(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083290
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】欠陥検査方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240613BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023206705
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2022196606
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】水野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】新土 誠実
(72)【発明者】
【氏名】新城 隆
(72)【発明者】
【氏名】福本 通孝
(72)【発明者】
【氏名】小迫 雅裕
【テーマコード(参考)】
2G015
【Fターム(参考)】
2G015AA22
2G015BA04
2G015CA01
2G015CA05
(57)【要約】
【課題】微小なボイドが欠陥原因となる樹脂基板においても、非破壊の簡易な方法で長期信頼性を評価することが可能な欠陥検査方法を提供する。
【解決手段】本発明の欠陥検査方法は、被検査体である樹脂基板に対して絶縁破壊電圧よりも低い交流電圧を印加する印加工程S1と、印加工程における樹脂基板に対する交流電圧の印加開始から印加終了までの印加時間に、樹脂基板から発生する部分放電を計測する計測工程S2と、印加時間に計測された部分放電の積算電荷量を算出する第1算出工程S3と、積算電荷量(pC)を印加時間(sec)で除算し、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を算出する第2算出工程S4と、算出された前記単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)に基づいて、樹脂基板の絶縁欠陥の有無を検出する検出工程S5とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査体である樹脂基板に対して絶縁破壊電圧よりも低い交流電圧を印加する印加工程と、
前記印加工程における前記樹脂基板に対する前記交流電圧の印加開始から印加終了までの印加時間に、前記樹脂基板から発生する部分放電を計測する計測工程と、
前記印加時間に計測された前記部分放電の積算電荷量を算出する第1算出工程と、
前記積算電荷量(pC)を前記印加時間(sec)で除算し、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を算出する第2算出工程と、
算出された前記単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)に基づいて、前記樹脂基板の絶縁欠陥の有無を検出する検出工程とを含む、欠陥検査方法。
【請求項2】
判断基準となる所定の閾値を設定する設定工程をさらに含み、
前記検出工程では、前記単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と前記閾値とを比較することで絶縁欠陥の有無を検出する、請求項1に記載の欠陥検査方法。
【請求項3】
前記印加時間は、1,800秒以下である、請求項1に記載の欠陥検査方法。
【請求項4】
前記樹脂基板は、バインダー樹脂と無機フィラーとを含有する、請求項1に記載の欠陥検査方法。
【請求項5】
前記交流電圧は、前記樹脂基板の定格電圧をV0(kVrms)としたときに2・V0(kVrms)以上3・V0(kVrms)以下である、請求項1に記載の欠陥検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板の長期信頼性を評価するための欠陥検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インバータ及びコンバータ等の電力変換器に用いられているパワーデバイスでは、小型化による高放熱化の需要から基板に樹脂シートを用いた樹脂基板が適用され始めている。樹脂基板を使用するパワーデバイスの用途としては、民生、産機及び車載等が挙げられるが、いずれの用途においても樹脂基板の長期信頼性は重要である。
【0003】
従来の樹脂基板の長期信頼性評価は、製造した樹脂基板の中から一部を抜き取り、抜き取ったものを破壊するまで負荷を与える破壊試験が実施されて行われる。しかしながら、抜き取り方式の破壊試験による評価は、被検査体である樹脂基板を破壊してしまうため、実際に製品に実装される樹脂基板を用いて長期信頼性を評価することはできず、未検査の基板を製品に実装することになる。
【0004】
そこで、製造した樹脂基板の全数を非破壊試験で検査することができれば、長期信頼性が実際に保証された樹脂基板を製品に採用することができる。非破壊検査として、樹脂基板にボイドがあると、そのボイドに電界が集中することで生じる部分放電を検出する方法が知られている。この場合、部分放電が開始されたことを示す部分放電開始電圧を検出することが一般的である。
【0005】
従来の開始電圧を検出する検査は、ボイドのサイズが大きく開始電圧が大きくなるものである場合には、開始電圧を検出することは容易であるが、ボイドのサイズが微小なものである場合には、開始電圧も微小となることから検出は困難である。一方で、パワーデバイスなどに使用される樹脂基板は、欠陥原因となるボイドは、微小であることから、的確に欠陥があるか否かを検出することは困難である。そこで、微小なボイドを検知し、樹脂基板の長期信頼性を評価する非破壊検査として、X線を照射し、かつ、電圧を印加することで生じる部分放電から発する開始電圧による電磁波を測定する検査方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1においては、X線を照射することで部分放電の感度を高め、微小なボイドにより生じる部分放電の開始電圧による電磁波を検出可能である旨が記載されている。
【0006】
しかしながら、10μmを下回るようなより微小なボイドについては、X線を照射したとしても部分放電の開始電圧を測定できないという報告がある(例えば、非特許文献1参照)。つまり、特許文献1で提案されているような、欠陥により生じる部分放電の開始電圧による電磁波を検出する非破壊検査では、10μmを下回るような微小なボイドを検出することは困難であるので、10μmを下回るような微小なボイドが欠陥原因となる樹脂基板においては正確な長期信頼性を評価することができないという問題がある。
また、特許文献1で提案されている検査方法では、検査対象である基板にX線を照射することを要するので、X線を照射する装置を備えなければならなかったり、X線を照射する制御を行ったりするなど煩雑となってしまう問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】柳瀬 直人,他5名,「マイクロ発泡皮膜を適用したモータ巻線の部分放電特性」,電気学会 誘電・絶縁材料研究会,No. DEI16036, pp.23-27,2016年1月28日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、微小なボイドが欠陥原因となる樹脂基板においても、非破壊の簡易な方法で長期信頼性を評価することが可能な欠陥検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1]被検査体である樹脂基板に対して絶縁破壊電圧よりも低い交流電圧を印加する印加工程と、前記印加工程における前記樹脂基板に対する前記交流電圧の印加開始から印加終了までの印加時間に、前記樹脂基板から発生する部分放電を計測する計測工程と、前記印加時間に計測された前記部分放電の積算電荷量を算出する第1算出工程と、前記積算電荷量(pC)を前記印加時間(sec)で除算し、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を算出する第2算出工程と、算出された前記単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)に基づいて、前記樹脂基板の絶縁欠陥の有無を検出する検出工程とを含む、欠陥検査方法。
[2]判断基準となる所定の閾値を設定する設定工程をさらに含み、前記検出工程では、前記単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と前記閾値とを比較することで絶縁欠陥の有無を検出する、[1]に記載の欠陥検査方法。
[3]前記印加時間は、1,800秒以下である、[1]又は[2]に記載の欠陥検査方法。
[4]前記樹脂基板は、バインダー樹脂と無機フィラーとを含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の欠陥検査方法。
[5]前記交流電圧は、前記樹脂基板の定格電圧をV0(kVrms)としたときに2・V0(kVrms)以上3・V0(kVrms)以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の欠陥検査方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小なボイドが欠陥原因となる樹脂基板においても、非破壊の簡易な方法で長期信頼性を評価することが可能な欠陥検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法の工程を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法を実施するための欠陥検査装置の模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法における印加時間を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法における印加時間に発生した全ての部分放電電荷量を積算することを示すグラフである。
【
図5】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法において、単位時間当たりの積算電荷量を判断材料とする根拠として示すグラフ(その1)である。
【
図6】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法において、単位時間当たりの積算電荷量を判断材料とする根拠として示すグラフ(その2)である。
【
図7】本発明の実施形態に係る欠陥検査方法の検出工程S5の詳細な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態を用いて説明するが、以下で説明する実施形態は、本発明の一例を示すものであり、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0014】
本発明の一実施形態に係る欠陥検査方法は、
図1に示すように、印加工程S1と、計測工程S2と、第1算出工程S3と、第2算出工程S4と、検出工程S5とを含む。
本発明の欠陥検査方法を実施する欠陥検査装置は、
図2に示すように、被検査体である樹脂基板を設置する被検査部10と、被検査体である樹脂基板に対して交流電圧を印加する交流電源20と、被検査体である樹脂基板から発生する部分放電を計測する部分放電計測部30と、交流電源20及び部分放電計測部30を制御する制御部40とを備える。なお、交流電源20と制御部40が一体であってもよく、部分放電計測部30と制御部40が一体であってもよい。
【0015】
まず、本発明の欠陥検査方法の検査対象である樹脂基板の好ましい実施形態について説明する。樹脂基板は、好ましくはバインダー樹脂と無機フィラーとを含有する樹脂基板である。無機フィラーを含有する樹脂基板は、放熱性に優れ、かつ絶縁性を良好にでき、パワーデバイスなどに用いられる絶縁放熱基板として好適に使用できる。
本発明では、後述する通り、例えば、10μmを下回るような微小なボイドの有無を検査対象とするものであるが、10μmを下回るような微小なボイドであっても、樹脂基板、特にパワーデバイスなどに使用される絶縁放熱基板では、絶縁寿命を大幅に低下させる欠陥原因となることがある。
【0016】
<バインダー樹脂>
樹脂基板に含有するバインダー樹脂の種類は、特に限定されず、熱可塑性樹脂でもよいし、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂でもよいが、バインダー樹脂が熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂は、硬化剤によって硬化されるとよい。なお、樹脂基板が熱硬化性樹脂を含む場合、最終品である製品形態においては、熱硬化性樹脂は通常は硬化した樹脂として存在するが、一部が未硬化であってもよい。
【0017】
熱硬化性樹脂は、特に限定されないが、尿素樹脂及びメラミン樹脂等のアミノ樹脂、フェノール樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂及びアミノアルキド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。樹脂基板に使用する熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。熱硬化性樹脂としては、上記した中でも、エポキシ樹脂が好ましい。
【0018】
樹脂基板におけるバインダー樹脂の含有量は、10体積%以上であることが好ましく、15体積%以上であることがより好ましく、20体積%以上であることがさらに好ましく、そして35体積%以下であることが好ましく、30体積%以下であることがより好ましい。
【0019】
<無機フィラー>
無機フィラーは、上記したバインダー樹脂に分散されて樹脂基板に含有されるとよい。無機フィラーは、特に限定されないが、酸化物、窒化物、炭化物、ダイヤモンド、及び金属水酸化物などが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、酸化ケイ素(シリカ)などの金属酸化物以外の酸化物が挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどの金属窒化物、窒化ケイ素、窒化ホウ素など金属窒化物以外の窒化物が挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどの金属炭化物、炭化ケイ素、炭化ホウ素などの金属炭化物以外の炭化物が挙げられる。
金属水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
無機フィラーとしては、窒化ホウ素、アルミナ、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、ダイヤモンド、及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
無機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
樹脂基板における無機フィラーの含有量は、樹脂基板の熱伝導性向上の観点から、60体積%以上であることが好ましく、65体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上であることがさらに好ましい。また、樹脂基板における無機フィラーの含有量は、樹脂基板に積層する金属層との密着性を向上させる観点から、90体積%以下であることが好ましく、85体積%以下であることがより好ましく、80体積%以下であることがさらに好ましい。
【0021】
樹脂基板は、上記の通り、バインダー樹脂と、無機フィラーからなるものでもよいが、その他の成分を含有してもよく、例えば、バインダー樹脂に、分散剤、硬化促進剤、カップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、イオン捕捉剤、粘着性付与剤、可塑剤、チソ性付与剤、及び着色剤などの添加剤が配合されてもよい。
【0022】
樹脂基板の厚みは、特に限定されないが、パワーデバイスに使用した際に絶縁性及び熱伝導性を両立させる観点から、1~500μmであることが好ましく、5~400μmであることがより好ましく、10~300μmであることがさらに好ましく、20~200μmであることが特に好ましい。
【0023】
樹脂基板は、一方の面に金属ベース板が設けられ、他方の面に金属板が設けられてもよい。金属ベース板及び金属板は、それぞれ熱伝導体としての機能を発揮するため、その熱伝導率は、10W/(m・K)以上であることが好ましい。これらに用いる材料としては、アルミニウム、銅、金、銀などの金属、及びグラファイトシート等が挙げられる。熱伝導性をより一層効果的に高める観点からは、アルミニウム、銅、又は金であることが好ましく、アルミニウム又は銅であることがより好ましい。
金属ベース板の厚みは、0.1~5mmであることが好ましく、金属板の厚みは、10~2,000μmであることが好ましく、10~900μmであることがより好ましい。なお、金属板としては、銅板のような板や銅箔のような箔の場合も含む。
【0024】
金属ベース板及び金属板を備える樹脂基板は、回路基板として使用することが好ましい。金属ベース板及び金属板を備える樹脂基板を回路基板として使用する場合、金属板は、回路パターンを有してもよい。回路パターンは、回路基板上に実装される素子などに応じて、適宜パターニングすればよい。回路パターンは、特に限定されないが、エッチングなどにより形成されるとよい。また、回路基板において、金属ベース板は、放熱板などとして使用される。
樹脂基板に設けられた金属ベース板、及び金属板は、後述する欠陥検査方法において、樹脂基板に電圧を印加するための電極として使用するとよい。ただし、樹脂基板は、金属ベース板、及び金属板の一方又は両方が設けられなくてよい。この場合、樹脂基板には、検査用に電極を取り付けてもよい。
【0025】
(印加工程S1)
印加工程S1において、被検査体である樹脂基板に対して絶縁破壊電圧よりも低い交流電圧を印加する。
印加工程S1では、まず、被検査体である樹脂基板を被検査部10の設置台に設置する。次に、被検査部10の設置台に設置された樹脂基板の両面に印加端子をそれぞれ配置し、被検査部10と接続されている交流電源20から被検査体である樹脂基板の両面に配置された電極に対して交流電圧を印加する。交流電源20から樹脂基板に対して印加する交流電圧は、被検査体である樹脂基板が絶縁破壊を起こすと正しい検査を行うことができなくなるため、絶縁破壊電圧よりも低い電圧であることを要する。
【0026】
樹脂基板に対して印加する交流電圧は、樹脂基板の定格電圧をV0(kVrms)としたときに2・V0(kVrms)以上3・V0(kVrms)以下であることが好ましく、2・V0+0.1・V0(kVrms)以上3・V0-0.1・V0(kVrms)以下であることが好ましく、2・V0+0.2・V0(kVrms)以上3・V0-0.2・V0(kVrms)以下であることがさらに好ましい。樹脂基板に対して印加する交流電圧を上記範囲とすることで、樹脂基板を破壊することなく、長期信頼性を損なう絶縁欠陥を検出することが可能となる。
なお、定格電圧とは、樹脂基板を使用するパワーデバイス等の電気機器を安全に使用するための最大交流電圧をいう。
【0027】
(計測工程S2)
計測工程S2では、印加工程S1における樹脂基板に対する交流電圧の印加開始から印加終了までの印加時間に、樹脂基板から発生する部分放電を計測する。
計測工程S2では、樹脂基板の両面に配置された電極に交流電源20から交流電圧を印加すると、樹脂基板に微小なボイドがある場合、微小なボイドであっても電界が集中し、微弱な放電(部分放電)が発生する。発生した部分放電の電荷量(pC)は、部分放電計測部30において計測される。部分放電計測部30において計測された全ての部分放電の電荷量(pC)は、制御部40に送信される。なお、ここで、電荷量の単位のpC(ピコクーロン)は、10-12クーロンである。
【0028】
計測工程S2における印加時間は、検査の精度向上、検査の効率向上、及び検査対象である樹脂基板の損傷を抑制して寿命を保持する観点から、検査時間を確保し、かつ、短時間であることが好ましく、1,800秒以下であることが好ましく、1,500秒以下であることがより好ましく、1,200秒以下であることがさらに好ましい。また、計測工程S2における印加時間は、検査の精度向上の観点から、20秒以上であることが好ましく、40秒以上であることがより好ましい。
計測工程S2における印加時間とは、
図3に示すように、樹脂基板に交流電圧を印加開始して基準電圧(0kV
rms)から所望の測定電圧になるまでの昇圧時間(T
1)、所望の測定電圧を維持する定圧時間(T
2)、及び、樹脂基板に交流電圧を印加終了させ基準電圧になるまでの降圧時間(T
3)を含む時間(T
1+T
2+T
3)をいう。なお、昇圧時間(T
1)及び降圧時間(T
3)の合計時間は、特に限定されず、定圧時間(T
2)が一定の時間あるように適宜調整されればよい。昇圧時間(T
1)及び降圧時間(T
3)の合計時間は、定圧時間(T
2)に対して、1/1,000以上150以下であることが好ましく、1/500以上100以下であることがより好ましく、1/100以上10以下であることがさらに好ましい。
【0029】
(第1算出工程S3)
第1算出工程S3において、印加時間に計測された部分放電の積算電荷量を算出する。第1算出工程S3では、制御部40において、部分放電計測部30により印加時間に計測された全ての部分放電の電荷量を積算し、積算電荷量(pC)を算出する。
第1算出工程S3において算出する積算電荷量(pC)は、
図4に示すように、印加時間(T
1+T
2+T
3)に発生した全ての部分放電電荷量(pC)を積算して算出する。
【0030】
(第2算出工程S4)
第2算出工程S4において、積算電荷量(pC)を印加時間(sec)で除算し、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を算出する。
第2算出工程S4では、制御部40において、算出された積算電荷量(pC)及び印加時間(sec)を参照し、積算電荷量(pC)を印加時間(sec)で除算することで単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を算出する。
【0031】
(検出工程S5)
検出工程S5において、算出された単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)に基づいて、絶縁欠陥の有無を検出する。なお、絶縁欠陥とは、樹脂基板の破壊に繋がるボイド(欠陥)があることを意味する。
検出工程S5では、制御部40において、算出された単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を判断材料として、被検査体である樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥の有無を検出する。なお、検出工程S5では、単体で樹脂基板の破壊に繋がる欠陥の有無のみではなく、複数有することで樹脂基板の破壊に繋がる欠陥の有無についても検出することができる。
【0032】
単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥の有無の判断材料とする1つの根拠として、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と破壊寿命(hr)の関係がある。これらの関係を
図5のグラフに示す。ここで、破壊寿命(hr)とは、被検査体である樹脂基板に対して交流電圧を印加することで樹脂基板が破壊されるまでの時間をいい、例えば、60Hz換算の3.4kV
rms破壊寿命をいう。
図5のグラフに示す通り、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)が一定の値Rを超えると、絶縁欠陥があることに起因して破壊寿命(hr)が急激に短くなるという関係がある。
また、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥の有無の判断材料とする1つの根拠として、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)とボイド率(%)との関係がある。これらの関係を
図6のグラフに示す。ここで、ボイド率(%)とは、樹脂基板のSEMによる断面観察により得られる、断面観察面積におけるボイドの占有面積の割合をいう。
図6のグラフより、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)とボイド率(%)との関係は、概ね比例関係を示す。具体的には、ボイド率(%)が増すごとに、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)が増すことになる。すなわち、ボイド率が大きくなると、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)も大きくなることから、ボイド率が一定の値を超えると、
図5のグラフでも示した通りに、破壊寿命が急激に短くなることに繋がる。
つまり、
図5及び
図6のグラフより、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)、ボイド率(%)、及び破壊寿命(hr)には相関があり、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥の有無の判断材料とすることができる。
なお、積算電荷量(pC)ではなく、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥の有無の判断材料とするのは、積算電荷量(pC)は、検査する測定装置及び測定条件により変化があるため、これらの変化を除外するためである。
【0033】
本発明の欠陥検査方法では、予め閾値を設定しておくとよい。上記の通り、第2算出工程で検出された単位時間当たりの積算電荷量は、ボイド率が高くなればなるほど高くなり、一定の値(
図5における「値R」参照)を超えると、上記の通り、破壊寿命が急激に短くなり、長期信頼性を損なう絶縁欠陥があることを意味する。したがって、そのように、長期信頼性が損なわれ、絶縁欠陥が生じる積算電荷量の値Rを、閾値として設定するとよい。閾値は、例えばステップS1を開始する前に予め設定しておき、図示しないメモリなどに保存しておくとよい。
【0034】
そして、検出工程S5では、まず、ステップS51において、
図7に示すように、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と予め設定した閾値とを比較する。ステップS51において、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と予め設定した閾値とを比較し、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)が閾値未満である場合には、ステップS52へ移行し、樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥無し(合格品)と判断する。また、ステップS51において、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と予め設定した閾値とを比較し、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)が閾値以上である場合には、ステップS53へ移行し、樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥有り(不合格品)と判断する。
【0035】
次に、閾値の設定方法についてより詳細に説明する。閾値は、例えば、
図5に示したような、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と破壊寿命(hr)との関係示すグラフを根拠として、特定の破壊寿命(hr)を超える単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を選定する。そして、選定した単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)の値を閾値として予め設定しておくとよい。
具体的には、複数の樹脂基板について、予め単位時間当たりの積算放電電荷量と破壊寿命を測定しておき、
図5に示すように、樹脂基板について、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と、破壊寿命(hr)の関係を求めておき、その関係から閾値を予め設定することができる。上記の通り、所望の破壊寿命より寿命が短くなる値Rがあるが、その値R以下である場合、絶縁欠陥があるとして、値Rを閾値として設定することができる。
なお、閾値の設定方法は上記に限定されず、上記値R以外の任意の値R’を閾値として設定することもできる。上記値R’は上記値Rよりも小さい値でもよく、上記値Rよりも大きい値でもよい。例えば、破壊寿命の短い樹脂基板をより感度よく判断する要求がある場合は、上記値Rよりも小さい値を値R’と設定することができる。あるいは、破壊寿命の長い樹脂基板をより感度よく判断する要求がある場合は、上記値Rよりも大きい値を値R’と設定することができる。
また、上記値Rは検査する測定装置及び測定条件によりばらつきが生じ得るものである。したがって、欠陥検査をする直前に、樹脂基板の標準サンプルを用いて単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と、破壊寿命(hr)の関係を求め、その関係から閾値を設定することができる。
【0036】
閾値の設定方法は、上記に限定されず、
図6に示したような、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)とボイド率(%)との関係を示すグラフを根拠として、特定のボイド率(%)(値S)となるときの積算電荷量(pC/sec)を選定してもよい。そして、選定した単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)(値C)を閾値として設定することができる。
具体的には、複数の樹脂基板について、予めボイド率を測定しておき、
図6に示すように、樹脂基板について、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)と、ボイド率(%)の関係を示す関数Fを求めておく。そして、その関数Fから特定のボイド率(%)(値S)となるときの単位時間当たり積算電荷量の値Cを求め、その値Cを閾値と設定するとよい。なお、関数Fは一次関数でよいが、一次関数に限定されない。
なお、ボイド率の測定は、上記の通り、SEMなどの顕微鏡による断面観察で行うとよいが、観察倍率は、例えば10μm以下、好ましくは1μm以下のボイドが適切に観察できるように、300~1,500倍程度で行うとよい。
設定工程S6において閾値を設定するための特定のボイド率(値S)は、特に限定されず、例えば0%以上0.5%以下、好ましくは0%以上0.2%以下、さらに好ましくは0%以上0.1%以下の範囲から選定すればよいが、樹脂基板の種類や、様々な種類の樹脂基板に対して測定された絶縁寿命の過去のデータなどに基づいて適宜選定すればよい。
なお、設定工程S6において設定する閾値としては、破壊検査により絶縁寿命を測定しなくてもよいという観点から、実用的にはボイド率から設定する方法が好ましい。
【0037】
本発明の欠陥検査方法によれば、単位時間当たりの積算電荷量(pC/sec)を樹脂基板の破壊に繋がる絶縁欠陥の有無の判断材料とすることで、部分放電の開始電圧を測定することが困難である10μmを下回るような微小な欠陥を有する樹脂基板においても長期信頼性を評価することができる。
また、本発明の欠陥検査方法によれば、実際に製品に実装される樹脂基板の全数を非破壊試験で検査することができるので、長期信頼性が実際に保証された樹脂基板を製品に採用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 被検査部
20 交流電源
30 部分放電計測部
40 制御部