IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士フイルム株式会社の特許一覧

特開2024-85021ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム
<>
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図1
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図2
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図3
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図4
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図5
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図6
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図7
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図8
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図9
  • 特開-ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085021
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/045 20060101AFI20240619BHJP
   G06Q 10/06 20230101ALI20240619BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240619BHJP
【FI】
B41J2/045
G06Q10/06
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199323
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(74)【代理人】
【識別番号】100153822
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 重之
(72)【発明者】
【氏名】西川 漠
(72)【発明者】
【氏名】溝内 雄太
(72)【発明者】
【氏名】勝山 公人
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB29
2C056EB32
2C056EB59
2C056EC07
2C056EC42
2C056FA04
2C057AL14
2C057AL16
2C057AL19
2C057AM16
2C057BA04
2C057BA14
5L010AA06
5L049AA06
(57)【要約】
【課題】液体吐出ヘッドの挙動を精度良く模擬できるヘッドモデルの作成方法を提供し、併せて、そのヘッドモデルを用いて適切な駆動波形を作成する駆動波形作成方法、及びこれら方法を実施するための情報処理装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】圧電素子を備える液体吐出ヘッドの挙動を模擬するヘッドモデルの作成方法であって、ヘッドモデルは、流体解析モデルを用いて構成され、液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドから吐出させる液体とを用いて複数の駆動波形のそれぞれを圧電素子に印加して液体を吐出させた際の実際の飛翔形状に関するデータを学習データとし、1つ以上の第1のプロセッサが、学習データを基にヘッドモデルを最適化することを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子を備える液体吐出ヘッドの挙動を模擬するヘッドモデルの作成方法であって、
前記ヘッドモデルは、流体解析モデルを用いて構成され、
前記液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドから吐出させる液体とを用いて複数の駆動波形のそれぞれを前記圧電素子に印加して前記液体を吐出させた際の実際の飛翔形状に関するデータを学習データとし、1つ以上の第1のプロセッサが、前記学習データを基に前記ヘッドモデルを最適化することを含む、
ヘッドモデルの作成方法。
【請求項2】
前記ヘッドモデルは、等価回路モデルと前記流体解析モデルとを連成したモデルである、
請求項1に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項3】
前記1つ以上の前記第1のプロセッサが、
前記等価回路モデルの回路定数、前記流体解析モデルの粘性係数、表面張力、及び密度のうち少なくとも1つに関連するパラメータを最適化する、
請求項2に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項4】
前記1つ以上の前記第1のプロセッサが、
前記複数の駆動波形のそれぞれの入力に対して前記ヘッドモデルによって予測される飛翔形状が前記実際の飛翔形状に近づくように、前記ヘッドモデルのパラメータを更新する、
請求項1に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項5】
前記実際の飛翔形状に関するデータは、前記液体吐出ヘッドから吐出された前記液体を撮影して得られた飛翔形状画像である、
請求項1に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項6】
前記実際の前記飛翔形状に関するデータは、前記液体吐出ヘッドから吐出された前記液体を少なくとも2つの時刻において撮影して得られた時系列の飛翔形状画像群である、
請求項1に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項7】
前記1つ以上の前記第1のプロセッサが、
前記最適化の指標として、少なくとも2つの時刻における前記飛翔形状に基づく第1の評価値を算出する、
請求項6に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項8】
前記駆動波形のパラメータは、パルスの幅、スロープ、パルス高さ、及びパルス間隔のうち少なくとも1つを含む、
請求項1に記載のヘッドモデルの作成方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のヘッドモデルの作成方法を実施して作成されたヘッドモデルを用いる駆動波形作成方法であって、
1つ以上の第2のプロセッサが、
複数の新規の駆動波形のそれぞれについて前記ヘッドモデルを用いて前記液体の飛翔予測を行い、
前記複数の新規の駆動波形のそれぞれに対する飛翔予測結果に基づいて、前記液体の吐出に適した駆動波形を決定する処理を実行する、
駆動波形作成方法。
【請求項10】
前記1つ以上の前記第2のプロセッサが、
前記飛翔予測結果から第2の評価値を算出し、
前記複数の新規の駆動波形の中から前記第2の評価値に基づいて最適な駆動波形を決定する、
請求項9に記載の駆動波形作成方法。
【請求項11】
前記第2の評価値は、主滴及びサテライト滴の少なくとも一方の滴量、滴速度、及び曳糸の長さのうち少なくとも1つによって特徴付けられた飛翔特性を含む、
請求項10に記載の駆動波形作成方法。
【請求項12】
前記1つ以上の前記第2のプロセッサが、
前記複数の新規の駆動波形のうち前記第2の評価値が指定条件を満たし、かつ、前記第2の評価値が最も有望な駆動波形を決定する、
請求項10に記載の駆動波形作成方法。
【請求項13】
前記1つ以上の前記第2のプロセッサが、
前記最適化された前記ヘッドモデルを用いて、前記複数の新規の駆動波形のそれぞれから前記液体の飛翔形状を予測する順方向予測を行い、前記順方向予測の前記飛翔予測結果に基づいて、前記複数の新規の駆動波形の中から前記液体の吐出に適した駆動波形を決定する、
請求項9に記載の駆動波形作成方法。
【請求項14】
請求項1から8のいずれか一項に記載のヘッドモデルの作成方法を実行する情報処理装置であって、
前記1つ以上の前記第1のプロセッサと、
前記ヘッドモデルが記憶される1つ以上の第1の記憶装置と、
を備える情報処理装置。
【請求項15】
請求項1から8のいずれか一項に記載のヘッドモデルの作成方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項16】
請求項9に記載の駆動波形作成方法を実行する情報処理装置であって、
前記1つ以上の前記第2のプロセッサと、
前記最適化された前記ヘッドモデルが記憶される1つ以上の第2の記憶装置と、
を備える情報処理装置。
【請求項17】
請求項9に記載の駆動波形作成方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はヘッドモデルの作成方法、駆動波形作成方法、情報処理装置及びプログラムに係り、特に、圧電方式の液体吐出ヘッドの挙動を模擬するヘッドモデルを作成する情報処理技術及びヘッドモデルを活用した駆動波形作成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷において、使用するインクが異なると、物性値の変化が僅かであってもインクジェットヘッドから吐出されるインクの飛翔形状が変化してしまうため、良好な飛翔特性を獲得することは大きな課題であった。飛翔特性には、例えば、着弾位置精度、サテライト滴の有無、滴速、滴量、及び安定性などがあり得る。圧電素子の駆動によってインクを吐出するインクジェットヘッドでは、その駆動波形に自由度があるため、使用するインク毎に開発者によって駆動波形の最適化が実施されることが多い。
【0003】
しかしながら、複数の飛翔特性が同時に良好になるように駆動波形を最適化するためには、開発者に専門的な知見及び経験が求められ、また試行錯誤を伴う最適化には多大な時間が必要であった。
【0004】
上記課題に対して、従来、駆動波形の最適化の時間を短縮しようとする試みが実施されてきた。特許文献1では、インクジェットヘッドの運動方程式(等価回路)を用いてインクの飛翔特性に関する評価関数が最適(最小)になる駆動波形を作成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-174835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、運動方程式の回路定数が予め定まっていることを前提としている。しかし、使用するインク毎に運動方程式の回路定数は異なるため、インク毎にその挙動を良好に模擬できる最適な回路定数を求める必要がある。最適な回路定数の導出には多大な時間が必要なため、結局、インク毎に最適な駆動波形を作成するために多大な時間が必要になる。
【0007】
また、最適な駆動波形を探索する場合、従来は、開発者の過去の知見等に基づき、予め候補となる駆動波形群を用意しておき、その駆動波形群の中のそれぞれの駆動波形について順次、飛翔特性を評価して最適な駆動波形を決定する方法が一般的に行われている。しかし、この方法では、探索の範囲が予め用意した候補の駆動波形群に制約されるため、全く未知の駆動波形を探索することはできなかった。
【0008】
上記の課題は、印刷用途のインクジェット装置に限らず、各種の機能性液体を吐出する液体吐出ヘッドを用いる装置について共通の課題である。
【0009】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、液体吐出ヘッドの挙動を精度良く模擬できるヘッドモデルの作成方法を提供し、併せて、そのヘッドモデルを用いて適切な駆動波形を作成する駆動波形作成方法、及びこれら方法を実施するための情報処理装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の第1態様に係るヘッドモデルの作成方法は、圧電素子を備える液体吐出ヘッドの挙動を模擬するヘッドモデルの作成方法であって、ヘッドモデルは、流体解析モデルを用いて構成され、液体吐出ヘッドと、液体吐出ヘッドから吐出させる液体とを用いて複数の駆動波形のそれぞれを圧電素子に印加して液体を吐出させた際の実際の飛翔形状に関するデータを学習データとし、1つ以上の第1のプロセッサが、学習データを基にヘッドモデルを最適化することを含む。
【0011】
第1態様によれば、吐出に用いる液体と液体吐出ヘッドとの組み合わせに対して、実際の飛翔形状に関するデータを学習データとして用い、1つ以上の第1のプロセッサによって、ヘッドモデルの最適化が実行される。これにより、吐出させる液体と液体吐出ヘッドとの組み合わせについて吐出の挙動を精度よく模擬できるヘッドモデルを構築できる。
【0012】
「最適化」は、最適な状態に近づけることを意味し、真に最適な状態に到達することに限定されない。
【0013】
第2態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第1態様に係るヘッドモデルの作成方法において、ヘッドモデルは、等価回路モデルと流体解析モデルとを連成したモデルであってもよい。
【0014】
第2態様によれば、流体解析モデルのみを用いてヘッドモデルを構成する場合と比べて、計算コストを抑制できる。
【0015】
第3態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第2態様に係るヘッドモデルの作成方法において、1つ以上の第1のプロセッサが、等価回路モデルの回路定数、流体解析モデルの粘性係数、表面張力、及び密度のうち少なくとも1つに関連するパラメータを最適化する構成であってもよい。
【0016】
第4態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第1態様から第3態様のいずれか一態様に係るヘッドモデルの作成方法において、1つ以上の第1のプロセッサが、複数の駆動波形のそれぞれの入力に対してヘッドモデルによって予測される飛翔形状が実際の飛翔形状に近づくように、ヘッドモデルのパラメータを更新する構成であってもよい。
【0017】
第5態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第1態様から第4態様のいずれか一態様に係るヘッドモデルの作成方法において、実際の飛翔形状に関するデータは、液体吐出ヘッドから吐出された液体を撮影して得られた飛翔形状画像であってもよい。
【0018】
第6態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第1態様から第4態様のいずれか一態様に係るヘッドモデルの作成方法において、実際の飛翔形状に関するデータは、液体吐出ヘッドから吐出された液体を少なくとも2つの時刻において撮影して得られた時系列の飛翔形状画像群であってもよい。
【0019】
第7態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第6態様に係るヘッドモデルの作成方法において、1つ以上の第1のプロセッサが、最適化の指標として、少なくとも2つの時刻における飛翔形状に基づく第1の評価値を算出する構成であってもよい。
【0020】
第8態様に係るヘッドモデルの作成方法は、第1態様から第7態様のいずれか一態様に係るヘッドモデルの作成方法において、駆動波形のパラメータは、パルス幅、スロープ、パルス高さ、及びパルス間隔のうち少なくとも1つを含む構成であってもよい。
【0021】
第9態様に係る駆動波形作成方法は、第1態様から第8態様のいずれか一項に記載のヘッドモデルの作成方法を実施して作成されたヘッドモデルを用いる駆動波形作成方法であって、1つ以上の第2のプロセッサが、複数の新規の駆動波形のそれぞれについてヘッドモデルを用いて液体の飛翔予測を行い、複数の新規の駆動波形のそれぞれに対する飛翔予測結果に基づいて、液体の吐出に適した駆動波形を決定する処理を実行する。
【0022】
第10態様に係る駆動波形作成方法は、第9態様に係る駆動波形作成方法において、1つ以上の第2のプロセッサが、飛翔予測結果から第2の評価値を算出し、複数の新規の駆動波形の中から第2の評価値に基づいて最適な駆動波形を決定する構成であってもよい。
【0023】
第11態様に係る駆動波形作成方法は、第10態様に係る駆動波形作成方法において、 第2の評価値は、主滴及びサテライト滴の少なくとも一方の滴量、滴速度、及び曳糸の長さのうち少なくとも1つによって特徴付けられた飛翔特性を含む構成であってもよい。
【0024】
第12態様に係る駆動波形作成方法は、第10態様又は第11態様に係る駆動波形作成方法において、1つ以上の第2のプロセッサが、複数の新規の駆動波形のうち第2の評価値が指定条件を満たし、かつ、第2の評価値が最も有望な駆動波形を決定する構成であってもよい。
【0025】
第13態様に係る駆動波形作成方法は、第9態様から第12態様のいずれか一態様に係る駆動波形作成方法において、1つ以上の第2のプロセッサが、最適化されたヘッドモデルを用いて、複数の新規の駆動波形のそれぞれから液体の飛翔形状を予測する順方向予測を行い、順方向予測の飛翔予測結果に基づいて、複数の新規の駆動波形の中から液体の吐出に適した駆動波形を決定する構成であってもよい。
【0026】
第14態様に係る情報処理装置は、第1態様から第8態様のいずれか一態様に係るヘッドモデルの作成方法を実行する情報処理装置であって、1つ以上の第1のプロセッサと、ヘッドモデルが記憶される1つ以上の第1の記憶装置と、を備える。
【0027】
第15態様に係るプログラムは、第1態様から第8態様のいずれか一態様に係るヘッドモデルの作成方法をコンピュータに実行させる。
【0028】
第16態様に係る情報処理装置は、第9態様から第13態様のいずれか一態様に係る駆動波形作成方法を実行する情報処理装置であって、1つ以上の第2のプロセッサと、最適化されたヘッドモデルが記憶される1つ以上の第2の記憶装置と、を備える。
【0029】
第17態様に係るプログラムは、第9態様から第13態様のいずれか一態様に係る駆動波形作成方法をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0030】
本開示によれば、使用する液体と液体吐出ヘッドとの組み合わせに対して、吐出の挙動を精度よく模擬できるヘッドモデルを作成することができる。また、本開示によれば、作成されたヘッドモデルを用いて、所望の飛翔特性が得られる駆動波形を効率良く作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施形態に係るヘッドモデルの作成方法及び駆動波形作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
図2図2は、駆動波形の例を示す波形図である。
図3図3は、インクジェットヘッドから吐出されたインクの飛翔形状の画像例である。
図4図4は、実施形態に係るヘッドモデルの概要図である。
図5図5は、本実施形態により最適化したヘッドモデルを用いたシミュレーションにより得られた飛翔形状の予測結果の例を示す図である。
図6図6は、本実施形態により最適化したヘッドモデルを用いて予測した滴速度と実際の滴速度を比較した散布図を示している。
図7図7は、実施形態に係るヘッドモデルの作成方法及び駆動波形作成方法の少なくとも一部の処理を実行する情報処理装置のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
図8図8は、ヘッドモデルの最適化に用いられる学習用のデータセットを作成するための吐出実験に用いたインクジェット装置の構成例を概略的に示す説明図である。
図9図9は、ヘッドモデルの最適化の処理を実行する情報処理装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
図10図10は、本実施形態により最適化したヘッドモデルを用いて有望な駆動波形を決定する処理を実行する情報処理装置の機能的構成を概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0033】
《実施形態の概要》
本実施形態では、圧電素子を備えるインクジェットヘッドの挙動を模擬するヘッドモデルを作成する方法及び装置と、そのヘッドモデルを用いて、所望の飛翔特性が得られる駆動波形を探索する方法及び装置の例を説明する。
【0034】
図1は、実施形態に係るヘッドモデルの作成方法及び駆動波形作成方法の処理手順を示すフローチャートである。図1に示すステップS1~S3の各ステップは、1つ以上のプロセッサによって実行される。ここでは、第1のプロセッサがヘッドモデルを最適化する処理(ステップS1)を実行し、その後、第1のプロセッサとは異なる第2のプロセッサが、最適化されたヘッドモデルを用いて最適な駆動波形を探索する処理(ステップS2及びステップS3)を実行する例を述べるが、第2のプロセッサの代わりに、第1のプロセッサがステップS2及びステップS3を実行してもよい。また、第2のプロセッサがステップS2を実行し、第2のプロセッサとは異なる第3のプロセッサがステップS3を実行してもよい。
【0035】
図1に示すように、ステップS1では、使用するインクとインクジェットヘッドとの組み合わせを用いて、複数の駆動波形のそれぞれを圧電素子に印加してインクを吐出させた際の実際の飛翔形状を学習データとして使用し、第1のプロセッサが流体解析モデルを用いたヘッドモデルを最適化する。
【0036】
その後、ステップS2では、第2のプロセッサが、この最適化したヘッドモデルを用いて新規の駆動波形群の飛翔予測を行う。すなわち、第2のプロセッサは、最適化したヘッドモデルに対して、複数の新規の駆動波形のそれぞれをインプットとして与えて、様々な駆動波形についてのインクの吐出動作をシミュレーションする。
【0037】
そして、ステップS3では、第2のプロセッサが、ステップS2の処理から得られた飛翔予測結果(シミュレーション結果)に基づき、最も有望な駆動波形を決定する。以下、ステップS1~ステップS3のそれぞれのステップをさらに詳細に説明する。
【0038】
〔ステップS1:ヘッドモデルの最適化〕
ステップS1の処理を実行するために、使用するインクとインクジェットヘッドとの組み合わせを用いて吐出実験等を行い、複数の駆動波形のそれぞれを圧電素子に印加した際のインクの飛翔形状に関するデータを事前に収集して学習用のデータセットとして用意しておくことが好ましい。第1のプロセッサは、このデータセットから実際の飛翔形状を学習してヘッドモデルのパラメータを最適化する。
【0039】
[駆動波形の例]
図2は、駆動波形の例を示す波形図である。横軸は時刻、縦軸は電位を表す。図2に示す駆動波形20は、予備振動パルス22と、吐出パルス24と、残響抑制パルス26とを含み、それぞれのパルスのパルス幅、スロープ、パルス高さ、及びパルス間隔を駆動波形のパラメータとする。図2に示す駆動波形20の例では、パルスのパルス幅、スロープ、及びパルス間隔を規定する時間t1~t9、及びパルス高さを規定する電位差E1~E3の12個のパラメータがある。
【0040】
これらのパラメータの値の組み合わせが異なる複数の駆動波形を、使用するインクが充填されたインクジェットヘッドの圧電素子に印加して、吐出したインクの飛翔形状を学習データとする。
【0041】
なお、駆動波形のパラメータは図2に示す例の種類(12種類)に限らない。例えば、時刻と共に駆動波形の電位を曲線的に変化させてもよく、その曲線の形状をパラメータに含めてもよい。学習に用いる駆動波形の種類は、例えば100種類としてもよい。
【0042】
[飛翔形状の例]
図3は、インクジェットヘッドから吐出されたインクの飛翔形状の画像例である。図3では駆動波形の印加によってインクジェットヘッドから吐出されたインクを一定の時間間隔で連続撮影して得られた時系列画像群から把握される各時刻の飛翔形状を示している。図3には、1マイクロ秒刻みで撮影された画像の例が示されている。なお、1マイクロ秒は一定の時間間隔の一例である。
【0043】
撮影領域として、インク吐出口であるノズルから、飛翔特性を取得するのに十分な領域を設定することが望ましい。時系列方向(時間軸方向)の飛翔の様態を把握するため、一定の時間間隔で撮影し、インク滴が画面外に見切れる程度のステップ数(撮影回数)にて撮影を行う。よって、1つの駆動波形に対し、時系列数分の画像が得られる。図3は、時系列数分の画像から関心領域をクロッピングして時系列に並べてつなげた例である。
【0044】
後の画像処理のことを考慮し、なるべくインク領域の色と背景領域の色コントラストがはっきりしていること好ましい。また、インク滴と背景領域を分け目となる領域は解像度がシャープであることが好ましい。
【0045】
図3に示すように、インクジェットヘッドのノズルからインクが吐出し始めて、液柱を形成し、ノズルから分離して滴状に変形しつつ飛翔している。
【0046】
複数の駆動波形のそれぞれに対応して、時系列画像群を取得することにより、それぞれの駆動波形に対応した飛翔形状が得られ、これらの飛翔形状を学習データとする。
【0047】
[ヘッドモデルの概要]
図4は、実施形態に係るヘッドモデル40の概要図である。ヘッドモデル40は、等価回路モデル42と流体解析モデル44とを連成した構成となっている。なお、等価回路モデル42の部分にも流体解析モデルを適用して流体解析モデルのみを用いてヘッドモデルを構成することも可能であるが、流体解析モデルのみでヘッドモデルを構成すると、非常に計算コストが高いため、本実施形態では等価回路モデル42と流体解析モデル44とを連成してヘッドモデル40を構成する。つまり、ヘッド流路内部のインク挙動を等価回路モデル42でシミュレーションし、吐出後のインク挙動を流体解析モデル44でシミュレーションすることとし、ノズル部において等価回路モデル42と流体解析モデル44とを連成させる構成とする。
【0048】
図4に示す等価回路モデル42において回路パラメータの記号の意味は、次の通りである。すなわち、ma、ra及びcaはそれぞれ振動板のイナータンス、抵抗及びコンプライアンスを示し、msとrsはそれぞれ供給路のイナータンスと抵抗を示し、ciは圧力室のコンプライアンスを示し、mnとrnはそれぞれノズル部のイナータンスと抵抗を示している。なお、図4の等価回路モデル42は一例であり、使用するインクジェットヘッドに依って等価回路モデルの形態は異なる。
【0049】
流体解析モデルに数値流体力学(Computational Fluid Dynamic:CFD)手法を用いて、それと等価回路モデルを連成させる吐出シミュレーション手法が知られている。CFD手法は、インクが吐出する3次元空間を小さな空間(メッシュ或いは格子)に分割し、それぞれの小さな空間において質量保存の式及び運動量保存の式(運動方程式)を連立して解くことにより、それぞれの小さな空間におけるインクの運動をシミュレーションすることができ、その結果、自由表面流体としてのインクの吐出及び飛翔の運動をシミュレーションすることができる。
【0050】
CFD手法は計算コストが高いため、3次元の流体解析モデルを用いて構成されるヘッドモデルの場合、モデルの最適化の処理(ステップS1)、及び最適化したヘッドモデルを用いた飛翔予測(ステップS2)に多大な時間が掛かってしまう。
【0051】
そこで、本実施形態では、流体解析モデル44について、CFD手法を3次元ではなく2次元軸対称で実施する等の工夫を施すことにより、高速にインクの吐出及び飛翔の運動をシミュレーションすることが好ましい。
【0052】
〔学習方法〕
学習データを用いてヘッドモデル40を最適化する際には、学習データに含まれる駆動波形を入力としてヘッドモデル40を用いたシミュレーションによって得られる飛翔形状(ヘッドモデル40を用いて予測される予測飛翔形状)が実際の飛翔形状に近づくように、第1のプロセッサがヘッドモデル40のパラメータを最適化する。
【0053】
ここでヘッドモデル40のパラメータとは、等価回路モデル42のそれぞれの回路定数、流体解析モデル44におけるインクの粘性係数、表面張力及び密度を含む。なお、これらのパラメータのうち、予め測定又は計算によって既知のものは固定として最適化の対象パラメータから外してもよい。また、ヘッドモデル40のパラメータは、これら以外にも未知のパラメータを含めて最適化してよい。
【0054】
第1のプロセッサは、学習データから把握される実際の飛翔形状と、ヘッドモデル40によるシミュレーション結果として得られる飛翔形状との差分に基づく評価値により、ヘッドモデル40のパラメータを最適化することができる。具体的には、第1のプロセッサは、学習データに含まれる時系列の飛翔形状のそれぞれの時刻において、実際の飛翔形状とシミュレーションの飛翔形状とを比較し、インクの重なっていない領域の総和を求める。そして、全時刻において求めた総和を積算した値を第1の評価値とする。このように複数の時刻における実際とシミュレーションの飛翔形状の差分を第1の評価値に組み込むことで、インクの吐出状態を撮影した撮影画像を学習データとして有効に活用することができる。
【0055】
このようにして求めた第1の評価値が小さくなるように、第1のプロセッサは、ヘッドモデル40のパラメータを最適化する。最適化手法には最急降下法など種々の方法があるが、ヘッドモデル40のパラメータには局所的な最適解が多数存在するため、大域的な最適解を見つける手法により最適化することが好ましい。大域的な最適化手法の研究は古くから行われており多数の手法が提案されている。大域的な最適化手法として、例えば遺伝的アルゴリズムを用いて最適化する。
【0056】
図5は、本実施形態によって最適化されたヘッドモデル40に対して、図2の吐出動作時と同じ駆動波形を入力として与えてシミュレーションした飛翔形状の例である。
【0057】
図5に示すシミュレーション結果(予測飛翔形状)と、図3に示す実際の飛翔形状とを比較すると分かるように、本実施形態によって最適化されたヘッドモデル40は、現実のインクジェットヘッドの挙動を精度よく模擬することができる。
【0058】
〔ステップS2:複数の新規の駆動波形群の作成と飛翔形状の評価〕
ステップS2では、第2のプロセッサは、最適化したヘッドモデル40に新規の駆動波形群のそれぞれの波形を入力して、各駆動波形についてインクの飛翔形状をシミュレーションし、シミュレーション結果から主滴及びサテライト滴の滴量と滴速度、位置、曳糸の長さなどの飛翔特性を求める。「曳糸」は「液柱」と言い換えてもよい。新規の駆動波形群の設定方法としては「駆動波形の各パラメータについて複数の水準を設定し、その全組合せを設定する方法」又は「駆動波形の各パラメータの水準を乱数的に設定する方法」を用いる。なお、駆動波形のパラメータとは、先述した通り、それぞれのパルスのパルス幅、スロープ、パルス高さ、及びパルス間隔などであり、例えば、図2の例で示した12個のパラメータである。
【0059】
本願発明者が、約100水準の駆動波形をインクジェットヘッドに印加して、吐出したインクの実際の飛翔形状を学習データとしてヘッドモデル40を最適化し、最適化したヘッドモデル40を用いて約400水準の新規の駆動波形群の飛翔特性を求めた(飛翔予測した)結果の例を図6に示す。
【0060】
図6は、本実施形態により最適化したヘッドモデル40を用いて予測した滴速度と実際の滴速度を比較した散布図を示している。ここでの滴速度は、主滴とサテライト滴を合一した滴速度である。図6によれば、ステップS1にて最適化されたヘッドモデル40によって滴速度を高精度に予測できていることが分かる。すなわち、本実施形態によって最適化されたヘッドモデル40は、モデルが予測する滴速度と実際の滴速度との相関が0.95以上となる精度で予測できることが確認された。
【0061】
〔ステップS3:有望な駆動波形の決定〕
ステップS3では、第2のプロセッサは、新規の駆動波形群のそれぞれの飛翔予測結果から、飛翔特性が一定レベル以上の品質を満たし、かつ飛翔特性が最も有望な駆動波形を決定する。目標とする飛翔特性の許容範囲を定める「一定レベル」の基準は、予め指定されている判定基準であってもよいし、必要に応じてユーザインタフェースなどから指定されたものであってもよい。例えば、第2のプロセッサは、サテライト滴が発生せずに、滴量及び滴速度がそれぞれ一定レベル以上となる駆動波形群の中から、滴量が最も多い、又は滴速度が最も速い駆動波形を決定する。目標とする飛翔特性について指定される一定レベルは「指定条件」の一例である。最適な駆動波形を決定する際の指標として用いる飛翔特性の値(特性値)は本開示における第2の評価値の一例である。
【0062】
なお、ステップS2において新規の駆動波形群の飛翔予測結果を全て記録しておく必要は無く、飛翔特性が一定レベル以上の品質を満たす駆動波形についてのみ予測結果を記録しておいてもよい。そうすることで、記録に必要なメモリ容量を減らすと共に、ステップS3の駆動波形の決定を効率的に行うことができる。
【0063】
《情報処理装置のハードウェア構成の例》
ステップS1からステップS3の処理は1台又は複数台のコンピュータを含むコンピュータシステムによって実行することができる。
【0064】
図7は、実施形態に係るヘッドモデルの作成方法及び駆動波形作成方法の少なくとも一部の処理を実行する情報処理装置100のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
【0065】
情報処理装置100は、プロセッサ102と、非一時的な有体物であるコンピュータ可読媒体104と、通信インターフェース106と、入出力インターフェース108と、バス110と、を備える。プロセッサ102は、バス110を介してコンピュータ可読媒体104、通信インターフェース106および入出力インターフェース108と接続される。情報処理装置100の形態は、特に限定されず、サーバであってもよいし、パーソナルコンピュータであってもよく、ワークステーション、あるいはタブレット端末などであってもよい。
【0066】
プロセッサ102は、第1のプロセッサ及び第2のプロセッサのうち少なくとも一方となり得る。プロセッサ102はCPU(Central Processing Unit)を含む。プロセッサ102はGPU(Graphics Processing Unit)を含んでもよい。コンピュータ可読媒体104は、主記憶装置であるメモリ112および補助記憶装置であるストレージ114を含む。コンピュータ可読媒体104は、例えば、半導体メモリ、ハードディスク(Hard Disk Drive:HDD)装置、若しくはソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)装置又はこれらの複数の組み合わせであってよい。コンピュータ可読媒体104は本開示における「第1の記憶装置」及び「第2の記憶装置」の一例である。
【0067】
コンピュータ可読媒体104には、各種の処理を行うための複数のプログラム及びデータ等が記憶される。「プログラム」という用語はプログラムモジュールの概念を含む。プロセッサ102は、コンピュータ可読媒体104に記憶されたプログラムの命令を実行することにより、各種の処理部として機能する。
【0068】
情報処理装置100は、通信インターフェース106を介して不図示の電気通信回線に接続され得る。電気通信回線は、広域通信回線であってもよいし、構内通信回線であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0069】
情報処理装置100は、入力装置152と、表示装置154とを備えていてもよい。入力装置152は、例えば、キーボード、マウス、マルチタッチパネル、若しくはその他のポインティングデバイス、若しくは、音声入力装置、又はこれらの適宜の組み合わせによって構成される。表示装置154は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(organic electro-luminescence:OEL)ディスプレイ、若しくは、プロジェクタ、又はこれらの適宜の組み合わせによって構成される。入力装置152と表示装置154とは、入出力インターフェース108を介してプロセッサ102と接続される。
【0070】
《学習データの収集方法》
図8は、ヘッドモデルの最適化に用いられる学習用のデータセットを作成するための吐出実験に用いたインクジェット装置200の構成例を概略的に示す説明図である。
【0071】
このインクジェット装置200は、インクジェットヘッド202と、駆動回路250と、情報処理装置300と、カメラ320とを備える。
【0072】
なお、図8では、インクジェットヘッド202における1つのイジェクタ210についての立体構造を断面図として示すが、インクジェットヘッド202は複数のイジェクタ210を備えている。インクジェットヘッド202は本開示における「液体吐出ヘッド」の一例である。インクジェット装置200は、実験用の装置であってもよいし、印刷に使用されるインクジェット印刷装置であってもよい。
【0073】
インクジェットヘッド202のイジェクタ210は、ノズル212と、圧力室214と、圧電素子216とを備える。ノズル212は、ノズル流路218を介して圧力室214と通じている。圧力室214は個別供給路220を介して供給側共通流路224に通じている。
【0074】
圧力室214の天面を構成する振動板226は、圧電素子216の下部電極に相当する共通電極として機能する不図示の導電層を備える。圧力室214、その他の流路部分の壁部、及び振動板226はシリコンによって作製することができる。
【0075】
振動板226の材質はシリコンに限らず、樹脂等の非導電性材料によって形成してもよい。振動板226自体をステンレス鋼等の金属材料によって構成し、共通電極を兼ねる振動板としてもよい。
【0076】
振動板226に対して圧電素子216が積層された構造により、圧電ユニモルフアクチュエータが構成される。圧電素子216は駆動回路250と接続され、駆動回路250から供給される駆動電圧によって駆動される。圧電素子216の上部電極である個別電極228に駆動電圧を印加して圧電体230を変形させ、振動板226を撓ませて圧力室214の容積を変化させる。圧力室214の容積変化に伴う圧力変化がインクに作用して、ノズル212からインクが吐出される。
【0077】
インクを吐出後に圧電素子216が元の状態に戻る際に、供給側共通流路224から個別供給路220を通って新しいインクが圧力室214に充填される。なお、インクジェットヘッド202は、吐出に使用されないインクを回収する不図示のインク回収路を備えていてもよい。
【0078】
圧力室214の平面視形状については、特に限定はなく、四角形、その他の多角形、円形、又は楕円形等であってもよい。個別電極228の上方には、カバープレート232が設けられる。カバープレート232は、圧電素子216の可動空間234を確保し、かつ、圧電素子216の周囲を封止する部材である。
【0079】
カバープレート232の上方には、不図示の供給側インク室、及び不図示の回収側インク室が形成される。供給側インク室は、不図示の連通路を介して、供給側共通流路224に連結される。回収側インク室は、不図示の連通路を介して、不図示の回収側共通流路に連結されている。
【0080】
インクジェットヘッド202の吐出動作を制御する情報処理装置300は、制御部302と、波形生成部304と、画像処理部306と、データ保存部308とを含む。情報処理装置300は、駆動回路250を含んでもよい。情報処理装置300のハードウェア構成は図7と同様であってよい。情報処理装置300の各部の処理機能は、プロセッサ102がプログラムの命令を実行することによって実現され得る。
【0081】
情報処理装置300は、カメラ320と接続される。カメラ320は、ノズル212から吐出されるインクの飛翔状態を撮影できる位置に配置される。制御部302は、インクジェットヘッド202及びカメラ320を含むシステム全体を制御する。波形生成部304は、制御部302からの指令に従い、様々な波形の駆動波形DWjを生成し得る。例えば、波形生成部304は、図2で説明した12個のパラメータの値の組み合わせを異ならせた複数の駆動波形DWjを生成し得る。添字jは、複数の駆動波形を識別するインデックスを表す。例えば、100種類の駆動波形DWjを生成させる場合、jは1から100までの整数を取る。
【0082】
駆動回路250は、波形生成部304にて生成された駆動波形DWjの駆動電圧を圧電素子216に供給する。こうして、圧電素子216が駆動されることにより、ノズル212からインクが吐出される。カメラ320は、ノズル212から吐出されたインクの飛翔状態を一定の時間間隔で撮影する。制御部302は、圧電素子216の駆動に同期して、カメラ320による撮影タイミングを制御する。カメラ320によって撮影された時系列の画像群は、画像処理部306に送られる。
【0083】
画像処理部306は、取得された画像について関心領域の抽出、クロップ処理などの必要な処理を行い、インクの飛翔形状を示す時系列の飛翔形状画像群FSj(t)を生成する。添字tは時系列の時刻を表す。
【0084】
制御部302は、駆動波形DWjと、飛翔形状画像群FSj(t)とを関連付けて(紐付けて)、駆動波形DWj及び飛翔形状画像群FSj(t)をデータ保存部308に保存する。こうして、複数の駆動波形DWjと、それぞれに対応する複数の飛翔形状画像群FSj(t)とを含むデータセットが作成される。このデータセットの一部又は全部が学習用のデータセットとして用いられる。なお、このようなデータセットは、使用されるインクとインクジェットヘッド202との組み合わせ毎に作成される。
【0085】
《ヘッドモデルの作成方法》
図9は、ヘッドモデル40の最適化の処理を実行する情報処理装置400の機能的構成を概略的に示すブロック図である。情報処理装置400のハードウェア構成は、図7で説明した構成と同様であってよい。情報処理装置400の各部の処理機能は、プロセッサ102がプログラムの命令を実行することによって実現される。
【0086】
情報処理装置400は、学習データ記憶装置402と、データ取得部404と、ヘッドモデル40と、モデルパラメータ更新部406とを含む。学習データ記憶装置402には、駆動波形TDWjと、これに対応する飛翔形状TFSjとが紐付けされた複数のデータ組を含む学習データセットTDSが記憶される。駆動波形TDWjとこれに対応する飛翔形状TFSjとは、図7で説明した方法によって収集された駆動波形DWjと時系列の飛翔形状画像群FSj(t)とであってよい。
【0087】
データ取得部404は、学習データ記憶装置402から学習データを取得する。データ取得部404を介して取得された駆動波形TDWjはヘッドモデル40に入力される。
【0088】
ヘッドモデル40は、実体的にはプログラムであり、コンピュータにインクジェットヘッド202の挙動を模擬する機能を実現させる。ヘッドモデル40は、駆動波形TDWjの入力を受けて、駆動波形TDWjの印加によるインクの吐出動作をシミュレーションして、シミュレーション結果としての予測飛翔形状PFSjを出力する。予測飛翔形状PFSjは、飛翔予測結果と言い換えてもよい。
【0089】
モデルパラメータ更新部406は、予測飛翔形状PFSjと、正解の(実際の)飛翔形状TFSjとを比較して、両者の差分を表す評価値を算出する処理と、その評価値に基づいてヘッドモデル40のパラメータの更新量を算出する処理と、算出した更新量に従い、ヘッドモデル40のパラメータを更新する処理とを行う。ヘッドモデル40のパラメータをモデルパラメータという。
【0090】
複数の学習データを用いて、モデルパラメータの更新を複数回行うことにより、ヘッドモデル40のモデルパラメータが最適化され、飛翔形状を精度よく予測できるヘッドモデル40が作成される。使用するインクとインクジェットヘッド202との組み合わせ毎に、対応するヘッドモデル40が作成される。
【0091】
《最適化したヘッドモデル40を用いた駆動波形探索方法》
図10は、本実施形態により最適化したヘッドモデル40を用いて有望な駆動波形を決定する処理を実行する情報処理装置500の機能的構成を概略的に示すブロック図である。情報処理装置500のハードウェア構成は、図7で説明した構成と同様であってよい。情報処理装置500の各部の処理機能は、プロセッサ102がプログラムの命令を実行することによって実現され得る。
【0092】
情報処理装置500は、制御部502と、波形生成部504と、ヘッドモデル40と、飛翔特性算出部506と、駆動波形決定部508と、記憶部510とを含む。制御部502は、各部の処理を統括制御する。制御部502は、波形生成部504に対して新規の駆動波形を生成する指示を与える。
【0093】
波形生成部504は、制御部502からの指定に従い、様々な波形の複数の駆動波形CDWkを生成する。添字kは、駆動波形を識別するインデックスである。例えば、400種類の駆動波形が生成される場合、kは1から400までの整数を取り得る。
【0094】
ヘッドモデル40は、図9で説明した情報処理装置400を用いて最適化されたモデルである。ヘッドモデル40は、駆動波形CDWkの入力を受けて、インクの吐出動作をシミュレーションして、シミュレーション結果としての予測飛翔形状SRkを出力する。すなわち、ヘッドモデル40を用いて駆動波形CDWkから飛翔の順方向予測を行う。飛翔特性算出部506は、ヘッドモデル40が出力した予測飛翔形状SRkから飛翔特性を算出する。予測飛翔形状SRkから算出される飛翔特性を「予測飛翔特性PFCk」という。予測飛翔形状SRk及び予測飛翔特性PFCkのそれぞれはヘッドモデル40を用いて予測される飛翔予測結果の一例である。
【0095】
制御部502は、駆動波形CDWk、予測飛翔形状SRk及び予測飛翔特性PFCkを紐付けて、これらのデータを記憶部510に記憶する。こうして、複数の駆動波形CDWk(k=1,2・・・)と、それぞれに対応する複数の予測飛翔形状SRk及び予測飛翔特性PFCkとを含むデータの集合が記憶部510に記憶される。
【0096】
駆動波形決定部508は、予測飛翔特性PFCkを基に、有望な駆動波形を決定する。駆動波形決定部508は、予測飛翔特性PFCkが予め定められた飛翔特性の許容範囲を満たし、かつ、最も良好な飛翔特性を達する駆動波形を最適な駆動波形として決定する。
例えば、駆動波形決定部508は、主滴とサテライト滴の滴速度、滴量、及び曳糸の長さのうち少なくとも1つによって特徴付けられた飛翔特性の評価値を基に、最適な駆動波形を決定する。
【0097】
なお、予測飛翔特性PFCkが許容される飛翔特性の条件を満たさない場合は、その駆動波形は候補から除外して、記憶部510にデータを記憶しなくてもよい。
【0098】
使用するインクとインクジェットヘッド202との組み合わせ対応するヘッドモデル40を用いて、そのインクの吐出に適した駆動波形が作成される。
【0099】
《コンピュータを動作させるプログラムについて》
情報処理装置300、情報処理装置400及び情報処理装置500の各装置における処理機能の一部又は全部をコンピュータに実現させるプログラムを、光ディスク、磁気ディスク、若しくは、半導体メモリその他の有体物たる非一時的な情報記憶媒体であるコンピュータ可読媒体に記録し、この情報記憶媒体を通じてプログラムを提供することが可能である。
【0100】
またこのような有体物たる非一時的なコンピュータ可読媒体にプログラムを記憶させて提供する態様に代えて、インターネットなどの電気通信回線を利用してプログラム信号をダウンロードサービスとして提供することも可能である。
【0101】
さらに、上述の各装置における処理機能の一部又は全部をクラウドコンピューティングによって実現してもよく、また、SaaS(Software as a Service)として提供することも可能である。
【0102】
《各処理部のハードウェア構成について》
情報処理装置300における制御部302、波形生成部304、画像処理部306、情報処理装置400におけるデータ取得部404、モデルパラメータ更新部406、情報処理装置500における制御部502、波形生成部504、飛翔特性算出部506、駆動波形決定部508などの各種の処理を実行する処理部(processing unit)のハードウェア的な構造は、例えば、次に示すような各種のプロセッサ(processor)である。
【0103】
各種のプロセッサには、プログラムを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるCPU、GPU、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。
【0104】
1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサで構成されてもよい。例えば、1つの処理部は、複数のFPGA、あるいは、CPUとFPGAの組み合わせ、又はCPUとGPUの組み合わせによって構成されてもよい。また、複数の処理部を1つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第一に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組み合わせで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第二に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0105】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0106】
《実施形態の利点》
上述した実施形態によれば、次のような効果が得られる。
【0107】
[1]使用するインクとインクジェットヘッドとの組み合わせに対して、実際の飛翔形状を学習データとして、ヘッドモデル40のモデルパラメータを最適化する処理が自動化され、吐出の挙動を精度よく模擬できるヘッドモデル40を作成することができる。
【0108】
[2]ヘッドモデルの作成に関して専門性を持たない技術者であっても、高性能なヘッドモデル40を作成することが可能である。
【0109】
[3]最適化したヘッドモデル40を用いて駆動波形を探索する処理を自動化したことにより、駆動波形の作成に関して専門性を持たない技術者であっても、一定レベルの飛翔特性を実現できる駆動波形を作成できる。
【0110】
[4]ユーザーの目的にあった駆動波形を選択できる。例えば、ベタの品質を重視する場合、滴量を優先し、サテライト滴を許容するなど、目的に合わせて飛翔特性について満たすべき条件を設定しておくことで、その条件に適合する駆動波形を作成できる。
【0111】
[5]インクの評価に使用することができる。従来は、駆動波形の最適化の良し悪しでインクの品質に対して優劣をつけることが難しかったが、本実施形態の手法によれば、好ましい飛翔特性の結果を得られる候補波形の数等の指標によってインク同士を比較することができる。
【0112】
[6]技術者による従来の駆動波形の作成方法では作成することが困難な高品質な駆動波形を見つけることができる。すなわち、人手では候補として想定することが困難な全く未知の駆動波形を探索することができる。
【0113】
[7]技術者による従来の駆動波形の作成方法よりも、効率的に短時間で有望な駆動波形を作成できる。
【0114】
《変形例1》
上述の実施形態では、実際の飛翔形状に関するデータとして、一定の時間間隔で撮影された時系列画像群を用いる例を説明したが、この時系列画像群の代わりに、例えば、駆動波形を印加してから所定時間経過後のインクの飛翔状態が撮影された1枚の画像を用いることも可能である。この場合の所定時間は、そのタイミングで撮影された1枚の画像に写るインクの位置からインクの滴速度、滴量、曳糸の長さ及びサテライト滴の有無など飛翔特性を特定できるように設定されることが望ましい。
【0115】
なお、実施形態で説明したように、時刻の異なる2枚以上の時系列画像群を用いることで、より正確な滴速度などの飛翔特性を把握することが可能であり、予測精度の高いヘッドモデル40を作成することができる。
【0116】
《変形例2》
学習データとして用いる実際の飛翔形状に関するデータは、撮影された画像に限らず、例えば、曳糸(液柱)の先端の位置、曳糸の長さなど、2次元の画像情報から得られる特徴量、特性値、或いは何かしらの物理量を示す数値などの情報であってもよい。
【0117】
例えば、上述の実施形態では、吐出実験によって観測された実際の飛翔形状と、ヘッドモデル40によって予測した飛翔形状との画像の重なり評価しながら、ヘッドモデル40のモデルパラメータの更新を行う例を説明したが、画像の重なりを評価する方法の代わりに、滴量若しくは滴速など1つ以上の飛翔特性に関するパラメータ値(特性値)を用いて、実際と予測との差異を評価することにより、モデルパラメータを最適化することも可能である。
【0118】
時系列の画像情報が最も情報量が多く、時系列の飛翔形状画像群を用いることで情報の欠損が最も少ないものとなるため、時系列の飛翔形状画像群を用いて画像の重なりを評価することによりヘッドモデル40を最適化する方が、最終的に得られるヘッドモデル40の予測精度が高いものとなることが期待される。
【0119】
その一方で、より簡易的な手法として、撮影画像から得られる適量などのパラメータ値を使ってヘッドモデル40を最適化してもよい。
【0120】
《変形例3》
本実施形態により最適化したヘッドモデル40は、駆動波形の探索に利用するだけでなく、例えば、インクの評価、及びインクジェットヘッドの設計支援などにも利用することができる。
【0121】
《装置応用例》
上述の実施形態では、インクジェット印刷に用いるインクジェット装置の例を説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。使用する液体の種類及び用途を問わず、圧電方式の液体吐出ヘッドを用いて液体を吐出する装置について本開示の技術を適用できる。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料(「液体」と総称)を用いて様々な形状やパターンを描画する液体吐出装置に広く適用できる。
【0122】
《その他》
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0123】
20 駆動波形
22 予備振動パルス
24 吐出パルス
26 残響抑制パルス
40 ヘッドモデル
42 等価回路モデル
44 流体解析モデル
100 情報処理装置
102 プロセッサ
104 コンピュータ可読媒体
106 通信インターフェース
108 入出力インターフェース
110 バス
112 メモリ
114 ストレージ
152 入力装置
154 表示装置
200 インクジェット装置
202 インクジェットヘッド
210 イジェクタ
212 ノズル
214 圧力室
216 圧電素子
218 ノズル流路
220 個別供給路
224 供給側共通流路
226 振動板
228 個別電極
230 圧電体
232 カバープレート
234 可動空間
250 駆動回路
300 情報処理装置
302 制御部
304 波形生成部
306 画像処理部
308 データ保存部
320 カメラ
400 情報処理装置
402 学習データ記憶装置
404 データ取得部
406 モデルパラメータ更新部
500 情報処理装置
502 制御部
504 波形生成部
506 飛翔特性算出部
508 駆動波形決定部
510 記憶部
DWj 駆動波形
CDWk 駆動波形
E1,E2,E3 電位差
FSj 飛翔形状画像群
FSj(t) 飛翔形状画像群
PFCk 予測飛翔特性
PFSj 予測飛翔形状
SRk 予測飛翔形状
t1~t9 時間
TDS 学習データセット
TDWj 駆動波形
TFSj 飛翔形状
ca 振動板のコンプライアンス
ra 振動板の抵抗
ma 振動板のイナータンス
ms 供給路のイナータンス
mr 供給路の抵抗
ci 圧力室のコンプライアンス
mm ノズル部のイナータンス
mr ノズル部の抵抗
S1 ヘッドモデルの作成方法のステップ
S2~S3 駆動波形作成方法のステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10