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特開2024-85252組織状植物蛋白素材、その製造方法、加工食品及び食感改良剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085252
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】組織状植物蛋白素材、その製造方法、加工食品及び食感改良剤
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/14 20060101AFI20240619BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20240619BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20240619BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20240619BHJP
   A23J 3/00 20060101ALN20240619BHJP
【FI】
A23J3/14
A23J3/16 501
A23L11/00 A
A23L13/00 Z
A23J3/00 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199682
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】藤原 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 研一
(72)【発明者】
【氏名】片山 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】金井 健一
(72)【発明者】
【氏名】榎田 敬
(72)【発明者】
【氏名】大西 耕大郎
(72)【発明者】
【氏名】進 雄大
【テーマコード(参考)】
4B020
4B042
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LC04
4B020LG04
4B020LK05
4B020LP03
4B020LP16
4B042AC05
4B042AD36
4B042AK09
4B042AK13
4B042AP02
4B042AP06
4B042AP22
(57)【要約】
【課題】改善された食感を有する組織状植物蛋白素材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一以上の実施形態は、植物蛋白原料と、澱粉及び水を含む第1混合物を水蒸気により蒸煮し乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物とが配合された第2混合物を膨化して組織化した組織状植物蛋白素材に関する。本発明の別の一以上の実施形態は、組織状植物蛋白素材の製造方法であって、植物蛋白原料と、澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物とを配合して第2混合物を得る配合工程、並びに、前記第2混合物を膨化して組織化する組織化工程を含む方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物蛋白原料と、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物と
が配合された第2混合物を、膨化して組織化することにより製造された、組織状植物蛋白素材。
【請求項2】
前記粒状澱粉加工物が、前記第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、老化させ、乾燥し且つ粒状化することにより製造されたものである、請求項1に記載の組織状植物蛋白素材。
【請求項3】
前記粒状澱粉加工物が100μmオンの粒度を有する、請求項1に記載の組織状植物蛋白素材。
【請求項4】
前記第2混合物における前記粒状澱粉加工物の配合量が、前記植物蛋白原料と前記粒状澱粉加工物との合計量に対して3質量%~12質量%である、請求項1に記載の組織状植物蛋白素材。
【請求項5】
前記澱粉が、イモ由来の澱粉及びトウモロコシ由来の澱粉から選択される1以上である、請求項1に記載の組織状植物蛋白素材。
【請求項6】
前記第2混合物を膨化して組織化することが、
前記第2混合物を水とともに押出機に導入し、加圧加熱しつつ、前記押出機のダイを通じて常圧下に吐出することを含む、
請求項1に記載の組織状植物蛋白素材。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組織状植物蛋白素材を含む加工食品。
【請求項8】
組織状植物蛋白素材の製造方法であって、
植物蛋白原料と、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物と
を配合して第2混合物を得る配合工程、並びに、
前記第2混合物を膨化して組織化することにより前記組織状植物蛋白素材を得る組織化工程
を含む方法。
【請求項9】
澱粉及び水を含む第1混合物を水蒸気により蒸煮して蒸煮物を得る蒸煮工程、
前記蒸煮物を乾燥して乾燥物を得る乾燥工程、並びに、
前記乾燥物を粒状に加工して粒状澱粉加工物を得る粒状化工程
を更に含み、
前記粒状化工程で得られた粒状澱粉加工物を前記配合工程に用いる、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記蒸煮工程で得られた前記蒸煮物を老化させる老化工程を更に含み、
前記乾燥工程が、前記老化工程で老化された前記蒸煮物を乾燥することを含む、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記粒状澱粉加工物が100μmオンの粒度を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記組織化工程が、
前記第2混合物を水とともに押出機に導入し、加圧加熱しつつ前記押出機のダイを通じて常圧下に吐出することを含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項13】
組織状植物蛋白素材を含む加工食品の製造方法であって、
請求項8~12のいずれか1項に記載の方法により組織状植物蛋白素材を製造すること、及び、
前記組織状植物蛋白素材を用いて加工食品を製造すること
を含む方法。
【請求項14】
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物を含む、
組織状植物蛋白素材の食感改良剤。
【請求項15】
前記粒状澱粉加工物が、前記第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、老化させ、乾燥し且つ粒状化することにより製造されたものである、請求項14に記載の食感改良剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織状植物蛋白素材及びその製造方法、組織状植物蛋白素材を含む加工食品及びその製造方法、並びに、組織状植物蛋白素材の食感改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脱脂大豆等の植物蛋白原料を主原料とし、一軸又は二軸押出機(エクストルーダー)を用いて高温、高圧下に押し出して膨化させて組織化した組織状植物蛋白素材は、畜肉様の食感を有するので、従来から、ハンバーグ、ミートボール、ギョーザ、肉まん、シューマイ、メンチカツ、コロッケ、そぼろ等の畜肉を使用した惣菜に配合され広く利用されている。
【0003】
植物蛋白原料を主原料とする組織状植物蛋白素材の食感をより畜肉に近づける技術が従来から開発されている。例えば特許文献1では、食感が改善された組織状植物蛋白素材として、植物蛋白原料と糖アルコールを含有し、糖アルコールの含量が乾燥重量中0.1重量%以上であり、膨化された組織を有し、かつ1倍以上の吸水率を有することを特徴とする組織状植物蛋白素材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2012/132917
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一以上の実施形態は、改善された食感を有する組織状植物蛋白素材を提供することを目的とする。本発明の一以上のより好ましい実施形態は、加熱調理した畜肉が喫食時に呈する繊維のほぐれ、弾力、軟らかさ等の畜肉の好ましい食感により近い食感を有する組織状植物蛋白素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、植物蛋白原料に加えて、更に、澱粉及び水を含む第1混合物を水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物が配合された第2混合物を、膨化して組織化して製造された組織状植物蛋白素材が改善された食感を有することを見出した。すなわち本発明は下記の一以上の実施形態を包含する。
【0007】
(1)植物蛋白原料と、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物と
が配合された第2混合物を、膨化して組織化することにより製造された、組織状植物蛋白素材。
【0008】
(2)前記粒状澱粉加工物が、前記第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、老化させ、乾燥し且つ粒状化することにより製造されたものである、(1)に記載の組織状植物蛋白素材。
【0009】
(3)前記粒状澱粉加工物が100μmオンの粒度を有する、(1)又は(2)に記載の組織状植物蛋白素材。
【0010】
(4)前記第2混合物における前記粒状澱粉加工物の配合量が、前記植物蛋白原料と前記粒状澱粉加工物との合計量に対して3質量%~12質量%である、(1)~(3)のいずれかに記載の組織状植物蛋白素材。
【0011】
(5)前記澱粉が、イモ由来の澱粉及びトウモロコシ由来の澱粉から選択される1以上である、(1)~(4)のいずれかに記載の組織状植物蛋白素材。
【0012】
(6)前記第2混合物を膨化して組織化することが、
前記第2混合物を水とともに押出機に導入し、加圧加熱しつつ、前記押出機のダイを通じて常圧下に吐出することを含む、
(1)~(5)のいずれかに記載の組織状植物蛋白素材。
【0013】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の組織状植物蛋白素材を含む加工食品。
【0014】
(8)組織状植物蛋白素材の製造方法であって、
植物蛋白原料と、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物と
を配合して第2混合物を得る配合工程、並びに、
前記第2混合物を膨化して組織化することにより前記組織状植物蛋白素材を得る組織化工程
を含む方法。
【0015】
(9)澱粉及び水を含む第1混合物を水蒸気により蒸煮して蒸煮物を得る蒸煮工程、
前記蒸煮物を乾燥して乾燥物を得る乾燥工程、並びに、
前記乾燥物を粒状に加工して粒状澱粉加工物を得る粒状化工程
を更に含み、
前記粒状化工程で得られた粒状澱粉加工物を前記配合工程に用いる、
(8)に記載の方法。
【0016】
(10)前記蒸煮工程で得られた前記蒸煮物を老化させる老化工程を更に含み、
前記乾燥工程が、前記老化工程で老化された前記蒸煮物を乾燥することを含む、
(9)に記載の方法。
【0017】
(11)前記粒状澱粉加工物が100μmオンの粒度を有する、(8)~(10)のいずれかに記載の方法。
【0018】
(12)前記組織化工程が、
前記第2混合物を水とともに押出機に導入し、加圧加熱しつつ前記押出機のダイを通じて常圧下に吐出することを含む、
(8)~(11)のいずれかに記載の方法。
【0019】
(13)組織状植物蛋白素材を含む加工食品の製造方法であって、
(8)~(12)のいずれかに記載の方法により組織状植物蛋白素材を製造すること、及び、
前記組織状植物蛋白素材を用いて加工食品を製造すること
を含む方法。
【0020】
(14)澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物を含む、
組織状植物蛋白素材の食感改良剤。
【0021】
(15)前記粒状澱粉加工物が、前記第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、老化させ、乾燥し且つ粒状化することにより製造されたものである、(14)に記載の食感改良剤。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一以上の実施形態によれば、改善された食感を有する組織状植物蛋白素材及びその製造方法、前記組織状植物蛋白素材を含む加工食品及びその製造方法、並びに、組織状植物蛋白素材の食感の改良に用いることができる食感改良剤が提供される。
【0023】
前記組織状植物蛋白素材は、畜肉が利用される様々な食品において、畜肉の一部又は全部に代替して利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明の好ましい一以上の実施形態について説明する。
【0025】
<植物蛋白原料>
本明細書で用いる植物蛋白原料は、植物由来の蛋白質素材であり、例えば、大豆、えんどう豆、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、向日葵、コーン、ベニバナ、ココナッツ等の油糧種子、或いは、米、大麦、小麦等の穀物種子由来の蛋白素材や、前記蛋白素材からの抽出・加工蛋白、例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、大豆グロブリン、大豆アルブミン、落花生アルブミン等や、これらを熱処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理等により処理した蛋白等が挙げられる。植物蛋白原料は、入手の容易性、経済性等の点から、好ましくは大豆蛋白素材である。また、ここでいう大豆蛋白素材は、大豆由来の蛋白質を含む素材であればよく、丸大豆、半割れ大豆等の全脂大豆や、油脂を除去した減脂大豆又は脱脂大豆、含水エタノール洗浄、酸性水洗浄等の洗浄処理により蛋白質を濃縮した濃縮大豆蛋白、更には、分離大豆蛋白及び豆乳、並びにそれらの加水分解物、オカラ、ホエー等が例示され、これらの少なくとも1種以上を選択できる。大豆蛋白素材は、コストの面から脱脂大豆が特に好ましい。脱脂大豆としては、脱脂大豆粉末を用いることができる。
【0026】
<粒状澱粉加工物>
本明細書で用いる粒状澱粉加工物は、澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造されたものである。
【0027】
本発明者らは、驚くべきことに、この手順で製造された粒状澱粉加工物を、植物蛋白原料とともに配合した第2混合物を膨化して組織化することにより製造された組織状植物蛋白素材は、改善された食感、具体的には、加熱調理した畜肉が喫食時に呈する繊維のほぐれ、弾力、軟らかさ等の畜肉の好ましい食感により近い食感を有することを見出した。上記手順で製造された粒状澱粉加工物に代えて、水蒸気による蒸煮や乾燥を経ずに製造された粒状澱粉加工物を配合して製造した組織状植物蛋白素材では、このような好ましい食感の達成は困難である。
【0028】
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物は、水蒸気による蒸煮の代わりに熱水浸漬による澱粉の糊化を経て製造された粒状澱粉加工物や、乾燥を経ずに製造された粒状澱粉加工物と比較して、90℃の熱水中で10分間加熱した場合でも、煮溶けがなく、透明部分(芯)が残っていて歯ごたえが保持されることを確認している。作用機構は限定されないが、このような粒状澱粉加工物は、植物蛋白素材に配合し膨化し組織化して組織状植物蛋白素材を製造した場合にも機械的特性が保持されていると考えられる。そしてそのことにより前記粒状澱粉加工物は、組織状植物蛋白素材の加熱調理した畜肉のような繊維のほぐれ、弾力、軟らかさに寄与している可能性が考えられる。
【0029】
粒状澱粉加工物は、好ましくは、前記第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、老化させ、乾燥し且つ粒状化することにより製造されたものである。水蒸気により蒸煮により前記第1混合物中の澱粉は糊化するが、糊化した澱粉を老化させ、その後に乾燥を行うことにより、湯戻し時の機械的強度の高い粒状澱粉加工物が得られる。
【0030】
使用する澱粉は特に限定されないが、例えば、イモ由来の澱粉及びトウモロコシ由来の澱粉から選択される1以上が挙げられる。イモ由来の澱粉としては馬鈴薯澱粉が例示できる。トウモロコシ由来の澱粉としてはコーンスターチが例示できる。粒状澱粉加工物の原料として使用する澱粉は、予め糊化させ乾燥させた澱粉(α化澱粉)を含まないことが好ましい。
【0031】
粒状澱粉加工物の好ましい製造方法は、
澱粉及び水を含む第1混合物を水蒸気により蒸煮して蒸煮物を得る蒸煮工程、
前記蒸煮物を乾燥して乾燥物を得る乾燥工程、並びに、
前記乾燥物を粒状に加工して粒状澱粉加工物を得る粒状化工程
を含む。
【0032】
ここで第1混合物において、澱粉と水との配合割合は特に限定されないが、澱粉100質量部に対して、例えば30質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは80質量部以上、例えば200質量部以下、好ましくは150質量部以下、より好ましくは120質量部以下の水を配合することができる。
【0033】
蒸煮工程において、第1混合物の形状は特に限定されないが、好ましくはシート状である。シート状の第1混合物を用いた場合、蒸煮による熱が均一に伝わり易く、均一な糊化が実現し易い。
【0034】
蒸煮工程において、水蒸気の温度は例えば80℃以上、好ましくは85℃以上とすることができ、例えば110℃以下、好ましくは95℃以下とすることができる。水蒸気による蒸煮処理時間は、第1混合物の十分な糊化が達成される時間であればよく適宜調節できるが、例えば5分間以上、好ましくは10分間以上であり、例えば1時間以下、好ましくは20分以下とすることができる。
【0035】
蒸煮工程で得た蒸煮物は、そのまま乾燥工程に用いてもよいが、好ましくは、蒸煮工程で得られた蒸煮物を老化させる老化工程を行い、老化された蒸煮物を乾燥工程において乾燥させる。老化工程は、蒸煮物中の糊化澱粉を老化させる工程であり、例えば10℃以下、好ましくは5℃以下、例えば-5℃以上、好ましくは0℃以上の温度条件で蒸煮物を保存することを含むことができる。前記温度条件での蒸煮物の保存時間は特に限定されないが、例えば10時間以上、好ましくは20時間以上、例えば48時間以下、好ましくは30時間以下とすることができる。
【0036】
乾燥工程では、蒸煮工程を経た蒸煮物又は蒸煮工程及び老化工程を経た蒸煮物を乾燥させる。乾燥後の水分は特に限定されないが、典型的には、乾燥後の乾燥物中の水分が、例えば20質量%以下、好ましくは15質量%以下、例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上となるように乾燥を行う。乾燥工程は、例えば50℃以上、好ましくは70℃以下で低湿度、例えば相対湿度50%以下、の空気雰囲気下で蒸煮物を保持することを含むことができる。ここで、乾燥工程に供する蒸煮物は、例えば細い麺状に加工することが、乾燥が促進されるため好ましい。
【0037】
粒状化工程では、乾燥工程で得た乾燥物を粒状に加工する。粒状澱粉加工物の粒度の例は、組織状植物蛋白素材の製造方法の配合工程で用いる粒状澱粉加工物に関して後述する通りである。乾燥物を粉砕し、必要に応じてふるい等で分級することにより、所望の粒度の粒状澱粉加工物を得ることができる。
【0038】
<組織状植物蛋白素材>
本発明の一以上の実施形態は、
植物蛋白原料と、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物と
が配合された第2混合物を、膨化して組織化することにより製造された、組織状植物蛋白素材に関する。
【0039】
本実施形態に係る組織状植物蛋白素材は、改善された食感、具体的には、加熱調理した畜肉が喫食時に呈する繊維のほぐれ、弾力、軟らかさ等の畜肉の好ましい食感により近い食感を有するため、畜肉を代替する素材としての利用に適している。
【0040】
本実施形態に係る組織状植物蛋白素材の形状や寸法は特に限定されないが、形状として代表的なものには顆粒状、棒状、フレーク状が挙げられ、寸法としては、最短径が例えば0.5cm以上、好ましくは1.0cm以上、最長径が例えば5.0cm以下、好ましくは3.0cm以下が例示できる。
【0041】
本実施形態に係る組織状植物蛋白素材の水分含量は適宜調節することができるが、保存性の観点から全量に対して15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、1質量%~12質量%が更に好ましく、3質量%~10質量%が特に好ましい。
【0042】
原料として用いる植物蛋白原料及び粒状澱粉加工物の好適な例は既述の通りである。
【0043】
植物蛋白原料と粒状澱粉加工物とが配合された前記第2混合物における、両者の割合は、求める品質や他の原料との兼ね合いで適宜決定することができる。例えば、前記第2混合物における前記粒状澱粉加工物の配合量が、前記植物蛋白原料と前記粒状澱粉加工物との合計量に対して好ましくは3質量%~12質量%、より好ましくは5質量%~10質量とすることができる。また、前記第2混合物又はそれを用いて製造される本実施形態の組織状植物蛋白素材における前記植物蛋白原料の割合は、前記第2混合物又は前記組織状植物蛋白素材の乾燥質量に対して、例えば65質量%以上、好ましくは70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上とすることができる。
【0044】
前記第2混合物又はそれを用いて製造される本実施形態の組織状植物蛋白素材は、植物蛋白原料及び粒状澱粉加工物以外に、更に他の原料を含むことができる。他の原料としては例えば油脂、卵白、カゼイン等のその他の蛋白や、澱粉、多糖類、調味料、食物繊維、ゲル化剤、その他の公知の添加物を加えることもできる。ただし、畜肉については動物性の原料であり、これを加えると植物性の蛋白素材とは言い難くなり、また畜肉は衛生面から取扱にくいため含まないことが好ましい。
【0045】
油脂としては大豆油、菜種油、ヒマワリ油、ベニバナ油、コーン油、米糠油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオバターなどの植物油脂、魚油、鯨油、乳脂、牛脂、豚脂などの動物油脂、及びこれらを分別、硬化、エステル交換した油脂などを用いることができる。また、植物蛋白原料として脱脂していない圧扁大豆を併用する場合は、全脂大豆に含まれる油脂を利用することができる。
【0046】
前記第2混合物に油脂を適量配合することにより、後述する押出機を用いた組織化に際して、蛋白素材の膨化を適度に抑制することができる。膨化が適度に抑制されれば食感は適度に硬くなる方向に進む。適度な硬さはより畜肉に近い食感の硬さに近づける効果がある。
【0047】
前記第2混合物中に配合する油脂の量は特に限定しないが、前記第2混合物の乾燥質量に対して0.01質量%以上、6質量%以下が例示できる。前記第2混合物中に油脂をエマルジョンとして配合する場合には多く含ませることができ、前記第2混合物の乾燥質量に対して0.1質量%以上、12質量%以下が例示できる。
【0048】
前記第2混合物を膨化して組織化することにより、本実施形態の組織状植物蛋白素材を製造する手順の好ましい態様は、下記の製造方法の説明において記載する。
【0049】
<組織状植物蛋白素材の製造方法>
本発明の別の以上の実施形態は、
組織状植物蛋白素材の製造方法であって、
植物蛋白原料と、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物と
を配合して第2混合物を得る配合工程、並びに、
前記第2混合物を膨化して組織化することにより前記組織状植物蛋白素材を得る組織化工程を含む方法に関する。
【0050】
この方法により、改善された食感、具体的には、加熱調理した畜肉が喫食時に呈する繊維のほぐれ、弾力、軟らかさ等の畜肉の好ましい食感により近い食感を有する上記実施形態に係る組織状植物蛋白素材を製造することができる。
【0051】
本実施形態に係る組織状植物蛋白素材の製造方法において、配合工程で用いる植物蛋白原料、粒状澱粉加工物、及び得られる第2混合物は、上記実施形態に係る組織状植物蛋白素材に関して説明した通りである。配合工程では、植物蛋白原料及び粒状澱粉加工物以外に上述した他の原料を更に配合することができる。
【0052】
配合工程で配合する粒状澱粉加工物の粒度は特に限定されないが、食感の改善効果のためには粒度が大きいことが好ましく、例えば100μmオン、好ましくは300μmオン、より好ましくは500μmオン、特に好ましくは600μmオンの粒度を有する。ここで100μmオン、300μmオン、500μmオン、600μmオンの粒度とは、それぞれ目開き100μm、300μm、500μm、600μmのふるいに掛けた場合にふるい上に残る粒度を指す。粒状澱粉加工物の粒度は、例えば3.0mmパス、好ましくは2.0mmパス、より好ましくは850μmパスの粒度であることができる。ここで3.0mmパス、2.0mmパス、850μmパスとは、それぞれ目開き3.0mm、2.0mm、850μmのふるいに掛けた場合にふるいを通過する粒度を指す。
【0053】
本実施形態に係る組織状植物蛋白素材の製造方法の好ましい態様は、
澱粉及び水を含む第1混合物を水蒸気により蒸煮して蒸煮物を得る蒸煮工程、
前記蒸煮物を乾燥して乾燥物を得る乾燥工程、並びに、
前記乾燥物を粒状に加工して粒状澱粉加工物を得る粒状化工程
を更に含み、
前記粒状化工程で得られた粒状澱粉加工物を前記配合工程に用いる。
【0054】
ここで蒸煮工程、乾燥工程及び粒状化工程は、粒状澱粉加工物の製造する方法に関して説明した通りである。また、蒸煮工程と乾燥工程との間に老化工程を更に行うことが好ましい。この老化工程についても、粒状澱粉加工物の製造する方法に関して説明した通りである。
【0055】
本実施形態に係る組織状植物蛋白素材の製造方法における組織化工程は、好ましくは、配合工程で得た、植物蛋白原料と粒状澱粉加工物を含み、必要に応じて他の原料を更に含む第2混合物を、水とともに押出機に導入し、加圧加熱しつつ前記押出機のダイを通じて常圧下に吐出することを含む。この場合、押出機の吐出物として、前記第2混合物が膨化し組織化された組織状植物蛋白素材が得られる。
【0056】
押出機を用いた組織化工程は、一軸押出機、二軸押出機等の公知の押出機(エクストルーダー)を用い、公知の方法に従って行うことができる。押出機としては、混練が強く安定的に組織化しやすい二軸以上の軸を有する押出機を用いることが好ましい。押出機としては、原料供給口、バレル内をスクリューにより原料送りする機構及び混合、加圧(圧縮)、加熱機構を有し、先端バレルに装着したダイを有するものを用いることが好ましい。
【0057】
前記第2混合物を水とともに押出機に導入する際の加水量としては、押出機に導入される前記第2混合物の量に対して、水が例えば15質量%~50質量%、好ましくは20質量%~40質量%となる量であることが好ましい。この範囲の量の水を加えることにより、膨化が進行し組織化が促進され易い。ここで使用する水は、膨化、風味等に影響のない範囲であれば水溶性成分を含む水溶液であってもよい。
【0058】
押出機を用いた組織化工程において、前記第2混合物を水とともに前記押出機に導入し、加圧加熱しつつ前記押出機のダイを通じて常圧下に吐出する際の条件は、公知の条件に基づいて適宜選択及び調整できる。非限定的な例を示すと、加圧条件はバレル先端のダイ圧力が2~100kg/cmが好ましく、5~40kg/cmが更に好ましい。加熱条件は先端バレル温度120~220℃が好ましく、140~200℃が更に好ましい。ダイの種類は、押出機のスクリュー送り方向に吐出するダイであってもよいし、送り方向の外周方向に吐出する、いわゆるペリフェラルダイであってもよい。ダイの孔の径は、組織状植物蛋白素材の目的寸法等を考慮して適宜決めることができる。
【0059】
ダイから吐出された組織状植物蛋白素材は、適当な形状及び寸法に切断し、必要に応じて乾燥させることができる。乾燥条件の非限定的な例としては、流動層乾燥機を用い、60℃~100℃の熱風に組織状植物蛋白素材を10分間~30分間曝すことによって乾燥させる例が挙げられる。また、乾燥後の組織状植物蛋白素材の水分は、保存性の観点から全量に対して15質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、1質量%~12質量%が更に好ましく、3質量%~10質量%が特に好ましい。
【0060】
<加工食品>
本発明の更に別の一以上の実施形態は、
上記実施形態に係る組織状植物蛋白素材を含む加工食品、
に関する。
【0061】
本発明の更に別の一以上の実施形態は、
組織状植物蛋白素材を含む加工食品の製造方法であって、
上記実施形態に係る製造方法により組織状植物蛋白素材を製造すること、及び、
前記組織状植物蛋白素材を用いて加工食品を製造すること
を含む方法、
に関する。
【0062】
ここで加工食品としては、シチュー、カレー、から揚げ、ハンバーグ、ミートボール、ギョーザ、ミートボール、ギョーザ、肉まん、シューマイ、メンチカツ、コロッケ、そぼろ等の、一般的に畜肉が配合される加工食品が挙げられる。これらの加工食品の製造において、畜肉素材の全部又は一部の代替物として本明細書で開示する組織状植物蛋白素材を用いることができる。加工食品は、レトルト加熱殺菌処理されたレトルト加工食品であってもよい。
【0063】
<食感改良剤>
本発明の更に別の一以上の実施形態は、
澱粉及び水を含む第1混合物を、水蒸気により蒸煮し、乾燥し且つ粒状化することにより製造された粒状澱粉加工物を含む、
組織状植物蛋白素材の食感改良剤、
に関する。
【0064】
本実施形態に係る食感改良剤は、組織状植物蛋白素材に、改善された食感、具体的には、加熱調理した畜肉が喫食時に呈する繊維のほぐれ、弾力、軟らかさ等の畜肉のような好ましい食感を付与する用途で用いることができる。
【0065】
本実施形態における粒状澱粉加工物は、上記実施形態に係る組織状植物蛋白素材の原料としての粒状澱粉加工物に関して説明した通りである。
【実施例0066】
1.組織状植物蛋白素材
【0067】
(実施例1)
(1)表1に記載の原料を混合して第1混合物を得た。
【表1】
(2)前記第1混合物をシート状に成形してシート状物とし、90℃の水蒸気で15分間蒸煮した。
(3)蒸煮した前記シート状物を5℃以下の冷蔵庫内に収容し、24時間程度老化させた。
(4)蒸煮及び老化した前記シート状物を麺状にカットして麺状物とした。得られた前記麺状物を60℃・湿度40%の雰囲気下で40分間乾燥して、水分が12質量%の乾燥麺状物を得た。
(5)前記乾燥麺状物を、850μmパス~600μmオンの大きさにカットして、粒状澱粉加工物を得た。
(6)脱脂大豆粉末94質量部と、(5)で得た前記粒状澱粉加工物6質量部とを配合して第2混合物とした。この第2混合物100質量部と、水30質量部とを、エクストルーダー(押出機)に供給して加熱、加圧処理を行い、ダイを通じて常圧下に吐出することにより膨化により組織化させ、次いで水分含量が12.0質量%以下まで乾燥処理を行い、肉様組織を有する実施例1の組織状植物蛋白素材を得た。前記エクストルーダーは二軸型のものであり、運転は、スクリュー回転数150~250rpm、バレル入口側温度80℃、中央部120℃、出口側を150℃、ダイの孔の径10mm、粉体原料流量20~40kg/時の条件で行った。
【0068】
(比較例1)
(2)において、水蒸気による蒸煮に代えて、シート状物を90℃の熱水中に15分間浸漬して処理したものを(3)以後の工程に供したことを除いて、上記実施例1と同じ手順により、比較例1の組織状植物蛋白素材を調製した。
【0069】
(比較例2)
(4)において麺状物の乾燥を行わず、未乾燥の麺状物を(5)以後の工程に供したことを除いて、上記実施例1と同じ手順により、比較例2の組織状植物蛋白素材を調製した。
【0070】
2.澱粉加工物の比較
実施例1において(4)で得た乾燥麺状物(水蒸気蒸煮、老化及び乾燥)、
比較例1において(4)で得た乾燥麺状物(熱水浸漬、老化及び乾燥)、及び
比較例2において(4)で得た未乾燥の麺状物(水蒸気蒸煮及び老化)
を、それぞれ90℃の熱水中で10分間加熱処理(湯戻し)して、煮溶けの有無及び食感を確認した。
【0071】
実施例1の乾燥麺状物は、90℃の熱水中で10分間加熱後も煮溶けはなく、まだ透明部分(芯)が残っていて、歯応えがあった。
【0072】
比較例1の乾燥麺状物は、90℃の熱水中での加熱が3分30秒間経過時点で切れ易くなり、10分間加熱後には、煮溶けてはいないが、芯がなく、軟らかい食感のものとなった。
【0073】
比較例2の未乾燥の麺状物は、90℃の熱水中での加熱が3分30秒間経過時点で切れ易くなり、10分間加熱後には、白くなって非常に軟らかく、煮溶けたものとなった。
【0074】
3.レトルトビーフ様シチュー(加工食品)の製造
(1)表2の原料を混合して95℃に炊き上げてソースを調製した。
【表2】
(2)水戻しした実施例1、比較例1又は比較例2の組織状植物蛋白素材14gを、前記ソース166gとともにレトルトパウチに充填密封し、120℃、25分間レトルト殺菌を行ってビーフ様シチューを製造した。
(3)実施例1の組織状植物蛋白素材を用いて製造したビーフ様シチュー(ビーフ様シチュー実施例)では、前記蛋白素材が、肉様の適度な弾力と煮込んだ肉様の軟らかさ、ほぐれるように崩れる肉様のほぐれ感、及び、肉様の繊維感を有するものであった。
(4)他方、比較例1又は比較例2の組織状植物蛋白素材を用いて製造したビーフ様シチューでは、前記ビーフ様シチュー実施例と比較して、前記蛋白素材が、肉様の軟らかさ、ほぐれ感、繊維感のいずれも明らかに感じられないものであった。
【0075】
4.唐揚げ様食品(加工食品)の製造
(1)水戻しした実施例1の組織状植物蛋白素材に、表3の原料を混合して調製したバッター液をつけて、175℃の植物油で3分間油揚げして唐揚げ様食品を調製した。
【表3】
(2)得られた唐揚げ様食品は、肉様の弾力、ジューシー感を有するものであった。
【0076】
5.更なる実施例
(実施例2)
脱脂大豆粉末94質量部の代わりに脱脂大豆粉末95質量部と、上記1(5)で得た前記粒状澱粉加工物5質量部とを配合して第2混合物とすること以外は、実施例1と同様にして実施例2の組織状植物蛋白素材を調製した。得られた実施例2の組織状植物蛋白素材を水戻ししたものを用いて、上記3に記載の手順によりレトルトビーフ様シチューを調製した。
【0077】
得られたレトルトビーフ様シチュー中の実施例2の組織状植物蛋白素材は、上記3(3)で調製したレトルトビーフ様シチュー中の実施例1の組織状植物蛋白素材と比較して少しかたいが、肉様の弾力、ジューシー感を有するものであった。
【0078】
(実施例3)
脱脂大豆粉末94質量部の代わりに脱脂大豆粉末92.5質量部と、上記1(5)で得た前記粒状澱粉加工物7.5質量部とを配合して第2混合物とすること以外は、実施例1と同様にして実施例3の組織状植物蛋白素材を調製した。得られた実施例3の組織状植物蛋白素材を水戻ししたものを用いて、上記3に記載の手順によりレトルトビーフ様シチューを調製した。
【0079】
得られたレトルトビーフ様シチュー中の実施例3の組織状植物蛋白素材は、上記3(3)で調製したレトルトビーフ様シチュー中の実施例1の組織状植物蛋白素材と比較して少しやわらかいが、肉様の弾力、ジューシー感を有するものであった。
【0080】
(実施例4)
脱脂大豆粉末94質量部の代わりに脱脂大豆粉末88質量部と、上記1(5)で得た前記粒状澱粉加工物12質量部とを配合して第2混合物とすること以外は、実施例1と同様にして実施例4の組織状植物蛋白素材を調製した。得られた実施例4の組織状植物蛋白素材を水戻ししたものを用いて、上記3に記載の手順によりレトルトビーフ様シチューを調製した。
【0081】
得られたレトルトビーフ様シチュー中の実施例2の組織状植物蛋白素材は、上記実施例3で調製したレトルトビーフ様シチュー中の組織状植物蛋白素材よりも更にやわらかいが、ジューシー感を有するものであった。