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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085006
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】油菓子用添加剤
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/32 20060101AFI20240619BHJP
   A21D 13/60 20170101ALI20240619BHJP
   A21D 2/26 20060101ALI20240619BHJP
   A21D 2/34 20060101ALI20240619BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20240619BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240619BHJP
【FI】
A21D2/32
A21D13/60
A21D2/26
A21D2/34
A23L29/10
A23L5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199279
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】舟川 奈都記
【テーマコード(参考)】
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B032DB24
4B032DG02
4B032DK03
4B032DK07
4B032DK12
4B032DK18
4B032DK26
4B032DK41
4B032DK47
4B032DK54
4B032DL06
4B032DL11
4B032DP08
4B032DP23
4B032DP33
4B032DP47
4B035LC01
4B035LC03
4B035LE17
4B035LG12
4B035LG19
4B035LG43
4B035LG44
4B035LG50
4B035LK19
4B035LP07
4B035LP21
4B035LP31
4B035LP41
(57)【要約】
【課題】体積、口溶け、歯切れ、風味が良好で、かつ、油性感や吸油が低減された油菓子を得ることが可能である油菓子用添加剤を提供すること。
【解決手段】乳由来のリン脂質及び乳タンパク質を含有し、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部含有する水性液であることを特徴とする、油菓子用添加剤。上記水性液はpH3~6であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来のリン脂質及び乳タンパク質を含有し、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部含有する水性液であることを特徴とする、油菓子用添加剤。
【請求項2】
上記水性液がpH3~6である、請求項1記載の油菓子用添加剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の油菓子用添加剤を使用した油菓子生地。
【請求項4】
請求項3記載の油菓子生地を油ちょうした油菓子製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油菓子用添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の注目がドーナツに集まっており、ケーキドーナツやイーストドーナツ、フレンチクルーラー等の一般的な、定番のドーナツを初め、焼ドーナツや生ドーナツといった一風変わったドーナツも市場で人気を博している。
一方で、その油性感の高さから高カロリーが連想されるため、ドーナツ市場の縮小が見られ始めている。そのため、ドーナツ市場では、油性感が低減されたドーナツが求められている。
【0003】
ここで、油性感が低減されたドーナツを得るための手法として、(1)ドーナツ生地を食品素材で被覆し、油ちょう中の吸油を抑制し、油性感を低減する手法(2)ドーナツ生地中に、油性感を感じさせにくくする食品素材、若しくは油ちょう中の吸油を抑制する食品素材を練り込む手法(3)油ちょうする揚げ油の組成を調整する、の3種に大別されるアプローチから検討が為されている。
【0004】
(1)の手法として、例えば餅様素材でドーナツ生地をコーティングする手法(特許文献1)などが挙げられる。また、(2)の手法として、例えばキサンタンガム・グアガム・ビタミンCを特定比率で混合したものをドーナツ生地に練り込む手法(特許文献2)や、加熱時にゲル化可能な水溶性セルロースエーテルの水溶液を含有する吸油抑制剤を練り込む手法(特許文献3)、乳由来のリン脂質、乳タンパク質及び特定分子量のデキストランからなる吸油抑制材を練り込む手法(特許文献4)などが挙げられる。 さらに(3)の手法として、例えばショ糖脂肪酸エステルを特定量含有するフライ用油脂組成物を用いる手法(特許文献5)や、ジグリセリドを多く含有する揚げ油を用いる手法(特許文献6)などが挙げられる。
【0005】
しかし、(1)の手法では、生地成形時や油ちょう中に被覆部分が損傷しやすく、油ちょう中の吸油を十分に抑制することが難しかった。また、(3)の手法では、油ちょうする際に用いる揚げ油の組成のみで、ドーナツの油性感を抑制することは困難であった。一方で、(2)の手法のように、ドーナツ生地自体の配合に工夫を施す手法では、他の手法と比較して、相対的には油性感の低減効果は得られ易いものの、油性感を低減させるために添加量を増やすと、ゲル化剤や増粘安定剤由来のねちゃついた食感になりやすく、軽く歯切れのよい食感が得られにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-086743号公報
【特許文献2】特開2016-214230号公報
【特許文献3】特開2010-268693号公報
【特許文献4】特開2019-071805号公報
【特許文献5】特開2014-014317号公報
【特許文献6】特開平11-243857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、体積、口溶け、歯切れ、風味が良好で、かつ、油性感が低減された油菓子を得ることが可能である油菓子用添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、乳由来のリン脂質及び乳タンパク質を含有し、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部含有する水性液を油菓子用添加剤として使用することで、上記の課題を解決できることを見出した。
本発明は、上記知見により得られたものであり、乳由来のリン脂質及び乳タンパク質を含有し、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部含有する水性液であることを特徴とする、油菓子用添加剤を提供するものである。
また本発明は、当該油菓子用添加剤を含有する油菓子生地及び当該油菓子生地を油ちょうした油菓子製品を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の油菓子用添加剤及び油菓子生地を使用することにより、体積、口溶け、歯切れ及び風味が良好で、油性感が低減された油菓子を得ることができる。また本発明の油菓子用添加剤及び油菓子生地を使用して得られた油菓子は、体積、口溶け、歯切れ及び風味が良好で、油性感が低減されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の油菓子用添加剤について詳述する。
本発明の油菓子用添加剤は、乳由来のリン脂質及び乳タンパク質を含有し、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部、好ましくは1.2~13質量部、より好ましくは1.5~10質量部、最も好ましくは2~5質量部含有する水性液である。
上記水性液中に、乳由来のリン脂質1質量部に対して乳タンパク質が1質量部よりも少なく含まれている場合や15質量部よりも多く含まれている場合は、本発明の効果が得られない。
【0011】
なお、上記水性液中の乳由来のリン脂質の含有量は、該水性液の固形分を基準として好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、最も好ましくは5質量%以上である。
乳由来のリン脂質としてはホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、リゾリン脂質等が挙げられる。
【0012】
また、上記水性液中の乳タンパク質の含有量は、該水性液の固形分を基準として好ましくは20~40質量%、より好ましくは23~37質量%、最も好ましくは25~35質量%である。
上記乳タンパク質としては、例えばα-ラクトアルブミンやβ-ラクトグロブリン、ラクトアルブミン等のホエイタンパク質、カゼイン、またこれらの乳タンパク質を含有する脱脂粉乳、全粉乳、トータルミルクプロテイン等が挙げられる。
【0013】
また、本発明の油菓子用添加剤である上記水性液中の固形分含量は2~60質量%が好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~40質量%が最も好ましい。
【0014】
本発明の油菓子用添加剤は、水性液であることが必要である。粉末状や顆粒状、あるいは可塑性などのその他の性状であると、油菓子生地の製造時にリン脂質と乳タンパク質を有効な状態で生地中に分散させることができず、本発明の効果が得られない。
なお、本発明において、水性液とは、水溶液のほか、水相を主体として少量の油溶性成分が分散した水中油型乳化物を含むものとする。
【0015】
本発明の油菓子用添加剤には、水性液における乳由来のリン脂質及び乳タンパク質の比率に影響しない範囲において、その他の原料を含有させることができる。
上記その他の原料としては、アルギン酸類、ペクチン、海藻多糖類、カルボキシメチルセルロース等の増粘多糖類や、でんぷん類、ブドウ糖、果糖、乳糖、ショ糖、麦芽糖、ソルビトール、ステビア等の甘味料、ビタミン類、香料、酸化防止剤、光沢剤、乳清ミネラルなどが挙げられ、これらの一種または二種以上のものが適宜選択して用いられる。
【0016】
次に、本発明の油菓子用添加剤である、上記水性液を得る方法について述べる。
本発明の油菓子用添加剤である上記水性液は、乳由来のリン脂質及び乳タンパク質、あるいはこれらを含有する乳原料を使用し、乳由来のリン脂質含有量1質量部に対し乳タンパク質が1~15質量部となるように混合するか、あるいは水又は水性液に溶解することにより得ることができる。
【0017】
具体的には、リン脂質含有量1質量部に対し乳タンパク質が1~15質量部を含有する乳原料そのもの(以下、単に「乳原料」ということもある)を使用する方法のほか、乳由来のリン脂質を多く含有する原料と乳タンパク質を多く含有する原料とを、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質が1~15質量部となるように混合する方法、また乳由来のリン脂質及び乳タンパク質を多く含有する原料へ乳由来のリン脂質及び/又は乳タンパク質を添加し、乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部となるように調整する方法等が挙げられる。
【0018】
本発明においては上記方法の中でも、上記乳原料を使用することが、本発明の効果、とくに風味が良好である油菓子が得られる点で好ましい。
上記乳原料の具体的な例としては、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分が挙げられ、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳などの乳から製造されたものであるのが好ましく、特に牛乳から製造されたものであることが好ましい。
【0019】
上記のクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30~40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70~95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0020】
上記のバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、バターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0021】
本発明では上記の乳原料をさらに濃縮したものや乾燥したもの、冷凍処理をしたものなどを用いることも可能であるが、最終的に得られる油菓子用添加剤として本発明の効果がより大きい点で、乾燥工程を経ていないものを使用することが好ましい。また、溶剤を用いて濃縮したものは風味上の問題から用いないのが好ましい。
【0022】
上記乳原料は、均質化処理を行っても良い。均質化処理は1回でも良く、2回以上行っても良い。該均質化処理に用いられる均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミルなどが挙げられる。均質化圧力は特に制限はないが、好ましくは0~100MPaである。2段式ホモゲナイザーを用いて均質化処理をする場合は、例えば、1段目3~100MPa、2段目0~5MPaの均質化圧力にて行っても良い。
上記乳原料は、UHT加熱処理を行っても良い。UHT加熱処理の条件としては特に制限はないが、温度条件は好ましくは120~150℃であり、処理時間は好ましくは1~6秒である。
【0023】
本発明では、上記の乳原料中のリン脂質の一部または全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできるが、風味の面からリゾ化物は使用しない方が好ましい。リゾ化物を使用した場合、用途によっては最終的に得られる容器詰飲料に苦味が生じる場合がある。
なお、該リゾ化物は、乳原料をそのままリゾ化したものや乳原料を濃縮した後にリゾ化したものが挙げられる。これらのリゾ化物は本発明におけるリン脂質の含有量に含めるものとする。
【0024】
上記の乳原料中のリン脂質をリゾ化する場合には、ホスホリパーゼAで処理する方法が挙げられる。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
【0025】
本発明におけるリン脂質の定量は、例えば以下のような方法にて測定することができる。
ここでは、上記乳原料の場合を例に説明する。但し、抽出方法などについては乳原料の形態などによって適正な方法が異なるため、以下の定量方法に限定されるものではない。
まず、乳原料の脂質をFolch法を用いて抽出する。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて乳原料の乳固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(乳原料-乳原料の水分(g))×25.4×(0.1/1000)
【0026】
本発明の油菓子用添加剤は、pHが3~6であることが好ましい。油菓子用添加剤のpHがこの範囲であると、風味が良好且つ油性感がより低減された油菓子が得られる点で好ましい。なお、上記pHは好ましくはpH4~6、より好ましくは4.7~5.8である。
【0027】
本発明の油菓子用添加剤がpH3~6となるようにする方法としては、たとえば上記「乳由来のリン脂質1質量部に対し乳タンパク質を1~15質量部含有する水性液」に対し酸を添加したり、乳酸醗酵等によりpHが3~6となるように調整する方法が挙げられる。
本発明においては、簡便かつ効率的であるほか、酸の種類を適宜変えることにより風味を調節することも可能となるため、油菓子用添加剤に酸を添加しpH3~6となるように調整する方法が好ましい。
【0028】
油菓子用添加剤のpHを調整するために酸を添加する場合において使用する酸は、無機酸であっても有機酸であってもよいが、有機酸であることが好ましい。該有機酸としては、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等が挙げられ、果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルトなどの有機酸を含有する飲食品も用いることができるが、本発明においてはより酸味が少なく、風味に影響しない点でフィチン酸、及び/またはグルコン酸を使用することが好ましい。
【0029】
油菓子用添加剤のpHを3~6とするために酸を使用する場合、酸の使用量には特に制限はなく、風味を考慮しながら、油菓子用添加剤のpHが3~6となるように使用すればよい。上記pHとなるように酸で調整する場合の温度条件、処理時間は特に制限なく任意の条件を設定することができるが、好ましくは0~70℃条件下で30秒以上攪拌することが好ましい。
【0030】
本発明の油菓子用添加剤には、さらにカルシウムを添加することが好ましい。カルシウム塩の添加量は油菓子用添加剤に含まれるリン脂質1質量部に対して0.01~1質量部であることが好ましく、0.02~0.5質量部であることがより好ましい。
上記範囲でカルシウム塩を含有することで、本発明の効果をより高めることができる。
【0031】
上記カルシウム塩としては塩化カルシウム、乳酸カルシウム、リン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、グルタミン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム等が例示され、このうち1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明では、油菓子用添加剤である水性液を調製する途中及び/又は調製した後、均質化機にて均質化することが好ましい。均質化処理は1回でも良く、2回以上行っても良い。該均質化処理に用いられる均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、バブル式ホモジナイザー、ホモミキサー、コロイドミル、ディスパーミルなどが挙げられる。均質化圧力は好ましくは0~100MPaである。2段式ホモゲナイザーを用いて均質化処理をする場合は、例えば、1段目3~100MPa、2段目0~5MPaの均質化圧力にて行なってもよい。
【0033】
さらに必要に応じてUHT加熱処理を行っても良い。UHT加熱処理の条件としては特に制限はないが、温度条件は好ましくは120~160℃、さらに好ましくは130~150℃、最も好ましくは139~146℃であり、処理時間は好ましくは1~6秒、さらに好ましくは2~6秒、最も好ましくは4~6秒である。
上記の均質化処理とUHT加熱処理は、均質化処理のみを行っても良く、UHT加熱処理のみを行って良く、UHT加熱処理の前及び/または後に均質化処理を行っても良い。
そして急速冷却、徐冷却などの冷却操作を行っても良い。
【0034】
本発明の油菓子用添加剤は、かりんとう、揚げパン、揚げまんじゅう、デニッシュドーナツ、イーストドーナツ、ケーキドーナツ、チュロス、フレンチクルーラー、サーターアンダギー、あられ、えびせんべい、せんべい、かりんとうまんじゅう、鈴カステラ等の各種油菓子生地に用いることができるが、本発明の改良効果がとくに高く得られる点でイーストドーナツ生地に使用することが好ましい。
【0035】
次に、本発明の油菓子生地について述べる。
本発明の油菓子生地は、本発明の油菓子用添加剤を使用した油菓子生地である。本発明の油菓子生地における油菓子用添加剤の使用量は、油菓子生地の種類によっても異なるが、油菓子生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.2~5質量部、最も好ましくは1~5質量部となるように添加する。
なお、本発明の油菓子生地における、上記油菓子用添加剤の使用量について、油菓子用添加剤に含まれる乳由来の乳リン脂質を基準とした場合には、生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、油菓子用添加剤由来の乳リン脂質が好ましくは0.005~0.8質量部、より好ましくは0.01~0.5質量部、もっとも好ましくは0.02~0.4質量部となるように添加する。
【0036】
上記穀粉類としては、小麦粉(薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉)をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、これらの中でも、小麦粉を、穀粉類中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%使用する。
【0037】
本発明の油菓子生地においては、上記本発明の油菓子用添加剤を使用する以外は、一般の油菓子生地材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、水、油脂、イースト、糖類や甘味料、増粘安定剤、着色料、酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、チーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、蛋白質、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、各種食品素材や食品添加物等を挙げることができる。
上記その他の原料は、本発明の効果を損なわない限り、任意に使用することができる。
【0038】
次に、本発明の油菓子生地の製造方法について説明する。
本発明の油菓子生地は、油菓子製造の際に、本発明の油菓子用添加剤を生地に練り込むことにより、製造することができる。
本発明の油菓子生地の製造方法としては、特に制限なく従来の各種油菓子生地の製造方法を採ることができる。
また、得られた本発明の油菓子生地は、冷蔵、冷凍保存することが可能である。
【0039】
次に、本発明の油菓子について述べる。
本発明の油菓子は、上記の本発明の油菓子生地を、適宜、分割、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レスト、ラックをとった後、油ちょうすることにより得ることができる。
上記成形は、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
油ちょうの前後に焼成及び/又は蒸しを施してもよい。
また、得られた本発明の油菓子を、冷蔵、冷凍保存したり、該保存後に電子レンジ加熱することも可能である。
【実施例0040】
次に実施例、及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
<油菓子用添加剤の製造>
〔実施例1~5〕
[表1]に記載した配合のうち、酸(フィチン酸)以外の成分を55℃条件下で攪拌しながら混合し、続いて酸(フィチン酸)を添加してそれぞれpHを調整した後、3MPaの圧力で均質化し、実施例1~4からそれぞれ本発明の油菓子用添加剤A~Dを得た。また、下記乳原料Aをそのまま3MPaの圧力で均質化し、油菓子用添加剤材Eとした(実施例5)。なお、実施例5の油菓子用添加剤Eは、乳タンパク質を、乳由来のリン脂質1質量部に対して2.84質量部含有するものであった。
【0041】
なお、表1に記載した原料のうち、乳原料A、及び、バターミルク濃縮物については以下の製造方法によって得られたものであり、そのリン脂質含量及び乳タンパク質含量についても記載した。
なお、各原料中の乳リン脂質、乳タンパク質含有量は以下の通りである。
【0042】
乳原料A:クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、タンパク質含有量10.5質量%、乳固形分38質量%、及び乳固形分中のリン脂質の含有量9.7質量%、pH6.5)
【0043】
バターミルク濃縮物:生クリーム(油分:47質量%)100質量部を10℃条件下でチャーニングし、続いて濾過を行って濾液(43質量部)を回収し、バターミルクを得た。続いて、得られたバターミルクを液量がおおよそ三分の一程度になるように濃縮し、バターミルク濃縮物を得た。(バターミルク濃縮物のリン脂質含有量0.53質量%、タンパク質含有量10.9質量%、乳固形分33質量%)
【0044】
【表1】
【0045】
<イーストドーナツの配合及び製造法>
〔実施例6〕
強力粉80質量部、薄力粉20質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部上白糖12質量部、食塩1.5質量部、全卵(正味)5質量部、油菓子用添加剤材A1質量部及び水53質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分混合した。ここで、可塑性油中水型油脂組成物(EZマーガリン:株式会社ADEKA製)(油分含量82質量%)8質量部を投入し、さらに、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、イーストドーナツ生地を得た。得られたイーストドーナツ生地の捏ね上げ温度は26℃であった。ここで、フロアタイムを40分とった後、60gに分割し、ベンチタイム20分とったあとにロール成形し、展板に並べた後、33℃、相対湿度65%で40分ホイロをとった後、ラックタイム10分おいて、180℃に設定したフライヤーに入れ片面120秒ずつ油ちょうし、イーストドーナツを得た。
【0046】
〔実施例7〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aに代えて、油菓子用添加剤材Bを使用した以外は、実施例1同様にして、本発明のイーストドーナツ生地B及び本発明のイーストドーナツBを得た。
〔実施例8〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aに代えて、油菓子用添加剤材Cを使用した以外は、実施例1同様にして、本発明のイーストドーナツ生地C及び本発明のイーストドーナツCを得た。
〔実施例9〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aに代えて、油菓子用添加剤材Dを使用した以外は、実施例1同様にして、本発明のイーストドーナツ生地D及び本発明のイーストドーナツDを得た。
〔実施例10〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aに代えて、油菓子用添加剤材Eを使用した以外は、実施例1同様にして、本発明のイーストドーナツ生地E及び本発明のイーストドーナツEを得た。
【0047】
〔比較例1〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aを無添加とした以外は実施例1同様にして、比較例のイーストドーナツ生地F及び本発明のイーストドーナツFを得た。
【0048】
〔実施例11〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aの添加量を、1質量部から0.3質量部に変更した以外は実施例1同様にして、本発明のイーストドーナツ生地A2及び本発明のイーストドーナツA2を得た。
〔実施例12〕
実施例6で使用した油菓子用添加剤材Aの添加量を、1質量部から5質量部に変更した以外は実施例1同様にして、本発明のイーストドーナツ生地A3及び本発明のイーストドーナツA3を得た。
【0049】
<評価方法及び評価基準>
得られたイーストドーナツA~F、A1及びA2の食感(口溶け、歯切れ)、風味、油性感、及び、体積について以下の基準に従って評価し、結果を表2に記載した。
【0050】
(食感、風味及び油性感)
油ちょう1日後のイーストドーナツについて、歯切れ、口溶け、風味、及び、油性感を、パネラー21名にて下記の基準にて評価し、その一番多かった評価を表2に記載した。なお同数の場合は一段上の評価とした。
【0051】
(歯切れ評価基準)
◎:歯切れがよい
○:やや歯切れがよい
△:歯切れが悪い
×:非常に歯切れが悪い
【0052】
(口溶け評価基準)
◎:非常に良好
○+:良好
○:やや良好
△:やや不良
×:不良
【0053】
(風味評価基準)
◎:非常に良好
○+:良好
○:やや良好
△:やや不良
×:不良
【0054】
(油性感評価基準)
◎:油性感が感じられず、非常に良好
○+:油性感がほとんど感じられず、良好
○:油性感がやや感じられるが、やや良好
△:油性感が強く、やや不良
×:油性感が極めて強く、不良
【0055】
(体積及び保型性評価基準)
焼成1日後のイーストドーナツについて、熟練したパネラーが目視にて下記の基準で体積及び保型性を評価した。
◎:十分な体積があり、腰もちがよく、非常に良好
○:十分な体積があり、良好
△:やや潰れており、不良である
×:潰れており、不良である
【0056】
【表2】