(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082981
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ダイヤモンド成長方法及びダイヤモンド成長装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/27 20060101AFI20240613BHJP
C23C 16/511 20060101ALI20240613BHJP
C30B 29/04 20060101ALI20240613BHJP
C01B 32/25 20170101ALI20240613BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C23C16/27
C23C16/511
C30B29/04 E
C30B29/04 G
C01B32/25
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197231
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 温
(72)【発明者】
【氏名】松原 寿樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BA03
4G077DB19
4G077DB21
4G077EA02
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4K030AA10
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4K030KA30
5F045AA09
5F045AB07
5F045AC07
5F045AD12
5F045AE23
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5F045BB16
5F045DP03
5F045DQ10
5F045EH03
5F045EH20
5F045EK07
(57)【要約】
【課題】
高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能なダイヤモンドの成長方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
マイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる成長工程を含むダイヤモンド成長方法であって、前記成長工程において、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで、前記基板の温度を制御することを特徴とするダイヤモンド成長方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる成長工程を含むダイヤモンド成長方法であって、
前記成長工程において、
ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで、前記基板の温度を制御することを特徴とするダイヤモンド成長方法。
【請求項2】
前記成長工程において、
前記基板内の位置に応じて個別に該位置における前記基板の温度を制御することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド成長方法。
【請求項3】
前記成長工程後に、
前記基板上に成長したダイヤモンド上に、さらにホットフィラメントCVD装置を用いてダイヤモンドを成長させる追加成長工程を行うことを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド成長方法。
【請求項4】
前記基板としてシリコン単結晶基板を用いることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のダイヤモンド成長方法。
【請求項5】
基板が収納され、ダイヤモンドの原料ガスが導入される反応容器と、前記反応容器に接続されマイクロ波を前記反応容器に導入する導波管を備え、前記導波管から導入されたマイクロ波により前記反応容器内でプラズマを生成させ、生成したプラズマで原料ガスが分解・活性化してCVDで前記基板上にダイヤモンドが成長するダイヤモンド成長装置であって、
ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにするモード設定機構と、
高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで前記基板の温度を制御する加熱制御機構と、
を備えることを特徴とするダイヤモンド成長装置。
【請求項6】
前記加熱制御機構は、
前記基板内の位置に応じて個別に該位置における前記基板の温度を制御可能な機構であることを特徴とする請求項5に記載のダイヤモンド成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド成長方法及びダイヤモンド成長装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは高硬度や良好な熱伝導性、高いキャリア移動度、ワイドバンドギャップであることなどの優れた物性値から、各種半導体素子・電子デバイスへの応用が期待されている。この半導体素子・電子デバイス用途としては、人工的に合成されたダイヤモンドが使われている。ダイヤモンド合成には、超高圧を用いて成長させる方法と、気相成長の2つがあり、半導体への応用では、気相成長(CVD成長)が、大口径を得られることから、注目されている(特許文献1~3)。
【0003】
CVD成長は、反応管の内部に基板を搭載し、常圧ないしは減圧下で原料ガス及びキャリアガスを流して、熱分解やプラズマによって原料ガスを分解・活性化して、基板上に成長する方法である。
CVDでダイヤモンドを成長させる場合、マイクロ波プラズマや、DCプラズマ、タングステンのようなフィラメントを用いるホットフィラメント法が採用されるが、単結晶成長においてはマイクロ波プラズマ方式が注目されている。このマイクロ波プラズマを利用したダイヤモンドの成長はマイクロ波にて反応化学種を活性化し、合成をおこなう手法であるが、マイクロ波は波長が短く、また、反応容器内で共振させる必要があることから、様々な工夫が行われている。また、大口径には915MHzが好適である(特許文献4)が、民生での通信信号帯がこの波長であり、また電波の到達距離が長いことから915MHzのマイクロ波プラズマCVDの工業的な応用にはハードルがあり、主に2.45GHz帯が使用されている。
【0004】
これらを背景にして、例えば特許文献5には、ミラーを用いてマイクロ波を共振させる方法(ただし得られるダイヤモンドは多結晶)や、マイクロ波導入管の組み合わせによるモードの改善が開示されている。また、特許文献6には、アプリケータ(共振器)の形状を矩形から円筒形にすることで、比較的大面積に成膜できることが記載されている。また、マイクロ波を低次モード(低次モードとは、TMnmモード、TEnmモード等において、n又はmが0か1の場合)にすることで 面内に均一な成膜が可能であるとされている。また、高次モードの例としては、TM20に言及されており、比較的大きな基板を加工できると記載されているが、このような高次モードでは局所的にマイクロ波が強くなりプラズマが強い箇所ができてしまい、基板の温度ムラが生じることで品質が劣化することが指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-354491号公報
【特許文献2】特開2004-176132号公報
【特許文献3】特開2006-143561号公報
【特許文献4】特開2016-113303号公報
【特許文献5】特表2006-501122号公報
【特許文献6】特開平07-142195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ダイヤモンド基板は放熱特性などの点から注目されており、単結晶基板に対応した成長方法はマイクロ波プラズマ成長であるが、大口径化が可能とされる高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDでは基板の温度ムラで品質が劣化する問題がある。そのため、大口径化が難しい低次モードのプラズマを使用するしかなく、プラズマを照射できる面積の制約から直径300mmのような大口径化が不可能であった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能なダイヤモンドの成長方法及びダイヤモンドの成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するための半導体基板上への人工的なダイヤモンド成長に関しての技術であり、より詳しくは、シリコン基板上へCVD(化学気相成長法)による単結晶ダイヤモンドを成長させる際の、ダイヤモンド成長方法とダイヤモンド成長装置に関するものである。
すなわち、本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、マイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる成長工程を含むダイヤモンド成長方法であって、前記成長工程において、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで、前記基板の温度を制御することを特徴とするダイヤモンド成長方法を提供する。
この構成では、課題であるマイクロ波プラズマCVDによる大口径基板へのダイヤモンド成長に対応できる成長方法として、基板上にダイヤモンドを成長させる際に、マイクロ波プラズマとして、積極的に高次モードを採用することでプラズマを照射できる面積を増やして大口径化を可能とし、さらにプラズマの局所的な集中を緩和(1か所のプラズマ密度を低下)させる、また基板を加熱して温度ムラを吸収することで高品質なダイヤモンドを成長可能とする。
さらに、この構成では、プラズマ密度の高い箇所で縦方向(バーティカル)にダイヤモンドを成長させ、プラズマ密度の低い位置での成長は横方向(ラテラル)の成長が進行することで、欠陥の減少にも寄与することができる。
よって、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能である。
【0009】
前記成長工程において、前記基板内の位置に応じて個別に該位置における前記基板の温度を制御してもよい。
このように基板内の位置に応じて個別に温度を制御するため、基板内で温度が低い部分は、その部分の加熱温度を上昇させたり、基板内で温度が高い部分は加熱温度を下げたりすることで、より温度ムラを吸収して基板内の温度を均一にできる。そのため、基板の温度をより精密に制御でき、より高品質なダイヤモンドを成長させられる。
【0010】
前記成長工程後に、前記基板上に成長したダイヤモンド上に、さらにホットフィラメントCVD装置を用いてダイヤモンドを成長させる追加成長工程を行ってもよい。
これによりマイクロ波プラズマCVDで基板上に成長させたダイヤモンド上に、大口径成長が可能なホットフィラメントCVD装置を使用して、さらにダイヤモンドの成長を行うことで、さらに厚いダイヤモンドを大口径基板に成長させることが可能になる。
【0011】
なお、前記基板としてシリコン単結晶基板を用いてもよい。
この構成では、基板としてシリコン単結晶を用いるので、安価な基板上にダイヤモンドを成長させられる。
【0012】
また本発明は、基板が収納され、ダイヤモンドの原料ガスが導入される反応容器と、前記反応容器に接続されマイクロ波を前記反応容器に導入する導波管を備え、前記導波管から導入されたマイクロ波により前記反応容器内でプラズマを生成させ、生成したプラズマで原料ガスが分解・活性化してCVDで前記基板上にダイヤモンドが成長するダイヤモンド成長装置であって、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにするモード設定機構と、高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで前記基板の温度を制御する加熱制御機構と、を備えることを特徴とするダイヤモンド成長装置を提供する。
この装置ではマイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる際に、モード設定機構でマイクロ波を高次モードに設定することでプラズマを照射できる面積を増やして大口径化を可能なものとし、さらにプラズマの局所的な集中を緩和(1か所のプラズマ密度を低下)させる。また、加熱制御機構でステージを加熱して温度ムラを吸収することで高品質なダイヤモンドを成長可能なものとなる。
さらに、この装置では、プラズマ密度の高い箇所で縦方向(バーティカル)にダイヤモンドを成長させ、プラズマ密度の低い位置での成長は横方向(ラテラル)の成長が進行することで、欠陥の減少にも寄与することができるものとなる。
よって、本発明は高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能なものとなる。
【0013】
前記加熱制御機構は、前記基板内の位置に応じて個別に該位置における前記基板の温度を制御可能な機構であってもよい。
このように、加熱制御機構が基板内の位置に応じて個別に温度を制御するため、基板内で温度が低い部分は、その部分の加熱温度を上昇させたり、基板内で温度が高い部分は加熱温度を下げたりすることで、より温度ムラを吸収して基板内の温度を均一にできる。そのため、基板の温度をより精密に制御でき、より高品質なダイヤモンドを成長させられる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明のダイヤモンドの成長方法によれば、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能となる。また、本発明のダイヤモンドの成長装置によれば、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能なものとなる。
より具体的には、本発明の構成により、大口径の単結晶ダイヤモンドの成長が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のダイヤモンド成長方法で基板上にダイヤモンドを成長させることで製造されたダイヤモンド基板の概念図を示す。
【
図2】本発明のダイヤモンド成長装置の概念図を示す。
【
図3】本発明のダイヤモンド成長装置及び成長方法を用いてダイヤモンドを成長させる際の、マイクロ波のモードと、マイクロ波の長さの関係を示す。
【
図4】本発明のダイヤモンド成長方法のフロー図を示す。
【
図5】ホットフィラメントCVD装置の概念図を示す。
【
図6】シリコン基板上に本発明のダイヤモンド成長方法を用いてマイクロ波プラズマCVDによって成長させたダイヤモンド膜を示す図であって、(a)はラマンスペクトルを示し、(b)はダイヤモンド膜の表面を光学顕微鏡で観察して得た画像を示す。
【
図7】シリコン基板上に本発明のダイヤモンド成長方法を用いてマイクロ波プラズマCVDによってダイヤモンドを成長させ、さらに追加でホットフィラメントCVDでダイヤモンドを成長させた場合のダイヤモンド膜を示す図であって、(a)はラマンスペクトルを示し、(b)はダイヤモンド膜の表面を光学顕微鏡で観察して得た画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述のように、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能なダイヤモンド成長方法およびダイヤモンド成長装置が求められていた。
【0017】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、マイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる成長工程を含むダイヤモンド成長方法であって、前記成長工程において、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで、前記基板の温度を制御することを特徴とするダイヤモンド成長方法により、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能であることを見出し、本発明を完成した。
また、本発明者らは上記課題について鋭意検討を重ねた結果、基板が収納され、ダイヤモンドの原料ガスが導入される反応容器と、前記反応容器に接続されマイクロ波を前記反応容器に導入する導波管を備え、前記導波管から導入されたマイクロ波により前記反応容器内でプラズマを生成させ、生成したプラズマで原料ガスが分解・活性化してCVDで前記基板上にダイヤモンドが成長するダイヤモンド成長装置であって、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにするモード設定機構と、高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで前記基板の温度を制御する加熱制御機構と、を備えることを特徴とするダイヤモンド成長装置により、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能なものとなることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、
図1を参照して本発明のダイヤモンド成長方法で製造されるダイヤモンド基板100の構成について説明する。
図1に示すようにダイヤモンド基板100は基板2とダイヤモンド膜13を備える。
基板2はダイヤモンド膜13を成長させる際の土台となる部材である。具体的な基板2の材料としてはダイヤモンド膜13を表面に成長させることができ、成長時の温度や雰囲気で意図しない変質が生じない材料であればよいが、例えばシリコン単結晶が挙げられる。
基板2の形状は一般にはウェハーと呼ばれる円板状であり、直径(口径ともいう)は成長させたいダイヤモンド膜13の直径以上である。基板2の厚さはダイヤモンド膜13の成長中に反りや割れが生じない程度の厚さである。
ダイヤモンド膜13は基板2上に形成されたダイヤモンドの膜である。具体的な膜の構造としては多結晶ダイヤモンドでもよいが、単結晶ダイヤモンドであると、半導体デバイスを形成するのに好適である。ダイヤモンド膜13の寸法は、直径が基板2の直径以下である。ダイヤモンド膜13の厚さの下限はデバイスを形成する際のエッチングや研磨で消失しない厚さであり、厚さの上限はデバイスを形成した際に例えばデバイスを形成する際に利用されない無駄な部分が出てこない厚さであることが好ましい。
【0019】
次に、
図2を参照して本発明のダイヤモンド成長装置11の概略構成を説明する。
図2に示すダイヤモンド成長装置11は、マイクロ波により反応容器1内でプラズマを生成させ、生成したプラズマで原料ガスを分解・活性化させてCVDで基板2上にダイヤモンドを成長させるマイクロ波プラズマCVD装置である。
【0020】
具体的には
図2に示すようにダイヤモンド成長装置11は反応容器1、原料ガス導入管6、マイクロ波導入管4、マイクロ波発生装置5、及び基板加熱ステージ3を備える。
反応容器1はダイヤモンドの成長が行われる容器であり、基板2が収納され、ダイヤモンドの原料ガスが導入される。反応容器1は基板2を収納できる寸法・形状で、ダイヤモンド成長の際の温度や圧力に耐えられるものであれば、具体的な構造や材料は適宜選択できる。
原料ガス導入管6はダイヤモンドの原料となる元素を含む化合物である原料ガスや、容器の中で原料ガスを均一に拡散させるために原料ガスに混合されるキャリアガスを反応容器1に導入するガス管であり、一端が反応容器1に接続され、他端が原料ガスやキャリアガスが封入された図示しないガスボンベ等に接続される。
【0021】
マイクロ波導入管4はマイクロ波を反応容器1に導入する導波管であり、反応容器1に接続される。マイクロ波導入管4の具体的な寸法・形状は所望のモードのマイクロ波を反応容器1に導入できる構造であれば適宜選択できる。
マイクロ波発生装置5はマイクロ波を発生させる装置であり、マグネトロンを例示できる。
なお、マイクロ波導入管4とマイクロ波発生装置5は、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにするモード設定機構としての機能を備える。マイクロ波のモードは例えばマイクロ波導入管4の寸法・形状で調整できる。
【0022】
ここで本発明で高次モードのマイクロ波を用いる理由について説明する。
マイクロ波のモードとは、反応容器1内で共振しているマイクロ波の長さを示すものである。例えば
図3で「TM10モード」と記載されているマイクロ波は長さが1/2波長である。このように1/2波長でマイクロ波が共振している状態を「低次モード」と称す。低次モードではマイクロ波の周波数がCVDに一般的な2.45GHzの場合、マイクロ波の長さL1は12cm程度になり、ダイヤモンドを成膜できる範囲がおよそ1/2波長分の長さに該当する。ただし、
図3の波形でプラズマを生成させた場合、プラズマ強度が波の腹の部分と節の部分で大きな分布差が生じるため、実際にダイヤモンドの成長に使えるのは波の一部で、最大でも1/2程度(6cm)、実際は1/4くらいになる。そのため、低次モードで成長させられるダイヤモンドの口径は最大でも2インチ(5.05cm)程度になる。
【0023】
一方で、
図3で「TM20モード」と記載されているマイクロ波は長さが1波長であり、「TM40モード」と記載されているマイクロ波は長さが2波長である。このように長さが1波長以上でマイクロ波が共振している状態を「高次モード」と称す。高次モードでは低次モードよりもマイクロ波の長さが長くなるため、生成されるプラズマの面積が大きくなり、成長させられるダイヤモンドの口径が大きくなる。例えば「TM20モード」ではマイクロ波の周波数が2.45GHzの場合、マイクロ波の長さL2は24cm程度になり、実際にダイヤモンドの成長に使える部分の長さは12cm程度であるため、成長させられるダイヤモンドの口径は最大で4インチ(10.2cm)になる。また「TM40モード」ではマイクロ波の周波数が2.45GHzの場合、マイクロ波の長さL3は48cm程度になり、実際にダイヤモンドの成長に使える部分の長さは24cm程度であるため、成長させられるダイヤモンドの口径は最大で8インチ(20.3cm)になる。
【0024】
このように高次モードのマイクロ波を用いることで、大口径のダイヤモンドを成長させられる。これが本発明で高次モードのマイクロ波を用いる理由である。
なお、高次モードのマイクロ波を用いる場合、低次モードの場合よりもダイヤモンドの成長レートは小さくなるが、マイクロ波のピークのエネルギーが相対的に小さくなるため、プラズマの分布は低次モードに比べて均一になる。
また、プラズマ密度の高い箇所では縦方向(バーティカル)にダイヤモンドが成長し、プラズマ密度の低い位置では横方向(ラテラル)の成長が進行するため、ダイヤモンド内での欠陥の減少に寄与することができるものとなる。
なお、マイクロ波には電界が入射面に垂直な成分のみを持つ平面波であるTE波(直交偏波)と、磁界が入射面に垂直な成分のみを持つTM波(平行偏波)がある。
図3ではTM波を例示しているが、TE波を用いても同様に成長させられるダイヤモンドの口径を大きくできる効果が得られる。
【0025】
基板加熱ステージ3は反応容器1内で基板2を保持する台座であるとともに、高次モードでダイヤモンドを成長中に基板2を加熱することで基板2の温度を制御する加熱制御機構であり、反応容器1内に設けられる。
具体的には、基板加熱ステージ3は上面に設けられた図示しないチャック機構で基板2を保持する。基板加熱ステージ3の寸法・形状は基板2を保持できる寸法・形状であればよく、基板2がウェハーの場合は基板加熱ステージ3も円板状で、直径が基板2よりも大きい。
また基板加熱ステージ3の内部には発熱体であるヒータ7が内蔵されており、高次モードでダイヤモンドを成長中は、ヒータ7が発熱することで基板加熱ステージ3を介して熱を基板2に伝達して加熱する。
【0026】
このように、高次モードでダイヤモンドを成長中に加熱制御機構で基板2を加熱して基板2の面内の温度ムラを吸収することで、ダイヤモンドを成長中に基板2を加熱しない場合と比べて基板2上にダイヤモンドを均一に成長させることができ、高品質なダイヤモンドを成長可能なものとなる。
【0027】
加熱制御機構としての基板加熱ステージ3は、基板2内の位置に応じて個別に該位置における基板2の温度を制御可能な機構であるのが好ましい。
このような機構としては、平面視で基板加熱ステージ3の基板載置面の中心に対して同心円状に複数のヒータ7を基板加熱ステージ3に内蔵させ、複数のヒータ7の温度設定を個別に調整することで、基板加熱ステージ3の径方向位置に応じて個別に温度を調整する機構が挙げられる。
基板加熱ステージ3が、基板2内の位置に応じて個別に温度を制御可能であると、基板2内で温度が低い部分は、その部分の加熱温度を上昇させたり、基板2内で温度が高い部分は加熱温度を下げたりすることで、より温度ムラを吸収して基板2内の温度を均一にできる。よって基板2の温度をより精密に制御でき、より高品質なダイヤモンドを成長させられる。
【0028】
なお、ヒータ7は基板加熱ステージ3を介して基板2を所望の温度に加熱できる構造であれば抵抗発熱体、高周波加熱、ランプ等の公知の加熱装置を用いればよい。
また、基板2の温度分布は例えば基板2を支持するチャックに搭載した熱電対で測定すればよい。熱電対の搭載位置は、基板2を搭載した状態で、少なくとも平面視で基板2の中心部と、基板2の外周部140mmの2か所以上であるのが好ましい。
以上が本発明のダイヤモンド成長装置11の構成の説明である。
【0029】
次に
図2、
図4、及び
図5を参照して本発明のダイヤモンド成長方法を説明する。
まず、マイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる(
図4のS1、成長工程)。
【0030】
具体的には、まず
図2に示すダイヤモンド成長装置11の反応容器1の図示しない扉を開けて基板2を反応容器1内に入れ、基板加熱ステージ3に搭載して扉を閉める。この際、基板2としてはダイヤモンド基板等を用いてもよいが、シリコン単結晶基板を用いると、安価な基板上にダイヤモンドを成長させられる。また、基板としてシリコン単結晶基板を用いる場合、予め基板2の表面を粗化してダメージを導入することで成長の核とするスクラッチ処理と呼ばれる処理等を行う。次に反応容器1内を排気して反応容器1内を減圧してから、原料ガス導入管6を介して原料ガスとキャリアガスを反応容器1内に導入する。ダイヤモンドを成長させる場合、原料ガスは例えばメタンガスであり、キャリアガスは例えば水素ガスである。
次にマイクロ波発生装置5を作動させてマイクロ波を生成し、マイクロ波導入管4を介してマイクロ波を反応容器1に照射する。
照射されたマイクロ波は反応容器1内で共振し、基板2の上部を覆うようにマイクロ波プラズマが形成される。形成されたマイクロ波プラズマは原料ガス、例えばメタンを分解・活性化させ、CVDで基板2上にダイヤモンドを成長させる。
【0031】
この際、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に基板加熱ステージ3のヒータ7を作動させて基板2を加熱することで、基板2の温度を制御する。
具体的なマイクロ波のモードは、マイクロ波の長さが、成長させるダイヤモンドの口径以上になるように選択する。またヒータ7の加熱温度は温度ムラを吸収して基板2の温度分布を均一にできる温度で、かつダイヤモンドの成長を阻害しない温度であればよいが、例えば800℃~1000℃程度である。
また、基板2内の温度分布はなるべく均一であるのが好ましく、例えば面内温度差が±10%以下であるのが好ましい。
【0032】
なお、成長時間は長ければ長いほどダイヤモンドを厚くできるが、ある程度の成長時間以上になるとダイヤモンドを均一に成長させるのが難しくなるため、ダイヤモンドを均一に成長させられる範囲で成長時間を設定する。
【0033】
S1でマイクロ波プラズマにて成長させたダイヤモンド膜13は厚さが十分であればこのまま後工程でデバイスの形成等に用いても良いが、さらにダイヤモンド膜13を厚く成長させるためには、マイクロ波プラズマだけで成長させるのではなく、S1でマイクロ波プラズマ成長させた基板2を、
図5に示すようなホットフィラメント方式によるダイヤモンド成長装置(以下、ホットフィラメントCVD装置17と称す)を用いてさらにダイヤモンドを追加で成長させることも可能である。
【0034】
具体的にはホットフィラメントCVD装置17は基板2が収納されダイヤモンドの成長が行われる反応容器21、原料ガスおよびキャリアガスが導入される原料ガス導入管23、及び抵抗発熱体であるフィラメント25を備える。
ホットフィラメントCVD装置17を用いる場合、原料ガスとしてメタンを、キャリアガスとして水素を原料ガス導入管23から反応容器21内に導入し、基板2の上方に設置したタングステンの等のフィラメント25に通電して原料ガスを通電加熱して分解し基板2上にダイヤモンドを成長させることで、大口径の基板2の全体にダイヤモンドを成長させる(
図4のS2、追加成長工程)。
【0035】
この態様ではマイクロ波プラズマCVDで基板上に成長させたダイヤモンド上に、大口径成長が可能なホットフィラメントCVD装置17を使用して、さらにダイヤモンドの成長を行うことで、さらに厚いダイヤモンドを大口径の基板2に成長させることが可能になる。
以上が本発明のダイヤモンド成長方法の説明である。
【実施例0036】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
マイクロ波プラズマCVDで基板2上にダイヤモンドを成長させる際に、ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に基板2を加熱することで、基板2の温度を制御しながらダイヤモンドを成長させ、成長後のダイヤモンドの物性および外観を評価した。具体的な手順は以下の通りである。
【0037】
(実施例1:マイクロ波プラズマCVDによるダイヤモンド成長)
基板2として直径200mm、表面の面方位が(111)のボロンドープの高抵抗単結晶シリコン基板(抵抗率100Ω・cm)を準備し、#8000砥石で表面を研削しシリコン表面を粗化してダメージを導入し、ダイヤモンド成長の核とした。
この基板2をTM20モードのマイクロ波プラズマ成長装置としての
図2に示すダイヤモンド成長装置11の基板加熱ステージ3に搭載し、2.45GHzのマイクロ波を1500Wの条件で反応容器1内に導入してプラズマを形成し、H
2流量:10SLM、CH
4濃度:3%、基板温度:850℃、反応容器1内の圧力が60Torr.(7999.34Pa)の条件でCVDによるダイヤモンドの成長を行った。またこのときの基板温度は面内で850℃±5℃の範囲になるように、基板加熱ステージ3のヒータ7の温度を調整した。
【0038】
そのあと、成長後のダイヤモンド膜13に対してラマン分光法による測定を行い、さらに光学顕微鏡でダイヤモンド膜13の表面を観察してダイヤモンドの成長を評価した。測定で得られたラマンスペクトルを
図6(a)に示し、観察して得られた光学顕微鏡画像を
図6(b)に示す。
図6(a)に示すように、得られたラマンスペクトルでは波数1332cm
-1付近に単結晶ダイヤモンドを示すピークが観察され、他の波数ではピークが見られなかったため、ダイヤモンドの成長を確認できた。また、
図6(b)に示すように光学顕微鏡の像でもダイヤモンドの析出を示す微細な凹凸形状が見られ、外観上もダイヤモンドが均一に成長していることを確認できた。
【0039】
よって、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能であることがわかった。
【0040】
(実施例2:マイクロ波プラズマCVDとホットフィラメントCVDによるダイヤモンド成長)
基板2として直径300mm、表面の面方位が(111)のボロンドープの高抵抗単結晶シリコン基板(抵抗率100Ω・cm)を準備し、#8000砥石で表面を研削しシリコン表面を粗化してダメージを導入し、ダイヤモンド成長の核とした。
この基板2をTM20モードのマイクロ波プラズマ成長装置としての
図2に示すダイヤモンド成長装置11の基板加熱ステージ3に搭載し、2.45GHzのマイクロ波を1500Wの条件で反応容器1内に導入してプラズマを形成し、H
2流量:10SLM、CH
4濃度:3%、基板温度:850℃、60Torr.(7999.34Pa)の条件でCVDによるダイヤモンドの成長を行った。またこのときの基板温度は面内で850℃±5℃の範囲になるように、基板加熱ステージ3のヒータ7の温度を調整した。
【0041】
次にこの基板2を、
図5に示すホットフィラメントCVD装置17に入れ、フィラメント温度:2200℃、H
2流量:10SLM、CH
4濃度:3%、基板温度:850℃、5Torr.(666.612Pa)の条件で4時間のダイヤモンド成長を行った。
そのあと、成長後のダイヤモンド膜13に対してラマン分光法による測定を行い、さらに光学顕微鏡でダイヤモンド膜13の表面を観察してダイヤモンドの成長を評価した。測定で得られたラマンスペクトルを
図7(a)に示し、観察して得られた光学顕微鏡の画像を
図7(b)に示す。
図7(a)に示すように、得られたラマンスペクトルでは波数1332cm
-1付近に単結晶ダイヤモンドを示すピークが観察され、他の波数ではピークが見られなかったため、ダイヤモンドの成長を確認できた。また、
図7(b)に示すように光学顕微鏡の画像でもダイヤモンドの析出を示す凹凸形状が見られ、外観上もダイヤモンドが均一に成長していることを確認できた。
【0042】
よって、高次モードのマイクロ波を用いたプラズマCVDであっても、高品質で大口径のダイヤモンドを成長可能であり、さらにホットフィラメントCVDでダイヤモンドをさらに成長させられることも分かった。
【0043】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:マイクロ波プラズマCVDで基板上にダイヤモンドを成長させる成長工程を含むダイヤモンド成長方法であって、
前記成長工程において、
ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにし、かつ高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで、前記基板の温度を制御することを特徴とするダイヤモンド成長方法。
[2]:前記成長工程において、
前記基板内の位置に応じて個別に該位置における前記基板の温度を制御することを特徴とする上記[1]に記載のダイヤモンド成長方法。
[3]:前記成長工程後に、
前記基板上に成長したダイヤモンド上に、さらにホットフィラメントCVD装置を用いてダイヤモンドを成長させる追加成長工程を行うことを特徴とする上記[1]または上記[2]に記載のダイヤモンド成長方法。
[4]:前記基板としてシリコン単結晶基板を用いることを特徴とする上記[1]から上記[3]のいずれかに記載のダイヤモンド成長方法。
[5]:基板が収納され、ダイヤモンドの原料ガスが導入される反応容器と、前記反応容器に接続されマイクロ波を前記反応容器に導入する導波管を備え、前記導波管から導入されたマイクロ波により前記反応容器内でプラズマを生成させ、生成したプラズマで原料ガスが分解・活性化してCVDで前記基板上にダイヤモンドが成長するダイヤモンド成長装置であって、
ダイヤモンドを成長中のマイクロ波を高次モードにするモード設定機構と、
高次モードでダイヤモンドを成長中に前記基板を加熱することで前記基板の温度を制御する加熱制御機構と、
を備えることを特徴とするダイヤモンド成長装置。
[6]:前記加熱制御機構は、
前記基板内の位置に応じて個別に該位置における前記基板の温度を制御可能な機構であることを特徴とする上記[5]に記載のダイヤモンド成長装置。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1…反応容器、 2…基板、 3…基板加熱ステージ 4…マイクロ波導入管、 5…マイクロ波発生装置、 6…原料ガス導入管、 7…ヒータ、 11…ダイヤモンド成長装置、13…ダイヤモンド膜、 17…ホットフィラメントCVD装置、 21…反応容器、 23…原料ガス導入管、 25…フィラメント、 100…ダイヤモンド基板。