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特開2024-84239アルミニウム電線および圧着端子付きアルミニウム電線
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084239
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】アルミニウム電線および圧着端子付きアルミニウム電線
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/18 20060101AFI20240618BHJP
   H01R 4/62 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R4/62 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022198398
(22)【出願日】2022-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 正和
【テーマコード(参考)】
5E085
【Fターム(参考)】
5E085BB02
5E085BB03
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD14
5E085FF01
5E085JJ06
(57)【要約】
【課題】アルミニウム電線のアルミニウム導線と圧着端子との接続信頼性が優れている圧着端子付きアルミニウム電線、および圧着端子付きアルミニウム電線に好適なアルミニウム電線を提供する。
【解決手段】アルミニウム電線は、複数のアルミニウム素線から構成されるアルミニウム導線、および前記アルミニウム導線の外周を被覆する絶縁被覆部を備え、前記アルミニウム導線は、少なくとも一方の先端部に設けられ、圧着端子と圧着される部分である被端子圧着部を有し、前記被端子圧着部は、前記アルミニウム導線の延在方向からみて、前記アルミニウム導線の外周に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されていない環状の非溶接部と、前記非溶接部の内側に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されている溶接部と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミニウム素線から構成されるアルミニウム導線、および前記アルミニウム導線の外周を被覆する絶縁被覆部を備え、
前記アルミニウム導線は、少なくとも一方の先端部に設けられ、圧着端子と圧着される部分である被端子圧着部を有し、
前記被端子圧着部は、前記アルミニウム導線の延在方向からみて、前記アルミニウム導線の外周に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されていない環状の非溶接部と、前記非溶接部の内側に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されている溶接部と、を有する、アルミニウム電線。
【請求項2】
前記アルミニウム導線の横断面積は、3.0mm以上である、請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項3】
前記アルミニウム導線の延在方向からみて、前記非溶接部を構成する前記複数のアルミニウム素線は18本以下である、請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項4】
前記溶接部はアーク溶接部である、請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のアルミニウム電線、および前記アルミニウム電線の前記被端子圧着部に圧着されている圧着端子を備える、圧着端子付きアルミニウム電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アルミニウム電線および圧着端子付きアルミニウム電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電線は、例えば導線に圧着端子が接続された後に束ねられてワイヤハーネスとなって、自動車などの給電用として配策される。電線に圧着端子を接続するには、電線の先端部から絶縁被覆部を剥離して導線を露出させた後、圧着端子で導線の露出部分をかしめる。導線を圧着端子でかしめることによって、導線を構成する複数の素線は圧着端子に圧着され、導線と圧着端子との導通構造が形成される。
【0003】
近年では、自動車を軽量化するため、自動車用ワイヤハーネスの素線について、銅系材料からアルミニウム系材料への切り替えが進んでいる。一方で、アルミニウム系材料の表面は体積抵抗率の高い酸化皮膜で覆われていることから、アルミニウム系材料からなる素線と圧着端子との間の接触抵抗は高い。そのため、導線を圧着端子でかしめる力を強くすることで、素線の表面に形成されている酸化皮膜を破壊し、素線と圧着端子との間の接触抵抗の低減を図っている。
【0004】
例えば、特許文献1には、複数の素線を半田で接合した後、導線を圧着端子でかしめることが記載されている。しかしながら、複数の素線を半田で溶接するときの熱により、電線の絶縁被覆部が熱的劣化を生じることがあり、特に細い電線では、絶縁被覆部が溶けることがある。このような熱履歴の問題に加えて、一般的な半田は、アルミニウムに対する半田付けが容易ではなく、また、アルミニウム用の半田については、コストが高い。
【0005】
また、導線が太くなるにつれて、各素線の表面に形成されている酸化皮膜を破壊するための圧着端子のかしめ力を大きくする必要がある。しかしながら、圧着端子のかしめ力を大きくすると、導線を構成する素線の一部が切れることがある。また、素線の本数が多くなるにつれて、圧着端子と接触しない素線の本数が多くなるため、導線と圧着端子との間の接触抵抗が高くなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-26905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、アルミニウム電線のアルミニウム導線と圧着端子との接続信頼性が優れている圧着端子付きアルミニウム電線、および圧着端子付きアルミニウム電線に好適なアルミニウム電線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] 複数のアルミニウム素線から構成されるアルミニウム導線、および前記アルミニウム導線の外周を被覆する絶縁被覆部を備え、前記アルミニウム導線は、少なくとも一方の先端部に設けられ、圧着端子と圧着される部分である被端子圧着部を有し、前記被端子圧着部は、前記アルミニウム導線の延在方向からみて、前記アルミニウム導線の外周に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されていない環状の非溶接部と、前記非溶接部の内側に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されている溶接部と、を有する、アルミニウム電線。
[2] 前記アルミニウム導線の横断面積は、3.0mm以上である、上記[1]に記載のアルミニウム電線。
[3] 前記アルミニウム導線の延在方向からみて、前記非溶接部を構成する前記複数のアルミニウム素線は18本以下である、上記[1]または[2]に記載のアルミニウム電線。
[4] 前記溶接部はアーク溶接部である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のアルミニウム電線。
[5] 上記[1]~[4]のいずれか1つに記載のアルミニウム電線、および前記アルミニウム電線の前記被端子圧着部に圧着されている圧着端子を備える、圧着端子付きアルミニウム電線。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、アルミニウム電線のアルミニウム導線と圧着端子との接続信頼性が優れている圧着端子付きアルミニウム電線、および圧着端子付きアルミニウム電線に好適なアルミニウム電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態のアルミニウム電線の一例を示す斜視図である。
図2図2は、実施形態のアルミニウム電線を構成するアルミニウム導線の被端子圧着部の一例を示す概略図である。
図3図3は、実施形態のアルミニウム電線を構成するアルミニウム導線の被端子圧着部の他例を示す概略図である。
図4図4は、実施形態のアルミニウム電線を構成するアルミニウム導線の被端子圧着部の他例を示す概略図である。
図5図5は、図2~4の被端子圧着部を形成する前のアルミニウム導線を示す概略図である。
図6図6は、実施形態の圧着端子付きアルミニウム電線の一例を示す斜視図である。
図7図7は、図6のA-A断面図である。
図8図8は、実施形態のアルミニウム電線の製造方法の一例を示す概略図である。
図9図9は、複数のアルミニウム素線をアーク溶接する方法の一例を示す概略図である。
図10図10は、実施形態の圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム導線を構成する複数のアルミニウム素線の溶接状態を制御し、アルミニウム導線の被端子圧着部に圧着端子を圧着させることで、アルミニウム電線のアルミニウム導線と圧着端子との接続信頼性が優れることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0013】
実施形態のアルミニウム電線は、複数のアルミニウム素線から構成されるアルミニウム導線、およびアルミニウム導線の外周を被覆する絶縁被覆部を備え、アルミニウム導線は、少なくとも一方の先端部に設けられ、圧着端子と圧着される部分である被端子圧着部を有し、被端子圧着部は、アルミニウム導線の延在方向からみて、アルミニウム導線の外周に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されていない環状の非溶接部と、非溶接部の内側に配置される複数のアルミニウム素線の全てが溶接されている溶接部と、を有する。
【0014】
図1は、実施形態のアルミニウム電線の一例を示す斜視図である。図1に示すように、実施形態のアルミニウム電線1は、アルミニウム導線3および絶縁被覆部4を備える。なお、ここでは、アルミニウム導線3の一方の先端部3aに被端子圧着部5が設けられている例について説明するが、実施形態のアルミニウム電線1では、アルミニウム導線3の少なくとも一方の先端部に被端子圧着部5が設けられていればよい。
【0015】
アルミニウム電線1を構成するアルミニウム導線3は、複数のアルミニウム素線2から構成される。被端子圧着部5以外のアルミニウム導線3の部分における、アルミニウム導線3の延在方向に垂直な断面(以下、アルミニウム導線の横断面ともいう)の形状は、図1に示すような円形でもよいし、平形でもよい。また、アルミニウム導線3は、圧縮されていてもよい。
【0016】
また、アルミニウム導線3は、図1に示すような複数のアルミニウム素線2を撚り合わせた撚線でもよいし、複数のアルミニウム素線2の束である束線でもよい。
【0017】
アルミニウム導線3を構成するアルミニウム素線2は、アルミニウム系材料からなる。すなわち、アルミニウム導線3は、アルミニウム系材料からなる。アルミニウム導線3の電気抵抗を低下する観点から、アルミニウム導線3の組成は99.0質量%以上のAlを含むことが好ましい。すなわち、アルミニウム導線3は純アルミニウムからなることが好ましい。
【0018】
アルミニウム電線1を構成する絶縁被覆部4は、電気絶縁性を有し、アルミニウム導線3の外周を被覆する。絶縁被覆部4は、例えば電気絶縁性を有する樹脂から構成される。絶縁被覆部4の形状は筒状である。
【0019】
また、アルミニウム電線1は、絶縁被覆部4の外周を被覆する不図示のシースなどをさらに備えてもよい。
【0020】
図1に示すように、アルミニウム電線1の一端側では、アルミニウム導線3の外周を覆う絶縁被覆部4、さらに不図示のシースなどを備える場合にはシースなどがアルミニウム電線1から剥ぎ取られて(いわゆる皮剥ぎ)、アルミニウム導線3が露出している。
【0021】
アルミニウム導線3は、アルミニウム導線3の一方の先端部3aに設けられる被端子圧着部5を有する。アルミニウム導線3の先端部3aは、上記した絶縁被覆部4などの皮剥ぎによってアルミニウム導線3が露出している部分である。被端子圧着部5は、後述する圧着端子20と圧着される部分である。
【0022】
図2は、実施形態のアルミニウム電線を構成するアルミニウム導線の被端子圧着部の一例を示す概略図である。なお、図2および後述の図3~4における複数のアルミニウム素線2の配置状態と被端子圧着部5との関係性をわかりやすくするため、図2~4の被端子圧着部5を形成する前のアルミニウム導線3の概略図を図5に示す。また、図2、ならびに後述の図3~4および図9では、アルミニウム導線3の横断面が6角形状である例を示している。
【0023】
図1~2に示すように、被端子圧着部5をアルミニウム導線3の延在方向からみて、被端子圧着部5は、一部の複数のアルミニウム素線2からなる環状の非溶接部5aおよび残部の複数のアルミニウム素線2からなる溶接部5bを有する。被端子圧着部5をアルミニウム導線3の延在方向からみるとは、図1の点Aから矢印方向に沿って被端子圧着部5をみること、すなわち被端子圧着部5が設けられているアルミニウム導線3の先端部3a側からアルミニウム導線3の延在方向に沿って被端子圧着部5をみることである。
【0024】
図2に示すように、アルミニウム導線3の延在方向からみて、被端子圧着部5を構成する非溶接部5aでは、アルミニウム導線3の外周に配置される複数のアルミニウム素線2の全てが溶接されていない。このような非溶接部5aは、アルミニウム導線3の延在方向からみて、アルミニウム導線3の外周全周を構成し、環状である。
【0025】
また、図2に示すように、アルミニウム導線3の延在方向からみて、被端子圧着部5を構成する溶接部5bでは、環状の非溶接部5aの内側に配置される複数のアルミニウム素線2の全てが溶接されている。このような溶接部5bは、アルミニウム導線3の延在方向からみて、非溶接部5aの内側に配置される全てのアルミニウム素線2の先端部が溶接されてなる溶接部であり、例えば円状である。
【0026】
このように、アルミニウム導線3の先端部3aには、アルミニウム導線3の延在方向からみて、アルミニウム導線3の外周全周を構成する全てのアルミニウム素線2が互いに溶接されていない非溶接部5aと、アルミニウム導線3における非溶接部5aの内側を構成する全てのアルミニウム素線2が互いに溶接されている溶接部5bとが設けられている。
【0027】
後述のように、アルミニウム導線3が露出している先端部3a側のアルミニウム素線2の先端面において、アルミニウム導線3の外周に配置される全てのアルミニウム素線2を溶接せずに、かつアルミニウム導線3の外周の内側に配置される全てのアルミニウム素線2を溶接して先端部3aを部分的に溶接すると、アルミニウム導線3の先端部3aの外周に非溶接部5aが形成されると共に、非溶接部5aの内側に溶接部5bが形成される。
【0028】
被端子圧着部5を備えるアルミニウム導線3において、一部の複数のアルミニウム素線2は、溶接部5bを介し、かつ当該アルミニウム素線2の表面の酸化皮膜(アルミニウムの酸化皮膜)を介さずに、相互に接続されている。そのため、アルミニウム電線1では、一部の複数のアルミニウム素線2間の接触抵抗を確実に低下できる。このようなアルミニウム電線1は、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3と圧着端子20との良好な接続信頼性が求められている圧着端子付きアルミニウム電線30に好適に用いられる。
【0029】
また、アルミニウム導線3の横断面積が大きくても、被端子圧着部5を具備するアルミニウム電線1では、アルミニウム導線3の横断面積の大きさに関係なく、一部の複数のアルミニウム素線2間の接触抵抗を確実に低下できる。特に、アルミニウム導線3の横断面積が、3.0mm以上や、10.0mm以上や、20.0mm以上であっても、上記のように、一部の複数のアルミニウム素線2間の接触抵抗を確実に低下できる。アルミニウム導線3の横断面積は、アルミニウム電線1の用途に応じて適宜設定でき、例えば20.0mm以下である。
【0030】
また、アルミニウム導線3の延在方向からみたときのアルミニウム導線3の外周全周を構成する非溶接部5aについて、図2に示すように1層で構成されてもよいし、図3に示すように2層で構成されてもよいし、図4に示すように1層以上の層が混在して構成されてもよい。
【0031】
上記のように、溶接部5bを介して一部の複数のアルミニウム素線2間の接触抵抗を確実に低下すると共に、後述のように、圧着端子20と被端子圧着部5との間の接触抵抗を確実に低下して、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3と圧着端子20との接続信頼性を向上する観点から、アルミニウム導線3の延在方向からみて、非溶接部5aを構成する複数のアルミニウム素線2は、18本以下であることが好ましい。この場合、図2に示すように、非溶接部5aは、アルミニウム導線3の延在方向からみて、1層で構成されることが好ましい。
【0032】
また、溶接部5bはアーク溶接部であることが好ましい。溶接部5bがアーク溶接部、すなわち複数のアルミニウム素線2の先端面をアーク溶接すると、短時間で容易に複数のアルミニウム素線2の先端部を溶接でき、さらには溶接コストを低減できる。また、アーク溶接は、短時間での溶接が容易であるため、熱履歴に起因する絶縁被覆部4の熱的劣化を抑制できる。
【0033】
次に、実施形態の圧着端子付きアルミニウム電線について説明する。図6は、実施形態の圧着端子付きアルミニウム電線の一例を示す斜視図である。図7は、図6のA-A断面図である。
【0034】
図6~7に示すように、実施形態の圧着端子付きアルミニウム電線30は、上記のアルミニウム電線1および圧着端子20を備える。
【0035】
圧着端子付きアルミニウム電線30を構成する圧着端子20は、アルミニウム電線1の被端子圧着部5に圧着されている。具体的には、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3に圧着する部分である圧着端子20のワイヤバレル部21は、アルミニウム導線3の先端部3aに設けられている被端子圧着部5の非溶接部5aに圧着されており、非溶接部5aに加えて溶接部5bにも圧着されていることが好ましい。ワイヤバレル部21は、被端子圧着部5における、アルミニウム導線3の延在方向に沿って延びる側面側の外周を環状に覆っている。また、ワイヤバレル部21は、被端子圧着部5に加えて、被端子圧着部5近傍のアルミニウム導線3の部分(未溶接の部分)にも圧着される。
【0036】
被端子圧着部5がワイヤバレル部21にかしめられると、圧着端子20に圧着される前に形成されていた非溶接部5a(複数のアルミニウム素線2)の表面の酸化皮膜(アルミニウムの酸化皮膜、不図示)をワイヤバレル部21が破壊し、ワイヤバレル部21が被端子圧着部5の外側を構成する非溶接部5aに圧着される。ワイヤバレル部21は、酸化皮膜を介さずに、被端子圧着部5の非溶接部5aに接続されることから、ワイヤバレル部21と被端子圧着部5との間の接触抵抗を確実に低下できる。さらに、上記のように、被端子圧着部5の溶接部5bを介し、かつアルミニウムの酸化皮膜を介さずに、一部の複数のアルミニウム素線2は相互に接続されることから、これらのアルミニウム素線2間の接触抵抗を確実に低下できる。そのため、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3と圧着端子20のワイヤバレル部21との接続信頼性が優れている。
【0037】
また、さらに強い力で被端子圧着部5がワイヤバレル部21にかしめられると、非溶接部5aの内側に配置される溶接部5bの表面の酸化皮膜が破壊され、ワイヤバレル部21が非溶接部5aに加えて溶接部5bにも圧着される。ワイヤバレル部21は、酸化皮膜を介さずに、被端子圧着部5の溶接部5bにも接続されることから、ワイヤバレル部21と被端子圧着部5との間の接触抵抗をさらに低下できる。さらに、上記のように、溶接部5bを介し、かつアルミニウムの酸化皮膜を介さずに、一部の複数のアルミニウム素線2は相互に接続される。このように、アルミニウム導線3を構成する全てのアルミニウム素線2は、被端子圧着部5の非溶接部5aおよび溶接部5bを介し、かつ酸化皮膜を介さずに、相互に確実に接続されることから、全てのアルミニウム素線2間の接触抵抗を確実に低下できる。そのため、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3と圧着端子20のワイヤバレル部21との接続信頼性がさらに向上する。
【0038】
また、上記のように、アルミニウム導線3に被端子圧着部5を備えるアルミニウム電線1は、被端子圧着部5の溶接部5bを介して、一部の複数のアルミニウム素線2が一体化されている。そのため、アルミニウム電線1を圧着端子20のワイヤバレル部21で容易にかしめて圧着できる。
【0039】
圧着端子20を構成する材料は、圧着端子付きアルミニウム電線30の用途やアルミニウム導線3を構成するアルミニウム系材料の種類に応じて、適宜選択される。その中でも、圧着端子付きアルミニウム電線30の低抵抗化の観点から、圧着端子20を構成する材料は、銅および銅合金を含む銅系材料であることが好ましく、純銅および黄銅であることがより好ましい。また、圧着端子付きアルミニウム電線30の低抵抗化および軽量化の観点から、圧着端子20の組成は99.0質量%以上のAlを含むことが好ましい。
【0040】
また、例えば図6~7に示すように、アルミニウム電線1の絶縁被覆部4に圧着する部分である圧着端子20のインシュレーションバレル部22は、アルミニウム導線3の外周を覆う絶縁被覆部4、すなわち皮剥ぎされていない部分の絶縁被覆部4に対して圧着される。
【0041】
また、図6に示すように、圧着端子20の一端側には、例えば貫通穴23aを備える平板状の羽子板部23が設けられている。羽子板部23の貫通穴23aにボルトなどの締結部材(不図示)を挿通して、圧着端子20を端子取付台(不図示)に機械的かつ電気的に接続する。なお、図6では、圧着端子20の先端が貫通穴23aを備える平板形状である例を示しているが、圧着端子20の先端は箱型形状でもよい。
【0042】
このような圧着端子付きアルミニウム電線30は、アルミニウム電線1と圧着端子20との良好な接続信頼性が求められているワイヤハーネス、好ましくは自動車用のワイヤハーネスに好適に用いられる。
【0043】
次に、上記アルミニウム電線1の製造方法について説明する。図8は、実施形態のアルミニウム電線の製造方法の一例を示す概略図である。図9は、複数のアルミニウム素線をアーク溶接する方法の一例を示す概略図である。
【0044】
まず、図8に示すように、アルミニウム電線1の一端部から絶縁被覆部4の一部を皮剥ぎし、アルミニウム導線3の一端部を露出する。
【0045】
続いて、図9に示すように、アルミニウム導線3の延在方向からみて、溶接範囲6に基づいて、アルミニウム導線3が露出している一端部における、アルミニウム導線3の外周全周の少なくとも1層を構成する複数のアルミニウム素線2の内側に配置されている複数のアルミニウム素線2の先端面を溶接することで、溶接範囲6に基づく溶接部5bを形成すると共に、溶接部5bの外側に非溶接部5aを形成する。すなわち、被端子圧着部5をアルミニウム導線3の一方の先端部3aに形成する。全てのアルミニウム素線2の先端面を溶接する場合に比べて、一部の複数のアルミニウム素線2の先端面を溶接することから、溶接の出力を抑えることができるため、アルミニウム電線1に与える熱影響を低減できる。こうして、図2に示すような被端子圧着部5を備えるアルミニウム電線1を製造できる。被端子圧着部5の溶接部5bは、アルミニウム導線3の先端部で、一部の複数のアルミニウム素線2を溶接している。
【0046】
複数のアルミニウム素線2を溶接する観点から、溶接の種類は、レーザー溶接またはアーク溶接であることが好ましい。なかでも、より短時間に複数のアルミニウム素線2を容易に溶接できるうえ、溶接コストを低減できることから、アーク溶接であることが好ましい。アーク溶接は、短時間での溶接が容易であるため、熱履歴に起因する絶縁被覆部4の熱的劣化を抑制できる。
【0047】
次に、上記の圧着端子付きアルミニウム電線30の製造方法について説明する。図10は、実施形態の圧着端子付きアルミニウム電線の製造方法の一例を示す概略図である。
【0048】
図10に示すように、上記のアルミニウム電線1の製造方法で得られたアルミニウム電線1を構成するアルミニウム導線3の被端子圧着部5を、圧着端子20のワイヤバレル部21でかしめる。被端子圧着部5がワイヤバレル部21にかしめられると、ワイヤバレル部21は、被端子圧着部5の外側を構成する非溶接部5a(複数のアルミニウム素線2)の表面に形成されている酸化皮膜を破壊して、被端子圧着部5の非溶接部5aに圧着され、圧着端子20は、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3と電気的に接続される。また、さらに強い力で被端子圧着部5がワイヤバレル部21にかしめられると、ワイヤバレル部21は、被端子圧着部5の内側を構成する溶接部5bの表面に形成されている酸化皮膜も破壊して、被端子圧着部5の溶接部5bにも圧着され、圧着端子20は、アルミニウム電線1のアルミニウム導線3とさらに電気的に接続される。また、必要に応じて、圧着端子20のインシュレーションバレル部22がアルミニウム導線3の外周を覆う絶縁被覆部4に圧着される。こうして、図6に示すような圧着端子付きアルミニウム電線30を製造できる。
【0049】
また、ここでは、圧着端子20のワイヤバレル部21について、開放されているオープン型のバレル部を示しているが、開放されていないクローズ型である筒状形状のバレル部であってもよい。
【0050】
以上説明した実施形態によれば、アルミニウム導線を構成する複数のアルミニウム素線の溶接状態を制御し、アルミニウム導線の被端子圧着部に圧着端子を圧着させることで、アルミニウム電線のアルミニウム導線と圧着端子のワイヤバレル部との接続信頼性を良好にすることができる。
【0051】
なお、上記では、アルミニウム導線の一方の先端部に被端子圧着部が設けられている例について説明したが、アルミニウム電線および圧着端子付きアルミニウム電線では、アルミニウム導線の少なくとも一方の先端部に被端子圧着部が設けられていればよい。
【0052】
例えば、アルミニウム導線の他方の先端部には、上記一方の先端部と同様に、被端子圧着部が設けられてもよい。また、アルミニウム導線の他方の先端部には、超音波溶接などの溶接や各種接合によって複数のアルミニウム素線が接合された、接合部が設けられてもよい。アルミニウム電線や圧着端子付きアルミニウム電線の用途に応じて、被端子圧着部や接合部と接続する接続対象物が異なるため、このように、アルミニウム導線の他方の先端部は、接続対象物と接続可能な領域を有することが好ましい。
【0053】
例えば、他方の先端部の上記領域は、上記と同様に、圧着端子でかしめられてもよいし、板状の物体など、他の接続対象物に接続されてもよい。板状の物体は、例えばアース接続などに利用される。
【0054】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 アルミニウム電線
2 アルミニウム素線
3 アルミニウム導線
3a アルミニウム導線の先端部
4 絶縁被覆部
5 被端子圧着部
5a 非溶接部
5b 溶接部
6 溶接範囲
20 圧着端子
21 ワイヤバレル部
22 インシュレーションバレル部
23 羽子板部
23a 貫通穴
30 圧着端子付きアルミニウム電線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10