(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082386
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】パン類生地、及びパン類生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20240613BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20240613BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D13/00
A23D7/00 506
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196193
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】城戸 裕喜
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG02
4B026DH01
4B026DH03
4B026DH05
4B026DL04
4B026DL08
4B026DL09
4B026DP01
4B026DP03
4B032DB02
4B032DG02
4B032DG08
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK41
4B032DK45
4B032DK47
4B032DK51
4B032DK54
4B032DL11
4B032DP08
4B032DP16
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】良好なボリュームと食感を有するパン類(特にグルテンフリー粉を含有するパン類)、及び該パン類が得られるパン類生地を提供すること
【解決手段】水相を連続相とする組成物と、油相を連続相とする組成物とを含有する、パン類生地であって、水相を連続相とする組成物は以下の条件(1)を満たし、油相を連続相とする組成物は以下の条件(2)を満たし、パン類生地は以下の条件(3)を満たす、パン類生地(条件(1):クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を50質量%以上含有し、ただし、該水相成分の濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%である。条件(2):組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する。条件(3):パン類生地の製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水相を連続相とする組成物と、油相を連続相とする組成物とを含有する、パン類生地であって、水相を連続相とする組成物は以下の条件(1)を満たし、油相を連続相とする組成物は以下の条件(2)を満たし、パン類生地は以下の条件(3)を満たす、パン類生地(条件(1):クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を50質量%以上含有し、ただし、該水相成分の濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%である。条件(2):組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する。条件(3):パン類生地の製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。)。
【請求項2】
パン類生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対する、水相を連続相とする組成物の量が0.1~1.5質量部である、請求項1に記載のパン類生地。
【請求項3】
パン類生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対する、油相を連続相とする組成物の量が、1~15質量部である、請求項1又は2に記載のパン類生地。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のパン類生地の加熱処理品であるパン類。
【請求項5】
請求項3に記載のパン類生地の加熱処理品であるパン類。
【請求項6】
中種法で製造されるパン類生地の製造方法であって、水相を連続相とする組成物を中種生地の製造時に含有させ、油相を連続相とする組成物を本捏生地の製造時に含有させることを特徴とし、水相を連続相とする組成物は以下の条件(1)を満たし、油相を連続相とする組成物は以下の条件(2)を満たし、パン類生地は以下の条件(3)を満たす、パン類生地の製造方法(条件(1):クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を50質量%以上含有し、ただし、該水相成分の濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%である。条件(2):組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する。条件(3):パン類生地の製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパン類生地に関する。
【背景技術】
【0002】
食パンやクロワッサン等のパン類は小麦粉を主材とするものであるが、(1)国内の米の需要喚起の観点、(2)健康意識の高まりに伴うグルテンの摂取量を抑えた食品のニーズの観点、(3)世界的な小麦の不作や世界情勢の影響による小麦価格上昇の観点などから、従前より小麦粉の一部又は全部に代えて、米粉や大豆粉、各種澱粉等に代表される、グルテンフリー粉を使用したパン類の製造が行われている。
【0003】
グルテンフリー粉は、パン類を製造する際に用いられる小麦粉に通常含有されるグルテンを含有しないため、グルテンフリー粉を用いて製造されたパン類のボリュームは、小麦粉のみでパン類を製造した場合と比較して小さくなりやすいことが知られており、小麦粉のみで製造されるパン類とは異なる課題を有している。
【0004】
グルテンフリー粉を含有するパン類の特有の課題を解決・改善する手法としてバイタルグルテン(又は活性グルテン)と呼ばれる小麦粉由来の蛋白質を添加する手法がとられるが、これに加えて酵素によりグルテンフリー粉、又はグルテンフリー粉を含有するパン類の生地を改質する手法が検討されてきた。
【0005】
酵素によりグルテンフリー粉、又はグルテンフリー粉を含有するパン類生地を改質する手法としては、例えば、酵素含有水溶液に米粉を浸漬して酵素処理を行い且つ微細化した米粉に対し、活性グルテンを添加したパン生地用米粉が開示されており(特許文献1)、製パン改良剤を含有する油脂組成物とバイタルグルテンとを含有する米粉生地が開示されており(特許文献2)、米粉75質量部以上85質量部、バイタルグルテン15質量部以上25質量部以下からなる主原料100質量部に対して、副原料としてデキストリン3質量部以上5質量部以下、αアミラーゼ30U以上75U以下、βアミラーゼ570AUN以上950AUN以下を含むホームベーカリー用の米粉パン用組成物が開示されており(特許文献3)、特定のプロテアーゼを含有する米粉パン用添加剤及び米粉パン用パン生地が開示されている(特許文献4)。
【0006】
他方、パン類やパン類生地の改質に際し、近年ではそれらの要求を天然物質由来の原料で解決することが望まれている。その中でも乳由来のリン脂質は、風味が良好であることから、パン類への利用が増加してきている。
このような乳由来リン脂質含有素材としては、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分を挙げることができる。
【0007】
クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分(以下、単に水相成分とも書く)をパン類の食感の改良に用いた検討として、例えば特許文献5や特許文献6が挙げられる。
また、本出願人は、水相成分の機能向上を行う観点から、該成分を酸処理したり(特許文献7)、該水相成分をカルシウム分の添加によるカルシウム処理を施したり(特許文献8)、酸処理した後に生じる沈殿を除去したり(特許文献9)することで水中油型乳化物における乳化性能が向上することや、製パンに用いた際の食感改良効果が向上することについて報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5-068468号公報
【特許文献2】特開2004-008007号公報
【特許文献3】特開2013-039076号公報
【特許文献4】特開2014-033646号公報
【特許文献5】特開2006ー204130号公報
【特許文献6】特開2005-046085号公報
【特許文献7】特開2015-077123号公報
【特許文献8】特開2015-053924号公報
【特許文献9】特開2020-068664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、良好なボリュームと食感を有するパン類(特にグルテンフリー粉を含有するパン類)、及び該パン類が得られるパン類生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らによる鋭意検討の結果、特定の条件を満たす、水相を連続相とする組成物及び油相を連続相とする組成物をパン類生地に含有させることにより、特にグルテンフリー粉を含有するパン類において、良好なボリュームと食感を有するパン類を得られることが知見された。
【0011】
本発明はこの知見に基づくものであり、具体的には以下のとおりである。
[1]水相を連続相とする組成物と、油相を連続相とする組成物とを含有する、パン類生地であって、水相を連続相とする組成物は以下の条件(1)を満たし、油相を連続相とする組成物は以下の条件(2)を満たし、パン類生地は以下の条件(3)を満たす、パン類生地(条件(1):クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を50質量%以上含有し、ただし、該水相成分の濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%である。条件(2):組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する。条件(3):パン類生地の製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。)。
[2]パン類生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対する、水相を連続相とする組成物の量が0.1~1.5質量部である、[1]に記載のパン類生地。
[3]パン類生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対する、油相を連続相とする組成物の量が、1~15質量部である、[1]又は[2]に記載のパン類生地。
[4][1]又は[2]に記載のパン類生地の加熱処理品であるパン類。
[5][3]に記載のパン類生地の加熱処理品であるパン類。
[6]中種法で製造されるパン類生地の製造方法であって、水相を連続相とする組成物を中種生地の製造時に含有させ、油相を連続相とする組成物を本捏生地の製造時に含有させることを特徴とし、水相を連続相とする組成物は以下の条件(1)を満たし、油相を連続相とする組成物は以下の条件(2)を満たし、パン類生地は以下の条件(3)を満たす、パン類生地の製造方法(条件(1):クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を50質量%以上含有し、ただし、該水相成分の濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%である。条件(2):組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する。条件(3):パン類生地の製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好なボリュームと食感を有するパン類(特にグルテンフリー粉を含有するパン類)、及び該パン類が得られるパン類生地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳述する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要素を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0014】
本発明のパン類生地に用いられる水相を連続相とする組成物(以下、本発明の水相を連続相とする組成物と記載する)について述べる。
【0015】
本発明の水相を連続相とする組成物は、以下の条件(1)を満たすものである。
条件(1):クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物を50質量%以上含有する。ただし、該水相成分の濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%である。
【0016】
まず、本発明の水相を連続相とする組成物に含有される、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分(以下、本発明の水相成分と記載する)の濃縮物(以下、単に水相成分濃縮物と記載する)について述べる。
【0017】
本発明で使用される水相成分濃縮物は、本発明の水相成分の濃縮物であり、好ましくは、後述する方法のいずれかにより得られる水相成分を噴霧乾燥や遠心分離等の手法により濃縮することにより得られるものである。本発明で使用される水相成分濃縮物は、乳固形分が25~50質量%、且つ乳固形分中のリン脂質の含有量が7~15質量%であることを特徴とする。
【0018】
本発明で使用される水相成分濃縮物は、水相成分を、乳固形分が25~50質量%、好ましくは32~50質量%、より好ましくは35~45質量%になるまで、噴霧乾燥や遠心分離等の手法により濃縮したものである。
【0019】
水相成分中の乳固形分を上記範囲内とすることにより、本発明のパン類生地を加熱処理して得られるパン類を良好なボリュームと食感を有するものにすることができる。また、好ましい範囲を満たすことで、得られるパン類生地の伸展性を高めることができる。
【0020】
本発明で用いられる水相成分濃縮物の成分組成としては、蛋白質含量は10~15質量%、脂質含量は4~6質量%、炭水化物量は16~20質量%、灰分含量は2.5~4.0質量%、水分含量は残余(例えば60質量%以上)であることが、本発明の水相を連続相とする組成物を製造する観点や、ボリュームのあるパン類を得る観点から好ましい。
【0021】
上記水分含量は、例えば68質量%以下であり、好ましくは67.5質量%以下である。水相成分濃縮物は、固形分が好ましくは25~50質量%、より好ましくは30~45質量%、さらに好ましくは35~40質量%である。
【0022】
水相成分濃縮物の固形分は、上述の乳固形分と同じであってもよい。すなわち、水相成分濃縮物の固形分が全て乳固形分であってもよい。
また、本発明に用いられる水相成分濃縮物の乳固形分中のリン脂質の含有量は7~15質量%である。
該範囲を逸脱する場合は本発明の効果が得られない。
【0023】
水相成分濃縮物の乳固形分中のリン脂質の含有量は、好ましくは7.5~14質量%であり、より好ましくは8.0~13質量%であり、最も好ましくは8.5~12質量%である。
本発明におけるリン脂質の定量は、以下の方法にて測定することができる。なお、脂質の抽出方法などについては水相成分の形態などによって適正な方法が異なるが、本発明における水相成分ないし水相成分濃縮物の脂質はFolch法を用いて抽出することができる。
【0024】
まず、水相成分濃縮物から抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解20002.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解20002.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて乳原料の乳固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳原料-乳原料の水分(g))×25.4×(0.1/1000)
【0025】
本発明の水相成分濃縮物を製造する際に用いられる、本発明の水相成分がクリームからバターを得る際に生じるものである場合には、以下の(1)(2)の方法で得られる。
(1)まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で脂肪球を破壊して凝集させ、バター粒を形成させる工程で副産物として発生する水相成分を回収する。
(2)まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理する。最後の遠心分離によりバターオイルが得られるが、このバターオイルの副産物として発生する水相成分を回収する。
【0026】
本発明の水相成分濃縮物を製造する際に用いられる、本発明の水相成分がバターからバターオイルを得る際に生じるものである場合には、以下の(3)の方法で得られる。
(3)まず、バターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生する水相成分を回収する。なお、該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0027】
本発明の水相を連続相とする組成物中の、本発明の水相成分濃縮物の含有量は、より良好なボリュームと食感を有するパン類を得る観点から、好ましくは65~85質量%であり、より好ましくは68~82質量%であり、さらに好ましくは70~80質量%である。
【0028】
本発明の水相を連続相とする組成物は、上記の本発明の水相成分濃縮物の他、本発明のパン類生地を加熱処理して得られるパン類のボリュームや食感を向上させる観点から、好ましくは全乳蛋白質を含有する。
【0029】
本発明の水相を連続相とする組成物中の全乳蛋白質の量は、該組成物中の全乳蛋白質の量を該組成物の水分量で除して得られる対水濃度が0.005~0.025質量%の範囲となるように全乳蛋白質を含有することが好ましく、0.005~0.020質量%となるように含有させることがより好ましく、0.005~0.015質量%となるように含有することがさらに好ましい。
本発明において、全乳蛋白質として用いることができるものとしては、例えばトータルミルクプロテインやミルクプロテインコンセントレートを挙げることができる。
【0030】
本発明の水相を連続相とする組成物は、本発明の水相成分濃縮物、好ましくは全乳蛋白質の他、本発明の効果を損ねない範囲で、その他成分として油脂や乳化剤、糖類、甘味料、乳化剤、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料等を含有させることができる。
なお、グアガムやキサンタンガム、アルギン酸類、寒天、ゼラチン、澱粉等の増粘剤や、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ミセルカゼインアイソレート等の全乳蛋白質以外の乳蛋白質については、得られる効果を損ねないようにするため、含有させないことが好ましい。
その他成分として油脂を含有させる場合には、本発明の水相を連続相とする組成物中1質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。
【0031】
次に、本発明の水相を連続相とする組成物が含有する水分について述べる。
本発明の水相を連続相とする組成物が含有する水分は、本発明の水相成分濃縮物に含有される水分の他、好ましく含有される全乳蛋白質や、上記のその他成分に含有される水分も考慮して、60~80質量%であることが好ましく、63~77質量%であることがより好ましく、65~75質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明の水相を連続相とする組成物が含有する油分は、6質量%以下であることが、本発明のパン類生地のべたつきを抑えたり、得られるパン類が良好なボリュームと食感を有するものとしたりする観点から好ましい。同じ観点から、5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることが更に好ましく、3.8質量%以下であることが最も好ましく、本発明の水相を連続相とする組成物中の油分の下限は好ましくは1質量%である。
【0033】
本発明の水相を連続相とする組成物は、均一に水相成分濃縮物が混合・分散されている状態とする観点や、良好なボリュームと食感を有するパン類を得る観点から、以下の(工程1)~(工程3)を含み、この順で経る製造方法により、好ましく製造される。
【0034】
(工程1)全乳蛋白質の対水濃度が0.005~0.025%である水溶液100質量部と、水相成分濃縮物とを、該濃縮物の固形分として85~160質量部となる量で混合し、分散させたミックス液を得る工程
(工程2)該ミックス液を均質化する、第一の均質化工程
(工程3)第一の均質化工程を経たミックス液を、少なくとも100℃以上となるように加熱する工程
【0035】
工程1は、所定濃度の全乳蛋白質の水溶液に、水相成分濃縮物を含有させミックス液を得る工程である。
まず、対水濃度が0.005~0.025質量%となるように全乳蛋白質の水溶液を調製する。
全乳蛋白質の水溶液を調製する際には、ダマの発生を抑制する観点や、後述する第一の均質化工程を経て水相成分濃縮物が均一に分散しやすくなる観点から、全乳蛋白質を投入する水の温度を45~65℃とすることが好ましい。
【0036】
全乳蛋白質の水溶液の温度はより好ましくは45~65℃、特に好ましくは50~60℃である。なお、ミックス液を調製した後、上記温度範囲となるように調温してもよい。
次に、全乳蛋白質の水溶液100質量部と水相成分濃縮物とを、該濃縮物の固形分が85~160質量部となる量で混合する。好ましくは、全乳蛋白質の水溶液100質量部中に、水相成分濃縮物を固形分として85~160質量部添加し、撹拌等を行い分散させてミックス液を得る。
全乳蛋白質の水溶液は水相成分濃縮物に加えてもよく、水相成分濃縮物を全乳蛋白質の水溶液に加えても良い。
【0037】
水相成分濃縮物は、調製されるミックス液の乳化安定性を高め沈殿が発生するのを抑制する観点や、本発明により得られるパン類のボリュームと食感を向上させる観点から、固形分として95~150質量部添加することが好ましく、105~140質量部添加することがより好ましく、115~130質量部添加することが最も好ましい。
【0038】
工程2は、工程1で得られたミックス液を均質化する工程である。本発明においては、工程2における均質化工程を第一の均質化工程ともいう。
ミックス液の均質化は、水相成分濃縮物中の固形分の塊を解砕してミックス液中に分散させることができる方法であれば特に限定されず、通常、圧力(均質化圧力)を加える方法により行うことができ、例えば、せん断乳化、ホモジナイズ、混練等の方法により行うことができる。
【0039】
工程2における均質化工程で用いられる均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミルなどがあげられる。均質化圧力は特に制限はないが、水相成分濃縮物中の固形分の塊を解砕し、複合体として存在する蛋白質とリン脂質の相互作用を弱める観点から均質化する際の圧力(以下、単に均質化圧力とも記載する)は1.0~6.0MPaであることが好ましく、2.5~5.7MPaであることがより好ましく、4.0~5.4MPaであることが最も好ましい。2段式ホモジナイザーを用いて均質化処理をする場合のように均質化圧力を2段階に分けて加える場合(いずれかの段階において均質化圧力を加えない場合を含む)は、例えば、1段目の均質化圧力が上記範囲を満たすように設定し、2段目を0~5MPaの均質化圧力にて行っても良い。
【0040】
ミックス液を均質化機に供する際、その液温が45~75℃であることが好ましく、50~70℃であることがより好ましく、50~65℃であることがさらに好ましく、50~60℃であることが特に好ましい。
【0041】
工程3は、第一の均質化工程を経たミックス液を100℃以上となるまで加熱する工程である。
ミックス液は100℃以上で加熱されるが、好ましくは110~160℃、より好ましくは120~155℃、特に好ましくは130~150℃となるように加熱され、本発明の水相を連続相とする組成物の風味を損なわないようにする観点から、ミックス液が100℃に達温してからの加熱時間を好ましくは1秒~10分とすることができ、より好ましくは1秒~5分とすることができ、さらに好ましくは1秒~1分とすることができる。
【0042】
100℃以上となるまで加熱する方法としては特に問わず、インジェクション式、インフュージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT、HTST、バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理、あるいは直火等の加熱調理等の手法を挙げることができる。
【0043】
本発明の水相を連続相とする組成物に褐変が生じたり、異質な風味が発生するのを抑制する観点から、この中でもUHT加熱処理を行うことが好ましい。
UHT加熱処理の条件としては特に制限はないが、設定温度条件は好ましくは120~160℃、さらに好ましくは130~150℃、最も好ましくは139~146℃であり、処理時間は好ましくは1~6秒、さらに好ましくは2~6秒、最も好ましくは4~6秒である。
【0044】
上記加熱の後、急速冷却、徐冷却などの冷却操作を行っても良い。なお、冷却操作を行う場合には、液温が20℃以下となるまで冷却することが好ましく、15℃以下となるまで冷却することがより好ましく、10℃以下となるまで冷却することが特に好ましい。後述する工程4を経る場合、工程3の後且つ工程4の前に冷却操作を行ってもよいが、行わないことが好ましく、冷却操作は工程3の後でなく工程4の後に行うことが好ましい。
上記の工程1~3に加えて、好ましくは次の工程4を経ることにより、いっそう好ましいパン類を得ることができるようになる。
【0045】
工程4は、工程3を経たミックス液を、再度均質化する工程である。本発明においては、工程2における均質化工程を第一の均質化工程ともいい、工程4における均質化工程を第二の均質化工程ともいう。
工程3の加熱の方式によっては熱凝集が生じる場合があるところ、再度均質化処理を行うことにより、凝集が解砕されると共に、いっそう本発明の効果が高く得られるため、工程4を経ることが好ましい。
【0046】
工程4におけるミックス液の均質化の方法としては、工程2における均質化の方法と同様である。また、工程4における、第二の均質化工程に用いられる均質化機としては、工程2における第一の均質化工程と同様であり、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミルなどがあげられる。
【0047】
第二の均質化工程における均質化圧力は特に制限はないが、得られる本発明の水相を連続相とする組成物の経時的な安定性を高める観点や、製パン改良効果をいっそう高める観点から、均質化圧力は5.0~20.0MPaであることが好ましく、6.5~16.5MPaであることがより好ましく、10.0~13.5MPaであることが最も好ましい。2段式ホモジナイザーを用いて均質化処理をする場合のように均質化圧力を2段階に分けて加える場合(いずれかの段階において均質化圧力を加えない場合を含む)は、例えば、1段目の均質化圧力が上記範囲を満たすように設定し、2段目を0~5MPaの均質化圧力にて行っても良い。
【0048】
第二の均質化工程を経る場合には、第一の均質化工程における均質化圧力よりも第二の均質化工程における均質化圧力が大であることが好ましい。
第二の均質化工程における均質化圧力を第一の均質化工程よりも低く設定すると、凝集や沈殿が発生しやすくなり、経日的な安定性が低下する場合がある場合があることから、工程2における第一の均質化工程における均質化圧力よりも、工程4における第二の均質化工程における均質化圧力を大とすることが好ましい。なお、第一の均質化工程又は第二の均質化工程、あるいは双方の均質化工程において2段式のホモジナイザーを用いる場合のように均質化圧力を2段階に分けて加える場合(いずれかの段階において均質化圧力を加えない場合を含む)には、1段目の設定圧力を基準として比較し、その大小を確認するものとする。
【0049】
本発明においては、第二の均質化工程における均質化圧力が、第一の均質化工程における均質化圧力よりも、2MPa以上大きいことが好ましく、4MPa以上大きいことがより好ましく、6MPa以上大きいことが特に好ましく、第二の均質化工程における均質化圧力と第一の均質化工程における均質化圧力との差は、例えば、10MPa以下であることが好ましい。
【0050】
本発明の製造方法において、第二の均質化工程を行う場合には、経時的な安定性を高める観点から、第二の均質化工程に供するミックス液の液温を、好ましくは100℃以下、より好ましくは70~90℃、最も好ましくは75~85℃とする。第二の均質化工程におけるミックス液の液温は、好ましくは45~100℃、より好ましくは50~90℃、さらに好ましくは55~85℃である。第二の均質化工程に供した後のミックス液の液温は、加温等により維持してもよいが、加温しない又は維持しないことでもよく、第二の均質化工程の終了時におけるミックス液の液温(均質化装置の出口温度)は、例えば、第二の均質化工程に供するミックス液の液温よりも低温であってもよく、具体的には、例えば45~75℃であってよく、好ましくは50~70℃、より好ましくは55~65℃である。
【0051】
また、第二の均質化工程を経た後に、急速冷却、徐冷却などの冷却操作を行っても良い。なお、冷却操作を行う場合には、液温が20℃以下となるまで冷却することが好ましく、15℃以下となるまで冷却することがより好ましく、10℃以下となるまで冷却することが特に好ましい。
本発明の製造方法においては、工程4の後、第三~第n(nは整数)の均質化工程を経ることもできるが、均質化工程を施して得られる効果が希薄であるため、工程4の後、均質化工程を経ないことが好ましい。
【0052】
本発明の水相を連続相とする組成物の製造は、上記の工程1~3、好ましくは上記の工程1~4の他、本発明の効果を損ねない範囲で、任意の工程を、各工程の前後に任意に組み入れることができる。組み入れることができる工程としては、例えばpH調整工程が挙げられる。
【0053】
pH調整工程を組み入れる場合は、好ましくはpH3~6、より好ましくはpH4~6、最も好ましくはpH4.7~5.8に調整することができる。
pHを調整する方法としては、酸を添加して調整する方法や、乳酸醗酵等によりpHが3~6等の上記範囲内となるように処理する方法等が挙げられる。pHが3~6等の上記範囲内となるように酸を使用する場合は、使用する酸は無機酸であっても有機酸であってもよいが、有機酸であることが好ましい。該有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられ、果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルトなどの有機酸を含有する飲食品も用いることができるが、本発明においてはより酸味が少なく、風味に影響しない点でフィチン酸、グルコン酸を使用することが好ましい。
【0054】
その他の工程は、上記工程1~4の任意の工程の間に組み入れることができるが、好ましくは工程1と工程2を連続して行い、より好ましくは工程1~3を連続して行い、さらに好ましくは工程1~4を連続して行い、本発明の水相を連続相とする組成物の効果を最大化する観点から、最も好ましくは上記の工程1~4を連続して行い、かつ工程1~4以外の工程を含まない。
なお、製造された本発明の水相を連続相とする組成物に対して、撹拌や濾過を行ったり、容器に充填したりする作業は、上記の工程には含めないものとする。
【0055】
工程1~3、好ましくは工程1~4において、ミックス液は、通常pH3~7であり、好ましくはpH4~6.8、より好ましくはpH5~6.7、さらに好ましくはpH6.0~6.5である。したがって、本発明の製造方法は、上記pH調整工程を含む必要は特になく、好ましくは上記pH調整工程を含まない。
【0056】
本発明の水相を連続相とする組成物の形態は、水相を連続相とするものであれば、水溶液であってもよく、乳化物であってもよい。
本発明の効果を損ねない範囲で任意の形態をとることができるが、好ましくは本発明の水相を連続相とする組成物中に油脂を10%以上含有する場合には、乳化物とすることが好ましい。
乳化形態は水相を連続相とするものであればよいが、好ましくは水中油型乳化物であることが好ましい。
【0057】
本発明のパン類生地に用いられる、油相を連続相とする組成物(以下、本発明の油相を連続相とする組成物と記載する)について述べる。
本発明の油相を連続相とする組成物は、以下の条件(2)を満たすものである。
条件(2):組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する
【0058】
「酸化還元酵素(oxidoreductase)」とは、基質の酸化還元反応を触媒する活性を有する酵素を指し、酸化還元酵素としては、オキシダーゼ(oxidase)を挙げることができる。
「オキシダーゼ」とは、基質を酸化する反応を触媒する活性を有する酵素であり、具体的には、酸素の存在下で基質を酸化する反応を触媒する活性を有する酵素を指す。
オキシダーゼとしては、例えば、グルコースオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、ラクトースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ、リジルオキシダーゼが挙げられる。
【0059】
酸化還元酵素の由来は特に制限されない。酸化還元酵素は、微生物、動物、植物等いずれの由来のものであってもよく、公知の酸化還元酵素を使用しうる。酸化還元酵素としては、例えば、市販品を利用してもよく、適宜製造して取得したものを利用してもよい。酸化還元酵素としては、1種の酸化還元酵素を用いてもよく、2種又はそれ以上の酸化還元酵素を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明において、酸化還元酵素は、酸化還元酵素以外の成分を含有していてもよく、含有していなくてもよい。例えば、市販のグルコースオキシダーゼ製剤にはカタラーゼを含有するものがある。酸化還元酵素としては、そのような酸化還元酵素と他の酵素の混合物を用いてもよい。
酸化還元酵素であるオキシダーゼのうち、本発明のパン類生地の性状及びボリュームが好ましく改善される点や、入手容易である点、添加効果が得られやすい点から、グルコースオキシダーゼを用いることが好ましい。
なお、本発明においてグルコースオキシダーゼとは、グルコースを酸化する反応を触媒する活性を有する酵素であり、具体的には、グルコース及び酸素を基質として、グルコノラクトン及び過酸化水素を生成する反応を触媒する活性を有する酵素を指す。
【0061】
以下、本発明で好ましく用いられるグルコースオキシダーゼについてさらに詳述する。
グルコースオキシダーゼとしては、市販のいずれのグルコースオキシダーゼ製剤も使用することができ、例えば、DSMフードスペシャリティーズ社(又はディー・エス・エムジャパン(株))の「ベイクザイムGo Pure BG」、「ベイクザイムGO1500」、「マキサパールGO4」;ダニスコジャパン(株)の「グリンドアミルS757」、「グリンドアミルS700」;新日本化学工業(株)の「スミチームGOP」;ノボザイムジャパン(株)の「グルザイム10000BG」、「グルザイムBG」;天野エンザイム(株)の「ハイデラーゼ」、「ハイデラーゼ15」;ナガセ生化学工業(株)の「グルコースオキシダーゼAN1」が挙げられる。
【0062】
グルコースオキシダーゼの酵素活性は、例えば、GOPU(Glucose Oxidase Penicillium Unit)で表示され、1GOPUは、定められた測定条件下で、3mgのグルコースをグルコン酸に酸化するのに必要な酵素量である。具体的な酵素活性の測定は、グルコース及び酸素を基質として35℃、pH5.1の条件下に15分間インキュベートし、グルコースオキシダーゼによる反応、すなわち、該酸素の存在下で過酸化水素を生成しグルコースをグルコン酸に変換する反応を過剰の水酸化ナトリウムによって終了させ、生成したグルコン酸を中和する。過剰に残った水酸化ナトリウムを滴定すると、グルコースオキシダーゼ活性に反比例しているため、反応終了後の水酸化ナトリウムの余剰分を塩酸で逆滴定する。必要な塩酸量は、酵素なしのブランク・インキュベーションの塩酸量と比較し、生成したグルコン酸の量(つまり酸化されたグルコースの量)を直接測定する。
【0063】
本発明の油相を連続相とする組成物100gあたりの酸化還元酵素の含有量は、通常、45単位以上であり、好ましくは60単位以上又は78単位以上、より好ましくは95単位以上、さらに好ましくは125単位以上であり、その上限は、通常、500単位以下であり、好ましくは315単位以下、より好ましくは250単位以下、さらに好ましくは220単位以下である。
したがって一実施形態において、本発明の油相を連続相とする組成物は、該組成物100gあたり、酸化還元酵素を45~500単位含有する。
【0064】
酸化還元酵素の含有量が上記範囲内であると良好なボリュームと食感を呈するパン類が得られやすい。
なお、用いる酸化還元酵素の至適温度は、35~50℃の範囲にあることが好ましい。用いる酸化還元酵素の至適温度が上記範囲内であると、本発明のパン類生地のべたつきが抑えられ、酸化還元酵素を十分に作用させることができる。
【0065】
本発明の油相を連続相とする組成物は、酸化還元酵素以外の酵素も含有してよい。例えば、αアミラーゼ、βアミラーゼ、イソアミラーゼ、グルコアミラーゼ等のアミラーゼをはじめとする澱粉分解酵素;プロトペクチナーゼ、ポリガラクチュロナーゼ等のペクチナーゼ;アラバナーゼ等の多糖分解酵素;プルラナーゼ、デキストラナーゼ、トランスグルコシダーゼ(αグルコシダーゼ)、βグルカナーゼ(例、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ(キシラナーゼ、ガラクタナーゼ、マンナナーゼ等))等のグルカナーゼ;リパーゼ、ホスホリパーゼ等の脂肪酸分解酵素;ペプシン、パパイン等のプロテアーゼ;マルトトリオシル転移酵素等のグリコシル基転移酵素;スターチブランチングエンザイム、グリコーゲンブランチングエンザイム等のブランチングエンザイムを挙げることができる。得られるパン類のボリュームに加えて食感も改善する観点から、本発明の油相を連続相とする組成物は、上記の酸化還元酵素に加えて、アミラーゼを含有することが好ましく、αアミラーゼを含有することがより好ましく、αアミラーゼ、及び、キシラナーゼ又はヘミセルラーゼを含有することがさらに好ましく、αアミラーゼ及びヘミセルラーゼを含有することがさらにより好ましい。
【0066】
以下、本発明で好ましく用いられるアミラーゼについて説明する。
アミラーゼは、澱粉等が有するグリコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、一般にアミラーゼはその作用部位の違いによって、α-1,4グルコシド結合をランダムに切断するα-アミラーゼ、非還元性末端からマルトース単位で逐次分解するβ-アミラーゼ、同じくα-1,4グルコシド結合をグルコース単位で分解し、また、分岐点のα-1,6結合をも分解するグルコアミラーゼ等が挙げられる。
【0067】
本発明の効果をより享受し得る観点から、本発明の油相を連続相とする組成物は、先述の酸化還元酵素に加えて、αアミラーゼ及びβアミラーゼから選ばれる1種以上を含有することが好ましく、中でもαアミラーゼを含有することがより好ましい。
αアミラーゼ等のアミラーゼは、細菌、カビ、穀物等、その由来によらずいずれも使用することができる。
【0068】
本発明では、本発明の効果をいっそう好ましく得る観点や、しっとりとして歯切れのよい食感を得る観点から、アミラーゼとしては、マルトオリゴ糖生成アミラーゼを使用することが好ましく、中でもマルトオリゴ糖生成α-アミラーゼを使用することが好ましい。
【0069】
マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼは、澱粉等のα-グルカンを基質として、ある特定の重合度でグルコースがα-1,4結合したマルトオリゴ糖を生成する作用を有するα-アミラーゼをいう。マルトオリゴ糖とは、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、マルトヘプタオース等をいう。
マルトオリゴ糖生成α-アミラーゼとしては、例えば、グルコースを産生するグルコアミラーゼ(単にアミラーゼと呼称される場合もある)、マルトースを産生するマルトース生成アミラーゼ、マルトテトラオースを産生するマルトテトラオース生成アミラーゼ等を挙げることができ、これらの群の中から1種又は2種以上を選択して使用してよい。なかでも上記効果がより好ましく得られる点で、マルトース生成αアミラーゼを含む1種以上を選択することが好ましい。
【0070】
本発明で好ましく用いられるアミラーゼ(好適にはαアミラーゼ)の至適温度は60℃以上であることが好ましく、より好ましくは65~95℃、さらに好ましくは70~90℃である。至適温度が60℃以上のアミラーゼを用いることにより、本発明のパン類のボリュームの改善とともに、べたつきが抑えられ扱いやすいパン類生地が得られやすくなる。
【0071】
本発明の油相を連続相とする組成物100gあたりのアミラーゼの含有量は、求めるパン類のボリューム及び食感、パン類生地に配合される本発明の油相を連続相とする組成物の量によって異なり、これらを考慮した上で任意の量を設定してよいが、好ましくは150単位以上、より好ましくは200単位以上又は250単位以上、さらに好ましくは300単位以上、さらにより好ましくは320単位以上又は400単位以上であり、その上限は、好ましくは1500単位以下、より好ましくは1000単位以下、さらに好ましくは800単位以下、さらにより好ましくは700単位以下である。
【0072】
アミラーゼの含有量を上記範囲とすることで、べたつきが抑えられ作業性の良好なパン類生地が得られやすく、ボリューム及び食感がより良好なパン類が得られやすい。
なお、グルコアミラーゼの酵素活性は、標準の条件(37℃及びpH4.7)下で、1時間当たり5260mgの澱粉を分解する酵素の量(菌類α-アミラーゼ単位・FAUともいう)を指標とし、該酵素量を1単位とする。
【0073】
また、マルトース生成アミラーゼの酵素活性は、例えば至適条件(至適温度、至適pH等)下において、マルトトリオースを基質に酵素を作用させ、1分間に1マイクロモルのマルトースを生成する酵素量を指標とし、該酵素量を1単位とする。
また、マルトテトラオース生成アミラーゼの酵素活性は、例えば0.1Mリン酸緩衡液(pH7.0)に溶解した2.0質量%可溶性澱粉0.5mLに、適量の酵素を加え、全量1.0mLで、温度40℃で酵素反応を行い、生成するマルトテトラオース及びその他還元糖をソモギー・ネルソン法で定量し、この条件で、1分間に1μmoLのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を指標とし、該酵素量を1単位とする。
【0074】
以下、本発明に好ましく用いられるヘミセルラーゼについて述べる。
ヘミセルラーゼとはヘミセルロースを基質として加水分解する酵素の総称であり、基質となるヘミセルロースは陸上植物細胞の細胞壁を構成する多糖類のうち、セルロース及びペクチン以外のものであり、具体的には、キシラン、アラビノキシラン、アラビナン、マンナン、ガラクタン、キシログルカン、グルコマンナン等が挙げられる。
【0075】
へミセルラーゼの由来としては、第9版食品添加物公定書の規格を満たすものを用いてよく、これらのうち1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
ヘミセルラーゼは、主たる基質の違いから、キシランを分解するキシラナーゼ、アラビノキシランを分解するアラビノキシラナーゼ等にさらに分類することができるが、実態としてはこれらの活性を具有するものであることが多く、市販されている酵素製剤もこれらの活性を具有するものが多い。
【0076】
本発明の油相を連続相とする組成物に用いることができるヘミセルラーゼを含む市販の酵素製剤としては、例えば、DSMフードスペシャリティーズ社(又はディー・エス・エムジャパン(株))の「ベイクザイムBXP5001BG」、「ベイクザイムHS2000」、「ベイクザイムIConc」;天野製薬株式会社のヘミセルラーゼ「アマノ」;洛東化成工業社のエンチロンLQ;エイチビィアイ社の「ヘミセルラーゼM」;新日本化学工業社の「スミチーム(登録商標)X」が挙げられる。
【0077】
本発明では、ボリュームが良好なパン類が得られながら、作業性良好なパン類生地が得られる点で、アラビノキシランを主たる基質とするヘミセルラーゼを用いることが好ましく、アラビノキシランを主たる基質とするヘミセルラーゼのうち不溶性アラビノキシランへの基質親和性と水溶性アラビノキシランへの基質親和性との比(分解活性比:不溶性アラビノキシラン/水溶性アラビノキシラン、以下単に「分解活性比」という。)が10以上であるヘミセルラーゼを使用することがより好ましい。
【0078】
本発明において、「アラビノキシランを主基質とする」とは、アラビノキシランを分解する活性が、好ましくは1000単位/g以上、より好ましくは2000単位/g以上、さらに好ましくは3000単位/g以上であることを指す。
【0079】
ここでいうアラビノキシランは不溶性又は水溶性を問わず、いずれのアラビノキシランを基質とした場合であっても、上記の下限以上の活性に該当した場合には「アラビノキシランを主基質とする」ことに該当するものとする。また、1単位とは、1分間につき1μmolのキシロース当量の還元糖を生じる酵素の量として定義されるものとし、ヘミセルラーゼを、至適条件(至適温度、至適pH等)下で基質に作用させ、単位時間あたりに所定のモル数の分解物を生成する酵素量として定義することができる。
なお、本発明で用いられるヘミセルラーゼの至適温度は、ミキシングからホイロの間で、主として不溶性アラビノキシランに作用させる目的から、20~90℃であることが好ましく、22~50℃であることがより好ましく、25~50℃又は23~45℃であることがさらに好ましく、最も好ましくは25~40℃である。
【0080】
本発明の油相を連続相とする組成物100gあたりのヘミセルラーゼの含有量は、アラビノキシランを基質とした場合の活性が、好ましくは100単位以上、より好ましくは150単位以上、さらに好ましくは200単位以上、さらにより好ましくは250単位以上であり、その上限は、好ましくは1000単位以下、より好ましくは600単位以下、さらに好ましくは500単位以下、さらにより好ましくは400単位以下である。
【0081】
ヘミセルラーゼの含有量を上記の数値範囲とすることで、べたつきがより抑えられ作業性の良好なパン類生地が得られやすく、歯切れがより良好なパン類が得られやすい。
また、用いられるヘミセルラーゼの分解活性比は、好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上であり、その上限は好ましくは40以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下である。したがって、一実施形態において、ヘミセルラーゼの分解活性比は、好ましくは10~40であり、より好ましくは15~35、さらに好ましくは20~30である。ヘミセルラーゼの分解活性比が上記数値範囲内であることにより、酵素を十分作用させることができ、水分含量の高いパン類生地であっても、生地のべたつきを抑えることができる。
【0082】
本発明におけるヘミセルラーゼの分解活性比の算出は、下記(1)~(3)による方法に基づいて行われる。
(1)不溶性アラビノキシランに対する酵素活性の測定
不溶性アラビノキシラン製剤(XylazymeAX:メガザイム社製)の懸濁液(40mgの試料を8mLの脱イオン水に懸濁)300μLをマイクロプレートに分注し凍結乾燥したものを測定に用いる。このマイクロプレートの各ウェルに酵素液(ウシ血清アルブミン(0.5mg/mL)を含むpH4.6、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液に、酵素を0~40単位懸濁したもの)25μL及び該緩衝液25μLを分注して酵素反応を開始し、37℃で1時間酵素反応させた後、1%(w/v)トリス緩衝液200μLを添加して酵素反応を停止する。10分間室温でおいた後、遠心分離(3000g、15分)して得た上清について、分光光度計を用いて吸光度を600nmで読み取る。なお、酵素液の代わりに緩衝液を添加したものをブランクとして使用する。
【0083】
(2)水溶性アラビノキシランに対する酵素活性の測定
水溶性アラビノキシラン溶液(AZOWAX:メガザイム社製)33μL及び酵素液(ウシ血清アルブミン(0.5mg/mL)を含むpH4.6、0.1Mの酢酸ナトリウム緩衝液に、酵素を0~40単位懸濁したもの)33μLをマイクロプレートの各ウェルに分注して酵素反応を開始する。37℃で1時間酵素反応させた後、エタノール140μLを添加して酵素反応を停止する。10分間室温でおいた後、遠心分離(3000g、15分)して得た上清について、分光光度計を用いて吸光度を600nmで読み取る。なお、酵素液の代わりに緩衝液を添加したものをブランクとして使用する。
【0084】
(3)不溶性アラビノキシランへの基質親和性、及び水溶性アラビノキシランへの基質親和性の比の算出
1つの酵素につき上記(1)及び(2)の両方の酵素活性の測定を行い、それらの結果から以下のようにして、「不溶性アラビノキシランへの基質親和性、及び水溶性アラビノキシランへの基質親和性の比」を算出する。
それぞれの吸光度と酵素含量について非線形回帰曲線Y=Ymax×(1-e-K*X)(Yは吸光度、Xは酵素量)をプロットし、その直線性のある部分、好ましくはYの最大値の1/10以下の範囲で、その傾き(S)を下記の式により算出する。
傾き(S)=(Ymax×K)/1.0536
ここで、この傾きの比、すなわちS(不溶性アラビノキシラン)/S(水溶性アラビノキシラン)の値を「不溶性アラビノキシランへの基質親和性、及び水溶性アラビノキシランへの基質親和性の比」とする。
【0085】
本発明の油相を連続相とする組成物の製造において用いることができる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂等の各種植物油脂、乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1種又は2種以上の処理を施した加工油脂等が挙げられる。本発明においては、上記の油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0086】
本発明の効果を好ましく得る観点からは、本発明の油相を連続相とする組成物に用いられる油脂の80質量%以上がランダムエステル交換油脂であることが好ましい。いっそう好ましくボリュームと食感が改善されたパン類を得る観点から、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上であり、上限は100質量%である。
【0087】
本発明に用いられるランダムエステル交換油脂は特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油(ハイエルシン種を含む)、米油、ヒマワリ油(ハイオレイック種を含む)、サフラワー油(ハイオレイック種を含む)、オリーブ油、キャノーラ油等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂のうちから、1種又は2種以上を選択して混合した油脂混合物をランダムエステル交換して得られる油脂を用いてよい。
なお、本発明においては、ランダムエステル交換した後に、水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した油脂も、ランダムエステル交換油脂として取り扱うものとする。
【0088】
ランダムエステル交換油脂は、1種単独で用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明に用いられるランダムエステル交換油脂を製造するにあたり、ランダムエステル交換は、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いてもよく、粉末の形態で用いてもよい。以下、本発明において同様である。
【0089】
良好なボリュームを有すると共に良好な食感を呈するパン類を得る観点から、本発明の油相を連続相とする組成物は、ランダムエステル交換油脂として、以下のランダムエステル交換油脂αを含有することが好ましく、ランダムエステル交換油脂αに加えてランダムエステル交換油脂β又はランダムエステル交換油脂γのいずれか1つ以上を含有することがより好ましく、ランダムエステル交換油脂α、ランダムエステル交換油脂β、ランダムエステル交換油脂γを全て含有することがさらに好ましく、ランダムエステル交換油脂α、ランダムエステル交換油脂β、ランダムエステル交換油脂γのみ含有することが最も好ましい。
【0090】
ランダムエステル交換油脂α:パーム分別軟部油を80質量%以上含有する油脂配合物のランダムエステル交換油脂
ランダムエステル交換油脂β:パーム極度硬化油を30~50質量%含有する油脂配合物のランダムエステル交換油脂
ランダムエステル交換油脂γ:ラウリン系油脂を40~80質量%含有する油脂配合物のランダムエステル交換油脂
【0091】
本発明においてパーム分別軟部油とは、例えば、パームオレイン、スーパーオレイン、ソフトパームミッドフラクション、トップオレイン、ハードパームミッドフラクション等の、パーム油やその分別油を分別して得られる油脂が挙げられ、また、パーム分別硬部油としては、例えば、ハードステアリン、ソフトステアリン、スーパーステアリンが挙げられる。
【0092】
本発明においてパーム極度硬化油とは、パーム油を好ましくはヨウ素価が3以下、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下となるまで水素添加を行った油脂を指し、また、ラウリン系油脂とは、パーム核油やヤシ油、及びこれらの油脂に対して水素添加、分別から選択される1又は2の処理を施して得られる加工油脂を指す。
なお、本発明において、水素添加した油又は水素添加した油をさらに分別した油脂を用いる場合には、構成脂肪酸残基組成におけるトランス脂肪酸残基の量を低減する観点から、ヨウ素価が3以下となるまで硬化させた油脂を用いることが好ましく、1以下となるまで硬化させた油脂を用いることがより好ましい。
なお、油脂配合物中に、パーム極度硬化油30~50質量%の他に、ラウリン系油脂を40質量%以上含む場合には、ランダムエステル交換油脂γとして取り扱うものとする。
【0093】
本発明では、良好なボリュームと食感を得る観点から、上記のランダムエステル交換油脂α、β、γの全てを含有する場合において、各ランダムエステル交換油脂は、本発明の油相を連続相とする組成物中に以下の量範囲で好ましく含有される。
好ましくは、ランダムエステル交換油脂α:30~80質量%、ランダムエステル交換油脂β:3~50質量%、ランダムエステル交換油脂γ:3~30質量%であり、より好ましくは、ランダムエステル交換油脂α:35~70質量%、ランダムエステル交換油脂β:8~40質量%、ランダムエステル交換油脂γ:5~24質量%であり、さらに好ましくは、ランダムエステル交換油脂α:40~60質量%、ランダムエステル交換油脂β:15~30質量%、ランダムエステル交換油脂γ:7~18質量%である。
【0094】
本発明の油相を連続相とする組成物は、35℃におけるSFC(Solid Fat Content、固体脂肪含量ないし固体脂含量)が8~25%であることが好ましい。35℃におけるSFCは、好ましくは10%以上、より好ましくは12%以上、さらに好ましくは14%以上であり、その上限値は、好ましくは23%以下、より好ましくは21%以下、さらに好ましくは19%以下又は17%以下である。
【0095】
本発明の油相を連続相とする組成物の35℃におけるSFCが上記範囲内にあることで、本発明の効果がさらに得られやすい。
SFCの値は、所定温度における油脂中の固体脂の含有量を示すもので、油脂の熱膨張による比容の変化を利用して求める手法や、核磁気共鳴(NMR)を利用して求める手法等があるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。すなわち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる(以下、SFCの測定について同様である。)。
【0096】
本発明の油相を連続相とする組成物は、生地中に容易に分散させることが可能になると共に、本願発明の効果が得られやすくなる点で、油脂を分散相とする水中油型乳化物等の油脂組成物ではなく、油脂を連続相とする油脂組成物の形態をとる。
本発明の油相を連続相とする組成物は、マーガリンやファットスプレッド等の水分を含有する乳化物の形態であってもよく、水分を実質的に含有しないショートニングの形態であってもよい。
【0097】
本発明の油相を連続相とする組成物が、水分を含有する乳化物である場合、その乳化型は、水を分散相とする油中水型であってもよく、油脂が分散した水を分散相とする油中水中油型等の二重乳化以上の多重乳化型であってもよい。
なお、本発明の油相を連続相とする組成物の可塑性の有無は問われないが、パン類生地中に均一に分散させる観点から、可塑性を有していることが好ましい。
【0098】
本発明の油相を連続相とする組成物の油脂量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、上限は、好ましくは99.6質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。なお、後述するその他成分のうち、油脂を含有するその他成分を含有させる場合にはその油脂もあわせて考慮するものとする。
【0099】
また、本発明の油相を連続相とする組成物中の水分量は、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、さらにより好ましくは15質量%以上であり、上限は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、さらにより好ましくは25質量%以下又は20質量%以下である。なお、後述するその他成分のうち、水分を含有するその他成分を含有させる場合にはその水分もあわせて考慮するものとする。
【0100】
本発明の油相を連続相とする組成物は、本発明の効果を妨げない範囲において、上記の酵素及び油脂以外のその他の成分を含有することができる。
上記のその他の成分としては、例えば、水、蛋白質、糖類、甘味料、乳化剤、増粘安定剤、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、無機塩類、乳清ミネラル、乳脂肪球皮膜、β―カロチン・カラメル等の着色料、酢酸・乳酸等の酸味料、調味料、蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、カカオマス・カカオパウダー等のカカオ製品、コーヒー・紅茶・緑茶・ハーブ・穀類・豆類・野菜類・肉類魚介類・卵類等の食品素材、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、保存料、苦味料、酸味料、ジャム、フルーツソース、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加剤等を挙げることができる。その他の成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他の成分は、本発明の目的・効果を損なわない限り、任意に使用することができるが、その含有量は、好ましくは、本発明の油相を連続相とする組成物中、30質量%以下である。
【0101】
本発明の油相を連続相とする組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、好ましくは油相を構成する油脂の80質量%以上がランダムエステル交換油脂である油脂組成物中に、最終的に酸化還元酵素を油脂組成物100gあたり45~500単位含有させることが可能である限り、以下の方法で製造することができる。
【0102】
以下、好ましい態様を基に、本発明の油相を連続相とする組成物の製造方法について説明する。
まず、本発明の油相を連続相とする組成物がショートニングの形態をとる場合は、ランダムエステル交換油脂を80質量%以上含有する油脂に、必要により油溶性の乳化剤、その他の原材料等を添加した油相を用意する。また、本発明の油相を連続相とする組成物がマーガリン、ファットスプレッド等の水分を含有する乳化物の形態をとる場合は、ランダムエステル交換油脂を80質量%以上含有する油脂に必要により油溶性の乳化剤、その他の原材料等を添加した油相と、水に必要により水溶性の乳化剤、その他の材料等を添加した水相とを準備し、油相と水相とを混合して、油中水型乳化物を用意する。
【0103】
次に、必要に応じて、ショートニングの場合は油相を、マーガリンの場合は油中水型乳化物を、殺菌処理してよい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でもよく、プレート型熱交換機、掻き取り式熱交換機等を用いた連続方式でもよい。また、殺菌温度は好ましくは80~100℃、さらに好ましくは80~95℃、さらにより好ましくは80~90℃とする。その後、必要に応じて、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、さらに好ましくは40~55℃、さらにより好ましくは40~50℃とする。
【0104】
次に冷却、好ましくは急冷可塑化を行なう。この急冷可塑化は、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機が挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターをとの組合せが挙げられる。これらの装置の後に、例えば、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)、レスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0105】
急冷可塑化の速度は、特に限定されないが、通常、-2~-8℃/分であり、好ましくは-4~-6℃/分である。また、急冷可塑化の最終温度は、特に限定されないが、通常、5~15℃であり、好ましくは、8~12℃である。
【0106】
次に、酵素を含有させる方法について述べる。
先述のとおり、本発明の油相を連続相とする組成物は、酸化還元酵素に加えて、好ましくはアミラーゼ(より好ましくはαアミラーゼ)を含有する。本発明の油相を連続相とする組成物の製造にあたり、複数の酵素を用いる場合には各酵素を順次別個に添加してもよく、粉末状の酵素を事前に混合してから添加してもよい。また、酵素を含む水溶液を添加、混合してもよい。
【0107】
例えば、本発明の油相を連続相とする組成物が、可塑性油脂組成物の形態をとるとき、その製造の過程で、酵素を複数用いる場合には、それぞれ別個に、或いは事前に各酵素を混合したものを直接分散してから、急冷可塑化により可塑性油脂組成物を製造することができ、水相を含有する場合は水相に各酵素を別個に、或いは事前に各酵素を混合したものを分散させてから、油相と共に急冷可塑化することにより、可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0108】
また、可塑性油脂組成物の製造の過程で、急冷可塑化後に上記の酵素、又は上記の酵素を含有する水溶液を添加、混合する方法を採用してもよい。
本発明においては、高い酵素活性を有し、且つ、保存時の酵素活性の低下を抑制する観点から、急冷可塑化後に、酵素、又は上記の酵素を含有する水溶液を添加、混合することが好ましい。
また、本発明の油相を連続相とする組成物は、その製造工程において比重を低下させてもよい。
【0109】
本発明の油相を連続相とする組成物の比重を低下させる際は、上記のいずれかの製造工程の時点において、窒素、空気等を含気させることで調整する。本発明の油相を連続相とする組成物の25℃における比重は、好ましくは0.90未満、より好ましくは0.87以下、さらに好ましくは0.84以下、さらにより好ましくは0.80以下であり、下限は、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.60以上である。したがって、一実施形態において、本発明の油相を連続相とする組成物の25℃における比重は、好ましくは0.90未満、より好ましくは0.4~0.87、さらに好ましくは0.5~0.84、さらにより好ましくは0.60~0.80である。本発明の油相を連続相とする組成物の25℃における比重を上記の数値範囲内に低下させることにより、本発明の効果が得られやすくなる。
【0110】
本発明の油相を連続相とする組成物の比重は、容積法により測定することができる。具体的には、一定容積の計量カップに油脂組成物を充填し、該カップ内の油脂組成物の質量を測定し、その質量を計量カップの容積で除して得られる数値を本発明の油相を連続相とする組成物の比重とする。なお、油相を連続相とする組成物の比重は25℃において測定するものとする。
【0111】
本発明の油相を連続相とする組成物の比重を上記範囲とする際には、従前知られた手法を用いてよい。本発明の油相を連続相とする組成物の製造工程の任意の時点で、例えば、(i)空気、窒素、酸素等の食品に使用することのできるガスを、冷却可塑化中、又は冷却可塑化後に、注入、混和、又はその両方を行うことで、本発明の油相を連続相とする組成物中にガスを分散させて比重を上記範囲内とする手法、(ii)冷却可塑化した油脂組成物を泡立て器等でかき混ぜて空気を含気させ、比重を上記範囲内とする手法が挙げられる。
【0112】
次に、本発明のパン類生地について述べる。
本発明のパン類生地は、上記の水相を連続相とする組成物と、油相を連続相とする組成物とを含有するものであり、以下の条件(3)を満たすものである。
条件(3):パン類生地の製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。
【0113】
本発明のパン類生地における、本発明の水相を連続相とする組成物の使用量(含有量)は、製造するパンの種類によっても異なるが、パン類生地に含まれる澱粉類100質量部に対し、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.25~1.1質量部、最も好ましくは0.3~0.7質量部である。
【0114】
本発明のパン類生地における、本発明の油相を連続相とする組成物の含有量は、パン類生地の種類や、本発明の油相を連続相とする組成物中の酵素量等によっても異なり、適宜決定されるが、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下であり、下限は、本発明のパン類生地に用いられる澱粉類100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上である。本発明の油相を連続相とする組成物の含有量を上記範囲とすることで、生地の作業性にいっそう優れ、ボリューム及び食感がより良好なパン類を得やすいため好適である。
【0115】
次に、本発明のパン類生地の製造に用いられる、澱粉類について述べる。
本発明のパン類生地は、澱粉類として小麦粉類又はグルテンフリー粉のいずれか1つ以上を含有する。
本発明のパン類生地の製造に用いられる小麦粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽を挙げることができるが、強力粉、準強力粉、中力粉のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
本発明のパン類生地に含有されるグルテンフリー粉とは、パン類生地の製造に用いられる澱粉類のうち、小麦粉類以外のものを指し、例えば、米粉、雑穀粉、豆粉、堅果粉、澱粉を挙げることができる。
【0116】
本発明のパン類生地の製造に用いることができる米粉としては、例えば、水稲米、陸稲米、玄米、古代米、黒米、赤米、緑米、精米等を製粉したものを挙げることができる。
本発明のパン類生地の製造に用いることができる雑穀粉としては、例えば、キビ、粟、ヒエ、モロコシ、トウモロコシ、ライ麦、大麦、オート麦、ハトムギ、そば、小豆、アマランサス、キヌア、シコクビエ、白ゴマ、黒ゴマ等を製粉したものを挙げることができる。
本発明のパン類生地の製造に用いることができる豆粉としては、例えば、大豆、えんどう豆、あずき、ひよこ豆等を製粉したものを挙げることができ、いわゆるきな粉を用いることもできる。
【0117】
本発明のパン類生地の製造に用いることができる堅果粉としては、例えば、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉及び松実粉等の堅果粉等を挙げることができる。
本発明のパン類生地の製造に用いることができる澱粉としては、例えば、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の未加工澱粉、これらの未加工澱粉に酵素処理、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理及びグラフト化処理から選択される1以上の処理を施した化工澱粉を挙げることができる。
本発明のパン類生地においては、これらのグルテンフリー粉のうちから選択される1種又は2種以上を用いることができる。
【0118】
本発明のパン類生地は、その製造に用いられる澱粉類に占める、小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合が90質量%以上である。
本発明のパン類生地に用いられる澱粉類に占める小麦粉類とグルテンフリー粉の和の割合は、好ましくは92質量%以上、より好ましくは94質量%以上、さらに好ましくは96質量%以上であり、上限は100質量%である。
小麦粉類とグルテンフリー粉との割合は任意であり、澱粉類として小麦粉類を100質量%(すなわちグルテンフリー粉の含量が0質量%)としてもよく、澱粉類としてグルテンフリー粉を100質量%(すなわち小麦粉類の含量が0質量%)としてもよい。
【0119】
本発明のパン類生地の製造に用いられる澱粉類に占めるグルテンフリー粉の割合は、好ましくは、5~40質量%であり、より好ましくは5~25質量%であり、さらに好ましくは5~15質量%である。
なお、本発明においては得られるパン類の風味を良好なものとする観点や、食感をよりソフトなものとする観点から、グルテンフリー粉を含有させる場合には、澱粉類として米粉を選択することが好ましい。
【0120】
次に、本発明のパン類生地中に含有しうる、バイタルグルテンの含有量について述べる。
通常、グルテンフリー粉を使用したパン類生地を調製する場合、不足する小麦粉類由来のグルテンを補う観点から、バイタルグルテンが使用される。本発明のパン類生地においては、含有される生地の調製に使用される澱粉類100質量部に対して1~25質量部のバイタルグルテンを添加することができるが、本発明によれば、バイタルグルテンを用いずとも良好な食感とボリュームを有するパン類を製造する事が可能である。
【0121】
本発明において用いられるバイタルグルテンとは、生のグルテンの活性を損なわないように乾燥し粉末状にしたグルテンであり、活性グルテンともいう。具体的には、小麦蛋白質であるグリアジンとグルテニンとの複合体を主な構成成分とし、その総蛋白含有量が、典型的には60~95質量%であり、より典型的には65~90質量%であり、さらに典型的には70~85質量%である小麦蛋白質含有物である。バイタルグルテンは、通常、粉体状製品として市場に流通しており、その粉体状製品を水等に戻したときには、生地様の伸展性や弾力性を呈する。
【0122】
バイタルグルテンは、小麦粉と水とを混捏した生地から澱粉等の水溶性成分を洗い流して、その残留物を回収すること等により得ることができる。例えば、「エマソフトM-1000」(商品名、理研ビタミン株式会社製)、「AグルG」(商品名、グリコ栄養食品株式会社製)等の市販品を用いることができる。
【0123】
本発明のパン類生地を中種法で調製する場合、バイタルグルテンを中種生地に加えてもよく、本捏生地に加えても良いが、グルテンフリー粉を含有するパン類を良好な食感を有するものとする観点から、本捏生地に含有させることが好ましい。
【0124】
次に、本発明のパン類生地に含有しうる、その他原料について述べる。
本発明のパン類生地においては、必要に応じ、一般のパン類の材料として使用することのできる、その他の原料を配合してよい。該その他の原料としては、例えば、水、上記の他の油脂組成物、パン酵母(イースト)、イーストフード、糖類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、増粘安定剤、β-カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、酸化防止剤、デキストリン、チーズ類・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・脱脂濃縮乳・蛋白質濃縮ホエイ等の乳又は乳製品、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、蒸留酒・醸造酒・各種リキュール等の酒類、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩・塩化カリウム等の塩味剤、ベーキングパウダー、カカオ及びカカオ製品・コーヒー及びコーヒー製品・ハーブ・果実・果汁・ジャム・フルーツソース・調味料・香辛料・野菜類・肉類・魚介類等の各種食品素材、保存料、苦味料、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、香料、食品添加物等を挙げることができる。
【0125】
その他原料は、目的とする効果を損なわない限り、任意の量で使用してよいが、水については、例えば本発明のパン類生地中の、澱粉類100質量部に対して、好ましくは30質量部以上であり、上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。したがって、一実施形態において、水含有量は、本発明の含有パン類生地中の、澱粉類100質量部に対して、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~70質量部である。また、水以外のその他の原料については、澱粉類100質量部に対して、合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用してよい。なお、その他の原料として、水分を含有する原料を使用した場合は、水の量は、水以外のその他の原料に含まれる水分も含めた量である。
【0126】
本発明のパン類生地は、通常使用されている、あらゆるパン類のための製造方法を適用することができ、具体的には例えば、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法が挙げられるが、好ましくは中種法で製造される。
中種法で本発明のパン類生地を製造する場合、べたつきが抑えられたパン類生地を得ると共にボリュームと食感に優れたパン類を得られやすくする観点から、本発明の水相を連続相とする組成物を中種生地の製造時に添加し、本発明の油相を連続相とする組成物を本捏生地の製造時に添加することが好ましい。
なお、本発明の油相を連続相とする組成物を、発酵後の中種に添加するタイミングは、本捏生地の製造時であれば、特に限定されず、残りの原料の添加前に添加してもよく、残りの原料と共に添加してもよく、残りの原料を添加した後に添加してもよい。残りの原料と油相を連続相とする組成物は、各々を少しずつ一緒に又は交互に添加してもよい。
【0127】
一実施形態において、中種法の場合における本発明のパン類生地の製造方法は、以下の工程(1)~(3)を含む。
工程(1):小麦粉類又はグルテンフリー粉から選択されるいずれか一つ以上、パン酵母、本発明の水相を連続相とする組成物、及び水を含む原料を混合し、予備混合物(すなわち中種)を得る工程
工程(2):予備混合物を発酵させる工程
工程(3):発酵させた予備混合物に、さらに、小麦粉類又はグルテンフリー粉から選択されるいずれか一つ以上、及び水を含む原料と、本発明の油相を連続相とする組成物を混合し、本捏生地を得る工程
【0128】
工程(1)~(3)における混合や発酵等の処理は、製造するパン類の種類により異なるが、常法にしたがって実施してよく、工程(1)で用いる小麦粉類又はグルテンフリー粉から選択されるいずれか一つ以上や酵母等の原料、本発明の水相を連続相とする組成物、本発明の油相を連続相とする組成物については、その好適な態様も含め、先述のとおりである。
工程(1)において、小麦粉類とグルテンフリー粉をいずれも用いる場合においては、小麦粉類として強力粉を用いることが好ましく、小麦粉類の量がグルテンフリー粉の量を上回っていることが好ましい。
【0129】
本捏生地を得た後の工程としては、特に限定されないが、例えば、一次発酵(フロアタイム)、分割、丸目、ベンチタイム、成形、ホイロ(二次発酵)、焼成をこの順により行う方法が挙げられる。本捏生地を得た後から、焼成前までの各種工程における生地の処理温度は特に限定されないが、好ましくは20~45℃、より好ましくは25~40℃である。本捏生地を上記数値範囲内の温度で処理することにより、本発明のパン類生地のべたつきが抑えられると共に、ボリュームや食感に優れたパン類が得られやすくなる。
なお、得られた本発明のパン類生地は冷蔵保存、又は冷凍保存することができる
【0130】
本発明のパン類は、本発明のパン類生地を加熱処理することにより得られる。すなわち、本発明のパン類は、本発明のパン類生地の加熱処理品である。本発明のパン類生地の加熱処理の方法は特に限定されず、例えば、焼成したり、フライしたり、蒸したり、電子レンジ処理したりすることが挙げられる。
【0131】
加熱処理により得られるパン類の種類は特に限定されず、各種のパン類であってよい。このようなパン類としては、例えば、食パン、コッペパン、ソフトロール、セミハードロール、ハードロール、フランスパン、バターロール、ハンバーガーバンズ、イングリッシュマフィン、スイートロール、デニッシュ、ペストリーが挙げられる。
【実施例0132】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
加熱により液状としたパームオレイン(ヨウ素価53)を4つ口フラスコにとり、これを撹拌しながら更に液温が90℃となるまで加熱した。90℃に達温後、油脂100質量部に対してナトリウムメトキシド0.2質量部を添加し、真空下で1時間加熱し、ランダムエステル交換反応を行った。この後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和した後、常法により漂白工程及び脱臭工程を行い、ランダムエステル交換油脂RIE-1(以下、単に「RIE-1」と記載する。後述するRIE-2~4も同様)を得た。なお、RIE-1は、ランダムエステル交換油脂αに該当する。
【0133】
加熱により液状としたパームオレイン(ヨウ素価65)を4つ口フラスコにとり、これを撹拌しながら更に液温が90℃となるまで加熱した。90℃に達温後、油脂100質量部に対してナトリウムメトキシド0.2質量部を添加し、真空下で1時間加熱し、ランダムエステル交換反応を行った。この後、クエン酸を添加してナトリウムメトキシドを中和した後、常法により漂白工程及び脱臭工程を行い、ランダムエステル交換油脂RIE-2を得た。なお、RIE-2は、ランダムエステル交換油脂αに該当する。
【0134】
パームオレインに代えて、溶解したパーム油65質量部と、溶解したパーム極度硬化油(ヨウ素価1以下)35質量部とを混合した油脂混合物を用いた他は、製造例1と同様にランダムエステル交換及び精製を行い、RIE-3を得た。なお、RIE-2はランダムエステル交換油脂βに該当する。
【0135】
パームオレインに代えて、溶解したパーム核油50質量部と、溶解したパーム極度硬化油(ヨウ素価1以下)50質量部とを混合した油脂混合物を用いた他は、製造例1と同様にランダムエステル交換及び精製を行い、RIE-4を得た。なお、RIE-4はランダムエステル交換油脂γに該当する。
【0136】
以下の実施例、比較例では、下記の酵素剤を用いた。なお、u/gは酵素剤1gあたりの活性値である。各々の1uは製造者の示す定義による。
グルコースオキシダーゼ:3150u/g、至適温度が35~50℃の範囲を満たすもの
αアミラーゼ(マルトース生成アミラーゼ):10000u/g、至適温度が70~90℃の範囲を満たすもの
ヘミセルラーゼ:5000u/g、Bacillus subtili由来のヘミセルラーゼ、至適温度が25~40℃の範囲を満たすもの
【0137】
以下の実施例、比較例では、グルテンフリー粉として水稲品種「ゆめふわり」の米粉(アミロース含量8%)を用いた.
【0138】
まず、55℃になるまで加温された水に、全乳蛋白質としてトータルミルクプロテインを加えて撹拌し分散させて、全乳蛋白質の水溶液を調製した。この水溶液に、水相成分濃縮物A(クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物。蛋白質12.0質量%、脂質4.6質量%、炭水化物18.7質量%、灰分2.7質量%、水分62質量%。また、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%。)を加えて、撹拌し分散させてミックス液(pH6.3)を得た。
【0139】
次に、このミックス液を、2段式ホモジナイザーを用いて、1段目4.9MPa、2段目0MPaの設定で均質化処理を行った。
均質化処理を行ったミックス液を、UHT加熱処理(140℃、4秒)を行った後、2段式ホモジナイザーを1段目12.8MPa、2段目2.9MPaの設定で再度均質化処理を行い、その後ミックス液の液温が5℃になるまで冷却し、以下の実施例及び比較例で用いられる、水相を連続相とする組成物(以下、単に組成物Aと記載)を製造した。
【0140】
表1に示す種類及び量の油脂を、それぞれ60℃に加熱して溶解・混合し、油脂配合物を調製してこれを油相とした。この中に水を水相として表1に示す量を加えて混合し、乳化させ、油中水型の予備乳化物を得た。
この予備乳化物を-5℃/分の冷却速度で10℃まで急冷可塑化しながら、窒素ガスを注入、混和してガスを分散させた。
【0141】
続いて、表1に示す量の各種酵素を添加・混合し、油中水型乳化物の、油相を連続相とする組成物B-1~6(以下、これらを総称して組成物Bと記載する場合がある)を調製した。
得られた油相を連続相とする組成物B-1~6の25℃における比重、並びに35℃におけるSFCを測定し、表1に示す。表1において、各油脂の量は、油脂の合計量(油脂配合物)を100質量%とした場合の配合量(質量%)であり、油脂以外の各成分の量は、油相を連続相とする組成物の合計配合量を100質量%とした場合の各配合量(質量%)である。
なお、酵素を含有させない他は、実施例・比較例と同様に製造し、組成物B-Cont.を調製した。
【0142】
【0143】
検討1では、組成物A及び組成物Bの有無の影響、及び組成物B-1~6の効果の差異について検討を行った。
具体的には、表2の配合に基づいて、以下の製法によりワンローフ食パンを製造し、以下の評価基準に基づいて、それぞれのワンローフ食パンについて評価を行った。
【0144】
[ワンローフ食パンの製法]
表2に示した中種配合の、強力粉、上白糖、パン酵母、イーストフード、組成物A及び水をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。
【0145】
この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度85%の恒温室で、2時間中種醗酵を行った。終点温度は29℃であった。
この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、更に、表2に示した本捏配合の、強力粉、米粉、食塩、小麦タンパク、上白糖、全卵、及び水を添加し、低速で3分、中速で3分本捏ミキシングした。
【0146】
ここで、調製した組成物B-Cont.、組成物B-1~6を表2のとおり投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で4分ミキシングを行い、本捏生地を得た。得られた生地の、捏ね上げ温度は28℃であった。
得られた生地の捏ね上げ温度は28℃であった。ここで、フロアタイムを20分とった後、380gに分割し丸目を行なった。次いでベンチタイムを20分とった後、モルダー成形し、1本をU字にして3斤型プルマン型に入れ、38℃、相対湿度85%で50分ホイロをとった後、200℃に設定した固定窯に入れ、25分焼成して、ワンローフ食パンEx1-1~Ex1-6、Cex1-1、Cex1-2、及びワンローフ食パンCont.を得た。
【0147】
上記のようにして得られたワンローフ食パンEx1-1~Ex1-6、Cex1-1、Cex1-2を、2cm厚にスライスしたものを用いて、以下の評価基準を基に10名の専門パネラーにより、食感及び口溶けの官能評価を行った。各専門パネラーの評価点(0~5点)を合計し、求めた合計点を次の表示方法で表2に示した。 評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。なお、すべての項目について、±以上の評価を得たものを合格品とした。
【0148】
+++:45~50点、
++ :39~44点、
+ :34~38点、
± :30~33点、
- :24~29点、
-- :18~23点、
---:17点以下
【0149】
●食感の評価基準
5点:コントロールと比較して、ソフトであり、歯切れもきわめて良好。
3点:コントロールと比較して、ややソフトであり、歯切れも良好。
1点:コントロールと比較して、ソフトではあるが歯切れがやや悪い、若しくは歯切れは良いがソフトでない。
0点:コントロールと比較して、ソフトでなく、歯切れも悪い。
【0150】
●口溶けの評価基準
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してややくちゃつく。
0点:コントロールと比較してくちゃつきが激しい。
【0151】
●生地作業性の評価基準
ワンローフ食パン生地を製造する際の作業性については、作業者が以下の評価基準に則って評価した。評価結果を表2に示す。
S評価:べとつきもなく伸展性もよく、極めて良好な作業性であった。
A評価:良好な作業性であった。
B評価:わずかにべとつきが感じられるか又はわずかに伸展性が悪く感じられるが、良好な作業性であった。
C評価:ややべとつきが感じられるか又はやや伸展性が悪く、作業性が若干劣るものであった。
D評価:べとつきがあるか又は伸展性が悪く、作業性が劣るものであった。
【0152】
●生地安定性の評価基準
モルダー成形後5分後の各生地の長さを基に、以下の評価基準に則り、生地安定性について評価を行った。なお、Cont.の生地長を、生地安定性試験における試験標品とした。
評価基準におけるD値は次式に基づき算出されたものである。
【0153】
【0154】
S評価:D値が115%超である。
A評価:D値が110%超115%以下である。
B評価:D値が105%超110%以下である。
C評価:D値が100%超105%以下である。
D評価:D値が100%以下である。
【0155】
[パン類のボリュームの評価方法]
得られたワンローフ食パンのボリュームについては、下記のとおり評価を行った。
詳細には、得られた食パンを室温で1時間置き、熱が取れた後、ポリエチレン袋に密封し、室温(25℃)に保管した。焼成1日後、3Dレーザースキャナー(株式会社アステックス製)にて体積(ml)を測定し、体積(ml)/質量(g)を比容績とし、パンのボリュームを評価した。結果を表2に示す。ボリュームについては、比容積の値が4.6以上のものを合格品とした。
【0156】
【0157】
検討2では、水相を連続相とする組成物と、油相を連続相とする組成物の有無、及び油相を連続相とする組成物の構成について検討を行った。
具体的には、表3の配合に基づいて、検討1と同様に以下の製法によりワンローフ食パンを製造し、検討1と同様の評価基準に基づいて、それぞれのワンローフ食パンについて評価を行った。その評価結果を表3に示す。
【0158】
【0159】
検討3では、パン類生地を製造する際の澱粉類の組成を変化させた際の影響について検討を行った。
具体的には、表4の配合に基づいて、検討1と同様に以下の製法によりワンローフ食パンを製造し、検討1と同様の評価基準に基づいて、それぞれのワンローフ食パンについて評価を行った。その評価結果を表4に示す。
【0160】
【0161】
検討4では、パン類生地を製造する際のグルテンフリー粉の量を変化させた際の影響について検討を行った。
具体的には、表5の配合に基づいて、検討1と同様に以下の製法によりワンローフ食パンを製造し、検討1と同様の評価基準に基づいて、それぞれのワンローフ食パンについて評価を行った。その評価結果を表5に示す。なお、検討4における評価のコントロールは表5中、Cex4-1の配合のワンローフ食パンとした。
【0162】