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  • 特開-含水液体の保温方法及び油脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008568
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】含水液体の保温方法及び油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/013 20060101AFI20240112BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240112BHJP
   A23L 27/50 20160101ALN20240112BHJP
【FI】
A23D9/013
A23D9/00 518
A23L27/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110542
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 太一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 孝宏
【テーマコード(参考)】
4B026
4B039
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DK01
4B026DK02
4B026DK03
4B026DK04
4B026DK10
4B026DX01
4B039LB01
4B039LC20
4B039LG37
4B039LG44
(57)【要約】
【課題】含水液体の経時的な温度変化を抑制することができる含水液体の保温方法及び当該保温方法に使用するための油脂組成物を提供する。
【解決手段】油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物により、接触空気温度に対して温度差を有している含水液体の液面の一部又は全部を覆う被覆工程を含む、含水液体の保温方法。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物により、接触空気温度に対して温度差を有している含水液体の液面の一部又は全部を覆う被覆工程を含む、含水液体の保温方法。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【請求項2】
前記被覆工程は、前記油脂組成物により前記液面の面積の20%以上を覆う工程である、請求項1に記載の保温方法。
【請求項3】
前記被覆工程は、前記油脂組成物の添加量(g)/前記液面の面積(cm)が0.007以上(g/cm)の量の前記油脂組成物を前記含水液体に添加する工程又は前記含水液体を前記量の前記油脂組成物に添加する工程を含む、請求項1に記載の保温方法。
【請求項4】
前記含水液体が、接触空気温度より高い温度を有している、請求項1に記載の保温方法。
【請求項5】
前記含水液体が、接触空気温度に対して5℃以上の温度差を有している、請求項1に記載の保温方法。
【請求項6】
前記油脂組成物が、前記乳化剤Aを含有する、請求項1に記載の保温方法。
【請求項7】
前記油脂組成物が、前記乳化剤Bを含有する、請求項1に記載の保温方法。
【請求項8】
前記油脂組成物が、前記乳化剤Cを含有する、請求項1に記載の保温方法。
【請求項9】
前記乳化剤Cが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコールモノエステルから選ばれる1種、又は2種以上である、請求項8に記載の保温方法。
【請求項10】
前記油脂が、精製植物油である、請求項1に記載の保温方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の保温方法に使用するための請求項1~10のいずれか1項に記載の油脂組成物。
【請求項12】
油脂組成物により含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法であって、
前記油脂組成物が、油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物である、方法。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水液体の保温方法及び当該保温方法に使用するための油脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲料用の冷水やお湯、冷蔵庫から取り出した飲料、急須で入れた緑茶、または浴槽のお湯など、室温と異なる所定の温度を有する含水液体は、時間の経過とともに室温へと変化する。所定の温度を有するこれらの含水液体は、長時間、その温度で保温されることが望まれる。
【0003】
含水液体の保温方法としては、特許文献1及び2に開示の方法が知られている。
【0004】
特許文献1には、バージンオリーブオイルを水ベースの液体に添加すると、液面に広がって薄い油膜を形成し、これにより他の食用油と比較して少ない量で液体の経時的な温度変化を抑制できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、焙煎食用油を含む油を水ベースの液体に添加すると、液面に広がって薄い油膜を形成し、これにより他の食用油と比較して少ない量で液体の経時的な温度変化を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-116076号公報
【特許文献2】特開2013-183638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バージンオリーブオイルや焙煎食用油は、比較的、高価であることから、これら高価な油に限られずに、比較的安価な油脂を使用して含水液体を保温することが可能な保温方法が望まれる。
【0008】
本発明の目的は、含水液体の経時的な温度変化を抑制することができる含水液体の保温方法及び当該保温方法に使用するための油脂組成物を提供することである。なお、本発明における「保温」とは、接触空気温度への経時的な含水液体の温度変化(温度低下又は温度上昇)を抑制する(遅らせる)ことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の含水液体の保温方法及び当該保温方法に使用するための油脂組成物、並びに含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法を提供する。
【0010】
本発明において、X(数値)~Y(数値)との記載は、特に明記していない限り、X以上Y以下を意味する。
【0011】
[1]油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物により、接触空気温度に対して温度差を有している含水液体の液面の一部又は全部を覆う被覆工程を含む、含水液体の保温方法。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
[2]前記被覆工程は、前記油脂組成物により前記液面の面積の20%以上を覆う工程である、前記[1]に記載の保温方法。
[3]前記被覆工程は、前記油脂組成物の添加量(g)/前記液面の面積(cm)が0.007以上(g/cm)の量の前記油脂組成物を前記含水液体に添加する工程又は前記含水液体を前記量の前記油脂組成物に添加する工程を含む、前記[1]又は[2]に記載の保温方法。
[4]前記含水液体が、接触空気温度より高い温度を有している、前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の保温方法。
[5]前記含水液体が、接触空気温度に対して5℃以上の温度差を有している、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の保温方法。
[6]前記油脂組成物が、前記乳化剤Aを含有する、前記[1]~[5]のいずれか1つに記載の保温方法。
[7]前記油脂組成物が、前記乳化剤Bを含有する、前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の保温方法。
[8]前記油脂組成物が、前記乳化剤Cを含有する、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の保温方法。
[9]前記乳化剤Cが、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコールモノエステルから選ばれる1種、又は2種以上である、前記[8]に記載の保温方法。
[10]前記油脂が、精製植物油である、前記[1]~[9]のいずれか1つに記載の保温方法。
[11]前記[1]~[10]のいずれか1つに記載の保温方法に使用するための前記[1]~[10]のいずれか1つに記載の油脂組成物。
[12]油脂組成物により含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法であって、前記油脂組成物が、油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物である、方法。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、含水液体の経時的な温度変化を抑制することができる含水液体の保温方法及び当該保温方法に使用するための油脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔含水液体の保温方法〕
本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という)に係る含水液体の保温方法は、油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物により、接触空気温度に対して温度差を有している含水液体の液面の一部又は全部を覆う被覆工程を含む。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【0015】
(被覆工程)
本実施形態に係る含水液体の保温方法は、所定の油脂組成物により、接触空気温度に対して温度差を有している含水液体の液面の一部又は全部を覆う被覆工程を含む。
【0016】
含水液体とは、水を含む液体であり、好ましくは50質量%以上の水を含む液体であり、より好ましくは60質量%以上の水を含む液体であり、より好ましくは70質量%以上の水を含む液体であり、より好ましくは80質量%以上の水を含む液体であり、さらに好ましくは90質量%以上の水を含む液体であり、最も好ましくは95質量%以上の水を含む液体である。含水液体としては、飲料、例えば冷水、お湯、ショウガ湯、レモネード、ゆず湯、ココア、スープ飲料、茶、アルコール飲料、炭酸飲料など;あるいは入浴用の湯が挙げられる。特に、体温保温効果を有する飲料、例えばショウガ湯、ホットレモネード、ゆず湯、ココアなどが好ましい。体温保温効果を有する飲料は、例えば血行を良くすることにより、体を温める効能を有することが知られている飲料を指す。本明細書において、「飲料」は、液体のみ(水に溶解している固形分を含有する場合も含む)から構成される飲料だけでなく、液体と水に溶解していない固形分から構成される飲料や飲食品中の汁類も含む、例えば液体スープと具材から構成されるスープ飲料(例えばコーンスープやミネストローネなど)、汁飲料(例えばラーメンやうどんやそうめんやソバ等の麺類の汁、味噌汁、けんちん汁、豚汁、いも煮汁、お汁粉など)、お粥も含む。水に溶解している固形分とは、例えば飲料の素となる粉末又はエキス、具体的には、ショウガ湯の素となるパウダー、ココアパウダー、スープ飲料の素となるパウダー、濃縮ジュース、糖類、食塩、醤油、小麦粉、でんぷん、増粘多糖類、溶解性香辛料、野菜パウダー、アミノ酸、ビタミン類、酸化防止剤、着色料などが挙げられる。水に溶解していない固形分としては、スープ飲料や汁飲料等の固形具材、具体的には、野菜、穀物、果物、獣肉、鶏肉、魚介類、卵などや、これらの加工品(メンマ、蒲鉾、豆腐、麺類など)、固形香辛料などが挙げられる。飲料が水に溶解していない固形分を含む場合、含水液体の水含有量は、当該固形分の質量を除いて算出される。
【0017】
含水液体は、適切な容器に収容され、飲料である場合の容器としては、鍋、釜、フライパン、マグカップ、ティーカップ、湯呑み、どんぶり、茶椀(飯椀)、汁椀、缶、瓶、水筒などが挙げられる。入浴用の湯である場合の容器としては、家庭用のバスタブ、入浴施設(銭湯、スパ、温泉、温水プールなど)における湯舟が挙げられる。容器の材質は特に限定されるものではないが、陶器、樹脂、耐熱ガラス、金属、木、石、岩、コンクリートなどが挙げられ、熱伝導熱率(伝熱性)の低い材料からなる容器が好ましい。
【0018】
接触空気温度に対して温度差を有している含水液体は、任意の温度であり得るが、好ましくは、接触空気温度(例えば20℃)に対して5℃以上、10℃以上、15℃以上、20℃以上、25℃以上、30℃以上、35℃以上、40℃以上、45℃以上、50℃以上、55℃以上、60℃以上、65℃以上、70℃以上、75℃以上、80℃以上、85℃以上又は90℃以上の温度差を有する。すなわち、接触空気温度より5~90℃以上高い温度又は接触空気温度より5~90℃以上低い温度を有する。また、含水液体は、好ましくは接触空気温度より高い温度を有し、より好ましくは接触空気温度より上記温度差以上高い温度を有する。含水液体が飲料の場合、例えば、0~10℃のコールド飲料又は80~100℃のホット飲料であり得る。なお、接触空気温度とは、例えば、含水液体の製造現場又は提供現場や風呂場等の室温や外気温、水筒等の密閉容器内の気体温度を意味する。
【0019】
被覆工程は、所定の油脂組成物により含水液体の液面の一部又は全部を覆う工程であるが、液面の面積の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は100%を覆う工程であることが好ましい。液面とは、周囲の空気と接触する含水液体の液面を意味する。
【0020】
被覆工程は、所定の油脂組成物の添加量(g)/含水液体の液面の面積(cm)が0.005以上、0.007以上、0.01以上、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上、0.11以上、0.12以上、0.13以上又は0.14以上(g/cm)の量の所定の油脂組成物を含水液体に添加する工程又は含水液体を前記量の所定の油脂組成物に添加する工程を含むことが好ましい。添加量の上限は特に限定されるものではないが、より少量で高い保温効果を得られることが好ましいので、0.3以下、0.2以下、0.18以下、0.16以下、0.15以下又は0.14以下(g/cm)であることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る保温方法に使用する所定の油脂組成物は、油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する。
【0022】
(油脂)
本実施形態において、油脂としては、動植物油脂、グリセリンと脂肪酸から合成した油脂及びそれらの分別油、エステル交換油、水素添加油などを単独あるいは組み合わせて用いることができる。動物油としては、牛脂、乳脂、魚油などが挙げられるが、大豆油、ハイオレイック大豆油、菜種油、ハイオレイック菜種油、綿実油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、コーン油、米油、ゴマ油、オリーブ油、えごま油、亜麻仁油、落花生油、ぶどう種子油、ヤシ油、パーム核油、パーム油等の植物油脂を用いることが好ましい。グリセリンと脂肪酸から合成した油脂としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる。分別油としては、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクション等のパーム油の分別油が挙げられる。エステル交換油としては、パーム油あるいはパーム油の分別油と他の液状油脂のエステル交換油、あるいはMCTと植物油などとのエステル交換油を用いることができる。水素添加油は、動植物油、動植物油の分別油の水素添加油の他、エステル交換油の水素添加油などが挙げられる。未精製油脂であっても精製油脂であってもよいが、精製油脂を用いることが好ましい。
【0023】
油脂組成物における油脂の含有量は、40~99.9質量%である。油脂含有量の下限値は、好ましくは48質量%であり、より好ましくは78質量%、88質量%、93質量%又は98質量%である。また、油脂含有量の上限値は、好ましくは99.6質量%であり、より好ましくは99.2質量%、92質量%、82質量%又は52質量%である。
【0024】
(乳化剤A)
一実施形態において、油脂組成物は、下記の乳化剤Aを含有する。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
【0025】
本実施形態におけるショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と炭素数8~24の直鎖状脂肪酸のエステル化物であり、構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸であるが、構成脂肪酸の60~100質量%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、70~100質量%が不飽和脂肪酸であることがより好ましい。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、エルカ酸が好ましく、オレイン酸がより好ましい。炭素数8~24の直鎖状脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸以外の脂肪酸は、飽和脂肪酸であり、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。ショ糖脂肪酸エステルとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製のリョートーシュガーエステルO-170などを適宜使用できる。ショ糖脂肪酸エステルは、2種以上を併用してもよい。
【0026】
HLBが0~5のショ糖脂肪酸エステルが好ましく、HLBが0~3.5のショ糖脂肪酸エステルがより好ましく、HLBが0.5~2のショ糖脂肪酸エステルがさらに好ましく、HLBが0.5~1.5のショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0~20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLBの算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法では、HLBは下記式により算出される。
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
【0027】
(乳化剤B)
一実施形態において、油脂組成物は、下記の乳化剤Bを含有する。
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
【0028】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、阪本薬品工業株式会社製のSYグリスターCR-310、CR-500、CR-ED、CRS-75など、太陽化学株式会社製のサンソフトNo.818DG、818R、818SK、818Hなど、理研ビタミン株式会社製のポエムPR-300、PR-400など、を適宜使用できる。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルは、2種以上を併用してもよい。
【0029】
HLBが3未満のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが好ましく、HLBが0~2のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルがより好ましく、HLBが1~2のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルがさらに好ましい。
【0030】
また、平均重合度が4~12のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルが好ましく、平均重合度が4~10のポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルがより好ましい。なお、ポリグリセリンは、グリセリンが重合してできたものであり、様々な重合度を有する混合物として得られる。一般的に、重合度4以上のものは、単離することが困難なため、本発明でも、ポリグリセリン構造は、様々な重合度の混合物であることを許容する。そのため、本発明において、重合度は、ポリグリセリン構造における、平均重合度である。重合度は、例えば、水酸基価(OHV)と重合度(n)、分子量(MW)の次の関係式から算出することができる。
MW=74n+18
OHV=56110(n+2)/MW
【0031】
(乳化剤C)
一実施形態において、油脂組成物は、下記の乳化剤Cを含有する。
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【0032】
乳化剤Cは、HLB3~8の乳化剤であるが、HLB3~5.5又は6~8の乳化剤であることが好ましく、HLB3~5又は6.5~8の乳化剤であることがより好ましく、HLB3.5~5又は6.5~7.5の乳化剤であることがさらに好ましい。
【0033】
乳化剤Cは、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル及びプロピレングリコールモノエステルから選ばれる1種、又は2種以上であることが好ましい。
【0034】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、構成脂肪酸の71質量%以上が炭素数16~22の不飽和直鎖脂肪酸であるものが好ましく、構成脂肪酸の75~100質量%が炭素数16~22の不飽和直鎖脂肪酸であるものがより好ましく、構成脂肪酸の80~100質量%が炭素数16~22の不飽和直鎖脂肪酸であるものがさらに好ましい。炭素数16~22の不飽和直鎖脂肪酸としては、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸などが挙げられ、これらから選ばれる1種、又は2種以上であることが好ましく、オレイン酸及び/又はエルカ酸がより好ましい。炭素数16~22の不飽和直鎖脂肪酸以外の構成脂肪酸は特に限定するものではないが、炭素数6~22の飽和直鎖脂肪酸を用いることができ、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などが挙げられ、これらから選ばれる1種、又は2種以上であることが好ましく、パルミチン酸及び/又はステアリン酸がより好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、
理研ビタミン株式会社製のポエムDO-100V、太陽化学株式会社製のサンソフトQ-1710SやサンソフトQ-175Sなどを適宜使用できる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、2種以上を併用してもよい。
【0035】
平均重合度が2~12のポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、平均重合度が2~8のポリグリセリン脂肪酸エステルがより好ましく、平均重合度が2~6のポリグリセリン脂肪酸エステルがさらに好ましい。
【0036】
有機酸モノグリセリドとしては、例えば、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、酢酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリドが挙げられる。好ましくは、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリドである。なお、有機酸モノグリセリドを構成する脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸であることがより好ましく、オレイン酸、エルカ酸であることがさらに好ましい。有機酸モノグリセリドとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、太陽化学株式会社製のサンソフトNo.623Mなどを適宜使用できる。有機酸モノグリセリドは、2種以上を併用してもよい。
【0037】
モノオレイン酸プロピレングリコールとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、理研ビタミン株式会社製のリケマールPO-100Vなどを適宜使用できる。
【0038】
ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビットの分子内脱水により作られるソルビタンと脂肪酸とのモノエステル、ジエステル又はトリエステルである。本実施形態で用いるソルビタン脂肪酸エステルは、構成脂肪酸が炭素数12~24の脂肪酸が好ましく、オレイン酸やステアリン酸がより好ましい。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、理研ビタミン株式会社製のポエムO-80Vなどを適宜使用できる。ソルビタン脂肪酸エステルは、2種以上を併用してもよい。
【0039】
その他の乳化剤Cとしては、例えばモノグリセリドが挙げられる。
モノグリセリドとしては、例えば、構成脂肪酸の50質量%以上が炭素数16~22の不飽和脂肪酸であることが好ましく、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸であることがより好ましく、オレイン酸、エルカ酸であることがさらに好ましい。モノグリセリドとしては、市販品を用いてもよいし、従来公知の方法により製造したものを用いてもよい。市販品としては、例えば、太陽化学株式会社製のサンソフトNo.700P-2、サンソフトNo.750など、理研ビタミン株式会社製のエマルジーMUなど、を適宜使用できる。モノグリセリドは、2種以上を併用してもよい。
【0040】
油脂組成物における上記の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤の(合計)含有量は、0.1~60質量%である。乳化剤含有量の下限値は、好ましくは0.4質量%であり、より好ましくは0.8質量%、8質量%、18質量%又は48質量%である。また、乳化剤含有量の上限値は、好ましくは52質量%であり、より好ましくは22質量%、12質量%、7質量%又は2質量%である。
【0041】
油脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記乳化剤A~C以外の乳化剤を含有していてもよい。その他の乳化剤としては、例えば、ソルビトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベートなどが挙げられる。これらの乳化剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り任意の量とすることができるが、例えば、油脂組成物中に10質量%以下含有させることができ、好ましくは0~3質量%、より好ましくは0~1質量%含有させることができる。
【0042】
(油脂組成物中のその他の成分)
油脂組成物のその他の成分としては、油脂溶性成分、具体的には、トコフェロール等の抗酸化剤、シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0043】
〔油脂組成物〕
本実施形態に係る油脂組成物は、上記の本実施形態に係る保温方法に使用するための上記の本実施形態で詳述した所定の油脂組成物のいずれかである。
【0044】
〔含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法〕
本実施形態に係る含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法は、油脂組成物により含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法であって、前記油脂組成物が、油脂を40~99.9質量%、及び以下の乳化剤A、乳化剤B及び乳化剤Cから選ばれる1種、又は2種以上の乳化剤を0.1~60質量%含有する油脂組成物である、方法である。
乳化剤A:構成脂肪酸の50質量%以上が不飽和脂肪酸である、ショ糖脂肪酸エステル
乳化剤B:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
乳化剤C:HLB3~8の乳化剤
【0045】
本実施形態に係る含水液体の液面を覆う割合(液面占有率)を高める方法における、各用語の定義、各成分の種類や含量等は、本実施形態に係る含水液体の保温方法のところで説明したとおりである。
【0046】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0047】
(油脂組成物の製造)
表1~2に記載の配合(質量%)で原料を混合して、油脂組成物を製造した。なお、使用した原料は下記のとおりである。
精製菜種油(商品名「日清キャノーラ油」、日清オイリオグループ株式会社製)
ショ糖オレイン酸エステル(商品名「リョートーシュガーエステルO-170」、三菱ケミカル株式会社製、HLB約1)
ペンタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(商品名「サンソフトNo.818R」、太陽化学株式会社製、HLB3未満)
ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル(商品名「PR-400」、理研ビタミン株式会社製、HLB3未満)
モノオレイン酸プロピレングリコール(「リケマールPO-100V」、理研ビタミン株式会社製、HLB3.6)
モノオレイン酸ジグリセリン(商品名「ポエムDO-100V」、理研ビタミン株式会社製、HLB7.3)
デカオレイン酸デカグリセリン(商品名「サンソフトQ-1710S」、太陽化学株式会社製、HLB3)
有機酸モノグリセリド(クエン酸モノオレイン酸グリセリン、商品名「サンソフトNo.623M」、太陽化学株式会社製、HLB7)
ソルビタン脂肪酸エステル(オレイン酸ソルビタン、商品名「ポエムO-80V」、理研ビタミン株式会社製、HLB4.9)
<以下、比較例で使用>
ショ糖ステアリン酸エステル1(商品名「リョートーシュガーエステルS-170」、三菱ケミカル株式会社製、HLB約1)
ショ糖ステアリン酸エステル2(商品名「リョートーシュガーエステルS-1670」、三菱ケミカル株式会社製、HLB16)
【0048】
(試験1)
醤油25g及び精製菜種油(比較例1)5g又は製造した各油脂組成物(実施例1~15、比較例2~3)5gが入っている容器、あるいは醤油25gのみが入っている容器(参考例)に、沸騰水300gを添加し、添加直後の開始温度(概ね82~85℃)を測定した。室温(20℃)で放置し、添加15分後の温度を測定した。開始温度及び15分後の温度と、その温度差(開始温度-15分後の温度)を表1及び2に示す。
なお、容器中の醤油水の水面(外気に触れる上表面)の表面積は153.9cmであり、面積1cmあたりの油脂又は油脂組成物の添加量は5/153.9≒0.032g/cmであった。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
(試験2)
比較例1の精製菜種油又は実施例2で製造した油脂組成物(1.1g、2.2g、5.4g又は22g)が入っている容器に、沸騰水(約100℃)300gを添加し、室温(20℃)で放置した。添加10分後に、水面上の油膜の直径及び油膜の概算面積を下記方法により測定又は算出し、液面占有率(=油膜の概算面積/水面の表面積)を算出した。測定結果及び算出結果を表3に示す。
なお、容器中の水の水面(外気に触れる上表面)の表面積は153.9cmであり、面積1cmあたりの油脂又は油脂組成物の添加量は、表3に記載した通りであった。
<油膜の直径の測定方法>
添加10分後において、油脂組成物は真円に近い状態で油膜を形成しており、水面上の油膜の直径(2r)を、定規で測定した。
<油膜の概算面積の算出方法>
水面上の油膜の概算面積を、油膜を真円として算出(πr)した。
【0052】
【表3】
図1