(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084076
(43)【公開日】2024-06-24
(54)【発明の名称】冷凍機および熱交換器
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20240617BHJP
【FI】
F25B9/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198261
(22)【出願日】2022-12-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1:Cryogenics 121 (2022),Article 103408(URL:https://www.sciencedirect.com/journal/cryogenics/vol/121/suppl/C)
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保川 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】上田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸
(72)【発明者】
【氏名】豊崎 次郎
(57)【要約】
【課題】高い冷凍機性能を有する冷凍機を提供する。
【解決手段】冷凍機100は、複数の流路が相互に並設された熱交換器21と、熱交換器21に連通する蓄冷器22とを具備する。各流路の流路半径r0を各流路における熱境界層厚さδαで除算した指標r0/δαは0.30よりも大きく、かつ、比表面積は13.5[mm
2/mm
3]よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路が相互に並設された熱交換器と、
前記熱交換器に連通する蓄冷器と
を具備する冷凍機であって、
前記各流路の流路半径r0を前記各流路における熱境界層厚さδαで除算した指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積が13.5[mm2/mm3]よりも小さい
冷凍機。
【請求項2】
前記比表面積は、4.64[mm2/mm3]よりも小さい
請求項1の冷凍機。
【請求項3】
前記指標r0/δαは、1.00よりも大きい
請求項1の冷凍機。
【請求項4】
前記指標r0/δαが1.00よりも大きく、かつ、前記比表面積が4.64[mm2/mm3]よりも小さい
請求項1の冷凍機。
【請求項5】
前記複数の流路の各々の断面形状は円形である
請求項1から請求項4の何れかの冷凍機。
【請求項6】
複数の流路が相互に並設された熱交換器であって、
前記各流路の流路半径r0を前記各流路における熱境界層厚さδαで除算した指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積が13.5[mm2/mm3]よりも小さい
熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷凍機および熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで振動流における熱交換器設計については、通常の定常流における設計と同様の手法が用いられてきた。ただ、定常流と振動流では熱伝達率が異なるため、振動流での実験により層流、乱流条件下で熱伝達率を決定するNu(ヌセルト数)が実験的に示され、実験式として明示されてきた。また熱交換器に求められる構成要件として、伝熱表面積を大きくすること、粘性抵抗の小さい熱交換器形態が求められてきた。熱交換器の形態として、メッシュやランダムファイバーなどを使用する複雑系熱交換器と断面が矩形や丸穴の一様な流路を有する一様流路型熱交換器である。前者は、伝熱表面積を大きくとることができるメリットがあるが、粘性抵抗が高くなるというデメリットがある。後者は、伝熱面積は複雑流路系ほど大きく取れないが、粘性抵抗が小さくなるというメリットがある。
【0003】
文献1には、パルスチューブ冷凍機における低温側および高温側の熱交換器として複雑流路系の銅メッシュを用いた構成が開示されている。文献2には、パルスチューブ冷凍機の高温側熱交換器として一様流路系のスリット形状が開示され、文献3には、パルスチューブ冷凍機の低温側熱交換器としてスリット形状が開示されている。さらに文献4には、パルスチューブ冷凍機の高温側熱交換器に銅メッシュを用いたものが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Lewis MA, Taylor RP, Bradley PE, Garaway I, Radebaugh R. Pulse tube cryocooler for rapid cooldown of a superconducting magnet. Cryocoolers 15 2009:167-76.
【非特許文献2】Ki T, Jeong S. Optimal design of the pulse tube refrigerator with slit-type heat exchangers. Cryogenics (Guildf)., vol. 50, 2010, p. 608-14.
【非特許文献3】Pang X, Dai W, Wang X, Vanapalli S, Luo E. Experimental study of the influence of cold heat exchanger geometry on the performance of a co-axial pulse tube cooler. Cryogenics (Guildf) 2016;78:78-82.
【非特許文献4】Y. Yasukawa, N. Matsumoto, Y. Ueda, “Experimental Study on the Effect of Aftercooler Configuration on the Performance of Pulse Tube Cryocoolers, Cryogenics, Vol. 121, 2022, 103408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルスチューブ冷凍機の高温側熱交換器を
図11に示す。この熱交換器は熱交換器本体と外管(ケーシング)から構成され、内部のガス(通常ヘリウムガス)と熱交換器本体間で熱伝達により熱交換し、その伝熱部材である熱交換器本体から外管(ケーシング)へ熱伝導で伝熱する。外管と熱交換器本体間は通常、部材間を熱的に接合する必要がある。内部のガスの熱は最終的に外管部材の外側から水冷や空冷により放熱するしくみである。文献1では、熱交換器本体に銅メッシュを用いており、銅メッシュと外側の伝熱部材である銅リングとの間を熱拡散接合して、この間で熱抵抗が発生しない工夫をしている。また、文献4では銅メッシュに銀メッキを施し、外側の伝熱部材である銅リングとの間では銀メッキを融解させて銀ロウ付けと同様の効果を期待して施工している。文献2および3では熱交換器本体として外管と一体型となったスリット形状のものを用いている。
【0006】
文献1の技術では、低温側、高温側熱交換器本体として銅メッシュを用いている。このパルスチューブ冷凍機は熱交換器の性能が十分ではなく(その他偏流による影響もあるが)、設計通りの冷凍機性能には達していない。また、文献4における、銅メッシュ型の熱交換器において、銅メッシュ型は多孔体型より冷凍機性能が劣る結果となっている。
【0007】
一方で、文献2、3および文献4の一部の技術では、スリット型、丸穴多孔体型の熱交換器が用いられている。文献2、3ではパルスチューブ冷凍機として冷凍機性能は所望の性能を達成したとしている。文献4の熱交換器の違いによる冷凍機性能の比較を
図12として示す。この図において、横軸は音響パワー、縦軸は低温端無負荷到達温度である。多孔体型、バンドル型(何れも一様流型)の熱交換器の方が銅メッシュ型より低温端達温度が低く、冷凍機性能として高いことを示している。
【0008】
文献4には、通常の定常流での伝熱特性と振動流における伝熱特性が示されている。それによると、定常流では複雑流路系熱交換器の方が伝熱特性は良いが、振動流では反対に一様流路系熱交換器を組込んだ冷凍機の方が冷凍機特性は良くなるという結果が示されている。通常、銅メッシュ型のような複雑流路系は、比表面積を大きくでき、熱伝達率も高い。
図9には、文献4の元データとなるデータを示す。振動流における定格運転時において、熱伝達率およびNuは先行研究による実験式を使用して計算した結果である。銅メッシュ型において、熱伝達率は他2つの10倍以上であり、比表面積も数倍以上と大きい。
【0009】
したがって、一般的には振動流での伝熱特性においても、銅メッシュ型の熱交換器を備えた冷凍機の冷凍機性能が良いと考えられる。しかし、実際にはそのような結果にはならなかった。これは、文献4で述べられているように、熱交換器内部の温度分布が一様ではなく、熱交換器の一部が蓄冷器とあたかも同様な熱的振る舞いをすることにより生じた結果であると考えられる。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、冷凍機の熱交換器の2つのパラメータをある範囲に選定することにより、高い冷凍機性能を有する冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る冷凍機は、複数の流路が相互に並設された熱交換器と、前記熱交換器に連通する蓄冷器とを具備する冷凍機であって、前記各流路の流路半径r0を前記各流路における熱境界層厚さδαで除算した指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積が13.5[mm2/mm3]よりも小さい。
【0012】
また、本開示のひとつの態様に係る熱交換器は、前記各流路の流路半径r0を前記各流路における熱境界層厚さδαで除算した指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積が13.5[mm2/mm3]よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ひとつの実施形態に係る冷凍機の模式図である。
【
図2】熱交換器(アフタークーラ,コールドヘッド)の斜視図である。
【
図3】定常流および振動流による熱交換の相違に関する説明図である。
【
図7】熱交換器(アフタークーラ)における熱の流れを説明図である。
【
図8】指標r0/δαと流路半径r0との関係を表すグラフである。
【
図9】熱交換器に関する各種の条件を表す図表である。
【
図10】熱交換器に関する各種の条件を表す図表である。
【
図11】パルスチューブ冷凍機の高温側熱交換器の説明図である。
【
図12】熱交換器の違いによる冷凍機性能の比較を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する形態は、本開示を実施する場合に想定される例示的な一形態である。したがって、本開示の範囲は、以下に例示する形態には限定されない。
【0015】
<冷凍機100の全体構成>
図1は、本発明の実施の形態である冷凍機100の構成を示す図である。冷凍機100は、圧縮部10と冷凍部20とを具備するパルスチューブ冷凍機である。
【0016】
圧縮部10は、圧縮ピストン11および12の往復動によって作動流体Gに圧力振幅を発生させる。作動流体Gは、通常、ヘリウムガスが用いられる。圧縮ピストン11および12は、中立位置を初期位置として一方のピストンが+方向、他方が-方向に対向して同じ位相で往復する。
図1における可動コイル型のリニアモータ13および14は、圧縮ピストン11および12をそれぞれ駆動する。圧縮ピストン11および12を対向させたのは、1次振動を吸収し低振動化を図るためである。圧縮ピストン11および12の往復動の動作周波数は、例えば数10~100Hzという高速である。圧縮ピストン11および12の往復動により作動流体Gに対して圧縮と膨張とが繰り返され、作動流体Gの圧力振動が冷凍部20に伝達される。
【0017】
冷凍部20は、アフタークーラ21(高温側熱交換器)、蓄冷器22、コールドヘッド23(低温側熱交換器)およびパルス管24を具備する。アフタークーラ21は放熱器として機能し、コールドヘッド23は冷却器として機能する。アフタークーラ21およびコールドヘッド23は、
図2に例示される通り、複数の流路が稠密に並設された多孔体型の熱交換器である。すなわち、複数の流路の各々における中心軸の方向は共通し、各流路は所定の方向に沿って延在する。各流路の断面形状は所定径の円形である。蓄冷器22は、アフタークーラ21とコールドヘッド23との間に設置された再生型蓄冷器であり、コールドヘッド23で発生した冷熱を蓄積する。蓄冷器22は、アフタークーラ21およびコールドヘッド23の各々に連通する。なお、パルス管24にはフェーズシフター(図示略)が接続される。
【0018】
冷凍部20は、パルスチューブ冷凍機であるため、可動部分がない。それぞれ構成部材の内部には作動流体Gが満たされている。圧縮部10が発生した圧力振幅を持つ作動流体Gは各構成部材の内部で往復動する。その作動流体Gの振動ストロークは数mm程度と小さいため、作動流体Gは基本的には最初の位置を基準として数mm程度往復運動するだけである。したがって、アフタークーラ21およびコールドヘッド23内の作動流体Gも同様の動きをする。
【0019】
次に、振動流における熱交換器について説明する。
図3には、定常流および振動流による熱交換の違いが図示されている。
図3の左図は、左から右に一方向に流れる定常流における熱交換器とその温度分布である。熱交換器の長手方向のガス温度は入口から徐々に熱交換部材に熱を伝達し、あるところで一定となる。ところが、振動流の場合、全く違う熱的な振る舞いをする。
図3の右図は、振動流における温度分布である。ガスの温度は熱交換器内ではほぼ一定温度になる。これは、熱交換器の中とその外側を往復動できるガスのみが熱交換に寄与できるためである。そして、熱交換部材の近傍に存在するガスがある周波数をもって熱交換部材と熱交換する場合、指標r0/δα(=流路半径/熱境界層厚さ)の値により、熱交換部材と熱交換できる周りのガスの量が決まる。できるだけ多くのガスが熱交換に寄与する方が有利であると考えられるため、従来は指標r0/δα≪1が最良であると考えられてきた。
【0020】
定常流における熱交換器の温度分布を測定した結果を
図4に示す。
図4には、銅メッシュ型(CM:Copper Mesh)の熱交換器と多孔体型(MH:Multi-Hole)の熱交換器との各々について測定結果が図示されている。銅メッシュ型は、メッシュ状の銅により多数の流路が形成された熱交換器である。多孔体型は、アフタークーラ21およびコールドヘッド23について前述した通り、断面円形の複数の流路が柱状体に稠密に並設された多孔体である。
【0021】
銅メッシュ型と多孔体型とでほぼ同じ温度分布となったが、銅メッシュ型の到達温度は多孔体型に比べて3K程度低く、銅メッシュ型の方が伝熱特性は高い。この実験結果から、熱交換器における伝熱性能を、熱抵抗に基づいて比較した。比較の結果を
図5に示す。銅メッシュ型の方が熱抵抗は小さいため、銅メッシュ型の方が伝熱特性は高いことを示している。
【0022】
次に、振動流による実験を行った。その結果、
図12に示すように、多孔体型の熱交換器をアフタークーラとして搭載した冷凍機の冷凍機性能の方が良い結果となった。これは定常流における実験結果と正反対の実験結果である。この現象を解明するため熱交換器内のガスの温度分布を測定した。その結果を
図6に示す。多孔体型の熱交換器は内部のガス温度がほぼ一定であるが、銅メッシュ型のガス温度はゼロ点(圧縮機側)が異常に高く、そこから蓄冷器側に向かうにつれて温度が急激に低下する。そして、x=23mmの点では外壁の温度よりもガスの温度の方が低い。ガスの熱量を外側の壁から外部へ放熱するため、内部のガス温度の方が通常は高いはずであるが、そうはならなかった。
【0023】
内部ガス温度の方が外壁の温度より低い領域では、熱は壁からガス側に逆流することになり、熱交換器として機能しない。したがって、おおよそ熱交換器の半分の長さしか有効でなくなるため、低温端から汲み上げた熱量(エントロピー)と外壁から内部へ侵入する熱量の両方を熱交換器の残り半分の長さの領域から系外へ捨てる必要がある。そのため、銅メッシュ型の場合のガスの温度分布が熱交換器の中間付近から圧縮機側の領域にかけて急激に上がっている温度分布となったものと考えられる。
図7には、この熱の流れが模式的に図示されている。
【0024】
ここで、熱交換器および蓄冷器における指標r0/δαに注目してみる。δαは熱境界層厚さである。熱境界層厚さδαは、流路の内壁面と当該流路の中心との間の温度分布に着目したときに流路の内壁面から温度が急激に変動する位置までの範囲(熱境界層)の厚さを意味する。熱境界層厚さδαは、以下の数式(1)により定義される。
【数1】
数式(1)のωは冷凍運転時の角周波数である。また、数式(1)のkはガスの熱伝導率であり、ρはガスの密度であり、cpはガスの定圧比熱である。
【0025】
指標r0/δαは、ガスが振動している状態での重要な物理指標である。指標r0/δαが十分に小さい場合、ガスと壁の間の熱流体的挙動は等温可逆的になる。これは、ガスと壁間の熱交換が時間遅れなく起こることを示している。この代表的な例は蓄冷器である。一方、指標r0/δαが十分に大きい場合、ガスと壁との間の熱流体的挙動は断熱可逆的になる。これはガスと壁の間で熱交換が行われないことを意味しており、太い管など(パルス管もこれに該当する)はこの代表的な例である。指標r0/δαがこの中間的な値の場合、壁とガスの間では時間遅れを伴った熱交換が発生する。
【0026】
図6に示したように銅メッシュ型の熱交換器では特異な温度分布となっている。これは、銅メッシュ型の熱交換器では、無次元パラメータである指標r0/δαの値が“十分に小さい”領域に入っており、x>11.5mmでは“熱交換器”としてではなく、“蓄冷器”として機能している。銅メッシュ型の熱交換器を搭載したパルスチューブ冷凍機において、熱交換器の部分の温度が高いため、低温端温度にまで影響を与え、性能が低下した。
【0027】
この実験結果は、熱交換器の設計にとって重要な情報を与えている。すなわち、熱交換器の内部構造として、蓄冷器のそれと同様にしてはならず、熱交換器内のガスは熱交換器本体と熱的な相互作用を持つ。すなわち、熱交換器の性能を高めるため比表面積は重要であるが、流路半径を小さくすることにより比表面積を増大させるべきではないことを示唆している。すなわち、この方法で比表面積を増大させると本来の機能である“熱交換器”ではなく“蓄冷器”としての機能してしまう恐れがある。言い換えると、本来熱交換器内で発生する粘性抵抗による損失ではなく、音響パワーが熱に変換されて、蓄冷器以降に伝達される音響パワーが減少し、冷凍機としての性能を低減させる現象が発生する。なお、比表面積は、単位体積あたりの表面積[mm2/mm3]である。
【0028】
図8は、指標r0/δαと流路半径r0との関係を表すグラフである。
図8には、断面円形の流路が形成された多孔体型の熱交換器(実施形態)の特性と、銅メッシュ型の熱交換器の特性とが図示されている。また、
図8には、蓄冷器の特性も併記されている。
【0029】
図8に例示される通り、銅メッシュ型(複雑流路系)の熱交換器は、指標r0/δαが0.30以下であり、かつ、比表面積Sが13.5[mm
2/mm
3]以上である範囲Q内において、“熱交換器”としてではなく“蓄冷器”として動作してしまう。
【0030】
以上の結果とは対照的に、断面円形の流路が形成された多孔体型の熱交換器においては、
図8に例示される通り、指標r0/δαと流路半径r0との関係が範囲R内にあれば、高水準の冷凍機性能が実現されることが確認された。範囲Rは、指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積Sが13.5よりも小さい範囲である。すなわち、熱交換器として適正に機能させるためには、少なくとも、指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積Sが13.5[mm
2/mm
3]よりも小さい、という条件の成立が必要である。
【0031】
以上の知見を背景として、本実施形態のアフタークーラ21(高温側熱交換器)においては、指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積Sが13.5よりも小さい、という条件(以下「流路条件」という)が成立するように、流路半径r0および熱境界層厚さδαが選定されている。
【0032】
本実施形態のコールドヘッド23(低温側熱交換器)についても同様に、指標r0/δαが0.30よりも大きく、かつ、比表面積Sが13.5よりも小さい、という流路条件が成立するように、流路半径r0および熱境界層厚さδαが選定されている。
【0033】
具体的には、圧縮部10の振動の角周波数ωと作動流体Gの特性(熱伝導率k、密度ρ、定圧比熱cp)とに対して以上の流路条件が成立するように、アフタークーラ21およびコールドヘッド23の各々における各流路の流路半径r0が選定される。なお、流路半径r0は、複数の流路から選択された1個の流路の半径でもよいし、複数の流路にわたる流路の代表値(例えば平均値)でもよい。
【0034】
図8から理解される通り、比表面積Sは、さらに好適には4.64[mm
2/mm
3]よりも小さい数値に設定される。また、指標r0/δαは、さらに好適には1.00よりも大きい数値に設定される。以上の形態によれば、冷却性能をさらに向上させることが可能である。
【0035】
図9には、銅メッシュ型の熱交換器および多孔体型の熱交換器の各々に関する条件が図示されている。
図9における「多孔体」が、本実施形態におけるアフタークーラ21およびコールドヘッド23に相当する。また、
図9においては、複数のチューブが結束されたチューブバンドル型の熱交換器に関する条件も併記されている。
【0036】
また、
図10には、銅メッシュ型の熱交換器および多孔体型の熱交換器の各々に関する条件が図示されている。具体的には、
図10には、流路半径r0、指標r0/δα、および比表面積S(Specific Contact Surface area)が図示されている。
図10における「Multi-hole」が、本実施形態におけるアフタークーラ21およびコールドヘッド23に相当する。また、
図10においては、蓄冷器(Regenerator)に関する条件も対比的に併記されている。
【0037】
図10から理解される通り、銅メッシュ型の熱交換器の条件は蓄冷器に関する条件に近い。他方、本実施形態におけるアフタークーラ21およびコールドヘッド23の条件は、蓄冷器とは顕著に相違することが
図10から確認できる。
【0038】
以上に説明した通り、本実施形態によれば、アフタークーラ21およびコールドヘッド23の各々について前述の流路条件が成立するから、銅メッシュ型の熱交換器と比較して高い冷凍機性能を実現できる。
【0039】
なお、前述の各形態においては、アフタークーラ21およびコールドヘッド23の双方が流路条件を充足する形態を例示したが、アフタークーラ21およびコールドヘッド23の一方のみが流路条件を充足する形態も想定される。
【符号の説明】
【0040】
100…冷凍機、10…圧縮部、11,12…圧縮ピストン、20…冷凍部、21…アフタークーラ(高温側熱交換器)、22…蓄冷器、23…コールドヘッド(低温側熱交換器)、24…パルス管。