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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085170
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】ローリング角度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/26 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
G01B11/26 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199554
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】大野 祥希
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA39
2F065BB15
2F065GG04
2F065HH05
2F065JJ02
2F065JJ16
2F065JJ25
2F065LL08
2F065MM03
2F065PP02
2F065QQ18
2F065QQ31
(57)【要約】
【課題】移動軸の軸方向に制約を受けることなく、移動体のローリング角度を測定可能なローリング角度測定装置を提供する。
【解決手段】第1方向に配置された移動軸Sに沿って第1方向に移動される移動体20と、移動体20に第2方向に離間して設けられたシリンドリカルレンズ50と、移動体20とシリンドリカルレンズ50との間に設けられたPSD60と、シリンドリカルレンズ50の入射面52に向けて第1方向に広がった線状の光Eを出射する照明装置80と、移動体20が第1方向に移動した場合におけるPSD60に受光される光Eの受光位置の変位量Δに基づいて移動体20のローリング角度を算出するデータ処理装置90と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に配置された移動軸に沿って前記第1方向に移動される移動体と、
前記移動体に前記第1方向に直交する第2方向に離間して設けられ、前記移動体と共に前記第1方向に移動される集光レンズであって、入射面と出射面とを有し、前記出射面が前記移動体に対向配置された集光レンズと、
前記移動体と前記集光レンズとの間に設けられ、前記移動体と共に前記第1方向に移動される受光手段であって、前記出射面から出射された光を受光する受光手段と、
前記入射面に向けて前記第1方向に広がった線状の前記光を出射する照明手段と、
前記移動体が前記第1方向に移動した場合における前記受光手段に受光される前記光の受光位置の変位量に基づいて、前記移動体のローリング角度を算出する角度算出手段と、
を備える、ローリング角度測定装置。
【請求項2】
前記集光レンズは、前記移動体の外表面を構成する面のうち第1面に設けられる第1集光レンズと、前記面のうち前記第1面に対向する第2面に設けられる第2集光レンズと、を含み、
前記受光手段は、前記第1集光レンズの出射面から出射された光を受光する第1受光手段と、前記第2集光レンズの出射面から出射された光を受光する第2受光手段と、を含み、
前記照明手段は、前記第1集光レンズの入射面に向けて前記第1方向に広がった線状の第1光を出射する第1照明手段と、前記第2集光レンズの入射面に向けて前記第1方向に広がった線状の第2光を出射する第2照明手段と、を含み、
前記角度算出手段は、前記移動体が前記第1方向に移動した場合における、前記第1受光手段に受光される前記第1光の受光位置の変位量と、前記第2受光手段に受光される前記第2光の受光位置の変位量と、に基づいて、前記移動体のローリング角度を算出する、
請求項1に記載のローリング角度測定装置。
【請求項3】
前記集光レンズは、前記入射面が凸円柱面であり前記出射面が平面であるシリンドリカルレンズであり、
前記シリンドリカルレンズを前記第1方向及び前記第2方向にそれぞれ直交する第3方向から見た場合に前記出射面が前記移動軸の軸心に対して平行に配置される、
請求項1又は2に記載のローリング角度測定装置。
【請求項4】
前記受光手段は、前記第3方向に延びた帯状の受光面を有する一次元の位置検出素子であり、
前記角度算出手段は、前記位置検出素子からの出力信号値に基づいて前記変位量を算出する、
請求項3に記載のローリング角度測定装置。
【請求項5】
前記照明手段は、前記第2方向に沿って前記光を前記軸心に向けて出射する、
請求項4に記載のローリング角度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローリング角度測定装置に係り、特に移動軸に沿って直線移動する移動体のローリング角度を測定するローリング角度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械装置又は形状測定装置(例えば、三次元座標測定装置)のように移動軸を備える装置では、移動軸に沿って直線移動する移動体の位置決め精度を高めることが要求される。位置決め精度を高めるために、上記装置の制御コントローラには補正機能が搭載されており、位置決め偏差の他、移動体の回転角度(ローリング角度、ピッチング角度及びヨーイング角度)等に基づいて補正量が計算される。
【0003】
特許文献1には、レーザ測長機を用いて移動体の移動軸周りの揺動運動、すなわち、ローリング角度を測定するローリング角度測定装置が開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、レーザヘッドの光軸上にターニングミラーを介して直交配置され、かつ上記の光軸に対して平行に移動する移動体上に設置された角度干渉計と、角度干渉計から出射されるレーザ光線を受けて、角度干渉計側に反射する角度ターゲットプリズムと、を備えており、角度干渉計と角度ターゲッドプリズムのいずれか一方の上端を他方に対して揺動自在に連結設置し、揺動自在に設置された一方の下端に制動用のダンパを設置するとともに、他方側を移動体上に固定配置した構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-101127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のローリング角度測定装置は、角度ターゲットプリズムを鉛直方向に吊り下げ支持し、移動軸である水平軸にローリング成分が存在した場合に、角度ターゲットプリズムをそれ自身の自重を利用して水平軸の軸周りに揺動させる構成を有している。このため、特許文献1のローリング角度測定装置は、水平軸を移動軸とする移動体のローリング角度は測定可能であるが、鉛直軸を移動軸とする移動体のローリング角度は、角度ターゲットプリズムの自重を利用できないため測定することができないという問題がある。
【0007】
このように、従来のローリング角度測定装置は、移動軸の軸方向によってはローリング角度を測定できないという問題がある。このため、移動軸の軸方向に制約を受けることなく、移動体のローリング角度を測定可能なローリング角度測定装置を実現することが望まれている。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みて成されたものであり、移動軸の軸方向に制約を受けることなく、移動体のローリング角度を測定可能なローリング角度測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のローリング角度測定装置は、本発明の目的を達成するために、第1方向に配置された移動軸に沿って第1方向に移動される移動体と、移動体に第1方向に直交する第2方向に離間して設けられ、移動体と共に第1方向に移動される集光レンズであって、入射面と出射面とを有し、出射面が移動体に対向配置された集光レンズと、移動体と集光レンズとの間に設けられ、移動体と共に第1方向に移動される受光手段であって、出射面から出射された光を受光する受光手段と、入射面に向けて第1方向に広がった線状の光を出射する照明手段と、移動体が第1方向に移動した場合における受光手段に受光される光の受光位置の変位量に基づいて、移動体のローリング角度を算出する角度算出手段と、を備える。
【0010】
本発明の一形態は、集光レンズは、移動体の外表面を構成する面のうち第1面に設けられる第1集光レンズと、面のうち第1面に対向する第2面に設けられる第2集光レンズと、を含み、受光手段は、第1集光レンズの出射面から出射された光を受光する第1受光手段と、第2集光レンズの出射面から出射された光を受光する第2受光手段と、を含み、照明手段は、第1集光レンズの入射面に向けて第1方向に広がった線状の第1光を出射する第1照明手段と、第2集光レンズの入射面に向けて第1方向に広がった線状の第2光を出射する第2照明手段と、を含み、角度算出手段は、移動体が第1方向に移動した場合おける、第1受光手段に受光される第1光の受光位置の変位量と、第2受光手段に受光される第2光の受光位置の変位量と、に基づいて、移動体のローリング角度を算出する、ことが好ましい。
【0011】
本発明の一形態は、集光レンズは、入射面が凸円筒面であり出射面が平面であるシリンドリカルレンズであり、シリンドリカルレンズを第1方向及び第2方向にそれぞれ直交する第3方向から見た場合に出射面が移動軸の軸心に対して平行に配置されることが好ましい。
【0012】
本発明の一形態は、受光手段は、第3方向に延びた帯状の受光面を有する一次元の位置検出素子であり、角度算出手段は、位置検出素子からの出力信号値に基づいて変位量を算出することが好ましい。
【0013】
本発明の一形態は、照明手段は、第2方向に沿って光を軸心に向けて出射することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動軸の軸方向に制約を受けることなく、移動体のローリング角度を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るローリング角度測定装置の全体斜視図である。
図2】形状測定装置が備える移動軸を示した説明図である。
図3図1のローリング角度測定装置をZ軸方向から見た説明図である。
図4図1の照明装置の構成をZ軸方向から見た説明図である。
図5図1のデータ処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
図6】ローリング角度測定装置の初期設定完了状態をX軸方向から見た説明図である。
図7】移動体にローリングが発生した状態をX軸方向から見た説明図である。
図8】第2実施形態のローリング角度測定装置をX軸方向から見た説明図である。
図9】移動体にローリングが発生した状態をX軸方向から見た説明図である。
図10】式4の内容を補足説明するための説明図である。
図11】移動軸に沿って移動体が移動される状態をY軸方向から見た模式図である。
図12】ローリングが存在しない条件で移動体を移動させた場合の集光座標の変化を示したグラフである。
図13】移動体にローリングが発生した場合の集光座標のプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明に係るローリング角度測定装置の実施形態について説明する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係るローリング角度測定装置10の全体構成を示した斜視図である。図2は、一例として、三次元座標測定装置等の形状測定装置(不図示)が備える移動軸Sを示した説明図である。図2では、移動軸Sに沿って移動される移動体20の各測定要素であるローリング角度(X軸周りの角度)、ピッチング角度(Y軸周りの角度)及びヨーイング角度(Z軸周りの角度)が模式的に示されている。
【0018】
図1に示すローリング角度測定装置10は、図2に示した移動軸Sの各測定要素のうちローリング角度、すなわち、図1に示す移動軸Sの軸心P回りの移動体20の揺動角度を測定する装置である。ここで、本明細書においては、移動軸として水平方向に配設された移動軸Sを例示し、水平方向のうち移動軸Sの軸心P方向をX軸方向とし、X軸方向に直交する水平方向をY軸方向とし、X軸方向及びY軸方向にそれぞれ直交する鉛直方向をZ軸方向として説明する。X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向は、それぞれ本発明の第1方向、第2方向及び第3方向に相当する。
【0019】
なお、本例のローリング角度測定装置10は、後述するように移動体20の自重を利用することなくローリング角度を測定するものなので、移動軸の方向に制約を受けることなく、本例のように水平方向に配設された移動軸Sに限らず、鉛直方向に配設された移動軸であっても移動体のローリング角度を測定可能である。以下、本例のローリング角度測定装置10について詳しく説明する。
【0020】
図1に示すように、ローリング角度測定装置10は、移動体20と、シリンドリカルレンズ50と、PSD(Position Sensitive Detector:位置検出素子)60と、照明装置80と、データ処理装置90と、を備えている。
【0021】
図1に示す移動体20は、移動軸Sに沿ってX軸方向に移動される部材であり、本例では説明を容易にするために、直方体形状に構成されたものを例示している。移動体20は外表面を有し、外表面は、Y軸方向において互いに対向する第1面22及び第2面24と、X軸方向において互いに対向する第3面26及び第4面28と、Z軸方向において互いに対向する上面30及び下面32と、を有している。移動体20は、本発明の移動体の一例であり、ステージとも称される。
【0022】
シリンドリカルレンズ50は、移動体20の第1面22にY軸方向(第2方向)に離間して設けられている。シリンドリカルレンズ50は、例えば、ブラケット等の連結具(不図示)を用いて移動体20に固定され、移動体20と共にX軸方向に移動される。
【0023】
図3は、図1に示したローリング角度測定装置10をZ軸方向から見た場合の説明図である。図3に示すように、シリンドリカルレンズ50は、凸円柱面である入射面52と、平面である出射面54とを有し、出射面54が移動体20に対向配置されている。具体的に説明すると、図3の如くシリンドリカルレンズ50をZ軸方向から見た場合、Y軸方向において照明装置80に対向する入射面52は円弧状に構成され、Y軸方向において移動体20に対向する出射面54は直線状に構成されている。また、図3の如くシリンドリカルレンズ50をZ軸方向(第3方向)から見た場合に出射面54が移動軸S(図2参照)の軸心Pに対して平行に配置されている。なお、シリンドリカルレンズ50は、本発明の集光レンズの一例である。
【0024】
図1及び図3に示すように、PSD60は、移動体20とシリンドリカルレンズ50との間に設けられている。PSD60は、移動体20の第1面22に取り付けられており、移動体20及びシリンドリカルレンズ50と共にX軸方向に移動される。
【0025】
PSD60は、シリンドリカルレンズ50の出射面54から出射された照明装置80からの光Eを受光する機能を有する。PSD60は、PIN型フォトダイオードと同様の構造を有し、光起電力効果により、光Eの入射位置における光電流を測定して光Eの重心位置(光強度が一番高い部分)の計測を実現する。また、本例のPSD60としては、図1に示すように、帯状の受光面(検出面とも言う。)62を備えた一次元PSDが用いられており、受光面62の長手方向がZ軸方向に一致する姿勢で移動体20に取り付けられている。照明装置80から出射された光Eは、シリンドリカルレンズ50によって集光されてPSD60の受光面62で受光される。PSD60は、本発明の受光手段の一例である。
【0026】
図4は、図1に示した照明装置80の構成をZ軸方向から見た説明図である。図4に示すように、照明装置80は、レーザ光源82と、ロッドレンズ84と、コリメートレンズ86と、を有している。
【0027】
レーザ光源82、ロッドレンズ84及びコリメートレンズ86は、Y軸方向に沿って配置されている。また、レーザ光源82は、レーザ光源82の出射端82Aから出射されるレーザ光が、Y軸方向に沿って出射され、且つ移動軸S(図1参照)の軸心Pに向けて出射される位置に配置されている。換言すれば、レーザ光源82の出射端82Aと軸心Pとは、同一のXY平面上に配置されている。
【0028】
上記構成の照明装置80によれば、レーザ光源82の出射端82AからY軸方向に出射されたレーザ光は、ロッドレンズ84に入射され、ロッドレンズ84によりX軸方向に広がった線状の光Eに変換される。この光Eはコリメートレンズ86に入射され、コリメートレンズ86により平行光に変換される。そして、この光Eはシリンドリカルレンズ50(図3参照)の入射面52に向けて出射される。
【0029】
したがって、照明装置80によれば、シリンドリカルレンズ50の入射面52に向けてX軸方向に広がった線状の光Eを出射することができ、且つY軸方向に沿って光Eを移動軸Sの軸心Pに向けて出射することができる。照明装置80は、本発明の照明手段の一例である。
【0030】
ここで、図3のシリンドリカルレンズ50に入射した光Eは、シリンドリカルレンズ50によって集光され、PSD60の受光面62にスポット光として受光される。また、シリンドリカルレンズ50に入射される光Eは、移動体20の移動方向であるX軸方向に沿って帯状に存在している。このため、移動体20の移動範囲において移動体20にローリングが発生しないと仮定した場合、シリンドリカルレンズ50によって集光される光Eは、移動体20の移動位置(X座標位置)に関係なく常に同一のYZ座標位置に集光する。
【0031】
図5は、図1に示したデータ処理装置90の構成を示す機能ブロック図である。図5に示すように、データ処理装置90は、CPU(central processing unit)等のプロセッサを含む演算処理回路92、及びROM(Read Only Memory)又はRAM(Random Access Memory)等のメモリ94を有している。データ処理装置90は、メモリ94に記憶されたプログラムを演算処理回路92が実行し、データ処理装置90の各部の機能である受光位置の変位量算出機能とローリング角度の角度算出機能とが実現される。また、演算処理回路92は、PSD60の出力信号を取得し、出力信号に応じたローリング角度を示す測定データを取得する。この測定データは、データ処理装置90の出力回路96によりモニタ98に出力され、モニタ98に表示される。
【0032】
次に、データ処理装置90によって実現される上記の変位量算出機能及び角度算出機能の一例について、図6及び図7を参照して説明する。図6は、ローリング角度を測定する前に行われる初期設定の状態をX軸方向から見た説明図である。図7は、ローリングが生じた移動体20のローリング角度の測定状態をX軸方向から見た説明図である。
【0033】
図6に示す初期設定では、PSD60の受光面62のうち予め設定された基準位置S1である受光位置64に光Eが受光されるようにローリング角度測定装置10の各部材の位置調整が行われる。一例として、Z軸方向におけるPSD60の取り付け位置を調整することで上記の位置調整がなされる。以下、初期設定が完了した図6の状態を、移動体20にローリングが発生していない状態(移動体20のローリング角度が0度の状態)とも言う。
【0034】
演算処理回路92は、図6の初期設定が完了した状態でPSD60からの出力信号値から求められる光Eの受光位置64を基準位置S1としてメモリ94(図5参照)に記録する。
【0035】
この後、移動体20を移動軸Sに沿ってX軸方向に移動させてローリング角度の測定を行う。すなわち、移動体20が図6の位置(初期設定が完了した位置)からX軸方向に移動して図7に示す測定ポイントに到達すると、演算処理回路92は、PSD60から入力される出力信号値から光Eの受光位置66を求め、その受光位置66を検知位置D1としてメモリ94(図5参照)に記録する。
【0036】
つまり、図7に示すように、測定ポイントで移動体20にローリングが発生した場合には、シリンドリカルレンズ50の入射面52に入射する光Eの入射位置が変化し、入射位置が変化することによって受光位置が受光位置64(図6参照)から受光位置66(図7参照)に変化(変位)する。なお、受光位置の変位量と移動体20のローリング角度とは相関関係がある。
【0037】
次に、演算処理回路92は、メモリ94から基準位置S1と検知位置D1とを読み出し、基準位置S1と検知位置D1とに基づいて受光位置の変位量Δ(図7参照)を算出する。変位量Δは、PSD60の受光面62における基準位置S1から検知位置D1までの距離である。
【0038】
次に、演算処理回路92は、上記の変位量Δと、移動体20の軸心PからPSD60までの距離L(図6参照)、すなわち、軸心Pから受光面62までの距離Lとに基づいて下記の式1により移動体20のローリング角度θを算出する。なお、距離Lは、メモリ94(図5参照)に予め記憶されているデータである。
【0039】
式1:θ=arctan(Δ/L)
これにより、第1実施形態のローリング角度測定装置10は、移動体20のローリング角度θを測定することができる。データ処理装置90は、本発明の角度算出手段の一例である。
【0040】
したがって、第1実施形態のローリング角度測定装置10によれば、第1方向(例えばX軸方向)に配置された移動軸Sに沿って第1方向に移動される移動体20と、移動体20に第2方向(例えばY軸方向)に離間して設けられたシリンドリカルレンズ50と、移動体20とシリンドリカルレンズ50との間に設けられたPSD60と、シリンドリカルレンズ50の入射面52に向けて第1方向に広がった線状の光Eを出射する照明装置80と、移動体20を第1方向に沿って移動させた場合にPSD60に受光される光Eの受光位置の変位量Δに基づいてローリング角度θを算出するデータ処理装置90と、を備えたので、移動軸の軸方向(X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向)に制約を受けることなく、ローリング角度θを測定することが可能となる。
【0041】
つまり、第1実施形態のローリング角度測定装置10は、移動体20の自重を利用することなくローリング角度を測定することが可能であって、単純に移動体20の軸心P周りの揺動角度を測定する装置であるので、移動軸の軸方向に制約を受けず、移動軸が鉛直方向に配設された場合であってもローリング角度を測定することが可能となる。
【0042】
なお、ローリング角度測定装置10によるローリング角度の取得方法としては、例えば、移動軸Sの軸心P方向において複数の測定ポイントを設定し、それらの測定ポイントにてローリング角度をそれぞれ取得することが好ましい。これにより、軸心P方向におけるローリング角度の遷移状況を把握することができる。このように取得されたローリング角度は、例えば、形状測定装置の制御コントローラにおいて形状測定値を補正するための補正値として用いられる。
【0043】
〔第2実施形態〕
図8は、第2実施形態に係るローリング角度測定装置100をX軸方向から見た場合の説明図である。また、図8には、ローリング角度測定装置100の初期設定が完了した状態(移動体20のローリング角度が0度の場合の状態)が示されている。
【0044】
図8に示すように、第2実施形態のローリング角度測定装置100は、Y軸方向における移動体20の両側に、第1実施形態のローリング角度測定装置10と同一構成のローリング角度測定装置10A、10Bを配置することによって構成されている。また、2つのローリング角度測定装置10A、10Bは移動体20を挟んで対称位置に配置されている。以下、ローリング角度測定装置100について説明するに際し、第1実施形態のローリング角度測定装置10と同一の部材については、同一の符号を付して符号の末尾に「A」又は「B」を付して説明する場合がある。
【0045】
図8に示すように、ローリング角度測定装置100に用いられるシリンドリカルレンズは、シリンドリカルレンズ50Aとシリンドリカルレンズ50Bとを含んでいる。シリンドリカルレンズ50Aは、ローリング角度測定装置10Aの構成要素の一つであり、第1実施形態と同様に、例えば、ブラケット等の連結具(不図示)を用いて移動体20に固定され、移動体20と共にX軸方向に移動される。シリンドリカルレンズ50Bは、ローリング角度測定装置10Bの構成要素の一つであり、第1実施形態と同様に、例えば、ブラケット等の連結具(不図示)を用いて移動体20に固定され、移動体20と共にX軸方向に移動される。シリンドリカルレンズ50Aとシリンドリカルレンズ50Bは、Y軸方向において移動体20の軸心Pから等距離の位置にそれぞれ設けられている。シリンドリカルレンズ50Aは、本発明の第1集光レンズの一例であり、シリンドリカルレンズ50Bは、本発明の第2集光レンズの一例である。
【0046】
また、ローリング角度測定装置100に用いられるPSDは、PSD60AとPSD60Bとを含んでいる。PSD60Aは、ローリング角度測定装置10Aの構成要素の一つであり、移動体20の第1面22に取り付けられている。PSD60Aは、シリンドリカルレンズ50Aの出射面54Aから出射された光(第1光)EAを受光する。PSD60Bは、ローリング角度測定装置10Bの構成要素の一つであり、移動体20の第2面24に取り付けられている。PSD60Bは、シリンドリカルレンズ50Bの出射面54Bから出射された光(第2光)EBを受光する。PSD60AとPSD60Bは、各々の受光面62A、62BがY軸方向において移動体20の軸心Pから等距離Lの位置に設けられている。PSD60Aは、本発明の第1受光手段の一例であり、PSD60Bは、本発明の第2受光手段の一例である。
【0047】
また、ローリング角度測定装置100に用いられる照明装置は、照明装置80Aと照明装置80Bとを含んでいる。照明装置80Aは、ローリング角度測定装置10Aの構成要素の一つであり、シリンドリカルレンズ50Aの入射面52Aに向けてX軸方向に広がった線状の光EAを出射する。照明装置80Bは、ローリング角度測定装置10Bの構成要素の一つであり、シリンドリカルレンズ50Bの入射面52Bに向けてX軸方向に広がった線状の光EBを出射する。照明装置80Aは、本発明の第1照明手段の一例であり、照明装置80Bは、本発明の第2照明手段の一例である。
【0048】
次に、ローリング角度測定装置100によるローリング角度測定方法の一例について説明する。
【0049】
演算処理回路92は、図8の状態(初期設定が完了した状態)でPSD60Aからの出力信号値から求められる光EAの受光位置64Aを第1基準位置S1Aとしてメモリ94(図5参照)に記録する。
【0050】
また、演算処理回路92は、図8の状態(初期設定が完了した状態)でPSD60Bからの出力信号値から求められる光EBの受光位置64Bを第2基準位置S1Bとしてメモリ94(図5参照)に記録する。
【0051】
図9は、移動体20が移動軸Sに沿ってX軸方向に移動して所定の測定ポイントに到達したときの状態をX軸方向から見た説明図である。図9によれば、移動体20が図8の初期設定が完了した位置からZ軸方向(図9上で上方向)に平行移動し、且つ移動体20にローリングが生じている状態が示されている。なお、ここで言う移動体20とは、シリンドリカルレンズ50A、50B及びPSD60A、60Bを含むものである。また、図8の初期設定が完了した位置とは、ローリング角度が0度であり、且つY軸方向における光EA、EBの進行方向に軸心Pが存在している位置である。
【0052】
演算処理回路92は、図9のローリング角度測定位置でPSD60Aから入力される出力信号値から光EAの受光位置66Aを求め、その受光位置66Aを第1検知位置D1Aとしてメモリ94(図5参照)に記録する。
【0053】
また、演算処理回路92は、図9のローリング角度測定位置でPSD60Bから入力される出力信号値から光EBの受光位置66Bを求め、その受光位置66Bを第2検知位置D1Bとしてメモリ94(図5参照)に記録する。
【0054】
次に、演算処理回路92は、メモリ94から第1基準位置S1Aと第1検知位置D1Aと読み出し、第1基準位置S1Aと第1検知位置D1Aとに基づいて、受光位置の変位量Δ1を算出する。変位量Δ1は、PSD60Aの受光面62Aにおける第1基準位置S1Aから第1検知位置D1Aまでの距離である。
【0055】
また、演算処理回路92は、メモリ94から第2基準位置S1Bと第2検知位置D1Bと読み出し、第2基準位置S1Bと第2検知位置D1Bとに基づいて、受光位置の変位量Δ2を算出する。変位量Δ2は、PSD60Bの受光面62Bにおける第2基準位置S1Bから第2検知位置D1Bまでの距離である。
【0056】
次に、演算処理回路92は、上記の変位量Δ1及び変位量Δ2と、移動体20の軸心Pから各受光面62A、62Bまでのそれぞれの距離Lと、に基づいて下記の式2により移動体20のローリング角度θを算出する。
【0057】
式2:θ=arctan((Δ1-Δ2)/2L)
図10は、上記の式2の内容を補足説明するための説明図である。図10によれば、変位量Δ1と変位量Δ2との減算値(Δ1-Δ2)、及び距離2Lに基づいて、ローリング角度θが式2(θ=arctan((Δ1-Δ2)/2L))よって算出されることが示されている。このように第2実施形態のローリング角度測定装置100によれば、上記の減算値(Δ1-Δ2)を用いてローリング角度θを測定するので、移動体20のZ軸方向の平行移動成分αを除いてローリング角度θのみを測定することができる。
【0058】
したがって、第2実施形態のローリング角度測定装置100は、第1実施形態のローリング角度測定装置10と同一構成のローリング角度測定装置10A、10Bを有するものなので、ローリング角度測定装置10と同様に、移動軸の軸方向(X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向)に制約を受けることなく、移動体20のローリング角度θを測定することが可能となる。また、上記のように、移動体20に平行移動成分αが発生した場合でも、その平行移動成分αを除いてローリング角度θのみを測定することができる。
【0059】
以下、本発明の変形例について説明する。
【0060】
第1乃至第2実施形態では、本発明の集光レンズとしてシリンドリカルレンズ50を適用した形態を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、集光レンズとして、ロッドレンズ又はリニアフレネルレンズを適用してもよい。
【0061】
第1乃至第2実施形態では、本発明の受光手段として一次元PSDを適用した形態を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、受光手段として、複数の受光素子(画素)を線状に並べた構造のCCD(Charge Coupled Device)ラインセンサ又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)ラインセンサ等の一次元イメージセンサを適用してもよい。この場合、線状に配置された複数の受光素子のうちスポット光を検知した受光素子の受光位置に基づいて、受光位置の変位量を取得することが可能である。
【0062】
また、上記の一次元イメージセンサに限定されるものではなく、二次元イメージセンサを採用してもよい。但し、一次元PSDを含む一次元イメージセンサは、二次元イメージセンサよりも廉価であることからコスト面で有利である。
【0063】
第1乃至第2実施形態では、本発明の照明手段として、レーザ光源82と、ロッドレンズ84と、コリメートレンズ86と、を有する構成の照明装置80(80A、80B)について説明したが、この構成に限定されるものではない。つまり、シリンドリカルレンズ50の入射面52に向けてX軸方向に広がった線状の光Eを出射することが可能な構成の照明装置であれば、本発明の照明手段に適用することができる。
【0064】
本発明の照明手段の一例として、長手軸がX軸方向に沿って配置された管状の光源と、長手軸(長辺)がX軸方向に沿って形成されたスリットを有する遮光板と、コリメートレンズ(実施形態のコリメートレンズ86に相当)と、を備えた構成の照明装置を適用してもよい。この照明装置によれば、光源から出射された光のうち不要な光を遮光板によって遮光し、必要とする光をスリットからコリメートレンズに向けて照射する。このような構成の照明装置であってもシリンドリカルレンズ50の入射面52に向けてX軸方向に広がった線状の光Eを出射することができる。
【0065】
また、第1乃至第2実施形態では、本発明の照明手段として、Y軸方向に沿って光Eを軸心Pに向けて出射する構成の照明装置80(80A、80B)について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、Y軸方向から見た場合、X軸に対して傾斜した線状の光を出射する構成の照明装置であっても適用することができる。以下、図面を使用して説明する。
【0066】
図11は、移動軸Sに沿って移動体20が移動される状態をY軸方向から見た場合の模式図である。また、図11では、Y軸方向に沿って軸心Pに向けて出射される線状の光を光Eとして示し、X軸に対して傾斜した線状の光を光ECとして示している。図11によれば、PSD60の受光面62上の光ECの集光位置(Z軸集光座標又は集光点データとも言う。)63A、63B、63Cが、移動体20の移動位置によって変化することが示されている。
【0067】
図12は、ローリングが存在しない条件で移動体20を移動させた場合のZ軸集光座標の変化を示したグラフであり、縦軸がZ軸集光座標を示し、横軸が移動体20の移動位置を示している。図12によれば、線R1で示す光EのZ軸集光座標は、移動体20の移動位置に関係なく常に同一の座標となるが、線R2で示す光ECのZ軸集光座標は、移動体20の移動位置に応じて直線的に変化する。
【0068】
図13は、光ECを出射する照明装置を使用した場合において、移動体20にローリングが発生した場合のZ軸集光座標を「〇」マークでプロットしたプロット図である。図13に示すように、移動体20にローリングが発生すると、Z集光座標は、ローリングが存在しない場合の座標(線R2)に対して上下にずれる。
【0069】
ここで、図13に示した「〇」マークの座標位置は、X軸に対する傾き量を含んだ座標位置であるので、ローリング角度を測定する場合には、上記の傾き量を算出し、「〇」マークの座標位置を傾き量で補正する必要がある。そして、傾き量は、得られた各位置での集光点データから最小二乗法を用いて算出することができる。これにより、「〇」マークの座標位置を傾き量で補正することができる。その結果、本例の照明装置によれば、X軸に対して傾斜した線状の光ECに起因するローリング角度の測定誤差を軽減することができる。
【0070】
以上、本発明に係るローリング角度測定装置の一例について説明したが、本発明の技術は実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、いくつかの改良又は変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…ローリング角度測定装置、10A…ローリング角度測定装置、10B…ローリング角度測定装置、20…移動体、22…第1面、24…第2面、26…第3面、28…第4面、30…上面、32…下面、50…シリンドリカルレンズ、50A…シリンドリカルレンズ、50B…シリンドリカルレンズ、52…入射面、52A…入射面、52B…入射面、54…出射面、54A…出射面、54B…出射面、60…PSD、60A…PSD、60B…PSD、62…受光面、62A…受光面、62B…受光面、64…受光位置、64A…受光位置、64B…受光位置、66…受光位置、66A…受光位置、66B…受光位置、80…照明装置、82…レーザ光源、84…ロッドレンズ、86…コリメートレンズ、90…データ処理装置、92…演算処理回路、94…メモリ、96…出力回路、98…モニタ、100…ローリング角度測定装置、S…移動軸、P…軸心、E…光、EA…光、EB…光、S1…基準位置、S1A…第1基準位置、S1B…第2基準位置、D1…検知位置、D1A…第1検知位置、D1B…第2検知位置
図1
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