(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081936
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】半導体基板の製造方法、半導体基板、及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240612BHJP
【FI】
H01L21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195538
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
(57)【要約】
【課題】
H
+注入による剥離技術において、より安価で高品質な半導体基板の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
4H-SiC基板の表面にH
+を含むイオンを注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、イオン注入工程を行った4H-SiC基板の表面に、別の支持基板を接合して接合基板を得る接合工程と、接合基板に熱処理をおこない、イオン注入層で4H-SiC基板を剥離することで、4H-SiC基板の表層が4H-SiC層として支持基板上に転写された結合基板と、4H-SiC基板から表層が剥離された後の基板である剥離基板に分離する剥離工程と、剥離工程後の結合基板または剥離基板の少なくとも一方の剥離面をプラズマエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4H-SiC基板の表面にH+を含むイオンを注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、
前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に、別の支持基板を接合して接合基板を得る接合工程と、
前記接合基板に熱処理をおこない、前記イオン注入層で前記4H-SiC基板を剥離することで、前記4H-SiC基板の表層が4H-SiC層として前記支持基板上に転写された結合基板と、前記4H-SiC基板から表層が剥離された後の基板である剥離基板に分離する剥離工程と、
前記剥離工程後の前記結合基板または前記剥離基板の少なくとも一方の剥離面をプラズマエッチングするエッチング工程と、
を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング工程において、原料ガスとしてフッ化炭素ガスと酸素の混合ガスを用いることを特徴とする、請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記剥離工程後で、前記エッチング工程前に、前記エッチング工程を行う予定の前記結合基板または前記剥離基板の剥離面を水素雰囲気下で1000℃以上の温度でアニールするアニール工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記エッチング工程において、前記結合基板の剥離面をプラズマエッチングし、さらに、
前記エッチング工程後に、
前記結合基板のエッチングされた剥離面上にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル工程を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項5】
支持基板と、
前記支持基板の表面に接合された4H-SiC層と、
を備え、
前記4H-SiC層は、表面がエッチング処理されているものであることを特徴とする半導体基板。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体基板を備えることを特徴とする半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の製造方法、半導体基板、及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCは、2.2~3.3eVという広いバンドギャップを有することから高い絶縁破壊強度を有し、また熱伝導率も大きいためパワーデバイスや高周波用デバイスなどの各種半導体デバイス用の半導体材料として期待されている材料である。
【0003】
しかしながら、非特許文献1では、SiCを使用したデバイスでは、SiC基板の製造工程とそれにつづくエピタキシャル工程でコストの半分を占めることが報告されており、基板のコスト低減は非常に重要である。
【0004】
このコスト低減策として、4H-SiC基板にH+イオン(以下、単にH+と表現する場合がある)注入を行い、イオン注入層を形成した後に、イオン注入層で基板を剥離する方法が提案されている。このH+のSiCへの注入に関してはいくつかの先行技術が報告されている。特許文献1には、2枚のSiC単結晶ウェーハを準備し、それぞれに酸化膜を形成したのち、片方の基板に水素イオンを注入し、その後、酸化層を介して室温で接合一体化し、一体化した後で、500℃以上に加熱処理することにより水素イオンが注入された箇所でSiC単結晶ウェーハを2分割し半導体電子素子用基板を作製する方法が開示されている。この方法では、接合部に酸化膜が存在しており、縦方向デバイスとする際に、この酸化膜が絶縁層として機能しパワーデバイス基板としての機能が大きく制限されてしまう。
【0005】
また、特許文献2には、H+注入した単結晶と多結晶のSiC基板を貼り合わせたのちに、単結晶および多結晶それぞれを剥離する方法が開示されているが、この方法では2回剥離をおこなうことによるコストの増加とそれぞれ所定の工程で剥離をおこなう難しさがある。特許文献3には、不純物濃度と欠陥密度に注目して欠陥密度の少ない高抵抗基板をH+注入を用いて転写する方法が記載されている。この方法は、もともとの基板に存在する欠陥を低減する方法ではあるが、その後の基板については言及がない。さらに、特許文献4は、H+による基板剥離のもととなる技術についてであり、拡散バリア(酸素拡散バリア)機能については言及があるが、剥離後の基板については言及がない。
【0006】
さらに、特許文献5にも多種多様な基板をH+の剥離技術にて作製する方法が述べられており、表面を研磨やドライエッチングを行った後にInGaNをエピタキシャル成長させる方法が記載されているが剥離基板の扱いについては記述がない。また、特許文献6に、炭化シリコン基板上にデバイスを作製し、保護膜を形成した後に、イオン注入し支持基板に接合後、高温アニールを行い、分離後の基板を再利用する方法が記載されているが、やはり剥離後の基板の扱いについての記述がない。また、特許文献7にはH+剥離を応用し、単結晶SiCにイオン注入後、反対面にポリSiCを形成し、その後アニールを行い、イオン注入面から剥離し、剥離面を研磨後にSiCをエピタキシャル成長させる方法が記載されている。以上のように、H+を用いた基板剥離技術では、剥離した基板の具体的な再利用方法や剥離によりSiCが転写された側の基板について十分な言及がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-003842号公報
【特許文献2】特開2016-018890号公報
【特許文献3】特開2014-022711号公報
【特許文献4】特開2007-329470号公報
【特許文献5】特表2013-513963号公報
【特許文献6】特開2022-140396号公報
【特許文献7】国際公開第2022/158085号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】岩室,”SiC MOSFET高性能化・高信頼化の進展”, ワイドバンドギャップ半導体学会特別公開シンポジウム予稿集、ワイドバンドギャップ半導体学会、2022年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように4H-SiCは高耐圧デバイスとして期待されているが、基板コストが高いことが問題であり、いかにバルク基板のコストを下げるかが問題である。そこで、H+イオン注入を行い、基板を剥離する技術が提案されているが、この場合、剥離後の基板を再利用することでコストが下がる(そうでないとコストは高止まりする)。このことから剥離後の基板をいかに再利用するか(高品質な基板にするか)が非常に重要であり、H+イオンによる基板剥離技術が広く浸透するための根幹の技術である。
【0010】
一方でH+イオン注入を行い、基板を剥離した後の剥離基板は剥離面が荒れているため平坦化しないと再度の接合ができないので再利用できない。また剥離で支持基板に転写されたSiCの剥離面も平坦化してから剥離面にエピタキシャル成長等を行うのが好ましい場合がある。
【0011】
しかしながらSiCは高硬度の難加工材であるため、CMP等の研磨では剥離面を平坦化するのに要するコストが高く、結局は基板の製造コストが高くなる問題があった。
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、H+注入による剥離技術において、より安価で高品質な半導体基板の製造方法、半導体基板、及び半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するためになされたSiCウェーハの製造方法に関するものであり、より詳細にはH+注入による基板剥離技術に関して、剥離後の基板の再利用に対するものであり、より安価で高品質なSiC基板を提供するものである。
具体的には本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、4H-SiC基板の表面にH+を含むイオンを注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に、別の支持基板を接合して接合基板を得る接合工程と、前記接合基板に熱処理をおこない、前記イオン注入層で前記4H-SiC基板を剥離することで、前記4H-SiC基板の表層が4H-SiC層として前記支持基板上に転写された結合基板と、前記4H-SiC基板から表層が剥離された後の基板である剥離基板に分離する剥離工程と、前記剥離工程後の前記結合基板または前記剥離基板の少なくとも一方の剥離面をプラズマエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法を提供する。
【0014】
このように、本発明では、H+注入にて基板剥離をおこなった後の、剥離基板または結合基板に対して剥離面をプラズマでエッチングを行うことでダメージ層を除去して平坦化したのちに再利用又はエピタキシャル成長を行う。こうすることで、難加工材であるSiCをCMP等の研磨と比べて低コストで平坦化でき、高品質な基板を得ることが可能になる。なお、通常SiCはプラズマエッチングされ難いが、H+注入による表面の脆弱化の影響でエッチングできる。
【0015】
前記エッチング工程において、原料ガスとしてフッ化炭素ガスと酸素の混合ガスを用いてもよい。
フッ化炭素ガスと酸素の混合ガスはシリコン等のエッチングに用いられているガスであるため、原料ガスとして用いることで、SiCのエッチング専用のガスを用意する必要がない点で有利となる。
【0016】
前記剥離工程後で、前記エッチング工程前に、前記エッチング工程を行う予定の前記結合基板または前記剥離基板の剥離面を水素雰囲気下で1000℃以上の温度でアニールするアニール工程を行ってもよい。
このように水素アニールを行ってからエッチングを行えば、剥離で荒れた剥離面の凹凸形状がエッチング前に水素アニールで改質され、ある程度は平坦化される。そのため、エッチング工程で、剥離面の平坦度をより向上させやすくなる。
【0017】
前記エッチング工程において、前記結合基板の剥離面をプラズマエッチングする場合、さらに、前記エッチング工程後に、前記結合基板のエッチングされた剥離面上にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル工程を行ってもよい。
このように結合基板のエッチングされた剥離面上にエピタキシャル層を成長させれば、エピタキシャル層にデバイスを形成することで、デバイスをより高品質にできる。
【0018】
また本発明によれば、支持基板と、前記支持基板の表面に接合された4H-SiC層と、を備え、前記4H-SiC層は、表面がエッチング処理されているものであることを特徴とする半導体基板が提供される。
このような半導体基板であれば、半導体基板の4H-SiC層の表面がエッチング処理されたものであるため、表面が平坦であり、CMP等の高コストな平坦化処理を行わなくてもエピタキシャル層を形成でき、安価で高品質なものとなる。
【0019】
さらに本発明によれば、上記に記載の半導体基板を備えることを特徴とする半導体装置が提供される。
このような半導体装置は上記に記載の安価で高品質な半導体基板を備えるため、安価で高品質な信頼性が高いものとなる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の半導体基板の製造方法によれば、H+注入による剥離技術において、安価で高品質な半導体基板を製造でき、基板の製造コストを削減できる。また、本発明の半導体基板は安価で高品質なものとなる。さらに、本発明の半導体装置も安価で高品質なものとなる。
また、本発明の構成により、剥離後の基板を有効利用することが可能となり、SiC基板のコスト低減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図2】本発明の半導体基板の製造方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
上述のように、特にH+注入による剥離技術において、より安価で高品質な半導体基板の製造方法が求められていた。
【0024】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、4H-SiC基板の表面にH+を含むイオンを注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に、別の支持基板を接合して接合基板を得る接合工程と、前記接合基板に熱処理をおこない、前記イオン注入層で前記4H-SiC基板を剥離することで、前記4H-SiC基板の表層が4H-SiC層として前記支持基板上に転写された結合基板と、前記4H-SiC基板から表層が剥離された後の基板である剥離基板に分離する剥離工程と、前記剥離工程後の前記結合基板または前記剥離基板の少なくとも一方の剥離面をプラズマエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法により、より安価で高品質な半導体基板の製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、支持基板と、前記支持基板の表面に接合された4H-SiC層と、を備え、前記4H-SiC層は、表面がエッチング処理されているものであることを特徴とする半導体基板により、より安価で高品質なものとなることを見出し、本発明を完成した。
さらに、本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、上記に記載の半導体基板を備えることを特徴とする半導体装置により、より安価で高品質なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0025】
以下、図面を参照して本発明に好適な実施形態を説明する。
まず、
図1を参照して半導体基板5の構成について説明する。
図1に示すように本発明の実施形態に係る半導体基板5は、支持基板3と、支持基板3の表面に接合された、4H-SiC層1aとを備える。
支持基板3は4H-SiC層1aを支持する基板であり、4H-SiC層1aを支持するのに十分な強度と4H-SiC層1aと意図しない反応を起こさないものであれば材料や寸法は適宜選択できる。具体的には4H-SiC層1aと同じ材料を用いたバルク4H-SiCを例示できるが、価格を考慮してバルク4H-SiCよりも安価な焼結して作製したSiC基板や多結晶SiC基板を使用してもよい。
【0026】
4H-SiC層1aは、4H-SiCの単結晶層であり、支持基板3の表面に接合されている。また4H-SiC層1aは表面25がエッチング処理されているものである。
4H-SiC層1aが、表面25がエッチング処理されているものであることで、表面25が平坦なものとなり、CMP等の高コストな平坦化処理を行わなくてもエピタキシャル層を形成でき、安価で高品質な半導体基板5となる。
4H-SiC層1aは単結晶層であればバルク4H-SiCでもよいし、4H-SiCのエピタキシャル層でもよい。
4H-SiC層1aの厚さは最低限、層としての形状を保持でき、デバイスの形成ができ、その際のエッチングや研磨等で消失しない厚さであればよい。一方で膜厚の最大値は例えばデバイスを形成する際に利用されない無駄な部分が出てこない厚さである。膜厚は例えば0.01μm~400μmとすることができる。
【0027】
次に、半導体装置6の構成について
図1を参照しながら説明する。
図1に示す半導体装置6は半導体基板5を備える。
具体的な半導体装置6としては、半導体基板5、特に4H-SiC層1aに所望の半導体デバイスを形成したものを例示できる。もちろん、ダイシングすることで、半導体装置6をチップ化することもできる。
半導体装置6が安価で高品質な半導体基板5を備えることで、半導体装置6も安価で高品質で信頼性の高いものとなる。
【0028】
次に、
図2を参照して本発明の半導体基板5の製造方法の概要を説明する。
まず、
図2(a)に示すように4H-SiC基板1を準備する。ここでは4H-SiC基板1として単結晶のバルク4H-SiCを例示しているが、4H-SiCエピタキシャル基板でもよい。次にイオン注入装置を使用して、
図2(b)に示すように4H-SiC基板1の表面にH
+を含むイオンを注入し、イオン注入層2を形成する(イオン注入工程)。この際のイオン注入量であるが、1.0×10
17atoms/cm
2以上とすることで、後工程で剥離が不完全になることがない。一方で、注入量の上限は特に限定されないが、注入量が多くなると注入に要する時間が長くなるため、例えばイオン注入工程に使える作業時間の上限で注入できる量が注入量の上限である。また、注入するイオンはH
+を含むイオンであればクラスターイオン等でもよいし、H
+のみを注入してもよい。なお、4H-SiC基板1がエピタキシャル基板の場合はH
+を含むイオンをエピタキシャル層に注入する。
【0029】
次に
図2(c)に示すように支持基板3として4H-SiC基板1とは別の基板を用意する。支持基板3は4H-SiC基板1と同じ構造の単結晶の4H-SiCでもよいが、コストを考えると例えば焼結して作製した焼結SiCや多結晶SiC等も使用可能である。次に
図2(d)に示すように4H-SiC基板1のイオン注入工程を行った表面に支持基板3を接合して接合基板10を得る(接合工程)。接合方法としては、例えば常温接合をおこなう。接合の際は、300℃以上の温度に上げないことが重要である。これは、接合時の温度を高くしすぎないことで、接合プロセス中に剥離が起こるのを防止できるためである。なお、接合前にN
2プラズマで支持基板3の表面を活性化する等して接合し易くしてもよい。
【0030】
つぎに、
図2(e)に示すように接合基板10に熱処理をおこない、イオン注入層2で4H-SiC基板1を剥離することで、4H-SiC基板1の表層が4H-SiC層1aとして支持基板3上に転写された結合基板12と、4H-SiC基板1から表層が剥離された後の基板である剥離基板11に接合基板10を分離する(剥離工程)。熱処理温度は400℃以上であるのが好ましく、500℃が最適である。また、水素を含む雰囲気で熱処理をおこなうことで、水素の外方拡散を抑制でき、剥離を確実にできる。
【0031】
このように剥離で得られた結合基板12の剥離面23は表面が荒れているため、後工程でエピタキシャル層を形成したい場合は表面を平坦化するのが好ましい場合がある。また、剥離基板11は再度のイオン注入工程、接合工程、剥離工程を繰り返して再利用を続けることで、表層を複数の支持基板3に転写することができるが、剥離面21は表面が荒れているため、支持基板3と接合するためには表面を平坦化する必要がある。そこで、剥離面23、21を平坦化する手順を以下に説明する。
【0032】
まず、
図2(h)および
図2(i)に示すように剥離工程後の結合基板12の剥離面23または剥離基板11の剥離面21の少なくとも一方をプラズマエッチングする(エッチング工程)。
【0033】
なお
図2では結合基板12の剥離面23と剥離基板11の剥離面21の両方をエッチングした場合を例示しているが、少なくとも一方のみをエッチングしてもよい。例えば結合基板12の剥離面23を平坦化しなくてもエピタキシャル層を形成できる場合や、4H-SiC層1aがエピタキシャル層で、さらにエピタキシャル層を形成する必要がない場合は、剥離基板11の剥離面21のみをエッチングしてもよい。
結合基板12の剥離面23または剥離基板11の剥離面21の少なくとも一方をプラズマエッチングすることで、難加工材であるSiCの表面をCMP等と比べて安価に平坦化できる。
【0034】
エッチングの原料ガスとしてはフッ化炭素ガスと酸素の混合ガスを用いることができる。具体的なフッ化炭素ガスとしてはCHF3やCF4が好ましい。フッ化炭素ガスと酸素の混合ガスはシリコン等のエッチングに用いられているガスであるため、原料ガスとして用いることで、SiCのエッチング専用のガスを用意する必要がない点で有利となる。
またエッチング工程時のプラズマ形態は、装置によって最適化されていればよく、特に限定されないがRFプラズマを例示できる。なお、一般的にはSiCはこのようなフッ化炭素ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされることはないが、イオン注入工程でH+が注入されることによって、剥離面23、21は脆弱化しており、表層がダメージの入っている層であるため、剥離面23、21を含むこの層をエッチングで除去することで平坦化できる。また、このH+による材料の脆弱化は、H+注入以外に、H2ガスを用いたプラズマ処理でも可能である。
【0035】
なお、剥離工程後で、エッチング工程前に、
図2(f)および
図2(g)に示すように、エッチング工程を行う予定の結合基板12の剥離面23または剥離基板11の剥離面21を水素雰囲気下で1000℃以上の温度でアニールしてもよい(アニール工程)。このようにアニール工程で水素アニールを行ってからエッチング工程を行うことで、剥離で荒れた剥離面23または剥離面21の凹凸形状がエッチング前に水素アニールで改質され、ある程度は平坦化される。そのため、エッチング工程で、剥離面23または剥離面21の平坦度をより向上させやすくなる。
【0036】
剥離工程後の剥離基板11は、4H-SiC基板1として、再度のイオン注入工程、接合工程、剥離工程を繰り返すことで、これ以上剥離できない厚さになるまで、支持基板3に4H-SiCを転写するための基板として再利用できる。
ここで、剥離基板11の剥離面21がエッチング工程でエッチングされている場合、剥離面21がエッチングで平坦化されているため、CMP等の高コストな平坦化処理を行わなくても剥離面21に支持基板3を接合できる。
そのため、H+注入による剥離技術において、4H-SiC基板1としてのコストを削減できる。
【0037】
また、結合基板12は、
図2(j)に示すように、必要に応じて4H-SiC層1a上に4H-SiCのエピタキシャル層4を成長させてもよい(エピタキシャル工程)。
ここで、4H-SiC層1aの剥離面23がエッチング工程でエッチングされている場合、剥離面23がエッチングで平坦化されているため、CMP等の高コストな平坦化処理を行わなくても剥離面23上にエピタキシャル層を形成でき、結合基板12を安価で高品質な半導体基板5にできる。なお、4H-SiC層1aがエピタキシャル層の場合で、転写された4H-SiC層1aの厚さが後工程でデバイスを形成するのに十分な厚さの場合は必ずしも
図2(j)に示すエピタキシャル工程を行う必要はない。
【実施例0038】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
4H-SiC基板1にイオン注入工程、接合工程、剥離工程、エッチング工程を行った後に再度のイオン注入工程と接合工程を行うことで剥離基板11を4H-SiC基板1として再利用を試み、エッチング工程を行わずに再利用を試みた場合と比較した。具体的な手順は以下の通りである。
【0039】
(実施例)
まず4H-SiC基板1として、直径150mm、厚さ355μmで、n型、抵抗率0.01Ω・cmで(0001)面に対して4°オフの4H-SiC単結晶基板を準備し、これにイオン注入工程としてH+を50keVで注入量1.0×1017atoms/cm2で注入した(注入は室温)。
次に支持基板3として、4H-SiC基板1と同じ4H-SiC単結晶基板を準備して、N2プラズマで表面を活性化したのちに、接合工程として常温で4H-SiC基板1との接合をおこない接合基板10を得た。
この次に、剥離工程として体積比3%水素を含むN2雰囲気下、500℃で30分、接合基板10に対して熱処理を行い、イオン注入層2で4H-SiC基板1を剥離して、接合基板10を結合基板12と剥離基板11に分離した。
【0040】
この結合基板12に、エピタキシャル工程としてホットウォール型CVD装置を用いて、H2をキャリアガスとして、SiH4、C3H8を原料ガスとして4H-SiCのエピタキシャル成長をおこない半導体基板5を得た。このときの温度は1600℃で炉内圧力は7kPaとした。
このようにして、半導体基板5を得た際にできる剥離基板11の剥離面21に対して、エッチング工程として原料ガスがCHF3とO2をそれぞれ100sccmと10sccmの条件、圧力が100Torr(13332.2Pa)の条件、RF電力が500Wの条件でRFプラズマエッチング処理を行った。エッチング工程後の剥離基板11をさらにもう一度先のフローでイオン注入工程と接合工程を行ったところ、剥離基板11の剥離面21に支持基板3を接合でき、同じように接合基板10を得ることができた。
【0041】
(比較例)
まず4H-SiC基板1として、直径150mm、厚さ355μmで、n型、抵抗率0.01Ω・cmで(0001)面に対して4°オフの4H-SiC単結晶基板を準備し、これにイオン注入工程としてH+を50keVで注入量1.0×1017atoms/cm2で注入した(注入は室温)。
次に支持基板3として、4H-SiC基板1と同じ4H-SiC単結晶基板を準備して、N2プラズマで表面を活性化したのちに、接合工程として常温で4H-SiC基板1との接合をおこない接合基板10を得た。
この次に、剥離工程として体積比3%水素を含むN2雰囲気下、500℃で30分、接合基板10に対して熱処理を行い、イオン注入層2で4H-SiC基板1を剥離して、接合基板10を結合基板12と剥離基板11に分離した。
【0042】
この結合基板12に、エピタキシャル工程としてホットウォール型CVD装置を用いて、H2をキャリアガスとして、SiH4、C3H8を原料ガスとして4H-SiCのエピタキシャル成長をおこない半導体基板5を得た。このときの温度は1600℃で炉内圧力は7kPaとした。
このようにして、半導体基板5を得た際にできる剥離基板11の剥離面21に対して、エッチングをせずに、剥離工程後の表面形状でそのまま使用して、もう一度先のフローでイオン注入工程と接合工程をおこなった。その結果、剥離面21をCMPで平坦化しないと、そのままでは接合工程で剥離面21を支持基板3の表面と接合できなかった。
【0043】
以上の結果から、4H-SiC基板1にイオン注入工程、接合工程、剥離工程、エッチング工程を行った後に再度のイオン注入工程と接合工程を行うことで、剥離工程後の剥離面21にCMP等の平坦化処理を行わなくても剥離基板11を支持基板3と接合でき、剥離基板11を4H-SiC基板1として再利用できることが分かった。一方で、エッチング工程を行わない場合、そのままでは剥離基板11の剥離面21を支持基板3の表面と接合できず、CMPで剥離面21を平坦化しないと剥離基板11の再利用ができなかった。
【0044】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:4H-SiC基板の表面にH+を含むイオンを注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、
前記イオン注入工程を行った前記4H-SiC基板の表面に、別の支持基板を接合して接合基板を得る接合工程と、
前記接合基板に熱処理をおこない、前記イオン注入層で前記4H-SiC基板を剥離することで、前記4H-SiC基板の表層が4H-SiC層として前記支持基板上に転写された結合基板と、前記4H-SiC基板から表層が剥離された後の基板である剥離基板に分離する剥離工程と、
前記剥離工程後の前記結合基板または前記剥離基板の少なくとも一方の剥離面をプラズマエッチングするエッチング工程と、
を含むことを特徴とする半導体基板の製造方法。
[2]:前記エッチング工程において、原料ガスとしてフッ化炭素ガスと酸素の混合ガスを用いることを特徴とする、上記[1]に記載の半導体基板の製造方法。
[3]:前記剥離工程後で、前記エッチング工程前に、前記エッチング工程を行う予定の前記結合基板または前記剥離基板の剥離面を水素雰囲気下で1000℃以上の温度でアニールするアニール工程を行うことを特徴とする上記[1]又は上記[2]に記載の半導体基板の製造方法。
[4]:前記エッチング工程において、前記結合基板の剥離面をプラズマエッチングし、さらに、
前記エッチング工程後に、
前記結合基板のエッチングされた剥離面上にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル工程を行うことを特徴とする上記[1]~上記[3]のいずれかに記載の半導体基板の製造方法。
[5]:支持基板と、
前記支持基板の表面に接合された4H-SiC層と、
を備え、
前記4H-SiC層は、表面がエッチング処理されているものであることを特徴とする半導体基板。
[6]:上記[5]に記載の半導体基板を備えることを特徴とする半導体装置。
【0045】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1…4H-SiC基板、 1a…4H-SiC層、 2…イオン注入層、 3…支持基板、4…エピタキシャル層 5…半導体基板、 6…半導体装置、 10…接合基板、 11…剥離基板、 12…結合基板、 21…剥離面、 23…剥離面、 25…表面。