(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082649
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】架橋ゴム組成物、電線、ケーブルおよび架橋ゴム組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/28 20060101AFI20240613BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240613BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L23/28
H01B7/02 F
C08L23/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196627
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】道端 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】芦原 新吾
(72)【発明者】
【氏名】矢▲崎▼ 浩貴
【テーマコード(参考)】
4J002
5G309
【Fターム(参考)】
4J002BB042
4J002BB062
4J002BB072
4J002BB152
4J002BB241
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD130
4J002FD150
4J002FD170
4J002GN01
4J002GQ01
5G309RA05
5G309RA08
(57)【要約】
【課題】高い架橋度と高い結晶量を併せ持ち、優れた耐摩耗性を有する材料、それを用いた電線およびケーブルを提供する。
【解決手段】塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、塩素化ポリエチレンの示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量が2J/gを超え、エチレン系共重合樹脂の融点が、70℃以上であり、架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物およびその架橋ゴム組成物を用いた電線、ケーブル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、
前記塩素化ポリエチレンの示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量が2J/gを超え、
前記エチレン系共重合樹脂の融点が、70℃以上であり、
前記架橋ゴム組成物は、そのゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載の架橋ゴム組成物において、
前記架橋ゴム組成物における架橋は、電子線照射によりなされたものである、架橋ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の架橋ゴム組成物において、
前記塩素化ポリエチレンは、前記ベースポリマを100質量部としたとき、少なくとも50質量部以上含有する、架橋ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の架橋ゴム組成物において、
前記エチレン系共重合樹脂が、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂またはエチレンエチルアクリレート共重合樹脂である、架橋ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の架橋ゴム組成物において、
前記エチレン系共重合樹脂の融点が、80℃以上である、架橋ゴム組成物。
【請求項6】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を有する電線であって、
前記絶縁層は、塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、前記架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物から構成される、電線。
【請求項7】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、前記絶縁層を被覆する被覆層を有するケーブルであって、
前記被覆層は、塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、前記架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物から構成される、ケーブル。
【請求項8】
塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含むゴム組成物を用意し、
前記ゴム組成物に電子線照射を行い、架橋させて架橋ゴム組成物とする架橋ゴム組成物の製造方法であって、
前記架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ゴム組成物、電線、ケーブルおよび架橋ゴム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線やケーブルの被覆材において、柔軟性または耐久性などが要求される用途においては、被覆材として主にゴム材料が用いられる。このようなゴム材料で被覆された汎用ケーブルとして、キャブタイヤケーブルなどが挙げられる。
【0003】
キャブタイヤケーブルは、使用用途により固定用と可動用に分類される。このうち可動用のキャブタイヤケーブルでは、ケーブル自体が移動することから繰り返しの曲げに対する耐屈曲性や、様々な環境下での擦れに対する耐摩擦性などが要求される。
【0004】
他方、電線・ケーブルの被覆材に使用されるゴム材料は多岐にわたるが、その中でも塩素系ゴムは難燃性や耐油性に優れる高機能材料として知られている。我々は、塩素系ゴムにおいて、特に経済性の高い塩素化ポリエチレンを用いた被覆材の開発を進め、これまでに様々な発明を創出してきた。また、加工性を向上させるために塩素化ポリエチレンと高い相溶性を示し、かつ塩素化ポリエチレンよりも高い加熱流動性を示すエチレン系共重合樹脂やポリエチレンをアロイ化することが有効であることを見出している。
【0005】
また、電線やケーブルの被覆材においては、耐熱性をはじめとした諸特性を向上させるために、被覆材であるポリマの分子間を化学的に結合させる架橋処理を施すことが多い。一般に、広く用いられている架橋処理の一種である過酸化物架橋は、被覆材料に予め架橋剤として有機過酸化物を配合し、ケーブル被覆後に熱を加えることで過酸化物を分解、生じた活性種(ラジカル)がポリマ中の水素原子を引き抜き、架橋する(例えば、特開2018-110130号公報参照)。
【0006】
キャブタイヤケーブルに要求される耐摩耗性を向上させるためには、架橋度の増加、ポリマの分子量・結晶量の増加などの対応が有効である。例えば、ポリマにおける結晶は、その結晶の融点以下の温度において一部の分子が強固な結晶構造をとることにより形成される。ポリマ分子における構造の規則性が高いほど結晶構造がとりやすい。その結晶量は示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量で示すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この過酸化物を利用する架橋は、架橋度が高い点で好ましいものの、ポリマ中の結晶量が少なくなり、耐摩耗性が低下する場合がある。これは、過酸化物を利用して架橋する際には、過酸化物を分解するために高温にまで加熱する。そのため、その熱で結晶が融解してしまい、その融解状態で架橋がなされることでポリマの構造の規則性が低下するためと考えられる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、高い架橋度と高い結晶量を併せ持ち、優れた耐摩耗性を有する材料、それを用いた電線およびケーブルを提供することにある。
その他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施の形態である架橋ゴム組成物は、塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、塩素化ポリエチレンの示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量が2J/gを超え、前記エチレン系共重合樹脂の融点が、70℃以上であり、前記架橋ゴム組成物は、そのゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である。
【0011】
本発明の一実施の形態である電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を有する電線であって、前記絶縁層は、塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、前記架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物から構成される。
【0012】
本発明の一実施の形態であるケーブルは、導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、前記絶縁層を被覆する被覆層を有するケーブルであって、前記被覆層は、塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含む架橋ゴム組成物であって、前記架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である、架橋ゴム組成物から構成される。
【0013】
本発明の一実施の形態である架橋ゴム組成物の製造方法は、塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含むゴム組成物を用意し、前記ゴム組成物に電子線照射を行い、架橋させて架橋ゴム組成物とする架橋ゴム組成物の製造方法であって、前記架橋ゴム組成物のゲル分率が70%以上であり、かつ、前記架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量に対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量の割合(百分率)で表される融解熱量残率が70%以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施の形態である架橋ゴム組成物およびその製造方法によれば、高い架橋度と高い結晶量を併せ持ち、優れた耐摩耗性を有する材料を提供できる。
【0015】
また、本発明の一実施の形態の電線およびケーブルによれば、高い架橋度と高い結晶量を併せ持ち、優れた耐摩耗性を有するものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態である、ケーブルの断面模式図である。
【
図2】実施例で用いた、ケーブル製造(押出)工程を実施する押出機の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0018】
<実施の形態>
上記のように、架橋度が高く、かつ、ポリマ中の結晶量も多く保持できるようにすることで、耐摩耗性に優れた架橋ゴム組成物を得るために、本発明者らは、架橋時に高温を必要としない電子線照射による架橋の適用を考え、ベースポリマとして、塩素化ポリエチレンと少なくともエチレン系共重合樹脂を含む混合物を含む架橋ゴム組成物を検討した。
【0019】
そして、本発明者らは、このような組成からなる架橋ゴム組成物において、所定の特性を有するようにすることで、耐摩耗性に優れた架橋ゴム組成物となることを見出し、本発明を完成した。
以下、本実施の形態である架橋ゴム組成物、電線およびケーブルについて詳細に説明する。
【0020】
[架橋ゴム組成物]
本実施の形態に係る架橋ゴム組成物は、塩素化ポリエチレンに少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマを含んで構成されるものである。
【0021】
(ベースポリマ)
本実施の形態で用いられるベースポリマは、塩素化ポリエチレンに少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0022】
〈塩素化ポリエチレン〉
ここで用いられる塩素化ポリエチレンは、公知の塩素化ポリエチレンであれば特に限定されずに使用することができる。
【0023】
この塩素化ポリエチレンとしては、耐摩耗性の向上の観点から、結晶性グレードの塩素化ポリエチレンを用いることが好ましい。一般に結晶性グレードとされる結晶量を有する塩素化ポリエチレンとしては、具体的には、示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量が2J/g~80J/gの塩素化ポリエチレンが好ましい。塩素化ポリエチレンの融解熱量は5J/g~30J/gがより好ましく、特に耐摩耗性と可とう性のバランスを考えると融解熱量が10J/g~20J/gがさらに好ましい。
【0024】
なお、本明細書で、融解熱量は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量であり、測定される樹脂中に含まれる結晶の量に応じて変動するものである。塩素化ポリエチレンの結晶の融解は、おおよそ100~130℃程度で起こる。測定は、アルミニウムパンを用い、加熱速度10℃/分、冷却速度5℃/分、上限温度150℃、下限温度25℃の条件で行うことができる。熱履歴の影響をなくすため、融解熱量は2回目昇温時の値を用いた。この融解熱量により、樹脂の結晶量を評価できる。そのため、以下、この融解熱量を、結晶量の数値として記載することもある。
【0025】
また、この塩素化ポリエチレンは、塩素含有量が20~45質量%、121℃、1分予熱後、4分経過時のムーニー粘度が120以下程度とすることが好ましく、難燃性や柔軟性のバランスの観点から、塩素含有量が25~40質量%、121℃、1分予熱後、4分経過後のムーニー粘度が90以下であることがより好ましい。
【0026】
(エチレン系共重合樹脂)
ここで用いられるエチレン系共重合樹脂は、公知のエチレン系共重合樹脂であればよく、特に限定されるものではない。このエチレン系共重合樹脂としては、具体的には、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンメチルアクリレート共重合樹脂、エチレンエチルアクリレート共重合樹脂、エチレンプロピレン共重合体、エチレンプロピレンジエン共重合体やこれらの変性体が挙げられ、また、これらエチレン系共重合樹脂の複数種を混合した混合樹脂としてもよい。
【0027】
これらの中でも、耐摩耗性、柔軟性およびケーブル押出被覆時の良好な成型性のバランスを保つため、特に、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンエチルアクリレート共重合樹脂などを用いることが好ましい。
【0028】
また、エチレン系共重合樹脂としては、融点70℃以上のエチレン系共重合樹脂が好ましく、樹脂中の結晶量の観点からは、融点80℃以上のエチレン系共重合樹脂がより好ましく、融点85℃以上のエチレン系共重合体樹脂がさらに好ましい。融点が70℃以上のエチレン系共重合樹脂は、複数種を併用してもよく、特性が発現する領域で融点70℃以上のエチレン系共重合樹脂に、融点70℃以上のエチレン系共重合樹脂を混合したものとしてもよい。このエチレン系共重合樹脂としては、具体的には、エチレン-α-オレフィン共重合体、さらに具体的には、エチレンブテン共重合体などが挙げられる。
【0029】
また、エチレン系共重合樹脂は、その物性に限定されるものではないが、例えば、190℃、2.16kgfの条件でのメルトフローレート(MFR)が6g/10分以下とすればよく、耐摩耗性向上の観点から、190℃、2.16kgfの条件でのメルトフローレート(MFR)が1g/10分以下であることが好ましい。
【0030】
上記した塩素化ポリエチレンに、少なくともエチレン系共重合樹脂が混合されたベースポリマにおいて、耐摩耗性、加工性、可とう性の観点から、ベースポリマを100質量部としたとき、少なくとも塩素化ポリエチレンの含有量は50質量部以上とすることが好ましい。
【0031】
このベースポリマを構成する樹脂の混合比率は、塩素化ポリエチレンとエチレン系共重合樹脂とが、質量比で、90:10~50:50の範囲が好ましく、80:20~60:40の範囲がより好ましく、耐摩耗性、加工性および可とう性の全ての特性を優れたものとできるため、70:30近辺の比率範囲が特に好ましい。
【0032】
また、ベースポリマには、塩素化ポリエチレンとエチレン系共重合樹脂に加えて、その他のゴム、樹脂を混合することが可能である。具体的には、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリオレフィン系樹脂、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリウレタンや、これらの変性体が挙げられ、これらの複数種を混合した混合物なども挙げられる。
【0033】
(添加剤)
本実施の形態の架橋ゴム組成物には、可塑剤、滑剤、補強剤、充填剤、難燃剤、塩化水素捕捉剤、酸化防止剤、架橋助剤といった添加剤を混合させることができる。
【0034】
可塑剤としては、例えば、鉱物油、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシルなどのフタル酸系、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)などのアジピン酸系、ポリエステル系、リン酸系、エポキシ系、トリメリット酸系などが挙げられる。これらは、単独または2種以上の組合せによる使用も可能である。
【0035】
滑剤としては、例えば、脂肪酸アミド(アマイド)系、ステアリン酸亜鉛、シリコーン、炭化水素系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
補強剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカなどが挙げられる。
【0036】
充填剤としては、例えば、珪藻土、焼成珪藻土、石英、クリストバライト、カオリナイト、カオリンクレー、焼成クレー、タルク、白雲母、ウォラストナイト、蛇紋石、パイロフィライト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0037】
難燃剤としては、例えば、金属水酸化物、ハロゲン系、リン系、アンチモン系などの難燃剤が挙げられる。
【0038】
塩化水素捕捉剤としては、例えば、エポキシ基含有化合物、ハイドロタルサイト類、三塩基性硫酸鉛などの鉛含有化合物、錫含有化合物、または、金属石けんなどが挙げられる。
【0039】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、フェノール/チオエステル系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、亜リン酸系酸化防止剤などが挙げられる。
【0040】
架橋助剤としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、N,N’-メタフェニレンビスマレイミド、エチレングリコールジメタクリレート、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛などが挙げられる。
【0041】
(架橋度および結晶量について)
上記した各材料を、十分に混練して架橋前のゴム組成物を用意した後、架橋処理を施して、本実施の形態の架橋ゴム組成物とできる。材料の混練は、公知の混練方法を用いればよく、特に制限されるものではない。例えば、ニーダが良く用いられるが、ニーダ以外でもロール機や押出機、ミキサー、オートクレーブなど一般に使用される混練、反応装置であれば特に限定されることはなく、これらの混練条件についても何ら上記に限定されるものではない。
【0042】
次いで、架橋処理は、電子線(例えば、加速電圧2MV、電子線照射量100kGy)を照射することで行うことができる。このときの照射条件は、得られる架橋ゴム組成物の特性が次の条件を満たすようにできればよく、何ら限定されるものではない。
【0043】
なお、加速電圧2MVにおいては、電子線照射量は20~100kGyが好ましく、耐摩耗性および架橋度のバランスから30~75kGyがより好ましい。
【0044】
このように架橋処理を行って得られる架橋ゴム組成物は、そのゲル分率を70%以上とすることが好ましい。ゲル分率は、架橋ゴム組成物の架橋度を評価する指標となるものであり、例えば、以下のように算出できる。
【0045】
ゲル分率を測定するにあたっては、事前に使用する材料を秤量しておく。次に、その材料を110℃に熱したキシレンに24時間浸漬させる。浸漬後に、20℃で3時間大気圧に放置し、80℃で4時間真空乾燥させた後、処理後の材料の質量を秤量し、キシレン浸漬前(処理前)の質量に対する浸漬後(処理後)の質量の比(百分率)により算出できる。
【0046】
さらに、この架橋ゴム組成物は、この架橋ゴム組成物の架橋前の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量Aに対する架橋後の示差走査熱量測定(DSC)による融解熱量Bの割合(百分率)で表される融解熱量残率を70%以上としたものである。すなわち、融解熱量Bは、架橋ゴム組成物の融解熱量であり架橋後の結晶量を、融解熱量Aは、架橋処理前のゴム組成物の融解熱量であり架橋前の結晶量を、評価できる。これら融解熱量から、融解熱量残率は、次の式により算出できる。
融解熱量残率(%)={(融解熱量B)/(融解熱量A)}×100
【0047】
このように融解熱量残率を70%以上とすることで、架橋前後における結晶量の減少を抑制して架橋後の結晶量を確保できるため、得られる架橋ゴム組成物の耐摩耗性を優れたものとできる。
【0048】
上記のように、所定のゲル分率および所定の融解熱量残率を有するようにすることで、高い架橋度および高い結晶量を併せ持つことができ、架橋ゴム組成物の耐摩耗性を優れたものとできる。
【0049】
[電線、ケーブル]
本発明の一実施の形態における電線、・ケーブルは、導体と、導体を被覆して保護する被覆層と、を有し、被覆層を、上記説明した本実施の形態の架橋ゴム組成物とする。被覆層は、導体を直接被覆して電線とすることもでき、導体と、その導体を被覆する絶縁層の上に間接的に被覆してケーブルとすることもできる。
【0050】
本実施の形態であるケーブルの断面図を、
図1に示した。
図1に示したように、ケーブル1は、導体2と、絶縁層3と、被覆層4と、を有して構成される。
【0051】
導体2は、通常用いられる金属線であればよく、例えば、銅線、銅合金線、アルミニウム線、金線、銀線などを用いることができる。また、導体2として、金属線の周囲に錫やニッケルなどの金属めっきを施したものを用いてもよい。さらに、導体2として、金属線を撚り合わせた撚り導体を用いることもできる。
【0052】
絶縁層3は、電線に通常用いられる絶縁材料で形成されていればよく、特に限定されるものではない。この絶縁層3の絶縁材料としては、エチレン-プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、ポリオレフィン樹脂、天然ゴム、その他合成ゴムなどが挙げられる。これらは単独での使用はもちろん複数を混合したものでも良く、架橋処理の有無は問わない。
【0053】
被覆層4は、上記説明した本実施の形態の架橋ゴム組成物から構成されるものとし、そのゲル分率は70%以上であり、かつ、融解熱量残率が70%以上である。
【0054】
このケーブルの製造方法としては、押出機を用いて、導体2上に形成された絶縁層3の外周に上記説明した架橋前のゴム組成物で被覆し、その後、被覆層を電子線照射によって架橋処理すればよく、これによりケーブル1を製造できる。
【0055】
図2は、本実施の形態におけるケーブルを作製する押出機の一例として、その概略構成を示した図である。
図2に示すように、押出機11は、シリンダ20と、シリンダ20内に軸回転可能に設けられたスクリュ13と、シリンダ20内に材料を供給するホッパ12とクロスヘッド16とを備えている。また、押出機11は、クロスヘッド16とスクリュ13との間のネック15と、ネック15とスクリュ13との間のブレーカプレート14とを備えている。クロスヘッド16は、ダイス17を有しており、クロスヘッド16内を通過する電線(絶縁体で被覆された導体)を撚りあわせたケーブルコア18が、クロスヘッド16内にてシースにより被覆され、ダイス17を通過して未架橋のケーブル19としてクロスヘッド16内から引き出される。
【0056】
未架橋のケーブル19は、その外周が架橋前のゴム組成物で被覆されており、このゴム組成物に対して電子線照射を行うことで架橋処理を行い、架橋ゴム組成物で被覆されたケーブル1とできる。架橋処理は、上記架橋ゴム組成物の製造方法において説明した条件で行えばよい。
【0057】
このようにして得られるケーブルは、例えば、
図1に示した構成のケーブルであり、特に多芯ケーブルにおいて電気用品安全法(別表第一)やJIS C3327に規定される導体断面積38mm
2以下のサイズの電線を有するものに好適である。
【0058】
なお、ここでは、ケーブルの構成として説明したが、導体2の周囲を被覆する絶縁体を有する絶縁電線において、絶縁体を本実施の形態の架橋ゴム組成物により形成することも可能である。
【実施例0059】
次に、本実施の形態について、実施例および比較例を参照しながら詳細に説明する。
【0060】
[実施例1~5、比較例1~6]
ベースポリマへの各種添加剤の混練、作製した各コンパウンドを用いたケーブルの製造、架橋処理は以下のとおりに実施した。以下の条件は一例であり、何ら限定されるものではない。
【0061】
(架橋前のゴム組成物の調製)
容量25Lの加圧式ニーダ(ニーダ槽は100℃に温調)へ、表3~4に示した配合に基づいて、塩素化ポリエチレン、エチレン系共重合樹脂、塩化水素捕捉剤、可塑剤、滑剤、補強剤、充填剤、難燃剤、架橋助剤などを投入し、ロータ回転数10rpm、10分間加圧混練した。
【0062】
ここで、エチレン系共重合樹脂を混練の終期に投入することで、添加剤混練時の材料粘度を上げて、添加剤の分散性を向上することが可能となる。なお、これらの条件は一例であり限定されるものではない。
【0063】
上記混練完了後は、速やかに材料を単軸押出機ホッパへ排出し、ストランド状に押出、水冷後ペレタイズすることでゴム組成物のペレットを作製する。ここで、造粒方法としては上記に限定されず、例えば水冷せずにホットカット設備を用いてペレットを作製してもよい。また、ペレット同士の粘着を防止するために離型剤を使用することができる。離型剤はその成分や粉状、液状、ミスト状など形状も問わないが、例えば経済性を考慮してタルクなどを用いると効果的である。
【0064】
(ケーブルの製造および架橋処理)
本実施例および比較例において、
図2に示した押出機11を使用し、次のように未架橋のケーブルを作製した。
【0065】
まず、スズめっき軟銅線を複数本撚り合わせた導体断面積38mm2(外径9.1mm)の導体上に絶縁体としてエチレン-プロピレンゴム共重合体混和物を厚さ1.2mmで押出被覆し架橋した線心を得た。この線心を3本撚りしたケーブルコアに、上記した各例におけるゴム組成物のペレットをスクリュ径90mmの単軸押出機を使用して、表1または表2に記載の条件で、厚さ3.0mmに押出被覆することで未架橋のケーブルを作製した(仕上がり外径約31mm)。作製した未架橋のケーブルは、一度ドラムに巻き取った。
【0066】
ここで、表1~2には、ケーブル押出工程での押出条件を示している。このとき、シリンダ1~5は、上から順番にホッパ側からヘッド側に接続されシリンダ20を構成している。また、表1~2のフランジは、シリンダ20の端部であって、ネック15側の端部である。
【0067】
なお、表1には、電子線照射架橋を行うための未架橋のケーブル(実施例1~5、比較例1~3)の押出条件を、表2には、過酸化物架橋を行うための未架橋のケーブル(比較例4~6)の押出条件を、それぞれ示した。
【0068】
このとき、過酸化物架橋では結晶の融点以上および過酸化物の分解温度以下で押出を行う必要があるため、押出温度が制限され、製造時の自由度が低いが、電子線照射架橋では結晶の融点以上であれば押出温度の制限はなく、製造時の自由度が高いという利点も有する。
【0069】
次いで、実施例1~5、比較例1~3においては、未架橋のケーブルをドラムから引き出し、電子線照射装置にて、電子線(加速電圧2MV、電子線照射量100kGy)を照射し、架橋ゴム組成物で被覆されたケーブルを作製した。このときの電子線照射条件は、これに限られるものではない。
【0070】
なお、上記ケーブル製造については一例であり、押出機やケーブルコア、ケーブル構造、架橋処理条件は何ら上記に限定されるものではない。
【0071】
また、比較例4~6においては、未架橋のケーブルをドラムから引き出し、過酸化物の分解温度以上の温度に加熱して、架橋処理を行った。
【0072】
【0073】
【0074】
[特性の評価]
作製した混練後のコンパウンド、架橋処理後のケーブルについて以下のとおり評価を行った。この評価結果は、組成とともに表3~4に併せて示した。
【0075】
(1)結晶量(融解熱量)
示差走査熱量測定(DSC)を行い、架橋ゴム組成物の架橋前および架橋後の融解熱量を測定した。おおよそ100~130℃のピークを塩素化ポリエチレン由来、60~100℃のピークをエチレン系共重合樹脂由来とし、各ピークにおける融解熱量を合計し、結晶量として評価した。測定はアルミニウムパンを用い、加熱速度10℃/min、冷却速度5℃/min、上限温度150℃、下限温度25℃の条件で行った。熱履歴の影響をなくすため、融解熱量は2回目昇温時の値を用いた。
【0076】
なお、架橋前のゴム組成物の結晶量を「結晶量(架橋前)」、架橋後の架橋ゴム組成物の結晶量を「結晶量(架橋後)」として示している。
【0077】
(2)架橋後結晶割合
上記(1)において、架橋前のゴム組成物の融解熱量を融解熱量A、架橋後の架橋ゴム組成物の融解熱量を融解熱量Bとし、架橋処理後の結晶の残存量として下記式により得られる融解熱量残率を評価した。融解熱量残率が70%以上であるものを耐摩耗性に寄与する十分な結晶量を有するものとして良(記号表記○)、77%以上であるものを特に十分な結晶量を有するものとして優(記号表記◎)とし、70%未満であるものを不良(記号表記×)とした。
・融解熱量残率(%)=(融解熱量B/融解熱量A)×100
【0078】
(3)架橋度(ゲル分率)
架橋ゴム組成物から採取した0.5gの試料を40メッシュの真鍮製金網に入れ、110℃オイルバス中でキシレンにより24時間抽出処理を行った。一晩、自然乾燥し、さらに80℃で4時間真空乾燥した後の質量を秤量した。得られた値から材料の架橋度を示す指標であるゲル分率を、以下の式により算出した。ゲル分率は実用に十分な耐熱性を有するもの、さらに十分に耐摩耗性にも寄与するものとして70質量%以上であるものを良(記号表記○)、80質量%以上であるものを特に十分な架橋度であるものとして優(記号表記◎)とし、70質量%未満であるものを不良(記号表記×)とした。
・ゲル分率=(b/a)×100
a:仕込み質量(g)
b:抽出、乾燥後の質量(g)
【0079】
(4)耐摩耗性(摩耗特性)
上記のゴム組成物のペレットを、熱プレス機を用いて180℃にて2m厚のシート片に成形した。なお、比較例4~6については、この成形と同時に架橋を行った。実施例1~5、比較例1~3では、シート片に対して電子線照射装置により、電子線(加速電圧:2MV、電子線照射量:表3~4に記載の通り)を照射し、架橋されたシート片を作製した。
【0080】
架橋されたシート片を、ケーブル形状を模擬した治具に装着し、摩耗試験をJIS C3005に準拠し実施した。おもりの質量は5kg、砥石円板の回転数は75回転として、試験前後の質量減少量と各試料の比重から摩耗体積を算出した。摩耗体積が0.6mL以下であるものを良(記号表記○)、0.5mL以下であるものを特に耐摩耗性に優れるものとして優(記号表記◎)とし、0.6mLを超えるものを不良(記号表記×)とした。
・摩耗体積=(試験前のシート質量-試験後のシート質量)/比重
【0081】
(5)総合判定
上記(2)~(4)で示した特性において、全ての特性が良または優であったものを合格(記号表記○または◎、ここで◎とは全ての特性が優であったもの)、どれかひとつでも不良となったものを不合格(記号表記×)として表記した。
【0082】
【0083】
【0084】
表3~表4に示す製品のうち、*1:「エラスレン252B」(結晶量20J/g)は昭和電工社製、*2:「VF-120T」(融点:85℃、MFR:1g/10min、結晶量11J/g)は宇部丸善ポリエチレン社製、*3:「カーボンブラック」(算術平均粒子径:68nm)は日鉄カーボン社製のHTC#S、*4:「DCP」は日油社製のジクミルパーオキサイド、である。
【0085】
上記結果から、塩素化ポリエチレンおよびエチレン系共重合樹脂を混合したゴム組成物に電子線架橋を適用することで架橋処理後においても結晶量と架橋度の両方を高く保つことができ、耐摩耗性に優れる特性を得ることが可能であることがわかった。また、比較例4~6より、過酸化物架橋においては過酸化物の増量に伴い架橋度が増加するものの、結晶量が大きく低下することが明らかとなった。したがって、該ゴム組成物に電子線架橋を行うことで、耐油性およびケーブル押出被覆時の良好な加工性に加え、高い結晶量と架橋度の両立による優れた耐摩耗性をバランスよく得ることができ、外観も良好となる。さらに加速電圧2MVにおいては電子線照射量を30~100kGyとすることで、耐摩耗性において優れる特性が得られることがわかった。
【0086】
以上、本発明者らによってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。