誘導体;酢酸テトラ-n-ブチルアンモニウム、リン酸テトラ-n-ブチルアンモニウム、酢酸テトラエチルアンモニウム、安息香酸テトラ-n-ヘキシルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム等のアンモニウム塩化合物;トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィン、アルキルジアリールホスフィン等の三級ホスフィン;前記三級ホスフィンと有機ボロン類との錯体等のホスフィン化合物;前記三級ホスフィン又は前記ホスフィン化合物と無水マレイン酸、1,4-ベンゾキノン、2,5-トルキノン、1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-5-メチル-1,4-ベンゾキノン、2,3-ジメトキシ-1,4-ベンゾキノン、フェニル-1,4-ベンゾキノン等のキノン化合物、ジアゾフェニルメタンなどの、π結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物;前記三級ホスフィン又は前記ホスフィン化合物と4-ブロモフェノール、3-ブロモフェノール、2-ブロモフェノール、4-クロロフェノール、3-クロロフェノール、2-クロロフェノール、4-ヨウ化フェノール、3-ヨウ化フェノール、2-ヨウ化フェノール、4-ブロモ-2-メチルフェノール、4-ブロモ-3-メチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジメチルフェノール、4-ブロモ-3,5-ジメチルフェノール、4-ブロモ-2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、4-クロロ-1-ナフトール、1-ブロモ-2-ナフトール、6-ブロモ-2-ナフトール、4-ブロモ-4’-ヒドロキシビフェニル等のハロゲン化フェノール化合物を反応させた後に、脱ハロゲン化水素の工程を経て得られる、分子内分極を有する化合物;テトラフェニルホスホニウム等のテトラ置換ホスホニウム、テトラ-p-トリルボレート等のホウ素原子に結合したフェニル基がないテトラ置換ホスホニウム及びテトラ置換ボレート;テトラフェニルホスホニウムとフェノール化合物との塩などが挙げられる。
【0068】
封止用樹脂組成物が硬化促進剤を含む場合、その量は、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対して0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~15質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の量が樹脂成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、短時間で良好に硬化する傾向にある。硬化促進剤の量が樹脂成分100質量部に対して30質量部以下であると、硬化速度が速すぎず良好な成形品が得られる傾向にある。
【0069】
[各種添加剤]
封止用樹脂組成物は、上述の成分に加えて、以下に例示するカップリング剤、イオン交換体、離型剤、難燃剤、着色剤等の各種添加剤を含んでもよい。封止用樹脂組成物は、以下に例示する添加剤以外にも必要に応じて当技術分野で周知の各種添加剤を含んでもよい。
【0070】
(カップリング剤)
封止用樹脂組成物は、カップリング剤を含んでもよい。樹脂成分と無機充填材との接着性を高める観点からは、封止用樹脂組成物はカップリング剤を含むことが好ましい。カップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、ビニルシラン、ジシラザン等のシラン系化合物、チタン系化合物、アルミニウムキレート化合物、アルミニウム/ジルコニウム系化合物などの公知のカップリング剤が挙げられる。
【0071】
封止用樹脂組成物がカップリング剤を含む場合、カップリング剤の量は、無機充填材100質量部に対して0.05質量部~15質量部であることが好ましく、0.1質量部~10質量部であることがより好ましい。カップリング剤の量が無機充填材100質量部に対して0.05質量部以上であると、フレームとの接着性がより向上する傾向にある。カップリング剤の量が無機充填材100質量部に対して15質量部以下であると、パッケージの成形性がより向上する傾向にある。
【0072】
(イオン交換体)
封止用樹脂組成物は、イオン交換体を含んでもよい。封止用樹脂組成物は、封止される素子を備える電子部品装置の耐湿性及び高温放置特性を向上させる観点から、イオン交換体を含むことが好ましい。イオン交換体は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ハイドロタルサイト化合物、並びにマグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の含水酸化物等が挙げられる。イオン交換体は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、下記一般式(A)で表されるハイドロタルサイトが好ましい。
【0073】
Mg(1-X)Al(OH)(COX/2・mHO ……(A)
(0<X≦0.5、mは正の数)
【0074】
封止用樹脂組成物がイオン交換体を含む場合、その含有量は、ハロゲンイオン等のイオンを捕捉するのに充分な量であれば特に制限はない。例えば、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対して0.1質量部~30質量部であることが好ましく、1質量部~10質量部であることがより好ましい。
【0075】
(離型剤)
封止用樹脂組成物は、成形時における金型との良好な離型性を得る観点から、離型剤を含んでもよい。離型剤は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、カルナバワックス、モンタン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、モンタン酸エステル等のエステル系ワックス、酸化ポリエチレン、非酸化ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなどが挙げられる。離型剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0076】
封止用樹脂組成物が離型剤を含む場合、その量は樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対して0.01質量部~10質量部が好ましく、0.1質量部~5質量部がより好ましい。離型剤の量が樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上であると、離型性が充分に得られる傾向にある。10質量部以下であると、より良好な接着性が得られる傾向にある。
【0077】
(難燃剤)
封止用樹脂組成物は、難燃剤を含んでもよい。難燃剤は特に制限されず、従来公知のものを用いることができる。具体的には、ハロゲン原子、アンチモン原子、窒素原子又はリン原子を含む有機又は無機の化合物、金属水酸化物等が挙げられる。難燃剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
封止用樹脂組成物が難燃剤を含む場合、その量は、所望の難燃効果を得るのに充分な量であれば特に制限されない。例えば、樹脂成分100質量部(エポキシ樹脂と硬化剤の合計量)に対して1質量部~30質量部であることが好ましく、2質量部~20質量部であることがより好ましい。
【0079】
(着色剤)
封止用樹脂組成物は、着色剤を含んでもよい。着色剤としてはカーボンブラック、有機染料、有機顔料、酸化チタン、鉛丹、ベンガラ等の公知の着色剤を挙げることができる。
着色剤の含有量は目的等に応じて適宜選択できる。着色剤は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(流動性付与剤)
封止用樹脂組成物は、流動性付与剤を含んでもよい。流動性付与剤として具体的には、インデンクマロン樹脂、トリフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0081】
封止用樹脂組成物が流動性付与剤を含有する場合、流動性付与剤の量は、例えば、樹脂成分100質量部に対して1質量部~30質量部であることが好ましく、2質量部~20質量部であることがより好ましい。
【0082】
(溶剤)
封止用樹脂組成物は、溶剤をなるべく含まないことが好ましい。封止用樹脂組成物における溶剤の含有率は、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが好ましく、0質量%であってもよい。
【0083】
(封止用樹脂組成物の調製方法)
封止用樹脂組成物の調製方法は、特に制限されない。一般的な手法としては、所定の配合量の成分をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出機等によって溶融混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。より具体的には、例えば、上述した成分の所定量を均一になるよう攪拌及び混合し、予め70℃~140℃に加熱してあるニーダー、ロール、エクストルーダー等で混練し、冷却し、粉砕する方法を挙げることができる。
【0084】
封止用樹脂組成物は、常温常圧下(例えば、25℃、大気圧下)において固体であることが好ましい。封止用樹脂組成物が固体である場合の形状は特に制限されず、粉状、粒状、タブレット状等が挙げられる。封止用樹脂組成物がタブレット状である場合の寸法及び質量は、パッケージの成形条件に合うような寸法及び質量となるようにすることが取り扱い性の観点から好ましい。
【0085】
(封止用樹脂組成物の諸物性)
-スパイラルフロー-
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、封止用樹脂組成物を金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間90秒の条件で成形したときの流動距離は、60cm以上であることが好ましく、70cm以上であることがより好ましく、80cm以上であることがさらに好ましい。以下、上記流動距離を「スパイラルフロー」ともいう。スパイラルフローの上限値は特に限定されず、例えば150cmが挙げられる。
スパイラルフローは、実施例に記載した方法で測定される。
【0086】
-ゲルタイム-
封止用樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムは、30秒~60秒であることが好ましく、30秒~50秒であることがより好ましい。
ゲルタイムは、実施例に記載した方法で測定される。
【0087】
-曲げ強さ-
封止用樹脂組成物は、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行うことで得られる硬化物の曲げ強さとしては、100MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましく、130MPa以上であることがさらに好ましい。硬化物の曲げ強さの上限値は、特に限定されず、例えば160MPaが挙げられる。
曲げ強度は、実施例に記載した方法で測定される。
【0088】
-曲げ弾性率-
封止用樹脂組成物は、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行うことで得られる硬化物の曲げ弾性率としては、20GPa以上であることが好ましく、25GPa以上であることがより好ましく、30GPa以上であることがさらに好ましい。硬化物の曲げ弾性率の上限値は、特に限定されず、例えば40GPaが挙げられる。
曲げ強度は、実施例に記載した方法で測定される。
【0089】
-曲げ破断伸び-
封止用樹脂組成物は、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行うことで得られる硬化物の曲げ破断伸びとしては、0.2%以上であることが好ましく、0.3%以上であることがより好ましく、0.4%以上であることがさらに好ましい。硬化物の曲げ弾性率の上限値は、特に限定されず、例えば0.6%が挙げられる。
曲げ強度は、実施例に記載した方法で測定される。
【0090】
-比誘電率-
封止用樹脂組成物は、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行うことで得られる硬化物の10GHzでの比誘電率としては、例えば9~40が挙げられる。硬化物の10GHzでの比誘電率は、電子部品装置の小型化の観点からは10以上であることが好ましく、11以上であることがより好ましい。伝送損失量の低減の観点からは、硬化物の10GHzでの比誘電率は35以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましい。
比誘電率は、実施例に記載した方法で測定される。
【0091】
-誘電正接-
封止用樹脂組成物は、圧縮成形により、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行うことで得られる硬化物の10GHzでの誘電正接としては、例えば0.020以下が挙げられる。硬化物の10GHzでの誘電正接は、伝送損失量の低減の観点からは、0.018以下であることが好ましく、0.015以下であることがより好ましく、0.010以下であることがさらに好ましい。硬化物の10GHzでの誘電正接の下限値は、特に限定されず、例えば0.004が挙げられる。
誘電正接は、実施例に記載した方法で測定される。
【0092】
(封止用樹脂組成物の用途)
本開示の封止用樹脂組成物は、高周波数の電波を通信に使用する電子部品装置の封止材として好適である。例えば、AiP型の電子部品装置の封止材として好適に用いることができる。
【0093】
<電子部品装置>
本開示の一実施形態である電子部品装置は、素子と、前記素子を封止している本開示の封止用樹脂組成物の硬化物と、を備える。
【0094】
電子部品装置としては、リードフレーム、配線済みのテープキャリア、配線板、ガラス、シリコンウエハ、有機基板等の支持部材に、素子(半導体チップ、トランジスタ、ダイオード、サイリスタ等の能動素子、コンデンサ、抵抗体、コイル等の受動素子など)を搭載して得られた素子部を封止用樹脂組成物で封止したものが挙げられる。
より具体的には、リードフレーム上に素子を固定し、ボンディングパッド等の素子の端子部とリード部とをワイヤボンディング、バンプ等で接続した後、封止用樹脂組成物を用いてトランスファ成形等によって封止した構造を有するDIP(Dual Inline Package)、PLCC(Plastic Leaded Chip Carrier)、QFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)、SOJ(Small Outline J-lead package)、TSOP(Thin Small Outline Package)、TQFP(Thin Quad Flat Package)等の一般的な樹脂封止型IC;テープキャリアにバンプで接続した素子を封止用樹脂組成物で封止した構造を有するTCP(Tape Carrier Package);支持部材上に形成した配線に、ワイヤボンディング、フリップチップボンディング、はんだ等で接続した素子を、封止用樹脂組成物で封止した構造を有するCOB(Chip On Board)モジュール、ハイブリッドIC、マルチチップモジュール等;裏面に配線板接続用の端子を形成した支持部材の表面に素子を搭載し、バンプ又はワイヤボンディングにより素子と支持部材に形成された配線とを接続した後、封止用樹脂組成物で素子を封止した構造を有するBGA(Ball Grid Array)、CSP(Chip Size Package)、MCP(Multi Chip Package)などが挙げられる。また、プリント配線板においても封止用樹脂組成物を好適に使用することができる。
【0095】
<電子部品装置の製造方法>
本開示の電子部品装置の製造方法は、素子を支持部材上に配置する工程と、前記素子を本開示の封止用樹脂組成物で封止する工程と、を含む。
【0096】
上記各工程を実施する方法は特に制限されず、一般的な手法により行うことができる。
また、電子部品装置の製造に使用する支持部材及び素子の種類は特に制限されず、電子部品装置の製造に一般的に用いられる支持部材及び素子を使用できる。
【0097】
本開示の封止用樹脂組成物を用いて素子を封止する方法としては、低圧トランスファ成形法、インジェクション成形法、圧縮成形法等が挙げられる。これらの中では、低圧トランスファ成形法が一般的である。
【実施例0098】
以下、上記実施形態を実施例により具体的に説明するが、上記実施形態の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0099】
<封止用樹脂組成物の調製>
下記に示す成分を表1に示す配合割合(質量部)で混合し、実施例と比較例の封止用樹脂組成物を調製した。
【0100】
・エポキシ樹脂1:ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(エポキシ当量:274g/eq)
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(エポキシ当量:192g/eq)
【0101】
・硬化剤1:芳香族構造を含む活性エステル化合物
・硬化剤2:ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(水酸基当量:199g/eq)
・硬化促進剤:トリブチルホスフィンと1,4-ベンゾキノンの付加物
・カップリング剤:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
・着色剤:カーボンブラック
・離型剤:モンタン酸エステルワックス
・流動性付与剤:インデンクマロン樹脂
【0102】
・特定ホスファフェナントレン化合物:一般式(I)におけるXが水素原子及びメチル基、nが10~11の化合物
【0103】
・無機充填材1:チタン酸カルシウム(平均粒径15.4μm)
・無機充填材2:アルミナ(平均粒径5.7μm)
【0104】
<封止用樹脂組成物の性能評価>
(スパイラルフロー(SF)試験)
EMMI-1-66に準じたスパイラルフロー測定用金型を用いて、封止用樹脂組成物を金型温度175℃、成形圧力6.9MPA、硬化時間90秒の条件で成形し、流動距離(cm)を求めた。
【0105】
(ゲルタイム(GT)の測定)
封止用樹脂組成物3gに対し、キュラストメータ(JSRトレーディング株式会社製)を用いた測定を温度175℃で実施し、得られたチャートのトルク曲線の立ち上がりまでの時間をゲルタイムGT(秒)とした。
【0106】
(曲げ弾性率、曲げ強さ及び曲げ破断伸びの測定)
封止用樹脂組成物をトランスファ成形機に仕込み、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間の条件で行って、127mm×12.7mm×4mmの直方体形状の試験片を作製した。
評価装置としてテンシロン(A&D社)を用い、JIS-K-7171(2016)に準拠した3点支持型曲げ試験を常温(25℃)において行い、試験片の曲げ弾性率E、曲げ強さS及び曲げ破断伸びεを下記式により求めた。
【0107】
曲げ弾性率E(GPa)、曲げ強さS(MPa)及び曲げ破断伸びε(%)は下記式にて定義される。
下記式中、Pはロードセルの値(N)、yは変位量(mm)、lはスパン=64mm、wは試験片幅=12.7mm、hは試験片厚さ=4mmである。添字のmaxは最大値を示す。
【0108】
【数1】
【0109】
【数2】
【0110】
【数3】
【0111】
(比誘電率及び誘電正接の測定)
封止用樹脂組成物を真空ハンドプレス機に仕込み、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で成形し、後硬化を175℃で6時間行い、板状の硬化物(縦12.5mm、横25mm、厚さ0.2mm)を得た。この板状の硬化物を試験片として、誘電率測定装置(アジレント・テクノロジー社、品名「ネットワークアナライザN5227A」)を用いて、温度25±3℃下、10GHzでの比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)を測定した。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に示すように、エポキシ樹脂と硬化剤とチタン元素を含むチタン系無機充填材と特定ホスファフェナントレン化合物とを含む実施例1の封止用樹脂組成物は、特定ホスファフェナントレン化合物を含まない比較例1の封止用樹脂組成物に比べて、硬化物としたときの機械強度に優れ、比誘電率(Dk)を低く下げ過ぎず、誘電正接(Df)が低下した。また、比較例1の封止用樹脂組成物は従来公知の流動性付与剤を含んでいるが、実施例1の封止用樹脂組成物の方がスパイラルフローが長く、流動性に優れていた。