(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008385
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】金属電着用の陰極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/02 20060101AFI20240112BHJP
C25C 1/08 20060101ALI20240112BHJP
C25D 17/10 20060101ALI20240112BHJP
C22B 23/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
C25C7/02 303
C25C1/08
C25D17/10 A
C25D17/10 B
C22B23/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110217
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓二
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA19
4K001AA24
4K001AA30
4K001DB21
4K058BA17
4K058EB03
4K058EB13
4K058EB14
4K058FB03
(57)【要約】
【課題】表面に千鳥状に突起部が形成されている金属板に、ディスペンサーを用いて熱硬化性樹脂を塗布して金属電着用の陰極板を製造する際に、非導電膜の膜厚の部分的なバラツキを回避すること。
【解決手段】複数の円盤状の突起部2aが千鳥状の配置で表面に形成されている金属板2の表面に、ディスペンサー6を用いて熱硬化性樹脂を塗布することによって、突起部2aが形成されいない部分に非導電膜3を形成する非導電膜形成工程を含んでなり、非導電膜形成工程においては、ディスペンサー6の吐出ノズル61を、突起部2aの周縁からの距離wが等距離となる曲線上を移動させながら、熱硬化性樹脂を塗布する、金属電着用の陰極板の製造方法とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属電着用の陰極板の製造方法であって、
複数の円盤状の突起部が千鳥状の配置で表面に形成されている金属板の表面に、ディスペンサーを用いて熱硬化性樹脂を塗布することによって、前記突起部が形成されいない部分に非導電膜を形成する非導電膜形成工程を含んでなり、
前記非導電膜形成工程においては、前記ディスペンサーの吐出ノズルを、前記突起部の周縁からの距離が等距離となる曲線上を移動させながら、前記熱硬化性樹脂を塗布する、
金属電着用の陰極板の製造方法。
【請求項2】
前記金属板の少なくとも一方の表面に前記突起部を形成する金属板加工工程と、
前記非導電膜形成工程と、が、順次行われる、
請求項1に記載の陰極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属電着用の陰極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケルメッキのアノード原料として供せられる電気ニッケルは、アノード保持具となるチタンバスケット内に入れられ、ニッケルメッキ槽内に吊るされて使用されている。そして、チタンバスケット内での棚吊りの発生に起因するメッキむらを回避するために、上述の電気ニッケルとしては、角部の取れた丸みのある小塊状(ボタン状)の電気ニッケルが広く使用されている。
【0003】
このような小塊状の電気ニッケルは、例えば、複数の円形状の導電部が等間隔に配列されている陰極板(
図1参照)を用いて、電解により各導電部にニッケルを析出させた後、各導電部から電着したニッケルを剥ぎ取ることにより製造されている。
【0004】
図1は、上述した小塊状の電気ニッケルの製造に用いられる陰極板(本明細書において「金属電着用の陰極板」とも言う)の一例を示している。陰極板1は、矩形状の金属板2上において千鳥状に配置されている導電部2cが表面に露出していて、同表面における導電部2cの露出している範囲を除いたその他の全ての部分を被覆して非導電膜3が形成されている。このような陰極板1を用いることで、導電部2cに適度な大きさのニッケルを電着させ、小塊状の電気ニッケルを効率良く製造することができる。尚、金属電着用の陰極板における導電部2cの配置は、例えば、
図5に示すような単純な格子状の配置であってもよいが、金属電着用の陰極板1枚当たりの小塊状の電気ニッケルの製造個数を増やすために、
図6に示すような千鳥状の配置とすることがより好ましい。
【0005】
上記の構成からなる金属電着用の陰極板を、耐久性等の品質の安定性を保持しながら効率良く製造する方法として、金属板2の表面に予め適切な配置で複数の円盤状の凸部である突起部2a(導電部2cとなる部分)を形成し、金属板2の当該表面における突起部2aが形成されていない部分に、ディスペンサーを用いて熱硬化性樹脂を隈なく塗布する製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記のような金属板の表面へのディスペンサーを用いた熱硬化性樹脂の塗布は、ディスペンサーの移動の制御が容易であり、高速での塗布が行い易いことから、従来は、
図5又は
図6に示すように、熱硬化性樹脂を塗布するディスペンサーを、金属板上で突起部2aの間を縫って直線的に移動させる塗布方法によって行われていた。
【0008】
金属電着用の陰極板の製造においては、熱硬化性樹脂の塗布量(膜厚)を、非導電膜の形成域全体において高い精度で均一な塗布量(膜厚)に保持することが極めて重要である。これにより、金属板上の非導電膜が欠落しにくく、多数回繰り返し使用可能な金属電着用の陰極板を提供することができるようになるからである。しかしながら、特に
図6に示すように、複数の突起部2aが千鳥状に配置されている金属板2に、上述した従来の塗布方法によって熱硬化性樹脂を塗布した場合に、非導電膜3の膜厚に部分的なバラツキが生じやすい傾向があることを、本願発明者は、独自の知見として認識するに至った。
【0009】
本発明は、表面に千鳥状に突起部が形成されている金属板に、ディスペンサーを用いて熱硬化性樹脂を塗布して金属電着用の陰極板を製造する際に、非導電膜の膜厚の部分的なバラツキを回避することができる、金属電着用の陰極板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、金属板の表面における突起部以外の部分にディスペンサーで樹脂を塗布する際、ディスペンサーを、突起部の周縁に沿う曲線上を移動させながら、熱硬化性樹塗布することによって、上記課題を解決することできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1) 金属電着用の陰極板の製造方法であって、複数の円盤状の突起部が千鳥状の配置で表面に形成されている金属板の表面に、ディスペンサーを用いて熱硬化性樹脂を塗布することによって、前記突起部が形成されいない部分に非導電膜を形成する非導電膜形成工程を含んでなり、前記非導電膜形成工程においては、前記ディスペンサーの吐出ノズルを、前記突起部の周縁からの距離が等距離となる曲線上を移動させながら、前記熱硬化性樹脂を塗布する、金属電着用の陰極板の製造方法。
【0012】
(2) 前記金属板の少なくとも一方の表面に前記突起部を形成する金属板加工工程と、前記非導電膜形成工程と、が、順次行われる、(1)に記載の陰極板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面に千鳥状に突起部が形成されている金属板に、ディスペンサーを用いて熱硬化性樹脂を塗布して金属電着用の陰極板を製造する際に、非導電膜の膜厚の部分的なバラツキを回避することができる。又、これにより、金属板上の非導電膜が欠落しにくく、多数回繰り返し使用可能な金属電着用の陰極板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る金属電着用の陰極板の構成を示す平面図である。
【
図2】本発明に係る金属電着用の陰極板の構成を示す要部拡大断面図であり、(a)はニッケル電着前の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図であり、(b)はニッケル電着後の陰極板の状態を説明する要部拡大断面図である。
【
図3】本発明の金属電着用の陰極板の製造方法を説明する要部拡大断面図であり、(a)は、非導電膜形成工程を行う前の状態における陰極板を構成する金属板の要部拡大断面図であり、(b)は非導電膜形成工程を行った後の状態における陰極板の要部拡大断面図である。
【
図4】本発明の金属電着用の陰極板の製造方法の実施に用いることができるディスペンサーの構造の一例を模式的に示す説明図である。
【
図5】複数の突起部が格子状に配置されている金属板を用いる場合における、ディスペンサーの吐出ノズルの直線状の移動ルートの一例を示す図である。
【
図6】複数の突起部が千鳥状に配置されている金属板を用いる場合における、ディスペンサーの吐出ノズルの直線状の移動ルートの一例を示す図である。
【
図7】本発明の金属電着用の陰極板の製造方法におけるディスペンサーの吐出ノズルの曲線状の移動ルートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0016】
<金属電着用の陰極板>
[全体構成]
本発明の金属電着用の陰極板の製造方法によって製造することができる金属電着用の陰極板である陰極板1は、
図1に示すように、複数の円盤状の突起部2aが千鳥状に配列されている金属板2と、金属板2の表面における突起部2a以外の部分に形成される非導電膜3とを有する。陰極板1は、後述するように、例えばニッケルを含む電解液や陽極を収容する電解槽内に吊下げ部材5により吊下げられて使用され、その表面に所望とする形状のニッケルを電着析出させる。
【0017】
[金属板]
金属板2は、
図1及び
図2(a)に示すように、平板状の金属の板であり、複数の円盤状の突起部2aを有する。本明細書においては、金属板2の表面における突起部2a以外の部分を、突起部2aに対して「平坦部2b」と言う。又、円盤状の突起部の高さXは、金属板2における平坦部2bの表面からの突出高さとする。尚、
図2では、金属板2の一方の面に突起部2aを有する例を示しているが、その両方の面に突起部2aを有していてもよい。
【0018】
金属板2の大きさは、特に限定されず、製造する電気ニッケルの所望の大きさや数に応じて適宜設定すればよい。例えば、一辺が100mm以上、2000mm以下の矩形状の大きさとすることができる。又、金属板2の厚みは、突起部2aを一方の表面に設ける場合には、1.5mm以上、5mm以下程度であることが好ましく、突起部2aを両方の表面に設ける場合には、3mm以上、10mm以下程度であることが好ましい。金属板2の厚みが過小であると、突起部2aと平坦部2bとによって反りが生じやすくなる傾向がある。一方で、金属板2の厚みが過大であると、金属板2の重量が増大して取り扱いが困難になる。金属板2の材質としては、使用する電解液による腐食が小さく、ニッケル等の電着物と緩い接着しか形成しない金属であれば特に限定されないが、チタン、ステンレス鋼を金属板2の材質として好ましい金属の例として挙げることができる。
【0019】
金属板2において、複数の円盤状の突起部2aは、その表面が、非導電膜3から露出して導電部としての機能を果たすとともに、非導電膜3が所定の厚みをもって成膜されるべく、隣接する突起部2aによって凹状の段差を形成する。以下、突起部2aのうち、非導電膜3から露出する面を「導電部2c」とも言う。導電部2cでは、電解処理によりニッケル4を電着析出する。
【0020】
円盤状の突起部2aの大きさは、所望の電気ニッケルの大きさに応じて適宜設定すればよいが、その直径としては、例えば、5mm以上、30mm以下とすることができる。又、突起部2aの高さXは、50μm以上、1000μm以下であることが好ましく、200μm以上800μm以下であることがより好ましい。突起部2aの高さXが過小であると、金属板2の平坦部2b上に形成される非導電膜3の膜厚が不十分となり、ニッケル4の電着時の応力やその電気ニッケルの剥ぎ取り時の衝撃によって欠落しやすくなる。一方、突起部2aの高さXが過大であると、突起部2aの加工時に金属板2の歪が生じやすくなり、金属板2が反りやすくなるため、非導電膜3の形成が困難になる。
【0021】
そして、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法は、
図6に示すような、複数の円盤状の突起部2aが金属板2の一方又は両方の表面に千鳥状に配列されている金属電着用の陰極板の製造に好適な製造方法である。ここで本明細書における「千鳥状に配置されている」とは、
図5に示すような各突起部2a間の距離が行方向及び列方向において所定の均等間隔で配置されている格子状の配置との対比において、
図6に示すように、隣接する列に配置される突起部2aの中心同士が互いの列内における異なる座標位置に、列方向に一定の振れ幅で移動した位置に配置されている状態であることを言う。
図5に示す格子状の配置を、
図6に示す千鳥状の配置にシフトすることにより、金属電着用の陰極板1枚当たりの小塊状の電気ニッケルの製造個数を増やすことができる。
【0022】
尚、金属板2の表面、即ち、金属板2における円盤状の突起部2aの表面には、サンドブラストやエッチングにより細かい凹凸を設けてもよい。これにより、突起部2aに電着したニッケル4が電解処理中に脱落することなく、適度な衝撃で剥ぎ取ることができる。この場合、後述する非導電膜3の膜厚は、金属板2の最大表面粗さRzの2倍以上であることが好ましい。非導電膜3の膜厚が金属板2の最大表面粗さRzの2倍より小さいと、非導電膜3のピンホールや絶縁不良部分の発生が懸念される。
【0023】
[非導電膜]
非導電膜3は、
図2に示すように、金属板2の表面において、突起部2a以外の部分である平坦部2bに形成される。これにより、金属板2上に複数配列されている突起部2aの表面、即ち、導電部2cが露出された状態となる。又、非導電膜3は、隣接する突起部2aによって形成された凹状の段差を有する平坦部2b上に形成されることになるため、一定の厚みをもって形成されることになる。
【0024】
非導電膜3を形成する非導電性材料は熱硬化性樹脂とすることが好ましい。具体的には、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。
【0025】
[金属電着用の陰極板を用いた電気ニッケルの製造]
上述した構成からなる陰極板1では、
図2(b)に示すように、非導電膜3から露出する突起部2aの表面が導電部2cとなって、ニッケル4を電着析出させる。陰極板1において、ニッケル4は、厚さ方向だけではなく平面方向にも成長するため、非導電膜3の上部に盛り上がった状態になる。このことから、隣接する突起部2aの表面の導電部2cから成長したニッケル4同士が接触する前に電着を終了することが好ましい。そして、ニッケルの電着が終了した後、陰極板1からそのニッケル4を剥ぎ取ることで、1枚の陰極板1より複数の小塊状の電気ニッケルを得ることができる。
【0026】
尚、陰極板1は、ニッケル4を電着したが、ニッケルに限定されず、銀、金、亜鉛、錫、クロム、コバルト、又はこれらの合金を電着する陰極板として用いることもできる。
【0027】
<金属電着用の陰極板の製造方法>
本発明の金属電着用の陰極板の製造方法は、
図3に示すように、金属板2の少なくとも一方の表面に複数の円盤状の突起部2aを形成する金属板加工工程と、金属板2の表面における突起部2a以外の部分に非導電膜3を形成する非導電膜形成工程と、を順次行うことによって実施することができる。但し、金属板加工工程は、本発明の製造方法における必須の工程ではなく、例えば、一方の表面に複数の円盤状の突起部を形成する既製の金属板材を入手して、この金属板に対して非導電膜を形成する工程のみを、本願発明の必須の構成要件である非導電膜形成工程によって行う態様で金属電着用の陰極板の製造を行う場合も当然に本発明の実施に該当する。以下においては、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法について、上述の金属板加工工程と、非導電膜形成工程と、を順次行う場合の実施態様の詳細を説明する。
【0028】
[金属板加工工程]
金属板加工工程では、金属板2の表面に、複数の円盤状の突起部2aを千鳥状の配置で形成する。例えば、平板状の金属板2に対して、突起部2a以外の部分を削って、高さXとなる突起部2aを残し、平坦部2bを形成する。加工方法は、特に制限されず、例えば、ウェットエッチング加工、エンドミル加工、レーザー加工等、或いは、これらの各加工法の組合せにより行うことができる。
【0029】
例えば、平板状のステンレス鋼板をウェットエッチングで加工する場合には、ステンレス鋼板の表面に感光性のエッチングレジストを塗布し、続いて、所望のパターンを描画したフィルムやガラスを通して露光し、エッチングする部分のエッチングレジストを現像処理により除去する。そして、現像処理されたステンレス鋼板をエッチング液(例えば、塩化第二鉄溶液)に付け、エッチングレジストが除去されたステンレス鋼板の一部を除去し、最後にエッチングレジストを剥離することで、所望のパターンに対応した、複数の円盤状の突起部2aを形成することができる。
【0030】
尚、突起部2aは、金属板2の一方の表面のみに形成してもよいし、金属板2の両方の表面に形成してもよい。
【0031】
[非導電膜形成工程]
非導電膜形成工程では、金属板2の表面における円盤状の突起部2a以外の部分となる平坦部2bに、非導電膜3を形成する。非導電膜3の形成は、熱硬化性樹脂をディスペンサー6(
図3(b)参照)によって塗布する方法により行う。
【0032】
非導電膜形成工程において、熱硬化性樹脂の塗布に用いるディスペンサーとしては、
図4に示すように、熱硬化性樹脂を吐出する吐出ノズル61の他に、金属板2の上方領域において、吐出ノズル61を水平方向において曲線的な動きも含めて自在に移動させることができる吐出ノズル移動制御手段62を備えるディスペンサー6を用いることができる。又、このディスペンサーは、
図4に示すように、吐出ノズル61の移動に追随することが可能なフレキシブルチューブ63、熱硬化性樹脂を保持する保持タンク64、保持タンク64内に供給する圧縮空気の供給圧力を調節する吐出圧力調節手段65を備えてなるものであることがより好ましい。
【0033】
ディスペンサー6における保持タンク64から吐出ノズル61への熱硬化性樹脂の輸送は、例えば、吐出ノズル61の移動に追随することが可能なフレキシブルチューブ63の両端を、吐出ノズル61、及び保持タンク64の夫々に接続し、保持タンク64から吐出ノズル61に向けて熱硬化性樹脂を圧送することによって行うことができる。ここで、その圧送における圧送圧力の調節は、例えば、保持タンク64内に圧縮空気を供給するための圧縮空気供給管と、保持タンク64内に供給する圧縮空気の供給圧力を調節するためのレギュレーターとで吐出圧力調節手段65を構成し、レギュレーターを操作することによって行うようにすればよい。熱硬化性樹脂の圧送圧力は、吐出ノズル61から吐出される熱硬化性樹脂の吐出圧力とほぼ等しいので、かかる構成を有するディスペンサー6においては、熱硬化性樹脂の吐出圧力は、レギュレーターを操作することによって調節すればよい。又、熱硬化性樹脂の輸送は、圧縮空気による圧送に拘らず、定量ポンプを用いて保持タンク64から吐出ノズル61へ定量的に熱硬化性樹脂を輸送する方法とすることも可能である。
【0034】
ディスペンサー6によって金属板2に熱硬化性樹脂を塗布する際には、平坦部2b全体に対して、所定の塗布時間内に熱硬化性樹脂の塗布を完了できるようにディスペンサーの動作を制御する。例えば、塗布に際して金属板2一枚当たりにかけることのできる最大時間を考慮して塗布時間を設定し、金属板2の削り込み量から必要となる熱硬化性樹脂の樹脂量を設定し、金属板2の上方領域において、前記塗布時間内に吐出ノズル61を水平方向に移動させながら平坦部2b上に熱硬化性樹脂を吐出させ、前記塗布時間内に必要となる樹脂量の全てが吐出されるように制御する。
【0035】
そして、上記態様での塗布が可能となるように、吐出ノズル移動制御手段62によって制御される吐出ノズル61の移動ルートを最適化する。具体的な制御として、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法において非導電膜形成工程を実施する際には、吐出ノズル61を、突起部2aの周縁からの距離w(
図7参照)が等距離となる曲線上を移動させる制御を行う。
【0036】
ここで、例えば、
図5に示すように複数の突起部2aが格子状に配置されている金属板2Aを用いる場合であれば、吐出ノズル61の移動ルートは、
図6に示す通り、隣接する突起部2aの間の隙間領域を行方向及び列方向に沿って直線的に移動する複数の移動ルート(rx
1~rx
4、ry
1~ry
4)の組合せによって構成することができる。吐出ノズル61の移動ルートをこのように直線的に設定することにより、制御が容易な直線的な動きの組合せのみによって、隣り合う突起部2aに挟まれる平坦部2bの領域全てに塗布を行うことができる。又、個々のルート同士に重なりが生じることが殆どないので、平坦部2b全体への塗布を効率的に行うことができる。又、平坦部2bに塗布された熱硬化性樹脂は経時的に徐々に広がるため、十分な時間を経ることで、平坦部2bの上面全体を熱硬化性樹脂で覆うことができる。
【0037】
又、
図6に示すように、突起部2aが千鳥状に配置されている金属板2を用いる場合においても、
図5に示す突起部2aの配置が格子状である金属板の場合と同様に、吐出ノズル61の移動ルートを、列を斜めに横断する複数の直線状の移動ルート(r
11~r
14、r
21~r
24)の組合せによって構成することができる。
【0038】
しかしながら、突起部2aが千鳥状に配置されている金属板2において、吐出ノズル61の移動ルートを、
図6に示すように、直線的な移動ルートの組合せとした場合には、非導電膜3の膜厚に部分的なバラツキが生じてしまう場合があった。本願発明者は、この膜厚の不均一性は、移動ルートと突起部2aの周縁との離間距離が不均一になることに起因するものであることを突き止めた。具体的に、この膜厚の不均一性は、例えば、
図6に示すように、移動ルートr
12、r
13、r
22、r
23によって囲まれている、ひし形の領域において、突起部群が伸びる方向に並ぶ2つの角部の周縁領域Aにおいては、隣り合う突起部2aの離間距離が最小となるため熱硬化性樹脂の塗布量が相対的に過剰になりやすく、突起部群の並列方向に並ぶ2つの角部の周縁領域Bにおいては、隣り合う突起部2aの離間距離が最大となるため熱硬化性樹脂の塗布量が相対的に不足しやすいことによって引き起こされるものと考えられる。
【0039】
これに対して、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法においては、移動の制御自体は比較的複雑で困難にはなるが、敢えて、ディスペンサー6の吐出ノズル61を、突起部2aの周縁からの距離wが等距離となる曲線上を移動させるようにした。これによって、吐出ノズル61の中心と突起部の中心との離間距離を一定に保ちながら吐出ノズル61を移動させることができる。そして、このような吐出ノズル61の移動制御を敢えて行うことによって、上述した要因により発生する非導電膜3の膜厚に発生する部分的なバラツキを効果的に回避することができるようになった。
【0040】
図7は、本発明の金属電着用の陰極板の製造方法の非導電膜形成工程において採用可能な具体的な吐出ノズル61の移動ルートの一例を示している。この移動ルートは、各列を構成する複数の突起部2aの周縁を、列方向に沿った突起部2aの中心線で2等分にしたとき、一方の側に分割された周縁(以下「左側半分の周縁」とも言う)から等距離にある曲線上を移動するルートr
1、r
2、或いは他方の側に分割された周縁(以下「右側半分の周縁」とも言う)から等距離にある曲線上を移動するルートr
3、r
4に沿って、ディスペンサーの吐出ノズル61を移動させる移動ルートである。より詳細には、
図7に示す金属板2において、一方の側縁に近い突起部群(列方向に沿う直線上に一定間隔で配置される複数の突起部2aのことを言う)においては、吐出ノズル61をルートr
1に沿って移動させ、一方、金属板2の他方の側縁に近い突起部群においては、吐出ノズル61をルートr
4に沿って移動させ、何れの側縁からもほぼ等距離となる突起部群については、先ず、ルートr
2に沿って吐出ノズル61を移動させた後、ルートr
3に沿って吐出ノズル61を移動させればよい。これにより、上述した要因により発生する非導電膜3の膜厚に発生する部分的なバラツキを効果的に回避することができる。
【0041】
尚、吐出ノズル61の最適な移動ルートは、採用可能な移動ルートの中から候補となる移動ルートを選定し、熱硬化性樹脂を吐出する試験(塗布試験)を実際に行うことによって、具体的に決定することができる。例えば、突起部2aの周縁と曲線状のルート間の一定の距離wについて、熱硬化性樹脂が突起部2aに乗り上げることなく未塗布部分が最小となるときの距離の大きさを求めて、この距離の大きさを最適な移動ルートの決定の要件とすればよい。この場合、吐出ノズル61の移動ルートは、上記において説明した各種の移動ルートうち、特定の移動ルートのみを採用して設計する必要はなく、必要に応じて夫々の移動ルートを組合せて設計することもできる。
【0042】
尚、熱硬化性樹脂の塗布を行う際には、所定量の樹脂を塗布した後に、熱硬化性樹脂の温度を所定温度範囲で保持する一時保温手順を経るようにすることが好ましい。この温度範囲は、熱硬化性樹脂を適正な粘度に管理できる温度範囲であることがより好ましい。具体的には、金属板2を上記範囲内の温度に加温した状態で、熱硬化性樹脂の塗布を行えばよい。金属板2を上記範囲内の温度に加温することによる上記の一時保温手順を経ることにより、熱硬化性樹脂の粘度を低下させて、同樹脂を円盤状の突起部2aの周縁部分に隈なく塗布しきれない場合であっても、同樹脂を非導電膜形成領域全体に隈なく流し込むことができる。又、このような手順を経て非導電膜3の形成を行うことにより、必ずしも、円盤状の突起部2aの際の部分にまで正確に塗布しなくても、隅々まで厚さが均一な非導電膜3を形成することができる。
【0043】
使用する熱硬化性樹脂が、常温でも粘性が低い樹脂である場合には、金属板2の温度が30℃未満であっても熱硬化性樹脂を流し込むことはできるが、同温度は30℃以上とする方が管理し易い。又、熱硬化性樹脂は、硬化温度に近づくと硬化条件の温度に完全に達してはいなくても硬化が開始する場合がある。硬化が始まると粘度は上がるため間隙に樹脂を流し込めなくなる。使用する熱硬化性樹脂によって、適宜保持温度及び保持時間を設定することが望ましい。又、昇温速度を小さくして温度上昇を遅らせることでも同様の効果が得られる。この場合は、ある温度範囲の昇温時間を保持時間として考えればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 陰極板
2 金属板
2a 突起部
2b 平坦部
2c 導電部
3 非導電膜
4 ニッケル
5 吊下げ部材
6 ディスペンサー
61 吐出ノズル
62 吐出ノズル移動制御手段
63 フレキシブルチューブ
64 保持タンク
65 吐出圧力調節手段