(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008327
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】希土類磁石粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240112BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240112BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240112BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240112BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 130
B22F1/00 Y
C22C38/00 303D
B22F9/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110105
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 篤秀
(72)【発明者】
【氏名】山崎 理央
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017CA07
4K017DA04
4K017EA08
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4K017FB02
4K018BA18
4K018BB04
4K018BD01
4K018GA02
4K018KA45
4K018KA46
5E040AA04
5E040CA01
5E040HB17
5E040NN01
5E062CC05
5E062CD04
5E062CG03
(57)【要約】
【課題】高磁気特性な希土類磁石粉末が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、希土類元素と遷移元素とBとが含まれる鋳造合金からなる磁石原料に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備える希土類磁石粉末の製造方法である。その鋳造合金はCuを0.02~0.4at%含み、さらにAlを0.02~1.5at%含むとよい。再結合工程は、水素圧力が1.5~3.5kPaである水素雰囲気中で、不均化工程後の磁石原料を加熱する制御排気工程によりなされるとよい。再結合工程後の磁石原料に、拡散原料(Nd-Cu-Al)を加えた混合原料を不活性雰囲気中で加熱する拡散工程を行なうと、磁気特性(特に保磁力)のさらなる向上が図られる。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素と遷移元素とBとが含まれる鋳造合金からなる磁石原料に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、
該不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備え、
該鋳造合金は、その全体に対してCuを0.02~0.4at%含み、
該再結合工程は、水素圧力が1.5~3.5kPaである水素雰囲気中で該不均化工程後の磁石原料を加熱する制御排気工程を備える希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
前記鋳造合金は、さらにAlを0.02~1.5at%含む請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
前記鋳造合金は、さらにNbおよび/またはZrを合計で0.05~0.7at%含む請求項1または2に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
前記不均化工程は、前記不均化反応を生じる温度未満の水素雰囲気に前記鋳造合金を曝して得られた磁石原料になされる請求項1に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
前記再結合工程後の磁石原料に拡散原料を加えた混合原料を加熱する拡散工程をさらに備える請求項1または4に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【請求項6】
前記拡散原料は、少なくともNdとCuを含む合金または化合物からなる請求項5に記載の希土類磁石粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石粉末の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石粉末をバインダ樹脂で固めたボンド磁石は、形状自由度に優れ、高磁気特性を発揮するため、省エネルギー化や軽量化等が望まれる電化製品や自動車等の各種電磁機器に多用される。ボンド磁石のさらなる利用拡大を図るため、希土類磁石粉末の磁気特性の向上が望まれている。希土類磁石粉末の磁気特性は、その製造過程でなされる水素処理条件により大きな影響を受けるため、水素処理に関連する提案が種々なされており、関連する記載が下記の特許文献にある。
【0003】
なお、水素処理(HDDR)は、主に、吸水素による不均化反応(Hydrogenation-Disproportionation/「HD」という。)と、脱水素による再結合反応(Desorption-Recombination/「DR」という。)とからなる。本明細書では、特に断らない限り、その改良型であるd―HDDR(dynamic-Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)等も含めて単に「HDDR」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-317003
【特許文献2】WO2011/070847
【特許文献3】WO2013/035628
【特許文献4】特開2014-177660
【特許文献5】WO2020/017529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、Cuを含むNdFeB系合金鋳塊に吸水素処理(HD)と脱水素処理(DR)を施す旨の記載がある。特許文献1によれば、高磁気特性(特に保磁力Hcj)な希土類合金粉末は、水素分圧を1kPa程度とした脱水素処理時に得られている(特許文献1の[0035]、表2参照)。
【0006】
特許文献2~5には、Cuを含む鋳造合金(母合金、原料合金、合金インゴット等)に対して、水素処理する旨の記載はない。Cuを含まない鋳造合金に脱水素処理(DR)を行なう場合、特許文献2、3では炉内の真空度を3.2kPaとし、特許文献4、5では水素分圧を1~5kPaとしている。もっとも、いずれの特許文献でも、脱水素時の水素分圧に関して詳細な検討はされておらず、その点に関する具体的な記載や示唆も全くない。
【0007】
本発明は、このような事情の下で為されたものであり、高磁気特性な希土類磁石粉末が得られる新たな製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が鋭意研究したところ、Cuを含む鋳造合金に水素処理(HDDR)して希土類磁石粉末を得る場合に、再結合反応時(脱水素時)の水素圧力(分圧)と希土類磁石粉末の磁気特性との間に特異な相関があることを新たに見出した。この成果に基づいて、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《希土類磁石粉末の製造方法》
(1)本発明は、希土類元素と遷移元素とBとが含まれる鋳造合金からなる磁石原料に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、該不均化工程後の磁石原料から脱水素して再結合反応を生じさせる再結合工程とを備え、該鋳造合金は、その全体に対してCuを0.02~0.4at%含み、該再結合工程は、水素圧力が1.5~3.5kPaである水素雰囲気中で該不均化工程後の磁石原料を加熱する制御排気工程を備える希土類磁石粉末の製造方法である。
【0010】
(2)本発明の製造方法によれば、高磁気特性な希土類磁石粉末が得られる。この理由は必ずしも定かではないが、現状、次のように考えられる。本発明の製造方法では、Cuを含むR-TM-B系鋳造合金(R:希土類元素、TM:遷移元素)からなる磁石原料に対して、水素圧力(分圧)を特定範囲とする制御排気工程を施している。この制御排気工程により、再結合工程中に、主相となる結晶核が局所的に異常成長して不均一な結晶粒の粗大化が発生すること、または均質な結晶粒の粗大化が発生することが抑止され得る。これにより、主相(R2TM14B)となる結晶粒が微細かつ均一的に分布した金属組織からなる高磁気特性な希土類磁石粒子が得られたと考えられる。
【0011】
《希土類磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石》
本発明は、希土類磁石粉末としても、その希土類磁石粉末を樹脂で結着させたボンド磁石としても、さらにそのボンド磁石の製造に用いられるコンパウンドとしても把握される。コンパウンドは、粉末粒子表面にバインダである樹脂を予め付着させてなる。なお、ボンド磁石やコンパウンドに用いられる粉末は、本発明に係る希土類磁石粉末以外の粉末が混在した複合粉末でもよい。
【0012】
《その他》
(1)鋳造合金、磁石原料(解砕原料を含む。)は、形態や状態を問わず、塊状、粒子状、粉末状等のいずれでもよく、また、分級等により粒度調整がされてもよい。
【0013】
粒子の形状を問わず、その大きさ(粒サイズ)を適宜「粒径」という。また本明細書では、粒サイズを粒度で指標する。例えば、粒度(d)がα(μm)未満(d<α)の粒子とは、公称目開き(メッシュサイズ)αの篩いを通過する粒子という意味である。
【0014】
(2)希土類磁石粉末は、等方性磁石粉末でも、異方性磁石粉末でもよい。異方性磁石粉末は、一方向(磁化容易軸方向、c軸方向)の磁束密度(Br)が他方向の磁束密度よりも大きい磁石粒子からなる。等方性と異方性は、異方化度(DOT:Degree of Texture)により区別でき、DOTの値が0であれば等方性、0よりも大きければ異方性となる。なお、DOTは、c軸方向に平行(//)または垂直(⊥)な磁場を加えたときの磁束密度Br(//)またはBr(⊥)から、DOT=[Br(//)-Br(⊥)]/Br(//)として求まる。
【0015】
(3)希土類元素(R)として、Nd、Pr、Ce、La等の他、Y、Sm、Tb、Dy等がある。遷移元素(TM)として、3d遷移元素(Sc~Ni)や4d遷移元素(Y~Ag)がある。Rの代表例はNdであり、TMの代表例はFeである。そのNdの一部はPrにより置換されても良い。また、そのFeの一部はCoにより、置換量は鋳造合金全体に対して、例えば0.01~20.0at%、さらには0.5~5.4at%置換されても良い。また、Bの一部はCにより置換されてもよい。置換量は鋳造合金全体に対して、例えば、0.05~1at%さらには0.1~0.6at%以下である。
【0016】
鋳造合金または希土類磁石粉末は、(不可避)不純物の他、特性改善に有効な改質元素を含み得る。改質元素として、例えば、保磁力の向上に有効なAl、Ti、V、Cr、Ni、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Sn、Hf、Ta、W、Dy、Tb、Co等がある。
【0017】
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、「x~ykPa」はxkPa~ykPaを意味し、他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1B】HDDRに係る水素雰囲気の設定パターンを例示する。
【
図2A】希土類磁石粉末(鋳造合金A/拡散処理なし)の磁気特性とDR圧力(P
H2)の関係を示す。
【
図2B】希土類磁石粉末(鋳造合金A/拡散処理あり)の磁気特性とDR圧力(P
H2)の関係を示す。
【
図3】希土類磁石粉末(鋳造合金B/拡散処理なし)の磁気特性とDR圧力(P
H2)の関係を示す。
【
図4A】希土類磁石粉末(鋳造合金C/拡散処理なし)の磁気特性とDR圧力(P
H2)の関係を示す。
【
図4B】希土類磁石粉末(鋳造合金C/拡散処理あり)の磁気特性とDR圧力(P
H2)の関係を示す。
【
図5】希土類磁石粉末(鋳造合金D/拡散処理なし)の磁気特性とDR圧力(P
H2)の関係を示す。
【
図6】希土類磁石粉末(鋳造合金C/拡散処理あり)に係る磁気曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の製造方法のみならず、希土類磁石粉末、コンパウンド、ボンド磁石等にも適宜該当し、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0020】
《希土類磁石粉末》
(1)希土類磁石粉末(単に「磁石粉末」という。)は磁石粒子からなり、磁石粒子は正方晶化合物である微細なR2TM14B1型結晶(主相)と、その結晶粒の周囲を包囲する粒界相とからなる。主相を構成する正方晶化合物の化学量論組成は、R:11.8at%、B:5.9at%、残部がTMである。粒界相を含めて考えると、磁石粒子全体(100at%)に対して、例えば、希土類元素(R)は12~18at%、12.5~16.5at%さらには13~15at%、Bは5.5~8at%さらには6~7at%含まれる。RおよびB以外の残部は、主に遷移金属元素(TM)であるが、典型金属元素(Al等)、典型非金属元素(C、O等)、不純物等を含んでもよい。
【0021】
(2)Rは、例えば、Nd、Pr、Dy、Tb等である。磁石粒子は、Cuの他に、Al、Si、Ti、V、Cr、Ni、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Mn、Sn、Hf、Ta、W、Dy、Tb、Co等の少なくとも一種含んでもよい。
磁石粒子全体に対して、例えば、Cuなら0.02~2at%、0.05~1at%さらには0.1~0.5at%、Alなら0.02~3.5at%、0.2~2.5at%さらには0.4~1.5at%、NbやZrなら0.05~0.7at%、0.1~0.5at%さらには0.15~0.3at%、Gaなら0.4at%以下(0.01~0.4at%)、0.35at%以下さらには0.25at%以下含まれ得る。
【0022】
《製造方法》
(1)鋳造合金
鋳造合金は、R-TM-B系合金溶湯を鋳型に注湯し、凝固させて得られたインゴット合金でも、その溶湯を急冷凝固させて得られた急冷凝固合金でもよい。急冷凝固合金は、例えば、ストリップキャスト法(SC)等により得られる。
【0023】
鋳造合金の成分組成は、磁石粉末の成分組成の他、拡散処理されるときなら拡散原料の成分組成と配合量も考慮して調整される。鋳造合金は、その全体を100at%として、例えば、Rを11.5~15at%、12~14at%さらには12.2~13.5at%、Bを5.5~8at%さらには6~7at%含む。鋳造合金の残部は、遷移元素(例えばFe)や改質元素(例えばCu、Al、Nb、Zr等)である。
【0024】
本発明に係る鋳造合金は、少なくともCuを含む。Cuは、鋳造合金全体に対して、例えば、0.02~0.4at%、0.03~0.25at%,0.05~0.2at%さらには0.07~0.15at%含まれる。Cuが過少では、制御排気工程で水素圧力を調整しても、保磁力があまり向上しない。Cuが過多になると、磁石粉末の保磁力が低下し得る。
【0025】
鋳造合金は、Cuに加えてAlを含んでもよい。Alは、鋳造合金全体に対して、例えば、0.02~1.5at%、0.2~1.2at%さらには0.5~0.9at%含まれる。Alは、過少なら保磁力の向上効果が乏しくなり、過多なら残留磁束密度の低下要因となる。
【0026】
鋳造合金は、NbとZrの少なくとも一方を含んでもよい。NbとZrは合計で、鋳造合金全体に対して、例えば、0.05~0.7at%、0.1~0.5at%さらには0.15~0.3at%含まれる。いずれの元素も、過少では磁気異方性の向上効果が乏しくなり、過多では磁石粉末の残留磁束密度が低下し得る。
【0027】
(2)均質化処理
均質化処理(溶体化処理)により、鋳造合金の金属組織の均一化や、軟磁性なαFe相の偏析解消等が図られる。
【0028】
均質化処理は、例えば、鋳造合金を1000~1200℃さらには1050~1150℃で加熱してなされる。処理時間は、例えば、3~50時間さらには10~40時間である。加熱雰囲気は、例えば、不活性雰囲気(不活性ガス(Ar等)雰囲気、真空雰囲気等)である。
【0029】
(3)分散処理
分散処理により、Rリッチ(例えばNdリッチ)な粒界相の均一的な形成が促進される。分散処理後の鋳造合金に高温水素解砕処理を行うと、結晶粒界で優先的に破断(分離)が生じて、主相粒内におけるクラックの発生が抑制され得る。
【0030】
分散処理は、高温水素解砕より高い(さらには均質化処理より低い)温度、例えば、650~900℃、650~800℃さらには680~750℃で加熱してなされる。その処理時間は、例えば、10分~10時間さらには0.5~3時間である。加熱雰囲気は、例えば、不活性雰囲気である。
【0031】
(4)水素解砕
HDDR前(不均化工程前)の鋳造合金を水素雰囲気に予め曝す水素解砕(工程)がなされてもよい。換言すると、不均化工程は、不均化反応を生じる温度未満の水素雰囲気に鋳造合金を曝して得られた磁石原料になされてもよい。
【0032】
水素解砕処理は、低温域(例えば、室温~300℃さらには室温~100℃)でなされる低温水素解砕でも、高温域(例えば、350~585℃、400~575℃さらには425~550℃)でなされる高温水素解砕でもよい。
【0033】
水素分圧は、例えば、1kPa~250kPaさらには5kPa~150kPaである。処理時間(雰囲気温度が目標温度に到達してからの経過時間)は、例えば、0.1~10時間さらには0.5~5時間である。高温水素解砕は、鋳造合金(雰囲気)が所定温度に到達してから水素を処理炉内へ導入するとよい。
【0034】
ちなみに、高温水素解砕(工程/処理)を行なうと、水素は結晶粒内へほとんど侵入せずに粒界相(Rリッチ相/Ndリッチ相)へ主に侵入し、粒界相の体積膨張により結晶粒間でクラックが優先的に生じる。その結果、鋳造合金は結晶粒間で分離され、割れやクラックが少ない主相粒からなる磁石原料(解砕原料)が得られる。このような水素解砕の作用効果や機序等については、WO2020/017529で詳述されている。その記載内容(全文)は本願に適宜組み込まれるものとする。
【0035】
(5)分級
水素解砕により水素を吸収した鋳造合金は、自ら崩壊するか、軽い解砕により粒状となり得る。鋳造合金は、さらなる解砕や粉砕により粉末状にされてもよいし、分級により粒度調整されてもよい。少なくとも粗大な粒子を除去した磁石原料に、HDDRがなされるとよい。
【0036】
(6)HDDR
HDDRにより、微細なR2TM14B1型結晶(平均結晶粒径:0.05~2μm)が集合した多結晶体(磁石粒子)からなる磁石粉末が得られる。HDDRは、大別すると、不均化工程(HD)と再結合工程(DR)からなる。
【0037】
不均化工程では、処理炉に入れた磁石原料を所定の水素雰囲気に曝す。本工程により吸水素した磁石原料は、不均化反応(順変態反応)を生じて、三相分解組織(αTM相、RH2相、TM2B相)となる。
【0038】
不均化工程は、例えば、水素分圧:10~150kPaさらには15~50kPa、雰囲気温度:600~900℃さらには750~860℃、処理時間:1~5時間としてなされる。なお、本明細書でいう水素雰囲気は、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気でもよい。
【0039】
不均化工程中、水素分圧または雰囲気温度は終始一定でなくてもよい。例えば、反応速度が低下する工程末期に、圧力(水素分圧)または温度の少なくとも一方を上昇させて反応速度を調整し、三相分解を促進させてもよい(組織安定化工程)。
【0040】
再結合工程は、不均化工程後の磁石原料から脱水素する。本工程により、脱水素された磁石原料(三相分解組織)は再結合反応(逆変態反応)を生じて、RH2相から水素が除去されると共にTM2B相の結晶方位が転写された微細なR2TM14B1型結晶の水素化物(RTMBHX)となる。
【0041】
再結合工程(制御排気工程)は、例えば、水素分圧:1.5~3.5kPa、1.8~3.2kPaさらには2~3kPa、雰囲気温度:600~900℃さらには750~860℃、処理時間:0.5~5時間さらには1~3時間としてなされる。本工程は、水素分圧が比較的高いため緩やかに進行する。また、水素分圧を特定範囲とすることにより、磁石粉末の磁気特性(保磁力)の向上が図られる。
【0042】
再結合工程(制御排気工程)後の処理炉内を真空雰囲気(1Pa以下さらには0.1Pa以下)にすると、磁石原料中に残留した水素が除去され、脱水素が完了する(強制排気工程)。本工程は、例えば、雰囲気温度:600~900℃さらには750~860℃、処理時間:0.1~5時間さらには0.3~1時間としてなされる。強制排気工程後の冷却は、結晶粒の成長を抑止するため急冷されるとよい。
【0043】
不均化工程の開始から再結合工程(強制排気工程を含む。)の終了までは、略同温度を維持しつつ、水素分圧の変更のみでなされてもよい。制御排気工程と強制排気工程は、連続的になされても、非連続的になされてもよい。例えば、制御排気工程後に磁石原料を冷却する冷却工程を行い、強制排気工程はバッチ処理されてもよい。
【0044】
(7)拡散処理
HDDR後に拡散処理がなされてもよい。拡散処理(拡散工程)は、例えば、HDDR(再結合工程)後の磁石原料に拡散原料を加えた混合原料を加熱してなされる。これにより、R2TM14B1型結晶の表面または結晶粒界に、非磁性相が形成され、磁石粒子の保磁力が向上し得る。なお、拡散処理は、不活性雰囲気(不活性ガス雰囲気、真空雰囲気等)でなされるとよい。
【0045】
拡散原料として、例えば、軽希土類元素の合金や化合物、重希土類元素(Dy、Tb等)またはその合金や化合物(例えばフッ化物)などがある。軽希土類元素(Nd等)-Cu-(Al)系の合金や化合物を用いれば、稀少な重希土類元素の使用を回避できる。
【0046】
《用途》
希土類磁石粉末は、種々の用途に利用され得る。その代表例はボンド磁石である。ボンド磁石は、主に希土類磁石粉末とバインダ樹脂からなる。バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。またボンド磁石は、圧縮成形されたものでも射出成形されたものでもよい。希土類異方性磁石粉末を用いたボンド磁石は、配向磁場中で成形されるとよい。
【実施例0047】
鋳造合金の成分組成と製造条件が異なる希土類磁石粉末(試料)を製造し、それらの磁気特性を評価した。このような実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0048】
《試料の製造》
図1A、
図1B(両者を併せて「
図1」という。)に示す工程に沿って、表1に示す試料群に属する希土類磁石粉末を製造した。具体的には、次の通りである。
【0049】
(1)鋳造
アーク溶解法により、表1に示す複数種の鋳造合金A~Dを用意した。表1に示す成分組成は、各鋳造合金全体に対する配合組成であり、その全体に対する原子比(残部:Fe)で示されている。
【0050】
(2)均質化処理
真空排気後にArを導入した不活性雰囲気(PAr:35kPa)の処理炉内で、各鋳造合金を1140℃×20時間加熱した。
【0051】
特に断らない限り、本実施例でいう雰囲気、温度、圧力は次の通りとする。雰囲気は、被処理物(鋳造合金、磁石原料)を入れた処理炉内の雰囲気である。温度(T)は、被処理物(鋳造合金、磁石原料)に接触させた熱電対により測定した。圧力(P)は、圧力計により処理炉の内圧(被処理物付近)を測定した。
【0052】
雰囲気(ガス)の変更は、処理炉内の真空排気後に行なった。真空雰囲気(Vac)は10Pa以下とした。水素雰囲気は、真空排気後(10Pa以下)の処理炉内へ水素のみを導入し、処理炉の内圧をその水素圧力(PH2)とした(以下同様)。
【0053】
(3)水素解砕処理
均質化処理後の鋳造合金に、後述する高温水素解砕または低温水素解砕の一方を施した。
【0054】
(3-1)高温水素解砕
高温水素解砕前に、均質化処理後の鋳造合金を真空雰囲気中で緩やかに700℃にしてから1時間保持した(分散処理)。この分散処理後の鋳造合金を水素雰囲気中(100kPa×450℃)で1時間保持した(高温水素解砕)。分散処理後の処理炉内への水素の導入は、真空状態の処理炉内(鋳造合金)が所定温度(450℃)へ到達した後に行なった。分散処理から高温水素解砕には、被処理物を処理炉内に入れたまま(大気中への取出等をせずに)連続的に行なった。
【0055】
PH2を維持したまま、処理炉内を室温まで炉冷した。処理炉内の水素をArガス(大気圧)で置換してから、処理炉から取り出した鋳造合金を軽く解砕した。こうして、略粉末状の磁石原料を得た。
【0056】
(3-2)低温水素解砕
低温水素解砕は、均質化処理後の鋳造合金を水素雰囲気中(100kPa×室温)で1時間保持して行なった。
【0057】
処理炉内の水素をArガス(大気圧)で置換してから、その鋳造合金を処理炉内から取り出して軽く解砕した。こうして、略粉末状の磁石原料を得た。
【0058】
(4)分級
磁石原料を篩い分けにより分級して、粗大な粒子を除去した。「<α」は、公称目開きα(μm)の試験用篩い(JIS Z 8801)を通過した粒子からなることを意味する。なお、本実施例では、解砕(粉砕)、分級、工程間の搬送等は、いずれも不活性雰囲気(Ar)中(グローブボックス内)で行った。
【0059】
(5)HDDR
処理炉内の水素圧力(P
H2)と温度(T)を
図1Bに示すように制御して、分級後の磁石原料(12g)に、次のような水素処理(HDDR)を施した。
【0060】
先ず、高温水素化工程(25kPa×800℃×2時間)により、磁石原料に不均化反応(順変態反応)を生じさせた(不均化工程:HD)。
【0061】
次に、水素を連続的に排気しつつ、処理炉内を一定の水素雰囲気(xkPa×800℃:x=0~4)とする制御排気工程を1.5時間行なった。その後、処理炉内を真空雰囲気(0kPa×800℃)とする強制排気工程を0.5時間行った。
【0062】
制御排気工程中の水素圧力(DR圧力)は、0kPa、1kPa、2kPa、3kPaまたは4kPaのいずれかとした。PH2=0kPaは、処理炉内を真空雰囲気(1Pa以下)としたことを意味する。こうして磁石原料へ再結合反応(逆変態反応)を生じさせた(再結合工程:DR)。
【0063】
処理炉内を真空状態のまま室温付近まで炉冷した後、HDDRした処理物を不活性雰囲気(Ar)中で軽く解砕して、磁石粉末(拡散処理なし)を得た。その一部は、次工程の拡散処理に供した。
【0064】
(6)拡散処理
HDDR後の磁石粉末に拡散原料を加えた混合原料を、真空雰囲気中で加熱(800℃×1時間)した(拡散工程)。拡散原料には、原子比がNd51Cu15Al34である合金粉末(<45μm)を用いた。混合原料全体に対する拡散原料の割合は2質量%とした。
【0065】
真空状態のまま室温付近まで炉冷した処理炉内から取り出した拡散処理物を、大気中で軽く解砕して、磁石粉末(拡散処理あり)を得た。この磁石粉末は、全体(100at%)に対して、Nd:13.3at%、B:6.3at%、Nb:0.2at%となる。鋳造合金Aを用いたときはCu:0.3at%、Al:0.5 at%、鋳造合金Bを用いたときはCu:0.2at%、Al:1.2at%、鋳造合金Cを用いたときはCu:0.3at%、Al:1.2at%となる。
【0066】
《測定》
磁石粉末の磁気特性を試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer )により測定した。測定は、磁石粉末をカプセルに詰め、溶融パラフィン(約80℃)中で磁場配向(1193kA/m)させた後、着磁(3580kA/m)して行った。この際、各磁石粉末の密度は7.5g/cm3と仮定した。
【0067】
鋳造合金Aを用いて拡散処理しなかった試料群(AL0、AH0)について、DR圧力と保磁力(iHc)の関係を
図2Aに示した。鋳造合金Aを用いて拡散処理した試料群(AL1、AH1)について、DR圧力とiHcの関係を
図2Bに示した。
図2Aと
図2Bを併せて「
図2」という。
【0068】
鋳造合金Bを用いて拡散処理しなかった試料群(BL0、BH0)について、DR圧力とiHcの関係を
図3に示した。
【0069】
鋳造合金Cを用いて拡散処理しなかった試料群(CL0、CH0)について、DR圧力とiHcの関係を
図4Aに示した。鋳造合金Cを用いて拡散処理した試料群(CL1、CH1)について、DR圧力とiHcの関係を
図4Bに示した。
図4Aと
図4Bを併せて「
図4」という。鋳造合金Dを用いて拡散処理しなかった試料群(DL0)について、DR圧力と、iHcとの関係を
図5に示した。
【0070】
参考に、試料群(CH1)において、DR圧力を1kPaまたは2kPaとした各磁石粉末の磁化曲線を
図6にまとめて示した。
【0071】
《評価》
図2~
図5から明らかなように、鋳造合金にCuが含まれるとき、DR圧力により磁気特性が顕著に変化した。具体的にいうと、DR圧力(P
H2)を2~3kPa付近(例えば1.5~3.5kPa)としたとき、保磁力(iHc)がピーク的に向上した。このような傾向は、水素解砕の温度や拡散処理の有無を問わず現れた。
【0072】
Cuに加えてAlも含む鋳造合金を用いた場合も、
図2と
図4の比較から明らかなように、DR圧力を1.5~3.5kPaとすることにより、iHcがピーク的に向上した。さらに拡散処理を行なうと、iHcがより向上した磁石粉末が得られた。このような傾向は水素解砕の温度や拡散処理の有無を問わず観られた。この場合、
図4Aと
図5の比較からもわかるように、稀少なGa(保磁力向上元素)を用いた磁石粉末よりもiHcが大きくなった。
【0073】
以上から、本発明の製造方法によれば、稀少な元素等を用いるまでもなく、高磁気特性な希土類磁石粉末が得られることがわかった。
【0074】