IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2024-8197オルガノポリシロキサンの回収方法、硬化性液状シリコーンゴム組成物及びその製造方法
<>
  • -オルガノポリシロキサンの回収方法、硬化性液状シリコーンゴム組成物及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008197
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】オルガノポリシロキサンの回収方法、硬化性液状シリコーンゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/28 20060101AFI20240112BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240112BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20240112BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08J11/28 ZAB
C08K3/013
C08K5/5415
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109858
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】亀田 宜良
(72)【発明者】
【氏名】木村 恒雄
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【テーマコード(参考)】
4F401
4J002
【Fターム(参考)】
4F401AA05
4F401AA40
4F401CA68
4F401CA75
4F401EA59
4F401EA66
4F401FA07Z
4J002CP031
4J002DA037
4J002DE077
4J002DE237
4J002DJ007
4J002DJ017
4J002DJ027
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002DL007
4J002EX016
4J002EX036
4J002EX076
4J002FD017
4J002FD206
4J002GL00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】硬化性液状シリコーンゴム組成物の硬化物から該組成物のベースポリマーと同じ構造のオルガノポリシロキサンを回収する方法、及び該回収されたオルガノポリシロキサンを硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーに使用する硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン、
(B)充填剤、及び
(C)特定構造の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物
を特定割合で含む硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物を、アルカリ水溶液とアルコールとを含むアルカリ溶液に浸漬させて(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収する工程を含む、シリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物を、アルカリ水溶液とアルコールとを含むアルカリ溶液に浸漬させて(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収する工程を含む、シリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
【請求項2】
(B)成分がシリカである請求項1に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
【請求項3】
更に、(D)分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)又は加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサン(但し、(C)成分を除く)を、(A)成分と(D)成分が10:0~5:5の質量比率で含むものである請求項1に記載の硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
【請求項4】
アルカリ溶液が、アルカリ源を0.1~6.0mol/kg含むアルカリ水溶液100mLと、アルコール5~50mLとを含むものである請求項1に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
【請求項5】
アルカリ源がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアミン化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
【請求項6】
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法であって、
(A)成分に請求項1~5のいずれか1項に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法で回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンを用いるものである硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含む、請求項1に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法に用いる硬化性液状シリコーンゴム組成物。
【請求項8】
(B)成分がシリカである請求項7に記載の硬化性液状シリコーンゴム組成物。
【請求項9】
更に、(D)分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)又は加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサン(但し、(C)成分を除く)を、(A)成分と(D)成分が10:0~5:5の質量比率で含むものである請求項7に記載の硬化性液状シリコーンゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性液状シリコーンゴム組成物の硬化物から該組成物のベースポリマーと同じ構造のオルガノポリシロキサンを回収する方法及び該回収方法に用いる硬化性液状シリコーンゴム組成物、並びに該回収されたオルガノポリシロキサンを硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーに使用する硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン化合物は、シロキサン結合からなり、化学的に比較的安定のため、耐熱性や耐薬品性に優れていることから広い分野に使われている。また、大気中の湿気により室温(23℃±15℃)でエラストマー(弾性体)状のシリコーンゴム硬化物に架橋(硬化)する室温硬化性(RTV)シリコーンゴム組成物は、その取り扱いが容易な上に、これを硬化して得られるシリコーンゴム硬化物が耐侯性、電気特性に優れるため、建材用のシーリング材、電気電子分野での接着剤など様々な分野で応用されている。
【0003】
また、近年、循環型社会の実現が望まれ、経済活動で廃棄された製品から原材料を回収するリサイクル・再利用の重要性が高まっている。そのため、RTVシリコーンゴム組成物等の硬化性液状シリコーンゴム組成物においても、これを硬化して得られるシリコーンゴム硬化物の製品寿命が終わった後に該硬化物から前記組成物のベースポリマーと同じ構造であるオルガノポリシロキサンをリサイクル・再利用することが望まれている。
【0004】
その様なニーズを受け、硬化性液状シリコーンゴム組成物においても下記の様なリサイクル方法が提案されている。
【0005】
特許文献1(特開2000-169484号公報)では、硫酸などの酸触媒存在下でアルキルカーボネートとアルコールなどの活性水素基含有化合物を用いてシリコーン化合物を分解させることが報告されている。特許文献2(特許第4082498号公報)では、水酸化有機第四級アンモニウムとアミンやアルコールなどの溶媒で処理し、架橋構造の一部を分解し、充填剤を分離、更に無機強塩基を加えて解重合し、環状シロキサンモノマーを回収する方法が提案されている。特許文献3(特開2012-188398号公報)では、硫酸などの酸触媒存在下でアセタールとアルコールなどの活性水素基含有化合物を用いてシリコーン化合物を分解し、アルコキシシランやアルコキシシランオリゴマーに分解することが報告されている。
しかし、特許文献1~3では、シリコーン化合物のシロキサン結合を切断するため、再利用するためには、再度重合する必要がある。
【0006】
一方、特許文献4(特許第3721008号公報)では、架橋シリコーンゴム廃棄物をアルコールと超臨界状態下で接触させて加水分解する方法、特許文献5(特許第3721012号公報)では、アルコールと水との混合溶媒と共に加熱する方法がそれぞれ提案され、未架橋シリコーンゴムコンパウンド、又はシリコーン油として回収することができると報告されている。
特許文献4、5では、未架橋シリコーンゴムコンパウンドやシリコーン油状の再生物が回収できるとされているが、回収物の詳細が記載されておらず、更に再架橋後の物性などの提示もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-169484号公報
【特許文献2】特許第4082498号公報
【特許文献3】特開2012-188398号公報
【特許文献4】特許第3721008号公報
【特許文献5】特許第3721012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬化性液状シリコーンゴム組成物の硬化物の製品寿命が終わった後に、該硬化物から前記組成物のベースポリマーと同じ構造であるオルガノポリシロキサンを回収し、該オルガノポリシロキサンを硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーとして再利用することが可能である、硬化性液状シリコーンゴム組成物の硬化物から該組成物のベースポリマーと同じ構造のオルガノポリシロキサンを回収する方法及び該回収方法に用いる硬化性液状シリコーンゴム組成物、並びに該回収されたオルガノポリシロキサンを硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーに使用する硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、カルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして使用し、充填剤の共存下に架橋剤(硬化剤)で硬化したシリコーンゴム硬化物を、室温というマイルドな条件下でアルカリ水溶液とアルコールとを含むアルカリ溶液に浸漬させることにより、前記ベースポリマーと同じ構造であるカルビノール変性オルガノポリシロキサンを容易に回収・再生させることができ、回収した該カルビノール変性オルガノポリシロキサンに再度必要な添加剤(架橋剤、充填剤)を混ぜて架橋・硬化させるだけで再生前のシリコーンゴム硬化物と同等の物性を有するシリコーンゴム硬化物が得られること、即ちリサイクルが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
従って、本発明は、以下のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法及び該回収方法に用いる硬化性液状シリコーンゴム組成物、並びに該回収されたオルガノポリシロキサンを使用する硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法を提供する。
[1]
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物を、アルカリ水溶液とアルコールとを含むアルカリ溶液に浸漬させて(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収する工程を含む、シリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
[2]
(B)成分がシリカである[1]に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
[3]
更に、(D)分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)又は加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサン(但し、(C)成分を除く)を、(A)成分と(D)成分が10:0~5:5の質量比率で含むものである[1]又は[2]に記載の硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
[4]
アルカリ溶液が、アルカリ源を0.1~6.0mol/kg含むアルカリ水溶液100mLと、アルコール5~50mLとを含むものである[1]~[3]のいずれかに記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
[5]
アルカリ源がアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩及びアミン化合物から選ばれる少なくとも1種である[4]に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法。
[6]
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法であって、
(A)成分に[1]~[5]のいずれかに記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法で回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンを用いるものである硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法。
[7]
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含む、[1]に記載のシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法に用いる硬化性液状シリコーンゴム組成物。
[8]
(B)成分がシリカである[7]に記載の硬化性液状シリコーンゴム組成物。
[9]
更に、(D)分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)又は加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサン(但し、(C)成分を除く)を、(A)成分と(D)成分が10:0~5:5の質量比率で含むものである
[7]又は[8]に記載の硬化性液状シリコーンゴム組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして使用し、充填剤及び架橋剤(硬化剤)を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させて得られるシリコーンゴム硬化物を、室温というマイルドな条件下でアルカリ水溶液とアルコールとを含むアルカリ溶液に浸漬させることにより、該組成物のベースポリマーと同じ構造であるカルビノール変性オルガノポリシロキサンを容易に回収・再生させることができ、回収した該カルビノール変性オルガノポリシロキサンに再度必要な添加剤(架橋剤、充填剤)を混ぜて得られた硬化性液状シリコーンゴム組成物を架橋・硬化させるだけで再生前のシリコーンゴム硬化物と同等の物性を有するシリコーンゴム硬化物が得られる(即ち、硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーをリサイクルできる)ものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1におけるリサイクル前後でのカルビノール変性オルガノポリシロキサンのGPC測定結果(横軸:溶出時間、縦軸:検出強度)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、カルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして使用し、充填剤の共存下に架橋剤(硬化剤)で硬化したシリコーンゴム硬化物を、室温というマイルドな条件下でアルカリ水溶液とアルコールとを含むアルカリ溶液に浸漬させることにより、容易に前記ベースポリマーと同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収、リサイクルできるものである。
【0014】
本発明の回収方法に用いる硬化性液状シリコーンゴム組成物は、
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含むものであり、本発明の回収方法に用いるシリコーンゴム硬化物は、該硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるものである。
【0015】
[(A)成分]
(A)成分のカルビノール変性オルガノポリシロキサンは、硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーである。本発明の硬化性液状シリコーンゴム組成物は、(A)成分のカルビノール変性オルガノポリシロキサン中のカルビノール基と、後述する(C)成分の架橋剤である加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物中の加水分解性基が、架橋サイトにおいてSi-O-C結合を形成するものであり、該結合はアルカリ条件下でC-OHとSi-OHに解裂させることができる。そのため、該組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物をアルカリ溶液に浸漬することにより、シリコーンゴム硬化物の架橋点のみを切断することができるため、前記組成物に含まれる(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを容易にかつ定量的に回収、リサイクルできるものである。
【0016】
(A)成分のカルビノール変性オルガノポリシロキサンは、オルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合するカルビノール基(末端にメチロール基;-CH2OHを有し、エーテル結合酸素原子(-O-)を有してもよいアルキル基等の飽和脂肪族1価炭化水素基)を一分子中に2個以上、好ましくは2~6個、より好ましくは2~4個有する。カルビノール基としては、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、3-(2-ヒドロキシエトキシ)プロピル基、3-(3-ヒドロキシプロポキシ)プロピル基等が例示できる。
【0017】
また、オルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合するカルビノール基以外の有機基としては、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、クロロメチル基、2-シアノエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などの、炭素数1~8程度の非置換又は置換の一価炭化水素基、特には炭素数1~6程度の非置換一価炭化水素基であることが好ましく、特に、メチル基、エチル基が好ましい。
【0018】
(A)成分のカルビノール変性オルガノポリシロキサンの分子構造は、主鎖を構成するシロキサン骨格が直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれでもよいが、直鎖状、分岐鎖状が好ましく、直鎖状がより好ましい。
【0019】
直鎖状のカルビノール変性オルガノシロキサンには、ケイ素原子に結合する一価炭化水素基のうちの一部がカルビノール基で置換(変性)されている位置によって、側鎖カルビノール変性型直鎖状オルガノシロキサン(分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノ(カルビノール)シロキサン共重合体)、両末端カルビノール変性型直鎖状オルガノシロキサン(分子鎖両末端ジオルガノ(カルビノール)シロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン、分子鎖両末端オルガノビス(カルビノール)シロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン)、両末端・側鎖カルビノール変性型直鎖状オルガノシロキサン(分子鎖両末端ジオルガノ(カルビノール)シロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノ(カルビノール)シロキサン共重合体)、片末端カルビノール変性型直鎖状オルガノシロキサン(分子鎖片末端オルガノビス(カルビノール)シロキシ基封鎖・分子鎖片末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン)や、上記の各直鎖状カルビノール変性オルガノシロキサンにおいて、1つのカルビノール変性基に二つの水酸基を有するジオール型直鎖状オルガノシロキサンなど様々な構造のものがあり、これらのうち、側鎖カルビノール変性型直鎖状オルガノシロキサン(分子鎖両末端トリオルガノシロキシ基封鎖ジオルガノシロキサン・オルガノ(カルビノール)シロキサン共重合体)、両末端カルビノール変性型直鎖状オルガノシロキサン(分子鎖両末端ジオルガノ(カルビノール)シロキシ基封鎖ジオルガノポリシロキサン)が好ましい。
【0020】
カルビノール基として3-(2-ヒドロキシエトキシ)プロピル基を有する直鎖状カルビノール変性オルガノシロキサンの製造方法としては、例えば、ケイ素原子と結合した水素原子(SiH基)を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサンと片末端アリル基封鎖エチレングリコールを白金触媒存在下でヒドロシリル化反応させる方法などが挙げられる。
【0021】
(A)成分のカルビノール変性オルガノポリシロキサンの25℃における粘度(動粘度)は、10~1,000,000mm2/sであることが好ましく、30~300,000mm2/sであることがより好ましく、40~10,000mm2/sであることが更に好ましく、50~5,000mm2/sであることが特に好ましい。粘度が上記下限値未満だと硬化物に十分な機械特性が得られない場合があり、また上記上限値を超えると作業性が低下する場合がある。なお、本発明において、粘度は動粘度計(例えば、キャノン・フェンスケ粘度計、オストワルド粘度計、ウベローデ粘度計等)により測定した25℃における値である(以下、同じ)。
【0022】
(A)成分のカルビノール変性オルガノポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分は充填剤(無機質充填剤及び/又は有機樹脂充填剤)であり、カルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとした硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物をアルカリ溶液に浸漬させた際、該組成物のベースポリマーと同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを分離させ、リサイクルを容易にする役割を果たす。この充填剤としては公知のものを使用することができ、例えば、微粉末シリカ、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、ガラスビーズ、ガラスバルーン、透明樹脂ビーズ、シリカエアロゲル、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、煙霧質金属酸化物などの金属酸化物、湿式シリカあるいはこれらの表面をシラン処理したもの、石英粉末、カーボンブラック、タルク、ゼオライト及びベントナイト等の補強剤、アスベスト、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛などの金属炭酸塩、ガラスウール、微粉マイカ、溶融シリカ粉末、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成樹脂粉末等が使用される。また、表面は、処理の有無によらず、使用できる。表面処理剤としては、脂肪酸類、パラフィン類、シラン類、シラザン類、低重合度シロキサン類、有機化合物などが使用できる。これらの充填剤のうち、シリカ、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライトなどの無機質充填剤が好ましく、シリカがより好ましく、特に、煙霧質シリカが好ましい。
【0024】
(B)成分の配合量は、前記(A)成分100質量部に対して0.1~800質量部であり、特に0.3~600質量部であることが好ましい。0.1質量部未満では、シリコーンゴム硬化物をアルカリ溶液浸漬後に前記ベースポリマーと同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンが分離せず、また800質量部を超えると組成物の粘度が上昇し、施工時の吐出性が悪くなる。
【0025】
[(C)成分]
本発明に用いられる硬化性液状シリコーンゴム組成物には、(C)成分を架橋剤(硬化剤)として配合する。即ち、(C)成分は、下記一般式(1):
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、X1は同一又は異種の加水分解性基であり、aは0,1又は2であり、ただし、a=2のとき、R1は同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物である。
【0026】
上記式(1)中、R1は非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R1の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、ビニル基等のアルケニル基、フェニル基等のアリール基、クロロメチル基、2-シアノエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などの、炭素数1~8程度の非置換又は置換の一価炭化水素基、特には炭素数1~6程度の非置換一価炭化水素基であることが好ましく、特に、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基及びフェニル基が好ましい。
【0027】
また、上記式(1)中、X1の加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~6のアルケノキシ基、メチルエチルケトオキシム基等の炭素数3~8のケトオキシム基、アセトキシ基等の炭素数2~6のアシロキシ基などが挙げられ、アルコキシ基、イソプロペノキシ基が好ましい。
aは0,1又は2であり、好ましくは0又は1である。
【0028】
(C)成分の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のアルコキシシラン及びメチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等のケトオキシムシラン、メチルトリイソプロペノキシシラン、エチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン等のイソプロペノキシ基含有シラン、メチルトリシクロペンタノキシシラン、エチルトリシクロペンタノキシシラン、ビニルトリシクロペンタノキシシラン等のシクロペンタノキシ基含有シラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランなどのアセトキシシラン等の各種シラン、並びにこれらのシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0029】
(C)成分は、1種単独で使用しても、2種以上の混合物であってもよい。
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~30質量部、好ましくは2~20質量部、特に好ましくは3~15質量部の範囲で使用される。1質量部未満では十分な架橋が得られず、適当なゴム弾性を有する硬化物を得られ難く、30質量部を超えると得られる硬化物は機械特性が低下する。
【0030】
[その他の成分]
本発明に用いられる硬化性液状シリコーンゴム組成物には、上記(A)~(C)成分のほかに、本発明の目的を阻害しない限り、種々の添加剤を添加することもできる。
例えば、上記(A)成分の他に、ベースポリマーの一部として、(D)分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)又は加水分解性シリル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサン(但し、(C)成分を除く)を、(A)成分と(D)成分が10:0~5:5、好ましくは10:0~7:3の質量比率で配合することができる他、ウェッターやチキソトロピー向上剤としてのポリエーテル、触媒として有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物等、可塑剤としての非反応性ジメチルシリコーンオイル、イソパラフィン等が挙げられる。
【0031】
更に、必要に応じて、顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤、防かび剤、抗菌剤、帯電防止剤、難燃剤、ブリードオイルとしての非反応性フェニルシリコーンオイル、フルオロシリコーンオイルを配合することもできる。これらの使用量は、本発明の目的を阻害しない限り任意である。
【0032】
本発明に用いられる硬化性液状シリコーンゴム組成物は、上記(A)~(C)成分、及び必要により(D)成分やその他の成分を、品川ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー等の混合機を用いて、乾燥もしくは減圧雰囲気中で均一に混合することにより目的の組成物が得られる。
【0033】
上記で得られた硬化性液状シリコーンゴム組成物は、50~130℃、特に70~110℃にて10分~5時間、特に30分~3時間の条件にて硬化させることができる。
【0034】
なお、上述した硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物は、電子部品のシール材やコーティング剤、部品固定用接着剤、建築用シーリング材等として好適に用いることができる。
【0035】
上述した硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物は、該シリコーンゴム硬化物の製品寿命が終わった後等に、アルカリ水溶液とアルコールとをそれぞれ含むアルカリ溶液に浸漬させることにより、上記組成物の(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収することができる。
【0036】
[アルカリ溶液]
アルカリ溶液は、上述した硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム硬化物を溶解させて、上記組成物の(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収するために使用する。アルカリ溶液は、アルカリ水溶液とアルコールとを含むものである。
【0037】
アルカリ水溶液のアルカリ源としては、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、トリエチルアミンやブチルアミン、テトラメチルグアニジンなどのアミン化合物等が挙げられる。
アルカリ水溶液は、このアルカリ源を水に溶かして、0.1~6.0mol/kgの濃度に調整して使用することが好ましく、0.3~4.0mol/kgの濃度に調整して使用することがより好ましい。濃度が0.1mol/kgより低いと硬化物の溶解が進行せず、6.0mol/kgを超えると溶液が高濃度のため、作業の危険性が高くなる。
【0038】
また、アルカリ溶液には、硬化物の分解を進行させるため、アルコールを添加する。アルコールの種類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールなどがあり、エタノール、2-プロパノールが好ましい。
アルコールの添加量は、アルカリ水溶液100mLに対して、5~50mLであり、10~40mLが好ましい。5mLより少ないと分解が促進されず、50mLより多いとアルカリ性が低下し、分解が起こり難い。あるいは、上記と同様の理由で、アルコールの添加量はアルカリ水溶液100gに対して、4~40gであり、8~32gであることが好ましい。
【0039】
[カルビノール変性オルガノポリシロキサンの回収方法]
カルビノール変性オルガノポリシロキサンの回収は、上記硬化性液状シリコーンゴム組成物の硬化物(シリコーンゴム硬化物)をアルカリ溶液へ浸漬して行う。
ここで、アルカリ溶液の使用量は特に限定されるものではないが、シリコーンゴム硬化物100質量部に対して700~1,500質量部、特に900~1,200質量部とすることが好ましい。アルカリ溶液が少なすぎると分解性が不十分となり、シリコーンゴム硬化物が溶解しない場合があり、多すぎると回収液が強アルカリとなり中和工程が必要となる場合がある。
【0040】
浸漬は室温下(23℃±15℃)で行い、5時間から7日程度放置して、硬化物を溶解させる。硬化物は細かく切断した方が、溶解時間が短くなる。溶解後、カルビノール変性オルガノポリシロキサンからなる上層(有機層)と、アルカリ溶液からなる中間層、更にカルビノール変性オルガノポリシロキサン以外の成分(充填剤や架橋剤等)からなる下層(沈殿層)の三層に分離する。
【0041】
上記組成物の(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンは上層に分離するため、上層から上記組成物の(A)成分と同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを回収する。
【0042】
回収方法として、具体的には、アルカリ浸漬による硬化物の溶解は、静置するだけでよいが、硬化物の溶解が促進するために攪拌してもよい。オイル成分(カルビノール変性オルガノポリシロキサン)は自然に上層に上がる(移行する)ため、静置後、分液により回収が可能となる。
【0043】
なお、回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンが、上記組成物の(A)成分と同じ構造であることは、回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンの粘度及び屈折率を測定して、それぞれが回収前の(A)成分の粘度及び屈折率と同一であることを確認することで確認することができる。また、回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンの分子量分布は、上記組成物の(A)成分の分子量分布と変わらない値を示すことから、そのまま再利用することが可能である。なお、分子量分布はGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定することができる。
【0044】
回収したカルビノール変性オルガノポリシロキサンは、再度必要な添加剤(架橋剤、充填剤)を混ぜて硬化性液状シリコーンゴム組成物とし、該組成物を架橋・硬化させるだけで再生前のシリコーンゴム硬化物と同等の物性を有するシリコーンゴム硬化物が得られる。
【0045】
本発明の硬化性液状シリコーンゴム組成物の製造方法は、
(A)カルビノール変性オルガノポリシロキサン: 100質量部、
(B)充填剤: 0.1~800質量部、及び
(C)下記一般式(1)
1 aSiX1 4-a (1)
(式中、R1、X1、aは上記と同じである。)
で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:1~30質量部
を含み、(A)成分に、上述したシリコーンゴム硬化物からオルガノポリシロキサンを回収する方法によって回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンを用いるものである。
【0046】
本発明によれば、カルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして使用し、充填剤及び架橋剤(硬化剤)を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させて得られるシリコーンゴム硬化物から、前記ベースポリマーと同じ構造のカルビノール変性オルガノポリシロキサンを室温というマイルドな条件下で容易に回収することができ、回収したカルビノール変性オルガノポリシロキサンを再度ベースポリマーとして使用し、充填剤及び架橋剤(硬化剤)を含む硬化性液状シリコーンゴム組成物を硬化させて得られるシリコーンゴム硬化物は、回収(再生)前のシリコーンゴム硬化物と同等の物性を有することから、容易にリサイクルすることができる。
【実施例0047】
以下、本発明を具体的に説明する実施例及び比較例を示すが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例において、粘度は25℃におけるキャノン・フェンスケ粘度計による測定値(動粘度)を示す。
【0048】
[実施例1]
下記式(2)で示され、粘度が70mm2/sであるカルビノール変性オルガノポリシロキサン(分子鎖両末端ジメチル(カルビノール)シロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)100質量部と、煙霧質シリカ10質量部と、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10質量部を減圧下で混合し、硬化性液状シリコーンゴム組成物1を得た。この組成物1を105℃×1時間、続いて23℃/50%RH×24時間硬化させ、15cm×10cm×2mm厚サイズのシリコーンゴム硬化物1を得た。得られたシリコーンゴム硬化物1の硬さ(JIS K6249、デュロメータ タイプA硬度)を測定したところ、49であった。
また、水酸化ナトリウム16gを水320gに溶解させた1.2mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液に2-プロパノール80gを添加してアルカリ溶液を調製した。シリコーンゴム硬化物1をこのアルカリ溶液に23℃で5日間浸漬させた。
【化1】
(nは約40)
【0049】
[実施例2]
上記式(2)で示され、粘度が70mm2/sであるカルビノール変性オルガノポリシロキサン(分子鎖両末端ジメチル(カルビノール)シロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)75質量部と、両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖され、粘度が60mm2/sである直鎖状ジメチルポリシロキサン25質量部と、煙霧質シリカ10質量部と、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10質量部を減圧下で混合し、硬化性液状シリコーンゴム組成物2を得た。この組成物2を105℃×1時間、続いて23℃/50%RH×24時間硬化させ、15cm×10cm×2mm厚サイズのシリコーンゴム硬化物2を得た。得られたシリコーンゴム硬化物2の硬さ(JIS K6249、デュロメータ タイプA硬度)を測定したところ、58であった。
また、水酸化ナトリウム16gを水320gに溶解させた1.2mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液に2-プロパノール80gを添加してアルカリ溶液を調製した。シリコーンゴム硬化物2をこのアルカリ溶液に23℃で5日間浸漬させた。
【0050】
[実施例3]
水酸化ナトリウム16gを水320gに溶解させた1.2mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液にエタノール80gを添加してアルカリ溶液を調製した。実施例1と同様にして製造したシリコーンゴム硬化物1をこのアルカリ溶液に23℃で5日間浸漬させた。
【0051】
[比較例1]
両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖され、粘度が60mm2/sである直鎖状ジメチルポリシロキサン100質量部と、煙霧質シリカ10質量部と、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10質量部を減圧下で混合し、硬化性液状シリコーンゴム組成物3を得た。この組成物3を105℃×1時間、続いて23℃/50%RH×24時間硬化させ、15cm×10cm×2mm厚サイズのシリコーンゴム硬化物3を得た。
また、水酸化ナトリウム16gを水320gに溶解させた1.2mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液に2-プロパノール80gを添加してアルカリ溶液を調製した。シリコーンゴム硬化物3をこのアルカリ溶液に23℃で5日間浸漬させた。
【0052】
[比較例2]
上記式(2)で示され、粘度が70mPa・sであるカルビノール変性オルガノポリシロキサン(分子鎖両末端ジメチル(カルビノール)シロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン)100質量部と、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン10質量部を減圧下で混合し、硬化性液状シリコーンゴム組成物4を得た。この組成物4を105℃×1時間、続いて23℃/50%RH×24時間硬化させ、15cm×10cm×2mm厚サイズのシリコーンゴム硬化物4を得た。
また、水酸化ナトリウム16gを水320gに溶解させた1.2mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液に2-プロパノール80gを添加してアルカリ溶液を調製した。シリコーンゴム硬化物4をこのアルカリ溶液に23℃で5日間浸漬させた。
【0053】
[比較例3]
水酸化ナトリウム16gを水320gに溶解させて1.2mol/kgの水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ水溶液)を調製した。実施例1と同様にして製造したシリコーンゴム硬化物1をこのアルカリ水溶液に23℃で5日間浸漬させた。
【0054】
[リサイクル性]
実施例及び比較例において、シリコーンゴム硬化物が溶解し、カルビノール変性オルガノポリシロキサン層が分離した場合を○、シリコーンゴム硬化物が溶解したがカルビノール変性オルガノポリシロキサン層が分離しなかった場合を△、シリコーンゴム硬化物が溶解しなかった場合を×とした。リサイクル性を評価した結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1~3はいずれもシリコーンゴム硬化物中のカルビノール変性オルガノポリシロキサン成分がアルカリ溶液に溶解した。この溶解液はカルビノール変性オルガノポリシロキサンからなる上層(有機層)と、アルカリ溶液からなる中間層、更にカルビノール変性オルガノポリシロキサン以外の成分(充填剤と架橋剤と、実施例2においては両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサンと架橋剤との架橋物(シリコーンゴム硬化物))からなる下層(沈殿層)の三層に分離していた。溶解液の上層を分液により取り出し、取り出した溶液を必要に応じて中和することによって、化合物(カルビノール変性オルガノポリシロキサン)を回収した。
実施例1において回収された化合物について粘度と屈折率を分析したところ、組成物1で使用した(リサイクル前の)カルビノール変性オルガノポリシロキサンと粘度及び屈折率がそれぞれ同一であったことから、同じ構造であることが確認された。更にこのカルビノール変性オルガノポリシロキサン(リサイクル後)の分子量分布をGPCで測定すると、図1に示す通り、硬化性液状シリコーンゴム組成物1で使用したカルビノール変性オルガノポリシロキサン(リサイクル前)の分子量分布と変わらない結果であった。実施例2、3についても実施例1と同様にして確認したところ、カルビノール変性オルガノポリシロキサンはリサイクル前後において同じ構造であることが確認され、分子量分布も変わらなかった。
【0057】
比較例1は硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーとしてカルビノール変性オルガノポリシロキサンではなく、両末端がシラノール基で封鎖されたオルガノポリシロキサンを使用したため、シリコーンゴム硬化物をアルカリ溶液に浸漬させても溶解しなかった。比較例2では硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーとしてカルビノール変性オルガノポリシロキサンを使用しているため、シリコーンゴム硬化物はアルカリ溶液への浸漬で溶解したが、シリカ充填剤を配合していないため、カルビノール変性オルガノポリシロキサン層が分離せず、回収が困難であった。比較例3はアルカリ溶液にアルコールを配合しなかったため、硬化性液状シリコーンゴム組成物のベースポリマーとしてカルビノール変性オルガノポリシロキサンを使用してもシリコーンゴム硬化物が溶解しなかった。
【0058】
[硬さの変化]
また、上記で回収されたカルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして用い、再度実施例1~3に記載の組成と同一の硬化性液状シリコーンゴム組成物に調製し、実施例1~3に記載の硬化条件で硬化させたシリコーンゴム硬化物の硬さ(JIS K6249、デュロメータ タイプA硬度、リサイクル後の硬さ)をそれぞれ測定した。これらの結果をリサイクル前の硬さ(実施例1~3で得られた硬化物の硬さ)と共に表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1~3のいずれも、回収後のカルビノール変性オルガノポリシロキサンをベースポリマーとして調製したシリコーンゴム組成物を硬化して得られたシリコーンゴム硬化物が、リサイクル前のシリコーンゴム硬化物と同程度の硬さとなり、再利用可能であることが確認できた。
図1