(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081873
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】液体処理装置及び廃水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240612BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20240612BHJP
C02F 3/06 20230101ALI20240612BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20240612BHJP
【FI】
C02F1/44 F
B01D63/02
C02F3/06
C02F3/12 P
C02F3/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195396
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木子 胤制
【テーマコード(参考)】
4D003
4D006
4D028
【Fターム(参考)】
4D003AA01
4D003AB07
4D003AB08
4D003CA04
4D003DA08
4D003EA15
4D003FA05
4D006GA06
4D006GA07
4D006HA12
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4D006JA31A
4D006JA51A
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4D006KA17
4D006KA31
4D006KB22
4D006KE02P
4D006KE02R
4D006KE24Q
4D006KE30Q
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4D006MC16
4D006MC22
4D006MC23
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4D006MC30
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4D006MC62
4D006PA01
4D006PB04
4D006PB05
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4D006PB20
4D028BB02
4D028BC17
4D028BD17
4D028BE04
4D028CA00
4D028CD00
4D028CE04
(57)【要約】
【課題】好気処理反応槽内に中空糸膜モジュールを備えた液体処理装置において、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度の低下を防ぐことができるように、好気処理反応槽内の水の流れを適切に制御できる液体処理装置を提供する。
【解決手段】好気処理反応槽内に中空糸膜モジュールを備えた液体処理装置であって、前記好気処理反応槽は、さらに、好気処理反応槽内における被処理液の流動を形成する流動形成装置と、流速計と、前記流速計の測定結果に基いた命令を作成し、当該命令を流動形成装置に送る手段を備えた制御部とを備え、前記流速計は、好気処理反応槽内における被処理液の、中空糸膜モジュールの中空糸膜の長さ方向(z軸方向)の流速を測定できる手段を備えており、前記流動形成装置は、前記制御部からの命令により、被処理液の前記流速を調整することができる手段を備えたものである、液体処理装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気処理反応槽内に中空糸膜モジュールを備えた液体処理装置であって、
前記好気処理反応槽は、さらに、好気処理反応槽内における被処理液の流動を形成する流動形成装置と、流速計と、前記流速計の測定結果に基いた命令を作成し、当該命令を流動形成装置に送る手段を備えた制御部とを備え、
前記流速計は、好気処理反応槽内における被処理液の、中空糸膜モジュールの中空糸膜の長さ方向(z軸方向)の流速を測定できる手段を備えており、
前記流動形成装置は、前記制御部からの命令により、被処理液の前記流速を調整することができる手段を備えたものである、液体処理装置。
【請求項2】
前記流動形成装置は、好気処理反応槽内に気体を送出する手段、好気処理反応槽内に流体を送出する手段、又は、好気処理反応槽内の被処理液を攪拌する手段を備えたものである、請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項3】
前記流速計は、中空糸膜モジュールの中央部の高さより上方であって、被処理液に浸漬するように配置される、請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項4】
前記中空糸膜モジュールは、中空糸膜の長さ方向が鉛直方向となり、かつ被処理液に浸漬するように配置される、請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項5】
好気処理反応槽の一方の側面に被処理液流入口を設け、他の側面に処理液流出口を設けてなる構成を備えた液体処理装置において、
前記z軸方向は、中空糸膜モジュールの中空糸膜の長さ方向と平行な方向である、請求項1に記載の液体処理装置。
【請求項6】
前記制御部及び流動形成装置により、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御する、請求項1に記載の液体処理装置。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
【請求項7】
1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が、1.5cm/sec以上となるように制御する、請求項6に記載の液体処理装置。
【請求項8】
1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が、30cm/sec以下となるように制御する、請求項6に記載の液体処理装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載の液体処理装置を用いた廃水処理方法。
【請求項10】
請求項1~8の何れか1項に記載の液体処理装置を用いて、前記制御部及び流動形成装置により、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御する、廃水処理方法。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水、湖沼水、河川水等の原水や、油分等を含む工業廃水、生活廃水、飲料加工用の原液等の各種の液体(以下、「被処理液」ともいう。)を、中空糸膜モジュールを用いて、用途に適した水質に浄水する液体処理装置、及びこの装置を用いた廃水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃水や生活廃水は、廃水中に含まれる有機物等を取り除く処理が施されてから、工業用水として再利用されるか、もしくは河川等に放流されるのが通常である。
廃水処理技術は、大きく分けて生物学的処理(細菌などの微生物により汚水中の汚濁物質を分解する方法)と、物理化学的処理(沈殿、ろ過、吸着等の物理化学反応を利用し、凝集や酸化などにより汚濁物質を分離する方法)の2種類がある。
中でも、地域環境の保全などの観点から、廃水に含まれる有機物を微生物によって分解させる、微生物を利用した有機性廃水の処理方法が注目されている。
【0003】
微生物を利用した有機性廃水の処理方法として、被処理液を曝気して好気的な微生物に有機物等を分解させる活性汚泥処理法等が一般的に知られている。
従来の活性汚泥処理法として、好気性微生物を利用する硝化槽と、嫌気性微生物である脱窒細菌を利用する脱窒槽とを設け、硝化槽において曝気により酸素を供給することが行われていた。しかし、曝気により酸素を供給する方法は、気泡サイズを小さくし、気泡の表面積を大きくして接触効率を高めたり、被処理液中の滞留時間を長くしたりしても、酸素利用効率には限界があり、ランニングコストが高いという課題を抱えていた。
【0004】
そこで、廃水中の微生物等に由来する微生物層(「バイオフィルム」とも称する。)を中空糸膜の表面に形成させ、中空糸膜の内面側から酸素を微生物層(バイオフィルム)に直接供給するバイオリアクター、いわゆるメンブレンエアレーション型バイオフィルムリアクター(MABR)を用いた廃水処理が提案されている(特許文献1、2、3、4参照)。
【0005】
MABRを用いた廃水処理では、微生物層の膜厚方向に酸素勾配が形成され、微生物層の内層側において好気処理(BOD酸化、アンモニアの硝酸化)が進行するとともに、微生物層の外層側において硝酸の嫌気処理(BOD酸化、脱窒処理)が進行する。このように、好気処理と嫌気処理を同一の処理槽で行うことができるため、従来の処理法に比べて設備をコンパクト化することができる。また、中空糸膜の内面側から酸素を供給するため、曝気に比べて酸素利用効率が高く、スラッジの発生も低減できるので、ランニングコストを低減することができる。さらに、微生物層の形成により、中空糸膜の膜表面積を大きく確保できるので、廃水の流入負荷変動に対して安定的に処理を行うことが可能になる。このような観点から、MABRは、各種の液体処理装置等において広く導入検討が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-209037号公報
【特許文献2】特開2021-062331号公報
【特許文献3】特開2021-133342号公報
【特許文献4】特開2021-133349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MABRを用いた廃水処理においては、中空糸膜の表面に形成される微生物層(バイオフィルム)の表面に、被処理液の流動により境膜が形成されることがある。このような境膜が形成されると、有機物や窒素化合物などの基質交換の抵抗となったり、被処理液中の成分がバイオフィルム中に浸透して拡散するのが防止されたり、バイオフィルム中の微生物へ基質が提供されるのが阻害されたりするなどして、硝化速度(Nitrification Rate)が低下し、生物処理の効率が低下する可能性がある。
そのため、微生物層(バイオフィルム)の表面に、被処理液による境膜が形成されるのを抑制するように、中空糸膜モジュールを配置する処理反応槽内の水の流れを適切に制御できるシステム及び制御方法が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、好気処理反応槽内に中空糸膜モジュールを備えた液体処理装置において、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度(Nitrification Rate)の低下を防ぐことができるように、好気処理反応槽内の液体の流れを適切に制御できる液体処理装置及び廃水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が提案する液体処理装置及び廃水処理方法は、上記課題を解決するために、次の態様を有する。
【0010】
[1] 本発明の第1の態様は、好気処理反応槽内に中空糸膜モジュールを備えた液体処理装置であって、
前記好気処理反応槽は、さらに、好気処理反応槽内における被処理液の流動を形成する流動形成装置と、流速計と、前記流速計の測定結果に基づいた命令を作成し、当該命令を流動形成装置に送る手段を備えた制御部とを備え、
前記流速計は、好気処理反応槽内における被処理液の、中空糸膜モジュールの中空糸膜の長さ方向(z軸方向)の流速を測定できる手段を備えており、
前記流動形成装置は、前記制御部からの命令により、被処理液の前記流速を調整することができる手段を備えたものである、液体処理装置である。
【0011】
[2] 本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記流動形成装置が、好気処理反応槽内に気体を送出する手段、好気処理反応槽内に流体を送出する手段、又は、好気処理反応槽内の被処理液を攪拌する手段を備えたものである、液体処理装置である。
[3] 本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様において、前記流速計が、中空糸膜モジュールの中央部の高さより上方であって、被処理液に浸漬するように配置される、液体処理装置である。
[4] 本発明の第4の態様は、前記第1~第3のいずれか1の態様において、前記中空糸膜モジュールが、中空糸膜の長さ方向が鉛直方向となり、かつ被処理液に浸漬するように配置される、液体処理装置である。
【0012】
[5] 本発明の第5の態様は、前記第1~第4のいずれか1の態様において、好気処理反応槽の一方の側面に被処理液流入口を設け、他の側面に処理液流出口を設けてなる構成を備えた液体処理装置において、
前記z軸方向は、中空糸膜モジュールの中空糸膜の長さ方向と平行な方向である、請求項1に記載の液体処理装置である。
【0013】
[6] 本発明の第6の態様は、前記第1~第5のいずれか1の態様において、前記制御部及び流動形成装置により、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御する、液体処理装置である。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
[7] 本発明の第7の態様は、前記第6の態様において、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が1.5cm/sec以上となるように制御する、液体処理装置である。
[8] 本発明の第8の態様は、前記第6の態様において、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が30cm/sec以下となるように制御する、請求項6に記載の液体処理装置。
【0014】
[9] 本発明の第9の態様は、前記第1~第8のいずれか1の態様の液体処理装置を用いた廃水処理方法である。
【0015】
[10] 本発明の第10の態様は、前記第1~第8のいずれか1の態様の液体処理装置を用いて、前記制御部及び流動形成装置により、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御する、廃水処理方法である。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
【0016】
なお、前述のとおり、前記被処理液には、地下水、湖沼水、河川水等の原水や、油分を含む工業廃水、生活廃水、飲料加工用の原液等の各種の液体が含まれる。被処理液はビール原液等でもよい。本発明はこれら各種の液体をその用途に適した水質に浄水する処理に適用される。
【発明の効果】
【0017】
本発明が提案する液体処理装置は、流速計により、好気処理反応槽内におけるz軸方向における被処理液の流速を測定し、この測定結果を制御部に送り、当該制御部では、流速計から送られてきた測定結果に基づいた命令を作成して当該命令を流動形成装置に送り、流動形成装置では、前記制御部からの命令に基づき、好気処理反応槽内の被処理液の流速を調整することができる。よって、このような液処理装置を使用して液体の処理を実施することにより、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度(Nitrification Rate)の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一例に係る液体処理装置の構成例を模式的に示した図である。
【
図2】本発明の一例に係る好気処理反応槽の構成例を模式的に示した上面図である。
【
図3】本発明の一例に係る中空糸モジュールの構成例を模式的に示した斜視図である。
【
図4】本発明の一例に係る好気処理反応槽を用いて廃水処理を行い、z軸方向の流速方向の流速を計測し、所定の流速範囲とその測定回数との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。
以下の実施形態は、被処理液が廃水の場合を示しており、以下では、「被処理液」を「廃水」又は「被処理液」ともいい、「処理液」を「処理水」ともいう。
なお、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0020】
<<本発明液体処理装置>>
図1は、本発明の実施形態の一例に係る液体処理装置(「本発明液体処理装置」と称する。)を用いた廃水の処理系統を示している。
本発明液体処理装置は、
図1に示すように、好気処理反応槽1と沈殿槽11とを備えており、好気処理反応槽1内に少なくとも中空糸膜モジュール2を備え、さらに、前記反応槽1内における被処理液の流動を形成する流動形成装置3と、流速計4と、制御部5と、を備えている。
なお、沈殿槽11を省略することは可能である。
【0021】
本発明液体処理装置は、好気処理反応槽1内において、中空糸膜モジュール2の中空糸膜21の長さ方向であるz軸方向の被処理液の流速を流速計4が計測し、その計測データに基づいて、好気処理反応槽1内における被処理液の流速、例えば前記z軸方向の被処理液の流速を流動形成装置3により制御することができる。
【0022】
この際、z軸方向は、次のように設定することができる。
前述の通り、z軸方向は、中空糸膜モジュール2の中空糸膜21の長さ方向とすることができる。また、中空糸膜モジュール2の中空糸膜シート状物22のシート面と平行な方向とすることもできる。また、鉛直方向とすることもできる。
例えば、好気処理反応槽1の一方の側面に被処理液流入口6を設け、他の側面に処理液流出口7を設けてなる構成を備えた液体処理装置において、前記z軸方向を、中空糸膜モジュール2の中空糸膜21の長さ方向と平行な方向に設定することができる。
【0023】
<好気処理反応槽>
好気処理反応槽1は、中空糸膜モジュール2を備えた処理反応槽であればよい。
【0024】
好気処理反応槽1の全体形状は任意である。通常は、
図1及び
図2に示すように、直方体状であるが、円柱体状であっても、他の形状であってもよい。従来から当該分野で用いられているものを何ら制限無く採用することができる。
また、好気処理反応槽1は、天井部を備えていても、天井部を備えていなくてもよい。天井部を備えている場合、天井部の一部に開口部が設けてもよい。
【0025】
好気処理反応槽1は、例えば、原水又は脱窒槽の処理液などの被処理液の流入口6(「被処理液流入口6」とも称する。)、処理済水(「処理水」とも称する。)の流出口7(「処理液流出口7」とも称する。)、沈殿槽11からの循環物の流入口8(「循環物流入口8」とも称する。)、必要に応じてその他の設備を備えることが任意に可能である。
【0026】
被処理液の流入口6、例えば原水の流入口や、脱窒槽の処理液として送られてきた被処理液の流入口は、例えば好気処理反応槽6の側面、天井面及び底面のいずれかに設けることができ、1箇所又は2箇所以上に設けることもできる。
この際、被処理液の流入口は、例えば、被処理液を移送する管や水路などの排出口として設けることも可能であるし、また、原水貯留槽の原水又は脱窒槽の処理液をオーバーフローさせて好気処理反応槽内に流入させるようにすることもできる。ただし、これらの形態に限定するものではなく、被処理液を流入させることができればその形態は任意である。
【0027】
処理液の流出口7は、例えば流入口6を設ける側面とは異なる他の側面、天井面及び底面のいずれかに設けることができ、1箇所又は2箇所以上に設けることもできる。
この際、処理液の流出口7は、処理液を移送する管や水路などの流入口として設けることも可能であるし、好気処理反応槽1の処理液をオーバーフローさせて沈殿層内に流入させるようにすることもできる。ただし、これらの形態に限定するものではなく、処理液を流出させることができればその形態は任意である。
【0028】
沈殿槽11からの循環物、例えば沈殿槽から送られてくる固形分(硝化菌を含む)の流入口8は、例えば好気処理反応槽1の側面、天井面及び底面のいずれかに設けることができ、1箇所又は2箇所以上に設けることもできる。
この際、沈殿槽11からの循環物の流入口8は、純化物を移送する管や水路などの流入口として設けることが可能である。ただし、これらの形態に限定するものではなく、沈殿物を流入させることができればその形態は任意である。
【0029】
好気処理反応槽1は、必要に応じて上記以外の設備を備えることが可能である。
【0030】
<中空糸膜モジュール>
中空糸膜モジュール2において、中空糸膜21の内面側から酸素を供給することで、中空糸膜21の外表面に、廃水中の微生物等に由来する微生物層(バイオフィルム)を形成することができる。微生物層の膜厚方向で酸素濃度勾配が形成され、微生物層の内層側において好気処理(硝化)が進行し、微生物層の外層側において硝酸の嫌気処理(脱窒)が進行するので、ワンプロセスで各種の汚染物質を除去することができる。
前記微生物層は、例えば、活性汚泥を種として微生物を増殖処理、所定濃度としたものに中空糸膜モジュール2を被処理液に浸漬させることで、微生物に由来して中空糸膜の表面に形成される。
活性汚泥は、廃水の種類によって様々な成分構成及び成分割合が存在するが、廃水中に含まれるBOD(有機物)成分及び栄養分(窒素、りん等)を食物とし、増殖を行ったものを用いることができる。
【0031】
中空糸膜21は、中空部に酸素を供給することで、内面側から表面に向けて酸素を透過させることが可能に構成されていれば、その形状、構造は任意である。
中空糸膜21の形状としては、例えば断面形状が真円形、楕円形、卵形、長円形等を呈する筒状を挙げることができる。但し、他の形状でもよい。
【0032】
中空糸膜21の材質としては、例えば、ポリスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セルロース誘導体、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリアミド、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等が挙げられる。また、これらの樹脂の一部に置換基を導入したものを使用してもよい。中空糸膜の材質は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0033】
中空糸膜21は、単層膜であってもよく、複層膜であってもよい。
単層膜からなる中空糸膜21としては、非多孔質層からなる中空糸膜を例示できる。他方、複層膜からなる中空糸膜21としては、例えば2層の多孔質層の間に非多孔質層が配置された3層構造の中空糸膜を例示できる。2層の多孔質層はそれぞれ複数の細孔を有する膜から構成されており、非多孔質層を介して同心状に配置される。細孔とは、少なくとも内面側から表面までの連通孔を意味する。2層の多孔質層と非多孔質層との界面においては、多孔質層からなる領域と、非多孔質層からなる領域とが、互いに若干入り込んでいても構わない。
【0034】
中空糸膜モジュール2は、複数の中空糸膜21がシート状に束ねられた中空糸膜シート状物22を備えることができる。
中空糸膜シート状物22として、例えば、複数の中空糸膜21が引き揃えられたシートが複数枚積層された積層体を例示することができる。
【0035】
中空糸膜シート状物22における中空糸膜21の本数は、特に限定されず、例えば、1000~6000本、中でも2000本以上或いは5000本以下等、膜面積に応じて適宜設定することができる。
【0036】
中空糸膜シート状物22の厚さは、高集積度の観点から、400μm以上であるのが好ましく、中でも600μm以上、その中でも1000μm以上であるのがさらに好ましい。他方、強度の観点から、4000μm以下であるのが好ましく、中でも3000μm以下、その中でも2000μm以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
中空糸膜モジュール2は、
図1、
図2及び
図3に示すように、好気処理反応槽1内において、中空糸膜21の長さ方向が鉛直方向となり、かつ被処理液に浸漬するように配置するのが好ましい。
但し、このような配置に限定するものではなく、中空糸膜21の長さ方向が水平方向となり、かつ被処理液に浸漬するように配置することも可能である。
また、好気処理反応槽1内を上方から見た際、中空糸膜21の長さ方向が渦巻き状となり、かつ被処理液に浸漬するように配置することも可能である。
【0038】
中空糸膜モジュール2は、
図3に示すように、例えば、上部枠ハウジング23A、下部枠ハウジング23B及び4本の支柱23Cからなるハウジング23を備え、ハウジング23内に複数の中空糸膜シート状物22を固定する構成とすることができる。但し、このような構成に限定するものではない。
具体的には、例えば、中空部材からなる四角枠状の上部枠ハウジング23Aおよび下部枠ハウジング23Bに、中空糸膜シート状物22の上端部および下端部がそれぞれ挿入され、各中空糸膜21の端面が開口した状態で固定され、中空糸膜シート状物22は上部枠ハウジング23A、下部枠ハウジング23B間にシート状に保持する構成を例示することができる。
この際、上部枠ハウジング23Aに気体供給ラインを接続して、ブロワから酸素や空気等などの気体を上部枠ハウジング23Aの内部に供給できるようにする一方、下部枠ハウジング23Bに気体排出ラインを接続して、中空糸膜21内を通過した気体を外部に排出できるように構成することができる。
【0039】
好気処理反応槽1内に中空糸膜モジュール22を設置する位置は、特に限定するものではない。通常は、
図2に示すように、上方から見て、好気処理反応槽1内の中央部に設置するのが好ましい。
また、
図1に示すように、好気処理反応槽1の底面に設置するようにしてもよいし、好気処理反応槽1の底面から適宜上方の高さに設置するようにしてもよい。
【0040】
<流動形成装置>
流動形成装置3は、前記反応槽1内における被処理液の流動を形成することができれば、その構造及び備えている手段は任意である。
流動形成装置3としては、例えば前記反応槽1内に気体を送出する手段、反応槽1内に流体を送出する手段、又は、前記反応槽1内の被処理液を攪拌する手段を備えたものなどを挙げることができる。
具体例としては、散気管により気体を反応槽1内に送ることにより、被処理液に流動を形成する手段、ポンプにより、反応槽内の被処理液を吸引して送出することにより、被処理液に流動を形成する手段、撹拌機により被処理液を攪拌して被処理液に流動を形成する手段などを備えたものを挙げることができる。但し、これらの手段に限定するものではない。
【0041】
流動形成装置3は、制御部5から随時又は定期的に送られてきた命令により、被処理液の流速を随時又は定期的に調整することができる手段を備えたものであるのが好ましい。
【0042】
好気処理反応槽1内に設置する流動形成装置3は、一つであっても、二つ以上であってもよい。
【0043】
流動形成装置3を設ける位置は、好気処理反応槽1の側面及び底面のいずれかに設けることができ、1箇所又は2箇所以上に設けることもできる。中でも、被処理液を好ましく循環させる観点から、好気処理反応槽1の底面に設けるのが好ましい。
例えば、
図1及び
図2に示すように、上方からみて、中空糸膜モジュール2と重ならない好気処理反応槽1の底面に、例えば、上下又は左右又は上下左右の端縁に沿って適宜間隔を置いて、散気管の散気口又はポンプによる送出口を複数設けるのが好ましい。
【0044】
次に、流動形成装置3の一例として、散気装置について説明する。
散気装置は、散気管に設けられた散気口から、気体を被処理中に噴出させる装置である。散気装置には通常ブロアが接続され、ブロアから供給される気体が散気管を通じて散気口から散気されるようになっている。
散気装置としては、例えば、単管式散気装置、サイフォン式散気装置等の公知の散気装置を使用することができる。サイフォン式散気装置としては、例えば、国際公開第2018/155250号、特開2018-202372号公報、特開2019-76857号公報、又は特開2016-47532号公報に記載されたサイフォン式散気装置を例示することができる。
【0045】
散気装置は、上方から見て中空糸膜モジュール2と重ならない位置に配置するのが好ましい。中空糸膜モジュール2と重なっていないことで、散気装置から散気される気体によって、中空糸膜21の表面に形成されたバイオフィルムを剥離させることなく、流速を発生させることができる。
【0046】
散気装置においては、被処理液の流速を高めるためには、出力を高めてエア量を上げればよいし、流速を下げるためには、出力を下げてエア量を下げればよい。
【0047】
<流速計>
流速計4は、好気処理反応槽1内における被処理液の、少なくとも上記z軸方向における流速を随時又は定期的に計測できる手段を備えたものであればよい。z軸方向における流速は水量、粘度、水温などによって変動する。
【0048】
流速計4は、随時又は定期的に測定結果を制御部5に送ることができる手段を備えたものが好ましい。
【0049】
好気処理反応槽1内に設置する流速計4は、一つであっても、二つ以上であってもよい。
【0050】
流速計4を設ける位置は、好気処理反応槽1内の被処理液に浸漬するように配置すれば任意である。中でも、中空糸膜モジュール2の中央部の高さより上方であって、被処理液に浸漬するように配置するのが好ましい。
図1、
図2の例では、上方から見ると中空糸膜モジュール2の中心部であって、横から見ると、中空糸膜モジュール2の鉛直上方であって、且つ、被処理液に浸漬する高さに配置した例を示している。
【0051】
<制御部>
制御部5は、随時又は定期的に流速計4から送られてくる測定結果、すなわちz軸方向における被処理液の流速に基づいて命令を作成し、作成した命令を流動形成装置3に送る手段を備えたものであるのが好ましい。
【0052】
なお、流速計4が測定するz軸方向における被処理液の流速は、水量、粘度、水温などによって変動するため、流速計4又は制御部5が、流速の平均値を計算できる手段を備えることが好ましい。
【0053】
制御部5が作成する、流速に基づいた命令としては、例えば、計測されたz軸方向の流速に基づき、所定の流速にさせるための流動形成装置3の必要出力を算出し、流動形成装置3に対して当該必要出力となるように調整させる命令を挙げることができる。
より具体的な例としては、前記制御部5は、計測されたz軸方向の流速に基づき、z軸方向の被処理液の流速の絶対値の平均値が所定の範囲になるように、出力を調整する命令を作成することができる。
なお、流速の絶対値とは、正負いずれの方向でもよいことを意味し、その平均値とは、時間毎に変動する流速の単位時間当たりの平均値の意味である。
このように制御することにより、被処理液による境膜の形成を抑制することができ、硝化速度(Nitrification Rate)の低下を防ぐことができる。
【0054】
具体的には、前記制御部5は、例えば、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御するのが好ましい。すなわち、そのように制御する命令を作成して当該命令を流動形成装置3に送信するのが好ましい。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
【0055】
さらに、前記制御部5は、
図4に示すように、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が、1.5cm/sec以上となるように制御するのが好ましく、10cm/sec以上となるように制御することがより好ましい。他方、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が、30cm/sec以下となるように制御するのが好ましく、12cm/sec以下となるように制御することがより好ましい。すなわち、そのように制御する命令を作成して当該命令を流動形成装置3に送信するのが好ましい。
このように制御することにより、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度(Nitrification Rate)の低下をより一層防ぐことができる。
【0056】
<<運転方法:液体処理方法>>
以下、前記本発明液体処理装置を用いた液体処理方法の一例としての廃水処理方法について説明する。
【0057】
本実施形態の廃水処理方法では、まず、流入口6を通じて好気処理反応槽3内に被処理液を導入し、中空糸膜モジュール2が被処理液に浸漬するように、好気処理反応槽3を被処理液、すなわち廃水で満たす。
次に、ブロワから気体供給ラインを介して中空糸膜モジュール2に気体を供給して中空糸膜21の中空部から表面へと当該気体を透過させる。廃水処理の初期段階において、被処理液中に存在する微生物や菌等が各中空糸膜の表面に付着し、微生物又は菌に由来する微生物層が形成する。
なお、別の廃水処理場等で既に使用している活性汚泥を種として微生物又は菌を増殖処理し、所定濃度としたものに中空糸膜モジュールを浸漬させることで、予め中空糸膜1の表面に微生物又は菌に由来する微生物層を形成させておいてもよい。
この際、活性汚泥は、廃水の種類によって様々な成分構成及び割合が存在するが、廃水中に含まれるBOD(有機物)成分や栄養分(窒素、りん等)を食物とし、増殖を行ったものを用いることができる。
【0058】
中空糸膜モジュール2へ気体の供給を継続することにより、各中空糸膜21の中空部から表面側へと透過した酸素は微生物層内で溶解拡散し、微生物層の膜厚方向において酸素勾配(濃度)が形成される。そして、微生物層の内層側が酸素に富んだ好気状態となる一方、外層側は酸素が減少した嫌気状態となる。これにより、微生物層には、内層側に好気処理領域が形成され、外層側に嫌気処理領域が形成された状態となる。
好気処理領域では、好気処理(BOD酸化)によって廃水中に含まれるアンモニアの酸化が進行し、硝酸化される。嫌気処理領域では、好気処理領域で生じた硝酸が嫌気処理(BOD酸化)によって窒素として処理され、脱窒される。このように、好気処理及び嫌気処理の両方が処理槽内においてワンプロセスで行われる。
この際、中空糸膜モジュール2に供給する気体は、大気中の空気でもよいが、廃水処理能力向上の観点から、純酸素が好ましい。
微生物層の膜厚は、散気装置によるバブリング洗浄等の操作によって、調整することができる。
【0059】
廃水処理中は、被処理液流入口6を通じて好気処理反応槽3内に被処理液を導入し、循環物流入口8を通じて沈殿槽11からの循環物を好気処理反応槽3内に導入し、処理液流出口7から処理液を送出する。また、流動形成装置3により被処理液を好ましく流動させる。例えば、散気装置から上方に散気することにより、好気処理反応槽3内の被処理液に上昇流を発生させ、中空糸膜モジュール2の近傍において下降流が生じるように循環させることができる。
この際、散気装置から散気する気体は、被処理液を循環させることができるものであれば特に限定されず、例えば、空気、窒素、空気の窒素濃度を高めた気体(高窒素濃度気体)を例示できる。中でも、中空糸膜の表面に形成された微生物層の外装側の嫌気処理領域がより嫌気的になりやすい点から、窒素又は高窒素濃度気体が好ましい。
【0060】
被処理液を循環させつつ、中空糸膜21の表面に形成された微生物層を利用して高効率に廃水処理を行うことができる点から、散気装置に供給する気体の流量は、中空糸膜モジュールに供給する気体の流量よりも大きくすることが好ましい。
【0061】
廃水処理中は、流速計4により、好気処理反応槽1内における被処理液の少なくともz軸方向の流速を随時又は定期的に計測する。そして、流速計4で計測された測定データは随時又は定期的に制御部に制御部5に送られ、制御部5では、送られてきた測定データに基づき命令を作成し、該命令を随時又は定期的に流動形成装置3に送り、流動形成装置3は、送られてきた命令に従って随時又は定期的に出力を調整し、気体の送出量及び送出速度を調整するのが好ましい。
【0062】
この際、制御部5が作成する、z軸方向の流速に基づいた命令とは、上述したとおりである。
例えば、前記制御部5が、計測されたz軸方向の流速に基づき、例えばz軸方向の被処理液の流速の絶対値の平均値が下記のようになるように、出力を調整する命令を作成するようにすることができる。
すなわち、そのように制御する命令を作成して当該命令を流動形成装置3に送信するのが好ましい。このように制御することにより、被処理液による境膜の形成を抑制することができ、硝化速度(Nitrification Rate)の低下を防ぐことができる。
【0063】
また、前記制御部5が、
図4に示すように、例えば、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御するのが好ましい。すなわち、そのように制御する命令を作成して当該命令を流動形成装置3に送信するのが好ましい。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
【0064】
さらに、前記制御部5は、
図4に示すように、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が、1.5cm/sec以上となるように制御するのが好ましく、10cm/sec以上となるように制御することがより好ましい。他方、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速の平均値が、30cm/sec以下となるように制御するのが好ましく、12cm/sec以下となるように制御することがより好ましい。すなわち、そのように制御する命令を作成して当該命令を流動形成装置3に送信するのが好ましい。
このように制御することにより、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度(Nitrification Rate)の低下をより一層防ぐことができる。
【0065】
例えば被処理液の流入口、沈殿槽などからの循環物の流入口及び処理液の流出口など、処理槽内に水その他のものを流入流出させる設備の位置や、被処理液の流入量、循環物の流入量及び処理液など、処理槽内に水その他のものを流入流出させる量、さらには処理槽内の水の粘度、さらには、散気管、ポンプなどの流動形成装置の位置、出力などの要因によって、処理槽内の被処理液のz軸方向における被処理液の流速は変化することが想定される。
しかし、少なくともz軸方向の被処理液の流速を随時又は定期的に測定し、計測データに基づいて、処理槽1内の被処理液のz軸方向の流速が所定の関係となるように、流動形成装置3の出力を随時又は定期的に調整するようにすれば、微生物層(バイオフィルム)の表面に形成される、被処理液による境膜の厚さを常に制御することができる。
【0066】
制御部5は、さらに、次の関係となるように命令を作成するようにしてもよい。
中空糸膜モジュール2に供給する気体の流量Aに対する、散気装置に供給する気体の流量Bの比(B/A)を1以上とするのが好ましく、2以上とするのがより好ましく、3以上とするのがさらに好ましい。B/Aが前記下限値以上であれば、被処理液がより十分に循環されて撹拌されやすくなるため、被処理液のショートパスを抑制しやすくなる。他方、B/Aは20以下とするのが好ましく、15以下とするのがより好ましく、12以下とするのがさらに好ましい。B/Aが前記上限値以下であれば、中空糸膜21表面の微生物層への酸素供給効率が高くなり、好気処理と嫌気処理の効率がより一層高まる。B/Aの下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば1~20が好ましい。
【0067】
また、中空糸膜モジュール2に供給する気体の流量Aは、20L/min以上とするのが好ましく、25L/min以上がより好ましく、30L/min以上がさらに好ましい。流量Aが前記下限値以上であれば、中空糸膜21表面の微生物層への酸素供給効率が高くなり、好気処理と嫌気処理の効率が高まる。
他方、流量Aは、500L/min以下が好ましく、300L/min以下がより好ましく、200L/min以下がさらに好ましい。流量Aが前記上限値以下であれば、中空糸膜21表面の微生物層への酸素供給が過剰になりにくく、微生物層の外層側での嫌気処理の効率が向上する。流量Aの下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば20~500L/minが好ましい。
【0068】
また、散気装置に供給する気体の流量Bは、20L/min以上とするのが好ましく、50L/min以上がより好ましく、100L/min以上がさらに好ましい。
流量Bが前記下限値以上であれば、被処理液がより充分に循環されて撹拌されやすくなるため、被処理液のショートパスを抑制しやすい。かかる観点から、流量Bは、1000L/min以下が好ましく、800L/min以下がより好ましく、500L/min以下がさらに好ましい。流量Bが前記上限値以下であれば、被処理液の撹拌効率が高まる。流量Bの下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば20~1000L/minが好ましい。
【0069】
<<語句の説明など>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0070】
本発明において、「α~β」(α,βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
また、「α以上」又は「α≦」(αは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはαより大きい」の意を包含し、「β以下」又は「≦β」(βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはβより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0071】
次に、実施例に基づいて本発明についてさらに説明する。但し、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0072】
<液体処理装置>
液体処理装置1は、好気処理反応槽1と沈殿槽11とを備えている。
好気処理反応槽1は、縦1500mm×横1500mm×高さ2500mmの上面部を開放した、すなわち天井部の無い直方体状を呈している。
好気処理反応槽1には、低部から上方2300mmの位置に被処理液流入口6が設けられ、低部から上方2100mmの位置に処理液流出口7が設けられ、水位2100mmが維持されている。
【0073】
好気処理反応槽1には、上方から見て中央部に、中空糸膜モジュール2が設置されている。この中空糸膜モジュール2は、好気処理反応槽1の底面に据え置かれており、被処理液に浸漬するようになっている。
【0074】
中空糸膜モジュール2は、上部枠ハウジング23A、下部枠ハウジング23B及び4本の支柱23Cからなる縦1000mm×横1000mm×高さ1530mmの直方体状のハウジング23内に、10枚の中空糸膜シート状物22が水平方向に間隔を空けてシート面が鉛直方向になるように並べて配設されている。
上部枠ハウジング23Aには気体供給ラインが接続され、ブロワから酸素が上部枠ハウジング23A内部に供給されるように構成されており、下部枠ハウジング23Bには排気ラインが接続され、中空糸膜モジュール2を通過した気体は液体処理装置の系外に排出されるように構成されている。
【0075】
中空糸膜シート状物22は、ポリエチレン(PE)製の多数の中空糸膜21がシート状に束ねられたものであり、長さ1400mm、膜表面積:370m2である。
この中空糸膜シート状物22は、その上端部が上部枠ハウジング23Aに挿入され、当該上端部が各中空糸膜21の端面が開口した状態で上部枠ハウジング23Aに固定されている一方、その下端部が下部枠ハウジング23Bに挿入され、当該下端部が各中空糸膜21の端面が開口した状態で下部枠ハウジング23Bに固定され、中空糸膜21の長さ方向が鉛直方向となるように、言い換えれば中空糸膜シート状物22の各シート面が鉛直方向を向くように、シート状を保持して固定されている。
【0076】
好気処理反応槽1には、中空糸膜モジュール2のほかに、反応槽1内における被処理液の流動を形成する流動形成装置としての散気装置3と、流速計4が配置されている。
【0077】
散気装置3は、ブロアと散気管を備えており、散気管には適宜間隔を置いて散気口が設けられており、ブロアから供給される気体は散気口から上方に散気されるようになっている。
この散気装置3は、好気処理反応槽1の底面に、上方からみて、中空糸膜モジュール2と重ならない位置であって、上下の端縁に沿ってその内側に散気管が設置されており、散気管には長さ方向に間隔を置いて複数の散気口が設けられている。
【0078】
流速計4として、水平鉛直の3軸方向(x、y,z軸方向)の流速を測定できる、直径20mmの球型の電磁流速計を用いた。
この流速計4は、時間ごとに変動する流速の平均流速(cm/sec)を算出することができる手段を備えている。
流速計4は、中空糸膜モジュール2の真上、すなわち、上方から見ると中空糸膜モジュール2の中心部であって、横から見ると、中空糸膜モジュール2の鉛直上方であって、且つ、被処理液の水面400mm浸漬する高さに設置されており、中空糸膜モジュール2の中空糸膜21の長さ方向と平行な方向(z軸方向)の流速を測定できるように設置されている。
流速計4は、好気処理反応槽1の上部から中央へ延びるフレームで固定されている。流速計4は電気的にコンピューターと接続しており、時間ごとに変動する流速の平均流速(cm/sec)を算出し、出力することができる。
【0079】
<アンモニア態窒素濃度の測定方法>
被処理液流入口6から流入する原水および処理液流出口7から流出する処理液のアンモニア態窒素濃度から、次の式に基づき硝化速度(NR)を算出した。
NR=(NH4-Ni-NH4-NE)*V/(HRT/24)/membrane area
式中、
NR:硝化速度 [g/m2・d]、
NH4-Ni:流入水のアンモニア態窒素濃度[g/L]、
NH4-Ne:処理液のアンモニア態窒素濃度[g/L]
V:反応槽容積[L]
HRT:水理学的滞留時間[hr]
membrane area:膜表面積[m2]
【0080】
<試験>
原水(流入水)の種類:農業集落の排水
原水(流入水)流入量及び排出量:47L/min
循環量:94L/min
平均槽内MLSS(Mixed liquor suspended solids)濃度:約6000mg/L
平均流入水のアンモニア態窒素濃度:0.025g/L
反応槽容積:4.7x109L
槽内滞留時間(水理学的滞留時間):1.7hr
膜表面積:370m2
【0081】
本試験では、z軸方向は、中空糸膜モジュール2の中空糸膜21の長さ方向と平行な方向に設定した。この方向は、中空糸膜モジュール2の膜面22方向と平行な方向でもあり、鉛直方向でもある。
【0082】
流動形成装置として実施例1及び実施例2は散気管を使用した。実施例3及び比較例1は水中ポンプを使用した。
制御部5で一定の流速を1週間維持させて、流速計4でz軸方向の流速(平均)及び処理液のアンモニア態窒素濃度を測定し、z軸方向の平均流速(cm/sec)と硝化速度(g/m2・d)との関係を検討した。
【0083】
【0084】
(考察)
上記試験及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果より、好気処理反応槽内において、被処理液z軸方向における被処理液の流速を計測し、被処理液の流速を適切な範囲若しくは適切な要件を満足するように制御することにより、例えばz軸方向における被処理液の流速を適切な範囲若しくは適切な要件を満足するように制御することにより、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度(Nitrification Rate)の低下を防ぐことができることが分かった。
【0085】
さらに、
図4より、1分以上の計測時間内に測定した複数のz軸方向の流速が、制御部5及び流動形成装置3により、下記要件のうちの少なくとも1つ以上の要件を満たすように制御することにより、被処理液による境膜の形成を抑制して硝化速度(Nitrification Rate)の低下をより一層防ぐことができることが分かった。
要件1:90%以上の測定した流速が、-10cm/sec超30cm/sec以下
要件2:80%以上の測定した流速が、0cm/sec超20cm/sec以下
要件3:40%以上の測定した流速が、5cm/sec超15cm/sec以下
要件4:20%以上の測定した流速が、8cm/sec超13cm/sec以下
【0086】
よって、流速計により、好気処理反応槽内において、z軸方向における被処理液の流速を随時又は定期的に測定し、この測定結果を制御部に送り、当該制御部では、流速計から送られてきた測定結果に基づいた命令を作成して当該命令を流動形成装置に随時又は定期的に送り、流動形成装置では、前記制御部からの命令に基づき、好気処理反応槽内の被処理液の流速を、上記のように随時又は定期的に制御するようにして廃水処理を実施すれば、被処理液による境膜の形成をより一層効果的に抑制することができ、硝化速度(Nitrification Rate)の低下を防ぐことができると考えられる。
【0087】
なお、例えば被処理液の流入口、沈殿槽などからの循環物の流入口及び処理液の流出口など、処理槽内に水その他のものを流入流出させる設備の位置や、被処理液の流入量、循環物の流入量及び処理液など、処理槽内に水その他のものを流入流出させる量、さらには処理槽内の水の粘度、さらには、散気管、ポンプなどの流動形成装置の位置、出力などの要因によって、処理槽内の被処理液のz軸方向における被処理液の流速は変化することが想定される。しかし、上述のように、処理槽内の水、すなわち被処理液のz軸方向の流速を随時又は定期的に測定し、測定結果に基づいて随時又は定期的に所定の関係になるように制御すれば、微生物層(バイオフィルム)の表面に形成される、被処理液による境膜の厚さを抑制して硝化速度の低下を防ぐことができるから、前記種々要因が上記試験例と異なったとしても、上記試験例と同様の結果を得ることができるものと、技術的に考えることができる。