(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081595
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】ホウ素化合物、およびそれを用いた水素化物、重合体ならびに付加体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240611BHJP
B01J 31/02 20060101ALI20240611BHJP
C07C 33/18 20060101ALI20240611BHJP
C07C 29/141 20060101ALI20240611BHJP
C07C 33/20 20060101ALI20240611BHJP
C07C 33/30 20060101ALI20240611BHJP
C07C 33/025 20060101ALI20240611BHJP
C07C 33/28 20060101ALI20240611BHJP
C07C 69/76 20060101ALI20240611BHJP
C07C 67/31 20060101ALI20240611BHJP
C07C 65/01 20060101ALI20240611BHJP
C07C 51/367 20060101ALI20240611BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240611BHJP
【FI】
C07F5/02 A CSP
B01J31/02 Z
C07C33/18
C07C29/141
C07C33/20
C07C33/30
C07C33/025
C07C33/28
C07C69/76 Z
C07C67/31
C07C65/01
C07C51/367
C07F5/02 C
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185532
(22)【出願日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2022195051
(32)【優先日】2022-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、独立行政法人環境再生保全機構、環境研究総合推進費、「バイオガスを含む様々な粗水素からの「直接H2貯蔵/高純度H2回収の連続プロセス」を実現する革新的分子触媒の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】星本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】生越 專介
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
4H048
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA08
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BD01B
4G169BD03B
4G169BD04B
4G169BD13B
4G169BD15B
4G169CB02
4G169CC02
4G169DA02
4G169FA01
4G169FA10
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA31
4H006FC52
4H006FC54
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
4H048AA01
4H048AA02
4H048AB40
4H048VA11
4H048VA13
(57)【要約】
【課題】 高濃度の一酸化炭素および/又は二酸化炭素が共存する条件下においても、水素化反応における触媒被毒が抑制され、より温和な反応条件で、又はより厳しい反応条件で、より広範な組成を有する粗水素ガスを使用して、より高活性で、より高選択的に反応を進行させる触媒等として使用でき、より取り扱いに優れるホウ素化合物を提供する。
【解決手段】 式(1)で表されるホウ素化合物。式(1)において、X
1及びX
2は、各々独立して臭素及びヨウ素から選択される。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるホウ素化合物。
【化1】
[ここで、式(1)において、X
1及びX
2は、各々独立して臭素及びヨウ素から選択される。]
【請求項2】
請求項1に記載のホウ素化合物を、水素化触媒として用いることを含む、水素化物の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のホウ素化合物を含む、粗水素ガスを水素源とする不飽和化合物を水素化するための水素化触媒。
【請求項4】
請求項1に記載のホウ素化合物を、開始剤として用いることを含む、重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のホウ素化合物を、ルイス酸触媒として用いることを含む、以下の群から選択される付加体の製造方法:
カルボニル化合物に、エノール誘導体、アリルケイ素化合物もしくはアリルホウ素化合物が付加した付加体;
アルケンもしくはα,β不飽和カルボニル化合物へ、エノール誘導体、アリルケイ素化合物、アリルホウ素化合物、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、アミド類、アミン類、チオール類、もしくはホスフィン類が付加した付加体;及び
Diels-Alder反応による付加体。
【請求項6】
請求項1に記載のホウ素化合物を含む、下記の化学品組成物:
不飽和化合物が有する少なくとも1つの不飽和結合に、水素原子を付加することを含む、化合物の製造における、反応前の少なくとも1つの不飽和結合を有する不飽和化学物を含む組成物、ならびに反応後の不飽和化合物が有する少なくとも1つの不飽和結合に水素原子が付加された化合物を含む組成物;
オキシラン基(オキシラン環)、オキセタン基(オキセタン環)、エチレンスルフィド基、ジオキソラン基、トリオキソラン基、ビニルエーテル基、及びスチリル基からなる群から選択されるカチオン重合性基を有する化合物を重合することを含む、重合体の製造における、反応前のカチオン重合性基を有する化合物の組成物、ならびに重合反応後の重合体を含む組成物;または、
以下の群から選択される付加体の製造における、反応前の化合物を含む組成物、ならびに反応後の付加体を含む組成物
カルボニル化合物に、エノール誘導体、アリルケイ素化合物もしくはアリルホウ素化合物が付加した付加体、
アルケンもしくはα,β不飽和カルボニル化合物に、エノール誘導体、アリルケイ素化合物、アリルホウ素化合物、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、アミド類、アミン類、チオール類、もしくはホスフィン類が付加した付加体、及び
Diels-Alder反応による付加体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なホウ素化合物、およびそれを用いた水素化物、重合体ならびに付加体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素化反応に使用されてきた遷移金属触媒は、一酸化炭素により被毒されるので、粗水素ガスを水素源として水素化反応に用いることは困難であった。近年、金属を用いずに有機物のみを用いて分子状水素をヘテロリティックに開裂させることが可能なFLP(フラストレイテッドルイスペア)と呼ばれる状態を生み出す触媒により、一酸化炭素の共存下でも水素化反応を進行させることが可能になった。非特許文献1、2は、イミン、アルデヒド及びケトンの水素化反応の触媒として、フッ素で一部置換されたフェニル基を有するホウ素化合物を記載する。しかし、高濃度の二酸化炭素の共存する条件下における触媒活性については何ら検討していない。
【0003】
特許文献1は、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを触媒として用いる、不飽和化合物の水素化方法を開示する。しかし、二酸化炭素が高濃度で共存する条件下では、既存のFLP型触媒も活性が著しく低下し、反応を完結することはできなかった。このため、高濃度の二酸化炭素が共存する条件下においても、水素化反応における触媒被毒が抑制され、反応を完結できる触媒が求められている。
【0004】
特許文献2は、(2,6-ジクロロフェニル)ビス(3,5-ジクロロ-2,6-ジフルオロフェニル)ボラン(ASB)又はトリス(3,5-ジクロロ-2,6-ジフルオロフェニル)ボラン(MHB)を触媒として用いる、水素化反応を開示する。特許文献2のホウ素化合物を用いると、高濃度の一酸化炭素及び/又は二酸化炭素が共存する条件下でも、水素化反応における触媒被毒が抑制され、水素化反応を円滑に進行させる触媒等として使用できることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-206474号公報
【特許文献2】特許第7079696号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Organometallic Chemistry,vol.847,2017,pp.258-262
【非特許文献2】ACS Catalysis,Vol.5,nb.9,2015,pp.5366-5372
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書では、高濃度の一酸化炭素(CO)及び/又は二酸化炭素(CO2)が共存する水素(H2)ガスを、「粗水素ガス」という。粗水素ガスは、その出所や製造手段に応じて、組成や組成比が異なる。例えば、褐炭、天然ガス、及び乾湿バイオマスを改質すると、一酸化炭素を水素に対して、等量から過剰量(例えば、H2/CO=1/2)含み、二酸化炭素を若干量含む粗水素が得られる。一方、水蒸気改質により製造される粗水素、または、高炉ガスにおける製鉄副生ガスは、二酸化炭素を水素に対して、過剰量(例えば、H2/CO2=1/5)含み、一酸化炭素を若干量含む。従って、粗水素ガスに含まれる一酸化炭素と二酸化炭素について、より広い濃度範囲で使用できるより高性能な触媒が求められる。
【0008】
また、反応圧力、反応時間などの反応条件について、より温和な反応条件で使用できる、又はより厳しい条件であっても使用できる、より高活性な触媒が求められる。より温和な反応条件には、より低い圧力、より低い反応温度、より少ない触媒量などがあり、より温和な反応条件には、反応のスケールアップを行い易い、更に、反応の制御を行い易い、従って、より安全に反応を行うことができるという利益がある。
更に、今後のスケールアップや触媒の再利用を考えると、より取扱易いことが求められ、例えば、反応液中では良好に溶解しつつ、反応後に、より結晶化し易く、より析出し易く、より回収し易いことなども求められる。
【0009】
本発明は、高濃度の一酸化炭素および/又は二酸化炭素が共存する条件下においても、水素化反応における触媒被毒が抑制され、より温和な反応条件で、又はより厳しい反応条件で、より広範な組成を有する粗水素ガスを使用して、より高活性で、より高選択的に反応を進行させる触媒等として使用できる新規なホウ素化合物を提供することを目的とする。
更に、今後のスケールアップや触媒の再利用を考えると、より取扱易い、例えば、反応液中では良好に溶解しつつ、反応後に、より結晶化し易く、より析出し易く、より回収し易い、新規なホウ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、鋭意検討を重ね、改良した構造を有する化合物を設計し、その化合物を合成し、反応を行った結果、特定の構造を有するホウ素化合物が、粗水素ガスを水素源とする水素化反応の触媒として極めて高い活性を示し、この触媒を使用することで、更により温和な反応条件で、又はより厳しい反応条件で、より広範な組成を有する粗水素ガスを使用して、より高収率で、より高選択的に目的物を取得でき、更に、取り扱い性により優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本明細書は、下記の実施形態を含む。
1.下記式(1)で表されるホウ素化合物。
【化1】
[ここで、式(1)において、X1及びX2は、各々独立して臭素及びヨウ素から選択される。]
2.上記1に記載のホウ素化合物を、水素化触媒として用いることを含む、水素化物の製造方法。
3.上記1に記載のホウ素化合物を含む、粗水素ガスを水素源とする不飽和化合物を水素化するための水素化触媒。
4.上記1に記載のホウ素化合物を、開始剤として用いることを含む、重合体の製造方法。
5.上記に記載のホウ素化合物を、ルイス酸触媒として用いることを含む、以下の群から選択される付加体の製造方法:
カルボニル化合物に、エノール誘導体、アリルケイ素化合物もしくはアリルホウ素化合物が付加した付加体;
アルケンもしくはα,β不飽和カルボニル化合物へ、エノール誘導体、アリルケイ素化合物、アリルホウ素化合物、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、アミド類、アミン類、チオール類、もしくはホスフィン類が付加した付加体;及び
Diels-Alder反応による付加体。
6.上記1に記載のホウ素化合物を含む、下記の化学品組成物:
不飽和化合物が有する少なくとも1つの不飽和結合に、水素原子を付加することを含む、化合物の製造における、反応前の少なくとも1つの不飽和結合を有する不飽和化学物を含む組成物、ならびに反応後の不飽和化合物が有する少なくとも1つの不飽和結合に水素原子が付加された化合物を含む組成物;
オキシラン基(オキシラン環)、オキセタン基(オキセタン環)、エチレンスルフィド基、ジオキソラン基、トリオキソラン基、ビニルエーテル基、及びスチリル基からなる群から選択されるカチオン重合性基を有する化合物を重合することを含む、重合体の製造における、反応前のカチオン重合性基を有する化合物の組成物、ならびに重合反応後の重合体を含む組成物;または、
以下の群から選択される付加体の製造における、反応前の化合物を含む組成物、ならびに反応後の付加体を含む組成物
カルボニル化合物に、エノール誘導体、アリルケイ素化合物もしくはアリルホウ素化合物が付加した付加体、
アルケンもしくはα,β不飽和カルボニル化合物に、エノール誘導体、アリルケイ素化合物、アリルホウ素化合物、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、アミド類、アミン類、チオール類、もしくはホスフィン類が付加した付加体、及び
Diels-Alder反応による付加体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態のホウ素化合物は、高濃度の一酸化炭素および/又は二酸化炭素が共存する条件下においても、水素化反応における触媒被毒がより抑制され、より温和な反応条件で、又はより厳しい反応条件で、より広範な組成を有する粗水素ガスを使用して、より高活性で、より高選択的に反応を進行させることができ、更に、より取扱易い、例えば、反応液中では良好に溶解しつつ、反応後に、より結晶化し易く、より析出し易く、より回収し易い、触媒等として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ホウ素化合物
下記式(1)で表されるホウ素化合物。
【化2】
[ここで、式(1)において、X1及びX2は、各々独立して臭素及びヨウ素から選択される。]
【0014】
上記ホウ素化合物では、ホウ素化合物のアリール基について、以下のように、フッ素及び(臭素及び/又はヨウ素)を用いて設計されているため、本発明の課題を解決できると考えられる。
(1)3つの芳香環が、同じものとしていること。
(2)アリール基に高い電子求引性を付与することを考慮して、反応中心となるホウ素近傍のオルト位に、小さめの嵩高さを有する2つのフッ素を導入し、かつ、反応中心となるホウ素から少し遠いメタ位に、適度な大きさの嵩高さを有し、より重い元素である臭素とヨウ素から選択される2つを導入すること。
このような理由により、本発明の実施形態のホウ素化合物は、優れた効果を奏すると考えられるが、そのような理由によって、本発明は、何ら制限されることはない。
【0015】
2.水素化物の製造方法
本発明の実施形態の水素化物の製造方法では、上記本発明の実施形態のホウ素化合物を水素化触媒として用いることができる。本発明の実施形態の水素化物の製造方法は、粗水素ガスを水素源とし、上述の触媒の存在下で、不飽和化合物の少なくとも1つの不飽和結合に水素原子を添加する工程(「水素化工程」ともいう)を含む。なお、上記「水素化物」とは、不飽和化合物の少なくとも1つの不飽和結合に水素原子が付加された化合物を意味し、「水素化された化合物」ともいう。粗水素ガスの代わりに、水素ガスを使用できることは言うまでもない。
【0016】
上記不飽和化合物が2つ以上の不飽和結合を含む場合、1つのみの不飽和結合に水素原子を添加しても良いが、2つ以上の不飽和結合に水素原子を添加しても良い。よって、本発明の実施形態の水素化物の製造方法における水素化物は、不飽和化合物である場合と、飽和化合物である場合とがある。
【0017】
上記「粗水素ガス」とは、例えば、天然ガス、ナフサ、重質油、石炭、石油排ガス、シェールオイルなどの炭化水素や、メタノール、エタノールなどのアルコール類、バイオマス、産業廃棄物プラスチックなどの有機性廃棄物から製造される水素を含む混合ガスであり得る。粗水素ガスは、一酸化炭素および/または二酸化炭素を含む。石油産業、化学産業、製鉄業などのプラント(例えば、高炉など)で生産された粗水素ガスを用いてもよいし、小型の家庭用改質装置から供給されるものでもよい。本発明の実施形態の水素化物の製造方法では、粗水素ガスを精製して、水素ガスの含有量を調整することを、特に要しない。粗水素ガスの水素含有量は、粗水素ガスの出所(原料、プラントなど)によって、任意に選択可能であり、特に限定されるものでない。本発明の実施形態のホウ素化合物を含む水素化触媒を使用すると、水素含有量が高いことが必ずしも必要ではない。粗水素ガス中の水素ガスの含有量(率)は、水素と一酸化炭素と二酸化炭素の合計100モル%に対して、例えば、5モル%以上85モル%以下であってよく、10モル%以上70モル%以下であってよく、15モル%以上55モル%以下であってよく、20モル以上45モル%以下であってよい。
【0018】
本発明の実施形態の水素化物の製造方法において、水素化反応に用いる不飽和化合物は、イミン、窒素含有複素環化合物、アルデヒド、ケトン、アルケン、アルキン、不飽和結合を有するオリゴマーもしくはポリマー等であり、一種または二種以上を用いることができる。窒素含有不飽和複素環化合物としては、ピリジン類、ピラジン類、キノリン類、アクリジン類、1,10-フェナントロリン類、インドール類等を挙げることができる。また、不飽和化合物(例えば、イミン、窒素含有複素環化合物、アルデヒド、ケトン、アルケン、アルキン、不飽和結合を有するオリゴマーやポリマー)は同一分子内に1つもしくは2つ以上の不飽和結合を有していてもよい。
【0019】
本発明の実施形態の水素化物の製造方法において、反応物が、例えば、カルボニル基又はアルデヒド基と炭素-炭素二重結合を有することがあり得る。カルボニル基又はアルデヒド基と炭素-炭素二重結合が、共役している場合(カルボニル基又はアルデヒド基と炭素-炭素二重結合が、1つの炭素-炭素単結合で結合している場合:共役エノン、共役エナールの場合)、炭素-炭素二重結合が優先的に反応することができる。一方、カルボニル基又はアルデヒド基と炭素-炭素二重結合が、共役していない場合(カルボニル基又はアルデヒド基と炭素-炭素二重結合が、2つ以上の炭素-炭素単結合で結合している場合:非共役エノン、非共役エナールの場合)、カルボニル基又はアルデヒド基が優先的に反応することができる。このような不飽和結合の水素化反応に関する反応の優先性は、従来の水素化触媒(遷移金属触媒)を使用した場合の反応の優先性と、同様と考えられる。尚、上述の共役、非共役を考える場合、アリール(炭素原子のみでできている芳香環)は、考慮しない。
【0020】
本発明の実施形態の水素化物の製造方法で得られる水素化された化合物としては、アミン類、ピペリジン類、ピペラジン類、テトラヒドロキノリン類、テトラヒドロフェナントロリン類、インドリン類等の窒素含有複素環化合物;アルコール、アルカン、アルケン等が例示される。
【0021】
本発明の実施形態の水素化物の製造方法では、溶剤を用いることができる。使用できる溶媒としては、水素化触媒としての本発明の実施形態のホウ素化合物と反応せず、もしくは後段の不飽和化合物の水素化反応を阻害せず、本発明の実施形態のホウ素化合物と不飽和化合物を適度に溶解できるものであることが好ましい。例えば、トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒;n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;アセトンなどのケトン系溶媒;メタノールなどのアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピランなどのエーテル系溶媒;酢酸エチルなどのエステル系溶媒;アセトニトリルなどのニトリル系溶媒;ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素溶媒;ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶媒;エチレンカーボネートなどの炭酸エステル系溶媒が上げられ、より好ましくは、トルエンなどの芳香族炭化水素溶媒;n-ヘキサンなどの脂肪族炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピランなどのエーテル系溶媒;ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素溶媒である。また、上記溶媒2種以上の混合溶媒を使用することができる。なお、事前に本発明のホウ素化合物、不飽和化合物等を溶媒に溶かしておく場合、これらの溶液の溶媒は、同一としてもよいし、異なるものとしてもよい。また、溶媒を使用せずに実施してもよい。
【0022】
本発明の実施形態の水素化物の製造方法では、本発明の実施形態のホウ素化合物、不飽和化合物を溶媒に溶かし、水素ガス、粗水素ガス等の水素源を混合することで水素化を実施することが好ましい。本発明の実施形態に関する水素化反応は、水素源を追加しながら反応を実施することもできる。本発明の実施形態では、水素化反応を常圧付近、もしくは適度の加圧した条件下にて行うことができる。当該圧力は常圧でもよいが、加圧状態で行うことにより、より効率的に水素化反応を行うことができる。加圧して反応を行う場合、大きすぎる圧力を加えるためには、大きなエネルギーが必要であり、そのためのコストも大きくなりえる。本発明の実施形態において、500気圧以下であってよく、200気圧以下であってよく、100気圧以下であってよく、75気圧以下であってよい。また、本発明の実施形態において、1気圧以上であってよく、5気圧以上であってよく、10気圧以上であってよく、15気圧以上であってよく、20気圧以上であってよい。
【0023】
本発明の実施形態の水素化物の製造方法では、上記水素化工程を必須に含むが、その他の工程を含んでいても良い。例えば、精製工程、触媒不活性化工程、希釈工程、濃縮工程、抽出工程、未反応原料の回収工程、ろ過工程、触媒回収工程等が例示される。
【0024】
例えば、水素化された化合物が不溶化または結晶化して析出した場合、析出物をろ別する工程を設けても良い。水素化された化合物が固形の場合、n-ヘキサンなどの貧溶媒等で洗浄する工程を設けても良い。水素化された化合物が固形の場合、乾燥する工程を設けても良い。上記乾燥する工程は、減圧下で行っても良い。水素化された化合物が液体の場合は、蒸留などして精製する工程を設けてもよい。
【0025】
触媒を再利用する場合は、触媒を不溶化または結晶化して析出させて、ろ過工程により回収し、次の反応に再利用することもできる。
【0026】
3.粗水素ガスを水素源とする不飽和化合物の水素化触媒
粗水素ガスを水素源とする不飽和化合物の水素化反応では、上記本発明の実施形態のホウ素化合物を水素化触媒として用いる。本発明の実施形態の水素化触媒によれば、粗水素ガスを水素源とする不飽和化合物の水素化に関し、高濃度の一酸化炭素および/又は二酸化炭素が共存する条件下においても、水素化反応における触媒被毒が抑制され、より温和な反応条件で、又はより厳しい反応条件で、より広範な組成を有する粗水素ガスを使用して、より高活性で、より高選択的に反応を進行させ、より高収率で目的物を取得することができる。ここで「粗水素ガス」とは、上記の通りである。
本発明の実施形態の不飽和触媒を用いる水素化反応の出発物質となる不飽和化合物、得られる水素化された化合物、水素化反応の反応条件などは、本明細書の上述の記載を参照することができる。
【0027】
4.重合体の製造方法
本発明の実施形態の重合体の製造方法では、上記本発明の実施形態のホウ素化合物を開始剤として用いる。本発明の実施形態の重合体の製造方法では、例えば、オキシラン基(オキシラン環)、オキセタン基(オキセタン環)、エチレンスルフィド基、ジオキソラン基、トリオキソラン基、ビニルエーテル基、スチリル基等のカチオン重合性基を有する化合物を、上記本発明の実施形態のホウ素化合物を開始剤として用いて重合できる。重合の諸条件としては、公知の条件が適用でき、熱を加えることで反応を促進することもできる。
【0028】
本発明の実施形態の重合体の製造方法では、上記重合工程を必須に含むが、その他の工程を含んでいても良い。例えば、精製工程、触媒不活性化工程、希釈工程、濃縮工程、抽出工程、未反応原料の回収工程、ろ過工程、触媒回収工程等が例示される。
【0029】
例えば、重合した化合物が不溶化または結晶化して析出した場合、析出物をろ別する工程を設けても良い。重合した化合物が固形の場合、n-ヘキサンなどの貧溶媒等で洗浄する工程を設けても良い。重合した化合物が固形の場合、乾燥する工程を設けても良い。上記乾燥する工程は、減圧下で行っても良い。重合した化合物が液体の場合は、蒸留などして精製する工程を設けてもよい。重合して3次元架橋構造を形成する化合物の場合、開始剤を取り除かずに重合反応を継続し、そのまま重合生成物としてもよい。
【0030】
開始剤を再利用する場合は、開始剤を不溶化または結晶化して析出させて、ろ過工程により回収し、次の反応に再利用することもできる。
【0031】
5.付加体の製造方法
本発明の実施形態の付加体の製造方法では、上記本発明の実施形態のホウ素化合物をルイス酸触媒として用いる。本発明の実施形態の付加体製造方法としては、酸素官能基、窒素官能基をルイス酸的に活性化することによって促進される反応であれば、反応促進効果が期待されるため、特に限定されるものではない。例えば、アルデヒド、ケトン等のカルボニル化合物へのエノール誘導体、アリルケイ素化合物、アリルホウ素化合物に代表される炭素求核剤の付加反応、アルケン、α,β不飽和カルボニル化合物へのエノール誘導体、アリルケイ素化合物、アリルホウ素化合物に代表される炭素求核剤、アルコール類、フェノール類、カルボン酸類、アミド類、アミン類、チオール類、ホスフィン類に代表されるヘテロ原子求核剤の付加反応、Diels-Alder反応等を、本発明の実施形態のホウ素化合物をルイス酸触媒として用いることで収率良く行うことができる。
【0032】
本発明の実施形態の付加体の製造方法では、上記付加反応工程を必須に含むが、その他の工程を含んでいても良い。例えば、精製工程、触媒不活性化工程、希釈工程、濃縮工程、抽出工程、未反応原料の回収工程、ろ過工程、触媒回収工程等が例示される。
【0033】
例えば、付加体が不溶化または結晶化して析出した場合、析出物をろ別する工程を設けても良い。付加体が固形の場合、n-ヘキサンなどの貧溶媒等で洗浄する工程を設けても良い。付加体が固形の場合、乾燥する工程を設けても良い。上記乾燥する工程は、減圧下で行っても良い。付加体が液体の場合は、蒸留などして精製する工程を設けてもよい。
【0034】
触媒を再利用する場合は、触媒を不溶化または結晶化して析出させて、ろ過工程により回収し、次の反応に再利用することもできる。
【0035】
6.化学品組成物
本発明の実施形態の化学品組成物は、上記本発明の実施形態のホウ素化合物を含む。本発明の実施形態の化学品組成物として、水素化物の製造における反応前の化学品組成物、反応後の水素化物を含む組成物、重合体の製造における反応前のモノマー組成物、反応後の樹脂を含む組成物、付加体の製造における反応前の化学品組成物、反応後の付加体を含む組成物等を例示することができる。
【実施例0036】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、実施例の記載において、特に記載がない限り、溶媒を考慮しない部分を、重量部及び重量%の基準としている。
【0037】
実施例1
トリス(3,5-ジブロモ-2,6-ジフルオロフェニル)ボラン(1a)の製造
下記反応式で示すようにして、トリス(3,5-ジブロモ-2,6-ジフルオロフェニル)ボラン(1a)を得た。
【化3】
【0038】
窒素雰囲気下、60mLスクリューキャップ付き試験管に1,5-ジブロモ-2,4-ジフルオロ-3-ヨードベンゼン(9.6mmol)、超脱水ジエチルエーテル(40mL)を加えた後、-10℃に冷却した。iPrMgCl(1.0Mジエチルエーテル溶液、8.7mL)を-10℃にて加えて、2時間撹拌した。反応混合物に、-10℃にてBCl3(1.0Mのヘキサン溶液、2.9mL)を加えた後、40℃にて2日間撹拌した。溶媒を減圧して除き、塩化メチレン(-30℃に事前に冷却)を用いて洗浄した後、トルエンを用いて抽出した。溶媒を減圧して除き、白色固体(909.3mg、1.1mmol、収率38%)を得た。
【0039】
*NMRスペクトル
1H NMR (400 MHz, CD2Cl2): δ 7.98 (t, 3H, 4JH,F = 7.0, para-H). 13C{1H}NMR (101 MHz, CD2Cl2): δ 159.9 (dd, 1JC,F = 11, 3JC,F = 253), 140.9 (s), 105.6 (d, 3JC,F = 26). 19F NMR (376 MHz, CD2Cl2): δδ -96.7 (s).
【0040】
実施例2
10モル%の触媒(1a)を使用する1-ナフトアルデヒドの水素化反応
60atmのH2/CO/CO2(1/1/1;容積比)混合ガス雰囲気下、10mol%の(1a)を触媒として用い、4-メチルテトラヒドロピラン(MTHP)溶媒中で、下記反応式で示す1-ナフトアルデヒドの1-ナフチルメタノールへの触媒的水素化反応を、80℃で8時間行った。対応するアルコールを、収率91%で得た。副生成物として、対応するエーテルを収率4%で得た。
【0041】
【0042】
より具体的には、窒素雰囲気下、10mLのオートクレーブに1-ナフトアルデヒド(0.4mmol)、(1a)(0.04mmol)、MTHP(1.6mL)を加えた。密封し、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱した。加熱後、得られた反応混合物を室温まで冷却し、オートクレーブ内のガスを抜いた。30mLのナスフラスコに反応混合物を移して、溶媒を減圧して除去した。内部標準としてトリメチルフェニルシランを用いて、NMR(CDCl3中)を測定することで収率を求めた。収率は91%であり、極めて高く、副生成物は、収率4%であり、選択率も高かった。
【0043】
比較例1
10モル%の触媒(トリス(3,5-ジクロロ-2,6-ジフルオロフェニル)ボラン)を使用する1-ナフトアルデヒドの水素化反応
(1a)の代わりに、トリス(3,5-ジクロロ-2,6-ジフルオロフェニル)ボランを触媒として用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。対応するアルコールを、収率88%で得た。副生成物として、対応するエーテルを収率5%で得た。(1a)は、より高活性であり、より高い選択性を示すことが分かった。
更に、(1a)は、反応液中での溶解性について、トリス(3,5-ジクロロ-2,6-ジフルオロフェニル)ボランと同程度であるが、反応後に、より結晶化し易く、より析出し易く、より回収し易いので、より取り扱い性に優れることがわかった。
【0044】
実施例3
10モル%の触媒(1a)を使用する1-ナフトアルデヒドの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で12時間加熱したことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。対応するアルコールを、収率91%で得た。副生成物として、対応するエーテルを収率4%で得た。(1a)は、より低圧のより温和な条件でも、高活性と高選択性を維持することができることが分かった。
【0045】
【0046】
実施例4~8
10モル%の触媒(1a)を使用する芳香族アルデヒドの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で12時間加熱したことを除き、かつ、1-ナフトアルデヒドの代わりに、4-フルオロフェニルアルデヒド、4-クロロフェニルアルデヒド、4-ブロモフェニルアルデヒド、4-ヨードフェニルアルデヒド、又は4-ビニルフェニルアルデヒドを用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。結果は、表1に示した。実施例4~8のいずれも収率は86%以上であり、副生成物の収率は3%以下であり、高い収率と高い選択率を示した。
【0047】
【0048】
実施例9~10
10モル%の触媒(1a)を使用する10-ウンデセナール又は2-フェニルプロピオンアルデヒドの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で24時間加熱したことを除き、かつ、1-ナフトアルデヒドの代わりに、10-ウンデセナール又は2-フェニルプロピオンアルデヒドを用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。結果は、表2に示した。実施例9の収率は58%であり、実施例10の収率は46%であった。
【0049】
実施例11
10モル%の触媒(1a)を使用する10-ウンデセナールの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で24時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除いて、実施例9と同様の水素化反応を行った。結果は、表2に示した。実施例11の収率は99%を超えた。(1a)は、極めて選択性が高いことが分かった。
【0050】
【0051】
実施例12
10モル%の触媒(1a)を使用する10-ウンデセナールの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で24時間加熱したことの代わりに、H2/CO(1/2;容積比)で30atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除いて、実施例9と同様の水素化反応を行った。収率89%であり、転化率91%で対応するアルコールを得た。
【0052】
【0053】
実施例13
10モル%の触媒(1a)を使用する10-ウンデセナールの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO2(1/2;容積比)で30atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除き、かつ、1-ナフトアルデヒドの代わりに、10-ウンデセナールを用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。結果は、表3に示した。実施例13の収率は66%であり、転化率は74%であった。
【0054】
実施例14
10モル%の触媒(1a)を使用する10-ウンデセナールの水素化反応
H2/CO2(1/2;容積比)で30atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことの代わりに、H2/CO2(1/2;容積比)で60atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除いて、実施例13と同様の水素化反応を行った。結果は、表3に示した。収率52%であり、転化率59%であった。
【0055】
【0056】
実施例15
10モル%の触媒(1a)を使用するエノンの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で12時間加熱したことを除き、かつ、1-ナフトアルデヒドの代わりに、エノンを用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。結果は、表4に示した。実施例15の収率は44%であり、転化率は60%であった。
【0057】
実施例16
10モル%の触媒(1a)を使用するエノンの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で12時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除いて、実施例15と同様の水素化反応を行った。結果は、表4に示した。収率55%であり、転化率94%であった。
【0058】
【0059】
実施例17~24
10モル%の触媒(1a)を使用する種々のアルデヒド又はケトンの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で30atmに加圧し、80℃で12時間加熱したことを除き、かつ、1-ナフトアルデヒドの代わりに、4-トリフルオロメチルフェニルアルデヒド、4-メチルオキシカルボニルフェニルアルデヒド、4-カルボキシフェニルアルデヒド、4-(ピナコラートボリル)フェニルアルデヒド、2,4,6-トリメチルフェニルアルデヒド、2-へキセニルフェニルアルデヒド、フェニルメチルケトン又は4-フルオロベンジルメチルケトンを用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。結果は、表5に示した。実施例17~24のいずれも収率は30%を超え、副生成物の収率は少なかった。
【0060】
【0061】
実施例25~28
10モル%の触媒(1a)を使用するアルカナール又はアルケナールの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除き、かつ、1-ナフトアルデヒドの代わりに、ドデカナール、10-ウンデセナール、(Z)-11-ヘキサデセナール、2,6-ジメチルー5-ヘプテナールを用いたことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。尚、水素化反応を行った後、更に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル)を用いて単離した。結果は、表6に示した。実施例25~28のいずれも収率は30%(実施例25~28の収率は、単離収率である。特に記載しない限り、収率とは、NMR収率である。)を超え、副生成物の収率は少なかった。
【0062】
【0063】
実施例29~31
10モル%の触媒(1a)を使用して種々の混合ガスを用いる1-ナフトアルデヒドの水素化反応
H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、H2/N2(1/2;容積比)で60atmに加圧し、H2/CO/N2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、又はH2/CO2/N2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。結果は、表7に示した。実施例29~31のいずれも収率は90%を超え、副生成物は、ほとんど認められなかった。
【0064】
【0065】
実施例32~33
10モル%の触媒(1a)を使用して工業的粗水素を用いる1-ナフトアルデヒド又は10-ウンデセナールの水素化反応
実施例32では、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、工業的粗水素:H2/CO/CO2/CH4/H2O(76/0.2/20/3.2/0.6;容積比)を4Åのモレキュラーシーブで処理をして、13atmに加圧し、80℃で12時間加熱したことを除いて、実施例2と同様の1-ナフトアルデヒドの水素化反応を行った。
実施例33では、H2/CO/CO2(1/1/1;容積比)で、1-ナフトアルデヒドを60atmに加圧し、80℃で8時間加熱したことの代わりに、工業的粗水素:H2/CO/CO2/CH4/H2O(76/0.2/20/3.2/0.6;容積比)を4Åのモレキュラーシーブで処理をして、10-ウンデセナールを18atmに加圧し、120℃で24時間加熱したことを除いて、実施例2と同様の水素化反応を行った。
結果は、表8に示した。実施例32~33のいずれも収率は70%を超え、副生成物の収率は少なかった。
【0066】
【0067】
実施例34
10モル%の触媒(1a)を使用する1-ナフトアルデヒドの水素化反応
実施例34では、MTHP溶媒の代わりに、1,4-ジオキサンを溶媒として使用したことを除いて、実施例2と同様の1-ナフトアルデヒドの水素化反応を行った。収率54%で、対応するアルコールを得た。結果は、表9に示した。
【0068】
【0069】
比較例2及び3
10モル%遷移金属触媒を使用する1-ナフトアルデヒドの水素化反応
比較例2及び3では、(1a)の代わりに、Ru触媒又はRh触媒を使用し、かつ、1,4-ジオキサンを溶媒として使用したことを除いて、実施例2と同様の1-ナフトアルデヒドの水素化反応を行った。収率17%で、対応するアルコールを得た、又は対応するアルコールを全く得られなかった。結果は、表9に示した。
本発明の実施形態のホウ素化合物は、高濃度の一酸化炭素および/又は二酸化炭素が共存する条件下においても、水素化反応における触媒被毒がより抑制され、より温和な反応条件で、又はより厳しい反応条件で、より広範な組成を有する粗水素ガスを使用して、より高活性で、より高選択的に反応を進行させる触媒等として使用できる。更に、そのホウ素化合物は、より取扱易い、例えば、反応液中では良好に溶解しつつ、反応後に、より結晶化し易く、より析出し易く、より回収し易い。
また、そのホウ素化合物を、水素化触媒として用いることを含む、水素化物の製造方法、そのホウ素化合物を、開始剤として用いることを含む、重合体の製造方法、そのホウ素化合物を、ルイス酸触媒として用いることを含む、種々の付加体の製造方法を提供することができる。
更に、そのホウ素化合物を含む、種々の化学品組成物を提供することができる。