(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085121
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】基板保持装置、及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20240619BHJP
C23C 14/50 20060101ALI20240619BHJP
H10K 50/00 20230101ALI20240619BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20240619BHJP
H10K 71/00 20230101ALI20240619BHJP
【FI】
C23C14/54 D
C23C14/50 E
H10K50/00
H10K71/16
H10K71/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199478
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 慈
【テーマコード(参考)】
3K107
4K029
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC45
3K107GG04
3K107GG32
3K107GG33
3K107GG54
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA62
4K029BB03
4K029BC07
4K029BD01
4K029CA01
4K029DA03
4K029DA08
4K029DA12
4K029DB06
4K029EA08
4K029HA01
4K029JA06
4K029KA01
4K029KA09
(57)【要約】
【課題】成膜装置における基板のアライメント精度を高めることができる技術を提供する。
【解決手段】基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、基板を吸着する静電チャックと、静電チャックの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、静電チャックに接触する部材と、部材の温度を制御する温度制御手段と、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、
基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、前記静電チャックに接触する部材と、
前記部材の温度を制御する温度制御手段と、
を備えることを特徴とする基板保持装置。
【請求項2】
前記静電チャックに吸着された基板に向かってマスクを引き付ける磁力を発生させる磁力発生手段をさらに備え、
前記温度制御手段は、前記部材に接触した前記磁力発生手段を介して、前記部材の温度を制御することを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項3】
前記温度制御手段は、前記磁力発生手段と接触して配置される、又は、前記磁力発生手段に埋め込まれていることを特徴とする請求項2に記載の基板保持装置。
【請求項4】
前記部材の熱伝導率は、前記磁力発生手段の熱伝導率よりも高いことを特徴とする請求項2に記載の基板保持装置。
【請求項5】
前記静電チャックは、基材と、前記基材に埋め込まれた電極と、を有し、
前記部材の熱伝導率は、前記基材の熱伝導率よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の基板保持装置。
【請求項6】
前記温度制御手段は、
ペルチェ素子を備えた温調部材と、
前記ペルチェ素子に電流を流す電流供給部と、
前記電流供給部が前記ペルチェ素子に流す電流を制御する制御部と、
を含み、
前記制御部は、前記ペルチェ素子に流れる電流の向きが変わるように前記電流供給部を制御することで、前記部材が前記静電チャックを加熱する状態と、前記部材が前記静電チャックを冷却する状態と、を切り替えることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項7】
前記温度制御手段は、冷媒を流す冷却管であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項8】
前記温度制御手段は、放熱形状を有する部材であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項9】
前記温度制御手段は、ヒータであることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項10】
前記部材において前記静電チャックと接触する部分の面積は、前記静電チャックにおける基板の吸着面に交差する方向に射影した前記温度制御手段の面積よりも広いことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項11】
前記部材において前記静電チャックと接触する部分の面積は、前記静電チャックにおける基板の吸着面に交差する方向に射影した前記磁力発生手段の面積よりも広いことを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項12】
前記部材において前記静電チャックと接触する部分の面積は、前記静電チャックにおける基板の吸着面に交差する方向に射影した前記静電チャックの面積の50%以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の基板保持装置。
【請求項13】
チャンバと、
前記チャンバ内に設けられる蒸発源と、
前記チャンバ内に設けられ、基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックに吸着された基板の被成膜面に接合されるマスクと、
を備える成膜装置において、
前記静電チャックの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、前記静電チャックに接触する部材と、
前記部材の温度を制御する温度制御手段と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項14】
前記被成膜面に向かって前記マスクを引き付ける磁力を発生させる磁力発生手段をさらに備え、
前記温度制御手段は、前記部材に接触した前記磁力発生手段を介して、前記部材の温度を制御することを特徴とする請求項13に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に用いられる基板保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モニタ、テレビ、スマートフォンなどの表示画面として、有機EL表示装置などのフラットパネル表示装置が用いられている。有機EL表示装置のパネルは、2つの向かい合う電極(カソード電極、アノード電極)の間に発光を起こす有機物層が形成された構造を持つ。成膜装置を用いて有機EL表示パネルを形成する際は、成膜装置のチャンバに配置された基板ホルダによって基板の周縁部を保持し、チャンバ下部に設けられた蒸発源を加熱して金属または有機物の蒸着材料を放出し、マスクを介して基板の下面に蒸着させる。
【0003】
ここで、周縁部を保持される基板は、その中央部が自重により撓みを生じることがある。基板サイズの大型化が進むと、上記中央部の撓みもより大きくなり、蒸着精度に対する影響も大きくなる。そのような基板の撓みを軽減するための手法として、特許文献1では、静電チャック(ESC:Electrostatic chuck)を用いて基板を保持する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
成膜室内において蒸発源は非常に高温であり、成膜室内の他の部材と蒸発源との間には大きな温度差がある。そのため、静電チャックや基板、マスクの温度を制御することが困難であり、これらには、熱膨張による変形、サイズ変化が生じることがある。このサイズ変化の影響により、アライメント精度の低下や、膜質の低下が生じる可能性がある。
【0006】
本発明は、成膜装置において高い精度で温度制御を行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の基板保持装置は、
基板に成膜を行う成膜装置に用いられる基板保持装置であって、
基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、前記静電チャックに接触する部材と、
前記部材の温度を制御する温度制御手段と、
を備えることを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の成膜装置は、
チャンバと、
前記チャンバ内に設けられる蒸発源と、
前記チャンバ内に設けられ、基板を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックに吸着された基板の被成膜面に接合されるマスクと、
を備える成膜装置において、
前記静電チャックの熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、前記静電チャックに接触する
部材と、
前記部材の温度を制御する温度制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成膜装置において高い精度で温度制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】有機EL表示装置の製造ラインの一例を示す模式図
【
図4】本発明の実施例1に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図
【
図5】有機EL製造ラインにおける温調制御の一例を示す模式図
【
図6】本発明の実施例2に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図
【
図7】複数の温調部材の配置構成、制御構成を示す模式的平面図
【
図8】本発明の実施例3に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図
【
図9】本発明の実施例4に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図
【
図10】本発明の実施例5に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図
【
図11】本発明の実施例6に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明は、基板等の成膜対象物の表面に蒸着やスパッタリングにより成膜材料の薄膜を形成する成膜装置に好適である。本発明は、温調機構、基板保持装置および成膜装置、ならびに、これらの装置を用いた温調方法または制御方法として捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置やその制御方法、電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、温調方法や制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0012】
本発明における基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)など任意のものを利用できる。以下の説明における「基板」とは、基板材料の表面に既に1つ以上の成膜が行われたものを含む。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機EL素子を備える有機ELディスプレイ、それを用いた有機EL表示装置などの有機電子デバイスに好適である。本発明はまた、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサにも利用できる。
【0013】
<実施形態>
(装置構成)
図1は、成膜装置1の構成を模式的に示す平面図である。ここでは、有機ELディスプレイの製造ラインについて説明する。有機ELディスプレイを製造する場合、製造ラインに所定のサイズの基板を搬入し、有機ELや金属層の成膜を行った後、基板のカットなどの後処理工程を実施する。
【0014】
成膜装置1は、中央に配置される搬送室130と、搬送室130の周囲に配置される複数の成膜室110(110a~110d)およびマスクストック室120(120a、120b)を含む。成膜室110は、基板10に対する成膜処理が行われるチャンバを備える。マスクストック室120は使用前後のマスクを収納する。搬送室130内に設置された搬送ロボット140は、基板SやマスクMを搬送室130に搬入および搬出する。搬送ロボット140は、例えば、多関節アームに基板SやマスクMを保持するロボットハンドが取り付けられたロボットである。
【0015】
パス室150は、基板搬送方向において上流側から流れてくる基板Sを搬送室130に搬送する。バッファ室160は、搬送室130での成膜処理が完了した基板Sを下流側の他の成膜クラスタに搬送する。搬送ロボット140は、パス室150から基板Sを受け取ると、複数の成膜室110のうちの一つに搬送する。搬送ロボット140はまた、成膜処理が完了した基板Sを成膜室110から受け取り、バッファ室160に搬送する。
【0016】
図1に示す成膜装置1は、1つの成膜クラスタを構成しており、上流側や下流側に別の成膜クラスタを接続することができる。パス室150のさらに上流側や、バッファ室160のさらに下流側には、基板10の方向を変える旋回室170が設けられる。成膜室110、マスクストック室120、搬送室130、バッファ室160、旋回室170などの各チャンバは、製造過程で高真空状態に維持される。
【0017】
成膜装置1の複数の成膜室110a~110dにおける成膜材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、成膜室110a~110dそれぞれに異なる成膜材料の成膜源を配置し、基板Sが成膜室110a~110dを順に移動しながら積層構造を形成されるようにしてもよい。また、成膜室110a~110dに同じ成膜材料の成膜源を配置することで、複数の基板Sに並行して成膜を行ってもよい。また、成膜室110aと110cに第1の成膜材料を、成膜室110bと110dに第2の成膜材料を配置しておき、成膜室110aまたは110cで第1の層を成膜したのち、成膜室110bまたは110で第2の層を成膜するように制御してもよい。
【0018】
静電チャックの種類によっては、基板に導電体が付着している場合に基板の吸着力を高めることができる。そのような場合、基板のうち有機EL素子が形成される領域(典型的には基板の中央部)に、電極層となる金属材料の薄膜が既に形成されているときに効果的に吸着できる。例えば、成膜室110aで電極層が成膜された基板上に、成膜室110b~110dで有機層が順次成膜される場合、成膜室110b~110dに静電チャックを配置すると効果的である。
【0019】
(成膜室)
図2は、成膜室110の内部構成を示す断面図である。成膜室110では、搬送ロボット140からの基板SやマスクMの受け取り、搬送ロボット140への基板SやマスクMの受け渡し、基板SとマスクMの相対的な位置関係を調整するアライメント、マスクMへの基板Sの固定、成膜などの一連の成膜プロセスが行われる。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用い、Z軸まわりの回転をθで表す。
【0020】
成膜室110は、チャンバ200を有する。チャンバ200の内部は、成膜の間、真空雰囲気、または、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される。チャンバ200の内部には、静電チャックC、マグネット板MP、温調部材TM、冷却板CP、基板支持部210、マスク台221、蒸発源240(成膜源)などが設けられる。
【0021】
マスクMは、基板上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを持つ。マスク
Mとして例えば、パターンが形成された金属箔の周囲をフレームで支持するメタルマスクを利用できる。マスクMは、マスク台221の上に設置されている。本実施例の構成では、マスクM上に基板Sが位置決めされて載置されたのち、成膜が行われる。
【0022】
基板支持部210は、成膜室内部に搬送されてきた基板Sを受け取るための、複数の受け爪状の支持具210aを有する。静電チャックCは、成膜室内部における基板保持手段であり、基板支持部210に支持された基板Sを静電気力により吸着保持する。静電チャックCは、基板Sの、マスクMと接触する面(被成膜面)とは反対側の面に当接する。
【0023】
なお、基板支持部210は、支持具210aに対応する押圧具を有していてもよい。支持具210aと押圧具が基板Sの端部を挟持することで、静電チャックCに加えて基板支持部210でも基板Sを保持できるので、基板Sがより安定する。
【0024】
マグネット板MPは、マスクMを引きつけ基板Sの被成膜面に密着、吸着させるために設けられている。静電チャックCに吸着され相対的位置が調整(アライメント)された基板SをマスクMの上面に載置した(基板Sの被成膜面をマスクMに接合した)状態で、マグネット板MPを静電チャックCの上方から下降させて静電チャックCの上面(実施例1等では高熱伝導シートHTを介して)に当接させる。マグネット板MPは、静電チャックC及び基板Sを挟んでマスクMに磁力を印加する(磁気吸引力を作用させて上方(基板S側)に引き付ける)ことにより、マスクMを基板Sに密着させる。
【0025】
本実施例に係る成膜装置は、温調機構(温度制御手段)として、成膜時の基板Sの温度上昇を抑えて有機材料の変質や劣化を防ぐための温調ユニットTを備える。温調ユニットTは、一例として、温調部材TM、冷却板CPなどから構成されるが、具体構成については後述する。
【0026】
蒸発源240は、蒸着材料を収容するルツボ等の容器、ヒータ、シャッタ、駆動機構、蒸発レートモニタなどを含む成膜手段である。なお、成膜源は蒸発源には限られず、スパッタリング装置を用いてもよい。
【0027】
チャンバ200の外側上部には、アライメントステージ280、静電チャック昇降機構291、マグネット板昇降機構292などが設けられる。アライメントステージ280は、静電チャックC及びマグネット板MPを水平方向(XYθ方向)に移動させるための機構である。静電チャック昇降機構291は、静電チャックCをZ軸方向に昇降させるための機構である。マグネット板昇降機構292は、マグネット板MPをZ軸方向に昇降させるための機構である。これらにより、基板Sの被成膜面に沿った平面に交差する方向における、静電チャックCの基板Sに対する位置調整(相対距離の調整)、マグネット板MPのマスクMに対する位置調整が可能となる。
【0028】
アライメントステージ280は、アライメントステージ駆動用のモータ281の駆動力を、例えばUVW方式のアクチュエータ等を介して受けることで、チャンバ200に対して水平方向(XYθ方向)に相対移動可能に構成されている。チャンバ200の外側上面には、チャンバ200上面に固定設置されたガイドレール(不図示)や、ガイドレール上に移動可能に設置されたリニアブロックなどからなる3つの直動アクチュエータが、二つを互いに平行、一つを直交に配置されている。ベース板282は、3つのリニアブロックによって支持されており、チャンバ200の外側上面に設けられたモータ281の駆動力によって3つのリニアブロックをそれぞれ所定の方向に移動させることで、ベース板282が水平方向(XYθ方向)に移動する。3つのリニアブロックの移動方向の組み合わせにより、ベース板282は、水平方向の任意の位置に移動し、任意の方向に向きを変えることができる。このベース板282の動きにより、アライメントステージ280全体をチ
ャンバ200に対して水平方向(XYθ方向)に相対移動させることができる。
【0029】
アライメントステージ280は、後述する制御部270から送信される制御信号に従ったモータ281の駆動により静電チャックCを移動させることで、静電チャックCで吸着保持する基板SをX方向およびY方向に移動させ、θ方向に回転させる。なお、アライメントステージ280の駆動機構としては、上述したUVW方式のアクチュエータに限定されるものではなく、他の既知の構成を用いてもよい。
【0030】
静電チャック昇降機構291及びマグネット板昇降機構292は、アライメントステージ280に搭載されている。したがって、アライメントステージ280がチャンバ200に対して水平方向(XYθ方向)に移動することで、静電チャックC及びマグネット板MPもチャンバ200に対して水平方向(XYθ方向)に相対移動する。
【0031】
静電チャック昇降機構291は、静電チャックCをZ軸方向に昇降させる機構であり、アライメントステージベース板282上に搭載される。チャンバ200内の静電チャックCは、チャンバ200の天板を気密に貫通するシャフトを介して、チャンバ200外の静電チャック昇降機構291に連結されている。静電チャック昇降機構291は、静電チャック昇降駆動用のモータ(不図示)や、静電チャック昇降駆動用のアクチュエータ(不図示)などを備える。アクチュエータは、モータの駆動力を受けて、静電チャックCを支持するシャフトを昇降可能に構成されている。アクチュエータの具体例としては、例えば、リニアガイドや、ボールねじなどが挙げられる。
【0032】
マグネット板昇降機構292は、マグネット板MPをZ軸方向に昇降させる機構であり、アライメントステージベース板282上に搭載される。チャンバ200内のマグネット板MPは、チャンバ200の天板を気密に貫通するシャフトを介して、チャンバ200外のマグネット板昇降機構292に連結されている。マグネット板昇降機構292は、マグネット板昇降駆動用のモータ(不図示)や、マグネット板昇降駆動用のアクチュエータ(不図示)などを備える。アクチュエータは、モータの駆動力を受けて、マグネット板MPを支持するシャフトを昇降可能に構成されている。アクチュエータの具体例としては、例えば、リニアガイドや、ボールねじなどが挙げられる。
【0033】
このように、静電チャック昇降機構291及びマグネット板昇降機構292がアライメントステージ280のベース板282上に設置されている。したがって、アライメントステージ280が水平方向(XYθ方向)に移動することで、静電チャック昇降機構291及びマグネット板昇降機構292も(したがって、静電チャックCとマグネット板MPも)水平方向(XYθ方向)に移動する。その結果、例えば、基板Sと静電チャックCとの
間に位置ずれが生じたような場合にも、これらの間の相対位置を調整することができる。同様に、例えば、マスクMとマグネット板MPとの間に位置ずれが生じたような場合にも、これらの間の相対位置を調整することができる。
【0034】
また、本実施例では、基板支持部210及びマスク台221は、チャンバ200に対して、水平方向(XYθ方向)には固定されているが、鉛直方向(Z軸方向)には昇降可能に構成されている。基板支持部210及びマスク台221を鉛直方向に昇降させるための昇降機構は、チャンバ200の外部上面上にアライメントステージと分離、独立されるように設けられている。
【0035】
基板支持部210及びマスク台221の昇降機構(不図示)は、チャンバ200の外部上面に固定された、ベース板282とは別のベース板(不図示)に設置されており、アライメントステージ280とは分離、独立されている。したがって、アライメントステージ280が水平(XYθ)方向に移動しても、基板支持部210及びマスク台221は水平
(XYθ)方向には移動しない。
【0036】
なお、本実施例では、(静電チャックCの位置を調整することで)基板Sの位置を調整する構成としたが、基板SとマスクMを相対的に位置合わせできるのであれば、マスクMの位置を調整する構成や、基板SとマスクMの両方を調整する構成でもよい。
【0037】
静電チャックCが基板支持部210に支持された基板Sを保持する際には、まず静電チャック昇降機構291が静電チャックCを下降させ、静電チャックCを基板Sに当接または十分に接近させる。そして、制御部270が電源290を制御して、静電チャックCに埋設された電極に所定の吸着電圧を印加する。これにより静電チャックCにより基板Sが保持される。
【0038】
続いてアライメントの際には、静電チャック昇降機構291が静電チャックCをさらに下降させて、基板SをマスクMに接近させる。そして、アライメントステージ280がアライメントを行う。
【0039】
ここで、本実施例における静電チャックCは、本発明の基板保持装置を構成する要素となる。本発明の基板保持装置を構成する要素には、電源290や制御部270、静電チャック昇降機構291などが含まれる場合がある。後述する種々の形態の温調ユニットTあるいは温調ユニットTの構成要素は、本発明における温度制御手段等として、本発明の基板保持装置や成膜装置を構成する要素に含まれる。
【0040】
続いて成膜の際には、蒸発源240が成膜材料を放出する。成膜が完了すると、マグネット板昇降機構292がマグネット板MPを上昇させるとともに、静電チャック昇降機構291が静電チャックCを上昇させて、成膜済みの基板Sを搬送ロボットに受け渡す。そして、静電チャックCへの印加電圧を所定の剥離電圧(例えば0V)とすることで、基板Sの保持を解除する。
【0041】
チャンバ200の外側上部には、光学撮像を行って画像データを生成するカメラ262が設けられている。カメラ262は、チャンバ200に設けられた真空用の封止窓を通して撮像を行う。本実施例では基板Sの四隅に対応する複数のカメラ262が設けられている。それぞれのカメラ262は、撮像範囲に、基板Sの隅部に設けられた基板アライメントマークと、マスクMの隅部に設けられたマスクアライメントマークが含まれるように配置される。
【0042】
アライメント時には、カメラ262は、基板SおよびマスクMを撮像して画像データを制御部270に出力する。制御部270は撮像画像データを解析し、パターンマッチング処理などの手法により、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの位置情報を取得する。そして、基板アライメントマークとマスクアライメントマークの位置ずれ量に基づき、基板Sを移動させるXY方向、移動距離、回転角度θを算出する。そして、算出された移動量を、アライメントステージ280の各アクチュエータが備えるステッピングモータやサーボモータ等の駆動量に変換し、制御信号を生成する。なお、低解像だが広視野のラフアライメント用のカメラと、狭視野だが高解像のファインアライメント用のカメラを用いて、二段階アライメントを行ってもよい。
【0043】
制御部270は、不図示の制御線や無線通信を介して成膜装置1の各構成要素との間で通信を行い、各構成要素からデータを受信したり、各構成要素に信号を送って動作を制御したりする、情報処理装置である。制御部270は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部270の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行すること
により実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部270の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜室ごとに制御部270が設けられていてもよいし、1つの制御部270が複数の成膜室を制御してもよい。
【0044】
電源290は、不図示の導電線を介して成膜装置1の各構成要素に電圧を供給することが可能な高圧電源装置である。電源290は、制御部270からの指令に従って印加電圧の極性や大きさを制御する。電源290は、電圧供給手段と言える。静電チャックCの電極に対する印加電圧(吸着電圧)の極性や大きさを制御することで、基板Sに対する吸着力を制御することができる。なお、電源290と制御部270を合わせて、成膜装置の電源を構成すると考えてもよい。
【0045】
なお、本発明の適用対象は、上述のようなクラスタ型の成膜装置に限定されない。本発明は、複数のチャンバが真空一貫に連結され、基板キャリアに保持された基板がチャンバ間を移動しながら成膜されるようなインライン型の成膜装置にも適用できる。
【0046】
(静電チャック)
静電チャックCは、セラミック等で構成された板状の基材に、金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する。一般に静電チャックには、基板を吸着する原理に応じて、グラディエント力タイプ、クーロン力タイプ、ジョンソン・ラーベック力タイプなどの種類があるが、いずれにおいても印加する吸着電圧を高めるほど吸着力を高くすることができる。
【0047】
グラディエント力タイプの静電チャックは、電極間の電位差により発生した電位勾配(グラディエント)のある領域に向かって生じる吸引力を利用して、吸着対象物を吸着する。グラディエント力は、吸着対象物が絶縁体であっても発生するという特徴があるため、素ガラスや、導電体が未成膜のガラス基板であっても保持可能である。グラディエント力を発生させる際は、吸着対象物の電位を基準として、第1電極の電位が基準より高くなり、第2電極の電位が基準より低くなるように吸着電圧を印加する。このグラディエント力を大きくするためには、電位勾配をできるだけ急峻にするために、電極間のスペースを小さくすることと、電極を緻密に配置することが必要である。したがってグラディエント力タイプの静電チャックに用いる電極としては、突出した櫛歯が互いに噛み合うような構造を持つ、2つの櫛歯電極が好適である。
【0048】
クーロン力タイプの静電チャックは、2つの電極にそれぞれ正電位と負電位の電圧を印加することで発生する静電引力により吸着対象物を吸着するものであり、吸着対象物が導電体である場合に効果的である。そのため、金属材料の電極層が成膜済みの基板であれば効果的に吸着できる。吸着対象物がグランドに接続されていないフローティング状態の場合は、正電極と負電極の両方を吸着対象物に対向させることで、吸着対象物内に分極を発生させ、吸着することができる。また吸着対象物が接地されている場合は、正電極と負電極の少なくともいずれかにより吸着することができる。クーロン力は一般にグラディエント力よりも強い。また、吸着対象物に対向する電極の面積が大きくなるほど、吸着力が強くなる。したがって吸着力を高めるためには、静電チャックの面積に占める電極面積の割合をできるだけ大きくする必要がある。
【0049】
ジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックは、正電極、吸着対象物、負電極の順に漏れ電流を流すことで、導電体の吸着対象物を吸着するものであり、電極と吸着対象物の間に所定の範囲の体積抵抗値を持つ誘電体を配置する必要がある。ジョンソン・ラーベック力は一般にクーロン力よりも強い。またジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャ
ックにおいても、吸着対象物との接触面積を大きくするほど吸着力を強くすることができる。
【0050】
(有機EL表示装置の製造ライン)
図3に、有機EL表示装置の製造ラインの一例を示す。
図3に示す製造ラインは、
図1に示す4つの成膜室11を備えた成膜クラスタ(成膜装置)1が5つ(成膜クラスタ1-1~1~5)、2つの成膜室11を備えた成膜クラスタ1bが一つ(成膜クラスタ1-6)、直列的に接続されたラインとなっている。
【0051】
5つの成膜クラスタ1―1~1-5のうち、ライン上流の4つの成膜クラスタ1-1~1-4は、製造ラインにおいて、計8層の有機層を形成する第一の有機蒸着部102を構成し、各成膜クラスタにおいて2層ずつ有機層が基板Sに成膜される。第一の有機蒸着部102のライン下流の成膜クラスタ1-5は、製造ラインにおける金属蒸着部103を構成し、2層の金属層が基板Sに成膜される。そのライン下流の成膜クラスタ1bは、製造ラインにける第二の有機蒸着部104を構成し、1層の有機層が基板Sに成膜される。
【0052】
有機EL表示装置の製造ラインにおいて、基板Sは、先ず前処理部101に投入され、必要な前処理工程を施された後、第一の有機蒸着部102、金属蒸着部103、第二の有機蒸着部104を経て、後処理工程に運ばれる。
図3に示す製造ラインにおいては、基板Sは、例えば、図中矢印で示すAルート、もしくはBルートを通り、後工程に流れる。
【0053】
基板Sは、各蒸着部102~104において加熱される。すなわち、基板Sは、製造ラインを通過する過程で繰り返し加熱されることになる。一般的に、蒸着源を蒸発させるためには、有機膜の成膜では450℃近辺まで、金属膜の成膜では1300℃近辺まで蒸着源が加熱される。
【0054】
仮に、上記ラインにおいて、有機蒸着室で0.1℃、金属蒸着室で0.3℃、基板Sが温度上昇すると仮定すると、真空環境下ではほとんど放熱しないため、前処理部101に23℃で投入された基板Sは、11回蒸着されて24.5℃に上昇する。一般的なガラス基板の熱膨張率を3.8×10^-6/m/℃とすると、1mあたり3.8×10^-6×24.5℃=93.1μm伸びることになる。また、有機蒸着室から次の有機蒸着室に移動する際も、3.8×0.1=0.38μm/m伸びることになる。大型サイズに分類されるG8Hサイズのガラス基板では、長辺が2.5mあり、0.1℃の温度変化でも0.38×2.5=0.95μmも伸びることになる。
【0055】
上記のようなサイズ変化が生じてしまうと、例えば、基板SとマスクMとを±2.0μmでアライメントしていたとしても、基板Sの伸びによるズレが生じ、アライメント精度が低下する可能性がある。さらに、アライメント精度の低下により、膜質が低下し、良好な蒸着結果が得られなくなる可能性がある。また、蒸着時の高温によるサイズ変化は、静電チャックCにも生じ得るため、静電チャックCのサイズ変化も重なることで、アライメント精度の低下がより増長される可能性がある。
【0056】
(温調機構)
本実施形態における成膜装置は、上述した有機EL製造ラインにおける基板Sの伸びの影響を抑制すべく基板Sの温度を制御する手段として、基板Sを貼着する静電チャックCの温度を制御する温調機構(温度調整手段)を備える。静電チャックCを温調することで、蒸着により基板Sに付与される熱を、静電チャックCを介して吸収し、基板Sの温度上昇を抑制する。さらには、次工程に投入される前の基板Sの温度を、次工程において好適な投入温度まで温度を下げてから、基板Sを次工程に流すことができるように制御する。なお、ここでは基板の温度が上昇する例を示しているが、搬送過程で基板の温度が低下し
ていくこともある。その場合には、次工程において好適な投入温度まで温度を上げてから、基板Sを次工程に流すことができるように制御する。基板の温度を一定に保つことに限らず、各チャンバで異なる目標の基板温度に制御してもよい。目的に応じて、温度調整手段は、加熱及び冷却の両方を行うもの、加熱のみを行うもの、並びに、冷却のみを行うものが適宜採用される。
【0057】
以下に、温調機構の具体的構成例として、実施例1~7に係る温調ユニットT1~T7を示す。
【0058】
<実施例1>
図4は、本発明の実施例1に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【0059】
図4に示すように、本実施例の成膜装置における温度調整手段は、温調ユニットT1を備える。温調ユニットT1は、温調部材TM、高熱伝導シートHT、冷却板CPなどを備える。温度調整手段を構成する要素しては、温調ユニットT1の他、温度センサTS1、温度センサTS2(
図2参照)、第1の伝熱部材としてのマグネット板MP、第2の伝熱部材としての静電チャックCなどが含まれる。
【0060】
(温調部材TM)
本実施例の温調部材TMは、ペルチェ素子が組み込まれた板状の温調部材である。温調部材TMは、マグネット板MPと一体的に設けられており、マグネット板MPとともに昇降する。具体的には、マグネット板MPのベース板BPの上面(静電チャックCに対向する側の面とは反対側の面)に接触配置されている。
【0061】
また、本実施例では、温調部材TMを複数分割配置している。すなわち、マグネット板MPのベース板BPの上面に複数の温調部材TMを等間隔に配置している。なお、温調部材TMがベース板BP上面の略全域に渡って接触するように、温調部材TMを一枚の部材で構成してもよい。すなわち、温調部材TMの構成は、
図4に示す構成に限定されない。
【0062】
また、温調部材TMの上面(マグネット板MPに接する面とは反対側の面)には、冷却板CPが接触配置されている。すなわち、温調部材TMは、マグネット板MPと冷却板CPとの間にZ軸方向に挟まれた配置となっており、直接的には、マグネット板MPと冷却板CPとの間で熱交換を行うように構成されている。
【0063】
ここで、ペルチェ素子は、P型半導体、N型半導体を交互に配列した板状の素子である。ペルチェ素子に直流電流を流すと、素子の両面間で熱が移動し、一方の面は発熱して温度が上がり、反対側の他方の面は吸熱して温度が下がる現象が起こる。このペルチェ素子に入力する電流の方向を切り替えることで、加熱・冷却を行うことができる。一般的に、ペルチェ素子は、温調素子の中でも応答が速く、高速でスイッチングが可能なため、高精度な温度制御が可能である。
【0064】
(高熱伝導シートHT)
高熱伝導シートHT(高熱伝導部材)は、静電チャックCやマグネット板MPよりも熱伝導率が高い材料から構成されたシート状部材である。高熱伝導シートHTは、静電チャックCの上面261(基板Sを吸着する吸着面260とは反対側の面)に接触配置されている。マグネット板MPがマスクMを基板Sに引き付ける(吸着させる)ために静電チャックCに向かって下降すると、マグネット板MPのマグネットMGが、高熱伝導シートHTの上面(静電チャックCに接する面とは反対側の面)に接触する。すなわち、高熱伝導シートHTは、マグネット板MPの下降時(マスクMの吸引動作時)において、静電チャックCとマグネット板MPとの間にZ軸方向に挟まれた配置状態となる。この状態におい
て、高熱伝導シートHTは、静電チャックCとマグネット板MPとの間で熱交換を行うように構成されている。
【0065】
静電チャックCよりも熱伝導率が高い高熱伝導シートHTが静電チャックCに接触することで、静電チャックCを効率良く冷却することが可能である。この冷却効果は、高熱伝導シートHTと静電チャックCとの接触面積の大小に関わらず得ることが可能であるが、接触面積が大きくなるほど、冷却効果は高くなる。
【0066】
ここで、本実施例では、高熱伝導シートHTと静電チャックCとの接触面積が、マグネット板MPの複数のマグネットMGのZ軸方向の射影面積(複数のマグネットMGにおける高熱伝導シートHTとの総接触面積)よりも広くなる構成としている。これにより、マグネット板MPの複数のマグネットMGが直接、静電チャックCと接触する場合よりも、冷却効果を高めることができる。
【0067】
また、本実施例では、高熱伝導シートHTと静電チャックCとの接触面積が、温調部材TMのZ軸方向の射影面積(複数の温調部材TMにおけるマグネットMG(ベース板BP)との総接触面積)よりも広くなる構成としている。これにより、複数の温調部材TMが直接、静電チャックCと接触する場合よりも、冷却効果を高めることができる。
【0068】
さらに、本実施例では、高熱伝導シートHTと静電チャックCとの接触面積を可能な限り広く確保し、かつ、高熱伝導シートHTが静電チャックCの上面261全体に満遍なく接するように構成している。例えば、高熱伝導シートHTと静電チャックCとの接触面積が、Z軸方向に射影した静電チャックCの面積の50%以上であると好適である。これにより、静電チャックCの温度を全体的に均一に下げることが可能となる。
【0069】
(冷却板CP)
冷却板CPは、ステンレスからなる板状の冷却部材であり、その内部に、冷媒を流す冷却管である水路WPを備えている。水路WPは、チャンバ200の外部との間で冷媒としての冷却水を循環可能に構成されており、冷却板CPに付与された熱を、冷却水で吸収して外部へ排出することが可能である。冷却板CPは、冷却効果をより高めるためのオプション構成であり、温調ユニットT1から省いてもよい。
【0070】
(温度センサTS1)
温度センサTS1(第1温度検知手段)は、静電チャックCの温度を検知する温度センサであり、静電チャックCの基材250に組み込まれており、検知温度を制御部270に送ることができるように構成されている。温度センサTS1としては、例えば、サーミスタやダイオード等を用いることができる。
【0071】
本実施例では、基板Sを貼着している静電チャックCの温度を、常に、温度センサTS1でモニタする。基板Sは蒸着の熱エネルギーを受けることで温度上昇し、その熱エネルギーが静電チャックCに伝わる。このときの静電チャックCの温度を温度センサTS1で検知し、温調ユニットT1(特に温調部材TM)による冷却動作にフィードバックする。
【0072】
(温度センサTS2)
温度センサTS2(第2温度検知手段)は、マスクMの温度を検知する温度センサであり、
図2に示すようにチャンバ200の側壁に設けられており、検知温度を制御部270に送ることができるように構成されている。温度センサTS2としては、例えば、マスクMから放出される電磁波(光)からマスクMの温度を測定する放射温度計を用いることができる。
【0073】
(温度制御部)
制御部270は、電源290から供給される電力をもとに温調部材TMのペルチェ素子へ電流を流す電流供給部(
図7参照)を備える。制御部270は、温度制御手段における制御部として、電流供給部が温調部材TMのペルチェ素子に流す電流を制御することで、温調部材TMの温度(熱交換状態)を制御する。制御部270は、電源290とともに、本発明の温度制御手段の構成(温度制御部)に含まれると考えてよい。
【0074】
制御部270は、温度センサTS1の検知温度や温度センサTS2の検知温度に基づいて、温調部材TMを制御する。具体的には、例えば、基板Sが複数の成膜室に渡って成膜される場合において、現在の成膜室(第1成膜室)に備えられた静電チャックCの温度が、次の成膜室(第2成膜室)に備えられたマスクMの温度に近づくように制御する。この際に、次の成膜室(第2成膜室)に備えられたマスクMの温度を、次の成膜室のチャンバ200に備えられた温度センサTS2を用いて検知する。
【0075】
すなわち、現在の成膜室(第1成膜室)の静電チャックC(第1静電チャック)の温度を、現在の成膜室(第1成膜室)の静電チャックC(第1静電チャック)に備えられた温度センサTS1(第1温度センサ)によりモニタする。それとともに、次の成膜室(第2成膜室)のマスクM(第2マスク)の温度を、次の成膜室(第2成膜室)に備えられた温度センサTS2(第2温度センサ)により検知する。そして、温度センサTS1(第1温度センサ)の検知温度が、温度センサTS2(第2温度センサ)の検知温度に近づくように、現在の成膜室(第1成膜室)の温調部材TM(第1温調部材)の電流印加を制御する。
【0076】
図5は、有機EL製造ラインにおける温調制御の一例を示す模式図である。有機EL製造ラインにおいて、基板Sの温度を、各工程におけるチャンバ200内の温度や各工程におけるマスクMの温度に合わせることが要求される場合がある。
図5に示すように、各成膜クラスタ1―1~1-5、1bにおいて、成膜条件の違い等によりマスクMの温度が異なる場合がある。また、
図3に示す本実施例の温調制御を行わない場合の基板Sの温度上昇との対比で理解されるように、特に、ライン後半において、基板SとマスクMの温度差はより顕著なものとなる。
【0077】
本実施例によれば、静電チャックCの温度、すなわち、基板Sの温度を、各チャンバ200内の温度やマスクMの温度に合わせることが可能となる。すなわち、本実施例によれば、基板Sの温度を、
図5に示す各成膜クラスタ1―1~1-5、1bのマスクMの温度に合せるように制御することが可能である。
【0078】
(その他の伝熱部材)
マグネット板MPは、静電チャックCと接触する部材であり、温調ユニットTの具体態様によっては、静電チャックCとともに、基板Sと温調部材TMとの間において熱の伝達を担う伝熱部材と捉えることができる。すなわち、本発明の温度制御手段の構成に含まれると考えてよい。
【0079】
マグネット板MPは、ベース板BPと、複数のマグネットMGと、から構成される磁力発生手段である。複数のマグネットMGは、ベース板BPの下面(ベース板BPにおいて静電チャックCと対向する側の面)に等間隔配置で貼り付けられている。個々のマグネットMGは、ベース板BPの下面から静電チャックCが配置される側に向かってZ軸方向に突出する突起状に構成されており、その先端面が高熱伝導シートHTの上面と接触する。
【0080】
複数のマグネットMGは、その磁力によってマスクMを基板Sに向かって(Z軸方向に)引き付けるものであり、その配置は特に限定されるものではないが、例えば、マスクM
のフレーム形状に対応した配置が採用される場合がある。すなわち、静電チャックCの上面261の全域に対応して満遍なく散らばった配置ではなく、偏った配置となる場合がある。
【0081】
また、静電チャックCは、温調対象である基板Sと接触する部材であり、基板Sの温調の観点からは、基板Sと温調部材TMとの間において熱の伝達を担う伝熱部材と捉えることができる。静電チャックCは、セラミック等からなる基材250中に正電極251と負電極252が埋め込まれた構成となっている。正電極251および負電極252は、電源290に接続されており、制御部270の制御により所望の大きさの電圧を印加され、電圧の大きさに対応する吸着力を発生させて、基板Sを引き付ける。
【0082】
(温調ユニットT1の構成的特徴)
本実施例の温調ユニットT1は、ペルチェ素子などから構成される温調部材を用い、静電チャックCの温度やマスクMの温度をモニタしながら、静電チャックCの温度を制御するように構成した。また、静電チャックCに高熱伝導シートHTを接触させる構成とし、該高熱伝導部材を介して(該高熱伝導部材の温度を制御することで)静電チャックCの温度を制御するように構成した。
【0083】
さらに、温調ユニットT1の構成を、Z軸方向(静電チャックCの吸着面260に交差する方向)において、マスクM側から見て、マスクM、静電チャックC、マグネット板MP、温度制御手段(温調部材TM、冷却板CPなど)の順に並ぶ構成とした。かかる構成によれば、例えば、温度制御手段の中に磁性部材が含まれるような場合であっても、該磁性部材がマグネット板MPによるマスクMの吸着効果に及ぼす影響を小さくすることができる。
【0084】
成膜装置に用いられる温度制御手段(冷却手段)としては種々の構成が挙げられ、例えば、本実施例の上記温度制御手段とは別に、マグネット板MPとマスクMの間に、さらに別の冷却部材を配置するような構成も考えられる。そのような構成においても、本実施例の温調ユニットT1の構成を採用することで、冷却手段の少なくとも一部がマグネット板MPのマスク吸着に対して影響の少ない位置に配置されることになり、上記と同様の効果を得ることができる。当然ながら、温度制御構成が本実施例の温調ユニットT1に集約されることで、マグネット板MPのマスク吸着に対する影響を低減する効果がより高められることは言うまでもない。
【0085】
(温調制御)
本実施例の温調ユニットT1を用いた静電チャックCの温調は、マグネット板MPが静電チャックCから離間した位置(第1の位置)から下降し(高熱伝導シートHTを介して)静電チャックCと接触する位置(第2の位置)にあるときに、最大の効果が得られる。マグネット板MPを静電チャックCに接触させる(下降させる)のは、成膜工程の流れの中では、アライメントされた基板SがマスクMに載置された状態となった後、すなわち、マグネット板MPの磁力によってマスクMを基板Sに密着させる際が典型的である。
【0086】
温調ユニットT1において、特に、温調部材TM(ペルチェ素子)の制御を行うタイミングや期間としては、蒸発源240が成膜材料を放出するとき、すなわち、基板Sが最も高温に曝されるときが典型的である。また、成膜終了後も、マグネット板MPを静電チャックCに接触させたまま、すなわち、マスクMに基板Sを密着させたままとして、例えば、シャッタを備える成膜装置であればシャッタを閉じた状態として、温調を継続してもよい。あるいは、成膜中は温調せず、成膜終了後に、マグネット板MPを静電チャックCに接触させたままにして、初めて温調を開始するようにしてもよい。
【0087】
また、温調部材TM(ペルチェ素子)の制御による温調を、成膜動作中とは別のタイミングで行うようにしてもよい。例えば、成膜動作の前後の基板Sを搬送している最中に、マグネット板MPを静電チャックCに接触させて静電チャックCの温度を制御する構成としてもよい。すなわち、マスクMの基板Sへの吸着を伴わないマグネット板MPの静電チャックCへの接触(下降)を行い、温調部材TM(ペルチェ素子)の制御による温調を行うようにしてもよい。
【0088】
また、後述する実施例2のように、ペルチェ素子からなる温調部材TMが直接、静電チャックCに取り付けられる構成においては、成膜装置の動作状況に関わらず、任意のタイミングで静電チャックCの温調を行うようにしてよい。
【0089】
また、温調ユニットT1による温調制御は、典型的には、基板Sを冷却することである。しかしながら、例えば、
図5に示す成膜ラインにおいて基板Sの温度がマスクMの温度に対して低くなってしまったような場合には、温調部材TMのペルチェ素子の動作によって静電チャックCを加熱する場合もあり得る。したがって、温調部材TMとしては、ペルチェ素子を用いたものに限られず、電熱線等から構成されるヒータを用いたものであってもよい。
【0090】
また、温調ユニットT1による温調制御の目的の一つは、上述したように、
図5に示すような一連の成膜ライン(複数の成膜室を跨いでの複数回の成膜動作)での流れにおいて、次の成膜で使用されるマスクMの温度に合せて基板Sを温調することである。しかしながら、温調ユニットT1による温調制御の目的は、上記に限定されない。
【0091】
例えば、基板Sに蒸着させる膜の特性によっては、できるだけ基板Sの温度を下げたい、あるいは上げたい、といったことの要求がある場合がある。そのような場合には、一つの成膜室において、静電チャックCの検知温度に基づいて静電チャックC(すなわち基板S)の温度を温調ユニットT1により制御してよい。
【0092】
また、ペルチェ素子による冷却又は加熱は、温調部材TMが接している部材の温度を変化させ、さらに、当該部材に接する別の部材の温度も熱伝導により連鎖的に変化させていく。すなわち、温調部材TMがマグネット板MPを冷却することで、マグネット板MPに接した高熱伝導シートHT、高熱伝導シートHTに接した静電チャックC、静電チャックCに接した基板Sが、順次冷却されることになる。そして、当然ながら、基板Sに接したマスクMも冷却されることになる(温調部材TMは、上記各部材の温度を制御する温度制御手段である)。
【0093】
成膜室での熱源は、気化した成膜材料と蒸発源からの輻射熱であり、これらは主にマスクMと基板Sを加熱する。基板SとマスクMの温度は、最終的には、加熱エネルギーの量と静電チャックCを介した冷却能力の差で変化し、また、蒸発源に近い側の温度が高くなる温度勾配は生じ得るものの、本実施例の温調ユニットT1による冷却を行わない場合と比べれば、基板SとともにマスクMの温度上昇も抑制されることになる。すなわち、本実施例の温調ユニットT1による温調制御は、基板Sの温調(冷却)が第一ではあるものの、間接的には、マスクMの昇温抑制するものと言うこともできる。
【0094】
したがって、例えば、
図5に示す成膜ラインと異なり、各成膜室内のマスクMの温度をそれぞれ同じ温度に制御したいような場合において、本実施例の温調ユニットT1による温調制御を利用することも可能である。
【0095】
<実施例2>
図6、
図7を参照して、本発明の実施例2に係る温調ユニットT2について説明する。
図6は、本発明の実施例2に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
図7は、
図6のAA矢視図に対応する図であり、複数の温調部材の配置構成、制御構成の別の例を示す模式的平面図である。
【0096】
ここでは、実施例2の構成において、実施例1の構成とは異なる点についてのみ説明する。実施例2の構成において、実施例1の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0097】
実施例1の温調ユニットT1では、温調部材TMが、静電チャックCとは直接接触せずに、マグネット板MP及び高熱伝導シートHTを介して、静電チャックCを温調する構成とした。これに対し、実施例2の温調ユニットT2では、
図6に示すように、温調部材TMを静電チャックCの上面261に直接接触するように配置した。
【0098】
すなわち、実施例2の温調ユニットT2では、静電チャックCに伝わった熱エネルギーを、ペルチェ素子からなる温調部材TMで直接的に熱回収し、静電チャックCを冷やす一方、マグネット板MPに熱エネルギーを輻射伝達する。マグネット板MPに伝わった熱エネルギーは、冷却板CPに設けられた水路WPで回収する。これにより、基板Sを、温度上昇を抑制して次工程に送ることができる。
【0099】
図7に示すように、実施例2の温調ユニットT2は、静電チャックCの上面261を複数の領域261-1~261-4に分割し、各分割領域261-1~261-4にそれぞれ独立した温調部材TM1~TM4を配置する構成としている。そして、各温調部材TM1~TM4をそれぞれ独立して制御可能に構成している。すなわち、複数の温調部材TM1~TM4にそれぞれに対応した複数の電源回路部TC1~TC4を設ける構成としている。各電源回路部TC1~TC4はそれぞれ、二つの電源と二つのスイッチが並列接続された構成となっており、ペルチェ素子に入力される電流の方向を切り替えることで、それぞれ個別にペルチェ素子の加熱状態と冷却状態とを切り替え可能に構成されている。
【0100】
また、実施例2の温調ユニットT2は、静電チャックCの温度検知手段として、複数の分割領域261-1~261-4及び複数の温調部材TM1~TM4に対応して、複数の温度センサTS1-1~TS1-4を設ける構成としている。すなわち、静電チャックCを複数の領域に分け、各領域に温度センサを配置して各領域の温度をモニタし、各領域が所望の温度になるようにペルチェ素子に電流を流し、静電チャックCの温度を制御する。これにより、分割領域261-1~261-4の間の温度差に対応した温調制御、例えば、当該温度差を小さくするような制御が可能となる。
【0101】
なお、追加の構成として、温調部材TMとマグネット板MPとの間の熱伝達を高めるために、例えば、複数のマグネットMG間のスペースに高熱伝導部材を配置し、該高熱伝導部材を介して温調部材TMとベース板BPが接続するようにしてもよい。
【0102】
また、静電チャックCの上面261を縦横2つずつの4つの分割領域261-1~261-4に分割し、温調部材TM1~TM4、電源回路部TC1~TC4、温度センサTS1-1~TS1-4をそれぞれ4つずつ設ける構成としたが、分割数や分割の仕方は、これに限定されない。
【0103】
<実施例3>
図8を参照して、本発明の実施例3に係る温調ユニットT3について説明する。
図8は、本発明の実施例3に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【0104】
ここでは、実施例3の構成において、実施例1、2の構成とは異なる点についてのみ説
明する。実施例3の構成において、実施例1、2の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0105】
実施例3の温調ユニットT3は、静電チャックCよりも熱伝導率が高く、かつ、マグネット板MPよりも熱伝導率が高い、非磁性体金属部材MMを、マグネット板MPのベース板BPに取り付けた構成としている。非磁性体金属部材MMを設ける代わり、実施例3の温調ユニットT3は、実施例1の温調ユニットT1の高熱伝導シートHTを排した構成となっている。
【0106】
上述したように、マグネット板MPが備える複数のマグネットMGは、静電チャックCの上面261に対してその全域に満遍なく配置されず、偏った配置とされる場合が有り得る。また、温度伝達の観点からは、十分な接触面積を確保できないような配置構成となることもあり得る。すなわち、マグネット板MPにおいて、少なくともマグネットMGは、マスクMの磁力吸引効果の確保を第一として配置される部材である。したがって、マグネットMGとは別に、伝熱性確保を第一とした部材を配置することが好適である。
【0107】
そのような観点から、実施例3の温調ユニットT3は、複数の非磁性体金属部材MMを、マグネット板MPの静電チャックCとの対向面における複数のマグネットMGの間のスペースに配置した。各非磁性体金属部材MMは、マグネットMGの上記対向面から、マグネットMGよりも静電チャックCに向かって突出している。したがって、マグネット板MPが下降すると、非磁性体金属部材MMの先端面が静電チャックCの上面261に接触した状態となる。マグネットMGと静電チャックCの上面261との間には隙間が形成されるが、マグネットMGの高さは、マスクMの磁力吸引力が十分確保されるように構成される。
【0108】
なお、実施例3の温調ユニットT3において、実施例1の温調ユニットT1の高熱伝導シートHTを静電チャックCの上面261に配置し、非磁性体金属部材MMが高熱伝導シートHTを介して静電チャックCと接続される構成としてもよい。
【0109】
<実施例4>
図9を参照して、本発明の実施例4に係る温調ユニットT4について説明する。
図9は、本発明の実施例4に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【0110】
ここでは、実施例4の構成において、実施例1~3の構成とは異なる点についてのみ説明する。実施例4の構成において、実施例1~3の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0111】
上述したように、冷却板CPは、温調ユニットTにおいてオプションの構成である。したがって、実施例4の温調ユニットT4では、実施例1~3とは異なり、
図9に示すように冷却板CPを排した構成とした。基板Sの温調が温調部材TMによる温調能力で十分に賄えるような場合には、冷却板CPを排することによるコストメリットが得られる。
【0112】
なお、追加の構成として、温調部材TMとマグネット板MPとの間の熱伝達を高めるために、例えば、複数のマグネットMG間のスペースに高熱伝導部材を配置し、該高熱伝導部材を介して温調部材TMとベース板BPが接続するようにしてもよい。
【0113】
<実施例5>
図10を参照して、本発明の実施例5に係る温調ユニットT5について説明する。
図10は、本発明の実施例5に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【0114】
ここでは、実施例5の構成において、実施例1~4の構成とは異なる点についてのみ説明する。実施例5の構成において、実施例1~4の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0115】
実施例5の温調ユニットT5は、実施例1~4の温調ユニットT1~T4におけるペルチェ素子を用いた温調部材TMに代替する冷却手段として、マグネット板MPのベース板BPに冷媒を流す冷却管である水路WPを設けた構成となっている。実施例5の温調ユニットT5では、マグネット板MPに埋め込まれた温度制御手段として、水路WPを冷媒としての冷却水が循環する。これによってベース板BPが冷却され、静電チャックCに対して、高熱伝導シートHT、マグネットMGを介して、熱交換が行われる。
【0116】
水冷式の温調構成は、高い応答性や微調整の可否が求められないような成膜環境や成膜装置構成において、温調部材TM(及び、これを制御する電源回路部)を排することによるコストメリットが得られる。
【0117】
なお、追加の構成として、温調部材TMとマグネット板MPとの間の熱伝達を高めるために、例えば、複数のマグネットMG間のスペースに高熱伝導部材を配置し、該高熱伝導部材を介して温調部材TMとベース板BPが接続するようにしてもよい。
【0118】
<実施例6>
図11を参照して、本発明の実施例6に係る温調ユニットT6について説明する。
図11は、本発明の実施例6に係る温調機構の構成を説明する模式的断面図である。
【0119】
ここでは、実施例6の構成において、実施例1~5の構成とは異なる点についてのみ説明する。実施例6の構成において、実施例1~5の構成と同様のものについては、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0120】
実施例6の温調ユニットT6は、他の実施例の温調ユニットTにおけるペルチェ素子を用いた温調部材TMや冷却板CPに代替する冷却手段として、ヒートシンクHSを備えた構成とした。ヒートシンクHSは、マグネット板MPのベース板BPの上面(静電チャックCとの対向面とは反対側の面)に設けられている。
【0121】
ヒートシンクHSは、ベース板BPとの接触面とは反対側の面に複数の突起部を有しており、突起部が設けられた側の凹凸形状の表面積が接触面の面積よりも広くなる放熱構造(ヒートシンク構造)を有している。すなわち、ヒートシンクHSは、ベース板BPとの接触面に伝達された静電チャックCの熱を、接触面とは反対側の凹凸形状面において放熱し、静電チャックCの冷却を促すように構成されている。
【0122】
ヒートシンクHSの放熱形状部の具体的な構成は、特定のものに限定されない。放熱形状部の突起部の形状としては、例えば、板状の突起部でもよいし、柱状の突起部でもよいし、他の形状の突起部でもよい。さらに、互いに形状の異なる複数の突起を組み合わせたものでもよい。
【0123】
本実施例の温調ユニットT6は、特に、蒸着による蓄熱がマグネット板MPからの放熱量よりも同等以下となるような成膜装置において好適に採用し得る。すなわち、成膜条件によっては、本実施例の温調ユニットT6の、マグネット板MPにヒートシンクHSを追加するのみの簡素な構成により、有効な冷却を行うことが可能である。
【0124】
なお、追加の構成として、温調部材TMとマグネット板MPとの間の熱伝達を高めるために、例えば、複数のマグネットMG間のスペースに高熱伝導部材を配置し、該高熱伝導
部材を介して温調部材TMとベース板BPが接続するようにしてもよい。
【0125】
上述した実施例1~6の各構成は、互いに任意に組み合わせることができる。また、各実施例の冷却手段は、いずれも加熱手段あるいは加熱と冷却の両方を行う温度調節手段に置換できる。例えば、電熱線ヒータなどを用いたり、あるいは、ペルチェ素子に反対向きの電流を印加することで、温調対象の冷却と加熱とを変更したりすることができる。
【0126】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0127】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図12(a)は有機EL表示装置700の全体図、
図12(b)は1画素の断面構造を表している。
【0128】
図12(a)に示すように、有機EL表示装置700の表示領域701には、発光素子を複数備える画素702がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域701において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子702R、第2発光素子702G、第3発光素子702Bの組み合わせにより画素702が構成されている。画素702は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0129】
図12(b)は、
図12(a)のB-B線における部分断面模式図である。画素702は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板703上に、第1電極(陽極)704と、正孔輸送層705と、発光層706R、706G、706Bのいずれかと、電子輸送層707と、第2電極(陰極)708と、を有している。これらのうち、正孔輸送層705、発光層706R、706G、706B、電子輸送層707が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層706Rは赤色を発する有機EL層、発光層706Gは緑色を発する有機EL層、発光層706Bは青色を発する有機EL層である。発光層706R、706G、706Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0130】
また、第1電極704は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層705と電子輸送層707と第2電極708は、複数の発光素子702R、702G、702Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極704と第2電極708とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極704間に絶縁層709が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層710が設けられている。
【0131】
図12(b)では正孔輸送層705や電子輸送層707は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極704と正孔輸送層705との間には第1電極704から正孔輸送層705への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極708と電子輸送層707の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0132】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0133】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極704が形成された基板(マザーガラス)703を準備する。
【0134】
第1電極704が形成された基板703の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極704が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層709を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0135】
絶縁層709がパターニングされた基板703を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板703は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層705を、表示領域の第1電極704の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層705は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層705は表示領域701よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0136】
次に、正孔輸送層705までが形成された基板703を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板703の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層706Rを成膜する。
【0137】
発光層706Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層706Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層706Bを成膜する。発光層706R、706G、706Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域701の全体に電子輸送層707を成膜する。電子輸送層707は、3色の発光層706R、706G、706Bに共通の層として形成される。
【0138】
電子輸送層707まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極708を成膜する。
【0139】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層710を成膜して、基板703への成膜工程を完了する。反転後、粘着部材を基板703から剥離することで、基板キャリアから基板703を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置700が完成する。
【0140】
絶縁層709がパターニングされた基板703を成膜装置に搬入してから保護層710の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0141】
1…成膜装置、S…基板、M…マスク、C…静電チャック、TM…温調部材、MP…マグネット板、CP…冷却板