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特開2024-81621酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081621
(43)【公開日】2024-06-18
(54)【発明の名称】酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/70 20190101AFI20240611BHJP
   G01N 33/204 20190101ALI20240611BHJP
【FI】
G16C20/70
G01N33/204
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023205206
(22)【出願日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】10-2022-0168621
(32)【優先日】2022-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ-メカニックス カンパニーリミテッド.
(71)【出願人】
【識別番号】514274672
【氏名又は名称】延世大学校 産学協力団
【氏名又は名称原語表記】UIF (University Industry Foundation), Yonsei University
【住所又は居所原語表記】50,YONSEI-RO, SEODAEMUN-GU, SEOUL 03722, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、ダエ ヒー
(72)【発明者】
【氏名】スーン、アロイシウス
(72)【発明者】
【氏名】フワン、ウー ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】オー、セウン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】リー、ジョン ホ
【テーマコード(参考)】
2G055
【Fターム(参考)】
2G055AA05
2G055CA21
2G055EA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】原子サイト構造を有する酸化物強誘電体の置換物に対する固溶特性及び分極特性を予測する。
【解決手段】分極特性予測装置10は、酸化物強誘電体の置換物に対するドーパントの濃度別の原子構造を適用して原子構造モデルデータを生成するクラスター生成部と、原子構造モデルデータに基づいて原子構造モデルに対するMLポテンシャルを生成するポテンシャル生成部と、MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、モデルエネルギー及び原子構造モデルを入力とするCEを適用して拡張された原子構造モデルデータを生成するクラスター拡張部と、クラスター拡張部による拡張された原子構造モデルデータに基づいて原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する最低エネルギー導出部と、最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測する分極特性予測部と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物強誘電体の置換物に対するドーパントの濃度別の複数の原子構造(atomic configuration)モデルに対しDFT(Density Functional Theory)を適用して複数の原子構造モデルデータを生成するクラスター生成部と、
前記複数の原子構造モデルデータに基づいて、前記複数の原子構造モデルのそれぞれに対するML(Machine Learning)ポテンシャルを生成するポテンシャル生成部と、
前記MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、前記モデルエネルギー及び前記複数の原子構造モデルを入力で用いるCE(Cluster Expansion)を適用して、拡張された原子構造モデルデータを生成するクラスター拡張部と、
前記クラスター拡張部による拡張された原子構造モデルデータに基づいて前記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する最低エネルギー導出部と、
前記最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測する分極特性予測部と、
を含む酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項2】
前記ポテンシャル生成部は、
前記複数の原子構造モデルから所定数の原子構造モデルをサンプリングし、前記サンプリングした所定数の原子構造モデルのそれぞれに対する個別ポテンシャルを求め、前記個別ポテンシャル及び該当原子構造モデルデータを入力で用いるマシンラーニングによって前記複数の原子構造モデル全てに対する前記MLポテンシャルを求める、
請求項1に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項3】
前記ポテンシャル生成部での原子構造モデルに対するモデルサンプル方式は、
前記MLポテンシャルを効率的に求めるために、FPS(Farthest Point Sampling)である、
請求項2に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項4】
前記ポテンシャル生成部は、
ABO構造において、Aサイト及びBサイトに置換される前記ドーパントの濃度及びA/B割合に応じて前記複数の原子構造モデルに対する特質空間(feature space)でのサンプル位置を決定する、
請求項1に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項5】
前記最低エネルギー導出部は、
前記クラスター拡張部によって生成された拡張された原子構造モデルデータに基づいて、前記複数の原子構造モデルから前記ドーパントの固溶特性によって最低エネルギーを構成する原子構造モデルを導出する、
請求項1に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項6】
前記最低エネルギー導出部は、
前記複数の原子構造モデルに対する特質空間(feature space)でのサンプル位置を用いて前記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する、
請求項4に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項7】
前記分極特性予測部は、
前記最低エネルギーを有する原子構造モデルに対し、前記酸化物強誘電体がチタン酸バリウム(BaTiO)である場合、チタン-酸素(Ti-O)結合の長さに対する数値化情報を適用して、前記酸化物強誘電体の置換物に対する分極特性を予測する、
請求項1に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項8】
前記分極特性予測部は、
前記最低エネルギーを有する原子構造モデルに対しBEI(Bond Elongation Index)を適用して、酸化物強誘電体の置換物に対する分極特性を予測する、
請求項1から7の何れか1つに記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置。
【請求項9】
酸化物強誘電体の置換物に対するドーパントの濃度別の複数の原子構造(atomic configuration)モデルに対しDFT(Density Functional Theory)を適用して複数の原子構造モデルデータを生成するクラスター生成段階と、
前記複数の原子構造モデルデータに基づいて、前記複数の原子構造モデルのそれぞれに対するML(Machine Learning)ポテンシャルを生成するポテンシャル生成段階と、
前記MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、前記モデルエネルギー及び前記複数の原子構造モデルを入力で用いるCE(Cluster Expansion)を適用して、拡張された原子構造モデルデータを生成するクラスター拡張段階と、
前記クラスター拡張段階による拡張された原子構造モデルデータに基づいて前記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する最低エネルギー導出段階と、
前記最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測する分極特性予測段階と、
を含む酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項10】
前記ポテンシャル生成段階は、
前記複数の原子構造モデルから所定数の原子構造モデルをサンプリングし、前記サンプリングした所定数の原子構造モデルのそれぞれに対する個別ポテンシャルを求め、前記個別ポテンシャル及び該当原子構造モデルデータを入力で用いるマシンラーニングによって前記原子構造モデル全てに対する前記MLポテンシャルを求める、
請求項9に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項11】
前記ポテンシャル生成段階での原子構造モデルに対するモデルサンプル方式は、
前記MLポテンシャルを効率的に求めるために、FPS(Farthest Point Sampling)である、
請求項10に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項12】
前記ポテンシャル生成段階は、
ABO構造において、Aサイト及びBサイトに置換される前記ドーパントの濃度及びA/B割合に応じて前記複数の原子構造モデルに対する特質空間(feature space)でのサンプル位置を決定する、
請求項9に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項13】
前記最低エネルギー導出段階は、
前記クラスター拡張段階によって生成された拡張された原子構造モデルデータに基づいて、前記複数の原子構造モデルから前記ドーパントの固溶特性によって最低エネルギーを構成する原子構造モデルを導出する、
請求項9に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項14】
前記最低エネルギー導出段階は、
前記複数の原子構造モデルに対する特質空間(feature space)でのサンプル位置を用いて前記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する、
請求項12に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項15】
前記分極特性予測段階は、
前記最低エネルギーを有する原子構造モデルに対し、前記酸化物強誘電体がチタン酸バリウム(BaTiO)である場合、チタン-酸素(Ti-O)結合の長さに対する数値化情報を適用して、前記酸化物強誘電体の置換物に対する分極特性を予測する、
請求項9に記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【請求項16】
前記分極特性予測段階は、
前記最低エネルギーを有する原子構造モデルに対しBEI(Bond Elongation Index)を適用して、酸化物強誘電体の置換物に対する分極特性を予測する、
請求項9から15の何れか1つに記載の酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、MLCC(Multilayer Ceramic Capacitor)の誘電体組成物の主成分として、BT(BaTiO)系が用いられることができる。BT(BaTiO)基盤の高容量及び高信頼性のMLCCに対する需要が増加するにつれて、BTの特性及び信頼性の向上のために添加される希土類(Rare earth)添加剤に対する固溶の原理が研究されてきた。
【0003】
特に、両性(amphoteric)の置換特性を有するDy、Ho、Sm、Erなどの希土類元素がBT(BaTiO)構造においてドーパントとして用いられる場合、BT(BaTiO)内のBaサイト及びTiサイトに同時に置換されて固溶することができ、希土類元素がBaサイト及びTiサイトのどちらにどの程度固溶するのか正確に把握できないため、これに関する固溶特性及びそれによる特性変化に対する研究が進められてきた。
【0004】
一方、BT(BaTiO)に添加される希土類添加剤に対する従来の研究でも、希土類元素を添加する場合の信頼性及び強誘電性の向上原因は、物理-化学的に十分に明らかになっていない。また、物理-化学的な原理を明らかにするためには、DFT(Density Functional Theory)などの精密シミュレーションを用いた現場環境(local environment)に対する研究が必要である。
【0005】
しかしながら、BT(BaTiO)に対する両性希土類添加剤の場合、固溶サイトのみならず、それに伴うBa、Ti、Oの空孔(Vacancy)及び欠陥(Defect)に対してもさらに考慮しなければならないため、数多くの原子サイト構造(atomic site configuration)を計算しなければならないという困難がある。実験的に使用される希土類添加剤の低い濃度範囲(例えば、~1mol%)をモデリングするためには、数多くの、例えば、数千個以上の原子構造モデルが必要となり、全ての原子構造モデル1つ1つに対して直接計算する従来のDFTを用いる方法では計算が不可能であるという問題点がある。
【0006】
従来知られている、固溶特性及び挙動予測のために原子モデルを拡張するアルゴリズムであるCE(Cluster Expansion)は、単一欠陥に対する分析に効果的であるため、DFT演算で考慮が可能な100個以下原子構造モデルに向いているといえるが、CE(Cluster Expansion)は、両性の希土類添加剤のように、数千個以上の巨大モデルが必要なシミュレーションには不向きであり、正イオンや負イオン空孔(Vacancy)が含まれた複合欠陥構造の形成に適用するのも困難である。
【0007】
また、CEの場合、原子構造によって熱力学的に最も安定したエネルギーを導出することはできるものの、導出された原子構造モデルの分極特性までは予測が難しいという問題点があり、特に、希土類添加による分極特性などの強誘電性の予測が不可能であるという問題点がある。
【0008】
下記の先行技術文献は、前述した従来の技術的な解決課題に対する解決策を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2022-0085034号
【特許文献2】日本公開特許第2018-109566号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題の一つは、希土類元素(Rare earth element)の添加による酸化物強誘電体の置換物に対する数多くの原子サイト構造(atomic site configuration)を有する酸化物強誘電体の置換物に対する固溶特性及び分極特性を予測することができる酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によって、酸化物強誘電体の置換物に対するドーパントの濃度別の複数の原子構造(atomic configuration)モデルに対しDFT(Density Functional Theory)を適用して複数の原子構造モデルデータを生成するクラスター生成部と、上記複数の原子構造モデルデータに基づいて、上記複数の原子構造モデルのそれぞれに対するML(Machine Learning)ポテンシャルを生成するポテンシャル生成部と、上記MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、上記モデルエネルギー及び上記複数の原子構造モデルを入力で用いるCE(Cluster Expansion)を適用して、拡張された原子構造モデルデータを生成するクラスター拡張部と、上記クラスター拡張部による拡張された原子構造モデルデータに基づいて上記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する最低エネルギー導出部と、上記最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測する分極特性予測部と、を含む酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置が提案される。
【0012】
また、本発明の他の一実施形態によって、酸化物強誘電体の置換物に対するドーパントの濃度別の複数の原子構造(atomic configuration)モデルに対しDFT(Density Functional Theory)を適用して複数の原子構造モデルデータを生成するクラスター生成段階と、上記複数の原子構造モデルデータに基づいて、上記複数の原子構造モデルのそれぞれに対するML(Machine Learning)ポテンシャルを生成するポテンシャル生成段階と、上記MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、上記モデルエネルギー及び上記複数の原子構造モデルを入力で用いるCE(Cluster Expansion)を適用して、拡張された原子構造モデルデータを生成するクラスター拡張段階と、上記クラスター拡張段階による拡張された原子構造モデルデータに基づいて上記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出する最低エネルギー導出段階と、上記最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測する分極特性予測段階と、を含む酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法が提案される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によると、酸化物強誘電体に含まれるABO構造(例えば、BT(BaTiO)構造)の誘電体組成物に対する希土類元素の添加による数多くの原子サイト構造(atomic site configuration)を対象にして、マシンラーニングポテンシャル(Machine Learning Potential)とクラスター拡張(CE:Cluster Expansion)を用いて、酸化物強誘電体の置換物に対する固溶特性及び分極特性を予測することができる。
【0014】
特に、従来のDFT(Density Functional Theory)及びCE計算によっては低濃度固溶区間での添加剤固溶特性及び分極特性に対する予測が不可能であったが、本発明では、低濃度固溶区間での添加剤固溶特性及び分極特性を予測することができ、さらに、MLCCなどのデバイスが希望の物性を有するように数十個以上の同時置換物を入れる場合まで拡張して適用することができることから、より画期的な新組成の探索を可能にするという効果を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置に対する一例を示したブロック図である。
図2】本発明の一実施形態による酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法に対する一例を示したフローチャートである。
図3(a)】クラスター生成過程に対する説明図であって、置換物の原子構造モデルに対する模式図として、DyがBa位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図である。
図3(b)】クラスター生成過程に対する説明図であって、置換物の原子構造モデルに対する模式図として、DyがBa位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図である。
図3(c)】クラスター生成過程に対する説明図であって、置換物の原子構造モデルに対する模式図として、DyがTi位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図である。
図3(d)】クラスター生成過程に対する説明図であって、置換物の原子構造モデルに対する模式図として、DyがTi位置及びBa位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図である。
図4】ポテンシャル生成過程で、原子構造モデルの原子間のポテンシャルを計算するために使用されるマシンラーニングに用いられるTBI(Two Body interaction)アルゴリズム及びSOAP(Smooth Overlap of Atomic Positions)アルゴリズム模式図である。
図5】ポテンシャル生成過程で、TBIアルゴリズム及びSOAPアルゴリズムなどのマシンラーニングによって計算されたMLエネルギー(ML energy)と直接計算方式によるDFTエネルギー間の優れた線型性を示すグラフである。
図6】最低エネルギー導出過程に対する説明図であって、拡張された原子構造モデルに対してBa/Tiモル比、Dy含量(wt)及び総エネルギー(Free energy)による3次元座標に表示されたエネルギー分布グラフである。
図7】分極特性予測過程に対する説明図であって、Ba/Tiモル比及びDy含量によって決定された最も安定した原子構造モデルに対する分極強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明は説明される実施形態に限定されるものではなく、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多様に変更できることを理解すべきである。
【0017】
また、本発明の各実施形態において、一つの例として説明される構造、形状、及び数値は、本発明の技術的事項の理解を助けるための例に過ぎないため、これに限定されるものではなく、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多様に変更できることを理解すべきである。本発明の実施形態を互いに組み合わせることで複数の新たな実施形態を得ることができる。
【0018】
さらに、本発明に参照された図面において、本発明の全般的な内容に照らして実質的に同一の構成及び機能を有する構成要素には同一符号を付して示す。
【0019】
以下では、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が本発明を容易に実施できるように、本発明の実施形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態による酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置に対する一例を示したブロック図である。
【0021】
本書類における発明は、自発的分極(Spontaneous polarization)状態を有し、外部電場によって分極方向がスイッチングされることができる強誘電体のうち酸素と結合された酸化物に関し、特に、酸化物強誘電体に対して希土類がドーパントとして用いられた置換物に対し、ドーパントの含量によって分極特性が変わることから、分極特性の予測が必要となる。
【0022】
図1を参照すると、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置10は、クラスター生成部100、ポテンシャル生成部200、クラスター拡張部300、最低エネルギー導出部400、及び分極特性予測部500を含むことができる。
【0023】
クラスター生成部100は、ABO構造(A、Bは互いに異なる元素)からなる酸化物強誘電体の置換物に対するドーパント(Dopant)の濃度別の複数の原子構造(atomic configuration)モデルに対しDFT(Density Functional Theory)を適用して複数の原子構造モデルデータを生成することができる。
【0024】
本書類において、クラスター(Cluster)とは、原子構造モデル(atomic configuration model)を意味する。一例として、原子構造モデルデータは原子構造に対するモデルに関するデータを含むことができる。
【0025】
ポテンシャル生成部200は、上記複数の原子構造モデルデータに基づいて、上記複数の原子構造モデルのそれぞれに対するML(Machine Learning)ポテンシャルを生成することができる。これに対する詳細な説明は後述する。
【0026】
クラスター拡張部300は、上記MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、上記モデルエネルギー及び上記複数の原子構造モデルを入力で用いるCE(Cluster Expansion)を適用して、上記複数の原子構造モデルを拡張し、該拡張された原子構造モデルに対する拡張された原子構造モデルデータを生成することができる。
【0027】
最低エネルギー導出部400は、上記クラスター拡張部300による拡張された原子構造モデルデータに基づいて上記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出することができる。
【0028】
分極特性予測部500は、上記最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測することができる。
【0029】
一例として、クラスター生成部100、ポテンシャル生成部200、クラスター拡張部300、最低エネルギー導出部400、及び分極特性予測部500のそれぞれは、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置10に内蔵される少なくとも一つの集積回路ICにハードウェア(例えば、プロセッサ)又はソフトウェアとして実現されることができ、特にいずれかに限定されるものではない。
【0030】
一方、酸化物強誘電体はABO構造(A、Bは互いに異なる元素)からなる誘電体組成物を含むことができ、例えば、ABO構造において、AサイトにBaが位置し、BサイトにTiが位置するBaTiOとなることができ、本書類において、ABO構造に対する一例としてBaTiOについて説明することができ、これは、説明及び理解の便宜のためであり、これに限定されるものではない。
【0031】
また、酸化物強誘電体の置換物は、BaTiO構造において、Ba及びTiの少なくとも一つの代わりに置換されるドーパントとして、希土類元素が置換されて固溶されることができ、このとき、希土類元素はアクセプタ(acceptor)とドナー(donor)の役割を果たすことができ、この場合、希土類元素は濃度を最適化して信頼性を向上させることができる。
【0032】
そして、本書類において、希土類ドーパントとして、ドナーの役割をするドナー成分(Dy、Sm、Gd、Tb)又はアクセプタの役割をするアクセプタ成分(Mg、Al、Mn、Vなど)のいずれかが用いられることができ、下記では、説明及び理解の便宜上、希土類ドーパントとしてジスプロシウム(Dy)を例示に説明することができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明の各図面において、同一符号及び同一機能の構成要素については不要な重複説明は省略されることができ、各図面における相違点に対する事項が説明されることができる。
【0034】
その後、図2から図7を参照して、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法について説明する。本出願書類において、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法に対する説明、及び酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置に対する説明は、特に事情がなければ、互いに補完又は共通して適用されることができる。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態による酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法に対する一例を示したフローチャートである。
【0036】
図2に示された酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法は、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置20において実現されることができ、一例として、酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置20に内蔵されたソフトウェアによって実現されることができるが、これに限定されるものではない。
【0037】
図2を参照すると、本発明の一実施形態による酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測方法は、クラスター生成段階S100、ポテンシャル生成段階S200、クラスター拡張段階S300、最低エネルギー導出段階S400、及び分極特性予測段階S500を含むことができる。
【0038】
クラスター生成段階S100では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、ABO構造(A、Bは互いに異なる元素)からなる酸化物強誘電体の置換物に対するドーパントの濃度別の複数の原子構造(atomic configuration)モデルに対しDFT(Density Functional Theory)を適用して複数の原子構造モデルデータを生成することができる。
【0039】
ポテンシャル生成段階S200では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記複数の原子構造モデルデータに基づいて、上記複数の原子構造モデルのそれぞれに対するML(Machine Learning)ポテンシャルを生成することができる。これに対する詳細な説明は後述する。
【0040】
クラスター拡張段階S300では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記MLポテンシャルに基づいてモデルエネルギーを演算し、上記モデルエネルギー及び上記複数の原子構造モデルを入力で用いるCE(Cluster Expansion)を適用して、拡張された原子構造モデル(巨大原子構造モデル)データを生成することができる。
【0041】
最低エネルギー導出段階S400では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記クラスター拡張段階S300による拡張された原子構造モデルデータに基づいて上記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出することができる。
【0042】
分極特性予測段階S500では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記最低エネルギーを有する安定した原子構造に対して酸化物強誘電体の置換物の分極特性を予測することができる。
【0043】
図3は、クラスター生成過程程に対する説明図であって、置換物の原子構造モデルに対する模式図として、図3(a)及び図3(b)は、DyがBa位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図であり、図3(c)は、DyがTi位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図であり、図3(d)は、DyがTi位置及びBa位置に置換された場合の原子構造モデルの模式図である。
【0044】
図3(a)は、BaTiO構造において、Dy(2DyBa1+)がBa位置に置換されたとき、電気的中性を保つためにBa空孔(Vacancy)(VBa2-)が生成された原子構造モデルを示している。
【0045】
図3(b)は、BaTiO構造において、Dy(4DyBa1+)がBa位置に置換されたとき、電気的中性を保つためにTi空孔(Vacancy)(VTi4-)が生成された原子構造モデルを示している。
【0046】
図3(c)は、BaTiO構造において、Dy(2DyTi1-)がTi位置に置換されたとき、電気的中性を保つために酸素空孔(Vacancy)(VO2+)が生成された原子構造モデルを示している。
【0047】
図3(d)は、構造において、Dy(2DyBa1+、2DyTi1-)がTi位置及びBa位置に置換されたとき、電気的中性を保つために自己補償(Self compensation)された原子構造モデルを示している。
【0048】
図3を参照すると、Dyがドーパントとして添加される場合に、Dy濃度によって互いに異なる原子構造モデルが生成できることが分かり、ここで、BaTiO構造において各空孔(Vacancy)は、原子構造モデルで欠陥(Defect)になることができる。
【0049】
本発明での複数の原子構造モデルは、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)に示した構造に限定されるものではなく、これらは説明及び理解便宜上の例示に過ぎない。
【0050】
前述したように、Dyのような希土類ドーパントは、BaTiO構造において、Ba及びTiの少なくとも一つのサイトに置換されて固溶され得ることが分かり、これによって酸化物強誘電体組成物のBaTiO構造に対して、希土類ドーパントに置換される場合には多くの原子構造モデルを考慮しなければならないことが分かる。
【0051】
また、図2に示された上記ポテンシャル生成段階S200では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記複数の原子構造モデルから所定数の原子構造モデルをサンプリングし、上記サンプリングした所定数の原子構造モデルのそれぞれに対する個別ポテンシャルを直接計算して求め、上記個別ポテンシャル及び該当原子構造モデルデータを入力で用いるマシンラーニングによって上記複数の原子構造モデル全てに対する上記MLポテンシャルを推定して求めることができる。ここで、MLポテンシャルとは、上記個別ポテンシャル及び該当原子構造モデルデータを入力?提供されたマシンラーニングによって推定されたポテンシャルを意味し、ポテンションとは、エネルギー準位を意味する。
【0052】
一例として、上記ポテンシャル生成段階S200での複数の原子構造モデルに対するモデルサンプル方式は、上記MLポテンシャルを効率的に求めるためにFPS(Farthest Point Sampling)であることができる。
【0053】
また、上記ポテンシャル生成段階S200で、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20は、上記ABO構造において、上記Aサイト及び上記Bサイトに置換される上記ドーパント濃度及びA/B割合に応じて上記複数の原子構造モデルに対する特質空間(feature space)でのサンプル位置(巨大原子構造モデルでの格子点)を決定することができる。
【0054】
例えば、ABO構造がBaTiO構造であり、ドーパントとしてジスプロシウム(Dy)が用いられた場合、Dy含量及びBa/Ti割合に応じてサンプル位置が決定されることができる。
【0055】
一例として、上記ポテンシャル生成段階S200は、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20のポテンシャル生成部200によって行われることができるが、これに限定されるものではない。
【0056】
図4は、ポテンシャル生成過程で、各原子構造モデルの原子間のポテンシャルを計算するために使用されるマシンラーニングに用いられるTBI(Two Body interaction)アルゴリズム及びSOAP(Smooth Overlap of Atomic Positions)アルゴリズム模式図である。
【0057】
図4を参照すると、複数の原子構造モデルに対し、TBI(Two Body interaction)アルゴリズム及びSOAP(Smooth Overlap of Atomic Positions)アルゴリズムのそれぞれによって、複数の原子構造(atomic configuration)モデルの原子間の相互作用及び平衡位置を決定するポテンシャル(又はエネルギー)を求めることができる。
【0058】
図5は、ポテンシャル生成過程で、TBIアルゴリズム及びSOAPアルゴリズムなどのマシンラーニングによって計算されたMLエネルギー(ML energy)と直接計算方式によるDFTエネルギー間の優れた線型性を示すグラフである。
【0059】
図5のグラフは、TBI(Two Body interaction)アルゴリズム及びSOAPアルゴリズムなどのマシンラーニングによって計算されたMLエネルギー(ML energy)とDFTによって直接計算されたDFTエネルギー間の線型性関係を示しており、図5を参照すると、本発明で用いられるMLエネルギー(ML energy)とDFTエネルギー間の優れた線型性を確認することができる。
【0060】
これによると、DFTによって直接計算することなく、本発明で採択するMLエネルギーを用いる場合も、直接計算したエネルギーと類似するため、本発明による予測方式に対する信頼性を確認することができる。
【0061】
図2に示された上記最低エネルギー導出段階S400では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記クラスター拡張段階S300によって生成された拡張された原子構造モデルデータに基づいて、上記複数の原子構造モデルから上記ドーパントの固溶特性によって最低エネルギーを構成する原子構造モデルを導出することができる。
【0062】
上記最低エネルギー導出段階S400で、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20は、上記複数の原子構造モデルに対する特質空間(feature space)でのサンプル位置を用いて上記複数の原子構造モデルから最低エネルギーを有する原子構造モデルを導出することができる。
【0063】
一例として、上記最低エネルギー導出段階S400は、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20の最低エネルギー導出部400によって行われることができるが、これに限定されるものではない。
【0064】
図6は、最低エネルギー導出過程に対する説明図であって、拡張された原子構造モデルに対してBa/Tiモル比、Dy含量(wt)及び総エネルギー(Free energy)[eV/f.u.]による3次元座標に表示されたエネルギー分布グラフである。
【0065】
図6を参照すると、Ba/Tiモル比及びDy含量によって計算された全ての拡張クラスターでそれぞれのエネルギーを計算して3次元座標に表示したエネルギー分布グラフにおいて、総エネルギー(Free energy)は、Ba/Tiモル比及びDy含量によって互いに変わることが分かる。図6に示されたグラフを参照すると、Dy含量及びBa/Tiモル比によるエネルギーが最も低い、最も安定した原子構造モデルを確認することができる。
【0066】
図2に示された上記分極特性予測段階S500では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記最低エネルギーを有する原子構造モデルに対し、上記酸化物強誘電体がチタン酸バリウム(BaTiO)である場合、チタン-酸素(Ti-O)結合の長さに対する数値化情報を適用して、上記酸化物強誘電体の置換物に対する分極特性を予測することができる。
【0067】
例えば、上記分極特性予測段階S500では、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20が、上記最低エネルギーを有する原子構造モデルに対しBEI(Bond Elongation Index)を適用して、酸化物強誘電体の置換物に対する分極特性を予測することができる。
【0068】
一例として、上記分極特性予測段階S500は、強誘電体の置換物の分極特性予測装置20の分極特性予測部500によって行われることができるが、これに限定されるものではない。
【0069】
図7は、分極特性予測過程に対する説明図であって、Ba/Tiモル比及びDy含量によって決定された最も安定した原子構造モデルに対する分極強度を示すグラフである。
【0070】
図7を参照すると、先行過程で決定された最も安定した原子構造モデルに対して求められた、Ba/Tiモル比及びDy含量による分極強度グラフにおいて、Ba/Tiモル比及びDy含量による分極強度(|Pz|=μc/cm)を確認することができる。
【0071】
例えば、分極強度は、前述したBEI(Bond Elongation Index)を用いて計算されることができるが、これに限定されるものではない。
【0072】
一方、本発明の一実施形態による酸化物強誘電体の置換物の分極特性予測装置のクラスター生成部100、ポテンシャル生成部200、クラスター拡張部300、最低エネルギー導出部400、及び分極特性予測部500のそれぞれは、プロセッサ(例:中央処理装置(CPU)、グラフィック処理処置(GPU)、マイクロプロセッサ、注文型半導体(Application Specific Integrated Circuit,ASIC)、Field Programmable Gate Arrays(FPGA)など)、メモリ(例:揮発性メモリ(例えば、RAMなど)、非揮発性メモリ(例えば、ROM、フラッシュメモリなど)、入力デバイス(例:キーボード、マウス、ペン、音声入力デバイス、タッチ入力デバイス、赤外線カメラ、ビデオ入力デバイスなど)、出力デバイス(例:ディスプレイ、スピーカー、プリンターなど)、及び通信接続装置(例:モデム、ネットワークインターフェースカード(NIC)、統合ネットワークインターフェース、無線周波数送信機/受信機、赤外線ポート、USB接続装置など)が互いに相互接続(例:周辺構成要素相互接続(PCI)、USB、ファームウェア(IEEE1394)、光学的バス構造、ネットワークなど)されたコンピューティング環境により実現されることができる。
【0073】
上記コンピューティング環境は、パーソナルコンピュータ、サーバコンピュータ、ハンドヘルド又はラップトップデバイス、モバイルデバイス(モバイルフォン、PDA(登録商標)、メディアプレーヤーなど)、マルチプロセッサシステム、消費者電子機器、ミニコンピュータ、メインフレームコンピュータ、任意の上述のシステム又はデバイスを含む分散コンピューティング環境などにより実現されることができるが、これに限定されない。
【0074】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されず、特許請求の範囲で請求する本発明の要旨から逸脱することなく、当該発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば誰でも多様な変形が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0075】
100:クラスター生成部
200:ポテンシャル生成部
300:クラスター拡張部
400:最低エネルギー導出部
500:分極特性予測部
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図3(d)】
図4
図5
図6
図7