(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024081955
(43)【公開日】2024-06-19
(54)【発明の名称】延伸フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/20 20060101AFI20240612BHJP
C08J 7/043 20200101ALI20240612BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240612BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
C08J7/043 Z CEZ
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022195574
(22)【出願日】2022-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 祐二
【テーマコード(参考)】
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4F006AA31
4F006AB24
4F006AB69
4F006BA01
4F006CA05
4F006EA03
4F006EA05
4F006EA06
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK02A
4F100AK25B
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4F100BA07
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4F100BA10B
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4F100EJ94
4F100JK16
4F100JL11B
4F100JN01
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】粒子を含む層を含み、粒子が層から脱落しにくい延伸フィルム。
【解決手段】樹脂層と前記樹脂層に直接する易接着層とを含む、延伸フィルムであって、前記易接着層は、前記延伸フィルムの最も外側に設けられ、厚みTが100nm以下であり、有機粒子及び重合体(P1)を含み、前記有機粒子の平均粒子径が、前記易接着層の厚みT以上450nm未満であり、前記有機粒子の前記易接着層における含有割合が、1重量%以上5重量%以下であり、前記重合体(P1)が、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位を含む、延伸フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と前記樹脂層に直接する易接着層とを含む、延伸フィルムであって、
前記易接着層は、前記延伸フィルムの最も外側に設けられ、厚みTが100nm以下であり、有機粒子及び重合体(P1)を含み、
前記有機粒子の平均粒子径が、前記易接着層の厚みT以上450nm未満であり、前記有機粒子の前記易接着層における含有割合が、1重量%以上5重量%以下であり、
前記重合体(P1)が、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位を含む、延伸フィルム。
【請求項2】
斜め延伸フィルムである、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
前記有機粒子が、(メタ)アクリル重合体(P2)の粒子である、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項4】
前記樹脂層が、環状オレフィン系重合体を含む、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項5】
前記樹脂層と前記易接着層との動摩擦係数が、0.8以下である、請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項6】
巻回体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
基材フィルムと粒子を含む層とを備える複層フィルムが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-023170号公報
【特許文献2】特許第6565901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粒子を含む層を備える複層フィルムは、層から粒子が脱落することがあり、特に複層フィルムが延伸されている場合に、層から粒子が脱落しやすい。層から粒子が脱落すると、脱落した粒子によって、複層フィルムに傷が生じることがある。複層フィルムを高い品質が求められる光学フィルムの要素として用いるためには、粒子が脱落しにくい複層フィルムであることが好ましい。
【0005】
したがって、粒子を含む層を含み、粒子が層から脱落しにくい延伸フィルムが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、樹脂層と易接着層とを含む延伸フィルムであって、易接着層が有機粒子と特定の重合体を含みかつ易接着層が特定の厚みを有する延伸フィルムにより、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] 樹脂層と前記樹脂層に直接する易接着層とを含む、延伸フィルムであって、
前記易接着層は、前記延伸フィルムの最も外側に設けられ、厚みTが100nm以下であり、有機粒子及び重合体(P1)を含み、
前記有機粒子の平均粒子径が、前記易接着層の厚みT以上450nm未満であり、前記有機粒子の前記易接着層における含有割合が、1重量%以上5重量%以下であり、
前記重合体(P1)が、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位を含む、延伸フィルム。
[2] 斜め延伸フィルムである、[1]に記載の延伸フィルム。
[3] 前記有機粒子が、(メタ)アクリル重合体(P2)の粒子である、[1]又は[2]に記載の延伸フィルム。
[4] 前記樹脂層が、環状オレフィン系重合体を含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の延伸フィルム。
[5] 前記樹脂層と前記易接着層との動摩擦係数が、0.8以下である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の延伸フィルム。
[6] 巻回体である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の延伸フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粒子を含む層を含み、粒子が層から脱落しにくい延伸フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。以下に示す実施形態の構成要素は、適宜組み合わせうる。
【0010】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0011】
以下の説明において、フィルム又は層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の面内における遅相軸を表す。
【0012】
以下の説明において、フィルム又は層の配向角とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の遅相軸が、当該フィルム又は層の幅方向に対してなす角度を表す。
【0013】
以下の説明において、複数の層を備える部材における各層の光学軸(遅相軸、透過軸、吸収軸等)がなす角度は、別に断らない限り、前記の層を厚み方向から見たときの角度を表す。
【0014】
以下の説明において、長尺のフィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの面内方向であって、そのフィルムの長手方向に平行でもなく垂直でもない方向を示す。
【0015】
以下の説明において、層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、層の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、550nmである。
【0016】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0017】
「正の固有複屈折を有する樹脂」とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも大きくなる樹脂を表す。また、「正の固有複屈折を有する重合体」とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも大きくなる重合体を表す。
【0018】
「負の固有複屈折を有する樹脂」とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなる樹脂を表す。「負の固有複屈折を有する重合体」とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率が延伸方向に直交する方向の屈折率よりも小さくなる重合体を表す。
【0019】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の文言は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
「(メタ)アクリル酸」の文言は、「アクリル酸」、「メタクリル酸」及びこれらの組み合わせを包含する。
「(メタ)アクリロニトリル」の文言は、「アクリロニトリル」、「メタクリロニトリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
「(メタ)アクリレート」の文言は、「アクリレート」、「メタクリレート」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0020】
以下の説明において、ある単量体の重合により形成される構造を有する重合単位を、当該単量体の名称を用いて表現する場合がある。例えば、アクリル酸メチルの重合により形成される構造を有する単位を、「アクリル酸メチル単位」と称する場合がある。但し本発明において、分子及びその構成要素の構造は、その製造方法によっては限定されない。
【0021】
[1.延伸フィルムの概要]
本発明の一実施形態に係る延伸フィルム(複層フィルム)は、樹脂層と前記樹脂層に直接する易接着層とを含む。
前記易接着層は、前記延伸フィルムの最も外側に設けられ、厚みTが100nm以下であり、有機粒子及び重合体(P1)を含み、
前記有機粒子の平均粒子径が、前記易接着層の厚みT以上450nm未満であり、前記有機粒子の前記易接着層における含有割合が、1重量%以上5重量%以下であり、
前記重合体(P1)が、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位を含む。
【0022】
本実施形態の延伸フィルムは、有機粒子を含む易接着層を備えているので、滑り性が向上している。そのため、本実施形態の延伸フィルムを巻き回して巻回体の形態とした場合に、巻き重なった延伸フィルム同士の密着を抑制し、巻回体から延伸フィルムを円滑に繰り出しうる。さらに、本実施形態の延伸フィルムは、易接着層に含まれる有機粒子が脱落しにくい。そのため、脱落した有機粒子によって、延伸フィルムに傷が生じることを低減しうる。よって、本実施形態の延伸フィルムは、高い品質が求められる光学フィルムとして、好適に用いられうる。
【0023】
本実施形態の延伸フィルムは、延伸対象のフィルムを延伸して得られうる。
本実施形態の延伸フィルムを得る延伸方法は、特に限定されない。延伸方法の例としては、フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法等の、二軸延伸法;及び、フィルムを斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);これらの組み合わせが挙げられる。延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは3倍以下、より好ましくは2.5倍以下である。一般に、粒子を含む層を延伸すると、延伸された層から粒子が脱落しやすく、特に粒子を含む層を斜め延伸法により延伸すると粒子の脱落が著しい場合がある。本実施形態の延伸フィルムは、易接着層に含まれる粒子が無機粒子と比較して重合体(P1)と親和性が高い有機粒子であるので、延伸されていても、易接着層から有機粒子が脱落しにくい。
【0024】
本発明の効果を顕著に発揮させる観点から、本実施形態の延伸フィルムは、斜め延伸フィルムであることが好ましい。斜め延伸フィルムは、斜め延伸法を含む延伸工程により延伸されたフィルムである。
【0025】
延伸フィルムの遅相軸の方向は、延伸フィルムの幅方向に対して平行でも垂直でもない斜め方向にあることが好ましい。延伸フィルムの配向角は、好ましくは25°以上、より好ましくは30°以上、更に好ましくは35°以上であり、好ましくは55°以下、より好ましくは50°以下、更に好ましくは48°以下である。
【0026】
延伸フィルムのレターデーション等の光学特性は、用途に応じて適宜設定しうる。例えば、延伸フィルムを、広帯域波長フィルムの製造に用いる場合、延伸フィルムの面内レターデーションReは、好ましくは180nm以上、より好ましくは190nm以上、特に好ましくは200nm以上であり、好ましくは250nm以下、より好ましくは240nm以下、特に好ましくは230nm以下である。
【0027】
本実施形態の延伸フィルムは、長尺であることが好ましい。長尺の延伸フィルムは、巻き回して巻回体の形態としうる。
【0028】
[2.樹脂層]
樹脂層は、好ましくは熱可塑性樹脂を含み、より好ましくは熱可塑性樹脂のみからなる。以下、樹脂層に含まれうる熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂(s)ともいう。
好ましくは、熱可塑性樹脂(s)としては、重合体を含み、必要に応じて更に任意の成分を含む熱可塑性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂(s)として、負の固有複屈折を有する樹脂を用いてもよいが、延伸フィルムから、広帯域波長フィルムを容易に製造する観点では、正の固有複屈折を有する樹脂が好ましい。
【0029】
正の固有複屈折を有する樹脂は、通常、正の固有複屈折を有する重合体を含む。正の固有複屈折を有する重合体の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル重合体;ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;ノルボルネン系重合体等の脂環式構造含有重合体;棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。
【0030】
熱可塑性樹脂(s)に含まれる重合体としては、機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れるので、脂環式構造含有重合体が好ましい。脂環式構造を含有する重合体の例としては、環状オレフィン系重合体、すなわち、環状オレフィンを重合して得られる構造を有する構成単位を含む重合体及びその水素化物が挙げられる。
【0031】
環状オレフィン系重合体である脂環式構造含有重合体の例としては、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネンモノマーの開環重合体、ノルボルネンモノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素添加物;ノルボルネンモノマーの付加重合体、ノルボルネンモノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネンモノマーの開環重合体の水素添加物が特に好ましい。脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002-321302号公報等に開示されている重合体から選ばれる。
【0032】
熱可塑性樹脂(s)における重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲にある場合、耐熱性及び透明性に優れる複層フィルムを製造できる。
【0033】
熱可塑性樹脂(s)は、重合体に組み合わせて、更に前記重合体以外の任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂(s)のガラス転移温度TgAは、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。熱可塑性樹脂(s)のガラス転移温度TgAが前記範囲の下限値以上である場合、樹脂層の高温環境下における耐久性を高めることができる。また、熱可塑性樹脂(s)のガラス転移温度TgAが前記範囲の上限値以下である場合、延伸処理を容易に行える。ガラス転移温度は、示差走査熱量分析計(ナノテクノロジー社製、製品名:DSC6220SII)を用いて、JIS-K7121に基づき、昇温速度10℃/分の条件で測定しうる。
【0035】
熱可塑性樹脂(s)は、粒子を含まないことが好ましい。本願において、粒子を「含まない」とは、実質的に粒子を含まない場合をも包含しうる。実質的に粒子を含まない場合とは、熱可塑性樹脂(s)が粒子を含む場合であって、粒子を全く含まない状態と対比した基材フィルムのヘイズの上昇幅が0.05%以下の範囲である場合を意味する。
【0036】
樹脂層は、光学等方性を有していてもよく、よって、遅相軸を有していなくてもよい。また、樹脂層は、光学異方性を有していてもよく、よって、遅相軸を有していてもよい。
樹脂層は、遅相軸を有していることが好ましく、その遅相軸の方向は、延伸フィルムの所望の光学的性質が得られる範囲で任意に設定しうる。
【0037】
樹脂層の面内レターデーションReは、特に制限は無いが、好ましくは200nm以上、より好ましくは204nm以上、特に好ましくは206nm以上であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは280nm以下、特に好ましくは260nm以下である。基材フィルムのReは、測定波長550nmにおける面内レターデーションを表す。
【0038】
樹脂層の厚みは、特段の制限は無いが、好ましくは30μm以上、より好ましくは35μm以上、特に好ましくは40μm以上であり、好ましくは60μm以下、より好ましくは55μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0039】
樹脂層の表面は、改質処理がされていてもよい。改質処理により、樹脂層と易接着層との密着性を向上させうる。改質処理の例としては、後述する例が挙げられる。
【0040】
[3.易接着層]
易接着層は、延伸フィルムの最も外側に設けられている。したがって、易接着層は、延伸フィルムの一方の表面に露出している。
易接着層の厚みTは、通常100nm以下、好ましくは95nm以下、より好ましくは90nm以下であり、通常0nmより大きい。易接着層の厚みTが前記範囲内であると、樹脂層と易接着層との密着性が向上し、延伸フィルムの反りを低減しうる。
易接着層の厚みは、反射分光式膜厚測定装置(例えば、フィルメトリクス社製反射分光式膜厚測定システム「F20」)により測定しうる。
易接着層は、有機粒子及び特定の重合体(P1)を含む。易接着層が、粒子として有機粒子を含むと、粒子と重合体(P1)との親和性が向上して易接着層から粒子が脱落しにくくなる。
【0041】
[3.1.有機粒子]
(有機粒子の例)
有機粒子は、粒子の屈折率調整を容易とし、粒度分布の広がりを狭くする観点から、有機重合体の粒子であることが好ましい。有機重合体の粒子としては、重合体(P1)との親和性を高める観点から、(メタ)アクリル重合体(P2)の粒子が好ましい。
(メタ)アクリル重合体(P2)とは、繰り返し単位として、(メタ)アクリル単量体単位を含む重合体である。(メタ)アクリル単量体単位は、(メタ)アクリル単量体を重合して得られうる構造を有する構成単位である。(メタ)アクリル単量体とは、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸の誘導体を意味する。(メタ)アクリル酸の誘導体の例としては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリルが挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、アルキル(メタ)アクリレートにおけるアルキル基は、ヒドロキシ基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよい。
【0042】
(メタ)アクリル重合体(P2)は、(メタ)アクリル単量体単位に加えて、任意の単量体単位を含んでいてもよい。
(メタ)アクリル重合体(P2)は、架橋性単量体単位を含む、架橋重合体であることが好ましい。架橋性単量体単位は、架橋性単量体を重合して得られうる単位である。架橋性単量体の例としては、一分子当たり二以上の重合性基を含む、多官能性単量体が挙げられ、具体的には、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレートが挙げられる。架橋性単量体は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(メタ)アクリル重合体(P2)の粒子として、(メタ)アクリル酸エステル単位を含む粒子が好ましく、メタクリル酸メチル単位及び架橋性単量体単位を含む、ポリメタクリル酸メチル系架橋重合体の粒子がより好ましい。
【0044】
有機粒子として、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、日本触媒社製「エポスター(登録商標)MXシリーズ」(ポリメタクリル酸メチル系架橋重合体の粒子)、綜研化学社製「ケミスノーMPシリーズ」(アクリル重合体粒子)、綜研化学社製「ケミスノーMXシリーズ」(スチレン‐アクリル系樹脂粒子)、積水化成品工業社製「テクポリマー」が挙げられる。
【0045】
(有機粒子の平均粒子径)
有機粒子の平均粒子径は、通常易接着層の厚みT以上、通常450nm未満、好ましくは400nm以下、より好ましくは350nm以下である。有機粒子の平均粒子径が、前記範囲内であると、易接着層から有機粒子が脱落しにくくなる。また、延伸フィルムの滑り性が向上する。
本明細書において、有機粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により測定された、重量平均粒子径である。
【0046】
(有機粒子の含有割合)
有機粒子は、易接着層における含有割合が、通常1重量%以上、好ましくは1.2重量%以上、より好ましくは1.5重量%以上であり、通常5重量%以下、好ましくは4.5重量%以下、より好ましくは4重量%以下である。有機粒子の易接着層における含有割合は、易接着層の単位重量に含まれる有機粒子の重量割合である。易接着層における有機粒子の含有割合は、通常、易接着層を形成するための易接着層材料中の固形分合計を100重量%とした場合の、有機粒子の重量割合と一致する。
【0047】
[3.2.重合体(P1)]
易接着層は、重合体(P1)を含む。重合体(P1)は、易接着層において有機粒子を保持するバインダーとして機能しうる。
【0048】
重合体(P1)は、通常メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位を含む。本明細書において、「(C1-C6)アルキル」とは、炭素原子数が1~6個である、アルキル基を意味する。アルキル基は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよく、好ましくは置換基を有さない。前記アルキル基の炭素原子数には、アルキル基が置換基を有する場合における置換基の炭素原子数は含まれない。易接着層が、重合体(P1)を含むと、易接着層から有機粒子が脱落しにくくなる。
【0049】
重合体(P1)は、好ましくはメタクリル酸(C1-C4)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C4)アルキル単位を含み、より好ましくはメタクリル酸メチル単位及びアクリル酸ブチル単位を含む。このような好ましい重合体(P1)を採用することにより、易接着層と易接着層にさらに積層されうる層との密着性に優れるため、特に好ましい。
【0050】
重合体(P1)における、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位のアクリル酸(C1-C6)アルキル単位に対する重量比率は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.5以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。
【0051】
(任意の単量体単位)
重合体(P1)は、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位に加えて、任意の単量体単位を含んでいてもよい。かかる任意の単量体単位は、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及び/又はアクリル酸(C1-C6)アルキル単位と共重合可能な単量体単位である。任意の単量体の例としては、メタクリル酸(C1-C6)アルキル単位及びアクリル酸(C1-C6)アルキル単位以外の、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;架橋性単量体;が挙げられる。以下、重合体(P1)を構成しうる架橋性単量体を、架橋剤(1)ともいう。また、架橋剤(1)により導入されうる架橋性単量体単位を、架橋剤(1)単量体単位ともいう。
【0052】
架橋性単量体である架橋剤(1)の例としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。また、架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組合わせて用いてもよい。
重合体が含む極性基等の官能基と反応して結合を形成できる官能基を分子内に2個以上有する化合物、当該化合物を含む単量体組成物が重合することにより、結合を形成できる官能基を有する重合体となった重合体架橋剤、又はこれらの混合物を用いることができる。架橋剤化合物(重合体架橋剤を構成する単量体を含む)の例としては、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物等が挙げられる。また、架橋剤化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組合わせて用いてもよい。
【0053】
エポキシ化合物としては、分子内に2個以上のエポキシ基を有する多官能のエポキシ化合物を用いることができる。これにより、架橋反応を進行させて樹脂層の機械的強度を効果的に向上させることができる。
【0054】
エポキシ化合物としては、水に溶解性があるか、または水に分散してエマルション化しうるものが、使用の容易性の観点から好ましい。エポキシ化合物の例を挙げると、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサングリコール、ネオペンチルグリコール等のグリコール類1モルと、エピクロルヒドリン2モルとのエーテル化によって得られるジエポキシ化合物;グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコール類1モルと、エピクロルヒドリン2モル以上とのエーテル化によって得られるポリエポキシ化合物;フタル酸、テレフタル酸、シュウ酸、アジピン酸等のジカルボン酸1モルと、エピクロルヒドリン2モルとのエステル化によって得られるジエポキシ化合物;などが挙げられる。
【0055】
より具体的に、エポキシ化合物としては、1,4-ビス(2’,3’-エポキシプロピルオキシ)ブタン、1,3,5-トリグリシジルイソシアヌレート、1,3-ジクリシジル-5-(γ-アセトキシ-β-オキシプロピル)イソシヌレート、ソルビトールポリグリシジルエーテル類、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル類、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル類、ジグリセロールポリグルシジルエーテル、1,3,5-トリグリシジル(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールポリグリセロールエーテル類およびトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル類等のエポキシ化合物が好ましい。その具体的な市販品の例としては、ナガセケムテックス社製の「デナコール(デナコールEX-521,EX-614Bなど)」シリーズ等を挙げることができる。
【0056】
オキサゾリン化合物としては、付加重合性オキサゾリン化合物を用いうる。その具体例としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等が挙げられる。また、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが、工業的にも入手し易く好適である。
【0057】
架橋剤(1)が重合体架橋剤である場合、特に、付加重合性オキサゾリン化合物と、任意の不飽和単量体との重合体である架橋剤(1-o)が好ましい。架橋剤(1-o)を構成する、オキサゾリン化合物以外の任意の不飽和単量体としては、付加重合性オキサゾリンと共重合可能であり、かつ、オキサゾリン基と反応しない任意の単量体を用いうる。このような任意の不飽和単量体は、上述した単量体から任意に選択して用いうる。かかる不飽和単量体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルが挙げられる。そして、架橋剤(1-o)としては、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンとメタクリル酸エステルとの共重合体が、良好な密着性等の所望の効果を発現する上で特に好ましい。
【0058】
架橋剤(1-o)の製造において用いる付加重合性オキサゾリンの量は、オキサゾリン化合物の製造に用いる全単量体成分100重量部に対して、好ましくは5重量部以上である。
【0059】
架橋剤(1-o)としては、市販品として入手可能なものを利用しうる。架橋剤(1-o)のうち、水溶性タイプのものの例としては、日本触媒社製のエポクロスWS-500及びWS-700が挙げられる。また、例えばエマルションタイプのものの例としては、日本触媒社製のエポクロスK-2010、K-2020及びK-2030が挙げられる。
【0060】
架橋剤(1-o)及びその他のもの等の架橋剤(1)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0061】
易接着層における、重合体(P1)中の架橋剤(1)単位の割合は、所望の密着性及びその他の効果が発現される範囲に適宜調整しうる。具体的には、重合体(P1)に含まれるすべての単量体単位の合計を100重量部として、架橋剤(1)単位の割合は、好ましくは1重量部以上、より好ましくは3重量部以上であり、一方好ましくは30重量部以下、より好ましくは20重量部以下としうる。
【0062】
易接着層における重合体(P1)の含有割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上であり、通常99重量%以下である。易接着層における重合体(P1)の含有割合が前記範囲内であると、易接着層からの有機粒子の脱落を、効果的に低減しうる。
【0063】
[3.3.任意の成分]
易接着層は、重合体(P1)及び有機粒子に加えて、必要に応じて任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例としては、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックスが挙げられる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
[4.延伸フィルムの製造方法]
延伸フィルムは、任意の方法により製造されうる。
延伸フィルムは、例えば以下の工程(1)~(3)を含む方法により製造されうる。
工程(1):フィルム状の樹脂層を用意する工程。
工程(2):樹脂層の一方の表面に易接着層を設けて、複層物(I)を得る工程。
工程(3):複層物(I)を延伸して延伸フィルムを得る工程。
【0065】
工程(1)、工程(2)、及び工程(3)は、通常この順で行われる。延伸フィルムの製造方法は、工程(1)~(3)に加えて、任意の工程を含んでいてもよい。
【0066】
[4.1.工程(1)]
工程(1)では、フィルム状の樹脂層を用意する。樹脂層は、任意の方法により製造されうる。例えば、熱可塑性樹脂からなる樹脂層は、樹脂層の材料となる熱可塑性樹脂を既知のフィルム成形法で成形することによって得られる。フィルム成形法の例としては、キャスト成形法、押出成形法、及びインフレーション成形法が挙げられる。中でも、溶媒を使用しない溶融押出法が、残留揮発成分量を効率よく低減させることができ、地球環境や作業環境の観点、及び製造効率に優れる観点から好ましい。溶融押出法としては、例えばダイスを用いる押出成形法が挙げられ、中でも生産性や厚み精度に優れる点でTダイを用いる方法が好ましい。熱可塑性樹脂としては、前記の熱可塑性樹脂(s)を用いうる。
【0067】
工程(1)において用意される樹脂層は、上に述べた方法で得られた等方なフィルムをさらに延伸することにより得られる層であってもよい。延伸の具体的な条件は、最終的な製品としての延伸フィルムの光学的特性を所望のものとしうるよう適宜選択しうる。延伸の方向は、例えば、縦延伸(フィルム長手方向への延伸)、横延伸(フィルム幅方向への延伸)、斜め延伸(フィルム斜め方向への延伸)、及びこれらの組み合わせとしうる。
【0068】
工程(1)において用意される樹脂層は、位相差を有する位相差層であってもよく、実質的に位相差を有しない等方な層であってもよい。
【0069】
工程(1)において用意される樹脂層が、位相差層である場合、位相差層は、λ/4板としての機能を有する層、λ/2板としての機能を有する層でありうる。樹脂層が位相差層である場合、位相差層の面内レターデーションReは、例えば180nm~250nmとしうる。位相差層の厚み方向のレターデーションRthは、例えば100nm~150nmとしうる。
【0070】
工程(1)において用意される樹脂層が、実質的に位相差を有しない等方な層である場合、等方な層の面内レターデーションReは、例えば0nm~8nmとしうる。基材層の厚み方向のレターデーションRthは、例えば-8nm~8nmとしうる。
【0071】
工程(1)において用意される樹脂層の厚みは、適宜調整しうる。樹脂層の厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、更に好ましくは30μm以上であり、好ましくは150μm以下、より好ましくは130μm以下、更に好ましくは90μm以下である。
【0072】
[4.2.工程(2)]
工程(2)では、樹脂層の一方の表面に易接着層を設けて、複層物(I)を得る。
易接着層は、重合体(P1)を構成するための単量体、有機粒子、及び任意成分を含む混合物を硬化させることにより形成されうる。具体的には、樹脂層上に前記混合物の膜を形成し、これを硬化させることにより、易接着層の形成を行いうる。
【0073】
前記混合物の膜の形成に際しては、通常、塗布法を用いる。塗布法としては、既知の塗布法を採用しうる。具体的な塗布法としては、例えば、ワイヤーバーコート法、ディップ法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、グラビアコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、エクストルージョンコート法などが挙げられる。
【0074】
前記混合物が、溶媒を含む場合には、膜を乾燥させて溶媒を除去することにより、硬化を達成しうる。乾燥方法は任意であり、例えば、減圧乾燥、加熱乾燥など任意の方法で行ってもよい。
中でも、単量体を含む混合物中において重合などの反応を速やかに進行させる観点から、加熱乾燥によって硬化を行うことが好ましい。加熱乾燥を行なう場合、通常は、単量体の重合反応が進行する。加熱温度は、使用する材料に適合する温度を適宜設定しうる。ただし、樹脂層の熱による変性を抑制する観点からは、ある程度以上低い温度であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、樹脂層を構成する材料のガラス転移温度Tgを基準として、好ましくは(Tg-30℃)以上、より好ましくは(Tg-10℃)以上であり、好ましくは(Tg+60℃)以下、より好ましくは(Tg+50℃)以下である。
【0075】
また、前記のとおり、前記混合物の膜を樹脂層上に形成する前に、樹脂層の表面に改質処理を施してもよい。樹脂層に対する表面改質処理としては、例えば、エネルギー線照射処理及び薬品処理が挙げられる。エネルギー線照射処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、電子線照射処理、紫外線照射処理等が挙げられ、処理効率の点等から、コロナ処理、プラズマ処理が好ましく、コロナ処理が特に好ましい。また、薬品処理としては、例えば、ケン化処理、重クロム酸カリウム溶液、濃硫酸等の酸化剤水溶液中に浸漬し、その後、水で洗浄する方法が挙げられる。
【0076】
コロナ処理の出力は、処理対象面のダメージをできるだけ少なく処理する条件が好ましく、具体的には、好ましくは0.02kW以上、より好ましくは0.04kW以上であり、好ましくは5kW以下、より好ましくは2kW以下である。
【0077】
[4.3.工程(3)]
工程(3)では、複層物(I)を延伸して延伸フィルムを得る。
複層物(I)であるフィルムを延伸する延伸方法の例としては、前記の延伸方法の例が挙げられる。
延伸フィルムを斜め延伸フィルムとして得る場合には、工程(3)は、複層物(I)を、斜め延伸法により延伸する工程を含む。
複層物(I)を延伸することにより、複層物(I)に含まれる樹脂層及び易接着層もそれぞれ延伸される。
この場合、延伸方向が樹脂層の幅方向に対してなす角度は、好ましくは35°以上、より好ましくは37°以上、更に好ましくは40°以上、特に好ましくは42°以上であり、好ましくは55°以下、より好ましくは53°以下、更に好ましくは50°以下、特に好ましくは48°以下である。
【0078】
工程(3)における延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは2.5倍以下、より好ましくは2.0倍以下である。延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸方向の屈折率を大きくできる。また、延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、延伸フィルムの遅相軸の方向を容易に制御することができる。
【0079】
工程(3)における延伸温度は、好ましくはTgA以上、より好ましくは(TgA+2)℃以上、特に好ましくは(TgA+5)℃以上であり、好ましくは(TgA+40)℃以下、より好ましくは(TgA+35)℃以下、特に好ましくは(TgA+30)℃以下である。ここで、TgAは、熱可塑性樹脂(s)のガラス転移温度を表す。延伸温度が前記の範囲にある場合、樹脂層に含まれる分子を効果的に配向させることができるので、所望の光学特性を有する延伸フィルムの製造を円滑に行うことができる。
【0080】
[5.延伸フィルムの用途]
本発明の延伸フィルムの用途の例としては、円偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムなどの光学部材、及びその構成要素が挙げられる。
【実施例0081】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0082】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温(20℃±15℃)及び常圧(1atm)の条件において行った。
【0083】
[評価方法]
(重量平均粒子径)
粒子の平均粒子径は、動的光散乱法により米国Microtrac社製のNanotrac UPA-EX150により測定した。
【0084】
(層の厚み)
延伸フィルムが備える層の厚みを、反射分光式膜厚測定システム「F20」(フィルメトリクス社製)を用いて測定した。
【0085】
(粒子脱落の有無)
実施例及び比較例で得られた延伸フィルムの易接着層側表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、観察した。倍率は、10000倍とし、20μmx20μmの範囲における粒子脱落の有無を確認した。
【0086】
(動摩擦係数の測定方法)
実施例及び比較例で得られた延伸フィルムを、80mm×200mmのサイズに2枚切り出して、2枚の試験片を得た。2枚の試験片を、それらが備える樹脂層と易接着層とが向き合うように重ねて、JIS K7125(1999)に準拠して、樹脂層と易接着層との間の動摩擦係数を測定した。測定は、摩擦測定器(東洋精機製作所製、「TR-2」)を用い、200g荷重、移動距離100mm、移動速度500mm/分として行った。
【0087】
(全光線透過率)
ヘイズメーターNDH-2000(日本電色工業社製)を用いて測定した。測定方法は、JIS K7361の規格に準拠した。下記基準により評価した。
優:〇:95%以上
良:△:85%以上95%未満
不良:×:85%未満
【0088】
[実施例1]
(1-1.基材フィルム(i))
ペレット状のノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製;ガラス転移温度126℃)を100℃で5時間乾燥した。乾燥した樹脂を、押出機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出し、押出成形を行った。成形された樹脂を冷却し、樹脂層を形成するための、厚み70μmの長尺の基材フィルム(i)を得た。
【0089】
(1-2.易接着層材料1)
メチルメタクリレート/ブチルアクリレート共重合体(重合比はメチルメタクリレート60重量%及びブチルアクリレート40重量%)の水分散体(固形分濃度50%)13部と、架橋剤(日本触媒製「エポクロスWS-700」、メチルメタクリレート及び2-イソプロぺニルオキサゾリンの共重合体、固形分濃度25重量%、オキサゾリン基量4.5mmol/g固形分))6部、有機粒子として(メタ)アクリル重合体粒子の水分散液(日本触媒社製「エポスターMX200W」;ポリメタクリル酸メチル系架橋重合体、固形分濃度10%;粒子の重量平均粒子径300nm)を2部、濡れ剤としてアセチレン系界面活性剤(エアープロダクツアンドケミカルズ社製「サーフィノール440」)を固形分合計量に対して0.5重量%と、水を79部とを配合して、未硬化状態のアクリル樹脂として固形分8%の液状の易接着層材料1を得た。
易接着層材料1における有機粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、2.4重量%であった。
【0090】
(1-3.複層物(I))
(1-1)で得た基材フィルム(i)の表面にコロナ処理を施した。コロナ処理は、コロナ処理装置(春日電機社製)を用いて、ライン速度10m/min、窒素雰囲気下、出力1.5kWの条件で行った。
【0091】
基材フィルム(i)の、コロナ処理が施された表面に、(1-2)で得た易接着層材料1を塗布した。塗布は、ロールコーターを用いて、乾燥厚みが0.1μmになる条件で行った。
【0092】
その後、易接着層材料の塗膜を温度110℃で60秒間加熱して、基材フィルム(i)上に易接着層(i)を形成した。これにより、(基材フィルム(i))/(易接着層(i))の層構成を有する複層物(I)を得た。得られた複層物(I)はロールに巻き取って回収した。
【0093】
(1-4.複層物(II))
複層物(I)をロールから巻き出した。
巻き出した複層物(I)を、テンター延伸機に連続的に供給し、テンター延伸機によって複層物(I)を延伸した。延伸の方向は、複層物(I)の幅方向に対して45°の角度をなす方向とした。延伸温度は135℃、延伸倍率は1.5倍とした。かかる延伸により、(樹脂層(ii))/(易接着層(ii))の層構成を有する、斜め延伸フィルムとしての複層物(II)を得た。樹脂層(ii)は、基材フィルム(i)の延伸の結果得られた層であり、易接着層(ii)は、易接着層(i)の延伸の結果得られた層である。複層物(II)における樹脂層(ii)の、フィルム幅方向に対する配向角は45°、複層物(II)の面内レターデーションReは215nmであった。複層物(II)における樹脂層(ii)の厚みは47μmであり、易接着層(ii)の厚みは0.085μmであった。得られた斜め延伸フィルムとしての複層物(II)はロールに巻き取って回収した。
【0094】
得られた延伸フィルムを、前記の方法により評価した。
【0095】
[実施例2]
前記(1-2)において、日本触媒社製「エポスターMX200W」(固形分濃度10%)2部の代わりに、日本触媒社製「エポスターMX100W」(固形分濃度10%;粒子の重量平均粒子径150nm)2部を用いた。
易接着層材料1における有機粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、2.4重量%であった。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、延伸フィルムを得て、これを評価した。
【0096】
[実施例3]
前記(1-2)において、日本触媒社製「エポスターMX200W」の量を変更し、4部とし、水77部を用いた。
易接着層材料1における有機粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、4.7重量%であった。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、延伸フィルムを得て、これを評価した。
【0097】
[比較例1]
前記(1-2)のメチルメタクリレート/ブチルアクリレート共重合体の水分散体の代わりに、ウレタン重合体を含む材料(第一工業製薬社製「スーパーフレックス870」、固形分濃度30重量%)21重量部を用い、水71重量部を用いて、易接着層材料1を得た。
易接着層材料1における有機粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、2.4重量%であった。
【0098】
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、延伸フィルムを得て、これを評価した。
【0099】
[比較例2]
日本触媒社製「エポスターMX200W」を用いなかった。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、延伸フィルムを得て、これを評価した。
【0100】
[比較例3]
前記(1-2)において、日本触媒社製「エポスターMX200W」(固形分濃度10%)2部の代わりに、日本触媒社製「エポスターMX300W」(固形分濃度10%;粒子の重量平均粒子径450nm)2部を用いた。
易接着層材料1における有機粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、2.4重量%であった。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、延伸フィルムを得て、これを評価した。
【0101】
[比較例4]
前記(1-2)において、日本触媒社製「エポスターMX200W」(固形分濃度10%)2部の代わりに、シリカ粒子として日産化学社製「スノーテックスMP2040」(固形分濃度10%;粒子の重量平均粒子径200nm)2部を用いた。
易接着層材料1におけるシリカ粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、2.4重量%であった。
【0102】
[比較例5]
前記(1-2)において、日本触媒社製「エポスターMX200W」の量を変更し、10部とし、水を71部とした。
易接着層材料1における有機粒子の含有割合は、易接着層材料1の固形分合計量を100重量%として、11重量%であった。
以上の事項以外は、実施例1と同様に操作して、延伸フィルムを得て、これを評価した。
【0103】
[結果]
評価結果を下表に示す。下表において、略号は下記の意味を表す。
重合体(P1)の項目における「アクリル」:アクリル樹脂
重合体(P1)の項目における「ウレタン」:ウレタン樹脂
粒子種の項目における「アクリル」:(メタ)アクリル重合体粒子(日本触媒社製「エポスターMX100W」、「エポスターMX200W」又は「エポスターMX300W」)
粒子種の項目における「シリカ」:日産化学社製「スノーテックスMP2040」
【0104】
【0105】
【0106】
表中、*1は、摩擦力が大きく、前記の方法では摩擦係数が測定できなかったことを示す。
【0107】
実施例1~3に係る延伸フィルムは、摩擦係数が0.8以下であって小さく、滑り性が良好であり、かつ、有機粒子の脱落が確認されない。
一方、比較例1、比較例3~5に係る延伸フィルムは、粒子脱落が確認される。