(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082505
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】方法、情報処理装置および非一時的な記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240613BHJP
【FI】
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196397
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】308024395
【氏名又は名称】荏原環境プラント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100162846
【弁理士】
【氏名又は名称】大牧 綾子
(72)【発明者】
【氏名】神山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松岡 慶
(72)【発明者】
【氏名】野口 学
(72)【発明者】
【氏名】田村 昌久
(72)【発明者】
【氏名】村末 創
(72)【発明者】
【氏名】天谷 賢治
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
(57)【要約】
【課題】プラントを構成する部材の物理量の予測方法において、高精度の物理量の予測式を提供すること
【解決手段】プロセッサによって実行される方法であって、方法は、プロセッサによって実行される第1のステップ群を含み、第1のステップ群は、経時的に変化する物理量の測定値を取得するステップと、物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、測定値の傾向を統計解析して物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、統計モデルから、物理量の予測結果を取得するステップと、物理モデルから、物理量の予測結果を取得するステップと、物理モデルにより算出された物理量の予測結果と、統計モデルが算出した物理量の予測結果とに基づいて、物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサによって実行される方法であって、前記方法は、前記プロセッサによって実行される第1のステップ群を含み、前記第1のステップ群は、
経時的に変化する物理量の測定値を取得するステップと、
前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、
前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、
前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記最終予測結果を推定するステップは、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とを掛け合わせるステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記掛け合わせのステップは、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果に対応する確率密度の値と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果に対応する確率密度の値とを乗算するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記物理モデルの物理パラメータが値の不明な第1の物理パラメータを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記最終予測結果を推定するステップは、さらに、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とが近づくように、前記第1の物理パラメータの確率分布をリサンプリング処理するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リサンプリング処理するステップは、
前記第1の物理パラメータをパーティクルに離散化し、離散化した前記パーティクルを、それぞれ前記物理モデルに代入して、前記物理量の予測結果を算出するステップと、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果が、前記統計モデルが算出した物理量の予測結果に近づくように、前記パーティクルの中から尤度の高いパーティクルを選択し、選択されたパーティクルに基づき新たなパーティクルを発生させて、発生させたパーティクルについて尤度の高いパーティクルを選択する処理を繰り返すことで、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とを近づけるステップと
を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記物理モデルの物理パラメータが、値の不明な第2の物理パラメータを含む場合に、前記方法は、前記プロセッサによって実行される第2のステップ群を含み、前記第2のステップ群は、
前記第2の物理パラメータの予測結果を推定するステップと、
推定された前記第2の物理パラメータの予測結果で前記物理モデルを更新するステップと、
を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
指示を記憶する記憶部と、プロセッサとを備える情報処理装置であって、前記プロセッサは前記記憶部に記憶された指示を実行することにより、前記プロセッサによって実行される第1のステップ群を含み、前記第1のステップ群は、
経時的に変化する物理量の測定値を取得するステップと、
前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、
前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、
前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む、情報処理装置。
【請求項9】
情報処理装置のプロセッサにより実行されるプログラムが記録された非一時的な記録媒体であって、
前記プロセッサが前記プログラムの第1のステップ群を実行することにより、
経時的に変化する物理量の測定値を取得し
前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築し、
前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築し、
前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得し、
前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得し、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定する、非一時的な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、方法、情報処理装置および非一時的な記憶媒体に関する。より詳しくは、物理量を統計的手法により予測する方法、情報処理装置および非一時的な記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントや火力発電プラント、廃棄物処理プラントなどの複雑なシステムでは、配管等の部材の内部または外部の流体の流れや条件に起因し、部材の劣化や減肉といった経時的に変化する現象が発生することが知られている。このようなプラントでは、部材の状態の変化の把握のため、部材の多数の箇所において劣化や減肉に対応する物理量(肉厚や重量など)を定期的に測定している。定期的に肉厚などを測定して、過去の肉厚データの減肉傾向から将来の肉厚を予測し、修繕、交換が必要な箇所を特定していた。例えば、特許文献1においては、配管余寿命の予測として、空間的あるいは時間的に差分を取りそれらの線形外挿から寿命を予測するものであった。この方式では、配管の減肉する速度は一定と仮定して、減肉がそのままの速度で進んだ場合の減肉量に至る時間を計算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、配管等の部材の劣化や減肉といった現象は、様々な因子により影響を受け、空間的にも時間的にも一様ではなく、プラント毎に異なるように進行する。このため、同一のプラントであっても、影響因子が時間と共に変化するときや、影響因子の異なる他のプラントを対象とすると、精度の高い予測結果を得ることができなかった。
【0005】
本発明の目的の一つは、プラントを構成する部材の劣化や減肉に対応する物理量の予測方法において、高精度の物理量の予測式を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、プロセッサによって実行される方法であって、前記方法は、前記プロセッサによって実行される第1のステップ群を含み、前記第1のステップ群は、経時的に変化する物理量の測定値を取得するステップと、前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む方法である。
【0007】
本発明の他の一態様は、指示を記憶する記憶部と、プロセッサとを備える情報処理装置であって、前記プロセッサは前記記憶部に記憶された指示を実行することにより、前記プロセッサによって実行される第1のステップ群を含み、前記第1のステップ群は、経時的に変化する物理量の測定値を取得するステップと、前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時
間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む、情報処理装置である。
【0008】
本発明の他の一態様は、情報処理装置のプロセッサにより実行されるプログラムが記録された非一時的な記録媒体であって、前記プロセッサが前記プログラムの第1のステップ群を実行することにより、経時的に変化する物理量の測定値を取得し、前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築し、前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築し、前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得し、前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得し、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定する、非一時的な記憶媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態にかかる廃棄物発電プラントの概略図を示す。
【
図2】本開示の一実施形態に係るシステムの概要を示す。
【
図3A】本開示の一実施形態に係る、予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造の例を示す。
【
図3B】本開示の一実施形態に係る予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造の例を示す。
【
図3C】本開示の一実施形態に係る予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造の例を示す。
【
図4】本開示の一実施形態に係る、予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造の概念図を示す。
【
図5】本開示の一実施形態に係る、物理量の予測を行う処理フローの概要を例示する。
【
図6】本開示の一実施形態に係る、構築された物理モデルの例を示す。
【
図7】本開示の一実施形態に係る、統計モデルの構築過程を概念的に例示した図である。
【
図8】本開示の一実施形態に係る、リサンプリング前の酸化被膜厚の確率密度の分布と、リサンプリングを複数回繰り返したときの酸化被膜厚の確率密度の分布を示した図である。
【
図9】本開示の一実施形態による掛け合わせ処理の概念を示す図である。
【
図10】本開示の一実施形態による、予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造の概念図を示す。
【
図11】本開示の一実施形態による、処理装置200によって実行される、不明な物理パラメータの予測を行う処理フローの概要を示す。
【
図12】本開示の一実施形態による、理論排ガス量と、理論空気量と、空気比の分布を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。本開示の一実施形態は、以下のような構成を備える。
【0011】
〔項目1〕
プロセッサによって実行される方法であって、前記方法は、前記プロセッサによって実
行される第1のステップ群を含み、前記第1のステップ群は、
経時的に変化する物理量(例えば、肉厚W)の測定値を取得するステップと、
前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、
前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、
前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む方法。
【0012】
〔項目2〕
前記最終予測結果を推定するステップは、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とを掛け合わせるステップを含む、項目1に記載の方法。
【0013】
〔項目3〕
前記掛け合わせのステップは、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果に対応する確率密度の値と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果に対応する確率密度の値とを乗算するステップを含む、項目2に記載の方法。
【0014】
〔項目4〕
前記物理モデルの物理パラメータが値の不明な第1の物理パラメータ(例えば、酸化被膜厚L)を含む、項目1から3のいずれか1項に記載の方法。
【0015】
〔項目5〕
前記最終予測結果を推定するステップは、さらに、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とが近づくように、前記第1の物理パラメータの確率分布をリサンプリング処理するステップを含む、項目4に記載の方法。
【0016】
〔項目6〕
前記リサンプリング処理するステップは、
前記第1の物理パラメータをパーティクルに離散化し、離散化した前記パーティクルを、それぞれ前記物理モデルに代入して、前記物理量の予測結果を算出するステップと、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果が、前記統計モデルが算出した物理量の予測結果に近づくように、前記パーティクルの中から尤度の高いパーティクルを選択し、選択されたパーティクルに基づき新たなパーティクルを発生させて、発生させたパーティクルについて尤度の高いパーティクルを選択する処理を繰り返すことで、前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とを近づけるステップと
を含む、項目5に記載の方法。
【0017】
〔項目7〕
前記物理モデルの物理パラメータが、値の不明な第2の物理パラメータ(例えば、酸素濃度)を含む場合に、前記方法は、前記プロセッサによって実行される第2のステップ群を含み、前記第2のステップ群は、
前記第2の物理パラメータの予測結果を推定するステップと、
推定された前記第2の物理パラメータの予測結果で前記物理モデルを更新するステップ
と、
を含む、項目6に記載の方法。
【0018】
〔項目8〕
指示を記憶する記憶部と、プロセッサとを備える情報処理装置であって、前記プロセッサは前記記憶部に記憶された指示を実行することにより、前記プロセッサによって実行される第1のステップ群を含み、前記第1のステップ群は、
経時的に変化する物理量の測定値を取得するステップと、
前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築するステップと、
前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築するステップと、
前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得するステップと、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定するステップと、を含む、情報処理装置。
【0019】
〔項目9〕
情報処理装置のプロセッサにより実行されるプログラムが記録された非一時的な記録媒体であって、
前記プロセッサが前記プログラムの第1のステップ群を実行することにより、
経時的に変化する物理量の測定値を取得し
前記物理量を物理法則に従って定式化した物理モデルを構築し、
前記測定値の傾向を統計解析して前記物理量を時間関数として表現する、統計モデルを構築し、
前記統計モデルから、前記物理量の予測結果を取得し、
前記物理モデルから、前記物理量の予測結果を取得し、
前記物理モデルにより算出された前記物理量の予測結果と、前記統計モデルが算出した前記物理量の予測結果とに基づいて、前記物理量の最終予測結果を統計的に推定する、非一時的な記憶媒体。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明はあくまでも一例を示すものであって、本願発明の技術的範囲を以下の実施形態に限定する趣旨ではない。図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。しかし、本開示の実施形態は、必ずしもこのような態様に限定されない。本開示の実施形態が、特許請求の範囲において規定される範囲に含まれる様々な態様を取り得ることは、当業者にとって明らかであろう。
【0021】
以下、本開示の一実施形態として、各種プラントなどの複雑なシステムにおいて、予測対象となる物理量の予測を行う方法等について図面を参照しながら説明する。本開示において、プラントは、エネルギー(電気、ガス)を製造するプラント、食品、医薬品などを製造するプラント、廃棄物処理プラント、バイオマス発電プラントを含むものとする。予測対象となる物理量は、影響因子により経時的に変化する量であり、廃棄物処理プラントの例では、プラント等で使用する機器を構成する部材の厚さ、部材の強度、部材の重量などを含むことができる。予測対象となる物理量は液体や気体に関する物理量でもよく、この場合、予測対象となる物理量は、液体や気体に含まれる成分の濃度、例えば排ガスの中のある成分(酸素(O2)、水蒸気(H2O)、塩化水素(HCl)、塩素(Cl2)な
ど)の濃度でもよい。また、廃棄物処理プラントの例では、機器は、ボイラ、焼却炉、タービン、コンベヤ等であり、部材は、ボイラの水管、過熱器管、伝熱管、焼却炉1内の耐火物、コンベアのスクレーパやレール、送風機やタービン、ポンプの羽根車等である。部材の材料は、金属、無機材料、有機材料、複合材料等の、機械材料全般である。
【0022】
本開示に係る予測対象となる物理量に係る部材は、廃棄物発電プラントなどの大規模施設内で使用される部材に限られず、環境や機械的作用に起因する腐食や摩耗による経年劣化に対して、点検や交換等が必要な部材であればよく、建築構造物で使用される部材(例えば、鉄骨などの構造材、配管)、車両内の部材(例えば、エンジンの排気系部材)であってもよい。
【0023】
なお、以下に説明する実施形態では、廃棄物発電プラントにおいて、物理量(本例では、伝熱管などの配管の肉厚)の予測を行う例について説明する。
【0024】
図1は、汎用されている廃棄物発電プラント10の概略図を示す。
図1において、1は焼却炉、2は廃熱ボイラ、3はごみを収納しておくピット、4はホッパ、5はごみをピット3からホッパ4に移すためのクレーン、6はホッパ4の下部からごみを焼却炉1に押し出すための給じん装置、9はボイラの伝熱管である。また、
図1において、21はプラットホームであり、該プラットホーム21からごみ収集車22で収集されたごみがごみピット3内に投入される。焼却炉1は、
図1の左側から、乾燥帯、燃焼1帯、燃焼2帯、後燃焼帯を含み、それぞれに設けられたストーカ7a、7b、7c、7dによって焼却炉1内でごみを移送させるとともに、それぞれの下部に設けられた空気量調整ダンパBa、Bb、Bc、Bdを介して下部から空気が吹き上げ供給される。また、焼却炉1の上部において二次空気や再循環排ガスが供給される。ごみ焼却後に残る灰は、灰排出路8から排出される。23はプラント内の排ガス等の流体の流れを示す。図示していないが、廃棄物発電プラント10はまた、焼却によって生じる排ガス中のばいじん及びダイオキシン等の有害ガスを取り除く手段等も備えている。また、発電機も図示を省略している。
【0025】
廃棄物発電プラント10においては、影響因子により経時的に特性が変化(経年劣化)していく様々な物理量が存在する。経時的変化する物理量の1つは、廃棄物発電プラント10内の配管の肉厚であり、配管の肉厚は経年劣化により次第に減肉していく。物理量の経時的変化に影響を与える因子は様々あり、その影響因子の1つは、廃棄物発電プラント10においては焼却炉1に投入されるごみの性状である。ごみの性状は、自治体、施設、季節ごと、あるいは自治体のごみ出し規則の変更により異なる。ごみの性状によって、ごみを焼却したときに発生する排ガスの構成や温度は変わり、その結果として廃棄物発電プラント10内の環境、例えばボイラ2内の排ガス温度、排ガス性状、飛灰性状が変化する。また、他の影響因子は、廃棄物発電プラント10の運転条件であり、運転条件を変化させることにより、例えば、ボイラ2内の排ガス流速、排ガス中の酸素濃度、排ガス中の水分濃度、などが変化する。ごみの性状やプラントの運転条件は、プラント毎に異なるため、廃棄物発電プラント10のボイラ2内の排ガス温度、排ガス構成、飛灰性状、排ガス流速、排ガス中の酸素濃度、排ガス中の水分濃度等が変化する。このため、プラント毎に、あるいは運転条件の変化に応じて、廃棄物発電プラント10で使用する機器の配管の腐食や減肉の傾向が変化する。
【0026】
次に、
図2を参照して本開示の一実施形態に係るシステム20の概要について説明する。処理装置200は、
図2で後述の周知の構成の情報処理装置によって実現され得る。
【0027】
システム20は、データベース220と、センサ240と、処理装置200とを備える。データベース220、センサ240、及び処理装置200は、例えばLAN(ローカルエリアネットワーク)、WAN(ワイドエリアネットワーク)、インターネット等の、不
図示のネットワークを介して相互に通信可能に接続されている。
【0028】
データベース220は、メモリまたはHDD(hard disk drive)に記憶され、検索または蓄積ができるよう整理された情報の集まりである。データベース220は、物理量の測定値のデータを大量に保持する。測定値のデータは、センサ240によって感知されてリアルタイムで時系列にデータベース220に登録され、あるいは、保守管理者によって定期的・不定期に測定されて時系列にデータベース220に登録される。測定値のデータは、予測対象となる物理量に関連づけられるデータである。予測対象となる物理量が配管の肉厚のとき、測定値のデータは、複数点で測定された配管の肉厚の履歴データ、配管の表面温度を感知する温度センサによって測定された温度の履歴データ、焼却炉1(
図1に示す)内の温度を感知する温度センサによって測定された温度の履歴データ等を含むことができる。
【0029】
データベース220は、測定値のデータだけでなく、保守管理者により予め定められた設定値や係数、条件に関わるデータを含んでもよい。例えば、設定値とは、物理モデルを構成する物理パラメータの確定値、係数とは、物理モデル式や統計モデル式の係数を含む。物理モデルと、統計モデルの詳細は後述する。
【0030】
センサ240は、伝熱管9の表面温度を検知する温度センサ、排ガス温度を検知する温度センサ、焼却炉1内の燃焼温度を検知する温度センサ、排ガス流速を検知する流量センサ、排ガスに含まれる特定の成分を検出するガスセンサ等を含むことができる。
【0031】
処理装置200は、廃棄物発電プラント10に設置されたコンピュータ、又はクラウド上に配置されたサーバコンピュータである。処理装置200は、CPU(プロセッサ)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)などのハードウェア資源を有するコンピュータで構成される。CPUは記憶部が記憶している各種プログラムを実行する。これにより、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現される。さらに、本実施形態の予測方法は、プログラムをコンピュータのプロセッサに実行させることで実現される。各種プログラムは、ROM、RAMなどの各種メモリ、HDD等の記録媒体に記憶することができる。
【0032】
<モデル構造>
図3A、
図3B、および
図3Cは、本開示の一実施形態による物理量の予測を行うためのモデル構造30A、30B、および30Cの論理的概念の例をそれぞれ示す。以下、モデル構造30A,30B、30Cを区別する必要がない場合、モデル構造30と称することがある。モデル構造30は少なくとも1つの物理モデル32と、少なくとも1つの統計モデル34とを備える。処理装置200は、物理モデル32から得られた予測結果と、統計モデル34から得られた予測結果とに基づいて、物理量の最終予測結果を推定することができる。さらに、処理装置200は、物理モデル32に値の不明なパラメータが含まれていても、予測対象となる物理量の予測結果を推定することができる。
【0033】
物理モデル32は、ある物理量に起こる現象(例えば減肉現象)を物理法則に従って定式化したものである。物理モデル32と、物理モデル32を構成するモデルパラメータ(以下、物理パラメータという。)は予め保守管理者によって選定される。物理モデル32では、各パラメータ(以下、物理パラメータ)の物理的な関係が定式化されている。物理モデル32は、一例では、廃棄物発電プラント10内の配管における腐食による減肉現象に伴う肉厚の変化を再現可能なモデル(後述する第1実施形態に対応)である。物理モデル32の物理パラメータは、直接測定可能な実データが存在する既知なパラメータと、直接測定できない等の理由で実データが存在しない値の不明なパラメータとを含むことがで
きる。本開示において、値の不明なパラメータは、実データが存在せず、値や、取り得る範囲が不明なパラメータである。一方、既知なパラメータは、実データが存在し、取り得る範囲、値、あるいは理論値が既知のパラメータである。
【0034】
統計モデル34は、ある物理量の傾向を統計的に表現するモデルである。一例では、統計モデル34は、データベース220に基づき、そのデータの傾向を統計解析して、物理量を時間の関数や、他の物理量の関数として表現することができる。統計モデル34と、統計モデル34を構成するモデルパラメータ(以下、統計パラメータという。)は予め保守管理者によって選定される。統計モデルの一例として、線形回帰モデル、重回帰モデル、多項式回帰モデル、ロジスティック回帰モデル、状態空間モデル、階層ベイズモデル、時系列モデル等が挙げられる。統計モデル34は、一例では、廃棄物発電プラント10内の配管における肉厚と、時間との関係を表す線形回帰モデル(後述する第1実施形態に対応)である。
【0035】
(第1のモデル構造)
図3Aは、1つの物理モデル32と、1つの統計モデル34とで構成される第1のモデル構造30Aの例を示す。
【0036】
図3Aにおいて、物理モデル32は、予測対象となる物理量を物理法則に従って定式化したモデルである。物理モデル32は、値の不明な1つ以上の物理パラメータと、1つ以上の既知なパラメータとで構成される。統計モデル34は、予測対象となる物理量の経時的変化の傾向を統計的に表現するモデルである。
【0037】
処理装置200は、値が不明な1つ以上の物理パラメータに一様分布や正規分布など、任意の確率分布を与えて、物理モデル32を生成する。処理装置200は、物理モデル32から得られた物理量の予測結果と、統計モデル34から得られた物理量の予測結果とを元に、前記の値が不明な物理パラメータの確率分布と、物理量の最終的な確率分布(予測結果)を推定することができる。最終的な予測結果を求める処理(リサンプリング、掛け合わせ)の詳細については後述する。
図3Aの例は、後述する第1実施形態に対応する。
【0038】
(第2のモデル構造)
図3Bは、1つの物理モデル32(1)と、1つの統計モデル34(1)との組(ステージ1)と、1つの物理モデル32(2)と、1つの統計モデル34(2)との組(ステージ2)で構成されるモデル構造30Bの例を示す。以下、物理モデル32(1)、(2)を区別する必要がない場合、物理モデル32と称し、統計モデル34(1)、(2)を区別する必要がない場合、統計モデル34と称することがある。ステージ1は、物理量の予測結果(最終的な予測結果)を出力するよう構成される。ステージ1の物理モデル32(1)は、値の不明な1つ以上の第1の物理パラメータと、値の不明な1つ以上の第2の物理パラメータを含み、ステージ2は、この1つ以上の第2の物理パラメータの予測結果(第1の予測結果)を、ステージ1の物理モデルに出力するよう構成される。
【0039】
ステージ1の物理モデル32(1)は、予測対象となる物理量を物理法則に従って表現したモデルである。ステージ1の物理モデル32(1)は、値の不明な1つ以上の第1の物理パラメータと、ステージ2から出力される第1予測結果である1つ以上の第2の物理パラメータと、既知の物理パラメータとで構成される。
【0040】
ステージ2の物理モデル32(2)は、1つ以上の第2の物理パラメータを物理法則に従って表現したモデルである。ステージ2の物理モデル32(2)は、既知の物理パラメータ、もしくは値の不明な第3の物理パラメータで構成される。
【0041】
ステージ1の統計モデル34(1)は、予測対象となる物理量の経時的変化の傾向を統計的に表現するモデルである。
【0042】
ステージ2の統計モデル34(2)は、1つ以上の第2の物理パラメータの傾向を統計的に表現するモデルである。
【0043】
具体的な、予測対象となる物理量の推定処理の概要は以下のとおりである。
【0044】
処理装置200は、ステージ2の物理モデル32(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果と、統計モデル34(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果とを取得し、これらに基づいて、第2の物理パラメータの確率分布(第1の予測結果)を推定する。
【0045】
ここで、ステージ2の物理モデル32(2)が、値の不明な1つ以上の第3の物理パラメータを含む場合、処理装置200は、第3の物理パラメータに一様分布や正規分布など、任意の確率分布を与えて物理モデル32(2)を構築することができる。構築した物理モデル32(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果と、統計モデル34(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果とを取得し、これらに基づいて、第3の物理パラメータの確率分布と、第2の物理パラメータの確率分布(第1の予測結果)を推定するように構成してもよい。
【0046】
次に、処理装置200は、ステージ2で推定された第2の物理パラメータの第1の予測結果で、ステージ1の物理モデル32(1)を更新する。また、処理装置200は、値が不明な1つ以上の第1の物理パラメータに一様分布や正規分布など、任意の確率分布を与えて、物理モデル32(1)を構築する。
【0047】
次に、処理装置200は、ステージ1にて、更新された物理モデル32(1)から得られた物理量の予測結果と、統計モデル34(1)から得られた物理量の予測結果とに基づいて、第1の物理パラメータの確率分布と、物理量の最終的な確率分布を推定することができる。
図3Bの例は、後述する第2実施形態に対応する。
【0048】
(第3のモデル構造)
図3Aの例では、モデル構造30Aは1つのステージ、
図3Bの例では、モデル構造30Bは、2つのステージで構成されるが、ステージは3以上でもよい。
【0049】
図3Cは、1つの物理モデル32(1)と、1つの統計モデル34(1)との組(ステージ1)と、1つの物理モデル32(2)と、1つの統計モデル34(2)との組(ステージ2)と、1つの物理モデル32(3)と、1つの統計モデル34(3)との組(ステージ3)とで構成されるモデル構造30Cの例を示す。ここで、ステージ1は、物理量の予測結果(最終予測結果)を出力するよう構成される。ステージ1の物理モデル32(1)は、値の不明な1つ以上の第1の物理パラメータと、値の不明な1つ以上の第2の物理パラメータとを含み、ステージ2は、この第2の物理パラメータの予測結果(第2の予測結果)を出力するよう構成される。ステージ2の物理モデル32(2)は、値の不明な1つ以上の第3の物理パラメータを含み、ステージ3は、第3の物理パラメータの予測結果(第1の予測結果)を出力するよう構成される。
【0050】
ステージ1の物理モデル32(1)は、予測対象となる物理量を物理法則に従って表現したモデルである。ステージ1の物理モデル32(1)は、値の不明な1つ以上の第1の物理パラメータと、ステージ2から出力される第2予測結果である1つ以上の第2の物理パラメータと、既知の物理パラメータとで構成される。
【0051】
ステージ2の物理モデル32(2)は、第2の物理パラメータを物理法則に従って表現したモデルである。ステージ2の物理モデル32(2)は、図示するように値の不明な1つ以上の第3の物理パラメータと既知の物理パラメータとで構成されるか、もしくは、値の不明な1つ以上の第3の物理パラメータと、値の不明な1つ以上の第4の物理パラメータと、既知の物理パラメータとで構成される。
【0052】
ステージ3の物理モデル32(3)は、第3の物理パラメータを物理法則に従った表現したモデルである。ステージ3の物理モデル32(3)は、既知の1つ以上の物理パラメータのみで構成されるか、もしくは、既知の物理パラメータに加え、値の不明な1つ以上の第5の物理パラメータを含むように構成されていてもよい。
【0053】
ステージ1の統計モデル34(1)は、予測対象となる物理量の経時的変化の傾向を統計的に表現するモデルである。
【0054】
ステージ2の統計モデル34(2)は、第2の物理パラメータの傾向を統計的に表現するモデルである。
【0055】
ステージ3の統計モデル34(3)は、第3の物理パラメータの傾向を統計的に表現するモデルである。
【0056】
具体的な予測対象となる物理量の推定処理の概要は以下のとおりである。
【0057】
処理装置200は、ステージ3の物理モデル32(3)から得られた第3の物理パラメータの予測結果と、統計モデル34(3)から得られた第3の物理パラメータの予測結果とを取得し、これらに基づいて、第3の物理パラメータの確率分布(第1の予測結果)を推定する。次に、処理装置200は、ステージ3で推定された第3の物理パラメータの第1の予測結果で、ステージ2の物理モデル32(2)を更新する。
【0058】
ここで、ステージ3の物理モデル32(3)が、値の不明な1つ以上の第5の物理パラメータを含む場合、処理装置200は、第5の物理パラメータに一様分布や正規分布など、任意の確率分布を与えて物理モデル32(3)を構築することができる。構築した物理モデル32(3)から得られた第3の物理パラメータの予測結果と、統計モデル34(3)から得られた第3の物理パラメータの予測結果とを取得し、これらに基づいて、第5の物理パラメータの確率分布と、第3の物理パラメータの確率分布(第1の予測結果)を推定するように構成してもよい。
【0059】
次に、処理装置200は、ステージ2にて、更新された物理モデル32(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果と、統計モデル34(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果とに基づいて、第2の物理パラメータの確率分布(第2の予測結果)を推定する。
【0060】
ここで、ステージ2の物理モデル32(2)が、値の不明な1つ以上の第4の物理パラメータを含む場合、処理装置200は、第4の物理パラメータに一様分布や正規分布など、任意の確率分布を与えて物理モデル32(2)を構築することができる。構築した物理モデル32(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果と、統計モデル34(2)から得られた第2の物理パラメータの予測結果とを取得し、これらに基づいて、第4の物理パラメータの確率分布と、第2の物理パラメータの確率分布(第2の予測結果)を推定するように構成してもよい。
【0061】
次に、処理装置200は、ステージ2で推定された第2の物理パラメータの第2の予測結果で、ステージ1の物理モデル32(1)を更新する。また、処理装置200は、値が不明な第1の物理パラメータに一様分布や正規分布など、任意の確率分布を与えて、物理モデル32(1)を構築する。
【0062】
次に、処理装置200は、ステージ1にて、更新された物理モデル32(1)から得られた物理量の予測結果と、統計モデル34(1)から得られた物理量の予測結果とに基づいて、物理量の最終的な確率分布を推定することができる。
【0063】
本開示において、物理モデル32が値の不明な物理パラメータを含む場合であっても、値の不明な物理パラメータを、確定値ではなく確率分布で取り扱って、物理モデル32を構築することにより、物理量の予測結果を取得する過程で生じる誤差を考慮した予測結果を取得することができる。
【0064】
また、本開示において、物理モデル32が値の不明な物理パラメータを含む場合であっても、統計モデル34から出力される物理量の予測結果を参照することで、物理量の確率分布を推定することができる。
【0065】
また、本開示によると、予測対象となる物理量を表す物理モデル32を構成する物理パラメータに、値の不明なパラメータが複数含まれていても、予測対象となる物理量を推定することができる。
【0066】
<第1実施形態>
図4は、本開示の一実施形態による、予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造40の概念図を示す。本実施形態は、
図3Aのモデル構造30Aに対応する。本実施形態においては、説明の便宜上、配管の肉厚の経時変化を予測するために必要な諸条件を単純化して説明する。以下の例では、配管の材料が純鉄であり、配管は酸化反応によりのみ減肉するものとする。また、配管は既知の範囲内で変動する酸素濃度を有する雰囲気下にあるものとする。配管の肉厚は時間に従って概ね直線的に減肉し、配管の酸化被膜の厚さはどこも一定であるものとする。本実施形態においては、初期肉厚が4mmの配管を酸素雰囲気に10年間暴露し続け、1年に1度、50点で肉厚を測定した場合の、配管の肉厚の将来の分布を予測する。なお、本実施形態において、モデルの単純化のために、現象の経時的変化に影響を与える影響因子を酸素濃度のみとする。影響因子である酸素濃度が変化することによって、配管の酸化被膜中のO
2の拡散速度が変化し、配管が減肉する量が変化する。
【0067】
第1実施形態においては、酸素濃度の範囲は既知であり、酸化被膜の厚さは未知であるものとする。
【0068】
次に、単純化した上記の諸条件下における物理モデル32と、統計モデル34の具体的な例について説明する。物理モデル32と、統計モデル34とは予め選定され、準備しておくものとする。
【0069】
(物理モデル)
物理モデル32は、現象を支配する物理法則を定式化したモデルであり、その現象の発現メカニズムを単純かつ的確に表現できる物理モデルが選定される。本実施形態においては、物理モデル32は、純鉄の配管の肉厚が、酸化によって時間経過に従って腐食して、減肉していく配管の酸化減肉モデルが選定されたものとする。この物理モデル32を表す酸化反応式は、3Fe+2O2→Fe3O4である。
【0070】
配管酸化減肉モデル(物理モデル32)は、部材(配管)の表面の鉄が、酸素と反応して、腐食生成物である四酸化三鉄(Fe3O4)が生成することで、母材である部材が減肉することを表したものである。物理モデル32は以下の式(1)のとおり表される。
【0071】
【0072】
式(1)は時間tにおける肉厚Wを示す。ここで、Wは配管の肉厚(mm)、W0は部材の初期肉厚(mm)、O2は酸素濃度(mol/m3)、Dは四酸化三鉄(Fe3O4)層の拡散定数、ρはFe3O4層の密度、Lは四酸化三鉄(Fe3O4)層の厚さに対応する酸化被膜厚(mm)、tは時間(年)である。酸化被膜厚Lは値が不明な物理パラメータである。拡散定数D(1.0×10-9(mm/s))、密度ρ(2.23×104(mol/m3))は値が既知の物理パラメータである。酸素濃度O2は確定値が不明であるものの、その分布(ここでは平均:2.23(mol/m3)、標準偏差:0.5(mol/m3)の正規分布とする。)は既知の物理パラメータである。
【0073】
(統計モデル)
統計モデルは、本実施形態における対象の配管における肉厚の経時変化を統計的に予測するモデルである。物理量(肉厚)の測定値の経時変化を入力データとしてコスト関数を最小化するために、統計パラメータが最適化される。本実施形態において、時間経過に従う配管の肉厚の実測値の傾向から、統計モデル34として線形回帰モデルが選定されたものとする。統計モデル34は以下の式(2)のとおり表される。
W=W0-a×t 式(2)
【0074】
ここで、Wは配管の肉厚(mm)、W0は初期肉厚(mm)、tは時間(年)、aは減肉速度(mm/年)である。時間tは説明変数、肉厚Wは目的変数である。初期肉厚W0、および減肉速度aは、統計パラメータであるが、本実施形態1では簡単のため、初期肉厚W0は既知(=4mm)の固定値であり、減肉速度aのみが統計パラメータであるとする。
【0075】
図5は、
図4に示すモデル構造40において、処理装置200が実行する物理量の予測を行う処理フロー500の概要を示す。以下、予め準備された物理モデル32と統計モデル34とを使用して、物理量の予測結果を取得する処理装置200が実施する各処理についてそれぞれ説明する。
【0076】
処理装置200は、ステップS502において、予測対象となる物理量である配管の肉厚の測定データをデータベース220から取得する。データベース220には、1年に一度、配管の50箇所を、10年間に亘って配管の肉厚を測定した測定データが格納されている。
【0077】
処理装置200は、ステップS504において、予測対象となる物理量の経時的変化の傾向を物理法則に基づいて定式化した物理モデル32と、その物理モデル32の入力となる物理パラメータを取得し、これらに基づいて物理モデル32を構築する。式(1)に、初期肉厚W0に4(mm)を、酸化被膜の厚さLは値が不明であるため一様分布を、酸素濃度O2に平均;2.23(mol/m3)、標準偏差0.5(mol/m3)の正規分布を与えて、物理モデル32を構築する。値が不明な物理パラメータである酸化被膜の厚
さLに一様分布を与えることで、酸化被膜の厚さLの分布範囲を考慮した予測結果を取得することができる。
【0078】
なお、酸化被膜厚Lに与える一様分布の分布範囲については、Lの取り得る値の範囲に関する先験情報が存在しない場合には十分に広い分布幅として設定する必要がある。一方、Lの取り得る値に関して何らかの先験情報が存在する場合には、先験情報を参照してできるだけ狭い分布範囲を設定することにより、後述するリサンプリング処理の計算速度を早くすることができるため、好適である。
【0079】
図6は構築された物理モデル32の例610を示す。初期肉厚が4(mm)であり、時間tの経過に従い肉厚Wのばらつきが大きくなっている。
【0080】
図5に戻り、処理装置200は、ステップS506において、物理量の経時的変化の傾向を確率統計的に表す統計モデル34を構築する。本実施形態においては、最小二乗法によって統計パラメータである減肉速度aの分布が統計的に推定される。減肉速度aは、最尤推定法、最大事後確率推定法(MAP推定法)、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法やハミルトニアンモンテカルロ法等のベイズ推定法等など他の統計的手法で推定してもよい。処理装置200は、減肉速度aの確率分布が正規分布に従うものとして、減肉速度aの平均値と、標準偏差とを算出する。また処理装置200は、減肉速度aについて、統計的に推定された平均値(本例では-0.05(mm/year))と、標準偏差(本例では8.06×10
-5(mm/year))とを持つ正規分布に従う乱数を複数(例えば1000)個発生し、それぞれ、統計モデル34の式(2)に代入し、統計モデル34(回帰式)を構築する。
【0081】
図7は、統計モデル34の構築過程を概念的に例示した図である。
【0082】
図7の710は、1年に一度、配管の50箇所を、10年間に亘って配管の肉厚を測定し、初期肉厚W
0を4mmとしたときの、測定された配管の肉厚W(mm)と、時間(t)との関係を表したグラフを例示する。測定された配管の肉厚W(mm)は、データベース220から読み出しする。グラフ710から、時間(t)が経つにつれて、配管の肉厚が線形的に減少していることがわかる。このため、統計モデル34として線形回帰モデルが選定される。処理装置200は、統計モデル34において統計的分析、例えば、最小二乗法による線形回帰分析を行い、減肉速度aの確率分布を統計的に推定する。なお、最小二乗法による線形回帰分析については、公知の手法により行うことができるため、詳細な説明は省略する。
【0083】
図7の720は、本開示の一実施形態に係る減肉速度aの統計モデル34における推定結果の確率密度分布を示すヒストグラムである。本実施形態においては、ヒストグラム720の形状から、配管の肉厚を表す回帰式の減肉速度aの確率分布を正規分布とするが、一様分布などの他の分布としてもよい。
【0084】
図7の730は、本開示の一実施形態に係る構築された統計モデル34を示す。
図7の732は、統計モデル34の10年目以降の予測結果を示す。
【0085】
図5に戻り、処理装置200は、ステップS508において、物理モデル32から予測結果を取得する。処理装置200は、物理モデル32の式(1)に、予測したい時(20年後)を入力することで、予測したいときの物理量(肉厚)の予測結果を確率分布で取得する。具体的には、まず、処理装置200は、値の不明なパラメータである酸化被膜の厚さLの確率密度分布を一様分布として、等間隔に離散化する。離散化した際に表現した点の事を粒子(パーティクル)と呼ぶ。処理装置200は、このパーティクルを、規定の範
囲内で正規分布の乱数を与えたO
2を含む物理モデル32の式(1)にそれぞれ代入し、予測したい時における、配管の肉厚の確率分布W
p(予測結果)を推定する。物理モデル32による配管の肉厚の確率分布W
p(予測結果)は、
図6の610で示されるようにばらつきを持つ。
【0086】
次に、処理装置200は、ステップS510において、統計モデル34に予測したい時(20年後)を代入すると、予測したい時における、配管の肉厚の確率分布Ws(予測結果)を推定することができる。本実施形態において、統計モデル34による配管の肉厚の確率分布Ws(予測結果)は、正規分布に従う。
【0087】
図6の610に示される物理モデル32による予測結果は、
図7の730に示される統計モデル34による予測結果よりもばらつきがあることがわかる。
【0088】
図5に戻り、処理装置200は、ステップS512において、統計モデル34により得られた予測結果W
sと、物理モデル32から得られた予測結果W
Pとが近づくよう、リサンプリング処理し、物理モデル32を更新する。具体的には、ステップS512において、処理装置200は、尤度に基づき、尤度の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにしたパーティクルフィルタによるリサンプリングを行う。パーティクルフィルタは、粒子フィルタ、モンテカルロフィルタ又はブートストラップとも称される。
【0089】
より詳細には、処理装置200は、ステップS512のリサンプリング処理において、物理モデル32から出力される配管の肉厚の確率分布Wp(予測結果)と、統計モデルから出力される配管の肉厚の確率分布Ws(予測結果)とが近づくように、尤度の高いパーティクルが高い確率で選ばれるようにする。リサンプリングでは、例えば、リサンプリングにより選択されたパーティクルを残し、尤度の低い選択されなかったパーティクルは消去する。選択されたパーティクルを離散化して、新たなパーティクルを発生させる。発生されたパーティクルの中からさらに尤度の高いパーティクルを選択し、尤度の低いパーティクルを削除する。リサンプリングにおいては、パーティクルの取捨選択を繰り返す。これにより、物理モデル32から得られる肉厚の確率分布Wp(予測結果)と、統計モデルから得られる肉厚の確率分布Ws(予測結果)とが近づくよう処理される。つまり、確率密度の大きい場所、即ち、実際の肉厚が存在する可能性の高い場所を更新することができる。パーティクルの取捨選択を繰り返す回数を増やすと、物理モデル32の配管の肉厚の確率分布Wpと、統計モデル34の配管の肉厚の確率分布Wsとはより一層近づく。ステップS512において、パーティクルの取捨選択を繰り返した結果、リサンプリング後の肉厚の確率分布Wresが得られる。物理モデル32から得られる配管の肉厚の確率分布Wpと、統計モデル34から得られる配管の肉厚の確率分布Wsとが近づいていき、これらが一致した場合は、ステップS512で得られた肉厚の確率分布Wresを物理量の最終予測結果として処理を終了することができる
【0090】
一方、ステップS512のリサンプリング処理の結果、物理モデル32から得られる肉厚の確率分布Wp(予測結果)が、統計モデルから得られる肉厚の確率分布Ws(予測結果)へ近づくものの、一致はしないとき、処理はステップS514に進む。
【0091】
ステップS514において、処理装置200は、肉厚の確率分布がWresとなるときの、値の不明な物理パラメータである酸化被膜厚Lを、物理モデル32の式(1)から求める。酸化被膜の厚さLは確率分布で扱われる。また、ステップS514において、処理装置200は、求めた酸化被膜厚の分布で物理モデル32の式(1)を更新する。
【0092】
図8は、本開示の一実施形態による、リサンプリング前の酸化被膜の厚さL(mm)の確率密度の分布810と、リサンプリングを複数回(本例では10回)繰り返したときの
酸化被膜の厚さL(mm)の確率密度の分布820を示した図である。リサンプリングにより、酸化被膜の厚さLの確率分布は、平均を約0.0001(mm)とする正規分布に近づいていることがわかる。
【0093】
図5に戻り、ステップS516において、処理装置200は、ステップS514で更新された物理モデル32から得られる予測結果と、ステップS512で求められた統計モデル34から得られる予測結果とを掛け合わせる。本開示において、掛け合わせとは、更新された物理モデル32から得られた、ある時点における肉厚の確率分布W
p_updateにおける確率密度の値と、統計モデル34から得られたある時点における肉厚の確率分布W
sにおける確率密度の値とを乗算する処理をいう。処理装置200は、予測結果を掛け合わせることで得られた肉厚の確率分布W
cを、推定された最終予測結果(確率分布)として取得する。すなわち、掛け合わせにより、ある時点において、物理量である肉厚の存在する可能性が高い確率分布を精度高く推定することができる。
【0094】
図9は、本開示の一実施形態による掛け合わせの概念を示す図である。
図9の910は、x年目の物理モデル32から得られる肉厚の確率密度関数、
図9の920は、x年目の統計モデル34から得られる肉厚の確率密度関数を示す。
図9の930は、両者のx年目の確率密度関数の値(肉厚の確率密度)をそれぞれ乗算して得られた、時刻x年目の肉厚の確率密度関数を示す。掛け合わせして得られた肉厚の確率分布W
cを、推定された最終予測結果とする。
【0095】
本開示の実施形態によれば、環境条件や運転条件といった現象の経時的変化に影響を与える因子が存在する場合でも、物理モデルに入力して得られた予測対象となる肉厚の予測値を参照することで、同一のプラントで影響因子が時間とともに変化する場合の予測精度が向上する。また物理モデルに入力するモデルパラメータの中で、実データが存在しない等の理由により、不明なモデルパラメータがある場合、統計モデルから出力される肉厚の予測値を参照することで、その確率分布を推定することが出来る。さらに、物理モデルのモデルパラメータを、確定値としてではなく確率分布として取り扱うことにより、予測対象となる物理量の実データに含まれる、部材の個体差や測定誤差、環境条件や運転条件の変化によるばらつきを考慮した予測が可能となり、予測結果と実データとの整合性が取れるようになる。これにより、減肉リスクの高い箇所を短時間で特定し、高減肉リスク箇所の余寿命を評価して配管肉厚の測定計画や保守計画を見直し・最適化する方法を実現することができる。また、これによりプラントの定期検査期間の短縮や減肉による漏えい事象の防止、これらによるプラントの稼働率向上に資することができる。
【0096】
<第2実施形態>
図10は、本開示の一実施形態による、予測対象となる物理量を予測するためのモデル構造100の概念図を示す。本実施形態においては、説明の便宜上、配管の肉厚を予測するために必要な諸条件を単純化して説明する。以下の例では、第1実施形態と同様の条件下でモデル構造100を構成する。第2実施形態においては、酸素濃度と、酸化被膜厚とがともに不明である点で、酸化被膜厚のみが不明である第1の実施形態とは異なる。
【0097】
本実施形態においては酸化被膜厚L(値の不明な第1の物理パラメータ)、酸素濃度O2(値の不明な第2の物理パラメータ)がともに不明である。まずステージ2において、第2の物理パラメータである酸素濃度O2の確率分布(第1の予測結果)を推定する。次に、処理装置200は、推定した酸素濃度O2の確率分布でステージ1の物理モデル32(1)を更新する。また、処理装置200は、値が不明な酸化被膜厚L(第1の物理パラメータ)に一様分布を与えて、ステージ1の物理モデル32(1)を構築する。ステージ1において、更新された物理モデル32(1)と、統計モデル34(1)とに基づいて、予測対象である配管の肉厚の確率分布(最終予測結果)を求める。ステージ1の処理や構
成については、第1実施形態で説明したとおりであり、ここでは説明を省略する。
【0098】
まず、ステージ2における物理モデル32(2)と、統計モデル34(2)の具体的な例について説明する。
【0099】
(物理モデル32(2))
本実施形態において、対象となる配管(部材)は、ある燃料を燃焼した際に発生する排ガスにさらされているものとし、物理モデル32(2)は、単位質量の燃料をある空気比mで燃焼した際に発生する排ガスに含まれる酸素濃度を表す酸素濃度算出モデルとする。
【0100】
m≧1の場合の燃焼排ガス中の酸素濃度O2は、以下の式(3)のとおり表される。
O2=(21×(m-1)×A0)/(G0W+(m-1)×A0) 式(3)
【0101】
ここで、O2は酸素濃度(vоl%)、G0Wは単位質量の燃料を空気比1で燃焼した際に発生する排ガス量である理論排ガス量(m3(NTP)/kg)、A0は単位質量の燃焼を空気比1で燃焼した際に必要な空気量である理論空気量(m3(NTP)/kg)、mは空気比である。
【0102】
式(3)を、体積V(m3)におけるモル濃度(mol/m3)に換算すると、以下の式(3’)のとおり表される。
O2=(21×(m-1)×A0)/(G0W+(m-1)×A0)×
0.01/0.0224 式(3’)
【0103】
酸素濃度算出モデル(物理モデル32(2))は、式(3’)の右辺の分子及び分母をA0で割ることにより、最終的に以下の式(4)のとおり表される。
O2=(21×(m-1))/(R0+(m-1))×0.01/0.0224
式(4)
ここで、R0は理論排ガス量G0Wと理論空気量A0=G0W/A0の比率である。ここで、理論排ガス量G0Wとは、空気は窒素と酸素のみであると仮定し、ある燃料を完全燃焼させたときに排出される排ガスの量のことである。また、理論空気量A0とは単位量の燃料に含まれている炭素、水素、硫黄などの可燃成分を完全燃焼させるときの化学変化から求めた最小限に必要な空気量のことである。
【0104】
本第2実施形態において、酸素濃度O2は物理モデル32(2)の出力である。また、理論排ガス量G0Wと理論空気量A0の比率R0は、その確率分布が未知の物理パラメータとする。また、空気比mは、その確率分布が既知の物理パラメータとする。
【0105】
図12は、本開示の一実施形態による、理論排ガス量G
0W(m
3(NTP)/kg)と、理論空気量A
0(m
3(NTP)/kg)と、空気比mの分布を示す。
図12の1202は、理論排ガス量G
0Wの確率分布(平均10(m
3(NTP)/kg)、標準偏差0.1(m
3(NTP)/kg)の正規分布)、1204は理論空気量A
0の確率分布(平均5(m
3(NTP)/kg)、標準偏差0.05(m
3(NTP)/kg)の正規分布)1206は、空気比mの確率分布(平均1.6、標準偏差0.02の正規分布)を示す。物理モデル32(2)は、プラント毎の運転条件などを考慮しておらず、物理モデル32(2)による予測結果は、実際の値と誤差が生じうる。
【0106】
(統計モデル34(2))
統計モデル34(2)は、対象となる配管(部材)がさらされている排ガス中の酸素濃度O2を統計的に予測するモデルである。統計モデル34(2)は、データベース220に基づき、そのデータの傾向を統計解析して、酸素濃度O2を空気比mの関数として表現
することができる。式(4)における空気比mと酸素濃度O2の関係性を踏まえると、統計モデル34(2)は、以下の式(5)のとおり表される。
【0107】
O2=c×(m-1)/(m+b) 式(5)
ここで、cは定数(=9.375)であり、bは値が未知の統計パラメータである。
【0108】
図11は、
図10に示すモデル構造100において、処理装置200によって実行される、物理量(本実施形態においては酸素濃度O
2)の予測を行う処理フロー500の概要を示す。以下、処理装置200が実施する各処理についてそれぞれ説明する。
【0109】
処理装置200は、ステップS1102において、物理量である焼却時の酸素濃度O2の測定データをデータベース220から取得する。
【0110】
処理装置200は、ステップS1104において、酸素濃度O2(第2の物理パラメータ)を物理法則に基づいて定式化した物理モデル32(2)と、その物理モデル32(2)の入力となる物理パラメータを取得し、これらに基づいて物理モデル32(2)を構築する。具体的には、処理装置200は、物理モデル32(2)を表す式(4)に、理論排ガス量G0W(m3(NTP)/kg)と理論空気量A0(m3(NTP)/kg)の比率R0と、空気比mを与えて、物理モデル32(1)を構築する。
【0111】
次に、処理装置200は、ステップS1106において、第2の物理パラメータである排ガス中の酸素濃度O2の傾向を確率統計的に表す統計モデル34(2)を構築する。
【0112】
本実施形態においては、最小二乗法による非線形回帰分析によって統計パラメータbの分布が統計的に推定される。統計パラメータbは、最尤推定法、最大事後確率推定法(MAP推定法)、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法やハミルトニアンモンテカルロ法等のベイズ推定法等など他の統計的手法で推定してもよい。処理装置200は、統計パラメータbの確率分布が正規分布に従うものとして、bの平均値と、標準偏差とを算出する。また処理装置200は、bの確率分布が正規分布に従うものとして、bの平均値と、標準偏差とを算出する。また処理装置200は、bについて、統計的に推定された平均値(本例では0.992)と、標準偏差(本例では0.00308)とを持つ正規分布に従う乱数を複数(例えば1000)個発生し、それぞれ、統計モデル34(2)の式(5)に代入し、統計モデル34(2)(回帰式)を構築する。
【0113】
処理装置200は、ステップS1108において、ステージ2の物理モデル32(2)から第2の物理パラメータである焼却時の酸素濃度O2の予測結果O2_p1を取得する。
【0114】
処理装置200は、ステップS1110において、ステージ2の統計モデル34(2)から第2の物理パラメータである焼却時の酸素濃度O2の予測結果O2_s1を取得する。
【0115】
処理装置200は、ステップS1112において、ステージ2の統計モデル34(2)により得られた予測結果と、ステージ2の物理モデル32(2)から得られた予測結果とが近づくよう、リサンプリング処理し、物理モデル32(2)から得られる焼却時の酸素濃度O2の確率分布(第2の物理パラメータ)と、統計モデル34(2)から得られる酸素濃度O2の確率分布とが近づいたときの、リサンプリング後の第2の物理パラメータ(酸素濃度O2)の確率分布O2_res1を求める。
【0116】
図12は、本開示の一実施形態による、リサンプリング前の酸素濃度O
2の確率密度の分布1206と、リサンプリングを複数回繰り返したときの酸素濃度O
2の確率密度の分
布O
2_res11208とを示した図である。
【0117】
図11に戻り、ステップS1114において、処理装置200は、推定された酸素濃度O
2の確率分布O
2_res1で物理モデル32(2)の式(4)を更新する。
【0118】
ステップS1116において、処理装置200は、ステップS1114で更新された物理モデル32(2)から得られる予測結果O2_p_update1と、ステップS1112で求められた統計モデル34(2)から得られる予測結果O2_s1とを掛け合わせ、第2の物理パラメータ(酸素濃度O2)の予測結果を取得する(第1の予測結果)。
【0119】
ステップS1118において、処理装置200は、掛け合わせの結果得られた第2の物理パラメータ(酸素濃度O
2)の確率分布W
c1を、第2の物理パラメータの予測結果(第1の予測結果)として、ステージ1の物理モデル32(1)の第2の物理パラメータに代入する。その後の、ステージ1における処理については、
図5に示したとおりである。
【0120】
<その他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について2つの実施形態を説明してきたが、本発明はその予測の対象とするプロセスおよび物理量に応じて、設定するステージ数、各ステージの物理モデルおよび統計モデル並びにそれらのパラメータを適宜設定して用いることができる。
【0121】
例えば廃棄物発電プラントのボイラ伝熱管の減肉を予測する際、減肉速度は主に伝熱管表面に生成する腐食生成物の性状およびその生成/脱離速度に支配される。ここで、腐食生成物の性状および生成速度は、主に腐食生成物の外層における腐食性ガスの濃度と、当該腐食性ガスの腐食生成物層における拡散現象に支配される。さらに、前記の腐食性ガスの濃度は、主に伝熱管表面あるいは腐食生成物の外層に付着または凝縮する付着灰の性状、具体的には付着灰中の塩化物や硫化物の濃度と、それら塩化物や硫化物の触媒作用による腐食性ガスの生成反応に支配される。さらに、前記の付着灰中の塩化物や硫化物の濃度は、主に伝熱管周囲の排ガス温度ならびに排ガス中の塩化物や硫化物の濃度と、それらに基づく塩化物や硫化物の伝熱管表面への付着または凝縮現象により支配される。
【0122】
以上の現象を踏まえ、設定するステージ数および各ステージの物理モデルおよびそのパラメータの一例として、以下のような構成をとることができる。
・腐食生成物の成長/脱離および拡散現象に基づく減肉モデル(ステージ1)
・腐食性ガス生成に関する化学反応モデル(ステージ2)
・付着灰(塩化物及び硫化物)の付着/凝縮モデル(ステージ3)
【0123】
(ステージ1における物理モデル)
本実施形態において、ステージ1における物理モデルとしては、伝熱管表面に生成する腐食生成物の性状およびその生成/脱離現象と、当該腐食生成物の外層における腐食性ガスの、当該腐食生成物層中の拡散現象を表現した拡散モデルを採用することができる。
【0124】
また、上記物理モデルに対して設定する物理パラメータとしては、伝熱管表面温度、排ガス温度、腐食生成物の外層における腐食性ガス濃度(例えば酸素、塩化水素、塩素、硫黄酸化物、硫化水素などの濃度)、腐食生成物中の前記腐食性ガスの拡散係数、伝熱管母材および腐食生成物の密度を含むことができる。このような構成とすることにより、任意の部位における腐食生成物の厚みと、任意の部位における伝熱管の肉厚の経時的変化(最終的な予測結果)を予測することが出来る。
【0125】
なお、生成する腐食生成物の種類は2つ以上であってもよく、腐食生成物中の前記腐食性ガスの拡散係数や、腐食生成物の密度については腐食生成物の種類ごとに分けてもよい
。
【0126】
また、廃棄物発電プラントのボイラにおいては、伝熱管表面への付着灰をスートブロワ等の装置を用いて定期的に払い落とす運転操作が行われるほか、運転温度の変動等の影響により、伝熱管表面に形成される腐食生成物の厚みに上限がある場合がある。このような場合は、前記の物理パラメータとして、腐食生成物の最大厚みを含むことで、より的確な予測を行うことができる。
【0127】
(ステージ1における統計モデル)
一方、ステージ1における統計モデルとしては、例えば折れ線モデルを採用することができる。ここで、廃棄物発電プラントのボイラにおいては、運転開始後、数か月から数年の潜伏期間を経て、伝熱管の減肉速度が増大することがある。このような場合、ある期間の経過後に減肉速度が変化(増大)することを表現した折れ線モデルを採用することで、伝熱管肉厚の経時的変化を的確に表現することができる。統計モデルとして折れ線モデルを採用する場合、統計モデルのパラメータとしては、減肉速度の増大が生じるまでの経過時間と、減肉速度の増大前後それぞれの減肉速度を含むことができる。また、統計モデルのパラメータとして、製造時の部材の肉厚である初期肉厚と、測定結果に生じる肉厚の測定誤差とを含んでもよい。これにより、部材の初期肉厚のばらつきや、測定器の測定誤差の影響を考慮して、減肉傾向を的確に予測することが可能となる。
【0128】
以上のステージ1の構成において、値の不明な物理パラメータが1つ以下の場合は、本発明の第1のモデル構造を採用することができる。例えば、腐食生成物の外層における腐食性ガス濃度(例えば酸素、塩化水素、塩素、硫黄酸化物、硫化水素などの濃度)は、本ステージ1の物理モデルにおいて現象を支配する重要なパラメータであるが、運用中の実設備においてその濃度を実測することは困難であり、値が不明であることが多い。この場合、第1のモデル構造を採用することにより、前記の物理モデルによる予測結果と、前記の統計モデルによる予測結果を参照し、リサンプリングまたは掛け合わせを行うことで、伝熱管の肉厚の経時的変化を的確に予測することができる。
【0129】
一方、以上のステージ1の構成に加えて、以下のステージ2を加えることで、ステージ1における値の不明な物理パラメータである前記の腐食性ガス濃度を、ステージ2において予測する構成とすることもできる。
【0130】
(ステージ2における物理モデル)
ステージ2における物理モデルとしては、腐食生成物の外層における腐食性ガスが生成する反応(例えば、4HCl+O2→2Cl2+2H2O、2NaCl+O2+SO2→Cl2+Na2SO4、2KCl+O2+SO2→Cl2+K2SO4、PbCl2+O2+SO2→Cl2+PbSO4など)に関する現象を熱力学的平衡論に基づいて表現した、熱力学的平衡モデルを採用することができる。
【0131】
また、上記物理モデルに対して設定する物理パラメータとしては、任意の部位における伝熱管表面あるいは腐食生成物の外層に付着する灰の表面温度、排ガス濃度(例えばHCl、O2、SO2)、凝縮する付着灰の性状、具体的には付着灰中の塩化物(例えばNaCl、KCl、PbCl2)や硫化物(Na2SO4、K2SO4、PbSO4)の濃度、平衡定数、平衡転化率を含むことができる。このような構成とすることにより、任意の部位における腐食性ガス(例えばCl2)の濃度を予測することが出来る。
【0132】
(ステージ2における統計モデル)
ステージ2における統計モデルとしては、例えば、排ガス濃度および付着灰中の塩化物や硫化物濃度を説明変数、生成される腐食性ガスの濃度を目的変数とした多項式近似式モデルを採用することができる。ここで、廃棄物発電プラントのボイラにおいては、ある排
ガス濃度、付着灰中の塩化物や硫化物濃度によって、生成する腐食性ガスの濃度が変化することがある。このような場合、実験や実機での計測結果を基に構成した多項式近似式モデルを採用することで、排ガス濃度、付着灰中の塩化物や硫化物濃度による腐食性ガスの濃度の変化を的確に表現することができる。統計モデルとして、多項式近似式モデルを採用する場合、統計モデルのパラメータとしては、付着灰中の排ガス濃度、塩化物や硫化物の濃度を採用することができる。
【0133】
以上のステージ2の構成において、値の不明な物理パラメータが1つ以下の場合は、本発明の第2のモデル構造を採用することができる。例えば、凝縮する付着灰の性状(例えば付着灰中の塩化物や硫化物の濃度)は、本ステージ2の物理モデルにおいて現象を支配する重要なパラメータであるが、運用中の実設備において全ての部位において細かくその濃度を実測することは困難であり、値が不明であることが多い。この場合、第2のモデル構造を採用することにより、前記の物理モデルによる予測結果と、前記の統計モデルによる予測結果を参照し、リサンプリングまたは掛け合わせを行うことで、任意の部位における腐食性ガスの濃度を的確に予測することができる。
【0134】
一方、以上のステージ2の構成に加えて、さらに以下のステージ3を加えることで、ステージ2における値の不明な物理パラメータである前記の凝縮する付着灰の性状を、ステージ3において予測する構成とすることもできる。
【0135】
(ステージ3における物理モデル)
ステージ3における物理モデルとしては、塩化物や硫化物が任意の部位における伝熱管表面へ付着または凝縮する現象を、伝熱現象および物質移動現象の理論に基づいて表現した、伝熱モデルおよび物質移動モデルを採用することができる。
【0136】
また、上記物理モデルに対して設定する物理パラメータとしては、任意の部位における排ガス温度、排ガス流量、排ガス熱特性(例えば排ガスの熱伝導率、排ガスの比熱、排ガスの粘性係数、熱伝達係数)、伝熱管表面温度、灰表面温度、付着灰の厚み、ボイラ入口における飛灰量およびその性状(例えば着目する塩化物や硫化物を構成する各元素の含有量)に加え、灰中熱伝導率、境膜物質移動係数、空気中の各塩化物の蒸気の拡散定数、任意の排ガス温度における各塩化物の飽和蒸気濃度を含むことができる。このような構成とすることにより、任意の部位における伝熱管表面への付着灰性状、具体的には凝縮する塩化物や硫化物の濃度(凝縮量)を予測することが出来る。
【0137】
(ステージ3における統計モデル)
ステージ3における統計モデルとしては、例えば排ガス温度に対する塩化物や硫化物の凝縮量(凝縮速度)を矩形または台形の折れ線で表現した矩形モデルまたは台形モデルを採用することができる。ここで、廃棄物発電プラントのボイラにおいては、ある排ガス温度域において、塩化物や硫化物の凝縮量が増大することがある。このような場合、ある排ガス温度域において塩化物や硫化物の凝縮量が変化(増大)することを表現した矩形モデルまたは台形モデルを採用することで、排ガス温度によって変化する塩化物や硫化物の凝縮量を的確に表現することができる。統計モデルとして矩形モデルまたは台形モデルを採用する場合、統計モデルのパラメータとしては、排ガス温度を横軸、塩化物や硫化物の凝縮量(凝縮速度)を縦軸とした座標面において、矩形または台形の折れ線の形状を規定する複数の点(凝縮量が大きく変化する点における排ガス温度と、当該排ガス温度における塩化物や硫化物の凝縮速度の組み合わせ)の情報を含むことができる。
【0138】
以上のステージ3の構成において、値の不明な物理パラメータが1つ以下の場合は、本発明の第3のモデル構造を採用することができる。例えば、ボイラ入口における飛灰量およびその性状(例えば着目する塩化物や硫化物を構成する各元素の含有量)は、本ステー
ジ3の物理モデルにおいて現象を支配する重要なパラメータであるが、運用中の実設備において全ての部位において細かくその性状を実測することは困難であり、値が不明であることが多い。この場合、第3のモデル構造を採用することにより、前記の物理モデルによる予測結果と、前記の統計モデルによる予測結果を参照し、リサンプリングまたは掛け合わせを行うことで、任意の部位における伝熱管表面への付着灰性状、具体的には凝縮する塩化物や硫化物濃度を的確に予測することができる。
ええ
【0139】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、実施形態及び変形例の任意の組み合わせが可能であり、特許請求の範囲及び明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0140】
10 :廃棄物発電プラント
32(1)、(2)、(3) :物理モデル
34(1)、(2)、(3) :統計モデル
40 :モデル構造
100 :モデル構造
200 :処理装置
220 :データベース
240 :センサ
O2 :酸素濃度の確率分布
L :酸化被膜厚の確率分布
W :肉厚
W0 :初期肉厚
Wc :掛け合わせにより得られた肉厚の確率分布
Wc1 :掛け合わせにより得られた肉厚の確率分布
Wp :物理モデルにより得られた肉厚の確率分布
Ws :統計モデルにより得られた肉厚の確率分布
Wres :リサンプリングにより得られた肉厚の確率分布
Wres1 :リサンプリングにより得られた肉厚の確率分布