(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008439
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】セラミックスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/638 20060101AFI20240112BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C04B35/638
C04B35/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110321
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 陽暉
(72)【発明者】
【氏名】松村 雄二
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】下山 智隆
(57)【要約】
【課題】
熱処理における成形体特性の低下が抑制されたセラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】
熱処理容器上に、酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを含む固着防止層を介して配置された成形体を熱処理する工程、を有する、セラミックスの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理容器上に、酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを含む固着防止層を介して配置された成形体を熱処理する工程、を有する、セラミックスの製造方法。
【請求項2】
前記成形体が、チタニア、アルミナ及びジルコニアの群から選ばれる1つ以上の成形体の成形体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成形体が、圧粉体である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理が、大気雰囲気、150℃以上600℃以下の熱処理である請求項1又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成形体が、脱脂体である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理が、大気雰囲気、1200℃以上1600℃以下の熱処理である請求項1又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記固着防止層が、アルミナを含有するカーボンシートである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記固着防止層が、酸化物ボールである請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを含む固着防止層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックスの製造方法、並びに、セラミックスの成形体の脱脂方法及び焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複雑形状を有するセラミックス(焼結体)は、セラミックスの粉末とバインダーとの混合物であるコンパウンドからなる成形体を脱脂した後、これを焼結することで作製される。
【0003】
脱脂及び焼結の熱処理に供する成形体は、セッターなどの熱処理容器上に配置された状態で熱処理炉内に配置され、熱処理が施される。脱脂及び焼結の熱処理において成形体は収縮するが、熱処理容器と接触する面と、これと接触しない面とでは収縮の進行速度や進行度合いが相違する。そのため、熱処理物(脱脂体及び焼結体)には、割れや形状変形などの不具合が生じる場合がある。このような不具合を解消するための検討が報告されている。
【0004】
例えば、脱脂工程におけるバインダーの分解及び揮発の局所化を抑制するため、網状容器内に収容したセラミックス粒子の中に成形体を埋め込み、なおかつ、脱脂炉内に導入するガスの流れを均一化させる方法が報告されている(特許文献1)。
【0005】
また、脱脂工程における成形体の収縮の自由度を確保するため、バインダーの軟化する温度で接着性を有する材料からなる樹脂シートを介して成形体をセッター上に配置する方法が報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-263547公報
【特許文献2】特開2020-59623公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示された方法は、特殊な網状容器を使用した上で、セラミックス粒子中に成形体を埋め込むという工程が必要であるため、非常に煩雑である。これに加え、複数の成形体を脱脂する場合には、複数の網状容器に均一にガスを導入することは現実的に困難であり、かつ、大量のセラミックス粒子が必要となる。特許文献2で開示された方法では、使用可能な樹脂シートが限定され、かつ、脱脂時に除去される樹脂シート中の樹脂成分が成形体特性を低下させる場合もあった。
【0008】
本開示では、熱処理における成形体特性の低下が抑制されたセラミックスの製造方法を提供すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示では、熱処理時の非熱処理物内での収縮ムラが抑制できる方法について検討した。その結果、セッターなどの熱処理容器と非熱処理物との間に特定の固着防止層を使用することで、簡便に非熱処理物内での収縮差を低減できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] 熱処理容器上に、酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを含む固着防止層を介して配置された成形体を熱処理する工程、を有する、セラミックスの製造方法。
[2] 前記成形体が、チタニア、アルミナ及びジルコニアの群から選ばれる1つ以上の成形体の成形体である上記[1]に記載の製造方法。
[3] 前記成形体が、圧粉体である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記熱処理が、大気雰囲気、150℃以上600℃以下の熱処理である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[5] 前記成形体が、脱脂体である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[6] 前記熱処理が、大気雰囲気、1200℃以上1600℃以下の熱処理である上記
[1]、[2]又は[5]に記載の製造方法。
[7] 前記固着防止層が、アルミナを含有するカーボンシートである上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[8] 前記固着防止層が、酸化物ボールである上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[9] 酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを含む固着防止層。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、熱処理における成形体特性の低下が抑制されたセラミックスの製造方法を提供すること、ができる。好ましくは、歩留まりが改善した、セラミックスの製造方法、セラミックスの熱処理方法、セラミックスの脱脂方法、及びセラミックスの焼結方法の群から選ばれる1つ以上を提供することができる。また、本開示により、固着防止層用の酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを提供することができる。また、本開示により、酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つの固着防止層としての使用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】熱処理における配置状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の製造方法について、実施形態の一例を示して説明する。
【0014】
本実施形態は、熱処理容器上に、酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つを含む固着防止層を介して配置された成形体を熱処理する工程(以下、「熱処理工程」ともいう。)、を有する、セラミックスの製造方法、である。
【0015】
<成形体>
本実施形態の製造方法に供する成形体は、一定形状を有するセラミックスの組成物、更には一定形状を有する未焼結のセラミックスの組成物であり、特にセラミックスの圧粉体及び脱脂体の少なくともいずれである。圧粉体は、セラミックスの組成物(例えば、セラミックスの粉末)が一定形状を有する状態で凝集したものであり、成形後に熱処理が施されていない状態の組成物である。本実施形態に供する成形体は、射出成形により得られる圧粉体、いわゆる射出成形体であることが好ましい。また、脱脂体は、圧粉体からバインダーが除去された状態で一定形状を有するセラミックスの組成物(例えば、セラミックスの粉末)であり、成形後に焼結温度未満の熱処理が施された状態の組成物である。
成形体を構成するセラミックスは任意である。成形体は、酸化物セラミックスの成形体であることが好ましく、チタニア(TiO2:酸化チタン)、アルミナ(Al2O3;酸化アルミニウム)及びジルコニア(ZrO2;二酸化ジルコニウム)の群から選ばれる1つ以上の成形体、また更にはジルコニアの成形体であることが好ましい。
【0016】
好ましいセラミックスとして、安定化元素を含有するジルコニア(以下、「安定化元素含有ジルコニア」ともいい、安定化元素がイットリウム等である場合、それぞれ「イットリウム安定化ジルコニア」等ともいう。)が挙げられる。安定化元素として、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)及びイットリウム(Y)の群から選ばれる1以上が挙げられ、イットリウムであることが好ましい。安定化元素含有ジルコニアが含有する安定化元素の含有量は、ジルコニアの結晶相が目的とする結晶相で安定化する量であればよい。イットリウムの含有量として2.5mol%以上12mol%以下が例示でき、正方晶が主相の結晶相である場合のイットリウムの含有量として、Y2O3換算で2.8mol%以上又は3.5mol%以上であり、かつ6.2mol%以下又は5.5mol%以下であることが挙げられる。また、立方晶が主相の結晶相である場合のイットリウムの含有量としてY2O3換算で6.2mol%超、7mol%以上又は8mol%以上であり、かつ、12mol%以下又は11mol%以下であることが挙げられる。
【0017】
本実施形態において安定化元素の含有量は、酸化物換算した安定化元素とジルコニアの合計に対する、酸化物換算した安定化元素の割合[mol%]であり、例えば、イットリウムの含有量は{Y2O3/(Y2O3+ZrO2)}×100から求めればよい。安定化元素の含有量の算出において、ジルコニアの不可避不純物であるハフニア(HfO2)はジルコニアとみなして計算すればよい。
【0018】
安定化元素の酸化物換算は、カルシウムがCaO、マグネシウムがMgO、セリウムがCeO2及びイットリウムがY2O3とすればよい。
【0019】
成形体はバインダーを含んでいてもよく、複雑形状の成形体とする場合バインダーを含むことが好ましい。バインダーはセラミックスの粉末の成形性や形状安定性を向上する化合物であればよく、セラミックスの成形に使用できるバインダーであればよい。バインダーは、樹脂、また更にはポリスチレン(PS)系ポリマー及びアクリル系樹脂の少なくともいずれか、が挙げられる。バインダーとして、例えば、SA-200、SA-203、SA-204、SA-260及びSA-261Pの少なくともいずれか(ジャパンコーティングレジン社製)が挙げられる。
【0020】
成形体は、着色剤を含んでいてもよい。着色剤はセラミックスを着色する元素を含む化合物であればよい。例えば、ジルコニアを着色する元素として、ジルコニウム及びハフニウム以外の遷移金属元素、並びに、ランタノイド希土類元素の少なくともいずれか、更にはニッケル、コバルト、マンガン、チタン、鉄、エルビウム、プラセオジム、ネオジム及びテルビウムの群から選ばれる1つ以上、また更にはコバルト、チタン及び鉄の少なくともいずれか、が挙げられる。
【0021】
好ましい成形体として、ジルコニア(又は安定化元素含有ジルコニア)を主成分(母相、マトリックス)とする成形体が挙げられ、当該成形体は着色剤などジルコニア(又は安定化元素含有ジルコニア)以外の成分を含んでいてもよい。
【0022】
成形体の形状は、板状、立方体状、多面体状、円板状、円柱状、略球状及び不定形状の群から選ばれる1つ以上が例示でき、また、複雑形状等の目的に応じた任意の形状であればよい。
成形体の大きさは、目的に応じて任意の形状であればよく、例えば、最長径が200mm以下又は150mm以下であることが挙げられる。
【0023】
<熱処理容器>
熱処理容器は、熱処理において成形体を配置する容器であり、坩堝及びセッターの少なくともいずれかが挙げられる。
熱処理容器の材質は、セラミックスが好ましく、ムライト、ジルコニア及びアルミナの群から選ばれる1以上がより好ましく、アルミナが更に好ましい。
【0024】
<固着防止層>
本実施形態における固着防止層は、酸化物粉末、酸化物ボール及びカーボンシートの群から選ばれる少なくとも1つであればよい。成形体が固着防止層を介して熱処理されることにより、成形体の熱収縮が均等に生じる。その結果、熱処理時の変形や欠陥が生じにくくなり、更には歩留まりが向上し生産性が向上しやすくなる。
【0025】
操作性(ハンドリング)の観点から、固着防止層はカーボンシートであることが好ましく、セラミックス含有カーボンシートであることがより好ましく、アルミナ含有カーボンシートであることが更に好ましい。
【0026】
カーボンシートは、シート状のカーボンである。固着防止層にカーボンシートを使用し、酸化雰囲気で熱処理する場合、更には大気雰囲気及び酸素雰囲気の少なくともいずれかの雰囲気で熱処理する場合、熱処理後、固着防止層が除去される。これにより、熱処理後のハンドリングがより容易になる。さらに、カーボンシートは樹脂シートと比べて加工性が高い。そのため、熱処理工程に供する成形体の形状に適した形状として使用することができる。カーボンシートはセラミックス含有カーボンシートであることが好ましく、更にはアルミナ含有カーボンシートであることがより好ましい。セラミックス含有カーボンシートを使用する場合は、熱処理によりカーボンが焼失し、熱処理後にセラミックスの粒子が残存する。これにより、成形体と熱処理容器との摩擦抵抗がより低減される。
【0027】
再利用による環境負荷低減の観点から、固着防止層は酸化物粉末が好ましい。酸化物粉末は流動性を有する酸化物の組成物であり、ムライト、アルミナ及びジルコニアの群から選ばれる1以上の粉末、更にはアルミナ及びジルコニアの少なくともいずれかの粉末が挙げられる。酸化物粉末の平均粒子径は、1μm以上又は10μm以上であり、かつ、1mm以下、100μm以下又は50μm以下が挙げられる。酸化物粉末は、成形体と同じ組成の粉末であることが好ましい。これにより熱処理における成形体への不純物のコンタミネーションを避けることができる。例えば、ジルコニアの成形体を熱処理する場合、ジルコニアの粉末であることが挙げられる。
【0028】
再利用による環境負荷低減の観点、及び、操作性の観点から、固着防止層は酸化物ボールの少なくともいずれかが好ましい。酸化物ボールは、最大辺が10mm以下の焼結体、更には直径が10mm以下の球状の焼結体であればよい。酸化物ボールは、成形体と同じ種類の酸化物のボールであることが好ましく、ムライト、アルミナ及びジルコニアの群から選ばれる1以上のボール、更にはアルミナ及びジルコニアの少なくともいずれかのボールが挙げられる。例えば、ジルコニアの成形体を熱処理する場合、更にはアルミナ及びジルコニアの少なくともいずれかのボールであること、また更にはジルコニアのボールであることが挙げられる。成形体との接触面積を減少させるため、酸化物ボールは球状であることが好ましい。また、成形体表面の形状変化を抑制させるため、酸化物ボールは直径1mm以下、更には直径0.2mm以上0.5mm以下の球状であることであることが好ましい。
【0029】
<熱処理工程>
熱処理工程では、熱処理容器上に、固着防止層を介して配置された成形体を熱処理する。これにより、脱脂及び焼結などの熱処理における成形体中の収縮ムラが抑制され、変形や割れなどの不具合が生じにくくなる。その結果、得られる脱脂体又は焼結体の歩留まりが向上する。さらに、これらの固着防止層はハンドリングが容易であるため、本実施形態の製造方法は、生産効率が向上し、なおかつ、簡便なセラミックスの製造方法となる。
熱処理工程における、熱処理容器、固着防止層及び成形体の配置状態を示す模式図を
図1(に示す。
図1において100は、熱処理容器としてセッターを使用し、セッター(12a)上にカーボンシート(11a)が配置され、その上に成形体(10)が配置された状態を示す模式図である。
図1(101)は、熱処理容器として坩堝(12b)を使用し、該坩堝(12b)内に酸化物粉末又は酸化物ボール(11b)を配置し、その上に成形体(10)が配置された状態を示す模式図である。
図1において、成形体は熱処理容器と接触しておらず、特に重力方向に成形体と熱処理容器が直接接触していない。このような状態とするため、固着防止層は十分な大きさ又は厚みを有する。熱処理は、このように配置して行えばよい。複数の成形体を熱処理する場合、成形体同士は間隔を空けて配置し、成形体同士が接触しないように配置することが好ましい。
【0030】
具体的な熱処理として、脱脂及び焼結の少なくともいずれかが挙げられる(以下、熱処理工程における熱処理が脱脂である場合「脱脂工程」ともいい、熱処理工程における熱処理が焼結である場合「焼結工程」ともいう。)。
【0031】
脱脂工程は、バインダーを除去するため成形体(圧粉体)を熱処理する工程である。これにより脱脂体が得られる。脱脂工程の条件として以下の条件が挙げられる。
脱脂雰囲気 :不活性雰囲気又は酸化雰囲気、好ましくは大気雰囲気
昇温速度 :0.5℃/時間以上200℃/時間以下
脱脂温度 :150℃以上又は400℃以上、かつ、
800℃以下又は600℃以下
【0032】
脱脂温度での保持時間は、脱脂工程に供する成形体の形状及び大きさ、並びに、使用する熱処理炉の特性に応じて適宜調整すればよく、0.5時間以上5時間以下が例示できる。
【0033】
焼結工程は、脱脂後の圧粉体(脱脂体)又は圧粉体を焼結し焼結体を得る工程である。焼結工程の条件として以下の条件が挙げられる。
焼結雰囲気 :不活性雰囲気又は酸化雰囲気、好ましくは大気雰囲気
昇温速度 :10℃/時間以上300℃/時間以下
焼結温度 :1200℃以上1600℃以下、好ましくは1300℃以上1450℃以下
焼結方法 :常圧焼結、加圧焼結及び真空焼結の群から選ばれる1つ、好ましくは常圧焼結
【0034】
本実施形態において、常圧焼結とは、被焼結物に圧力を印加することなく焼結する焼結方法である。焼結工程における焼結は、大気雰囲気の常圧焼結であることが好ましい。
【0035】
焼結温度での保持時間は、焼結工程に供する脱脂体等の被焼結物の形状及び大きさ、並びに、使用する熱処理炉の特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、0.5時間以上2時間以下が例示できる。
【0036】
必要に応じ、本実施形態の製造方法は、焼結工程により得られた焼結体を更に加圧焼結する加圧焼結工程を有していてもよい。加圧焼結は、被焼結物に圧力を印加しながら焼結する方法であり、ホットプレス処理及び熱間静水圧プレス(以下、「HIP」ともいう。)処理の少なくともいずれか、更にはHIP処理が挙げられる。
【実施例0037】
以下、実施例を示して本開示を説明する。しかしながら、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末(製品名:TZ-3YS、東ソー社製)及びバインダーを含むセラミックス組成物を、射出圧力120MPaの条件で射出成形し、奥行40mm×幅30mm×高さ10mmの板状の成形体(圧粉体;射出成形体)を得た。奥行140mm×幅160mm×高さ10mmの板状のアルミナセッター上の中央に、奥行60mm×幅40mm×高さ0.2mmのアルミナ含有カーボンシートを配置した。その後、セッターと成形体とが接しないように、アルミナ含有カーボンシート上に当該成形体(3mol%イットリウム含有ジルコニア及びバインダーの成形体)を配置し、これを以下の条件で熱処理(脱脂)し、脱脂体を得た。脱脂後、カーボンシートは消失していた。
脱脂雰囲気 : 大気雰囲気
昇温速度 : 50℃/時間
脱脂温度 : 450℃
保持時間 : 2時間
【0039】
得られた脱脂体(3mol%イットリウム含有ジルコニアの成形体)を使用したこと、及び、以下の条件で熱処理したこと以外は脱脂と同様な方法で熱処理(焼結)し、焼結体(3mol%イットリウム含有ジルコニアの焼結体)を得た。焼結後、カーボンシートは消失していた。
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
昇温速度 : 100℃/時間
焼結温度 : 1350℃
保持時間 : 2時間
【0040】
実施例2
セッターの代わりにアルミナ坩堝を使用したこと、及び、固着防止層としてアルミナ含有カーボンシートの代わりに平均粒子径37.6μmのジルコニアの粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で脱脂体及び焼結体を得た。
【0041】
実施例3
固着防止層としてジルコニアの粉末の代わり直径0.3mmのジルコニアボール(ジルコニアビーズ)を使用したこと以外は実施例2と同様な方法で脱脂体及び焼結体を得た。
【0042】
実施例4
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末の代わりに10mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末(製品名:TZ-10YS、東ソー社製)を使用したこと以外は、実施例1と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0043】
実施例5
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末の代わりに10mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末(製品名:TZ-10YS、東ソー社製)を使用したこと以外は、実施例2と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0044】
実施例6
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末代わりに10mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末(製品名:TZ-10YS、東ソー社製)を使用したこと以外は、実施例3と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0045】
実施例7
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末の代わりに、4mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-4YS、東ソー社製)、酸化チタン(IV)、酸化アルミニウム、酸化鉄(III)、四酸化三コバルトを含む混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0046】
実施例8
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末の代わりに、4mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-4YS、東ソー社製)、酸化チタン(IV)、酸化アルミニウム、酸化鉄(III)、四酸化三コバルトを含む混合粉末を使用したこと以外は実施例2と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0047】
実施例9
3mol%イットリウム含有ジルコニアの粉末の代わりに、4mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(製品名:TZ-4YS、東ソー社製)、酸化チタン(IV)、酸化アルミニウム、酸化鉄(III)、四酸化三コバルトを含む混合粉末を使用したこと以外は実施例3と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0048】
実施例10
固着防止層としてジルコニアの粉末の代わり直径0.3mmのアルミナボール(アルミナビーズ)を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0049】
実施例11
固着防止層としてジルコニアの粉末の代わり直径0.5mmのアルミナボール(アルミナビーズ)を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で成形体、脱脂体及び焼結体を得た。
【0050】
比較例1
アルミナ含有カーボンシートを使用しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で脱脂体及び焼結体を得た。
(寸法測定)
実施例及び比較例1の成形体について、それぞれ、ノギスで寸法を測定した。
図2に寸法の測定箇所を示す。
図2に示すように、固着防止層と接していた成形体の主面(奥行及び幅の面;以下、「底面」という。)において、間隔が1:2:2:1となる奥行方向の長さ(
図2中 21a乃至21c)を3点測定し、その平均値を底面の奥行の長さとした。また、間隔が1:1:1:1となる幅方向の長さ(
図2中 22a乃至22c)を3点測定し、その平均値を底面の幅の長さとした。底面と対抗する主面(以下、「上面」ともいう。)についても同様な方法で、上面の奥行の長さ、及び、上面の幅の長さを求めた。
【0051】
脱脂体及び焼結体についても同様な方向で、底面の奥行きの長さ、底面の幅の長さ、上面の奥行きの長さ、及び、上面の幅の長さを求めた。
(収縮率差)
成形体の寸法に対する、脱脂体及び焼結体の収縮率差は以下の式から求めた。
<脱脂体の収縮率差>
奥行の収縮率差 =
[(脱脂体の上面の奥行の長さ)/(成形体の上面の奥行の長さ)]
-[(脱脂体の底面の奥行の長さ)/(成形体の底面の奥行の長さ)]
幅の収縮率差 =
[(脱脂体の上面の幅の長さ)/(成形体の上面の幅の長さ)]
-[(脱脂体の底面の幅の長さ)/(成形体の底面の幅の長さ)]
<焼結体の収縮率差>
奥行の収縮率差 =
[(焼結体の上面の奥行の長さ)/(成形体の上面の奥行の長さ)]
-[(焼結体の底面の奥行の長さ)/(成形体の底面の奥行の長さ)]
幅の収縮率差 =
[(焼結体の上面の幅の長さ)/(成形体の上面の幅の長さ)]
-[(焼結体の底面の幅の長さ)/(成形体の底面の幅の長さ)]
【0052】
【0053】
脱脂後の収縮率差と、焼結後の収縮率差は0%に近いほど、底面と上面との収縮率差が小さいことを示す。上表より、実施例は収縮率差の絶対値が0.5%以下であり、比較例1と比べて収縮率差が小さく、特に幅方向における収縮率差が小さい。特に実施例1では、幅及び奥行いずれの方向の収縮差も抑制されている。さらに、目視により、実施例1の製造方法により得られた脱脂体及び焼結体は、他の実施例及び比較例と比べ、クラックの発生が最も抑制されており、その結果、比較例1の歩留まりが1割であるのに対して実施例1の歩留まりが8割を超えており、歩留まりの改善が確認できた。