(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084898
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/093 20210101AFI20240619BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240619BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240619BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/079 20210101ALI20240619BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240619BHJP
C01G 45/00 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B1/04
C25B9/23
C25B9/00 A
C25B11/032
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/056
C25B11/063
C25B11/065
C25B11/079
C25B11/081
C01G45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199080
(22)【出願日】2022-12-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/非貴金属触媒を利用した固体高分子型水電解の変動電源に対する劣化解析と安定性向上の研究開発」に係る委託業務、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】中村 龍平
(72)【発明者】
【氏名】コウ ソウ
(72)【発明者】
【氏名】リ アイロン
(72)【発明者】
【氏名】伏見 和奈
(72)【発明者】
【氏名】末次 和正
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】藤村 樹
【テーマコード(参考)】
4G048
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC04
4G048AD06
4G048AE05
4K011AA04
4K011AA06
4K011AA10
4K011AA21
4K011AA30
4K011AA64
4K011BA07
4K011BA11
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB18
4K021DB22
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】 水電解における酸素発生用電極として使用される、安価で、高触媒活性かつ高耐久性を有するイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 表面-内部間のイリジウム濃度勾配が0%以上55%以下であるイリジウム-マンガン酸化物複合材料、上記イリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆されているイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及びこれらの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面-内部間のイリジウム濃度勾配が0%以上55%以下であるイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
【請求項2】
酸素欠陥量が20%以上34%以下である請求項1に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
【請求項3】
マンガン酸化物が電解二酸化マンガンである請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
【請求項4】
マンガン酸化物がβ型二酸化マンガンである請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆されているイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項6】
前記マンガン酸化物の含有量が、前記導電性基材の幾何面積当たり、0.1mg/cm2以上15mg/cm2以下である請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項7】
前記イリジウムの含有量が、前記導電性基材の幾何面積当たり、0.01mg/cm2以上0.2mg/cm2以下である請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項8】
前記導電性基材が、カーボン、チタン、及び白金被覆されたチタンからなる群から選択される少なくとも1種で構成される請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を担持させた電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
【請求項10】
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解で得られたマンガン酸化物をイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
【請求項11】
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液の電解で得られたマンガン酸化物をイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
【請求項12】
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【請求項13】
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を含む水電解における酸素発生電極活物質。
【請求項15】
請求項14に記載の酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極。
【請求項16】
請求項15に記載の酸素発生電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
【請求項17】
請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を有する水電解装置。
【請求項18】
請求項15に記載の酸素発生電極を有する水電解装置。
【請求項19】
請求項5に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を使用して水電解する水素の製造方法。
【請求項20】
請求項15に記載の酸素発生電極を使用して水電解する水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及びこれらの製造方法並びにこれらの用途に関する。より詳しくは、アルカリ性条件下、中性条件下、又は酸性条件下で行われる工業的な水電解や、固体高分子膜(PEM)型電解槽を用いる水電解において、酸素発生用陽極として使用されるイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、膜-電極接合体及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇問題や環境汚染問題から、クリーンなエネルギーとしての水素の利用とその製造手法に注目が集まっている。水電解法は、水を電気分解して陰極から高純度の水素ガスを製造する有効な手段のひとつであるが、この際、対極の陽極からは酸素発生が同時に起こることが特徴である。水電解法において水分解反応を効率よく進行させるには、陰極では水素過電圧の低い電極触媒を、陽極では酸素過電圧の低い電極触媒を用いて、電気分解にかかる電解電圧を低く保ちながら電解する必要がある。このうち、陽極の低酸素過電圧に優れた電極触媒材料として、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)などの希少な白金族金属や、それらの元素を含んだ酸化物をはじめとする化合物が提案されている(特許文献1、2、非特許文献1~3)。
【0003】
一方で、このような白金族金属で構成される電極触媒は非常に高価であることから、安価な遷移金属を用いた電極触媒の開発が進められてきている。例えば、近年では、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などで構成される遷移金属材料が提案されている(特許文献3~5、非特許文献4~7)。
最近まで、安価な遷移金属で構成され、且つ、PtやIrなどの白金族金属系に匹敵する高い触媒活性を有する酸素発生電極触媒材料は実現されていなかったが、このような課題に対して、マンガン酸化物に少量のIrを導入することで低コストと白金族金属系に匹敵する触媒活性を両立した電極触媒が見出された(特許文献6)。
【0004】
しかしながら、例えばPEM型水電解中の陽極付近の過酷な酸性環境は、前記のような主に遷移金属から構成される触媒の耐久性を著しく低下させる。したがって、遷移金属を主成分とする材料であっても、高い耐久性を有する触媒の開発が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-269761号公報
【特許文献2】特表2007-514520号公報
【特許文献3】特開2015―192993号公報
【特許文献4】国際公開(WO)2009/154753
【特許文献5】国際公開(WO)2019/117199
【特許文献6】国際公開(WO)2021/193467
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Trasatti,G.Buzzanca,J.Electroanal.Chem.,1971,29,A1.
【非特許文献2】A.Harriman,I.J.Pickering,J.M.Thomas,P.A.Christensen,J.Chem.Soc.,Faraday Trans.1,1988,84,2795.
【非特許文献3】Y.Zhao,N.M.Vargas-Barbosa,E.A.Hernandez-Pagan,T.E.Mallouk,Small,2011,7,2087.
【非特許文献4】M.M.Najafpour,G.Renger,M.Holynska,A.N.Moghaddam,E.-M.Aro, R.Carpentier,H.Nishihara,J.J.Eaton-Rye,J.-R.Shen,S.I.Allakhverdiev,Chem.Rev.,2016,116,2886.
【非特許文献5】T.Takashima,K.Ishikawa,H.Irie,J.Phys.Chem.C,2016,120,24827.
【非特許文献6】J.B.Gerken,J.G.McAlpin,J.Y.C.Chen,M.L.Rigsby,W.H.Casey,R.D.Britt,S.S.Stahl,J.Am.Chem.Soc.,2011,133,14431.
【非特許文献7】M.Dinca,Y.Surendranath,D.G.Nocera,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,2010,107,10337.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、及びそれらの製造方法の提供に関するものである。
より詳しくは、アルカリ性条件下、中性条件下、又は酸性条件下で行われる工業的な水電解や、固体高分子膜(PEM)型電解槽を用いる水電解における酸素発生用陽極触媒材料であって、高い耐久性を有する水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合材料(以下、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料という場合がある。)、水分解触媒用のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料及びそれらの製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、水電解の酸素発生電極触媒として使用される触媒材料について鋭意検討を重ねた結果、表面-内部間のイリジウム濃度勾配が0%以上55%以下であるイリジウム-マンガン酸化物複合材料及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料が優れた耐久性を示すことを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、その要旨は以下のとおりである。
[1]表面-内部間のイリジウム濃度勾配が0%以上55%以下であるイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[2]酸素欠陥量が20%以上34%以下である上記[1]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[3]マンガン酸化物が電解二酸化マンガンである上記[1]又は[2]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[4]マンガン酸化物がβ型二酸化マンガンである上記[1]~[3]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料。
[5]上記[1]~[4]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆されているイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[6]前記マンガン酸化物の含有量が、前記導電性基材の幾何面積当たり、0.1mg/cm2以上15mg/cm2以下である上記[5]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[7]前記イリジウムの含有量が、前記導電性基材の幾何面積当たり、0.01mg/cm2以上0.2mg/cm2以下である上記[5]又は[6]に記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[8]前記導電性基材が、カーボン、チタン、及び白金被覆されたチタンからなる群から選択される少なくとも1種で構成される上記[5]~[7]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料。
[9]上記[1]~[4]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を担持させた電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
[10]硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液の電解で得られたマンガン酸化物をイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う上記[1]~[4]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[11]硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液の電解で得られたマンガン酸化物をイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う上記[1]~[4]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法。
[12]硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う上記[5]~[8]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[13]硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させ、続いて、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理を行う上記[5]~[8]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造方法。
[14]上記[1]~[4]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を含む水電解における酸素発生電極活物質。
[15]上記[14]に記載の酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極。
[16]上記[15]に記載の酸素発生電極と、高分子電解質膜とを有する膜-電極接合体。
[17]上記[5]~[8]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を有する水電解装置。
[18]上記[15]に記載の酸素発生電極を有する水電解装置。
[19]上記[5]~[8]のいずれかひとつに記載のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を使用して水電解する水素の製造方法。
[20]上記[15]に記載の酸素発生電極を使用して水電解する水素の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、アルカリ下、中性下、又は酸性下で行われる工業的な水電解やPEM型電解槽を用いる水電解において、高い耐久性を示す酸素発生用陽極触媒として作用する。
また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料、及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を用いる上記電解系に二酸化炭素を添加等することにより、該二酸化炭素等を陰極において還元して、炭化水素化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン、エタン、プロパン等)を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の、各深さにおけるIr/Mn原子比を示したデータである。
【
図2】実施例1のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のIr未担持の場合およびIr担持した場合のXRDパターンである。
【
図3】比較例2のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のIr未担持の場合およびIr担持した場合のXRDパターンである。
【
図4】実施例1、実施例2、比較例1、比較例2の、酸素発生時(水電解時)における、1M H
2SO
4と0.5M K
2SO
4とを含む水溶液を用いた三電極型電解セルで80℃で測定した電流と電位との関係を示すリニアスイープボルタモグラム(LSV)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
まず、電解による水の分解について、PEM型の水電解のように反応場が酸性環境下になるような反応を例にとって、説明する。陰極触媒上では、式1に示されるように、2つのプロトンと2つの電子の反応により、水素が生成する。
2H+ + 2e- → H2 … 式1
【0012】
一方、陽極触媒上では、式2に示されるように、2つの水分子から4つの電子と4つのプロトンと共に酸素が生成する。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- … 式2
そして、全体として、式3に示されるように、2つの水分子から、2つの水素分子と1つの酸素分子が生成する反応となる。
2H2O → 2H2 + O2 … 式3
【0013】
上記式2における酸素発生反応は、一般的には、全反応の律速過程とされ、同反応を最小限のエネルギーで進めることのできる触媒の開発が、該技術分野において、重要な位置づけにある一方で、その電極耐久性についても安定した連続水素製造のために重要視される。従って、本発明は、酸素発生反応中の電極耐久性が高い酸素発生電極触媒を提供するものである。
【0014】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、表面-内部間のイリジウム濃度勾配(以下、単に「イリジウム濃度勾配」ということがある)が0%以上55%以下である。イリジウム濃度勾配が0%未満であると、活性点であるイリジウムが内部に集中し、水との接触頻度が低下した結果、触媒活性が低下する。一方、イリジウム濃度勾配が55%を超えると、イリジウムの均一分散性が損なわれ、局所的な電流負荷が高まり、電極耐久性が低下する。イリジウム濃度勾配は、触媒活性と電極耐久性をより高く維持するとともに、コストを抑えた実用的な観点から、10%以上40%以下が好ましく、20%以上40%以下がより好ましく、30%以上40%以下が更に好ましい。
【0015】
本発明におけるイリジウム濃度勾配は、次の方法で求められる。
イリジウム-マンガン酸化物複合材料の表面のイリジウム/マンガン原子比をA1、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の内部のイリジウム/マンガン元素比をA2とする。
イリジウム濃度勾配(%)=100-((A2/A1)×100) … 式4
「表面」とは、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の表層、すなわち、深さ0nmの場所を指し、「内部」とはイリジウム-マンガン酸化物複合材料の表面より深さ方向に400nm以上離れた場所を指す。
イリジウム/マンガン原子比の測定方法において、A1およびA2は、X線光電子分光法(XPS)又は透過電子顕微鏡(TEM)を用いて元素の定量分析を行うことにより、算出することができる。
【0016】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、酸素欠陥量が20%以上34%以下であることが好ましい。酸素欠陥量が20%以上であることで、酸素発生反応の基質である水の吸着を促進し、高い酸素電極触媒活性を発現する。一方、酸素欠陥量が34%以下であることで、電気化学的に不安定なサイトが減少し、高い電極耐久性を発現する。酸素欠陥量は25%以上30%以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明における酸素欠陥量は、下記式5に記載の方法で求められる。
イリジウム-マンガン酸化物複合材料に含まれる酸素元素のうち、金属-酸素結合として存在している酸素元素をO1、金属-水酸化結合として存在している酸素元素をO2とする。
酸素欠陥量(%)=O2/(O1+O2)×100 … 式5
【0018】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガンの金属原子価は、3.5以上4.0以下であることが好ましい。金属原子価が3.5以上であることで、溶解性の2価マンガンの溶出を抑制し、特にPEMなどの酸性環境下で使用する場合に化学安定性が増す。一方、金属原子価が4.0以下であることで、溶解性の5価マンガン、7価マンガンの溶出を抑制し、化学安定性に優れる。マンガンの金属原子価は3.6以上4.0以下であることがより好ましく、3.7以上4.0以下であることが更に好ましい。
【0019】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のイリジウムの金属原子価は、3.0以上3.8以下であることが好ましい。イリジウムの金属原子価が3.0以上であることにより、触媒材料としての化学安定性が高く、特にPEM型水電解のような酸性環境下で使用する場合にはイリジウムイオンとして溶出して消耗しにくい。一方、イリジウムの金属原子価が3.8以下であることにより、活性中心として有効に作用する3価のイリジウムが多いため、酸素電極触媒活性が増大する。優れた酸素電極触媒活性を発現するために、イリジウムの金属原子価は3.15以上3.6以下がより好ましく、3.2以上3.5以下が更に好ましい。
【0020】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物は、例えば、電解法で得られる電解二酸化マンガン、化学法で得られる二酸化マンガン等があげられるが、電解二酸化マンガンが好ましい。
また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物は、γ型、β型、ε型、若しくはα型のいずれかの基本結晶構造を有する結晶相、又は、これらの結晶構造が混合された混晶の二酸化マンガンであっても良いが、β型が好ましい。なお、ここでの結晶構造は、XRD測定によって同定されたものをいう。
【0021】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を電極に担持させることにより、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が水電解における酸素発生電極活物質となり、酸素発生電極に水分解反応における触媒能を付与できる。この酸素発生電極活物質を含む酸素発生電極、高分子電解質膜、及び水素発生触媒を付与された電極を積層することにより、膜-電極接合体となる。ここで、高分子電解質膜としては、例えば、フッ素樹脂系の陽イオン交換膜等が挙げられ、水素発生触媒としては、例えば、白金微粒子等が挙げられる。本発明では、この酸素発生電極を有することにより、水電解装置となり、この酸素発生電極を使用して水電解することにより水素を製造することができる。
【0022】
以下には、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の製造方法を説明する。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料は、例えば、電解液として、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液、又は硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液を用いて、純チタン板などの電極基材にマンガン酸化物を電解析出させ、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させた後、アニール処理することで得ることができる。
【0023】
マンガン酸化物は、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を用いて電解析出させた後に、電極基材から剥離し、粉砕するなどして、粉体状としても良い。
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液中の各成分の濃度について、硫酸濃度としては5g/L以上65g/L以下に制御されることが好ましく、20g/L以上50g/L以下に制御されることがより好ましい。
上記混合溶液中のマンガン(硫酸マンガンのマンガンイオン)の濃度としては、溶解度以下であれば特に制限はないが、5g/L以上50g/L以下が好ましく、10g/L以上30g/L以下がより好ましい。
【0024】
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液としては、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液を用いることができる。アルカリ金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられ、アンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。上記の塩濃度が1.4mol/Lを超えると、マンガン酸化物中の構造欠損が増大し、電極耐久性が低下する。上記の塩濃度は、0.001mol/L以上1.0mol/L以下が好ましく、0.001mol/L以上0.5mol/L以下がより好ましい。
【0025】
上記混合溶液の成分濃度を維持するために、電解酸化で消費されたマンガンに相当する硫酸マンガンを適宜加えるか、または硫酸マンガン溶液を連続的に供給することが有効である。
なお、上記の硫酸-硫酸マンガンの混合溶液における硫酸濃度とは、硫酸マンガンの二価の陰イオン(硫酸イオン)を除いた値である。
【0026】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物の電解析出方法では、電解電流密度は、特に限定するものではないが、導電性基材の幾何面積あたり、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下であることが好ましい。これにより、効率的、かつ安定的にマンガン酸化物を電解析出させることができる。より安定的に本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料を得るために、電解電流密度は1mA/cm2以上10mA/cm2以下がより好ましく、3mA/cm2以上8mA/cm2以下が更に好ましい。
【0027】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物の電解析出方法における、電解温度は93℃以上98℃以下が例示できる。電解温度は高いほど、析出するマンガン酸化物の電解製造効率が上がるため、電解温度は94℃を超えることが好ましいが、上記混合溶液の沸騰を抑制して、電解液組成を維持するために、電解温度は、通常98℃以下である。
純チタン板などの電極基板上に電解析出させたマンガン酸化物は、洗浄工程、中和工程を経て、残電解液などを除去した後に、フラッシュ乾燥装置などを用いて乾燥される。また、さらに200℃以上500℃以下の焼成工程を施し、マンガン酸化物を得る場合もある。
【0028】
マンガン酸化物にイリジウムを含有させる方法は特に限定されないが、例えばマンガン酸化物を、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液を入れた容器に浸漬させる、またはマンガン酸化物とイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液を接触させる方法が好ましい。この方法によって、イリジウムの濃度勾配が好ましい範囲に制御しやすくなる。他の方法として、イリジウムを電解析出させる方法、イリジウムとマンガンを同時に析出させる方法などが挙げられる。なお、マンガン酸化物を溶液に浸漬または接触させる場合は、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させることが必要であり、イリジウム塩溶液に浸漬または接触させるのでは、マンガン酸化物へのイリジウムの導入効率が低下する。
【0029】
イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液のイリジウム塩の種類としては、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K2IrCl6)又はヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)が例示される。
イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液中のイリジウム濃度としては溶解度以下であれば特に制限はないが、0.001g/L以上10g/L以下が好ましく、0.003g/L以上5g/L以下がより好ましい。
【0030】
マンガン酸化物をイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬させる、またはマンガン酸化物とイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液とを接触させる条件は、特に限定されないが、20℃以上100℃以下の温度下で、30分以上24時間以下浸漬又は接触させることが好ましい。浸漬時間又は接触時間、及び浸漬温度又は接触温度が上記範囲内であることにより、マンガン酸化物上へのイリジウムの吸着量を制御することができる。
【0031】
続いてアニール処理を行う。アニール処理条件について、特に限定されないが、空気下または窒素気流下で100℃を超え600℃以下が例示され、アニール処理時間は10分以上24時間以下が例示される。アニール処理温度は、300℃以上550℃以下が好ましく、350℃以上500℃以下がより好ましい。また、アニール処理時間は、1時間以上16時間以下が好ましく、2時間以上8時間以下がより好ましい。このアニール処理の効果は明確ではないが、アニール処理条件を選択することにより、イリジウムとマンガン酸化物との相互作用が高められ、より望ましい触媒活性を発現するものと推定している。
【0032】
次に、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料について説明する。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、上記本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料が、導電性繊維から構成される導電性基材の少なくとも一部に被覆されているものである。この場合、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量は、導電性基材の幾何面積あたり、0.1mg/cm2以上20mg/cm2以下が好ましい。
【0033】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量が上記範囲の場合、導電性基材を構成する繊維の径や空隙率にも依存するが、繊維上にはイリジウム-マンガン酸化物複合材料が島状に若しくは繊維外面を全面被覆するような形態で被覆され、その平均被覆厚みは概ね25μm以下にできる。なお、繊維上に被覆するイリジウム-マンガン酸化物複合材料は二次粒子により構成されるので、通常、平均被覆厚みと、それを構成するイリジウム-マンガン酸化物複合材料の平均二次粒径とは一致する。
【0034】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料においては、被覆しているイリジウム-マンガン酸化物複合材料の量に依存して、導電性基材の繊維を被覆するイリジウム-マンガン酸化物複合材料の平均厚みが厚くなる関係にある。なかでも、上記イリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量は、0.2mg/cm2以上10mg/cm2以下がより好ましく、0.3mg/cm2以上7mg/cm2以下がさらに好ましく、0.5mg/cm2以上5mg/cm2以下が特に好ましい。なお、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆層の厚みは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)の像から、導電性基材の構成単位である導電性繊維の線径太さ分を差し引いて求めることもできる。
【0035】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、導電性基材の少なくとも一部を本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料で被覆した際のマンガン酸化物の含有量が、導電性基材の幾何面積当たり、0.1mg/cm2以上15mg/cm2以下であることが好ましい。マンガン酸化物の含有量が0.1mg/cm2以上であることで、イリジウムが均一分散するためのサイトが提供され、高い電極耐久性を発現する。一方で、マンガン酸化物の含有量が15mg/cm2以下であることで、マンガン酸化物の抵抗をより低く維持し、触媒活性をより高く維持できる。優れた酸素電極触媒活性と耐久性を発現するために、マンガン酸化物の含有量は0.3mg/cm2以上3.8mg/cm2以下であることがより好ましく、0.6mg/cm2以上1.9mg/cm2以下であることが更に好ましい。ここで、幾何面積とは、導電性基材の投影面積に相当するものであり、該導電性基材の厚みは考慮しないものである。
【0036】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、導電性基材の少なくとも一部を本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料で被覆した際のイリジウムの含有量が、導電性基材の幾何面積当たり、0.01mg/cm2以上0.2mg/cm2以下であることが好ましい。イリジウム含有量が0.01mg/cm2以上であることで、イリジウムが酸素発生反応の活性点として有効に作用し、高い触媒活性を発現する。一方、イリジウムの含有量が0.2mg/cm2以下であることで、希少元素であるイリジウムの使用量が抑えられ、高いコストパフォーマンスが得られる。リーズナブルに優れた特性を得るために、イリジウムの含有量は0.015mg/cm2以上0.15mg/cm2以下がより好ましく、0.02mg/cm2以上0.1mg/cm2以下が更に好ましい。
【0037】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、上記導電性基材が、カーボン、チタン、及び白金被覆されたチタンからなる群から選択される少なくとも1種で構成されることが好ましい。カーボンとしては、例えば、導電性カーボン繊維で構成されるカーボンペーパーが例示され、チタンとしては、例えば、繊維状の導電性金属チタン線で構成されるチタン網、焼結チタンなどが例示され、白金被覆されたチタンとしては、繊維状の導電性金属チタン線の表面を白金被覆した白金被覆されたチタン網、焼結チタンが例示される。
【0038】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、上記純チタン板の電極基材に替えて、例えば、カーボン、チタン、又は白金被覆されたチタンなどに代表される導電性基材を用いて、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液を電解して、マンガン酸化物を導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させる。イリジウムを含有させる方法は特に限定されないが、例えば、イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬または接触させてイリジウムを少なくともマンガン酸化物表面に均一分散して吸着させた後に、アニール処理を行うことが挙げられる。この方法をとることによって、濃度勾配が好ましい範囲に制御しやすくなる。またこの場合、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、導電性基材の幾何面積あたりのイリジウム-マンガン酸化物複合材料の被覆量が上記した好ましい範囲になるように行われるのが好適である。イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液によって吸着させる方法の他には、イリジウムを電解析出させる方法、イリジウムとマンガンを同時に析出させる方法などが挙げられる。また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の粉末を含む触媒インクを前記で挙げた導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に塗布することでも得られる。なお、触媒インクには、例えば、溶媒としての水-エタノールの混合溶液や、結着材としてのイオン性高分子を含んでもよい。
【0039】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の製造に用いる硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液中の各成分の濃度について、硫酸濃度としては5g/L以上65g/L以下が好ましく、20g/L以上50g/L以下がより好ましい。
上記混合溶液のマンガン(硫酸マンガンのマンガンイオン)の濃度としては、溶解度以下であれば特に制限はないが、5g/L以上50g/L以下が好ましく、10g/L以上30g/L以下がより好ましい。
【0040】
硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液としては、硫酸-硫酸マンガンを含む混合溶液で、さらにアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1種を含み、その濃度が1.4mol/L以下である混合溶液を用いることができる。アルカリ金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属塩としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム等が挙げられ、アンモニウム塩としては、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等が挙げられる。上記の塩濃度が1.4mol/Lを超えると、マンガン酸化物中の構造欠損が増大し、電極耐久性が低下する。上記の塩濃度は、0.001mol/L以上1.0mol/L以下が好ましく、0.001mol/L以上0.5mol/L以下がより好ましい。
【0041】
上記混合溶液の成分濃度を維持するために、電解酸化で消費されたマンガンに相当する硫酸マンガンを適宜加えるか、または硫酸マンガン溶液を連続的に供給することが有効である。
なお、上記の硫酸-硫酸マンガンの混合溶液における硫酸濃度とは、硫酸マンガンの二価の陰イオン(硫酸イオン)を除いた値である。
【0042】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のマンガン酸化物の電解析出方法では、電解電流密度は、特に限定するものではないが、導電性基材の幾何面積あたり、0.3mA/cm2以上20mA/cm2以下であることが好ましい。これにより、効率的、かつ安定的にマンガン酸化物を電解析出させることができる。より安定的に本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を得るために、電解電流密度は1mA/cm2以上10mA/cm2以下がより好ましく、3mA/cm2以上8mA/cm2以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のマンガン酸化物の電解析出方法における、電解温度は93℃以上98℃以下が例示できる。電解温度が高いほど、析出するマンガン酸化物の電解製造効率が上がるため、電解温度は94℃を超えることが好ましい。
【0044】
イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液のイリジウム塩の種類としては、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K2IrCl6)又はヘキサクロロイリジウム酸(H2IrCl6)が例示される。
イリジウム塩-硫酸を含む混合溶液のイリジウム濃度としても溶解度以下であれば特に制限はないが、0.001g/L以上10g/L以下が好ましく、0.003g/L以上5g/L以下がより好ましい。
【0045】
導電性基材は、例えば、100μm以下の線直径の太さを有するカーボンやチタン金属などの導電性繊維を成型又は焼結し、基材の厚みが1mm以下の板状にしたものが好ましい。導電性基材の空隙率は、例えば、40%以上が好ましく、50%以上90%以下がより好ましい。ここで空隙率は、導電性基材の体積中に占める導電性繊維などがない空間部分の体積で定義される。
【0046】
導電性基材は、マンガン酸化物を電解析出させる前に、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸などで酸処理を施し、基材表面の不働態被膜除去や親水化を行うことも有効である。一方で、導電性基材内のマンガン酸化物の電析位置を制御する、又は実際に水電解の電極として用いる際に重要なガス拡散特性を付与することを目的に、フッ素系樹脂のディスパージョン液などに導電性基材を浸漬させ、撥水化を行うことも有効である。
【0047】
導電性基材に本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料のマンガン酸化物を電解析出させる条件として、例えば、前記したような、硫酸-硫酸マンガンの混合溶液の硫酸濃度、マンガン濃度、電解電流密度、電解温度などの各々の範囲を選択し、電解時間を5分~120分の範囲で行う。マンガン酸化物を導電性基材に電解析出させた後に、水洗、乾燥し、次いで、マンガン酸化物が電解析出した導電性基材ごとイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液を入れた容器などに浸漬させる、またはマンガン酸化物が電解析出した導電性基材とイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液を接触させるなどして、少なくともマンガン酸化物表面にイリジウムを吸着させ、最後に、空気又は窒素雰囲気下、100℃を超え600℃以下、10分を超え24時間以内で、アニール処理を行うことにより、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料とすることができる。
【0048】
導電性繊維で構成される導電性基材の少なくとも一部に電析させたマンガン酸化物をイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液に浸漬させる、又はマンガン酸化物とイリジウム塩-硫酸を含む混合溶液とを接触させる条件は、特に限定されないが、20℃以上100℃以下の温度下で、30分以上24時間以下浸漬又は接触させることが好ましい。浸漬時間又は接触時間、及び浸漬温度又は接触温度が上記範囲内であることにより、マンガン酸化物上へのイリジウムの吸着量を制御することができる。
【0049】
アニール処理温度は、300℃以上550℃以下が好ましく、350℃以上500℃以下がより好ましい。また、アニール処理時間は、1時間以上16時間以下が好ましく、2時間以上8時間以下がより好ましい。
【0050】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、マンガン酸化物の電解析出時に、導電性基材の片面を樹脂性の膜などで遮蔽すると、一面にのみイリジウム-マンガン酸化物複合材料を優先的に被覆できる一方で、もう片面は殆どイリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させることなく、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を意識的に偏って被覆させることもできる。
【0051】
また、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、アニール処理時に、イリジウムとマンガン酸化物との相互作用が高められ、より望ましい触媒活性を発現するだけでなく、イリジウム-マンガン酸化物複合材料と導電性繊維との密着性がより高まる、又は、イリジウム-マンガン酸化物複合材料の結晶性がより高まるなど好適な効果があるものと推定している。
【0052】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料、高分子電解質膜、及び水素発生触媒を付与された電極を積層することで、積層体となる。本発明では、本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を有することにより、水電解装置となり、このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を使用して水電解することにより水素を製造することができる。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のXPS分析>
XPS分析装置(PHI 5000 Versa ProbeII、ULVAC-PHI社製)を使用して、深さ方向の組成、表面のイリジウム、マンガンの金属原子価、及び表面の酸素結合状態を解析した。線源にはAlKα(1486.6eV)を用いて、284.6eVのC1sスペクトルを結合エネルギーの基準とし、パスエナジー187.85eVとしてサーベイスキャン機能を利用した。
【0055】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の金属量分析>
イリジウム-マンガン酸化物複合材料、又はイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を塩酸-硝酸の混合溶液を用いて完全に溶解し、ICP-AES(Optima 8300、パーキンエルマー社製)を用いて全マンガン元素量及び全イリジウム元素量を定量した。
【0056】
<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のXRD測定>
X線回折装置(Ultima+、Rigaku社製)を使用して、線源にはCuKα線(λ=1.5418Å)を用い、操作電位40kV、操作電流40mAでXRD測定を行った。
【0057】
<酸素発生電極触媒特性の評価のための三電極型電解セルの構築>
イリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させた導電性基材の電極材料を使用した三電極型電解セルの構築は、以下のように行った。
電極材料(平板網形状:1cm×1cm)を作用極とし、対極として、白金線を用い、参照用電極として、可逆水素電極(RHE)を用いた。電解液として、1M H2SO4-0.5M K2SO4の混合溶液を用いた。
【0058】
<電流-電位曲線の測定>
水電解における酸素発生電極触媒能を評価するために、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を被覆させた導電性基材の電極材料を用いて構築した三電極型電解セルを用いて、電解液温度80℃で、電流-電位曲線の測定を行った。電位の走査速度は、電流が立ち上がる電位が判別しやすいように10mV/sとした。
【0059】
実施例1
硫酸35g/L及び硫酸マンガン濃度55g/Lの硫酸-硫酸マンガン混合溶液が入った電解槽内で電解を行い、白金被覆したTi網(田中貴金属工業社製)の導電性基材上にマンガン酸化物を電解析出させた。次に、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K2IrCl6)0.004g/L及び硫酸1.0g/Lのヘキサクロロイリジウム酸カリウム-硫酸混合溶液が入ったイリジウム塩溶液槽に、上記マンガン酸化物が電析した導電性基材を95℃で12時間浸漬し、マンガン酸化物表面にイリジウムを吸着させた。続いて、空気下で450℃-5時間のアニール処理を行い、導電性基材にイリジウム-マンガン酸化物複合材料を析出させたイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。この合成条件について表1に示した。
【0060】
【0061】
イリジウム-マンガン酸化物複合材料を含むイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のIr未担持状態、及びIr担持状態のXRDパターンを
図2に示した。
図2から、Ir未担持の状態ではγ型MnO
2に帰属される回折線が観測された。一方で、Irを吸着させてアニール処理した後はβ型MnO
2に帰属される回折線が観測された。γ型MnO
2は400℃以上のアニール処理によりβ型MnO
2に転移することが知られており、Ir担持後にβ型に構造転移したのは、上記のアニール処理が主要因と説明できる。なお、マンガン酸化物の各種結晶相で帰属される回折線の他に出現した回折線は導電性基材に由来する。ICP測定により、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるマンガン酸化物の重量はMnO
2換算で1.7mg/cm
2、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウムの重量は0.03mg/cm
2と算出された。また、XPSによる表面分析により、このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料のイリジウム-マンガン酸化物複合材料におけるマンガンの金属原子価は3.6、イリジウムの金属原子価は3.0、酸素欠陥量は27%と算出された。XPSによる深さ方向分析により、このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料における表面のイリジウム/マンガン原子比(A1)は0.008、深さ400nm地点のイリジウム/マンガン原子比(A2)は0.005であったことから、イリジウム-マンガン酸化物複合材料のイリジウム濃度勾配は39%であった。各深さにおけるIr/Mn原子比のデータを
図1に示し、これらの評価結果を表2に示した。
【0062】
【表2】
このイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を<酸素発生電極触媒特性の評価のための三電極型電解セルの構築>に従って、三電極型電解セルに組み込み、<電流-電位曲線の測定>に従って、酸素発生電極触媒特性評価を行った。また、特性評価後の組成を<イリジウム-マンガン酸化物複合材料、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の金属量分析>に従って分析した。その結果を、表2、
図4に示した。
【0063】
実施例2
電析させたマンガン酸化物に空気下で450℃-5時間のアニール処理を施したこと以外は実施例1の調製条件に従って、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。この合成条件を表1に示し、得られたイリジウム-マンガン酸化物複合材料を含むイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料の物性及び特性値を表2に示した。また、各深さにおけるIr/Mn原子比のデータを
図1に示し、酸素発生電極特性評価の結果を
図4に示した。
【0064】
比較例1
実施例1と同様の電解析出条件で調製したγ型MnO
2をヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K
2IrCl
6)0.004g/Lの水溶液に95℃で12時間浸漬し、マンガン酸化物表面にイリジウムを吸着させ、空気下で450℃-5時間のアニール処理を行い、イリジウム-マンガン酸化物複合材料を得た。この複合材料を白金被覆したTi網(田中貴金属工業社製)の導電性基材上に塗布し、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。この合成条件を表1に示し、得られたイリジウム-マンガン酸化物複合材料を含むイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウム-マンガン酸化物複合材料の物性及び特性値を表2に示した。また、各深さにおけるIr/Mn原子比のデータを
図1に示し、酸素発生電極特性評価の結果を
図4に示した。
【0065】
比較例2
硫酸30g/L、硫酸マンガン76g/L、硫酸アンモニウム198g/Lの硫酸-硫酸マンガン-硫酸アンモニウム混合溶液が入った電解槽内で電解を行い、白金被覆したTi網(田中貴金属工業社製)の導電性基材上にマンガン酸化物を電解析出させた。次に、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K
2IrCl
6)0.004g/L、硫酸1.0g/Lの入ったイリジウム塩溶液槽に、前記マンガン酸化物が電析した導電性基材を95℃で12時間浸漬し、マンガン酸化物表面にイリジウムを吸着させた。続いて、空気下で450℃-5時間のアニール処理を行い、イリジウム-マンガン酸化物複合電極材料を作製した。この合成条件について表1に示し、得られたイリジウム-マンガン酸化物複合材料を含むイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料におけるイリジウム-マンガン酸化物複合材料の物性及び特性値を表2に示した。また、各深さにおけるIr/Mn原子比のデータを
図1に示し、Ir未担持状態、及びIr担持状態のXRDパターンを
図3に示し、酸素発生電極特性評価の結果を
図4に示した。
【0066】
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、イリジウム濃度勾配が小さいことから、イリジウムがより均一に分散していることが分かった。本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、酸素発生電極反応後の触媒溶出量が低く、長寿命を有する電極触媒としての可能性が示された。
本発明のイリジウム-マンガン酸化物複合材料及びイリジウム-マンガン酸化物複合電極材料は、水電解において高い酸素発生電極触媒活性と高い触媒耐久性を有するため、アルカリ下、中性下で行われる工業的な水電解や、PEM型電解槽を用いる水電解において酸素発生用陽極触媒として使用することで、極めて製造原価の低い水素、酸素を得ることが可能となる。
また、上記水電解などの反応系に二酸化炭素を存在させることにより、該二酸化炭素等を陰極において還元して、炭化水素化合物(ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール、メタン、エタン、プロパン等)を製造することもできる。