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特開2024-83828(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペースト
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  • 特開-(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペースト 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083828
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペースト
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/106 20140101AFI20240617BHJP
【FI】
C09D11/106
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197875
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】浦 正敏
(72)【発明者】
【氏名】米田 雄哉
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AD09
4J039BA39
4J039BC54
4J039BC77
4J039BE12
4J039EA21
4J039EA48
4J039GA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、焼成性及び糸曳性に優れ、印刷適性が高い(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペーストを提供することを課題とする。
【解決手段】重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)由来の構成単位(a1’)と、重合性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単量体(a2)由来の構成単位(a2’)と、連鎖移動剤(C)に由来の化学構造(Ccs)と、を有する(メタ)アクリル系重合体(A)を含む組成物であって、特定の測定方法で測定した前記(メタ)アクリル系重合体(A)の有機溶剤溶液(SA)の粘度(V)が、5Pa・s以下である、組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)由来の構成単位(a1’)と、
重合性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単量体(a2)由来の構成単位(a2’)と、
連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Ccs)と、を有する(メタ)アクリル系重合体(A)を含む組成物であって、
下記測定方法で測定した粘度(V)が、5Pa・s以下である、組成物。
<粘度(V)の測定方法>
1セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度(V0)が10Pa・sになる様に、前記(メタ)アクリル系重合体(A)を有機溶剤(S)で溶解して有機溶剤溶液(SA)を調製する。前記有機溶剤溶液(SA)の1000セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度を粘度(V)とする。
【請求項2】
前記構成単位(a1’)と、前記構成単位(a2’)の合計に対し、前記構成単位(a1’)の質量割合が、2~10質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記連鎖移動剤(C)がコバルト錯体又はメルカプタン化合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系重合体(A)が、水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体(a3)由来の構成単位(a3’)をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の組成物、及びテルピン骨格を有する有機溶剤(S)を含む、有機溶剤溶液(SA)。
【請求項6】
請求項5に記載の有機溶剤溶液(SA)、及び無機粒子を含む、金属ペースト(PA)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の電子部品の内部電極層の形成や太陽電池の導電層の形成等に用いる金属ペーストは、主に、ニッケルや銅等の金属粉体と溶媒、バインダー樹脂からなり、スクリーン印刷等の方法により、シート上に印刷される。特許文献1には、従来のバインダー樹脂として、印刷時に糸引きがなく(以下、糸曳性ともいう。)、印刷適性の高いエチルセルロースが使用されていることが記載されている。
【0003】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化が求められてきている。そのために構成部品であるセラミックグリーンシート、及び導電層を薄層化するとともに、多層化することにより、積層セラミックコンデンサの小型化・大容量化が実現されている。しかし、薄層化にあたっては、焼成時のわずかな焼成残渣により生じる欠陥が、絶縁性の低下や回路の断線を引き起こすという課題があり、熱分解性(以下、焼成性ともいう。)に優れたバインダー樹脂が求められている。一方で従来から汎用的に使用されているエチルセルロースは熱分解性が高くなく、焼成時に焼成残渣である炭素残分が残りやすいとうい課題点を有していた。
【0004】
上記課題を解決すべく様々な手法が検討されており、中でも焼成性に優れる各種アクリル酸エステルを重合したアクリル系重合体を用いることが検討されている。しかしながらアクリル系重合体の粘性は、高分子流体(融液、溶液等)でありながらニュートン流体のような性質があり、エチルセルロースのような非ニュートン流体に特有の印刷適性を発現するためには何らかの粘性調整技術が必要となる。例えば特許文献2には、ヒドロキシウレタン骨格の相互作用にてチキソ性を付与することで印刷適性を向上させることが記載されているが、ヒドロキシウレタン骨格が熱分解時の焼成残渣として残留するという課題点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-85651号公報
【特許文献2】特開2019-196446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、焼成性及び糸曳性に優れ、印刷適性が高い(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペーストを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、(メタ)アクリル系重合体の構造を多分岐の高分子量体にすることで特異的な粘性を発現することを見出した。さらに前記重合体を用いた組成物、有機溶剤溶液及び金属ペーストは、例えば積層セラミックコンデンサの導電ペーストとして用いたときに良好な印刷適性を示し、脱バインダー工程後の焼成残渣を極めて少なくできることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は以下[1]~[6]を要旨とする。
【0009】
[1] 重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)由来の構成単位(a1’)と、
重合性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単量体(a2)由来の構成単位(a2’)と、
連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Ccs)と、を有する(メタ)アクリル系重合体(A)を含む組成物であって、
下記測定方法で測定した粘度(V)が、5Pa・s以下である、組成物。
<粘度(V)の測定方法>
1セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度(V0)が10Pa・sになる様に、前記(メタ)アクリル系重合体(A)を有機溶剤(S)で溶解して有機溶剤溶液(SA)を調製する。前記有機溶剤溶液(SA)の1000セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度を粘度(V)とする。
[2] 前記構成単位(a1’)と、前記構成単位(a2’)の合計に対し、前記構成単位(a1’)の質量割合が、2~10質量%である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記連鎖移動剤(C)がコバルト錯体又はメルカプタン化合物である、[1]に記載の組成物。
[4] 前記(メタ)アクリル系重合体(A)が、水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体(a3)由来の構成単位(a3’)をさらに含む、[1]に記載の組成物。
[5] [1]~[4]の何れか一項に記載の組成物、及びテルピン骨格を有する有機溶剤(S)を含む、有機溶剤溶液(SA)。
[6] [5]に記載の有機溶剤溶液(SA)、及び無機粒子を含む、金属ペースト(PA)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼成性及び糸曳性に優れ、印刷適性が高い(メタ)アクリル系重合体を含む組成物、有機溶剤溶液及び金属ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~9及び比較例1~3における、焼成残渣の着色の度合いを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、「~」とは、特に断りのない限り、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及び「メタクリレート」の総称を、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び「メタクリル」の総称を、「(メタ)アクリロイル」とは「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の総称を意味する。
また、「重合体」とは「単独重合体」及び「共重合体」の総称を意味する。
【0013】
≪組成物≫
本発明の組成物は、(メタ)アクリル系重合体(A)を含む。
[(メタ)アクリル系重合体(A)]
前記(メタ)アクリル単量体は必須成分として、重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)由来の構成単位(a1’)と、重合性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単量体(a2)由来の構成単位(a2’)と、連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Ccs)とを有することを特徴とする。組成物の焼成性及び糸曳性に優れる点から、前記(メタ)アクリル系重合体(A)は多分岐重合体であることが好ましい。前記(メタ)アクリル系重合体(A)は、下記の(メタ)アクリル単量体、連鎖移動剤、重合開始剤を製造原料として重合することにより製造できる。
【0014】
さらに(メタ)アクリル単量体は、場合により、本発明の効果を損なわない範囲で、水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基のうちの1種以上の官能基を有する単量体(a3)由来の構成単位(a3’)を1種以上含むこともできる。
【0015】
[重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)]
(メタ)アクリル系重合体(A)の構成単位(a1’)を形成する重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート等のアリル基及び(メタ)アクリロイル基等からなる群から選択される2つ以上の重合性不飽和二重結合を分子内にもつ単量体が挙げられる。
中でも分岐の密度が高くなり組成物の粘性が良好となり、脱バインダーを行う際の焼成残渣が少なくなる点から、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する(メタ)アクリレートが好ましく、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有し、且つ炭素数2~6のアルキレン基を有する(メタ)アクリレートがより好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがさらに好ましく、エチレングリコールジメタクリレートが特に好ましい。
これら単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
単量体(a1)の使用量は、単量体成分の合計100質量%に対して1質量%~10質量%が好ましい。単量体(a1)の使用量が1質量%以上であれば、重合体の分岐度が高くなり重合体溶液の粘性が良好となる。単量体(a1)の使用量が10質量%以下であれば、製造上の分子量制御が行いやすくなる。
【0017】
単量体(a1)由来の構成単位(a1’)の含有量は、(メタ)アクリル系重合体(A)の総質量に対して1質量%~10質量%が好ましい。構成単位(a1’)の含有量が1質量%以上であれば、重合体の分岐度が高くなり重合体溶液の粘性が良好となる。構成単位(a1’)の含有量が10質量%以下であれば、製造上の分子量制御が行いやすくなる。
なお、構成単位の含有量は、重合の際の単量体の仕込み量から算出することができる。
【0018】
[重合性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単量体(a2)]
(メタ)アクリル系重合体(A)の構成単位(a2’)を形成する重合性不飽和二重結合を分子内に1つ有する単量体(a2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2-ジシクロペンテノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン又はスチレン誘導体;N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類が挙げられる。中でも脱バインダーを行う際の焼成残渣が少なくなる点から、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、炭素数4~20の(メタ)アクリル酸エステル類がより好ましく、直鎖又は分岐鎖の炭素数4~10の(メタ)アクリル酸エステル類がさらに好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレートが特に好ましく、ブチルアクリレート、イソブチルメタクリレートが最も好ましい。
これら単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
単量体(a2)の使用量は、単量体成分の合計100質量%に対して69質量%~99質量%が好ましく、90質量%~99質量%がより好ましい。単量体(a2)の使用量が69質量%以上であれば、製造上の分子量制御が行いやすくなる。単量体(a2)の使用量が99質量%以下であれば、重合体の分岐度が高くなり重合体溶液の粘性が良好となる。
【0020】
単量体(a2)由来の構成単位(a2’)の含有量は、(メタ)アクリル系重合体(A)の総質量に対して69質量%~99質量%が好ましく、90質量%~99質量%がより好ましい。構成単位(a2’)の含有量が69質量%以上であれば、製造上の分子量制御が行いやすくなる。構成単位(a2’)の含有量が99質量%以下であれば、重合体の分岐度が高くなり重合体溶液の粘性が良好となる。
【0021】
構成単位(a1’)と、構成単位(a2’)の合計に対し、構成単位(a1’)の質量割合は、2~10質量%が好ましく、2~8質量%がより好ましい。構成単位(a1’)の質量割合が2質量%以上であれば、重合体の分岐度が高くなり重合体溶液の粘性が良好となる。構成単位(a1’)の質量割合が10質量%以下であれば、製造上の分子量制御が行いやすくなる。
なお、構成単位の含有量は、重合時における単量体の仕込み量から算出することができる。
【0022】
[水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体(a3)]
(メタ)アクリル系重合体(A)は、水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基からなる群から選択される1種以上の官能基を有する単量体(a3)由来の構成単位(a3’)を有していてもよい。
これら単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
水酸基を有する単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのプロピレンオキシド付加物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε-カプロラクトン付加物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの有機ラクトン類付加物が挙げられる。
水酸基を有する単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
置換基を有していてもよいアミノ基としては、無置換のものとしてアミノ基が挙げられる。また、置換基を有するものとして、例えば、モノアルキルアミノ基;ジアルキルアミノ基;アルキルカルボニルアミノ基;ビス(アルキルカルボニル)アミノ基が挙げられる。モノアルキルアミノ基としては、炭素数1~4のモノアルキルアミノ基が挙げられ、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基が挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、炭素数2~8のジアルキルアミノ基が挙げられ、2つのアルキル基はそれぞれ独立であり、同一でも異なっていてもよい。ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数2~4のジアルキルアミノ基が挙げられる。アルキルカルボニルアミノ基としては、例えば、アセチルアミノ基等の炭素数1~4のアルキルカルボニルアミノ基が挙げられる。ビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基等の炭素数2~8のビス(アルキルカルボニル)アミノ基が挙げられる。
置換基を有していてもよいアミノ基を有する単量体としては、例えば、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、ジアルキルアミノ基の炭素数は2~8であることが好ましく、前記ジアルキルアミノ基が結合するアルキル基の炭素数は2~4であることが好ましい。具体的には、例えば、N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。中でも脱バインダー時の焼成残渣が少ない点から、N-ジメチルアミノエチルメタクリレートが好ましい。
置換基を有していてもよいアミノ基を有する単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
酸基としては、例えば、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基が挙げられる。
酸基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フタル酸モノ(2-メタクロイルオキシエチル)エステル、コハク酸モノ(2-(メタ)アクリロイロキシエチル)エステル、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、クロトン酸、イソクロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸等のカルボキシ基を有する単量体;ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドジメチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクロイルオキシエチルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する単量体;モノ(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、ジフェニル((メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシッドホスフェート、3-クロロ-2-アシッド・ホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する単量体を挙げることができる。
中でも脱バインダーを行う際の焼成残渣が少なくなる点から、メタクリル酸が好ましい。
酸基を有する単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
(メタ)アクリル系重合体(A)の製造において単量体(a3)を使用する場合、単量体(a3)の使用量は、単量体成分の合計100質量%に対して0.1質量%~30質量%が好ましく、10質量%以下がより好ましい。単量体(a3)の使用量が、0.1質量%以上であれば、無機粒子の分散性が良好となる。また、30質量%以下であれば脱バインダーを行う際の焼成残渣が少なくなる。
【0026】
(メタ)アクリル系重合体(A)が構成単位(a3’)を含む場合、単量体(a3)由来の構成単位(a3’)の含有量は、(メタ)アクリル系重合体(A)の総質量に対して0.1質量%~30質量%が好ましく、10質量%以下がより好ましい。構成単位(a3’)の含有量が0.1質量%以上であれば、無機粒子の分散性が良好となる。また、構成単位(a3’)の含有量が30質量%以下であれば、脱バインダーを行う際の焼成残渣が少なくなる。
(メタ)アクリル系重合体(A)の総質量に対する構成単位(a1’)~(a3’)の含有量の合計は、100質量%を超えない。
【0027】
[連鎖移動剤(C)]
アクリル系重合体(A)の製造において組成物の焼成性が良好となる点から、連鎖移動剤(C)としてはコバルト錯体又はメルカプタン化合物が好ましく、コバルト錯体又はメルカプトアルコールがより好ましい。
【0028】
コバルト錯体としては、例えば、酢酸コバルト(II)四水和物とジフェニルグリオキシム、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体の反応物を挙げることができる。
【0029】
メルカプタン化合物としては、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、オクチルチオグリコレート;メルカプトエタノール等のメルカプトアルコールを挙げることができる。
【0030】
その他の連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンダイマー、各種アルコール系溶剤が挙げられる。
【0031】
組成物の焼成性が良好となる点から、コバルト錯体は1種を単独で用いることが好ましい。コバルト錯体以外の連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
中でもコバルト錯体を使用することで、重合体の末端構造にラジカル重合性基が付与され脱バインダーを行う際の焼成開始温度が低くなる点から、コバルト錯体を使用することが好ましい。
【0032】
目的とする重合体の分子量と連鎖移動剤の種類による固有の連鎖移動定数によって、連鎖移動剤の使用量を調整することができる。コバルト錯体は一般的に連鎖移動定数が高いため、連鎖移動剤(C)としてコバルト錯体を用いる場合、連鎖移動剤(C)の使用量は、単量体成分の合計100質量%に対して0.001質量%~0.1質量%が好ましい。連鎖移動剤(C)の使用量が0.001質量%以上であれば、低分子量化し易く、さらに重合体の主鎖分子末端に2重結合が導入されやすい。連鎖移動剤(C)の使用量が0.1質量%以下であれば、製造原価が安価となる。
連鎖移動剤(C)としてコバルト錯体以外のものを用いる場合、連鎖移動剤(C)の使用量は、単量体成分の合計100質量%に対して0.1質量%~10質量%が好ましい。連鎖移動剤(C)の使用量が0.1質量%以上であれば、低分子量化し易くなる。連鎖移動剤(C)の使用量が10質量%以下であれば、製造原価が安価となる。
【0033】
連鎖移動剤(C)としてコバルト錯体を用いる場合、連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Cst)の含有量は、(メタ)アクリル系重合体(A)の総質量に対して0.001質量%~0.1質量%が好ましい。化学構造(Cst)の含有量が0.001質量%以上であれば、低分子量化し易く、さらに重合体の主鎖分子末端に2重結合が導入されやすい。化学構造(Cst)の含有量が0.1質量%以下であれば製造原価が安価となる。
連鎖移動剤(C)としてコバルト錯体を用いる場合、連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Cst)としては、CH=C<が好ましい。
連鎖移動剤(C)としてコバルト錯体以外のものを用いる場合、連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Cst)の含有量は、(メタ)アクリル系重合体(A)の総質量に対して0.1質量%~10質量%が好ましい。化学構造(Cst)の含有量が0.1質量%以上であれば、低分子量化し易くなる。化学構造(Cst)の含有量が10質量%以下であれば、製造原価が安価となる。
連鎖移動剤(C)としてコバルト錯体以外のものを用いる場合、連鎖移動剤(C)由来の化学構造(Cst)としては、例えば、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20のアルキルチオ基が挙げられる。直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20のアルキルチオ基における炭素原子は、酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子で置換されて、それぞれエーテル結合(-C-O-C-)、-C-NH-C-、及びチオエーテル結合(-C-S-C-)の結合を形成していてもよく、炭素原子に結合する水素原子は、水酸基等の置換基で置換されていてもよく、炭素原子に結合する2つの水素原子が1つの酸素原子で置換されてカルボニル基に変換されていてもよい。直鎖又は分岐鎖の炭素数1~20のアルキルチオ基の炭素数は、2~15が好ましく、2~10がより好ましく、2~6がさらに好ましく、2~4が特に好ましい。
【0034】
ここで「主鎖」とは、単量体(a1)の一方の重合性不飽和結合と単量体(a2)とが重合して形成される飽和炭化水素鎖を有する構造のうち、最も長い飽和炭化水素鎖を有する構造を意味する。単量体(a1)の他方の重合性不飽和結合と単量体(a2)とが重合して形成される飽和炭化水素鎖を有する構造は、主鎖には含めないものとする。
「多分岐構造」とは、前記主鎖と、前記主鎖から分岐する分岐鎖とを有する構造を意味する。
「分岐鎖」とは、前記主鎖以外の、重合反応により形成される飽和炭化水素鎖を有する構造を意味し、例えば、単量体(a1)の他方の重合性不飽和結合と単量体(a2)とが重合して形成される飽和炭化水素鎖を有する構造は、分岐鎖を構成するものとする。
【0035】
前記各種アルコール系溶剤は、特に使用量の制限はなく、重合用の溶剤としても使用可能である。
【0036】
[重合開始剤]
(メタ)アクリル系重合体(A)の製造において、ラジカル重合を行う際の熱重合開始剤としては特に限定されず、有機過酸化物、アゾ系化合物等の通常のラジカル重合開始剤を使用できる。
【0037】
有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ジt-アミルパーオキサイドが挙げられる。
【0038】
アゾ系化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。
【0039】
これらラジカル重合開始剤は、いずれか一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
熱重合開始剤の使用量は、目的とする重合体の分子量によって適宜決定することができる。多分岐重合体の主鎖を低分子量化することができる点から、熱重合開始剤のみで低分子量化する場合は、単量体成分の合計100質量%に対して5質量%以上が好ましい。一方で熱重合開始剤と連鎖移動剤を併用する場合は少量の使用量でよく、連鎖移動剤の使用量にもよるが、熱重合開始剤の使用量は、単量体成分の合計100質量%に対して0.1~5質量%が好ましい。熱重合開始剤の使用量が、前記範囲内であれば、少ない程、製造原価が安価となる。
【0041】
コバルト錯体の連鎖移動剤を使用する場合は、連鎖移動効率が低下しない点から、熱重合開始剤としてはアゾ系化合物を選択することが好ましい。
【0042】
(メタ)アクリル系重合体の分子量を一般的にはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算により得られるが、本発明の組成物に含まれる(メタ)アクリル系重合体(A)は超高分子量であり、主鎖分子が重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)由来の構成単位(a1’)により繋がれた構造となっている。(メタ)アクリル系重合体(A)の主鎖の分子量は重量平均で10,000~40,000が好ましく、15,000~25,000がより好ましい。40,000以下であれば製造上の分子量制御が行いやすく、10,000以上であれば良好な粘性を発現することができる。(メタ)アクリル系重合体(A)の主鎖の分子量は、重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)を使用せずに重合した重合体をGPCで測定することで、モデル的に求めることができる。
【0043】
アクリル系重合体(A)のガラス転移温度は-20~100℃が好ましく、-15~60℃がより好ましい。-20℃以上であれば組成物の硬化塗膜の硬度を保つことができ、100℃以下であれば強靭な組成物の硬化塗膜を得ることができる。
【0044】
無機粒子の分散性は酸塩基相互作用によることが古くから知られており、無機粒子の表面官能基の種類に応じて、アクリル系重合体(A)の官能基の種類を選択することができる。無機粒子の分散性の点から、無機粒子の表面が、酸性表面の場合には、アクリル系重合体(A)の官能基の種類は置換基を有していてもよいアミノ基が好ましく、無機粒子の表面が、塩基性表面の場合には、アクリル系重合体(A)の官能基の種類は酸基や水酸基が好ましい。アクリル系重合体(A)は、水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基のうちの1種以上の極性官能基を付与することで無機粒子の分散性が良好となる。
【0045】
即ち、無機粒子の分散性の点から、前記(メタ)アクリル系重合体(A)が、水酸基、置換基を有していてもよいアミノ基、及び酸基のうちの1種以上の官能基を有する単量体(a3)由来の構成単位を1種以上有することが好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル系重合体(A)の水酸基価は0~200mgKOH/gが好ましく、0~150mgKOH/gがより好ましい。水酸基価を200mgKOH/g以下とすることにより、(メタ)アクリル系重合体(A)の溶剤への溶解性が良好となる。無機粒子の表面に酸基や置換基を有していてもよいアミノ基等の相性の良い官能基が有する場合は、(メタ)アクリル系重合体(A)の水酸基価は、0mgKOH/gであっても無機粒子の分散性を保つことができる。
(メタ)アクリル系重合体(A)の水酸基価は、実施例に記載された方法で測定できる。
【0047】
(メタ)アクリル系重合体(A)の酸価は、0~60mgKOH/gが好ましく、0~15mgKOH/gがより好ましい。酸価を60mgKOH/g以下とすることにより、アクリル系重合体(A)の溶剤への溶解性が良好となる。無機粒子の表面に水酸基や置換基を有していてもよいアミノ基等の相性の良い官能基が有する場合は、(メタ)アクリル系重合体(A)の酸価は0mgKOH/gであっても無機粒子の分散性を保つことができる。
(メタ)アクリル系重合体(A)の酸価は、実施例に記載された方法で測定できる。
【0048】
(メタ)アクリル系重合体(A)のアミン価は、0~170mgKOH/gが好ましく、0~15mgKOH/gがより好ましい。アミン価を170mgKOH/g以下とすることにより、(メタ)アクリル系重合体(A)の溶剤への溶解性が良好となる。無機粒子の表面に水酸基や酸基等の相性の良い官能基が有する場合は、アミンを0mgKOH/gであっても無機粒子の分散性を保つことができる。
(メタ)アクリル系重合体(A)のアミン価は、実施例に記載された方法で測定できる。
【0049】
[粘度(V)]
(メタ)アクリル系重合体(A)の粘度は、下記測定方法で測定した粘度(V)が、5Pa・s以下であり、4.0Pa・s~0.1Pa・sが好ましく、3.0Pa・s~0.1Pa・sがより好ましい。粘度(V)が、前記範囲内であれば、スクリーン印刷などの印刷適性が良好となる。
<粘度(V)の測定方法>
1セカンドインバース(sec-1)のせん断速度で測定した23℃における粘度(V0)が10Pa・sになる様に、前記(メタ)アクリル系重合体(A)を有機溶剤(S)で溶解して有機溶剤溶液(SA)を調製する。前記有機溶剤溶液(SA)の1000セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度を粘度(V)とする。
【0050】
[有機溶剤(S)]
1セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度(V0)が10Pa・sになる様に有機溶剤(S)で溶解した(メタ)アクリル系重合体(A)を含む組成物の有機溶剤溶液(SA)を調整する際に、使用される有機溶剤(S)としては、前記(メタ)アクリル系重合体(A)を溶解可能な溶剤であればよい。有機溶剤(S)としては、例えば、沸点が80℃~300℃のものが好ましく、100℃~250℃のものがより好ましく、150℃~230℃のものがさらに好ましい。沸点が、前記範囲内のものであれば、印刷適性が良好となる。なお、有機溶剤(S)の沸点は、加熱して沸騰が始まる温度であり、JIS K 2233の平衡還流沸点測定法などで測定できる。有機溶剤(S)としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート等のテルピン系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール系溶剤;スーパーゾール100(新日本石油株式会社製、製品名)、シクロヘキサン等の炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0051】
中でもターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテート等のテルピン系溶剤、及びブチルカルビトールアセテート等の沸点が150℃以上であるものが、印刷適性の点から好ましい。中でもテルピン系溶剤がより好ましく、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピニルアセテートがさらに好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
[重合方法]
アクリル系重合体(A)を得るための重合法としては、特に限定されず、例えば、従来から知られるラジカル重合開始剤の存在下での溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等の重合方法が挙げられる。
【0053】
溶液重合法を用いて製造する場合の有機溶剤としては、前記の1セカンドインバースのせん断速度で測定した23℃における粘度(V0)が10Pa・sになる様に有機溶剤(S)で溶解した(メタ)アクリル系重合体(A)を含む組成物の有機溶剤溶液(SA)を調整する際に使用される有機溶剤(S)と同じ有機溶剤を使用することができる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
≪有機溶剤溶液(SA)≫
本発明の組成物及び有機溶剤溶液(SA)は、本発明のアクリル系重合体(A)を含む組成物が前記有機溶剤(S)で溶解された有機溶剤溶液である。
【0055】
塗装及び印刷時の乾燥性が早くなり過ぎず、作業性が良好となる点から、本発明の組成物及び有機溶剤溶液(SA)は、組成物がテルピン骨格を有する有機溶剤(S)を含むことが好ましい。
【0056】
本発明の組成物及び有機溶剤溶液(SA)は、アクリル系重合体(A)を1種のみ含んでいてもよく、構成単位の種類や物性等の異なるアクリル系重合体(A)を2種以上含んでいてもよい。
【0057】
また、本発明の組成物及び有機溶剤溶液(SA)は、アクリル系重合体(A)以外のその他重合体が含まれていてもよい。さらに本発明の組成物及び有機溶剤溶液(SA)は、その他の機能を付与する各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0058】
[その他の重合体]
アクリル系重合体(A)以外のその他の重合体としては、例えば、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0059】
[添加剤]
本発明の組成物及び有機溶剤溶液(SA)には、レベリング剤、消泡剤、沈降防止剤、帯電防止剤、無機粒子の分散剤、ラジカル発生剤等の添加剤を加えてもよい。
アクリル系重合体(A)及び有機溶剤(S)と、任意成分としてのその他の重合体及び添加剤との合計は、組成物又は有機溶剤溶液(SA)の総質量を100質量%として、100質量%を超えない。
【0060】
≪有機溶剤溶液(SA)の製造方法≫
公知の混合方法を用いてアクリル系重合体(A)を有機溶剤(S)に溶解すればよいが、例えば、公知の(メタ)アクリル系重合体(A)を有機溶剤(S)に溶解することもできるし、溶液重合法を用いて(メタ)アクリル系重合体(A)を製造する場合の有機溶剤として有機溶剤(S)を用いることにより、(メタ)アクリル系重合体(A)が有機溶剤(S)に溶解した状態で得ることもできる。
【0061】
≪金属ペースト(PA)≫
本発明の金属ペースト(PA)は、アクリル系重合体(A)を含む組成物が前記有機溶剤(S)で溶解された有機溶剤溶液中に、無機粒子を分散させたものである。本発明の有機溶剤溶液(SA)及び金属ペースト(PA)は、塗装や印刷等での加工が可能となる点から、さらに無機粒子を含むことが好ましい。
【0062】
[無機粒子]
無機粒子としては、金属を含む無機粒子が好ましく、例えば、金属粉末、金属酸化物粉末、ガラス粉末、セラミック粉末が挙げられる。
【0063】
金属粉末としては、例えば、ニッケル、チタン、パラジウム、白金、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、タングステン等の金属や、それらの合金からなる粉末が挙げられる。
金属酸化物粉末としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)が挙げられる。
ガラス粉末としては、例えば、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラスが挙げられる。
セラミック粉末としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素が挙げられる。
これらの無機粉末は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0064】
≪無機粒子を含む有機溶剤溶液(SA)及び金属ペースト(PA)の製造方法≫
[無機粒子の分散方法]
公知の混合方法を用いて分散すればよいが、例えば、3本ロールや遊星式の混錬機を用いて分散できる。
【0065】
≪組成物、有機溶剤溶液(SA)、及び金属ペースト(PA)を用いたフィルムの製造方法≫
公知の混合方法を用いて製膜すればよいが、例えば、基材等に組成物、有機溶剤溶液(SA)、又は金属ペースト(PA)を塗布又は印刷し、乾燥して製膜する方法が挙げられる。
[塗布方法又は印刷方法]
塗布方法又は印刷方法としては、スクリーン印刷が主に用いられるが、例えば、ドクターブレードやハケ塗り、スプレーコート、ディップコート、スピンコート、フローコートが挙げられる。
[乾燥方法]
基材等に塗布又は印刷した組成物、有機溶剤溶液(SA)、又は金属ペースト(PA)を乾燥させる方法としては、例えば、80~105℃、0.5~10分間の加熱処理により乾燥させることが好ましい。前記処理方法であれば、本発明の組成物、有機溶剤溶液(SA)、又は金属ペースト(PA)を効率よく乾燥させることができる。
【0066】
≪組成物、有機溶剤溶液(SA)、及び金属ペースト(PA)の用途≫
本発明の組成物、有機溶剤溶液(SA)、及び金属ペースト(PA)は、積層セラミックコンデンサ等の電子部品の内部電極層の形成や太陽電池の導電層の形成等に使用できる。
【実施例0067】
以下、製造例及び実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
なお、以下において、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0068】
[アクリル系重合体の官能基価]
水酸基、酸基、及び置換基を有していてもよいアミノ基の各官能基価は重合体中に含まれる官能基の量を示すもので、水酸基は水酸基価、酸基は酸価、置換基を有していてもよいアミノ基はアミン価と表現し、単位はmgKOH/gで表す。各官能基価は共重合体中の各官能基を有する単量体の重量部数から求めることができ、下記式(1)で算出した。
官能基価={(官能基を有する単量体の質量部数)÷(官能基を有する単量体の分子量/56.1)}×10 ・・・式(1)
【0069】
[粘度(V)の測定]
Physica製の粘弾性測定器MCR-300を用いて、有機溶剤溶液(SA)の粘度がシェアレート1セカンドインバース、23℃の条件で測定したときに10Pa・sになる様に溶剤で希釈調製したサンプルを準備し、シェアレートが1000セカンドインバース、23℃のときの粘度(V)を測定した。粘度(V)が大きいほど、印刷適性に優れる。
【0070】
[糸曳性]
長さ20cmの直径0.5mmの丸棒を(メタ)アクリル系重合体を含む有機溶剤溶液に1cmほど浸漬し、30cm/秒の速度で引き上げた際に、有機溶剤溶液と丸棒の間で糸を曳く程度を目視確認することで、以下の基準により糸曳性を評価した。
[評価基準]
○:糸を曳かない。
△:糸を曳くが直ぐに切れる。
×:糸を曳くが、糸が切れるのに1秒以上を要する。
【0071】
[焼成性]
重合体を含む組成物をアルミパンに重合体の固形分が5mgとなるように秤量した。次に秤量サンプルを、TG/DTAの装置を用い、窒素雰囲気下で室温から500℃までを15℃/分の昇温速度で昇温し、400℃及び500℃時点での残留物の重量を測定した。さらに、残渣の着色評価として500℃まで昇温した後のアルミパンに残った残渣の色を目視で確認し、以下の基準により焼成性を評価した。熱分解時の残渣が少ないほど、着色が少なく、焼成性に優れる。
〇:着色していない。
×:着色している。
【0072】
[合成例1:連鎖移動剤1(コバルト錯体)の合成]
撹拌装置を備えた合成装置中に、窒素雰囲気下で、酢酸コバルト(II)四水和物を1.00g、ジフェニルグリオキシムを1.93g及び、あらかじめ窒素バブリングにより脱酸素したジエチルエーテルの80mLを入れ、室温で30分間攪拌した。ついで、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を10mL加え、さらに6時間攪拌した。混合物をろ過し、固体をジエチルエーテルで洗浄し、15時間真空乾燥して、赤褐色固体である連鎖移動剤1を2.12g得た。
【0073】
[製造例1:アクリル系重合体(A-1)を含む有機溶剤溶液(SA)の製造]
温度計、温度調整機、撹拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器に酢酸n-ブチル45部を仕込み攪拌を開始し、連鎖移動剤1を0.01部秤量したものを酢酸n-ブチル5部で洗い流しながら反応容器内に添加した。重合装置内を十分に窒素置換し、90℃に昇温した。そこに、イソブチルメタクリレート98部、エチレングリコールジメタクリレート2部、酢酸n-ブチル26部、アゾビスメチルブチロニトリル0.34部含む単量体含有混合物を4時間かけて滴下した。滴下中に粘度上昇を抑えながら適宜酢酸n-ブチルを投入し攪拌を維持した。滴下終了後、酢酸n-ブチル5部を急速滴下し、その後60分間熟成した。その後さらに酢酸n-ブチル1部及びアゾビスメチルブチロニトリル0.1部含む混合物を添加し、その後30分間隔で酢酸n-ブチル1部及びアゾビスメチルブチロニトリル0.2部含む混合物を2度添加し、90分間熟成した。反応中は攪拌が維持できる程度に、都度酢酸ブチルを添加し攪拌を継続した。固形分15.0質量%のアクリル系重合体(A-1)を含む有機溶剤溶液(SA)を得た。
【0074】
[製造例2:アクリル系重合体(A-2)を含む有機溶剤溶液(SA)の製造]
温度計、温度調整機、撹拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器にターピネオール50部を仕込み攪拌を開始した。重合装置内を十分に窒素置換し、90℃に昇温した。そこに、イソブチルメタクリレートを92.5部、エチレングリコールジメタクリレートを6部、ブチルアクリレートを0.5部、メルカプトエタノールを1部、ターピネオールを25部、ターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを0.8部含む単量体含有混合物を4時間かけて滴下した。滴下中に粘度上昇を抑えながら適宜ターピネオールを投入し攪拌を維持した。滴下終了後、ターピネオール15部を急速滴下し、その後60分間熟成した。その後ターピネオールを20部及びターシャリーブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを0.5部含む混合物を30分かけて滴下し、90分間熟成した。反応中は攪拌が維持できる程度に、都度ターピネオールを添加し攪拌を継続した。固形分20質量%のアクリル系重合体(A-2)を含む有機溶剤溶液(SA)を得た。
【0075】
[製造例3~9:アクリル系重合体(A-3~A-9)を含む有機溶剤溶液(SA)の製造]
各成分の種類及びその使用量を表1の条件に変更した以外は、製造例2と同様の条件にて重合を行い、アクリル系重合体(A-3~A-9)を含む有機溶剤溶液(SA)を得た。
【0076】
[製造例10:アクリル系重合体(A-10)を含む有機溶剤溶液の製造]
エチレングリコールジメタクリレートを使用せずにイソブチルメタクリレートを100部とした以外は、製造例1と同様の条件にて重合を行い、アクリル系重合体(A-10)を含む有機溶剤溶液を得た。
【0077】
[製造例11:アクリル系重合体(A-11)を含む有機溶剤溶液の製造]
温度計、温度調整機、撹拌装置、還流冷却器、窒素ガス導入管及び滴下装置を備えた反応容器に酢酸n-ブチルを50部仕込み攪拌を開始した。重合装置内を十分に窒素置換し、90℃に昇温した。次に、イソブチルメタクリレートを100部、酢酸n-ブチルを26部、アゾビスメチルブチロニトリルを0.34部含む単量体含有混合物を4時間かけて滴下した。滴下中に粘度上昇を抑えながら適宜酢酸ブチルを投入し攪拌を維持した。滴下終了後、酢酸n-ブチルを5部急速滴下し、その後60分間熟成した。その後酢酸n-ブチル1部及びアゾビスメチルブチロニトリル0.1部含む混合物を添加し、その後30分間隔で酢酸ブチル1部及びアゾビスメチルブチロニトリル0.2部含む混合物を2度添加し、90分間熟成した。反応中は攪拌が維持できる程度に、都度酢酸n-ブチルを添加し攪拌を継続した。固形分濃度が33.1質量%のアクリル系重合体(A-11)を含む有機溶剤溶液を得た。
【0078】
[実施例1~9]
製造例1から製造例9で得られたアクリル系重合体(A-1~A-9)を含む有機溶剤溶液(SA)を用いて各種性能評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
[比較例1、2]
製造例10と製造例11で得られたアクリル系重合体(A-10、A-11)を含む有機溶剤溶液を用いて各種性能評価を行った。結果を表2に示す。
【0080】
[比較例3]
積層セラミックコンデンサの導電ペースト用バインダーに一般的に用いられるエチルセルロースSTD45(商品名:エトセル、日新化成株式会社製)を用いて各種性能評価を行った。エチルセルロースSTD45は、固形分濃度が5質量%となるようにターピネオールで希釈調製したものを用いた。結果を表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
なお、表1中の略号は以下を意味する。表1中の各単量体及び連鎖移動剤の仕込み量(単位:質量部)は、アクリル系重合体の総質量に対する各構成単位及び化学構造の含有量(単位:質量%)に対応する。
・IBMA:イソブチルメタクリレート。
・BA:ブチルアクリレート。
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート。
・HEA:ヒドロキシエチルアクリレート。
・HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート。
・DMMA:ジメチルアミノエチルメタクリレート。
・MMA:メタクリル酸。
・ME:メルカプトエタノール。
・AMBN:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)。
・パーブチルO:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート。
・BCA:ブチルカルビトールアセテート。
・BR-101:三菱ケミカル株式会社製 固形アクリル樹脂 重量平均分子量16万。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示す様に、実施例1~9の結果から、本発明の(メタ)アクリル系重合体(A)を含む有機溶剤溶液(SA)は、糸曳性及び焼成性が良好であるとともに、粘度(V)が低くチキソ性が高い粘性を示しているためスクリーン印刷の印刷適性が高いことがわかった。一方、重合性不飽和二重結合を分子内に2つ以上有する単量体(a1)由来の構成単位(a1’)を有さない分岐の無いアクリル系重合体を使用した比較例1及び2は、焼成性は良好であるが、糸曳性が悪かった。なお、比較例1は、粘度(V)が高すぎて測定できなかった。
比較例3は、従来からペーストバインダーとして用いられているエチルセルロースを使用した例であるが、焼成残渣が多く、焼成性が悪かった。
図1