(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082667
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】複合材料の特性推定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20240613BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20240613BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G16C20/30
G01N24/00 100Y
G01N24/08 510Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196670
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】社内 大介
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】木部 有
(57)【要約】
【課題】複数の樹脂を混練、成形して製造される複合材料の特性を精度よく推定可能な複合材料の特性推定方法及び装置を提供する。
【解決手段】複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する方法であって、複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データ63と、複合材料の特性を表す特性データ64との関係を機械学習し、組織データ63と特性データ64との相関性を表す回帰モデル42を作成しておき、回帰モデル42により、予測対象の組織データ63に応じた特性データ64を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する方法であって、
前記複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも前記複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び前記複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データと、前記複合材料の特性を表す特性データとの関係を機械学習し、前記組織データと前記特性データとの相関性を表す回帰モデルを作成しておき、
前記回帰モデルにより、予測対象の組織データに応じた特性データを求める、
複合材料の特性推定方法。
【請求項2】
前記複合材料の製造時のプロセスデータ及び前記組織データと、前記特性データとの相関性を表す前記回帰モデルを作成しておき、
前記回帰モデルにより、予測対象のプロセスデータ及び組織データに応じた特性データを求める、
請求項1に記載の複合材料の特性推定方法。
【請求項3】
前記プロセスデータと前記組織データとの関係を機械学習し、前記プロセスデータと前記組織データの相関性を表す組織推定用回帰モデルをさらに作成しておき、
前記組織推定用回帰モデルにより、予測対象のプロセスデータに応じた組織データを求めた後、
当該求めた組織データを用いて、前記予測対象のプロセスデータに応じた特性データを、前記回帰モデルにより求める、
請求項2に記載の複合材料の特性推定方法。
【請求項4】
前記複数の樹脂の組成情報を含む組成データ、前記プロセスデータ及び前記組織データと、前記特性データとの相関性を表す前記回帰モデルを作成しておき、
前記回帰モデルにより、予測対象の組成データ、プロセスデータ及び組織データに応じた特性データを求める、
請求項2に記載の複合材料の特性推定方法。
【請求項5】
前記組成データ及び前記プロセスデータと、前記組織データとの関係を機械学習し、前記組成データ及び前記プロセスデータと、前記組織データの相関性を表す組織推定用回帰モデルをさらに作成しておき、
前記組織推定用回帰モデルにより、予測対象の組成データ及びプロセスデータに応じた組織データを求めた後、
当該求めた組織データと、前記予測対象の組成データ及びプロセスデータに応じた特性データを、前記回帰モデルにより求める、
請求項4に記載の複合材料の特性推定方法。
【請求項6】
前記面積比データ及び前記分散度データは、走査型プローブ顕微鏡により得た弾性率の分布画像、あるいは凝着力の分布画像に基づいて求められる、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の複合材料の特性推定方法。
【請求項7】
複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する装置であって、
前記複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも前記複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び前記複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データと、前記複合材料の特性を表す特性データとの関係を機械学習し、前記組織データと前記特性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、
前記回帰モデルにより、予測対象の組織データに応じた特性データを求める特性推定処理部と、を備えた、
複合材料の特性推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料の特性推定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機械学習の学習結果を利用して複合材料を設計するための材料設計システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された材料設計システムは、設計対象材料の設計条件(材料組成又は製造条件)と、設計対象材料の特性(物性値、例えば引張強度)との組を、複数種類の設計対象材料について設計対象材料ごとに有するデータセットを作成する順問題解析部と、操作者により設定された各種条件に基づいて、データセットを訓練データと試験データに1回分割する学習条件設定部と、訓練データに基づいてモデルを学習し、学習したモデルの予測精度を、試験データに基づいて検証を行い、予測精度が目標値に達するまで検証を繰り返して学習済みモデルを作成するモデル学習部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1では、設計対象材料の組成や製造条件の情報を基に、設計対象材料の特性を推定していた。しかしながら、組成や製造条件のみでは、材料の物性値を精度よく推定できない場合があった。特に、複数の樹脂(すなわち、複数の高分子材料)を混練、成形して製造される複合材料においては、混練条件を同じとしても特性が異なってしまう場合があり、特性の推定が困難であった。
【0006】
そこで、本発明は、複数の樹脂を混練、成形して製造される複合材料の特性を精度よく推定可能な複合材料の特性推定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する方法であって、前記複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも前記複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び前記複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データと、前記複合材料の特性を表す特性データとの関係を機械学習し、前記組織データと前記特性データとの相関性を表す回帰モデルを作成しておき、前記回帰モデルにより、予測対象の組織データに応じた特性データを求める、複合材料の特性推定方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する装置であって、前記複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも前記複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び前記複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データと、前記複合材料の特性を表す特性データとの関係を機械学習し、前記組織データと前記特性データとの相関性を表す回帰モデルを作成する回帰モデル作成処理部と、前記回帰モデルにより、予測対象の組織データに応じた特性データを求める特性推定処理部と、を備えた、複合材料の特性推定装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の樹脂を混練、成形して製造される複合材料の特性を精度よく推定可能な複合材料の特性推定方法及び装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る複合材料の特性推定装置の概略構成図である。
【
図2】(a)SPMで得られるSPM画像データの一例を示す図であり、(b)は(a)より抽出した弾性率の頻度分布の一例を示す図である。
【
図3】分散度データの取得方法の一例を示す図である。
【
図5】(a)は回帰モデル作成処理、(b)は組織推定用回帰モデル作成処理を説明する図である。
【
図6】(a)は組織推定作成処理、(b)は特性推定処理を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施の形態に係る複合材料の特性推定方法の制御フローを示すフロー図である。
【
図8】データ取得処理の制御フローを示すフロー図である。
【
図9】組織データ抽出処理の制御フローを示すフロー図である。
【
図10】(a)は回帰モデル作成処理の制御フローを示すフロー図、(b)は組織推定用回帰モデル作成処理の制御フローを示すフロー図である。
【
図11】(a)は組織推定処理の制御フローを示すフロー図、(b)は特性推定処理の制御フローを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る複合材料の特性推定装置1の概略構成図である。
図1では、複合材料を製造する複合材料の製造装置100と、製造した複合材料の分析を行う分析エリア110も併せて示している。
【0013】
(複合材料について)
複合材料は、複数の樹脂とフィラー、添加剤等を適宜配合し、混練、成形して製造される材料である。以下の説明では、特性の推定対象となる複合材料が、電線のシース(ジャケット、絶縁体)である場合について説明する。ここでは、一例として、シースが、特性の異なる2種のEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)と、変性ゴムと、難燃性フィラーとからなる場合について説明する。一方のEVA(以下、第1EVAという)としては、酢酸ビニル配合量が17mass%、融点が89℃、ガラス転移温度が-60℃のものを用いた。他方のEVA(以下、第2EVAという)としては、酢酸ビニル配合量が60mass%、ガラス転移温度が-30℃のものを用いた。
【0014】
変性ゴムとしては、DSC法によるガラス転移点(Tg)が-60℃以下である酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができる。本実施の形態における酸変性ポリオレフィンのTgを-60℃以下としたのは-60℃を超えると耐寒性が低下するためである。本実施の形態で用いられる酸変性ポリオレフィン樹脂のポリオレフィン材料としては、超低密度ポリエチレン、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体などが挙げられ、酸としてはマレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。これらの酸変性ポリオレフィン樹脂は、単独で使用するほか、併用することもできる。
【0015】
(複合材料の製造装置100)
複合材料の製造装置100は、複数の樹脂材料やフィラーを配合する配合装置101と、配合装置101で配合した材料を混練する混練装置102と、混練装置102で混練した材料をシート状に成形する成形装置103と、を有している。なお、図示例はあくまで一例であり、複合材料の製造装置100の具体的な構成はこれに限定されない。
【0016】
複合材料の製造装置100は、配合装置101で配合する複数の樹脂及びフィラーの組成情報や配合割合の情報等を含む組成データ61と、各装置101~103の製造条件を示すプロセスデータ62とを、複合材料の特性推定装置1に送信可能に構成されている。なお、複合材料の製造装置100を管理する管理用のパーソナルコンピュータを備え、当該パーソナルコンピュータにおいて各装置101~103におけるプロセスデータ62を管理するように構成してもよい。この場合、管理用のパーソナルコンピュータから複合材料の製造装置100にプロセスデータ62を送信することになる。なお、複合材料の特性推定装置1が、複合材料の製造装置100の管理装置を兼ねていてもよい。また、組成データ61については、複合材料の特性推定装置1に接続された入力装置12により直接入力するように構成してもよい。組成データ61及びプロセスデータ62の具体例については後述する。
【0017】
(分析エリア110、及び組織データ63について)
分析エリア110は、複合材料の「組織」を規定する情報を取得し組織データ63を得るための分析、及び、複合材料の特性評価を行い特性データ64を得るための分析を行うエリアである。
【0018】
複数の樹脂やフィラーを混合した複合材料では、各樹脂やフィラーの混ざり具合や分散度合が特性に大きな影響を与える。本発明者らが検討したところ、走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope、以下SPMという)111により得られる弾性率の分布画像、あるいは凝着力(粘着力)の分布画像を用いることで、各樹脂やフィラーを判別することが可能になることが見出された。弾性率と凝着力のいずれの分布画像を用いるかについては、使用する樹脂の特性等に応じて、適宜選択可能である。例えば、使用する樹脂に弾性の差が大きい場合には弾性率の分布画像を用いることができる。なお、弾性率と凝着力の両方の分布画像を用いても構わない。以下、SPM111で得られる画像データ(すなわち、弾性率や凝着力の分布画像)をSPM画像データ40と呼称する。
【0019】
図2(a)は、SPM111で得られるSPM画像データ40の一例を示す図である。
図2(a)は、一例として、弾性率の分布画像を示している。
図2(a)における符号51がフィラーであるMg(OH)
2、符号52が第1EVA、符号53が第2EVA、符号54が変性ゴムを表している。
図2に示されるように、複合材料を構成する各樹脂52~54及びフィラー51を判別することが可能である。
【0020】
本実施の形態では、SPM111により得た物性マッピング画像、より詳細には、弾性率の分布画像、あるいは凝着力の分布画像に基づいて、複合材料を構成する複数の樹脂(及びフィラー)それぞれの面積比を示す面積比データ、及び複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを取得し、これら面積比データと分散度データを組織データ63として用いる。なお、例えばSEM(走査電子顕微鏡)を用いた場合、フィラー部分と樹脂部分とを判別することは可能であるが、樹脂部分の中で複数の樹脂がどのように分布しているかを判別することは困難である。
【0021】
組織データ63の取得の際には、まず、SPM画像データ40の全領域において、各樹脂とフィラーがどのように配置されているか、すなわち、各樹脂とフィラーのそれぞれが占める領域を判別する。ここでは、一例として、SPM画像データ40が弾性率の分布画像である場合について説明する。具体的には、まず、
図2(b)に示すように、SPM画像データ40における弾性率の頻度をグラフ化し、ピークとなる弾性率を抽出する。そして、隣り合うピークの中間位置(あるいは頻度が最も低くなる位置)を境界A~Cとして、各樹脂とフィラーのそれぞれに相当する弾性率の範囲を決定する。
図2(b)の例では、弾性率が境界A未満の領域がフィラーの領域となり、境界A以上B未満の領域が第1EVAの領域、境界B以上C未満の領域が第2EVAの領域、境界C以上の領域が変性ゴムの領域となる。
【0022】
その後、区分けした各樹脂とフィラーのそれぞれの領域の面積を抽出することで、SPM画像データ40の全領域の面積に対する、各樹脂またはフィラーの領域の面積の比を示すデータである面積比データを取得することができる。なお、各領域の面積の抽出の際には、例えば、抽出対象となる領域と他の領域との間で最もコントラストが大きくなる2次の振幅像を設定し、当該画像のヒストグラムから、対象となる領域の面積を抽出することができる。
【0023】
分散度データについては、例えば、区間分割法により求めることができる。区間分割法では、例えば
図3に示すように、SPM画像データ40を格子状に分割して複数の区間40aを形成し、各区間40aに存在する各樹脂またはフィラーの粒子(あるいは島)の数の平均値aと標準偏差bとを算出する。そして、下式
X=b/a
より、凝集値Xを求める。この凝集値Xは、大きいほど凝集度が高いことを意味しており、樹脂やフィラーの凝集性(あるいは分散性)を表すパラメータとして分散度データに用いることができる。なお、ここでは粒子の数について平均値aと標準偏差bを求めたが、これに替えて、各区間40aに含まれる各樹脂またはフィラーの面積の平均値と標準偏差を用いるようにしてもよい。また、凝集値Xに替えて、あるいは凝集値Xに加えて、標準偏差や分散等を分散度データとして用いてもよい。さらに、分散度データを求める方法は上記の区間分割法に限らず、例えばボロノイ多角形法等の他の方法を用いることもできる。
【0024】
面積比データや分散度データは、SPM画像データ40を取得する位置によってばらつきがあることが考えられるため、複合材料の異なる位置で取得した複数のSPM画像データ40のそれぞれで面積比データや分散度データを求め、得られた平均値を用いることがより望ましいといえる。さらには、複数のSPM画像データ40のそれぞれで得た面積比や凝集度等を平均化するのではなく、複数のSPM画像データ40で一括して面積比や凝集度等を求めるようにしてもよい。例えば、縦横に3枚ずつ合計9枚のSPM画像データ40を連結して1つの大きなSPM画像データとし、当該SPM画像データを用いて一括して面積比や凝集度等を求めるように構成してもよい。
【0025】
なお、組織データ63は、上記の面積比データ、分散度データ以外のデータを含んでいてもよく、分析エリア110にSPM111以外の分析装置が備えられていてもよい。例えば、組織データ63として表面粗さ(算術平均粗さ等)を用いてもよく、表面粗さを検出するためのレーザ顕微鏡等を備えてもよい。また、走査電子顕微鏡(SEM)ではSPM111と比較してより広い面積での評価ができ局所的なバラつきの影響を抑えることが可能であるため、フィラー等SEMで判別が可能な要素については、SEMで得た画像(SEM像)から面積比データや分散度データを取得するように構成することもできる。
【0026】
さらに、分散している各樹脂の形状がどのような形状であるかによっても、複合材料の特性は変化すると考えらえる。そのため、組織データ63は、各樹脂の形状を表すパラメータを含む形状データを含んでもよい。形状データとしては、例えば、分散されている各樹脂の粒子(あるいは島)の面積を当該粒子の最大辺(あるいは外接円の直径)で除したアスペクト比を用いることができる。例えば、任意の樹脂の各粒子のアスペクト比の平均値、最小値、最大値等を、形状データとして用いることができる。
【0027】
また、分析エリア110には、複合材料の特性を評価するための特性評価装置112が備えられている。複合材料の特性を表す特性データ64としては、例えば、伸びや引張強度、耐熱性、難燃性などが挙げられる。特性評価装置112としては、これらの特性を評価することが可能な適宜な装置を用いることができる。
【0028】
(複合材料の特性推定装置1)
複合材料の特性推定装置1は、パーソナルコンピュータ、または、サーバ等のネットワーク装置等により構成されており、制御部2と、記憶部3と、を有している。制御部2は、CPU等の演算素子、メモリ、インターフェイス、ソフトウェア、記憶装置等を適宜組み合わせて実現されている。記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。
【0029】
複合材料の特性推定装置1には、表示器11と入力装置12とが接続されている。表示器11は、例えば、液晶ディスプレイ等であり、入力装置12は、例えば、キーボードやマウス等である。なお、表示器11をタッチパネル方式のものとし、表示器11に入力装置12としての機能を兼ねさせてもよい。さらに、表示器11と入力装置12とは、複合材料の特性推定装置1と無線通信するように構成されていてもよい。この場合、表示器11及び入力装置12は、例えば、スマートフォンやタブレットにより構成されていてもよい。
【0030】
複合材料の特性推定装置1は、複合材料の特性を推定する装置であり、より具体的には、予測対象の組織データ63に応じた特性データ64を求める装置である。以下、求める(つまり推定される)特性データ64を推定特性データ64aと呼称する。
【0031】
本実施の形態では、推定元のデータとして、組織データ63だけでなく、さらに組成データ61とプロセスデータ62も用いており、予測対象の組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63に応じた推定特性データ64aを求めるように構成している。なお、複合材料に使用する材料(樹脂及びフィラー)が決まっている場合には、組成データ61は省略可能である。この場合、予測対象のプロセスデータ62及び組織データ63に応じた推定特性データ64aを求めることになる。
【0032】
ここで、推定元(予測対象)の組織データ63は、実際に複合材料を製造しないと得ることができない。そうすると、製造前に複合材料の特性を推定することは困難になってしまう。そこで、本実施の形態では、さらに、推定元(予測対象)の組織データ63自体も、推定元となる組成データ61とプロセスデータ62とから推定するように構成している。以下、推定元となる組成データ61とプロセスデータ62をまとめて推定元データ44と呼称する。また、推定元データ44から推定される組織データ63を、推定組織データ63aと呼称する。
【0033】
複合材料の特性推定装置1の制御部2は、データ取得処理部21、組織データ抽出処理部22、回帰モデル作成処理部23、組織推定用回帰モデル作成処理部24、組織推定処理部25、特性推定処理部26、及び推定特性データ提示処理部27を有している。以下、各部について詳細に説明する。
【0034】
(データ取得処理部21)
データ取得処理部21は、複合材料の製造装置100から受信した組成データ61及びプロセスデータ62、並びに、分析エリア110より受信したSPM画像データ40及び特性データ64を、紐づけて記憶部3に記憶するデータ取得処理(
図8参照)を行う。データ取得のタイミングや紐づけの処理等については特に限定するものではなく、例えば、各データを逐次受信し記憶部3の所定の領域に予め記憶しておき、入力装置12からの操作により、記憶された各データを適宜選択して紐づけるように構成することもできる。なお、複合材料の特性推定装置1への各データの入力は、USBメモリ等のメディアを介した入力方法であってもよい。
【0035】
(組織データ抽出処理部22)
組織データ抽出処理部22は、データ取得処理部21で受信したSPM画像データ40を基に、組織データ63を抽出する組織データ抽出処理(
図9参照)を行う。具体的には、
図2(b)を用いて説明したように、SPM画像データ40から各樹脂とフィラーのそれぞれに相当する領域を決定し、それぞれの領域の面積比(全体の面積に対する各領域の面積の比)として面積比データを求める。そして、
図3を用いて説明したように、区間分割法等を用いて各樹脂およびフィラーの凝集度を分散度データとして求める。求めた面積比データ及び分散度データを含む組織データ63は、紐づけられた組成データ61、プロセスデータ62、及び特性データ64と共に、学習用データ41として記憶部3に記憶される。
【0036】
(学習用データ41)
ここで、学習用データ41の具体例について説明しておく。
図4は、学習用データ41の一例を示す図である。なお、
図4は学習用データ41の概念を示すものであり、実際の実験データを記載したものではない。
図4に示すように、学習用データ41は、少なくとも、組織データ63と、特性データ64とを対応付けたデータベースである。本実施の形態では、学習用データ41は、組織データ63及び特性データ64に加えて、組成データ61とプロセスデータ62と、を含んでおり、これら各データが複合材料を識別するためのIDに紐づけられ記憶されている。
【0037】
組成データ61は、各樹脂(ポリマ)やフィラー、添加剤の配合割合等のデータを含む。プロセスデータ62は、各樹脂やフィラーの混ざり具合に影響の大きいパラメータを含むことが望ましく、少なくとも、混練工程の製造条件を含むとよい。具体的には、プロセスデータ62は、混練装置102の設定温度(混練開始時の温度)、ロータ回転数、圧力、試料温度(混練終了時の温度)等のパラメータを含むとよい。なお、プロセスデータ62は、配合工程や成形工程の製造条件を含んでいてもよい。組織データ63は、
図2,3を用いて説明したとおり、各樹脂(ポリマ)及びフィラーの面積比データ及び分散度データを含んでいる。特性データ64は、少なくとも、複合材料の伸びや引張強さを含んでいる。特性データ64は、耐熱試験、低温試験、耐油試験、難燃試験等の試験結果を示すパラメータ等を含んでもよい。
【0038】
(回帰モデル作成処理部23)
回帰モデル作成処理部23は、組織データ63と特性データ64との関係を機械学習し、組織データ63と特性データ64との相関性を表す回帰モデル42を作成する回帰モデル作成処理(
図10(a)参照)を行う。本実施の形態では、回帰モデル作成処理部23は、組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63と、特性データ64との相関性を表す回帰モデル42を作成するように構成されている。
【0039】
図5(a)に示すように、回帰モデル作成処理では、回帰モデル作成処理部23に、これまでに蓄積された学習用データ41が入力される。回帰モデル作成処理部23は、学習用データ41より、組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63の各パラメータに対する特性データ64の各パラメータ(伸び、引張強度など)の相関性を、機械学習により自ら学習するための学習アルゴリズム等のソフトウェアを含んでいる。学習アルゴリズムは特に限定されず、公知の学習アルゴリズムを用いることができ、例えば、3層以上の層をなすニューラルネットワークを用いた所謂ディープランニング等を用いることができる。回帰モデル作成処理部23が学習するものは、(組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63)と、(特性データ64)との相関性を表すモデル構造に相当する。
【0040】
回帰モデル作成処理部23は、入力された学習用データ41を基に、説明変数(組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63)と目的変数(特性データ64)とを含むデータ集合に基づく学習を反復実行し、両者の相関性を自動的に解釈する。なお、学習の開始時には相関性は未知の状態であるが、学習を進めるに従って説明変数(組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63)に対する目的変数(特性データ64)の相関性を徐々に解釈し、その結果として得られた学習済みモデルである回帰モデル42を用いることで、説明変数(組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63)に対する目的変数(特性データ64)の相関性を解釈可能になる。
【0041】
回帰モデル作成処理部23は、作成した回帰モデル42を記憶部3に記憶する。本実施の形態では、回帰モデル作成処理部23は、学習用データ41が更新される度に、回帰モデル42を更新する。ただし、これに限らず、例えば後述する特性推定処理を実行する際に、学習用データ41の更新分をまとめて学習し、回帰モデル42を更新するようにしてもよい。
【0042】
(組織推定用回帰モデル作成処理部24)
組織推定用回帰モデル作成処理部24は、少なくとも、プロセスデータ62と組織データ63との関係を機械学習し、プロセスデータ62と組織データ63との相関性を表す組織推定用回帰モデル43を作成する組織推定用回帰モデル作成処理(
図10(b)参照)を行う。本実施の形態では、組織推定用回帰モデル作成処理部24は、組成データ61及びプロセスデータ62と組織データ63との相関性を表す組織推定用回帰モデル43を作成するように構成されている。
【0043】
図5(b)に示すように、組織推定用回帰モデル作成処理では、組織推定用回帰モデル作成処理部24に、特性データ64を除く学習用データ41、すなわち、組成データ61、プロセスデータ62、及び組織データ63が入力される。そして、組織推定用回帰モデル作成処理部24は、上記の回帰モデル作成処理部23と同様に、入力された学習用データ41を基に、説明変数(組成データ61及びプロセスデータ62)と目的変数(組織データ63)とを含むデータ集合に基づく学習を反復実行し、両者の相関性を自動的に解釈して、その結果として得られた学習済みモデルとして組織推定用回帰モデル43を作成する。
【0044】
組織推定用回帰モデル作成処理部24は、作成した組織推定用回帰モデル43を記憶部3に記憶する。本実施の形態では、組織推定用回帰モデル作成処理部24は、学習用データ41が更新される度に、組織推定用回帰モデル43を更新する。ただし、これに限らず、例えば後述する特性推定処理を実行する際に、学習用データ41の更新分をまとめて学習し、組織推定用回帰モデル43を更新するようにしてもよい。
【0045】
(組織推定処理部25)
組織推定処理部25は、組織推定用回帰モデル43により、推定元データ44(予測対象の組成データ61及びプロセスデータ62)に応じた組織データ63を求め、得られた組織データ63を推定組織データ63aとして記憶部3に記憶する組織推定処理(
図11(a)参照)を行う。
【0046】
図6(a)に示すように、組織推定処理では、組織推定処理部25に、組織推定用回帰モデル43と、推定元データ44(組成データ61及びプロセスデータ62)とが入力される。組織推定処理部25は、組織推定用回帰モデル43を用いて、推定元データ44に対応した組織データ63を求め、得られた組織データ63を推定組織データ63aとする。そして、組織推定処理部25は、得られた推定組織データ63aを記憶部3に記憶する。
【0047】
ここで得られた推定組織データ63aは、複合材料の製造装置100を用いて、推定元データ44で設定された組成及び製造条件で複合材料を製造した際に、当該製造した複合材料の組織の状態を推定したものである。
【0048】
(特性推定処理部26)
特性推定処理部26は、回帰モデル42により、予測対象の組織データ63に応じた特性データ64を求める特性推定処理(
図11(b)参照)を行う。本実施の形態では、特性推定処理部26は、回帰モデル42により、推定元データ44(予測対象の組成データ61及びプロセスデータ62)、及び推定組織データ63a(予測対象の組織データ63)に応じた特性データ64を求め、得られた特性データ64を推定特性データ64aとして記憶部3に記憶する。
【0049】
図6(b)に示すように、特性推定処理では、特性推定処理部26に、回帰モデル42と、推定元データ44(組成データ61及びプロセスデータ62)と、推定組織データ63aとが入力される。特性推定処理部26は、回帰モデル42を用いて、推定元データ44及び推定組織データ63aに対応した特性データ64を求め、得られた特性データ64を推定特性データ64aとする。そして、特性推定処理部26は、得られた推定特性データ64aを記憶部3に記憶する。
【0050】
ここで得られた推定特性データ64aは、複合材料の製造装置100を用いて、推定元データ44で設定された組成及び製造条件で複合材料を製造した際に、当該製造した複合材料の特性を推定したものである。
【0051】
(推定特性データ提示処理部27)
推定特性データ提示処理部27は、推定特性データ64aを提示する推定特性データ提示処理を行う。推定特性データ提示処理では、例えば、推定特性データ64aを表示器11に表示する。なお、推定特性データ提示処理では、推定特性データ64a以外のデータ、例えば、推定組織データ63a等も併せて提示するように構成されていてもよい。
【0052】
(推定特性データ64aの補正)
例えば、新たな材料を用いた複合材料を製造する場合、当該新たな材料(これまでにない組成データ61)に対応した機械学習が十分に行われていない状態では、得られた推定特性データ64aはおおよその値となる。そのため、その後の製造試験の結果を考慮して、推定特性データ64aの各パラメータを補正するよう構成することも可能である。すなわち、複合材料の特性推定装置1は、複合材料の製造装置100での実際の製造結果に基づき、推定特性データ64aを補正する補正処理部をさらに備えてもよい。
【0053】
補正処理部を備えることより、回帰モデル42や組織推定用回帰モデル43が新たな材料に十分に対応していない状況(例えば、量産前で十分なデータがなく、機械学習が十分に行われていない状況)であっても、推定特性データ64aを精度よく推定することが可能になる。その結果、所望の特性を有する複合材料を少ない実験回数で製造可能になり、製造試験の回数低減によるコストの低減や、開発期間の短縮を図ることができる。
【0054】
(複合材料の特性推定方法)
(メインルーチン)
図7は、本実施の形態に係る複合材料の特性推定方法の制御フローを示すフロー図である。なお、
図7において、実線で示す矢印は、制御の流れを表しており、破線で示す矢印は、信号やデータの入出力を表している。
【0055】
図7に示すように、本実施の形態に係る複合材料の特性推定方法では、まず、ステップS0にて、制御部2が、新たなデータが入力されたかを判定する。ステップS0でNO(N)と判定された場合、ステップS5に進む。ステップS0でYES(Y)と判定された場合、ステップS1に進み、データ取得処理を行う。
【0056】
ステップS1のデータ取得処理では、
図8に示すように、データ取得処理部21が、組成データ61、プロセスデータ62、SPM画像データ40、及び特性データ64の組を受信し(ステップS11)、受信した各データを紐づけて記憶部3に記憶(ステップS12)する。その後、リターンする。
【0057】
ステップS1のデータ取得処理を行った後、ステップS2にて、組織データ抽出処理を行う。組織データ抽出処理では、
図9に示すように、まず、ステップS21にて、SPM画像データ40における各樹脂とフィラー各々の領域を決定する。具体的には、SPM画像データ40における弾性率等の頻度をグラフ化し、ピークとなる弾性率等を抽出すると共に、隣り合うピークの中間位置(あるいは頻度が最も低くなる位置)を境界として、各樹脂とフィラーの各々に相当する弾性率等の範囲を決定する(
図2参照)。
【0058】
その後、ステップS22にて、各樹脂とフィラーのそれぞれの領域の面積を抽出し、ステップS23にて、SPM画像データ40の全領域の面積に対する、各樹脂またはフィラーの領域の面積の比である面積比を演算する。その後、ステップS24にて、ステップS23で求めた面積比を面積比データとして記憶部3に記憶する。
【0059】
その後、ステップS25にて、各樹脂とフィラー各々について、区間分割法により凝集度を求め(
図3参照)、求めた凝集度を分散度データとして記憶部3に記憶する。その後、リターンする。なお、図示していないが、組織データ抽出処理と併せて、樹脂やフィラーの各粒子のアスペクト比等の形状データの抽出を行ってもよい。
【0060】
ステップS2の組織データ抽出処理を行った後、ステップS3にて、回帰モデル作成処理を行う。回帰モデル作成処理では、
図10(a)に示すように、まず、ステップS31にて、回帰モデル作成処理部23が、未学習の学習用データ41を機械学習に用いて、回帰モデル42の更新を行う。なお、ステップS31は、回帰モデル42が未作成である場合には、回帰モデル42が新たに作成される。その後、ステップS32にて、更新(あるいは作成)した回帰モデル42を記憶部3に記憶し、リターンする。
【0061】
ステップS3の回帰モデル作成処理を行った後、ステップS4にて、組織推定用回帰モデル作成処理を行う。組織推定用回帰モデル作成処理では、
図10(b)に示すように、まず、ステップS41にて、組織推定用回帰モデル作成処理部24が、未学習の学習用データ41を機械学習に用いて、組織推定用回帰モデル43の更新を行う。なお、ステップS41は、組織推定用回帰モデル43が未作成である場合には、組織推定用回帰モデル43が新たに作成される。その後、ステップS42にて、更新(あるいは作成)した組織推定用回帰モデル43を記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図7のステップS5に進む。
【0062】
複合材料の特性推定を行う際には、入力装置12等により、推定元データ44を入力する(ステップS10)。なお、予め推定元データ44となる組成データ61やプロセスデータ62を複合材料の特性推定装置1に入力しておき、入力装置12により推定元データ44として用いる組成データ61やプロセスデータ62を選択するよう構成してもよい。
【0063】
ステップS5では、制御部2が、推定元データ44が入力されたかを判定する。ステップS5でNOと判定された場合、リターンする(ステップS0に戻る)。ステップS5でYESと判定された場合、ステップS6に進む。
【0064】
ステップS6では、組織推定処理を行う。組織推定処理では、
図11(a)に示すように、まず、ステップS61にて、組織推定処理部25が、組織推定用回帰モデル43により、推定元データ44に対応する組織データ63を推定し、推定組織データ63aとする。その後、ステップS62にて、得られた推定組織データ63aを記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図7のステップS7に進む。
【0065】
ステップS7では、特性推定処理を行う。特性推定処理では、
図11(b)に示すように、まず、ステップS71にて、特性推定処理部26が、回帰モデル42により、推定元データ44及び推定組織データ63aに対応する特性データ64を推定し、推定特性データ64aとする。その後、ステップS72にて、得られた推定特性データ64aを記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図7のステップS8に進む。
【0066】
ステップS8では、推定特性データ提示処理を行う。推定特性データ提示処理では、例えば、ステップS7で得た推定特性データ64aを、表示器11に表示する等して、推定特性データ64aを提示する。その後、リターンする(ステップS1に戻る)。
【0067】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る複合材料の特性推定方法では、複合材料を構成する複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データ63と、複合材料の特性を表す特性データ64との関係を機械学習し、組織データ63と特性データ64との相関性を表す回帰モデル42を作成しておき、回帰モデル42により、予測対象の組織データ63に応じた特性データ64を求めている。
【0068】
従来、複合材料を構成する各樹脂やフィラーがどのように分布しているかを知ることは困難であったが、SPM111を用いることで、複合材料を構成する各樹脂やフィラーがどのように分布しているかを分析することが可能になった。そして、SPM111を用いて得られた各樹脂の面積比データ及び分散度データを組織データ63として用いることで、複合材料の特性を精度よく推定することが可能になる。すなわち、本実施の形態によれば、複数の樹脂を混練、成形して製造される複合材料について、実際の各樹脂の分散度合等を考慮して、精度よく特性を推定することが可能になる。
【0069】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0070】
[1]複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する方法であって、前記複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも前記複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び前記複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データ(63)と、前記複合材料の特性を表す特性データ(64)との関係を機械学習し、前記組織データ(63)と前記特性データ(64)との相関性を表す回帰モデル(42)を作成しておき、前記回帰モデル(42)により、予測対象の組織データ(63)に応じた特性データ(64)を求める、複合材料の特性推定方法。
【0071】
[2]前記複合材料の製造時のプロセスデータ(62)及び前記組織データ(63)と、前記特性データ(64)との相関性を表す前記回帰モデル(42)を作成しておき、前記回帰モデル(42)により、予測対象のプロセスデータ(62)及び組織データ(63)に応じた特性データ(64)を求める、[1]に記載の複合材料の特性推定方法。
【0072】
[3]前記プロセスデータ(62)と前記組織データ(63)との関係を機械学習し、前記プロセスデータ(62)と前記組織データ(63)の相関性を表す組織推定用回帰モデル(43)をさらに作成しておき、前記組織推定用回帰モデル(43)により、予測対象のプロセスデータ(62)に応じた組織データ(63)を求めた後、当該求めた組織データ(63)を用いて、前記予測対象のプロセスデータに応じた特性データ(64)を、前記回帰モデル(42)により求める、[2]に記載の複合材料の特性推定方法。
【0073】
[4]前記複数の樹脂の組成情報を含む組成データ(61)、前記プロセスデータ(62)及び前記組織データ(63)と、前記特性データ(64)との相関性を表す前記回帰モデル(42)を作成しておき、前記回帰モデル(42)により、予測対象の組成データ(61)、プロセスデータ(62)及び組織データ(63)に応じた特性データ(64)を求める、[2]に記載の複合材料の特性推定方法。
【0074】
[5]前記組成データ(61)及び前記プロセスデータ(62)と、前記組織データ(63)との関係を機械学習し、前記組成データ(61)及び前記プロセスデータ(62)と、前記組織データ(63)の相関性を表す組織推定用回帰モデル(43)をさらに作成しておき、前記組織推定用回帰モデル(43)により、予測対象の組成データ(61)及びプロセスデータ(62)に応じた組織データ(63)を求めた後、当該求めた組織データ(63)と、前記予測対象の組成データ(61)及びプロセスデータ(62)に応じた特性データ(64)を、前記回帰モデル(42)により求める、[4]に記載の複合材料の特性推定方法。
【0075】
[6]前記面積比データ及び前記分散度データは、走査型プローブ顕微鏡(111)により得た弾性率の分布画像、あるいは凝着力の分布画像に基づいて求められる、[1]乃至[5]の何れか1項に記載の複合材料の特性推定方法。
【0076】
[7]複数の樹脂を混練した後に成形して製造される複合材料の特性を推定する装置であって、前記複合材料の組織構造を表すデータであって、少なくとも前記複数の樹脂それぞれの面積比を示す面積比データ、及び前記複数の樹脂それぞれの分散度合を示す分散度データを含む組織データ(63)と、前記複合材料の特性を表す特性データ(64)との関係を機械学習し、前記組織データ(63)と前記特性データ(64)との相関性を表す回帰モデル(42)を作成する回帰モデル作成処理部(23)と、前記回帰モデル(42)により、予測対象の組織データ(63)に応じた特性データ(64)を求める特性推定処理部(26)と、を備えた、複合材料の特性推定装置(1)。
【0077】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0078】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、複合材料が電線のシース(ジャケット、絶縁体)である場合について説明したが、複合材料の用途はこれに限定されない。すなわち、本発明は、複数の樹脂を混練、成形して製造されるものであれば、どのような用途の複合材料にも適用可能である。
【0079】
また、上記実施の形態では、SPM111により得られた弾性率、及び凝着力の分布画像を用いる場合について説明したが、SPM111により得られる他の物性の分布図、例えば、結晶量や結晶化度、あるいは熱伝導率等の分布図を用いて、樹脂の分布度合等を抽出してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…複合材料の特性推定装置
21…データ取得処理部
22…組織データ抽出処理部
23…回帰モデル作成処理部
24…組織推定用回帰モデル作成処理部
25…組織推定処理部
26…特性推定処理部
40…SPM画像データ
41…学習用データ
42…回帰モデル
43…組織推定用回帰モデル
44…推定元データ
61…組成データ
62…プロセスデータ
63…組織データ
63a…推定組織データ
64…特性データ
64a…推定特性データ