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特開2024-84975ボンド磁石用組成物、ボンド磁石、及び一体成形部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024084975
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ボンド磁石用組成物、ボンド磁石、及び一体成形部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/053 20060101AFI20240619BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240619BHJP
   C08L 77/12 20060101ALI20240619BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240619BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240619BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240619BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20240619BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20240619BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
H01F1/053 130
H01F1/059 160
C08L77/12
C08L77/00
C08L23/08
C08K3/04
C08K3/28
C08K5/10
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199210
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀樹
【テーマコード(参考)】
4J002
5E040
【Fターム(参考)】
4J002BB07X
4J002CL01W
4J002CL08Y
4J002DA017
4J002DF006
4J002EH008
4J002EH098
4J002FA047
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD028
4J002FD206
4J002GR02
5E040AA03
5E040BB04
5E040CA01
5E040NN04
5E040NN06
(57)【要約】
【課題】冷熱衝撃試験に対する耐久性が高く割れの発生が抑制されたボンド磁石を作製でき、さらに成形時における流動性が良好で加工が容易なボンド磁石用組成物を提供すること。また、そのようなボンド磁石用組成物の成形体であるボンド磁石、及びボンド磁石を備えた一体成形部品を提供すること。
【解決手段】平均粒径が1.7μm以上2.8μm以下のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を88.0質量%以上91.0質量%以下、引っ張り破断伸びが400%以上であり且つ曲げ弾性率が100MPa以上のポリアミドエラストマーを0.5質量%以上2.5質量%以下、及び/又は樹脂デュロメータ硬さHDAが85以下のエチレン-アクリル酸コポリマーを3.0質量%以上4.5質量%以下、分子量分布測定で重量平均分子量Mwが4500以上7500以下のポリアミド12樹脂を0.5質量%以上10.0質量%以下、並びに繊維径が10μm以上12μm以下の炭素繊維を0.5質量%以上2.0質量%以下の割合で含有し、前記炭素繊維は、アスペクト比が1.5以上60未満の範囲内にある繊維を80個数%以上の割合で含む、ボンド磁石用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1.7μm以上2.8μm以下のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を88.0質量%以上91.0質量%以下、
引っ張り破断伸びが400%以上であり且つ曲げ弾性率が100MPa以上のポリアミドエラストマーを0.5質量%以上2.5質量%以下、及び/又は樹脂デュロメータ硬さHDAが85以下のエチレン-アクリル酸コポリマーを3.0質量%以上4.5質量%以下、
分子量分布測定で重量平均分子量Mwが4500以上7500以下のポリアミド12樹脂を0.5質量%以上10.0質量%以下、並びに
繊維径が10μm以上12μm以下の炭素繊維を0.5質量%以上2.0質量%以下
の割合で含有し、
前記炭素繊維は、アスペクト比が1.5以上60未満の範囲内にある繊維を80個数%以上の割合で含む、ボンド磁石用組成物。
【請求項2】
前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末はSmFe17で表される組成を有する、請求項1に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項3】
前記ボンド磁石用組成物は、カルボン酸エステルを0.3質量%以上1.0質量%以下の割合で更に含む、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項4】
前記ボンド磁石用組成物は、脂肪酸アマイドを1.5質量%以下の割合で更に含む、請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のボンド磁石用組成物の成形体である、ボンド磁石。
【請求項6】
請求項5に記載のボンド磁石と金属部品とを備えた、一体成形部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用組成物、ボンド磁石、及び一体成形部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、磁石粉末及び有機樹脂等のバインダ成分を配合した組成物(ボンド磁石用組成物)を、押出機等の混練機で加熱混練し、次いでペレット等の形状になるように加工した後、射出成形、圧縮成形、又は押出成形などの手法で加熱成形して製造される。
【0003】
このようなボンド磁石は、焼結磁石に比べて寸法精度が高く且つ複雑形状のものを得やすいという利点がある。また品質及び性能の均一性が高く、歩留まりがよく、さらに機械加工性が良好である。特にポリアミド樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダ樹脂として用いて射出成形により製造される磁石は、寸法精度が高く、後加工の必要がないため、磁石の製造コストを低減できるという利点がある。また希土類磁石粉末を含むボンド磁石は、磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力iHc、及び最大エネルギー積(BH)max)に優れ、磁力が強い。そのため、小型化及び高特性化を図ることができ、小型モーターやセンサーなどの用途に有用である。
【0004】
ところで、ボンド磁石成形に用いられるボンド磁石用組成物(以下、単に「組成物」と呼ぶ場合がある)には、ある程度に流動性に優れることが望まれる。流動性が低いと成形時に圧力を加えても組成物が流れていかない、あるいは流れたとしても流れが不均一になる、などの問題が生じ、均一な成形体を得ることが困難になる。特に複雑形状や薄肉形状の成形体を得る上で、組成物の流動性は重要である。この点、成形を高温下で行って組成物の流動性を高める方策も考えられる。しかしながら、成形を高温下で行うと、組成物に含まれる磁石粉末に含まれる希土類金属が高温下で酸化して磁気特性が劣化する恐れがある。
【0005】
また、ボンド磁石は、多くの場合、これを金属部品と組み合わせた一体成形部品として利用される。具体的には、接着剤を用いた接着やインサート成形等の手法でボンド磁石を金属部品と組み合わせて一体成形部品を作製し、この一体成形部品の形で利用される。しかしながら、ボンド磁石と金属部品は線膨張係数が異なる。そのため、一体成形部品を冷熱衝撃試験に供すると、ボンド磁石に割れが発生する、あるいは接着剤が剥がれてボンド磁石と金属部品とが分離する、といった不具合が発生しやすい。そこで、炭素繊維などの強化剤をボンド磁石に加えて、冷熱衝撃試験に対する耐久性をもたせる技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、少なくとも磁性粉末、バインダ樹脂および炭素繊維からなるボンド磁石用樹脂組成物において、炭素繊維が0.05~2重量%含有することを特徴とするボンド磁石用樹脂組成物が開示されている(特許文献1の請求項1)。また当該ボンド磁石用樹脂組成物を用いて成形した成形品は、曲げ弾性率および引っ張り弾性率が向上するとされている(特許文献1の[0018])。
【0007】
特許文献2には、所定のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末、ポリアミドエラストマー、炭素繊維、カルボン酸エステル、及びポリアミド樹脂を所定割合で含むボンド磁石用組成物が開示されている(特許文献2の請求項1)。当該ボンド磁石用組成物によれば、成形時における流動性が良好で射出成形等での加工が容易であり、その組成物により得られるボンド磁石において冷熱衝撃試験に対する耐久性が高く割れの発生がなく、そのボンド磁石と金属部品等とを接着剤を介して接着させたときに優れた接着性を付与するとされている(特許文献2の[0015])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-251545号公報
【特許文献2】特許第5979733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者が調べたところ、炭素繊維などの強化剤が加えられた従来のボンド磁石用組成物は、冷熱衝撃試験に対する耐久性向上の点で一定の効果があるものの、流動性を高める上で限界のあることが分かった。特に複雑形状や薄肉形状の成形体を成形する際に、流動性不足により成形が困難になる恐れがあった。そのため、従来の技術では、ボンド磁石用組成物において、冷熱衝撃試験耐久性に優れたボンド磁石の作製と優れた流動性の両立を図ることが困難であった。
【0010】
本発明者が更に検討を進めた結果、ボンド磁石用組成物に含まれる磁石粉末、樹脂バインダ、及び添加剤の種類や添加量を制御し、さらに強化剤たる炭素繊維の寸法を所定範囲内に限定することで、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れたボンド磁石を作製でき、さらに成形時における流動性が良好なボンド磁石用組成物を得ることが可能との知見を得た。
【0011】
本発明はこのような知見に基づき完成されたものであり、冷熱衝撃試験に対する耐久性が高く割れの発生が抑制されたボンド磁石を作製でき、さらに成形時における流動性が良好で加工が容易なボンド磁石用組成物の提供を課題とする。また本発明は、そのようなボンド磁石用組成物の成形体であるボンド磁石、及びボンド磁石を備えた一体成形部品の提供をも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0013】
(1)平均粒径が1.7μm以上2.8μm以下のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を88.0質量%以上91.0質量%以下、
引っ張り破断伸びが400%以上であり且つ曲げ弾性率が100MPa以上のポリアミドエラストマーを0.5質量%以上2.5質量%以下、及び/又は樹脂デュロメータ硬さHDAが85以下のエチレン-アクリル酸コポリマーを3.0質量%以上4.5質量%以下、
分子量分布測定で重量平均分子量Mwが4500以上7500以下のポリアミド12樹脂を0.5質量%以上10.0質量%以下、並びに
繊維径が10μm以上12μm以下の炭素繊維を0.5質量%以上2.0質量%以下
の割合で含有し、
前記炭素繊維は、アスペクト比が1.5以上60未満の範囲内にある繊維を80個数%以上の割合で含む、ボンド磁石用組成物。
【0014】
(2)前記サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末はSmFe17で表される組成を有する、上記(1)のボンド磁石用組成物。
【0015】
(3)前記ボンド磁石用組成物は、カルボン酸エステルを0.3質量%以上1.0質量%以下の割合で更に含む、上記(1)又は(2)のボンド磁石用組成物。
【0016】
(4)前記ボンド磁石用組成物は、さらに脂肪酸アマイドを1.5質量%以下の割合で更に含む、上記(1)~(3)のいずれかのボンド磁石用組成物。
【0017】
(5)上記(1)~(4)のいずれかのボンド磁石用組成物の成形体である、ボンド磁石。
【0018】
(6)上記(5)のボンド磁石と金属部品とを備えた、一体成形部品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷熱衝撃試験に対する耐久性が高く割れの発生が抑制されたボンド磁石を作製でき、さらに成形時における流動性が良好で加工が容易なボンド磁石用組成物が提供される。また本発明によれば、そのようなボンド磁石用組成物の成形体であるボンド磁石、及びボンド磁石を備えた一体成形部品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の具体的実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、種々の変更が可能である。
【0021】
<<1.ボンド磁石用組成物>>
本実施形態のボンド磁石用組成物は、平均粒径が1.7μm以上2.8μm以下のサマリウム-鉄-窒素系磁石粉末を88.0質量%以上91.0質量%以下、引っ張り破断伸びが400%以上であり且つ曲げ弾性率が100MPa以上のポリアミドエラストマーを0.5質量%以上2.5質量%以下、及び/又は樹脂デュロメータ硬さHDAが85以下のエチレン-アクリル酸コポリマーを3.0質量%以上4.5質量%以下、分子量分布測定で重量平均分子量Mwが4500以上7500以下のポリアミド12樹脂を0.5質量%以上10.0質量%以下、並びに繊維径が10μm以上12μm以下の炭素繊維を0.5質量%以上2.0質量%以下の割合で含有する。また炭素繊維は、アスペクト比が1.5以上60未満の範囲内にある繊維を80個数%以上の割合で含む。ボンド磁石用組成物は、カルボン酸エステルを0.3質量%以上1.0質量%以下の割合で更に含んでもよく、脂肪酸アマイドを1.5質量%以下の割合で更に含んでもよい。なお、サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末、ポリアミドエラストマー、エチレン-アクリル酸コポリマー、ポリアミド12樹脂、炭素繊維、カルボン酸エステル、及び脂肪酸アマイドの合計量は100.0質量%以下である。
【0022】
ボンド磁石用組成物は、ボンド磁石の前駆体である。すなわち、射出成形又は押出成形などの手法で組成物を加熱下で成形してボンド磁石を作製する。ボンド磁石は異方性であってよく、あるいは等方性であってもよい。成形時の組成物に磁場を印加すれば異方性磁石を作製でき、磁場を印加しなければ等方性磁石を得ることができる。
【0023】
[1]磁石粉末
本実施形態のボンド磁石用組成物は、サマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N;SFN)系磁石粉末(以下、単に「磁石粉末」と総称する場合がある)を含む。磁石粉末は、ボンド磁石において磁気特性発現の主体となる粉末である。Sm-Fe-N系磁石粉末は、希土類遷移金属系磁石粉末の一種であり、高性能かつ安価な磁石粉末として知られている。Sm-Fe-N系磁石粉末は、SmFe17で表される基本組成を有しており、x=3、つまりSmFe17組成のときに飽和磁化が最大となる。そのため、得られるボンド磁石の磁束密度を高くすることが可能である。したがって、Sm-Fe-N系磁石粉末は、SmFe17で表される組成を有することが好ましい。
【0024】
Sm-Fe-N系磁石粉末の平均粒径は1.7μm以上2.8μm以下である。平均粒径を1.7μm以上に限定することで、組成物の流動性及び成形性低下が抑えられるとともに、磁石粉末の酸化及びそれに伴う発火の危険性を減らすことができる。またSm-Fe-N系磁石粉末はニュークリエーション型の保磁力発生機構を有する。平均粒径を2.8μm以下に限定することで、保磁力低下を抑えることができる。
【0025】
なお、平均粒径は、磁石粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して求められる。磁石粉末は、ボンド磁石用組成物をヘキサフルオロイソプロパノール等の溶媒で処理して樹脂を溶解除去し、さらに磁気分離によって強化剤を除去して求めればよい。あるいはボンド磁石用組成物製造に用いる磁石粉末をそのままSEM観察に供してもよい。より具体的には、後述する実施例での手法に準じて行えばよい。
【0026】
ボンド磁石用組成物におけるSm-Fe-N系磁石粉末の含有量は88.0質量%以上91.0質量%以下である。含有量が88.0質量%未満であると、得られるボンド磁石の磁気特性が低くなる。また樹脂割合が高くなるため、ボンド磁石の線膨張係数が大きくなり、その結果、冷熱衝撃試験で割れが発生しやすくなる。一方で含有量が91.0質量%を超えると、ボンド磁石の流動性が悪くなり、ボンド磁石を成形できない、あるいは成形体(ボンド磁石)にウェルド等の外観不良が発生する、といった問題が生じやすくなる。Sm-Fe-N系磁石粉末の含有量は89.0質量%以上91.0質量%以下が好ましい。
【0027】
Sm-Fe-N系磁石粉末の製造方法として、溶解法及び還元拡散法などの手法が知られている。溶解法では、鉄(Fe)及びサマリウム(Sm)を含む金属粉末を原料に用い、この原料を、高周波炉又はアーク炉などの炉を用いて1500℃以上の温度で加熱溶解する。次いで得られた生成物を粉砕し、さらに組成均一化を図るため熱処理してSm-Fe母合金を作製する。その後、得られた母合金を窒化して磁石粉末を作製する。
【0028】
これに対して、還元拡散法では、酸化サマリウム(Sm)、鉄原料(Fe、Fe等)、及び還元剤(Ca等)の混合物を加熱して母合金を得、得られた母合金を窒化して磁石粉末を作製する。Sm-Fe-N系磁石粉末は、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を有する。高い保磁力を得るためには微細化されることが望ましい。そのため、窒化された母合金を微粉砕したり、あるいは微細な原料を用いたりする手法で、微細なSm-Fe-N系磁石粉末を準備することが望ましい。
【0029】
好ましくは、Sm-Fe-N系磁石粉末として、還元拡散法で製造されたものを用いる。安価な酸化物原料(Sm等)を用いる還元拡散法には、原料コストを抑える特徴がある。また、溶解法に比べて不純物量の少ない磁石粉末を得ることができる。これに対して溶解法は工程が極めて煩雑である。また各工程間で生成物が大気中に一旦曝されてしまうため、酸化により生成物表面に不純物が生成する恐れがある。生成物表面が酸化されると、窒化が均一に進行せず、得られる磁石粉末の特性、特に飽和磁化、保磁力、及び/又は角形性といった磁気特性が低下し、最終的に得られるボンド磁石の最大エネルギー積が低下する恐れがある。
【0030】
還元拡散法では、まずサマリウム原料(Sm)、鉄原料(Fe等)、及び還元剤(Ca等)を還元処理して、Sm-Fe合金を含む還元生成物を得る。次に、この還元生成物に湿式処理を施して、還元生成物中に含まれる還元剤由来の副生物(CaO、Ca(OH)等)を除去する。その後、得られたSm-Fe合金を、アンモニア及び水素含有混合気流中で窒化する。得られた窒化物を粉砕及び乾燥することで、Sm-Fe-N系磁石粉末を得ることができる。
【0031】
Sm-Fe-N系磁石粉末がSmFe17系合金から構成される場合には、粗粉を粉砕しておくことが望ましい。すなわち、平均粒径20μmを超える磁石合金粗粉は磁気特性が低いので、これを有機溶媒中で粉砕することが望ましい。この粉砕の際、又は粉砕後に、燐酸などの表面処理剤を加えた溶液中に磁石粉末を投入及び撹拌して、複合燐酸塩被膜などの被膜を磁石粉末表面に設けてもよい。粉砕には、磁石粉末粉砕に適用できる公知の粉砕装置を用いればよい。このうち媒体撹拌ミルやビーズミルなどの湿式粉砕装置が、均一な粉末組成及び粒子径を得やすいため、特に好適である。また粉砕溶媒として、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等の有機溶媒が好ましい。粉砕後に所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過及び乾燥すればよい。
【0032】
Sm-Fe-N系磁石粉末は、カップリング剤で表面処理したものであってもよい。カップリング剤として、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられ、特にシラン系カップリング剤で表面処理することが好ましい。
【0033】
[2]熱可塑性樹脂バインダ
本実施形態のボンド磁石用組成物は、熱可塑性樹脂バインダとして、ポリアミドエラストマー(A)及び/又はエチレン-アクリル酸コポリマー(B)と、ポリアミド12樹脂(C)と、を含有する。ポリアミドエラストマー(A)とエチレン-アクリル酸コポリマー(B)は、一方のみを用いてもよく、あるいは両方を併用して用いてもよい。
【0034】
(A)ポリアミドエラストマー
ポリアミドエラストマー(PA-E)として、ポリアミドセグメントとポリエーテルセグメントとを有するものを用いることができる。また本実施形態のボンド磁石用組成物において、引っ張り破断伸びが400%以上であり、且つ曲げ弾性率が100MPa以上のポリアミドエラストマーを用いる。このような引っ張り破断伸び及び曲げ弾性率を有するポリアミドエラストマーを用いることで、冷熱衝撃試験での割れの発生を効果的に防止することができる。なお、引張破断伸びはISO527で定められた方法により測定し、曲げ弾性率はISO178で定められた方法により測定する。
【0035】
ボンド磁石用組成物がポリアミドエラストマーを含む場合には、その含有量は0.5質量%以上2.5質量%以下である。含有量が0.5質量%未満であると、冷熱衝撃試験でボンド磁石の割れが発生しやすくなる。一方で、含有量が2.5質量%超であると、組成物の流動性が悪化し、これを成形してボンド磁石を得ることが困難にある。
【0036】
(B)エチレン-アクリル酸コポリマー
エチレン-アクリル酸コポリマー(EEA)は、エチレンとアクリル酸エステルの共重合体であり、エチレン-アクリル酸メチルコポリマー、エチレン-アクリル酸エチルコポリマー、エチレン-アクリル酸ブチルコポリマー等が挙げられる。エチレン-アクリル酸コポリマーは柔軟性に富む樹脂であり、ボンド磁石の冷熱衝撃試験での割れを防止する効果がある。柔軟性であることが重要であるため、樹脂デュロメータ硬さHDAが85以下のエチレン-アクリル酸コポリマーを使用する。
【0037】
ボンド磁石用組成物がエチレン-アクリル酸コポリマーを含む場合には、その含有量は、3.0質量%以上4.5質量%以下である。含有量が3.0質量%未満であると、冷熱衝撃試験でボンド磁石の割れが発生しやすくなる。一方で、含有量が4.5質量%超であると、組成時の流動性が悪化して、これを成形してボンド磁石を得ることが困難になる。エチレン-アクリル酸コポリマーの含有量は3.7質量%以上4.5質量%以下が好ましい。
【0038】
(C)ポリアミド12樹脂
ポリアミド樹脂として、ポリアミド12樹脂(PA12)を用いる。一般にはポリアミド11やポリアミド6等の種々のポリアミド樹脂が知られている。しかしながら、ポリアミド12樹脂を用いることで、ボンド磁石用組成物の流動性が良好になり、成形性を高めることができる。また、ポリアミド12樹脂を用いることで、得られるボンド磁石の強度をより一層高めることが可能である。
【0039】
本実施形態のボンド磁石用組成物では、分子量分布測定での重量平均分子量Mwが4500以上7500以下の範囲内にあるポリアミド12樹脂を用いる。ポリアミド12樹脂のMwが4500未満であると、得られるボンド磁石の機械的強度が低下する恐れがある。一方でMwが7500を超えると、ボンド磁石用組成物の流動性が著しく低下して、成形が困難になる恐れがある。流動性を上げるために高温で成形することも考えられるが、その場合には磁石粉末が酸化して、磁気特性に優れたボンド磁石を得ることが困難になる。適切なMwを有するポリアミド12樹脂を用いることで、低温でも流動性の高いボンド磁石用組成物を得ることが可能になる。Mwは5000以上6000以下が好ましい。なお、重量平均分子量Mwは、分子量分布測定により実施例に準じた条件で求める。
【0040】
ボンド磁石用組成物におけるポリアミド12樹脂の含有量は0.5質量%以上10.0質量%以下である。含有量が0.5質量%未満であると、ボンド磁石用組成物の流動性が悪くなり、成形が困難になる恐れがある。一方で含有量が10.0質量%を超えると、ボンド磁石の線膨張係数が大きくなり、冷熱衝撃試験でボンド磁石に割れが発生する恐れがある。ポリアミド12樹脂の含有量は2.0質量%以上8.0質量%以下が好ましい。
【0041】
[3]強化剤
本実施形態のボンド磁石用組成物は、強化剤として炭素繊維(CF)を含む。一般的にはカーボンフレークやガラス繊維等の種々の強化剤が知られている。しかしながら、炭素繊維を用いることで、得られるボンド磁石の引っ張り強度が高くなり、それにより冷熱衝撃試験でのボンド磁石の割れ発生を効果的に防止することができる。炭素繊維の繊維径は10μm以上12μm以下である。繊維径が10μm未満であると、冷熱衝撃試験での割れ発生防止の効果が低くなる。一方で繊維径が12μm超であると、組成物の流動性が悪化する。
【0042】
ボンド磁石用組成物における炭素繊維(強化剤)の含有量は0.5質量%以上2.0質量%以下である。含有量が0.5質量%未満であると、ボンド磁石の強度が不十分になり、冷熱衝撃試験で割れが発生する恐れがある。一方で含有量が2.0質量%を超えると、ボンド磁石用組成物の流動性が悪化して、ボンド磁石の成形が困難になる恐れがある。冷熱衝撃試験での割れ発生を抑制する観点から、炭素繊維の含有量は0.7質量%以上が好ましい。また流動性向上の観点から、炭素繊維の含有量は1.5質量%以下が好ましい。
【0043】
本実施形態のボンド磁石用組成物において、炭素繊維は、アスペクト比が1.5以上60未満の範囲内にある繊維(炭素繊維)を80個数%以上の割合で含む。すなわち、組成物に含まれる炭素繊維のうち80個数%以上の繊維は、そのアスペクト比が1.5以上60未満の範囲内である。このように所定のアスペクト比を有する繊維を主として含む組成物は、冷熱衝撃試験でのボンド磁石の割れ発生防止の効果を十分に維持しつつも、流動性向上を図ることができる。アスペクト比が1.5未満の繊維では、冷熱衝撃試験での割れ発生防止の効果が不十分である。一方でアスペクト比が60以上の繊維では、これを含む組成物の流動性が低下する。アスペクト比が1.5以上60未満の炭素繊維の割合は高いほど好ましい。この割合は90個数%以上であってよく、95個数%以上であってもよく、100個数%であってもよい。
【0044】
[4]可塑剤
好ましくは、本実施形態のボンド磁石用組成物は、可塑剤としてカルボン酸エステルを含む。カルボン酸エステルとして、例えば、セバシン酸エステル及び/又はアジビン酸エステル等を挙げることができる。成形時の流動性を高めるため、一般的には炭化水素系や脂肪酸系に代表される滑剤や各種エステルによる可塑剤等の添加剤が使用される。しかしながら、セバシン酸エステルやアジビン酸エステルといったカルボン酸エステルを用いると、得られるボンド磁石と金属部品を、例えばエポキシ系接着剤等の接着剤を介して接着させた場合に、高い接着強度を確保することができる。
【0045】
ボンド磁石用組成物におけるカルボン酸エステル(可塑剤)の含有量は0.3質量%以上1.0質量%以下が好ましい。含有量が0.3質量%未満であると、そのメカニズムは定かではないが、ボンド磁石と金属部品等との間において十分な接着強度が得られない恐れがある。一方で含有量が1.0質量%を超えると、冷熱衝撃試験でボンド磁石に割れが発生する恐れがある。接着強度向上の観点から、カルボン酸エステルの含有量は0.5質量%以上が好ましい。冷熱衝撃試験での割れ発生を抑制する観点から、カルボン酸エステルの含有量は0.8質量%以下が好ましい。
【0046】
[5]その他の成分
本実施形態のボンド磁石用組成物は、磁石粉末、ポリアミドエラストマー、ポリアミド12樹脂、及び必要に応じてカルボン酸エステルのみを含んでもよく、あるいは他の成分を含んでもよい。他の成分として、滑剤、酸化防止剤、安定剤、顔料、及び/又は相溶化剤等が挙げられる。ボンド磁石用組成物は、その効果を損なわない範囲で、これらの成分を必要に応じて含んでもよい。例えば、滑剤として、エチレン-ビスステアリン酸アマイド等の脂肪酸アマイドを1.5質量%以下の割合で含んでもよい。
【0047】
[6]流動性
本実施形態のボンド磁石用組成物は、好ましくは、その流動性が0.8cm/秒以上である。ここで、流動性は、フローテスターを用い、キャピラリー温度250℃、荷重588N、オリフィス直径1mm、オリフィス長さ1mm、及び予熱時間300℃の条件で測定した値である。このボンド磁石用組成物は、その流動性が高いため、成形加工性に優れている。そのため、薄型形状や複雑形状のボンド磁石を、後加工することなく容易に得ることができる。また高分散状態を維持しながら組成物中の磁石粉末量を高めることができ、さらに含有量が同じであっても、磁石粉末の配向性を高めることができる。その上、流動性を高めるために高温で成形を行う必要がない。低温成形が可能になるため、磁石粉末の磁気特性劣化を抑えることができる。これらが複合的に作用する結果、優れた磁気特性を有するボンド磁石、特に異方性ボンド磁石の製造が可能となる。流動性は高い方が望ましく、0.9cm/秒以上がより好ましく、1.0cm/秒以上がさらに好ましく、1.1cm/秒以上が特に好ましく、1.2cm/秒以上が最も好ましい。一方で流動性が過度に高い組成物は、これを製造することが困難である。流動性は、典型的には4.0cm/秒以下である。
【0048】
<<2.ボンド磁石用組成物の製造方法>>
本実施形態のボンド磁石用組成物の製造方法では、磁石粉末、ポリアミドエラストマー及び/又はエチレンアクリル酸コポリマー、ポリアミド12樹脂、炭素繊維、及び必要に応じてカルボン酸エステルや脂肪酸アマイド等の成分を所定量秤量し、これら各成分を撹拌混合機等の混合機で混合した後、混練装置を用いて混練する。
【0049】
磁石粉末、ポリアミドエラストマー、エチレンアクリル酸コポリマー、ポリアミド12樹脂、炭素繊維、及び他の成分の詳細については先述したとおりである。すなわち、平均粒径が1.7μm以上2.8μm以下のサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末を88.0質量%以上91.0質量%以下の割合で配合する。引っ張り破断伸びが400%以上であり且つ曲げ弾性率が100MPa以上のポリアミドエラストマーを0.5質量%以上2.5質量%以下、及び/又は樹脂デュロメータ硬さHDAが85以下のエチレンアクリル酸コポリマーを3.0質量%以上4.5質量%以下の割合で配合する。分子量分布測定での重量平均分子量Mwが4500以上7500以下のポリアミド12樹脂を0.5質量%以上10.0質量%以下の割合で配合する。繊維径が10μm以上12μm以下の炭素繊維を0.5質量%以上2.0質量%以下の割合で配合する。カルボン酸エステルを0.3質量%以上1.0質量%以下の割合、及び/又は脂肪酸アマイドを1.5質量%以下の割合で更に配合してもよい。必要に応じて、酸化防止剤、安定剤、顔料、及び相溶化剤等の他の成分を、ボンド磁石用組成物の効果を損なわない範囲で配合してもよい。
【0050】
混合及び混練時に加える炭素繊維として、アスペクト比が1.5以上60未満のものを用いてもよい。しかしながら、原料炭素繊維はそのアスペクト比が1.5以上60未満のものに限定される訳ではない。例えば、混合及び/又は混練時に炭素繊維が破断する場合には、アスペクト比が60以上の炭素繊維を加えてもよい。得られるボンド磁石用組成物において、所定のアスペクト比を有する炭素繊維の割合が多くなるのであれば、原料として加える炭素繊維のアスペクト比は限定されない。
【0051】
また混合及び混練時に加える熱可塑性樹脂バインダ(ポリアミドエラストマー、及びポリアミド12樹脂)の形状は、特に限定されない。例えば、パウダー状、ビーズ状、ペレット状等の種々の形状のものを用いることができる。その中でも、磁石粉末と均一に混合させる観点から、パウダー状が好ましい。
【0052】
原料の混合及び混練は公知の手法で行えばよい。混練装置として、特に限定されず、例えばバッチ式のニーダーや連続式の押出機を用いることができる。混練に際して、混練装置内で混練中の組成物に加わるせん断力をコントロールすることが好ましい。例えばニーダーを用いる場合には、温度、原料の混合槽への投入量、ニーディングブレード回転数、あるいは混練時間等の条件を調整することで、せん断力をコントロールできる。また、連続押出機を用いる場合には、温度分布、原料投入速度、スクリューセグメント形状、スクリュー回転数、ダイ穴径等の条件を調整することで、せん断力をコントロールできる。
【0053】
<<3.ボンド磁石>>
本実施形態のボンド磁石は、上述したボンド磁石用組成物の成形体である。すなわち、ボンド磁石用組成物を成形してボンド磁石が作製される。具体的には、ボンド磁石用組成物を、その構成成分である樹脂バインダの融点以上の温度で加熱溶融した後に、得られた溶融物を成形することでボンド磁石が作製される。成形は、射出成形法、押出成形法、又は圧縮成形法等の公知の手法で行えばよい。磁場中で成形すれば異方性ボンド磁石を得ることができ、無磁場中で成形すれば等方性ボンド磁石を得ることができる。ポリアミド12樹脂を用いていることから、加熱溶融温度は、好ましくは200℃以上250℃以下の範囲内である。
【0054】
上述した成形法の中でも、特に射出成形法でボンド磁石を成形することが好ましい。射出成形法は、成形体であるボンド磁石の形状自由度が大きく、しかもボンド磁石の表面性状及び磁気特性が優れたものになる。そのため、得られたボンド磁石をそのまま電子部品の一部品として組み込むことができる。上述したボンド磁石用組成物は、流動性が良好であり射出成形での成形性に優れるため、容易にボンド磁石を成形することができる。また射出成形に際してウェルド等の外観不良の発生を効果的に防ぐことができる。
【0055】
このようにして得られるボンド磁石は、磁気特性に優れるとともに、冷熱衝撃試験に対する耐久性が高く割れが発生しにくい。そのため機械的強度に優れている。このボンド磁石は、例えば電子機器用モーター部品等の小型で扁平な複雑形状品に用いられる。また大量生産が可能で、後加工が不要となり、さらにインサート成形可能といった特徴を有している。そのため、ボンド磁石は、特に金属材料との一体成形部品に好適に用いられる。
【0056】
得られたボンド磁石は、使用する前に着磁することが望ましい。着磁には、静磁場を発生する電磁石やパルス磁場を発生するコンデンサー着磁機等が用いられる。着磁磁場、すなわち着磁時の磁場強度は、磁石粉末の種類によって若干異なるため、これを一概に決めることはできない。例えば1200kA/m(15kOe)以上とし、好ましくは2400kA/m(30kOe)以上とする。
【0057】
<<4.一体成形部品>>
本実施形態の一体成形部品は、上述したボンド磁石と金属部品とを備える。上述したボンド磁石は、接着剤等を介した接着やインサート成形等の手法で金属部品と組み合わせて一体化でき、それにより一体成形部品を作製することができる。一体成形部品は公知の方法で作製することができる。例えば、ボンド磁石と金属部品の接着面に所定の接着剤を塗布した後に圧着し、常温で12~24時間保持することによって作製できる。
【0058】
一般的なボンド磁石材料は、その線膨張係数が金属部品とは異なる。そのためこのボンド磁石材料を用いて一体成形部品を作製して冷熱衝撃試験に供すると、ボンド磁石に割れが発生しやすい。これに対して、本実施形態のボンド磁石は、優れた機械的強度を有するため、一体成形部品においてボンド磁石の割れ発生を効果的に防ぐことができる。また本実施形態のボンド磁石は、例えばエポキシ系接着剤等の接着剤を介して接着させて一体成形部品としたときに、接着力を弱めることなく、金属部品に対する優れた接着力を付与することができる。
【実施例0059】
(1)ボンド磁石用組成物の作製
[実施例1]
磁石粉末として平均粒径が2.3μmのサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末(住友金属鉱山株式会社製):89.8質量%、重量平均分子量Mwが5300のポリアミド12樹脂(PA12):6.6質量%、引っ張り破断伸びが530%且つ曲げ弾性率が130MPaのポリアミドエラストマー(PA-E):1.8質量%、強化剤として繊維径が11μmの炭素繊維(CF):1.0質量%、添加剤としてセバシン酸エステル(可塑剤):0.8質量%を撹拌混合機で混合し、さらに連続押出機を使用して200℃で混練して、ボンド磁石用組成物を作製した。
【0060】
なお磁石粉末の平均粒径は次のようにして測定した。まず磁石粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社、JSM-IT200;SEM)を用いて観察してSEM像を得た。観察は2000倍以上の倍率で行った。次いで、得られたSEM像において1000個の粒子について画像解析を行って体積基準の粒度分布を求めた。そして、得られた粒度分布からxd50を平均粒径として求めた。
【0061】
ポリアミドエラストマーの引張破断伸びはISO527で定められた方法により測定し、曲げ弾性率はISO178で定められた方法により測定した。またポリアミド12樹脂の重量平均分子量Mwは、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液とし、分析装置:GPC-104(昭光サイエンティフィック株式会社製)RI検出器を用いて計測された値を、ポリメチルメタクリレートで換算した重量平均分子量を示す。
【0062】
[実施例2]
重量平均分子量Mwが5300のポリアミド12樹脂の配合量を5.4質量%に変更した。また添加剤としてエチレン・ビスステアリン酸アマイド(滑剤):1.2質量%を更に配合した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0063】
[実施例3]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の配合量を90.0質量%、ポリアミドエラストマーの配合量を2.1質量%、炭素繊維の配合量を0.5質量%に、それぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0064】
[実施例4]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の配合量を90.0質量%、ポリアミド12樹脂の配合量を7.7質量%、ポリアミドエラストマーの配合量を0.5質量%に、それぞれ変更した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0065】
[実施例5]
磁石粉末として平均粒径が2.3μmのサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末(住友金属鉱山株式会社):90.9質量%、重量平均分子量Mwが5300のポリアミド12樹脂(PA12):2.9質量%、樹脂デュロメータ硬さが85以下のエチレン-エチルアクリレートコポリマー(エチレン-アクリル酸エチルコポリマー;EEA):4.5質量%、強化剤として繊維径が11μmの炭素繊維(CF):1.0質量%、添加剤としてセバシン酸エステル(可塑剤):0.7質量%を撹拌混合機で混合し、さらに連続押出機を使用して200℃で混練して、ボンド磁石用組成物を作製した。
【0066】
[実施例6]
磁石粉末として平均粒径が2.3μmのサマリウム-鉄-窒素(Sm-Fe-N)系磁石粉末(住友金属鉱山株式会社):90.4質量%、重量平均分子量Mwが5300のポリアミド12樹脂(PA12):4.6質量%、樹脂デュロメータ硬さが85以下のエチレン-エチルアクリレートコポリマー(EEA):3.0質量%、強化剤として繊維径が11μmの炭素繊維(CF):1.3質量%、添加剤としてセバシン酸エステル(可塑剤):0.7質量%を撹拌混合機で混合し、さらに連続押出機を使用して200℃で混練して、ボンド磁石用組成物を作製した。
【0067】
[比較例1]
ポリアミド12樹脂の配合量を8.4質量%に変更し、ポリアミドエラストマーを添加しなかった。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0068】
[比較例2]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の配合量を90.2質量%に、ポリアミド12樹脂の配合量を5.5質量%に、エチレン-エチルアクリレートコポリマーの配合量を2.5質量%に、添加剤であるセバシン酸エステル(可塑剤)の配合量を0.8質量%に、それぞれ変更した。それ以外は実施例5と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0069】
[比較例3]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の配合量を91.2質量%に、ポリアミド12樹脂の配合量を4.4質量%に、ポリアミドエラストマーの配合量を2.6質量%に変更した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0070】
[比較例4]
ポリアミド12樹脂の配合量を7.0質量%に、ポリアミドエラストマーの配合量を0.4質量%に、炭素繊維の配合量を1.3質量%に、添加剤であるセバシン酸エステル(可塑剤)の配合量を0.7質量%に、それぞれ変更した。また添加剤としてエチレン・ビスステアリン酸アマイド(滑剤):0.8質量%を更に配合した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0071】
[比較例5]
ポリアミド12樹脂の配合量を6.5質量%に、炭素繊維の配合量を0.4質量%に、添加剤であるセバシン酸エステルの配合量を0.7質量%に、それぞれ変更した。また添加剤としてエチレン・ビスステアリン酸アマイド(滑剤):0.8質量%を更に配合した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0072】
[比較例6]
サマリウム-鉄-窒素系磁石粉末の配合量を89.0質量%に、ポリアミド12樹脂の配合量を5.4質量%に、炭素繊維の配合量を2.2質量%に変更した。また添加剤としてエチレン・ビスステアリン酸アマイド(滑剤):0.8質量%を更に配合した。それ以外は実施例1と同様にしてボンド磁石用組成物を作製した。
【0073】
(2)評価
実施例1~6及び比較例1~6で得られたボンド磁石用組成物について、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0074】
<流動性>
ボンド磁石用組成物の流動性を、メルトインデクサーフローテスター(株式会社島津製作所、CTF-100D)を用いて測定した。測定は、キャピラリー温度250℃、荷重588N、オリフィス直径1mm、オリフィス長1mm、予熱時間300秒の条件で行った。
【0075】
<冷熱衝撃試験耐久性(ヒートショック)>
ボンド磁石用組成物を射出成形してJIS K7161-2 1BA形試験片をボンド磁石として作製した。射出成形は、成形温度を250℃とし、両端2点ゲート法で行った。次いで、得られた試験片(ボンド磁石)を厚さ2mmの鉄板にアクリル系接着剤を用いて接着して一体成形部品を作製した。得られた一体成形部品を常温で24時間保管した後に熱衝撃試験に供した。熱衝撃試験は-40℃30分~+90℃30分を1サイクルとして行った。300サイクル後と600サイクル後に、一体成形部品のボンド磁石を倍率20倍の光学顕微鏡で観察し、ボンド磁石にひび割れ等の欠陥が発生していないかどうかを確認した。10個のサンプルについて評価を行い、以下の基準にしたがい、冷熱衝撃試験耐久性(ヒートショック)を判定した。
【0076】
◎:600サイクル後に欠陥発生数が0個
〇:300サイクル後に欠陥発生数が0個であり、600サイクル後に欠陥発生数が1個以上
×:300サイクル後に欠陥発生数が1個以上
【0077】
<炭素繊維のアスペクト比>
成形前のボンド磁石用組成物のペレットをホットプレート上で溶融して、画像観察用サンプルを作製した。次いで、CNC(Computer Numerical Control)画像測定機(株式会社ニコンインステック、VMR-1515)を用いてサンプルを観察した。観察の際は、20本の炭素繊維が視野内に入るよう倍率を調整して、視野内の20本の炭素繊維のそれぞれの寸法(径、長さ)を測定した。そして、得られた寸法に基づきアスペクト比を算出した。
【0078】
(3)評価結果
実施例1~6及び比較例1~6について得られた評価結果を下記表2にまとめて示す。
【0079】
表2に示すように、実施例1のボンド磁石用組成物は、これに含まれる炭素繊維のアスペクト比が4.4~50.8の範囲内であった。このボンド磁石用組成物は、流動性が0.9cm/秒と高かった。得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験おいて600サイクル後での欠陥発生数が0個であり、耐久性が非常に高かった。炭素繊維のアスペクト比が従来技術よりも小さいにもかかわらず、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れるボンド磁石を得られることが分かった。
【0080】
実施例2のボンド磁石用組成物は、これに含まれる炭素繊維のアスペクト比が1.8~37.7の範囲内であった。このボンド磁石用組成物は、流動性が1.2cm/秒と高かった。得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験において600サイクル後に欠陥が発生したものの、300サイクル後での欠陥発生数が0個であり、耐久性が比較的高かった。炭素繊維のアスペクト比が従来技術よりも小さいにもかかわらず、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れるボンド磁石を得られることが分かった。
【0081】
実施例3のボンド磁石用組成物は、これに含まれる炭素繊維のアスペクト比が3.6~57.2の範囲内であった。このボンド磁石用組成物は、流動性が0.9cm/秒と高かった。得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験において600サイクル後に欠陥が発生したものの、300サイクル後での欠陥発生数が0個であり、耐久性が比較的高かった。炭素繊維のアスペクト比が従来技術よりも小さいにも関わらず、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れるボンド磁石を得られることが分かった。
【0082】
実施例4のボンド磁石用組成物は、これに含まれる炭素繊維のアスペクト比が3.2~55.7の範囲内であった。このボンド磁石用組成物は、流動性が1.1cm/秒と高かった。得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験において600サイクル後に欠陥が発生したものの、300サイクル後での欠陥発生数が0個であり、耐久性が比較的高かった。炭素繊維のアスペクト比が従来技術よりも小さいにも関わらず、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れるボンド磁石を得られることが分かった。
【0083】
実施例5のボンド磁石用組成物は、これに含まれる炭素繊維のアスペクト比が4.2~52.6の範囲内であった。このボンド磁石用組成物は、流動性が0.9cm/秒と高かった。得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験おいて600サイクル後での欠陥発生数が0個であり、耐久性が非常に高かった。炭素繊維のアスペクト比が従来技術よりも小さいにもかかわらず、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れるボンド磁石を得られることが分かった。
【0084】
実施例6のボンド磁石用組成物は、これに含まれる炭素繊維のアスペクト比が3.8~48.2の範囲内であった。このボンド磁石用組成物は、流動性が0.8cm/秒と高かった。得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験において600サイクル後に欠陥が発生したものの、300サイクル後での欠陥発生数が0個であり、耐久性が比較的高かった。炭素繊維のアスペクト比が従来技術よりも小さいにもかかわらず、冷熱衝撃試験に対する耐久性に優れるボンド磁石を得られることが分かった。
【0085】
比較例1及び2のボンド磁石用組成物は、流動性が0.8~0.9cm/秒と高かった。しかしながら、得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験において300サイクル後に欠陥が発生し、冷熱衝撃試験に対する耐久性に劣っていた。
【0086】
比較例3及び6のボンド磁石用組成物は、流動性が0.2~0.5cm/秒と低かった。これらのボンド磁石用組成物は、流動性が悪く、成形に適さないことが分かった。
【0087】
比較例4及び5のボンド磁石用組成物は、流動性が1.0~1.1cm/秒と高かった。しかしながら、得られたボンド磁石は、冷熱衝撃試験において300サイクル後に欠陥が発生し、冷熱衝撃試験に対する耐久性に劣っていた。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
以上の結果より、本実施形態のボンド磁石用組成物は、冷熱衝撃試験に対する耐久性が高く、割れの発生が抑制されたボンド磁石を作製可能であり、さらに成形時における流動性が良好で加工が容易であることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本実施形態のボンド磁石用組成物は、成形時における流動性が高く、これから得られるボンド磁石が冷熱衝撃試験において優れた耐久性を示す。また接着剤を使用して金属部品等と接着させたときに優れた接着性をボンド磁石に付与することができる。したがって、ボンド磁石の製造用組成物として極めて有用である。このボンド磁石用組成物から得られるボンド磁石は、例えば電子機器用モーター部品等の小型で扁平な複雑形状部品に用いることができる。またこのボンド磁石は大量生産が可能であるとともに、後加工が不要であり、インサート成形が可能という特徴がある。特に金属部品と組み合わせる成形部品として好適に用いることができる。