(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083944
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240617BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240617BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240617BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20240617BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240617BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/1391
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198051
(22)【出願日】2022-12-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 凛
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD04
4G048AE05
4G048AE07
5H050AA02
5H050AA12
5H050AA14
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA02
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA09
5H050HA10
5H050HA12
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】良好な電池特性を維持しつつ、粒子強度に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【解決手段】一次粒子が凝集した二次粒子、又は前記一次粒子と前記二次粒子の両者で構成されたリチウム金属複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、該リチウム金属複合酸化物が、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含み、前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度が10~50MPaで、前記二次粒子が、粒子の内部を占有するコア部と前記コア部を包み外側を覆うシェル部からなり、前記二次粒子の断面の撮像により観察される下記の形態(a)~(c)を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。(a)前記コア部が多孔構造を有し、コア部空隙率が20~60%である。(b)前記シェル部が中実構造を有し、シェル部空隙率が5%以下である。(c)前記二次粒子の全体空隙率が10~50%である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集した二次粒子、又は、前記一次粒子と前記二次粒子の両者で構成されたリチウム金属複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム金属複合酸化物が、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含み、
前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度が、10~50MPaであり、
前記二次粒子が、粒子の内部を占有するコア部、及び、前記コア部を包み外側を覆うシェル部からなり、
前記二次粒子の断面の撮像により観察される下記の形態(a)~形態(c)を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
(記)
(a)前記コア部が多孔構造を有し、コア部空隙率が20~60%である。
(b)前記シェル部が中実構造を有し、シェル部空隙率が5%以下である。
(c)前記二次粒子の全体空隙率が10~50%である。
【請求項2】
前記リチウム金属複合酸化物の前記二次粒子の断面の撮像により観察される粒子構造における多孔構造が、粒子断面に2箇所以上の空孔を持つ断面状態を示す構造で、前記中実構造が、粒子断面が充填状態にある断面状態を示す構造であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物が、3~8μmの平均粒径を有し、前記シェル部の厚さが0.1~2μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム金属複合酸化物が、1.2~4m2/gの比表面積と、0.8~2.2g/cm3のタップ密度を有し、吸油量が25~55ml/100gであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム金属複合酸化物が、一般式:LiaNi1-x-y-zMnxCoyMzO2+α(0.95≦a≦1.3、0.01≦x≦0.5、0.01≦y≦0.5、0≦z≦0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数、Mは、W、Mo、V、Ca、Mg、Sr、Ba、Ti、Cr、Zr、Al、Nb、Ta、Si、P、B、Sの中から選択される1種以上の元素を含む)で表されることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記リチウム金属複合酸化物が、前記リチウム金属複合酸化物からなる粉体の表面を垂直に押す力が20~200Nであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記リチウム金属複合酸化物を含む固形分と溶剤からなり、前記固形分と前記溶剤の質量比(固形分/溶剤)が1~2.5である正極合材ペーストにおけるペースト温度が20~25℃での粘度が、20000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球環境保護の観点から、二酸化炭素の排出量が少ないハイブリット自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)など、地球環境に優しいクリーンエネルギー自動車が普及しつつある。これらのクリーンエネルギー自動車に用いられる電池の中では、出力特性、及び、充放電サイクル特性などに秀でていることから、リチウムイオン二次電池の開発が、現在もなお進められている。
【0003】
また、化石燃料を燃焼させる火力発電所の新設が困難な中、電力需要の増大に対応するべく、電力の有効利用法の一つとして、余剰電力となり得る夜間電力を、一般家庭に設置したリチウムイオン二次電池に蓄えて、電力消費量が多い昼間に使用し、負荷を平準化する、ロードレベリングが行われている。
更に、リチウムイオン二次電池からなる家庭用蓄電池を、太陽光発電システムと一緒に利用する取り組みも、徐々に拡がりを見せており、蓄えられたクリーンな電力を、昼間だけでなく夜間も使用出来るほか、地震や台風などの災害による、停電発生時の非常用電源としても、大いに期待されている。
【0004】
この様なリチウムイオン二次電池の正極活物質として、層状、又は、スピネル型の結晶構造を有する、リチウム金属複合酸化物を用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を示す二次電池として、実用化が進んでいる。
そのリチウム金属複合酸化物としては、製造が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)をはじめ、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(例えば、LiNi0.75Co0.15Al0.10O2)などが、提案されている。
【0005】
これらのリチウム金属複合酸化物の中でも、ニッケル、コバルト、アルミニウムを特定の比率で含有する、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)や、ニッケル、マンガン、コバルトを特定の比率で含有する、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(NMC)からなる正極活物質は、熱安定性に優れ、高容量で、サイクル特性も良好で、かつ、低抵抗で高出力が得られる材料として、特に注目を集めている。
【0006】
また、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、高い性能を有する正極活物質を得ることを目的として、上記のリチウム金属複合酸化物の粒子構造に着目した技術が、幾つか開示されている。
特許文献1では、一般式:Li1+uNixMnyCozMtO2(-0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.3≦x≦0.7、0.1≦y≦0.55、0≦z≦0.4、0≦t≦0.1、Mは添加元素であり、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成される、リチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2~8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、比表面積が1~2m2/gであり、粒子内部の中空部と、その外側の外殻部で構成される中空構造を有し、該外殻部の厚さが0.5~2.5μmであることを特徴とする、正極抵抗を低減可能な非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0007】
特許文献2では、一般式:LiaNixMnyCozMtO2(但し、0.95≦a≦1.20、0.2≦x≦0.8、0≦y<0.3、0.07<z≦0.8、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、Mは、Mg、Ca、Ba、Sr、Al、Ti、V、Cr、Zr、Mo、Hf、Ta、及び、Wの中から選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、中空、又は、多孔構造を有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなり、硫酸根含有量が0.4質量%以下、ナトリウム含有量が0.035質量%以下であることを特徴とする、クーロン効率、及び、反応抵抗に優れた、非水電解質二次電池用正極活物質が開示されている。
【0008】
特許文献3では、一次粒子の凝集体で形成された、二次粒子の内部領域の全体にわたって、気孔が分布する多孔性構造の粒子であって、気孔が、二次粒子の中心から放射状に分布していることによって、大きな比表面積を有し、これにより、電解液の気孔内部への流入が容易であり、リチウムイオンの移動抵抗が低下して、高出力特性を有する二次電池の製造を可能にするリチウム電池用正極活物質が開示されている。
【0009】
特許文献4では、レート特性に優れたリチウム二次電池用正極活物質として、リチウム複合金属酸化物の一次粒子が複数凝集した二次粒子を含み、前記二次粒子は、内部に形成された空隙と、前記空隙と前記二次粒子の表面とを接続する貫通孔と、を有し、以下の(i)~(iii)を全て満たすリチウム二次電池用正極活物質が開示されている。
【0010】
(i)前記二次粒子の断面において、前記断面の外縁で囲まれる図形の長軸長A に対する、前記図形の短軸長Bの比(B/A)が0.75以上1.0以下である。
(ii)前記図形の面積に対する、前記断面に露出した前記空隙の合計面積の割合が2.0%以上4 0%以下である。
(iii)前記断面に露出した前記空隙の合計面積に対する、前記断面に露出した前記空隙のうち、前記二次粒子の中心部に存在する空隙の面積の割合が60%以上99%以下である。(但し、前記長軸長は、前記図形において、前記図形の重心位置を通る前記図形の径のうち、最長の径である。)前記中心部は、前記図形の面積をSとする時、前記図形の重心位置を中心とし、式「r=(S/π)0.5/2」で算出されるrを半径とする円を想定した時、当該円に囲まれる部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012-254889号公報
【特許文献2】国際公開2015-146598号公報
【特許文献3】特開2017-533571号公報
【特許文献4】特開2019-096406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の特許文献1~4の技術では、電池特性向上のため、リチウム金属複合酸化物に、高い空隙率や、中空、多孔、多層などの粒子構造を持たせた結果、粒子自体の強度が低下し、十分な耐久性が得られなくなる問題を包含しており、それにも関わらず、この問題に対する解決策は、これまで全く明らかとなっていなかった。
【0013】
そこで、本発明者が、鋭意研究を行ったところ、高い空隙率や、中空、多孔、多層などの粒子構造を持つコア部に対し、粒子強度に優れたシェル部を形成させることにより、上記の問題を解決出来ることを見出した。
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、良好な電池特性を維持しつつ、粒子強度に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、上記の課題を解決するための、本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、一次粒子が凝集した二次粒子、又は、前記一次粒子と前記二次粒子の両者で構成されたリチウム金属複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物が、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含み、前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度が10~50MPaであり、前記二次粒子が、粒子の内部を占有するコア部、及び、前記コア部を包み外側を覆うシェル部からなり、前記二次粒子の断面の撮像により観察される下記の形態(a)~形態(c)を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
(記)
(a)前記コア部が多孔構造を有し、コア部空隙率が20~60%である。
(b)前記シェル部が中実構造を有し、シェル部空隙率が5%以下である。
(c)前記二次粒子の全体空隙率が10~50%である。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様の発明におけるリチウム金属複合酸化物の前記二次粒子の断面の撮像により観察される粒子構造における多孔構造が、粒子断面に2箇所以上の空孔を持つ断面状態を示す構造で、前記中実構造が、粒子断面が充填状態にある断面状態を示す構造であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、3~8μmの平均粒径を有し、前記シェル部の厚さが0.1~2μmであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0017】
本発明の第4の態様は、第1又は第2の態様の発明における前記リチウム金属複合酸化物が、1.2~4m2/gの比表面積と、0.8~2.2g/cm3のタップ密度を有し、吸油量が25~55ml/100gであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1又は第2の態様の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、一般式:LiaNi1-x-y-zMnxCoyMzO2+α(0.95≦a≦1.3、0.01≦x≦0.5、0.01≦y≦0.5、0≦z≦0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数、Mは、W、Mo、V、Ca、Mg、Sr、Ba、Ti、Cr、Zr、Al、Nb、Ta、Si、P、B、Sの中から選択される1種以上の元素を含む)で表されることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0019】
本発明の第6の態様は、第1又は第2の態様の発明におけるリチウム金属複合酸化物が、前記リチウム金属複合酸化物からなる粉体の表面を垂直に押す力が20~200Nであることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1又は第2の態様の発明におけるリチウム金属複合酸化物を含む固形分と溶剤からなり、前記固形分と前記溶剤の質量比(固形分/溶剤)が1~2.5である正極合材ペーストにおけるペースト温度が20~25℃での粘度が、20000mPa・s以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質である。
【発明の効果】
【0021】
良好な電池特性を維持しつつ、粒子強度に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る、金属複合水酸化物(前駆体)の断面のイメージ図である。
【
図2】本発明に係る、リチウム金属複合酸化物の断面のイメージ図である。
【
図3】本発明に係る、電池特性の評価に用いた、コイン型電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態に係る、リチウムイオン二次電池用正極活物質について、以下に詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の説明における内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の変更例や代替例を含むことが出来る。
【0024】
<リチウムイオン二次電池用正極活物質>
本発明では、一次粒子が凝集した二次粒子、又は、前記一次粒子と前記二次粒子の両者で構成されたリチウム金属複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、前記リチウム金属複合酸化物がリチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含み、前記リチウム金属複合酸化物の粒子強度が10~50MPaであり、前記二次粒子が粒子の内部を占有するコア部、及び、前記コア部を包み外側を覆うシェル部からなり、前記二次粒子の断面の撮像により観察される下記の形態(a)~形態(c)を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【0025】
(a)前記コア部が多孔構造を有し、コア部空隙率が20~60%である。
(b)前記シェル部が中実構造を有し、シェル部空隙率が5%以下である。
(c)前記二次粒子の全体空隙率が10~50%である。
【0026】
(1)組成
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトを含み、具体的には、一般式:LiaNi1-x-y-zMnxCoyMzO2+α(0.95≦a≦1.3、0.01≦x≦0.5、0.01≦y≦0.5、0≦z≦0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数、Mは、W、Mo、V、Ca、Mg、Sr、Ba、Ti、Cr、Zr、Al、Nb、Ta、Si、P、B、Sの中から選択される1種以上の元素を含む)で表される。また、その臨界的意義については、以下の通りである。
【0027】
リチウム(Li)のモル比を示す「a」は、好ましくは0.95~1.3、より好ましくは0.96~1.25、特に好ましくは0.97~1.2の範囲内である。上記の範囲内ならば、出力特性や電池容量に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、その製造方法を提供することが出来る。これに対して、「a」が0.95未満では、正極抵抗が大きくなり、出力特性を向上させることが出来ず、1.3を超えると、初期放電容量が低下するほか、正極抵抗も大きくなる。
【0028】
ニッケル(Ni)のモル比を示す「1-x-y-z」は、好ましくは0.2~0.98、より好ましくは0.25~0.95、特に好ましくは0.3~0.93の範囲内である。上記の範囲内ならば、正極活物質として用いた場合に、リチウムイオン二次電池の高電位化・高容量化を図ることが出来る。これに対して、「1-x-y-z」が0.2未満では、高電位化・高容量化を十分に図ることが出来ず、0.98を超えると、他の元素のモル比が減少し、その効果を十分に得ることが出来なくなる。
【0029】
マンガン(Mn)のモル比を示す「x」は、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.05~0.45、特に好ましくは0.1~0.4の範囲内である。上記の範囲内ならば、正極活物質として用いた場合に、リチウムイオン二次電池の熱安定性を向上させることが出来る。これに対して、「x」が0.01未満では、熱安定性を十分に向上させることが出来ず、0.5を超えると、高温作動時に、正極活物質からマンガンが溶出し、サイクル特性が悪化する恐れがある。
【0030】
コバルト(Co)のモル比を示す「y」は、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.05~0.45、特に好ましくは0.1~0.4の範囲内である。上記の範囲内ならば、正極活物質として用いた場合に、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を向上させることが出来る。これに対して、「y」が0.01未満では、結晶格子の膨張収縮挙動の低減効果が不十分で、サイクル特性を十分に向上させることが出来ず、0.5を超えると、コバルトの添加量が多過ぎて、初期放電容量が大幅に低下する。
【0031】
Mは、リチウムイオン二次電池の出力特性、耐久性、安定性などに寄与する元素であり、任意で添加される。Mのモル比を示す「z」の値は、0であってもよいが、上述の効果を十分に得るために、「z」の値を、好ましくは0を超え0.1以下、より好ましくは0を超え0.05以下、特に好ましくは0を超え0.01以下の範囲内とする。「z」の値が0では、リチウムイオン二次電池の出力特性、耐久性、安定性などを向上させることが出来ない。一方、「z」の値が0.1を超えると、他の元素のモル比が減少し、その効果を十分に得ることが出来なくなる。
【0032】
この様なMとしては、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、リン(P)、ホウ素(B)、硫黄(S)から選択される1種以上を用いることが出来る。
【0033】
(2)粒子強度
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、粒子強度が好ましくは10~50MPa、より好ましくは11~45MPa、特に好ましくは12~40MPaの範囲内である。上記の範囲内ならば、良好な電池特性を維持しつつ、粒子強度に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、その製造方法を提供することが出来る。
【0034】
これに対して、粒子強度が10MPa未満では、後述するリチウム金属複合酸化物の解砕工程で、二次粒子が粉砕されて微粉が発生し、50MPaを超えると、正極膜を作製する際の充填性が悪くなる。
なお、「粒子強度」とは、1個の試料粒子に荷重を加え、その粒子が破壊した際の破壊強度を以て「粒子強度」と規定し、その評価に際しては、複数(例えば10個など)の粒子の破壊強度を求め、その平均値を算出して「粒子強度」とする。その測定方法は特に定めていないが、圧縮試験により行われるものである。
【0035】
(3)粒子形態・粒子内部構造
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、その殆どが、複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態を有しているが、部分的に、二次粒子として凝集しない状態の一次粒子が含まれていてもよい。上記の二次粒子を構成する一次粒子、及び、単独で存在する一次粒子の形状については、特に限定は無く、球状、板状、針状、直方体状、楕円状、菱面体状など、様々な形状を取り得る。また、複数の一次粒子の凝集形態についても、特に限定は無く、ランダムな方向に凝集する形態のほか、中心部からほぼ均等、かつ、放射状に凝集し、略球体形状や楕円体形状の二次粒子を形成する形態など、様々な形態を取り得る。
【0036】
上記の二次粒子の形態を有するリチウム金属複合酸化物の粒子は、粒子の内部を占有するコア部が多孔構造、かつ、前記コア部を包む外側を覆うシェル部が中実構造を採っている。
ここで、多孔構造とは、リチウム金属複合酸化物が前記二次粒子の断面の撮像により観察される断面粒子構造において、前記多孔構造は、粒子断面に2箇所以上の空孔を持つ断面状態を示す構造で、即ち、多くの空孔が二次粒子の内部の全体に亘って分散している構造のことを言う。一方、中実構造は、粒子断面が充填状態にある断面状態を示す構造である。つまり、この二次粒子は、その断面を撮像することで観察される下記の形態(a)~形態(c)を有するものである。
【0037】
(a)コア部が多孔構造を有し、コア部空隙率が好ましくは20~60%、より好ましくは25~55%、特に好ましくは30~50%の範囲内である。
(b)シェル部が中実構造を有し、シェル部空隙率が好ましくは5%以下、より好ましくは4.9%以下、特に好ましくは4.8%以下の範囲内である。
(c)二次粒子の全体空隙率が好ましくは10~50%、より好ましくは12~45%、特に好ましくは15~40%の範囲内である。
【0038】
各空隙率が上記の範囲内ならば、良好な電池特性を維持しつつ、粒子強度に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、その製造方法を提供することが出来る。
【0039】
(4)平均粒径(MV)
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、二次粒子の平均粒径(MV)が好ましくは3~8μm、より好ましくは3.5~7.5μm、特に好ましくは4~7μmの範囲内である。上記の範囲内ならば、この正極活物質を正極に組み込んだ二次電池において、容積当りの電池容量を大きく出来ると共に、安全性が向上してサイクル特性が良好となる。これに対して、平均粒径が3μm未満では、正極を作製した際に、粒子の充填密度が低くなり、正極の容積当りの電池容量が悪化し、8μmを超えると、正極活物質の比表面積が低くなり、二次電池の電解液との界面が減少し、その結果、正極の抵抗が上昇して、電池の出力特性が悪化する。
【0040】
(5)シェル部の厚さ
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、シェル部の厚さが好ましくは0.1~2μm、より好ましくは0.3~1.5μm、特に好ましくは0.5~1μmの範囲内である。上記の範囲内ならば、良好な電池特性を維持しつつ、粒子強度に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、その製造方法を提供することが出来る。
【0041】
(6)比表面積
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、比表面積が好ましくは1.2~4m2/g、より好ましくは1.4~3.8m2/g、特に好ましくは1.6~3.6m2/gの範囲内である。上記の範囲内ならば、正極活物質として用いた場合に、電解液と接触可能な粒子接触面を、十分に確保することが出来る。比表面積が1.2m2/g未満では、粒子接触面が少なくなり過ぎ、多孔構造を有する粒子としての充放電容量を得られず、4m2/gを超えると、粒子接触面が過多となり、表面活性が高くなり過ぎる恐れがある。
【0042】
(7)タップ密度
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、タップ密度が好ましくは0.8~2.2g/cm3、より好ましくは0.85~2.15g/cm3、特に好ましくは0.8~2.1g/cm3の範囲内である。上記の範囲内ならば、二次電池の単位容積当りの電池容量、及び、サイクル特性を同時に向上させることが出来る。タップ密度が0.8g/cm3未満では、正極活物質の充填性が低いため、充放電容量を十分に改善出来ず、2.2g/cm3を超えると、正極活物質の比表面積が低下するため、電解液との反応面積が減少し、出力特性を十分に改善出来ない。
【0043】
(8)吸油量
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、吸油量が好ましくは25~55ml/100g、より好ましくは27~53ml/100g、特に好ましくは30~50ml/100gの範囲内である。上記の範囲内ならば、正極活物質として用いた場合に、電解液と接触可能な粒子接触面を、十分に確保することが出来る。吸油量が25ml/100g未満では、粒子接触面が少なくなり過ぎ、多孔構造を有する粒子としての充放電容量を得られず、55ml/100gを超えると、粒子接触面が過多となり、表面活性が高くなり過ぎる恐れがある。
【0044】
(9)粉体の表面を垂直に押す力
本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、粉体の表面を垂直に押す力が好ましくは20~200N、より好ましくは35~180N、特に好ましくは50~160Nの範囲内である。上記の範囲内ならば、良好な電池特性を維持しつつ、耐久性に優れたリチウムイオン二次電池用正極活物質、及び、その製造方法を提供することが出来る。これに対して、粉体の表面を垂直に押す力が20N未満では、後述するリチウム金属複合酸化物の解砕工程で、二次粒子が粉砕されて微粉が発生し、200Nを超えると、解砕に時間が掛かり過ぎるなど、取り扱い難くなる。
【0045】
(10)正極合材ペーストの粘度 本発明の実施形態に係る、正極活物質となるリチウム金属複合酸化物は、正極合材ペースト(20~25℃)の粘度が好ましくは20000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、特に好ましくは5000mPa・s以下の範囲内である。上記の範囲内ならば、正極合材ペーストとした際のゲル化を抑制し、より優れた電池特性を実現することが出来る。
【実施例0046】
以下、実施例、及び、比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。また、下記の実施例、及び、比較例では、特に断りがない限り、富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬類を用いた。更に、本発明は、下記の実施例、及び、比較例より、何ら制限されるものではない。
なお、実施例、及び、比較例で用いた、各種評価方法、電池評価方法は、次の通りである。
【0047】
(各種評価方法)
(1)組成
組成は、試料を無機酸で加熱分解して分析検体液とし、この分析検体液をマルチ型ICP発光分光分析装置であるICPE-9000(株式会社島津製作所製)を用いて、測定することにより求めた。
【0048】
(2)粒子強度
粒子強度は、微小強度評価試験機MCT-500(株式会社島津製作所製)を用いて、1個の試料粒子に圧子で荷重を加え、圧縮、破壊された際の粒子強度を算出した。具体的には、シリコン板の上に試料粒子を静止させ、圧子の中心部に合わせて位置を微調整し、圧子を、試料粒子に大きな荷重が掛からない程度に接触させて、測定を行った。測定条件は、試験力を150mN、負荷速度を2.0mN/秒とし、10個の粒子の平均値を求めた。
【0049】
(3)空隙率
空隙率は、試料粒子の切断には、断面の調製装置であるクロスセクションポリッシャIB-19530CP(日本電子株式会社製)を用い、また、その断面の観察には、ショットキー電界放出型の走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)であるJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いた。更に、画像解析・計測ソフトウェアであるWinRoof6.1.1(三谷商事株式会社製)を用いて、粒子断面の空隙部を黒として測定し、粒子の緻密部を白として測定し、任意の20個以上の粒子に対して、黒部分/(黒部分+白部分)の面積を計算することにより空隙率を求めた。
また、上記に従い、コア部空隙率、シェル部空隙率、二次粒子の全体空隙率は、以下の様に算出した。
【0050】
1)コア部空隙率
コア部空隙率(%)=コア部の空隙部(黒部分)の面積/コア部全体(黒部分+白部分)の面積×100
【0051】
2)シェル部空隙率
シェル部空隙率(%)=シェル部の空隙部(黒部分)の面積/シェル部全体(黒部分+白部分)の面積×100
【0052】
3)二次粒子の全体空隙率
二次粒子の全体空隙率(%)=二次粒子全体の空隙部(黒部分)の面積/二次粒子全体(黒部分+白部分)の面積×100
【0053】
(4)粒子構造
粒子構造は、試料粒子の切断には、断面の調製装置であるクロスセクションポリッシャIB-19530CP(日本電子株式会社製)を用い、また、その断面の観察には、ショットキー電界放出型の走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)であるJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いた。
【0054】
(5)平均粒径
平均粒径(MV)は、試料をレーザー回折・散乱法により測定し、体積基準分布から求めた。なお、測定装置には、レーザー回折・散乱方式であり、かつ、超音波発生器内臓型の粒度分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EX-II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
【0055】
(6)シェル部の厚さ
シェル部の厚さは、試料粒子を集光イオンビーム(FIB)法により前処理した後、得られた試料粒子の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮像することで、シェル部の平均厚さを測定した。また、上記の前処理には、集光イオンビーム加工装置であるFB-2000A(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用い、断面の撮像には、透過型電子顕微鏡であるJEM-ARM200F(日本電子株式会社製)を用いた。
【0056】
シェル部の平均厚さには、得られた断面画像に対して、画像解析・計測ソフトウェアであるWinRoof6.1.1(三谷商事株式会社製)を用いて、任意に選択した20個の測定対象粒子の各々において、粒子断面の略中心で直交する2本の直線が、シェル部と交差する4箇所のシェル部の厚さを測定し、得られた4箇所のシェル部の厚さを平均して、測定対象粒子1個のシェル部の厚さを求めた後、得られた上記20個の測定対象粒子のシェル部の厚さを、算術平均することにより求めた。
【0057】
(7)比表面積
比表面積は、試料をBET1点法による窒素ガス吸着・脱離法で分析して求め、測定には、ガス流動方式の比表面積測定装置であるマックソーブ1200シリーズ(株式会社マウンテック製)を用いた。
【0058】
(8)タップ密度
タップ密度は、試料12gを容量20mlのメスシリンダーに採取し、このメスシリンダーを振とう比重測定器であるKRS-409(株式会社蔵持科学器械製作所製)に装着した後、高さ2cmの位置から自由落下させる操作を500回繰り返すことにより求めた。
【0059】
(9)吸油量
吸油量は、DBP(フタル酸ジブチル、フタル酸ジ-ノルマル-ブチル)を試薬液体として用い、「JIS_K_6217-4:2008(ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む))」に準拠した、吸収量測定装置により測定し、DBP吸収量として求めた。その測定結果は、試料100g当たりの吸収量で算出されるため、単位は、「ml/100g」で表される。また、測定には、S-500(株式会社あさひ総研製)を用いた。
【0060】
(10)粉体の表面を垂直に押す力
粉体の表面を垂直に押す力は、試料を容器に敷き均した後、その粉体の表面の10箇所に、デジタルフォースゲージ(日本電産シンポ株式会社製)の検知部を垂直に突き刺し、押す力を測定して、最大値・最小値を除いた8点の平均値を求めた。
【0061】
(11)正極合材ペーストの粘度
正極合材ペーストの粘度は、試料21gに対して、導電材としてアセチレンブラック6g、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、型番KFポリマー#1100)3g、N-メチル-2-ピロリドン(関東化学株式会社製)16gを混練することで、正極合材ペースト(固形分(g)/有機溶媒(g)の比=1.875)を作製し、この正極合材ペーストを、所定の容器に10g以上採取して、ウォーターバス中で流体温度を20[℃]に制御し、振動式粘度計であるビスコメイトVM-100A(株式会社セコニック製)を用いて、測定することにより求めた。
【0062】
(電池評価方法)
(1)評価用電池(コイン型電池CBA)の作製方法
図3に示す、評価用電池(コイン型電池CBA)の作製方法は、まず、上記の正極活物質を52.5mg、アセチレンブラックを15mg、ポリテトラフルオロエチレンを7.5mg、それぞれ秤量したものを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、正極PE(評価用電極)を作製した。次に、作製した正極PEを、真空乾燥機中、かつ、120℃で12時間乾燥した後、この正極PEを用いて、2032型コイン型電池CBAを、露点が-80℃に管理された、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で作製した。また、負極NEには、直径17mm、厚さ1mmの金属リチウムを用い、電解液には、1モルのLiClO
4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用い、セパレーターSEには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。なお、コイン型電池CBAは、ガスケットGAと、ウェーブワッシャーWWを配置し、正極缶PCと負極缶NCで、コイン型の電池に組み立てた。
【0063】
(2)初期放電容量
初期放電容量は、
図3に示す、評価用電池(コイン型電池CBA)を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open_circuit_voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2とし、カットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量を求め、1時間の休止を経て、カットオフ電圧3.0Vまで放電した際の容量として求めた。また、測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器であるR6741A(株式会社アドバンテスト製)を用いた。
【0064】
(3)正極抵抗
正極抵抗は、
図3に示す、評価用電池(コイン型電池CBA)を作製し、この評価用電池を充電電位4.1Vで充電し、周波数応答アナライザ、及び、ポテンショガルバノスタットを用いて、交流インピーダンス法で測定することにより、ナイキストプロットを得た。そして、このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、及び、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表され、ナイキストプロットに基づき、等価回路を用いて、フィッティング計算を行なうことにより、正極抵抗を算出した。
一方、硫酸ニッケル六水和物、硫酸マンガン一水和物、硫酸コバルト七水和物を、ニッケル、マンガン、コバルトの組成比が、Ni:Mn:Co=50:30:20となる様に秤量し、かつ、ニッケル、マンガン、コバルトの濃度が、合計2mol/Lとなる様に、水に溶解し、原料溶液を作製した。
そして、原料溶液を、槽内の反応溶液に100ml/分で加え、それと共に、アルカリ溶液やアンモニウムイオン供給体も、反応溶液に一定速度で加え、反応溶液のpHを12.8(核生成工程pH)に、アンモニウムイオン濃度を10g/Lに、それぞれ保持した状態のまま、晶析を1分間実施することで、核生成を行った。
一旦、原料溶液、アルカリ溶液、アンモニウムイオン供給体の供給を停止後、反応溶液のpHが11.6(粒子成長工程pH)になるまで硫酸を添加し、11.6に到達してから、原料溶液、アルカリ溶液、アンモニウムイオン供給体の供給を再開して、pHを11.6に、アンモニウムイオン濃度を10g/Lに、それぞれ保持した状態のまま、晶析を4.5時間継続し、粒子成長を行った。
得られた金属複合水酸化物を含むスラリーを、フィルタープレスに投入し、加圧濾過することにより、金属複合水酸化物ケーキを回収した。この金属複合水酸化物ケーキを反応槽に戻し、槽内にアルカリ洗浄液(5質量%水酸化ナトリウム水溶液)を満たして、30分間撹拌することで、アルカリ洗浄した後、再度フィルタープレスによる加圧濾過を行い、アルカリ洗浄ケーキを回収した。このアルカリ洗浄ケーキを反応槽に戻し、槽内に水を満たして、30分間撹拌することで、仕上げ洗浄した後、再々度フィルタープレスによる加圧濾過を行い、洗浄ケーキを回収した。
回収した洗浄ケーキを、電気加熱式乾燥機を用いて、150℃で、かつ、5時間乾燥することにより、金属複合水酸化物を得た。
このリチウム焼成物に含まれる凝集体を解砕することにより、最終的に、コア部が多孔構造、かつ、シェル部が中実構造の正極活物質となるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(Li1.03Ni0.5Mn0.3Co0.2O2)を得た。
なお、得られたリチウム金属複合酸化物における各評価結果は、表1に示す通りであった。