(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082791
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】吸音構造体及び吸音構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
G10K11/16 130
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196893
(22)【出願日】2022-12-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】枝元 太希
(72)【発明者】
【氏名】下谷 圭三
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA25
5D061BB31
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】吸音特性の低周波化及び製造工程の簡単化の双方を実現できる吸音構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】吸音構造体1は、開口部Kを有するシート状部材11と、開口部Kと連通してシート状部材11の一面側に延在する中空のネック部12と、を備えている。ネック部12の少なくとも一部は、シート状部材11の厚さ方向Dに対して交差する領域Fを有している。ネック部12の全体は、シート状部材11側に折り返されることなく、シート状部材11から離れる方向にのみ延在している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面から第2面に貫通する開口部を有するシート状部材と、
前記開口部と連通して前記シート状部材の第2面側に延在する中空のネック部と、を備え、
前記ネック部の少なくとも一部は、前記シート状部材の厚さ方向に対して交差する領域を有し、
前記ネック部の全体は、前記シート状部材側に折り返されることなく、前記シート状部材から離れる方向にのみ延在している、吸音構造体。
【請求項2】
前記ネック部は、螺旋形状である、請求項1記載の吸音構造体。
【請求項3】
前記ネック部は、多孔質吸音体に埋設されている、請求項1記載の吸音構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の吸音構造体の製造方法であって、
第1面から第2面に貫通する開口部を有する板状型材、及び前記ネック部の中空部分に対応する形状で前記開口部に挿抜可能に構成されたピン状型材を備える成形型を準備する準備工程と、
前記板状型材の前記開口部に前記ピン状型材を挿入した状態で、前記成形型における前記板状型材の第2面側と、当該第2面から突出する前記ピン状型材の表面とに非通気層を形成する形成工程と、
前記非通気層から前記ピン状型材を脱抜した後、前記非通気層から前記板状型材を剥離する剥離工程と、を備える吸音構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸音構造体及び吸音構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウールやウレタンフォームなどを用いた吸音構造体が知られている。グラスウールは、空気粘性による吸音作用を奏し、ウレタンフォームは、空気粘性及び材料による減衰による吸音作用を奏する。近年では、自動車等の車両のタイヤに吸音構造体を配置し、車両の走行時に生じるタイヤ内の共鳴音を低減する技術も開発されてきている。一般には、グラスウールやウレタンフォームによる吸音構造体の吸音帯域は、例えば1000Hz以上の高周波帯となっている。これに対し、上述のような車両の走行時に生じるタイヤ内の共鳴音は、例えば200Hz~300Hz前後の低周波帯となっている。
【0003】
低周波帯の吸音特性を考慮した従来の吸音構造体としては、例えば特許文献1に記載の吸音構造体が挙げられる。この従来の吸音構造体は、複数の開口部を有する板状部材と、開口部の長さを延長するように当該開口部に接続されたネック部とを備えている。ネック部による開口部の延長部分は、板状部材と対向する壁部との間の空気層内に位置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1のような吸音構造体では、ネック部の延在長さを長くすることで、吸音特性を低周波数帯側にシフトさせることができる。特許文献1の
図1に示されるように、ネック部を板状部材の厚さ方向に沿って延在させる場合、ネック部の延在長さは、壁部との間の空気層の厚さによって制限される。この構成において、吸音特性を所望の帯域まで低周波化するためには、空気層の厚さを十分に大きく確保しておく必要がある。
【0006】
一方、対象物への吸音構造体の取り付けを考慮すると、吸音構造体自体の厚さを極力小さくすることが好ましい。この点に関し、特許文献1の
図4(c)には、ネック部を板状部材の厚さ方向に交差する方向に折り返すことで、空気層の厚さを変えずにネック部の長さを長くする構成が開示されている。しかしながら、このような構造では、複数のネック部を板状部材の開口部のそれぞれに接合する必要があり、製造工程が煩雑になることが考えられる。
【0007】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、吸音特性の低周波化及び製造工程の簡単化の双方を実現できる吸音構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面に係る吸音構造体は、第1面から第2面に貫通する開口部を有するシート状部材と、前記開口部と連通してシート状部材の第2面側に延在する中空のネック部と、を備え、ネック部の少なくとも一部は、シート状部材の厚さ方向に対して交差する領域を有し、ネック部の全体は、シート状部材側に折り返されることなく、シート状部材から離れる方向にのみ延在している。
【0009】
この吸音構造体では、ネック部の少なくとも一部がシート状部材の厚さ方向に対して交差する領域を有している。これにより、吸音構造体をシート状部材の厚さ方向に拡張することなく、ネック部の延在長さを大きく確保することができる。したがって、吸音特性の低周波化が図られる。また、この吸音構造体では、ネック部の全体が、シート状部材側に折り返されることなく、シート状部材から離れる方向にのみ延在している。この構成によれば、成形型を用いてシート状部材にネック部を一体的に形成した後、成形型の脱抜によって中空のネック部を形成できる。したがって、シート状部材の開口部にネック部を個々に接合して取り付ける場合に比べて、製造工程の簡単化が図られる。
【0010】
ネック部は、螺旋形状であってもよい。この場合、成形型を回転させることで、シート状部材と一体的に形成されたネック部から成形型を容易に脱抜できる。したがって、製造工程の一層の簡単化が図られる。
【0011】
ネック部は、多孔質吸音体に埋設されていてもよい。この場合、中空のネック部による吸音効果と、多孔質吸音体による高周波帯の吸音効果とを組み合わせることができる。したがって、吸音構造体の吸音特性を向上できる。また、対象物への吸音構造体の取り付けにあたって、多孔質吸音体を取付部材として用いることができる。これにより、対象物に対する吸音構造体の取付容易性を向上できる。
【0012】
本開示の一実施形態に係る吸音構造体の製造方法は、上記の吸音構造体の製造方法であって、第1面から第2面側に貫通する開口部を有する板状型材、及びネック部の中空部分に対応する形状で開口部に挿抜可能に構成されたピン状型材を備える成形型を準備する準備工程と、板状型材の開口部にピン状型材を挿入した状態で、成形型における板状型材の第2面側とピン状型材の表面とに非通気層を形成する形成工程と、非通気層からピン状型材を脱抜した後、板状型材を剥離する剥離工程と、を備える。
【0013】
この吸音構造体の製造方法では、板状型材及びピン状型材を備える成形型を用いてこれらの型材の表面に非通気層を形成し、ネック部が一体化されたシート状部材を形成する。その後、非通気層からピン状型材を脱抜し、板状型材を剥離することで、上述の構成を有する吸音構造体が得られる。この吸音構造体の製造方法によれば、シート状部材の開口部にネック部を個々に接合して取り付ける場合に比べて、製造工程の簡単化が図られる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、吸音特性の低周波化及び製造工程の簡単化の双方を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一実施形態に係る吸音構造体の適用例を示す一部断面斜視図である。
【
図2】
図1に示した吸音構造体の模式的な平面図である。
【
図3】
図1に示した吸音構造体の模式的な側面図である。
【
図4】吸音構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】変形例に係る吸音構造体の模式的な断面図である。
【
図9】実施例及び比較例に係る吸音構造体の低周波帯での典型的な吸音特性を示すグラフである。
【
図10】吸音構造体の各パラメータと共鳴周波数との関係を示す図である。
【
図11】(a)及び(b)は、変形例に係る吸音構造体の要部を示す模式的な側面図である。
【
図12】別の変形例に係る吸音構造体の要部を示す模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係る吸音構造体及び吸音構造体の製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本開示の一実施形態に係る吸音構造体の適用例を示す一部断面斜視図である。
図1では、吸音構造体1の取り付け先となる対象物Pとして、自動車等の車両に用いられるタイヤ101を例示する。タイヤ101では、車両の走行時に路面の凹凸を通過する際の振動を受けて内部の空気が共鳴する空洞共鳴が生じ得る。空洞共鳴による音の周波数は、典型的には250Hz程度となっている。吸音構造体1は、空洞共鳴による低周波帯の音を効率的に吸収すべく、タイヤ101の内部(例えばトレッド102の内面102a)に配置されている。
【0018】
タイヤ101内の空洞共鳴の吸音以外の吸音構造体1の用途例としては、例えば自動車の車体下部或いはホイールハウス周辺への取り付けによる低周波ロードノイズの吸音、ルーフなどの車内への取り付けによる低周波音の吸音などが挙げられる。吸音構造体1は、車両に限られず、空調機、空調機用の室外機、ヒートポンプ、冷蔵庫、風力発電機など、種々の家電類・機械類の装置内或いは筐体に適用することもできる。
【0019】
図2は、
図1に示した吸音構造体の模式的な平面図である。
図3は、その模式的な側面図である。本実施形態に係る吸音構造体1は、ヘルムホルツ共鳴吸音を利用した薄型の吸音構造体となっている。吸音構造体1は、
図2及び
図3に示すように、シート状部材11と、ネック部12と、多孔質吸音体13とを備えて構成されている。
【0020】
シート状部材11は、吸音構造体1において、ネック部12が設けられるベースとなる部材である。シート状部材11は、音の入力面となる第1面11aと、ネック部12が設けられる第2面11bとを有している。シート状部材11は、音が入力される複数の開口部Kを有している。複数の開口部Kは、
図2の例では、シート状部材11の第1面11aの平面視において、格子状に配列されている。開口部Kのそれぞれは、
図3に示すように、シート状部材11の第1面11aから第2面11bにわたってシート状部材11を厚さ方向Dに貫通するように設けられている。
【0021】
シート状部材11の厚さT1は、例えば0.1mm~2mm程度となっている。シート状部材11の厚さT1が例えば0.2mm以下となる場合、シート状部材11は、自己支持性のないフィルムであってもよい。このような薄型のフィルムで構成されたシート状部材11は、本実施形態のように、多孔質吸音体13を組み合わせて用いる場合に好適である。シート状部材11は、平坦以外の形状をなしていてもよい。例えばシート状部材11の少なくとも一部が曲面であってもよく、シート状部材11の少なくとも一部が凹凸面となっていてもよい。
【0022】
開口部Kの断面形状は、例えば円形状となっている。開口部Kの断面形状は、円形状に限られず、三角形状、矩形状、多角形状、楕円形状といった他の形状であってもよい。開口部Kの内径Raは、例えば1mm~5mm程度となっている。開口部Kによるシート状部材11の開口率(シート状部材11の表面におけるシート状部材11の面積に対する開口部Kの面積の総和の比率)は、例えば0.1%~10%程度となっている。
【0023】
ネック部12は、開口部Kと連通してシート状部材11の第2面11b側に延在する中空の部材である。本実施形態では、開口部Kのそれぞれに対してネック部12が設けられている。ネック部12における中空部分Sの内径及び断面形状は、開口部Kの内径及び断面形状と一致している。ネック部12の延在長さL1を大きくすることで、ヘルムホルツ共鳴器である吸音構造体1の共鳴周波数を小さくすることができる。すなわち、ネック部12の延在長さL1を大きくすることで、吸音構造体1の吸音特性を低周波帯にシフトさせることが可能となる。
【0024】
ネック部12の延在長さL1は、開口部Kとの接続端から先端までのネック部12の延在軸の長さである。本実施形態では、後述するように、ネック部12は、螺旋形状をなしている。ネック部12の延在長さL1は、ネック部12が形成している螺旋の長さに相当する。本実施形態では、各ネック部12の延在長さL1は、互いに等しくなっている。
【0025】
ネック部12は、後述する成形型21を用いた非通気層24の形成(
図6参照)により、シート状部材11と一体に形成されている。本実施形態では、シート状部材11及びネック部12は、例えばプラスチック又はゴムなどの樹脂材料によって形成されている。シート状部材11がプラスチックで形成されている場合は、ネック部12もプラスチックで形成されている。シート状部材11がゴムで形成されている場合は、ネック部12もゴムで形成されている。
【0026】
プラスチック材料としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリウレタン(PU)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0027】
ゴム材料としては、例えば天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、シリコーンゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
【0028】
多孔質吸音体13は、ネック部12との協働により、吸音構造体1の吸音特性を向上させるための部材である。多孔質吸音体13は、シート状部材11に対応する形状のシート体となっている。多孔質吸音体13は、シート状部材11の第2面11bに結合する第1面13aと、対象物Pへの吸音構造体1の取り付けに用いられる第2面13bとを有している。本実施形態では、接着剤などの接合手段を用いて、多孔質吸音体13の第2面13bがトレッド102の内面102aに接合されることで、吸音構造体1がタイヤ101の内部に取り付けられている。
【0029】
図3に示すように、シート状部材11の厚さ方向Dに対する多孔質吸音体13の厚さT2は、シート状部材11の厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2よりも大きくなっている。厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2は、ネック部12の延在長さL1とは異なり、開口部Kとの接続端から先端までの厚さ方向Dに対するネック部12の長さである。これにより、ネック部12は、多孔質吸音体13に埋没した状態となっている。ネック部12の先端は、中空部分Sが露出する開放端となっており、多孔質吸音体13内に位置している。
【0030】
多孔質吸音体13は、例えばプラスチック又はゴムなどの樹脂材料の発泡成形によって形成されている。プラスチック材料としては、例えば発泡ポリウレタンが挙げられる。硬質の発泡ポリウレタン及び軟質の発泡ポリウレタンのいずれを用いてもよい。発泡ポリウレタンの製法は、一般的なものを用いることができる。例えばポリオール及びポリイソシアナートを発泡剤、制泡剤、触媒等と混合し、当該混合物を型に充填して発泡及び硬化させることで、多孔質吸音体13を得ることができる。
【0031】
ゴム材料としては、例えば天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)など、ラテックスから得られるゴム材料が挙げられる。これらのゴム材料を発泡及び凝固させることで、多孔質吸音体13を得ることができる。
【0032】
多孔質吸音体13の気孔径は、例えば1μm以下、好ましくは500μm以下となっている。多孔質吸音体13の開気孔率(多孔質吸音体13の表面における多孔質吸音体13の面積に対する気孔の面積の総和の比率)は、例えば65%~99%程度、好ましくは80%~95%程度となっている。気孔径及び開気孔率は、例えばX線を用いたコンピュータ断層撮影(CTスキャン)装置を用いて計測できる。開孔径の算出には、観察画像に基づいて抽出した複数(例えば100個)の気孔の径の平均値を用いることができる。開気孔率の算出には、観察画像に基づいて抽出した全ての気孔の面積の総和を多孔質吸音体の面積で除した除算値を用いることができる。
【0033】
次に、上述したネック部12の構成について更に詳細に説明する。
【0034】
吸音構造体1では、(A)ネック部12の少なくとも一部は、シート状部材11の厚さ方向Dに対して交差する領域Fを有している。シート状部材11の厚さ方向Dに対して交差する領域Fとは、ネック部12の延在方向がシート状部材11の厚さ方向Dと一致せず、厚さ方向Dに対して0°より大きい角度をもって傾斜していることを意味する。ネック部12の延在方向は、ネック部12が直線状である領域では軸線方向であり、ネック部12が湾曲状である領域では接線方向である。
【0035】
また、吸音構造体1では、(B)ネック部12の全体は、シート状部材11側に折り返されることなく、シート状部材11から離れる方向にのみ延在している。このことは、シート状部材11の厚さ方向Dのうち、シート状部材11から離れる向きを正、シート状部材11に近づく向きを負とすると、ネック部12の基端(開口部Kとの接続端)から先端までの全ての領域で、ネック部12における延在方向のベクトルの厚さ方向Dの成分が常に正であることを意味する。
【0036】
本実施形態では、上記(A)及び(B)の要件を満足する構成として、
図3に示すように、ネック部12が螺旋形状をなしている。
図3の例では、ネック部12は、基端から先端にかけて一定の径で螺旋形状となっている。これにより、厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2は、厚さ方向Dに対する多孔質吸音体13の厚さT2よりも小さくなる一方で、ネック部12の延在長さL1は、厚さ方向Dに対する多孔質吸音体13の厚さT2よりも大きくなっている。
【0037】
図2に示すように、ネック部12の配列ピッチH(隣り合うネック部12,12における螺旋部分の中心間距離)は、例えば10mm~100mm程度となっている。ネック部12における螺旋部分の内径Rbは、例えば1mm~5mm程度となっている。ネック部12の壁厚Rcは、例えば0.1mm~1.0mm程度となっている。ネック部12の螺旋部分の傾斜角度(厚さ方向Dに対する傾斜角度)θは、例えば80°~83°となっている。壁厚を含むネック部12の直径Rdは、例えば5mm~10mmとなっている。
【0038】
ネック部12の延在長さL1は、例えば20mm~100mm程度となっている。ネック部12の延在長さL1は、厚さ方向Dに対する多孔質吸音体13の厚さT2の例えば1.5倍~6倍程度となっている。厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2は、例えば3mm~11mm程度となっている。厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2は、延在長さL1の例えば0.1倍~0.2倍程度となっている。厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2は、厚さ方向Dに対する多孔質吸音体13の厚さT2の例えば0.2倍~0.9倍程度となっている。
【0039】
本実施形態では、ネック部12が螺旋形状をなしていることに対応し、ネック部12に連通するシート状部材11の開口部Kも螺旋形状をなしている。螺旋形状をなす開口部Kの内径Raは、ネック部12における螺旋部分の内径Rbと一致している(
図2参照)。つまり、ネック部12の中空部分Sと開口部Kとは、一つの連続した螺旋形状の内部空間を構成している。
【0040】
続いて、上述の構成を有する吸音構造体1の製造方法について説明する。
【0041】
図4は、吸音構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図4に示すように、吸音構造体の製造方法は、準備工程(ステップS01)と、形成工程(ステップS02)と、剥離工程(ステップS03)とを備えて構成されている。
【0042】
準備工程は、成形型21を準備する工程である。成形型21は、
図5に示すように、板状型材22と、ピン状型材23とによって構成されている。板状型材22は、シート状部材11を模るための型材であり、例えばプラスチック材料によって形成されている。板状型材22は、第1面22aと、当該第1面22aと反対側に位置する第2面22bとを有している。板状型材22の厚さT3は、例えば作製される吸音構造体1のシート状部材11の厚さT1よりも大きくなっている。板状型材22は、第1面22aから第2面22bに貫通する開口部Ksを有している。本実施形態では、開口部Ksは、シート状部材11の開口部Kの形状に対応して螺旋形状をなしている。
【0043】
ピン状型材23は、シート状部材11の開口部K及びネック部12の中空部分Sを模るための中実の型材であり、例えば金属材料によって形成されている。ピン状型材23の形状は、ネック部12に形状に準じている。すなわち、ピン状型材23の少なくとも一部は、板状型材22の厚さ方向(シート状部材11の厚さ方向Dと一致する方向)に対して交差する領域を有し、ピン状型材23の全体は、板状型材22側に折り返されることなく、板状型材22から離れる方向にのみ延在している。
【0044】
本実施形態では、ピン状型材23は、シート状部材11の開口部K及びネック部12の形状に対応して螺旋形状をなし、板状型材22の開口部Kに挿抜可能に螺合されている。ピン状型材23の延在長さ(ネック部12が形成している螺旋の長さ)は、ネック部12の中空部分Sと開口部Kとによって画成される螺旋形状の内部空間の全体の延在長さと同程度、或いはそれよりも長くなっている。
【0045】
準備工程では、ピン状型材23の延在長さをネック部12の中空部分Sと開口部Kとによって画成される螺旋形状の内部空間の延在長さよりも長くし、ピン状型材23の一端部23aを板状型材22の開口部Ksから第1面22aに突出させておいてもよい。これにより、後述の剥離工程において、非通気層24からピン状型材23を脱抜する際に、ピン状型材23の一端部23aを把持できる。したがって、非通気層24からのピン状型材23の脱抜を容易に実施することができる。
【0046】
形成工程は、成形型21を用いて非通気層24を形成する工程である。形成工程では、
図6に示すように、板状型材22の開口部Ksにピン状型材23を挿入した状態で、成形型21における板状型材22の第2面22b側と、当該第2面22bから突出するピン状型材23の他端部23bの表面とに非通気層24を形成する。板状型材22の第2面22bに形成された非通気層24によってシート状部材11が形成され、ピン状型材23の他端部23bの表面に形成された非通気層24によってネック部12が形成される。
【0047】
非通気層24の形成には、成形型21を収容した金型に樹脂を射出する射出成形を用いてもよい。また、ラテックス或いは未硬化樹脂などの液状の前駆体を板状型材22の第2面22b側と、当該第2面22bから突出するピン状型材23の他端部23bの表面とに塗布し、これを硬化させることによって非通気層24を形成してもよい。このような非通気層24の形成手法により、シート状部材11及びネック部12が一体に形成される。
【0048】
液状の前駆体を塗布及び硬化させる手法で非通気層24を形成する場合、ピン状型材23の他端部23b側の先端面に付着した前駆体を硬化前或いは硬化後に除去することで、ネック部12の同先端面に開口端を形成することができる。また、ピン状型材23の他端部23b側の先端面への前駆体の付着を回避するために、ピン状型材23を中空の型材としてもよい。
【0049】
剥離工程は、非通気層24から成形型21を剥離する工程である。具体的には、剥離工程では、
図7に示すように、非通気層24からピン状型材23を脱抜した後、非通気層24から板状型材22を剥離する。本実施形態では、上述したように、ピン状型材23が螺旋形状をなしている。したがって、ピン状型材23を軸回りに回転させることで、ピン状型材23を板状型材22の開口部Ks、シート状部材11の開口部K、及びネック部12から脱抜することができる。ピン状型材23の脱抜により、ネック部12の中空部分Sと開口部Kとによる一つの連続した螺旋形状の内部空間がシート状部材11及びネック部12に形成される。
【0050】
シート状部材11に対する成形後の非通気層24の離型性が十分である場合、特段の手法によらずに非通気層24からの板状型材22の剥離が可能である。シート状部材11に対する成形後の非通気層24の離型性が不足する場合には、例えば剥離のための押出ピンを板状型材22に設け、当該押出ピンを用いて非通気層24をシート状部材11から強制的に剥離してもよい。また、非通気層24の形成に先立って、板状型材22に離型剤を塗布し、シート状部材11に対する成形後の非通気層24の離型性を向上させるようにしてもよい。
【0051】
以上説明したように、吸音構造体1では、ネック部12の少なくとも一部がシート状部材11の厚さ方向Dに対して交差する領域Fを有している。これにより、吸音構造体1をシート状部材11の厚さ方向Dに拡張することなく、ネック部12の延在長さL1を大きく確保することができる。したがって、吸音特性の低周波化が図られる。また、吸音構造体1では、ネック部12の全体が、シート状部材11側に折り返されることなく、シート状部材11から離れる方向にのみ延在している。この構成によれば、成形型21を用いてシート状部材11にネック部12を一体的に形成した後、成形型21の脱抜によって中空のネック部12を形成できる。したがって、シート状部材11の開口部Kにネック部12を個々に接合して取り付ける場合に比べて、製造工程の簡単化が図られる。
【0052】
本実施形態では、ネック部12が螺旋形状となっている。これにより、成形型21(ここではピン状型材23)を回転させることで、シート状部材11と一体的に形成されたネック部12からピン状型材23を容易に脱抜できる。したがって、製造工程の一層の簡単化が図られる。
【0053】
本実施形態では、ネック部12が多孔質吸音体13に埋設されている。これにより、中空のネック部12による吸音効果と、多孔質吸音体13による吸音効果とを組み合わせることができる。したがって、吸音構造体1の吸音特性を向上できる。また、
図1で示したタイヤ101等の対象物Pへの吸音構造体1の取り付けにあたって、多孔質吸音体13を取付部材として用いることができる。これにより、対象物Pに対する吸音構造体1の取付容易性を向上できる。
【0054】
また、本実施形態に係る吸音構造体の製造方法では、板状型材22及びピン状型材23を備える成形型21を用いてこれらの型材の表面に非通気層24を形成し、ネック部12が一体化されたシート状部材11を形成する。その後、非通気層24からピン状型材23を脱抜し、板状型材22を剥離することで、上述の構成を有する吸音構造体1を得る。この吸音構造体の製造方法によれば、シート状部材11の開口部Kにネック部12を個々に接合して取り付ける場合に比べて、製造工程の簡単化が図られる。
【0055】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、シート状部材11の第2面11b側に多孔質吸音体13が配置され、ネック部12が多孔質吸音体13に埋設されているが、
図8に示す吸音構造体1Aのように、多孔質吸音体13の配置を省略してもよい。この場合、吸音構造体1Aは、例えば不図示のスペーサ等を介して対象物Pに取り付けられる。対象物Pへの取り付け状態において、ネック部12は、例えば対象物Pとシート状部材11の第2面11bとの間に形成される空気層内に位置することとなる。
【0056】
このような吸音構造体1Aにおいても、吸音構造体1と同様に、吸音構造体1Aをシート状部材11の厚さ方向Dに拡張することなく、ネック部12の延在長さL1を大きく確保することができる。したがって、吸音特性の低周波化が図られる。また、シート状部材11の開口部Kにネック部12を個々に接合して取り付ける場合に比べて、製造工程の簡単化が図られる。
【0057】
図9は、実施例及び比較例に係る吸音構造体の低周波帯での典型的な吸音特性を示すグラフである。
図9では、横軸に周波数(Hz)を示し、縦軸に吸音率を示す。比較例に係る吸音構造体は、従来の多孔質吸音体(グラスウールやウレタンフォームなど)による吸音構造体である。実施例1は、
図3に示した吸音構造体1に相当する吸音構造体であり、実施例2は、
図8に示した吸音構造体1に相当する吸音構造体である。
【0058】
図9に示すように、比較例に係る吸音構造体では、周波数が高くなるにつれ吸音率が僅かに増加するものの、250Hz近傍の吸音率は、0.1未満にとどまっている。実施例1に係る吸音構造体では、250Hz近傍に吸音率のピークが出現し、ピークでの吸音率は、およそ0.8程度となっている。また、ピークの裾となる周波数帯においても、比較例に係る吸音構造体の吸音率よりも高い吸音率となっている。実施例2に係る吸音構造体では、実施例1に係る吸音構造体と同様に、250Hz近傍に吸音率のピークが出現し、ピークでの吸音率は、およそ0.8程度となっている。ピークの裾となる周波数帯での吸音率は、実施例1に係る吸音構造体に比べて小さいが、ピーク近傍の周波数帯を選択的に吸音できることが分かる。
【0059】
図10は、吸音構造体の各パラメータと共鳴周波数との関係を示す図である。
図10に示すように、ここでは、シート状部材11の厚さT1、空気層(多孔質吸音体13)の厚さT2、ネック部12の配列ピッチH、ネック部12の内径Rb、ネック部12の壁厚Rc、ネック部12の直径Rd、ネック部12の傾斜角度θ、ネック部12の延在長さL1、厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2、ネック部12の巻数Nをパラメータとし、パラメータの異なる吸音構造体の3つのサンプル(構造A~C)について、共鳴周波数fの見積もり値を算出している。
【0060】
構造A~Cでは、ネック部12の内径Rb、ネック部12の直径Rd、ネック部12の延在長さL1、空気層(多孔質吸音体13)の厚さT2、ネック部12の巻数Nが互いに異なっており、その他のパラメータは共通している。
図10に示す結果から、構造A~Cでは、いずれも200Hz前後若しくは200Hzよりも小さい共鳴周波数fが得られていることが分かる。また、ネック部12の延在長さL1の長さが長くなるに従って、共鳴周波数fが低周波化することが分かる。ネック部12の延在長さL2を長くした場合でも、厚さ方向Dに対するネック部12の長さL2がその1/7程度に抑えられるため、吸音構造体1をシート状部材11の厚さ方向Dに拡張することなく、ネック部12の延在長さL2を確保できることが分かる。
【0061】
上記実施形態では、各ネック部12の延在長さL1が互いに等しくなっているが、各ネック部12の延在長さL1は、互いに異なっていてもよい。例えば第1の延在長さL1aを有するネック部12と、第2の延在長さL1bを有するネック部12とを組み合わせた構成としてもよい。この場合、共鳴周波数の異なるネック部12を組み合わせることで、吸音特性を調整できる。延在長さL1の組み合わせは、二種に限られず、三種以上としてもよい。
【0062】
上記実施形態では、シート状部材11の開口部Kのそれぞれにネック部12が設けられているが、ネック部12が設けられた開口部Kと、ネック部12が設けられていない開口部Kとを組み合わせてもよい。このような構成においても、共鳴周波数の異なる開口部K及びネック部12を組み合わせることで、吸音特性を調整できる。
【0063】
上記実施形態では、螺旋形状のネック部12を例示したが、ネック部12の形状はこれに限られるものではない。すなわち、ネック部12の全体がシート状部材11側に折り返されることなく、シート状部材11から離れる方向にのみ延在しているものであれば、他の形状のネック部を採用してもよい。例えば
図11(a)に示す吸音構造体1Bのように、直線状のネック部12をシート状部材11の厚さ方向Dに対して傾斜した配置としてもよい。また、例えば
図11(b)に示す吸音構造体1Cのように、緩やかに湾曲した形状のネック部12をシート状部材11の厚さ方向Dに対して傾斜した配置としてもよい。
【0064】
吸音構造体1B,1Cにおいても、上記実施形態と同様、シート状部材11の厚さ方向Dに拡張することなく、ネック部12の延在長さL1を大きく確保することができる。したがって、吸音特性の低周波化が図られる。また、シート状部材11の開口部Kにネック部12を個々に接合して取り付ける場合に比べて、製造工程の簡単化が図られる。吸音構造体1Bでは、成形型21におけるピン状型材の形状を直線状とし、剥離工程において、成型後の非通気層24から直線状のピン状型材を引き抜くことで、シート状部材11と一体のネック部12を形成できる。吸音構造体1Cでは、成形型21におけるピン状型材の形状を直線状とし、剥離工程において、成型後の非通気層24から直線状のピン状型材を引き抜くことで、シート状部材11と一体のネック部12を形成できる。
【0065】
上記実施形態では、シート状部材11は、厚さ方向Dの一端側の面を構成しているが、例えば
図12に示すように、シート状部材11は、厚さ方向Dの一端側の面に加えて、厚さ方向Dと交差する側面を構成していてもよい。
図12の例では、多孔質吸音体13の側面を覆うようにシート状部材11が設けられているが、上述した吸音構造体1Aのように、多孔質吸音体13を設けない場合であっても、シート状部材11によって厚さ方向Dと交差する側面を構成してもよい。このような構成によれば、シート状部材11によってネック部12或いは多孔質吸音体13が囲われるため、これらの部材の保護が図られる。
【0066】
本開示の要旨は、以下の[1]~[4]のとおりである。
[1]第1面から第2面に貫通する開口部を有するシート状部材と、前記開口部と連通して前記シート状部材の第2面側に延在する中空のネック部と、を備え、前記ネック部の少なくとも一部は、前記シート状部材の厚さ方向に対して交差する領域を有し、前記ネック部の全体は、前記シート状部材側に折り返されることなく、前記シート状部材から離れる方向にのみ延在している、吸音構造体。
[2]前記ネック部は、螺旋形状である、[1]記載の吸音構造体。
[3]前記ネック部は、多孔質吸音体に埋設されている、[1]又は[2]記載の吸音構造体。
[4][1]~[3]のいずれか記載の吸音構造体の製造方法であって、第1面から第2面に貫通する開口部を有する板状型材、及び前記ネック部の中空部分に対応する形状で前記開口部に挿抜可能に構成されたピン状型材を備える成形型を準備する準備工程と、前記板状型材の前記開口部に前記ピン状型材を挿入した状態で、前記成形型における前記板状型材の第2面側と前記ピン状型材の表面とに非通気層を形成する形成工程と、前記非通気層から前記ピン状型材を脱抜した後、前記非通気層から前記板状型材を剥離する剥離工程と、を備える吸音構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0067】
1,1A~1D…吸音構造体、11…シート状部材、11a…第1面、11b…第2面、K…開口部、12…ネック部、13…多孔質吸音体、21…成形型、22…板状型材、22a…第1面、22b…第2面、Ks…開口部、23…ピン状型材、24…非通気層、F…領域。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面から第2面に貫通する開口部を有するシート状部材と、
前記開口部と連通して前記シート状部材の第2面側に延在する中空のネック部と、を備え、
前記ネック部の少なくとも一部は、前記シート状部材の厚さ方向に対して交差する領域を有し、
前記ネック部の全体は、前記シート状部材側に折り返されることなく、前記シート状部材から離れる方向にのみ延在しており、
前記ネック部は、螺旋形状であると共に、多孔質吸音体に埋設されており、
前記多孔質吸音体において、前記ネック部の延在方向と交差する面は、外部に対して露出する露出面となっている、吸音構造体。
【請求項2】
請求項1記載の吸音構造体の製造方法であって、
第1面から第2面に貫通する開口部を有する板状型材、及び前記ネック部の中空部分に対応する形状で前記開口部に挿抜可能に構成されたピン状型材を備える成形型を準備する準備工程と、
前記板状型材の前記開口部に前記ピン状型材を挿入した状態で、前記成形型における前記板状型材の第2面側と、当該第2面から突出する前記ピン状型材の表面とに非通気層を形成する形成工程と、
前記非通気層から前記ピン状型材を脱抜した後、前記非通気層から前記板状型材を剥離する剥離工程と、を備える吸音構造体の製造方法。