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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024085786
(43)【公開日】2024-06-27
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240620BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240620BHJP
   C08F 8/12 20060101ALI20240620BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20240620BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20240620BHJP
   C09J 167/02 20060101ALI20240620BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L29/04 ZBP
C08F8/12
C09J167/00
C09J129/04
C09J167/02
B32B27/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022200516
(22)【出願日】2022-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100172605
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 郁子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 加菜
(72)【発明者】
【氏名】榎本 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】大越 拓
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AK21C
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42G
4F100BA03
4F100CB10B
4F100CB10G
4F100GB15
4F100JC00
4F100JL16
4J002BE02X
4J002CF03W
4J002GG02
4J040DD021
4J040ED031
4J040HA306
4J040HA316
4J040HA356
4J040HA366
4J040JA02
4J040JA09
4J040JB01
4J040KA42
4J040LA01
4J040LA06
4J040MA10
4J040MB03
4J040MB09
4J040NA06
4J040PA30
4J040PA33
4J100AA02Q
4J100AG04P
4J100BA03H
4J100CA31
4J100DA01
4J100DA32
4J100HA08
4J100HB39
4J100JA58
(57)【要約】
【課題】ポリビニルアルコール系樹脂層と生分解性樹脂層の両方に対する接着強度に優れた接着性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の接着性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)を含み、生分解性ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)との合計100質量部を基準に、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が62~90質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量が10~38質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)のけん化度が75~96モル%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)を含み、生分解性ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)との合計100質量部を基準に、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量は42~90質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量は10~58質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)のけん化度は75~96モル%である、接着性樹脂組成物。
【請求項2】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、ISO 527-1に準拠して測定された破断伸びが50%以上である、請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(B)の粘度平均重合度は100~5000である、請求項1又は2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点は70℃以上である、請求項1~3のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【請求項5】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂を含む、請求項1~4のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
【請求項6】
前記芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンアジペートテレフタレートである、請求項5に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の接着性樹脂組成物を含んでなる接着層を含む、積層体。
【請求項8】
生分解性樹脂層、前記接着層、及びポリビニルアルコール系樹脂層をこの順に含む、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記生分解性樹脂層、前記接着層、及び前記ポリビニルアルコール系樹脂層は全てISO14855に準拠した生分解性の基準を満たす、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1~6のいずれかに記載の接着性樹脂組成物を含んでなる接着層、又は請求項7~9のいずれかに記載の積層体を含む、食品包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂組成物、該接着性樹脂組成物を含んでなる接着層を含む積層体、及び該接着性樹脂組成物又は該積層体を含む食品包装材に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、成形性、強度、耐水性、透明性などが高いことから、包装材料として広く使用されている。しかし、プラスチックは生分解性に乏しく、使用後に自然界に投棄されると、長期間残存して環境破壊の原因となり得る。これに対し、近年、土中や水中で生分解又は加水分解され、環境汚染の防止に有用な生分解性樹脂が注目され、生分解性樹脂を用いた包装材料の実用化が進められている。このような包装材料としては、生分解性樹脂層、接着層及びポリビニルアルコール系樹脂層を含む積層体が挙げられる。例えば、特許文献1には、生分解性樹脂層の少なくとも一方の面に、生分解性ポリエステル系樹脂にα、β-不飽和カルボン酸又はその無水物をグラフト重合して得られる接着剤組成物からなる接着層を介して、ポリビニルアルコール系樹脂層が積層されてなる生分解性積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-212682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者の検討によれば、従来の生分解性積層体における接着層は、ポリビニルアルコール系樹脂層と生分解性樹脂層の両方に対して十分な接着強度を発現することが困難であることがわかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、ポリビニルアルコール系樹脂層と生分解性樹脂層の両方に対する接着強度に優れた接着性樹脂組成物、該接着性樹脂組成物を含んでなる接着層を含む積層体、及び該接着性樹脂組成物又は該積層体を含む食品包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)を含む接着性樹脂組成物において、成分(A)及び成分(B)の含有量、及び成分(B)のけん化度を特定の範囲とすれば、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
【0007】
[1]生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)を含み、生分解性ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)との合計100質量部を基準に、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量は42~90質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量は10~58質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)のけん化度は75~96モル%である、接着性樹脂組成物。
[2]生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、ISO 527-1に準拠して測定された破断伸びが50%以上である、[1]に記載の接着性樹脂組成物。
[3]ポリビニルアルコール系樹脂(B)の粘度平均重合度は100~5000である、[1]又は[2]に記載の接着性樹脂組成物。
[4]生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点は70℃以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
[5]生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物。
[6]前記芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂は、ポリブチレンアジペートテレフタレートである、[5]に記載の接着性樹脂組成物。
[7][1]~[6]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物を含んでなる接着層を含む、積層体。
[8]生分解性樹脂層、前記接着層、及びポリビニルアルコール系樹脂層をこの順に含む、[7]に記載の積層体。
[9]前記生分解性樹脂層、前記接着層、及び前記ポリビニルアルコール系樹脂層は全てISO14855に準拠した生分解性の基準を満たす、[8]に記載の積層体。
[10][1]~[6]のいずれかに記載の接着性樹脂組成物を含んでなる接着層、又は[7]~[9]のいずれかに記載の積層体を含む、食品包装材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の接着性樹脂組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂層と生分解性ポリエステル系樹脂層の両方に対する接着強度に優れている。そのため、食品等の包装材料として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
【0010】
[接着性樹脂組成物]
本発明の接着性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びポリビニルアルコール系樹脂(B)を含み、生分解性ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)との合計100質量部を基準に、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が42~90質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)の含有量が10~58質量部であり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)のけん化度が75~96モル%である。本明細書において、生分解性ポリエステル系樹脂(A)を「成分(A)」と称することがあり、ポリビニルアルコール系樹脂(B)を「成分(B)」と称することがあり、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある。本明細書において、上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0011】
本発明者は、積層体の層間接着性について検討を進めたところ、接着性樹脂組成物において、成分(A)及び成分(B)の含有量と成分(B)のけん化度を特定の範囲に調整すれば、驚くべきことに、ポリビニルアルコール系樹脂層と生分解性樹脂層の両方に対する接着強度を向上できることを見出した。これは、成分(B)の適度なけん化度により、PVA系樹脂層との良好な水素結合の形成と接着時の流動性とを両立できることに加え、特定量の成分(A)及び成分(B)により、生分解性を維持しつつ、組成物自体の強度や靭性を担保できるからだと推定される。さらに本発明の接着性樹脂組成物は、熱成形性にも優れ、得られる積層体を所定の形成に容易に成形できることも見出した。なお、本明細書において、接着強度は剥離試験により評価でき、接着性樹脂組成物(接着層)と、PVA系樹脂層及び生分解性樹脂層などの他の層との剥離強度を意味する。
【0012】
<生分解性ポリエステル系樹脂(A)>
本発明の接着性樹脂組成物は、上記の生分解性ポリエステル系樹脂(A)を含む。本発明では、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が42~90質量部であるため、接着強度、熱成形性並びに生分解性を向上できる。本明細書において、「生分解性」とは、例えば、加水分解、酵素分解、微生物分解等の作用により化学的に分解することが可能な性質を有するものであり、好ましくはEN13432、ASTM6400、又はISO14855に特定される生分解性基準に適合する材料を表す。すなわち、コンポスト環境に置かれた時に、12週間以内にその90%が平均の大きさ2mm未満の粒子に崩壊し、そして、6ヶ月後にASTM6400の場合その少なくとも60%が、又はEN13432の場合その少なくとも90%が、二酸化炭素及び/又は水に分解している材料は、生分解性であるとされる。
【0013】
生分解性ポリエステル系樹脂は、生分解性を有するポリエステル系樹脂であれば、特に限定されず、石油由来の生分解性樹脂であっても、生物由来の生分解性樹脂であってもよい。生分解性ポリエステル系樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂などが挙げられ、生分解性ポリエステル系樹脂は、脂肪族ポリエステル系樹脂及び芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、高い生分解性を有しつつ、接着強度及び熱成形性を高めやすい観点からは、芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂を含むことがより好ましい。
【0014】
脂肪族ポリエステル系樹脂としては、例えばポリヒドロキシアルカノエート(PHAと略記する)、ポリアルキレンモノカルボキシレート、ポリアルキレンジカルボキシレートなどが挙げられる。
【0015】
PHAは、ヒドロキシアルカン酸をモノマー単位とする重合体である。より詳細には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(PLAと略記することがある)、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HAと略記する)、ポリ(4-ヒドロキシアルカノエート)などが挙げられる。
【0016】
P3HAは、3-ヒドロキシアルカン酸を主にモノマー単位とする重合体である。3-ヒドロキシアルカン酸としては、例えば、3-ヒドロキシブチレート、3-ヒドロキシプロピオネート、3-ヒドロキシバレレート、3-ヒドロキシヘキサノエート、3-ヒドロキシヘプタノエート、3-ヒドロキシオクタノエートなどが挙げられる。P3HAは、単独重合体であっても、2種以上のモノマー単位を含む共重合体であってもよい。また、P3HAが共重合体の場合には、2種以上の3-ヒドロキシアルカン酸を共重合させたものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカン酸に、4-ヒドロキシブチレート等の4-ヒドロキシアルカン酸を共重合させたものであってもよい。
【0017】
P3HAの具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)単独重合体(PHBと略記する)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHと略記する)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBVと略記する)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート)(3HB4HBと略記する)などが挙げられる。
【0018】
ポリアルキレンモノカルボキシレートとしては、ラクトン(環状エステル)の開環重合体が挙げられる。その具体例としては、ポリカプロラクトン(PCLと略記する)などが挙げられる。
【0019】
ポリアルキレンジカルボキシレートは、脂肪族ジオール(又はその誘導体)と脂肪族ジカルボン酸(又はその誘導体)との重縮合体である。その例としては、ポリブチレンサクシネート(PBSと略記する)、ポリエチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンアジペート)などが挙げられる。
【0020】
脂肪族ポリエステル系樹脂は、PHA、ポリアルキレンモノカルボキシレート、及びポリアルキレンジカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、接着強度を高めやすい観点からは、ポリアルキレンモノカルボキシレート、及びポリアルキレンジカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましい。
【0021】
芳香族-脂肪族共重合ポリエステル系樹脂は、芳香族部位と脂肪族部位の両方を有するポリエステル系樹脂であり、脂肪族又は芳香族ジオール(又はその誘導体)と、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸(又はその誘導体)との縮合体である。その例としては、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBATと略記する)、ポリブチレンサクシネートテレフタレート(PBST)、ポリエチレンアジペートテレフタレート(PEAT)などが挙げられ、高い生分解性を有しつつ、接着強度及び熱成形性を高めやすい観点からは、PBATが好ましい。
これらの生分解性ポリエステル系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、慣用の方法で製造してもよいし、市販品を使用してもよい。生分解性ポリエステル系樹脂(A)の市販品としては、UnionCarbideによってTone(商標)(例えば、ToneP-300、P-700、P-767及びP-787、それぞれ、約10,000、40,000、43,000及び80,000の重量平均分子量を有する)の商用名で販売されているポリカプロラクトン(PCL)、又は、PerstorfによってCAPA6800及びCAPAFB100(それぞれ、80,000及び100,000ダルトンの分子量を有する)の商用名で販売されているポリカプロラクトン(PCL);CargillによってNatureworks(商標)PLAの商用名で販売されているポリ乳酸(PLA);Biomer(ドイツ)によってBiocycle(商標)又はBiomer(商標)の商用名で販売されているポリヒドロキシブチレート(PHB);昭和高分子(株)によってBionolle(商標)の商用名で販売されているポリエチレンサクシネート(PES)及びポリブチレンサクシネート(PBS)(例えば、Bionolle(商標)1001(PBS)及びBionelle(商標)6000(PES));SKChemicals(韓国)によってSkygreen(商標)SG100の商用名で販売されているポリブチレンアジペート(PBA);ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)脂肪族/芳香族コポリエステル、例えば、BASF(ドイツ)によるEcoflex(商標)、又はIreChemicalLtd(ソウル)によるEnPOL(商標)G8060及びEnPOL(商標)8000;MetabolixInc.(米国)によるポリ(ヒドロキシブチレートバレレート)(PHBV);などが挙げられる。
【0023】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、変性された生分解性ポリエステル系樹脂であっても、未変性の生分解性ポリエステル系樹脂であってもよい。変性された生分解性ポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、例えば生分解性ポリエステル系樹脂を不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体によりグラフト変性してなる変性生分解性ポリエステル系樹脂であってもよい。変性剤としての不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。また不飽和カルボン酸の誘導体としては、特に限定されないが、例えば酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等が挙げられる。
【0024】
不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸-N-モノエチルアミド、マレイン酸-N,N-ジエチルアミド、マレイン酸-N,N-モノブチルアミド、マレイン酸-N,N-ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸-N-モノブチルアミド、フマル酸-N,N-ジブチルアミド、マレイミド、Nブチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等が挙げられる。
これらの不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体は、1種類のみを単独で、又は2種類以上を任意の組み合せ及び比率で用いることができる。これらのうち、特にマレイン酸又はその無水物が、電子密度が低く反応性が高いことから好適である。
【0025】
変性剤の含有量は、変性された生分解性ポリエステル系樹脂の質量に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下である。
【0026】
本発明の接着性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル系樹脂(A)と、特定のけん化度を有するPVA系樹脂(B)とのアロイであるため、生分解性ポリエステル系樹脂を変性することなく、PVA系樹脂層及び生分解性樹脂層に対する優れた接着強度を発現できる。そのため、本発明の好適な実施形態では、生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、未変性の生分解性ポリエステル系樹脂であることが好ましい。未変性である場合、変性による生分解性の低下を防止できるとともに、変性による製造の煩雑さを回避することもできる。
【0027】
本発明の好適な実施形態において、生分解性ポリエステル系樹脂(A)は、ISO 527-1に準拠して測定された破断伸びが、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上、さらに好ましくは200%以上、さらにより好ましくは400%以上、特に好ましくは600%以上、特により好ましくは750%以上、特にさらに好ましくは850%以上、特にさらにより好ましくは1000%以上である。破断伸びが上記の下限以上であると、靭性が高くなるため、接着強度が向上しやすい。前記破断伸びの上限は、通常、5000%以下、好ましくは3000%以下、より好ましくは2000%以下である。破断伸びが上記の上限以下であると、接着性樹脂組成物の弾性率及び最大強度の低下を抑制できるため、接着強度の低下を抑制しやすい。なお、破断伸びは、ISO 527-1に準拠して測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0028】
本発明の好適な実施形態において、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上、さらにより好ましくは100℃以上、特に好ましくは105℃以上である。生分解性ポリエステル系樹脂(A)の融点が上記の下限以上であると、熱成形性をより向上しやすいため、得られる積層体のシワ等の発生を抑制又は防止しやすく、外観が良好になりやすい。前記融点の上限は、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは150℃以下、さらにより好ましくは140℃以下、特に好ましくは130℃以下である。前記融点が上記の上限以下であると、熱成形性を高めやすいため、得られる積層体を所定の形状に容易に成形できる。なお、融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0029】
本発明の一実施形態において、生分解性ポリエステル系樹脂(A)のメルトマスフローレート(MFR)は、好ましくは1.0g/10分以上、より好ましくは3.0g/10分以上、さらに好ましく5.0g/10分以上、さらにより好ましくは10g/10分以上であり、好ましくは30g/10分以下、より好ましくは25/10分以下、さらに好ましくは20g/10分以下である。生分解性ポリエステル系樹脂(A)のMFRが上記範囲であることで、接着強度及び熱成形性を高めやすい。MFRは、JIS K 7210:2014に準拠して、温度200℃、荷重2.16kgの条件で測定できる。
【0030】
本発明の一実施形態において、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは30,000以上、さらに好ましくは50,000以上であり、好ましくは500,000以下、より好ましくは200,000以下、さらに好ましくは100,000以下である。生分解性ポリエステル系樹脂(A)のMwが上記範囲であることで、接着強度及び熱成形性を高めやすい。
【0031】
本発明の一実施形態において、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは20,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、さらに好ましくは50,000以下である。生分解性ポリエステル系樹脂(A)のMnが上記範囲であることで、接着強度及び熱成形性を高めやすい。
なお、生分解性ポリエステル系樹脂(A)のMw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、標準ポリスチレン換算により求めることができ、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0032】
生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量は、成分(A)及び成分(B)との合計100質量部を基準に42~90質量部である。生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が42質量部未満90質量部超であると、接着強度が低下する傾向がある。本発明の接着性樹脂組成物は、生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が、42質量部以上、好ましくは45質量部以上、より好ましくは48質量部以上であり、90質量部以下、好ましくは85質量部以下、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは77質量部以下、さらにより好ましくは75質量部以下、特に好ましくは73質量部以下である。生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が上記の下限以上であると、生分解性を向上できるとともに、生分解性樹脂層に対する接着強度を高めることができる。生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量が上記の上限以下であると、PVA系樹脂層に対する接着強度を高めることができる。なお、接着性樹脂組成物の質量に対する生分解性ポリエステル系樹脂(A)の含有量も上記の範囲から選択できる。
【0033】
<ポリビニルアルコール系樹脂(B)>
本発明の接着性樹脂組成物は、PVA系樹脂(B)を含む。該接着性樹脂組成物に含まれるPVA系樹脂(B)のけん化度が75~96モル%であり、その含有量が10~58質量部であるため、接着強度及び熱成形性を向上できる。
【0034】
PVA系樹脂(B)は、ビニルエステル重合体又は共重合体(これらを総称してビニルアルコール系重合体と称する)を含む樹脂である。該ビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単位を単量体単位として含む重合体である。ビニルアルコール系重合体は、その原料モノマーであるビニルエステル単量体を重合してなるビニルエステル系重合体をけん化することで得られ、けん化後のビニルアルコール系重合体はビニルアルコール単位の他にビニルエステル単位を含み得る。
【0035】
ビニルアルコール系重合体は、その原料モノマーであるビニルエステル単量体と、他の単量体とを共重合させてなる共重合体をけん化して、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位を含む変性ビニルアルコール系共重合体であってもよい。また、PVA系樹脂(B)は、異なる物性を持つ複数種のビニルアルコール系重合体を含むものであってもよい。
【0036】
ビニルアルコール系重合体の原料モノマーとして用いられるビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも、製造及び入手容易性、コスト等の観点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0037】
ビニルアルコール系重合体は、上記の通り、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位に加え、該ビニルエステル単位以外の他の単量体単位を含む変性ビニルアルコール系共重合体であってよい。他の単量体としては、被着体であるPVA系樹脂層の種類等に応じて適宜選択でき、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン等のα-オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル;アクリルアミド;N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル;ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等のビニル化合物、などが挙げられる。これらの中でも、工業的な製造のしやすさの観点から、他の単量体は、エチレン等のα-オレフィンであることが好ましい。これらの他の単量体単位の含有率(変性量)は、使用される目的や用途等によって異なる。一実施形態では、他の単量体単位の含有率(変性量)は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下であり、好ましくは0モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上であってよい。
【0038】
ビニルアルコール系重合体は、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。またビニルアルコール系重合体は、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0039】
PVA系樹脂(B)は、被着体であるPVA系樹脂層の種類にもよるが、接着強度及び熱成形性を高めやすい観点から、ビニルアルコール系重合体として、無変性のビニルアルコール重合体、及びα-オレフィン-ビニルアルコール共重合体からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、無変性のビニルアルコール重合体を含むことがより好ましい。
【0040】
本発明の接着性樹脂組成物に含まれるPVA系樹脂(B)のけん化度は75~96モル%である。該けん化度が75モル%未満96モル%超であると、接着強度が低下する傾向がある。本発明におけるPVA系樹脂(B)のけん化度は、好ましくは77モル%以上、より好ましくは79モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であり、例えば81モル%以上又は82モル%以上であってもよい。また、PVA系樹脂(B)のけん化度は、好ましくは94モル%以下、より好ましくは92モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下、さらにより好ましくは89モル%以下、特に好ましくは88モル%以下であり、例えば85モル%以下であってもよい。PVA系樹脂(B)のけん化度が上記の下限以上であると、被着体であるPVA系樹脂層と水素結合を形成しやすくなるため、PVA系樹脂層に対する接着強度を高めることができる。また、PVA系樹脂(B)のけん化度が上記の上限以下であると、接着時に適度な流動性を発現しやすいため、接着強度及び熱成形性を高めることができる。本明細書において、PVA系樹脂(B)のけん化度とは、ビニルアルコール系重合体が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味する。PVA系樹脂(B)のけん化度は、JIS K 6726:1994に準じて測定できる。また、PVA系樹脂(B)のけん化度は、PVA系樹脂(B)が1種のビニルアルコール系重合体のみ含む場合は、該ビニルアルコール系重合体のけん化度がPVA系樹脂(B)のけん化度である。PVA系樹脂(B)が2種以上のビニルアルコール系重合体を含む場合は、それぞれのビニルアルコール系重合体のけん化度と配合比率から計算される平均のけん化度を意味する。なお、PVA系樹脂(B)が2種以上のビニルアルコール系重合体を含む場合は、けん化度の異なるビニルアルコール系重合体を適当な配合比率で混合して、PVA系樹脂(B)のけん化度を上述の範囲に調整すればよい。
【0041】
本発明の一実施形態において、本発明の接着性樹脂組成物に含まれるPVA系樹脂(B)の粘度平均重合度(重合度と称することがある)は、好ましくは5000以下、4000以下、3000以下、又は2000以下であってよく、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1200以下、さらにより好ましくは900以下、特に好ましくは700以下、特により好ましくは600以下、特にさらに好ましくは480以下、400以下、又は350以下である。重合度が上記の上限以下であると、PVA系樹脂層に対する接着強度及び熱成形性を高めることができる。これは、接着時に極性成分であるPVA系樹脂(B)が界面に移行しやすいからだと推定される。PVA系樹脂(B)の粘度平均重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上、さらに好ましくは200以上、さらにより好ましくは220以上、特に好ましくは250以上、特により好ましくは270以上である。重合度が上記の下限以上であると、接着性樹脂組成物の機械的強度を高めやすく、また生分解性樹脂層に対する接着強度を高めやすい。PVA系樹脂(B)の重合度は、JIS K 6726:1994に準じて測定できる。また、PVA系樹脂(B)が1種のビニルアルコール系重合体のみ含む場合は、当該ビニルアルコール系重合体の重合度がPVA系樹脂(B)の重合度である。PVA系樹脂(B)が2種以上のビニルアルコール系重合体を含む場合は、PVA系樹脂(B)の重合度は、それぞれのビニルアルコール系重合体の重合度と配合比率から計算される平均の重合度を意味する。なお、PVA系樹脂(B)が2種以上のビニルアルコール系重合体を含む場合は、重合度の異なるビニルアルコール系重合体を適当な配合比率で混合して、PVA系樹脂(B)の重合度を上述の範囲に調整すればよい。
【0042】
PVA系樹脂(B)の含有量は、成分(A)及び成分(B)との合計100質量部を基準に10~58質量部である。PVA系樹脂(B)の含有量が10質量部未満58質量部超であると、接着強度が低下する傾向がある。本発明の接着性樹脂組成物は、PVA系樹脂(B)の含有量が、成分(A)及び成分(B)との合計100質量部を基準に、10質量部以上、好ましくは15質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは23質量部以上、さらにより好ましくは25質量部以上、特に好ましくは27質量部以上であり、58質量部以下、好ましくは55質量部以下、より好ましくは52質量部以下である。PVA系樹脂(B)の含有量が上記の下限以上であると、PVA系樹脂層に対する接着強度を高めることができる。またPVA系樹脂(B)の含有量が上記の上限以下であると、生分解性樹脂層に対する接着強度が高めることができる。なお、接着性樹脂組成物の質量に対するPVA系樹脂(B)の含有量も上記の範囲から選択できる。
【0043】
<ポリビニルアルコール系樹脂(B)の製造方法>
PVA系樹脂(B)は、上記の通り、ビニルアルコール系重合体を含む。ビニルアルコール系重合体は、例えば、ビニルエステル単量体、又は、ビニルエステル単量体と他の単量体とを重合して、ビニルエステル重合体又は共重合体を得て、さらにけん化することにより得ることができる。ビニルエステル単量体等を重合する方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が好適に用いられる。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシジカーボネートなどのアゾ系開始剤又は過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃~150℃の範囲が好ましい。また例えば、ビニルアルコール系重合体がエチレン-ビニルアルコール共重合体等である場合は、ビニルエステル単量体とエチレン等の単量体とを上記方法で共重合することが好ましい。
【0044】
重合工程で得られたビニルエステル系重合体を、有機溶媒中において、触媒の存在下で加アルコール分解又は加水分解反応によってけん化することができる。けん化工程で用いられる触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒;又は、硫酸、塩酸、p-トルエンスルホン酸等の酸性触媒が挙げられる。けん化工程で用いられる有機溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用できる。中でも、メタノール、又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。けん化触媒の使用量は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単量体単位に対するモル比で0.001~0.5が好ましい。当該モル比は、より好ましくは0.002以上、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0045】
けん化工程の好適な実施形態は以下の通りである。まず、重合工程において得られたビニルエステル系重合体溶液に対し、水酸化ナトリウムのようなけん化触媒を添加して混合する。この時の溶媒は、メタノールであることが好ましい。混合当初は均一な液体であるが、けん化反応が進行してポリマー中のビニルエステル単位がけん化されてビニルアルコール単位に変換されると、溶媒への溶解度が低下して、ポリマーが溶液中に析出する。このとき、溶液中にはメタノールによるアルコリシスで生成した酢酸メチルが含まれる。けん化反応が進行するにしたがって、ポリマーの析出量が徐々に増加してスラリー状になり、その後流動性を失う。したがって、けん化反応を均一に進行させるためには流動性を失うまでに十分に混合することが好ましい。
【0046】
ビニルエステル系重合体溶液とけん化触媒を混合する方法は特に限定されず、スタティックミキサー、ニーダー、撹拌翼など様々な方法が採用できるが、スタティックミキサーを用いることが、連続的に均一に混合できることから好ましい。この場合、重合槽に接続された配管中で重合工程後のビニルエステル系重合体溶液にけん化触媒を添加し、その後スタティックミキサーを通過させて混合してペーストを得ることが好ましい。スタティックミキサー中の反応液の温度は通常20~80℃である。
【0047】
スタティックミキサーを通過したペースト中のビニルエステル系重合体のけん化反応を進行させる方法は特に限定されないが、移動するベルトの上に当該ペーストを載置して、当該ベルトを一定の温度に保たれた槽の中で移動させながらけん化反応を進行させる方法が好適である。ベルト上のペーストは流動性が失われて固体状態となり、さらに固体状態でけん化反応が進行する。この方法によって、固体状態で連続的にけん化反応を進行させることができ、ビニルアルコール系重合体と溶媒とを含む固体ブロックが得られる。けん化温度は好適には20~60℃であり、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上であり、好ましくは55℃以下、より好ましくは50℃以下である。けん化温度が上記の下限以上であると、反応速度の低下を抑制しやすい。けん化温度が上記の上限以下であると、得られる固体ブロック中の溶媒の含有率の低下を抑え、得られるビニルアルコール系重合体の溶解性の悪化を抑制しやすい。けん化時間は5分~2時間であることが好ましい。けん化時間はより好ましくは8分以上、さらに好ましくは10分以上であり、より好ましくは1.5時間以下、さらに好ましくは1時間以下である。
【0048】
必要に応じて、酢酸ナトリウム等の不純物の除去を目的に洗浄工程を加えてビニルアルコール系重合体を洗浄してもよい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。洗浄液の量としては、通常、ビニルアルコール系重合体100質量部に対して、30~10000質量部が好ましく、50~3000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5~80℃が好ましく、20~70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分~10時間が好ましく、1時間~6時間がより好ましい。洗浄方法としてはバッチ法や向流洗浄法など公知の方法が適用可能である。なお、ビニルアルコール系重合体は、市販品を用いることもできる。
【0049】
<接着性樹脂組成物>
本発明の接着性樹脂組成物は、前記生分解性ポリエステル系樹脂(A)、及び前記ポリビニルアルコール系樹脂(B)を特定の割合で含むため、PVA系樹脂層及び生分解性樹脂層の両方に対する接着強度に優れている。そのため、PVA系樹脂層と生分解性ポリエステル系樹脂層との接着層として有用である。また、本発明の接着性樹脂組成物は、熱成形性にも優れ、得られる積層体を容易に所定形状に成形できる。さらに、生分解性にも優れている。したがって、本発明の接着性樹脂組成物は、食品等の包装材料として好適に使用できる。
【0050】
本発明の接着性樹脂組成物の、PVA系樹脂に対する接着強度は、好ましくは4N/25mm以上、より好ましくは5N/25mm以上、さらに好ましくは7N/25mm以上、さらにより好ましくは10N/25mm以上、特に好ましくは15N/25mm以上、特により好ましくは20N/25mm以上であり、例えば25N/25mm以上又は30N/25mm以上であってもよい。前記接着強度が上記の下限以上であると、得られる積層体の強度を向上できる。PVA系樹脂に対する接着強度は、通常100N/25mm以下である。PVA系樹脂に対する接着強度は、接着性樹脂組成物からなる接着層とPVA樹脂層とを含む多層シートにおける接着層とPVA樹脂層との間の剥離強度を示す。該剥離強度は、JIS K 6854-1:1999に準じて、ピール試験機を用いて、剥離角度90°、引張速度50mm/分、及び環境温度23℃の条件で測定できる。PVA系樹脂に対する接着強度は、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0051】
本発明の接着性樹脂組成物の、生分解性樹脂(好ましくはPLA)に対する接着強度は、好ましくは9N/25mm以上、より好ましくは15N/25mm以上、さらに好ましくは20N/25mm以上、さらにより好ましくは30N/25mm以上、特に好ましくは40N/25mm以上、特により好ましくは50N/25mm以上、特にさらに好ましくは55N/25mm以上である。前記接着強度が上記の下限以上であると、得られる積層体の強度を向上できる。生分解性樹脂に対する接着強度は、通常150N/25mm以下である。生分解性樹脂に対する接着強度は、接着性樹脂組成物からなる接着層と生分解性樹脂層とを含む多層シートにおける接着層と生分解性樹脂層との間の剥離強度を示す。該剥離強度は、JIS K 6854-1:1999に準じて、ピール試験機を用いて、剥離角度90°、引張速度50mm/分、及び環境温度23℃の条件で測定できる。生分解性樹脂に対する接着強度は、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0052】
本発明の接着性樹脂組成物は、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、成分(A)及び成分(B)以外の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、充填剤、加工安定剤、耐候安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、香料、発泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤、生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びPVA系樹脂(B)以外の他の樹脂などが挙げられる。これらの添加剤は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。添加剤の含有量は、特に限定されないが、接着性樹脂組成物の質量に対して、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下であってよく、好ましくは0質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であってよい。
【0053】
充填剤は、好ましくは硬度や剛度を高めやすく、ブロッキングを防止しやすいなどの観点から添加し得る。充填剤としては、雲母類、カオリン、カオリナイト、クレー、タルク、酸性白土、シリカ、アルミナ、珪草土、ベントナイト、モンモリロナイト、木節粘土、蛙目粘土、ロウ石、ミョウバン石、陶土、長石、パーライト、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、カーボンブラック、バーミキュライト、酸化チタン、マイカ、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シラス、ガラス、ガラス繊維などの無機充填剤、尿素-ホルマリン系樹脂、メラミン-ホルマリン系樹脂などの有機充填剤が挙げられる。
【0054】
他の樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ナイロン66、ナイロン11等のポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂等の(メタ)アクリレート系樹脂などが挙げられる。
【0055】
本発明の接着性樹脂組成物の形態は、特に限定されず、ペレット、シート、又はフィルムであってもよい。接着性樹脂組成物を含んでなるシート又はフィルムの厚みは、用途に応じて適宜選択でき、好ましくは5~1000μm、より好ましくは10~500μmである。フィルム又はシートの厚みは、厚み計により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。また、本発明の接着性樹脂組成物は、溶媒を含んでいてもよく、溶液又は分散液の形態であってもよく、溶媒としては、組成物中の成分が溶解又は分散可能な公知の溶媒を用いることができる。
【0056】
本発明の接着性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、生分解性ポリエステル系樹脂(A)、PVA系樹脂(B)、及び任意に添加剤等を混合する方法であってもよい。混合は、慣用の混合機、好ましくは溶融混練機を好適に使用できる。本発明の好適な実施形態では、押出機を用いて溶融混練して接着性樹脂組成物を得ることができる。
【0057】
押出機としては、好ましくは二軸スクリュー押出機を用いることができる。二軸スクリュー押出機は、共回転又は逆回転のいずれであってもよい。スクリューの回転速度は、好ましくは20rpm以上、より好ましくは70rpm、さらに好ましくは150rpm以上であり、通常1000ppm以下である。シリンダー温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下である。各成分はそれぞれ直接、押出機中へ導入することができる。また、これらの各成分をミキサー等用いて予備混合したものを押出機中へ導入してもよい。
【0058】
溶融混練されながら押出機中を押し進められてきた溶融した混合物は、ダイから押出される。ダイの温度は好ましくは100~200℃、より好ましくは100~150℃であってよい。
【0059】
溶融混練時の比機械エネルギー(SME:Specific Mechanical Energy)(単位:kJ/kg)は、特に限定されないが、好ましくは400kJ/kg以上、より好ましくは500kJ/kg以上であり、好ましくは900kJ/kg以下、より好ましくは800kJ/kg以下である。比機械エネルギーが上記の範囲であると、接着性樹脂組成物の接着強度を高めやすい。比機械エネルギー(Ψ)は、次式により求められる。
Ψ=N(RUN)/N(MAX)×Φ/Φ(MAX)×Kw/Q ・・・(式1)
[式1中、N(RUN)はスクリュー回転数(単位:rpm)を示し、N(MAX)はスクリューの最大回転数(単位:rpm)を示し、Φは試験時のモータートルク(単位:N・m)を示し、Φ(MAX)は最大モータートルク(単位:N・m)を示し、Kwはモーターパワー(単位:kJ/h)を示し、Qは吐出量(単位:kg/h)を示す]
【0060】
押出された混合物(溶融物)をシート状、フィルム状又はストランド状に押し出すことができる。この際、混合物(溶融物)は冷却及び乾燥を行う。
【0061】
混合物をストランド状に押出す場合、複数穴のストランドノズルから押出し、回転カッターで切断することでストランドをペレット形状にできる。ペレットの膠着を防ぐために、振動を定期的もしくは定常的に与え、熱風、脱湿空気又は赤外線ヒーターによりペレット中の水分を除去することができる。
【0062】
混合物をシート状又はフィルム状に押出す場合、混合物はフィルム成形用ダイから押出し、次いで引取りローラーで巻取りながら冷却及び乾燥することができる。ダイ及びローラーの間では、混合物がローラーに付着することを防ぐために冷却することが好ましい。なお、本発明の接着性樹脂組成物の溶液又は分散液を慣用の製膜法(例えばキャスト製膜等)により製膜してシート又はフィルムの形態にしてもよい。
【0063】
[積層体]
本発明は、本発明の接着性樹脂組成物を含んでなる接着層を含む積層体を包含する。本発明の積層体は、本発明の接着層を1層又は2層以上含んでいてもよく、2層以上含む場合、各接着層の組成は同じであっても異なっていてもよい。該積層体は、本発明の接着層以外の他の層を含むことができる。他の層としては、例えば、樹脂層、紙、他の接着層などが挙げられる。なお、該樹脂層は、接着層とは異なる組成の樹脂層である。また、接着層は上記に定義された「生分解性」を有することが好ましい。
【0064】
樹脂層を構成する樹脂としては、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂;ポリプロピレン(PP)[好ましくは二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)]、ポリエチレン(PE)[好ましくは低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)]等のポリオレフィン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール、エチレン・α-オレフィン共重合体等のポリビニルアルコール系樹脂;生分解性ポリエステル系樹脂等の生分解性樹脂;及びこれらを無水マレイン酸等の変性剤で変性した樹脂;などが挙げられる。樹脂層は単独又は2種以上組み合わせて使用できる。
本発明の積層体における接着層は、生分解性樹脂層及びポリビニルアルコール系樹脂層の両方に対して優れた接着強度を発現できるため、本発明の積層体は樹脂層として生分解性樹脂層及び/又はポリビニルアルコール系樹脂層を含むことが好ましく、生分解性樹脂層及びPVA系樹脂層を含むことがより好ましい。また、優れた生分解性を発現する観点から、本発明の積層体における樹脂層は、生分解性樹脂層及びポリビニルアルコール系樹脂層のみからなることが好ましい。さらに本発明の積層体は、接着層を含むことにより、熱成形性及び生分解性を向上できる。
【0065】
前記生分解性樹脂層は、生分解性を有する樹脂層であり、生分解性は上記に定義された通りである。生分解性樹脂層は、好ましくは主成分として生分解性樹脂を含む層であり、生分解性樹脂の例としては、上記の<生分解性ポリエステル系樹脂(A)>の項に記載の生分解性ポリエステル系樹脂の他、カゼイン、変性デンプン、セルロースアセテートなどが挙げられ、これらの中でも、接着層との接着強度及び生分解性を高めやすい観点から、生分解性樹脂は、前記生分解性ポリエステル系樹脂であることが好ましく、さらに汎用性や生分解性、力学物性の観点から、PLA、PHB、PHBV、3HB4HB、PHBH、PBAT、PBS及びPCLからなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましく、さらに強度や耐熱性、耐水性の観点から、PLAであることがさらに好ましい。
【0066】
前記PVA系樹脂層は、主成分としてPVA系樹脂を含んでいれば、特に限定されず、その例としては、上記の<ポリビニルアルコール系樹脂(B)>の項に記載のポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。また、本発明の一実施形態では、PVA系樹脂層は、PVA系樹脂の他、例えばポリオール(例えばトレハロース等)の可塑剤を含み得る。
なお、本明細書において、「主成分」は、層の質量に対して40質量%以上、好ましくは50質量%以上含まれる成分を意味し、その量は、例えば55質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上であってもよい。また、PVA系樹脂層は上記に定義された生分解性を有することが好ましい。
【0067】
紙としては、特に限定されず、例えばクラフト紙、両更クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙、白銀紙などが挙げられる。
【0068】
本発明の積層体としては、生分解性樹脂層/接着層をこの順に含む積層体;PVA系樹脂層/接着層をこの順に含む積層体;生分解性樹脂層/接着層/PVA系樹脂層をこの順に含む積層体などが挙げられる。これらの中でも、本発明の積層体は、生分解性樹脂層/接着層/PVA系樹脂層をこの順に含む積層体(積層体Aと称することがある)が好ましい。これらの積層体は、各層の間や外側に他の層を含んでいてもよいが、各層の間には他の層を含まないこと、すなわち、各層は隣接していることが好ましい。例えば、積層体Aは、生分解性樹脂層、接着層及びPVA系樹脂がこの順に隣接して(すなわち、接するように)配置されていることが好ましい。積層体Aは、生分解性樹脂層と接着層、及び、接着層とPVA系樹脂層との接着強度、及び生分解性に優れている。
【0069】
本発明の積層体中の接着層の厚さは、積層体の種類に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。接着層の厚さが上記の範囲内であると、接着強度、熱成形性及び生分解性を高めやすい。上記の接着層の厚さは、積層体中に接着層が2層以上含まれる場合は1層の厚さを示す。
【0070】
本発明の積層体中の前記他の層の厚さは、積層体の種類に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、好ましくは10~3000μm、より好ましくは15~1000μm、さらに好ましくは20~500μmである。他の層の厚さが上記の範囲内であると、接着強度、熱成形性、生分解性及びガスバリア性を高めやすい。上記の他の層の厚さは、積層体中に他の層が2層以上含まれる場合は1層の厚さを示す。
【0071】
本発明の積層体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは20μm以上、より好ましくは50μm以上、さらに好ましくは100μm以上、さらにより好ましくは200μm以上、特に好ましくは300μm以上であり、好ましくは5000μm以下、より好ましくは3000μm以下、さらに好ましくは1000μm以下である。積層体の厚さが上記の範囲内であると、積層体の強度、熱成形性、生分解性及びガスバリア性を高めやすい。
【0072】
本発明の一実施形態では、本発明の積層体A中の接着層の厚さは、上述の接着層の厚さと同じである。また、積層体A中の生分解性樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは200μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下である。さらに、積層体A中のPVA系樹脂層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは200μm以下、さらにより好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下である。各層の厚さが上記の範囲内であると、接着強度、熱成形性、生分解性及びガスバリア性を高めやすい。上記の積層体A中の各層(生分解性樹脂層、接着層及びPVA系樹脂層)の厚さは、積層体A中に同じ層が2層以上ある場合は1層の厚さを示す。上記の各層の厚さ及び積層体の厚さは、厚み計を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0073】
本発明の積層体Aの具体的な層構成としては、以下のものが例示できる。
生分解性樹脂層/接着層/PVA系樹脂層;生分解性樹脂層/接着層/PVA系樹脂層/接着層/生分解性樹脂層;生分解性樹脂層/リグラインド層/接着層/PVA系樹脂層/接着層/リグラインド層/生分解性樹脂層;生分解性樹脂層/接着層/PVA系樹脂層/接着層/紙。
【0074】
本発明の一実施形態では、本発明の積層体において、生分解性樹脂層、接着層及びPVA系樹脂層からなる群から選択される少なくとも1つの層がISO14855の基準で生分解性であることが好ましく、より好ましくは少なくとも2つの層、さらに好ましくは全ての層がISO14855の基準で生分解性である。
【0075】
本発明の積層体は、樹脂層等の他の層と接着層とを共押出成形法(共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出インフレーション成形法、共押出ブロー成形法等)、共射出成形法、押出ラミネート法、ドライラミネート法などの慣用の方法により、積層することで製造できる。例えば、他の層と接着層とを共押出又はラミネートする方法;他の層に接着性樹脂組成物を製膜する方法であってもよい。ラミネートする際には、接着性樹脂組成物を、他の層の表面に塗布したり、他の層の表面に押出コーティングしてもよい。
【0076】
本発明の好適な実施形態である積層体Aの製造方法としては、特に限定されないが、接着層を形成するペレット状の接着性樹脂組成物、生分解性樹脂層を形成するペレット状の生分解性樹脂(又は生分解性樹脂組成物)、及び、PVA系樹脂層を形成するペレット状のPVA系樹脂(又はPVA系樹脂組成物)を共押出機により共押出する方法が好ましい。より詳細には、各押出機のホッパーに各樹脂(又は各樹脂組成物)を導入して溶融混練し、フィードブロックダイにより、共押出することができる。各押出機のシリンダー温度は、樹脂(又は樹脂組成物)の溶融温度に応じて適宜選択すればよい。限定されないが、例えば接着層用の押出機のシリンダー温度は、例えば120~300℃、好ましくは150~250℃であってよく、生分解性樹脂層用の押出機のシリンダー温度は、例えば150~300℃、好ましくは180~250℃であってよく、PVA系樹脂層用の押出機のシリンダー温度は、例えば150~300℃、好ましくは190~260℃であってよい。
【0077】
本発明の一実施形態において、本発明の積層体を得る際に、本発明の接着性樹脂組成物に架橋剤を添加してもよい。架橋剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、シリカ化合物、アルミ化合物、ジルコニウム化合物、硼素化合物などが挙げられる。これらの中でも、コロイダルシリカ、アルキルシリケートなどのシリカ化合物が好ましい。架橋剤の添加量は、PVA系樹脂100質量部に対して5~60質量部であってもよく、好ましくは10~40質量部、より好ましくは15~30質量部であってもよい。また、本発明の一実施形態では、本発明の積層体は、ガスバリア性や力学物性の向上を目的として、延伸処理が施されていてもよい。
【0078】
本発明の積層体は熱成形性にも優れ、所定の形状に容易に成形できる。好ましい実施形態では熱成形してもシワ等を生じることもないため、外観性に優れている。成形方法は好ましくは溶融成形であり、溶融成形方法としては、特に限定されないが、例えば、押出成形法、射出成形法、Tダイからの押出製膜法、インフレーション製膜法、圧縮成形法、トランスファー成形法、強化プラスチック成形法、中空成形法、プレス成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、発泡成形法、真空成形法、圧空成形法などが挙げられる。所望により共押出成形法、ラミネート成形法、などの方法によって他の熱可塑性樹脂を積層することもできる。これらの方法により、フィルム、シート、チューブ、ボトル、カプセル、不織布、繊維などの任意形状の成形物が得られる。本発明の一実施形態では、真空成形法により成形する場合、積層体を加熱した後に真空成形機により所望の形状に成形できる。成形温度は、限定されず、積層体の種類に応じて適宜選択でき、好ましくは100℃以上、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上であり、好ましくは300℃以下、より好ましくは200℃以下である。このような成形温度である場合、熱成形性に優れた成形物を形成しやすい。
【0079】
[食品包装材]
本発明の接着性樹脂組成物及び積層体の用途は特に限定されないが、包装材料、特に食品包装材として好適に使用できる。そのため、本発明は、本発明の接着性樹脂組成物を含んでなる接着層、又は、本発明の積層体を含む食品包装材を包含する。本発明の食品包装材は、本発明における接着層又は積層体を含むため、接着強度、熱成形性、生分解性、及びガスバリア性に優れる。食品包装材としては、特に限定されないが、例えば、肉類、生麺、加工食品、紅茶、コーヒー粉、コーヒー豆、漬物等の食品を包装するための容器が挙げられる。また、本発明の好適な実施形態では、食品包装材は、有機性廃棄物用のゴミ袋、各種イベントで用いられる容器、紅茶パック、コーヒーカプセル等であってよく、特にコーヒーカプセルとして好適に用いられる。
【実施例0080】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例における各測定方法及び各評価方法を以下に示す。
【0081】
[けん化度]
PVA系樹脂(B)のけん化度は、それぞれJIS K 6726:1994に記載の方法により求めた。
【0082】
[粘度平均重合度]
PVA系樹脂(B)の粘度平均重合度は、それぞれJIS K 6726:1994に記載の方法により求めた。具体的には、各重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](l/g)から次式により算出した。なお次式において重合度をPと表記する。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0083】
[破断伸び]
生分解性ポリエステル系樹脂(A)を熱プレス成型して得られたシートを幅15mm、長さ100mmに切り出し、ISO527-1に準じて破断伸びを測定した。
【0084】
[融点]
各実施例及び比較例で得られた接着性樹脂組成物ペレットのうち、10mgをアルミニウム製パン(TA Instrument社製)に封入し、-30℃から220℃まで10℃/分の速度にて昇温した後、10℃/分の速度にて-30℃まで急冷し、再度-30℃から220℃まで10℃/分の速度にて昇温することでDSC測定を実施した。得られたDSC曲線において2回目の昇温時における融解開始から終了までの温度範囲のピークの頂点温度より融点Tm(℃)を求めた。
【0085】
[MFR]
生分解性ポリエステル系樹脂(A)について、JIS K 7210:2014に準じて、200℃、2.16kg荷重下でMFRを測定した。
【0086】
[Mw、Mn]
生分解性ポリエステル系樹脂(A)のMw及びMnは、以下に示すGPC分析による相対分子量の分析方法を用いて測定した。
<サンプルの調整>
生分解性ポリエステル系樹脂(A)の約5mgの粉体サンプルを採取して、精秤した。採取したサンプルに、サンプル1mgあたり、1mlの20mMのトリフルオロ酢酸ナトリウムを添加したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を加え、40℃で3時間加熱して溶解させた。この溶液を用いて、以下の条件でGPC分析を行った。相対分子量分布曲線の算出は、RI検出器から求められた相対分子量を、分析装置付属の解析ソフトによって換算して行った。分析は同一サンプルについて3回行い、その平均値を分析結果とした。
【0087】
<GPC分析条件>
測定装置:HLC-8320GPC(TOSOH社製)
解析ソフト:Empower(Waters社製)
サンプル濃度:0.1mg/ml
移動相溶媒:20mMトリフルオロ酢酸Naを添加したヘキサフルオロイソプロパノール
注入量:10μl
流速:0.2ml/min
測定温度:40℃
サンプル溶解条件:40℃×3時間
フィルターろ過:0.45μmPTFE製フィルター
カラム:GMMHR-H(S)(TOSOH社製)2本
検出器:装置付属のRI検出器
装置校正用標品:PMMA(Agilent社製)
【0088】
[厚み]
実施例及び比較例における接着性樹脂組成物からなるフィルム、積層体及び該積層体中の各層の厚みは、デジタルマイクロメーターにより測定した。
【0089】
[接着性樹脂組成物のPVA系樹脂層に対する接着強度]
実施例及び比較例で得られた接着性樹脂組成物のペレットを、圧縮成形機を用いて180℃で5分間予熱した後に、荷重50kgf/cmの条件下で30秒間圧縮成形することで、接着性樹脂組成物からなるフィルム(接着層ともいう)を得た。接着性樹脂組成物からなるフィルム(縦150mm×横150mm×厚さ0.3mm)、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトンフィルム」、縦75mm×横150mm×厚さ0.05mm)、及びポリビニルアルコール樹脂からなるフィルム(PVA樹脂層ともいう)((株)クラレ製「モビフレックスC17」、縦150mm×横150mm×厚さ0.5mm)をこの順で重ね、内寸150mm×150mm、厚さ0.8mmの金属製スペーサーの中央部に配置した。この重ねたフィルムと金属製スペーサーをポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、さらに外側から金属板で挟み、圧縮成形機を用いて、180℃、荷重50kgf/cmで30秒間圧縮成形することで、接着層とPVA樹脂層とを含む多層シートを得た。
該多層シートを25mm幅に切断し、接着強度測定用試験片とし、接着層とPVA樹脂層との間の剥離強度をJIS K 6854-1:1999に準じて、ピール試験機((株)島津製作所製「AGS-X」)を使用して、剥離角度90°、引張速度50mm/分、環境温度23℃の条件で測定し、これを接着性樹脂組成物の接着強度とした。また、以下のような指標で接着強度を評価した。結果を表2に示す。
◎ : 剥離強度が20N/25mm以上
○ : 剥離強度が10N/25mm以上20N/25mm未満
△ : 剥離強度が4N/25mm以上10N/25mm未満
× : 剥離強度が4N/25mm未満
【0090】
[接着性樹脂組成物の生分解性樹脂層に対する接着強度]
実施例及び比較例で得られた接着性樹脂組成物のペレットを、圧縮成形機を用いて180℃で5分間予熱した後に、荷重50kgf/cmの条件下で30秒間圧縮成形することで、接着性樹脂組成物からなるフィルム(接着層ともいう)を得た。接着性樹脂組成物からなるフィルム(縦150mm×横150mm×厚さ0.3mm)、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトンフィルム」、縦75mm×横150mm×厚さ0.05mm)、及び生分解性樹脂からなるフィルム(生分解性樹脂層ともいう)(Natureworks社製「Ingeo(登録商標)biopolymer 2003D」、150mm×横150mm×厚さ0.5mm)をこの順で重ね、内寸150mm×150mm、厚さ0.8mmの金属製スペーサーの中央部に配置した。この重ねたフィルムと金属製スペーサーをポリテトラフルオロエチレン製シートで挟み、さらに外側から金属板で挟み、圧縮成形機を用いて、180℃、荷重50kgf/cmで30秒間圧縮成形することで、接着層と生分解性樹脂層とを含む多層シートを得た。
該多層シートを25mm幅に切断し、接着強度測定用試験片とし、接着層と生分解性樹脂層との間の剥離強度をJIS K 6854-1:1999に準じて、ピール試験機((株)島津製作所製「AGS-X」)を使用して、剥離角度90°、引張速度50mm/分、環境温度23℃の条件で測定し、これを接着性樹脂組成物の接着強度とした。また、以下のような指標で接着強度を評価した。結果を表2に示す。
◎ : 剥離強度が55N/25mm以上
○ : 剥離強度が15N/25mm以上55N/25mm未満
△ : 剥離強度が9N/25mm以上15N/25mm未満
× : 剥離強度が9N/25mm未満
【0091】
[熱成形性]
実施例及び比較例で得られた積層体を、真空成型機(Formech社製「Formech508DT」)を用いて160℃に加熱したのちに、直径5cm、深さ3cmのカプセル形状に成形した。得られた成形品を目視観察し、以下のような指標で熱成形性を評価した。
〇:問題無く成形が可能
△:カプセル形状になったが、一部シワが発生
×:成形が困難
【0092】
[製造例1]
[ビニルアルコール重合体(B1)の製造]
撹拌機、窒素導入口及び開始剤添加口を備えた250L反応槽に酢酸ビニル630質量部、メタノール2520質量部を仕込み、60℃に昇温した後30分間窒素バブリングにより系中を窒素置換した。上記フラスコの内温を60℃に調整した後、AIBN0.5質量部を添加し重合を開始した。重合開始から3.2時間後に重合率が60%となったところで、メタノール1000質量部を添加後、冷却して重合を停止した。未反応酢酸ビニルモノマーを除去しPVAcのメタノール溶液とした。得られた該PVAc溶液にメタノールを加えて濃度が25質量%となるように調整したPVAcのメタノール溶液400質量部(溶液中のPVAc100質量部)に、4.6質量(PVAc中の酢酸ビニル単位に対するモル比[MR]0.01)のアルカリ溶液(NaOHの10質量%メタノール溶液)を添加して、40℃でけん化を行った。アルカリ添加後、ゲル化したものを粉砕器にて粉砕し、合計1時間けん化反応を行った後、酢酸メチル1000質量部を加えて残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和の終了を確認後、濾別して得られた白色固体のPVA重合体にメタノール1000質量部を加えて室温で3時間放置洗浄した。上記洗浄操作を3回繰り返した後、遠心脱液して得られたPVA重合体を乾燥機中70℃で2日間放置して乾燥することで、粘度平均重合度が300であり、けん化度が88.0モル%のビニルアルコール重合体(B1)(PVA1と称する)を得た。
【0093】
[製造例2~7]
[ビニルアルコール重合体(B2)~(B7)の製造]
酢酸ビニルとメタノールの比、重合率の重合条件、アルカリ溶液添加量のけん化条件を変更することで、表2に記載の重合度、けん化度のビニルアルコール重合体(B2)~(B7)(PVA1~7と称する)を得た。
【0094】
[製造例8]
[エチレン-ビニルアルコール共重合体(B8)の製造]
還流冷却器、原料供給ライン、反応液取出ライン、温度計、窒素導入口、エチレン導入口及び撹拌翼を備えた連続重合槽を用いた。連続重合槽に酢酸ビニルを626L/hr、メタノールを216L/hr、開始剤としてn-プロピルパーオキシジカーボネートの1%メタノール溶液を30.3L/hr、それぞれ定量ポンプを用いて連続的に供給した。重合槽内のエチレン圧力は0.69MPaになるように調整した。重合槽内の液面が一定になるように連続重合槽から重合液を連続的に取り出した。連続重合槽の出口での重合率が67%になるように調整した。連続重合槽の滞留時間は5時間であった。連続重合槽の出口の温度は60℃であった。連続重合槽より重合液を回収し、温水浴で75℃に加熱しながら重合液にメタノール蒸気を導入することで残存する酢酸ビニルの除去を行い、エチレン-ビニルエステル共重合体のメタノール溶液を得た。次いで40℃下、けん化工程に供する系含水率を0.5%、けん化触媒としてエチレン-ビニルエステル共重合体に対してモル比0.02の割合で水酸化ナトリウムを用い、1時間けん化反応を行った。得られた重合体をメタノールに浸漬し洗浄を行った。次いで溶媒を遠心分離で除去したのち乾燥を行うことで、エチレン単位の含有率が10モル%であり、粘度平均重合度が400であり、けん化度が98.5モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(B8)を得た。
【0095】
[実施例1]
<接着性樹脂組成物>
生分解性ポリエステル系樹脂(A)として、ポリブチレンアジペートテレフタレート(BASF社製「Ecoflex C1200」、融点:118℃、破断伸び:1012%、MFR:15.8g/10分、Mw:72000、Mn:24500)80質量部、PVA系樹脂(B)として、製造例1で得られたPVA1 20質量部を二軸押出機KZW15-45MG(D=15mmφ、L/D=45、(株)テクノベル製)を用いて、下記条件にて溶融混錬した。溶融混練物をストランドノズルから押出した後、得られたストランドを冷却後カットし、接着性樹脂組成物のペレットを得た。溶融混練時の比機械エネルギー(SME)を測定したところ、526kJ/kgであった。
【表1】
スクリュー回転速度:250rpm
吐出:3.5kg/h
運転方式:同方向同回転完全噛合型
【0096】
<積層体>
以下の方法で生分解性樹脂層/接着層/ポリビニルアルコール系樹脂層/接着層/生分解性樹脂層がこの順に積層された3種5層の積層体を作製した。
上記で得られた接着性樹脂組成物のペレットと、ポリビニルアルコール系樹脂組成物(エチレン-ビニルアルコール共重合体(B8)100質量部/トレハロース67質量部を二軸押出機で混練することで得た組成物)のペレットと、ポリ乳酸(Natureworks社製、Ingeo(登録商標)、biopolymer 2003D)のペレットとを、それぞれ単軸押出機(G.M.ENGINEERING社製、VGM25-28EX)のホッパーに投入し、フィードブロックダイを用いて流量5kg/hで共押出し、幅20cmの3種5層の積層体を得た。この時、設定した各シリンダー温度は以下の通りであった。
(シリンダー温度)
接着層:180℃、ポリビニルアルコール系樹脂層:210℃、生分解性樹脂層:220℃
【0097】
得られた積層体の構成は、外側からポリ乳酸層/接着層/ポリビニルアルコール系樹脂層/接着層/ポリ乳酸層=250μm/20μm/30μm/20μm/250μm(厚み)であった。
【0098】
[実施例2~7及び比較例1~4]
接着性樹脂組成物作製時の生分解性ポリエステル系樹脂(A)及びPVA系樹脂(B)それぞれの種類及び配合量を表2の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様に接着性樹脂組成物及び積層体を得た。なお、表2中、PCLはポリカプロラクトン(Ingevity製「Capa@6800」、融点:60℃、破断伸び:800%、MFR:2.4g/10分)を示す。また、実施例及び比較例で用いたPBAT及びPCLは、EN13432、ASTM6400及びISO14855に特定される生分解性基準を満たすものである。さらに、実施例及び比較例で得られた積層体において、生分解性樹脂層、接着層、及びポリビニルアルコール系樹脂層は、全てISO14855における生分解性基準を満たす層であった。
【0099】
上記の方法に従って、実施例及び比較例で得られた各接着性樹脂組成物について、PVA系樹脂層及び生分解性樹脂層に対する剥離強度を測定して接着強度を評価した。また、実施例及び比較例で得られた各積層体について、熱成形性を評価した。結果を表2に示す。なお、表2中、※1は、剥離試験において、接着性樹脂組成物からなるフィルム(接着層)が剥離前に破損したもの、すなわち、凝集破壊したものを示す。※1の剥離強度欄の数値は、剥離される前に凝集破壊した時点の強度を示し、剥離強度はさらに大きい数値となるため、凝集破壊した場合の剥離強度は「数値<」と表した。
【表2】
【0100】
表2に示されるように、実施例1~7の接着性樹脂組成物は、比較例1~4と比べて、PVA系樹脂層及び生分解性樹脂層に対する接着強度の評価が高いことが確認された。よって、本発明の接着性樹脂組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂層と生分解性樹脂層の両方に対する接着強度に優れている。
さらに、実施例1~7の積層体は、所望の形状に容易に成形でき、特に実施例1~6の積層体は、シワ等が発生することなく、所望の形状に成形できることが確認された。よって、本発明の接着性樹脂組成物を含む積層体は、熱成形性に優れている。