(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085543
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】温度測定システムおよび温度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/70 20220101AFI20240620BHJP
【FI】
G01J5/70 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200110
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 泰生
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 直博
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC09
2G066BB05
2G066BC11
2G066CA11
2G066CA16
(57)【要約】
【課題】 測定対象物との距離が離れた場合であっても、測定対象物の表面温度を正確に測定することができる温度測定システムおよび温度測定方法を提供する。
【解決手段】 温度測定システムは、測定対象物の表面温度を非接触で測定する放射温度測定部と、測定対象物と放射温度測定部との間の空間の絶対湿度を取得する絶対湿度取得部と、放射温度測定部で測定された測定温度を、絶対湿度取得部で取得された絶対湿度に基づいて補正する演算部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面温度を非接触で測定する放射温度測定部と、
前記測定対象物と前記放射温度測定部との間の空間の絶対湿度を取得する絶対湿度取得部と、
前記放射温度測定部で測定された測定温度を、前記絶対湿度取得部で取得された前記絶対湿度に基づいて補正する演算部と、を備える、温度測定システム。
【請求項2】
前記演算部は、前記絶対湿度に起因する前記表面温度と前記測定温度との偏差に応じた補正値のデータを格納する記憶部を有し、
前記演算部は、前記測定温度に前記補正値を加算して前記表面温度とする、請求項1に記載の温度測定システム。
【請求項3】
前記絶対湿度取得部は、前記空間の相対湿度と気温から前記絶対湿度を算出する、請求項1又は2に記載の温度測定システム。
【請求項4】
前記測定対象物と前記放射温度測定部との間の距離を取得する距離取得部を備え、
前記演算部は、前記測定温度を、前記距離取得部で取得された前記距離に基づいて補正する、請求項1~3の何れか1項に記載の温度測定システム。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の温度測定システムを用いて、前記測定対象物の表面温度を測定する温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、温度測定システムおよび温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の温度を非接触で測定する温度計として、測定対象物から放射される赤外線を検出し、そのエネルギー量から温度を算出する非接触式の放射温度計が知られている。このような放射温度計を用いて、離れた位置にある測定対象物の温度を測定すると、放射温度計と測定対象物との間に介在する水蒸気量によって、赤外線の一部が吸収され、センサにまで届く信号(赤外線)が減り、測定された温度が測定対象物の実際の温度に比べて低くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、課題は、測定対象物との距離が離れた場合であっても、測定対象物の表面温度を正確に測定することができる温度測定システムおよび温度測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
温度測定システムは、測定対象物の表面温度を非接触で測定する放射温度測定部と、
前記測定対象物と前記放射温度測定部との間の空間の絶対湿度を取得する絶対湿度取得部と、
前記放射温度測定部で測定された測定温度を、前記絶対湿度取得部で取得された前記絶対湿度に基づいて補正する演算部と、を備える。
【0006】
温度測定方法は、上記の温度測定システムを用いて、前記測定対象物の表面温度を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一実施形態に係る温度測定システムの全体概要図
【
図2】同実施形態に係る絶対湿度取得部の制御ブロック図
【
図5】放射温度測定部の測定温度(℃)と絶対湿度(g/m
3)との関係を示すグラフ
【
図6】他の実施形態に係る温度測定システムの全体概要図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、温度測定システムおよび温度測定方法における一実施形態について、
図1~
図5を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0009】
図1に示すように、温度測定システム1は、放射温度測定部2と、絶対湿度取得部3と、演算部4とを備えている。ここでは、温度測定システム1は、放射温度測定部2から所定の距離Lだけ離れた位置にある測定対象物Oの表面温度を測定するものとして説明する。距離Lは、例えば10m以上である。
温度測定システム1は、測定した測定対象物Oの表面温度を出力する出力部6を備えていてもよい。「出力」は、例えば、モニターによる表示でもよく、プリンターによる印刷でもよく、通信部による外部装置への送信でもよく、メディア書込装置による記憶媒体への記憶でもよい。また、温度測定システム1は、各部2,3,4,6を制御する制御部7を備えていてもよい。
【0010】
放射温度測定部2は、例えば、測定対象物Oの表面温度を非接触で測定する放射温度計である。放射温度計においては、測定対象物Oから放射された赤外線がレンズで温度センサ(サーモパイル)に集光される。温度センサ(サーモパイル)では、入射された赤外線エネルギーに応じた出力信号が発生し、この出力信号がマイクロコンピュータ等で温度に換算される。放射温度測定部2は、測定した温度(以下、測定温度という)のデータを演算部4へ向けて出力する。なお、放射温度測定部2は、サーモグラフィカメラにより構成されてもよい。
【0011】
絶対湿度取得部3は、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sの絶対湿度を取得する。絶対湿度取得部3は、取得した絶対湿度のデータを演算部4へ向けて出力する。なお、本実施形態では、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sにおいて、絶対湿度が一定であるとしている。
【0012】
絶対湿度取得部3は、測定作業者からの入力を受け付ける入力部3aを備えていてもよい。入力部3aは、例えばタッチパネルやキーボードにより構成される。入力部3aには、相対湿度を測定可能な相対湿度センサ3dで測定された相対湿度、および気温を測定可能な温度センサ3eで測定された気温が入力される。これらの相対湿度センサ3dおよび温度センサ3eは、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sの相対湿度および気温を測定する。なお、入力部3aへの相対湿度および気温の入力は、相対湿度センサ3dおよび温度センサ3eから有線通信または無線通信により直接行われてもよい。入力部3aは、入力された相対湿度と気温のデータを算出部3bへ向けて出力する。
【0013】
また、絶対湿度取得部3は、入力部3aから入力された相対湿度と気温から絶対湿度を算出する算出部3bと、相対湿度と絶対湿度に関するデータを格納する記憶部3cとを備えていてもよい。
【0014】
図4は、相対湿度と絶対湿度の関係を示すグラフである。
図4に示すように、相対湿度と絶対湿度との間には相関がある。また、同じ相対湿度であっても、気温が高くなるほど飽和水蒸気量が多くなるため、絶対湿度は高くなる。記憶部3cは、例えば
図4に示す相対湿度と絶対湿度に関するデータを格納している。
【0015】
算出部3bは、記憶部3cに格納されたデータを用いて、入力された相対湿度と気温から絶対湿度を算出することができる。算出部3bは、取得した絶対湿度のデータを演算部4へ向けて出力する。
【0016】
演算部4は、CPU及びMPU等のプロセッサ(例えば、温度補正部4a)、ROM及びRAM等のメモリ(例えば、記憶部4b)、各種インターフェイス等を有するコンピュータを備えていてもよい。そして、メモリに格納されたプログラムをプロセッサが実行し、ソフトウェア及びハードウェアが協働することによって、演算部4が実現されていてもよい。
【0017】
演算部4は、放射温度測定部2で測定された測定温度を、絶対湿度取得部3で取得された絶対湿度に基づいて補正する温度補正部4aを備える。また、演算部4は、記憶部4bを備えており、記憶部4bは、放射温度測定部2で測定された測定温度と、温度補正部4aによる補正のための補正値のデータを格納する。
【0018】
図5は、距離Lだけ離れた位置の測定対象物の表面温度を測定したときの放射温度測定部2の測定温度(℃)と、絶対湿度(g/m
3)との関係を示すグラフである。
図5のように、絶対湿度の上昇に伴って放射温度測定部2の測定温度が低下する。これは、絶対湿度が高くなると、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sに介在する水蒸気量が増えるため、測定対象物Oから照射された赤外線がより多く減衰するためである。このとき、気温によらず、絶対湿度の上昇に伴って略同じ傾きで放射温度測定部2の測定温度は低下する。記憶部4bは、例えば
図5に示す絶対湿度による測定温度の低下量に関するデータを格納している。
【0019】
温度補正部4aは、記憶部4bに格納されたデータを用いて、放射温度測定部2で測定された測定温度を、絶対湿度取得部3で取得された絶対湿度に基づいて補正する。具体的には、温度補正部4aは、放射温度測定部2で測定された測定温度に、空間Sの絶対湿度(水蒸気量)に起因する測定対象物Oの表面温度と放射温度測定部2の測定温度との偏差に応じた補正値(空間Sに介在する水蒸気量による測定温度の低下量)を加算して、測定対象物Oの表面温度とする。
【0020】
以上より、本実施形態に係る温度測定システム1は、測定対象物Oの表面温度を非接触で測定する放射温度測定部2と、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sの絶対湿度を取得する絶対湿度取得部3と、放射温度測定部2で測定された測定温度を、絶対湿度取得部3で取得された絶対湿度に基づいて補正する演算部4と、を備える。
【0021】
斯かる構成によれば、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sに介在する水蒸気量によって低下した測定温度を絶対湿度に基づいて補正することで、測定温度を測定対象物Oの実際の表面温度に近付けることができるため、測定対象物Oの表面温度を正確に測定することができる。
【0022】
また、本実施形態のように、演算部4は、絶対湿度に起因する表面温度と測定温度との偏差に応じた補正値のデータを格納する記憶部4bを有し、
演算部4は、測定温度に補正値を加算して表面温度とする、という構成でもよい。
【0023】
斯かる構成によれば、測定対象物Oの表面温度を正確に測定することができる。
【0024】
また、本実施形態のように、絶対湿度取得部3は、空間Sの相対湿度と気温から絶対湿度を算出する、という構成でもよい。
【0025】
斯かる構成によれば、空間Sの絶対湿度を正確に取得することができる。
【0026】
なお、温度測定システム1は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、温度測定システム1は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に一つ又は複数選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0027】
(1)上記実施形態に係る温度測定システム1においては、絶対湿度取得部3は、空間Sの相対湿度と気温から絶対湿度を算出する、という構成である。しかしながら、温度測定システム1は、斯かる構成に限られない。例えば、絶対湿度取得部3は、絶対湿度を測定可能な湿度センサにより構成されてもよい。
【0028】
(2)上記実施形態に係る温度測定システム1においては、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離Lを一定として、測定対象物Oの測定温度を補正している。しかしながら、温度測定システム1は、斯かる構成に限られない。例えば、
図6に示すように、温度測定システム1は、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離を取得する距離取得部5を備えていてもよい。距離取得部5は、例えば、レーザ距離計で構成される。そして、演算部4は、放射温度測定部2で測定された温度を、距離取得部5で取得された距離に基づいて補正するようにしてもよい。測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離に応じて、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sに介在する水蒸気量が変わるため、距離が長くなるほど、実際の表面温度からの測定温度の低下量が大きくなる。そのため、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離に基づいて測定温度を補正することで、測定温度を測定対象物Oの実際の表面温度に近付けることができ、測定対象物Oの表面温度を正確に測定することができる。
【0029】
(3)上記実施形態に係る温度測定システム1は、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離が既知(距離L)である条件のもと、放射温度測定部2で測定された測定温度を、絶対湿度取得部3で取得された絶対湿度に基づいて補正することで、測定対象物Oの表面温度を正確に測定できるようにしている。
【0030】
また、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離、および測定対象物Oの実際の表面温度が既知である条件のもと、放射温度測定部2で測定された測定温度と実際の表面温度との温度差から、空間Sの絶対湿度を演算することができる。
【0031】
また、測定対象物Oの実際の表面温度が既知である条件のもと、絶対湿度取得部3で取得された絶対湿度および放射温度測定部2で測定された測定温度に基づいて、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離を演算することができる。
【0032】
(4)上記実施形態に係る温度測定システム1においては、空間Sの絶対湿度が一定であるという前提条件であったが、空間Sの絶対湿度は不均一の場合もあり得る。例えば、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の距離、および測定対象物Oの実際の表面温度が既知である条件のもと、この条件から演算した絶対湿度と、絶対湿度取得部3で取得された絶対湿度との間に差がある場合には、測定対象物Oと放射温度測定部2との間の空間Sの絶対湿度にバラツキがあると言える。特に、測定対象物Oと放射温度測定部2とが鉛直方向に離れて配置された場合、鉛直方向では絶対湿度の分布差が顕著となる傾向がある。そのため、空間における絶対湿度のバラツキを感知することができれば、天井に設けたサーキュレーターなどで空間を強制対流させるトリガーにできる。
【符号の説明】
【0033】
1…温度測定システム、2…放射温度測定部、3…絶対湿度取得部、3a…入力部、3b…算出部、3c…記憶部、3d…相対湿度センサ、3e…温度センサ、4…演算部、4a…温度補正部、4b…記憶部、5…距離取得部、6…出力部、7…制御部、O…測定対象部、S…空間、L…距離