(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085535
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】インク組成物及び有機エレクトロニクス素子
(51)【国際特許分類】
H10K 71/15 20230101AFI20240620BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240620BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20240620BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20240620BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20240620BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240620BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20240620BHJP
H10K 77/10 20230101ALI20240620BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240620BHJP
C08G 61/00 20060101ALI20240620BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20240620BHJP
H10K 10/46 20230101ALI20240620BHJP
【FI】
H10K71/15
H10K50/10
H10K50/16
H10K50/15
H10K50/18
H10K50/17
H10K85/10
H10K77/10
C08L101/12
C08G61/00
H01L29/78 618B
H10K10/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200097
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】宮 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 悟史
【テーマコード(参考)】
3K107
4J002
4J032
5F110
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC45
3K107DD12
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3K107GG06
3K107GG07
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4J002CE001
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4J032CG01
5F110GG05
5F110GG42
(57)【要約】
【課題】毒性が低く、有機エレクトロニクス材料に対する溶解性が良好であり、かつ、塗膜を形成した際に成膜性に優れるインク組成物を提供する。
【解決手段】有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含み、溶媒が、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンの少なくとも1種を含む、インク組成物である。また、このインク組成物を用いて形成される有機層を含む、有機エレクトロニクス素子が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含み、前記溶媒が、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンの少なくとも1種を含む、インク組成物。
【請求項2】
前記脂環式ケトンの沸点が100~200℃である、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記有機エレクトロニクス材料が電荷輸送性ポリマーを含み、さらに前記電荷輸送性ポリマーは重合性官能基を少なくとも1つ有する、請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記電荷輸送性ポリマーが、置換又は無置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、複素環構造、多環芳香環構造、縮合芳香環構造、及びフルオレン構造から群から選択される1種以上の構造を含む、請求項3に記載のインク組成物。
【請求項5】
前記電荷輸送性ポリマーが、3方向以上に分岐する構造を有する、請求項3に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のインク組成物を用いて形成される有機層を含む、有機エレクトロニクス素子。
【請求項7】
前記有機層上に、さらに別の層を有し、多層化された、請求項6に記載の有機エレクトロニクス素子。
【請求項8】
さらに基板を有し、前記基板が、無機材料又は有機材料から構成されるフィルム又はシートである、請求項6に記載の有機エレクトロニクス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物及び有機エレクトロニクス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。有機エレクトロニクス素子の一例として、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」とも呼ぶ。)、有機光電変換素子、有機トランジスタ、有機フォトディテクター、有機イメージセンサーなどが挙げられる。
【0003】
有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、既に製品化されている。
【0004】
有機EL素子は、使用する有機材料から、低分子化合物を用いる低分子型有機EL素子と、高分子化合物を用いる高分子型有機EL素子の2つに大別される。有機EL素子の製造方法は、主に真空系で低分子化合物を蒸着して成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、スピンコート、ダイコート、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる塗布式プロセスとの2つに大別される。塗布式プロセスは、簡易成膜が可能なため、大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法である。また、塗布式プロセスは、例えば、有機材料を溶媒に溶解させたインク組成物を塗布液として用いることが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、インク組成物の溶媒として、トルエン等の有機溶媒を使用することが開示されている。それらの有機溶媒は、様々な有機材料に対する溶解性が高く、インク組成物の溶媒とした場合、成膜性も良好となる。しかし、その反面、毒性について問題が生じることがあるため代替化が進んでいる。従って、有機材料に対する溶解性と、インク組成物の溶媒として用いたとき成膜性が良好となる有機溶媒で、毒性が低いものがあれば、トルエン等の有機溶媒に代わる溶媒として有用である。
一方、以上は、有機EL素子の例を示したが、有機エレクトロニクス材料を溶媒に溶解してなるインク組成物を塗布式プロセスにより塗布することで得られる有機層を含む他の素子等においても同様のことが当てはまる。
【0007】
本発明の課題の一つは、毒性が低く、有機エレクトロニクス材料に対する溶解性が良好であり、かつ、塗膜を形成した際に成膜性に優れるインク組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は以下の通りである。
【0009】
(1)有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含み、前記溶媒が、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンの少なくとも1種を含む、インク組成物。
【0010】
(2)前記脂環式ケトンの沸点が100~200℃である、前記(1)に記載のインク組成物。
【0011】
(3)前記有機エレクトロニクス材料が電荷輸送性ポリマーを含み、さらに前記電荷輸送性ポリマーは重合性官能基を少なくとも1つ有する、前記(1)又は(2)に記載のインク組成物。
【0012】
(4)前記電荷輸送性ポリマーが、置換又は無置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、複素環構造、多環芳香環構造、縮合芳香環構造、及びフルオレン構造から群から選択される1種以上の構造を含む、前記(3)に記載のインク組成物。
【0013】
(5)前記電荷輸送性ポリマーが、3方向以上に分岐する構造を有する、前記(3)又は(4)に記載のインク組成物。
【0014】
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載のインク組成物を用いて形成されたる有機層を含む、有機エレクトロニクス素子。
【0015】
(7)前記有機層上に、さらに別の層を有し、多層化された、前記(6)に記載の有機エレクトロニクス素子。
【0016】
(8)さらに基板を有し、前記基板が、無機材料又は有機材料から構成されるフィルム又はシートである、前記(6)又は(7)に記載の有機エレクトロニクス素子。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、毒性が低く、有機エレクトロニクス材料に対する溶解性が良好であり、かつ、塗膜を形成した際に成膜性に優れるインク組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0020】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲の上限値又は下限値は、別の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、各成分には、特に断らない限り、該当する物質が、1種又は2種以上含まれていてもよい。
本開示において、樹脂組成物中の各成分の含有量は、樹脂組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、樹脂組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0021】
<インク組成物>
本実施形態のインク組成物は、有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含み、溶媒が、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンの少なくとも1種を含むことを特徴としている。以下、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンを単に脂環式ケトンとも称する。
【0022】
本発明者らは、鋭意検討により、所定の脂環式ケトンは、ケトン基の極性と脂環構造の分子歪みとにより有機エレクトロニクス材料の溶解性に優れ、かつ、沸点が適切な範囲となるため、インク組成物の溶媒として用いた場合、成膜性が良好になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0023】
本実施形態のインク組成物においては、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンの少なくとも1種を溶媒として用いる。当該脂環式ケトンは、トルエン等のように毒性が高くなく、人体への影響が小さい。また、当該脂環式ケトンは、ケトン基の極性と、脂環構造の分子歪みとにより、有機エレクトロニクス材料に対する溶解性に優れる。さらに、脂環式ケトンの沸点が適切な温度領域にあるため、インク組成物を対象物に塗布してから加熱硬化するに際し、平坦で十分に厚い膜を得ることができる(詳細については後述する。)。用途の一例として、脂環式ケトンは、トルエンの代替溶媒として使用することができ、トルエンに比べ毒性が低く、かつ、成膜性に優れるインク組成物の調製に寄与する。
以下に本実施形態のインク組成物の各成分について説明する。
【0024】
[溶媒]
本実施形態のインク組成物においては、溶媒として、炭素原子数が4~8の無置換の脂環式ケトンの少なくとも1種を用いる。そのような脂環式ケトンとしては、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノンが該当する。中でも、溶解性及び成膜性の観点から、炭素原子数5~6の脂環式ケトン(シクロペンタノン、シクロヘキサノン)が好ましい。
【0025】
本実施形態において使用される脂環式ケトンの沸点は、90~200℃のものが好ましく、95℃~190℃のものがより好ましく、100℃~180℃のものが更に好ましい。脂環式ケトンの沸点が90℃以上であると、例えばスピンコーターによる成膜時において、塗布後直ちに蒸発することがない。そのため、塗布液たるインク組成物が基板上に均一に拡散するため平坦で厚い膜を形成することができる。また、脂環式ケトンの沸点が100℃以上であると、水の沸点が100℃であり、水分が蒸発するため、成膜後において、水分を含まないか、又は水分が極めて少ない状態とすることができる。そのため、水分に悪影響を受ける成分を含んでいても、その成分に対する水分の影響を低減することができる。一方、脂環式ケトンの沸点が200℃以下であると、塗布後、過度な加熱を要しないため溶媒を比較的容易に蒸発することができ、成膜する有機エレクトロニクス材料や基板などへの過熱によるダメージを低減することができる。以上のような観点から、脂環式ケトンの沸点は、100~200℃のものが好ましく、130~180℃のものがより好ましい。
脂環式ケトンのうち、100~200℃の温度範囲内に沸点を有するものは、シクロペンタノン(沸点:130.6℃)、シクロヘキサノン(沸点:155.65℃)、シクロヘプタノン(179.1~181℃)、シクロオクタノン(195~197℃)などが挙げられる。
【0026】
また、上記脂環式ケトンは、一種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
さらに、本実施形態のインク組成物の効果を損なわない限り、毒性が低い他の有機溶媒を併用してもよい。
【0027】
[有機エレクトロニクス材料]
本実施形態のインク組成物に含まれる有機エレクトロニクス材料としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機イメージセンサー、有機フォトディテクター、有機薄膜トランジスタ、有機半導体素子等、種々のものを対象としている。本実施形態の脂環式ケトンは有機エレクトロニクス材料の種類に限定されず、有機エレクトロニクス材料に対する溶解性を改善し得ることから、有機エレクトロニクス材料の種類は特に限定されない。また、有機エレクトロニクス材料の種類に限定されず、本実施形態の脂環式ケトンと組みわせて用いることで、インク組成物を用いて形成される塗膜の成膜性を改善し得る。
以下において、有機エレクトロニクス材料の一例として、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる電荷輸送性ポリマーを例に詳述する。
【0028】
(電荷輸送性ポリマー)
電荷輸送性ポリマーは電荷を輸送する能力を有する。電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。分岐構造を有する場合、3方向以上に分岐する構造を有する構造とすることができる。電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含み、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを更に含んでもよい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0029】
(構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0030】
【0031】
【0032】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、フルオレン構造、スピロビフルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニレン構造、ターフェニレン構造等の多環芳香環構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、ペンタセン構造、フェナントレン構造、ピレン構造、ペンタレン構造等の縮合芳香環構造、アズレン構造、ヘプタレン構造ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、ピリミジン構造、ピリダジン構造、トリアジン構造、テトラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、ジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0033】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ピリジン構造、フラン構造、キノリン構造、ベンゼン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される1種以上の構造を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。
【0034】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【化3】
【0035】
【0036】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。好ましくは、Rは、それぞれ独立に、-R1、-OR2、-SR3、-OCOR4、-COOR5、-SiR6R7R8、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R1~R8は、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数2~30個のアリール基又はヘテロアリール基を表す。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アルキル基は、更に、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。Rは、好ましくは水素原子、アルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基である。Arは、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0037】
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
【0038】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。構造単位Tは、特に限定されず、例えば、置換又は非置換の、芳香族炭化水素構造、芳香族複素環構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。構造単位Tが構造単位Lと同じ構造を有していてもよい。一実施形態において、構造単位Tは、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。また、他の実施形態において、後述するように、電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、構造単位Tは重合可能な構造(例えば、ピロール-イル基等の重合性官能基)であってもよい。
【0039】
構造単位Tの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Tは、以下に限定されない。
【化5】
【0040】
Rは、構造単位LにおけるRと同様である。電荷輸送性ポリマーが末端部に重合性官能基を有する場合、好ましくは、Rのいずれか少なくとも1つが、重合性官能基を含む基である。
【0041】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。
【0042】
構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Bは、以下に限定されない。
【化6】
【0043】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数2~30個のアレーントリイル基又はヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数2~30個のアリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、構造単位LにおけるRが挙げられる。
【0044】
(重合性官能基)
一実施形態において、インク組成物の塗布後に重合反応により塗膜の硬化をより促進させる観点と、インク組成物において溶媒への溶解度を変化させる観点から、電荷輸送性ポリマーは、重合性官能基を少なくとも1つ有することが好ましい。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、互いに結合を形成し得る官能基をいう。
【0045】
重合性官能基としては、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリロイルオキシ基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリロイルオキシ基、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。重合性官能基としては、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましく、反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましい。
【0046】
重合性官能基の自由度を上げ、重合反応を生じさせやすくする観点からは、電荷輸送性ポリマーの主骨格と重合性官能基とが、アルキレン鎖で連結されていることが好ましい。また、例えば、電極上に有機層を形成する場合、ITO等の親水性電極との親和性を向上させる観点からは、エチレングリコール鎖、ジエチレングリコール鎖等の親水性の鎖で連結されていることが好ましい。さらに、重合性官能基を導入するために用いられるモノマーの調製が容易になる観点からは、電荷輸送性ポリマーは、アルキレン鎖及び/又は親水性の鎖の末端部、すなわち、これらの鎖と重合性官能基との連結部、及び/又は、これらの鎖と電荷輸送性ポリマーの骨格との連結部に、エーテル結合又はエステル結合を有していてもよい。前述の「重合性官能基を含む基」とは、重合性官能基それ自体、又は、重合性官能基とアルキレン鎖等とを合わせた基を意味する。重合性官能基を含む基として、例えば、国際公開第2010/140553号に例示された基を好適に用いることができる。
【0047】
重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0048】
重合性官能基は、溶解度の変化や熱又は光などの外部エネルギー照射に対する耐性に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0049】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、十分な溶解度の変化を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は、電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、750個以下がより好ましく、500個以下が更に好ましい。
【0050】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、重合性官能基の仕込み量(例えば、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量)、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーの1H NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0051】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。
【0052】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。
例えば、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、1,000以上1,000,000以下が好ましく、5,000以上700,000以下がより好ましく、10,000以上400,000以下が更に好ましい。
【0053】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。具体的には、以下の装置、条件にて測定することができる。
装置: 高速液体クロマトグラフ Prominence、(株)島津製作所製
送液ポンプ(LC-20AD)
脱気ユニット(DGU-20A)
オートサンプラ(SIL-20AHT)
カラムオーブン(CTO-20A)
PDA検出器(SPD-M20A)
示差屈折率検出器(RID-20A)
カラム:Gelpack(登録商標)
GL-A160S(製造番号:686-1J27)
GL-A150S(製造番号:685-1J27) 日立化成(株)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)(HPLC用、安定剤含有)、富士フイルム和光純薬(株)製
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
分子量標準物質:PStQuick B/C/D 東ソー(株)
【0054】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0055】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。
【0056】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0057】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として、0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。
【0058】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~70が好ましく、100:3~50がより好ましく、100:5~30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80が更に好ましい。
【0059】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーの1H NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0060】
(製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木・宮浦カップリング、根岸カップリング、園頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木・宮浦カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木・宮浦カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0061】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物、Cu化合物、Pt化合物、Ru化合物、Rh化合物、Fe化合物等の遷移金属化合物が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0062】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料は、ドーパントを更に含有してもよい。ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得る化合物であればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0063】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl3、PF5、AsF5、SbF5、BF5、BCl3、BBr3等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO5、H2SO4、HClO4等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl4、ZrCl4、HfCl4、NbF5、AlCl3、NbCl5、TaCl5、MoF5;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF6
-(ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF4
-(テトラフルオロホウ酸イオン)、PF6
-(ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして前記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl2、Br2、I2、ICl、ICl3、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000-36390号公報、特開2005-75948号公報、特開2003-213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等である。
【0064】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、Cs2CO3等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0065】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合は、有機層の溶解度の変化を容易にするために、ドーパントとして、重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。
【0066】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性低分子化合物、他のポリマー等を更に含有してもよい。
【0067】
[含有量]
電荷輸送性ポリマーの含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0068】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0069】
[重合開始剤]
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、インク組成物は、好ましくは、重合開始剤を含有する。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。そのような物質として、例えば、上記イオン化合物が挙げられる。
【0070】
[添加剤]
本実施形態のインク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0071】
[含有量]
本実施形態のインク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し有機エレクトロニクス材料の割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、50質量%以下となる量が好ましく、30質量%以下となる量がより好ましく、20質量%以下となる量が更に好ましい。
【0072】
以上の通り、本実施形態のインク組成物は、有機エレクトロニクス材料と溶媒とを含有する。そして、本実施形態のインク組成物を用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機層を容易に形成することができる。以下に、本実施形態のインキ組成物により形成される有機層について説明する。
【0073】
<有機層>
本実施形態のインク組成物を用いることによって、塗布法により有機層を良好に形成することができる。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。塗布法によって有機層を形成する場合、塗布後に得られた有機層(塗布層)を、ホットプレート又はオーブンを用いて乾燥させ、溶媒を除去してもよく、減圧環境下で溶媒を除去してもよい。
【0074】
電荷輸送性ポリマーが重合性官能基を有する場合、光照射、加熱処理等により電荷輸送性ポリマーの重合反応を進行させ、有機層の溶解度を変化させることができる。また、溶解度を変化させた有機層を積層することで、有機エレクトロニクス素子の多層化を容易に図ることが可能となる。すなわち、有機層上に、さらに別の層を有し、多層化された構成とすることができる。有機層の形成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0075】
乾燥後又は硬化後の有機層の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機層の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは500nm以下であり、更に好ましくは200nm以下である。
【0076】
<有機エレクトロニクス素子>
本実施形態の有機エレクトロニクス素子は、本実施形態のインク組成物により形成された有機層を含む。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、少なくとも一対の電極の間に有機層が配置された構造を有する。
【0077】
[有機EL素子]
本実施形態に係る有機EL素子は、本実施形態のインク組成物により形成された有機層を少なくとも含む。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、有機層を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。
【0078】
以下、
図1を参照して有機EL素子を説明する。なお、本発明は図面に例示される具体例に限定されない。
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。
図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。正孔注入層3、正孔輸送層6、発光層1、及び電子輸送層7、及び電子注入層5の少なくとも1つにおいて、本実施形態によるインク組成物を用いて形成される有機層が含まれるとよい。以下、各層について説明する。
【0079】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0080】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0081】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C2]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)3(ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)2Ir(acac)(ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C3〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)3(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2、3、7、8、12、13、17、18-オクタエチル-21H、23H-フォルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0082】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が挙げられる。ポリマーとしては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。発光層に用いる材料として有機エレクトロニクス材料を用いてもよい。ポリマーとして有機エレクトロニクス材料を用いる場合は、本実施形態のインク組成物を用いて発光層を形成してもよい。
【0083】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0084】
[正孔輸送層、正孔注入層]
図1では、正孔注入層3及び正孔輸送層6が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層であってよいが、本実施形態の有機EL素子はこのような構造に限らない。正孔注入層及び正孔輸送層以外の有機層が、上記の有機エレクトロニクス材料を用いて形成されてもよい。
上記有機エレクトロニクス材料は、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一方として使用されることが好ましく、少なくとも正孔輸送層として使用されることがさらに好ましい。例えば、有機EL素子が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔輸送層として有し、さらに正孔注入層を有する場合、正孔注入層には公知の材料を使用できる。また、例えば、有機EL素子が、上記有機エレクトロニクス材料を用いて形成された有機層を正孔注入層として有し、さらに正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層には公知の材料を使用できる。
【0085】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体等が挙げられる。電子輸送層及び電子注入層に用いる材料として有機エレクトロニクス材料を用いてもよい。この場合、本実施形態のインク組成物を用いて電子輸送層及び電子注入層を形成してもよい。
【0086】
[電子阻止層、正孔阻止層、励起子阻止層]
一方、
図1には示していないが、有機EL素子には、発光層に隣接して、電子阻止層、正孔阻止層、励起子(トリプレット)阻止層等を設けてもよい。
電子阻止層とは、発光層から正孔輸送層へ電子が漏出することを阻止する機能を有する層である。正孔阻止層とは、発光層から電子輸送層へ正孔が漏出することを阻止する機能を有する層である。励起子阻止層は、発光層で生成した励起子が隣接する層へ拡散することを阻止し、励起子を発光層内に閉じ込める機能を有する層である。
【0087】
電子阻止層に用いる材料としては、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital(最低空軌道))が真空準位に比較的近い(LUMOの浅い)材料が用いることができる。例えば、電子阻止層には、前述の正孔輸送層と同様の材料を用いることができる。
また、正孔阻止層に用いる材料としては、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital(最高被占軌道))が真空準位から比較的遠い(HOMOの深い)材料を用いることができる。例えば、正孔阻止層には、前述の電子輸送層と同様の材料を用いることができる。
さらに、励起子阻止層に用いる材料としては、アルミニウムキノレート(Alq3)、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、4,4’-N,N’-ジカルバゾール-ビフェニル(CBP)、及びバソキュプロイン(BCP)等が挙げられる。
【0088】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0089】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0090】
[基板]
基板として、ガラス、シリコンなどの無機材料、プラスチック等の有機材料から構成されるフィルム又はシートの形状とすることができる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有することが好ましい。石英ガラス、シリコン、樹脂フィルム等が好ましく用いられる。より好ましくは樹脂フィルムであり、さらに好ましくは光透過性樹脂フィルムである。
【0091】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0092】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよく、素子全体を封止してもよい。
【0093】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0094】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0095】
<表示素子、照明装置、表示装置>
有機EL素子は、表示素子、照明装置、表示装置等に適用することができる。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0096】
例えば、照明装置は、有機EL素子を備えることができる。また、表示装置は、有機EL素子を備える照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えることができる。具体的には、表示装置は、バックライトとして有機EL素子を備える照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とできる。
【0097】
以上、本実施形態の有機エレクトロニクス素子を、有機EL素子に適用した場合を示したが、太陽電池などの光電変換素子、イメージセンサー、フォトディテクター、トランジスタ、生体センサー等に適用してもよい。すなわち、太陽電池、イメージセンサー等が有機層を有する場合、本実施形態のインク組成物により当該有機層を形成してもよい。
【実施例0098】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
《有機エレクトロニクス材料の合成》
まず、有機エレクトロニクス材料として、電荷輸送性ポリマーの合成を行った。以下にその詳細を示す。
【0100】
<Pd触媒の調製>
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、ガラス製サンプルバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム73.2mg(80μmol)を秤取り、トルエンを15mL加え30分間撹拌した。同様に、ガラス製サンプルバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、トリス(t-ブチル)ホスフィン129.6mg(640μmol)を秤取り、トルエンを5mL加え5分間撹拌した。これらの溶液を混合し、80℃で2時間撹拌し、得られた溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルターで不溶物を除去した溶液を触媒溶液とした。すべての溶媒は30分間以上窒素バブリングにより脱気したもの使用した。
【0101】
<電荷輸送性ポリマー1~5の合成>
電荷輸送性ポリマー1~5の合成それぞれにおいて、100mLの三口丸底ガラスフラスコに、モノマー総量10mmolのスケールで下記に示す各モノマーを表1の配合比となるよう秤量した。そして、1質量%トリオクチルメチルアンモニウムクロリドのトルエン溶液を1.2mL及び3M水酸化カリウム水溶液を2.2mLおよびトルエンを溶液濃度10質量%となるよう加えた。すべての溶媒は30分以上窒素バブリングにより脱気したもの使用した。反応液が入ったフラスコに還流冷却管及び窒素ガスフロー管取り付け、120℃に加熱したオイルバスにフラスコを浸し、溶媒還流下10分攪拌し、モノマーを溶解させた。続けて上記調製したPd触媒溶液を0.3mL加え、反応液を2時間加熱還流した。反応はすべて窒素気流下で行った。
【0102】
【0103】
【0104】
反応終了後、フラスコをオイルバスから取り出し、0.1mol/Lのジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム水溶液を5mL加え5分間撹拌した。反応液を10分間静置して分離した水層を除去し、有機層を水洗した。有機層を孔径0.2μmのメンブレンフィルターを通してろ過し、ろ液をメタノール-水(9:1)混合溶液に注いだ。生じた沈殿を濾別し、メタノールで洗浄した。得られた沈殿を酢酸エチルで洗浄し、残った固形物を吸引ろ過して、得られた固形物をメタノールで洗浄した後、固形物を真空乾燥し、電荷輸送性ポリマー1~5を得た。
【0105】
(数平均分子量の測定、重量平均分子量の測定)
合成した電荷輸送性ポリマー1~5の数平均分子量及び重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC)を用いて下記条件で測定した。各電荷輸送性ポリマーの数平均分子量及び重量平均分子量を下記表2に示す。
装置: 高速液体クロマトグラフ Prominence、(株)島津製作所製
送液ポンプ(LC-20AD)
脱気ユニット(DGU-20A)
オートサンプラ(SIL-20AHT)
カラムオーブン(CTO-20A)
PDA検出器(SPD-M20A)
示差屈折率検出器(RID-20A)
カラム:Gelpack(登録商標)
GL-A160S(製造番号:686-1J27)
GL-A150S(製造番号:685-1J27) 日立化成(株)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)(HPLC用、安定剤含有)、富士フイルム和光純薬(株)製
流速:1mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
分子量標準物質:PStQuick B/C/D 東ソー(株)
【0106】
【0107】
(溶媒溶解性の評価)
ガラスバイアルにフッ素樹脂コーティングされた磁器撹拌子を入れ、上記のように合成した電荷輸送性ポリマー1~5のそれぞれを30mg及び表3~4に示す溶媒を970mg秤量して30℃で1時間撹拌した。1時間撹拌した溶液に残留物が残っているかを目視で確認した。表3~4に溶解性の評価結果を示す。評価結果として残留物が残らずすべて溶解した場合を〇、電荷輸送性ポリマーが溶け切らず残留物として残った場合を×として表記した。
【0108】
【0109】
【0110】
各種有機溶媒の溶解性を評価した結果、電荷輸送性ポリマー1~5すべてを溶解した有機溶媒は、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、トルエン、アニソール、ジフェニルエーテル、及びテトラヒドロフランであった。
以下、有機溶媒として、シクロペンタノン、シクロヘキサノンを用いたものをそれぞれ実施例1、2とし、有機溶媒として、トルエン、アニソール、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフランを用いたものをそれぞれ比較例1~5として以下の成膜性の評価を行った。
【0111】
(成膜性の評価)
各実施例・比較例において、電荷輸送性ポリマー1~5のそれぞれを、ガラスバイアルに30mg秤量し、有機溶媒を700mg加えて、振動撹拌機を用いて電荷輸送性ポリマーを溶解させて電荷輸送性ポリマー溶液を得た。また、アンモニウムボレート塩45mgを各有機溶媒5.0mLに溶解し、アンモニウムボレート塩溶液を得た。電荷輸送性ポリマー溶液にアンモニウムボレート塩溶液0.1mL加え、次いで濃度がそれぞれ3質量%となるよう溶媒を加えて、塗布溶液(インク組成物)を調製した。塗布溶液を、室温(25℃)で回転数3,000rpmで石英ガラス板上にスピンコートし、次いで、溶液を塗布した石英ガラス板をホットプレート上で150℃、30分間の条件で加熱し有機層を得た。
【0112】
(有機層の膜厚評価)
上述で得られた有機層を、接触式膜厚計((株)小坂研究所製、ET-200A)を用いて評価した。石英基板上の任意の5点と基板平面との差より膜厚を評価し、その平均値を有機層の膜厚とした。
【0113】
以下、表5に実施例1~9及び比較例1~5の溶解性および溶液粘度の結果を示す。
【0114】
【0115】
実施例1及び2より、溶媒として脂環式ケトンを用いることで、高膜厚の有機層を得ることができた。特に、実施例1のシクロペンタノンを使用した場合に、有機エレクトロニクス材料に対する溶解性が最も良好であり、かつ、有機層の膜厚も厚い傾向にあった。
一方、比較例1で用いたトルエンは同様に高膜厚の有機層を得ることができるが、生殖毒性を有するなど、毒性の強い有機溶媒であり、使用を回避することが求められる。また、比較例2で用いたアニソールでは有機層の膜厚が大きくならず、比較例3で用いたテトラヒドロフランでは膜厚のばらつきが大きく平坦性の高い有機層が得られなかった。また、比較例4で用いたジフェニルエーテルは塗布中に固化し、電荷輸送性ポリマー単膜が得られなかった。
以上より、電荷輸送性ポリマーの溶媒として脂環式ケトンを用いることによって、溶解性が良好な溶液の作製が可能となり、該溶液を塗布することで平坦性が高く、高い膜厚の有機層を形成することができる。