(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082797
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】スライドドア給電装置
(51)【国際特許分類】
B60R 16/02 20060101AFI20240613BHJP
H02G 3/30 20060101ALI20240613BHJP
H02G 11/00 20060101ALI20240613BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B60R16/02 620C
H02G3/30
H02G11/00
H02G11/00 060
B60J5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196902
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】山村 円博
(72)【発明者】
【氏名】竿谷 尚志
【テーマコード(参考)】
5G363
5G371
【Fターム(参考)】
5G363AA04
5G363BA02
5G363DA20
5G363DC03
5G371AA01
5G371BA01
5G371BA07
5G371CA01
5G371CA07
(57)【要約】
【課題】スライドドアのスライド移動に際し、ワイヤーハーネスの弛みを抑制できるスライドドア給電装置を提供する。
【解決手段】スライドドア給電装置1は、車体100とスライドドア200の間に架け渡される給電ハーネス2と、車体側保持部3と、スライドドア側保持部4とを有し、スライドドア側保持部4には、給電ハーネス2の一部が巻き掛けられる第一巻掛部60及び第二巻掛部70に巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを変化させる巻掛機構5が備えられ、第二巻掛部70に、給電ハーネス2に作用する張力が緊張した緊張状態と、給電ハーネス2に作用する張力が緩和された緩和状態とのスライドドア200のスライド移動による状態変化に伴って、巻掛機構5における枢動点P1と、第二巻掛部70において給電ハーネス2の巻き掛け部分が巻き掛けられる被巻掛部分Xとの距離Dを調整する板バネ731が設けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対してスライド移動するスライドドアに設けられた電装品に対して前記車体から給電を行うスライドドア給電装置であって、
前記車体と前記スライドドアの間に架け渡されるワイヤーハーネスと、
前記車体に固定されて前記ワイヤーハーネスの一端側部分を保持する車体側保持部と、
前記スライドドアに固定されて前記ワイヤーハーネスの他端側部分を保持するスライドドア側保持部とを有し、
前記車体側保持部及び前記スライドドア側保持部の少なくとも一方に、
前記ワイヤーハーネスの一部が巻き掛けられる巻掛部に巻き掛けられた前記ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを変化させる巻掛機構が備えられ、
前記巻掛部に、
前記ワイヤーハーネスに作用する張力が緊張した緊張状態と、前記ワイヤーハーネスに作用する張力が緩和された緩和状態との前記スライド移動による状態変化に伴って、前記巻掛機構における基準点と、前記巻掛部において前記ワイヤーハーネスの前記巻き掛け部分が巻き掛けられる被巻掛部分との距離を調整する距離調整部が設けられた
スライドドア給電装置。
【請求項2】
前記巻掛機構は、
前記スライド移動に伴って枢動するように支持される枢動部を備え、
前記巻掛部には、
前記枢動部における枢動先端側に配置された第一巻掛部と、
前記第一巻掛部に対して少なくとも前記ワイヤーハーネスが通る隙間を隔てて枢動基端側に配置された第二巻掛部とが設けられ、
前記緊張状態は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部に対してS字状となるように前記ワイヤーハーネスが巻き掛けられ、
前記緩和状態は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部に対してS字状となるように前記ワイヤーハーネスが巻き掛けられ、
前記距離調整部は、
前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の少なくとも一方に設けられるとともに、前記基準点と、前記一方における前記被巻掛部分との距離を調整する
請求項1に記載のスライドドア給電装置。
【請求項3】
前記基準点は、前記枢動部の枢動軸に沿った方向から視て、前記距離調整部が設けられた前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の一方の中心とし、
前記距離調整部は、
前記緊張状態から前記緩和状態に状態変化するに伴い、前記一方における前記被巻掛部分と前記基準点との距離を長くする
請求項2に記載のスライドドア給電装置。
【請求項4】
前記基準点は、前記枢動部の枢動軸に沿った方向から視て、前記距離調整部が設けられた前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の一方の中心とし、
前記距離調整部は、
前記緩和状態から前記緊張状態に状態変化するに伴い、前記一方における前記被巻掛部分と前記基準点との距離を短くする
請求項2に記載のスライドドア給電装置。
【請求項5】
前記距離調整部は、
前記スライド移動による前記ワイヤーハーネスに作用する張力の変化に伴って、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を調整する
請求項3又は請求項4に記載のスライドドア給電装置。
【請求項6】
前記距離調整部は、
前記ワイヤーハーネスに作用する張力の変化に伴って、弾性変形する板バネで構成された
請求項5に記載のスライドドア給電装置。
【請求項7】
前記第二巻掛部が前記枢動部における枢動基端側に設けられた
請求項3又は請求項4に記載のスライドドア給電装置。
【請求項8】
前記第二巻掛部は、前記枢動部の枢動中心を回転中心として、前記枢動部の枢動に伴い回転し、
前記基準点は、前記第二巻掛部の回転中心とし、
前記距離調整部は、前記第二巻掛部に設けられるとともに、前記第二巻掛部の回転に伴って前記被巻掛部分と前記基準点との距離を調整する
請求項3又は請求項4に記載のスライドドア給電装置。
【請求項9】
前記緊張状態における前記被巻掛部分を緊張巻掛部分とし、前記緩和状態における前記被巻掛部分を緩和巻掛部分とし、
前記第二巻掛部は、
前記緊張巻掛部分と前記基準点との距離と、前記緩和巻掛部分と前記基準点との距離とが異なる長さで構成された
請求項8に記載のスライドドア給電装置。
【請求項10】
前記被巻掛部分は、
前記緊張状態と前記緩和状態との状態変化に伴って、形状が弾性変形する形状変形部を有し、
前記距離調整部は、前記状態変化に伴う前記形状変形部の弾性変形により、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を調整する
請求項1に記載のスライドドア給電装置。
【請求項11】
前記巻掛機構には、
前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部と別体で構成されるとともに、前記緩和状態において、前記ワイヤーハーネスにおける前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部との間に掛け渡された掛渡部分と当接して、前記掛渡部分を迂回させる経路迂回部が備えられた
請求項2に記載のスライドドア給電装置。
【請求項12】
前記緊張状態から前記緩和状態への移行に伴って、前記枢動部が枢動する方向を枢動方向とし、
前記経路迂回部は、前記緩和状態において、前記ワイヤーハーネスにおける前記枢動方向の側と当接する
請求項11に記載のスライドドア給電装置。
【請求項13】
前記スライド移動に伴って枢動する前記枢動部を支持する支持部本体を有し、
前記支持部本体と対向するとともに、少なくとも前記枢動部を挿通可能に構成された対向部が設けられ、
前記経路迂回部は、前記対向部に設けられた
請求項12に記載のスライドドア給電装置。
【請求項14】
前記経路迂回部は、前記枢動部の枢動軸に沿って、前記支持部本体に立設され、
前記枢動部には、前記スライド移動に伴う枢動において、前記経路迂回部との接触を回避する回避部が設けられた
請求項13に記載のスライドドア給電装置。
【請求項15】
前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の少なくとも一方に、
前記緊張状態と前記緩和状態との前記スライド移動による状態変化に伴って、前記巻掛機構における基点に対して前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の少なくとも一方を相対移動させる巻掛移動部が設けられた
請求項2に記載のスライドドア給電装置。
【請求項16】
前記基点は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の一方の中心とし、
前記巻掛移動部は、
前記スライド移動による前記枢動部の枢動に伴って、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の他方を、前記基点に対して、前記枢動部の枢動軸と直交する方向に相対移動させる
請求項15に記載のスライドドア給電装置。
【請求項17】
前記緊張状態と前記緩和状態との状態変化に伴って、弾性変形する弾性変形部を有し、
前記巻掛移動部は、
前記状態変化に伴う前記弾性変形部の弾性変形により、前記基点に対して前記他方が相対移動させる
請求項16に記載のスライドドア給電装置。
【請求項18】
前記基点は、前記枢動部の枢動中心とし、
前記第二巻掛部は、前記枢動部における枢動基端側に設けられ、
前記巻掛移動部は、
前記第二巻掛部の重心が前記枢動中心と異なる位置に設けることで構成された
請求項15に記載のスライドドア給電装置。
【請求項19】
前記巻掛部に、
前記緊張状態と前記緩和状態との前記スライド移動による状態変化に伴って、前記巻掛機構における基点に対して前記巻掛部を相対移動させる巻掛移動部が設けられた
請求項1に記載のスライドドア給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体からスライドドアに設けられた電装品に対して給電を行うスライドドア給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のスライドドアには、例えば、パワーウインドウ用モーターやオーディオ用スピーカーなど電装品が設けられている。そのため、これらの電装品に対して車体から給電を行うスライドドア給電装置が設けられている。
【0003】
このようなスライドドア給電装置は、例えば特許文献1に記載されているように、車体とスライドドアの間に架け渡されるワイヤーハーネスと、車体に固定されてワイヤーハーネスの一端側部分を保持する車体側保持部と、スライドドアに固定されてワイヤーハーネスの他端側部分を保持するスライドドア側保持部とを有し、ワイヤーハーネスを介して車体側からスライドドア側に給電している。
【0004】
このように構成されたスライドドア給電装置では、スライドドアが前後方向にスライド移動することで、車体に固定された車体側保持部とスライドドアに固定されたスライドドア側保持部の相対位置が変化する。このため、スライドドアのスライド移動により車体側保持部とスライドドア側保持部とが接近した場合には、架け渡されるワイヤーハーネスに弛みが生じることとなる。そして、この弛みが過大となった場合には、周辺機器との干渉や意図しない曲げが生じるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明は、スライドドアのスライド移動に際し、ワイヤーハーネスの弛みを抑制できるスライドドア給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、車体に対してスライド移動するスライドドアに設けられた電装品に対して前記車体から給電を行うスライドドア給電装置であって、前記車体と前記スライドドアの間に架け渡されるワイヤーハーネスと、前記車体に固定されて前記ワイヤーハーネスの一端側部分を保持する車体側保持部と、前記スライドドアに固定されて前記ワイヤーハーネスの他端側部分を保持するスライドドア側保持部とを有し、前記車体側保持部及び前記スライドドア側保持部の少なくとも一方に、前記ワイヤーハーネスの一部が巻き掛けられる巻掛部に巻き掛けられた前記ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを変化させる巻掛機構が備えられ、前記巻掛部に、前記ワイヤーハーネスに作用する張力が緊張した緊張状態と、前記ワイヤーハーネスに作用する張力が緩和された緩和状態との前記スライド移動による状態変化に伴って、前記巻掛機構における基準点と、前記巻掛部において前記ワイヤーハーネスの前記巻き掛け部分が巻き掛けられる被巻掛部分との距離を調整する距離調整部が設けられたことを特徴とする。
【0008】
前記基準点とは、所定の状態における前記巻掛部の中心や重心の他、前記巻掛機構に前記スライド移動に伴って枢動するように支持される枢動部が設けられている場合には、前記枢動部の枢動中心などを含む。
前記被巻掛部は、前記緊張状態及び前記緩和状態において、前記ワイヤーハーネスが巻き掛けられた部分である。なお、前記被巻掛部は、前記緊張状態と前記緩和状態とで、同一箇所である場合や異なる箇所である場合を含む。
【0009】
前記距離調整部は、前記緊張状態から前記緩和状態に状態変化する場合において、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を長くする構成、又は、前記緩和状態から前記緊張状態に状態変化する場合において、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を短くする構成を含む。なお、前記距離調整部は、連続あるいは不連続で前記被巻掛部分と前記基準点との距離を変化させて調整する場合を含む。
【0010】
この発明により、スライドドアのスライド移動に際し、ワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
詳述すると、緊張状態から緩和状態への状態変化に伴って、基準点と被巻掛部分との距離を長くする、あるいは、緩和状態から緊張状態への態変化に伴って、基準点と被巻掛部分との短くするように調整することができる。これにより、ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを調整することができる。このように、緩和状態において、ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを長くできるため、緩和状態でのワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0011】
また、緊張状態において、ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを短くできるため、緊張状態におけるワイヤーハーネスの全長を短くできる。したがって、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0012】
この発明の態様として、前記巻掛機構は、前記スライド移動に伴って枢動するように支持される枢動部を備え、前記巻掛部には、前記枢動部における枢動先端側に配置された第一巻掛部と、前記第一巻掛部に対して少なくとも前記ワイヤーハーネスが通る隙間を隔てて枢動基端側に配置された第二巻掛部とが設けられ、前記緊張状態は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部に対してS字状となるように前記ワイヤーハーネスが巻き掛けられ、前記緩和状態は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部に対してS字状となるように前記ワイヤーハーネスが巻き掛けられ、前記距離調整部は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の少なくとも一方に設けられるとともに、前記基準点と、前記一方における前記被巻掛部分との距離を調整してもよい。
【0013】
上述の枢動先端側とは、枢動部の枢動中心から離間する方向である径方向外側を表している。また、後述する枢動基端側とは、枢動部の枢動中心に近接する方向である径方向内側を表している。これらの定義は、以降おいて不変である。
【0014】
前記第二巻掛部は、前記枢動部に設けられている場合及び前記枢動部に設けられていない場合を含む。また、前記枢動部の枢動中心は、前記第二巻掛部の中心と一致する又は一致しない場合を含む。すなわち、前記枢動部の枢動中心が、前記第二巻掛部の枢動基端側や枢動先端側、前記第二巻掛部と前記第一巻掛部との間に設けられている場合を含む。
【0015】
前記距離調整部は、前記ワイヤーハーネスに作用する張力に応じて、前記基準点と前記被巻掛部分との距離を調整する場合や、前記ワイヤーハーネスに作用する張力に関係なく前記第一巻掛部や前記第二巻掛部などが所定の位置や角度で配置されることで前記基準点と前記被巻掛部分との距離を調整する場合を含む。
【0016】
この発明によると、スライドドアのスライド移動に伴う枢動部の枢動によりワイヤーハーネスの配索経路を変化させることができる。これにより、スライドドアのスライド移動に際し、ワイヤーハーネスの弛みをより減少させる、あるいは、緊張をより緩和させることができる。したがって、緩和状態において、より確実にワイヤーハーネスの弛みの発生を抑制できる。
【0017】
また、緊張状態と緩和状態において前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部に対してS字状となるようにワイヤーハーネスが巻き掛けられているため、枢動部を枢動させることでワイヤーハーネスの形状を変化させることができる。これにより、距離調整部によるワイヤーハーネスの弛みを小さくできるため、距離調整部を設けた巻掛機構のコンパクト化を図ることができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記基準点は、前記枢動部の枢動軸に沿った方向から視て、前記距離調整部が設けられた前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の一方の中心とし、前記距離調整部は、前記緊張状態から前記緩和状態に状態変化するに伴い、前記一方における前記被巻掛部分と前記基準点との距離を長くしてもよい。
【0019】
この発明によると、緊張状態から緩和状態への状態変化に伴って、基準点と被巻掛部分との距離を長くなるように調整できるため、緩和状態において、ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを長くすることができる。これにより、車体側保持部とスライドドア側保持部とが接近している状態でのワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0020】
またこの発明の態様として、前記基準点は、前記枢動部の枢動軸に沿った方向から視て、前記距離調整部が設けられた前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の一方の中心とし、前記距離調整部は、前記緩和状態から前記緊張状態に状態変化するに伴い、前記一方における前記被巻掛部分と前記基準点との距離を短くしてもよい。
【0021】
この発明によると、緩和状態から緊張状態への状態変化に伴って、基準点と被巻掛部分との距離を短くなるように調整できるため、緊張状態において、ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを短くすることができる。これにより、緊張状態におけるワイヤーハーネスの全長を短くできるため、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みを抑制できるとともに、ワイヤーハーネスの軽量化を図ることができる。
【0022】
またこの発明の態様として、前記距離調整部は、前記スライド移動による前記ワイヤーハーネスに作用する張力の変化に伴って、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を調整してもよい。
この発明により、スライドドアのスライド移動に応じて変化するワイヤーハーネスに作用する張力を利用して、被巻掛部分と基準点との距離を調整できる。このため、ワイヤーハーネスに作用する張力の作用に関係なく、スライド移動に伴って距離調整部が被巻掛部分と基準点との距離を調整する機構を設ける必要がなく、簡易な構造で、ワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0023】
またこの発明の態様として、前記距離調整部は、前記ワイヤーハーネスに作用する張力の変化に伴って、弾性変形する板バネで構成されてもよい。
この発明により、弾性力を有する板バネを巻掛部に設けるだけで、容易かつ確実に、被巻掛部分と基準点との距離を調整することができる。このため、簡易な構造で容易かつ確実にワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0024】
またこの発明の態様として、前記第二巻掛部が前記枢動部における枢動基端側に設けられてもよい。
この発明により、第一巻掛部のみならず第二巻掛部も枢動部に設けられるため、巻掛機構のコンパクト化を図ることができる。また、枢動部に対して第一巻掛部と第二巻掛部を取り付けた後に、これらを一体として被取付箇所に取り付ければよいため、組立性を向上することができる。
【0025】
またこの発明の態様として、前記第二巻掛部は、前記枢動部の枢動中心を回転中心として、前記枢動部の枢動に伴い回転し、前記基準点は、前記第二巻掛部の回転中心とし、前記距離調整部は、前記第二巻掛部に設けられるとともに、前記第二巻掛部の回転に伴って前記被巻掛部分と前記基準点との距離を調整してもよい。
【0026】
この発明によると、スライドドアのスライド移動に伴って枢動部を枢動させるだけで、第二巻掛部を回転させて、ワイヤーハーネスに作用する張力の状態に合わせて被巻掛部分を適切な位置に調整できる。したがって、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を容易に調整できる。
【0027】
またこの発明の態様として、前記緊張状態における前記被巻掛部分を緊張巻掛部分とし、前記緩和状態における前記被巻掛部分を緩和巻掛部分とし、前記第二巻掛部は、前記緊張巻掛部分と前記基準点との距離と、前記緩和巻掛部分と前記基準点との距離とが異なる長さで構成されてもよい。
【0028】
この発明によると、スライドドアのスライド移動に伴って枢動部を枢動させるだけで第二巻掛部を回転させることができ、ワイヤーハーネスが巻き掛けられる箇所を緊張巻掛部分あるいは緩和巻掛部分に容易かつ確実に変更することができる。これにより、基準点と被巻掛部分との距離を容易かつ確実に調整でき、スライドドアのスライド移動に伴って容易にワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0029】
またこの発明の態様として、前記被巻掛部分は、前記緊張状態と前記緩和状態との状態変化に伴って、形状が弾性変形する形状変形部を有し、前記距離調整部は、前記状態変化に伴う前記形状変形部の弾性変形により、前記被巻掛部分と前記基準点との距離を調整してもよい。
【0030】
前記形状変形部は、前記被巻掛部分を有する前記巻掛部の全部が弾性変形可能な構成である場合や、前記被巻掛部分のみが弾性変形可能な構成を有する場合を含む。前記形状変形部は、例えば、ワイヤーハーネスに作用する張力が変化することで弾性変形するスポンジなどの多孔質の樹脂材や弾性部材で構成されている場合などを含む。
【0031】
この発明により、スライドドアのスライド移動に伴って形状変形部が弾性変形し、被巻掛部分と基準点との距離を調整できる。すなわち、簡単な構造で、状態変化に伴う被巻掛部分を変形させることができる。したがって、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0032】
またこの発明の態様として、前記巻掛機構には、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部と別体で構成されるとともに、前記緩和状態において、前記ワイヤーハーネスにおける前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部との間に掛け渡された掛渡部分と当接して、前記掛渡部分を迂回させる経路迂回部が備えられてもよい。
【0033】
この発明により、緩和状態において、経路迂回部が掛渡部分と当接することで、第一巻掛部と第二巻掛部とを直線状に掛け渡すワイヤーハーネスを湾曲させて迂回させることができる。このため、第一巻掛部及び第二巻掛部に巻き掛けられたワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを長くできる。したがって、車体側保持部とスライドドア側保持部とが接近していることによるワイヤーハーネスの弛みをさらに抑制できる。
【0034】
またこの発明の態様として、前記緊張状態から前記緩和状態への移行に伴って、前記枢動部が枢動する方向を枢動方向とし、前記経路迂回部は、前記緩和状態において、前記ワイヤーハーネスにおける前記枢動方向の側と当接してもよい。
【0035】
この発明により、枢動部を枢動させるだけで、経路迂回部をワイヤーハーネスの掛渡部分に容易に当接させることができる。すなわち、枢動部を枢動させる構造だけで、ワイヤーハーネスに作用する張力が緩和されることで生じるワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
また、緩和状態から緊張状態に状態変化することにより、枢動部が逆方向に枢動するため、経路迂回部と掛渡部分との当接を容易に解除できる。
【0036】
またこの発明の態様として、前記スライド移動に伴って枢動する前記枢動部を支持する支持部本体を有し、前記支持部本体と対向するとともに、少なくとも前記枢動部を挿通可能に構成された対向部が設けられ、前記経路迂回部は、前記対向部に設けられてもよい。
【0037】
前記経路迂回部は、前記支持部本体との間に前記枢動部のみが挿通可能に構成された前記対向部の先端に設けられている場合や、前記支持部本体との間に前記枢動部と前記第一巻掛部及び前記巻き掛け部分とが挿通可能に構成された場合において、前記対向部から前記支持部本体の側に突出する凸部で構成された場合などを含む。
【0038】
この発明によると、経路迂回部を枢動部の枢動方向側に容易に設けることができる。すなわち、枢動部を枢動させるだけで、枢動方向側に配置された経路迂回部をワイヤーハーネスの掛渡部分に容易かつ確実に当接させることができる。
また、緩和状態から緊張状態に状態変化することにより、枢動部が逆方向に枢動するため、経路迂回部と掛渡部分との当接をより容易かつ確実に解除できる。
【0039】
またこの発明の態様として、前記経路迂回部は、前記枢動部の枢動軸に沿って、前記支持部本体に立設され、前記枢動部には、前記スライド移動に伴う枢動において、前記経路迂回部との接触を回避する回避部が設けられてもよい。
この発明により、枢動部の枢動に伴って、経路迂回部が枢動部と接触することを防止しつつ、容易に経路迂回部をワイヤーハーネスの掛渡部分に当接させることができる。
【0040】
またこの発明の態様として、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の少なくとも一方に、前記緊張状態と前記緩和状態との前記スライド移動による状態変化に伴って、前記巻掛機構における基点に対して前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の少なくとも一方を相対移動させる巻掛移動部が設けられてもよい。
【0041】
前記基点とは、所定の状態における前記巻掛部の中心及び重心などの前記巻掛部における所定の点であり、前記巻掛機構に前記スライド移動に伴って枢動するように支持される枢動部が設けられている場合には、前記枢動部の枢動中心などを含む。
【0042】
この発明によると、緊張状態と緩和状態との状態変化に伴って、基点に対して巻掛部を相対移動させることができる。これにより、例えば、緩和状態において、巻掛機構と接近したスライドドア側保持部又は車体側保持部と巻掛部との距離が離間するように巻掛部の位置を調整することができる。このように、緩和状態における、スライドドア側保持部又は車体側保持部と巻掛部との間に配索されたワイヤーハーネスの長さが長くなるように調整でき、ワイヤーハーネスの弛みをより抑制できる。
【0043】
また、緊張状態においては、基点に対して巻掛部を相対移動させることで、例えば、巻掛機構と離間したスライドドア側保持部又は車体側保持部と巻掛部との距離が接近するように巻掛部の位置を調整することができる。このように、緊張状態において、スライドドア側保持部又は車体側保持部と巻掛部との間に配索されたワイヤーハーネスの長さが短くなるように調整できる。これにより、緊張状態におけるワイヤーハーネスの全長を短くできるため、緊張状態から緩和状態に状態変化した際の、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みをより抑制できる。
【0044】
またこの発明の態様として、前記基点は、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の一方の中心とし、前記巻掛移動部は、前記スライド移動による前記枢動部の枢動に伴って、前記第一巻掛部及び前記第二巻掛部の他方を、前記基点に対して、前記枢動部の枢動軸と直交する方向に相対移動させてもよい。
【0045】
この発明によると、巻掛移動部は、基点である第一巻掛部及び第二巻掛部の一方の中心に対して他方が接近、あるいは、離間するように、第一巻掛部及び第二巻掛部の少なくとも一方を相対移動させることができる。これにより、ワイヤーハーネスの巻掛部分の長さを状態に応じて調整することができる。
【0046】
例えば、緊張状態から緩和状態への状態変化に伴って、第一巻掛部及び第二巻掛部の一方の中心に対して他方を離間させることで、第一巻掛部と第二巻掛部とに掛け渡されたワイヤーハーネスの巻掛部分の長さを長くなるように調整することができる。これにより、緩和状態において、ワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【0047】
また例えば、緩和状態から緊張状態への状態変化に伴って、第一巻掛部及び第二巻掛部の一方の中心に対して他方を接近させることで、第一巻掛部と第二巻掛部とに掛け渡されたワイヤーハーネスの巻掛部分の長さを短くなるように調整することができる。これにより、緊張状態において、ワイヤーハーネスの巻き掛け部分の長さを短くできるため、緊張状態におけるワイヤーハーネスの全長を短くできる。したがって、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みを抑制できるとともに、ワイヤーハーネスの軽量化を図ることができる。
【0048】
またこの発明の態様として、前記緊張状態と前記緩和状態との状態変化に伴って、弾性変形する弾性変形部を有し、前記巻掛移動部は、前記状態変化に伴う前記弾性変形部の弾性変形により、前記基点に対して前記他方が相対移動させてもよい。
【0049】
この発明により、スライドドアのスライド移動に伴って弾性変形部が弾性変形することで、基点に対して他方を相対移動させることができる。すなわち、簡単な構造で、基点に対して他方を相対移動させ、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。また、緊張状態においても、弾性変形部の弾性変形により、基点に対して他方が相対移動するため、ワイヤーハーネスに作用する張力を緩和させることができる。
【0050】
またこの発明の態様として、前記基点は、前記枢動部の枢動中心とし、前記第二巻掛部は、前記枢動部における枢動基端側に設けられ、前記巻掛移動部は、前記第二巻掛部の重心が前記枢動中心と異なる位置に設けることで構成されてもよい。
【0051】
この発明により、第一巻掛部のみならず第二巻掛部も枢動部に設けられるため、コンパクト化を図ることができる。また、枢動部に対して第一巻掛部と第二巻掛部を取り付けた後に、これらを一体として被取付箇所に取り付ければよいため、組立性を向上することができる。
【0052】
また、前記第二巻掛部の重心を、基点である枢動部の枢動中心を中心とした円軌道上で相対移動させることとなる。すなわち、状態変化に伴って、基点に対する第二巻掛部の位置を変更させることができ、ワイヤーハーネスの被巻掛箇所と枢動中心との距離を状態に応じて調整できる。これにより、例えば、緩和状態において、被巻掛箇所と枢動中心との距離を離間させることができ、緩和状態におけるワイヤーハーネスの弛みを抑制できる。
【発明の効果】
【0053】
この発明によれば、スライドドアのスライド移動に際し、ワイヤーハーネスの弛みを抑制できるスライドドア給電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図5】スライドドアが全閉状態から全開状態までスライドした際のスライドドア側保持部の動作態様を示す説明図。
【
図6】全閉状態におけるスライドドア側保持部の説明図。
【
図7】中途状態におけるスライドドア側保持部の説明図。
【
図8】全閉状態及び中途状態における第二巻掛部の説明図。
【
図9】全開状態におけるスライドドア側保持部の説明図。
【
図10】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図11】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図12】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図13】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図14】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図15】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図16】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【
図17】他の実施形態に係るスライドドア側保持部の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0055】
この発明の一実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1は車体100における左方側Wlのスライドドア200に設けられたスライドドア給電装置1の概略斜視図を示し、
図2はスライドドア側保持部4の概略分解斜視図を示す。
図3はベースプレート40の説明図を示し、
図4は第二巻掛部70の説明図を示す。
図5はスライドドア200が全閉状態から全開状態までスライドした際の巻掛機構5の動作態様の概略斜視図を示す。
図6は全閉状態における巻掛機構5の説明図を示し、
図7は中途状態における巻掛機構5の説明図を示し、
図8は全閉状態及び中途状態における第一巻掛部60の説明図を示し、
図9は全開状態における巻掛機構5の説明図を示す。なお、
図6乃至
図8においては、給電ハーネス2、第一巻掛部60及び第二巻掛部70が見えるようカバープレート54を削除している。
【0056】
図3及び
図4、
図6乃至
図8について詳述する。
図3(a)は右方側Wrから視たベースプレート40の概略正面図を示し、
図3(b)はベースプレート40を前方側Lfから視た概略側面図を示す。
図4(a)は下方側Hd及び左方側Wlから視たから第二巻掛部70の概略斜視図を示し、
図4(b)は第二巻掛部70を左方側Wlから視た概略背面図を示し、
図4(c)は
図4(b)におけるA-A矢視断面図を示す。
【0057】
図6(a)は全閉状態における巻掛機構5を右方側Wrから視た概略正面図を示し、
図6(b)は
図6(a)における第二巻掛部70の概略拡大正面図を示す。
図7(a)は中途状態における巻掛機構5を右方側Wrから視た概略正面図を示し、
図7(b)は
図7(a)における第二巻掛部70の概略拡大正面図を示す。
図8(a)は
図6(a)における第一巻掛部60の概略拡大正面図を示し、
図8(b)は
図7(a)における第一巻掛部60の概略拡大正面図を示す。
図9(a)は全開状態における巻掛機構5を右方側Wrから視た概略正面図を示し、
図9(b)は
図9(a)における第二巻掛部70の概略拡大正面図を示す。
【0058】
ここで、車体100の前後に沿った方向を前後方向Lとし、車体100の車幅に沿った方向を車幅方向Wとし、車体100の高さに沿った方向を上下方向Hとする。そして、前後方向Lに沿って前方を前方側Lfとし、後方を後方側Lbとする。また、車幅方向Wに沿って車両の右方を右方側Wrとし、車幅方向Wに沿って車両の左方を左方側Wlとし、上下方向Hに沿って車両の上方を上方側Huとし、上下方向Hに沿って車両の下方を下方側Hdとする。
【0059】
スライドドア給電装置1は、
図1に示すように、車体100からスライドドア200に組み込まれた電装品に対して給電を行うものである。スライドドア給電装置1は、主に給電ハーネス2と車体側保持部3とスライドドア側保持部4とを有している。
【0060】
給電ハーネス2は、
図1及び
図2に示すように、複数本の被覆電線21を束ねて構成されており、車体100とスライドドア200の間に架け渡される。給電ハーネス2の基端部分(車体側)及び先端部分(スライドドア側)には、各被覆電線21に加締められた端子金具を収容する基端側コネクタ22及び先端側コネクタ23がそれぞれ取り付けられている。なお、給電ハーネス2は、被覆電線21の他、通信線を含んでいてもよい。
【0061】
車体側保持部3は、車体100のフロアパネル101に固定されるベースブロック31を備えており、給電ハーネス2の基端部分に取り付けられた基端側コネクタ22をベースブロック31の内部に保持している。基端側コネクタ22は、フロアパネル101に配索されたワイヤーハーネスである車体側ハーネス102の端部に取り付けられたフロア側コネクタ103と接続されている。これにより、車体側ハーネス102と給電ハーネス2とは電気的に接続している。
なお、車体側ハーネス102及び給電ハーネス2に、フロア側コネクタ103及び基端側コネクタ22が備えられておらず、車体側ハーネス102と給電ハーネス2とが連続する一つのワイヤーハーネスで構成されていてもよい。
【0062】
スライドドア側保持部4は、
図1及び
図2に示すように、フロアパネル101に対して前後方向Lに移動可能に構成されたスライドドア200に固定されており、給電ハーネス2の先端部分を保持するものである。
【0063】
スライドドア側保持部4は、スライドドア200のインナーパネル201に固定されるベースプレート40と、ベースプレート40に対して枢動可能に構成されたリンクケース50と、リンクケース50における枢動中心の外側に設けられた第一巻掛部60と、リンクケース50における枢動中心側に設けられた第二巻掛部70と、付勢部材であるコイルスプリング80とで構成されている。
【0064】
ベースプレート40は、
図2及び
図3に示すように、右方側Wrから視て正面視略矩形状に構成された板状のベース本体41で構成されている。このベース本体41における上方角部には、板厚方向に貫通させたボルト孔411が設けられている。なお、ベース本体41の後方上端部分には、スライドドア200に配索されたハーネス202のコネクタ203が取り付けられている。
【0065】
このようにインナーパネル201に固定可能なベース本体41には、第一巻掛部60を固定するセンターシャフト42と、第一巻掛部60の枢動を規制するストッパシャフト43と、ベース本体41とセンターシャフト42との間に配置された当接部材44とが備えられている。
【0066】
センターシャフト42は、所定の内径を有する円柱体で構成されており、ベース本体41における略中央部分から車両内側(
図2中の右方側Wr)に向けて延出されている。このセンターシャフト42には、右方側Wrから視た正面視において、センターシャフト42の中心を左方側Wlに窪ませて形成された軸穴421と、軸穴421の前後方向Lにおいて左方側Wlに窪ませた回転規制穴422とが設けられている。
【0067】
ストッパシャフト43は、センターシャフト42の前斜め上方側Huに設けられた突片であり、ベースプレート40に対して枢動させたリンクケース50と当接することで、リンクケース50が過度に上方側Huに枢動しないように、リンクケース50の枢動範囲を規制する。
【0068】
当接部材44は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、センターシャフト42の中心とストッパシャフト43との間においてベース本体41から車両内側に向けて突出する軸部441と、軸部441から下方に向けて延出する延出部442とで構成されている。
【0069】
軸部441は、ベース本体41から車両内側(
図2中の右方側Wr)に向けて突出している。この軸部441の高さ(車幅方向Wに沿った長さ)は、リンクケース50を構成するメインプレート51の板厚よりも長くなるように構成されている。なお、軸部441は、正面視において、ストッパシャフト43よりも上方側Huに配置されている(
図3(a)参照)。
【0070】
延出部442は、軸部441の先端から下方側Hdに向けて延出している棒状体である。この延出部442の先端は、
図3(a)及び
図3(b)に示すように、正面視において、円弧状に形成されているとともに、センターシャフト42の下端よりも下方に配置された当接部443で構成されている。
【0071】
このように構成された延出部442とベース本体41とは、
図3(b)に示すように、メインプレート51の板厚よりも大きな間隔Gを隔てられており、延出部442とベース本体41との間には、枢動されたメインプレート51を挿入することができる。
【0072】
リンクケース50は、
図2に示すように、略長方形状に形成された板状のメインプレート51と、メインプレート51における長手方向の一方側に設けられた第一取付部52と、メインプレート51における長手方向の他方側に設けられた第二取付部53と、メインプレート51と対となっているカバープレート54とで構成されている。
【0073】
第一取付部52は、センターシャフト42と比べて外径の小さな円柱体であり、略長方形状のメインプレート51の中央部分よりも長手方向の一方側(
図2中の下方側Hd)に偏位した位置から、車両内側に向けて突出するように配置されている。このように構成された第一取付部52の正面視中央には、カバープレート54を固定するための固定孔521が設けられている。また、第一取付部52の高さ方向の略中央部分には、メインプレート51の長手方向の一方側に向けて延出する軸バネ522が備えられている。
【0074】
軸バネ522は、メインプレート51の長手方向に沿って螺旋状に巻かれたいわゆるコイルバネであり、一端部分が第一取付部52に固定され、他端部分が後述する長円孔61に固定される。なお、軸バネ522は、長円孔61に固定された状態において、第一取付部52と長円孔61とが反発するように弾性力を有する押しバネである。
【0075】
第二取付部53は、センターシャフト42の外形よりも一回り大きな外径を有するとともに、センターシャフト42の外径と略同じ内径を有する貫通部531が中央部分に形成された環状柱体であり、略長方形状のメインプレート51の中央部分よりも長手方向の他方側(
図2中の上方側Hu)に偏位した位置から車両内側(
図2中の右方側Wr)に向けて突出するように配置されている。この第二取付部53に形成された貫通部531は、メインプレート51の板厚方向に沿って設けられており、センターシャフト42を挿通可能に構成されている。このため、第一取付部52にセンターシャフト42を挿通させた状態において、リンクケース50はセンターシャフト42の中心を枢動軸として枢動可能に構成されている。なお、第一取付部52と第二取付部53との間隔は、給電ハーネス2の外径よりも十分に大きい。
【0076】
カバープレート54は、メインプレート51に対向する略長方形状に形成された板状部品であって、中央部分よりも長手方向の一端側(
図2中の下方側Hd)に偏位した位置に第一係止軸541が形成されている。また、中央部分よりも長手方向の他端側(
図2中の上方側Hu)に偏位した位置に第二係止軸542が形成されている。
【0077】
詳述すると、第一係止軸541は、カバープレート54の左方側Wlの面から左方側Wlに向けて延出する棒状体であり、固定孔521に対応する位置に設けられている。同様に、第二係止軸542は、カバープレート54の左方側Wlの面から左方側Wlに向けて延出する棒状体であり、貫通部531の中央と対応する位置に設けられている。なお、第一係止軸541の先端は固定孔521と係止可能に構成されている。一方で、第二係止軸542の先端は軸穴421に対して挿入できるものの、軸穴421とは固定されない。すなわち、リンクケース50をベースプレート40に組み付けた状態において、カバープレート54は、メインプレート51と同様に、軸穴421を枢動軸として枢動自在に構成されている。
【0078】
第一巻掛部60は、
図2に示すように、正面視における中央に、第一取付部52が挿通可能な長円状の貫通孔である長円孔61が設けられた環状柱体である。なお、長円孔61の長軸は、
図2中において、上下方向Hに沿っている。また、第一巻掛部60の高さ(
図2中の車幅方向Wに沿った長さ)は、給電ハーネス2の外径よりも長くなるように構成されている。
【0079】
第二巻掛部70は、第一巻掛部60と同じ外径及び高さを有する略円柱体であり、
図2、
図4(a)及び
図4(b)に示すように、正面視の中央には、第二係止軸542を挿通可能な挿通孔71が高さ方向(
図2中の車幅方向W)に沿って設けられている。
【0080】
また、第二巻掛部70における車両外側(
図2中の左方側Wl)の端面には、第二取付部53を内部に挿入可能な形状で窪ませた凹部72が設けられ、第二巻掛部70における側面の一部分には、第二巻掛部70の径内側に向けて窪ませた溝部73が設けられている。
【0081】
凹部72は、
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、第二取付部53の外径と略同じ内径を有する円柱形状の窪みである。この凹部72の深さは、メインプレート51から右方側Wrに突出する第二取付部53の高さと略同じである。また、凹部72における窪みの底面には、左方側Wlに向けて突出する2つの係止凸部721が設けられている。
【0082】
係止凸部721は、回転規制穴422の内径と略等しい外径を有するとともに、凹部72の深さと同じ高さを有する円柱状に形成されており、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、正面視中央を高さ方向に貫通する挿通孔71を挟んで所定の間隔を隔てて設けられている。なお、係止凸部721同士の間隔は、回転規制穴422同士の間隔と等しい。
【0083】
溝部73は、第二巻掛部70における外周面の一部分に形成された溝である。より詳しくは、溝部73は、第二巻掛部70における外周面を、下方側Hdの円頂から後方側Lbにかけて、所定の深さだけ窪ませた溝である。なお、溝部73の周長は、第二巻掛部70の円周の1/4強の長さである。また、溝部73の幅は、給電ハーネス2の外径よりもわずかに広い。このように構成された溝部73には、板バネ731が備えられている。
【0084】
板バネ731は、弾性部材で構成された板状体である。板バネ731は、一端が溝部73における下方側Hdの溝底と連結されており、一端から他端にかけて、後方側Lbに向けて延出している。このように構成された板バネ731は、第二巻掛部70の径方向外側に向けて凸状となる円弧形状をしており、外力が作用していない状態において、一部分が第二巻掛部70の外周面よりも径方向外側に向けて延出している。
【0085】
コイルスプリング80は、ベースプレート40を構成するベース本体41を枢動方向Rの一方側へ付勢するものである。詳述すると、コイルスプリング80の螺旋状に巻かれた胴体部分81がセンターシャフト42に嵌め合わされており、後述するように、胴体部分81から延出した一端部82がベース本体41に固定され、胴体部分81から延出した他端部83がメインプレート51に固定されている。したがって、コイルスプリング80は、センターシャフト42を中心にメインプレート51を車内側(
図2中の右方側Wr)から視て反時計回りへ付勢することができる。
【0086】
このように構成されたベースプレート40、リンクケース50、第一巻掛部60、第二巻掛部70及びコイルスプリング80は、互いに組み付けることで、スライドドア側保持部4を構成する。以下、簡単に説明する。
まず、リンクケース50における第一取付部52に対して第一巻掛部60を組み付ける。この際、一端部分が第一取付部52に固定された軸バネ522の他端を、長円孔61の長手方向の一方側(
図2中の下方側Hd)に固定する。これにより、第一取付部52に対して第一巻掛部60を、メインプレート51の長手方向に沿って移動させることができる。なお、このように長円孔61に固定された軸バネ522は、長円孔61の長手方向の一方側と第一取付部52とが反発するように弾性力を有することとなる。
【0087】
また、凹部72に第二取付部53を挿入することで、第二巻掛部70をリンクケース50に組み付ける。
このようにリンクケース50に組み付けられた第一巻掛部60と第二巻掛部70とは、軸バネ522の弾性力により第二巻掛部70に対して第一巻掛部60が最接近した状態において、給電ハーネス2を通すことができる程度の隙間が設けられている。
【0088】
次に、このように設けられた第一巻掛部60と第二巻掛部70との隙間に給電ハーネス2を通すとともに、第一係止軸541及び第二係止軸542が、それぞれ固定孔521及び挿通孔71に挿入されるようにカバープレート54をメインプレート51に相対移動させて、カバープレート54とメインプレート51とを組み付ける。このようにメインプレート51とカバープレート54とが組み付けられたリンクケース50では、給電ハーネス2、第一巻掛部60及び第二巻掛部70がメインプレート51とカバープレート54に挟まれている。このため、給電ハーネス2、第一巻掛部60及び第二巻掛部70がリンクケース50から脱落することを防止できる。
【0089】
そして、係止凸部721をそれぞれ回転規制穴422に対応させるように第二巻掛部70の位置を調整して、貫通部531にセンターシャフト42を挿通させる。これにより、第二係止軸542が軸穴421に、係止凸部721が回転規制穴422に挿通され、リンクケース50をベースプレート40に組み付けることができる。
【0090】
この際、一端部82がベース本体41に固定された胴体部分81における他端部83は、貫通部531の内周面に固定される。このため、コイルスプリング80は、車両内側(
図2中の右方側Wr)から視て、センターシャフト42を中心にメインプレート51を反時計回りへ付勢することができる。
【0091】
これにより、第一巻掛部60及び第二巻掛部70が組み付けられたリンクケース50がベースプレート40に枢動自在に組み付けられたスライドドア側保持部4を構成することができる。なお、係止凸部721が回転規制穴422に嵌合しているため、リンクケース50の枢動に追従して第二巻掛部70が回転することを防止できる。
ここで、リンクケース50の枢動中心を枢動点P1とする。なお、枢動点P1は、正面視において第二巻掛部70の中心と一致する。
【0092】
このように構成されたスライドドア側保持部4は、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に給電ハーネス2が配索されているとともに、センターシャフト42の中心、すなわち正面視において枢動点P1に沿った軸を枢動軸としてリンクケース50をベースプレート40に対して枢動させることができる。なお、リンクケース50、第一巻掛部60、第二巻掛部70、コイルスプリング80は、センターシャフト42の中心を枢動軸としてベースプレート40に対して枢動し、枢動位置において給電ハーネス2の巻き掛け長さを変化させる巻掛機構5を構成する。
【0093】
ここで、リンクケース50の枢動中心(枢動点P1)から離間する方向、すなわち枢動点P1に対する第一巻掛部60が配置されている側を枢動先端側とし、リンクケース50の枢動中心(枢動点P1)に接近する方向、すなわち、第一巻掛部60に対して第二巻掛部70が配置されている側を枢動基端側とする。
【0094】
また、第一巻掛部60は、第二巻掛部70の中心でもある枢動点P1を基点として、枢動点P1に近接、あるいは、離間する方向に沿って移動させることができる。すなわち、第一取付部52及び長円孔61は、枢動点P1(第二巻掛部70)に対して第一巻掛部60を所定方向に沿って移動させる巻掛移動部6を構成することができる。
【0095】
このように構成されたスライドドア側保持部4は、インナーパネル201における所定の位置にベース本体41をボルト固定するとともに、給電ハーネス2の両端に設けられた基端側コネクタ22及び先端側コネクタ23とを、それぞれフロア側コネクタ103及びコネクタ203とに接続することで、給電ハーネス2の両端をインナーパネル201及びフロアパネル101に固定できるとともに、車体側ハーネス102とハーネス202とを電気的に接続することができる。
【0096】
このようにスライドドア200に固定されたスライドドア側保持部4は、
図5に示すように、車体100に対するスライドドア200のスライド動作に伴って、フロアパネル101における所定箇所に固定された車体側保持部3との相対位置が変化する。この相対位置の変化に伴って、車体側保持部3とスライドドア側保持部4とを連結する給電ハーネス2に作用する張力が変化し、巻掛機構5がベースプレート40に対して枢動することとなる。これにより、巻掛機構5に配索された給電ハーネス2が変形して、給電ハーネス2の配索経路が変化する。
【0097】
以下に、
図5から
図9を用いて、スライドドア200のスライド動作に伴うリンクケース50の枢動及び給電ハーネス2のハーネス経路を変化について説明する。
スライドドア200が全閉状態である場合、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置は離間している(
図5参照)。このため、フロア側コネクタ103から延出された給電ハーネス2は、
図6(a)に示すように、第一巻掛部60の前方側Lfを1/2周程度に巻き掛けられた後に第二巻掛部70と第一巻掛部60の間を通り、第二巻掛部70の後方側Lb及び下方側Hdを1/4周程度に巻き掛けられてコネクタ203に至る。すなわち、給電ハーネス2に引張荷重が作用した緊張状態において、給電ハーネス2は第一巻掛部60及び第二巻掛部70に対してS字状となるように巻き掛けられている(
図6参照)。ここで、第二巻掛部70における給電ハーネス2が巻き掛けられた箇所を被巻掛部分Xとする。また、枢動点P1から被巻掛部分Xまでの長さを距離Dとする。
【0098】
このとき、給電ハーネス2には、比較的に大きな引張荷重が作用しているため、第一巻掛部60の前方側Lfに巻き掛けられた給電ハーネス2は、第一巻掛部60を後方側Lbに向けて押し付けることとなる。これにより、コイルスプリング80の付勢力に抗して、巻掛機構5が車両内側から視て時計回りへ枢動した状態で保たれる(
図6(a)参照)。
【0099】
また、
図6(b)に示すように、給電ハーネス2に比較的に大きな引張荷重が作用していることから、溝部73に設けられた板バネ731は、第二巻掛部70の中心(枢動点P1)に向けて押し込むように外力が作用する。このため、給電ハーネス2は板バネ731及び第二巻掛部70の外周面に沿って配索されることとなる。ここで、給電ハーネス2に比較的に大きな引張荷重が作用する緊張状態において、第二巻掛部70における給電ハーネス2が巻き掛けられた板バネ731(緊張巻掛部分Xa)と基準点である枢動点P1との距離Dを第一緊張距離D1とする(
図6(b)参照)。
【0100】
また、給電ハーネス2に比較的に大きな引張荷重が作用していることにより、第一巻掛部60には給電ハーネス2の張力に起因する外力が作用する。これにより、軸バネ522に付勢力が作用して、正面視において、軸バネ522の中心と第一巻掛部60の中心が一致する位置に、第一巻掛部60が配置されることとなる(
図6(a)参照)。
【0101】
これに対し、
図5及び
図7に示すように、スライドドア200をスライド移動させることで、全閉状態(緊張状態)よりも給電ハーネス2に作用する張力が緩和し、給電ハーネス2に弛みが生じることとなる。このため、コイルスプリング80の付勢力によって巻掛機構5が反時計回り(枢動方向R)へ枢動する。この際、ベース本体41と延出部442との間にメインプレート51が滑り込むとともに、メインプレート51とカバープレート54とで延出部442を挟み込むように、巻掛機構5が枢動する。
【0102】
このように給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少した緩和状態において、フロア側コネクタ103から延出された給電ハーネス2は、第一巻掛部60における上方側Huの1/2周程度に巻き掛けられた後に第一巻掛部60と第二巻掛部70の間を通り、第二巻掛部70における下方側Hdの1/2周程度に巻き掛けられてコネクタ203に至る。すなわち、給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少した緩和状態において、給電ハーネス2は第一巻掛部60及び第二巻掛部70に対してS字状となるように巻き掛けられている。
【0103】
このようなスライド移動に伴うリンクケース50の枢動動作により、給電ハーネス2は、リンクケース50とともに枢動する第一巻掛部60によって上方側Huに押し上げられるため、給電ハーネス2はコネクタ203の側に引き込まれ、給電ハーネス2の配索経路が変化することとなる。したがって、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置が近接することにより生じる給電ハーネス2の弛みを、減少させることができる。
【0104】
また、第二巻掛部70に巻き掛けられている給電ハーネス2の張力荷重が減少するため、
図7(b)に示すように、板バネ731の先端側が枢動点P1から離間する方向に給電ハーネス2を押し出すこととなる。ここで、給電ハーネス2に係る張力が緩和された緩和状態において、第二巻掛部70における給電ハーネス2が巻き掛けられた板バネ731(緩和巻掛部分Xb)と枢動点P1との距離Dを第一緊張距離D2とする。
【0105】
このように緊張状態から緩和状態に状態変化することによる給電ハーネス2の張力の変化に伴い、板バネ731が枢動点P1から離間する方向に突出することとなる。これにより、緩和巻掛部分Xbが緊張巻掛部分Xaよりも外側に配置され、第一緊張距離D1よりも第一緊張距離D2が長くなる。したがって、第一巻掛部60及び第二巻掛部70に巻き掛けられた給電ハーネス2の巻掛部分を長くすることができ、第二巻掛部70よりも車体側に配索される給電ハーネス2の弛みを減少させることができる。
【0106】
さらにまた、巻掛機構5の枢動動作により、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に掛け渡された給電ハーネス2の上方側Hu(枢動方向R)に当接部443が当接する。これにより、給電ハーネス2が下方側Hdに押し下げられ、当接部材44がなければ第一巻掛部60と第二巻掛部70の間を直線状に配索されるはずの給電ハーネス2を下方側Hdに迂回させることができる。したがって、給電ハーネス2をコネクタ203の側に引き寄せることができ、第二巻掛部70よりも車体側における給電ハーネス2の弛みを減少させることができる。
【0107】
加えて、給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少することにより、第二巻掛部70に向けて第一巻掛部60を押し付ける押圧力が低減する。このため、軸バネ522の弾性力により、第一巻掛部60が枢動先端側に向けて移動する(
図8(a)及び
図8(b)参照)。これにより、第一巻掛部60及び第二巻掛部70に巻き掛けられている給電ハーネス2の巻き掛け長さが長くなり、第二巻掛部70よりも車体側に配索される給電ハーネス2をコネクタ203に向けて引っ張ることとなる。したがって、給電ハーネス2の弛みを減少させることができる。
【0108】
さらにスライドドア200を開ける方向にスライドさせると、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置が再び離間して給電ハーネス2に作用する引張荷重が増加する。これにより、
図9に示すように、給電ハーネス2が第一巻掛部60を下方側Hdに向けて押し付け、巻掛機構5がコイルスプリング80の付勢力に抗して時計回りへ枢動する。このような動作態様により、フロア側コネクタ103からコネクタ203に至る給電ハーネス2は、第一巻掛部60と第二巻掛部70の間から下方側Hdへ引き出される。
【0109】
またこれに伴い、給電ハーネス2に作用する引張荷重が増加するため、第二巻掛部70に巻き付けられた給電ハーネス2により、板バネ731が枢動点P1に近接する方向に押し付けられ溝部73の内部に収納される。これにより、給電ハーネス2の経路が変更して給電ハーネス2の経路を短くすることができ、緊張状態における給電ハーネス2の緊張を低減できる。
【0110】
さらにまた、給電ハーネス2に作用する引張荷重が増加するため、第一巻掛部60に巻き付けられた給電ハーネス2が、第一巻掛部60を第二巻掛部70に向けて押し付ける押圧力が増加する。これにより、軸バネ522の弾性力に抗して、第一巻掛部60が枢動基端側に向けて移動する。したがって、フロア側コネクタ103に向けて給電ハーネス2が最短距離をとることができ、給電ハーネス2の緊張を低減できる。
【0111】
なお、本実施形態では、全閉状態において、すなわち給電ハーネス2に張力が作用した緊張状態において、給電ハーネス2は第一巻掛部60及び第二巻掛部70に対してS字状に巻き掛けられており、全開状態においては、給電ハーネス2は第二巻掛部70にのみ巻き掛けられているが、必ずしもこの態様である必要はなく、全開状態において、給電ハーネス2は第一巻掛部60及び第二巻掛部70に対してS字状に巻き掛けられ、全閉状態において、給電ハーネス2は第二巻掛部70にのみ巻き掛けられていてもよい。
【0112】
このように車体100に対してスライド移動するスライドドア200に設けられた電装品に対して車体100から給電を行うスライドドア給電装置1は、車体100とスライドドア200の間に架け渡される給電ハーネス2と、車体100に固定されて給電ハーネス2の一端側部分を保持する車体側保持部3と、スライドドア200に固定されて給電ハーネス2の他端側部分を保持するスライドドア側保持部4とを有する。スライドドア側保持部4には、給電ハーネス2の一部が巻き掛けられる第一巻掛部60及び第二巻掛部70に巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを変化させる巻掛機構5が備えられている。そして、第二巻掛部70に、給電ハーネス2に作用する張力が緊張した緊張状態と、給電ハーネス2に作用する張力が緩和された緩和状態とのスライドドア200のスライド移動による状態変化に伴って、巻掛機構5における基準点である枢動点P1と、第二巻掛部70において給電ハーネス2の巻き掛け部分が巻き掛けられる被巻掛部分Xとの距離Dを調整する板バネ731が設けられている。
【0113】
これにより、全閉状態(緊張状態)から中途状態(緩和状態)に状態変化することに伴って、枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dが長くなるように板バネ731で調整でき(
図7(b)参照)、第一巻掛部60及び第二巻掛部70に巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを長くできる。したがって、車体側保持部3とスライドドア側保持部4とが接近している緩和状態において、給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0114】
また、巻掛機構5は、スライド移動に伴って枢動するように支持されるリンクケース50を備えている。そして、第一巻掛部60はリンクケース50における枢動先端側に配置され、第二巻掛部70は第一巻掛部60に対して少なくとも給電ハーネス2が通る隙間を隔てて枢動基端側に配置されている。また、緊張状態及び緩和状態において、給電ハーネス2は第一巻掛部60及び第二巻掛部70に対してS字状となるように巻き掛けられている(
図6(a)及び
図7(a)参照)。そして、板バネ731は、第二巻掛部70に設けられるとともに、第二巻掛部70における枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを調整している。
【0115】
これにより、板バネ731による枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを調整することに加えて、
図6(a)及び
図7(a)に示すように、スライドドア200のスライド移動に伴うリンクケース50の枢動により、給電ハーネス2の配索経路を変化させることができ、給電ハーネス2の弛みをより減少させることができる。
【0116】
また、リンクケース50を枢動させることで給電ハーネス2の配索経路を変化させて、給電ハーネス2の弛みをより減少させることができるため、リンクケース50が枢動しない場合に比べて、板バネ731による給電ハーネス2の弛みを小さくできる。したがって、板バネ731を設けた第二巻掛部70(巻掛機構5)のコンパクト化を図ることができる。
【0117】
また、板バネ731は、スライドドア200のスライド移動による給電ハーネス2に作用する張力の変化に伴って、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整することにより、簡易な構造で、給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0118】
すなわち、スライドドア200のスライド移動に応じて変化する給電ハーネス2に作用する張力を利用して、板バネ731が被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを長くしたり短くしたり調整できるため、給電ハーネス2に作用する張力の作用に関係なく、スライド移動に伴って被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを板バネ731で調整する機構を設ける必要がない。そのため、簡易な構造で、給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0119】
また、板バネ731は、給電ハーネス2に作用する張力の変化に伴って、弾性変形する板状の弾性材である。これにより、弾性力を有する板バネ731を第二巻掛部70に設けるだけで、容易かつ確実に、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整することができる。すなわち、簡易な構造で容易かつ確実に給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0120】
また、第二巻掛部70がリンクケース50における枢動基端側に設けられている。これにより、第一巻掛部60のみならず第二巻掛部70もリンクケース50に設けられ、巻掛機構5のコンパクト化を図ることができる。また、リンクケース50に対して第一巻掛部60と第二巻掛部70を取り付けた後に、これらを一体として被取付箇所(ベースプレート40)に取り付ければよいため、組立性を向上することができる。
【0121】
また、巻掛機構5には、第一巻掛部60及び第二巻掛部70と別体で構成されるとともに、緩和状態において、給電ハーネス2における第一巻掛部60及び第二巻掛部70との間に掛け渡 された掛渡部分と当接して、掛渡部分を迂回させる当接部443(当接部材44)が備えられている。
【0122】
これにより、緩和状態において、給電ハーネス2の掛渡部分に当接部443を当接させることができ、第一巻掛部60と第二巻掛部70とを直線状に掛け渡す給電ハーネス2を湾曲させて迂回させることができる。このため、第一巻掛部60及び第二巻掛部70に巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを長くできる。したがって、車体側保持部3とスライドドア側保持部4とが接近していることによる給電ハーネス2の弛みをさらに抑制できる。
【0123】
また、緊張状態から緩和状態への移行に伴って、リンクケース50が枢動する方向を枢動方向Rとし、当接部443は、緩和状態において、給電ハーネス2における枢動方向Rの側と当接する。これにより、リンクケース50を枢動させるだけで、当接部443を給電ハーネス2の掛渡部分に容易に当接させることができる。すなわち、リンクケース50を枢動させる構造だけで、給電ハーネス2に作用する張力が緩和されることで生じる給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
また、緩和状態から緊張状態に状態変化することにより、リンクケース50が逆方向に枢動するため、当接部443と掛渡部分との当接を容易に解除できる。
【0124】
さらにまた、スライド移動に伴って枢動するリンクケース50を支持するベース本体41を有し、ベース本体41と対向するとともに、メインプレート51を挿通可能に構成された延出部442が設けられ、当接部443は、延出部442に設けられている。
【0125】
これにより、当接部443をリンクケース50の枢動方向Rの側に容易に設けることができる。すなわち、リンクケース50を枢動させるだけで、枢動方向Rの側に配置された当接部443を給電ハーネス2の掛渡部分に容易かつ確実に当接させることができる。
【0126】
また、第一巻掛部60に、緊張状態と緩和状態とのスライドドア200のスライド移動による状態変化に伴って、基点である枢動点P1に対して第一巻掛部60を相対移動させる巻掛移動部6が設けられていることにより、緊張状態から緩和状態への状態変化に伴って、巻掛機構5と接近した車体側保持部3と第一巻掛部60が離間するように、第一巻掛部60を相対移動させることができる。これにより、緩和状態において、第一巻掛部60と車体側保持部3との間に配索された給電ハーネス2の長さを長くなるように調整し、給電ハーネス2の弛みをより抑制できる。
【0127】
また、緊張状態においては、巻掛機構5と離間した車体側保持部3と第一巻掛部60が接近するように、枢動点P1に対して第一巻掛部60を相対移動させることで、第一巻掛部60と車体側保持部3との間に配索された給電ハーネス2の長さを短くできる。これにより、緊張状態における給電ハーネス2の全長を短くできるため、緊張状態から緩和状態に状態変化した際の、緩和状態における給電ハーネス2の弛みをより抑制できる。
【0128】
また、巻掛移動部6は、スライド移動によるリンクケース50の枢動に伴って、第一巻掛部60を、第二巻掛部70の中心でもある枢動点P1に対して、リンクケース50の枢動軸と直交する方向に相対移動させる。これにより、巻掛移動部6は、枢動点P1に対して第一巻掛部60が接近、あるいは、離間するように、第一巻掛部60を相対移動させることができるため、給電ハーネス2の巻掛部分の長さを状態に応じて調整することができる。
【0129】
詳述すると、緊張状態から緩和状態への状態変化に伴って、枢動点P1に対して第一巻掛部60を離間させることで、第一巻掛部60と第二巻掛部70とに掛け渡された給電ハーネス2の巻掛部分の長さを長くなるように調整することができる。これにより、緩和状態において、給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0130】
また、緩和状態から緊張状態への状態変化に伴って、枢動点P1に対して第一巻掛部60を接近させることで、第一巻掛部60と第二巻掛部70とに掛け渡された給電ハーネス2の巻掛部分の長さを短くなるように調整することができる。これにより、緊張状態において、給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを短くできるため、緊張状態における給電ハーネス2の全長を短くできるため、緩和状態における給電ハーネス2の弛みを抑制できるとともに、給電ハーネス2の軽量化を図ることができる。
【0131】
また、緊張状態と緩和状態との状態変化に伴って、弾性変形する軸バネ522を有し、巻掛移動部6は、状態変化に伴う軸バネ522の弾性変形により、枢動点P1に対して第一巻掛部60を相対移動させる。このように、スライドドア200のスライド移動に伴って軸バネ522が弾性変形することで、枢動点P1に対して第一巻掛部60を相対移動させることができる。すなわち、簡単な構造で、枢動点P1に対して第一巻掛部60を相対移動させ、緩和状態における給電ハーネス2の弛みを抑制できる。また、緊張状態においても、軸バネ522の弾性変形により、枢動点P1に対して第一巻掛部60が相対移動するため、給電ハーネス2に作用する張力を緩和させることができる。
【0132】
上述の実施形態において、巻掛機構5は、板バネ731により、緊張状態から緩和状態に状態変化するに伴い、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを長くする構成としているが、緩和状態から緊張状態に状態変化する場合において、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを短くする構成としてもよい。
【0133】
以下、緊張状態において被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを短くする巻掛機構5Aについて、
図10に基づき説明する。
ここで
図10(a)は緊張状態における第二巻掛部70Aの概略拡大正面図を示し、
図10(b)は緩和状態における第二巻掛部70Aの概略拡大正面図を示す。なお、巻掛機構5Aにおいて、巻掛機構5と同じ構成については、同じ付番を付し、その説明を省略する。
【0134】
巻掛機構5Aは、緊張状態において、給電ハーネス2が巻き回された被巻掛部分Xと、巻掛機構5の枢動中心である枢動点P1との距離Dを短くすることができる。この巻掛機構5Aは、巻掛機構5を構成する第二巻掛部70を、第二巻掛部70Aとすることを除き、全く同じ構成である。
【0135】
第二巻掛部70Aは、第二巻掛部70と略同じ構成である。すなわち、第二巻掛部70Aは、挿通孔71と、凹部72と、溝部73の代わりである溝部73Aが設けられている。
溝部73Aは、溝部73と同様に、第二巻掛部70における外周面を所定の深さだけ窪ませた溝であり、第二巻掛部70の外周面に沿って、下方側Hdの円頂から後方側Lbに向けた円周の1/4強の長さを有する。なお、溝部73Aの幅は、給電ハーネス2の外径より広く、給電ハーネス2の一部を内部に収容できるように構成されている。このように構成された溝部73Aには、板バネ731が備えられている。
【0136】
板バネ731は、弾性部材で構成された板状体である。板バネ731の一端は、溝部73Aにおける下方側Hdの溝底と連結されているとともに、後方側Lbに向けて延出している。この溝部73Aに連結された板バネ731は、第二巻掛部70Aの径方向外側に向けて凸状となる円弧形状をしており、外力が作用していない状態において、第二巻掛部70Aの外周面と略面一となる位置に配置されている。
【0137】
このように構成された巻掛機構5Aでは、給電ハーネス2に比較的に大きな引張荷重が作用する緊張状態において、給電ハーネス2に作用する張力により、板バネ731が第二巻掛部70Aの中心(枢動点P1)に向けて押し込まれる(
図10(a)参照)。このため、給電ハーネス2の一部分が溝部73の内部に収容されることとなる。
【0138】
一方で、スライドドア200を開ける方向(後方側Lb)にスライドさせると、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置が近接して給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少する。
このように給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少した緩和状態において、溝部73Aに設けられた板バネ731には、枢動点P1から離間する方向に弾性力が作用するため、給電ハーネス2を枢動点P1から離間する方向に押し出すことができる。これにより、
図10(b)に示すように、給電ハーネス2を第二巻掛部70Aの外周面に沿うように配索経路を変化させることができる。
【0139】
すなわち、板バネ731は、緊張状態における枢動点P1と被巻掛部分X(緊張巻掛部分Xa)との第二緊張距離D3と比べて、緩和状態における枢動点P1と被巻掛部分X(緩和巻掛部分Xb)との第二緩和距離D4を長くすることができる。
【0140】
このように巻掛機構5Aを有するスライドドア給電装置1では、給電ハーネス2が緊張状態(全閉状態)から緩和状態(中途状態)に状態変化することに伴って、板バネ731は枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを長くするように調整することができる(
図10(b)参照)。これにより、第一巻掛部60及び第二巻掛部70Aに巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを長くなるように調整でき、緩和状態での給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0141】
また、枢動点P1は、枢動軸に沿った方向から視て、板バネ731が設けられた第二巻掛部70Aの中心であり、板バネ731は、緩和状態から緊張状態に状態変化するに伴い、第二巻掛部70における被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを短くしている。
【0142】
これにより、緊張状態において、給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを短くすることができる。したがって、緊張状態における給電ハーネス2の全長を短くできるため、緩和状態における給電ハーネス2の弛みを抑制できるとともに、給電ハーネス2の軽量化を図ることができる。
【0143】
さらに言えば、給電ハーネス2に作用する張力が大きい緊張状態においては、溝部73の内部に板バネ731が入り込む構成とするととともに(
図10(a)参照)、スライドドア200のスライド移動に伴って給電ハーネス2に作用する張力が緩和された緩和状態において、溝部73から板バネ731が突出する構成としてもよい(
図7(a)参照)。
【0144】
すなわち、緊張状態において、給電ハーネス2の一部が溝部73の内部に収容され、スライドドア200のスライド移動に伴って給電ハーネス2に作用する張力が緩和された緩和状態において、給電ハーネス2が第二巻掛部70の外周面よりも外側に押し出されるように、板バネ731の弾性力を調整してもよい。
【0145】
これにより、緊張状態における給電ハーネス2の全長を短くできるとともに、緩和状態における第一巻掛部60及び第二巻掛部70Aに巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さをより長くなるように調整して、緩和状態での給電ハーネス2の弛みをより抑制できるとともに、給電ハーネス2の軽量化を図ることができる。
【0146】
また、巻掛機構5Aでは、緊張状態において板バネ731が溝部73Aの内部に入り込むことで、給電ハーネス2を溝部73Aに収容することができる。これにより、緊張状態における給電ハーネス2の全長を短くできるとともに、緩和状態における第一巻掛部60及び第二巻掛部70Aに巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さをより長くなるように調整して、緩和状態での給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0147】
このような巻掛機構5Aと同様の効果を得るため、例えば、第二巻掛部70Aの代わりに、少なくとも給電ハーネス2が巻き掛けられる被巻掛部分Xが弾性部材で構成された第二巻掛部70Bが設けられた巻掛機構5Bとしてもよい(
図11参照)。
【0148】
以下、巻掛機構5Aと同様の効果を有する巻掛機構5Bについて、
図11に基づき簡単に説明する。
ここで
図11(a)は緊張状態における第二巻掛部70Bの概略拡大正面図を示し、
図11(b)は緩和状態における第二巻掛部70Bの概略拡大正面図を示す。なお、巻掛機構5Bにおいて、巻掛機構5と同じ構成については、同じ付番を付して、その説明を省略する。
【0149】
巻掛機構5Bは、緊張状態において、給電ハーネス2が巻き回された被巻掛部分Xと、巻掛機構5の枢動中心である枢動点P1との距離Dを短くすることができる。この巻掛機構5Bは、巻掛機構5を構成する第二巻掛部70を、第二巻掛部70Bとすることを除き、全く同じ構成である。
【0150】
第二巻掛部70Bは、所定の外力が作用した場合に、外周面が第二巻掛部70Bの中心である枢動点P1に向けて変形する弾性部材で構成されている。詳述すると、第二巻掛部70Bは、第一巻掛部60と同じ外径及び高さを有する略円柱体であり、挿通孔71と、凹部72とが設けられている。すなわち、第二巻掛部70Bは第二巻掛部70と異なり、溝部73が設けられていない。
【0151】
このように構成された巻掛機構5Bでは、給電ハーネス2に比較的に大きな引張荷重が作用する緊張状態において、給電ハーネス2に作用する張力により、第二巻掛部70Bの外周面が第二巻掛部70の中心(枢動点P1)に向けて変形する(
図11(a)参照)。
【0152】
一方で、スライドドア200を開ける方向(後方側Lb)にスライドさせると、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置が近接して給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少する。このように給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少した緩和状態において、第二巻掛部70Bには枢動点P1から離間する方向に弾性力が作用し、給電ハーネス2を枢動点P1から離間する方向に押し出すことができる。これにより、
図11(b)に示すように、第二巻掛部70Bの外周面に沿うように給電ハーネス2の配索経路を変化させることができる。
【0153】
このように、第二巻掛部70Bは、緊張状態における枢動点P1と被巻掛部分X(緊張巻掛部分Xa)との第三緊張距離D5と比べて、緩和状態における枢動点P1と被巻掛部分X(緩和巻掛部分Xb)との第三緩和距離D6を長くすることができる。すなわち、第二巻掛部70Bが、板バネ731と同様に、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整する距離調整部として機能する。
【0154】
上述のような巻掛機構5Bを有するスライドドア給電装置1は、給電ハーネス2が緊張状態(全閉状態)から緩和状態(中途状態)に状態変化することに伴って、枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを長くするように調整することができる(
図10(b)参照)。これにより、第一巻掛部60及び第二巻掛部70Bに巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを長くなるように調整でき、緩和状態での給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0155】
また、被巻掛部分Xは、緊張状態と緩和状態との状態変化に伴って、形状が弾性変形する第二巻掛部70Bを有し、状態変化に伴う第二巻掛部70Bの弾性変形により、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整することができる。
【0156】
これにより、スライドドア200のスライド移動に伴って第二巻掛部70Bが弾性変形し、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整できる。すなわち、簡単な構造で、状態変化に伴う被巻掛部分Xを変形させることができる。したがって、緩和状態における給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0157】
なお、巻掛機構5Bにおける第二巻掛部70Bは、被巻掛部分Xを有する巻掛部の全部が弾性変形可能な構成や、被巻掛部分Xのみが弾性変形可能な構成としてもよい。また、第二巻掛部70Bは、例えば、給電ハーネス2に作用する張力が変化することで弾性変形するスポンジなどの多孔質の樹脂材や弾性部材で構成されていてもよい。
また、第二巻掛部70Bは、車幅方向Wから視て螺旋状に巻かれた巻きバネで構成されており、給電ハーネス2の張力により、全体が縮径又は拡径する構成であってもよい。
【0158】
さらにまた、緊張状態及び緩和状態において、給電ハーネス2が巻き掛けられている部分である被巻掛部分Xは、溝部73としているが、緊張状態と緩和状態とで、必ずしも同一箇所とは限らず、異なる箇所となってもよい。例えば、ベースプレート40に対するリンクケース50の枢動に合わせて第二巻掛部70が枢動中心を回転中心として回転する構成が考えられる。
【0159】
一例として、緊張状態において、板バネ731が上方側Huかつ後方側Lbに配置されており、緊張状態から緩和状態に状態変化するに伴い、枢動点P1を回転中心として第二巻掛部70が90度回転し、
図7(b)に示すように、板バネ731が下方側Hdかつ後方側Lbに配置される構成がある。これにより、スライドドア給電装置1と同様の効果を奏することができる。
【0160】
また、他の例として、ベースプレート40に対するリンクケース50の枢動に合わせて回転する略卵形状の第二巻掛部70Cにより、スライドドア給電装置1と同様の効果を奏することもできる。以下、ベースプレート40に対するリンクケース50の枢動に合わせて回転する第二巻掛部70Cを、第二巻掛部70の代わりに設けた巻掛機構5Cについて、
図12に基づき簡単に説明する。
【0161】
ここで
図12(a)は緊張状態における第二巻掛部70Cの概略拡大正面図を示し、
図12(b)は緩和状態における第二巻掛部70Cの概略拡大正面図を示す。なお、巻掛機構5Cにおいて、巻掛機構5と同じ構成については、同じ付番を付し、その説明を省略する。
【0162】
巻掛機構5Cは、緊張状態から緩和状態に状態変化するに伴い、給電ハーネス2が巻き回された被巻掛部分Xと巻掛機構5の枢動中心である枢動点P1との距離Dを調整することができる。この巻掛機構5Cは、巻掛機構5を構成する第二巻掛部70を、第二巻掛部70Cとすることを除き、略同じ構成である。
【0163】
第二巻掛部70の代わりの第二巻掛部70Cは、第二巻掛部70と異なり、ベースプレート40に対するリンクケース50の枢動に合わせて、枢動点P1を回転中心として回転できるように、リンクケース50に組み付けられている。
【0164】
この第二巻掛部70Cは、正面視において、半円と半楕円とを組み合わせた略卵形状をしている。詳述すると、緊張状態において、第二巻掛部70Cは、下方側Hdが第一巻掛部60の外径と同じ外径を有する半円部741と、上方側Huが第一巻掛部60の外径と同じ長さの軌道短半径dsを有するとともに、第一巻掛部60の外径よりも長い軌道長半径dlを有する半楕円形部742とで構成されている(
図12(a)参照)。
【0165】
このように構成された第二巻掛部70Cを有する巻掛機構5Cは、
図12(a)に示すように、緊張状態において、第二巻掛部70Cの後方側Lbに給電ハーネス2が巻き回されている。なお、緊張状態において、緊張巻掛部分Xaと枢動点P1との距離Dは軌道短半径dsと同じである。
【0166】
一方で、スライドドア200を開ける方向(後方側Lb)にスライドさせると、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置が近接して給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少する。このため、コイルスプリング80の付勢力によって巻掛機構5Cが反時計回り(枢動方向R)へ枢動する。
【0167】
この巻掛機構5Cの枢動に伴い、第二巻掛部70Cが枢動点P1を回転中心として90度回転する。このような緩和状態において、緩和巻掛部分Xbと枢動点P1との距離Dは軌道長半径dlと同じとなる(
図12(b)参照)。
【0168】
このように、巻掛機構5Cが設けられたスライドドア給電装置1は、緊張状態から緩和状態に状態変化することにより、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dが長くなるように調整することができる。すなわち、略卵形状をした第二巻掛部70Cを構成する半楕円形部742は、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整する距離調整部として機能し、第一巻掛部60及び第二巻掛部70Cに巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さを長くなるように調整できる。したがって、緩和状態での給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0169】
また、第二巻掛部70Cは、リンクケース50の枢動中心を回転中心として、リンクケース50の枢動に伴い回転し、枢動点P1は、第二巻掛部70Cの回転中心でもあり、半楕円形部742は、第二巻掛部70Cに設けられるとともに、第二巻掛部70Cの回転に伴って被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを調整している。
【0170】
これにより、スライドドア200のスライド移動に伴ってリンクケース50を枢動させるだけで、第二巻掛部70Cを回転させ、給電ハーネス2に作用する張力の状態に合わせて被巻掛部分Xを適切な位置に調整できる。したがって、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを容易に調整できる。
【0171】
また、緊張状態における被巻掛部分Xを緊張巻掛部分Xaとし、緩和状態における被巻掛部分Xを緩和巻掛部分Xbとし、第二巻掛部70Cは、緊張巻掛部分Xaと枢動点P1との距離Dと、緩和巻掛部分Xbと枢動点P1との距離Dとが異なる長さで構成されている。これにより、スライドドア200のスライド移動に伴ってリンクケース50を枢動させるだけで第二巻掛部70を回転させることで、給電ハーネス2が巻き掛けられる箇所を緊張巻掛部分Xaあるいは緩和巻掛部分Xbに容易かつ確実に変更することができる。したがって、枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを容易かつ確実に調整でき、スライドドア200のスライド移動に伴って容易に給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0172】
また、上述の実施形態において、リンクケース50の枢動中心と第二巻掛部70の中心(重心C)と一致しているが、必ずしもこれらが一致する必要はない。すなわち、リンクケース50の枢動中心が、第二巻掛部70の枢動基端側や、第二巻掛部70と第一巻掛部60との間に設けられていてもよい。
【0173】
例えば、
図13に示すように、比較的に大きな引張荷重が給電ハーネス2に作用している緊張状態において、第二巻掛部70Dの重心Cがリンクケース50の枢動中心の上方側Huに配置されていてもよい。
以下、
図13に基づいて、緊張状態において第二巻掛部70Dの重心Cがリンクケース50の枢動中心(枢動点P1)の上方側Huに配置された巻掛機構5Dについて簡単に説明する。
【0174】
ここで、
図13(a)は緊張状態における第二巻掛部70Dの概略拡大正面図を示し、
図13(b)は緩和状態における第二巻掛部70Dの概略拡大正面図を示す。なお、巻掛機構5Dにおいて、巻掛機構5と同じ構成については、同じ付番を付し、その説明を省略する。
【0175】
巻掛機構5Dは、巻掛機構5を構成する第二巻掛部70を、第二巻掛部70Dとすることを除き、略同じ構成である。
第二巻掛部70Dは第二巻掛部70Cと同じ外形で構成されている。すなわち、第二巻掛部70Dは、下方側Hdが第一巻掛部60の外径と同じ外径を有する半円部751と、上方側Huが第一巻掛部60の外径と同じ長さの軌道短半径dsを有するとともに、第一巻掛部60の外径よりも長い軌道長半径dlを有する半楕円形部752とで構成された、略卵形状をしている(
図13(a)参照)。
【0176】
また第二巻掛部70Dは、半円部751の略中央部分に第二係止軸542を挿通可能な挿通孔71が設けられている。また、半円部751の裏面側に、ベースプレート40に対するリンクケース50の枢動に伴って第二巻掛部70Dを回転させるように第二取付部53と嵌合する凹部72が設けられている。
【0177】
このように構成された第二巻掛部70Dを有する巻掛機構5Dは、
図13(a)に示すように、緊張状態において、第二巻掛部70Dの後方側Lbに給電ハーネス2が巻き回されている。このような緊張状態における、緊張巻掛部分Xaと枢動点P1と距離Dを第四緊張距離D7とする。
【0178】
一方で、スライドドア200を開ける方向(後方側Lb)にスライドさせると、車体側保持部3とスライドドア側保持部4の相対位置が近接して給電ハーネス2に作用する引張荷重が減少する。このため、コイルスプリング80の付勢力によって巻掛機構5Dが反時計回り(枢動方向R)へ枢動する。
【0179】
この巻掛機構5Dの枢動に伴い、第二巻掛部70Dは、重心Cが枢動点P1を中心とした円軌道T上を移動しながら、枢動点P1を回転中心として回転することとなる。このような緊張状態における、緩和巻掛部分Xbと枢動点P1と距離Dを第四緩和距離D8とした場合に、第四緩和距離D8は、第四緊張距離D7よりも長くなる(
図13(b)参照)。より詳しくは、D8は軌道長半径dlよりも長くなる。
【0180】
このように、巻掛機構5Dが設けられたスライドドア給電装置1では、緊張状態から緩和状態に状態変化することにより、リンクケース50の枢動中心である枢動点P1と異なる位置に重心Cを有する第二巻掛部70Dは、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dが長くなるように調整することができる。すなわち、略卵形状をした第二巻掛部70Dを構成する半楕円形部752は、基準点である枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを調整する距離調整部として機能するとともに、枢動点P1と異なる位置に重心Cがくるように配置された第二巻掛部70Dは巻掛移動部6として機能し、第一巻掛部60及び第二巻掛部70Dに巻き掛けられた給電ハーネス2の巻き掛け部分の長さが長くなるように調整できる。したがって、緩和状態での給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
【0181】
このように、リンクケース50の枢動中心を基点である枢動点P1とし、第二巻掛部70Dは、リンクケース50における枢動基端側に設けられ、第二巻掛部70Dは、重心Cが枢動点P1と異なる位置に設けられている。これにより、第一巻掛部60のみならず第二巻掛部70Dもリンクケース50に設けられるため、巻掛機構5のコンパクト化を図ることができる。また、リンクケース50に対して第一巻掛部60と第二巻掛部70Dを取り付けた後に、これらを一体として被取付箇所に取り付ければよいため、組立性を向上することができる。
【0182】
加えて、第二巻掛部70Dの重心Cを、枢動点P1を回転中心とした円軌道T上で相対移動させることとなる。すなわち、状態変化に伴って、枢動点P1に対する第二巻掛部70Dの位置を変更させることができ、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを、状態に応じて調整できる。これにより、例えば、緩和状態において、被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを離間させることができ、緩和状態における給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
なお、第二巻掛部70Dは必ずしも略卵型である必要はなく、正面視円形状であっても、枢動点P1と第二巻掛部70Dの重心Cをずらすことで、同様の効果を奏することができる。
【0183】
また、本実施形態において、巻掛移動部6は、第二巻掛部70(枢動点P1)に対して近接する、あるいは、離間するように、第一巻掛部60を移動させているが、この実施形態に限定する必要はなく、例えば、緊張状態において、第一巻掛部60を後方側Lbに向けて移動させてもよい(
図14(a)参照)。また、緩和状態において、第一巻掛部60を上方側Huに向けて移動させてもよい(
図14(b)参照)。
【0184】
さらにまた、本実施形態において、当接部443は、ベース本体41との間にリンクケース50のみが挿通可能に構成された延出部442の先端に設けられているが、例えば、
図15及び
図16に示すように、ベース本体41に対して巻掛機構5が枢動可能に構成された場合において、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に巻き掛けられた給電ハーネス2にベース本体41に備えた凸部45が当接する構成としてもよい。
【0185】
以下、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に巻き掛けられた給電ハーネス2に凸部45が当接する構成を備えたスライドドア側保持部4Eについて、
図15及び
図16に基づき簡単に説明する。
ここで
図15(a)はベースプレート40Eを右方側Wrから視た概略正面図を示し、
図15(b)はベースプレート40Eを前方側Lfから視た概略側面図を示し、
図15(c)はリンクケース50Eを右方側Wrから視た概略正面図を示す。なお、スライドドア側保持部4Eにおいて、スライドドア側保持部4と同じ構成については、同じ付番を付して、その説明を省略する。
【0186】
スライドドア側保持部4Eは、スライドドア側保持部4と同様に、ベースプレート40Eと巻掛機構5Eとで構成されている。巻掛機構5Eは、リンクケース50Eと、第一巻掛部60と、第二巻掛部70と、コイルスプリング80とで構成されている。
ベースプレート40Eは、
図15(a)及び
図15(b)に示すように、正面視略矩形状のベース本体41とで構成され、センターシャフト42と、ストッパシャフト43と、凸部45とがベース本体41に備えられている。
【0187】
凸部45は、ベース本体41の略中央部分、より詳しくは、正面視において、センターシャフト42の中心から前方側Lfかつ下方側Hdに所定長さを隔てた位置において、ベース本体41から右方側Wrに向けて突出する円柱体である。すなわち、凸部45は、ベースプレート40Eに対して枢動するリンクケース50Eの枢動軸に沿って、ベース本体41に立設されている。
【0188】
リンクケース50Eは、メインプレート51と、第一取付部52と、第二取付部53と、カバープレート54とで構成され、メインプレート51には、ベースプレート40Eに対するリンクケース50Eの枢動に合わせて凸部45を通過させる被通過部55が設けられている。
【0189】
詳述すると、被通過部55は、
図15(c)に示すように、第一取付部52と第二取付部53との間において、メインプレート51を板厚方向に貫通させた円弧状の貫通孔であり、正面視において円弧状に形成された弧状孔551と、弧状孔551の一端部分に設けられた案内部552とで構成されている。
【0190】
弧状孔551は、正面視において、貫通部531の中心を中心とするとともに、センターシャフト42の中心から凸部45までの長さを半径とした円弧形状にメインプレート51を貫通させて形成されている。この弧状孔551の幅は、凸部45の外形と略同じ長さで構成されている。また、弧状孔551の一端は、メインプレート51の枢動方向Rの端面まで延出している。なお、弧状孔551の円周角は、70度となっている。
弧状孔551の一端部分に設けられた案内部552は、先端側に向かうに伴って徐々に拡幅するように形成されている。
【0191】
このように構成された被通過部55は、緊張状態から緩和状態へと状態が変化するに伴って、ベースプレート40Eに対してリンクケース50Eが枢動することにより、弧状孔551に沿って凸部45をメインプレート51における所定箇所に案内することができる。
【0192】
詳しくは、
図16(a)に示すように、給電ハーネス2に比較的に大きな引張荷重が作用する緊張状態において、コイルスプリング80の付勢力に抗して、リンクケース50Eがベース本体41に対して時計回りへ枢動した状態で保たれる。
【0193】
これに対し、
図16(b)に示すように、スライドドア200をスライド移動させることで、給電ハーネス2に弛みが生じることとなる。このため、コイルスプリング80の付勢力によってリンクケース50Eがベース本体41に対して反時計回り(枢動方向R)へ枢動する。この際、リンクケース50Eの枢動に伴って、ベース本体41に設けられた凸部45が、案内部552に案内されるとともに、弧状孔551を通過することとなる。これにより、緩和状態において、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に凸部45が配置されることとなる。
【0194】
このように、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に配置された凸部45は、リンクケース50Eの枢動動作により、第一巻掛部60と第二巻掛部70との間に掛け渡された給電ハーネス2の上方側Hu(枢動方向R)に当接する。これにより、給電ハーネス2が下方側Hdに押し下げられ、凸部45がなければ第一巻掛部60と第二巻掛部70の間を直線状に配索されるはずの給電ハーネス2を下方側Hdに迂回させることができる。したがって、スライドドア側保持部4Eを有するスライドドア給電装置1では、給電ハーネス2をコネクタ203の側に引き寄せることができ、第二巻掛部70よりも車体側における給電ハーネス2の弛みを減少させることができる。
【0195】
このように、緊張状態から緩和状態への移行に伴って、リンクケース50Eが枢動する方向を枢動方向Rとし、凸部45は、緩和状態において、給電ハーネス2における枢動方向Rの側と当接する。これにより、リンクケース50Eを枢動させるだけで、凸部45を給電ハーネス2の掛渡部分に容易に当接させることができる。すなわち、リンクケース50Eを枢動させる構造だけで、給電ハーネス2に作用する張力が緩和されることで生じる給電ハーネス2の弛みを抑制できる。
また、緩和状態から緊張状態に状態変化することにより、リンクケース50Eが逆方向に枢動するため、凸部45と掛渡部分との当接を容易に解除できる。
【0196】
また、凸部45は、リンクケース50Eの枢動軸に沿ってベース本体41に立設され、リンクケース50Eには、スライド移動に伴う枢動において、凸部45との接触を回避する弧状孔551が設けられている。これにより、リンクケース50Eの枢動に伴って、当接部443がリンクケース50Eと接触することを防止しつつ、容易に当接部443を給電ハーネス2の掛渡部分に当接させることができる。
【0197】
本願発明の構成と前述の実施形態との対応において、スライドドア給電装置はスライドドア給電装置1に対応し、
以下同様に、
車体は、車体100に対応し、
スライドドアは、スライドドア200に対応し、
ワイヤーハーネスは、給電ハーネス2に対応し、
車体側保持部は、車体側保持部3に対応し、
スライドドア側保持部は、スライドドア側保持部4,4Eに対応し、
巻掛部は、第一巻掛部60及び第二巻掛部70に対応し、
巻掛機構は、巻掛機構5,5A,5B,5C,5D,5Eに対応し、
基準点及び基点は、枢動点P1に対応し、
被巻掛部分は、被巻掛部分Xに対応し、
距離調整部は、板バネ731,第二巻掛部70B,半楕円形部742,半楕円形部752に対応し、
枢動部は、リンクケース50,50Eに対応し、
第一巻掛部は、第一巻掛部60に対応し、
第二巻掛部は、第二巻掛部70,70A,70B,70C,70Dに対応し、
緊張巻掛部分は、緊張巻掛部分Xaに対応し、
緩和巻掛部分は、緩和巻掛部分Xbに対応し、
形状変形部は、第二巻掛部70Bに対応し、
経路迂回部は、当接部443及び凸部45に対応し、
枢動方向は、枢動方向Rに対応し、
支持部本体は、ベース本体41に対応し、
対向部は、延出部442に対応し、
回避部は、弧状孔551に対応し、
巻掛移動部は、巻掛移動部6に対応し、
弾性変形部は、軸バネ522に対応するも、
この発明は、前述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
【0198】
例えば、本実施形態において、板バネ731は、第二巻掛部70に設けられているが、第一巻掛部60に設けてもよいし、第一巻掛部60及び第二巻掛部70の双方に設けてもよい。同様に、巻掛移動部6は、枢動点P1に対して第一巻掛部60を相対移動可能に設けられているが、長円孔61及び第一取付部52を第二巻掛部70及びセンターシャフト42に設けることで、第二巻掛部70を第一巻掛部60の中心に対して相対移動できるように構成してもよい。
【0199】
また、本実施形態において、被巻掛部分Xとの距離Dを調整するための基準点である枢動点P1は、巻掛機構5の枢動中心である第二巻掛部70の中心としているが、これに限らず、例えば第一巻掛部60の中心や、巻掛機構5における所定の点としてもよい。
【0200】
なお、本実施形態において、距離調整部に対応する板バネ731や半楕円形部742,半楕円形部752などは、給電ハーネス2の張力の変化に伴い、連続的に枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを変化させているが、例えば不連続で被巻掛部分Xと枢動点P1との距離Dを変化させて調整する構成としてもよい。
【0201】
さらにまた本実施形態において、第二巻掛部70はリンクケース50に設けられているが、必ずしも第二巻掛部70がリンクケース50に設けられている必要はなく、第二巻掛部70がベース本体41に固定されており、リンクケース50とは別体で構成されていてもよい。
【0202】
また、本実施形態において、巻掛機構5は、給電ハーネス2の一部を巻き掛ける第一巻掛部60と第二巻掛部70とがリンクケース50に組み付けられているが、給電ハーネス2の一部を巻き掛ける構成は必ずしも2つある必要はない。
【0203】
例えば、スライドドア側保持部4は、
図17に示すように、スライドドア200に固定されるベースプレート40に対して第二巻掛部70が組み付けられた構成であってもよい。この場合、第二巻掛部70の溝部73は、緊張状態及び緩和状態において、給電ハーネス2が巻き掛けられる箇所に配置されている。
【0204】
詳しくは、第二巻掛部70における上方側Huかつ前方側Lfの外周面に溝部73が設けられている(
図17(a)参照)。このため、全閉状態のスライドドア200を後方側Lbにスライド移動させ、車体側保持部3とスライドドア側保持部4とが近接することで、給電ハーネス2に作用する張力が緩和し、板バネ731が給電ハーネス2を上方側Huに押し上げることができ、第二巻掛部70に巻き掛けられている給電ハーネス2の巻き掛け長さを長くすることができる(
図17(b)参照)。
【0205】
また、巻掛機構5はスライドドア側保持部4に設けられているが、車体側保持部3に設けられていてもよく、車体側保持部3及びスライドドア側保持部4の双方に設けられていてもよい。
さらにまた、本実施形態において、板バネ731は、給電ハーネス2に作用する張力に応じて、枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを調整しているが、給電ハーネス2に作用する張力に関係なく第一巻掛部60や第二巻掛部70が所定の位置や角度で配置される場合に、枢動点P1と被巻掛部分Xとの距離Dを調整してもよい。
【0206】
上述に記載の構成は、給電ハーネス2の弛みを抑制するといった本願発明の効果を奏するのであれば、第二巻掛部70Bをスライドドア側保持部4Eに組み合わせるなど、その組み合わせを適宜変更することができる。この組み合わせを適宜変更するとは、溝部73を第一巻掛部60に設けるとともに、巻掛移動部6を第二巻掛部70に設ける場合など、各構成を第一巻掛部60と第二巻掛部70との間で変更する、あるいは、各構成を第一巻掛部60又は第二巻掛部70に集める場合を含む。
【符号の説明】
【0207】
1…スライドドア給電装置
2…給電ハーネス
3…車体側保持部
4,4E…スライドドア側保持部
5,5A,5B,5C,5D,5E…巻掛機構
6…巻掛移動部
41…ベース本体
45…凸部
46…スライドドア側保持部
50,50A,50B,50C,50D…リンクケース
60…第一巻掛部
70,70A,70B,70C,70D…第二巻掛部
100…車体
200…スライドドア
442…延出部
443…当接部
522…軸バネ
55…被通過部
731…板バネ
742,752…半楕円形部
R…枢動方向
X…被巻掛部分
P1…枢動点
Xa…緊張巻掛部分
Xb…緩和巻掛部分