(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083927
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】推定方法、推定装置および推定プログラム
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240617BHJP
C30B 15/20 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
C30B29/06 502Z
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198022
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 祐
(72)【発明者】
【氏名】横山 竜介
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EG20
4G077EH06
4G077EH07
4G077EH09
4G077PF16
4G077PF17
4G077PF55
(57)【要約】
【課題】炉部材の経年劣化に応じたシリコン単結晶の温度分布を精度良く推定することができる推定方法を提供すること。
【解決手段】推定方法は、引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築するステップと、引き上げ炉を構成する炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件についてシミュレーションモデルに基づき伝熱シミュレーションを実施して、複数の計算条件からそれぞれ得られた引き上げ炉内の温度分布の計算結果を訓練データとして生成するステップと、訓練データに基づいて、入力を引き上げ炉内における所定の測定位置の温度とし、出力をシリコン単結晶の温度分布とする回帰モデルを構築するステップと、シリコン単結晶の引き上げ中に得られた所定の測定位置の温度測定結果を回帰モデルに入力して、当該引き上げ中のシリコン単結晶の温度分布を推定するステップと、を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引き上げ炉内でチョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶に関する推定を行う推定方法であって、
前記引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築するステップと、
前記引き上げ炉を構成する炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件について前記シミュレーションモデルに基づき伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の計算条件からそれぞれ得られた前記引き上げ炉内の温度分布の計算結果を訓練データとして生成するステップと、
前記訓練データに基づいて、入力を前記引き上げ炉内における所定の測定位置の温度とし、出力をシリコン単結晶の温度分布とする回帰モデルを構築するステップと、
シリコン単結晶の引き上げ中に得られた前記所定の測定位置の温度測定結果を前記回帰モデルに入力して、当該引き上げ中のシリコン単結晶の温度分布を推定するステップと、
を含む、推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の推定方法において、
前記推定された前記シリコン単結晶の温度分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度とに基づいて、前記シリコン単結晶の熱履歴を推定するステップをさらに含む、推定方法。
【請求項3】
請求項2に記載の推定方法において、
前記推定された熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度と、BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定するステップをさらに含む、推定方法。
【請求項4】
請求項3に記載の推定方法において、
前記シリコン単結晶のBMD密度を推定するステップでは、前記熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度および窒素濃度と、前記BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定する、推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の推定方法において、
前記推定された前記シリコン単結晶の温度分布に基づいて、前記シリコン単結晶における固液界面近傍の熱応力を推定するステップをさらに含む、推定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の推定方法において、
前記引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築するステップでは、シリコン融液とシリコン結晶との境界の温度がシリコン融点になるように、前記シミュレーションモデルを構築する、推定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の推定方法において、
前記伝熱シミュレーションにおいて前記熱物性値が設定される前記炉部材は、前記引き上げ中のシリコン単結晶を冷却する冷却用炉部材を含み、
前記所定の測定位置は、前記冷却用炉部材により温度が調整されている位置を含む、推定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の推定方法において、
前記冷却用炉部材は、前記引き上げ中のシリコン単結晶が内部を通過することにより、当該シリコン単結晶を冷却する円筒状の冷却体を含み、
前記所定の測定位置は、前記冷却体を通過後の前記シリコン単結晶の外周面を含む、推定方法。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の推定方法において、
前記伝熱シミュレーションにおいて前記熱物性値が設定される前記炉部材は、前記引き上げ中のシリコン単結晶の温度上昇を抑制する昇温抑制用炉部材を含み、
前記所定の測定位置は、前記昇温抑制用炉部材上の位置を含む、推定方法。
【請求項10】
引き上げ炉内でチョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶に関する推定を行う推定装置であって、
前記引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築し、前記引き上げ炉を構成する炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件について前記シミュレーションモデルに基づき伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の計算条件からそれぞれ得られた前記引き上げ炉内の温度分布の計算結果を訓練データとして生成する訓練データ生成部と、
前記訓練データに基づいて、入力を前記引き上げ炉内における所定の測定位置の温度とし、出力をシリコン単結晶の温度分布とする回帰モデルを構築する機械学習部と、
シリコン単結晶の引き上げ中に得られた前記所定の測定位置の温度測定結果を前記回帰モデルに入力して、当該引き上げ中のシリコン単結晶の温度分布を推定する結晶温度分布推定部と、を備える推定装置。
【請求項11】
請求項10に記載の推定装置において、
前記結晶温度分布推定部により推定された前記シリコン単結晶の温度分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度とに基づいて、前記シリコン単結晶の熱履歴を推定する熱履歴推定部をさらに備える、推定装置。
【請求項12】
請求項11に記載の推定装置において、
前記熱履歴推定部により推定された熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度と、BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定するBMD密度推定部をさらに備える、推定装置。
【請求項13】
請求項12に記載の推定装置において、
前記BMD密度推定部は、前記熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度および窒素濃度と、前記BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定する、推定装置。
【請求項14】
請求項10に記載の推定装置において、
前記結晶温度分布推定部により推定された前記シリコン単結晶の温度分布に基づいて、前記シリコン単結晶における固液界面近傍の熱応力を推定する熱応力推定部をさらに備える、推定装置。
【請求項15】
請求項10に記載の推定装置において、
前記訓練データ生成部は、シリコン融液とシリコン結晶との境界の温度がシリコン融点になるように、前記シミュレーションモデルを構築する、推定装置。
【請求項16】
コンピュータを、請求項10から請求項15のいずれか一項に記載の推定装置として機能させる、推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定方法、推定装置および推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー(CZ)法によるシリコン単結晶の製造工程では、石英坩堝内のシリコン融液に種結晶を付着させてから引き上げることにより、シリコン単結晶を成長させる。シリコン単結晶の成長の際、シリコン融液には石英坩堝から酸素が混入する。シリコン融液に混入した酸素は、シリコンウェーハを用いたデバイスの製造工程における熱処理により、BMD(Bulk Micro Defect)と呼ばれる酸素析出物となる。
【0003】
BMDは、シリコンウェーハ中に混入され、デバイス性能を劣化させる重金属不純物を捕獲するゲッタリング源として作用する利点もあるが、シリコンウェーハの機械的強度を低下させてしまう欠点もある。そのため、シリコン単結晶には、BMDの量を表すBMD密度に対して規格範囲が定められている。BMD密度は、シリコン単結晶の熱履歴(冷却条件)、酸素濃度、窒素濃度、シリコン単結晶から得られるシリコンウェーハにBMDを析出させるためのBMD析出熱処理によって決まることが知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】シリコンの科学 UCS半導体基盤技術研究会編(発行所:株式会社リアライズ社)、第2章第5節、第7章第3節
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
BMD密度に影響を与える上記条件のうち、BMD析出熱処理条件は製品ごとに固定され、酸素濃度および窒素濃度は引き上げ条件で制御できる。しかし、熱履歴は、引き上げ炉の設計時に大まかには決まるものの、炉部材の経年劣化により熱物性値が変化することなどが原因で変化することがある。
【0007】
熱履歴は、シリコン単結晶の温度分布から求めることができる。引き上げ中に熱履歴を直接測定するためには、シリコン単結晶の温度分布を測定すれば良い。温度の測定方法としてサーモカメラによる非接触測定が考えられるが、シリコン融液近傍では主に高温のシリコン融液から発生する赤外線による外乱により、温度分布を正確に測定することは困難である。したがって、シリコン単結晶の引き上げ中にBMD密度を精度良く推定することも困難である。
【0008】
本発明は、炉部材の経年劣化に応じたシリコン単結晶の温度分布を精度良く推定することができる推定方法、推定装置および推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の推定方法は、引き上げ炉内でチョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶に関する推定を行う推定方法であって、前記引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築するステップと、前記引き上げ炉を構成する炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件について前記シミュレーションモデルに基づき伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の計算条件からそれぞれ得られた前記引き上げ炉内の温度分布の計算結果を訓練データとして生成するステップと、前記訓練データに基づいて、入力を前記引き上げ炉内における所定の測定位置の温度とし、出力をシリコン単結晶の温度分布とする回帰モデルを構築するステップと、シリコン単結晶の引き上げ中に得られた前記所定の測定位置の温度測定結果を前記回帰モデルに入力して、当該引き上げ中のシリコン単結晶の温度分布を推定するステップと、を含む。
【0010】
本発明の推定方法において、前記推定された前記シリコン単結晶の温度分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度とに基づいて、前記シリコン単結晶の熱履歴を推定するステップをさらに含む、ことが好ましい。
【0011】
本発明の推定方法において、前記推定された熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度と、BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定するステップをさらに含む、ことが好ましい。
【0012】
本発明の推定方法において、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定するステップでは、前記熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度および窒素濃度と、前記BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定する、ことが好ましい。
【0013】
本発明の推定方法において、前記推定された前記シリコン単結晶の温度分布に基づいて、前記シリコン単結晶における固液界面近傍の熱応力を推定するステップをさらに含む、ことが好ましい。
【0014】
本発明の推定方法において、前記引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築するステップでは、シリコン融液とシリコン結晶との境界の温度がシリコン融点になるように、前記シミュレーションモデルを構築する、ことが好ましい。
【0015】
本発明の推定方法において、前記伝熱シミュレーションにおいて前記熱物性値が設定される前記炉部材は、前記引き上げ中のシリコン単結晶を冷却する冷却用炉部材を含み、前記所定の測定位置は、前記冷却用炉部材により温度が調整されている位置を含む、ことが好ましい。
【0016】
本発明の推定方法において、前記冷却用炉部材は、前記引き上げ中のシリコン単結晶が内部を通過することにより、当該シリコン単結晶を冷却する円筒状の冷却体を含み、前記所定の測定位置は、前記冷却体を通過後の前記シリコン単結晶の外周面を含む、ことが好ましい。
【0017】
本発明の推定方法において、前記伝熱シミュレーションにおいて前記熱物性値が設定される前記炉部材は、前記引き上げ中のシリコン単結晶の温度上昇を抑制する昇温抑制用炉部材を含み、前記所定の測定位置は、前記昇温抑制用炉部材上の位置を含む、ことが好ましい。
【0018】
本発明の推定装置は、引き上げ炉内でチョクラルスキー法により育成されるシリコン単結晶に関する推定を行う推定装置であって、前記引き上げ炉を模擬したシミュレーションモデルを構築し、前記引き上げ炉を構成する炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件について前記シミュレーションモデルに基づき伝熱シミュレーションを実施して、前記複数の計算条件からそれぞれ得られた前記引き上げ炉内の温度分布の計算結果を訓練データとして生成する訓練データ生成部と、前記訓練データに基づいて、入力を前記引き上げ炉内における所定の測定位置の温度とし、出力をシリコン単結晶の温度分布とする回帰モデルを構築する機械学習部と、シリコン単結晶の引き上げ中に得られた前記所定の測定位置の温度測定結果を前記回帰モデルに入力して、当該引き上げ中のシリコン単結晶の温度分布を推定する結晶温度分布推定部と、を備える。
【0019】
本発明の推定装置において、前記結晶温度分布推定部により推定された前記シリコン単結晶の温度分布と、前記シリコン単結晶の引き上げ速度とに基づいて、前記シリコン単結晶の熱履歴を推定する熱履歴推定部をさらに備える、ことが好ましい。
【0020】
本発明の推定装置において、前記熱履歴推定部により推定された熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度と、BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定するBMD密度推定部をさらに備える、ことが好ましい。
【0021】
本発明の推定装置において、前記BMD密度推定部は、前記熱履歴と、前記シリコン単結晶の酸素濃度および窒素濃度と、前記BMD析出熱処理条件とに基づいて、前記シリコン単結晶のBMD密度を推定する、ことが好ましい。
【0022】
本発明の推定装置において、前記結晶温度分布推定部により推定された前記シリコン単結晶の温度分布に基づいて、前記シリコン単結晶における固液界面近傍の熱応力を推定する熱応力推定部をさらに備える、ことが好ましい。
【0023】
本発明の推定装置において、前記訓練データ生成部は、シリコン融液とシリコン結晶との境界の温度がシリコン融点になるように、前記シミュレーションモデルを構築する、ことが好ましい。
【0024】
本発明の推定プログラムは、コンピュータを、上述の推定装置として機能させる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】第1実施形態および第2実施形態におけるシリコン単結晶製造システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態における推定装置のブロック図である。
【
図3】第1実施形態におけるBMD密度の推定処理を示すフローチャートである。
【
図4】第2実施形態における推定装置のブロック図である。
【
図5】第2実施形態における臨界v/Gの推定処理を示すフローチャートである。
【
図6】実施例1における測定BMD密度と推定BMD密度との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
<シリコン単結晶製造システムの構成>
まず、本発明の第1実施形態におけるシリコン単結晶製造システムの構成について説明する。
図1は、第1実施形態および第2実施形態におけるシリコン単結晶製造システムの概略構成を示す模式図である。
図2は、第1実施形態における推定装置のブロック図である。
【0027】
図1に示すシリコン単結晶製造システム1は、シリコン単結晶製造装置2と、温度測定部3と、推定装置4と、を備える。
【0028】
シリコン単結晶製造装置2は、チョクラルスキー法を用いて、肩部SM1、直胴部SM2および図示しないテール部を有するシリコン単結晶SMを製造する。シリコン単結晶製造装置2は、直胴部SM2の直径が、例えば200mm以上450mm以下のシリコン単結晶SMを製造する。シリコン単結晶製造装置2は、引き上げ炉20と、結晶引き上げ部27と、坩堝駆動部28と、図示しない製造装置制御部と、を備える。
【0029】
引き上げ炉20は、チャンバ21と、坩堝22と、ヒータ23と、保温筒24と、熱遮蔽体25と、冷却体26と、を備える。
【0030】
チャンバ21は、メインチャンバ211と、トップチャンバ212と、プルチャンバ213と、を備える。メインチャンバ211、トップチャンバ212およびプルチャンバ213は、水冷構造を有する。
【0031】
メインチャンバ211は、有底円筒状に形成されている。メインチャンバ211は、坩堝22、ヒータ23、保温筒24および熱遮蔽体25を収容する。
【0032】
トップチャンバ212は、上端の直径が下端の直径よりも小さい略円錐台筒状に形成されている。トップチャンバ212は、その下端がメインチャンバ211の上端に気密に接続されており、メインチャンバ211の上方を覆う。トップチャンバ212は、引き上げ中のシリコン単結晶SMを冷却する冷却用炉部材である。
【0033】
プルチャンバ213は、円筒状に形成されている。プルチャンバ213は、その下端がトップチャンバ212の上端に気密に接続されている。プルチャンバ213は、引き上げられたシリコン単結晶SMを一時収容する。
【0034】
このように、メインチャンバ211とトップチャンバ212とプルチャンバ213とがそれぞれ気密に接続されることにより、チャンバ21内の密閉空間が形成されている。
【0035】
プルチャンバ213の上部には、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスをチャンバ21内に導入するガス導入口213Aが設けられている。メインチャンバ211の下部には、図示しない真空ポンプの駆動により、当該チャンバ21内のガスを排出するガス排出口211Aが設けられている。
【0036】
坩堝22は、メインチャンバ211内に配置され、ドーパントが添加されたシリコンの融液MDを貯留する。坩堝22は、有底円筒形状の石英坩堝221と、当該石英坩堝221を収容する炭素素材製の支持坩堝222と、を備える。なお、シリコン単結晶SMの抵抗率が非常に高い場合には、融液MDにドーパントを添加しなくても良い。
【0037】
ヒータ23は、円筒状に形成されている。ヒータ23は、坩堝22の外側に所定間隔を隔てて配置され、坩堝22内のシリコン原料を融解する。
【0038】
保温筒24は、円筒状に形成されている。保温筒24は、ヒータ23の外側に所定間隔を隔てて配置されている。
【0039】
熱遮蔽体25は、炭素素材により略円筒状に形成されている。熱遮蔽体25の上端部は、メインチャンバ211の上端側の部位からメインチャンバ211の中央に向かって延びる複数の熱遮蔽体支持部214により支持されている。熱遮蔽体25は、融液MDから引き上げ中のシリコン単結晶SMを囲むように配置され、ヒータ23からシリコン単結晶SMへの輻射熱を遮断する。つまり、熱遮蔽体25は、引き上げ中のシリコン単結晶SMの温度上昇を抑制する昇温抑制用炉部材である。
【0040】
冷却体26は、結晶冷却用の円筒状の部材である。冷却体26は、プルチャンバ213の下端側の部位から下方に延びて、引き上げ中のシリコン単結晶SMを囲むように配置されている。
【0041】
結晶引き上げ部27は、一端に種結晶SCが取り付けられるケーブル271と、引き上げ炉20の上方に配置され、ケーブル271を昇降および回転させる引き上げ駆動部272と、を備える。
【0042】
坩堝駆動部28は、坩堝22を下方から支持する支持軸281を備える。坩堝駆動部28は、引き上げ炉20の下方に配置され、坩堝22を所定の速度で回転および昇降させる。
【0043】
以上のようなシリコン単結晶製造装置2において、製造装置制御部は、チャンバ21内のガス流量および炉内圧を所定の状態に制御するとともに、チャンバ21の水冷を開始する。
そして、製造装置制御部は、ヒータ23を制御して、坩堝22をシリコンの融点に加熱することにより、融液MDを生成する。このヒータ23による加熱により、引き上げ炉20内の温度分布(以下、「炉内温度分布」という場合がある)は、当該引き上げ炉20を構成する炉部材(例えば、チャンバ21、坩堝22、ヒータ23、保温筒24、熱遮蔽体25、冷却体26)の熱物性値(例えば、熱輻射率)に応じた分布になる。
【0044】
次に、製造装置制御部は、引き上げ駆動部272を制御して、ケーブル271を下降させることで種結晶SCを融液MDに浸漬する。
そして、製造装置制御部は、坩堝駆動部28および引き上げ駆動部272を制御して、坩堝22およびケーブル271を所定の方向に回転させながら種結晶SCを引き上げることで、シリコン単結晶SMを引き上げる。
【0045】
引き上げ中のシリコン単結晶SMは、炉内温度分布に応じた温度分布であって、融液MDから離れた領域ほど低くなる温度分布を有する。シリコン単結晶SMの温度は、特に、水冷されたトップチャンバ212および冷却体26と、ヒータ23からの輻射熱を遮断する熱遮蔽体25との影響を受ける。
【0046】
炉部材の経年劣化などにより、その熱物性値が変化すると、当該熱物性値の変化前と同じ条件でヒータ23を制御する場合、炉内温度分布は、当該熱物性値の変化前の分布とは異なる分布になる。この炉内温度分布の変化に伴い、引き上げ中のシリコン単結晶SMの温度分布(以下、「結晶温度分布」という場合がある)は、当該熱物性値の変化前の分布とは異なる分布になる。結晶温度分布が変化すると、シリコン単結晶SMの熱履歴(冷却条件)は、当該熱物性値の変化前の履歴とは異なる履歴になる。このシリコン単結晶SMの熱履歴の変化に伴い、当該シリコン単結晶SMのBMD密度は、当該熱物性値の変化前の密度とは異なる密度になる。
【0047】
温度測定部3は、引き上げ炉20内の所定領域の温度を測定する。温度測定部3は、第1測定部31と、第2測定部32と、を備える。
第1測定部31および第2測定部32は、例えば、非接触で引き上げ炉20内の温度を測定するサーモカメラにより構成されている。
【0048】
第1測定部31は、トップチャンバ212の上側の部位に形成された第1覗き窓212Aから第1測定位置Q1および第2測定位置Q2を含む領域の温度を測定し、測定結果を推定装置4へ出力する。
【0049】
第1測定位置Q1は、熱遮蔽体25におけるシリコン単結晶SMを囲む部位の内周面上に位置する。
経年劣化により炉部材である熱遮蔽体25の熱物性値が変化すると、熱遮蔽体25の性能が変化する。熱遮蔽体25の性能が変化すると、性能変化前と同じ条件でヒータ23を制御する場合、第1測定位置Q1は、性能変化前と異なる温度になる。
このように、第1測定位置Q1は、シリコン単結晶SMの温度に影響を与える熱遮蔽体25の性能(熱物性値)に応じた温度になる。
【0050】
第2測定位置Q2は、熱遮蔽体支持部214上に位置する。
第2測定位置Q2は、熱遮蔽体支持部214と水冷されているトップチャンバ212との間の領域の温度に対応する温度になる。経年劣化により炉部材であるトップチャンバ212の熱物性値が変化すると、トップチャンバ212の性能が変化して、性能変化前と同じ条件でヒータ23を制御する場合、熱遮蔽体支持部214とトップチャンバ212との間の領域(以下、「トップチャンバ212による冷却領域」という場合がある)は、性能変化前と異なる温度になる。その結果、第2測定位置Q2は、トップチャンバ212の性能変化前と異なる温度になる。
このように、第2測定位置Q2は、シリコン単結晶SMの温度に影響を与えるトップチャンバ212の性能(熱物性値)に応じた温度になる。つまり、第2測定位置Q2は、トップチャンバ212により温度が調整された位置である。
【0051】
ここで、第2測定位置Q2を熱遮蔽体支持部214上に位置させる理由について説明する。
上述したように、第2測定位置Q2はトップチャンバ212の性能に応じた温度になるため、第2測定位置Q2をトップチャンバ212の内周面上に位置させることも考えられる。
しかし、トップチャンバ212の内周面の温度を測定しても、トップチャンバ212の性能に応じた温度を測定できないおそれがある。
一方、熱遮蔽体支持部214は、トップチャンバ212による冷却領域の温度、つまりトップチャンバ212の性能に応じた温度になる。
このような理由により、本第1実施形態では、第2測定位置Q2を熱遮蔽体支持部214上に位置させた。
【0052】
第2測定部32は、プルチャンバ213に形成された第2覗き窓213Bから第3測定位置Q3を含む領域の温度を測定し、測定結果を推定装置4へ出力する。
【0053】
第3測定位置Q3は、プルチャンバ213内のシリコン単結晶SMの外周面上に位置する。
経年劣化により炉部材である冷却体26の熱物性値が変化すると、冷却体26の性能が変化して、性能変化前と同じ条件でヒータ23を制御する場合、冷却体26により冷却されるシリコン単結晶SMは、性能変化前と異なる温度になる。その結果、第3測定位置Q3は、プルチャンバ213内の冷却体26の性能変化前と異なる温度になる。
このように、第3測定位置Q3は、シリコン単結晶SMの温度に影響を与える冷却体26の性能(熱物性値)に応じた温度になる。つまり、第3測定位置Q3は、冷却体26により温度が調整された位置である。
【0054】
ここで、第3測定位置Q3をプルチャンバ213内のシリコン単結晶SMの外周面上に位置させる理由について説明する。
上述したように、第3測定位置Q3は冷却体26の性能に応じた温度になるため、第3測定位置Q3を冷却体26の内周面上に位置させることも考えられる。
しかし、冷却体26の内周面の温度を測定しても、冷却体26の性能に応じた温度を測定できないおそれがある。
一方、プルチャンバ213内のシリコン単結晶SMは、冷却体26の性能に応じた温度になる。また、シリコン単結晶SMにおけるプルチャンバ213内に位置する領域は、融液MDから発生する赤外線の反射による外乱がほとんど無く、温度を正確に測定することができる。
このような理由により、本第1実施形態では、第3測定位置Q3をプルチャンバ213内のシリコン単結晶SMの外周面上に位置させた。
【0055】
推定装置4は、コンピュータにより構成され、シリコン単結晶製造装置2で引き上げ中のシリコン単結晶SMの結晶温度分布を推定する。また、推定装置4は、推定された結晶温度分布に基づいて、シリコン単結晶SMの熱履歴を推定する。さらに、推定装置4は、推定された熱履歴に基づいて、シリコン単結晶SMのBMD密度を推定する。
図2に示すように、推定装置4には、温度測定部3と、入力部51と、出力部52と、窒素濃度算出部53と、酸素濃度算出部54と、BMD析出熱処理条件設定部55と、記憶部56とが各種情報を送受信可能に接続されている。
【0056】
入力部51は、例えばタッチパネルまたは物理ボタンにより構成されている。入力部51は、各種設定の入力操作に用いられ、入力操作に対応する信号を推定装置4へ出力する。
【0057】
出力部52は、推定装置4の制御に基づいて、各種情報を表示または出力する。
【0058】
窒素濃度算出部53は、例えば、融液MDへの窒素の添加量に基づいて、シリコン単結晶製造装置2で引き上げ中の窒素濃度を算出し、推定結果を推定装置4へ出力する。
【0059】
酸素濃度算出部54は、引き上げ条件、例えば、坩堝22およびシリコン単結晶SMの回転数に基づいて、シリコン単結晶製造装置2で引き上げ中の酸素濃度を算出し、推定結果を推定装置4へ出力する。
【0060】
BMD析出熱処理条件設定部55は、例えば、作業者の入力部51を用いた設定入力に基づいて、シリコン単結晶SMから得られるシリコンウェーハにBMDを析出させるためのBMD析出熱処理条件を設定し、設定内容を推定装置4へ出力する。
【0061】
記憶部56は、例えばHDD(Hard Disk Drive)等の周知の記憶装置により構成されている。記憶部56は、推定プログラムP1と、結晶温度分布、熱履歴およびBMD密度の推定に必要な各種情報とを記憶する。
【0062】
推定プログラムP1は、コンピュータを推定装置4として機能させるためのプログラムである。
推定プログラムP1は、例えばBlu-ray(登録商標)、DVD、CD-ROMなどの可搬型記録媒体の販売、譲渡、貸与などにより流通することができる。さらに、推定プログラムP1は、例えばネットワーク上のサーバの記憶部に記憶され、ネットワークを介して他のコンピュータに転送されることにより、流通することができる。
【0063】
記憶部56に記憶された推定プログラムP1は、コンピュータにより可搬型記録媒体から読み取られたものであっても良いし、ネットワーク上のサーバから取得されたものであっても良い。また、記憶部56に推定プログラムP1を格納せずに、コンピュータが、逐次、推定プログラムP1をサーバから取得して実行する構成としても良い。また、推定プログラムP1をコンピュータ内に設けられた別の記憶部に格納しても良い。
【0064】
推定装置4は、CPU(Central Processing Unit)を備える。推定装置4は、記憶部56に記憶された推定プログラムP1をCPUが実行することにより、訓練データ生成部41、機械学習部42、結晶温度分布推定部43、熱履歴推定部44およびBMD密度推定部45として機能する。
【0065】
訓練データ生成部41は、引き上げ炉20を模擬したシミュレーションモデルを構築する。そして、訓練データ生成部41は、引き上げ炉20における炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件で伝熱シミュレーションを実施して、当該複数の計算条件におけるシリコン単結晶が引き上げ炉内に存在する状態での炉内温度分布の計算結果および前記育成中の部位の組み合わせを訓練データとして生成する。訓練データを構成する炉内温度分布は、シリコン単結晶の直胴部におけるトップ部(引き上げ方向上端側の部位)、ミドル部(引き上げ方向中央の部位)、および、ボトム部(引き上げ方向下端側の部位)のうち、少なくとも1つの部位の温度分布であっても良い。
【0066】
機械学習部42は、訓練データ生成部41により生成された訓練データに基づいて、入力を引き上げ炉20内における第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度とし、出力を結晶温度分布とする回帰モデルを、機械学習法を用いて構築する。機械学習法としては、ニューラルネットワークまたは遺伝的アルゴリズムを用いた方法を例示できるが、特に限定されず周知の方法(サポートベクターマシンまたはスパースモデルなど)を用いることができる。
【0067】
結晶温度分布推定部43は、シリコン単結晶SMの引き上げ中に温度測定部3から得られた第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度測定結果を、機械学習部42により構築された回帰モデルに入力して、結晶温度分布を推定する。ここで、シリコン単結晶SMの引き上げ中、急激に引き上げ炉20の部材が劣化することは考えられないので、炉内温度分布はほとんど変わらない。このため、第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度測定結果に基づき炉内温度分布を推定できれば、結晶温度分布を推定することができる。
【0068】
熱履歴推定部44は、結晶温度分布推定部43により推定された結晶温度分布と、シリコン単結晶SMの引き上げ速度とに基づいて、シリコン単結晶SMの熱履歴を推定する。
【0069】
BMD密度推定部45は、熱履歴推定部44により推定された熱履歴と、シリコン単結晶SMの窒素濃度および酸素濃度と、BMD析出熱処理条件とに基づいて、シリコン単結晶SMに析出し得るBMD密度を推定する。
【0070】
<シリコン単結晶製造システムの動作>
次に、シリコン単結晶製造システム1の動作として、シリコン単結晶SMの引き上げ中におけるシリコン単結晶SMのBMD密度の推定処理について説明する。
図3は、第1実施形態におけるBMD密度の推定処理を示すフローチャートである。
【0071】
まず、
図3に示すように、推定装置4の訓練データ生成部41は、引き上げ炉20を模擬したシミュレーションモデルを構築する(ステップS1)。
訓練データ生成部41は、シミュレーションモデルを構築するに際し、引き上げ炉20の炉部材の形状、サイズ、配置位置および熱物性値と、水冷される炉部材の水冷条件と、シリコン単結晶SMのサイズ(例えば、肩部SM1、直胴部SM2、テール部のそれぞれの長さ、直胴部SM2の直径)と、融液MDとシリコン単結晶SMとの界面の温度とを既知の値として設定する。前記界面の温度は、シリコンの融点に設定される。炉部材の熱物性値としては、熱輻射率を例示することができる。
【0072】
次に、訓練データ生成部41は、シミュレーションモデルに基づく伝熱シミュレーションを実施して、訓練データを生成する(ステップS2)。
訓練データを生成するに際し、訓練データ生成部41は、作業者の入力部51を用いた設定入力に基づいて、複数の炉部材の熱物性値の範囲を設定した後、上記範囲内において、各炉部材の熱物性値を任意に組み合わせた複数の計算条件を設定する。なお、訓練データ生成部41は、1つの炉部材の熱物性値の範囲を設定した後、上記範囲内において、熱物性値を任意に選択した複数の計算条件を設定しても良い。熱物性値が設定される炉部材には、引き上げ中のシリコン単結晶SMの温度に影響を与えるトップチャンバ212、熱遮蔽体25および冷却体26が含まれることが好ましい。機械学習部42における回帰モデルの精度を向上させるという観点から、ここで設定する計算条件は多い方が好ましい。
訓練データ生成部41は、複数の計算条件のそれぞれに対して伝熱シミュレーションを実施し、炉内温度分布を計算する。訓練データ生成部41は、各計算条件からそれぞれ得られた炉内温度分布の計算結果を、訓練データとして機械学習部42へ出力する。
【0073】
この後、機械学習部42は、訓練データを用いて、入力を第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度とし、出力を結晶温度分布とする回帰モデルを構築する(ステップS3)。そして、機械学習部42は、構築された回帰モデルを結晶温度分布推定部43へ出力する。
【0074】
ステップS3の処理後、シリコン単結晶製造装置2の製造装置制御部は、
図1に示すように、シミュレーションモデルの構築時に設定したサイズのシリコン単結晶SMを、融液MDから引き上げる。
そして、
図3に示すように、温度測定部3の第1,第2測定部31,32は、例えば、プルチャンバ213内に位置する直胴部SM2の温度を第2測定部32が測定できるタイミングで、第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度を測定し、測定結果を推定装置4へ出力する(ステップS4)。
なお、第1測定部31と第2測定部32の測温タイミングは、異なっていても良い。
【0075】
この後、結晶温度分布推定部43は、機械学習部42から取得した回帰モデルに、温度測定部3から取得した第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度測定結果を入力することにより、引き上げ中のシリコン単結晶SMの結晶温度分布を推定する(ステップS5)。結晶温度分布推定部43は、結晶温度分布の推定結果を熱履歴推定部44へ出力する。
なお、結晶温度分布推定部43は、結晶温度分布の推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。
【0076】
次に、熱履歴推定部44は、結晶温度分布推定部43から取得した結晶温度分布と、当該結晶温度分布を有するシリコン単結晶SMの引き上げ速度とに基づいて、当該シリコン単結晶SMの熱履歴を推定する(ステップS6)。熱履歴推定部44は、熱履歴の推定結果をBMD密度推定部45へ出力する。
なお、熱履歴推定部44は、熱履歴の推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。また、熱履歴推定部44は、製造装置制御部からシリコン単結晶SMの引き上げ速度を取得しても良いし、作業者により入力部51を用いて設定入力された値をシリコン単結晶SMの引き上げ速度として取得しても良い。
【0077】
また、窒素濃度算出部53は、シリコン単結晶SMの窒素濃度を算出して、算出結果を推定装置4へ出力する(ステップS7)。酸素濃度算出部54は、シリコン単結晶SMの酸素濃度を算出して、算出結果を推定装置4へ出力する(ステップS8)。BMD析出熱処理条件設定部55は、BMD析出熱処理条件を設定して、設定内容を推定装置4へ出力する(ステップS9)。
なお、ステップS7~S9の処理は、任意の順序および任意のタイミングで行うことができる。
【0078】
そして、BMD密度推定部45は、熱履歴推定部44から取得した熱履歴と、窒素濃度と、酸素濃度と、BMD析出熱処理条件とに基づいて、引き上げ中のシリコン単結晶SMのBMD密度を推定する(ステップS10)。この際、BMD密度推定部45は、熱履歴が異なる部位ごとにBMD密度を推定することが好ましい。
なお、BMD密度推定部45は、BMD密度の推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。また、BMD密度推定部45は、作業者により入力部51を用いて設定入力された値を、窒素濃度および酸素濃度のうち少なくとも一方の濃度として取得しても良い。
【0079】
<第1実施形態の効果>
第1実施形態の推定装置4によれば、少なくとも以下の効果を奏することができる。
(1)推定装置4は、引き上げ炉20を構成する炉部材の熱物性値を任意に設定した複数の計算条件で伝熱シミュレーションを実施して、各計算条件からそれぞれ得られた炉内温度分布の計算結果を訓練データとして生成する。次に、推定装置4は、訓練データに基づいて、入力を引き上げ炉20内における第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度とし、出力を結晶温度分布とする回帰モデルを、機械学習法を用いて生成する。そして、推定装置4は、シリコン単結晶SMの引き上げ中に得られた第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度測定結果を回帰モデルに入力して、当該引き上げ中のシリコン単結晶SMの結晶温度分布を推定する。
このため、推定装置4は、測定精度の悪い引き上げ中の融液MD近傍のシリコン単結晶SMの温度を用いることなく、引き上げ炉20内の第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度と、回帰モデルとに基づいて、炉部材の経年劣化に応じたシリコン単結晶SMの結晶温度分布を精度良く推定することができる。
特に、結晶温度分布の推定処理をシリコン単結晶SMの引き上げ中に行うことにより、結晶温度分布をリアルタイムで精度良く推定することができる。
【0080】
(2)推定装置4は、精度良く推定された結晶温度分布と、シリコン単結晶SMの引き上げ速度とに基づいて、シリコン単結晶SMの熱履歴を推定する。
このため、推定装置4は、炉部材の経年劣化に応じたシリコン単結晶SMの熱履歴を精度良く推定することができる。
特に、熱履歴の推定処理をシリコン単結晶SMの引き上げ中に行うことにより、熱履歴をリアルタイムで精度良く推定することができる。
【0081】
(3)推定装置4は、精度良く推定されたシリコン単結晶SMの熱履歴と、シリコン単結晶SMの酸素濃度および窒素濃度と、引き上げ速度とに基づいて、引き上げ中のシリコン単結晶SMに析出し得るBMDの密度を推定する。
このため、推定装置4は、炉部材の経年劣化に応じたシリコン単結晶SMのBMD密度を精度良く推定することができる。特に、酸素濃度に加えて窒素濃度を考慮に入れることにより、シリコン単結晶SMのBMD密度をより精度良く推定することができる。
特に、BMD密度の推定処理をシリコン単結晶SMの引き上げ中に行うことにより、BMD密度をリアルタイムで精度良く推定することができる。したがって、次回に引き上げられるシリコン単結晶SMのBMD密度が変わらないようにするための引き上げ条件の調整、または、経年劣化した炉部材の交換準備に、早めに着手することができる。ここで、引き上げ条件の変更としては、坩堝22の回転速度の変更、または、ヒータ23のパワーの変更を例示することができる。
【0082】
(4)訓練データ生成部41は、シリコン融液とシリコン結晶との境界の温度がシリコン融点になるように、シミュレーションモデルを構築する。
既知のシリコン融点の値を用いることにより、熱履歴の推定精度およびBMD密度の推定精度を向上させることができる。
【0083】
(5)伝熱シミュレーションにおいて熱物性値が設定される炉部材は、引き上げ中のシリコン単結晶SMを冷却するトップチャンバ212を含む。そして、回帰モデルに入力される温度の測定位置は、トップチャンバ212により温度が調整されている熱遮蔽体支持部214上の第2測定位置Q2を含む。
このように、水冷機能を有するトップチャンバ212自体ではなく、トップチャンバ212の性能に応じた温度に調整される熱遮蔽体支持部214上を測定することにより、トップチャンバ212の経年劣化に応じた適切な温度を、回帰モデルに入力することができる。したがって、推定装置4は、シリコン単結晶SMの結晶温度分布をより精度良く推定することができる。
【0084】
(6)伝熱シミュレーションにおいて熱物性値が設定される炉部材は、引き上げ中のシリコン単結晶SMを冷却する機能を有し、内部を通過するシリコン単結晶SMを冷却する円筒状の冷却体26を含む。そして、回帰モデルに入力される温度の測定位置は、冷却体26により冷却された直胴部SM2の外周面上の第3測定位置Q3を含む。
このように、冷却体26自体ではなく、冷却体26の性能に応じた温度に調整される直胴部SM2上を測定することにより、冷却体26の経年劣化に応じた適切な温度を回帰モデルに入力することができる。また、第3測定位置Q3は融液MDから発生する赤外線による外乱の影響をほとんど受けないため、精度よく温度特定が可能である。したがって、推定装置4は、シリコン単結晶SMの結晶温度分布をより精度良く推定することができる。
【0085】
(7)伝熱シミュレーションにおいて熱物性値が設定される炉部材は、引き上げ中のシリコン単結晶SMの温度上昇を抑制する熱遮蔽体25を含む。そして、回帰モデルに入力される温度の測定位置は、熱遮蔽体25上の第1測定位置Q1を含む。
このように、熱遮蔽体25上を測定することにより、熱遮蔽体25の経年劣化に応じた適切な温度を、回帰モデルに入力することができる。したがって、推定装置4は、シリコン単結晶SMの結晶温度分布をより精度良く推定することができる。
【0086】
[第2実施形態]
<シリコン単結晶製造システムの構成>
次に、
図1および
図4に基づいて、本発明の第2実施形態におけるシリコン単結晶製造システムの構成について説明する。なお、第1実施形態と同じ構成については、同一名称および同一符号を付し、説明を簡略にするか、省略する。
図4は、第2実施形態における推定装置のブロック図である。
【0087】
図1に示すシリコン単結晶製造システム1Aは、推定装置4の代わりに推定装置6を備えること以外は、第1実施形態のシリコン単結晶製造システム1と同じ構成を有する。
【0088】
推定装置6は、コンピュータにより構成され、シリコン単結晶製造装置2で引き上げ中のシリコン単結晶SMの結晶温度分布を推定する。また、推定装置6は、推定された結晶温度分布に基づいて、シリコン単結晶SMの熱応力を推定する。さらに、推定装置6は、推定された熱応力に基づいて、シリコン単結晶の引き上げ速度v(mm/min)と、固液界面近傍における温度勾配Gとの比v/Gの臨界値(以下、「臨界v/G」という場合がある)を推定する。
ここで、臨界v/Gとは、シリコン単結晶SMの径方向中心におけるPv領域とPi領域との境界を表す値である。Pv領域は、空孔型点欠陥が優勢な無欠陥領域である。Pv領域は、as-grown状態で酸素析出核を含んでおり、BMD析出熱処理を施した場合にBMDが発生しやすい領域である。Pi領域は、格子間シリコン型点欠陥が優勢な無欠陥領域である。Pi領域は、as-grown状態で酸素析出核をほとんど含んでおらず、BMD析出熱処理を施した場合にBMDが発生しにくい領域である。
【0089】
図4に示すように、推定装置6には、温度測定部3と、入力部51と、出力部52と、記憶部56Aとが各種情報を送受信可能に接続されている。
【0090】
記憶部56Aは、記憶部56と同様の周知の記憶装置により構成されている。記憶部56Aは、推定プログラムP2と、結晶温度分布、熱応力および境界値の推定に必要な各種情報とを記憶する。
【0091】
推定プログラムP2は、コンピュータを推定装置6として機能させるためのプログラムである。
推定プログラムP2は、推定プログラムP1と同様の方法により流通することができる。
記憶部56Aに記憶された推定プログラムP2は、コンピュータにより可搬型記録媒体から読み取られたものであっても良いし、ネットワーク上のサーバから取得されたものであっても良い。また、記憶部56Aに推定プログラムP2を格納せずに、コンピュータが、逐次、推定プログラムP2をサーバから取得して実行する構成としても良い。また、推定プログラムP2をコンピュータ内に設けられた別の記憶部に格納しても良い。
【0092】
推定装置6は、CPUを備え、記憶部56Aに記憶された推定プログラムP2をCPUが実行することにより、訓練データ生成部41、機械学習部42、結晶温度分布推定部43、熱応力推定部61、欠陥分布推定部62および臨界値推定部63として機能する。
【0093】
熱応力推定部61は、結晶温度分布推定部43により推定された結晶温度分布に基づいて、シリコン単結晶SMにおける融液MDとの固液界面近傍の熱応力を推定する。
【0094】
欠陥分布推定部62は、熱応力推定部61により推定された熱応力に基づいて、シリコン単結晶SMにおける欠陥分布を推定する。この欠陥分布の推定に際し、欠陥分布推定部62は、例えば、特開2021-70593号公報に記載の方法を用いることができる。
【0095】
臨界値推定部63は、欠陥分布推定部62により推定された欠陥分布に基づいて、シリコン単結晶SMにおける臨界v/Gを推定する。この臨界v/Gの推定に際し、臨界値推定部63は、例えば、特開2021-70593号公報に記載の方法を用いることができる。
【0096】
<シリコン単結晶製造システムの動作>
次に、シリコン単結晶製造システム1Aの動作として、シリコン単結晶SMの引き上げ中におけるシリコン単結晶SMの臨界v/Gの推定処理について説明する。なお、第1実施形態と同じ処理については、同一名称および同一符号を付し、説明を簡略にするか、省略する。
図5は、第2実施形態における臨界v/Gの推定処理を示すフローチャートである。
【0097】
まず、
図5に示すように、推定装置6の訓練データ生成部41は、引き上げ炉20を模擬したシミュレーションモデルを構築する(ステップS1)。
次に、訓練データ生成部41は、シミュレーションモデルに基づく伝熱シミュレーションを実施することにより訓練データを生成し(ステップS2)、生成された訓練データを機械学習部42へ出力する。
【0098】
この後、機械学習部42は、訓練データを用いて、入力を第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度とし、出力を結晶温度分布とする回帰モデルを構築し(ステップS3)、構築された回帰モデルを結晶温度分布推定部43へ出力する。
ステップS3の処理後、温度測定部3の第1,第2測定部31,32は、第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度を測定し、測定結果を推定装置4へ出力する(ステップS4)。
【0099】
この後、結晶温度分布推定部43は、機械学習部42から取得した回帰モデルに、温度測定部3から取得した第1,第2,第3測定位置Q1,Q2,Q3の温度測定結果を入力することにより、引き上げ中のシリコン単結晶SMの結晶温度分布を推定し(ステップS5)、結晶温度分布の推定結果を熱応力推定部61へ出力する。なお、結晶温度分布推定部43は、結晶温度分布の推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。
【0100】
次に、熱応力推定部61は、結晶温度分布推定部43から取得した結晶温度分布と、当該結晶温度分布を有するシリコン単結晶SMの径方向の大きさとに基づいて、当該シリコン単結晶SMの熱応力を推定する(ステップS11)。この際、熱応力推定部61は、温度分布が異なる部位ごとに熱応力を推定することが好ましい。熱応力推定部61は、熱応力の推定結果を欠陥分布推定部62へ出力する。
なお、熱応力推定部61は、熱応力の推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。また、熱応力推定部61は、製造装置制御部からシリコン単結晶SMの径方向の大きさを取得しても良いし、作業者により入力部51を用いて設定入力された値をシリコン単結晶SMの径方向の大きさとして取得しても良い。
【0101】
その後、欠陥分布推定部62は、結晶温度分布推定部43から取得した結晶温度分布と、熱応力推定部61から取得した熱応力に基づいて、シリコン単結晶SMにおける欠陥分布を推定する(ステップS12)。欠陥分布推定部62は、欠陥分布の推定結果を臨界値推定部63へ出力する。
なお、欠陥分布推定部62は、欠陥分布の推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。
【0102】
そして、臨界値推定部63は、欠陥分布推定部62から取得した欠陥分布に基づいて、シリコン単結晶SMにおける臨界v/Gを推定する(ステップS13)。
なお、臨界値推定部63は、臨界v/Gの推定結果を出力部52に表示または出力させても良い。
【0103】
<第2実施形態の効果>
第2実施形態の推定装置6によれば、少なくとも第1実施形態の(1)、(4)~(7)と同様の効果に加えて、以下の効果を奏することができる。
(8)推定装置6は、精度良く推定された結晶温度分布に基づいて、シリコン単結晶SMにおける固液界面近傍の熱応力を推定する。
測定精度の悪い引き上げ中の融液MD近傍のシリコン単結晶SMの温度を用ないため、推定装置6は、炉部材の経年劣化に応じた引き上げ中のシリコン単結晶SMの熱応力を精度良く推定することができる。
特に、熱応力の推定処理をシリコン単結晶SMの引き上げ中に行うことにより、熱応力をリアルタイムで精度良く推定することができる。
【0104】
(9)推定装置6は、精度良く推定された結晶温度分布と熱応力に基づいて、シリコン単結晶SMの欠陥分布を推定する。
このため、推定装置6は、炉部材の経年劣化に応じた引き上げ中のシリコン単結晶SMの欠陥分布を精度良く推定することができる。
特に、欠陥分布の推定処理をシリコン単結晶SMの引き上げ中に行うことにより、欠陥分布をリアルタイムで精度良く推定することができる。
【0105】
(10)推定装置6は、精度良く推定された欠陥分布に基づいて、シリコン単結晶SMの臨界v/Gを推定する。
このため、推定装置6は、炉部材の経年劣化に応じた引き上げ中のシリコン単結晶SMの臨界v/Gを精度良く推定することができる。
特に、臨界v/Gの推定処理をシリコン単結晶SMの引き上げ中に行うことにより、欠陥分布をリアルタイムで精度良く推定することができる。
【0106】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の種々の改良並びに設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【0107】
第1実施形態の推定装置4に、熱履歴推定部44を設けなくても良いし、さらにBMD密度推定部45を設けなくても良い。第2実施形態の推定装置6に、欠陥分布推定部62を設けなくても良いし、さらに臨界値推定部63を設けなくても良い。
【0108】
第1,第2実施形態のうち少なくとも一方の実施形態において、窒素がドープされていないシリコン融液から、結晶温度分布の推定対象のシリコン単結晶を引き上げても良い。第1実施形態において、窒素がドープされていないシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる場合、BMD密度推定部45を窒素濃度に基づかずにBMD密度を推定できるように構成すれば良い。また、この場合、シリコン単結晶製造装置2に窒素濃度算出部53を設ける必要が無くなる。
【0109】
温度測定部3を第1測定部31または第2測定部32のみで構成しても良いし、第1測定部31で第1測定位置Q1または第2測定位置Q2のみの温度を測定するようにしても良いし、第1測定部31として接触式の温度測定機器を適用しても良い。
また、回帰モデルに入力される温度の測定位置は、第1~第3測定位置Q1~Q3以外の位置でも良く、伝熱シミュレーションにおいて熱物性値が設定されない炉部材上または当該炉部材近傍の位置であっても良い。
【0110】
第1実施形態において、ステップS5(結晶温度分布の推定処理)以降の処理、または、ステップS6(熱履歴の推定処理)以降の処理、または、ステップS10の処理(BMD密度の推定処理)を、結晶温度分布推定対象のシリコン単結晶SMの引き上げ後に行っても良い。
同様に、第2実施形態において、ステップS5(結晶温度分布の推定処理)以降の処理、または、ステップS11(熱応力の推定処理)以降の処理、または、ステップS12(欠陥分布の推定処理)以降の処理、または、ステップS13の処理(臨界v/Gの推定処理)を、結晶温度分布推定対象のシリコン単結晶SMの引き上げ後に行っても良い。
【実施例0111】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0112】
[実施例1]
第1実施形態のシリコン単結晶製造システム1を、実施例1のシリコン単結晶製造システムとして準備した。
そして、50本のシリコン単結晶SMの引き上げ処理を行うととともに、各引き上げ処理において、
図3に示す第1実施形態のBMD密度の推定処理を行った。
なお、シリコン単結晶SMの主な引き上げ条件は、以下の通りである。
直胴部の直径:315mm
窒素濃度:1.2×10
18/cm
3
酸素濃度:3.2×10
12/cm
3
【0113】
50本のシリコン単結晶SMのそれぞれの直胴部SM2における任意の部位から得られた1枚のサンプルウェーハに対して、BMD析出熱処理条件設定部55において設定されたBMD析出熱処理を行い、BMD密度を測定した。BMD密度の測定に、上記特許文献1に記載の方法を用いた。
そして、各サンプルウェーハのBMD密度の測定値(以下、「測定BMD密度」という場合がある)と、各直胴部SM2におけるサンプルウェーハの取得位置に対応する部位のBMD密度の推定値(以下、「推定BMD密度」という場合がある)との相関を調べた。
その結果を
図6に示す。
【0114】
図6に示すように、全てのサンプルウェーハの推定BMD密度と測定BMD密度との差の絶対値が、測定BMD密度の10%以内であった。
このことから、本発明の第1実施形態におけるBMD密度の推定処理により、BMD密度を高精度に推定できることを確認できた。
【0115】
[実施例2]
第2実施形態のシリコン単結晶製造システム1Aを、実施例1のシリコン単結晶製造システムとして準備した。
そして、3本のシリコン単結晶SMの引き上げ処理を行うととともに、各引き上げ処理において、
図5に示す第2実施形態の臨界v/Gの推定処理を行った。
なお、シリコン単結晶SMの主な引き上げ条件は、以下の通りである。
直胴部の直径:315mm
窒素濃度:1.2×10
18/cm
3
酸素濃度:3.2×10
12/cm
3
【0116】
3本のシリコン単結晶SMを引き上げ方向に沿って切断し、750℃にて5分間のCuデコレーション処理を行った後、選択エッチングであるWrightエッチングを行った。この後、顕微鏡により各欠陥領域を特定することにより、シリコン単結晶SMの欠陥分布を求めた。
そして、欠陥分布からPv領域とPi領域との境界を求め、求められた境界におけるシリコン単結晶SMの径方向中心に位置する部分に基づいて、臨界v/G(以下、「測定臨界v/G」という場合がある)を求めた。
【0117】
また、各シリコン単結晶SMの引き上げ時に、ステップS5の処理により推定された結晶温度分布に基づいて、固液界面近傍における温度勾配Gを推定した。
そして、各シリコン単結晶SMの測定臨界v/Gと、各シリコン単結晶SMに対する臨界v/Gの推定処理により得られた臨界v/G(以下、「推定臨界v/G」という場合がある)との比較処理として、測定臨界v/Gと推定臨界v/Gのそれぞれに、結晶温度分布に基づき推定された温度勾配Gを乗じた値を比較した。
【0118】
測定臨界v/Gに温度勾配Gを乗じて得られる測定臨界vと、推定臨界v/Gに温度勾配Gを乗じて得られる推定臨界vとの差の絶対値の平均値は、測定臨界vの1.3%であった。
一般的に、無欠陥のシリコン単結晶SMを引き上げるためには、測定臨界v/Gとの差が±2%となるように、引き上げ速度vを制御する必要があると言われている。
上述のように、測定臨界vと推定臨界vとの差の絶対値の平均値は測定臨界vの1.3%であったことから、本発明の第2実施形態における臨界v/Gの推定処理により、臨界v/Gを高精度に推定できることを確認できた。
20…引き上げ炉、212…トップチャンバ(冷却用炉部材)、25…熱遮蔽体(昇温抑制用炉部材)、26…冷却体(冷却用炉部材)、4,6…推定装置、41…訓練データ生成部、42…機械学習部、43…結晶温度分布推定部、44…熱履歴推定部、45…BMD密度推定部、61…熱応力推定部、P1,P2…推定プログラム、SM…シリコン単結晶。