(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084682
(43)【公開日】2024-06-25
(54)【発明の名称】組成物、成形体の製造方法および樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/00 20060101AFI20240618BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240618BHJP
C08L 101/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C08L1/00
C08L101/00
C08L101/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137497
(22)【出願日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2022198370
(32)【優先日】2022-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】成田 和章
(72)【発明者】
【氏名】上田 雅博
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA00Y
4J002AA03W
4J002AA06W
4J002AA07W
4J002AB00X
4J002AB01X
4J002AH00X
4J002BB03Y
4J002BB12Y
4J002BB20W
4J002BB21W
4J002BB26W
4J002BB28W
4J002BC03Y
4J002BC06Y
4J002BD03Y
4J002CF00Y
4J002CF03Y
4J002CF18Y
4J002CG00Y
4J002CL00Y
4J002FA04X
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明は、繊維状の植物由来フィラーを用いても成形加工しやすいマスターバッチである組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の組成物は、繊維状の植物由来フィラーと、重合体と、を含む。前記重合体は極性基を有する重合体である。組成物100質量部における前記繊維状の植物由来フィラーと前記重合体の合計割合が80質量部以上であり、前記繊維状の植物由来フィラーに対する前記重合体の割合が0.1質量部以上、100質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状の植物由来フィラーと、重合体と、を含む組成物であって、
前記重合体は極性基を有する重合体であり、
前記繊維状の植物由来フィラーと前記重合体の合計割合が、前記組成物の総量の80質量%以上であり、
前記重合体の割合が、前記繊維状の植物由来フィラー100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下である、組成物。
【請求項2】
前記重合体の融点又はガラス転移温度が、50℃以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記重合体の質量平均分子量が、500以上5,000,000以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記重合体が、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体に基づく単位、ヒドロキシ基を有する単位、アミノ基を有する単位、及びアミド基を有する単位からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
接触角が、70°以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記重合体の融点又はガラス転移温度が、前記繊維状の植物由来フィラーの分解温度よりも低い、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記繊維状の植物由来フィラーが、セルロースファイバーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
成形体の製造方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物と樹脂を溶融混錬して樹脂組成物を得ることを含む、製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造される、樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、成形体の製造方法および樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、力学的特性(曲げ特性、引張特性等)、耐薬品性、成形加工性等に優れており、また、安価であることから、機械、電気・電子機器、OA機器、自動車内外装材、電気自動車等の様々な用途に使用されている。
ところで現在のところ、ポリオレフィンは石油原料を由来とするものが多く利用されている。そのため、二酸化炭素排出量等の環境への影響も懸念されている。そこで従来、ポリオレフィンに植物由来のフィラー等のバイオ原料を添加することで成形体のバイオ原料の割合を高めることが、二酸化炭素排出量の低減のために検討されている。
【0003】
しかし、ポリオレフィンにこのようなバイオ原料を添加した場合、得られる成形体の機械的強度が低下してしまう場合がある。そのために、さらに添加剤等を加えることで成形体の機械的強度の低下を防ぐことも検討されている。例えば、特許文献1では、優れた機械的強度を有する成形体を得るために、未変性ポリオレフィンとセルロース系材料に、特定量のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の酸化物および酸変性ポリオレフィン樹脂を添加することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されるような樹脂組成物を加工して成形体を得る場合、植物由来のフィラーの嵩比が大きいため加工時の加工性及び生産性が低下してしまう。そこで本発明者らは、バイオ原料である繊維状の植物由来フィラーと添加剤とを含むマスターバッチを予め調製し、加工の際に樹脂とマスターバッチを溶融混錬することで成形加工を行うことを検討した。
【0006】
ところが、バイオ原料として繊維状の植物由来フィラーを含むマスターバッチを調製したところ、繊維状の植物由来フィラーの嵩比が大きすぎることが判明した。そのため、成形加工の際にブロッキングまたは生産性低下という課題が発生する。
【0007】
本発明は、繊維状の植物由来フィラーを含みながらも成形加工しやすいマスターバッチである、組成物並びに該組成物を用いた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題の解決のために、本発明者は鋭意検討したところ、繊維状の植物由来フィラーに対して特定の重合体を混合することに想到し、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を要旨とする。
【0009】
[1]繊維状の植物由来フィラーと、重合体と、を含む組成物であって;前記重合体は極性基を有する重合体であり;前記繊維状の植物由来フィラーと前記重合体の合計割合が、前記組成物の総量の80質量%以上であり;前記重合体の割合が、前記繊維状の植物由来フィラー100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下である、組成物。
[2]前記重合体の融点又はガラス転移温度が、50℃以上である、[1]に記載の組成物。
[3]前記重合体の質量平均分子量が、500以上5,000,000以下である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記重合体が、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体に基づく単位、ヒドロキシ基を有する単位、アミノ基を有する単位、及びアミド基を有する単位からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]接触角が、70°以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記重合体の融点又はガラス転移温度が、前記繊維状の植物由来フィラーの分解温度よりも低い、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記繊維状の植物由来フィラーが、セルロースファイバーである、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]成形体の製造方法であって;[1]~[7]のいずれかに記載の組成物と樹脂を溶融混錬して樹脂組成物を得ることを含む、製造方法。
[9][8]に記載の製造方法により製造される、樹脂組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維状の植物由来フィラーを含みながらも成形加工しやすいマスター
バッチである、組成物並びに該組成物を用いた樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は目的を逸脱しない範囲において以下の実施形態に限定されるわけではない。
本明細書において「~」は、下限と上限を含むものとする。また、各好ましい範囲については、上限と下限を任意で組み合わせて使用することで新しい数値範囲とすることができる。
【0012】
一実施形態に係る組成物は、繊維状の植物由来フィラーと、重合体と、を含む。該重合体は、極性基を有する。該繊維状の植物由来フィラーと該重合体の合計割合は、組成物の総量の80質量%以上であり、該重合体の割合は、該繊維状の植物由来フィラー100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下である。
一実施形態に係る組成物のように繊維状の植物由来フィラーに対して該重合体を混合することで、嵩比を抑制できる。以下、詳細に説明する。
【0013】
1.繊維状の植物由来フィラー
繊維状の植物由来フィラーとは、生物分類における植物界に属する生物の器官を破砕等の処理を加えた物質又は器官から抽出された成分から構成された繊維状の物質を意味する。また、繊維状であるとは、アスペクト比が3以上であることを意味する。
【0014】
繊維状の植物由来フィラーは、上記の定義に該当すれば特に限定されない。なかでも、炭水化物を含むものであることが好ましく、多糖類を含むものであることがより好ましい。繊維状の植物由来フィラーの例としては、例えば、パルプ、バガス、竹、藁、葦、セルロースファイバー、麻が挙げられる。なかでも、セルロースファイバーが好ましい。
【0015】
繊維状の植物由来フィラーのアスペクト比は、3以上である。なかでも、アスペクト比が3.5以上である繊維状の植物由来フィラーが好ましく、アスペクト比が4以上である繊維状の植物由来フィラーがより好ましく、アスペクト比が5以上である繊維状の植物由来フィラーがさらに好ましく、アスペクト比が10以上である繊維状の植物由来フィラーが極めて好ましい。繊維状の植物由来フィラーのアスペクト比の上限は、特に限定されないが、通常、100,000以下であり、好ましくは150以下であり、より好ましくは100以下である。
【0016】
繊維状の植物由来フィラーの含水量は特に限定されないが、加工性向上のためには50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%であることが特に好ましい。含水量の下限は0質量%である。
【0017】
植物由来のフィラーの平均繊維長は特段の制限はないが、機械物性向上のために、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、300μm以上であることがさらに好ましく、400μm以上であることがさらに好ましく、500μm以上であることが特に好ましい。一方、分散性向上のために、10,000μm以下であることが好ましく、7,500μm以下であることがさらに好ましく、5,000μm以下であることがさらに好ましく、3,000μm以下であることがさらに好ましく、2,000μm以下であることがさらに好ましく、1,000μm未満であることが特に好ましい。
【0018】
繊維状の植物由来フィラーの平均繊維径は特に限定されないが、機械物性向上のためには0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることが特に好ましい。分散性向上のためには1000μm以下であることが好ましく、750μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、300μm以下であることがさらに好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。
なお、植物由来のフィラーの平均繊維長および平均繊維径は光学顕微鏡または電子顕微鏡で測定することができる。
【0019】
2.重合体
本実施形態に係る組成物は、極性基を有する重合体を含有する。樹脂組成物が該重合体を含むことにより、繊維状の植物由来フィラーの嵩比を抑えることができる。結果、成形加工しやすくなるため、バイオ成分を含む成形体を生産性良く得ることができる。
【0020】
この理由としては、下記のように考えられる。
繊維状の植物由来フィラーにおいては、表面にヒドロキシ基等の極性基が存在していることが予想される。このため極性を有する物質の方が繊維状の植物由来フィラーとは親和性が高いことが理由として考えられる。
つまり、重合体は極性基を有するため繊維状の植物由来フィラーとの親和性が高い。該重合体によってフィラー表面を被覆することができるため、嵩比が大きい繊維状の植物由来フィラーの隙間を埋めることができる。結果、フィラー同士を可逆的に接着することで嵩比を抑制できると考えられる。
【0021】
重合体の融点又はガラス転移温度は、取り扱い性のためには50℃以上であることが好ましく、55℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましく、65℃以上であることが最も好ましい。重合体の融点又はガラス転移温度は、加工性のためには200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましく、180℃以下であることがさらに好ましく、170℃以下であることがよりさらに好ましく、160℃以下であることがよりさらに好ましく、150℃以下であることがよりさらに好ましく、140℃以下であることが特に好ましく、130℃以下であることが最も好ましい。
【0022】
重合体の融点又はガラス転移温度は、繊維状の植物由来フィラーの分解温度より低いことが好ましい。本実施形態に係る組成物と樹脂を含む成形材料を成形加工する際に、該重合体の融点よりも高い温度で成形する。そのため、繊維状の植物由来フィラーの分解温度よりも該重合体の融点又はガラス転移温度が高いと、成形時に該繊維状の植物由来フィラーが分解又は着色してしまう場合がある。したがって、重合体の融点又はガラス転移温度は繊維状の植物由来フィラーの分解温度よりも低いことが好ましい。
重合体に融点が存在しない場合は、重合体のガラス転移温度が繊維状の植物由来フィラーの分解温度よりも低いことが好ましい。融点は、DSC測定(示差走査熱量計)のピーク位置から求めることができる。ガラス転移温度は、DMA測定(動的粘弾性測定)により得られたTanδ曲線の転移点として求めることができる。
ここで、繊維状の植物由来フィラーの分解温度とは、繊維状の植物由来フィラーに含まれる、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等構成物質の熱重量分析時の重量減少が起きる時の温度を意味するものとする。
【0023】
重合体が有する極性基としては、特段の制限はなく、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体由来の構成単位、ヒドロキシ基、アシル基、アミノ基、アミド基、スルホ基、ニトロ基が挙げられる。なかでも、繊維状の植物由来フィラーとの親和性のために、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体由来の構成単位、ヒドロキシ基、アシル基、アミノ基、アミド基が好ましく、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体由来の構成単位、ヒドロキシ基が特に好ましい。
【0024】
重合体の質量平均分子量は特段の制限はないが、機械物性のために500以上であることが好ましく、1,500以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましい。一方、加工性のために5,000,000以下であることが好ましく、3,500,000以下であることがより好ましく、1,500,000以下であることがさらに好ましく、500,000以下であることが最も好ましい。
重合体の質量平均分子量は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0025】
繊維状の植物由来フィラーに対する重合体の割合は、繊維状の植物由来フィラー100質量部に対して0.1質量部以上である。そのため、嵩比が低減される。該割合は0.3質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましい。該割合は加工性のためには100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、50質量部以下であることがさらに好ましく、40質量部以下であることが特に好ましく、30質量部以下であることが最も好ましい。
【0026】
重合体がカルボン酸及びカルボン酸誘導体由来の構成単位を有する場合、その重合体の酸価は、特段の制限はないが、繊維状の植物由来フィラーとの親和性を向上させるために1mg・KOH/g以上であることが好ましく、5mg・KOH/g以上であることがより好ましく、10mg・KOH/g以上であることがより好ましく、60mg・KOH/g以上であることがより好ましく、80mg・KOH/g以上であることがさらに好ましい。該酸価は、加工性向上のために140mg・KOH/g以下であることが好ましく、120mg・KOH/g以下であることがより好ましく、100mg・KOH/g以下であることがさらに好ましい。
重合体の酸価は、カルボン酸及びカルボン酸誘導体由来の構成単位の合計含有量に対し、指示薬としてフェノールフタレイン、滴定試薬として水酸化カリウムを用いて滴定することにより測定することができる。
【0027】
重合体の構成単位としては、少なくとも極性基を有する第1の繰り返し単位を含む物質又は熱可塑性樹脂を変性した物質が挙げられる。
第1の繰り返し単位としては、例えばカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体に基づく単位、ヒドロキシ基を有する単位、アシル基を有する単位、アミノ基を有する単位、アミド基を有する単位、スルホ基を有する単位、ニトロ基を有する単位が挙げられる。
【0028】
重合体は第1の繰り返し単位の単独重合体であってもよいし、第1の繰り返し単位とは異なる第2の繰り返し単位と、を有する共重合体であってもよい。
第2の繰り返し単位としては、極性を有さない繰り返し単位が挙げられる。このような極性を有さない繰り返し単位としてはアルキル基を有する単位、アルケン基を有する単位、フェニル基を有する単位等が挙げられる。
【0029】
該重合体が共重合体の場合、重合体は第1の繰り返し単位及び第2の繰り返し単位に加えて、さらに異なる繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。また、互いに異なる種類の第1の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。
中でも、重合体は、少なくとも極性を有する第1の繰り返し単位と、極性を有さない第2の繰り返し単位と、を有する共重合体であることが好ましい。
【0030】
このような共重合体のなかでも、第1の繰り返し単位として、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体に基づく単位、ヒドロキシ基を有する単位、アミノ基を有する単位、及びアミド基を有する単位からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する共重合体が好ましい。さらに加えて、第2の繰り返し単位として、アルキル基を有する単位及びアルケン基を有する単位からなる群からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する共重合体が好ましい。
【0031】
熱可塑性樹脂を変性した物質としては、例えば、ポリオレフィンを変性した物質、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体に基づく単位、ヒドロキシ基を有する単位、アシル基を有する単位、アミノ基を有する単位、アミド基を有する単位、スルホ基を有する単位、ニトロ基を有する単位を構成単位として有する物質が挙げられる。
熱可塑性樹脂を変性した物質の中でも、カルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体に基づく単位、ヒドロキシ基を有する単位を構成単位として有する物質が好ましい。
【0032】
3.組成物
繊維状の植物由来フィラーと重合体の合計割合は、組成物の総量の80質量%以上である。該合計割合は85質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。繊維状の植物由来フィラーと重合体の、組成物の総量における合計割合は、成形体を製造する際にマトリックス樹脂に加えて使用する、高濃度の植物由来のフィラーと重合体を含むマスターバッチにおける組成比を意味している。該組成物は実質的にマトリックス樹脂を含むものではないが、微量成分のマトリックス樹脂が含まれる組成物は許容される。
【0033】
組成物の接触角は、特段の制限はないが、アセトン含浸量の増加のために70°以上であることが好ましく、75°以上であることがより好ましく、80°以上であることがさらに好ましい。該接触角は、加工性のために150°以下であることが好ましく、140°以下であることがより好ましく、130°以下であることがさらに好ましく、120°以下であることが特に好ましい。
組成物の接触角は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0034】
組成物のアセトン含浸量が増加すると、組成物に有機成分を加えた際に該繊維状の植物由来フィラーに該有機成分がしみ込みやすくなる。よって、接触角が高いほど有機成分として着色剤等を添加した際に組成物が着色しやすくなる。例えば、接触角がより高い組成物を用いて有色の成形体を得ることは有用である。
【0035】
組成物の製造方法は特段の制限はなく、任意の方法が採用される。例えば、繊維状の植物由来フィラーと重合体と必要に応じて他の成分をバッチ式ミキサー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機等の混合手段を用いて充分に混合することができる。場合により必要に応じて押出造粒機またはブリケッティングマシーン等により造粒してもよい。
【0036】
本実施形態に係る組成物と樹脂を溶融混錬して樹脂組成物を得ることを含む、成形体の製造方法について説明する。
本実施形態に係る組成物は、樹脂に添加するマスターバッチとして好適に使用することができる。該組成物と樹脂を含む樹脂組成物は、所望の形状に成形加工することができる。特に、樹脂とマスターバッチである該組成物を混合溶融し、成形する際に、上述の通り該組成物によれば嵩比を抑えられる。結果、加工性及び生産性が向上し、効率的にバイオ成分を含む成形体を得ることができる。
【0037】
成形体を得る際に使用する樹脂としては、特段の制限はなく、ポリ乳酸(PLA)、ポリアミド(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル(PEs)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PSt)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、アクリロニトリル‐スチレン共重合体(AS)等が挙げられる。ポリエチレン(PE)は、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)または高密度ポリエチレン(HDPE)であってもよい。樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
成形の際の樹脂100質量部に対する該組成物の割合は、機械物性のために、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以上であることが特に好ましい。
該割合は、加工性のためには1000質量部以下であることが好ましく、900質量部以下であることがより好ましく、800質量部以下であることがさらに好ましく、700質量部以下であることがよりさらに好ましく、600質量部以下であることがよりさらに好ましく、500質量部以下であることが特に好ましい。
【0039】
上述の通り、成形体は、樹脂と本実施形態に係る組成物とを溶融混錬し、得られた樹脂組成物を成形することにより得ることができる。成形方法は、特に限定されるものではなく、押し出し加工、カレンダー加工、射出成形、ロール、圧縮成形、ブロー成形等が挙げられる。
【0040】
溶融混錬の際には、その他の成分をさらに混合してもよい。
その他の成分としては特段の制限はないが、各種添加剤が挙げられる。
各種添加剤としては、例えば、難燃剤(燐系、ブロム系、シリコーン系、有機金属塩系等)、ドリップ防止剤(例えば、フッ素化ポリオレフィン、シリコーン及びアラミド繊維)、滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム等の長鎖脂肪酸金属塩等)、離型剤(例えば、ペンタエリスリトールテトラステアレート等)、成核剤、帯電防止剤、安定剤(例えば、フェノール系安定剤、硫黄系安定剤、リン系安定剤、紫外線吸収剤、アミン系光安定剤等)、可塑剤、色素及び顔料等が挙げられる。
その他の成分は周知の材料を使用することができ、また、用途に合わせて任意で選択して使用することができる。添加剤は予め樹脂と混合してもよい。
【0041】
溶融混合、及び成形時の条件は特段の制限はないが、効率的に重合体を溶融混錬し成形するために、それぞれ、重合体の融点又はガラス転移温度よりも高い温度で行うことが好ましい。また、溶融混錬及び成形時の温度は、繊維状の植物由来フィラーが分解又は着色するのを防ぐために、該フィラーの分解温度よりも低い温度であることが好ましい。
【0042】
溶融混練機としては、例えば、ベント式二軸押出機等の二軸押出機、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機が挙げられる。押出成形の場合、成形体をペレタイザー等の機器により切断してペレット化してもよく、溶融物の冷却によってストランドを形成した後ストランドをペレタイザー等の機器により切断してペレット化してもよい。
【0043】
成形体の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、家電・OA機器、自動車分野、筐体等の電気・電子分野等の材料、日用雑貨等が挙げられる。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。以下の記載において、%は特に記載が無い限り質量基準(%)を意味する。
【0045】
[実施例1~25]
表1~3に示す比率で各原料を配合し、ハンドブレンドで混合した。その後、混錬・押出性試験装置(機種名「4C-150」、(株)東洋精機製作所製)を用い、スクリュー回転数30rpm、ミキサー温度100~180℃の条件で溶融混練して組成物AB-1~25を得た。
【0046】
[比較例1~3]
表4に示す比率で各原料を配合した以外は、実施例1と同様にして組成物AB-1’~3’を得た。
【0047】
[原料]
表1~4に示す各原料の詳細は下記の通りである。
【0048】
(繊維状の植物由来フィラー(A-1))
BC1000:セルロースファイバーであり、レッテンマイヤージャパン(株)製のARBOCEL BC1000である。平均繊維長は700μm、平均繊維径は20μm、嵩比重は0.066g/mL、分解温度約180℃であり、含水率は0.1~15質量%である。
【0049】
(繊維状の植物由来フィラー(A-2))
再生パルプ:AIPA(株)製のNF-APである。平均繊維長は150μm、平均繊維径は15~18μm、嵩比重は0.020g/mL、分解温度は約180℃、含水率は0.1~15質量%である。
【0050】
(繊維状の植物由来フィラー(A-3))
セルロースファイバー:セルロースファイバーであり、ニッポン高度紙工業(株)の製品である。平均繊維長は500μm、平均繊維径は0.5μm、嵩比重は0.021g/mL、分解温度は約180℃、含水率は0.1~15質量%である。
【0051】
(重合体(B-1))
ダイヤカルナ30M(三菱ケミカル(株)製、α-オレフィンと無水マレイン酸の共重合体、酸価80mg・KOH/g、質量平均分子量12,000、融点約70~80℃)
【0052】
(重合体(B-2))
ハイワックス1105A(三井化学(株)製、低分子量ポリオレフィン、酸価60mg・KOH/g、質量平均分子量1,500、融点約100~110℃)
【0053】
(重合体(B-3))
ユーメックス1010(三洋化成(株)製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、酸価52mg・KOH/g、質量平均分子量30,000、融点約130~140℃)
【0054】
(重合体(B-4))
ユーメックス1001(三洋化成(株)製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、酸価26mg・KOH/g、質量平均分子量45,000、融点約135~145℃)
【0055】
(重合体(B-5))
Modic P908(三菱ケミカル(株)製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、酸価12mg・KOH/g、質量平均分子量100,000、融点約150~160℃)
【0056】
(重合体(B-6))
アドマーQF551(三井化学(株)製、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、酸価1mg・KOH/g、質量平均分子量338,000、融点約135~140℃)
【0057】
(重合体(B-7))
ニッカアマイドSO(三菱ケミカル(株)製、アマイドワックス、分子量500、融点約60~70℃)
【0058】
(重合体(B-8))
ニッカアマイドOS(三菱ケミカル(株)製、アマイドワックス、分子量500、融点約70~80℃)
【0059】
(重合体(B-9))
B-100D(三菱ケミカル(株)製、製品名リョートーポリグリエステルB-100D、ポリグリセリン、分子量4,000、融点約70~80℃)
【0060】
[測定、評価]
嵩比重、接触角、アセトン浸漬後の重量増加率を測定した。接触角、アセトン浸漬後の重量増加率は、以下のシート状の成形体について測定した。プレス成形機(庄司鉄工(株)製)を用いて、各例の組成物を成形温度100~180℃の条件で成形して成形体(厚み0.5~1.5mmのシート状の成形体)を得た。結果を表1~4に示す。
【0061】
(嵩比重)
各例の組成物0.5mgの体積をメスシリンダー(AGCテクノグラス株式会社製、IWAKI PYREX GLASS F51 25mL)にて計量した。その際に測定した体積値と以下の式から嵩比重g/mLを求めた。
嵩比重(g/mL)=0.0005(g)/メスシリンダーで測定した体積値(mL)
【0062】
(接触角)
プレス成型機でシートにした組成物に携帯型接触角計 PG-X((株)マツボー製)を用い、液滴法で接触角測定を行った。
【0063】
(アセトン浸漬後の重量増加率)
プレス成型機でシートにした組成物をアセトンに10秒浸漬させた。浸漬後シートを取り出し、シート表面に残存したアセトンをふき取り、10秒以内に重量を測定した(浸漬後重量)。
アセトン浸漬後の重量増加率=((浸漬後重量(g)/浸漬前重量(g))×100)-100(%)
【0064】
(質量平均分子量)
重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される標準ポリスチレン換算の値として求めた。
【0065】
[実施例26、27、比較例4、5]
表5に示す比率で各原料を配合し、ラボプラストミル(機種名「R60」、(株)東洋精機製作所製)を用い、スクリュー回転数30rpm、ミキサー温度140~260℃の条件で溶融混錬して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物をプレス成形機(庄司鉄工(株)製)を用いて、各例の組成物を成形温度140~260℃の条件で成形して成形体(厚み0.5~1.5mmのシート状の成形体)を得た。得られた成形体の外観評価を行った。なお、各評価は下記の通り行った。得られた結果を表5に示す。
【0066】
なお、表5に示す樹脂の詳細は下記の通りである。
(樹脂(C-1))
MA1B:ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製、ノバテックPP MA1B、メルトマスフローレート21.0g/10min)
【0067】
(外観評価)
得られた成形体(平板)の平明部を目視観察し、凝集物が認められる場合を「不適」、凝集物が認められない場合を「適」と判断した。
【0068】
(加工性)
φ30mm異方向二軸押出機(機種名「PCM-30」、(株)池貝製)に20~40g/分の速度でハンドブレンドした各原料の混合物を供給し、押出機投入口または出口で閉塞が発生した場合を「不適」、閉塞が発生しなかった場合を「適」と判断した。
【0069】
[結果]
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
比較例1~3では、組成物に水滴が吸収されてしまい接触角が測定できなかった。
【0075】
【0076】
実施例1~25に係る組成物では、嵩比重(g/mL)の値、すなわち、単位体積あたりの重量が、比較例1~3に係る組成物より大きい。また、実施例1~25に係る組成物は接触角が測定可能であったことから、比較例1~3に係る組成物より接触角が充分に小さかったといえる。よって、実施例1~25に係る組成物は、繊維状の植物由来フィラーを含みながらも成形加工しやすいマスターバッチである。
【0077】
加えて、実施例1~25では、アセトン浸漬後の重量増加率が適度に高い。このことから、マスターバッチとして熱可塑性樹脂を含む有機物との相互作用も良好であることがわかる。
【0078】
実施例26、27に係る樹脂組成物では、実施例1及び2の組成物を樹脂と混合した際に、加工性及び外観評価において良好であることがわかる。
一方、比較例3、4に係る樹脂組成物では、マスターバッチとしての組成物を使用していないため、加工性に課題があることがわかる。