(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085301
(43)【公開日】2024-06-26
(54)【発明の名称】塗布組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240619BHJP
【FI】
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199762
(22)【出願日】2022-12-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA08
4J037CC01
4J037CC11
4J037DD05
4J037EE28
4J037EE48
4J037FF11
4J037FF30
(57)【要約】
【課題】 ビヒクルへの粉末の分散を改善する塗布組成物の製造方法を提供するもので、特に粒径が大きく異なる粉末の混合時に、その粉末の分散を望むべくものとする方法を提供する。
【解決手段】 粒径が異なる2種類以上の粉末を特定の配合割合で含有する塗布組成物の製造方法であって、前記粒径が異なる2種類以上の粉末の中で、最も細かい粒径の最微細粒径粉末をビヒクルに分散させて作製した微細粒径粉末ミルベースに、前記最微細粒径粉末以外の粉末が前記特定の配合割合となるように加えて作製したミルベース添加物に、前記ミルベース添加物中の粉末が分散するように混合する塗布組成物の製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が異なる2種類以上の粉末を特定の配合割合で含有する塗布組成物の製造方法であって、
前記粒径が異なる2種類以上の粉末の中で、最も細かい粒径の最微細粒径粉末をビヒクルに分散させて作製した微細粒径粉末ミルベースに、
前記最微細粒径粉末以外の粉末を前記特定の配合割合となるように加え、各粉末が分散するように混合する塗布組成物の製造方法。
【請求項2】
前記微細粒径粉末ミルベースに、
前記最微細粒径粉末以外の粉末をビヒクルに分散させて作製した粉末ミルベースを、前記特定の配合割合となるように加え、各粉末が分散するように混合する請求項1に記載の塗布組成物の製造方法。
【請求項3】
前記粉末ミルベースが、粉末の粒径ごとに調整されている請求項2に記載の塗布組成物の製造方法。
【請求項4】
前記最微細粒径粉末以外の粉末に含まれる粉末は、前記最微細粒径粉末との粒径の比が10倍以上である粉末を含む請求項1または2に記載の塗布組成物の製造方法。
【請求項5】
前記微細粒径粉末ミルベースが、前記最微細粒径粉末と、前記最微細粒径粉末以外の粉末に含まれる粉末のうち前記最微細粒径粉末との粒径の比が10倍未満の粉末とを含む請求項1または2に記載の塗布組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末をビヒクル中に分散させた、塗布組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗布組成物には、ビヒクルと粉末の顔料成分を含有しており、ビヒクル中への粉末の分散の良さが、その特性に影響する。その塗布組成物には、塗料、インク、厚膜ペースト等がある。
なかでも厚膜ペーストは、粉末を有機ビヒクルに分散させ、電子部品の原料などとして広く用いられている。電子部品の特性は、粉末粒子の分散度合いによって影響を大きく受ける。一般的に、粉末粒子の凝集が少なく、有機ビヒクル中に均一に粉末粒子が分散しているペースト、インクを原材料とした電子部品は信頼性が高く、品質も安定する。
【0003】
特許文献1には、粒径10nm程度の酸化ルテニウム粉末と平均粒径1.5μmのガラス粉末をビヒクルに分散させた厚膜抵抗体ペーストが記載されている。
特許文献1のように塗布組成物では、細かい粒径の粉末と粒径が10倍以上の大きい粉末をビヒクルに分散して構成することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報WO2012/176696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粉末をビヒクルに分散させる手段としては、粉末とビヒクルをボールミル、ビーズミル、3本ロールミルなどの公知の分散装置を用い、衝撃力や剪断力を用いて混練する方法がある。しかしながら、粒径が異なる粉末を同時に分散させると、粉末が十分に分散されない場合がある。
このような状況の中、本発明は、ビヒクルへの粉末の分散を改善する塗布組成物の製造方法を提供するもので、特に粒径が大きく異なる粉末の混合時に、その粉末の分散を望むべくものとする方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、粒径が異なる2種類以上の粉末を特定の配合割合で含有する塗布組成物の製造方法であって、前記粒径が異なる2種類以上の粉末の中で、最も細かい粒径の最微細粒径粉末をビヒクルに分散させて作製した微細粒径粉末ミルベースに、前記最微細粒径粉末以外の粉末が前記特定の配合割合となるように加え、各粉末が分散するように混合する塗布組成物の製造方法である。
【0007】
本発明の第二の態様は、第一の態様における微細粒径粉末ミルベースに、最微細粒径粉末以外の粉末をビヒクルに分散させて作製した粉末ミルベースを、前記特定の配合割合となるように加え、各粉末が分散するように混合する塗布組成物の製造方法である。
【0008】
本発明の第三の態様は、第二の態様における粉末ミルベースが、粉末の粒径ごとに調整されている塗布組成物の製造方法である。
【0009】
本発明の第四の態様は、第一及び第二の態様における最微細粒径粉末以外の粉末に含まれる粉末に、前記最微細粒径粉末との粒径の比が10倍以上である粉末を含む塗布組成物の製造方法である。
【0010】
本発明の第五の態様は、第一及び第二の態様における微細粒径粉末ミルベースが、前記最微細粒径粉末と、前記最微細粒径粉末以外の粉末に含まれる粉末のうち前記最微細粒径粉末との粒径の比が10倍未満の粉末とを含む塗布組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粒径が異なる粉末の混合粉を含む塗布組成物において、粉末の粒子分散性に優れた組成物が得られ、粉末の粒子分散性が高い、ペースト、インクを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る塗布組成物の製造方法は、粒径が異なる2種類以上の粉末が特定の配合割合で含有された塗布組成物の製造方法であって、該組成物中の最も細かい粒径範囲の「最微細粒径粉末」をビヒクルに分散した微細粒径粉末ミルベースを作製し、特定の配合割合となるように、その微細粒径ミルベースと最微細粒径粉末以外の粉末又は最微細粒径粉末以外の粉末をビヒクルに分散させて作製した粉末ミルベースを加え、各粉末が分散するように混合する方法である。
【0013】
本実施形態について説明する。
先ず、本明細書で、「ミルベース」とは、ビヒクルに粉末を加えて混合した混合物を指すものである。
ところで、従来から粒径が異なる粉末を同時にビヒクルに投入、分散させると、粒径の小さい粉末の粒子が、粒径の大きい粉末の粒子の隙間に入り、粒径の小さい粒子が十分に分散されない場合があることを知見している。
【0014】
塗布組成物を用いた従来から行われている厚膜ペーストやインクの製造方法で、使用されるボールミル、ビーズミル、及び3本ロールミルでの混合分散を各個考察する。
ボールミル、ビーズミルを用いて混練する場合、粉砕媒体の衝撃力は粒径の大きい粉末の粒子には伝わるが、粒径の大きい粉末の粒子の隙間にある粒径の小さい粉末の粒子には衝撃力が伝わりにくい。そのため、粒径の異なる2種類以上の粉末をビヒクルに混錬分散するには適していないと言える。
【0015】
また、3本ロールミルを用いる場合、ロールの隙間をペーストやインクが通る際の剪断力が粒径の大きい粉末の粒子には伝わるが、粒径の大きい粉末の粒子の隙間にある粒径の小さい粉末の粒子には衝撃力が伝わりにくい。
【0016】
そこで、3本ロールミルでビヒクルに粒径が異なる2種類以上の粉末を混合分散するには、段階的に3本ロールミルのロールの間隔を狭めていき、ビヒクル中の各粉末を構成する粒子に剪断力がかかるように調整するのが一般的である。
しかし、そのように段階的な調整を行ったとしても粒径の大きい粉末の粒子の隙間にある粒径の小さい粒子には3本ロールミルの剪断力は伝わらないことがあり、結果的に厚膜ペーストに含まれる粉末を構成する粒子が分散不良となり、厚膜ペーストの特性不良につながる。
さらに、3本ロールミルのロールの間隔を段階的に狭めていく場合、ビヒクル中に含まれる各粉末のうち、粒径の大きい粉末の粒子を過剰に粉砕してしまう問題も懸念される。
【0017】
そこで、本実施形態では、粒径の異なる2種類以上の粉末のうち最も細かい粒径範囲の粉末である「最微細粒径粉末」をビヒクルに分散させて微細粒径粉末ミルベースを先ず作製することを提案する。
本実施形態によれば、その後、その微細粒径粉末ミルベースに添加される、粒径が10倍以上大きな粉末が、そのミルベースを構成するビヒクルに加えられても、大きな粉末の粒子の隙間に、細かい粒径の粉末の粒子が入っても、微細粒径粉末ミルベース内で最微細粒径粉末の粒子は、ビヒクルに分散されているので、最微細粒径粉末の粒子に分散が不足する事態は生じない。
【0018】
一方、最微細粒径粉末の粒径と大きな粒径の粉末の平均粒径の比が10倍未満であれば、細かい粒径の粉末の粒子が、大きな粒径の粉末の粒子の隙間に入り込んでも、3本ロールミルを用いれば段階的にロールの間隔を調整すれば容易に分散することができる。逆に、最微細粒径粉末の粒径と大きな粒径の粉末の平均粒径の比が10倍以上、50倍以上、100倍以上となった場合は、ビヒクル内の分散していない最微細粒径粉末の粒子は、大きな粒径の粉末の粒子の隙間に入り込んで分散できないことがある。
【0019】
最微細粒径粉末をビヒクルに分散し得られる微細粒径粉末ミルベースに他の粉末を加えるには、直接他の粉末で加えても、他の粉末をビヒクルに分散した粉末ミルベースを調整して、添加しても良い。
前記微細粒径粉末ミルベースに、他の粉末を加える場合、他の粉末が複数あり、それらの粒径が異なる場合は、粒径が細かい他の粉末から逐次加えていくのが望ましい。細かい粒径の他の粉末から逐次加えることで、前記微細粒径粉末ミルベースに含まれるビヒクルに他の粉末の各粒子が分散されるからである。他の粉末を微細粒径粉末ミルベースに加えて分散するには3本ロールミルを用いるのが望ましい。
【0020】
さらに、他の粉末のそれぞれについて粉末ミルベースを作製し、微細粒径粉末ミルベースに各粉末ミルベースを、各粉末を特定の配合割合で含有するように混ぜても良い。すなわち、各粉末はビヒクルに混合分散されてミルベースとなっている。すべての粉末がミルベースとしていれば、各ミルベースの混合は、3本ロールミルのほか自転公転撹拌機を用いても良い。すべての粉末がミルベースとなっていれば、各粉末の粒子は、それぞれのミルベースでビヒクル中に分散されているので、それぞれのミルベースを混合するだけで、各粉末の粒子がビヒクル中に分散した塗布組成物を得ることができる。
【0021】
微細粒径粉末ミルベースには、最微細粒径粉末のほかに、その最微細粒径粉末の粒径との粒径の比が10倍未満の他の粉末を添加することができる。最微細粒径粉末との粒径の比が10倍未満の粒子ならば、最微細粒径粉末の粒子とビヒクルに混合分散しても、3本ロールミルのロールの間隔を調整するなどの操作で、他の粉末の粒子間の隙間の最微細粒径粉末もビヒクル中に混合し分散される。
また、粉末ミルベースには、複数の粉末を含み、該ミルベースに含まれる粉末の最も細かい粒径の粉末に対して粒径の比が10倍未満の範囲に含まれる粉末を含む粉末ミルベースを作製しても良い。上述の通り、ミルベースに含まれる最も細かい粒径の粉末の粒径に対し粒径の比が10倍未満の大きい粒径の粉末なら、粉末ミルベースを混合し分散する際に、上述の通り細かい粒径の粉末もビヒクルに分散できる。
【0022】
微細粒径粉末ミルベースに、最微細粒径粉末以外のその他の粉末(粉末ミルベースを用いる場合も含む)を加え混合して、各粉末が特定の配合割合で混合できたら、粉末の配合割合が確定したミルベースとなる。
粉末の配合割合が確定したミルベースにビヒクルや溶剤を加えて塗布組成物の粘性の調整を行っても良い。粉末の配合割合が確定したミルベースを作製する操作や、追加のビヒクル添加などの操作を経て、塗布組成物を得ることができる。
【0023】
ここで、特定の配合割合とは、塗布組成物に含まれる各粉末の配合割合を言う。
粒径とは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの顕微鏡像から測定される粒度のメジアン値や平均粒径、BET法などで測定される比表面積から算出される比表面積径、レーザー回折・散乱法などによる粒度分布測定算出される粒度分布のメジアン値または平均粒径、沈降法で測定される粒径、コールターカウンターにより測定される粒度分布のメジアン値や平均粒径、空気透過法を利用した「Sub-Sieve Sizer」から測定される粒径などの公知の粒度測定法や粒径測定法から得られる値である。
粒度分布および平均粒径では、体積基準と個数基準があるが、どちらを選択しても良い。また、複数の粉末で、すべての粉末の粒径測定の基準を体積基準、個数基準にそろえる必要はない。体積基準と個数基準の粒径で、10倍以上の差があることは、ほぼないからである。
【0024】
以下に、塗布組成物での一例である厚膜抵抗体ペーストで、本実施形態の塗布組成物の製造方法を適用した例を説明する。
<ビヒクル>
ビヒクルは特に制限はなく、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種類以上の溶剤にエチルセルロース、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、ロジン、マレイン酸エステル等から選択された1種類以上の樹脂を溶解した溶液を用いることができる。
【0025】
<粉末>
粉末には、粒径1nm~500nmの酸化ルテニウム粉末、粒径1μm~10μmのガラス粉末が含まれる。ガラス粉末の組成は、鉛を含まないホウ珪酸ガラスやホウ珪酸鉛ガラスなどの公知のガラスを用いることができる。さらに、厚膜抵抗ペーストを焼成して得られる厚膜抵抗体の電気特性を調整するために粒径10nm~10μmの酸化チタン粉末など各種の無機化合物を添加することもある。
【0026】
<其の他>
各粉末をビヒクルに分散混合させる際に、公知の分散剤や界面活性剤を添加しても良い。
【0027】
<製造方法>
以下に、上記粉末を用いた塗布組成物の製造例を示す。
粒径20nmの酸化ルテニウム粉末を、3本ロールミルを用いてビヒクルに混合し分散して酸化ルテニウム粉末に係る微細粒径粉末ミルベースを作製する。その微細粒径粉末ミルベースとは別に、粒径2μmのホウ珪酸ガラス粉末を、3本ロールミルを用いてビヒクルに混合分散してホウ珪酸ガラス粉末に係る粉末ミルベースを作製する。
【0028】
作製した微細粒径粉末ミルベースと粉末ミルベースを、酸化ルテニウム粉末とホウ珪酸ガラス粉末が目的とする配合割合である特定の配合割合となるように配合し、自転公転撹拌機や3本ロールミルで混合することで厚膜抵抗体ペーストを得ることができる。なお、微細粒径粉末ミルベースと粉末ミルベースを混合する際に、厚膜抵抗体ペーストの粘性を調整するために溶剤やビヒクルを加えても良い。
【0029】
上述した厚膜抵抗体ペーストでは、酸化ルテニウム粉末の粒径は20nmで、ホウ珪酸ガラス粉末の粒径は2μmであり、ホウ珪酸ガラス粉末の粒径は、酸化ルテニウム粉末に対し100倍の大きさがある。
このように、粒径の異なる粉末の粒子を別々に分散させる事によって課題を解決することができる。
本実施形態の塗布組成物の製造方法を実施した上述の厚膜抵抗体ペーストは、印刷、焼成を経て得られる厚膜抵抗体では、抵抗値のばらつきを低く抑えることも可能である。
以下に、実施例を用いて詳述する。
【実施例0030】
抵抗器の原材料となる厚膜抵抗体ペーストを例に説明するが、本発明はこの例によって限定されるものではない。
実施例における厚膜抵抗体ペーストの構成は、比表面積から算出された粒径20nmの酸化ルテニウム粉末と、レーザー回折・散乱法によって測定された粒径が2μmのアルミノホウ珪酸ガラス粉末を含むものである。なお、アルミのホウ珪酸ガラス粉末は40質量%のSiO2、15質量%のB2O3、5質量%のAl2O3、8質量%のCaO、30質量%のBaO、0.5質量%のMgO、1質量%のK2O、0.5質量%のLi2Oを含み、軟化点は760℃であった。
ビヒクルには、エチルセルロースをターピネオールに溶解して調整したビヒクルAを用いた。
酸化ルテニウム粉末50重量%、50重量%のビヒクルAを、3本ロールミルで分散混合し、酸化ルテニウム粉末に係る微細粒径粉末ミルベースを作製した。粒径が2μmのアルミノホウ珪酸ガラス粉末75重量%、25重量%のビヒクルAを3本ロールミルで分散混合し、アルミノホウ珪酸ガラス粉末に係る粉末ミルベースを調整した。
上記酸化ルテニウム粉末に係る微細粒径粉末ミルベースとアルミノホウ珪酸ガラスに係る粉末ミルベースを、25:75の重量割合で、作製したミルベース添加物を、自転公転撹拌機を用いて分散・混合して厚膜抵抗体ペースト1を得た。
この実施例1に係る厚膜抵抗体ペースト1には、酸化ルテニウム粉末12.5質量%、アルミノホウ珪酸ガラス粉末は56.25質量%含まれていた。