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特開2024-83286油脂組成物及び油脂組成物の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083286
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】油脂組成物及び油脂組成物の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/013 20060101AFI20240613BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A23D9/013
A23D9/00 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206565
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022196665
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】長澤 奈津恵
(72)【発明者】
【氏名】坂内 千佳子
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DG04
4B026DG06
4B026DG15
4B026DG20
4B026DK01
4B026DK05
4B026DK10
4B026DP01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、香味原料を含有し、香味の持続性が良好である油脂組成物を提供することである。また、前記油脂組成物の製造方法を提供することである。
【解決手段】 香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物であって、 前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%含有し、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%含有する、油脂組成物。(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル (乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物であって、
前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%含有し、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%含有する、油脂組成物。
(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル
【請求項2】
前記油脂組成物中に香味原料を0.1~60質量%含有し、脱臭油脂を39.8~99.8質量%する、請求項1に記載の油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂組成物中の、乳化剤A及び乳化剤B以外の乳化剤の含有量が0.0~1.0質量%である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項4】
油脂組成物中の乳化剤の含有量が、0.004~5質量%である、請求項3に記載の油脂組成物。
【請求項5】
前記香味原料が、香味油、香料から選ばれる1種又は2種以上の香味原料である、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項6】
油脂組成物が、20℃で流動性を有する、請求項1又は2に記載の油脂組成物。
【請求項7】
香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物の製造方法であって、
前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%添加する、油脂組成物の製造方法。
(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味原料を含有する流動性のある油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
嗜好性の高い食品は、一般に特有の風味を有する。食品に風味を付与する方法として、香味油などの香味のある油脂を用いることが行われている。しかし、これらの香味油の香味原料は、揮発性のものも多く、経時的に弱くなることがある。そのため、香味油で食品に風味を付与する場合、長期保存した香味油は、多く添加する必要がある。また、長期で保管する食品の場合、香味油をより多く添加し、食品の風味が低下しても、許容範囲となるように設計されるが、製造直後と賞味期限の風味差が大きくなる問題が生じた。
【0003】
一方、加熱等により風味を消失しやすい欠点を克服するために、HLB1~15である乳化剤を0.01~7重量%含有する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、同方法は、200℃で評価をおこなっており、加熱調理時での風味維持を目的としている。したがって、常温(0~30℃)での保存時の風味の維持まで期待できるものではなかった。常温での風味(香味)が持続すれば、賞味期限が延長できるので、フードロスにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-113116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、香味原料を含有する油脂組成物の香味のさらなる持続性の向上が求められていた。
【0006】
本発明の課題は、香味原料を含有し、香味の持続性が良好である油脂組成物を提供することである。また、前記油脂組成物の製造方法を提供することである。
【0007】
なお、本発明において、香味の良好な持続性とは、香味原料と油脂のみを含有する油脂組成物において、経時的な風味劣化が抑えられていることをいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の乳化剤を特定量用いることで、香味の持続性を有する油脂組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の[1]~[7]を提供する。
[1] 香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物であって、
前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%含有し、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%含有する、油脂組成物。
(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル
[2] 前記油脂組成物中に香味原料を0.1~60質量%含有し、脱臭油脂を39.8~99.8質量%する、[1]の油脂組成物。
[3] 前記油脂組成物中の、乳化剤A及び乳化剤B以外の乳化剤の含有量が0.0~1.0質量%である、[1]又は[2]の油脂組成物。
[4] 油脂組成物中の乳化剤の含有量が、0.004~5質量%である、[3]の油脂組成物。
[5] 前記香味原料が、香味油、香料から選ばれる1種又は2種以上の香味原料である、[1]又は[2]の油脂組成物。
[6] 油脂組成物が、20℃で流動性を有する、[1]又は[2]の油脂組成物。
[7] 香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物の製造方法であって、
前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%添加する、油脂組成物の製造方法。
(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、香味原料を含有する油脂組成物の香味の持続性が向上する。そのため、保存期間において、油脂組成物の香味の差が少なく、また、香味の劣化を考慮して油脂組成物中への香味原料の多量の配合、あるいは、食品中の油脂組成物への多量の配合が不要となる。また、油脂組成物を用いた食品を美味しく賞味できる期間を長くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に例示説明する。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。また、以下で例示する好ましい態様やより好ましい態様等は、「好ましい」や「より好ましい」等の表現にかかわらず適宜相互に組み合わせて使用することができる。また、数値範囲の記載は例示であって、各範囲の上限と下限並びに実施例の数値とを適宜組み合わせた範囲も好ましく使用することができる。さらに、「含有する」又は「含む」等の用語は、「本質的になる」や「のみからなる」と読み替えてもよい。
【0012】
[油脂組成物]
本発明の油脂組成物は、香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物であって、前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%含有し、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%含有する。
(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル。
【0013】
本発明の油脂組成物は、上記乳化剤A及び乳化剤B以外に、本発明の効果を損なわない程度に他の乳化剤を添加することができる。これらの乳化剤は、焦げ付き防止、泡立ち抑制、調理品への吸油抑制、油脂劣化抑制などの目的で添加することができ、例えば、乳化剤A及び乳化剤B以外の乳化剤の含有量は、好ましくは0.0~1.0質量%であり、より好ましくは0.1~0.7質量%である。
【0014】
本発明の油脂組成物は、油脂組成物中の乳化剤の含有量が、好ましくは0.004~5質量%であり、より好ましくは0.006~4質量%であり、さらに好ましくは0.01~3質量%である。
【0015】
本発明の油脂組成物は、ハンドリングの点から、常温(20℃)で流動性を有することが好ましい。より好ましくは、常温(20℃)で液状であることである。
【0016】
<乳化剤A>
本発明の油脂組成物は、乳化剤Aを0.002~2.0質量%含有する。乳化剤Aは、構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステルである。
【0017】
乳化剤Aを油脂組成物中に0.002質量%以上含むことで、乳化剤Bとともに、油脂組成物の香味持続性を向上させることができる。また、乳化剤Aを油脂組成物中に2.0質量%超含むと、油脂組成物の流動性がかなり損なわれるため、好ましくない。乳化剤Aの油脂組成物中の含有量は、好ましくは0.003~2.0質量%、より好ましくは0.005~1.5質量%、さらに好ましくは0.05~1.0質量%である。
【0018】
乳化剤Aの構成脂肪酸中、炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸の含有量の下限は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。また、乳化剤Aの構成脂肪酸中、炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸の含有量の上限は、好ましくは98質量%以下、より好ましくは93質量%以下である。
【0019】
炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸としては、特に限定されないが、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等が挙げられる。これらのうち、少なくともステアリン酸、ベヘン酸が含まれることが好ましい。
炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸は1種又は2種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
【0020】
炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸が複数含まれる場合、好ましい組み合わせは、ステアリン酸、ベヘン酸である。この組み合わせにおいて、各脂肪酸の好ましい質量比は、ステアリン酸:ベヘン酸=85~30:15~70である。
【0021】
ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける構成脂肪酸としては、炭素数16以上22以下の直鎖飽和脂肪酸以外の脂肪酸が含まれていてもよい。このような脂肪酸としては、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等が挙げられる。
【0022】
乳化剤AのHLBの下限は特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは2以上である。また、乳化剤AのHLBの上限は特に限定されないが、好ましくは7以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下である。
【0023】
本発明において「HLB」とは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略記であり、乳化剤の疎水性と親水性のバランスを表す。HLBは、0以上20以下の数値で表される。HLBの値が小さいほど、親油性が強いことを示す。
【0024】
本発明において、HLB値の算出はアトラス法に基づく下記式から算出される。
「HLB」=20×(1-S/A)
(式中、S=けん化価、A=エステル中の脂肪酸の中和価)
上記式から算出されるHLB値は、算術平均である。そのため、本明細書に示されるHLB値は、平均HLBを意味する。
【0025】
本発明において「けん化価」は、基準油脂分析試験法(日本油化学会制定「2.3.2.1-2013 けん化価」)に準じて測定できる。
【0026】
本発明において「エステル中の脂肪酸の中和価」は、脂肪酸エステル系乳化剤の原材料の脂肪酸を基準油脂分析試験法(日本油化学会制定「3.3.1-2013 中和価」)に準じて測定することで特定できる。
【0027】
<乳化剤B>
本発明の油脂組成物は、乳化剤Bを0.002~2.0質量%含有する。乳化剤Bは、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルである。
ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルとしては任意のものを使用できる。例えば、市販されているトリグリセリン縮合リシノール酸エステル、テトラグリセリン縮合リシノール酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル、デカグリセリン縮合リシノール酸エステル等を使用することができる。
【0028】
乳化剤Bを油脂組成物中に0.002~2.0質量%含むことで、乳化剤Aとともに、油脂組成物の香味持続性を向上させることができる。乳化剤Bの油脂組成物中の含有量は、好ましくは0.005~2.0質量%、より好ましくは0.1~1.5質量%である。
【0029】
乳化剤BのHLBの下限は特に限定されないが、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。乳化剤BのHLBの上限は特に限定されないが、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。
【0030】
<香味原料>
本発明の油脂組成物は、香味原料を含有する。香味原料は、例えば、香味油、香料などから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。これらは、市販のものを用いることができる。
【0031】
例えば、香味油は、脱臭工程を経ていない油脂、又は精製油脂で他の原料を加熱して風味付けした油脂を用いることができる。
脱臭工程を経ていない油脂としては、焙煎植物油(焙煎菜種油、焙煎ごま油、焙煎落花生油等)、未精製植物油(オリーブ油、椿油、ヤシ油等)、乳由来の油脂(バターオイル、バターの酵素分解物等)が挙げられる。
風味付けした油脂としては、ネギオイル、ガーリックオイル、ラー油(唐辛子油)等が挙げられる。
【0032】
例えば、香料は、天然香料、合成香料を用いることができる。これらの香料は、市販されているものを用いることがきる。天然香料としては、植物原料から得られる香辛料抽出物や動物原料から得られる抽出物又は分解抽出物を用いることができる。
【0033】
香辛料抽出物は、香辛料から抽出した特有の香り、辛味などを有するエキスなどである。なお、本発明において、油脂で抽出した場合は、前述の風味付けした油脂として扱う。香辛料としては、ネギ、玉葱、ニンニク、ショウガ、ごま(ごまの種子)、唐辛子、ホースラディシュ(西洋ワサビ)、マスタード(からし)、ケシノミ、ゆず、胡椒、ナツメグ、シナモン、パプリカ、カルダモン、クミン、サフラン、オールスパイス、クローブ、山椒、オレンジピール、ウイキョウ、カンゾウ、フェネグリーク、ディルシード、カショウ、ロングペパー、クレソン、コリアンダーリーフ(こうさい)、紫蘇、セロリー、タラゴン、チャイブ、チャービル、ニラ、パセリ、マスタードグリーン(からしな)、ミョウガ、ヨモギ、バジル、オレガノ、ローズマリー、ペパーミント、サボリー、レモングラス、ワサビ葉、山椒の葉などが挙げられる。
【0034】
動物原料から得られる香料としては、乳風味を有するものが好ましく、例えば、バター由来のものであることが好ましい。
【0035】
合成香料は、香味油、香辛料抽出物や動物原料から得られる香料の風味を補助するものとして用いることが多いため、これらと同様の風味を有するものであることが好ましい。
【0036】
香味原料の油脂組成物中の含有量は特に限定するものではなく、例えば、乳化剤以外の成分が全て香味原料であってもよい。油脂組成物中に香味原料の含有量は、好ましくは0.1~60質量%であり、より好ましくは0.1~30質量%であり、さらに好ましくは1~22質量%である。
【0037】
<油脂>
本発明の油脂組成物は、油脂を含む。油脂としては、前述の香味油の他、脱臭油脂を含むことができる。脱臭油脂は、通常、油脂の精製工程の最終工程である脱臭工程を経た油脂であり、香味をほとんど有さない。脱臭油脂の含有量は特に限定するものではなく、乳化剤、香味原料以外の成分が全て脱臭油脂であってもよく、香味油を用いる場合は、脱臭油脂を含まなくてもよい。油脂組成物中の脱臭油脂の含有量は、好ましくは39.8~99.8質量%であり、より好ましくは70~99質量%であり、77~98質量%である。
【0038】
脱臭油脂としては、動植物油脂、グリセリンと脂肪酸から合成した油脂及びそれらの分別油、エステル交換油、水素添加油などの脱臭油脂を用いることができる。また、単独又は複数の脱臭油脂を混合して用いることもできる。
動植物油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、米油、ゴマ油、エゴマ油、亜麻仁油、落花生油、グレープシード油、牛脂、乳脂、魚油、ヤシ油、パーム油、パーム核油などが挙げられる。
グリセリンと脂肪酸から合成した油脂としては、炭素数8~10の直鎖状飽和脂肪酸を含有する油脂、例えば中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。
分別油としては、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクションなどのパーム油の分別油が挙げられる。
エステル交換油としては、パーム油あるいはパーム油の分別油と他の液状油脂のエステル交換油、あるいはMCTと植物油などとのエステル交換油を用いることができる。
水素添加油は、動植物油、動植物油の分別油の水素添加油の他、エステル交換油の水素添加油などが挙げられる。
【0039】
<その他の成分>
本発明の油脂組成物は、水相を含まない。そのため、本発明の油脂組成物は、油脂相のみ、又は油脂相と固体からなる。なお、本発明の油脂組成物は、油脂に可溶化している水分を含むことができる。可溶化している水分量は、特に限定するものではないが、油脂組成物中に1質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0040】
本発明の油脂組成物は、上記成分以外にも、食用油脂に一般的に配合される原材料を使用することができる。具体的には、例えば、風味付与剤、着色料、香料、酸化防止剤、安定剤等を使用することができる。これらの成分の量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物中に10質量%以下含有させることができ、好ましくは3質量%以下、より好ましくは0~3質量%、さらに好ましくは0~1質量%含有させることができる。
【0041】
<揮発成分量>
香味は、油脂組成物の揮発成分量とも関係し、香味の持続性は、保存時における揮発成分量の減少を抑えることで可能となる。本発明の油脂組成物は、保存後の揮発成分量の減少を抑えることができる。例えば、保存(30℃、2週間、大気開放下)後、揮発成分量を、33質量%以上残存させることが好ましく、35質量%以上残存させることがより好ましく、40質量%以上残存させることがさらに好ましく、45質量%以上残存させることが最も好ましい。なお、揮発成分は、ダイナミックヘッドスペースGC-MS法を用いて測定できる。また、揮発成分としては、イソバレルアルデヒド(Isovaleraldehyde)、ヘキサナール(Hexanal)、アリルメチルジスルフィド(Allyl methyl disulfide)、ジプロピルジスルフィド(Dipropyl disulfide)、フルフラール(Furfural)、ベンズアルデヒド(Benzaldehyde)、5-メチルフルフラール(5-Methyl furfural)、2-アセチルピロール(2-Acetyl pyrrole)から選ばれる1種以上の合計量で比較することができる。
【0042】
[油脂組成物の製造方法]
本発明の油脂組成物の製造方法は、香味原料を含有し、水相を含まない、油脂組成物の製造方法であって、前記油脂組成物中に以下の乳化剤Aを0.002~2.0質量%、以下の乳化剤Bを0.002~2.0質量%添加する。
(乳化剤A)構成脂肪酸のうち50質量%以上が炭素数16~22の直鎖飽和脂肪酸である、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び/又はモノグリセリン脂肪酸エステル
(乳化剤B)ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル
【0043】
油脂組成物、香味原料、乳化剤A、乳化剤B、その他成分等については、前述の[油脂組成物]に記載の通りである。
【実施例0044】
次に、実施例、比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また。以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0045】
[油脂組成物]
表1~5の配合の油脂組成物を調整した。なお、「参考例」以外は、各原料が均一になるまで60℃で加熱混合して調整した。用いた原料は以下のとおりである。

<脱臭油脂>
脱臭油1(菜種油:精製キャノーラ油)
脱臭油2(精製コーン油)

<香味原料:風味油>
香味油1(ローストネギオイル、オニオンオイル、焙煎菜種油、唐辛子オイルの調合油)
香味油2(バターの酵素処理分解物)
香味油3(ガーリックオイル)

<香味原料:合成香料>
香料1(ネギフレーバー)
香料2(バター香料)
香料3(カーリック香料)

<乳化剤>
乳化剤A(ポリグリセリン脂肪酸エステル、構成脂肪酸:ベヘン酸44%、ステアリン酸45%、オレイン酸7%、HLB 3)
乳化剤B(ヘキサグリセリン縮合リシノール酸エステル、HLB 1.5)
乳化剤C(脱糖レシチン)
【0046】
[香味(風味)試験]
実施例及び比較例の油脂組成物の風味について、油脂組成物の調整直後、及び保存(30℃、2週間、大気開放下)後の各サンプルを口に含み評価した。
比較例1~4、実施例1~5の評価は、参考例1の油脂組成物を調合し、調合直後又は保存後の参考例1の配合の油脂組成物を比較対象とし、専門パネラー(3名)が各サンプルを口に含み、下記評価基準に基づき専門パネラーの合議で決定した。
実施例6の評価は、参考例2の油脂組成物を調合し、調合直後又は保存後の参考例2の配合の油脂組成物を比較対象とし、専門パネラー(3名)が各サンプルを口に含み、下記評価基準に基づき専門パネラーの合議で決定した。
実施例7の評価は、参考例3の油脂組成物を調合し、調合直後又は保存後の参考例3の配合の油脂組成物を比較対象とし、専門パネラー(3名)が各サンプルを口に含み、下記評価基準に基づき専門パネラーの合議で決定した。
(調整直後の香味)
◎:調整直後の参考例の油脂組成物より、香味(香り・味)を強く感じる
〇:調整直後の参考例と同等の香味(香り・味)である。
△:調整直後の参考例の油脂組成物より、香味はやや劣る。
×:調整直後の参考例の油脂組成物より、香味はかなり劣る(保存後の参考例の油脂組成物の香味より劣る)

(保存後の香味)
〇:保存後の参考例の油脂組成物より、香味(香り・味)を強く感じる
●:保存後の参考例の油脂組成物より、香味(香り・味)をやや強く感じる
△:保存後の参考例の油脂組成物と同等の香味(香り・味)である。
×:保存後の参考例の油脂組成物より、香味はかなり劣る(保存後の参考例の油脂組成物の香味より劣る)
【0047】
[揮発成分量]
参考例4及び実施例8の油脂組成物の揮発成分について、油脂組成物の調整直後、及び保存(30℃、2週間、大気開放下)後の揮発成分量をダイナミックヘッドスペースGC-MS法にて分析した。揮発成分のエリア値を合計し、表5に揮発成分として記載した。なお、測定条件は以下の通りである。
<ダイナミックヘッドスペースGC-MS法>
(サンプル前処理)
油脂組成物を10mLバイアルに0.1gサンプリングし、80℃で10分加熱し、ヘッドスペースに成分を揮発させる。バイアルに50mL/minで窒素を2分間入れ、揮発成分を吸着剤(Tenax TA;GERSTEL製 P/N013741-000-KK)に吸着させる。
吸着材の水分を飛ばすため、空気を100mL/minで6分間流し、その後、GC-MS(GC;AgilentTechnologies社製7890B、MS;AgilentTechnologies社製5977B)にて分析を行った。
(GC-MS)
吸着材をGCに注入し、TDU(Thermal Desorption Unit)にて240℃に加熱して成分を脱離させる。その後、CIS4(Cooled Injection System)にて-20℃に冷却し、成分を濃縮させ、GCに導入した。GC-MSの条件は以下の通りである。
・カラム:DB-WAX(60m×0.25mm×0.5μm)
・注入口:PTV(Programable Temperature Vaporization)
・オーブン温度:40℃(10min hold) →240℃(8℃昇温、5min hold)
・トランスファーライン温度:250℃
・イオン化法:EI 70eV
・m/z=29-300
・イオン源温度:230℃
・四重極温度:150℃
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
表1~2において、乳化剤A及び乳化剤Bを特定量含有する実施例1~5は、調製直後及び保存後の香味が、参考例1より良好であった。一方、乳化剤A及びBを特定量含有しない比較例1~4は、香味に劣る結果であった。なお、乳化剤Cは、油脂組成物の塗布性をよくするために添加されており、香味への影響はあまりない。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
同様に、表3、4において、乳化剤A及び乳化剤Bを特定量含有する実施例6~7は、乳化剤A、Bを含まない対応する参考例2、3より、香味が良好であった。
【0054】
【表5】
【0055】
同様に、表5において、乳化剤A及び乳化剤Bを特定量含有する実施例8は、乳化剤A、Bを含まない対応する参考例4より、香味が良好であった。また、風味に影響する揮発成分量の減少が実施例8は、参考例4よりも抑えられていることが確認された。