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特開2024-82786増幅回路およびそれを備える質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082786
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】増幅回路およびそれを備える質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/56 20060101AFI20240613BHJP
   H03F 3/30 20060101ALI20240613BHJP
   H01J 49/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H03F1/56
H03F3/30
H01J49/02 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196887
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西元 琢真
(72)【発明者】
【氏名】古矢 勇夫
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AA17
5J500AA45
5J500AC36
5J500AC62
5J500AF06
5J500AF15
5J500AH10
5J500AH19
5J500AH25
5J500AH29
5J500AK05
5J500AK18
5J500AK48
5J500AM02
5J500AM05
5J500AM08
5J500AM23
5J500AS15
5J500AT01
5J500AT06
5J500WU07
(57)【要約】
【課題】発熱とサイズの増加を抑制しながら、高周波動作化と大電力化を実現することが可能な増幅回路を提供する。
【解決手段】増幅回路101は、所定の電流量の電流を第1配線L1に出力する第1電流源回路113と、入力信号の電圧を増幅する電圧増幅回路110と、第1配線L1と電圧増幅回路110の出力との間に接続され、電圧増幅回路110から出力された信号の電圧をシフトする第1レベルシフト回路111と、第1配線L1に接続され、第1配線L1における信号を増幅する第1ボルテージフォロワ117と、第1配線L1と電圧増幅回路110の出力との間に接続された第1キャパシタ210と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号に応じた出力信号を出力する増幅回路であって、
所定の電流量を第1配線に出力する第1電流源回路と、
前記入力信号の電圧を増幅する電圧増幅回路と、
前記第1配線と前記電圧増幅回路の出力との間に接続され、前記電圧増幅回路から出力された信号の電圧をシフトする第1レベルシフト回路と、
前記第1配線に接続され、前記第1配線における信号を増幅する第1ボルテージフォロワと、
前記第1配線と前記電圧増幅回路の前記出力との間に接続された第1キャパシタと、
を備えている、
増幅回路。
【請求項2】
請求項1に記載の増幅回路において、
前記第1キャパシタは、前記第1配線に寄生する寄生容量を充電することが可能な電流供給能力を有し、
前記電圧増幅回路は、前記第1キャパシタを充電することが可能な電流供給能力を有する、
増幅回路。
【請求項3】
請求項1に記載の増幅回路において、
前記第1レベルシフト回路は、前記第1配線と前記電圧増幅回路の前記出力との間に直列接続された抵抗素子と電圧素子とを備え、
前記第1キャパシタは、前記電圧素子と並列接続されている、
増幅回路。
【請求項4】
請求項1に記載の増幅回路は、さらに、
所定の電流量を、前記第1配線とは異なる第2配線に出力する第2電流源回路と、
前記第2配線と前記電圧増幅回路の出力との間に接続され、前記電圧増幅回路から出力された信号の電圧をシフトする第2レベルシフト回路と、
前記第2配線に接続され、前記第2配線における信号を増幅する第2ボルテージフォロワと、
前記第2配線と前記電圧増幅回路の前記出力との間に接続された第2キャパシタと、
を備え、
前記第1ボルテージフォロワの出力と前記第2ボルテージフォロワの出力が合成され、前記出力信号として出力される、
増幅回路。
【請求項5】
請求項3に記載の増幅回路を備えた質量分析装置であって、
前記質量分析装置は、検出対象のイオン化した試料のみを通過させる分離ユニットを備え、
前記抵抗素子と前記第1キャパシタによって規定されるカットオフ周波数が、前記分離ユニットの共振周波数よりも高くなるように、前記第1キャパシタの容量値が設定されている、
質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅回路およびそれを備える質量分析装置に関し、特に増幅回路および質量分析装置の高周波動作と大電力化の両方を図る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
増幅回路の高周波動作を図る技術が、例えば特許文献1に記載されている。すなわち、特許文献1には、高利得化と広帯域化の両方を図るために、ソース接地トランジスタ、ドレイン接地トランジスタおよび帰還抵抗とを備える複数の増幅器を多段化(カスケード接続)して、増幅回路を構成することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-96308号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されているように、増幅器を多段化すると、増幅回路の占有面積(以下、単にサイズとも称する)が大きくなるという課題がある。また、高利得化と広帯域化の両方を図る増幅器は、一般的に消費電力が高くなるという課題もある。
【0005】
本発明の目的は、発熱とサイズの増加を抑制しながら、高周波動作化と大電力化の両方を実現することが可能な増幅回路、およびその増幅回路を備えた質量分析装置を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0008】
すなわち、一実施の形態に係る増幅回路は、所定の電流量を第1配線に出力する第1電流源回路と、入力信号の電圧を増幅する電圧増幅回路と、第1配線と電圧増幅回路の出力との間に接続され、電圧増幅回路から出力された信号の電圧をシフトする第1レベルシフト回路と、第1配線に接続され、第1配線における信号を増幅する第1ボルテージフォロワと、第1配線と電圧増幅回路の出力との間に接続された第1キャパシタと、を備えている。
【0009】
また、他の実施の形態においては、質量分析装置が提供される。他の実施の形態に係る質量分析装置では、それに用いられる増幅回路として好適な特性を有する増幅回路を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、発熱とサイズの増加を抑制しながら、高周波動作化と大電力化を実現することが可能な増幅回路、およびその増幅回路を備えた質量分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る増幅回路の構成を示す回路図である。
図2】比較例に係る増幅回路の構成を示す回路図である。
図3】(A)~(C)は、比較例に係る増幅回路の動作を説明するための波形図である。
図4】(A)~(D)は、実施の形態1に係るキャパシタの効果を説明するための波形図である。
図5】(A)および(B)は、実施の形態1に係る増幅回路と比較例に係る増幅回路の出力信号を示す波形図である。
図6】(A)および(B)は、実施の形態2に係る増幅回路を説明するための回路図である。
図7】実施の形態3に係る質量分析装置の構成を示すブロック図である。
図8】実施の形態3に係るRF信号発生部の構成を示す回路図である。
図9】実施の形態に係る式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
(実施の形態1)
<増幅回路の全体構成>
図1は、実施の形態1に係る増幅回路の構成を示す回路図である。図1において、101は、増幅回路を示している。
【0014】
増幅回路101は、電圧増幅回路110と、第1レベルシフト回路111と、第1キャパシタ210と、第2レベルシフト回路112と、第2キャパシタ220と、第1電流源回路113と、第2電流源回路114と、正電源115と、負電源116と、第1ボルテージフォロワ117と、第2ボルテージフォロワ118とを備えている。
【0015】
電圧増幅回路110の出力端子は、第1レベルシフト回路111と第2レベルシフト回路112とに接続されている。第1電流源回路113は正電源115に接続され、第1電流源回路113と第1レベルシフト回路111とは第1配線L1によって接続されている。また、第2電流源回路114は負電源116に接続され、第2電流源回路114と第2レベルシフト回路112とは第2配線L2によって接続されている。すなわち、電圧増幅回路110の出力端子と正電源115との間に、第1電流源回路113と、第1レベルシフト回路111とが直列に接続され、電圧増幅回路110の出力端子と負電源116との間に、第2電流源回路114と、第2レベルシフト回路112とが直列に接続されている。
【0016】
第1ボルテージフォロワ117は、正電源115と増幅回路101の出力端子との間に接続され、第1ボルテージフォロワ117の入力端子は第1配線L1に接続されている。また、第2ボルテージフォロワ118は、負電源116と増幅回路101の出力端子との間に接続され、第2ボルテージフォロワ118の入力端子は第2配線L2に接続されている。すなわち、正電源115と負電源116との間に、第1ボルテージフォロワ117と第2ボルテージフォロワ118とが直列に接続されている。
【0017】
<増幅回路を構成する各回路の構成>
次に、増幅回路101を構成する各回路について、図1を参照しながら説明する。
【0018】
電圧増幅回路110は、入力端子に供給される入力信号VINの電圧振幅を増幅し、増幅された電圧振幅を有する出力信号Svgを出力端子から出力する。
【0019】
第1レベルシフト回路111は、負荷抵抗119とNチャンネル型MOS(電界効果)トランジスタ(以下、N型トランジスタとも称する)Q1とを備えている。負荷抵抗119は、N型トランジスタQ1のソースと電圧増幅回路110の出力端子との間に接続され、N型トランジスタQ1のドレインとゲートは、第1配線L1の一方の端部に接続されている。なお、N型トランジスタQ1は、ドレインとゲートとを接続することで、ダイオード(電圧素子)として機能する。
【0020】
第1キャパシタ210の一方の端子は、N型トランジスタQ1のソースに接続され、他方の端子は、N型トランジスタQ1のドレインおよびゲートに接続されている。
【0021】
第2レベルシフト回路112は、負荷抵抗120とPチャンネル型MOSトランジスタ(以下、P型トランジスタとも称する)Q2とを備えている。負荷抵抗120は、P型トランジスタQ2のソースと電圧増幅回路110の出力端子との間に接続され、P型トランジスタQ2のドレインとゲートは、第2配線L2の一方の端部に接続されている。P型トランジスタQ2も、ドレインとゲートとを接続することで、ダイオード(電圧素子)として機能する。
【0022】
第2キャパシタ220の一方の端子は、P型トランジスタQ2のソースに接続され、他方の端子は、P型トランジスタQ2のドレインおよびゲートに接続されている。
【0023】
第1レベルシフト回路111は、電圧増幅回路110からの出力信号Svgを入力として、正極側のレベルシフト信号Shsを第1配線L1に出力する。すなわち、第1レベルシフト回路111は、N型トランジスタQ1により構成されたダイオードによって規定される電圧分、出力信号Svgを正電源115側にシフトさせたレベルシフト信号Shsを出力する。
【0024】
また、第2レベルシフト回路112は、電圧増幅回路110からの出力信号Svgを入力として、負極側のレベルシフト信号Slsを第2配線L2に出力する。すなわち、第2レベルシフト回路112は、P型トランジスタQ2により構成されたダイオードによって規定される電圧分、出力信号Svgを負電源116側にシフトさせたレベルシフト信号Slsを出力する。
【0025】
第1および第2キャパシタ210、220については、後で説明するので、ここでは説明を省略する。
【0026】
第1電流源回路113は、第1配線L1の他端に接続され、第1配線L1を介して第1レベルシフト回路111に、所定の値(電流量)の駆動電流Ihsを出力する。同様に、第2電流源回路114は、第2配線L2の他端に接続され、第2配線L2を介して第2レベルシフト回路112に、所定の値の駆動電流Ilsを出力する。
【0027】
第1ボルテージフォロワ117は、実施の形態1では、ソースフォロワ回路によって構成されている。すなわち、第1ボルテージフォロワ117は、ドレイン接地接続のN型トランジスタQ3と負荷抵抗121とを備えている。N型トランジスタQ3のドレインは、正電源115に接続され、ソースは、負荷抵抗121を介して増幅回路101の出力端子に接続され、ゲートは、第1配線L1に接続されている。
【0028】
第2ボルテージフォロワ118も、実施の形態1では、ソースフォロワ回路によって構成されている。すなわち、第2ボルテージフォロワ118は、ドレイン接地接続のP型トランジスタQ4と負荷抵抗122とを備えている。P型トランジスタQ4のドレインは、負電源116に接続され、ソースは、負荷抵抗122を介して増幅回路101の出力端子に接続され、ゲートは、第2配線L2に接続されている。
【0029】
第1ボルテージフォロワ117は、N型トランジスタQ3のゲートを入力端子として、第1配線L1における正極側のレベルシフト信号Shsを入力し、N型トランジスタQ3のソースを出力端子として、正極側のレベルシフト信号Shsに応じた正極側の出力信号Shpを出力する。これに対して、第2ボルテージフォロワ118は、P型トランジスタQ4のゲートを入力端子として、第2配線L2における負極側のレベルシフト信号Slsを入力し、P型トランジスタQ4のソースを出力端子として、負極側のレベルシフト信号Slsに応じた負極側の出力信号Slpを出力する。
【0030】
出力信号Shpと出力信号Slpとが、負荷抵抗121と122を介して合成(加算)され、増幅回路101の出力信号OUT(=Shp+Slp)となる。
【0031】
増幅回路101は、機能的に大別すると、電圧増幅段と、レベルシフト段と、出力段とによって構成されていると見なすことができる。
【0032】
ここで、入力段は、電圧増幅回路110を備えた部分に該当する。電圧増幅回路110は、例えば設計段階で、予め電圧増幅率が設定され、設定された電圧増幅率を有している。入力段は、この予め設定された電圧増幅率に従って、入力信号VINの電圧を増幅して、増幅された出力信号Svgを出力する。
【0033】
レベルシフト段は、正極側の第1レベルシフト回路111と、第1電流源回路113と、負極側の第2レベルシフト回路112と、第2電流源回路114とによって構成された部分に該当する。
【0034】
第1レベルシフト回路111は、増幅によって得られた出力信号Svgを入力として、正極側のレベルシフト信号Shsを出力するものである。ここで、レベルシフト信号Shsは、第1電流源回路113から第1配線L1に出力される駆動電流Ihsのうち、N型トランジスタQ1に流れる電流分により定まる電圧分だけ、出力信号Svgを正極側にレベルシフトした値になる。すなわち、N型トランジスタQ1によって構成されるダイオードを電流が流れることにより、このダイオードで生じる電圧分だけ、出力信号Svgが正極側にレベルすることになる。
【0035】
同様に、第2レベルシフト回路112は、増幅によって得られた出力信号Svgを入力として、負極側のレベルシフト信号Slsを出力するものである。ここで、レベルシフト信号Slsは、第2電流源回路114から第2配線L2に出力される駆動電流Ilsのうち、P型トランジスタQ2に流れる電流分により定まる電圧分だけ、出力信号Svgを負極側にレベルシフトした値になる。すなわち、P型トランジスタQ2によって構成されるダイオードを電流が流れることにより、このダイオードで生じる電圧分だけ、出力信号Svgが負極側にレベルすることになる。
【0036】
第1レベルシフト回路111と第2レベルシフト回路112に接続された第1キャパシタ210と第2キャパシタ220は、第1配線L1と第2配線L2に寄生する寄生容量を充電する役割を持っている。第1配線L1に寄生する容量としては、例えば当該第2配線に接続されている回路、例えば第1ボルテージフォロワ117の入力端子の寄生容量等がある。第1ボルテージフォロワ117の入力端子の寄生容量としては、例えばN型トランジスタQ3のゲート容量等が挙げられる。第2配線L2に寄生する容量も、第1配線L1に寄生する容量と同様であり、例えば当該配線L2に接続されている回路、例えば第2ボルテージフォロワ118の入力端子の寄生容量等がある。第2ボルテージフォロワ118の入力端子の寄生容量としては、例えばP型トランジスタQ4のゲート容量等が挙げられる。
【0037】
なお、本明細書では、特に明示の必要がない場合には、容量の充電は、放電と充電の両方を意味している。
【0038】
出力段は、正極側の第1ボルテージフォロワ117と、負極側の第2ボルテージフォロワ118とによって構成された部分に該当する。ボルテージフォロワは、MOSトランジスタと負荷抵抗を備えている。第1ボルテージフォロワ117は、正極側のレベルシフト信号Shsを入力とし、N型トランジスタQ3の閾値分だけ電圧降下した出力信号Shpを出力する。この時、正極側のレベルシフト信号Shsの電圧が、N型トランジスタQ3に閾値を超える電圧となると、N型トランジスタQ3は、ON状態となり、正極側の電流を流すことになる。すなわち、レベルシフト信号Shsの電圧に応じた電流が、N型トランジスタQ3を介して、正電源115から増幅回路101の出力端子に流れることになる。
【0039】
第2ボルテージフォロワ118も、第1ボルテージフォロワ117と同様である。すなわち、第2ボルテージフォロワ118は、負極側のレベルシフト信号Slsを入力とし、P型トランジスタQ4の閾値分だけ電圧降下した出力信号Slpを出力する。この時、レベルシフト信号Slsの電圧が、P型トランジスタQ4に閾値を超える電圧になると、P型トランジスタQ4はON状態となり、負極側の電流を流すことになる。すなわち、レベルシフト信号Slsの電圧に応じた電流が、P型トランジスタQ4を介して、負電源116から増幅回路101の出力端子に流れることになる。
【0040】
入力信号VINの電圧が、接地電圧を基準として、正極側と負極側とに、例えば交互に変化することにより、この正極側の電流を流す動作と負極側の電流を流す動作が交互に行われ、出力段はプッシュプル動作を実現することになる。
【0041】
図1では、ボルテージフォロワとしてソースフォロワ回路を用いる場合を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、MOSトランジスタではなく、バイポーラトランジスタを用いる場合には、第1および第2ボルテージフォロワ117、118は、エミッタフォロワ回路によって構成されることになる。
【0042】
<第1および第2キャパシタ>
次に、レベルシフト回路111、112に接続された第1キャパシタ210および第2キャパシタ220の効果を説明する。第2キャパシタ220の効果は、第1キャパシタ210の効果と同様であるため、ここでは第1キャパシタ210についてのみ説明する。
【0043】
理解を容易にするために、先ず第1および第2レベルシフト回路に第1および第2キャパシタ210,220が接続されていない増幅回路を比較例として説明する。
【0044】
<<比較例>>
図2は、比較例に係る増幅回路の構成を示す回路図である。同図に示した増幅回路301は、図1に示した増幅回路101と類似している。主な相違点は、図2に示した増幅回路301は、図1に示した第1および第2キャパシタ210、220を備えていない点である。図2において、Ihsは、第1レベルシフト回路111のN型トランジスタQ1を駆動するために、第1電流源回路113が出力する所定の値の駆動電流を示し、Vhhは、第1レベルシフト回路111によるレベルシフト電圧を示している。
【0045】
図3は、比較例に係る増幅回路の動作を説明するための波形図である。ここで、図3(A)は、第1ボルテージフォロワ117の入力信号の電流波形を示し、図3(B)は、第1ボルテージフォロワ117の入力信号の電圧波形を示し、図3(C)は、増幅回路301の出力信号OUTの波形を示している。図3(A)~(C)において、横方向に延在し、符号0が付された破線は、接地電圧(0V)もしくは基準電流(0A)を示している。
【0046】
区間tAにおいて、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧が、図3(B)に示されているように、0Vから上昇し始める。すると、図3(A)に示されているように、第1ボルテージフォロワ117に入力電流が流れる。第1ボルテージフォロワ117の入力電圧の値が最大となった時点(区間tAから区間tBへ遷移するとき)、すなわち、入力電圧の変化量が0になった時点で、第1ボルテージフォロワ117に流れる入力電流は0Aとなる。
【0047】
区間tBでは、図3(B)に示されているように、入力電圧が最大値から低下し始める。すると、図3(A)に示されているように、負の電流が流れ始める。入力電圧の値が0Vになった時点(区間tBから区間tCに遷移するとき)、すなわち、入力電圧の変化量が最大となった時点で、流れる入力電流の値は最大となる。この区間tBから区間tCに遷移するときに、図3(B)に示されているように、入力電圧は正の電圧から負の電圧に切り替わる。このとき、第1ボルテージフォロワ117の入力端子に付随する寄生容量が放電し、符号310で示すように、過渡的に大電流Iht(図2)が流れる。寄生容量を放電するための過渡的な大電流Ihtは、第1電流源回路113から供給されることになる。
【0048】
しかしながら、第1電流源回路113は、第1レベルシフト回路111に駆動電流Ihsを出力しているため、過渡的な大電流Ihtが第1ボルテージフォロワ117に流れることによって、第1レベルシフト回路111に流れる駆動電流の値が変動することになる。供給されている駆動電流が変動することによって、第1レベルシフト回路111のレベルシフト電圧Vhhが変動する。
【0049】
第1レベルシフト回路111が出力する正極側のレベルシフト信号Shsは、電圧増幅回路110の出力信号Svgをレベルシフト電圧Vhhだけレベルシフトした信号に相当する。その結果、レベルシフト信号Shsも同様に変動することになる。
【0050】
レベルシフト信号Shsは第1ボルテージフォロワ117の入力信号であるため、この入力信号も、図3(B)において符号320で示されているように、過渡的な大電流Ihtによって歪のある信号となる。さらに、第1ボルテージフォロワ117の出力信号の波形は、第1ボルテージフォロワ117の入力信号を、N型トランジスタQ3の閾値分だけ電圧降下したものであるため、増幅回路301の出力信号OUTは、図3(C)において符号330で示すような歪を含んだ波形となる。
【0051】
<<第1および第2キャパシタによる効果>>
次に、図1に示したように、第1キャパシタ210および第2キャパシタ220が設けられている場合を説明する。
【0052】
図4は、実施の形態1に係るキャパシタの効果を説明するための波形図である。同図には、第1キャパシタ210が流す電流と、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧と、第1ボルテージフォロワ117の入力電流とが、簡易的に示されている。ここで、図4(A)は第1ボルテージフォロワ117の入力電流の波形を示し、図4(B)は第1キャパシタ210が流す電流の波形を示している。また、図4(C)は第1ボルテージフォロワ117の入力電圧の波形を示し、図4(D)は増幅回路101の出力信号OUTの波形を示している。
【0053】
図4(A)~(D)において、横方向に延在し、符号0が付された破線は、接地電圧(0V)あるいは基準電流0Aを示している。これらの図において、破線より上側が、正極側であり、下側が、負極側である。
【0054】
出力段を構成する第1ボルテージフォロワ117では、N型トランジスタQ3のゲートが、第1配線LIに接続された入力端子として機能する。N型トランジスタQ3のゲートには、寄生のゲート容量が付随するため、第1配線L1には寄生容量が付随し、第1キャパシタ210には、第1配線L1における寄生容量が接続されていることになる。
【0055】
区間tAにおいて、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧が、図4(C)に示されているように0Vから上昇すると、図4(A)に示すように、第1ボルテージフォロワ117に入力電流が流れる。区間tAから区間tBに遷移するときに、図4(C)に示されているように、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧の値が最大値に到達し、入力電圧の変化量が0となり、図4(A)に示されているように、第1ボルテージフォロワ117に流れる入力電流が0Aになる。
【0056】
区間tBでは、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧が、図4(C)に示すように、最大値から低下し始める。入力電圧が低下し始めると、図4(A)に示すように、第1ボルテージフォロワ117には、負(負極側)の入力電流が流れ始める。この負の入力電流の値は、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧の値が、図4(C)に示すように、0Vに到達したとき、すなわち入力電圧の変化量が最大となったときに、最大となる。
【0057】
区間tBから区間tCへ遷移するとき、第1ボルテージフォロワ117の入力電圧が、図4(C)に示すように、正(正極側)の電圧から負(負極側)の電圧に切り替わる。このとき、第1ボルテージフォロワ117の入力端子に付随する寄生容量が放電することになり、図4(A)において符号410で示すように過渡的に大電流が流れることになる。
【0058】
実施の形態1においては、この過渡的な大電流が、図4(B)に示すように、第1キャパシタ210に流れ、第1キャパシタ210が充電されることになる。これにより、第1レベルシフト回路111に流れる駆動電流Ihsの値が、過渡的な大電流で変動するのを防ぐことが可能となり、一定の値に保つことが可能となる。
【0059】
レベルシフト回路111に流れる電流の値を一定に保つことで、レベルシフト回路111でシフトするレベルシフト電圧が変動するのを防ぐことが可能となり、正極側のレベルシフト信号Shsが安定して出力されることになる。その結果、図4(D)に示すように、増幅回路101の出力信号OUTは、歪が低減された信号となる。
【0060】
区間tCから区間tDでは、正極側と負極側とが入れ替わるが、区間tAから区間tBと同様な動作が行われる。以降、区間tE以降は、区間tAから区間tDと同様な動作が繰り返される。区間tCから区間tDでは、区間tAから区間tBと極性が入れ替わるため、図4(A)に示されているように、区間tDから区間tEに遷移するときに、第1ボルテージフォロワ117の入力端子に付随する寄生容量は充電されることになる。このとき、第1キャパシタ210は、図4(B)に示すように、寄生容量を充電するために放電することになる。
【0061】
これら一連の動作により、第1配線L1に付随する寄生容量を充放電するために過渡的な大電流が流れた場合においても、増幅回路101の出力信号OUTを低歪みの信号とすることが可能である。なお、図4(D)において、出力信号OUTの正極側は、第1ボルテージフォロワ117から出力され、負極側は、第2ボルテージフォロワ118から出力される。
【0062】
第1キャパシタ210によって充放電される寄生容量として、第1ボルテージフォロワ117の入力端子に付随する寄生容量を例にして説明したが、第1キャパシタ210によって充放電される寄生容量は、これだけに限定されるものではない。すなわち、第1キャパシタ210は、第1ボルテージフォロワ117の入力端子に付随する寄生容量だけでなく、第1配線L1に付随する寄生容量を充放電し、第1レベルシフト回路に流れる電流を安定化するものである。
【0063】
第1配線L1に付随する寄生容量により発生する過渡的な大電流を低減するために、第1キャパシタ210は、充放電動作を行うことになる。実施の形態1に係る第1キャパシタ210は、第1配線L1に付随する寄生容量を充電(充放電)することが可能な電流供給能力を有している。また、第1キャパシタ210は、電圧増幅回路110によって駆動されるため、電圧増幅回路110は、第1キャパシタ210を充電(充放電)することが可能な電流供給能力を有している。これにより、実施の形態1では、過渡的な大電流を、第1キャパシタ210の充放電で相殺することが可能となる。
【0064】
図5は、実施の形態1に係る増幅回路と比較例に係る増幅回路の出力信号を示す波形図である。ここで、図5(A)は、図2で述べた比較例に係る増幅回路の出力信号の波形を示し、図5(B)は、実施の形態1に係る増幅回路の出力信号の波形を示している。
【0065】
図5において、610、620は、増幅回路に入力される入力信号の電圧波形を示し、611、621は、増幅回路から出力された出力信号の電圧波形を示している。
【0066】
図5(A)に示されているように、比較例に係る増幅回路では、出力信号が最大値に到達する付近で歪みが発生している。これに対して、実施の形態1に係る増幅回路では、レベルシフト回路に接続したキャパシタの充電(充放電)によって、レベルシフト回路に供給される電流の変動が低減され、図5(B)に示されているように、出力信号が最大値に到達する付近でも歪みが除去されている。すなわち、信号波形の歪みを低減しながら、プッシュプル動作によって大振幅の出力信号を得ることが可能となる。
【0067】
<発熱とサイズ増加の抑制>
前記した過渡的な大電流によって発生する出力信号の波形歪みは、第1および第2レベルシフト回路に駆動電流Ihs、Ilsを供給する第1および第2電流源回路113、114の構成によって対策することも可能である。すなわち、第1および第2電流源回路を、多段化された複数の単位電流源回路によって構成し、第1および第2電流源回路を高出力インピーダンス化することで、過渡的な大電流が発生しても、駆動電流Ihs、Ilsへの影響を抑制することが可能である。
【0068】
しかしながら、複数の単位電流源回路を多段化するためには、それによって構成される第1および第2電流源回路113、114に給電する正電源115および負電源116を高電圧(絶対値的に高い電圧)化することが不可欠となる。正電源115および負電源116を高電圧化すると、第1および第2ボルテージフォロワ117、118で発生する熱が大きくなり、発熱の問題が生じることになる。また、第1および第2電流源回路のそれぞれを、複数の単位電流源回路によって構成することになるため、第1および第2電流源回路を構成する半導体素子の個数が増加し、第1および第2電流源回路のサイズが大きくなり、ひいては増幅回路のサイズが大きくなる。
【0069】
実施の形態1に係る増幅回路においては、第1および第2キャパシタによって、出力信号の波形歪みを低減することが可能であるため、第1および第2キャパシタに加えて、第1および第2電流源回路113、114を多段化した単位電流源回路によって構成するようにしても、多段化する単位電流源回路の段数を低減することが可能である。第1および第2キャパシタを設けるために、その分、サイズが大きくなるが、単位電流源回路の段数を低減することができるため、サイズの増加を抑制することが可能である。また、段数を低減することができるため、正電源115および負電源116の高電圧化を抑制することが可能であり、発熱を抑制することが可能である。
【0070】
また、実施の形態1においては、第1および第2レベルシフト回路は、直列接続されたMOSトランジスタと負荷抵抗とによって構成されるため、少ない素子数で構成することが可能であり、サイズの増加を抑制することが可能である。
【0071】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2に係る増幅回路を説明するための回路図である。ここで、図6(A)は、実施の形態2に係る増幅回路の構成を示す回路図である。また、図6(B)は、実施の形態2に係る増幅回路を説明するための比較回路の構成を示す回路図である。
【0072】
図6(A)には、図1に示した増幅回路の一部分(正極側)に該当する部分のみが示されている。すなわち、図6(A)には、図1に示した第1レベルシフト回路111、第1電流源回路113および第1ボルテージフォロワ117に該当する部分のみが示され、他の部分は省略されているが、負極側の構成は、トランジスタがP型トランジスタに代わるだけで、図6(A)と同様な構成である。
【0073】
実施の形態2においては、第1電流源回路113が、1個の単位電流源回路UVIによって構成されている。図6(A)では、この単位電流源回路UVIの電圧降下が、符号Viで示されている。
【0074】
実施の形態1と同様に、第1レベルシフト回路111には、第1キャパシタ210が接続されている。これにより、前記したように、過渡的な大電流が流れても、第1キャパシタ210が充放電することで、出力信号の波形歪みを低減することが可能である。言い換えるならば、過渡的な大電流が、第1キャパシタ210によって相殺されることになる。
【0075】
そのため、第1電流源回路113の出力インピーダンスが比較的低くても、第1レベルシフト回路111に供給される駆動電流が、過渡的な大電流によって変動するのを防ぐことが可能である。
【0076】
図6(B)に示した比較例は、図6(A)と類似している。相違点は、図6(B)では、第1キャパシタは設けられていない点と、第1電流源回路113が、2個の単位電流源回路UVIを多段化した構成となっている点である。
【0077】
図6(B)に示した単位電流源回路UVIは、図6(A)に示したものと同じである。図6(B)では、単位電流源回路UVIを多段化することで、第1レベルシフト回路111に供給する駆動電流Ihsは、図6(A)の駆動電流Ihsと同じ値になるが、第1電流源回路113の出力インピーダンスを高くすることができる。これにより、図6(B)に示した比較例においても、過渡的に大電流が流れても、第1レベルシフト回路に供給される駆動電流が変動するのを抑制し、出力信号の波形歪みを抑制することは可能である。
【0078】
しかしながら、図6(A)と(B)とで、第1ボルテージフォロワ117が出力する信号Shpの電圧を同じ値となるようにするためには、正電源115の電圧が、図6(A)と(B)とでは異なることになる。
【0079】
すなわち、図6(A)において、正電源115の正電圧をVHjとし、信号Shpを所定の電圧値にするために、第1ボルテージフォロワ117を構成するN型トランジスタQ3にソース・ドレイン間には、電圧Vqcが印加されるものとする。
【0080】
これに対して、図6(B)の構成では、同じ所定の電圧値の信号Shpを得るためには、第1電流源回路113が2段の単位電流源回路UVIによって構成されているため、第1電流源回路113での電圧降下は、2倍の電圧降下Viとなり、図6(B)における正電源の正電圧VHkは、図9に示した式(1)で表される値となる。したがって、図6(B)の構成では、第1ボルテージフォロワ117を構成するN型トランジスタQ3のソース・ドレイン間には、図9に示した式(2)で求められる電圧Vqiが印加されることになる。すなわち、第1電流源回路113を多段の単位電流源回路によって構成した場合、増幅回路を高電圧動作させることが必要となり、第1ボルテージフォロワ117に印加される電圧が大きくなり、消費電力が増加し、消費電力の増加により回路が発熱してしまう。
【0081】
発熱により半導体素子の温度が、その半導体素子の定格を超えてしまう危険性があるため、発熱を抑制するためにヒートシンクや冷却ファンを用いることがあるが、そうした冷却機構の搭載は回路サイズの拡大や製作コストの増加に直結するため、望ましくない。
【0082】
実施の形態2によれば、1個の単位電流源回路と、第1および第2キャパシタによって、出力信号の波形歪みを抑制することが可能であり、サイズの増加と発熱を抑制することが可能である。
【0083】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1で述べた増幅回路を備える質量分析装置を説明する。図7は、実施の形態3に係る質量分析装置の構成を示すブロック図である。図7において、701は、質量分析装置を示している。
【0084】
質量分析装置701は、前処理ユニットから送液された分析対象の試料をイオン化するイオン源710と、イオン化した分析試料728を収束する収束ユニット711と、収束したイオンを質量電荷比に応じてフィルタリングし、検出対象のイオン化した試料のみを通過させる分離ユニット712と、通過したイオン化した試料をコンバージョンダイノード714に衝突させ、イオン化した試料を電子715に変化し、その電子をシンチレータ716に入射させ、電子量に応じた光子を出力する検出ユニット713とで構成された測定ユニット702を備えている。さらに、質量分析装置701は、検出ユニット713から出力される光子に応じた電気信号を出力する検知器717と、検知器717から出力される電気信号を処理する分析結果処理ユニット718と、測定ユニット702を駆動する駆動器719と、測定ユニット702を監視するモニタ720と、各部位に電力を供給する電源721と、質量分析を制御する制御ユニット722とを備えている。
【0085】
制御ユニット722は、交流信号を発生するRF信号発生ユニット723と、直流信号を発生するDC信号発生ユニット724と、入力された信号を共振回路により昇圧して出力する発振ユニット725と、発振ユニット725から入力された信号を処理して、分離ユニット712に含まれるMSフィルタ727に出力する前処理ユニット726とを備えている。
【0086】
次に、イオン化された分析試料728が検出ユニット713に到達するまでの動作を、図7を用いて説明する。
【0087】
分離ユニット712に含まれるMSフィルタ727は、四本の電極から構成されており、相対する電極の極性を同じとして、直流電圧Uと交流電圧Vcos(ωt)とを重ねた合わせた電圧が印加される。この印加される電圧の値は、図9に示した式(3)によって表される。MSフィルタ727は、式(3)によって表される電圧に応じた電場を形成する。なお、式(3)において、ω=2πf、fは、交流電圧の周波数、Vは、交流電圧の最大値を表している。
【0088】
イオン化された分析試料728は、分離ユニット712のMSフィルタ727が形成する電場に入射すると、上下左右に振動しながら検出ユニット713の方向に進むことになる。このとき、MSフィルタ727に印加する電圧値に対して、特定の質量分析比m/zをもつイオンのみが安定した振幅運動をしてMSフィルタ727を通り抜け、検出ユニット713に到達する。一方で、その他の質量分析比m/zをもつイオンは振幅が大きくなり発散して、電極に衝突してしまう。これにより、検出ユニット713には対象とした質量分析比m/zをもつイオンのみが到達することになる。
【0089】
質量分析装置701で測定されるイオンの質量分析比m/zは、MSフィルタ727に印加される交流電圧の大きさVと、その振動数ωと、MSフィルタ727の電極間の距離2roで設定され、質量分析比m/zは、図9に示した式(4)で表される。なお、式(4)において、^2は、二乗を表している。
【0090】
この質量分析比m/zの式(4)から、質量の大きいイオンを分析するためには交流電圧の値Vを大きくし、距離roと振動数ωの値を小さくすることが考えられる。しかしながら、現実の質量分析装置701の構造上、距離roは数mm以下にすることが出来ず、振動数ωを小さくしすぎるとイオンが十分に振動することが出来なくなる。そのため、イオンの測定範囲を拡大し、質量の大きいイオンを分析するには交流電圧の値Vを大きくすることで可能となる。また、質量分析装置701の分解能は、MSフィルタ727の電極の組み立て精度や電極表面の加工精度、直流電圧Uの値と交流電圧の値Vの安定度および交流電圧の振動数ωに依存する。振動数ωはイオンがMSフィルタ727を通過する際の振動回数を決定し、振動回数が多いと高い分解能が得られることから、振動数ωが高く、MSフィルタ727の電極が長い方が、分解能が高い装置となる。これらの要因から、質量分析装置701の測定範囲拡大と分解能の向上にはMSフィルタ727に印加される電圧が高電圧かつ高周波数であることが求められる。
【0091】
図7に示したように、MSフィルタ727には、RF信号発生ユニット723から出力された交流信号が発振ユニット725で昇圧されたのち前処理ユニット726を経てMSフィルタ727に印加される。MSフィルタ727に印加される信号は、高い周波数安定性が必須となるために、発振ユニット725には高いQ値を実現するLC回路が使用されるが、このLC回路で高電圧化、高周波数化を両立するためには、RF信号発生ユニット723からの駆動電流を増加させることが必須である。
【0092】
図8は、実施の形態3に係るRF信号発生ユニットの構成を示す回路図である。図8には、図7に示したRF信号発生ユニット723の具体的な一例と、RF信号発生ユニット723からの信号が供給される発振ユニット725とが示されている。
【0093】
RF信号発生ユニット723は、RF信号を発生する発生ユニット730と増幅回路とを備えている。図8においては、増幅回路として、図1に示した増幅回路101が用いられている。
【0094】
増幅回路101の構成および動作等は、実施の形態1で既に述べているので、詳しい説明は省略する。発生ユニット730は、周期的に電圧が変化する交流信号を発生する。この交流信号が、入力信号VINとして増幅回路101に入力される。増幅回路101の出力端子は発振ユニット725を構成するLC回路に接続されている。これにより、増幅回路101から出力された出力信号である交流信号は、LC回路に供給され、LC回路を介して、前処理ユニット726に供給され、さらに分離ユニット712の電極に供給されることになる。
【0095】
図8からも理解されるように、第1キャパシタ210と負荷抵抗119とは、第1配線L1と電圧増幅回路110の出力端子との間で直列接続されている。そのため、第1キャパシタ210と負荷抵抗119とによって、フィルタ(以下、第1フィルタとも称する)が構成されているものと見なすことができる。同様に、第2キャパシタ220と負荷抵抗120とでフィルタ(以下、第2フィルタとも称する)が構成されているものと見なすことができる。
【0096】
実施の形態3においては、第1フィルタおよび第2フィルタのカットオフ周波数が、分離ユニット712の共振周波数よりも高くなるよう、第1キャパシタ210、第2キャパシタ220および負荷抵抗119、120の値が設定されている。より具体的に述べると、分離ユニット712(図7)のMSフィルタ727の共振周波数よりも、第1および第2フィルタのカットオフ周波数が高くになるように、キャパシタおよび負荷抵抗の値が設定されている。
【0097】
これにより、増幅回路101によって増幅されて、高い駆動電流となっている交流信号を、サイズの増加および発熱を抑制しながら、発振ユニット725へ供給することが可能となる。発振ユニット725に供給される交流信号を高い駆動電流とすることで、MSフィルタ727に印加される電圧を高電圧化することが可能である。また、増幅回路101においては波形の歪みを抑制することができ、第1フィルタおよび第2フィルタのカットオフ周波数が、MSフィルタの共振周波数よりも高くなっているため、電圧増幅回路110からの出力信号を歪ませることなく、MSフィルタ727に伝達することができる。
【0098】
すなわち、MSフィルタ727に印加する電圧の高電圧化と高周波化を図ることができ、質量分析装置701の測定範囲拡大と、分解能の向上を、質量分析装置のサイズの拡大と発熱増加を招くことなく実現することが可能となる。
【0099】
実施の形態1~3で説明した増幅回路101は、1つの半導体チップに形成されていても良いし、複数のディスクリートの半導体素子を組み合わせて構成するようにしてもよい。
【0100】
なお、実施の形態1~3では、ボルテージフォロワを例にして説明したが、ボルテージフォロワに限定されるものではない。すなわち、ボルテージフォロワの代わりに電流を増幅する電流増幅回路を用いるようにしてもよい。
【0101】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0102】
101、301 増幅回路
119、120、121、122 負荷抵抗
L1 第1配線
L2 第2配線
Q1、Q3 N型トランジスタ
Q2、Q4 P型トランジスタ
UVI 単位電流源回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9