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特開2024-84238アルミニウム電線の製造方法、圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法およびアルミニウム電線の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084238
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】アルミニウム電線の製造方法、圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法およびアルミニウム電線の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/02 20060101AFI20240618BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20240618BHJP
   H01R 43/048 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01R43/02 B
H01R4/02 C
H01R43/048 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198397
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正和
【テーマコード(参考)】
5E051
5E063
5E085
【Fターム(参考)】
5E051LA01
5E051LB01
5E063CC05
5E063XA01
5E085BB01
5E085DD03
5E085HH11
5E085HH34
5E085JJ38
(57)【要約】
【課題】アルミニウム電線の複数本の素線からなる導体の端末部の溶接の際に、太物のアルミニウム電線の場合でも、一回のアーク溶接で、端末部を構成する全ての素線を溶接し電気的に一体化することができ、接続信頼性の高いアルミニウム電線を製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明のアルミニウム電線の製造方法は、アルミニウム電線の端末部にて、絶縁被覆層を剥いで、導体を露出させて導体露出部を形成する露出工程と、前記導体露出部の端面、および前記端面に対向して配置された、アーク放電装置の電極の先端の間にプラズマアークを形成させて、前記導体露出部を、その端面に照射した前記プラズマアークによって、前記導体露出部を構成する全ての素線の端末部を溶融させた後に凝固させることによって、前記導体露出部の先端部分に、電気的に一体化した素線一体化部を形成する一体化工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層とを有するアルミニウム電線の端末部に、露出させた状態で一体化した導体露出部を有するアルミニウム電線の製造方法であって、
前記アルミニウム電線の端末部にて、前記絶縁被覆層を剥いで、前記導体を露出させて導体露出部を形成する露出工程と、
前記導体露出部の端面、および前記端面に対向して配置された、アーク放電装置の電極の先端の間にプラズマアークを形成させて、前記導体露出部を、その端面に照射した前記プラズマアークによって、前記導体露出部を構成する全ての素線の端末部を溶融させた後に凝固させることによって、前記導体露出部の先端部分に、電気的に一体化した素線一体化部を形成する一体化工程と
を含み、
前記一体化工程は、
前記導体露出部の端面と、前記アーク放電装置の電極の先端との距離をx、前記プラズマアークが照射される前記導体露出部の端面の径をdとするとき、
前記プラズマアークの照射スポット径が、前記導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定して行うことを特徴とする、アルミニウム電線の製造方法。
【請求項2】
前記一体化工程は、前記プラズマアークのエネルギー密度が、前記導体露出部の端面の径dに応じて一定となるように、前記距離xに応じたアーク電流値に設定して行うことを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム電線の製造方法。
【請求項3】
圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法であって、
請求項1または2に記載のアルミニウム電線の素線一体化部を含む導体露出部に、圧着端子を圧着して装着する圧着工程を含むことを特徴とする、圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法。
【請求項4】
アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層とを有するアルミニウム電線の端末部に、露出させた状態で一体化した導体露出部を有するアルミニウム電線の製造装置であって、
シールドケースと、
アーク放電装置と
を備え、
前記アーク放電装置が、
電極と、
前記電極と対向する位置に対極として設置され、前記導体露出部を、溶融凝固する部分である先端側部分が前記電極側に露出した状態で把持するアースチャックと、
前記電極と前記アースチャックの間に電圧を印加する電源部と、
前記電極と前記アースチャックの離間距離を調整する駆動部と、
不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
少なくとも前記電源部および前記駆動部を制御する制御部と
を備え、
前記導体露出部の端面と、前記アーク放電装置の電極の先端との距離をx、プラズマアークが照射される前記導体露出部の端面の径をdとするとき、
前記制御部によって前記駆動部が制御されることにより、前記プラズマアークの照射スポット径が、前記導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定することを特徴とするアルミニウム電線の製造装置。
【請求項5】
前記制御部によって前記駆動部および前記電源部が制御されることにより、前記プラズマアークのエネルギー密度が、前記導体露出部の端面の径dに応じて一定となるように、前記距離xに応じたアーク電流値に設定することを特徴とする、請求項4に記載のアルミニウム電線の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電線の製造方法、圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法およびアルミニウム電線の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数本の素線からなる導体を有する電線の端部を、他の電線の端部などに接続する際に、圧着端子付きアルミニウム電線が用いられている。一般に、アルミニウム電線の場合、導体を構成する各素線の表面には、酸化被膜を形成しやすい特性を有するため、形成した酸化被膜によって、導体内の素線間の導通が阻害される傾向がある。
このため、複数本のアルミニウム素線からなる導体の端部を、圧着端子で圧着して接続することにより、素線の酸化被膜を剥がして素線間の導通を確保する手段が採用されるが、導体を構成する全ての素線の酸化被膜を完全に剥がすことはできず、特に、導体サイズが3sq(mm)を超える太物のアルミニウム電線の場合には、十分な導通が得られない場合がある。
【0003】
例えば特許文献1には、導体部の外周全体を半田によって被膜して半田被覆部を形成し、該半田を施した導体部を、圧着端子の導体圧着部に載置し、前記導体部の半田被膜部の圧着力によって割れが生じる程度の強さに圧着する強圧着部と、前記強圧着部の先端側に前記半田被膜部が圧着力によって割れが生じない程度の強さに圧着する弱圧着部を形成するように前記導体圧着部を加締め、前記導体部と前記導体圧着部とを接続してなる圧着端子付きアルミ電線が記載されている。
【0004】
特許文献1の技術においては、予め導体内の素線同士を半田で溶接して圧着端子を装着することにより、アルミニウム電線を他の電線などと接続する際の接続信頼性を改善することができる。しかし、アルミ用半田は非常に高価であり、また、半田による溶接は非常に時間がかかるため、実用化には問題があった。
【0005】
導体内の素線同士の溶接には、アーク溶接法やレーザー溶接法を用いることもできるが、例えば3sq(mm)を超える太物のアルミニウム電線を構成する導体の端面を、アーク溶接法等で溶接する場合、溶接領域(照射領域)がある程度の範囲に限られているため、一回の溶接で導体の端面全体を溶融凝固させて一体化することが難しく、接続信頼性の高いアルミニウム電線を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-26905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アーク溶接を用いたアルミニウム電線の複数本の素線からなる導体の端末部の溶接の際に、太物のアルミニウム電線の場合でも、一回のアーク溶接で、端末部を構成する全ての素線を溶融凝固させて電気的に一体化することができ、短時間で容易に、接続信頼性の高いアルミニウム電線を製造することができるアルミニウム電線の製造方法およびアルミニウム電線の製造装置、および該アルミニウム電線を用いた圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層とを有するアルミニウム電線の端末部に、露出させた状態で一体化した導体露出部を有するアルミニウム電線の製造方法であって、
前記アルミニウム電線の端末部にて、前記絶縁被覆層を剥いで、前記導体を露出させて導体露出部を形成する露出工程と、
前記導体露出部の端面、および前記端面に対向して配置された、アーク放電装置の電極の先端の間にプラズマアークを形成させて、前記導体露出部を、その端面に照射した前記プラズマアークによって、前記導体露出部を構成する全ての素線の端末部を溶融させた後に凝固させることによって、前記導体露出部の先端部分に、電気的に一体化した素線一体化部を形成する一体化工程と
を含み、
前記一体化工程は、
前記導体露出部の端面と、前記アーク放電装置の電極の先端との距離をx、前記プラズマアークが照射される前記導体露出部の端面の径をdとするとき、
前記プラズマアークの照射スポット径が、前記導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定して行うことを特徴とする、アルミニウム電線の製造方法。
[2]前記一体化工程は、前記プラズマアークのエネルギー密度が、前記導体露出部の端面の径dに応じて一定となるように、前記距離xに応じたアーク電流値に設定して行うことを特徴とする、上記[1]に記載のアルミニウム電線の製造方法。
[3]圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法であって、
上記[1]または[2]に記載のアルミニウム電線の素線一体化部を含む導体露出部に、圧着端子を圧着して装着する圧着工程を含むことを特徴とする、圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法。
[4]アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層とを有するアルミニウム電線の端末部に、露出させた状態で一体化した導体露出部を有するアルミニウム電線の製造装置であって、
シールドケースと、
アーク放電装置と
を備え、
前記アーク放電装置が、
電極と、
前記電極と対向する位置に対極として設置され、前記導体露出部を、溶融凝固する部分である先端側部分が前記電極側に露出した状態で把持するアースチャックと、
前記電極と前記アースチャックの間に電圧を印加する電源部と、
前記電極と前記アースチャックの離間距離を調整する駆動部と、
不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
少なくとも前記電源部および前記駆動部を制御する制御部と
を備え、
前記導体露出部の端面と、前記アーク放電装置の電極の先端との距離をx、プラズマアークが照射される前記導体露出部の端面の径をdとするとき、
前記制御部によって前記駆動部が制御されることにより、前記プラズマアークの照射スポット径が、前記導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定することを特徴とするアルミニウム電線の製造装置。
[5]前記制御部によって前記駆動部および前記電源部が制御されることにより、前記プラズマアークのエネルギー密度が、前記導体露出部の端面の径dに応じて一定となるように、前記距離xに応じたアーク電流値に設定することを特徴とする、上記[4]に記載のアルミニウム電線の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アーク溶接を用いたアルミニウム電線の複数本の素線からなる導体の端末部の溶接の際に、太物のアルミニウム電線の場合でも、一回のアーク溶接で、端末部を構成する全ての素線を溶融凝固させて電気的に一体化することができ、短時間で容易に、接続信頼性の高いアルミニウム電線を製造することができるアルミニウム電線の製造方法およびアルミニウム電線の製造装置、および該アルミニウム電線を用いた圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のアルミニウム電線の製造方法を説明するための図である。
図2】従来のアルミニウム電線の製造方法を説明するための図である。
図3】本発明のアルミニウム電線の製造方法に用いられるアルミニウム電線の端末部の模式断面図であって、(A)が絶縁被覆層を剥ぐ前の状態、(B)が絶縁被覆層を剥いて導体を露出させた状態を示す。
図4】本発明のアルミニウム電線の製造装置を示す概略図である。
図5】本発明のアルミニウム電線の製造方法によって、端末部に素線一体化部が形成されたアルミニウム電線の一部を示す模式断面図である。
図6】本発明のアルミニウム電線の製造方法を構成する一体化工程を行ったときの例を示す概略図である。
図7】圧着する前の圧着端子の形状の一例を示す斜視図である。
図8】本発明の圧着端子付きアルミニウム電線により製造された圧着端子付きアルミニウム電線の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照し、詳細に説明する。
【0012】
[アルミニウム電線の製造装置]
本発明のアルミニウム電線の製造装置は、アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層とを有するアルミニウム電線の端末部に、露出させた状態で一体化した導体露出部を有するアルミニウム電線の製造装置であって、シールドケースと、アーク放電装置とを備え、前記アーク放電装置が、電極と、前記電極と対向する位置に対極として設置され、前記導体露出部の、溶融凝固する部分である先端側部分が前記電極側に露出した状態で把持するアースチャックと、前記電極と前記アースチャックの間に電圧を印加する電源部と、前記電極を前記アースチャックの離間距離を調整する駆動部と、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、少なくとも前記電源部および前記駆動部を制御する制御部とを備え、前記導体露出部の端面と、前記アーク放電装置の電極の先端との距離をx、前記プラズマアークが照射される前記導体露出部の端面の径をdとするとき、前記制御部によって前記駆動部が制御されることにより、前記プラズマアークの照射スポット径が、前記導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定することを特徴とする。
【0013】
図2は、従来のアルミニウム電線の製造方法を説明するための説明図である。アルミニウム電線は、アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、導体を被覆する絶縁被覆層とを有するものであり、図2に示すように、アルミニウム電線の端末部30の絶縁被覆層33を剥いで導体露出部31を形成したものが用いられている。本発明者らが、アーク溶接を用いて、このようなアルミニウム電線の端末部30に、露出させた状態で一体化した導体露出部を形成する場合について検討を行ったところ、特に3sq(mm)を超える太物であると、図2に示すように、プラズマアークPは、アーク放電装置(図4参照)の電極11と、導体露出部の端面31aとの間に形成されるが、通常のアーク溶接法で行うと、導体露出部の端面31aに対するプラズマアークPの照射領域(照射スポット)は狭くなるため、導体露出部の端面31aの全面にわたってプラズマアークPを照射することが難しいこと、また、このような場合、一回のアーク溶接では、端面31aの中央領域だけに溶接部wが形成され、端面の外周領域には未溶接部uが残るため、導体露出部31を構成する全ての素線32同士を溶接して、素線が一体化した導体露出部31を形成することができず、導体を構成する全ての素線の電気的な導通を安定的に得ることができないことが判明した。
【0014】
図1は、本発明のアルミニウム電線の製造方法を説明するための図である。本発明のアルミニウム電線の製造装置は、図1に示すように、電極11から略放射状に照射されるプラズマアークPの照射スポット径を、導体露出部の端面31aの径(直径)dと実質的同じになるように、導体露出部の端面31aと電極11の先端との距離x(アーク長)を設定する。これにより、一回のアーク溶接により、導体露出部の端面31aを構成する全ての素線32を短時間で容易に一体化することができる。また、導体露出部の端面31aを構成する全ての素線32が溶接され、素線一体化部が形成されるため、これら素線32同士が電気的に接続されているので、例えば圧着端子などとの接続の際に、接続信頼性の高いアルミニウム電線を製造することができる。
【0015】
(アルミニウム電線)
本発明のアルミニウム電線の製造装置について詳細に説明する前に、まず、本発明の製造装置が用いられる対象となるアルミニウム電線について説明する。図3は、アルミニウム電線の一例を示す模式断面図である。図3(A)に示すように、アルミニウム電線1は、複数の素線2から構成される導体3および絶縁被覆層4を備える。
【0016】
導体3の延在方向に垂直な断面(以下、導体3の横断面ともいう。)の形状は、円形でもよいし、矩形でもよい。また、導体3は、圧縮されていてもよい。また、導体3は、図3(A)に示すような複数の素線2の束である束線でもよいし、複数の素線2を撚り合わせた撚線でもよい。
【0017】
導体3を構成する素線2は、アルミニウム系材料からなる。即ち、導体3は、アルミニウム系材料からなる。導体3の電気抵抗を低下する観点から、導体3の組成は99.0質量%以上のAlを含むことが好ましい。即ち、導体3は純アルミニウムからなることが好ましい。
【0018】
本発明のアルミニウム電線の製造装置および後述する製造方法は、アルミニウム電線1の導体サイズ(公称断面積)がどのような大きさでも適用することができ、導体サイズ(mm)は、例えば3.0mm以上20.0mm以下である。本発明による効果をより顕著に得るという観点から、導体サイズの下限値は、好ましくは3mmよりも大きい。一方、アーク溶接技術を容易に適用可能な導体サイズとする観点から、好ましくは16.0mm以下である。なお、アルミニウム電線の端末部の導体露出部の端面の径及び面積は、通常、導体の径及び断面積(公称断面積)と同じである。
【0019】
アルミニウム電線1を構成する絶縁被覆層4は、電気絶縁性を有し、導体3の外周を被覆する。絶縁被覆層4は、例えば電気絶縁性を有する樹脂から構成される。絶縁被覆層4の形状は筒状である。
【0020】
本発明のアルミニウム電線の製造装置においては、図3(B)に示すように、アルミニウム電線1の端末部において、導体3の外周を覆う絶縁被覆層4がアルミニウム電線1から剥ぎ取られる(いわゆる皮剥ぎする)ことにより、端末部30に導体露出部31が形成されているものが用いられる。
【0021】
(アルミニウム電線の製造装置の概要)
本発明のアルミニウム電線の製造装置Aは、図4に示されるようにシールドケース20と、アーク放電装置10とを備える。製造装置Aの処理対象は上記したアルミニウム電線1の端末部30に形成された導体露出部31である。
【0022】
(アーク放電装置)
本発明のアルミニウム電線の製造装置Aのアーク放電装置10は、図4に示すように、電極11と、前記電極11と対向する位置に対極として設置され、前記導体露出部31を、溶融凝固する部分である先端側部分が前記電極11側に露出した状態で把持するアースチャック12と、電極11とアースチャック12の間に電圧を印加する電源部13と、電極11とアースチャック12の離間距離を調整する駆動部14と、不活性ガスを供給する不活性ガス供給部15と、少なくとも電源部13および駆動部14を制御する制御部16と、を備えている。
【0023】
電極11は、通常は、非消耗電極が用いられる。電極11の材質としては、特に制限されないが、タングステンなどが用いられる。本発明のアルミニウム電線の製造装置Aにおいては、電極11は、アーク溶接を行う際には陽極になる。
【0024】
アースチャック12は、電極11と対向する位置に対極として設置されている。アースチャック12は、溶接対象となるアルミニウム電線の端末部30の導体露出部31を、溶融凝固する部分である先端側部分が電極側に露出した状態で把持する。アースチャック12は、アーク溶接を行う際には陰極になる。アースチャック12の材質としては、導電材料であればよく特に限定はないが、例えば銅が挙げられる。
【0025】
電源部13は、電極11とアースチャック12の間(電極間)に電圧を印加する。電極間に電圧が印加されることにより、電極11と、アースチャック12に把持されたアルミニウム電線の端末部30の端面31aの間にアークプラズマが発生する。アークプラズマにより、高熱が発生し、アルミニウム電線の端末部30の導体露出部の端面31aに対してアーク溶接が行われ、導体露出部31の先端部分に素線一体化部が形成される。本発明においては、アーク長を従来の装置より長く設定する場合があるため、高電圧、高電流を印加することが可能である電源部13を用いることが好ましい。
【0026】
本発明のアルミニウム電線の製造装置では、上記したように電極11を陽極側、アースチャック12が陰極側になるように電源部に接続した逆極性であり、電極11を陰極側、アルミニウム電線を把持するアースチャック12を陽極側になるように電源部に接続した正極性である従来のアーク溶接方法とは逆に接続することが好ましい。アルミニウム素線の表面の酸化被膜は、融点が2000℃以上であるため、正極性でアーク溶接した場合、より融点が低い素線の内部が先に溶解するため、素線間で溶融一体化することが難しい。そこで、本発明では、逆極性でアーク溶接を行うことで、アーク放電における電子がアルムニウム素線の表面で生成した酸化物から放出されて還元される、いわゆるクリーニング作用が生じる結果、アルミニウム電線の端末部の素線を溶融固化させて素線一体化部の形成が容易となる。
【0027】
駆動部14は、電極11とアースチャック12の離間距離を調整する。この離間距離の調整は、通常、図6に示すように電極11を、導体露出部の端面31aに対して移動させることにより行われるが、導体露出部の端面31aが把持されたアースチャック12を電極11に対して移動させてもよい。駆動部としては、モータシリンダーなどが用いられる。
【0028】
不活性ガス供給部15は、不活性ガスを電極11とアルミニウム電線の導体露出部の端面31aの間、即ちアークプラズマが発生する部位に供給する。不活性ガスは、シールドガスとして、アーク放電を大気から保護するために使用される。図4においては、不活性ガス供給部15は、アーク放電装置10のトーチ部と一体化されているが、トーチ部と別に不活性ガス供給部15を設けてもよい。また、不活性ガス供給部の不活性ガスの供給は、供給弁を設けることにより制御されてもよい。用いられる不活性ガスとしては、特に制限されないが、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが挙げられる。
【0029】
制御部16は、少なくとも電源部13および駆動部14を制御する。制御部16は、さらに不活性ガス供給部15を制御してもよく、電極間に電圧が印加されプラズマアークが発生する際にのみ不活性ガスが供給される構成としてもよい。
【0030】
制御部16によって駆動部14が制御されることにより、プラズマアークの照射スポット径が、導体露出部の端面31aの径dと実質的に同じになるように、距離xに相当するアーク長を設定する。この構成により、アルミニウム電線の導体露出部の端面の径dが大きい場合でも、導体露出部の端面31aの全面をアーク溶接して導体露出部31の先端部分に素線一体化部を形成することができる。制御の具体的な例としては予め距離xとプラズマアークの照射スポット径の関係についてのデータを取得しておき、プラズマアークの照射スポット径を装置に装着されたアルミニウム電線の導体露出部の端面の径dと同じになるように距離xを制御することなどが挙げられる。
【0031】
また、上述したアーク長の制御に加えて、制御部16によって駆動部14および電源部13が制御されることにより、プラズマアークのエネルギー密度が、導体露出部の端面の径dに応じて一定となるように、距離xに応じたアーク電流値に設定することが好ましい。通常、アーク長が長い場合においては、アーク長が短い場合と同じ電流値の条件でアーク放電を行った場合、プラズマアークのエネルギー密度が低下する。この構成により、アルミニウム電線の導体露出部の端面の径dが大きく、アーク長が長く設定される場合でも、同様のアークプラズマの照射時間の条件で導体露出部の端面31aの全面をアーク溶接して導体露出部31の先端部分に素線一体化部を形成することができる。制御の具体的な例としては予め距離xとプラズマアークの照射スポット径の関係、および当該条件における電流とエネルギー密度についてのデータを取得しておき、プラズマアークの照射スポット径を装置に装着されたアルミニウム電線の導体露出部の端面の径dと同じとなるように距離xを制御し、エネルギー密度が一定となるように電流を制御することなどが挙げられる。
【0032】
また、本発明者らは、本発明のアルミニウム電線の製造装置と同様の構成の装置において、プラズマアークの照射スポット径が、導体露出部の端面の径dと実質的に同じとなり、好適にアーク溶接を行うことができる端面の径dと距離xの関係について、さらに実験および検討を行い、その結果、好適にアーク溶接を行うことができる導体露出部の端面の径d(mm)に対する距離x(mm)は以下の数式(I)の関係を有することを見出した。数式(I)により、導体露出部の端面の径がdである場合に、プラズマアークの照射スポット径が導体露出部の端面の径dと実質的に同じとなる距離x(アーク長)を容易に求めて設定することができる。このため、上記した制御部16による駆動部14の制御が、数式(I)の関係に基づき、装置に装着されたアルミニウム電線の導体露出部の端面の径dから距離x(アーク長)を設定するものであることが、作業の効率化の観点から好ましい。
【数1】
【0033】
(シールドケース)
本発明のアルミニウム電線の製造装置は、シールドケース20を備える。シールドケース20は、アーク放電装置の電極間のアークプラズマを外気から保護するため、および/または発生する電磁波を遮蔽するために設けられる。シールドケース20を備えることにより、アルミニウム電線の製造をより効率的に、安全に行うことができる。
【0034】
[アルミニウム電線の製造方法]
本発明のアルミニウム電線の製造方法は、アルミニウム系材料からなる複数本の素線で構成された導体と、前記導体を被覆する絶縁被覆層とを有するアルミニウム電線の端末部に、露出させた状態で一体化した導体露出部を有するアルミニウム電線の製造方法であって、前記アルミニウム電線の端末部にて、前記絶縁被覆層を剥いで、前記導体を露出させて導体露出部を形成する露出工程と、前記導体露出部の端面、および前記端面に対向して配置された、アーク放電装置の電極の先端の間にプラズマアークを形成させて、前記導体露出部を、その端面に照射した前記プラズマアークによって、前記導体露出部を構成する全ての素線の端末部を溶融させた後に凝固させることによって、前記導体露出部の先端部分に、電気的に一体化した素線一体化部を形成する一体化工程とを含み、前記一体化工程は、前記導体露出部の端面と、前記アーク放電装置の電極の先端との距離をx、前記プラズマアークが照射される前記導体露出部の端面の径をdとするとき、前記プラズマアークの照射スポット径が、前記導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定して行うことを特徴とする。
【0035】
本発明のアルミニウム電線の製造方法は、上述した本発明のアルミニウム電線の製造装置を方法の側面から表現したものであり、上述したアルミニウム電線の製造装置などを用いて行うことができる。以下にアルミニウム電線の製造方法について詳細に説明する。
【0036】
(露出工程)
露出工程は、アルミニウム電線の端末部にて、絶縁被覆層を剥いで、導体を露出させて導体露出部を形成する工程である。露出工程により、図3Aに示すアルミニウム電線より、図3(B)に示すように、アルミニウム電線の端末部30の絶縁被覆層4が剥がれ、導体露出部31が形成されたアルミニウム電線が製造される。アルミニウム電線の端末部における絶縁被覆層の皮剥ぎは、一般的なワイヤーストリッパーなどを用いて行うことができる。
【0037】
(一体化工程)
一体化工程は、図6に示すように、導体露出部の端面31a、および端面31aに対向して配置された、アーク放電装置の電極11の先端の間にプラズマアークPを形成させることにより行われ、導体露出部31を、その端面31aに照射したプラズマアークPによって、導体露出部31を構成する全ての素線の端末部を溶融させた後に凝固させることによって、導体露出部31の先端部分に、電気的に一体化した素線一体化部34を形成する工程である。一体化工程により、図3(B)に示す端末部30に、導体露出部31が形成されたアルミニウム電線から、図5に示す導体露出部31の先端部分に素線一体化部34が形成されたアルミニウム電線が形成される。
【0038】
一体化工程は、導体露出部の端面31aと、アーク放電装置の電極11の先端との距離をx、前記プラズマアークが照射される導体露出部の端面の径をdとするとき、プラズマアークの照射スポット径が、導体露出部の端面の径dと実質的に同じになるように、前記距離xに相当するアーク長を設定して行われる。このような制御の具体的な例としては、上記したように予め距離xとプラズマアークの照射スポット径の関係についてのデータを取得しておき、プラズマアークの照射スポット径を装置に装着されたアルミニウム電線の導体露出部の端面の径dと同じになるように距離xを制御することなどが挙げられる。
【0039】
これにより、上記したアルミニウム電線の製造装置の項で記載したように、一回のアーク溶接により、短時間で容易に、導体露出部31の端面31aを構成する全ての素線32を容易に溶接することができる。例えば圧着端子などとの接続の際に、接続信頼性の高いアルミニウム電線を製造することができる。
【0040】
また、一体化工程は、プラズマアークのエネルギー密度が、導体露出部の端面の径dに応じて一定となるように、距離xに応じたアーク電流値に設定して行うことが好ましい。通常、アーク長が長い場合においては、アーク長が短い場合と同じ電流値の条件でアーク放電を行った場合、プラズマアークのエネルギー密度が低下する。このような電流値の制御により、アルミニウム電線の導体露出部の端面の径dが大きく、アーク長が長く設定される場合でも、同様のアークプラズマの照射時間の条件で導体露出部の端面31aの全面をアーク溶接して素線一体化部を形成することができる。このような制御の具体的な例としては予め距離xとプラズマアークの照射スポット径の関係、および当該条件における電流とエネルギー密度についてのデータを取得しておき、プラズマアークの照射スポット径を装置に装着されたアルミニウム電線の導体露出部の端面の径dと同じとなるように距離xを制御し、エネルギー密度が一定となるように電流を制御することなどが挙げられる。
【0041】
[圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法]
本発明の圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法は、上記したアルミニウム電線の製造方法において製造したアルミニウム電線を用いて行われ、アルミニウム電線の素線一体化部を含む導体露出部に、圧着端子を圧着して装着する圧着工程を含むことを特徴とする。
【0042】
本発明の圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法を説明する前に、圧着端子付きアルミニウムの製造方法で用いられる圧着端子について説明する。
【0043】
図7は、圧着する前の圧着端子の形状の一例を示す斜視図である。圧着端子40にはワイヤバレル部41と、インシュレーションバレル部42が備えられている。ワイヤバレル部41は、図5に示すアルミニウム電線の製造方法で製造されたアルミニウム電線の導体露出部31および素線一体化部34に対して圧着される部位であり、インシュレーションバレル部42は絶縁被覆層33に対して圧着される部位である。羽子板部43は任意の構成であり、ボルトなどによる締結部である。図7はオープンバレル型の圧着端子であるが、クローズドバレル型などその他の形態のものを用いてもよい。圧着端子に装着されることにより、アルミニウム電線は、他の電線などに対して、高い接続信頼性で接続することができる。
【0044】
圧着端子40を構成する材料は、圧着端子付きアルミニウム電線の用途や導体を構成するアルミニウム系材料の種類に応じて、適宜選択される。その中でも、圧着端子付きアルミニウム電線の低抵抗化の観点から、圧着端子40を構成する材料は、銅および銅合金を含む銅系材料であることが好ましく、純銅および黄銅であることがより好ましい。また、圧着端子付きアルミニウム電線50の低抵抗化および軽量化の観点から、圧着端子40の組成は、99.0質量%以上のAlを含むことが好ましい。即ち、圧着端子40は純アルミニウムからなることが好ましい。
【0045】
(圧着工程)
圧着工程においては、アルミニウム電線の素線一体化部を含む導体露出部に、圧着端子を圧着して装着する。圧着工程は、具体的には、例えば以下のように行われる。まず、圧着端子40の内面側に、アルミニウム電線の端末部30が載置される。この際、素線一体化部34を含む導体露出部31がワイヤバレル部41の位置となるように、そして絶縁被覆層33がインシュレーションバレル部42の位置となるように位置が調節される。次に、ワイヤバレル部41が素線一体化部34を含む導体露出部31に対して圧着される。また、インシュレーションバレル部42が絶縁被覆層33に対して圧着される。圧着は、一般的な圧着工具などを用いて行うことができる。このように圧着工程により圧着端子がアルミニウム電線の素線一体化部34を含む導体露出部31に装着される。製造された圧着端子付きアルミニウム電線50の圧着端子の模式断面図を図8に示す。装着後のワイヤバレル部41は、端子付きアルミニウム電線50の延在方向に沿って延びる側面側の外周を環状に覆っている。
【0046】
素線一体化部34を含む導体露出部31がワイヤバレル部41でかしめられると、圧着端子40に圧着される前に形成されていた表面の酸化皮膜(アルミニウムの酸化皮膜、不図示)をワイヤバレル部41が破壊し、圧着される。ワイヤバレル部41は、酸化皮膜を介さずに、素線一体化部34を含む導体露出部31に接続されることから、ワイヤバレル部41との間の接触抵抗を確実に低下できる。さらに、上記のように、素線一体化部34を介し、かつアルミニウムの酸化皮膜を介さずに、全ての素線は相互に電気的に接続されることから、全ての素線間の接触抵抗を確実に低下できる。そのため、製造された圧着端子付きアルミニウム電線50は、導体露出部31、即ちアルミニウム電線の導体と、圧着端子40のワイヤバレル部41との接続信頼性が優れている。
【0047】
このように、本発明の圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法においては、短時間で容易に、アルミニウム電線の導体と圧着端子との接続信頼性が優れている圧着端子付きアルミニウム電線を製造することができる。このような圧着端子付きアルミニウム電線は、アルミニウム電線と圧着端子との良好な接続信頼性が求められているワイヤハーネス、好ましくは自動車用のワイヤハーネスに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0048】
1 アルミニウム電線
2、32 素線
3 導体
4、33 絶縁被覆層
10 アーク放電装置
11 電極
12 アースチャック
13 電源部
14 駆動部
15 不活性ガス供給部
16 制御部
20 シールドケース
30 アルミニウム電線の端末部
31 導体露出部
31a 導体露出部の端面
34 素線一体化部
40 圧着端子
41 ワイヤバレル部
42 インシュレーションバレル部
43 羽子板部
50 圧着端子付きアルミニウム電線
A アルミニウム電線の製造装置
P プラズマアーク
d 導体露出部の端面の径
w 溶接部
u 未溶接部
x 導体露出部の端面と電極の先端の距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8