(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082991
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】液状調味料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240613BHJP
A23L 23/00 20160101ALN20240613BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197255
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 捺津美
(72)【発明者】
【氏名】菅野 明彦
【テーマコード(参考)】
4B036
4B047
【Fターム(参考)】
4B036LF04
4B036LG02
4B036LH06
4B036LH22
4B036LH39
4B036LP01
4B036LP06
4B036LP19
4B047LB08
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4B047LG07
4B047LG41
4B047LG51
4B047LP03
4B047LP05
4B047LP14
(57)【要約】
【課題】品温90℃以上の液状調味料に、突沸など不具合を起こすことなく、効率よくエタノールを添加配合すること。
【解決手段】
エタノール含有液状調味料の製造方法であって、
(1)エタノール配合前の液状調味料ベースの品温を90~98℃に調節する工程、
(2)エタノールの品温を前記液状調味料ベースの品温よりも45~60℃低温に調節する工程、及び
(3)前記品温調節後の液状調味料ベースと前記品温調節後のエタノールとを混合して混合物を得て、該混合物を液状調味料とした後、該液状調味料の品温を80~95℃にする工程
を含む、エタノール含有液状調味料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール含有液状調味料の製造方法であって、
(1)エタノール配合前の液状調味料ベースの品温を90~98℃に調節する工程、
(2)エタノールの品温を前記液状調味料ベースの品温よりも45~60℃低温に調節する工程、及び
(3)前記品温調節後の液状調味料ベースと前記品温調節後のエタノールとを混合して混合物を得て、該混合物をエタノール含有液状調味料とした後、該エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃にする工程
を含む、液状調味料の製造方法。
【請求項2】
工程(3)において、前記品温調節後の液状調味料ベースと混合する前記品温調節後のエタノールの量は、前記エタノール含有液状調味料の製造に使用されるエタノールを除く全成分とエタノールとの質量比が前者:後者として99:1~93:7となる量である、請求項1に記載の液状調味料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状調味料の製造方法に関し、詳細には、エタノールを含有し微生物による変敗を起こし難い液状調味料を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で流通される液状調味料は通常、製造されてから調理に使用されて食されるまでの期間中に微生物によって変敗しないよう、容器に充填して密封後に、レトルト加熱処理などの加熱殺菌処理が施されている。しかしながら、加熱殺菌処理、特にレトルト殺菌は、100℃を超える高温で行われるため、調味料が変色する場合や異味異臭が生じる場合があるという問題がある。そのため、加熱殺菌処理の条件はできるだけ温和なものとし、さらに、微生物が生育しにくいように、調味料のpHを低く調節することや水分活性を低く調節することも行われている。また、殺菌作用を有する添加物を配合する場合もあり、例えばアルコールを加えることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、常温(品温15~25℃)保存が可能な、食用油脂を多く含有する中性領域の水中油型乳化ソースであって、40%以上80%以下の食用油脂を含有し、pH5.0以上8.0以下であるソースが記載されている。特許文献2には、常温流通可能な液状調味料であって、酢酸と乳酸とを添加し、pH4.7以上5.1以下及び水分活性0.88以上0.94未満である液状調味料が記載されている。特許文献3には、非レトルト品であって、所定量の酢酸を含有し、当該酢酸に対して所定の含有割合のソルビン酸塩又はエタノールを含有する調理ソースが、本来の香りを十分に感じさせることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-77167号公報
【特許文献2】特開2021-108651号公報
【特許文献3】特開2021-69306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液状調味料にエタノールを配合する場合、常温保存中にもエタノールの殺菌作用を得るためには、調味料中に一定濃度のエタノールを維持する必要がある。しかしながらエタノールは揮発しやすいため、調味料の調合プロセスにおいて加熱したり、殺菌目的で加熱するとエタノールが揮発してしまい、調味料中から減少してしまう。そのため、調味料にエタノールを配合する場合、調合プロセス中の加熱工程の最終段階で添加するなど、検討の余地がある。
【0006】
本発明者らは、液状調味料の調合プロセスにおける加熱工程の完了直後にエタノールを添加する場合において、調味料に添加されたエタノールが急激に加熱される結果、突沸して飛沫が飛散するという問題があることを知見した。これを避けるため、加熱工程後の調味料を冷却した後にエタノールを添加すると、冷却に起因して微生物の増殖抑制効果が低下すること、さらには、必要な増殖抑制効果を得るためには、調味料の味が変わってしまうほど大量のエタノールを配合する必要があることが分かった。
【0007】
以上の点を鑑み本発明者らがさらに検討した結果、液状調味料の風味を変えない量のエタノールで効率的に微生物の増殖を抑制するためには、調味料の品温が90℃以上の状態でエタノールを配合することが望ましいことが分かった。本発明の課題は、品温90℃以上の液状調味料に、突沸など不具合を起こすことなく、効率よくエタノールを添加配合することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エタノール含有液状調味料の製造方法であって、
(1)エタノール配合前の液状調味料ベースの品温を90~98℃に調節する工程、
(2)エタノールの品温を前記液状調味料ベースの品温よりも45~60℃低温に調節する工程、及び
(3)前記品温調節後の液状調味料ベースと前記品温調節後のエタノールとを混合して混合物を得て、該混合物をエタノール含有液状調味料とした後、該エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃にする工程
を含む、液状調味料の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、品温90℃以上の液状調味料ベースに、突沸など不具合を起こすことなく、効率よくエタノールを添加配合することができ、微生物による変敗を起こし難い液状調味料を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の製造方法により得られる液状調味料(以下、本発明に係る液状調味料ともいう)は、エタノールを含有する。液状調味料がエタノールを含有することで、レトルト殺菌のような100℃を超える高温加熱殺菌を行わずとも、微生物の生育を有効に阻害することができ、常温で保存可能な液状調味料を提供することが可能となる。
【0011】
本発明に係る液状調味料は、エタノールを含有するほかは、通常の液状調味料と同様である。液状調味料の種類は特に制限されず、その例としては、クリームソース、ホワイトソース、トマトソース、ミートソース、カレーソース、和風ソース、つゆ、たれ等が挙げられる。尚、本明細書でいう「液状」は、常温常圧にて流動性があることを意味し、従って、本発明に係る液状調味料は、常温常圧にて全体として液状乃至ペースト状である。
【0012】
本発明に係る液状調味料の原材料も特に制限されず、清水等の水性成分;小麦粉、大麦粉、米粉等の穀粉;澱粉;糖類;牛乳、生クリーム、チーズ等の乳製品;卵;油脂類;蛋白質;砂糖、塩、しょうゆ、酢等の調味料;ブイヨン、コンソメ等の出汁類;香料、香辛料、酸味料、安定剤、着色料、乳化剤、増粘剤等が挙げられ、液状調味料の種類、用途等に応じて、これらを組み合わせて用いることができる。
【0013】
本発明に係る液状調味料は、固形具材を含有してもよい。固形具材としては、例えば、鶏肉、豚肉、ベーコン、パンチェッタ等の肉類;エビ、イカ、あさり、貝柱、魚卵等の魚介類;たまねぎ、にんじん、ピーマン、にんにく等の野菜類;マッシュルーム、ポルチーニ、しめじ、しいたけ等のキノコ類が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明の製造方法では、エタノールを配合する際の液状調味料ベースの品温及びエタノールの品温をそれぞれ特定の範囲とする点に特徴がある。具体的には、工程(1)~(3)に従って、エタノールの配合を行う。エタノールを配合すること、即ち工程(1)~(3)を行うこと以外については、本発明の製造方法は、上に挙げたような各種の液状調味料の通常の製造方法に準じて行うことができる。
【0015】
エタノールを配合する(即ち工程(1)~(3)を行う)タイミングは特に限定されず、液状調味料の製造プロセスの途中であってもよく、液状調味料の製造プロセスの最後であってもよい。しかしながら、エタノールを配合した後は、液状調味料を容器に密封するまでの間に、液状調味料からのエタノールの揮発が進むため、最終的に得られる液状調味料のエタノール含有量が後述する好ましい範囲を下回るおそれがある。そのため、エタノールの配合、即ち工程(1)~(3)は、液状調味料の製造プロセスの最後に行うことが好ましい。
【0016】
本発明の液状調味料の製造方法において、エタノールの配合は、以下の工程(1)~(3)よりなる:(1)エタノール配合前の液状調味料ベースの品温を90~98℃に調節する工程、(2)エタノールの品温を前記液状調味料ベースの品温よりも45~60℃低温に調節する工程、及び(3)前記品温調節後の液状調味料ベースと前記品温調節後のエタノールとを混合して混合物を得て、該混合物をエタノール含有液状調味料とした後、該エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃にする工程。
【0017】
尚、本明細書においては、エタノール配合時点における、エタノールを配合する対象(言い換えると、エタノールを添加する対象あるいはエタノールを混合する対象)となる物を「液状調味料ベース」と呼ぶ。液状調味料の製造プロセスの最後にエタノールを配合する場合、液状調味料ベースは、通常の液状調味料の形態をしている。製造プロセスの途中でエタノールを配合する場合、液状調味料ベースは中間体の形態をしており、該中間体は、典型的には、液状調味料に含まれることになる全成分(エタノール除く)のうちの一部をまだ含んでいない中間体であり、あるいは、エタノールを除くすべての成分を含むが、液状調味料とするために必要な加工のうちの一部が済んでいないため未だ最終の液状調味料の形態とはなっていない中間体である場合もある。
【0018】
工程(1)
工程(1)では、エタノールを配合するに先立ち、エタノール配合前の液状調味料ベースの品温を90~98℃、好ましくは92~96℃に調節する。前述したように、通常の液状調味料の製造方法に従い、液状調味料ベースを製造し、その後引き続いてその品温を上述の範囲に調節してもよく、あるいは、液状調味料ベースを製造し、一度冷却した後、再度加熱して品温を上述の範囲に調節してもよい。液状調味料ベースの品温が90℃に満たない場合、工程(3)においてエタノール含有液状調味料の品温を80~95℃に調整する際に、より高い熱量が必要となるため、エタノールが揮発しやすくなる結果、液状調味料が変敗する場合がある。また、液状調味料ベースの品温が98℃を超える場合、エタノール配合の際に突沸する場合がある。
【0019】
エタノール配合前の液状調味料ベースは、上述の90~98℃、好ましくは92~96℃の範囲内の品温で、5~15分間維持することが好ましい。これによって、微生物を死滅させる効果をより確実に得ることができる。
【0020】
工程(2)
工程(2)において、エタノールの品温を前記液状調味料ベースの品温よりも45~60℃低温、好ましくは48~58℃低温に調節する。工程(2)において、エタノールの品温と液状調味料ベースの品温との差(但し、エタノールの品温の方が低い)が45℃に満たない場合、エタノールが揮発しやすくなる結果、液状調味料が変敗する場合があり、またエタノール配合の際に突沸する場合もある。また、斯かる品温の差が60℃を超える場合、エタノール配合の際に突沸する場合がある。
【0021】
尚、工程(2)は、工程(1)と並行して、工程(1)の後、又は工程(1)の前に行うことができる。つまり、工程(1)及び(2)の2つの工程を工程(3)の前に行う限り、工程(1)及び(2)の実施順序は問わない。
【0022】
工程(3)
次いで、前記品温調節後の液状調味料ベースと前記品温調節後のエタノールを混合して混合物を得る。前述したように、エタノールを配合した後は、液状調味料を容器に密封するまでの間に、液状調味料からのエタノールの揮発が進むところ、この混合の際に、前記品温調節後の液状調味料ベースと混合する前記品温調節後のエタノールの量が、前記エタノール含有液状調味料の製造に使用されるエタノールを除く全成分とエタノールとの質量比が前者:後者として99:1~93:7、好ましくは98:2~94:6となる量であると、後述の好ましいエタノール含有量を達成しやすくなるため、有利である。
【0023】
液状調味料の製造プロセスの最後にエタノールを配合する場合、前述した通り液状調味料ベースは通常の液状調味料の形態をしており、従って、工程(3)で得られる前記混合物はエタノール含有液状調味料である。即ち、前記混合物をそのまま、エタノール含有液状調味料として扱う。
一方、液状調味料の製造プロセスの途中でエタノールを配合する場合、前述した通り液状調味料ベースは中間体(第一中間体)の形態をしており、従って、工程(3)で得られる前記混合物もまた、中間体(第二中間体)である。この場合は、第二中間体である前記混合物に、液状調味料に必要な残りの成分を加える工程や、必要に応じてさらなる加工のための工程を行うことにより、前記混合物をエタノール含有液状調味料とする。
【0024】
そして、前記エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃、好ましくは87~94℃に調節して、好ましくは3分間以上、より好ましくは5~120分間維持する。エタノール含有液状調味料の品温が80℃未満であると、液状調味料が変敗する場合があり、95℃を超えると、液状調味料の品質が低下するか、又はエタノールが揮発してしまい、やはり変敗する場合がある。維持する時間を3分間以上とすることにより、液状調味料の変敗をより確実に防止することができ、120分間以下とすることにより、液状調味料の品質の低下や変敗をより確実に防止することができる。
【0025】
エタノール含有液状調味料の品温を上述の範囲にするには、エタノール含有液状調味料を必要に応じて適宜加温又は冷却すればよい。特に液状調味料の製造プロセスの最後にエタノールを配合する場合は、混合する液状調味料ベース及びエタノールの品温及び量等によっては、得られる混合物の品温が80~95℃である場合もあり、そのような場合には、ここでの加温又は冷却は不要である。
【0026】
商業的に大規模製造する場合のようにエタノール含有液状調味料が大量の状態では、保温効果が高いため、一旦品温80~95℃に達した後は特段加熱しなくても1時間程度は品温80~95℃を維持することが可能である。品温80~95℃を維持する時間の上限は、特に制限はなく、例えば、後に詳述する保存容器への充填まで維持してよく、より具体的には2時間程度維持しても構わない。液状調味料の風味を損なわない観点からは、品温80~95℃を維持する時間は、長くても30分間とすることが望ましい。例えば、エタノール含有液状調味料は、品温80~95℃を5~20分間維持した後、微生物が混入しない状態で自然冷却させてもよい。
【0027】
エタノール含有液状調味料は、保存を経ずにそのまま喫食することも可能であるが、これを保存容器に密封することで、常温で長期間保存可能な液状調味料を提供することができる。以下に、エタノール含有液状調味料を保存容器に密封する場合の工程(3)の実施態様の例を、(i)前記混合物がエタノール含有液状調味料である場合(即ち、液状調味料の製造プロセスの最後にエタノールを配合する場合)と(ii)前記混合物が中間体である場合(即ち、液状調味料の製造プロセスの途中でエタノールを配合する場合)とに分けて説明する。
【0028】
(i)前記混合物がエタノール含有液状調味料である場合(即ち、液状調味料の製造プロセスの最後にエタノールを配合する場合)
例1:
工程(1)で品温調節した後の液状調味料ベースと工程(2)で品温調節した後のエタノールとを混合して混合物、即ちエタノール含有液状調味料を得た後、保存容器に充填する前に、該エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃にする。その後、品温80~95℃を維持したまま、エタノール含有液状調味料を保存容器に充填し密封する。これにより、殺菌処理されていない保存容器を用いた場合であっても、エタノール含有液状調味料の熱により保存容器内の微生物を死滅させることができる。エタノール含有液状調味料の品温は、短時間で効率的に微生物を死滅させる観点からは、87~94℃であることが好ましい。また、エタノール含有液状調味料を保存容器に充填し密封した後、保存容器に由来する微生物を一層確実に死滅させるため、エタノール含有液状調味料が入った保存容器を65~95℃にすることも好ましい。ここで65℃以上を維持すれば、微生物を死滅させる効果が得られる。より好ましくは、エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃に維持したまま保存容器に充填し、且つ密封後に保存容器を65~95℃にする。エタノール含有液状調味料が入った保存容器を65~95℃に維持する時間は、1~60分間であることが望ましく、温度が高いほど維持時間は短くて済む。
【0029】
例2:
工程(1)で品温調節した後の液状調味料ベースと工程(2)で品温調節した後のエタノールとを混合して混合物、即ちエタノール含有液状調味料を得た後、エタノール含有液状調味料を保存容器に充填する。その際、エタノール含有液状調味料を得た後、保存容器に充填するまでに、特段の品温調節はしなくてもよい。あるいは、保存容器に充填するまでにエタノール含有液状調味料を冷却しても構わない。エタノール含有液状調味料を冷却することで、エタノールが過度に揮発してしまうことを防止することができる。次いで、保存容器に充填された状態で、エタノール含有液状調味料を品温80~95℃にする。斯かる手順によっても、殺菌処理されていない保存容器を用いた場合に、保存容器内の微生物を死滅させることができる。
【0030】
例3:
例1においてと同様にしてエタノール含有液状調味料を得た後、保存容器に充填する前に、該エタノール含有液状調味料の品温を80~95℃にする。その後、微生物が混入しない状態を保ちながら、無菌バック等の殺菌処理済みの保存容器にエタノール含有液状調味料を充填し密封する。これにより、エタノール含有液状調味料の品温が一旦80~95℃に達した後は特段品温調節をしなくても、微生物による変敗を起こし難い液状調味料とすることができる。特にこの場合は、前述したように、工程(1)において、液状調味料ベースを90~98℃、好ましくは92~96℃の範囲内の品温で、5~15分間維持することが好ましい。
【0031】
(ii)前記混合物が中間体である場合(即ち、液状調味料の製造プロセスの途中でエタノールを配合する場合)
例4:
工程(1)で品温調節した後の液状調味料ベース(第一中間体)と工程(2)で品温調節した後のエタノールとを混合して混合物、即ち第二中間体を得る。前述したように、この場合、第二中間体である混合物をエタノール含有液状調味料とするためには、液状調味料に必要な残りの成分を加える工程や、必要に応じてさらなる加工のための工程を行うことになる。これらの工程(以下、追加の工程ともいう)において、微生物が混入する可能性がある。しかしながら、追加の工程を経て得られたエタノール含有液状調味料の品温を90~98℃、好ましくは92~96℃の範囲内の品温で、好ましくは5~15分間、維持すれば、仮に追加の工程において微生物が混入したとしても、該微生物を死滅させることができる。そして、混入した可能性のある微生物をこのような品温調節により死滅させた後は、例1~例3のいずれかの手順に準じて、エタノール含有液状調味料を保存容器に充填し密封することができ、これらの場合については、前述の例1~例3についての説明をそれぞれ適宜適用することができる。
【0032】
以上のようにして本発明の製造方法により得られた本発明に係る液状調味料は、保存する際のエタノール含有量が、該液状調味料の全質量に対して1~6質量%であることが好ましい。6質量%を超えると、液状調味料の本来の風味に影響が及ぶ場合があり、1質量%未満であると、保存中に液状調味料が変敗する場合がある。尚、エタノール含有液状調味料中のエタノール含有量は、ガスクロマトグラフ法により定量することができる。
【0033】
本発明に係る液状調味料は、そのまま単独で食してもよいが、典型的には、固形食材にかける、和える、塗る、混ぜる等して、固形食材とともに食される。固形食材としては、例えば、麺類、ご飯類、パン類、ダンプリング類、肉類、魚介類、野菜類、サラダ等が挙げられる。本発明に係る液状調味料は、穀粉類を主たるベースとし水等の水性成分を加えて練った生地を成形して得られる麺類又はダンプリング類との相性に特に優れており、麺類又はダンプリング類とともに食した場合には、該液状調味料がこれらに十分に絡み、両者の一体感が十分に感じられ、良好な食感が得られる。従って、本発明に係る液状調味料は、麺類用又はダンプリング類用として特に有用である。
【0034】
本発明に係る液状調味料を適用可能な麺類は特に制限されず、例えば、パスタ類;中華麺、うどん、冷麦、そうめん、きしめん、そば、沖縄そば等の麺線類;ギョーザ皮等の麺皮類が挙げられる。本発明の液状調味料は、特にパスタ類用ソースとして有用である。ここでいう「パスタ類」とは、デュラムセモリナやデュラム小麦粉を主原料とする麺類であり、具体的には、例えば、スパゲティ等のロングパスタ、マカロニ等のショートパスタ、ラザニア等の平打ちパスタ等が挙げられる。また、ダンプリング類としては、だんごやすいとん等が挙げられる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1~8及び比較例1~4〕
バター60gを鍋に入れて弱火で加熱し、バターが溶けたところで薄力小麦粉50gを加えてよく混合した。全体に泡立ちはじめたら牛乳900mLを加えて、強火にして素早く撹拌しながら加熱した。沸騰し始めたら中火にして、時々撹拌しながら20分間加熱した。塩で味を整え、清水を加えて全量を1000gとして、ホワイトソースを得た。
該ホワイトソースの品温を表1~2の温度に調節し、その温度で10分維持した(工程(1))。別途エタノールを用意し、表1~2の品温に調節した(工程(2))。ホワイトソースに対してエタノールを質量比(前者:後者)95:5で一気に加えて混合して、エタノール含有ホワイトソース(エタノール含有液状調味料)とした後、該エタノール含有ホワイトソースの品温を92℃とし、その温度で10分維持した(工程(3))。尚、得られたエタノール含有ホワイトソースのエタノール含有量をガスクロマトグラフ法により以下の条件で測定したところ、いずれも1.0~4.0質量%の範囲であった。
【0037】
<ガスクロマトグラフ法の条件>
・使用機器:GC-2010Plus(島津製作所製)
・検出器:FID
・カラム:Agilent J&W DB-WAX、内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm
・温度:試料注入口及び検出機250℃、カラム50℃(5分)、10℃/分で250℃まで加熱(10分間保持)
・キャリアガス:ヘリウム、流量1mL/分
・注入量:1μL
【0038】
〔試験例1〕
各実施例及び比較例において、工程(3)でホワイトソースにエタノールを加えた際の突沸の様子を、専門パネラーに下記の評価基準で評価してもらった。評価は各実施例及び比較例それぞれについて10回行った。10回の評価点の平均値を表1~2に示す。
【0039】
<突沸の評価基準>
4点:突沸はなく、容易に混合でき、良好。
3点:エタノール投入の際に1回小さな突沸があるが、問題ないレベル。
2点:エタノール投入の際に1回大きな突沸があり、危険を感じ不良。
1点:エタノール投入後、2回以上大きな突沸があり、危険であり非常に不良。
【0040】
〔試験例2〕
密栓可能な容器を用意し、得られたエタノール含有ホワイトソースを、品温92℃を維持したまま150gずつ容器5本に分注し、栓をして密封して容器詰め液状調味料とし、密封後の容器を92℃に10分保った。その後、得られた容器詰め液状調味料を25℃、湿度60%の部屋に14日間保存した。保存後に開封して匂いを嗅ぎ、変敗の有無を確認した。その結果を、5本中の変敗数で表1~2に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
〔実施例9~13及び比較例5~6〕
実施例2と同様にして工程(1)及び工程(2)を行った。
ホワイトソースに対してエタノールを質量比(前者:後者)95:5で一気に加えて混合して、エタノール含有ホワイトソース(エタノール含有液状調味料)とした。その際の突沸の様子を、試験例1と同様に評価した。次いで、冷却して150gずつ容器5本に分注した後、容器内の液状調味料の品温が表3に記載の温度になるように加温し、その温度に容器を10分保った(工程(3))。尚、容器に分注する際のエタノール含有ホワイトソースは、品温が75℃未満であった。
その後、栓をして密封して容器詰め液状調味料とした。この容器詰め液状調味料を25℃、湿度60%の部屋に14日間保存した後、試験例2と同様に変敗の有無を評価した。その結果を表3に示す。
尚、容器に充填する前のエタノール含有ホワイトソースのエタノール含有量を上記と同様にクロマトグラフ法で定量したところ、いずれも1.0~4.0質量%の範囲であった。
【0044】
【0045】
〔実施例14~19〕
工程(3)においてホワイトソースとエタノールとの質量比(前者:後者)を表4のように変えた以外は、実施例2と同様にしてエタノール含有ホワイトソースを製造した。これを試験例1,2と同様に評価した。その結果を表4に示す。
尚、得られたエタノール含有ホワイトソースのエタノール含有量をガスクロマトグラフ法によって定量した結果も、表4に合わせて示す。
【0046】