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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081864
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】抗真菌用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/235 20060101AFI20240612BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
A61K31/235
A61P31/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195385
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 公徳
(72)【発明者】
【氏名】八須 匡和
(72)【発明者】
【氏名】平野 敦春
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206DB18
4C206DB43
4C206KA01
4C206KA18
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB35
(57)【要約】
【課題】新規な抗真菌用組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る抗真菌用組成物は、下記式(1)で表される化合物を有効成分として含有する。式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基等を示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物を有効成分として含有する抗真菌用組成物。
【化1】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい非芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)
【請求項2】
前記式(1)中のRが、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基を示す、請求項1に記載の抗真菌用組成物。
【請求項3】
前記式(1)中のRが、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数3~4のアルケニル基を示す、請求項1に記載の抗真菌用組成物。
【請求項4】
真菌感染症の予防又は治療に用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗真菌用組成物。
【請求項5】
前記真菌感染症が、クリプトコッカス属真菌又はトリコスポロン属真菌によって引き起こされる真菌感染症である、請求項4に記載の抗真菌用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な化学療法等による免疫機能の低下した患者や高齢者が増加しており、日和見感染型の真菌感染症の対策は益々重要性を増してきている。
【0003】
従来、真菌感染症の治療に使用される抗真菌剤としては、フルコナゾール等のアゾール系抗真菌剤;アムホテリシンB等のポリエン系抗真菌剤;フルシトシン等のフッ化ピリミジン系抗真菌剤;ミカファンギン等のキャンディン系抗真菌剤;などが知られているが、その数は多くない。それだけに、1つでも主要な抗真菌剤に対する耐性菌が発生すると、真菌感染症の予防及び治療に大きな影響を及ぼす。このため、新規な抗真菌剤の開発が依然として望まれている。
【0004】
特許文献1には、地衣類であるツノマタゴケモドキから単離されたメチル-β-オルシノールカルボキシラートが抗真菌活性を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006-514969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な抗真菌用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される化合物を有効成分として含有する抗真菌用組成物。
【化1】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい非芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)
【0008】
<2> 前記式(1)中のRが、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基を示す、<1>に記載の抗真菌用組成物。
【0009】
<3> 前記式(1)中のRが、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数3~4のアルケニル基を示す、<1>に記載の抗真菌用組成物。
【0010】
<4> 真菌感染症の予防又は治療に用いられる、<1>~<3>のいずれか1項に記載の抗真菌用組成物。
【0011】
<5> 前記真菌感染症が、クリプトコッカス属真菌又はトリコスポロン属真菌によって引き起こされる真菌感染症である、<4>に記載の抗真菌用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、新規な抗真菌用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態に係る抗真菌用組成物は、下記式(1)で表される化合物を有効成分として含有する。
【0014】
【化2】
(式中、Rは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアルキニル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよい非芳香族複素環基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を示す。)
【0015】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1~20、好ましくは炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状の基が挙げられる。
【0016】
シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基等の炭素数3~20、好ましくは炭素数3~10の基が挙げられる。
【0017】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10の直鎖状又は分岐鎖状の基が挙げられる。
【0018】
アルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等の炭素数2~20、好ましくは炭素数2~10の直鎖状又は分岐鎖状の基が挙げられる。
【0019】
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、インデニル基、アセナフチレニル、インダニル基、アセナフテニル基等の単環式又は2~4環の縮合多環式の基が挙げられる。
【0020】
非芳香族複素環基としては、アゼチジニル基、ピロリジニル基、ピロリニル基、ピペリジル基、テトラヒドロピリジル基、ホモピペリジニル基、オクタヒドロアゾシニル基、イミダゾリジニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピラゾリニル基、ピペラジニル基、ホモピペラジニル基、2-ピペラジノニル基等の単環式の含窒素基;テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロピラニル基、ピラニル基等の単環式の含酸素基;モルホリニル基等の単環式の含窒素・酸素基;チオモルホリニル基等の単環式の含窒素・硫黄基;インドリニル基、イソインドリニル基、テトラヒドロキノリニル基、テトラヒドロイソキノリニル基、2,3-ジヒドロベンゾフラニル基、クロマニル基、クロメニル基、イソクロマニル基、1,3-ベンゾジオキソリル基、1,3-ベンゾジオキサニル基、1,4-ベンゾジオキサニル基等の2環式の含酸素基;2,3-ジヒドロベンゾチエニル基等の2環式の含硫黄基;ベンゾモルホリニル基、ジヒドロピラノピリジル基、ジヒドロジオキシノピリジル基、ジヒドロピリドオキサジニル基等の2環式の含窒素・酸素基;2-アザスピロ[3.3]オクチル基、2-オキサスピロ[3.3]オクチル基、6-アザ-2-オキサスピロ[3.3]オクチル基、1-アザスピロ[4.5]デシル基、1-オキサスピロ[4.5]デシル基等のヘテロ環式スピロ環基;などが挙げられる。
【0021】
ヘテロアリール基としては、ピロリル基、ピリジル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基等の単環式の含窒素基;フラニル基等の単環式の含酸素基;チエニル等の単環式の含硫黄基;オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、オキサジアゾリル基等の単環式の含窒素・酸素基;チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾリル基等の単環式の含窒素・硫黄基;インドリル基、イソインドリル基、ベンズイミダゾリル基、インダゾリル基、ベンゾトリアゾリル基、テトラヒドロキノリル基、キノリル基、テトラヒドロイソキノリル基、イソキノリル基、キノリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジニル基、ピロロピリジル基、イミダゾピリジル基、ピラゾロピリジル基、ピリドピラジル基、プリニル基、プテリジニル基等の2環式の含窒素基;ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基等の2環式の含酸素基;ベンゾチエニル基等の2環式の含硫黄基;ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾオキサジアゾリル基等の2環式の含窒素・酸素基;ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基、ベンゾチアジアゾリル基、チアゾロピリジル基等の2環式の含窒素・硫黄基;などが挙げられる。
【0022】
上記のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、非芳香族複素環基、又はヘテロアリール基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、非芳香族複素環基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、ニトロ基、ニトロキシ基、メルカプト基、シアネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、スルホ基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホ基、ホスホノ基、ボロニル基、シアノ基等が挙げられる。置換基の数は特に制限されない。
【0023】
上記式(1)で表される化合物の中でも、Rが炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であるものが好ましく、Rが炭素数1~4のアルキル基又は炭素数3~4のアルケニル基であるものがより好ましい。
【0024】
上記式(1)で表される化合物が酸性官能基又は塩基性官能基を有する場合、当該化合物は、塩の形態であってもよい。例えば、上記式(1)で表される化合物が酸性官能基を有する場合、当該化合物は、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩等の形態であってもよい。また、上記式(1)で表される化合物が塩基性官能基を有する場合、当該化合物は、塩酸、リン酸等の無機酸との塩の形態であってもよく、酢酸、フマル酸、メタンスルホン酸等の有機酸との塩の形態であってもよい。
【0025】
上記式(1)で表される化合物は、有機化学的に合成することもでき、市販品として入手することもできる。
【0026】
また、上記式(1)で表される化合物のうち、Rが炭素数1~4のアルキル基又は炭素数3~4のアルケニル基である化合物は、地衣類を利用して調製することもできる。地衣類に含まれるレカノール酸は熱に不安定であり、熱によって分解してオルセリン酸となることが知られている。そこで、地衣類に含まれるレカノール酸を、式:ROH(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数3~4のアルケニル基を示す。)で表されるアルコールで抽出した後、得られた粗抽出液を加熱することにより、下記式(2)で表される化合物を含む粗抽出液を得ることができ、この粗抽出液を公知の方法により精製することにより、下記式(2)で表される化合物を得ることができる。
【0027】
【化3】
(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数3~4のアルケニル基を示す。)
【0028】
地衣類としては、レカノール酸を含むものであれば特に制限されず、例えば、ウメノキゴケ、ナミガタウメノキゴケ等が挙げられる。地衣類から得られた粗抽出液を加熱する温度としては、例えば、45~65℃が好ましい。
【0029】
本実施形態に係る抗真菌用組成物は、上記式(1)で表される化合物のほかに、薬学的に許容される担体を含有する。薬学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の有機又は無機の担体が挙げられる。この担体は、固形製剤においては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤等として、液状製剤においては、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等として配合される。
【0030】
本実施形態に係る抗真菌用組成物の剤形は特に制限されない。抗真菌用組成物の剤形としては、錠剤、カプセル剤、乳剤、懸濁剤等の経口剤;注射剤、点滴剤、外用剤等の非経口剤;などが挙げられる。
【0031】
上記式(1)で表される化合物は、クリプトコッカス属真菌(Cryptococcus spp.)、トリコスポロン属真菌(Trichosporon spp.)、ロドスポリジオボラス属真菌(Rhodosporidiobolus spp.)、マラセチア属真菌(Malassezia spp.)等の種々の真菌に対して抗真菌作用を示す。このため、本実施形態に係る抗真菌用組成物は、真菌感染症の予防又は治療に好適に使用することができる。特に、本実施形態に係る抗真菌用組成物は、クリプトコッカス属真菌又はトリコスポロン属真菌によって引き起こされる真菌感染症の予防又は治療に好適に使用することができる。なお、「治療」には、真菌感染症の症状を消失又は軽減させることのほか、症状の進行の度合いを抑制することも含まれる。
【0032】
真菌感染症を予防又は治療する際には、本実施形態に係る抗真菌用組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与すればよい。言い換えれば、本実施形態に係る抗真菌用組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することにより、真菌感染症を予防又は治療することができる。ここで、「有効量」とは、真菌感染症の発症を防止する、症状を消失又は軽減させる等の所望の生物学的結果をもたらす量を意味する。投与対象は特に制限されず、ヒト等の哺乳動物が挙げられる。
【実施例0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
<試験例1:オルセリン酸エステルの調製>
ウメノキゴケ(0.5g)を液体窒素により凍結した後、乳棒及び乳鉢を用いて粉砕した。50mLコニカルチューブに、粉砕したウメノキゴケとそれが十分浸る量のメタノールとを入れ、25℃で24時間静置した。静置後、上清を別のコニカルチューブに移し、蓋を開けたまま50℃のインキュベーターの中に入れ、メタノールがすべて蒸発するまで静置した。乾燥後、メタノール(1mL)を加えてサンプルを溶解し、粗抽出液とした。そして、常法に従って粗抽出液を精製することにより、オルセリン酸メチルを得た。なお、精製物は、H NMR及び13C NMRを用いて同定した。
【0035】
また、メタノールの代わりにエタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、又はアリルアルコールを使用するほかは上記と同様にして、オルセリン酸エチル、オルセリン酸イソプロピル、オルセリン酸tert-ブチル、及びオルセリン酸アリルをそれぞれ得た。
【0036】
<試験例2:抗真菌活性の評価>
試験例1で調製した各オルセリン酸エステルを試験化合物とし、ディスク拡散法によって各試験化合物の抗真菌活性を評価した。真菌としては、クリプトコッカス属真菌(Cryptococcus neoformans)、トリコスポロン属真菌(Trichosporon asahii)、及びロドスポリジオボラス属真菌(Rhodosporidiobolus sp.)を使用した。
【0037】
YM培地(0.2% 酵母エキス、2% 麦芽エキス、2% 寒天)に各種真菌を塗布し、表1、2に示す量の各オルセリン酸エステルを染み込ませた8mmペーパーディスクを配置し、ペーパーディスクの周囲に形成される阻止円の直径を測定した。ポジティブコントロールとしては、オルセリン酸エステルの代わりに、表2に示す量のフルコナゾールを使用した。結果を表1に示す。なお、表2中の「n.d.」は、阻止円が確認されなかったことを意味し、「n.t.」は、実験を行っていないことを意味する。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1、2から分かるように、オルセリン酸メチル、オルセリン酸エチル、オルセリン酸イソプロピル、オルセリン酸tert-ブチル、及びオルセリン酸アリルは、フルコナゾールよりは弱いものの、いずれも十分な抗真菌活性を示した。