(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008279
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム照射装置、マルチ荷電粒子ビーム照射方法およびブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20240112BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20240112BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01L21/30 541W
H01L21/30 541G
H01J37/305 B
H01J37/147 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110016
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100120385
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】岡澤 光弘
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101CC02
5C101CC04
5C101CC14
5C101CC15
5C101EE03
5C101EE23
5C101EE75
5F056AA07
5F056CB05
5F056EA03
5F056EA12
5F056EA16
(57)【要約】
【課題】稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ実装基板を適切に交換できるマルチ荷電粒子ビーム照射装置、マルチ荷電粒子ビーム照射方法及びブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換方法を提供する。
【解決手段】マルチ荷電粒子ビームアレイを放出する放出部と、マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカが配置されたブランキングアパーチャアレイ実装基板と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板を鏡筒と予備室との間で搬送する搬送機構と、一端がブランキングアパーチャアレイ実装基板に接続され、他端がフィードスルーを通して予備室の外部の制御部に接続され、制御部からブランカに通電制御を行うための配線と、予備室と外部との間の扉と、予備室と鏡筒との間のゲートバルブと、予備室を排気するポンプと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームアレイを放出する放出部と、
前記マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカが配置されたブランキングアパーチャアレイ実装基板と、
前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板を鏡筒と前記鏡筒に連通可能な予備室との間で搬送する搬送機構と、
一端が前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板に取り外し可能に接続され、他端が前記予備室に設けられたフィードスルーを通して前記予備室の外部の制御部に接続され、前記制御部から前記ブランカに通電制御を行うための配線と、
前記予備室と外部との間の扉と、
前記予備室と前記鏡筒との間のゲートバルブと、
前記予備室を排気するポンプと、を備えるマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項2】
前記マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカが配置された第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板と、
前記第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板を鏡筒と前記鏡筒に連通可能な第2の予備室との間で搬送する第2の搬送機構と、
一端が前記第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板に取り外し可能に接続され、他端が前記第2の予備室に設けられた第2のフィードスルーを通して前記制御部に接続され、前記制御部から前記第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板の前記ブランカに通電制御を行うための第2の配線と、
前記第2の予備室と外部との間の第2の扉と、
前記第2の予備室と前記鏡筒との間の第2のゲートバルブと、
前記第2の予備室を排気する第2のポンプと、を更に備える請求項1に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項3】
前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板上に配置され、前記マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームの一部を制限する開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板を更に備える請求項1または2に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項4】
複数のブランカが設けられ、予備室内で配線の一端への接続作業が行われたブランキングアパーチャアレイ実装基板を、前記予備室から鏡筒に搬送する工程と、
放出部を用いて、マルチ荷電粒子ビームアレイを放出する工程と、
フィードスルーを通して前記予備室の外部において前記配線の他端に接続された制御部から前記複数のブランカに通電制御を行うことで、前記マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う工程と、を備えるマルチ荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項5】
前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板が前記予備室に位置された状態でのビーム調整を行う工程を更に備える請求項4に記載のマルチ荷電粒子ビーム照射方法。
【請求項6】
予備室と外部との間の扉が閉じられ、前記予備室と鏡筒との間のゲートバルブが開かれ、前記鏡筒および前記予備室がポンプによって真空状態に排気され、複数のブランカが設けられたブランキングアパーチャアレイ実装基板が配線の一端に接続され、前記配線の他端が前記予備室に設けられたフィードスルーを通して前記予備室の外部の制御部に接続され、前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板が搬送機構によって前記予備室から前記鏡筒に搬送されている状態から、前記搬送機構によって前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板を前記鏡筒から前記予備室に搬送する工程と、
前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板が前記予備室に搬送された後に、前記ゲートバルブを閉じる工程と、
前記ゲートバルブが閉じられた後に、前記予備室の排気を停止して前記扉を開く工程と、
前記扉が開かれた状態で、前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板を前記配線から切断する工程と、
前記ブランキングアパーチャアレイ実装基板が前記配線から切断された後に、新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板を前記配線に接続する工程と、を備えるブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム照射装置、マルチ荷電粒子ビーム照射方法およびブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターン(マスク、或いは特にステッパやスキャナで用いられるものはレチクルともいう。)をウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンは、電子ビーム描画装置によって描画され、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
マルチビームを使った描画装置は、1本の電子ビームで描画する場合に比べて、一度に多くのビームを照射できるので、スループットを大幅に向上させることができる。マルチビーム描画装置の一形態であるブランキングアパーチャアレイ実装基板を使ったマルチビーム描画装置では、1つの電子銃から放出された電子ビームを成形アパーチャアレイ基板に通してマルチビーム(複数の電子ビーム)を形成し、形成されたマルチビームの各ビームをブランキングアパーチャアレイ実装基板の対応する開口に通すとともに、対応する開口に配置されたブランカ(電極対)でビーム毎に個別に偏向の有無を選択する。ブランカで偏向された電子ビームは遮蔽され、偏向されなかった電子ビームは試料上に照射されて描画に用いられる。電子ビームと空気中の分子との衝突による電子ビームの位置精度への影響を回避するため、電子ビームの照射はマルチビーム描画装置の電子鏡筒内を真空に保持した状態で行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-254540号公報
【特許文献2】特開2018-206918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現状のマルチビーム描画装置では、性能が劣化したブランキングアパーチャアレイ実装基板を交換する場合に、装置の大気化、分解および再組立が必要であったため、装置の稼働率が悪化してしまっていた。
【0006】
本発明の目的は、稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ実装基板を適切に交換することができるマルチ荷電粒子ビーム照射装置、マルチ荷電粒子ビーム照射方法およびブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様であるマルチ荷電粒子ビーム照射装置は、マルチ荷電粒子ビームアレイを放出する放出部と、マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカが配置されたブランキングアパーチャアレイ実装基板と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板を鏡筒と鏡筒に連通可能な予備室との間で搬送する搬送機構と、一端がブランキングアパーチャアレイ実装基板に取り外し可能に接続され、他端が予備室に設けられたフィードスルーを通して予備室の外部の制御部に接続され、制御部からブランカに通電制御を行うための配線と、予備室と外部との間の扉と、予備室と鏡筒との間のゲートバルブと、予備室を排気するポンプと、を備える。
【0008】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う複数のブランカが配置された第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板と、第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板を鏡筒と鏡筒に連通可能な第2の予備室との間で搬送する第2の搬送機構と、一端が第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板に取り外し可能に接続され、他端が第2の予備室に設けられた第2のフィードスルーを通して制御部に接続され、制御部から第2のブランキングアパーチャアレイ実装基板のブランカに通電制御を行うための第2の配線と、第2の予備室と外部との間の第2の扉と、第2の予備室と鏡筒との間の第2のゲートバルブと、第2の予備室を排気する第2のポンプと、を更に備えてもよい。
【0009】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射装置において、ブランキングアパーチャアレイ実装基板上に配置され、マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームの一部を制限する開口が設けられた成形アパーチャアレイ基板を更に備えてもよい。
【0010】
本発明の一態様であるマルチ荷電粒子ビーム照射方法は、複数のブランカが設けられ、予備室内で配線の一端への接続作業が行われたブランキングアパーチャアレイ実装基板を、予備室から鏡筒に搬送する工程と、放出部を用いて、マルチ荷電粒子ビームアレイを放出する工程と、フィードスルーを通して予備室の外部において配線の他端に接続された制御部から複数のブランカに通電制御を行うことで、マルチ荷電粒子ビームアレイの各ビームのブランキング偏向を行う工程と、を備える。
【0011】
上述のマルチ荷電粒子ビーム照射方法において、ブランキングアパーチャアレイ実装基板が予備室に位置された状態でのビーム調整を行う工程を更に備えてもよい。
【0012】
本発明の一態様であるブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換方法は、予備室と外部との間の扉が閉じられ、予備室と鏡筒との間のゲートバルブが開かれ、鏡筒および予備室がポンプによって真空状態に排気され、複数のブランカが設けられたブランキングアパーチャアレイ実装基板が配線の一端に接続され、配線の他端が予備室に設けられたフィードスルーを通して予備室の外部の制御部に接続され、ブランキングアパーチャアレイ実装基板が搬送機構によって予備室から鏡筒に搬送されている状態から、搬送機構によってブランキングアパーチャアレイ実装基板を鏡筒から予備室に搬送する工程と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板が予備室に搬送された後に、ゲートバルブを閉じる工程と、ゲートバルブが閉じられた後に、予備室の排気を停止して扉を開く工程と、扉が開かれた状態で、ブランキングアパーチャアレイ実装基板を配線から切断する工程と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板が配線から切断された後に、新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板を配線に接続する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ実装基板を適切に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置を示す全体図である。
【
図2】ブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換時における本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
【
図3】描画時における本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
【
図4】成形アパーチャアレイ基板を示す平面図である。
【
図5】本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
【
図6】ブランキングアパーチャアレイ実装基板の交換時における本実施形態によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の動作例を示す断面図である。
【
図7】第1の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
【
図8】第2の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
【
図9A】
図8と異なる第2の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
【
図9B】
図8と異なる第2の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す断面図である。
【
図10】第3の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
【
図11】第4の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
【
図12】第5の変形例によるマルチ荷電粒子ビーム照射装置の要部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。実施形態は、本発明を限定するものではない。また、実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0016】
以下の実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。また、以下の実施形態では、マルチ荷電粒子ビーム照射装置の一例として、マルチビーム描画装置について説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態によるマルチビーム描画装置1は、内部が真空状態に保持され、マスクやウェーハ等の試料に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部2と、描画部2による描画動作を制御する制御部3とを備える。描画部2は、電子ビーム鏡筒21、描画室22及び予備室200を有する。
【0018】
図1に示すように、電子ビーム鏡筒21内には、電子銃23と、照明レンズ24と、成形アパーチャアレイ基板25と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26と、搬送機構214の一部を構成する可動テーブル27と、歪調整レンズ28と、制限アパーチャ基板29と、偏向器201と、対物レンズ210とが配置されている。電子銃23および成形アパーチャアレイ基板25は、放出部の一例である。照明レンズ24、歪調整レンズ28および対物レンズ210は、電磁レンズおよび静電レンズの少なくとも一方で構成されている。描画室22内には、XYステージ211が配置されている。XYステージ211上には、描画対象の基板4であるマスクブランクが載置されている。描画対象の基板4には、例えば、ウェーハや、ウェーハにエキシマレーザを光源としたステッパやスキャナ等の縮小投影型露光装置や極端紫外線露光装置を用いてパターンを転写する露光用のマスクが含まれる。また、描画対象基板には、既にパターンが形成されているマスクも含まれる。例えば、レベンソン型マスクは2回の描画を必要とするため、1度描画されマスクに加工された物に2度目のパターンを描画することもある。
図2および
図3に示すように、電子ビーム鏡筒21には、アライメント機構の一例であるXYZθステージ215と、成形アパーチャアレイ基板25およびブランキングアパーチャアレイ実装基板26の冷却構造218,219,220,221とが更に配置されている。
【0019】
予備室200は、電子ビーム鏡筒21内を大気化せずに電子ビーム鏡筒21に対するブランキングアパーチャアレイ実装基板26の出し入れおよびブランキングアパーチャアレイ実装基板26の交換を可能とする中空構造体である。
図2および
図3に示すように、予備室200には、搬送機構214と、配線2001と、真空ポンプ2003と、扉2004と、ゲートバルブ2005とが設けられている。
【0020】
以下、これらの描画部2の構成部についてさらに詳述する。
【0021】
図4に示すように、成形アパーチャアレイ基板25は、複数の第1開口A1が設けられ、複数の第1開口A1で電子ビームを部分的に通過させてマルチビームアレイを形成する部材である。具体的には、成形アパーチャアレイ基板25には、Y方向にm列(m≧1)、X方向にn列(n≧2)の第1開口A1が所定の配列ピッチで形成されている。各第1開口A1は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。第1開口A1の形状は、円形であっても構わない。これらの複数の第1開口A1を電子ビームBが部分的に通過することで、マルチビームアレイMBが形成される。
【0022】
ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、描画時において成形アパーチャアレイ基板25の下方すなわちビームの出射側に配置される。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、後述する搬送機構214によって
図5の光軸OA上に位置することができる。
【0023】
図5に示すように、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、ブランキングアパーチャアレイチップ260と、実装基板263とを備える。ブランキングアパーチャアレイチップ260は、マルチビームアレイのうちの対応するビームを通過させる複数の第2開口A2が設けられ、各第2開口A2にビームのブランキング偏向を行うブランカ(図示略)が配置された部材である。より具体的には、ブランキングアパーチャアレイチップ260には、成形アパーチャアレイ基板25の各開口A1に対応する第2開口A2が形成されている。ブランキングアパーチャアレイチップ260の第2開口A2の配列方向は、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1の配列方向と同様に、X方向およびY方向である。第2開口A2の配列ピッチは、第1開口A1の配列ピッチよりも狭くなっている。各第2開口A2には、対となる2つの電極の組からなるブランカが配置されている。ブランカを構成する電極対の一方はグラウンド電位で固定されており、他方は通電制御によってグラウンド電位と別の電位に切り替えられる。各第2開口A2は、成形アパーチャアレイ基板25の複数の第1開口A1を電子ビームBが通過することで形成されたマルチビームアレイMBのうちの対応するビームを通過させる。各第2開口A2を通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。このようにして、各ブランカは、対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0024】
実装基板263は、ブランキングアパーチャアレイチップ260を実装する部材である。実装基板263には、ブランキングアパーチャアレイチップ260のブランカに接続される電気回路(図示せず)が形成されている。より具体的には、第2開口A2が設けられたブランキングアパーチャアレイチップ260は、実装基板263に接着されている。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、ブランキングアパーチャアレイチップ260と実装基板263とが一体の状態で交換可能である。実装基板263には、電気回路に接続されたコネクタ261が設けられている。コネクタ261は、電気回路を通じたブランカへの通電制御のためにブランキングアパーチャアレイチップ260を配線2001に電気的に接続するために用いられる。
図2および
図5に示す例において、コネクタ261は、上方に開口したメス型のコネクタである。コネクタ261は、オス型のコネクタであってもよい。また、
図5に示すように、コネクタ261は、ブランキングアパーチャアレイチップ260を間に挟むようにY方向に間隔を空けて2つ設けられている。2のコネクタ261のX座標は同一である。より具体的には、2つのコネクタ261は、電子ビーム鏡筒21内の光軸OAを通るX軸の座標の原点(すなわち、光軸OAとX軸との交点)に対してY方向に等間隔の位置に配置されている。
【0025】
また、
図5に示すように、実装基板263には、ブランキングアパーチャアレイチップ260を通過したマルチビームアレイMBを通過させるための開口263aが設けられている。さらに、
図5に示すように、実装基板263には、可動テーブル27へのブランキングアパーチャアレイ実装基板26の搭載時にブランキングアパーチャアレイ実装基板26を位置決めするための位置決め孔265が設けられている。
図5に示す例において、位置決め孔265は、ブランキングアパーチャアレイチップ260を間に挟むようにY方向に間隔を空けて2つ設けられている。一方の位置決め孔265は、完全な丸穴である。他方の位置決め孔265は、位置決めのための遊びをもたせるためにY方向に若干長く形成されている。
【0026】
搬送機構214は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を電子ビーム鏡筒21と電子ビーム鏡筒21に連通可能な予備室200との間で搬送する機構である。
図2および
図3に示すように、搬送機構214は、第1移動ガイド2161と、第1移動レール2171と、第2移動ガイド2162と、第2移動レール2172と、可動テーブル27と、第1モータ212と、第2モータ213とを有する。
【0027】
第1移動レール2171は、電子ビーム鏡筒21と予備室200との間で移動することで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を搬送する部材である。第1移動レール2171は、移動方向であるX方向に延びている。第1移動レール2171は、Y方向に間隔を空けて一対配置されている。
【0028】
第1移動ガイド2161は、電子ビーム鏡筒21と予備室200との間の第1移動レール2171の移動をガイドする部材である。第1移動ガイド2161は、予備室200内に固定されている。第1移動ガイド2161は、一対の第1移動レール2171のそれぞれに対して2つずつ配置されている。
【0029】
第2移動レール2172は、第1移動レール2171上に搭載され、第1移動レール2171に従動して、又は、第1移動レール2171と独立して電子ビーム鏡筒21と予備室200との間で移動することで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を搬送する部材である。第2移動レール2172は、移動方向であるX方向に延びている。第2移動レール2172は、一対の第1移動レール2171に対応するようにY方向に間隔を空けて一対配置されている。
【0030】
第2移動ガイド2162は、電子ビーム鏡筒21と予備室200との間の第2移動レール2172の移動をガイドする部材である。第2移動ガイド2162は、第1移動レール2171に固定されている。第2移動ガイド2162は、一対の第2移動レール2172のそれぞれに対して2つずつ配置されている。
【0031】
可動テーブル27は、一対の第2移動レール2172に固定され、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を搭載する部材である。可動テーブル27には、ブランキングアパーチャアレイチップ260および実装基板263の開口263aを通過したマルチビームアレイMBを通過させるための開口27aが設けられている。可動テーブル27の開口27aは、実装基板263の開口263aよりも大きい。
【0032】
図5に示すように、可動テーブル27には、可動テーブル27へのブランキングアパーチャアレイ実装基板26の搭載時にブランキングアパーチャアレイ実装基板26を位置決めするための位置決めピン271が設けられている。
図5に示す例において、位置決めピン271は、実装基板263の位置決め孔265に対応するように2つ設けられている。位置決めピン271を位置決め孔265に貫通させることで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26が位置決めされて可動テーブル27に搭載される。
【0033】
第1モータ212は、第1移動レール2171を移動させる動力の発生源である。第1モータ212は、例えば、第1移動ガイド2161内に配置されている。第1モータ212は、第1移動ガイド2161内と異なる位置に配置されていてもよい。第1モータ212の具体的な態様は特に限定されず、例えば、超音波モータやピエゾモータ等であってもよい。
【0034】
第2モータ213は、第2移動レール2172を移動させる動力の発生源である。第2モータ213は、例えば、第2移動ガイド2162内に配置されている。第2モータ213は、第2移動ガイド2162内と異なる位置に配置されていてもよい。第2モータ213の具体的な態様は特に限定されず、例えば、超音波モータやピエゾモータ等であってもよい。
【0035】
このように構成された搬送機構214によれば、二段構造の移動レール2171,2172を用いて十分な搬送量を確保することができるので、電子ビーム鏡筒21と予備室200との間でのブランキングアパーチャアレイ実装基板26の移動を適切に行うことができる。なお、この実施形態では搬送機構214を二段構造としたが、多段とするのではなく一段構造としてもよい。
【0036】
配線2001は、ブランキングアパーチャアレイチップ260のブランカに通電制御を行うための部材である。配線2001の一端は、実装基板263のコネクタ261に取り外し可能に接続されている。配線2001は、コネクタ261を介してブランカに電気的に接続されている。より詳しくは、配線2001の一端には、実装基板263のコネクタ261に着脱可能な形状のコネクタ264が設けられている。
図2に示す例において、配線2001のコネクタ264は、実装基板263のコネクタ261に上方から差し込み可能なオス型のコネクタである。
図5に示すように、配線2001およびコネクタ264は、実装基板263のコネクタ261に対応するように2つずつ配置されている。
図5に示すように、各配線2001は、2本の移動レール2172に干渉しないように、各移動レール2172に対してY方向の内側にずれて配置されている。配線2001の他端は、予備室200に設けられたフィードスルー2002を通して予備室200の外部の偏向制御回路32(制御部)に接続されている。偏向制御回路32は、配線2001を介してブランカに通電制御を行うことができる。配線2001は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の搬送に追従することができるように可撓性を有している。また、配線2001は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26が予備室200から電子ビーム鏡筒21内の光軸OA上まで到達できるように十分な長さを有している。
【0037】
真空ポンプ2003は、電子ビーム鏡筒21と独立して予備室200内を真空状態まで排気可能な装置である。なお、図示はしないが、電子ビーム鏡筒21や描画室22にも、電子ビーム鏡筒21内や描画室22内を真空状態まで排気する真空ポンプが配置されている。
【0038】
扉2004は、外部(大気)に対して予備室200を手動或いは図示しないモータにより開閉し、予備室200を開放した状態において外部から予備室200内のブランキングアパーチャアレイ実装基板26の交換作業を許容する部材である。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を容易に交換できるように、扉2004は、予備室200の上壁部に配置されている。
【0039】
ゲートバルブ2005は、電子ビーム鏡筒21と予備室200とを連通する開口部21aを手動或いは図示しないモータにより開閉する部材である。ゲートバルブ2005を開いて開口部21aを開放することで、電子ビーム鏡筒21と予備室200との間でブランキングアパーチャアレイ実装基板26を搬送することができる。ゲートバルブ2005を閉じて開口部21aを遮蔽することで、電子ビーム鏡筒21内を真空状態に維持しながら扉2004を開いて予備室200を大気化することができる。これにより、電子ビーム鏡筒21内を大気化することなく、扉2004により予備室200を開放した開口部200aを介して予備室200内のブランキングアパーチャアレイ実装基板26の交換作業を行うことができる。なお、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の交換作業は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26(すなわち、実装基板263のコネクタ261)に対する配線2001の取り外し作業又は接続作業だけでなく、配線2001を通じた通電状態の確認作業を含んでもよい。
【0040】
XYZθステージ215は、光軸OA上に位置されたブランキングアパーチャアレイ実装基板26と、成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行う部材である。
図2および
図3に示すように、XYZθステージ215は、成形アパーチャアレイ基板25の上方に位置し、成形アパーチャアレイ基板25を上方から支持している。したがって、XYZθステージ215が動き、この動きが成形アパーチャアレイ基板25に伝達されることで、成形アパーチャアレイ基板25をXYZθステージ215と同じ方向に動かすことができる。これによって、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行うことができる。なお、XYZθステージ215では、成形アパーチャアレイ基板25をX方向、Y方向、Z方向およびθ方向の少なくとも一方に動かしてアライメント調整を行うことができる。XYZθステージ215は、例えば、ピエゾステージであってもよい。アライメント機構として、XYZθステージ215の代わりにYZθステージを採用してもよい。
【0041】
冷却構造218,219,220,221は、成形アパーチャアレイ基板25およびブランキングアパーチャアレイ実装基板26を冷却する構造である。冷却構造218,219,220,221は、電子ビームBに晒される成形アパーチャアレイ基板25が電子ビームBの熱で膨張して開口ピッチが変化するのを抑制し、また、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の実装基板263に形成された電気回路による発熱を冷却する。冷却構造218,219,220,221は、電子ビーム鏡筒21に設けられた第1冷却流路218と、予備室200の底部200bに設けられた第2冷却流路219と、電子ビーム鏡筒21と成形アパーチャアレイ基板25との間に設けられた第1熱伝導部材221と、予備室200の底部200bと実装基板263との間に設けられた第2熱伝導部材220とを有する。第1冷却流路218および第2冷却流路219は、冷却水が循環するように構成されている。第1熱伝導部材221は、例えば、銅箔などによって良好な熱伝導性を有するように構成されている。第2熱伝導部材220は、例えば、複数層の銅箔などによって良好な熱伝導性および可撓性を有するように構成されている。ビーム軌道に影響を与えずにブランキングアパーチャアレイ実装基板26の冷却を効率的に行うため、第2熱伝導部材220は非磁性の純銅で構成されていることが好ましい。
図5に示すように、第2熱伝導部材220は、2つの配線2001に干渉しないように、各配線2001に対してY方向の内側にずれて配置されている。
【0042】
成形アパーチャアレイ基板25は、電子ビーム鏡筒21および第1熱伝導部材221を介した第1冷却流路218との熱交換によって冷却される。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、第2熱伝導部材220および予備室200を介した第2冷却流路219との熱交換によって冷却される。なお、
図2に示すように、電子ビーム鏡筒21の内部には、電子ビーム鏡筒21と第2移動レール2172との接点2006が設けられている。接点2006は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の搬送を妨げずに第2移動レール2172に接触できるように、回転自在なローラで構成されている。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、接点2006および電子ビーム鏡筒21を介した第1冷却流路218との熱交換でも冷却されてもよい。
【0043】
一方、
図1に示すように、制御部3は、制御計算機31と、偏向制御回路32(制御部)と、移動制御回路33と、レンズ制御回路34とを有している。偏向制御回路32は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26および偏向器201に接続されている。移動制御回路33は、
図2および
図3の第1モータ212、第2モータ213およびXYZθステージ215に接続されている。レンズ制御回路34は、照明レンズ24、歪調整レンズ28および対物レンズ210に接続されている。
【0044】
以上の構成を有するマルチビーム描画装置1においては、真空ポンプによって装置1(詳細には描画部2)内が真空に保持された状態で、電子銃23から放出された電子ビームBが、制限アパーチャ基板29に形成された中心の穴でクロスオーバーを形成するように、レンズ制御回路34で励磁された照明レンズ24によって収束され、成形アパーチャアレイ基板25全体を照明する。
【0045】
電子ビームBが成形アパーチャアレイ基板25の複数の第1開口A1を通過することによって、マルチビームアレイMBが形成される。マルチビームアレイMBは、光軸OA上に位置されたブランキングアパーチャアレイチップ260のマルチビームアレイMBに対応する第2開口A2内を通過する。マルチビームアレイMBの各ビームは、制限アパーチャ基板29に形成された中心の穴に向かって角度を持って進む。従って、マルチビームアレイMB全体のビーム径及びマルチビームアレイMBのビームピッチは、成形アパーチャアレイ基板25を通過時から徐々に小さくなっていく。
【0046】
マルチビームアレイMBは、成形アパーチャアレイ基板25によって形成されたビームピッチよりも狭くなったピッチでブランキングアパーチャアレイ実装基板26を通過する。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を通過したマルチビームアレイMBは、制限アパーチャ基板29に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、XYステージ211が連続移動している状態で、偏向制御回路32は、ブランキングアパーチャアレイチップ260のブランカを電圧の印加によって駆動する。このとき、制御計算機31は、図示しない記憶装置からパターンの描画データを読み出し、この読み出された描画データに対して複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ショットデータには、各ショットの照射量および照射位置座標等が定義されている。制御計算機31は、ショットデータに基づいて各ショットの照射量を偏向制御回路32に出力する。偏向制御回路32は、入力された照射量を電流密度で除することで照射時間を求める。そして、偏向制御回路32は、この求めた照射時間だけブランキングアパーチャアレイ実装基板26のブランカがビームを通過させるように、対応するブランカに電圧を印加する。また、このとき、制御計算機31は、ショットデータが示す位置(座標)に各ビームが偏向されるように、偏向位置データを偏向制御回路32に出力する。偏向制御回路32は、偏向量を演算し、歪調整レンズ28に偏向電圧を印加する。これにより、その回にショットされるマルチビームアレイMBがXYステージ211の連続動作に合わせてまとめて偏向される。
【0047】
これにより、偏向制御回路32によって駆動されたブランキングアパーチャアレイチップ260のブランカによって電子ビームが偏向され、この偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板29の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板29によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイチップ260のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ基板29の中心の穴を通過する。
【0048】
このように、制限アパーチャ基板29は、ブランキングアパーチャアレイチップ260のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ基板29を通過したビームが、1回分のショットのビームとなる。
【0049】
制限アパーチャ基板29を通過したマルチビームアレイMBは、レンズ制御回路34で励磁された対物レンズ210により、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1に対する所望の縮小倍率のアパーチャ像となり、基板4上に焦点調整される。そして、偏向器201によって制限アパーチャ基板29を通過したマルチビームアレイMBが同方向にまとめて偏向され、基板4上の各ビームの照射位置に照射される。これにより、基板4へのパターンの描画が行われる。
【0050】
ここで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板は、マルチビームアレイMBの影響によって性能が劣化する。性能が劣化したブランキングアパーチャアレイ実装基板を新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板と交換する場合、従来は、電子ビーム鏡筒21を大気化および分解する必要があった。これに対して、本実施形態では、電子ビーム鏡筒21を大気化および分解せずにブランキングアパーチャアレイ実装基板を交換することができる。
【0051】
具体的には、移動制御回路33は、光軸OA上のブランキングアパーチャアレイ実装基板26が予備室200内に退避するまで第1移動レール2171および第2移動レール2172を移動させるように第1モータ212および第2モータ213の駆動を制御する。
【0052】
これにより、
図6に示すように、電子ビーム鏡筒21内および予備室200内が真空状態に保持されたまま、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26が光軸OA上から予備室200内に退避される。
【0053】
ブランキングアパーチャアレイ実装基板26が予備室200内に退避された後、ゲートバルブ2005を閉める。ゲートバルブ2005を閉めた後に扉2004を空けることで、電子ビーム鏡筒21内を真空状態に保持したまま予備室200を大気化することができる。これにより電子ビーム鏡筒21内を真空状態に保持したまま、予備室200内のブランキングアパーチャアレイ実装基板26を扉2004により予備室200を開放した開口部200aを介して手作業で交換することができる。具体的には、劣化したブランキングアパーチャアレイ実装基板26を、コネクタ261を介して配線2001から取り外す作業と、新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板26を、コネクタ261を介して配線2001に接続する作業とを行うことができる。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を交換した後は、扉2004を閉じて、真空ポンプ2003によって予備室200を真空状態まで排気する。そして、予備室200内が真空状態になったら、ゲートバルブ2005を開く。ゲートバルブ2005が開かれた後、移動制御回路33は、予備室200内の新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板26が光軸OA上に位置されるまで第1移動レール2171および第2移動レール2172を移動させるように第1モータ212および第2モータ213の駆動を制御する。
【0054】
新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板26が光軸OA上に位置されると、XYZθステージ215は、新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板26と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行う。アライメント調整においては、例えば、移動制御回路33によってXYZθステージ215(すなわち、成形アパーチャアレイ基板25)を微動させながら、XYステージ211上に設置された電流検出器230によってブランキングアパーチャアレイ実装基板26を通過する総ビーム電流を測定し、測定された総ビーム電流の電流量が最も大きくなったときの成形アパーチャアレイ25の位置を、アライメント調整後の成形アパーチャアレイ25の位置としてもよい。
【0055】
アライメント調整の後は、成形アパーチャアレイ基板25で形成されたマルチビームアレイMBの各ビームに対して、光軸OA上に位置された新たなブランキングアパーチャアレイ実装基板26によるブランキング偏向を行う。
【0056】
なお、マルチビーム描画装置1は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26が予備室200内に位置された状態でのビーム調整を行ってもよい。
【0057】
以上述べたように、本実施形態によるマルチビーム描画装置1によれば、予備室200と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26を電子ビーム鏡筒21と予備室200との間で搬送する搬送機構214と、一端がブランキングアパーチャアレイ実装基板26に取り外し可能に接続され、他端が予備室200に設けられたフィードスルー2002を通して予備室200の外部の偏向制御回路32に接続された配線2001とを備えることで、電子ビーム鏡筒21を真空状態に保持したまま、予備室200内においてブランキングアパーチャアレイ実装基板26の交換作業を適切に行うことができる。したがって、本実施形態によれば、稼働率の悪化を抑制しつつブランキングアパーチャアレイ実装基板26を適切に交換することができる。
【0058】
また、本実施形態によるマルチビーム描画装置1によれば、予備室200内にブランキングアパーチャアレイ実装基板26が位置された状態でのビーム調整を行うことで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26によって発生するアパーチャ像の結像歪が無い状態でのビーム調整を先に完了させたうえで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26による結像歪を調整することができる。また、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26以外の光学系のビーム調整が不完全なことによって第2開口A2を通過しないビームがブランキングアパーチャアレイ実装基板26に照射され、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26がダメージを受けることを抑制することができる。
【0059】
上述した実施形態は、マルチビーム描画装置1の好ましい一例を示したものである。しかしながら、マルチビーム描画装置1は、上述した実施形態に限定されず、以下に示される種々の変形例を適用することができる。
【0060】
(第1の変形例)
これまでは、単一の予備室200、搬送機構214および配線2001を備えたマルチビーム描画装置1の例について説明した。しかしながら、予備室200、搬送機構214および配線2001の個数は1つに限定されず、複数であってもよい。例えば、
図7に示すように、2つの予備室200,200、搬送機構214,214および配線2001,2001を設け、2つの搬送機構214,214のそれぞれに同一構造のブランキングアパーチャアレイ実装基板26,26を搭載してもよい。なお、2つの配線2001,2001は、ともに偏向制御回路32に接続されている。
【0061】
このような構成によれば、
図7に示すように、一方の予備室200内の搬送機構214でブランキングアパーチャアレイ実装基板26を光軸OA上に位置させながら、他方の予備室200をゲートバルブ2005で電子ビーム鏡筒21から隔絶して大気化することができる。これにより、一方のブランキングアパーチャアレイ実装基板26を用いて描画を行いながら、並行して他方のブランキングアパーチャアレイ実装基板26の交換作業を行うことができる。したがって、稼働率の悪化をさらに効果的に抑制することができる。
【0062】
(第2の変形例)
図7では、2つのブランキングアパーチャアレイ実装基板26が同一構造である例について説明した。これに対して、
図8に示すように、2つのブランキングアパーチャアレイ実装基板26,26のうちの1つのブランキングアパーチャアレイ実装基板26上(すなわち、マルチビームアレイMBの入射側)に、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1よりも小さい第3開口A3が設けられた第2の成形アパーチャアレイ基板262を配置してもよい。
【0063】
第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の第2開口A2よりも小さい。第2の成形アパーチャアレイ基板262は、例えば、接着剤などの接合材によってブランキングアパーチャアレイ実装基板26に貼り合わされている。第2の成形アパーチャアレイ基板262は、アクチュエータによってブランキングアパーチャアレイ実装基板26に対して水平方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0064】
このような構成によれば、第2の成形アパーチャアレイ基板262が設けられたブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、第2の成形アパーチャアレイ基板262によって1本1本のビームサイズが小さく削られて、より細くなったマルチビームアレイMBをブランキング偏向する。したがって、2つのブランキングアパーチャアレイ実装基板26,26の切り替えによって、求められる描画精度および描画速度に応じた好適なビームサイズを選択することができる。
【0065】
なお、第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3は、マルチビームアレイMBの各ビームの一部を制限することができるのであれば、必ずしも、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1よりも小さくなくてもよい。例えば、第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3の大きさは、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1の大きさ以上であってもよい。
【0066】
ここで、
図9Aは、第2の成形アパーチャアレイ基板262を備えた
図8と異なる態様のマルチビーム描画装置1の要部を示す平面図である。
図9Aには、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1と、第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3と、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の第2開口A2との大きさ及び水平方向(XY方向)の位置関係が示されている。
図9Bは、
図8と同様の断面であり、より具体的には、
図9AのIXB-IXB切断線に沿って成形アパーチャアレイ基板25、第2の成形アパーチャアレイ基板262及びブランキングアパーチャアレイ実装基板26を切断した場合の断面を示している。
【0067】
図9Aおよび
図9Bに示される例において、第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3は、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1と同じ大きさである。また、
図9Aおよび
図9Bにおいて、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1と、第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3とは、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の第2開口A2よりも小さい。また、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1の中心は、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の第2開口A2の中心と一致している。一方、第2の成形アパーチャアレイ基板262の第3開口A3の中心は、成形アパーチャアレイ基板25の第1開口A1の中心、および、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26の第2開口A2の中心から、水平方向(X方向の正方向およびY方向の負方向)にずれている。
【0068】
図9Aおよび
図9Bに示される構成においても、第2の成形アパーチャアレイ基板262が設けられたブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、第2の成形アパーチャアレイ基板262によって1本1本のビームサイズが小さく削られて、より細くなったマルチビームアレイMBをブランキング偏向することができる。したがって、2つのブランキングアパーチャアレイ実装基板26,26の切り替えによって、求められる描画精度および描画速度に応じた好適なビームサイズを選択することができる。
【0069】
(第3の変形例)
これまでは、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26と成形アパーチャアレイ基板25とのアライメント調整を行うXYZθステージ215を、成形アパーチャアレイ基板25の上方に配置した例について説明した。これに対して、
図10に示すように、XYZθステージ215を成形アパーチャアレイ基板25の下方に配置し、XYZθステージ215と成形アパーチャアレイ基板25とを成形アパーチャアレイ25を支持する支持部材2009で接続してもよい。
【0070】
(第4の変形例)
これまでは、第2移動レール2172との接点2006がローラである例について説明した。これに対して、
図11に示すように、接点2006は、第2移動レール2172が乗り上げる傾斜面2007aが形成された板状部材2007と、板状部材2007に上方への弾性力を付与する弾性部材2008とで構成してもよい。このような構成によれば、接点2006と第2移動レール2172とを安定的に接触させることで、ブランキングアパーチャアレイ実装基板26をさらに適切に冷却しながら保持することができる。
【0071】
(第5の変形例)
これまでは、XYZθステージ215を電子ビーム鏡筒21内において成形アパーチャアレイ基板25の上方に配置した例(
図2等)と、XYZθステージ215を電子ビーム鏡筒21内において成形アパーチャアレイ基板25の下方に配置した例(
図10)について説明した。これに対して、
図12に示すように、搬送機構214によってブランキングアパーチャアレイ実装基板26と一体的に搬送可能な状態にXYZθステージ215を配置してもよい。より具体的には、
図12に示される例において、XYZθステージ215は、可動テーブル27上に設けられている。ブランキングアパーチャアレイ実装基板26は、XYZθステージ215上に搭載される。このような構成によれば、XYZθステージ215を予備室200内に搬送することができるので、電子ビーム鏡筒21を分解せずにXYZθステージ215を点検することができる。また、
図12に示すように、成形アパーチャアレイ基板25は、電子ビーム鏡筒21内に不動状態に配置(固定)されていてもよい。
【0072】
マルチビーム描画装置1の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、マルチビーム描画装置1の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0073】
上述の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1 マルチビーム描画装置
23 電子銃
25 成形アパーチャアレイ基板
26 ブランキングアパーチャアレイ実装基板
200 予備室
214 搬送機構
2001 配線
2002 フィードスルー
2003 真空ポンプ
2004 扉
2005 ゲートバルブ
32 偏向制御回路